(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】抗生物質感受性の自動評価のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/18 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
C12Q1/18
(21)【出願番号】P 2020517966
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2018076257
(87)【国際公開番号】W WO2019063690
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-22
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517274165
【氏名又は名称】ビーディー キエストラ ビーヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】マルセルポイル,ラファエル ルドルフ
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/055724(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0253660(US,A1)
【文献】国際公開第2016/172527(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/172532(WO,A2)
【文献】特表2002-538833(JP,A)
【文献】特開2009-044974(JP,A)
【文献】特開平11-215387(JP,A)
【文献】HEJBLUM, G. et al.,Automated Interpretation of Disk Diffusion Antibiotic Susceptibility Tests with the Radial Profile Analysis Algorithm,Journal of Clinical Microbiology,1993年09月,Vol. 31, No. 9,2396-2401
【文献】BHARGAV H S. et al.,Measurement of the Zone of Inhibition of an Antibiotic,2016 IEEE 6th International Conference on Advanced Computing,2016年02月,409-414
【文献】人間による画像の色分類結果と領域分割結果に基づいた色空間の比較評価,電子情報通信学会論文誌,Vol. J84-D-II, No. 7,2001年,p. 1378-1388
【文献】食品中における微生物増殖の数学モデル,日本食品微生物学会雑誌,Vol. 12, No. 4,1996年,p. 203-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質感受性試験の自動化された方法であって、
生体サンプルを接種した培養プレートを準備することであって、該培養プレートが培養培地とその上に配置された少なくとも1つの抗生物質ディスクとを有することと、
イメージセンサによって生成した前記培養プレートの第1及び第2の画像データを受信することであって、該第1の画像データ及び第2の画像データがそれぞれ、複数の抗生物質ディスクを上に有する前記培養プレートの第1及び第2の取り込み画像を表し、該第1及び第2の取り込み画像が別々の時点で撮影されることと、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとの比較から該第2の画像データのピクセルについてのピクセル特性データを生成することであって、該ピクセル特性データが前記培養プレート上での経時的な微生物増殖を示すことと、
微生物増殖についての増殖モデル化データにアクセスすることであって、
該増殖モデル化データが培養培地、微生物、抗生物質、前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスク上及び前記培養培地中の抗生物質濃度、の組合せに対して微生物増殖をモデル化し、
前記培養培地中の抗生物質濃度が前記抗生物質ディスク上の抗生物質濃度、時間及び該抗生物質ディスクからの距離により決定されることと、
前記増殖モデル化データを用いて模擬画像データを生成することであって、
該模擬画像データが、前記培養培地上に配置された前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスク、該少なくとも1つの抗生物質ディスク上の抗生物質濃度、前記培養培地、並びに時間及び該抗生物質ディスクからの距離により決定される前記培養培地中の抗生物質濃度、に基づき、前記接種された培養プレート上での微生物増殖を模擬することと、
前記模擬画像データと、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データからの前記ピクセル特性データとを比較するとともに、該模擬画像データの1つ以上のピクセル領域とは異なる前記第2の画像データの1つ以上のピクセル領域を特定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記生成したピクセル特性データがコントラストデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コントラストデータがピクセル強度値を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コントラストデータが不透明度データ、色データ及びぼかしデータの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ピクセル特性データが距離データを含み、該距離データが前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つまでの距離を表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記距離データが前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの中心までの距離を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の画像データ又は第2の画像データにおいて、前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスクの抗生物質ディスク画像データを検出することと、
指標データが検出されるように前記抗生物質ディスク画像データを分析することと、
を更に含み、前記増殖モデル化データにアクセスする工程が前記指標データを用いて前記増殖モデル化データを見つけることを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記増殖モデル化データが前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスクの抗生物質負荷についての濃度情報を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
増殖モデル関数を用いて前記模擬画像データを生成することをさらに含み、
前記増殖モデル関数が最大増殖モデル、最小増殖モデル、平均増殖モデル、中央増殖モデル又はパーセンタイル増殖モデルを含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記増殖モデル関数がコントラストデータを前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスクからの距離の関数としてマップする、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記増殖モデル関数が拡散マップを含む、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記増殖モデル関数が、前記第2の画像データの取込み時の前記培養プレート上での微生物増殖の経過時間を表す増殖時間パラメータを用いる、請求項
9~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記増殖モデル関数が拡散係数パラメータを用いる、請求項
9~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記増殖モデル関数が次元パラメータを用いる、請求項
9~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記生成した模擬画像データが、前記培養プレート上の前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの抗生物質ディスクのエッジの位置に対応する無増殖帯を表す第1の画像ピクセルと、
前記無増殖帯から放射状に広がり、前記少なくとも1つの抗生物質ディスクの前記エッジからの距離の点で始まる増殖帯を表す第2の画像ピクセルとを有するイメージマスクを含み、前記距離が前記増殖モデル関数から決定され、前記距離が前記少なくとも1つの抗生物質ディスクの推定阻止帯限界を表す、請求項
9~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記模擬画像データと前記ピクセル特性データとの比較が、差分画像データが生成されるように前記イメージマスクと前記ピクセル特性データとを対比させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の画像データの領域を前記差分画像データに基づいて評価することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の画像データが増殖前参照となる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記培養プレートの前記第1及び第2の取り込み画像を取り込むように前記イメージセンサを制御することを更に含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記コントラストデータが時間的コントラストデータ及び空間的コントラストデータを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
時間的コントラスト値閾値を前記抗生物質ディスクによってもたらされる微生物増殖の調節の指標として設定することと、
前記第1の画像データ中の1つ以上のピクセルと前記第2の画像データ中の1つ以上のピクセルとの間の測定された時間的コントラストが前記時間的コントラスト値閾値を超える場合に、前記第2の取り込み画像を微生物増殖の評価に使用することができるという指標をユーザーに示すこと、又は、
前記第1の画像データ中の1つ以上のピクセルと前記第2の画像データ中の1つ以上のピクセルとの間の前記測定された時間的コントラストが前記時間的コントラスト値閾値を超えない場合、前記第2の取り込み画像を微生物増殖の評価に使用することができないという指標をユーザーに示すことと、
を更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の画像データを微生物増殖の評価に使用することができないという指標に応答して、
i)前記第2の取り込み画像を得た後に追加の一定時間にわたって前記培養プレートを更にインキュベートすること、
前記追加の一定時間が経過した後に、前記イメージセンサによって生成した前記培養プレートの第3の画像データを受信することであって、該第3の画像データが前記複数の抗生物質ディスクを含む前記培養プレートの第3の取り込み画像を表すこと、
前記第2の画像データと前記第3の画像データとの比較から該第3の画像データのピクセルについてのピクセル特性データを生成することであって、該ピクセル特性データが前記培養プレート上での経時的な微生物増殖を示すこと、
微生物増殖についての増殖モデル化データにアクセスすることであって、該増殖モデル化データが培養培地、微生物、抗生物質、前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスク上及び培養培地中の抗生物質濃度、の組合せに対して微生物増殖をモデル化すること、
前記
増殖モデル化データによって模擬画像データを生成すること、並びに、
前記模擬画像データと、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データからの前記ピクセル特性データとを比較するとともに、前記模擬画像データの1つ以上のピクセル領域とは異なる前記第3の画像データ中の1つ以上のピクセル領域を特定すること、又は、
ii)前記サンプルを無効にするシグナルを出すこと、
を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
プロセッサによって実行された場合に、該プロセッサを抗生物質感受性試験のために制御するプログラミング命令を含むコンピュータ媒体であって、該
プログラミング命令が請求項1~22のいずれか一項に記載の方法を行うように該プロセッサを制御する、コンピュータ媒体。
【請求項24】
抗生物質感受性試験のためのシステムであって、
少なくとも1つの抗生物質ディスクが上に配置された培養培地が上に配置された培養プレートの画像を取り込むように構成されたイメージセンサであって、該培養プレートに生体サンプルが接種され、該培養プレートが該イメージセンサの視野内にある、イメージセンサと、
前記イメージセンサに連結されたプロセッサと、
該プロセッサによって実行された場合に、該プロセッサを抗生物質感受性の試験のために制御するプログラミング命令を含むコンピュータ媒体であって、該
プログラミング命令が請求項1~22のいずれか一項に記載の方法を行うように該プロセッサを制御する、コンピュータ媒体と、
を含む、システム。
【請求項25】
抗生物質感受性試験のためのシステムであって、
複数の抗生物質ディスクが上に配置された培養培地が上に配置された培養プレートの画像を取り込むように構成されたイメージセンサであって、該培養プレートが該イメージセンサの視野内にある場合に該培養プレートに生体サンプルが接種され、該イメージセンサが第1の画像データ及び第2の画像データを生成し、該第1の画像データ及び第2の画像データがそれぞれ、前記複数の抗生物質ディスクを含む前記培養プレートの第1及び第2の取り込み画像を表し、該第1及び第2の取り込み画像が異なる時点で撮影される、イメージセンサと、
プロセッサ及びメモリであって、該プロセッサが前記第1の画像データ及び第2の画像データを受信して該メモリにアクセスするように構成され、該メモリが増殖モデル化データを記憶する、プロセッサ及びメモリと、
を含み、前記プロセッサが、
前記第1の画像データ及び前記第2の画像データを受信することと、
前記第1の画像データと前記第2の画像データとの比較から該第2の画像データのピクセルについてのピクセル特性データを生成することであって、該ピクセル特性データが前記培養プレート上での微生物増殖を示すことと、
前記増殖モデル化データにアクセスすることであって、該増殖モデル化データが培養培地、微生物、抗生物質及び抗生物質濃度の関数として微生物増殖をモデル化することと、
前記増殖モデル化データから模擬画像データを生成することであって、該模擬画像データが前記複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスクについて前記培養プレート上での微生物増殖を模擬することと、
前記模擬画像データとは異なる前記第2の画像データの1つ以上のピクセル領域が特定されるように前記模擬画像データと、前記第1の画像データ及び前記第2の画像データからの前記ピクセル特性データとを比較することと、
を行うように構成される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年9月28日に出願された米国仮特許出願第62/564,727号の出願日の利益を主張し、その開示内容は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
微生物増殖の検出のための培養プレートのデジタル撮像(digital imagery)への注目が増している。微生物増殖の検出のためにプレートを撮像する技法が国際公開第2015/114121号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。かかる技法を用いることで、研究所の職員は、直接的な目視検査によりプレートを読み取る必要がなくなり、高品質のデジタル画像をプレート検査に使用することができる。培養プレートのデジタル画像の試験への研究所のワークフロー及び意思決定の移行は、効率を改善する可能性もある。オペレーターは、オペレーター又は適切な技能を有する他者による更なる精密精査のために画像をマークすることができる。付加的な画像を撮影し、二次プロセスを導くために使用することもできる。
【0003】
例えば、撮像を寒天拡散試験に利用することができる。寒天拡散試験では、抗生物質に対する細菌微生物の感受性を決定する。かかる試験(抗生物質感受性試験(AST)と称される場合もある)は通例、試験対象の細菌を均一に塗布したプレート上の培地(例えば、寒天)への幾つかの抗生物質ディスクの適用を伴う。異なるディスクは、異なる濃度の特定の抗生物質及び/又は幾つかの異なる抗生物質を有し得る。プレートをインキュベートすることで、細菌に増殖時間を与えることができる。プレートを続いて観察する。各抗生物質ディスクの周辺部での細菌増殖は、ディスクの特定の抗生物質の効果の指標となる。例えば、特定のディスクの効果的な抗生物質は、試験した細菌の増殖を示さない部位が広く、特定のディスクの効果のない抗生物質は、試験した細菌の増殖を示さない部位を有しない可能性がある。
【0004】
無増殖帯の大きさは、周辺ディスクの抗生物質の最小阻止濃度に関する指標を与えることができる。例えば寒天の場合、抗生物質は、ディスクを置いた後に時間とともにディスクから離れて移動する。この移動により、ディスクからの距離及び抗生物質の拡散速度及び培地に応じて抗生物質濃度が拡散する。抗生物質濃度は、ディスクの近くで最も高くなる。濃度は、ディスクから更に離れることで減少する。通例、最小阻止濃度は、細菌増殖の欠如を含む、ディスクから最も離れた最低濃度とみなすことができる。
【0005】
かかる決定は、種々の細菌感染に適切な抗生物質及びそれらの用量の選択に役立つ場合がある。これは、現代の微生物学撮像システムの目的を明確にする助けとなる。これらの目的を可能な限り早く実現することで、結果を患者に迅速に届け、かかる結果及び解析を経済的に提供するという目標が達成される。研究所のワークフロー及び意思決定の自動化は、これらの目標を達成し得る速さ及びコストを改善することができる。
【0006】
微生物増殖の証拠を検出するための撮像技術についてかなりの進展が見られるが、自動ワークフローをサポートするためにかかる撮像技術を拡大適用することが依然として求められている。微生物増殖の指標について培養プレートを検査する装置及び方法は、一つにはプレート検査の高度に視覚的な性質のために、自動化することが困難である。これに関して、培養プレート画像の解釈(例えば、増殖の特定、感受性試験、抗生物質感受性解析等)を自動化し、自動解釈に基づいて実施する次の工程を決定することができる技法を開発することが望まれている。
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様は、プロセッサにおける抗生物質感受性試験の方法に関する。この方法では、生体サンプルを接種した培養プレートを準備する。培養プレートは、培養培地とその上に配置された少なくとも1つの抗生物質ディスクとを有する。培養プレートの第1及び第2の画像データがイメージセンサによって生成される。第1の画像データ及び第2の画像データはそれぞれ、培養プレートの第1及び第2の取り込み画像を表す。第1及び第2の取り込み画像は、イメージセンサを用いて別々の時点で撮影される。イメージセンサは、所望の画像情報(すなわち色、強度等)を収集するように制御される。ピクセル特性データが第1の画像データと第2の画像データとの比較から第2の画像データのピクセルについて生成される。ピクセル特性データは、培養プレート上での経時的な微生物増殖を示す。次いで、微生物増殖についてのモデル化データにアクセスする。モデル化データは、培養培地、微生物、抗生物質、ディスク上及び培養培地中の抗生物質濃度の組合せに対して微生物増殖をモデル化する。培養培地中の抗生物質濃度は、ディスク上の抗生物質濃度、時間及びディスクからの距離の関数である。模擬画像データが増殖モデル関数を用いて生成される。模擬画像データは、培養培地上に配置された複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスク、少なくとも1つのディスク上の抗生物質濃度、培養培地、並びに時間及び抗生物質ディスクからの距離の関数として培養培地中の抗生物質の濃度に基づき、接種された培養プレート上での微生物増殖を模擬する。模擬画像データとピクセル特性データとを比較することで、模擬画像データの1つ以上のピクセル領域とは異なる第2の画像データの1つ以上のピクセル領域が特定される。
【0008】
ピクセル特性データの一例は、コントラストデータである。コントラストデータは、ピクセル強度値であってもよい。コントラストデータは、不透明度データ、色データ及びぶれデータを含んでいてもよい。
【0009】
ピクセル特性データは、距離データを含んでいてもよく、距離データは、複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つまでの距離を表す。例えば、距離データは、ピクセルから複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つの中心までの距離である。
【0010】
増殖モデル関数は、最大増殖、最小増殖、平均増殖、中央増殖又はパーセンタイル増殖の1つ以上をモデル化し得る。一例では、増殖モデル関数は、コントラストデータを複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスクからのラジアル距離の関数として特性決定する。増殖モデル関数は、培養培地への抗生物質の拡散についての拡散マップを含んでいてもよい。
【0011】
方法は、第1の画像データ又は第2の画像データにおいてディスク自体の画像を検出するとともに、指標データ(indicia data)が検出されるようにディスク画像データを分析する工程を含み得る。増殖モデル化データにアクセスすることは、指標データを用いて増殖モデル化データを位置付けることを含んでいてもよい。増殖モデル化データは、複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスクの抗生物質負荷についての濃度情報を含んでいてもよい。
【0012】
一例では、増殖モデル関数は、i)第2の画像データの取込み時の培養プレートの増殖の経過時間を表す増殖時間パラメータ、ii)拡散係数パラメータ、及びiii)次元パラメータの1つ以上を用いる。
【0013】
一例では、生成した模擬画像データは、培養プレートでの複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスクの位置に対応する無増殖帯を表す第1の画像ピクセルと、無増殖帯から放射状に広がり、上記位置からラジアル距離の点で始まる増殖帯を表す第2の画像ピクセルとを有するイメージマスクを含み、ラジアル距離が増殖モデル関数から決定され、ラジアル距離が少なくとも1つのディスクの推定阻止帯限界を表す。
【0014】
模擬画像データとピクセル特性データとを比較する際に、イメージマスク中のピクセルとピクセル特性データとの間のコントラストを用いて差分画像データを生成する。次いで、第2の画像データの領域を差分画像データに基づいて評価する。時間的コントラスト(すなわち、経時的なピクセル強度の差)については、第1の画像データを増殖の増殖前参照とすることができる。
【0015】
一実施の形態では、方法がコンピュータによって実行される。具体的には、プロセッサによって実行される命令を用いて、上記の方法を行うことができる。
【0016】
抗生物質感受性試験のためのシステムも本明細書に記載される。システムは、少なくとも1つの抗生物質ディスクが上に配置された培養培地が上に配置された培養プレートの画像を取り込むように構成されたイメージセンサを含む。培養プレートに生体サンプルが接種され、培養プレートがイメージセンサの視野内にある。システムは、イメージセンサに連結されたプロセッサを含む。システムはまた、プロセッサによって実行された場合に、プロセッサを抗生物質感受性の試験のために制御するプログラミング命令を含むコンピュータ媒体を含む。例えば、プログラム命令は、本明細書に記載の方法を行うようにプロセッサを制御する。
【0017】
別の実施の形態では、システムは、少なくとも1つの複数の抗生物質ディスクが上に配置された培養培地が上に配置された培養プレートの画像を取り込むように構成されたイメージセンサを含む。培養プレートがイメージセンサの視野内にある場合に培養プレートに生体サンプルが接種され、イメージセンサが第1の画像データ及び第2の画像データを生成し、第1の画像データ及び第2の画像データはそれぞれ、複数の抗生物質ディスクを含む培養プレートの第1及び第2の取り込み画像を表し、第1及び第2の取り込み画像は、第1及び第2のそれぞれの時点で撮影される。システムは、プロセッサ及びメモリを含む。プロセッサは、第1の画像データ及び第2の画像データを受信し、メモリにアクセスする。メモリは、増殖モデル化データを記憶する。プロセッサは、第1の画像データと第2の画像データとの比較に基づいて第2の画像データのピクセルについてのピクセル特性データを生成する。ピクセル特性データは、培養プレート上での微生物増殖を示す。プロセッサは、増殖モデル化データにもアクセスする。増殖モデル化データは、培養培地、微生物、抗生物質及び抗生物質濃度の関数として微生物増殖をモデル化する。プロセッサはまた、増殖モデル関数によって模擬画像データを生成し、増殖モデル関数が増殖モデル化データを用い、模擬画像データが複数の抗生物質ディスクの少なくとも1つのディスクについて培養プレート上での微生物増殖を模擬する。次いで、プロセッサは、模擬画像データとピクセル特性データとを比較し、模擬画像データとは異なる第2の画像データの1つ以上のピクセル領域を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一態様による画像ベースの抗生物質感受性試験のためのシステムの例の概要図である。
【
図2】本開示の一態様による画像ベースの抗生物質感受性試験のための自動プロセスの例を示すフローチャートである。
【
図3】抗生物質ディスクを有する増殖プレートの画像であり、インキュベーション前の及び/又は増殖時間が殆どないプレートを示す。
【
図4】抗生物質ディスクを有する、
図3の増殖プレート等の増殖プレートの画像であり、インキュベーション後及び/又は細菌増殖が生じた相当な増殖時間後のプレートを示す。
【
図5】インキュベーション後及び/又は細菌増殖が生じた相当な増殖時間後の増殖プレートの抗生物質ディスクについての最小阻止帯の画像である。
【
図6】画像を極座標変換(polar transform)によって変換し、ディスクからの最小阻止距離を示す、
図5の画像を変換した図である。
【
図7】プレート上の複数の抗生物質ディスクの画像である。
【
図7A】
図7A~
図7Fは、各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図7B】各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図7C】各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図7D】各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図7E】各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図7F】各ディスクからのラジアル距離の関数として
図7の各ディスクのピクセルについての強度値のマッピングを示すグレースケール画像である。ここで、陰影はディスクからの距離を表し、ディスクからの距離が増すにつれて強度が低くなる。
【
図8】中央ピクセル値(例えば強度、不透明度、色、ぶれ等の1つ以上)に応じて決定される
図4の抗菌ディスクD1からのラジアル距離の関数として増殖(例えば、コントラスト)をマッピングするグラフである。
【
図9】プレートの他のディスク及びプレートの境界外部の画像の部位に関連する画像情報をマスキングした、プレートの単一ディスクについての
図8のグラフの画像表現である。
【
図10】モデル化細菌についてのモデル抗菌ディスクからのラジアル距離に応じてピクセル濃淡値をマッピングする増殖モデルによる増殖モデル関数を示すグラフである。
【
図11】様々な距離でのモデルの特性点を示す
図10のグラフである。
【
図12】モデル化抗生物質ディスクとモデル化細菌との間に相互作用が生じない、増殖モデル関数(複数の場合もある)(例えば、各ディスクについて1(強度)以上(色、不透明度、ぶれ))に応じて生成された模擬画像である。
【
図13】モデル化抗生物質ディスクの一部とモデル化細菌との間に相互作用が生じる、増殖モデル関数(例えば、各ディスクについて1つ以上)に応じて生成された模擬画像である。
【
図14】複数の画像(例えば、増殖時間前及び増殖時間後)を比較するコントラスト解析等によるイメージセンサによって得られる観察画像のピクセル特性情報を示す図である。
【
図15】更なる評価及び/又は解析のためのピクセル領域(イメージマスク等における)を特定する、ピクセル特性情報と模擬画像との比較を示す図である。
【
図16】ディスクが抗生物質を含む場合に生じる増殖のモデルを示す図である。ここで、増殖はディスクから10mmの範囲で強く調節され、抗生物質ディスクに対する増殖応答をディスクのエッジからの距離に対する増殖調節の関数としてモデル化する。
【
図17】細菌エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)及びロイコノストック属に対して抗生物質ディスクの周りに形成される阻止帯の例を示す図である。
【
図18】ディスクが増殖調節をもたらさない(すなわち、阻止がない)場合の抗生物質ディスクの入った培養皿上での微生物増殖を示す図である。
【
図19】種々の抗生物質ディスクによってもたらされる種々の微生物についての様々な微生物増殖調節を示す図である。
【
図20】隣接ディスクの影響を受ける微生物増殖調節を示す図である。
【
図21A】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【
図21B】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【
図21C】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【
図21D】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【
図21E】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【
図21F】2つのディスクの各々からの距離の関数としての調節の二次元表示への1つ以上の抗生物質ディスクによってもたらされる増殖調節の変換を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、プレート培地上での抗生物質感受性試験のために微生物増殖を特定及び分析する装置及び方法を提供する。本明細書に記載の方法の多くは、完全又は部分的に自動化することができ、例えば完全又は部分的に自動化された研究所のワークフローの一部として組み込まれる。
【0020】
本明細書に記載のシステムは、微生物学サンプルを撮像するための光学システムにおいて実行することが可能である。かかる市販のシステムは多いが、本明細書では詳細に説明されない。一例は、BD Kiestra(商標) ReadA Compactインテリジェントインキュベーション及び撮像システムである。システムの他の例としては、国際公開第2015/114121号及び米国特許出願公開第2015/0299639号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載のシステムが挙げられる。かかる光学撮像プラットホームは、当業者に既知であり、本明細書では詳細に説明されない。
【0021】
図1は、プレート培地の高品質撮像を行うための処理モジュール110と画像取得デバイス120(例えば、カメラ)とを有する抗生物質感受性試験システム100の例の概略である。システムは通例、1つ以上のデータメモリ等のデータ記憶媒体130にもアクセスし、かかるメモリは、例えば本明細書に記載のプロセス又は方法のいずれかを行うようにプロセッサを制御するプロセッサ制御命令を含み得る。メモリは、抗生物質ディスクデータ、抗生物質濃度データ、距離データ、画像データ、模擬画像データ、増殖モデルデータ、増殖モデル関数、細菌データ等を含んでいてもよい。処理モジュール及び画像取得デバイスは、プレート培地上に接種された培養物の増殖が可能となるようにプレート培地をインキュベートするインキュベーションモジュール(図示せず)等の他のシステム構成要素に更に接続されることで、それと更に相互作用することができる。かかる接続は、インキュベーションのために検体を受容し、検体をインキュベーターに輸送し、続いてインキュベーターと画像取得デバイスとの間で輸送するトラックシステムを用いて完全又は部分的に自動化することができる。
【0022】
処理モジュール110は、何種類もの情報の処理に基づいてタスクを行うようシステム100の他の構成要素に命令することができる。プロセッサ110は、1つ以上の操作を行うハードウェアであってもよい。プロセッサ110は、中央処理装置(CPU)等の任意の標準プロセッサであってもよく、又は特定用途向け集積回路(ASIC)若しくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等の専用プロセッサであってもよい。1つのプロセッサブロックが示されるが、システム100は、並行して動作しても若しくは並行して動作しなくてもよい複数のプロセッサ、又はインキュベーター及び/又は画像取得デバイス120内のサンプル容器若しくはASTプレートに関する情報を記憶及び追跡するための他の専用論理回路及びメモリを含むこともできる。この点で、処理装置は、システム内のASTプレートの位置(インキュベーター又は画像取得デバイス、その中での位置及び/又は方向等)、インキュベーション時間、取り込み画像のピクセル情報、ASTプレートサンプルの種類(例えば、抗生物質(複数の場合もある)の濃度及び細菌の種類)、培養培地の種類、予備的な取扱い情報(例えば、有害な検体)等を含むが、これらに限定されない、システム100内のASTプレートに関する何種類もの情報を追跡及び/又は記憶することができる。この点で、プロセッサは、本明細書に記載の様々なルーチンを完全又は部分的に自動化することが可能であり得る。一実施形態では、本明細書に記載のルーチンを制御するプロセッサ制御命令は、非一過性のコンピュータ可読媒体(例えば、ソフトウェアプログラム)に記憶させることができる。
【0023】
図2は、抗生物質感受性試験を行うための自動研究所ルーチン200の例を示すフローチャートである。ルーチン200は、Kiestra(商標) Total Lab Automation又はKiestra(商標) Work Cell Automation(どちらもBecton、Dickenson & Co製)等の自動微生物学研究所システムによって実行することができる。システムの例としては、各モジュールがルーチン200の1つ以上の工程を実行するように構成された相互接続モジュールが挙げられる。この例では、ルーチン200は、増殖及び撮像プロセス202と画像評価プロセス204とを含むと理解され得る。
【0024】
増殖及び撮像プロセス202
206では、寒天培地を含むような培養プレートをASTのために準備する。培養プレート又は他の適切な容器を準備し、生体サンプル(例えば、細菌)を接種する。培養プレートは、様々な角度から照明を当てて容器内の生体サンプル及び抗生物質ディスクを観察することができるように光学的に透明な容器であり得る。接種は、細菌を培地に均一に塗布する所定のパターン又はプロセスに従うことができる。プレートに接種する自動方法が当業者に既知である。206では、1つ以上の抗生物質サンプル、例えばディスク等の形状の抗生物質ウエハを培地に適用する。
【0025】
208では、第1のデジタル画像をシステムのイメージセンサによって取り込むことができる。かかる画像は、培養プレート初期化の際又はその付近で任意の増殖の前に取り込むのが好ましい。
【0026】
210では、生体サンプルの増殖が可能となるように培地をインキュベートする。
【0027】
次いで、212では、例えばASTプレートの初期化に対して所定の時点で培地及び生体サンプルの更なるデジタル画像(1つ以上)を取り込むことができる。培地のデジタル撮像は、培地の変化を観察及び分析することができるように、インキュベーションプロセス中に複数回行ってもよい(例えば、インキュベーションの開始時、インキュベーションの最中の時点、インキュベーションの終了時)。タイミングは、試験される抗生物質(複数の場合もある)の種類及び濃度等のASTプレートの性質に基づき得る。培地の撮像は、培地をインキュベーターから取り出すことを含んでいてもよい。異なるインキュベーション時間後に培地の複数の画像を撮影する場合、撮像セッション間の更なるインキュベーションのために培地をインキュベーターに戻してもよい。
【0028】
画像評価プロセス204
撮像後に、取り込んだデジタル画像(複数の場合もある)からの情報に基づいてASTプレートを分析する。デジタル画像の解析は、画像(複数の場合もある)に含まれるピクセル情報の解析を含む場合もある。場合によっては、ピクセル情報をピクセル単位で分析することができる。他の例では、ピクセル情報をブロック単位で分析することができる。また更なる例では、ピクセルの全領域に基づいてピクセルを分析することができ、領域内の個々のピクセルのピクセル情報は、個々のピクセルの情報を組み合わせるか、サンプルピクセルを選択するか、又は下記で更に詳細に説明される統計的ヒストグラム操作等の他の統計的方法を用いることによって得ることができる。本開示では、「ピクセル」に適用されると記載される操作は、同様にピクセルのブロック又は他の分類に適用することができ、「ピクセル」という用語は、本明細書でかかる適用を含むことを意図する。
【0029】
通例、解析は、培地の抗生物質ディスクに関して増殖(又は増殖の欠如)が検出されるかを決定することを含み得る。画像解析の観点から言うと、増殖は、画像内で撮像対象を(対象とその隣接環境との差に基づいて)特定した後、対象内の変化を経時的に特定することによって検出することができる。本明細書に更に詳細に記載されるように、これらの差及び変化はどちらも「コントラスト」の形態である。コントラストは、例えばピクセル単位で強度値、色値(複数の場合もある)、濃淡値、不透明度値及びぶれ値のいずれか1つ以上によって表すことができる。
【0030】
例えば、214では、特定のプレートの第1及び第2の取り込み画像を表すデータをプロセッサにおいて受信することができる。第1及び第2の画像は、別々の時点で撮影される。ここで、「第1の」画像は、第2の画像の前に撮影されたプレートの画像であると理解されるが、必ずしも第2の画像の前に撮影された直前のプレートの画像というわけではない。プレートの他の画像を第1の画像と第2の画像との間で撮影してもよい。通例、第1の画像と第2の画像との間に相当のインキュベーション時間が置かれる(例えば、インキュベーション後の増殖Gを有するが、ディスクD1、D4、D5及びD6の周囲に無増殖NG、またD3及びD2の周囲に部分的無増殖PNGを示す、
図3のディスクを示す
図4を参照されたい)。場合によっては、第1の画像は、インキュベーション前の画像、例えばプロセス208で撮影された画像であってもよい(例えば、プレート画像上のディスクD1~D6及び無増殖を示す
図3を参照されたい)。場合によっては、第1の画像は、少なくとも幾らかのインキュベーション時間後、例えばプロセス212中に撮影された画像であってもよい。
【0031】
216では、プロセッサは、第1の画像データと第2の画像データとの比較を含むコントラスト解析から第2の画像のピクセルについてのピクセル特性データを生成することができる。本明細書でより詳細に説明されるように、これは、第2の画像データにおいて達成された増殖レベルを評価するための第1の画像データ(例えば、バックグラウンド特性となる)と第2の画像データとの比較を含み得る。例えば、画像中の抗生物質ディスクを無視することによって、ピクセル特性データは、先の画像(例えば、インキュベーション前の画像)と比較した場合に最新の画像の最も異なる同一のプレート領域の指標を表すことができる。
【0032】
任意に、かかる比較は、プレート上の各抗生物質ディスクに関して領域単位で行うこともできる。かかるプロセスは、抗生物質ディスクの検出及び/又は抗生物質ディスクのマーキングによる画像の特定の領域(複数の場合もある)の検出を含み得る。これは任意に、画像の正規化バージョンの評価を含んでいてもよい。例えば、プロセッサは、抗生物質ディスク上のマーカーの特徴認識を行うことによって第1及び/又は第2の画像又はその正規化バージョンを走査することができる。認識されたマーカーの特徴は、プレートの特定の抗生物質ディスクに関する情報を含むデータベース等のメモリにアクセスするためのインデックスとすることができる。例えば、情報はディスクの大きさ、ディスクの形状、ディスクの位置、抗生物質名、濃度等を含み得る。
【0033】
各ディスクについて、プロセスは任意に、増殖レベル調節を抗生物質ディスクのエッジ(複数の場合もある)までの距離の関数として評価することができる。例えば、ピクセル特性データとなるピクセル単位のコントラスト情報は、プレートの第1の画像に対するプレートの第2の画像のピクセルについて得ることができる。この特性データは、評価される画像の各ピクセルについての強度値、色値(複数の場合もある)、濃淡値、不透明度値及びぶれ値のいずれか1つ以上を含み得る。任意に、これらの値を特定のディスクからのそれらの距離に応じて特性評価してもよい。かかる距離を
図9に示す。例えば、ピクセルを距離マップ等における距離の関数としてまとめることができる。
【0034】
かかるピクセル特性データの一例を、
図5及び
図6を参照して検討することができる。
図5は、1つの抗生物質ディスク502を含む領域Rを示すAST増殖プレートの画像の一部を含む。無増殖領域504がディスク502の周囲に存在する。増殖領域Gが無増殖領域及びディスク502から更に遠く離れて存在する。画像にはプレートエッジ506も示される。
図6に、
図5の画像と以前の画像の対応する領域(図示せず)との比較によって得ることができるコントラスト情報の極座標変換を示す。
図6では、ピクセルが強度値として表示される。極座標変換により
図5の画像のディスク502部分が画像の左側の明帯608(最高強度)へと変換される。変換時に、無増殖領域504は、明帯608よりも低い強度を有する無増殖帯604へと変換される。増殖Gを示す増殖領域610は、無増殖帯604よりも高い強度及び明帯608よりも低い強度を有する。エッジ検出を任意に用いて、明帯のピクセルと無増殖帯との間のエッジ612を検出し、及び/又は無増殖帯のピクセルと増殖領域のピクセルとの間のエッジを検出することができる。
図6の画像に示されるように、特定の抗生物質ディスク502についての最小阻止距離及びプレート上での細菌増殖を示すか又は決定するために、エッジ検出により無増殖帯604のピクセルと増殖領域のピクセルとの間のエッジを決定することができる。
【0035】
画像のピクセルの極座標変換を用いることで、距離マップを形成するために、強度値をディスクからの距離の関数としてまとめることができる(例えば、
図8を参照されたい)。例えば、nピクセルの各列(x
c)(x
c、y
0..
n)を平均化することができ、ここでxcは、ディスク中心又はディスクエッジからの一定のピクセル距離を表す。次いで、各距離x
cについての平均を合わせて距離マップを提供することができる。他の距離マップを、例えば各列についてのピクセルの最大、最小、平均、中央及び/又は任意のパーセンタイル値を見出すことによって同様に形成することができる。これらの強度距離マップに加えて、このような他のマップを画像のピクセルと関連する色値(複数の場合もある)、濃淡値、不透明度値及びぶれ値を用いて形成することができる。本明細書に記載のような距離に応じたピクセル特性評価を容易にするために極座標変換を用いることができるが、幾つかのバージョンでは、極座標を用いることで、コントラストデータを変換することなくディスクからの距離に応じてピクセルを特性評価することができる。画像ピクセルの極変換を下記に更に詳細に説明する。
【0036】
幾つかのバージョンでは、プレートをまとめたマップ(複数の場合もある)を、続いて試験を受ける特定のASTプレートの更なる評価に用いることができる。しかしながら、マップは、同様に又は代替的に、プレートの特定の抗生物質ディスク(複数の場合もある)に関する情報(例えば、種類、濃度等)及び試験される特定の細菌に関する情報と併せてデータベース内に記憶させることができ、それにより本明細書でより詳細に論考されるようにマップをモデル化に用いることができる。
【0037】
特定のASTプレート画像の評価のための
図2のプロセスを続けるが、システムは、試験されるASTプレートのディスクの任意のサブセット又は全てに関する増殖モデルデータにアクセスすることができる。かかるアクセスは、データ記憶媒体130のデータベース等のメモリからデータを選択することを含み得る。メモリへのアクセスは、上述のようなASTプレートのディスクのマーキングの認識に基づき、及び/又は特定のASTプレート及びその内容物と関連するプレートのマーキングに基づくものであり得る。幾つかのバージョンでは、アクセスによりデータベース(複数の場合もある)からデータを検索することができ、データは、例えばASTプレートのディスクの1つ以上、及び任意に試験される細菌に関する1つ以上の距離マップ、抗生物質濃度データ、増殖モデル関数等を含む。かかるマップ又は関数を含む増殖モデルデータは、本明細書でより詳細に説明されるような増殖モデルに従って得ることができ、他のASTプレートからのマップ関数等の観察画像データに更に基づいていてもよい。通例、各ディスクは、ディスクと関連する特定の距離マップ又は一連の距離マップを有し得る。このため、距離マップは、特定の抗生物質、ディスク上の抗生物質の濃度、抗生物質をディスク上に置いてから経過した時間によって変化し得る。任意に、特定の抗生物質ディスクの距離マップは、ASTプレートの隣接抗生物質ディスク(複数の場合もある)の種類及び濃度に左右される場合もある。
【0038】
増殖モデルによって得られる距離マップの例を、
図10及び
図11のマップの例を参照して検討することができる。
図10の例では、距離マップは、上述のマップと同様、特定のディスクの中心からの距離の関数として細菌増殖を示すラジアルプロファイルの推定をもたらす。この特定のマップについて、濃淡値の変化は、抗生物質ディスクのエッジからの距離(例えば、ピクセル距離)と関連付けられる。例えば、より高い濃淡値が増殖の欠如のモデル化の指標となり、より低い濃淡値が細菌増殖のモデル化の指標となり得る。この例では、関数の濃淡値を平均濃淡値とみなすことができる。しかしながら、他の関数は最小値、最大値、中央値及び/又はパーセンタイル値を採用し得る。
図11に示されるように、関数は、抗生物質ディスクからの距離に対する、細菌とディスク(及び潜在的に隣接するディスク)からの特定の濃度の抗生物質との間の関係の種々の特徴を示し得る特性点(矢印で示される)を有する場合がある。例えば、示される関数中の点は、抗生物質ディスクのエッジ、増殖に対する最大の効果(すなわち、最大量の増殖調節及びそのディスクからの距離)、増殖応答の50%の調節が起こるディスクからの距離等の特徴を示す。
【0039】
幾つかのバージョンでは、これらのモデルマップをプロセス216において特定のASTプレートについて作成された観察マップと比較することで、モデル距離マップと観察距離マップとの間の差を検出し、示すことができる。かかる比較プロセスは、相違解析(discrepant analysis)を含み得る。幾つかのかかるバージョンでは、比較は、モデルマップに従う模擬画像の生成を含み得る。このため、プロセス220では、システムは、218でアクセスした増殖モデル化データを用いる増殖モデル関数によって模擬画像データを生成することができる。それにより、模擬画像データがプレートの1つ以上のディスクに関してAST増殖プレート上の増殖(及び/又は無増殖)を模擬する。
【0040】
画像マップ(対象の画像、又は特定の微生物、抗生物質及び抗生物質濃度について異なるパターンの微生物増殖調節を有するプレートの画像のライブラリー内の画像のいずれか)について、増殖をABディスクが存在しない(又はABディスクまで無限の距離の)場合に観察可能な増殖の調節として模擬することができる。例えば、Cno ABは、ABディスクが存在しない場合に(すなわち、任意の抗生物質ディスクから無限の距離(ディスクによって全く阻止されない帯域)で生じる増殖と同じである)、インキュベーション時間t後に増殖生物によって生じる測定コントラストである。
【0041】
観察されるコントラストは、以下のシグモイド関数:
【数1】
を用いてモデル化することができ、rは、観察されるコントラストの50%の調節を示すディスクからの距離に等しく、xは、特定のピクセルについてのABディスクエッジまでの距離に等しい。値は、抗生物質ディスクから遠く離れた領域と比較して、かかる微生物増殖の調節が見られない(そのピクセルと微生物増殖が調節されない領域中のピクセルとの間にコントラスト差がないことから裏付けられる)場合にゼロである。調節の場合は、値λは、ディスク付近の調節の峻度(steepness)を制御する因子である(傾きは、rでλ/4に等しい)。
図16を参照すると、増殖により測定される時間的コントラストが100%に等しく(すなわち、C
no AB)、rが10mmに等しく、λが0.5に等しい(より大きな値がより急峻な傾きを生じる)場合、最大コントラストは、ディスクエッジから約20mmで見られ、一定のままであり(すなわち、ABディスクから更に離れて増殖の負の調節は見られない)、最大傾きは、10mmに等しいRで見られる。
図16と
図8とを比較すると、同じ関数が観察される。
【0042】
以下を用いることで、測定されたコントラストと模擬コントラストとの間の一致を最適化することができる:
【数2】
ここで、C
Mは測定されたコントラストであり、C
Sは模擬コントラストである。モデル化増殖は、初めにC
no ABを設定し、続いて10に等しいλの値を用いて増殖の調節が50%である場合の距離r(0mm~45mmの範囲)を求めることによって調整することができる。0.1~10の範囲のλの値を詳細化するか又はrでの傾きを推定することで、λの値を設定する。この関数に従うと、値rでの傾きはλ/4である。
【0043】
例えば、
図12に示されるように、ASTプレート画像を一連(1つ以上の)のモデル距離関数から生成することができ、ここでモデル化距離関数がモデル化増殖を有する。かかる関数は、各々がマップの特定の値をディスクからのその距離及びマップ関数(複数の場合もある)に従って模擬画像の各ピクセルに適用する不透明度値関数、色関数及びぶれ関数を含み得る。
図12の例では、モデル関数(図示せず)により特定のディスク及びプレートの特定の細菌についての増殖が、細菌がディスクの抗生物質に影響を受けないか又は耐性を示すようにモデル化されたことから、ディスクの周囲であっても増殖が示される(すなわち、阻止部位なし)。
図13は、これとは対照的に、特定のディスクについてのモデル関数により抗生物質(複数の場合もある)の異なる阻止効果及び/又はそれらの濃度がモデル化されることから、幾つかの部位に阻止部位を有する模擬画像を示す。
【0044】
隣接抗生物質ディスクの増殖調節/阻止の画像の多くの例が、http://cdstest.net/manual/plates/に見られる。かかる画像は、
図17~
図20及び
図21A~
図21Fに例示目的で提示される。
図17で観察することができるように、抗生物質ディスクの周囲の暗い輪は、阻止帯である。ぼんやりとした領域は、拡散増殖を示す。プレート13.2.C内のディスクVA5で示されているような周辺のより明るい領域は、阻止帯の減少を示した(すなわち、完全調節とは対照的な部分調節)。プレート13.2D内のディスクVA5及びTEC15のようにバックグラウンドがディスクの周辺にまで広がる場合、この画像は、この微生物(ロイコノストック属)についての増殖がこれらの抗生物質ディスクで(これらの濃度で)調節/阻止されなかったことを示す。
【0045】
増殖のモデル化には3つの明らかに異なるシナリオがある。第1のシナリオでは、増殖が単に抗生物質ディスクによって調節されない。このパターン(すなわち、調節の欠如)を
図18に示す。増殖が単一ディスクによって調節される場合、増殖の調節/阻止は、広範なパターン(特定の微生物及び特定の抗生物質に応じる)で現れる。かかる増殖調節の一連の非限定的な例を
図19に示す。
【0046】
複数の抗生物質ディスクの影響を受ける増殖調節も微生物の種類、抗生物質及び複数のディスクからの距離によって異なる様々なパターンを取ることができる。かかるパターンを
図20に示す。上述のように、多様な増殖調節パターンが様々な要因(すなわち、微生物、ディスクに含まれる抗生物質、ディスク上の抗生物質の濃度、プレート上でのディスク同士の近さ等)に応じて生じ得る。したがって、画像データを解釈するために選択された抗生物質による微生物に対する微生物増殖の調節を模擬するモデルは、モデル化される相互作用によって複雑さが異なる。
【0047】
微生物増殖が複数のディスクによって調節されるプレート上の部位を評価するために、ピクセルの強度を2つのディスクからの距離の関数として変換することが有用である。
図21Aを参照すると、ディスクD1によってもたらされる調節の例がディスクの周囲の明るい輪として示される。ディスクD2によっては調節がもたらされない。左側に画像の変換を示す。ディスクD2からの距離をx軸上に取り、ディスクD1からの距離をy軸上に取る。調節帯(700)内のピクセルの強度を二次元変換において700として示す。2つのディスクからの距離の組合せを表さない帯域が変換において存在し、これが701によって示される。2つのディスクがそれぞれ調節をもたらす(すなわち、ディスクが他のディスクによってもたらされる調節に影響を与えない)二次元変換を
図21Bに示す。ディスクD1及びD2に対する調節帯(710、711)を右側に示し、二次元変換における調節帯(710、711)を左側に示す。
【0048】
より複雑な相互作用を
図21Cに示す。先の例と同様に調節帯720及び721が見られる。しかしながら、ディスクによってもたらされる調節が重複する帯域が明らかに存在する。調節帯が互いの内に及ぶことから左側の変換に影響の重複が現れる。
【0049】
図21Dを参照すると、ディスクが個別に増殖調節をもたらさない状況が示される。しかしながら、両方のディスクから幾らかの距離に調節帯730が存在し、増殖調節が各ディスク個別によってではなく、2つの抗生物質の組合せによってもたらされることが示される。画像データをこのように変換することで、複数のディスクの或る特定の組み合わせ効果のパターンが既存のパターンとより容易に比較され、検査を受けるプレートからの画像データが解釈される。
【0050】
場合によっては、調節の程度又は範囲は、ディスクからの距離によって異なり得る。
図21Eに、ディスクD1によってもたらされる第1の調節帯(740)及び第2の調節帯(741)を示す。第1の帯域740は完全な阻止、第2の帯域は部分的な阻止の帯域である。ピクセル強度が調節の範囲の関数として変化することから、強度の差が左側の変換データからも明らかである。説明を簡単にするために、
図21EではD2による調節はもたらされない。
【0051】
図21Fに、D2によってもたらされる調節750が、それ自体が調節をもたらさないD1を飲み込む変換を示す。これを三次元画像から識別することは困難であり得るが、D1に直接隣接するピクセル(変換データにおいて領域751として示される)が無調節と一致する強度を有する(すなわち、D1からの距離d1がゼロ増殖調節と一致する強度を有する多くのピクセルについてゼロである)ことが極座標変換データから明らかである。
【0052】
感受性試験をより効率的なものにするために、かかる模擬画像がシステム100によって適用され得る。例えばプロセス222では、システムは、システムによって生成された模擬画像とシステムに取り込まれたASTプレートの画像とを比較することができる。かかる比較は、相違解析により取り込み画像と模擬画像とを対比させるのに役立ち得る。例えば、増殖G及び一部のディスクの周囲の様々な阻止領域(RI1、RI2、RI3、RI4及びRI5)を示すようなシステムに取り込まれた画像(又はコントラスト画像)を
図14に示す。かかる画像は、観察画像と称することができ、既に論考したように増殖観察を示すコントラストを高めるように以前の画像との関連で処理することができる。次いで、この観察画像を模擬画像と対比させることができる。例えば、
図15に示されるように、イメージマスク1520は、観察画像(
図14)と模擬画像(
図13)とで差がある部位を強調し、モデル化増殖と観察される増殖との間の差を強調するために生成することができる。例えば、イメージマスクは、ピクセル単位でのピクセルの比較によって生成することができる。かかる例では、観察画像の所与のピクセル(x,y)が模擬画像の対応するピクセルと同じか又は大きく異ならない(例えば、差の閾値内の)値を有する場合、イメージマスクの対応するピクセルを所望の値(例えば、黒色)に設定することができる。そうでなければ、イメージマスクの対応するピクセルを、差がある位置を強調するために異なる値(例えば、白色)に設定することができる。場合によっては、差のより大きな領域が差のより小さな領域よりも目立つような差のスケーリングに応じたピクセルを用いてマスク画像を生成することができる。
【0053】
このような観察画像に対するモデルの相違解析は、モデルを確認する際の基礎となり得る。これは、モデルによって十分に説明されない領域を特定/強調するのに役立つ場合がある。これは、抗生物質ディスクの相互作用の自動検出及び更なる解析を単純化する助けとなる場合もある。この点で、
図13、
図14及び
図15に関して示されるように、ディスクD1、D4及びD6は、期待される抗生物質効果を有し(すなわち、
図13のモデル化が
図14の観察にほぼ等しい)、典型的な阻止領域を有する。しかしながら、
図14に見られるディスクD3とD2との間の部分的な阻止領域RI4が、D2の抗生物質とD3の抗生物質との間の幾らかの予期せぬ相互作用を示す。これにより、
図15のマスク内に提示される差分領域1522が生じる。かかる差分画像又はマスクは、実験助手に対してディスプレー上に観察画像とともに(例えば、近くに)又は観察画像に重ねて提示されるように、ASTプレートの視覚的評価を補助するツールとして役立つ可能性がある。また、かかる評価は、模擬又は画像データのライブラリーと比較する際の基礎となり得る。かかる比較により、解釈を補助するオペレーターの介入を必要とすることなく、プレートの評価を得ることができる。このため、システム100は、かかる撮像をディスプレー上に画像の意味の評価(システムがかかる評価を提供することが可能な場合)とともに提示するためのディスプレー(例えば、モニター画面)を用いて構成されていてもよい。このようにして、2つの異なる抗生物質間の特定の相乗効果を差分画像のデータによって検出することができる。
【0054】
本明細書に記載のシステム100のプロセスは、AST応答の漸進的なモデル化も可能にし得る。例えば、各工程後にモデルと観察との間に検出された差を用いてモデルを調整することによって、モデルにおける次のレベルを更なる検出のために修正することができる。モデルと真の画像との間の任意の最終的な相違により、ASTの自動解釈にとってのモデルの不十分な点が強調され得る。このため、システムは、自動検出のためのモデルを改善又は更新するように学習することができる。
【0055】
システムは、以下のいずれかの自動検出を改善することができる:
*増殖特性(1つ以上の抗生物質によって誘導される増殖調節が見られない場合)
*所与の抗生物質によって誘導される増殖調節の細かい解釈
*種々の感受性/耐性亜集団又は混合生物の場合の微生物集団の不均一性
*2つ以上の抗生物質の相乗効果による複雑な耐性/感受性パターン。
【0056】
増殖モデル化理論の開発
本技術の幾つかのバージョンでは、較正拡散マップとみなすことができる既に論考した距離マップ等の増殖モデル化データは、抗生物質濃度、試験/拡散時間及び選択される細菌に基づき得る。増殖モデルのためのかかるマップを開発する際に、増殖調節は、1つ1つのディスクまでの距離の関数としての寒天プレート上のピクセル位置に応じた「検知」濃度の関数として測定することができる(細菌増殖のエッジ及び無増殖の位置)。
【0057】
各抗生物質についての「検知」濃度は、以下の式に従うものとする:
【数3】
ここで、C
0はディスクの初期濃度であり、Dは拡散係数(ストークス-アインシュタインの式)であり、tは時間であり、rはソースまで(抗生物質ディスクのエッジまで)の距離であり、
kは次元(通例、1.0~3.0)であり、2.0近くであることが多い。
【0058】
各抗生物質についての較正拡散マップに関して、所与の抗生物質の負荷が異なるディスクを使用することができ、それぞれの増殖パターンを所与の感受性生物について分析することができる。事実上、各阻止帯の限界は、生物による抗生物質の同じ「検知」濃度に相当するものとする。このため、一連の阻止帯の半径及び既知の抗生物質負荷を用いて、各抗生物質についての拡散方程式を解くことができる。
【0059】
読み取り時間(例えば、t=24時間)での抗生物質の臨界濃度及び臨界直径rに基づき、D及びkを推定することができる。
【0060】
例えば、初期濃度C
1及びC
2、並びに阻止半径r1及びr2の2つのディスクを用いることで、以下のようになる:
【数4】
【0061】
C
1、C
2、C
3...が2倍段階希釈であり、C
2=1/2C
1、C
3=1/2C
2...である場合、以下のようになる:
【数5】
【0062】
試験される生物の最小阻止濃度(「MIC」)又はC(r,t)が較正方程式を詳細化する自動試験システムを用いて並行して提供される場合、較正の結論を較正方程式に組み込むことができる。
【数6】
Bを4Dtとすると、以下のようになる:
【数7】
【0063】
試験される抗生物質についてのk及びBが知られる場合、培地中の全ての抗生物質の濃度の推定値をソースディスクまでの距離の関数として推定し(その初期濃度C0を知る)、様々なディスクについて適切な距離マップを作成することができる。このため、増殖調節を各抗生物質ディスクまでの距離の関数として推定(モデル化)することができる。さらに、増殖調節を任意に抗生物質の推定濃度の関数として推定(モデル化)することができる。
【0064】
画像の比較及びコントラスト
上述のプロセスでは、プレートのディスクに関して増殖が存在するかの決定を画像の比較(時点t
0での観察対時点t
xでの観察及び/又は観察対模擬)により実行し、その間のコントラストを決定することができる。この点で、時間とともにASTプレート上の細菌が増殖する。細菌をプレート内に置いてからの時間が早い程、そこで検出される細菌が少なく、結果としてバックグラウンドに対するコントラストが低下する。別の言い方をすると、より小さなコロニーサイズがより小さなシグナルを生じ、一定のバックグラウンドに対してより小さなシグナルがより小さなコントラストをもたらす。これは、以下の式に反映される:
【数8】
【0065】
コントラストは、画像内の増殖対象を特定する際に重要な役割を果たし得る。輝度、色及び/又はテクスチャがその周辺と大きく異なる場合、画像内に対象を検出することができる。対象が検出された場合、解析は、検出された対象の種類を特定することを含んでいてもよい。かかる特定は、特定された対象のエッジの滑らかさ、又は対象の色及び/又は輝度の均一性(又は均一性の欠如)等のコントラスト測定にも依存し得る。このコントラストは、イメージセンサによって検出される画像ノイズ(バックグラウンドシグナル)を克服するのに十分に大きくなくてはならない。
【0066】
人間のコントラストの知覚(ウェーバーの法則に支配される)は限られている。最適条件下では、人間の眼は、1%の光レベル差を検出することができる。画像測定(例えば、輝度、色、コントラスト)の品質及び信頼性は、測定のシグナル対ノイズ比(SNR)によって特徴付けることができ、100(又は40db)のSNR値が、ピクセル強度とは独立して、人間の検出能に匹敵する。高SNR撮像情報及びピクセル情報によって既知のSNRを用いるデジタル撮像法は、コロニーが未だ人間の眼には見えない場合であっても、これらのコロニーの検出を可能とし得る。
【0067】
しかしながら、視覚的に観察可能又は視覚的に知覚可能なコントラストは、観察される時間的コントラストが、それ自体として抗生物質ディスク付近の微生物増殖調節の信頼性のある決定であることを必ずしも意味するわけではない。本方法により時間的コントラストの範囲を決定することができるため、本方法により、微生物増殖の信頼性のある決定を今回行うことができるという指標をユーザーに提供する前に必要とされる時間的コントラストの閾値(すなわち、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上等)を設定することによって、観察される時間的コントラストが微生物調節の信頼性のある決定に適しているか否かの指標をユーザーに提供することができる。選択される閾値は、栄養培地の種類(例えば、ミューラーヒントン寒天(MH)、5%ヒツジ血液を含むミューラーヒントン寒天、ミューラーヒントンチョコレート寒天等)及び微生物の種類(例えば、ナイセリア属又はヘモフィルス属、淋菌(N. gonorrhoeae)、大腸菌(E. coli)、サルモネラ菌、赤痢菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等)によって異なる。通例、より明るいコロニーがより明るい寒天(例えば、MH)上に形成されるか、又は同様の色のより暗いコロニーがより暗い寒天(例えば、MHチョコレート寒天)上に形成される場合、より大きなコントラストが必要とされる。したがって、微生物増殖調節の信頼性のある決定に必要とされる時間的コントラストの範囲が、異なる寒天及び微生物の組合せについて異なる閾値に設定されることが企図される。設定された閾値を満たす又は超える、測定された時間的コントラストの範囲が検出された場合、プレートを解析する準備が整っていることをユーザーに通知する。測定された時間的コントラストの範囲が指定した閾値を満たさない又は超えない場合、サンプルのインキュベートをもう1サイクル続けるか、又は不十分なサンプル品質のためにサンプルを無効にすることをユーザーに推奨する。このことは、熟練したユーザーがコントラストを認識することができ、増殖を認識することができる一方で、必ずしも50%又は80%の増殖調節と観察される強度の変化(絶対差が2%の強度差~3%の強度差である場合)とを視覚的に正確に識別することができるとは限らず、所与の抗生物質ディスクの周囲の阻止領域の誤った読取りにつながるために有利である。
【0068】
本開示では、空間的及び時間的の少なくとも2つの方法でコントラストを収集することができる。空間的コントラスト、すなわち局所コントラストにより、単一画像における所与の領域(例えば、ピクセル、隣接ピクセルの群)とその周辺との色又は輝度の差が定量化される。時間的コントラスト、すなわち時間コントラストにより、或る画像の所与の領域と異なる時点で撮影された別の画像における同じ領域との色又は輝度の差が定量化される。時間的コントラストを支配する式は、以下のように空間的コントラストの式と同様である:
【数9】
ここで、t
2は、t
1の後の時点である。所与の画像の空間的及び時間的コントラストの両方を用いて増殖を特定することができる。
【0069】
対象のバックグラウンドに対する空間的又は時間的コントラストを最大にするために、システムにより異なるバックグラウンドで異なる入射光を用いた画像を取り込むことができる。例えば上からの照明、下からの照明又は側面からの照明のいずれかを、黒色又は白色のバックグラウンドで用いることができる。
【0070】
所与の時点で、複数の画像を複数の照明条件下で取り込むことができる。画像は、照明光レベル、照明角度、及び/又は対象とセンサとの間に配置されるフィルター(例えば、赤色、緑色及び青色のフィルター)のためにスペクトル的に異なる種々の光源を用いて取り込むことができる。このように、画像取得条件は、光源の位置(例えば、上、側面、下)、バックグラウンド(例えば、黒色、白色、任意の色、任意の強度)及び光スペクトル(例えば、赤色チャネル、緑色チャネル、青色チャネル)の点で異なり得る。例えば、第1の画像は、上からの照明及び黒色のバックグラウンドを用いて取り込むことができ、第2の画像は、側面からの照明及び黒色のバックグラウンドを用いて取り込むことができ、第3の画像は、下からの照明及び無バックグラウンド(すなわち、白色のバックグラウンド)を用いて取り込むことができる。さらに、使用する空間的コントラストを最大にするために、特定のアルゴリズムを用いて一連の様々な画像取得条件を作り出すことができる。これら又は他のアルゴリズムは、所与の配列に従う及び/又は一定時間にわたる画像取得条件を変化させることにより時間的コントラストを最大にするためにも有用であり得る。幾つかのかかるアルゴリズムが国際公開第2015/114121号に記載されている。
【0071】
2つの画像間のコントラスト情報を決定することができる。コントラスト情報は、ピクセル単位で集めることができる。例えば、第2のデジタル画像のピクセルを第1のデジタル画像の対応するピクセル(同じ座標の)と比較し、時間的コントラストの存在を決定することができる。さらに、第2のデジタル画像の隣接ピクセルを互いに又はバックグラウンドピクセルであることが知られる他のピクセルと比較し、空間的コントラストの存在を決定することができる。ピクセルの色及び/又は輝度の変化は、コントラストを示し、画像毎又はピクセル(又はピクセルの領域)毎のかかる変化の大きさを測定、算出、推定、又は他の形で決定することができる。所与の画像について時間的コントラスト及び空間的コントラストの両方を決定する場合、画像の所与のピクセルの全体的なコントラストを、その所与のピクセルの空間的及び時間的コントラストの組合せ(例えば、平均、加重平均)に基づいて決定することができる。
【0072】
第2のデジタル画像における増殖は、計算されたコントラスト情報に基づいて特定することができる。同様のコントラスト情報を有する第2のデジタル画像の隣接ピクセルは、同じ増殖に属するとみなすことができる。例えば、隣接ピクセルとそれらのバックグラウンドとの間又はピクセルと第1のデジタル画像におけるそれらの輝度との間の輝度の差がほぼ同じ(例えば、所定の閾値内)である場合、ピクセルは、同じ増殖対象に属するとみなすことができる。一例としては、システムにより顕著なコントラスト(例えば、閾値を超える)を有する任意のピクセルに「1」が割り当てられ、続いて全て増殖対象として「1」が割り当てられた隣接ピクセルの群が特定され得る。同じラベルを有するピクセルが或る特定の特性を共通して有するように、対象に特定のラベル又はマスクを与えることができる。ラベルは、その後のプロセスにおいて増殖と他の対象(例えば、ディスク)及び/又はバックグラウンドとを区別するのに役立ち得る。
【0073】
デジタル画像における対象の特定は、デジタル画像を複数の領域(例えば、フォアグラウンド及びバックグラウンド)へとセグメント化又は分割することを含み得る。セグメント化の目標は、構成要素の分析が容易になるように画像を複数の構成要素の表示に変更することである。画像セグメント化は、抗生物質ディスク等の画像内の関心の対象を位置付けるために用いられる。
【0074】
かかる自動プロセスの使用により、より迅速なAST試験が可能となり得る。自動プロセスでのかかる試験は、初めにASTディスクを配置した直後に開始することができ、結果をより迅速に得て、報告することができる。一方、手作業によるプロセスでのかかる試験には、データを検討及び報告し得る前に完了までに余分な時間がかかることが多い。このため、本明細書に記載のモデル化及び/又はコントラスト処理によって補助される本開示の自動プロセスは、試験結果の品質又は正確性に悪影響を及ぼすことなく、より迅速な試験を提供することができる。
【0075】
本発明を本明細書で特定の実施形態を参照して説明したが、これらの実施形態が本発明の原理及び用途の単なる例示であることを理解されたい。したがって、多数の変更を例示的な実施形態に加えることができ、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の構成を考案することができることを理解されたい。