(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】作業機械のメンテナンスシステム
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240619BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2021031334
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】京増 司
(72)【発明者】
【氏名】青野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】ヴティア ヴォン
(72)【発明者】
【氏名】柴森 一浩
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160600(JP,A)
【文献】特開2002-111745(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に搭載された制御システムと、
前記作業機械の保守作業を行う際に前記制御システムと通信接続される保守ツールとを備え、
前記制御システムは、前記作業機械を制御するコントローラと、前記保守ツールから受信した通信データを前記コントローラへ転送可能な通信制御装置とを有する作業機械のメンテナンスシステムにおいて、
前記通信制御装置は、
前記作業機械の状態に基づいて、前記通信データで指定された保守作業が実施可能か否かを判定し、
前記保守作業が実施可能と判定した場合は、前記通信データを前記コントローラへ転送し、
前記保守作業が実施不可と判定した場合は、前記通信データを破棄
し、
前記通信制御装置は、保守作業後に前記作業機械の乗員に対して保守作業内容の確認を促す動作モードである確認モードを備える
ことを特徴とする作業機械のメンテナンスシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械のメンテナンスシステムにおいて、
前記通信制御装置は、前記コントローラに入力される信号を介して前記作業機械の状態を取得する
ことを特徴とする作業機械のメンテナンスシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械のメンテナンスシステムにおいて、
前記通信制御装置は、保守作業が行われた後に、保守作業内容および保守作業前に確認した前記作業機械の状態を記録する
ことを特徴とする作業機械のメンテナンスシステム。
【請求項4】
請求項
1に記載の作業機械のメンテナンスシステムにおいて、
前記作業機械に搭載されたモニタを備え、
前記通信制御装置は、前記確認モードにおいて、前記保守作業内容を前記モニタに出力する
ことを特徴とする作業機械のメンテナンスシステム。
【請求項5】
請求項
1に記載の作業機械のメンテナンスシステムにおいて、
前記通信制御装置は、前記確認モードにおいて、前記コントローラに前記作業機械の出力制限を指示する
ことを特徴とする作業機械のメンテナンスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械のメンテナンスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のショベルなどの作業機械にはエンジンや車体の制御を行うコントローラが搭載されている。作業機械の保守作業(メンテナンス)においては,コントローラと通信を行う保守ツールを車体に接続し、保守ツールからコントローラに指示を出し、コントローラの自己診断結果やセンサ計測値などのデータを読み出したり、機械操作時の挙動を調整するためコントローラに保存されている制御定数を変更したり、または通常の制御とは異なる保守作業用の特殊な動作をコントローラに指示を出し行わせたりする。
【0003】
保守ツールによる作業時には、機械側のコントローラが必要な状態になっていることや、保守作業の実施に必要な機械状態になっていることや、保守作業を実施しても安全が確保できる状況であることを、保守作業員が確認を行っている。
【0004】
一方、コントローラと保守ツール間の通信を広域通信を介することで、保守員が機械が設置されている現地に行かなくても、遠隔地から保守作業を行ったり、乗員が機械に感じた不調の問い合わせに応じて遠隔地から機械状態を確認したりと効率的に保守作業を実施できるメリットがある。
【0005】
特許文献1には、保守を受ける個別の計算機のモードに応じて、通信経路にあるファイアウォールで通信を遮断することにより、保守モードでない計算機に意図せず保守指示が送信されることを防いでいる。
【0006】
特許文献2には、遠隔から建設機械をロックアウトおよびタグアウトする手順が定められた建設機械が開示されている。特許文献2に記載の建設機械は、遠隔からのコマンドを受けると乗員に駐車位置へ移動することを要求し、乗員が安全な位置に停車させたことを伝えると、遠隔からロックアウト信号を送信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-339567号公報
【文献】米国特許9135813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の遠隔保守サービスの提供方法では、保守サービスを受ける計算機側が保守用のモードを備えていることが必要である。作業機械のコントローラには、必ずしも保守モードを備えていないものが含まれており、またコントローラの保守モードとは別に、作業機械として安全に保守作業ができることの確認が必要である。
【0009】
一方で、特許文献2に記載の遠隔からのロックアウトおよびタグアウトに対応した建設機械では、ロックアウトおよびタグアウトが許可される状況や機械構成が限定的であり、多様な機器構成や使われ方をする作業機械の用途に対応しきれない面がある。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業機械が遠隔地にある場合でも、作業機械の周囲の安全を確保しかつ作業機械の効率性を維持しつつ保守作業を行うことが可能な作業機械のメンテナンスシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、作業機械に搭載された制御システムと、前記作業機械の保守作業を行う際に前記制御システムと通信接続される保守ツールとを備え、前記制御システムは、前記作業機械を制御するコントローラと、前記保守ツールから受信した通信データを前記コントローラへ転送可能な通信制御装置とを有する作業機械のメンテナンスシステムにおいて、前記通信制御装置は、前記作業機械の状態に基づいて、前記通信データで指定された保守作業が実施可能か否かを判定し、前記保守作業が実施可能と判定した場合は、前記通信データを前記コントローラへ転送し、前記保守作業が実施不可と判定した場合は、前記通信データを破棄し、前記通信制御装置は、保守作業後に前記作業機械の乗員に対して保守作業内容の確認を促す動作モードである確認モードを備えるものとする。
【0012】
以上のように構成した本発明によれば、保守ツールから受信した通信データで指定された保守作業が実施可能な場合に限り、前記通信データが作業機械を制御するコントローラに転送される。これにより、作業機械が遠隔地にある場合でも、作業機械の周囲の安全を確保しかつ作業機械の効率性を維持しつつ保守作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業機械が遠隔地にある場合でも、作業機械の周囲の安全を確保しかつ作業機械の効率性を維持しつつ保守作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施例における油圧ショベルの斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施例における油圧ショベルに搭載された制御システムの構成図である。
【
図3】本発明の第1の実施例における通信転送処理部の機能ブロック図である。
【
図4】本発明の第1の実施例における通信転送処理部の処理内容を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施例における保守作業ルール管理部に定義されている保守作業通信データテーブルの一例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施例における保守作業ルール管理部に定義されている作業時確認項目テーブルの一例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施例における安全確認状況把握部の機能ブロック図である。
【
図8】本発明の第1の実施例における保守作業時機械状態確認ルールに定義されている確認項目と確認方法との対応表である。
【
図9】本発明の第1の実施例における安全確認状況把握部の処理内容を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第1の実施例における保守モード管理部の処理内容を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第2の実施例における油圧ショベルに搭載された制御システムの構成図である。
【
図12】本発明の第2の実施例における保守作業安全確認記録部の記録内容の一例を示す図である。
【
図13】本発明の第3の実施例における油圧ショベルに搭載された制御システムの構成図である。
【
図14】本発明の第2の実施例における保守作業ルール管理部に定義されている作業時確認項目テーブルの一例を示す図である。
【
図15】本発明の第3の実施例における通信制御装置の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る作業機械のメンテナンスシステムについて、作業機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施例における油圧ショベルの斜視図である。油圧ショベル20は、下部走行体21と、上部旋回体22と、作業装置23とを備えている。下部走行体21は左右のクローラ式走行装置を有し、左右の走行油圧モータ24(左側のみ図示)により駆動される。上部旋回体22は下部走行体21上に旋回可能に搭載され、旋回油圧モータ25により旋回駆動される。上部旋回体22には、原動機としてのエンジン26、エンジン26により駆動される油圧ポンプ装置27、後述するコントロールバルブ28等が配置されている。
【0017】
作業装置23は、上部旋回体22の前部に上下方向に回動可能に取り付けられている。作業装置23は、相互に回動可能に連結された被駆動部材であるブーム29、アーム30、およびバケット31を有する。ブーム29は上部旋回体22の前側に上下方向に回動可能に連結されており、アーム30はブーム29の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結されており、バケット31はアーム30の先端部に上下または前後方向に回動可能に連結されている。ブーム29はブームシリンダ32の伸縮により上部旋回体22に対して上下方向に回動し、アーム30はアームシリンダ33の伸縮によりブーム29に対して上下または前後方向に回動し、バケット31はバケットシリンダ34の伸縮によりアーム30に対して上下または前後方向に回動する。
【0018】
上部旋回体22には運転室40が設けられ、運転室40内には走行左レバー41、走行右レバー42、操作左レバー43、操作右レバー44等が配置されている。走行左レバー41および走行右レバー42は、前後方向のレバー操作に応じて左右のクローラ式走行装置の動作を指示する信号を出力する。操作左レバー43は、例えば前後方向のレバー操作に応じて上部旋回体22の動作を指示する信号を出力し、例えば左右方向のレバー操作に応じてアーム30の動作を指示する信号を出力する。操作右レバー44は、例えば前後方向のレバー操作に応じてブーム29の動作を指示する信号を出力し、例えば左右方向のレバー操作に応じてバケット31の動作を指示する信号を出力する。コントロールバルブ28は、走行左レバー41、走行右レバー42、操作左レバー43、および操作右レバー44からの操作信号に応じて、油圧ポンプ装置27から左右の走行油圧モータ24、旋回油圧モータ25、ブームシリンダ32、アームシリンダ33、およびバケットシリンダ34に供給される圧油の流れ(方向および流量)を制御する。
【0019】
図2は、油圧ショベル20に搭載された制御システムの構成図である。制御システム50は、車体側ネットワーク51を介して相互に通信可能なモニタコントローラ52、エンジンコントローラ53、油圧システムコントローラ54、および通信制御装置1を備える。制御システム50および保守ツール10は、本実施例における作業機械のメンテナンスシステムを構成する。
【0020】
モニタコントローラ52は、油圧ショベル20の動作に関わる様々な情報をモニタ60に表示させるとともに、乗員によるスイッチ61の操作の読み取りを行う。油圧システムコントローラ54は、操作レバー41~44(
図1に示す)の操作に応じて油圧ポンプ装置27およびコントロールバルブ28を制御する。また、油圧システムコントローラ54は、シャットオフレバー62の状態をシャットオフレバースイッチ63を介して読み取る。シャットオフレバー62が運転室40に設けられており、乗員によりロック位置に操作されると、油圧ショベル20の動作が不能となり、操作レバー41~44(
図1に示す)を操作しても油圧ショベル20は動作しなくなる。
【0021】
通信制御装置1は、車外側ネットワーク55と介して保守ツール10と接続され、保守ツール10とコントローラ52~54との間の通信を可能とする。通信制御装置1は、車外側ネットワーク55と車体側ネットワーク51との間で通信データを転送する通信転送処理部3と、保守ツール10からの要求に応じて機械が保守作業を行える状態の場合に保守モードに遷移するか否かを判断する保守モード管理部2と、保守ツール10からの通信データに対してどのような機械状態の確認が必要かのルールを管理する保守作業ルール管理部4と、機械状態確認項目に対して制御システム50が条件を満たしているかを判定する安全確認状況把握部5とを有する。
【0022】
図3は、通信転送処理部3の機能ブロック図である。通信転送処理部3は、車外側ネットワーク55との間で通信データを送受信する車外側送受信部3aと、車体側ネットワーク51との間で通信データを送受信する車体側送受信部3bと、車外側送受信部3aが受信した通信データを車体側送受信部3bから送信するか否かを判断する通信可否判断部3cとで構成される。
【0023】
図4は、通信転送処理部3の処理内容を示すフローチャートである。以下、当該フローを構成する各ステップについて順に説明する。
【0024】
通信転送処理部3は、車外側送受信部3aが通信データを受信すると(ステップS301)、その通信データが保守作業通信データテーブル4aに定義されているか否かを判定する(ステップS302)。車外側送受信部3aが受信した通信データが保守作業通信データテーブル4aで定義された通信ID、送信元、送信先、通信内容の組み合わせの何れにも一致しない未知の通信データの場合は、ステップS302の判定結果がNOとなり、通信データを破棄し(ステップS306)、当該フローを終了する。
【0025】
車外側送受信部3aが受信した通信データが保守作業通信データテーブル4aで定義された通信ID、送信元、送信先、通信内容の何れかの組み合わせに一致する通信データの場合は、ステップS302の判定結果がYESとなり、通信データで指定された保守作業が許可されるか保守モード管理部2に問い合わせ(ステップS303)、保守モード管理部2により保守作業が許可されたか否かを判定する(ステップS304)。
【0026】
ステップS304の判定結果がNOの場合は、通信データを破棄し(ステップS306)、当該フローを終了する。ステップS304の判定結果がYESの場合は、通信データを車体側送受信部3bから車体側ネットワーク51へ送信し(ステップS305)、当該フローを終了する。
【0027】
図5は、保守作業ルール管理部4に定義されている保守作業通信データテーブル4aの一例を示す図である。
図5に示す例では、通信データは、通信データヘッダに含まれる通信ID、通信データの送信元アドレス、および通信データの送信先アドレス、ならびに通信内容で識別される。また、各通信データに対して、保守ツール10が制御システム50に直接または遠隔から接続されているか(接続形態)、保守作業の対象箇所(作業箇所)、および保守作業の内容(作業内容)が定義されている。
図5では、通信データで指定される保守作業として、油圧ショベルの自己診断の履歴を読み出す作業(自己診断履歴読出し)、油圧システムの制御パラメータを変更する作業(油圧制御パラメータ変更)、モニタ60の表示項目を変更する作業(表示項目変更)を例示している。
【0028】
図6は、保守作業ルール管理部4に定義されている作業時確認項目テーブルの一例を示す図である。作業時確認項目テーブル4bには、保守作業通信データテーブル4aに定義されている各作業内容を実施する際に油圧ショベル20の状態で確認すべき項目(確認項目)が定義されている。
図6では、確認項目として、対象コントローラの状態(コントローラ状態)、エンジン26の状態(エンジン状態)、機械がロックされていること(機械ロック)、機械の位置および姿勢の確認がなされたこと(機械位置・姿勢確認)、機械の周囲に人や物が存在しないことの確認がなされたこと(周囲安全確認)を例示している。
図6に示すように、自己診断履歴読出しを実施する際には、保守ツール10の接続形態(直接または遠隔)を問わず、対象コントローラの電源がONであること(コントローラ電源ON)およびエンジン26が停止していること(エンジン停止)を確認する必要がある。油圧制御パラメータ変更を実施する際には、保守ツール10の接続形態が「直接」の場合は、コントローラ電源ON、エンジン26が稼働していること(エンジン稼働)、機械位置・姿勢確認、および周囲安全確認を確認する必要があり、保守ツール10の接続形態が「遠隔」の場合は、それらに加えて、機械ロックを確認する必要がある。表示項目変更を実施する際には、保守ツール10の接続形態が「直接」の場合は、コントローラ電源ONを確認する必要があり、保守ツール10の接続形態が「遠隔」の場合は、それに加えて、機械ロックを確認する必要がある。
【0029】
図7は、安全確認状況把握部5の機能ブロック図である。安全確認状況把握部5は、確認項目の確認方法を定義する保守作業時機械状態確認ルール5aと、保守作業時機械状態確認ルール5aに基づいて機械状態を確認する機械状態確認部5bとで構成される。
【0030】
図8は、保守作業時機械状態確認ルール5aに定義されている確認項目と確認方法との対応表である。
図8に示す例では、各確認項目の確認方法として、制御システム50において確認する信号(確認信号)、確認信号が満たすべき条件(成立条件)、および確認時に制御システム50に要求する動作(確認時動作)が定義されている。
図8に示すように、コントローラ電源ONは、対象コントローラのモード信号が“電源ON”を示すこと(成立条件)をもって確認する。エンジン停止は、エンジン回転数信号が停止時回転数を示すこと(成立条件)をもって確認する。エンジン稼働は、エンジン回転数信号が有効回転数を示すこと(成立条件)をもって確認する。機械ロックは、シャットオフレバースイッチ信号が“シャットオフ位置”を示すこと(成立条件)をもって確認する。機械位置・姿勢確認は、機械位置・姿勢確認を促すモニタメッセージ(機械位置・姿勢確認メッセージ)に対するスイッチ入力信号が“確認ボタンが押された”を示すこと(成立条件)をもって確認する。周囲安全確認は、周囲状況の確認を促すモニタメッセージ(周囲状況の確認メッセージ)に対するスイッチ入力信号が“確認ボタンが押された”を示すこと(成立条件)をもって確認する。
【0031】
図9は、安全確認状況把握部5の処理内容を示すフローチャートである。以下、当該フローを構成する各ステップについて順に説明する。
【0032】
安全確認状況把握部5は、保守モード管理部2から問い合わせを受けた確認項目の確認方法(確認信号、成立条件、確認時動作)を保守作業時機械状態確認ルール5aから読み出し(ステップS501)、確認時動作が定義されているか否かを判定する(ステップS502)。
【0033】
ステップS502の判定結果がNOであり保守作業時機械状態確認ルール5a(
図8に示す)から読み出した確認時動作が未定義の場合は、その時点での油圧ショベル20の状態における確認信号が成立条件を満たしているか否かを判定する(ステップS504)。ステップS502の判定結果がYESであり保守作業時機械状態確認ルール5aにおいて確認時動作が定義されている場合は、対象コントローラに確認時動作を要求し(S503)、確認時動作を実施した油圧ショベル20の状態における確認信号が成立条件を満たしているか否かを判定すべく、ステップS504へ移行する。
【0034】
ステップS504の判定結果がYESの場合は、保守モード管理部2に確認項目の内容を確認できた旨の応答を返し(ステップS505)、当該フローを終了する。ステップS504の判定結果がNOの場合は、保守モード管理部2に確認項目の内容を確認できなかった旨の応答を返し(ステップS506)、当該フローを終了する。
【0035】
図10は、保守モード管理部2の処理内容を示すフローチャートである。以下、当該フローを構成する各ステップについて順に説明する。
【0036】
保守モード管理部2は、通信転送処理部3が受信した通信データに対応する作業内容を保守作業通信データテーブル4aから読み出し(ステップS201)、作業内容に対応する確認項目を作業時確認項目テーブル4bから読み出し(ステップS202)、すべての確認項目が終了したか否かを判定する(ステップS203)。ステップS203の判定結果がYESの場合は、通信転送処理部3が受信した通信データに対応する全ての確認項目が終了したことから当該通信データで指定された保守作業が実施可能であると判定し、通信転送処理部3に保守作業を許可する旨の応答を返し(ステップS207)、当該フローを終了する。
【0037】
ステップS203の判定結果がNOの場合は、安全確認状況把握部5に確認項目の問い合わせを行い(ステップS204)、確認項目に対応する成立条件を満たしているか否かを判定する(ステップS205)。ステップS205の判定結果がYESの場合は、ステップS203に戻る。ステップS205の判定結果がNOの場合は、通信転送処理部3が受信した通信データに対応する確認項目の少なくとも一部が終了していないことから当該通信データで指定された保守作業が実施不可であると判定し、通信転送処理部3に保守作業を許可しない旨の応答を返し(ステップS203)、当該フローを終了する。
【0038】
<効果>
本実施例では、油圧ショベル20に搭載された制御システム50と、制御システム50と通信可能な保守ツール10とを備え、制御システム50は、油圧ショベル20を制御するコントローラ52~54と、保守ツール10から受信した通信データをコントローラ52~54へ転送可能な通信制御装置1とを有する作業機械のメンテナンスシステムにおいて、通信制御装置1は、油圧ショベル20の状態に基づいて、前記通信データで指定された保守作業(自己診断履歴読出し、油圧制御パラメータ変更、表示項目変更)が実施可能か否かを判定し、前記保守作業が実施可能と判定した場合は、前記通信データをコントローラ52~54へ転送し、前記保守作業が実施不可と判定した場合は、前記通信データを破棄する。なお、本実施例における通信制御装置1は、コントローラ52~54に入力される信号(モード信号、エンジン回転数信号、シャットオフレバースイッチ信号、スイッチ入力信号)を介して油圧ショベル20の状態を取得している。
【0039】
以上のように構成した本実施例によれば、保守ツール10から受信した通信データで指定された保守作業が実施可能な場合に限り、前記通信データが油圧ショベル20を制御するコントローラ52~54に転送される。これにより、油圧ショベル20が遠隔地にある場合でも、油圧ショベル20の周囲の安全を確保しかつ油圧ショベル20の効率性を維持しつつ保守作業を行うことが可能となる。
【実施例2】
【0040】
本発明の第2の実施例に係る作業機械のメンテナンスシステムについて、第1の実施例との差異点を中心に説明する。
【0041】
図11は、本実施例における油圧ショベル20に搭載された制御システム50の構成図である。本実施例における通信制御装置1は、第1の実施例で説明した構成(
図2に示す)に加え、保守作業安全確認記録部6を備える。保守作業安全確認記録部6は、保守作業前に安全確認状況把握部5が行った確認の内容(確認項目)を記録する。
【0042】
図12は、保守作業安全確認記録部6の記録内容の一例を示す図である。保守作業安全確認記録部6は、保守作業が行われた日時、保守作業時の保守ツール10の接続形態、保守作業の内容(作業内容)、および保守作業前に安全確認状況把握部5が行った確認の内容(確認項目)を記録する。
【0043】
<効果>
本実施例における通信制御装置1は、保守作業が行われた後に、保守作業内容および保守作業前に確認した油圧ショベル20の状態(確認項目)を記録する。
【0044】
以上のように構成した本実施例によれば、保守作業が定められたルールに基づいて行われたか否かを、保守作業後に確認することが可能となる。
【実施例3】
【0045】
本発明の第3の実施例に係る作業機械のメンテナンスシステムついて、第1の実施例との差異点を中心に説明する。
【0046】
図13は、本実施例における油圧ショベル20に搭載された制御システム50の構成図である。本実施例における通信制御装置1は、第1の実施例で説明した構成(
図2に示す)に加え、保守作業後確認モード制御部7を有する。保守作業後確認モード制御部7は、保守作業内容に応じた指示を制御システム50に対して行う。
【0047】
図14は、本実施例における保守作業ルール管理部4に定義されている作業時確認項目テーブルの一例を示す図である。本実施例における作業時確認項目テーブル4bには、第1の実施例で説明した項目(
図6に示す)に加え、保守作業後に油圧ショベル20の乗員に対して保守作業内容の確認を促す動作モードの有無(確認モード)、および確認モード時の油圧ショベル20の出力制限の有無(確認モード時の制限)が定義されている。
【0048】
図15は、本実施例における通信制御装置1の処理内容を示すフローチャートである。以下、当該フローを構成する各ステップについて順に説明する。
【0049】
通信転送処理部3が保守作業終了の通信データを受信すると(ステップS701)、保守モード管理部2は対象の保守作業について作業時確認項目テーブル4bから確認モードの設定を読み出し(ステップS702)、確認モードがあるか否かを判定する(ステップS703)。ステップS703の判定結果がNOの場合は、当該フローを終了する。
【0050】
ステップS703の判定結果がYESの場合は、保守作業後確認モード制御部7はモニタ60に保守作業内容を表示して確認ボタンの操作を要求し(ステップS704)、作業時確認項目テーブル4bで確認モード時の制限があるか否かを判定する(ステップS705)。
【0051】
ステップS705の判定結果がYESの場合は、保守作業後確認モード制御部7は油圧システムコントローラ54とエンジンコントローラ53に油圧ショベル20の出力制限を指示し(ステップS706)、モニタ60の確認ボタンが操作されたか否かを判定する(ステップS707)。
【0052】
ステップS707の判定結果がNOの間は、ステップS707を繰り返し実行する。ステップS707の判定結果がYESの場合は、油圧ショベル20の出力制限を解除して通常モードに復帰し(ステップS708)、当該フローを終了する。
【0053】
<効果>
本実施例における通信制御装置1は、保守作業後に油圧ショベル20の乗員に対して保守作業内容の確認を促す動作モードである確認モードを備える。
【0054】
以上のように構成した本実施例によれば、遠隔からの保守作業で油圧ショベル20の動作に関わる制御パラメータなどが変更された場合に、油圧ショベル20の乗員はその変更内容を確認することができる。これにより、保守作業後の油圧ショベル20の動作が乗員の意図しないものとなることを防止することが可能となる。
【0055】
また、本実施例における通信制御装置1は、前記確認モードにおいて、保守作業内容をモニタ60に出力する。これにより、油圧ショベル20の乗員が保守作業後に保守作業内容を視覚的に確認することが可能となる。
【0056】
また、本実施例における通信制御装置1は、前記確認モードにおいて、エンジンコントローラ53および油圧システムコントローラ54に油圧ショベル20の出力を制限するよう指示する。これにより、油圧ショベル20の乗員が保守作業内容を確認する際に油圧ショベル20が意図せず動作することを防止することが可能となる。
【0057】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…通信制御装置、2…保守モード管理部、3…通信転送処理部、3a…車外側送受信部、3b…車体側送受信部、3c…通信可否判断部、4…保守作業ルール管理部、4a…保守作業通信データテーブル、4b…作業時確認項目テーブル、5…安全確認状況把握部、5a…保守作業時機械状態確認ルール、5b…機械状態確認部、6…保守作業安全確認記録部、7…保守作業後確認モード制御部、10…保守ツール、20…油圧ショベル(作業機械)、21…下部走行体、22…上部旋回体、23…作業装置、24…走行油圧モータ、25…旋回油圧モータ、26…エンジン、27…油圧ポンプ装置、28…コントロールバルブ、29…ブーム、30…アーム、31…バケット、32…ブームシリンダ、33…アームシリンダ、34…バケットシリンダ、40…運転室、41…走行左レバー、42…走行右レバー、43…操作左レバー、44…操作右レバー、50…制御システム、51…車体側ネットワーク、52…モニタコントローラ、53…エンジンコントローラ、54…油圧システムコントローラ、55…車外側ネットワーク、60…モニタ、61…スイッチ、62…シャットオフレバー、63…シャットオフレバースイッチ。