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特許7506625食品容器包装用の遮光紙及びそれを用いた紙カップ容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】食品容器包装用の遮光紙及びそれを用いた紙カップ容器
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/28 20060101AFI20240619BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20240619BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240619BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240619BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240619BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240619BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
D21H21/28
D21H27/00 E
B32B29/00
B32B27/10
B32B27/20 A
B32B7/023
B65D65/40 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021044008
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143477
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】冨森 亮一
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 登茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】桑野 浩
(72)【発明者】
【氏名】横山 健一
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086479(JP,A)
【文献】特開2005-256234(JP,A)
【文献】特開2001-163374(JP,A)
【文献】特開2001-011796(JP,A)
【文献】特開平04-104246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H11/00-27/42
B32B 1/00-43/00
B65D65/00-65/46
D06P 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層と中層と裏層とを有する基紙からなり、前記中層には着色染料を含み、200~660nmの波長領域における光透過率が0.05%未満であり、白色度が80%以上であることを特徴とする食品容器包装用の遮光紙。
【請求項2】
前記着色染料を含む中層の割合が基紙全体の5~25質量%であることを特徴とする請求項1に記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項3】
前記着色染料として黒色染料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項4】
基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダーとを含有する塗工層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の食品容器包装用の遮光紙を用いた紙カップ容器。
【請求項6】
アイスクリーム用である請求項5に記載の紙カップ容器。
【請求項7】
中層が中層のパルプ全量に対して黒色染料を0.1~3.0質量部含むことを特徴とする請求項3に記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項8】
中層が中層のパルプ全量に対して紫色染料と黄色染料を合計で0.1~3.0質量部含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項9】
中層のためのパルプスラリーが、95~100部の広葉樹パルプ(LBKP)及び0~5部の針葉樹パルプ(NBKP)を含むパルプスラリーであることを特徴とする、請求項1~5、7、8に記載のいずれか一つに食品容器包装用の遮光紙。
【請求項10】
表層と裏層のためのパルプスラリーが、85~95部の広葉樹パルプ(LBKP)及び5~15部の針葉樹パルプ(NBKP)を含むパルプスラリーであることを特徴とする、請求項1~5、7~9に記載のいずれか一つに食品容器包装用の遮光紙。
【請求項11】
表層と裏層のための広葉樹パルプ(LBKP)が、白色度が83%以上のLBKPであることを特徴とする、請求項10に記載の食品容器包装用の遮光紙。
【請求項12】
各層のためのパルプのフリーネス(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠)が300ml以上550ml以下である、請求項1~5、7~11に記載のいずれか一つに食品容器包装用の遮光紙。
【請求項13】
坪量が150~500g/m であることを特徴とする、請求項1~5、7~12に記載のいずれか一つに食品容器包装用の遮光紙。
【請求項14】
中層の坪量の割合が基紙全体の5~25質量%であることを特徴とする、請求項1~5、7~13に記載のいずれか一つに食品容器包装用の遮光紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器包装用の遮光紙に関する。また、遮光紙を用いた紙カップ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品の容器包装用の紙として遮光紙が用いられている。例えば、清酒や緑茶、ヨーグルト、アイスクリームなどの食品は、光の影響を受けやすく、褪色や品質劣化を引き起こすため、これらの包装には遮光紙が用いられてきた。このような遮光紙として、特許文献1には、紙基材の間に遮光層が形成された遮光紙であって、紙基材、黒色顔料と熱可塑性樹脂とを含有した黒色層、白色顔料と熱可塑性樹脂とを含有した白色層、熱可塑性樹脂を含有する樹脂層、耐油度が1以上である耐油性紙基材の順にこれらの層が積層されていることを特徴とする遮光紙が開示されている。また、特許文献2には、3層以上に積層された紙からなり、そのうちの中間層が、カーボンブラックとカチオン性アミン含有定着剤とを含んだ遮光層からなる高遮光性を有する容器用紙材が開示されている。また、特許文献3には、3層以上に積層された紙からなり、そのうち中間層が顔料を0.1g/m以上0.4g/m未満含み、該中間層のCD方向の列断長が3.0km以下、かつ該中間層の不透明度が99%以上である遮光性紙製包材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-188982号公報
【文献】特開2001-11796号公報
【文献】特開2015-86479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンブラックなどの黒色顔料を紙層中に含有させて遮光性を付与した遮光性包装材は、遮光性を保持させるために一定量の黒色顔料を含有させる必要があることから遮光層が濃灰色となり、遮光層の地黒感が紙の表面に出ることで白色度が劣り意匠性を損ねるという問題があった。また、食品の劣化を促すと言われている200~660nmの波長領域における光の遮光性を必ずしも満足するものではなかった。特に、光劣化の影響が大きい成分としてクロロフィルaとビタミンBがあるが、これらは紫外光の他、前者は430nmと660nm、後者は480nmの波長の光による影響が大きいことが知られている。よって、これらを含む200~660nmでの分光透過率を極小とすることが容器包装用の遮光紙には求められる。
【0005】
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、白色度が高く、200~660nmの波長領域における光に対する高度な遮光性を有する食品容器包装用の遮光紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、食品容器包装用の遮光紙について鋭意検討を重ねた結果、次の構成によって、課題を達成できることを見出した。すなわち、本発明に係る食品容器包装用の遮光紙は、少なくとも表層と中層と裏層とを有する基紙からなり、前記中層には着色染料を含み、200~660nmの波長領域における光透過率が0.05%未満であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の食品容器包装用の遮光紙においては、前記着色染料を含む中層の割合が基紙全体の5~25質量%であってもよい。
【0008】
また、本発明の食品容器包装用の遮光紙においては、前記着色染料として黒色染料を含んでもよい。
【0009】
また、本発明の食品容器包装用の遮光紙においては、基紙の少なくとも一方の面に、顔料とバインダーとを含有する塗工層を有していてもよい。
【0010】
また、本発明の食品容器包装用の遮光紙は、紙カップ容器に用いることが好ましく、アイスクリーム用の紙カップ容器に用いることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食品容器包装用の遮光紙は、遮光層の地黒感が紙の表面にほとんど出ないことから白色度が高く、また、食品の劣化を促すと言われている200~660nmの波長領域における光に対する高度な遮光性を有することから、意匠性と食品の保存性に優れた食品容器包装を得ることができる。本発明の食品容器包装用の遮光紙は、紙カップとして好適に用いることができ、特にアイスクリーム用の紙カップ容器として用いることができる。当該紙カップ容器であれば、遮光性に優れ食品の風味を保ったまま長期間保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0013】
本発明に係る遮光紙は、少なくとも表層と中層と裏層とを有する基紙からなる。ここで中層とは、表層と裏層との間に位置する層である。表層と裏層の構成は、特に限定するものではないが、白色度と不透明度の高い層とすることが好ましい。各層とも単層又は複数の層で構成してもよいが、遮光紙の最外層となる紙層は、特に白色度と清浄度の高い層とすることが好ましい。また、中層を複数の層とする場合には、中層のいずれかの一層のみに着色染料を含ませて遮光性を保持させてもよいが、2以上の層に着色染料を含ませて遮光性を保持させてもよい。
【0014】
基紙の各層に用いるパルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、機械パルプ(GP、TMP、BCTMP)、脱墨パルプ(DIP)などの既知のパルプを用いることができる。また、必要に応じて、木材パルプ以外に、非木材パルプ、合成パルプ、合成繊維などを適宜用いてもよい。なお、高い白色度と清浄度を得るためにはLBKPやNBKPを用いることが好ましい。機械パルプは褪色しやすいことから表層と裏層には配合せず、中層に配合することが好ましい。脱墨パルプ(DIP)については上質系古紙を原料とするものであれば表層又は裏層に配合してもよいが、中質系古紙を原料とする場合は表層と裏層には配合せず、中層に配合することが好ましい。中層用のパルプスラリーとして95~100部の広葉樹パルプ(LBKP)及び0~5部の針葉樹パルプ(NBKP)を含むパルプスラリー、さらに好ましくは100部の広葉樹パルプ(LBKP)からなるパルプスラリーを用いることが好ましい。本発明においては、表層及び裏層用のパルプスラリーとして、少量の針葉樹パルプを混合することが好ましく、85~100部、好ましくは85~95部の広葉樹パルプ(LBKP)及び0~15部、好ましくは5~15部の針葉樹パルプ(NBKP)を含むパルプスラリーを用いることが好ましい。
【0015】
基紙の各層に用いるパルプのフリーネスは、いずれも300ml以上550ml以下であることが好ましい。より好ましくは350ml以上500ml以下である。300ml未満では、基紙が緻密となって紙質が硬くなりやすいことから、例えばカップ容器に成形する際に割れが生じる可能性がある。また、550mlを超えると繊維間結合が弱くなり、引張強度や層間剥離強度などの紙力の低下が生じ、食品容器包装としての使用時に支障をきたす可能性がある。尚、本発明における各層のパルプのフリーネスは、カナダ標準形ろ水度試験機(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠)で測定することによって得られる。
【0016】
基紙の各層には填料を配合してもよい。使用する填料は、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムである。填料は、白色度及び不透明度を向上させることができる。前述の通り、表層と裏層は白色度と不透明度の高い層とすることが好ましいことから、白色度の高いパルプ(例えば白色度が83%以上のLBKP)を用いるとともに、炭酸カルシウムや二酸化チタンなどの白色度と不透明度の向上に効果のある填料を1~15質量%程度含ませることが好ましい。表層と裏層の不透明度が高いことで、遮光層となる中層を十分に隠蔽することができ、地黒感が表に出にくく、白色度が高い意匠性に優れた遮光紙とすることができる。
【0017】
基紙の中層は、遮光層として機能するように着色染料を含ませる。着色染料としては、遮光性の向上に効果の高く添加量を少なくできる黒色染料が好ましい。また、黒色染料に加えて、赤色染料や青色染料など複数の染料を混合して用いて遮光性を付与することもできる。ここで「着色染料」とは、いわゆる着色用の染料のことであって、可視光線を選択吸収または反射して固有の色を持つ有機色素のうち、適当な染色法により物質に染着するものをいい、水や有機溶剤などの溶媒に可溶である。一般に、紙層に含有させることができる色材としては着色染料と着色顔料とが考えられるが、着色顔料は着色染料に比べて粒子が大きく、パルプ繊維の表面に付着した状態で存在するため、着色顔料で着色されたパルプ繊維は顔料粒子が密な部分と疎な部分とが生じやすく、これにより紙層全体で均一に光を吸収・反射することができず、高度な遮光性を満足させにくい。これを補うために紙層中の着色顔料の含有量を大きくしすぎると、遮光層の地黒感が紙の表面に出てしまい、白色度の低下や遮光紙としての意匠性を損ねることとなる。一方、着色染料を使用して紙層を着色すると、着色染料は分子レベルでパルプ繊維内部まで浸透するため、パルプ繊維は着色染料が均一に分散された状態となり、結果として紙層全体で均一に光を吸収・反射することとなり、高度な遮光性を満足させやすい。また、紙層中の含有量が比較的少なくても高度な遮光性を満足させることができるため、遮光層の地黒感が紙の表面に出にくく、白色度の低下や遮光紙としての意匠性を損ねにくい。また、例えばカーボンブラックなどの着色顔料に比べて、着色染料は金属探知機に反応しにくいことから、着色染料を使用することで、容器包装とした際の内容物の検査に制限のない遮光紙を得ることができる。加えて、着色顔料を用いる場合に比べて脱墨等の古紙処理が行いやすい点で着色染料を用いた方がリサイクル性に優れる遮光紙とすることができる。さらには、着色顔料を紙層中に含有させると層間剥離強度などの紙力の低下を招くことがあるが、着色染料はそのようなおそれがない。これらの点で着色染料は着色顔料より優れているため、本発明においては色材の中でも着色染料を選択して用いる。
【0018】
本実施形態に係る遮光紙は、中層に着色染料を含有させることにより、遮光性を付与する。本発明の遮光紙においては、200~660nmの波長領域における光透過率を0.05%未満とする。好ましくは0.03%未満とする。このような遮光性を付与するためには、着色染料として黒色染料、具体的には黒色染料(商品名:ダイレクトペーパーブラックRAL/日本化学工業所社製)を用い、中層のパルプ全量に対して当該黒色染料を0.1~3.0質量部、好ましくは0.3~2.5質量部、例えば、1.4~2.2質量部含有させればよい。また、着色染料として、二以上の色相の異なる染料、例えば、青色染料と紫色染料と黄色染料と赤色染料とを併用し添加することも有効である。具体的には、青味染料(紫色染料)(商品名:カヤフェクトバイオレットPリキッド200/日本化薬社製)と黄色染料(商品名:ダイレクトペーパーイエローGL/日本化学工業所社製)を併用し、中層の全パルプに対して合計で0.1~3.0質量部、例えば、0.5~2.5質量部の濃度で加えればよい。当然、黒色染料と他の色相の染料とを併用することも有効である。染料の含有量が少なすぎると遮光性に乏しくなり、多すぎると中層の地黒感が遮光紙表面に出るおそれがある。なお、分光透過率の測定は、例えば、島津製作所社製紫外可視分光光度計UV-2600を使用し、島津製作所社製積分球付属装置ISR-2600PLUSを用い算出することができる。
【0019】
基紙の各層には、硫酸バンド、サイズ剤、内添紙力増強剤、例えば、カチオン澱粉やポリアクリルアミド系などの内添紙力増強剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤又はピッチコントロール剤などの各種公知の製紙用助剤を、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で配合してもよい。例えば、本発明の実施形態においては、いずれの層においても、各層のパルプ100質量部に対して、ポリアクリルアマイド系紙力増強剤を0.04~0.4質量部、及び/又は、凝集助剤として硫酸バンドを0.2~0.8質量部、及び/又は、中性ロジンエマルジョンサイズ剤を0.1~0.5質量部、及び/又は、歩留り向上剤を0.01~0.1質量部添加してもよい。
【0020】
基紙の製造方法は、特に限定するものではなく、例えば、長網多層抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機など3層以上の多層抄きが可能な各種抄紙機等を用いて製造することができる。また、各層をそれぞれ抄紙した後、貼り合わせによって3層以上の基紙とすることもできる。
【0021】
基紙の表面には表面サイズ液を塗布してもよい。表面サイズ液としては、例えば、澱粉、酸化澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの公知の水溶性高分子が上げられるが、特に限定されるものではない。塗布方法は、特に限定するものではなく、サイズプレスのようなポンドを設けるタイプ、ゲートロールサイズプレス若しくはシムサイザーのようなフィルムメタリングタイプ、ロッドコーター又はエアーナイフコーターなどの公知の塗布機を用いることができる。例えば、本発明の実施形態においては、5~10質量%の酸化澱粉を含んだ糊液を上記方法で塗布することが好ましい。
【0022】
基紙の少なくとも一方の面には、顔料とバインダーとを含有する塗工層を設けてもよい。このような塗工層を設けることで、遮光層となる中層の地黒感が遮光紙の表面に出ることを効率的に防ぐことができる。ここで顔料としては、カオリン、炭酸カルシウム、シリカ、焼成カオリン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、二酸化チタンなどの製紙用塗工顔料として一般的な無機顔料を単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、白色度と地黒感を防止する隠蔽性を同時に向上させることができることから、特に二酸化チタンを配合することが好ましく、二酸化チタンの塗工量が0.5~2.5g/mとなるように塗工層中に配合することが好ましい。また、塗工層を基紙の両面に設ける場合は、両面とも塗工層を同一の組成とするか、又は異なる組成としてもよい。さらに、塗工層を二つの層、例えば、下塗り塗工層と上塗り塗工層)に分けて設けることも好ましい。白色度と隠蔽性を同時に向上させる二酸化チタンは、表面の塗工層、および上塗り塗工層に含有することが好ましい。顔料としては、カオリン、炭酸カルシウム、特に重質炭酸カルシウム、湿式重質炭酸カルシウム、および、二酸化チタンを組み合わせるとよい。例えば、全顔料100質量部に対して、カオリンを10~25質量部、湿式重質炭酸カルシウムを60~90質量部、二酸化チタンを0~30質量部、好ましくは二酸化チタンを15~25質量部の割合で使用すればよい。さらには、顔料の塗工量が5~20g/mとなるように塗工層中に配合することが好ましい。
【0023】
塗工層に用いるバインダーとしては、特に限定するものではなく、スチレン-ブタジエン系、アクリル系、ポリ酢酸ビニル若しくはエチレン-酢酸ビニルなどの各種共重合体ラテックス、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン若しくはポリアミドポリアミン/エピクロルヒドリンなどの水溶性合成物などを用いることができる。また、天然植物から精製した澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉又はそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、デキストリン、マンナン、キトサン、アラビノガラクタン、グリコーゲン、イヌリン、ペクチン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの天然多糖類又はそのオリゴマー又はその変性体を用いることができる。さらには、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、コラーゲンなどの天然タンパク質又はその変性体、ポリ乳酸、ペプチドなどの合成高分子又はオリゴマーを用いることもできる。これらは単独で使用するか、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、塗工層用の塗料中において、顔料100質量部に対して、10~30質量部のバインダーを添加すればよい。具体例としては、例えば、顔料100質量部に対して、スチレン-ブタジエン系ラテックスを10~25質量部およびリン酸エステル化澱粉を0~5質量部添加すればよい。
【0024】
塗工層形成用の塗料には、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、分散剤、消泡剤、耐水化剤、着色染料、着色顔料、増粘剤などの通常使用されている各種助剤を使用することができる。
【0025】
基紙への塗工層の形成方法は特に限定するものではなく、塗工層形成用の塗料を、各種公知の塗工方式を用いて基紙に塗工して形成することができる。塗工方式としては、例えば、メタリングサイズプレス、ゲートロール若しくはシムサイザーなどの各種フィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンコーター、スプレーコーター、カーテンコーターなどを用いることができる。さらに、得られた遮光紙をマシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダーなどのカレンダー処理を行い、平滑化処理を行うことも可能である。これにより食品容器包装用の遮光紙として好適な滑らかで意匠性が優れた紙が得られるからである。
【0026】
基紙への塗工層の塗工量は、基紙の片面あたり、固形分で0.5~30g/mとすることが好ましい。より好ましくは5~26g/mである。0.5g/m未満では隠蔽性に乏しく、遮光層となる中層の地黒感をおさえる効果に乏しくなる。30g/mを超えると塗工層強度が低下し、容器加工時に紙粉又は粉落ちが発生するおそれがある。塗工層は単層で形成するか又は2層以上で形成してもよい。塗工層を2層以上とする場合には、塗工層全層を合計した塗工量が前記した範囲内となるように形成することが好ましい。
【0027】
本実施形態における遮光紙の坪量は、特に限定するものではないが、食品容器包装としての加工適性を考慮すると150~500g/mであることが好ましい。より好ましくは180~400g/m、例えば200~350g/mである。坪量が150g/m未満では引っ張り強度など食品容器包装として必要な紙力を損ねる場合がある。500g/mを超えると剛度が高くなりすぎるなど加工適性を損ねるおそれがある。
【0028】
本実施形態においては、着色染料を含む中層の坪量の割合が基紙全体の5~25質量%であることが好ましい。より好ましくは10~20質量%である。5質量%未満の場合は、遮光層として十分な隠蔽性を保持させることが困難となるおそれがある。25質量%を超えると中層の地黒感が遮光紙の表面に出てきやすくなるばかりか、基紙の断面における中層の色(灰黒色)が目立ちやすくなり、白色度が落ちて意匠性を損ねるおそれがある。
【0029】
本実施形態における遮光紙の白色度は80%以上であることが好ましい。より好ましくは82%以上である。白色度が80%未満となると用途によっては意匠性を損ねる可能性がある。
【0030】
一実施形態においては、本発明の遮光紙から成る紙カップ容器も本発明の対象となる。本実施形態における食品容器包装用の遮光紙は、200~660nmの波長領域における光の遮光性に優れるため、食品の包装用の遮光紙として好適に用いることができる。特に、その成形性の高さから紙カップ用紙として用いることで、白色度が高い意匠性の良い紙カップ容器を得ることが可能となる。当該紙カップ容器は、遮光性に優れ内容物の風味を保ったまま長期間保存できる点で有利である。
【0031】
紙カップ容器の加工方法としては、特に限定するものではなく、例えば、顔料とバインダーを含有する塗工層を設けた遮光層の塗工層面側に印刷を行い、もう一方の面にはポリエチレンラミネート加工を施し、次いでカップ成形機にて加工することで紙カップ容器を得ることができる。
【0032】
このようにして得られた紙カップ容器は、清酒や緑茶、ヨーグルト、アイスクリームなどの食品用の容器として好適に用いることができ、内容物の風味を保ったまま長期間保存できる紙カップ容器を得ることができる。特に200~660nmの波長領域における光による劣化の影響を受けやすいクロロフィルaやビタミンBを含む食品の容器として好適であることから、アイスクリーム用の紙カップ容器として用いれば、内容物の光による風味劣化を生じ難くすることができる。
【実施例
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。ただし、染料の添加部数については固形分換算の値ではなく製品有姿の値である。
【0034】
実施例又は比較例で得られた食品容器包装用の遮光紙について次の評価を行った。評価結果を表1に示す。また、評価方法については次に示す。
【0035】
<白色度>
JIS P 8148:18「紙、板紙及びパルプ-拡散青色光反射率の測定方法(ISO白色度)」に準じて測定し、表面と裏面の平均値を求めた。
<分光透過率>
紫外可視分光光度計UV-2600(島津製作所社製)及び積分球付属装置ISR-2600PLUS(島津製作所社製)を使用して遮光紙の波長200~780nmにおける分光透過率を測定した。測定プロパティとして、波長範囲:200.0~1400.0nm、スキャンスピード:中速、サンプリングピッチ:1.0、測定モード:シングル、にそれぞれ設定し、また、装置プロパティとして、測光値:透過率、スリット幅:5.0、積算時間:0.1秒、光源切替波長323.0nm、検出器切替波長:830.0nm、S/R切替:標準、段差補正:OFF、とそれぞれ設定した。表1には波長200~660nmの中で最も大きい分光透過率の数値を示した。
<風味感応試験>
実施例及び比較例で得られた遮光紙を紙カップ容器に成型し、その中にアイスクリームを充填した後に密閉した。この密閉した紙カップ容器を蛍光灯による光を照射した冷蔵ショーケース中に-20℃の条件で保存し、5日間放置した後、内容物のアイスクリームを実食して風味の変化を下記の基準で評価した。
〇:風味にほぼ変化がなく合格。
×:風味に大きな変化が感じられ不合格。
【0036】
(実施例1)
<基紙の作製>
表層及び裏層用のパルプスラリーとして、広葉樹パルプ(LBKP)90部と針葉樹パルプ(NBKP)10部とからなるCSF450mlに調整したパルプスラリーを用意し、中層用のパルプスラリーとして広葉樹パルプ(LBKP)100%からなるCSF450mlに調整したパルプスラリーを用意した。さらに、これらのパルプスラリー全てに、ポリアクリルアマイド系紙力増強剤(商品名:ポリストロン619/荒川化学工業株式会社製)を0.2部、凝集助剤として硫酸バンドを0.5部、中性ロジンエマルジョンサイズ剤(商品名:ニューサイズ738/ハリマ化成株式会社製)を0.3部、歩留り向上剤(商品名:ハイホールダー220/栗田工業株式会社製)を0.03部添加した。さらに、中層用のパルプスラリーにのみ黒色染料(商品名:ダイレクトペーパーブラックRAL/日本化学工業所社製)を1.8部添加した。これらの各パルプスラリーを用い、短網組み合わせ型抄紙機によって5層抄きで坪量201g/mの基紙を抄速285m/minで抄紙した。表層の坪量は86g/m(43g/mの紙層の2層)、中層の坪量は29g/m、裏層の坪量は86g/m(43g/mの紙層の2層)であった。
【0037】
<サイズプレス>
基紙に酸化澱粉(日本食品化工株式会社製 MS3800)の7%糊液をポンド式サイズプレスによって両面当たり固形分3g/mとして両面に塗布、乾燥した。
【0038】
<塗工層の形成>
基紙の表層の表面に、下塗り塗工層用塗料として、カオリン(商品名:ハイドラスパース/ケイミン社製)20部、湿式重質炭酸カルシウム(商品名:カービタル60/株式会社イメリスミネラメズジャパン製)80部、スチレン-ブタジエン系ラテックス(商品名:B-1541/旭化成ケミカル社製)15部、リン酸エステル化澱粉3部を水中に分散して得られた塗料をロッドコーターにて、塗工量が固形分で10g/mとなるように塗布、乾燥し、下塗り塗工層を設けた。次いで上塗り塗工層用塗料として、カオリン(商品名:アマゾンSB/カダム社製)15部、湿式重質炭酸カルシウム(商品名:カービタル90/株式会社イメリスミネラメズジャパン製)65部、二酸化チタン(商品名:RPS-Vantage/デュポン社製)20部、スチレン-ブタジエン系ラテックス(商品名:B-1541/旭化成ケミカル社製)15部を水中に分散して得られた塗料をロッドコーターにて、塗工量が固形分で10g/mとなるように塗布、乾燥して上塗り塗工層を形成した。
【0039】
<裏面層への塗工層の形成>
基紙の裏層の表面に、上塗り塗工層用塗料をロッドコーターにて、塗工量が固形分で10g/mとなるように塗布、乾燥して塗工層を形成した。
【0040】
<平滑加工処理>
基紙の両面に塗工層を形成した後、線圧50kg/cmにてキャレンダー処理を行い、その後80kg/cm、140℃にて表面をラスタープレスにて処理し、目的とする食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1において、中層に添加する黒色染料の添加量を1.4部に変更した以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0042】
(実施例3)
実施例1において、中層に添加する黒色染料の添加量を2.2部に変更した以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0043】
(実施例4)
実施例1において、黒色染料を添加せず、青味染料(紫色染料)(商品名:カヤフェクトバイオレットPリキッド200/日本化薬社製)1.0部、黄色染料(商品名:ダイレクトペーパーイエローGL/日本化学工業所社製)1.0部を添加した以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0044】
(実施例5)
実施例1において、表層及び裏層の坪量をそれぞれ86g/mから75g/m(37.5g/mの紙層の2層)とし、中層の坪量を29g/mから51g/mとした以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0045】
(実施例6)
実施例1において、表層及び裏層の坪量をそれぞれ86g/mから115g/mとし、中層の坪量を29g/mから56g/mとした以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0046】
参考例7)
実施例1において、表層及び裏層の坪量をそれぞれ86g/mから73g/mとし、中層の坪量を29g/mから55g/mとした以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、中層に黒色染料を添加しなかった以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0048】
(比較例2)
実施例1において、中層に黒色染料を添加せず、カーボンブラック(商品名:サンダイNPブラック7901/山陽色素社製)0.4部を添加した以外は実施例1と同様にして食品容器包装用の遮光紙を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から明らかなように、実施例1~6および参考例7の食品容器包装用の遮光紙は、いずれも200~660nmの波長領域における光透過率が0.05%未満であり、風味感応試験においても合格レベルであった。参考例7で得られた食品容器包装用の遮光紙は他の実施例で得られた食品容器包装用の遮光紙に比べ、表層及び裏層の坪量が小さく、また、中層の坪量の割合が大きいためか白色度がやや低く、用途によっては意匠性に劣る可能性のあるものであった。
【0051】
一方、比較例1で得られた食品容器包装用の遮光紙は、中層に着色染料を添加しなかったため、所望する分光透過率が得られず、風味感応試験においても不合格レベルであった。また、比較例2では中層にカーボンブラックを用いたため、所望する分光透過率が得られず、風味感応試験においても不合格レベルであった。