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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】建物改修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04G23/02 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020198113
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086214
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小島 一高
(72)【発明者】
【氏名】野澤 裕和
(72)【発明者】
【氏名】西崎 隆氏
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤田 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳久
(72)【発明者】
【氏名】板谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智憲
(72)【発明者】
【氏名】三浦 哲也
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119273(JP,A)
【文献】特開平11-006310(JP,A)
【文献】特開2014-231717(JP,A)
【文献】特開2020-097840(JP,A)
【文献】特開2014-055461(JP,A)
【文献】特開平09-158387(JP,A)
【文献】特開2011-038381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
E04B 1/34
E04B 1/38- 1/61
E04B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内部における屋根部分の直下に位置する直下部分を改修する建物改修方法であって、
前記屋根部分の荷重を外方両側の非切断柱に伝達させる仮設支持構造を構築し、
前記仮設支持構造の構築後、外方両側の前記非切断柱の間で前記屋根部分を支持する切断対象柱を再接続可能な状態で前記直下部分から切断し、
前記切断対象柱の切断後、前記直下部分を改修して、その改修後の前記直下部分に前記切断対象柱を再接続し、
前記切断対象柱の再接続後、前記仮設支持構造を撤去する建物改修方法。
【請求項2】
前記仮設支持構造が、前記非切断柱の上方部位と、それよりも下方に位置する部位である前記切断対象柱の切断箇所の直上部位とを鉄骨製の仮設ブレースにて接続して構成される請求項1記載の建物改修方法。
【請求項3】
複数の前記切断対象柱が隣接する場合に、前記仮設支持構造が、隣接する前記切断対象柱の切断箇所の直上部位どうしを鉄骨製の仮設横架材にて接続して構成される請求項2記載の建物改修方法。
【請求項4】
前記仮設ブレースが、間隔を空けて並ぶ二本のブレース構造体にて構成され、その二本のブレース構造体が、平面視で前記非切断柱及び前記切断対象柱を挟む配置状態で前記非切断柱及び前記切断対象柱に接続される請求項2又は3記載の建物改修方法。
【請求項5】
前記切断対象柱の切断箇所の直上部位には、略水平姿勢の鋼板からなるジャッキ受け板部と、略鉛直姿勢の鋼板からなる仮設ブレース取付け板部とが備えられ、
前記仮設ブレース取付け板部が、前記ジャッキ受け板部の補強リブとして機能するように前記ジャッキ受け板部に接合される請求項2~4のいずれか1項に記載の建物改修方法。
【請求項6】
建物内部における前記屋根部分の直下部分の改修が、床構造部の高さ変更である請求項1~5のいずれか1項に記載の建物改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部の用途を変更する場合等に好適に利用可能な建物改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の建物改修方法として、特許文献1には、高さ変更対象の一つの階の床構造部を既存躯体から切り離し、高さ方向に沿って移動させて移動先の高さで再固定する建物改修方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-063793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建物の改修において、建物内部における屋根部分の直下に位置する直下部分の床構造部の高さを変更したい場合がある。
このような場合、屋根部分の直下で屋根部分の荷重を支持している柱を切断し、屋根部分と直下部分の床構造部とを切り離した上で、屋根部分の直下部分の床構造部の高さを変更することが考えられるが、屋根部分を支持する柱を切断して柱軸力が抜けることに対して直下部分の改修中や改修後に屋根部分に変位や変形等の問題が生じないように適切に対応することが求められる。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、建物内部における屋根部分の直下に位置する直下部分を改修する建物改修方法において、屋根部分を支持する柱を切断して柱軸力が抜けることに対して直下部分の改修中や改修後に屋根部分に変位や変形等の問題が生じないように適切に対応することのできる建物改修方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、建物内部における屋根部分の直下に位置する直下部分を改修する建物改修方法であって、
前記屋根部分の荷重を外方両側の非切断柱に伝達させる仮設支持構造を構築し、
前記仮設支持構造の構築後、外方両側の前記非切断柱の間で前記屋根部分を支持する切断対象柱を再接続可能な状態で前記直下部分から切断し、
前記切断対象柱の切断後、前記直下部分を改修して、その改修後の前記直下部分に前記切断対象柱を再接続し、
前記切断対象柱の再接続後、前記仮設支持構造を撤去する点にある。
【0007】
本構成によれば、建物内部において屋根部分の直下部分を改修するにあたり、当該屋根部分の荷重を外方両側の非切断柱に伝達させる仮設支持構造を構築した上で、外方両側の非切断柱の間で屋根部分を支持する切断対象柱を直下部分から切断する。そのため、切断対象は柱の切断後において屋根部分の荷重を仮設支持構造を介して外方両側の非切断柱に支持させることができ、直下部分の改修中に当該屋根部分に変位や変形が生じるのを抑制することができる。
そして、直下部分の改修後、その改修後の直下部分に切断対象柱を再接続した上で仮設支持構造を撤去するので、直下部分の改修前と同じように屋根部分の荷重を切断対象柱に支持させることができ、直下部分の改修後に当該屋根部分に変位や変形が生じるのを抑制することができる。
よって、建物内部における屋根部分の直下に位置する直下部分を改修する建物改修方法において、屋根部分を支持する柱を切断して柱軸力が抜けることに対して直下部分の改修中や改修後に屋根部分に変位や変形等の問題が生じないように適切に対応することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記仮設支持構造が、前記非切断柱の上方部位と、それよりも下方に位置する部位である前記切断対象柱の切断箇所の直上部位とを鉄骨製の仮設ブレースにて接続して構成される点にある。
【0009】
本構成によれば、非切断柱の上方部とそれよりも下方に位置する部位である切断対象柱の切断箇所の直上部位とを斜めに接続する鉄骨製の仮設ブレースの引張抵抗により、切断対象柱の柱軸力が抜けることによる屋根部分の下方変位を適切に抑えることができる。また、その鉄骨製の仮設ブレースの圧縮抵抗により、非切断柱と切断対象柱との相対的な近接移動も抑えることができる。
よって、直下部分の改修中に屋根部分に変位や変形が生じるのを一層抑制することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、複数の前記切断対象柱が隣接する場合に、前記仮設支持構造が、隣接する前記切断対象柱の切断箇所の直上部位どうしを鉄骨製の仮設横架材にて接続して構成される点にある。
【0011】
本構成によれば、隣接する複数の切断対象柱の切断箇所の直上部位どうしを接続する鉄骨製の仮設横架材の引張抵抗により、仮設ブレースにて切断箇所の直上部位が外側上方に引っ張られる切断対象柱どうしの相対的な離間移動を抑えることができる。また、その鉄骨製の仮設横架材の圧縮抵抗により、隣接する切断対象柱どうしの相対的な近接移動も抑えることができる。
よって、複数の前記切断対象柱が隣接する場合でも、直下部分の改修中に屋根部分に変位や変形が生じるのを適切に抑制することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記仮設ブレースが、間隔を空けて並ぶ二本のブレース構造体にて構成され、その二本のブレース構造体が、平面視で前記非切断柱及び前記切断対象柱を挟む配置状態で前記非切断柱及び前記切断対象柱に接続される点にある。
【0013】
本構成によれば、仮設ブレースを、間隔を空けて並ぶ二本のブレース構造体にて構成して非切断柱及び切断対象柱を挟む配置状態で設けることにより、仮設ブレースとして求められる耐力を実現しながら、非切断柱の上方部位とそれよりも下方の部位である切断対象柱の切断箇所の直上部位との間の中間の高さ位置で非切断柱と切断対象柱とに亘って架設される中間梁と仮設ブレースとの干渉を回避することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記切断対象柱の切断箇所の直上部位には、略水平姿勢の鋼板からなるジャッキ受け板部と、略鉛直姿勢の鋼板からなる仮設ブレース取付け板部とが備えられ、
前記仮設ブレース取付け板部が、前記ジャッキ受け板部の補強リブとして機能するように前記ジャッキ受け板部に接合される点にある。
【0015】
本構成によれば、切断対象柱の切断箇所の直上部位における略鉛直姿勢の仮設ブレース取付け板部に仮設ブレースを取り付け、その仮設ブレース取付け板部に接合されるジャッキ受け板部に油圧式等のジャッキ等の押し上げ力を作用させることで、レベル調整を適切に行いながら仮設ブレースを取り付けることができる。しかも、ブレース取付け板部を補強リブとして機能させてジャッキ受け板部を効率良く補強することができる。
【0016】
本発明の第6特徴構成は、建物内部における前記屋根部分の直下部分の改修が、床構造部の高さ変更である点にある。
【0017】
本構成によれば、屋根部分に変位や変形等が生じるのを抑制しながら建物内部にて屋根部分を残して床構造部の高さを変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】床高さ変更前の建物を模式的に示す図
図2】一括床高さ変更工程の準備工程を模式的に示す図
図3】一括床高さ変更工程の切断工程を模式的に示す図
図4】一括床高さ変更工程の移動・固定工程を模式的に示す図
図5】床高さ変更後の建物を模式的に示す図
図6】切断対象柱の下端側における昇降用ジャッキの平面配置を模式的に示す図
図7】(a)非切断柱と仮設支持構造の取り合いを示す側面図、(b)非切断柱と仮設支持構造の取り合いを示す平面図
図8】(a)切断対象柱と仮設支持構造の取り合いを示す側面図、(b)切断対象柱と仮設支持構造の取り合いを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る建物改修方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、改修前の建物を示している。この建物は、多層建物として構成され、既存躯体Kとして、複数本の柱1、当該複数本の柱1に支持される複数階の床構造部(床部分)2、複数本の柱1の上端部に支持される屋根構造部(屋根部分)3等が備えられる。
【0020】
柱1としては、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリー造(SRC造)、鋼管にコンクリートを充填した充填鋼管コンクリート造(CFT造)、それらの複合構造等の各種の構造を採用することができる。
【0021】
床構造部2は、隣り合う柱1間に架設される大梁や隣り合う大梁間に架設される小梁などを組み付けた梁構造体と、当該梁構造体に支持されるRC造等の床スラブ等から構成される。梁構造体も、S造やRC造、SRC造等の各種の構造を採用することができる。
【0022】
屋根構造部3は、隣り合う柱1間に架設される屋根大梁31(図8参照)や隣り合う屋根大梁間に架設される屋根小梁などを組み付けた屋根梁構造体と、当該屋根梁構造体に支持される屋根スラブや金属屋根等から構成される。屋根梁構造体も、S造やRC造、SRC造等の各種の構造を採用することができる。
【0023】
そして、この建物改修方法は、図2図5に示すように、建物内部の既存躯体Kにおける屋根構造部3の直下に位置する直下部分としての複数階の床構造部2を高さ変更対象に設定する。そして、その高さ変更対象の複数階の床構造部2を、互いを連結する柱1を含めたまま、既存躯体Kから切り離して一括で高さ方向に沿って下方に移動させて移動先の高さで既存躯体Kに再固定する一括床高さ変更工程を実行することで、図5に示すように、高さ変更対象の床構造部2の高さを、既存の高さから降下させた新たな高さに複数階に亘って一括して変更することができる。
【0024】
また、この建物改修方法では、既存躯体Kにおける平面視の一部の高さ変更領域K1に対して一括高さ変更工程を実行することで、一括高さ変更工程を実行した高さ変更領域K1の床構造部2と、一括高さ変更工程を実行しない平面視の他部の非高さ変更領域K2の床構造部2との間にトラックバース等に利用できる段差D(図5参照)を複数階に亘って一括して形成することができる。
【0025】
以下、一括床高さ変更工程の各工程(準備工程、切断工程、移動・固定工程)について説明を加える。
【0026】
(準備工程)
この準備工程では、図2に示すように、後続の各工程において破損等を生じさせずに床構造部2を下降させるために、高さ変更対象の複数階(図示例では3階)の床構造部2を平面視の中央側で連結する既存の複数の柱1(以下、切断対象柱11と称する場合がある。)の下端側に油圧式等の昇降用ジャッキJ1を設置する。更に、高さ変更対象の複数階の床構造部2の外周側の切断端部21(図3参照)を複数階に亘って支持する仮設柱4を設けて当該仮設柱4の下端側にも昇降用ジャッキJ2を設置する。
【0027】
ちなみに、図2図6に示すように、切断対象柱11の下端側の昇降用ジャッキJ1は、切断対象柱11の左右の両側面から突出させた鉄骨製の大型のブラケットb1、及び、当該ブラケットb1の下端部に平面視で左右方向に交差する方向(表裏方向)に延びる姿勢で取り付けた鉄骨製の支持台b2を介して、平面視で切断対象柱11を囲むように4本配置される。そのため、後述する移動・固定工程において4本の昇降用ジャッキJ1の夫々を作動調整することで、床高さ変更後において切断対象柱11の建ち調整を行うことができる。
【0028】
また、図2に示すように、後続の各工程において高さ変更対象の複数階の床構造部2の上方に高さを変更せずに残される屋根構造部3に変形等を生じさせないように、屋根構造部3の荷重を外方両側の柱1(以下、非切断柱12と称する場合がある)に伝達させる仮設支持構造5を構築する。
【0029】
図2図7図8を参照して、準備工程にて構築される仮設支持構造5について説明を加える。
仮設支持構造5は、図2に示すように、屋根構造部3の直下階において、非切断柱12の上方部位と、それよりも下方に位置する部位である切断対象柱11の切断箇所(後述する第3切断箇所S3、図3参照)の直上部位とを鉄骨製の仮設ブレース51にて接続するとともに、隣接する切断対象柱11の切断箇所の直上部位どうしを鉄骨製の仮設横架材52にて接続して構成される。
【0030】
そのため、後述する切断工程(図3参照)において、鉄骨製の仮設ブレース51の引張抵抗により、切断対象柱11の柱軸力が抜けることによる屋根構造部3の下方変位を適切に抑えることができるとともに、鉄骨製の仮設ブレース51の圧縮抵抗により、非切断柱12と切断対象柱11との相対的な近接移動も抑えることができる。
また、鉄骨製の仮設横架材52の引張抵抗により、仮設ブレース51にて切断箇所の直上部位が外側上方に引っ張られる切断対象柱11どうしの相対的な離間移動を抑えることができるとともに、鉄骨製の仮設横架材52の圧縮抵抗により、隣接する切断対象柱11どうしの相対的な近接移動も抑えることができる。
【0031】
仮設ブレース51は、図7図8に示すように、間隔を空けて並ぶ二本のブレース構造体51Aにて構成され、その二本のブレース構造体51Aが、平面視で非切断柱12及び切断対象柱11を挟む配置状態(図7(b)、図8(b)参照)で非切断柱12及び切断対象柱11に接続(図2参照)される。ブレース構造体51Aの夫々は、溝形鋼等からなる二本(複数本の一例)の鉄骨材51aにて構成される。
そのため、仮設ブレース51として求められる耐力を実現しながら、非切断柱12の上方部位とそれよりも下方の部位である切断対象柱11の切断箇所(第3切断箇所S3)の直上部位との間の中間の高さ位置で非切断柱12と切断対象柱11とに亘って架設される中間梁7(図2図8(b)参照)と仮設ブレース51との干渉を回避することができる。
【0032】
仮設横架材52は、図7に示すように、間隔を空けて並ぶ二本の横架材構造体52Aにて構成され、その二本の横架材構造体52Aが、隣接する二本の切断対象柱11を挟む配置状態で隣接する二本の切断対象柱11に接続(図2参照)される。各横架材構造体52Aも、山形鋼等からなる二本の鉄骨材52aにて構成される。
【0033】
図7に示すように、切断対象柱11の切断箇所(第3切断箇所S3)の直上部位の表面と裏面には、略鉛直姿勢の鋼板からなる第1仮設ブレース取付け板部53が備えられる。
第1仮設ブレース取付け板部53には、切断対象柱11の外周面から非切断柱12側(図中左側)に突出する非切断柱側突出部位53Aと、切断対象柱11の外周面から隣接する切断対象柱11側(図中右側)に突出する切断対象柱側突出部位53Bと、両突出部位53A,53Bの間で切断対象柱11の外周面に溶接等で固定される固定部位53Cとが備えられる。
【0034】
そして、表裏の第1仮設ブレース取付け板部53の夫々の非切断柱側突出部位53Aにブレース構造体51Aの端部がボルト等の固定手段にて固定される。各ブレース構造体51Aは、図7(b)に示すように、各非切断柱側突出部位53Aの表面と裏面に鉄骨材51aを配置する状態で、第1仮設ブレース取付け板部53の夫々の非切断柱側突出部位53Aに固定される。
【0035】
また、表裏の第1仮設ブレース取付け板部53の夫々の切断対象柱側突出部位53Bに横架材構造体52Aの端部がボルト等の固定手段にて固定される。各横架材構造体52Aは、図7(b)に示すように、各切断対象柱側突出部位53Bの表面と裏面に鉄骨材52aを配置する状態で、第1仮設ブレース取付け板部53の夫々の切断対象柱側突出部位53Bに固定される。
【0036】
切断対象柱11の切断箇所(第3切断箇所S3)の直上部位には、略水平姿勢の鋼板からなるジャッキ受け板部54が切断対象柱11の左右の両側面から外方に突出する状態で備えられる。これらのジャッキ受け板部54は、仮設ブレース51の端部を取り付けた第1仮設ブレース取付け板部53を切断対象柱11に固定する際に、油圧式等のジャッキJ3の押し上げ力を受け止めて取り付けレベルを調整するのに好適に使用される。
【0037】
左側のジャッキ受け板部54は、表裏の第1仮設ブレース取付け板部53の非切断柱側突出部位53Aの両下端部と切断対象柱11の左側面とに亘って溶接等で固定される。また、表裏の非切断柱側突出部位53Aの間には、ジャッキ受け板部54の上面と切断対象柱11の左側面とに亘って略鉛直姿勢の補強板部55が溶接等で固定される。
そのため、表裏の非切断柱側突出部位53A、及び、それらの間の補強板部55が左側のジャッキ受け板部54の補強リブとして機能する。
【0038】
右側のジャッキ受け板部54は、表裏の第1仮設ブレース取付け板部53の切断対象柱側突出部位53Bの両下端部と切断対象柱11の右側面とに亘って溶接等で固定される。また、表裏の切断対象柱側突出部位53Bの間には、ジャッキ受け板部54の上面と切断対象柱11の右側面とに亘って略鉛直姿勢の補強板部55が溶接等で固定される。
そのため、表裏の切断対象柱側突出部位53Bが、及び、それらの間の補強板部55が右側のジャッキ受け板部54の補強リブとして機能する。
【0039】
図8に示すように、非切断柱12の上方部位の表面と裏面には、略鉛直姿勢の鋼板からなる第2仮設ブレース取付け板部56が備えられる。第2仮設ブレース取付け板部56は、非切断柱12と屋根構造部3の屋根大梁31との仕口部(接続部)32に亘る状態で備えられる。なお、図8(b)では、非切断柱12が、鋼管からなる切断対象柱11よりも表裏方向の幅が小さいH形鋼にて構成される場合を例示している。そのため、非切断柱12の表面及び裏面と第2仮設ブレース取付け板部56との間には、非切断柱12の上方部位の表裏方向の幅を切断対象柱11の表裏方向の幅に揃えるための調整板部12Aが介在される。
【0040】
第2仮設ブレース取付け板部56には、非切断柱12の外周面から切断対象柱11側(図中右側)に突出する切断対象柱側突出部位56Aと、その切断対象柱側突出部位56Aに隣接して非切断柱12の外周面に溶接等で固定される固定部位56Cとが備えられる。
そして、表裏の第2仮設ブレース取付け板部56の夫々の切断対象柱側突出部位56Aにブレース構造体51Aの端部がボルト等の固定手段にて固定される。各ブレース構造体51Aは、各切断対象柱側突出部位56Aの表面と裏面に鉄骨材51aを配置する状態で、第2仮設ブレース取付け板部56の夫々の切断対象柱側突出部位56Aに固定される。
【0041】
このように構成される頑強な仮設支持構造5により、屋根構造部3の荷重を外方両側の非切断柱12に伝達させ、後続の各工程において、高さ変更対象の複数階の床構造部2の上方に残される屋根構造部3に変形等が生じるのを抑制することができる。
【0042】
(切断工程)
準備工程に引き続いて実行される切断工程では、図3に示すように、高さ変更対象の複数階の床構造部2の荷重を各昇降用ジャッキJ1,J2に受け替えながら、複数階の床構造部2を、互いを連結する切断対象柱11を含めたまま、既存躯体Kから切り離す。
【0043】
具体的には、この切断工程では、高さ変更対象の複数階の床構造部2を連結する切断対象柱11の下端側の切断箇所(第1切断箇所S1)、高さ変更対象の複数階の床構造部2の外周側の切断箇所(第2切断箇所S2)、高さ変更対象の複数階の床構造部2を連結する切断対象柱11の上端側の切断箇所(第3切断箇所S3)を再接続可能な状態で切断する。
このとき、切断対象柱11の下端側の第1切断箇所S1では、床構造部2の降下寸法(高さ変更寸法)に対応する間隔を開けた上下二箇所を切断して中間柱部分11aを取り除き、切断対象柱11の下端側に床構造部2を降下させる移動代となる空間を形成する。
このようにして、屋根構造部3の荷重を上述した仮設支持構造5を介して外方両側の非切断柱12に支持させながら、高さ変更対象の複数階の床構造部2を既存躯体Kから降下自在に分離する。
【0044】
ちなみに、切断順序としては、切断対象柱11の上端側の切断箇所の第3切断箇所S3、切断対象柱11の下端側の第1切断箇所S1、高さ変更対象の複数階の床構造部2の外周側の第2切断箇所S2の順とするのが、切断時における切り離される部位の挙動や昇降用ジャッキJ1,J2への導入軸力を想定内の範囲に留める上で好適である。また、各階の第2切断箇所S2の切断順序は、例えば、下層側から上層側に向かって階毎の順とすることができ、その場合、切断時における昇降用ジャッキJ2への導入軸力を切断する階毎に順次に確認することができる。
【0045】
(移動・固定工程)
切断工程に引き続いて実行される移動・固定工程では、図4に示すように、高さ変更対象の複数階の床構造部2の中央側を連結する切断対象柱11の下端側に設置した昇降用ジャッキJ1と、複数階の床構造部2の切断端部21を支持する仮設柱4の下端側に設置した昇降用ジャッキJ2との両方を略同時に操作し、昇降用ジャッキJ1,J2にて複数階の床構造部2全体を支持しながら複数階の床構造部2を目標の高さ位置まで降下させる。
【0046】
その後、図5に示すように、複数階の床構造部2の切断端部21を移動後の高さにて既存躯体Kの非切断柱12も溶接等により再接続(再接合)する。
また、複数階の床構造部2を連結する切断対象柱11の下端側の第1切断箇所S1の切断端部どうしを、4本の昇降用ジャッキJ1(図6参照)にて切断対象柱11の建ち調整を行った上で溶接やグラウト充填等により直接的に再接続(再接合)する。
更に、複数階の床構造部2を連結する切断対象柱11の上端側の第2切断箇所S2の切断端部どうしの間に、床構造部2の降下寸法に対応する中間柱部分11bを介在させて溶接やグラウト充填等により間接的に再接合する。なお、中間柱部分11bとしては、切断工程にて取り除いた中間柱部分11aを使用してもよい。
【0047】
そして、仮設柱4や仮設支持構造5、昇降用ジャッキJ1,J2等の仮設材や機材を撤去する。屋根構造部3の直下階において、切断対象柱11を再接続することにより、屋根構造部3の直下部分の改修前と同じように屋根構造部3の荷重を切断対象柱11に支持させることができ、直下部分の改修後に当該屋根部分に変位や変形が生じるのを抑制することができる。このようにして、屋根構造部3の直下部分としての既存建物Tの床構造部2の高さを既存の高さから新たな高さに複数階に亘って一括して変更することができる。
【0048】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
(1)前述の実施形態では、一括高さ変更工程において、高さ変更対象の複数階の床構造部2を降下させて降下後の高さで既存躯体Kに再固定する場合を例に示したが、高さ変更対象の複数階の床構造部2を上昇させて上昇後の高さで既存躯体Kに再固定するようにしてもよい。
【0050】
(2)前述の実施形態では、屋根構造部3の直下部分の床構造部2を改修する場合を例に示したが、屋根構造部3の直下部分の改修としては、床構造部2に限らず、柱1や壁構造体等の改修であってもよい。
【0051】
(3)前述の実施形態では、屋根構造部3の荷重を外方両側の非切断柱12に伝達させる仮設支持構造5が、鉄骨製の仮設ブレース51及び仮設横架材52で構成される場合を例に示したが、仮設ブレース51のみで構成されてもよく、また、仮設ブレース51に代えて金属製の吊りワイヤー等の可撓性の吊り材にて構成されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
2 床構造部
3 屋根構造部(屋根部分)
5 仮設支持構造
11 切断対象柱
12 非切断柱
51 仮設ブレース
51A ブレース構造体
52 仮設横架材
53 第1仮設ブレース取付け板部(仮設ブレース取付け板部)
54 ジャッキ受け板部
J3 ジャッキ
図1
図2
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図8