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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】鉄骨梁補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240619BHJP
   E04C 3/08 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04C3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020213700
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099730
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】田垣 欣也
(72)【発明者】
【氏名】榮 真堂
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀人
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180256(JP,A)
【文献】特開2020-143432(JP,A)
【文献】特開2006-037669(JP,A)
【文献】特開2010-037757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C3/00-3/46
E04G23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成された既存の鉄骨梁のウェブに対して補強部材を溶接固定する鉄骨梁補強構造であって、
前記補強部材は、前記ウェブの表面側から前記貫通孔を通過して裏面側から前記貫通孔を閉塞する形態の閉塞プレートにて構成され、
前記閉塞プレートには、前記貫通孔に嵌め込まれて前記貫通孔を閉塞する閉塞部と、当該閉塞部の外周部分と前記ウェブの貫通孔周縁部との前記ウェブの表面側からの全周にわたる完全溶け込み溶接を可能にする裏当て金と開先部とが一体形成されている鉄骨梁補強構造。
【請求項2】
前記閉塞プレートは、前記貫通孔を通過可能な大きさに設定された複数の分割プレートにて構成されている請求項1に記載の鉄骨梁補強構造。
【請求項3】
前記閉塞プレートには、前記貫通孔を通過可能にする切欠き部が形成されている請求項1に記載の鉄骨梁補強構造。
【請求項4】
前記閉塞プレートは、前記閉塞部と前記裏当て金とに分割されるとともに、前記開先部が前記閉塞部の外周部分に当該外周部分の全周にわたって形成され、
前記裏当て金は、前記閉塞部の外周部分及び前記ウェブの貫通孔周縁部の全周にわたる枠状に形成されるとともに、前記貫通孔を通過可能に分割された複数の分割枠で構成されている請求項1に記載の鉄骨梁補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔が形成された既存の鉄骨梁のウェブに対して補強部材を溶接固定する鉄骨梁補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配管や配線などを通すための設備配管用の貫通孔がウェブに形成された梁を補強する梁補強構造としては、例えば、貫通孔の周囲または縁部に複数に分割された円弧状の梁補強金具をリング状に配置して固定し、これらの梁補強金具同士を周方向に接合することで、貫通孔を塞ぐことなく梁の補強を行うように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-143432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の梁補強構造は、設備配管用の貫通孔を確保しながら梁を補強するものであることから、梁補強金具として、ウェブの板厚よりも大幅に大きい厚みを有する金属製の部材を採用する必要があり、梁の補強に要するコストが高くなる。
そのため、例えば、設備システムの向上などによって使用されなくなった不要な貫通孔が存在する梁が多く使用されている既存建築物の耐震補強を図る上において、前述した梁補強金具を使用する場合には、耐震補強に要するコストが大幅に高くなることがある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、コストを抑えながら鉄骨梁の補強を図れるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、貫通孔が形成された既存の鉄骨梁のウェブに対して補強部材を溶接固定する鉄骨梁補強構造であって、
前記補強部材は、前記ウェブの表面側から前記貫通孔を通過して裏面側から前記貫通孔を閉塞する形態の閉塞プレートにて構成され、
前記閉塞プレートには、前記貫通孔に嵌め込まれて前記貫通孔を閉塞する閉塞部と、当該閉塞部の外周部分と前記ウェブの貫通孔周縁部との前記ウェブの表面側からの全周にわたる完全溶け込み溶接を可能にする裏当て金と開先部とが一体形成されている点にある。
【0007】
本構成によると、ウェブに不要な貫通孔が形成された既存の鉄骨梁を補強する場合には、ウェブの表面側からの作業により、閉塞プレートを、ウェブの表面側から貫通孔を通過させてウェブの裏面側に運び入れた後、閉塞部をウェブの貫通孔に嵌め込むとともに、裏当て金をウェブにおける貫通孔周縁部の裏面に面接触させた状態で、閉塞部の外周部分をウェブの貫通孔周縁部にスポット溶接することや、クランプによる固定などを行って、閉塞プレートを鉄骨梁のウェブに仮止めする。そして、この仮止め後に、ウェブの表面側からの完全溶け込み溶接で、閉塞部の外周部分をウェブの貫通孔周縁部にそれらの全周にわたって接合する。
これにより、例えば、既存の鉄骨梁におけるウェブの裏面側が既存建築物の内壁などに近接している状態であっても、ウェブの表面側からの作業で、容易に、閉塞プレートの閉塞部を鉄骨梁のウェブに一体化させた状態で、閉塞プレートを鉄骨梁のウェブに溶接接合することができる。
そして、このような溶接接合を行えることにより、閉塞プレートとして、ウェブの板厚と同等又はウェブの板厚よりも少し厚い略同等の板厚を有する鋼板で形成されたものを使用することができ、よって、既存の鉄骨梁を、コストを抑えながら容易に補強することができる。
その結果、例えば、設備システムの向上などによって使用されなくなった不要な貫通孔が存在する鉄骨梁が多く使用されている既存建築物の耐震補強を行う場合には、その補強に要するコストの削減や作業性の向上を図りながら好適に補強する行うことができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、
前記閉塞プレートは、前記貫通孔を通過可能な大きさに設定された複数の分割プレートにて構成されている点にある。
【0009】
本構成によると、閉塞プレートを、複数の分割プレートに分割した状態で貫通孔を通過させることができる。
その結果、閉塞プレートをウェブの表面側から貫通孔を通過させるときの作業性を向上させることができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、
前記閉塞プレートには、前記貫通孔を通過可能にする切欠き部が形成されている点にある。
【0011】
本構成によると、閉塞プレートをウェブの表面側から貫通孔を通過させるときに、閉塞プレートの切欠き部を利用して、閉塞プレートがウェブの貫通孔周縁部を跨ぐように閉塞プレートを操作することにより、貫通孔に対して閉塞プレートを容易に通過させることができる。
その結果、閉塞プレートを複数に分割することなく、閉塞プレートをウェブの表面側から貫通孔を通過させるときの作業性を向上させることができる。
尚、閉塞プレートにおける切欠き部の断面欠損は、閉塞プレートの板厚を厚くすることで補完することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、
前記閉塞プレートは、前記閉塞部と前記裏当て金とに分割されるとともに、前記開先部が前記閉塞部の外周部分に当該外周部分の全周にわたって形成され、
前記裏当て金は、前記閉塞部の外周部分及び前記ウェブの貫通孔周縁部の全周にわたる枠状に形成されるとともに、前記貫通孔を通過可能に分割された複数の分割枠で構成されている点にある。
【0013】
本構成によると、ウェブに不要な貫通孔が形成された既存の鉄骨梁を補強する場合には、ウェブの表面側からの作業により、先ず、複数の分割枠を、個別にウェブの表面側から貫通孔を通過させてウェブの裏面側に運び入れるとともに、各分割枠の外周部分をウェブにおける貫通孔周縁部の裏面に面接触させた状態でウェブの貫通孔周縁部にスポット溶接することで、ウェブにおける貫通孔周縁部の裏面側に枠状の裏当て金を仮止めする。この仮止め後に、閉塞部を、その外周部分の裏面を裏当て金の表面に面接触させた状態でウェブの貫通孔に嵌め込んで、閉塞部の外周部分をウェブの貫通孔周縁部にスポット溶接することや、クランプによる固定などを行って、閉塞部を鉄骨梁のウェブに仮止めする。そして、この仮止め後に、ウェブの表面側からの完全溶け込み溶接で、閉塞部の外周部分をウェブの貫通孔周縁部にそれらの全周にわたって接合する。
このような手順で閉塞プレートを鉄骨梁のウェブに溶接接合することにより、ウェブの貫通孔を閉塞部にて完全に塞いだ状態で既存の鉄骨梁を好適に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の鉄骨梁補強構造における鉄骨梁の補強途中状態を示す垂直断面図(a)と正面図(b)
図2】第1実施形態の鉄骨梁補強構造における鉄骨梁の補強完了状態を示す垂直断面図(a)と正面図(b)
図3】第1実施形態の鉄骨梁補強構造における鉄骨梁の補強作業手順を示す斜視図
図4】第2実施形態の鉄骨梁補強構造における鉄骨梁の補強作業手順を示す斜視図
図5】第3実施形態の鉄骨梁補強構造における鉄骨梁の補強作業手順を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例である第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
本第1実施形態で例示する鉄骨梁補強構造は、図1~2に示すように、既存建築物の内壁Wに近接した状態で既存建築物の床スラブFを支持する既存の鉄骨梁1を補強対象とするものである。
【0017】
図1~3に示すように、既存の鉄骨梁1は、上下のフランジ11,12とそれらにわたるウェブ13とを有するH形鋼10からなり、そのウェブ13には、不要になった設備配管用の円形の貫通孔13Aが形成されている。
尚、本発明にかかる鉄骨梁補強構造の補強対象となる鉄骨梁1は、H形鋼10に限らず、I形鋼、T形鋼、溝形鋼、などであってもよい。
【0018】
図1~3に示すように、本第1実施形態で例示する鉄骨梁用の補強部材2は、既存の鉄骨梁1に対して、内壁Wに近接したウェブ13の裏面側とは反対側の表面側からウェブ13の貫通孔13Aを通過してウェブ13の裏面側から貫通孔13Aを閉塞する形態の閉塞プレート20にて構成されている。
【0019】
閉塞プレート20には、ウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込まれて貫通孔13Aを閉塞する閉塞部21と、当該閉塞部21の外周部分とウェブ13の貫通孔周縁部13Bとのウェブ13の表面側からの全周にわたる完全溶け込み溶接を可能にする裏当て金22と開先部23とが一体形成されている。
【0020】
閉塞部21は、ウェブ13の板厚と同等の板厚を有する鋼板製で、その外周縁がウェブ13の貫通孔周縁部13Bに内接する円形に形成されている。裏当て金22は、閉塞部21の板厚よりも薄い板厚を有する鋼板製で、閉塞部21の外周部分に面接触する内周部分と、ウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面側に面接触可能な外周部分とを有して、閉塞部21の外周部分及びウェブ13の貫通孔周縁部13Bの全周にわたるリング状に形成されている。そして、裏当て金22は、閉塞部21の裏面側に、裏当て金22の内周部分を閉塞部21の外周部分に面接触させた状態で溶接接合されている。開先部23は、閉塞部21における外周部分の表面側に、外周部分の全周にわたって形成されている。
【0021】
閉塞プレート20は、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能な約二等分の大きさに設定された第1分割プレート20Aと第2分割プレート20Bとから構成されている。これに応じて、閉塞プレート20の閉塞部21と裏当て金22と開先部23とが、第1分割プレート20A側の第1閉塞部21A、第1裏当て金22A、第1開先部23Aと、第2分割プレート20B側の第2閉塞部21B、第2裏当て金22B、第2開先部23Bとに分割されている。そして、第1裏当て金22Aには、第1分割プレート20A側の分割端部と第2分割プレート20B側の分割端部との表面側からの完全溶け込み溶接を可能にする分割端側裏当て部22aが含まれている。又、第2閉塞部21には、第1分割プレート20A側の分割端部と第2分割プレート20B側の分割端部との表面側からの完全溶け込み溶接を可能にする分割端側開先部24が第2開先部23Bに連続して形成されている。
【0022】
尚、閉塞プレート20を構成する第1分割プレート20A及び第2分割プレート20Bの大きさは閉塞プレート20の約二等分の大きさに限らず、それらの面方向(径方向)の大きさがウェブ13の貫通孔13Aを通過可能となる貫通孔13Aの孔径よりも小さい大きさであれば種々の変更が可能である。
【0023】
以下、本第1実施形態で例示した鉄骨梁補強構造を使用した鉄骨梁補強方法について説明する。
【0024】
先ず、図3の(a)に示すように、第1分割プレート20Aを、ウェブ13の表面側から貫通孔13Aを通過させてウェブ13の裏面側に運び入れる。その後、図1及び図3の(b)に示すように、第1閉塞部21Aをウェブ13の貫通孔13Aに適正に嵌め込むとともに、第1裏当て金22Aをウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に面接触させた状態で、第1閉塞部21Aの外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して、第1分割プレート20Aを鉄骨梁1のウェブ13に仮止めする。これにより、第1分割プレート20Aを、ウェブ13における貫通孔13Aの約半部を塞いだ位置に仮付けすることができる。
【0025】
次に、図3の(b)に示すように、第2分割プレート20Bを、ウェブ13の表面側から貫通孔13Aの未閉塞領域を通過させてウェブ13の裏面側に運び入れる。その後、図2及び図3の(c)に示すように、第2閉塞部21Bを、第1分割プレート20Aに対して第2閉塞部21Bの分割端部分を分割端側裏当て部22aの表面に被せるようにしながら、ウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込むとともに、第2裏当て金22Bをウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に面接触させた状態で、第2閉塞部21Bの外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して、第2分割プレート20Bを鉄骨梁1のウェブ13に仮止めする。これにより、第2分割プレート20Bを、ウェブ13における貫通孔13Aの残りの約半部を塞いだ位置に仮付けすることができる。
【0026】
そして、これらの仮止め後に、ウェブ13の表面側からの完全溶け込み溶接で、第1閉塞部21Aの分割端部分と第2閉塞部21Bの分割端部分とをそれらの全長にわたって接合するとともに、閉塞部21の外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにそれらの全周にわたって接合する。これにより、閉塞部21をウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込んでウェブ13と一体化させた状態で貫通孔13Aの全域を閉塞することができる。
【0027】
このような手順で作業を行うことにより、例えば、図1~2に示すように、既存の鉄骨梁1におけるウェブ13の裏面側が既存建築物の内壁Wなどに近接している状態であっても、ウェブ13の表面側からの作業で、容易に、閉塞プレート20の閉塞部21を鉄骨梁1のウェブ13に一体化させた状態で、閉塞プレート20を鉄骨梁1のウェブ13に溶接接合することができる。
そして、このような溶接接合を行えることにより、閉塞プレート20として、ウェブ13の板厚と同等の板厚を有する鋼板で形成されたものを使用することができ、よって、既存の鉄骨梁1を、コストを抑えながら容易に補強することができる。
その結果、例えば、設備システムの向上などによって使用されなくなった不要な貫通孔13Aが存在する鉄骨梁1が多く使用されている既存建築物の耐震補強を行う場合には、その補強に要するコストの削減や作業性の向上を図りながら好適に補強することができる。
特に、上記の手順においては、分割端側裏当て部22aを有する第1分割プレート20Aを先付けしてから、その分割端側裏当て部22aの表面に、後からウェブ13の裏面側に運び入れた第2分割プレート20Bの分割端部分を被せることから、作業者は、第2分割プレート20Bの分割端側を把持することにより、第2分割プレート20Bによる貫通孔13Aの未閉塞領域の閉塞を無理なく容易に行うことができる。
【0028】
尚、本発明にかかる鉄骨梁補強構造は、ウェブ13に貫通孔13Aが形成された鉄骨梁1を補強対象とするものであり、既存建築物の内壁Wなどに近接した既存の鉄骨梁1以外の鉄骨梁にも適用することができる。
【0029】
又、本第1実施形態においては、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能な形態の閉塞プレート20として、閉塞プレート20の約二等分の大きさに設定された第1分割プレート20Aと第2分割プレート20Bとから構成されたものを例示したが、これに限らず、閉塞プレート20を構成する分割プレートの数や大きさは種々の変更が可能であり、例えば、閉塞プレート20の二等分の大きさに設定された2つの分割プレートで構成されたものや、閉塞プレート20の三等分の大きさに設定された3つの分割プレートで構成されたもの、などであってもよい。
【0030】
〔第2実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例である第2実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、本第2実施形態においては、既存の鉄骨梁に対する補強作業を行う作業領域に面するウェブの一側面側をウェブの表面側と称して説明する。
又、本第2実施形態で例示する鉄骨梁補強構造の補強部材は、上記第1実施形態で例示した補強部材とは、ウェブの貫通孔を通過可能にする形態が異なるだけで基本的には類似していることから、第1実施形態と類似する部分などについては第1実施形態と同じ符号を付けて説明を省略する。
【0031】
図4に示すように、本第2実施形態で例示する鉄骨梁用の補強部材2は、ウェブ13の表面側からウェブ13に形成された円形の貫通孔13Aを通過してウェブ13の裏面側から貫通孔13Aを閉塞する形態の閉塞プレート20にて構成されている。そして、この閉塞プレート20においては、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能にする形態として、第1実施形態で例示した分割構造に代えて、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能にする切欠き部20Cが形成されている。
【0032】
具体的には、切欠き部20Cは、所定の中心角で閉塞プレート20の中心から外周縁にわたるV字状に形成されている。
尚、切欠き部20Cの大きさや形状などは、閉塞プレート20に切欠き部20Cが形成されることで、閉塞プレート20が、その径方向(面方向)で貫通孔13Aの孔径よりも長さが短くなる領域を有することになって貫通孔13Aを通過可能になるであれば、種々の変更が可能である。
又、閉塞プレート20における切欠き部20Cの断面欠損(閉塞プレート20による貫通孔13A閉塞後のウェブ13での断面欠損)は、閉塞プレート20の板厚を厚くすることで補完することができる。
【0033】
以下、本第2実施形態で例示した鉄骨梁補強構造を使用した鉄骨梁補強方法について説明する。
【0034】
先ず、図4の(a)~(b)に示すように、閉塞プレート20をウェブ13の表面側から貫通孔13Aを通過させるときに、閉塞プレート20の切欠き部20Cを利用して、閉塞プレート20がウェブ13の貫通孔周縁部13Bを跨ぐように閉塞プレート20を操作して、図4の(c)に示すように、閉塞プレート20を、貫通孔13Aを通過させてウェブ13の裏面側に運び込む。
【0035】
次に、図4の(d)に示すように、閉塞プレート20の閉塞部21をウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込むとともに、裏当て金22をウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に面接触させた状態で、閉塞部21の外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して、閉塞プレート20を鉄骨梁1のウェブ13に仮止めする。これにより、閉塞プレート20を、ウェブ13の貫通孔13Aを塞いだ位置に仮付けすることができる。そして、この間においては、閉塞プレート20の切欠き部20Cを利用することにより、ウェブ13の貫通孔13Aに差し入れた手で閉塞プレート20の中心側を掴むことができ、よって、これらの作業が行い易くなる。
【0036】
そして、この仮止め後に、ウェブ13の表面側からの完全溶け込み溶接で、閉塞部21の外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにそれらの全周にわたって接合する。これにより、閉塞部21をウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込んでウェブ13と一体化させた状態で貫通孔13Aの略全域を閉塞することができる。
【0037】
このような手順で作業を行うことにより、例えば、図1~2に示すように、既存の鉄骨梁1におけるウェブ13の裏面側が既存建築物の内壁Wなどに近接している状態であっても、ウェブ13の表面側からの作業で、容易に、閉塞プレート20の閉塞部21を鉄骨梁1のウェブ13に一体化させた状態で、閉塞プレート20を鉄骨梁1のウェブ13に溶接接合することができる。
そして、このような溶接接合を行えることにより、閉塞プレート20として、ウェブ13の板厚よりも少し厚い略同等の板厚を有する鋼板で形成されたものを使用することができ、よって、既存の鉄骨梁1を、コストを抑えながら容易に補強することができる。
その結果、例えば、設備システムの向上などによって使用されなくなった不要な貫通孔13Aが存在する鉄骨梁1が多く使用されている既存建築物の耐震補強を行う場合には、その補強に要するコストの削減や作業性の向上を図りながら好適に補強することができる。
【0038】
そして、本第2実施形態で例示した鉄骨梁補強構造においては、閉塞プレート20を複数に分割する必要がないことから、閉塞プレート20を構築するための溶接工程を省くことができ、これにより、作業性の向上を更に図ることができる。
【0039】
尚、本第2実施形態においては、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能な形態の閉塞プレート20として、所定の中心角で閉塞プレート20の中心から外周縁にわたるV字状の切欠き部20Cが形成されたものを例示したが、これに限らず、切欠き部20Cが形成されることで、閉塞プレート20の径方向(面方向)で貫通孔13Aの孔径よりも長さが短くなる領域を有して、貫通孔13Aを通過可能になるものであれば、例えば、閉塞プレート20の中心よりも外周縁側の位置から外周縁にわたる切込みの浅いV字状の切欠き部20Cが形成されたものや、閉塞プレート20の外周縁から湾曲して凹入する形状の切欠き部20Cが形成されたもの、あるいは、閉塞プレート20の外周縁側が一直線で切り欠かれたD字状の切欠き部20Cが形成されたもの、などであってもよい。
【0040】
〔第3実施形態〕
以下、本発明を実施するための形態の一例である第3実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、本第3実施形態においても、上記第2実施形態と同様に、既存の鉄骨梁に対する補強作業を行う作業領域に面するウェブの一側面側をウェブの表面側と称して説明する。
又、本第3実施形態で例示する鉄骨梁補強構造の補強部材は、前述の第1実施形態で例示した補強部材とは、ウェブの貫通孔を通過可能にする形態が異なるだけで基本的には類似していることから、第1実施形態と類似する部分などについては第1実施形態と同じ符号を付けて説明を省略する。
【0041】
図5に示すように、本第3実施形態で例示する鉄骨梁用の補強部材2は、ウェブ13の表面側からウェブ13に形成された円形の貫通孔13Aを通過してウェブ13の裏面側から貫通孔13Aを閉塞する形態の閉塞プレート20にて構成されている。そして、この閉塞プレート20においては、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能にする形態として、第1実施形態の分割構造や第2実施形態の切欠き構造に代えて、閉塞プレート20が閉塞部21と裏当て金22とに分割されるとともに、開先部23が閉塞部21の外周部分に当該外周部分の全周にわたって形成されている。又、裏当て金22が、閉塞部21の外周部分及びウェブ13の貫通孔の全周にわたる枠状としてリング状に形成されるとともに、ウェブ13の貫通孔13Aを通過可能に円弧状に分割された第1裏当て金(分割枠)22Cと第2裏当て金(分割枠)22Dとから構成されている。
【0042】
以下、本第3実施形態で例示した鉄骨梁補強構造を使用した鉄骨梁補強方法について説明する。
【0043】
先ず、図5の(a)に示すように、円弧状の第1裏当て金22Cを、ウェブ13の表面側から貫通孔13Aを通過させてウェブ13の裏面側に運び入れるとともに、第1裏当て金22Cの外周部分をウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に面接触させた状態でウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して仮止めする。これにより、第1裏当て金22Cを、ウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に、貫通孔周縁部13Bに沿わせた状態で仮付けすることができる。
【0044】
次に、図5の(b)に示すように、円弧状の第2裏当て金22Dを、ウェブ13の表面側から貫通孔13Aを通過させてウェブ13の裏面側に運び入れるとともに、第2裏当て金22Dの外周部分をウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に面接触させた状態でウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して仮止めする。これにより、第2裏当て金22Dを、ウェブ13における貫通孔周縁部13Bの裏面に、貫通孔周縁部13Bに沿わせた状態で仮付けすることができ、貫通孔周縁部13Bの全周にわたるリング状の裏当て金22を備えることができる。
【0045】
その後、図5の(b)~(c)に示すように、閉塞部21を、その外周部分の裏面を裏当て金22の表面に面接触させた状態でウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込み、閉塞部21の外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにスポット溶接して、閉塞部21を鉄骨梁1のウェブ13に仮止めする。これにより、閉塞部21を、ウェブ13の貫通孔13Aに嵌まり込んで貫通孔13Aを塞いだ状態で仮付けすることができる。
【0046】
そして、これらの仮止め後に、ウェブ13の表面側からの完全溶け込み溶接で、閉塞部21の外周部分をウェブ13の貫通孔周縁部13Bにそれらの全周にわたって接合する。これにより、閉塞部21をウェブ13の貫通孔13Aに嵌め込んでウェブ13と一体化させた状態で貫通孔13Aの全域を閉塞することができる。
【0047】
このような手順で作業を行うことにより、例えば、図1~2に示すように、既存の鉄骨梁1におけるウェブ13の裏面側が既存建築物の内壁Wなどに近接している状態であっても、ウェブ13の表面側からの作業で、容易に、閉塞プレート20の閉塞部21を鉄骨梁1のウェブ13に一体化させた状態で、閉塞プレート20を鉄骨梁1のウェブ13に溶接接合することができる。
そして、このような溶接接合を行えることにより、閉塞プレート20として、ウェブ13の板厚と同等の板厚を有する鋼板で形成されたものを使用することができ、よって、既存の鉄骨梁1を、コストを抑えながら容易に補強することができる。
その結果、例えば、設備システムの向上などによって使用されなくなった不要な貫通孔13Aが存在する鉄骨梁1が多く使用されている既存建築物の耐震補強を行う場合には、その補強に要するコストの削減や作業性の向上を図りながら好適に補強することができる。
【0048】
そして、本第3実施形態で例示した鉄骨梁補強構造においては、閉塞プレート20が、ウェブ13の貫通孔周縁部13Bに対する完全溶け込み溶接の溶接線に沿って複数に分割されていることから、閉塞プレート20を構築するための溶接工程を省きながら、閉塞プレート20をウェブ13の貫通孔13Aを通過させ易くすることができ、これにより、作業性の向上を更に図ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 鉄骨梁
2 補強部材
13 ウェブ
13A 貫通孔
13B 貫通孔周縁部
20 閉塞プレート
20A 第1分割プレート
20B 第2分割プレート
20C 切欠き部
21 閉塞部
22 裏当て金
22A 第1裏当て金(分割枠)
22B 第1裏当て金(分割枠)
23 開先部
図1
図2
図3
図4
図5