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  • 特許-蒸留装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/14 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
B01D3/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021022306
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124582
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 尚聰
(72)【発明者】
【氏名】竹森 勇
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221411(JP,A)
【文献】特開2019-147141(JP,A)
【文献】特開昭61-054201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/00-3/42
C07B 61/00
C07C 7/04
C07C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高沸点成分と低沸点成分とを含有し、前記低沸点成分よりも前記高沸点成分を高濃度に含む原料液を蒸留するための蒸留装置であって、
前記原料液の蒸留を行って、前記低沸点成分を主成分とする塔頂ベーパを塔頂から取り出し、前記低沸点成分よりも前記高沸点成分を高い割合で含有する塔底液を塔底から取り出すように構成された蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を再加熱するためのリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを冷却して凝縮させるとともに、凝縮液の一部を前記蒸留塔への還流液として用い、残部を留出液として回収することができるように構成されたコンデンサと、
水蒸気を圧縮して温度レベルを上昇させた圧縮蒸気を、加熱源として前記リボイラに供給する蒸気圧縮機と、
前記蒸留塔の塔底液から熱回収を行うための熱回収ヒータであって、熱回収ヒータに循環供給される循環水と、前記蒸留塔の塔底液とを熱交換させることにより、前記蒸留塔の塔底液が有する熱を回収するとともに、前記循環水を蒸発させて前記蒸気圧縮機に供給される水蒸気を発生させる熱回収ヒータと、
前記蒸気圧縮機から前記リボイラに供給された圧縮蒸気が前記リボイラで前記蒸留塔の塔底液の再加熱に用いられることにより凝縮した凝縮水の一部を蒸発させて、前記蒸気圧縮機に供給される水蒸気を発生させるとともに、蒸発しなかった前記凝縮水を前記熱回収ヒータに戻すように構成された膨張機構と
を具備し、
前記熱回収ヒータで発生させた水蒸気と、前記膨張機構で発生させた水蒸気とを、前記蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上昇させた圧縮蒸気が、前記リボイラに加熱源として供給されるように構成されていること
を特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
前記膨張機構が、
膨張弁と、
前記膨張弁を通過することで前記凝縮水から蒸発した水蒸気と、蒸発しなかった前記凝縮水とを分離するセパレータと
を備えていることを特徴とする請求項1記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記熱回収ヒータで蒸発させた水蒸気が前記セパレータに導かれて、前記凝縮水から蒸発した水蒸気とともに、前記蒸気圧縮機に供給されるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上昇させた圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満であり、
前記熱回収ヒータに循環供給される前記循環水の温度が102℃以上であり、
前記蒸気圧縮機で圧縮された圧縮蒸気の温度が、前記熱回収ヒータで発生させた水蒸気の温度より5℃以上95℃以下の範囲で高く、
前記蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下となるように構成されていること
を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低沸点成分よりも沸点の高い高沸点成分が高濃度で含まれている原料液を蒸留する蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留装置では、加熱源として蒸気が使用されることが多いため、高エネルギー消費型の装置として長年その省エネルギー化が課題とされていた。
【0003】
そこで、従来より、蒸留装置の省エネルギー化のため、蒸留装置に供給される原料液と、缶出液あるいはリボイラから排出される蒸気ドレンとを熱交換させて熱エネルギーを回収する方法が広く用いられてきた。
【0004】
また、蒸留塔の塔頂から取り出されたベーパを蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上昇させて加熱源として使用する方法も知られている。
【0005】
さらに、近年では、蒸留塔の塔頂から取り出されたベーパを冷却するためのコンデンサで用いられたコンデンサ用循環水(冷却水)から、ヒートポンプを利用して熱を回収し、その熱をリボイラの加熱源として利用する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平6-9641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の缶出液または蒸気ドレンが有する熱を有効利用する方法では、缶出液あるいは蒸気ドレンの温度と原料液の温度との温度差が小さい場合、缶出液あるいは蒸気ドレンと原料液との熱交換が困難で、熱の有効利用が制約されるという問題点がある。
【0008】
また、蒸気圧縮機を用いて、蒸留塔の塔頂ベーパを圧縮して温度レベルを上昇させることにより、熱を有効利用する方法では、塔頂ベーパの温度と塔底液の温度の差、あるいは塔頂ベーパの温度と原料液の温度の差が大きくなると、蒸気圧縮機の負荷が大きくなって、蒸気圧縮機のCOP(成績係数)が小さくなり、十分な省エネルギー効果を得ることができなくなるという問題点がある。
【0009】
また、特許文献1の蒸留装置のように、ヒートポンプを用いて、蒸留塔の塔頂ベーパが有する熱を有効利用する方法の場合、熱の利用先によっては必要とされる加熱源の温度レベルが高いために熱を有効利用することが困難になる場合がある。すなわち、特許文献1のようなヒートポンプを用いた蒸留装置の場合、塔頂ベーパと塔底液の温度差、あるいは塔頂ベーパと原料液の温度差が大きくなると、ヒートポンプで熱を汲み上げて温度レベルを上昇させる際に、上昇させるべき温度幅が大きくなって、ヒートポンプのCOP(成績係数)が小さくなり、十分な省エネルギー効果を得ることができない場合があり、また、熱の利用先の温度(加熱源として要求される温度)が高い場合には、加熱源として必要な温度にまで温度レベルを上げることができず、蒸留装置を適正に稼働させることができないという問題が生じる場合がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、蒸気圧縮機を用いて、効率よく熱エネルギーを回収、利用することが可能で、省エネルギー性に優れた蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の蒸留装置は、
高沸点成分と低沸点成分とを含有し、前記低沸点成分よりも前記高沸点成分を高濃度に含む原料液を蒸留するための蒸留装置であって、
前記原料液の蒸留を行って、前記低沸点成分を主成分とする塔頂ベーパを塔頂から取り出し、前記低沸点成分よりも前記高沸点成分を高い割合で含有する塔底液を塔底から取り出すように構成された蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を再加熱するためのリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを冷却して凝縮させるとともに、凝縮液の一部を前記蒸留塔への還流液として用い、残部を留出液として回収することができるように構成されたコンデンサと、
水蒸気を圧縮して温度レベルを上昇させた圧縮蒸気を、加熱源として前記リボイラに供給する蒸気圧縮機と、
前記蒸留塔の塔底液から熱回収を行うための熱回収ヒータであって、熱回収ヒータに循環供給される循環水と、前記蒸留塔の塔底液とを熱交換させることにより、前記蒸留塔の塔底液が有する熱を回収するとともに、前記循環水を蒸発させて前記蒸気圧縮機に供給される水蒸気を発生させる熱回収ヒータと、
前記蒸気圧縮機から前記リボイラに供給された圧縮蒸気が前記リボイラで前記蒸留塔の塔底液の再加熱に用いられることにより凝縮した凝縮水の一部を蒸発させて、前記蒸気圧縮機に供給される水蒸気を発生させるとともに、蒸発しなかった前記凝縮水を前記熱回収ヒータに戻すように構成された膨張機構と
を具備し、
前記熱回収ヒータで発生させた水蒸気と、前記膨張機構で発生させた水蒸気とを、前記蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上昇させた圧縮蒸気が、前記リボイラに加熱源として供給されるように構成されていること
を特徴としている。
【0012】
本発明の蒸留装置においては、
前記膨張機構が、
膨張弁と、
前記膨張弁を通過することで前記凝縮水から蒸発した水蒸気と、蒸発しなかった前記凝縮水とを分離するセパレータと
を備えた構成のものであることが好ましい。
【0013】
また、前記熱回収ヒータで蒸発させた水蒸気が前記セパレータに導かれて、前記凝縮水から蒸発した水蒸気とともに、前記蒸気圧縮機に供給されるように構成されていることが好ましい。
【0014】
また、前記蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上げた圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満であり、
前記熱回収ヒータに循環供給される前記循環水の温度が102℃以上であり、
前記蒸気圧縮機で圧縮された圧縮蒸気の温度が、前記熱回収ヒータで発生させた水蒸気の温度より5℃以上95℃以下の範囲で高く、
前記蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下となるように構成されていること
が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蒸留装置は、上述のように構成されており、熱回収ヒータにおいて、熱回収ヒータに循環供給される循環水と、蒸留塔の塔底液とを熱交換させることにより、塔底液が有する熱を回収するとともに、熱回収ヒータにおいて循環水を蒸発させるようにしているので、熱回収ヒータをボイラのような蒸気発生装置として機能させることが可能になる。
【0016】
また、熱回収ヒータで発生させた水蒸気と、膨張機構で発生させた水蒸気とを、蒸気圧縮機で圧縮することにより温度レベルを上昇させた圧縮蒸気を、リボイラに加熱源として供給するようにしているので、蒸留装置全体として、効率よく熱回収を行うことが可能になるとともに、リボイラにおける加熱源として有効に用いることが可能になる。
【0017】
その結果、熱エネルギーを効率的に回収、利用することが可能で、省エネルギー性に優れた蒸留装置を実現することが可能になる。
【0018】
また、本発明の蒸留装置においては、上述のように蒸気圧縮機で圧縮する対象(作動媒体)が水蒸気であることから、原料液に含まれる低沸点成分および高沸点成分が可燃性や腐食性を有する有機物質であって、それらの有機物質の蒸気を直接に蒸気圧縮機で圧縮する場合のように、蒸気圧縮機の回転物の接触事故による火花の発生やそれに起因する爆発事故、蒸気圧縮機の腐食やそれに起因する故障の発生を回避することが可能になり、安全性を向上させることができる。
【0019】
さらに、水蒸気は、炭化水素ガスと比較して、比容積が小さく、かつ、蒸発潜熱が3~5倍程度大きいことから、蒸気圧縮機の小型化を図ることが可能になる。
【0020】
また、水蒸気は炭化水素ガスと比較して比熱が大きく、かつスーパーヒートが小さい点でも、蒸気圧縮機により圧縮して熱回収を行うための流体として優れている。
【0021】
さらに、本発明の蒸留装置では、リボイラで凝縮した凝縮水(作動媒体)は膨張弁を経て減圧されることより一部は蒸発し、水蒸気となって蒸気圧縮機に送られ、残部は熱回収ヒータに循環供給されて、蒸留塔の塔底液(缶出液)との熱交換により加熱されて蒸気となり、発生した蒸気はセパレータを経て蒸気圧縮機に送られる。このように、蒸気圧縮機で圧縮され、リボイラの加熱源となる水(作動媒体)は循環使用されるため、本発明の蒸留装置は、スタートアップ時に供給する蒸気や熱バランスを補助する使用量の少ない補助蒸気の使用を除けば、蒸気の供給を必要とせずに運転を行うことができるという利点を備えている。
【0022】
本発明の蒸留装置においては、上述の膨張機構を通過することで、圧縮蒸気がリボイラで蒸留塔の塔底液の再加熱に用いられることにより凝縮した凝縮水から蒸発した水蒸気と、蒸発しなかった凝縮水とを分離するセパレータとを備えた構成とすることで、蒸気圧縮機に供給される蒸気に凝縮液が混入することを抑制して、蒸気圧縮機を安定して稼働させることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0023】
また、熱回収ヒータで蒸発させた水蒸気がセパレータに導かれて、膨張弁を通過した凝縮水から蒸発した水蒸気とともに蒸気圧縮機に供給されるように構成することにより、装置構成を複雑にすることなく、有効利用することが可能な水蒸気をまとめて蒸気圧縮機に供給することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0024】
また、(a)蒸気圧縮機で温度レベルを上げた圧縮蒸気の温度が110℃以上200℃未満、(b)熱回収ヒータに循環供給される循環水の温度が102℃以上、(c)蒸気圧縮機で圧縮された圧縮蒸気の温度が熱回収ヒータで発生させた水蒸気の温度より5℃以上95℃以下の範囲で高く、(d)蒸留塔の塔底液の温度が105℃以上195℃以下、の各要件を満たすようにした場合、より効率よく熱エネルギーを回収、利用することが可能で、省エネルギー性に優れた蒸留装置を実現することが可能になる。
なお、本発明の蒸留装置においては、通常、蒸留装置の操作圧力を制御することにより、上述の各要件を満たすことができる。
【0025】
なお、蒸留塔に供給される原料液に含まれる高沸点成分が低沸点成分よりも高濃度で含まれている場合、従来の自己蒸気圧縮式の蒸留装置(すなわち、蒸留塔の塔頂ベーパを蒸気圧縮機で圧縮して温度レベルを上げてリボイラの加熱源として用いるようにした蒸留装置)の場合には、塔頂ベーパとリボイラの加熱源の温度幅(すなわち、蒸気圧縮機において上昇させるべき温度幅)が大きくなり、蒸気圧縮機のCOPが低下して、十分な省エネルギー効果を得ることが困難になるが、本発明にかかる蒸留装置の場合、すなわち、熱回収ヒータで発生した蒸気と、リボイラで加熱源として用いられた圧縮蒸気が凝縮した凝縮液を膨張機構で発生させた蒸気とを蒸気圧縮機に供給して圧縮し、昇温させてリボイラの加熱源として用いるようにした本発明の蒸留装置の場合には、効率よく熱エネルギーを回収、利用して、優れた省エネルギー性を確保することが可能になる。
また、本発明の蒸留装置においては、原料液に含まれる高沸点成分の濃度が80wt%以上である場合、より効率よく熱エネルギーを回収、利用することが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態にかかる蒸留装置の構成を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0028】
なお、本実施形態では、低沸点成分であるプロパン2wt%、高沸点成分であるベンゼンを98wt%含有する原料液を蒸留してプロパンとベンゼンに分離するための蒸留装置100を例にとって説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態にかかる蒸留装置100は、大気圧下における沸点が-42℃の低沸点成分であるプロパン2wt%と、大気圧下における沸点が80.1℃の高沸点成分であるベンゼン98wt%を含有する原料液の蒸留を行う蒸留塔1と、蒸留塔1の塔底液を再加熱するリボイラ2を備えている。なお、本実施形態では、蒸留塔1として、泡鐘塔が用いられている。
【0030】
蒸留装置100では、リボイラ2として、液膜降下式の熱交換器が用いられている。
【0031】
そして、本実施形態にかかる蒸留装置100は、蒸留塔1の塔底液(缶出液)から熱回収を行うための熱回収ヒータ6を備えている。
【0032】
熱回収ヒータ6は、熱回収ヒータ用循環ポンプ5により循環供給される循環水(作動媒体)と、蒸留塔1の塔底液とを熱交換させることにより、塔底液が有する熱を回収するとともに、循環水を蒸発させて蒸気圧縮機7に供給される水蒸気を発生させることができるように構成されている。
【0033】
なお、本実施形態では、熱回収ヒータ6として、液膜降下式の熱交換器が用いられている。
【0034】
さらに詳しく説明すると、熱回収ヒータ6では、蒸留塔1の塔底液(缶出液)(163℃)との熱交換により加熱された循環水(作動媒体)の一部が蒸発し、所定の温度の水蒸気(本実施形態では133.5℃の水蒸気)が発生する。
【0035】
なお、熱回収ヒータ6に供給された163℃の塔底液(缶出液)は、熱回収ヒータ6で循環水の加熱に用いられて138.5℃まで温度が低下する。
【0036】
熱回収ヒータ6における循環水(作動媒体)は、熱回収ヒータ6の上部に供給され、熱回収ヒータ6のチューブ側を流下した後、熱回収ヒータ用循環ポンプ5により熱回収ヒータ6の上部に再び供給されることにより、熱回収ヒータ6を循環するように構成されている。
【0037】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100は、蒸気圧縮機7からリボイラ2に供給された圧縮蒸気がリボイラ2で蒸留塔1の塔底液の再加熱に用いられることにより凝縮した凝縮水の一部を蒸発させて、蒸気圧縮機7に供給される水蒸気を発生させるとともに、蒸発しなかった凝縮水を熱回収ヒータ6に戻すように構成された膨張機構10を備えている。
【0038】
なお、熱回収ヒータ6で発生させた水蒸気はセパレータ4を経て、蒸気圧縮機7に供給されるように構成されている。
【0039】
さらに詳しく説明すると、膨張機構10は、圧縮蒸気がリボイラ2で蒸留塔1の塔底液の再加熱に用いられることにより凝縮した凝縮水を断熱膨張させることにより、その一部を蒸発させる膨張弁9と、膨張弁9を通過して蒸発した水蒸気と、蒸発しなかった凝縮水とを分離するセパレータ4とを備えている。
【0040】
そして、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、膨張機構10を構成する膨張弁9を経て蒸発させた水蒸気と、上述の熱回収ヒータ6で蒸発させた水蒸気の両方をセパレータ4に導き、含まれている水(水滴)を分離した後の水蒸気(本実施形態では温度が133.5℃の水蒸気)を、蒸気圧縮機7に供給するようにしている。
【0041】
また、蒸気圧縮機7は、セパレータ4から供給される水蒸気(本実施形態では133.5℃の水蒸気)を圧縮して温度レベルを上昇させ、温度が110℃以上200℃未満(本実施形態では167℃)で、かつセパレータ4から送られる水蒸気(133.5℃)よりも温度が5℃以上95℃以下の範囲で高い(本実施形態では167℃-133.5℃=33.5℃高い)圧縮蒸気として、リボイラ2に供給することができるように構成されている。
【0042】
蒸気圧縮機7としては、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機が用いられている。本実施形態の蒸留装置100では、上述のように蒸気圧縮機7における昇温幅が33.5℃であり、蒸気圧縮機7での圧縮度を著しく大きくする必要がなくなるため、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機を用いることが可能になり、設備コストの増大を抑制することができる。
【0043】
また、上述のように本実施形態にかかる蒸留装置100では、蒸気圧縮機7の負荷が過度に大きくなることがないので、意図するような省エネルギー効果を得ることが可能になる。
【0044】
また、蒸留装置100では、蒸留塔1の塔頂から取り出される塔頂ベーパを冷却するコンデンサ8を備えている。コンデンサ8としては、多管型熱交換器が用いられている。
【0045】
コンデンサ8において蒸留塔1の塔頂ベーパが凝縮した、プロパンを主成分とする凝縮液の一部は、還流路を経て、蒸留塔1の還流液として蒸留塔1の塔頂に還流されるように構成されている。
【0046】
また、蒸留塔1の塔頂に還流されなかったプロパンを主成分とする凝縮液(プロパン濃度99.99wt%)は、留出液として系外に取り出される。
【0047】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、図1には示していないが、留出液排出ライン11に、系内の圧力を調整するための圧力調整弁が配設されており、系内を所定の圧力(本実施形態では0.63MPa)に維持して蒸留操作を行うことができるように構成されている。
【0048】
したがって、プロパンを主成分とする留出液は、加圧下で、液体(留出液)として回収されることになる。ただし、圧力を調整して(例えば常圧に戻して)、留出液を気体として系外に取り出すように構成することも可能である。
【0049】
なお、本実施形態にかかる蒸留装置100では、蒸留の対象となる原料液の低沸点成分がプロパンである場合を例にとって説明しているが、本発明において低沸点成分は、沸点が常温より高く、常圧下で液体として存在する物質(例えばメタノールなど)であってもよく、また、沸点が常温より低くて、常圧下で気体として存在する物質(例えばブタン、プロパンなど)であってもよい。
【0050】
また、図1には示していないが、本実施形態の蒸留装置100は、0.63MPaの加圧状態となるように圧力が調整されている蒸留装置100の系内に原料液を供給することができる原料液供給ポンプを備えている。
【0051】
ただし、原料液が0.63MPa以上の加圧下で操作されている前工程から供給されるような場合には、原料液供給ポンプを備えていない構成とすることも可能である。
【0052】
上述のように構成された本実施形態にかかる蒸留装置100においては、高沸点成分であるベンゼンを98wt%、低沸点成分であるプロパンを2wt%含有する、温度が150℃の原料液が、50000kg/hの割合で蒸留塔1に供給される。
【0053】
そして、蒸留塔1の塔底液の一部は、缶出液ポンプ3により熱回収ヒータ6に送られて熱回収された後、高沸点成分であるベンゼンを99.9999wt%、低沸点成分であるプロパンを0.0001wt%含有する、温度が138.5℃の缶出液として49000kg/hの割合で回収される。
【0054】
また、コンデンサ8で凝縮した凝縮液のうち、蒸留塔1に還流されなかった凝縮液が、温度15.4℃、圧力0.63MPaの留出液として、1000kg/hの割合で回収される。留出液は、高沸点成分であるベンゼン0.01wt%と、低沸点成分であるプロパン99.99wt%とを含有している。
なお、圧力を常圧に戻すことにより、上記留出液を気体として回収することも可能であることは上述の通りである。
【0055】
以下に、本実施形態にかかる蒸留装置100の省エネルギー効果について説明する。
上述したように、本実施形態にかかる蒸留装置100においては、その設計条件を以下の通りとしている。
【0056】
(1)設計条件
(1-1)原料液組成
高沸点成分:ベンゼン98wt%
低沸点成分:プロパン2wt%
(1-2)原料液供給量:50000kg/h
(1-3)操作圧(系内圧力):0.63MPa
(1-4)蒸留塔への原料液供給温度:150℃
(1-5)留出液(蒸留塔の塔頂ベーパの凝縮液)組成
低沸点成分:プロパン99.99wt%
高沸点成分:ベンゼン0.01wt%
(1-6)缶出液(蒸留塔塔底液)組成
高沸点成分:ベンゼン99.9999wt%
低沸点成分:プロパン0.0001wt%
【0057】
なお、上記の設計条件では、蒸留塔1の塔底液(缶出液)と、熱回収ヒータ6の循環水との間の交換熱量は986kWとなる。
また、リボイラ2における、蒸気圧縮機7で圧縮された167℃の圧縮蒸気と、蒸留塔1の163℃の塔底液の間の交換熱量は1100kWとなる。
さらに、蒸気圧縮機7の使用電力は124.3kWとなる。
【0058】
本実施形態にかかる蒸留装置100の省エネルギー性について検討するにあたっては、その省エネルギー効果を確認するため、ボイラで発生させる蒸気として用いる「従来の蒸気式の蒸留装置」と、上述の「本実施形態にかかる蒸留装置100」のそれぞれにおける消費エネルギーを求めた。なお、消費エネルギーは、1次エネルギー換算で計算し、評価した。
【0059】
(2)エネルギー消費量
(2-1)従来の蒸気式の蒸留装置のエネルギー消費量
・蒸気加熱量:1100kW
・1次エネルギー:1100kW
(2-2)本発明の実施形態にかかる蒸留装置100のエネルギー消費量
・蒸気圧縮機電力:124.3kW
・1次エネルギー(1次エネルギー換算係数:2.57として換算)
1次エネルギー=124.3kW×2.57=319.5kW
【0060】
したがって、1次エネルギー削減率は、
(1100-319.5)/1100×100=70.9%
となり、「本実施形態にかかる蒸留装置100」によれば、消費エネルギーを「従来の蒸気式の蒸留装置」の消費エネルギーの3割にまで削減できることがわかる。
【0061】
本実施形態の蒸留装置100の場合のように、蒸気圧縮機7で圧縮、昇温され、リボイラ2に供給される圧縮蒸気の温度(すなわち、熱の利用先である加熱源の温度)が167℃というような高い温度である場合、通常のヒートポンプ式の蒸留装置では対応することが困難であるが、本発明の蒸留装置では対応が可能であり、上述のような省エネルギー効果を得ることができる。
【0062】
なお、本実施形態の蒸留装置100では、蒸留塔1として、泡鐘塔を採用しているが、蒸留塔1の構成に特別の制約はなく、不規則充填物を使用した充填塔など、他の型式の蒸留塔を採用することも可能である。
【0063】
また、本実施形態の蒸留装置100では、リボイラ2および熱回収ヒータ6に、液膜降下式の熱交換器を用いているが、本発明の蒸留装置において、リボイラ2および熱回収ヒータ6の構成に特別の制約はなく、他の形式の熱交換器を用いることも可能である。
【0064】
また、本実施形態にかかる蒸留装置100では、コンデンサ8に、多管型熱交換器を用いているが、本発明の蒸留装置においては、コンデンサ8の構成に特別の制約はなく、他の形式の熱交換器を用いることも可能である。
【0065】
さらに、本実施形態の蒸留装置100では、蒸気圧縮機7として、汎用のスクリュー式蒸気圧縮機を採用して、設備コストの増大を抑制するようにしているが、蒸気圧縮機として他の型式の蒸気圧縮機を用いることも可能である。
【0066】
また、上記実施形態では、原料液が、高沸点成分としてベンゼン、低沸点成分としてプロパンを含むものである場合を例にとって説明したが、原料液はこれに限定されるものではなく、高沸点成分がトルエン、キシレンなどであり、低沸点成分はブタン、プロピレンなどであるような場合にも本発明を適用することが可能である。
【0067】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 蒸留塔
2 リボイラ
3 缶出液ポンプ
4 セパレータ
5 循環ポンプ
6 熱回収ヒータ
7 蒸気圧縮機
8 コンデンサ
9 膨張弁
10 膨張機構
11 留出液排出ライン
100 蒸留装置
図1