(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】無機微粒子分散スラリー組成物及びそれを用いた無機微粒子分散シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20240619BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240619BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240619BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240619BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L71/02
C08K3/22
C08K3/38
C04B35/634 240
(21)【出願番号】P 2021146182
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2023-10-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山内 健司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 丈
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/125033(WO,A1)
【文献】特開2020-057772(JP,A)
【文献】特開2009-263188(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235907(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/031663(WO,A1)
【文献】特開2017-193721(JP,A)
【文献】特開2012-140558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂(A)、無機微粒子(B)及び溶剤(C)を含有し、
前記無機微粒子(B)はペロブスカイト構造を有する3元素系又は4元素系無機材料であり、
前記ペロブスカイト構造を有する3元素系又は4元素系無機材料はNd
2Fe
14B又はPbZrTiO
3であり、
前記(メタ)アクリル樹脂(A)はポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントのうちの少なくとも1つを有し、
前記(メタ)アクリル樹脂(A)は前記ポリプロピレングリコールブロックセグメント又は前記ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントをグラフト鎖に有し、
前記(メタ)アクリル樹脂(A)は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを50重量%以上70重量%以下含む、無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル樹脂(A)におけるポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントの組成比が5重量%以上20重量%以下である、請求項
1に記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項3】
請求項1~
2のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物を塗布し、乾燥させてシートを得る工程、及び、前記シートを350℃以下の温度で焼成する工程を有する、無機微粒子分散シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子分散スラリー組成物及びそれを用いた無機微粒子分散シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック粉末、ガラス粒子等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた組成物が、様々な電子部品の生産に用いられている。なかでも、優れた特性を有するペロブスカイト構造を有する無機微粒子は様々な分野で機能性無機材料として用いられている。
ペロブスカイト構造を有する機能性無機材料としては、ネオジム磁石(Nd2Fe14B)、PZT圧電素子(PbZrTiO3)、全固体電池LLTO電解質(Li0.33La0.56TiO3)等が挙げられる。これらの機能性無機材料は3つ以上の元素単位から構成されており、3つの元素がペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を取ることにより様々な特性を発揮することが知られている。
【0003】
例えば、最強の磁石と呼ばれているネオジム磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素からなる合金をジェットミルにより数ミクロンの大きさに粉砕し、その後、バインダーと溶媒と混錬することで、無機微粒子分散スラリーに加工される。その後、塗工することや、型に流し込み、磁場中でプレスすること等により成形された後、焼成炉によって脱脂、焼結される。一般に、バインダーにはセルロース樹脂等が用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1では、キュリー温度近傍の250~400℃に支持体を加熱しながら磁石成分をスパッタリングし、薄膜を形成する検討がなされている。また、特許文献2では、ポリスチレン-b-ポリ(4-ビニルピリジン)のブロックポリマーをバインダーに用いて、それらポリマーが形成する相分離構造を用いて、無機組成を好適な構造として焼成する検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/065254号公報
【文献】特許第6770704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法によれば、製膜にバインダーを用いないため脱脂にかかる熱劣化のおそれはないが、好適なペロブスカイト結晶構造を取らせることが難しい。また、特許文献2に記載の方法では、バインダーとして用いられるポリスチレン-b-ポリ(4-ビニルピリジン)の分解温度がセルロース同様に高く、脱脂のために700℃で6時間もの高温処理が必要であり、キュリー温度よりも高い温度での処理が必要であるため、性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、低温分解性に優れ、ペロブスカイト型無機材料のキュリー点以下での脱脂が可能であり、ペロブスカイト型無機材料の磁力や圧電特性の劣化を抑制することができ、また、印刷性にも優れる無機微粒子分散スラリー組成物を提供することを目的とする。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いた無機微粒子分散シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂(A)、無機微粒子(B)及び溶剤(C)を含有し、前記無機微粒子(B)はペロブスカイト構造を有する3元素系又は4元素系無機材料であり、前記(メタ)アクリル樹脂(A)はポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントのうちの少なくとも1つを有する無機微粒子分散スラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、ポリプロピレングリコールブロックセグメント又はポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)をペロブスカイト型の無機微粒子(B)のためのバインダーとして用いることで、無機微粒子のキュリー温度近傍の300℃で焼結することができることを見出した。また、これにより、ペロブスカイト型の無機微粒子(B)が有する優れた特性を維持した状態で成形品を生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
<(メタ)アクリル樹脂(A)>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)は、ポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントのうちの少なくとも1つを有する。
上記構造を有することで、無機微粒子が焼成後でも好適な結晶構造を維持して、ペロブスカイト構造を有する無機微粒子の優れた特性を維持することができる。
【0011】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、上記ポリプロピレングリコールブロックセグメント又は上記ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントをグラフト鎖に有することが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂(A)がグラフト鎖を有するくし型のポリマー構造を有することにより、分子内相分離構造が容易に形成され、焼成によって無機微粒子がペロブスカイト構造をより維持しやすくなる。
【0012】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントの平均長は、(メタ)アクリル樹脂(A)の主鎖の平均長を100としたとき、0.1以上であることが好ましく、5.0以下であることが好ましい。
上記平均長が0.1以上であるとブロックセグメントを導入することによりペロブスカイト構造を有する無機微粒子の特性維持効果を充分に発揮させることができる。上記平均長が5.0以下であると、ポリマー鎖同士が絡み合いにくく、無機微粒子分散スラリー組成物の印刷性を充分に高めることができる。
上記平均長は、1.0以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、4.5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。
上記平均長は、例えば、ケン化前後のGPC分析比較することにより測定することができる。
【0013】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるポリプロピレングリコールブロックセグメント及びポリテトラメチレングリコールブロックセグメントの組成比は、5重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であることがより好ましく、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。
上記組成比が5重量%以上であるとブロックセグメントを導入することによりペロブスカイト構造を有する無機微粒子の特性維持効果を充分に発揮させることができる。上記組成比が20重量%以下であると分子内相分離構造において島成分が多くなりすぎることがなく、焼成によって無機微粒子がペロブスカイト構造をより維持しやすくなる。
上記組成比は、例えば、ケン化前後の乾燥重量を評価することや(メタ)アクリル樹脂をGPC分析して比較することにより測定することができる。
【0014】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)が上記ポリプロピレングリコールブロックセグメント又は上記ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントをグラフト鎖に有する場合、上記(メタ)アクリル樹脂(A)における、上記グラフト鎖であるブロックセグメントの含有量は、5重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であることがより好ましく、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。
上記グラフト鎖であるブロックセグメントの含有量が5重量%以上であるとブロックセグメントを導入することによりペロブスカイト構造を有する無機微粒子の特性維持効果を充分に発揮させることができる。上記グラフト鎖であるブロックセグメントの含有量が20重量%以下であると分子内相分離構造において島成分が多くなりすぎることがなく、焼成によって無機微粒子がペロブスカイト構造をより維持しやすくなる。
上記グラフト鎖であるブロックセグメントの含有量は、例えば、(メタ)アクリル樹脂を水酸化ナトリウム水溶液等でケン化してエステル鎖を加水分解して、(メタ)アクリル樹脂から油滴状成分を分離し、乾燥させた油滴状成分とケン化した(メタ)アクリル樹脂(A)全体との重量を測定して下記式によりグラフト鎖であるブロックセグメント組成比を算出することにより求めることができる。
グラフト鎖であるブロックセグメントの含有量=(乾燥させた油滴状成分の重量/ケン化した(メタ)アクリル樹脂(A)の重量)×100
【0015】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを有することが好ましい。
イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを有することで、(メタ)アクリル樹脂(A)の低温分解性をより高めることができる。
【0016】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるイソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以下であることが好ましい。
上記含有量が50重量%以上であると、(メタ)アクリル樹脂(A)の低温分解性を更に高めることができる。上記含有量が80重量%以下であると、(メタ)アクリル樹脂(A)にブロックセグメントを充分に導入して、ブロックセグメントの導入効果を充分に発揮させることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるイソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は、55重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることが更に好ましく、75重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが更に好ましい。
上記範囲とすることで、低温分解性と印刷性とを充分に高めつつ、無機微粒子がペロブスカイト構造をより維持しやすくなる。
【0017】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるイソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以下であることが好ましい。
上記含有量が50モル%以上であると、(メタ)アクリル樹脂(A)の低温分解性を更に高めることができる。上記含有量が80モル%以下であると、(メタ)アクリル樹脂(A)にブロックセグメントを充分に導入して、ブロックセグメントの導入効果を充分に発揮させることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるイソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は、55モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることが更に好ましく、75モル%以下であることがより好ましく、70モル%以下であることが更に好ましい。
上記範囲とすることで、低温分解性と印刷性とを充分に高めつつ、無機微粒子がペロブスカイト構造をより維持しやすくなる。
上記含有量は、例えば、熱分解GC-MSにより測定することができる。
【0018】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)は、ポリプロピレングリコールブロックセグメント、ポリテトラメチレングリコールブロックセグメント、イソブチルメタクリレートに由来するセグメント以外の他のセグメントを有していてもよい。
上記他のセグメントとしては、エステル置換基の炭素数が1以上10以下の(メタ)アクリレートに由来するセグメント等が挙げられる。
上記エステル置換基の炭素数が1以上10以下の(メタ)アクリレートに由来するセグメントを含有することで、(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度を高めることができる。また、脆性を改善することができる。
上記エステル置換基の炭素数が1以上10以下の(メタ)アクリレートとしては、炭素数1~10の直鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、分岐鎖状(メタ)アクリレート、環状(メタ)アクリレート等が挙げられる。
より具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、イソプロピル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。更に、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートがより好ましい。
【0019】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)における上記エステル置換基の炭素数が1以上10以下の(メタ)アクリレートに由来するセグメントの含有量は、1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
【0020】
また、上記他のセグメントとしては、その他、グリシジル基を有する(メタ)アクリレート、水酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記グリシジル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート等が挙げられる。
上記水酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0021】
上記(メタ)アクリル樹脂における上記他のセグメントの含有量は、1重量%以上であることが好ましく、4重量%以上であることがより好ましく、10重量%以下であることが好ましく、7重量%以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、(メタ)アクリル樹脂(A)の低温分解性を充分に向上させることができ、また、得られる無機微粒子分散シートの強靭性を向上させることができる。
【0022】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、2万以上であることが好ましく、10万以下であることが好ましい。
上記Mwが2万以上であると、無機微粒子分散スラリー組成物の粘度が低くなりすぎることがなく、また、無機微粒子の分散性を良好なものとできる。上記Mwが10万以下であると、無機微粒子分散スラリー組成物の印刷性を良好なものとできる。
上記Mwは3万以上であることが好ましく、4万以上であることがより好ましく、8万以下であることが好ましく、7万以下であることがより好ましい。
【0023】
また、上記(メタ)アクリル樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、1万以上であることが好ましく、1.5万以上であることがより好ましく、4万以下であることが好ましく、3.5万以下であることがより好ましい。
更に、上記(メタ)アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.5以上であることが好ましく、5以下であることが好ましい。
上記範囲内とすることで、低重合度の成分が適度に含有されるため、無機微粒子分散スラリー組成物の粘度が好適な範囲となり、生産性を高めることができる。また、得られる無機微粒子分散シートのシート強度を適度なものとできる。更に、得られるセラミックグリーンシートの表面平滑性を充分に向上させることができる。
上記Mw/Mnは2以上であることがより好ましく、3以下であることがより好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算による平均分子量であり、カラムとして例えばカラムLF-804(昭和電工社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0024】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましい。
なお、上記ガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0025】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量は特に限定されないが、5重量%以上であることが好ましく、30重量%以下であることが好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂の含有量を上記範囲内とすることで、低温で焼成しても脱脂可能な無機微粒子分散スラリー組成物とすることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂の含有量は、6重量%以上であることがより好ましく、12重量%以下であることがより好ましい。
【0026】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)を製造する方法としては特に限定されない。例えば、まず、(メタ)アクリル酸やグリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを含む原料モノマー混合物に有機溶剤等を加えてモノマー混合液を調製し、更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤を添加して、重合させて原料(メタ)アクリル樹脂を作製する。次いで、プロピレングリコール鎖を有する化合物、ポリテトラメチレングリコール鎖を有する化合物を原料(メタ)アクリル樹脂と反応させて、プロピレングリコールブロックセグメント、ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを導入して(メア)アクリル樹脂(A)を作製する方法が挙げられる。
また、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコールを無水マレイン酸や2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等と反応させてポリプロピレングリコールブロックセグメントやポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを有するモノマーを作製する。次いで、得られたモノマーと(メタ)アクリル酸エステル等とを混合して原料モノマー混合物を作製し、更に、有機溶剤等を加えてモノマー混合液を調製し、更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤を添加し、重合させて(メタ)アクリル樹脂(A)を作製する方法が挙げられる。
更に、(メタ)アクリル酸やグリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルとポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコールとを混合して反応させて、(メタ)アクリル樹脂(A)を作製する方法等が挙げられる。
重合させる方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、界面重合、溶液重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合が好ましい。
【0027】
上記重合開始剤としては、例えば、ジラウリルパーオキサイド、P-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロキシパーオキサイド、t-ブチルハイドロキシパーオキサイド、過酸化シクロヘキサノン、ジコハク酸パーオキサイド等が挙げられる。
これらの市販品としては、例えば、パーメンタH、パークミルP、パーオクタH、パークミルH-80、パーロイル355、パーブチルH-69、パーヘキサH、パーロイルSA、パーロイルL(何れも日油社製)、トリゴノックス27、トリゴノックス421(いずれもNouryon社製)等が挙げられる。
【0028】
<無機微粒子(B)>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、無機微粒子(B)を含有する。
上記無機微粒子(B)は、ペロブスカイト構造を有する3元素系又は4元素系無機材料である。
ペロブスカイト構造とは、灰チタン石CaTiO3と同じ結晶構造を持つ無機微粒子であり、基本的にはABX3の3つの構成元素からなり、立方晶の体心にA原子が、各頂点にB原子が、立方晶の各面心にX原子が配置されている。また、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の混晶であるPZT(PbZrTiO3)のように4元素系でもよい。
ペロブスカイト型無機微粒子はNd2Fe14B(キュリー点温度312℃)、PbZrTiO3(キュリー点温度350℃)といったように300℃周辺にキュリー点を持つものが多く、キュリー点よりも低い温度である300℃で焼成することにより、本来の特性を維持した無機材料製品が製造できる。
上記ペロブスカイト構造を有する無機微粒子(B)を上記(メタ)アクリル樹脂(A)と組み合わせて無機微粒子分散スラリー組成物を作製し、更に焼成して無機微粒子分散成形体とすることで、ペロブスカイト構造を有する無機微粒子の優れた特性を損なわずに成形体を得ることができる。
【0029】
ペロブスカイト構造を有する無機微粒子(B)としては特に限定されないが、Sm2Fe17N3、Nd2Fe14B、MnAlC、L10FeNi、La2/3-xLi3xTiO3、La(1-x)/3LixNbO3、LaGaO3、LaScO3、CaZrO3、(La0.875Sr0.125)MnO3、PbZrTiO3、SrBi2Ta2O9、BiFeO3、KNbO3、PbVO3、BiCo3、Bi(Zn1/2Ti1/2)3等が挙げられる。なかでも、Nd2Fe14B、PbZrTiO3が好ましい。
【0030】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記無機微粒子(B)の含有量は、40重量%以上であることが好ましく、90重量%以下であることが好ましい。
上記含有量が40重量%以上であると、成型体における無機微粒子(B)の密度を充分に高めることができる。上記含有量が90重量%以下であると、無機微粒子(B)の分散性を充分なものとして、成型性を高めることができる。
上記無機微粒子(B)の含有量は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以下であることが好ましい。
上記範囲であると、無機微粒子分散スラリー組成物の塗工性や印刷性を充分に高めて、焼成後の緻密な成形体を得ることができる。
【0031】
上記無機微粒子(B)の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、無機微粒子(B)の比表面積が大きくなりすぎず、バインダー残渣を少なくすることができ、また、焼成することで緻密な成形体を得ることができる。
【0032】
<溶剤(C)>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されないが、無機微粒子分散シートを作製する際に、塗工性、乾燥性、無機粉末の分散性等に優れたものであることが好ましい。
例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、イソプロパノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、エチルカルビトールアセテート等が挙げられる。なかでも、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、エチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールが好ましい。また、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、テルピネオール、エチルカルビトールアセテートがより好ましい。なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記有機溶剤の沸点は90~230℃であることが好ましい。上記沸点が90℃以上であると、蒸発が早くなりすぎず、取り扱い性に優れた無機微粒子分散スラリー組成物とできる。上記沸点が230℃以下であると、無機微粒子分散スラリー組成物が乾燥し難く、印刷性に優れたものとできる。
【0034】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記有機溶剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は60重量%である。上記範囲内とすることで、塗工性、無機微粒子の分散性を向上させることができる。
【0035】
<その他>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、更に、可塑剤を含有していてもよい。
上記可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、トリエチレングリコールジブチル、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘキサノエート、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸ジエチル、アセチルクエン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、アセチルオキシマロン酸ジエチル、エトキシマロン酸ジエチル等が挙げられる。
これらの可塑剤を用いることで、通常の可塑剤を使用する場合と比較して可塑剤添加量を低減することが可能となる(バインダーに対して30重量%程度添加されるところ、25重量%以下、更に20重量%以下に低減可能)。
なかでも、構造中にベンゼン環等の芳香環を含まない非芳香族の可塑剤を使用することが好ましく、アジピン酸、トリエチレングリコール、クエン酸又はコハク酸に由来する成分を含有することがより好ましい。なお、芳香環を有する可塑剤は、燃焼して煤になりやすいため好ましくない。
【0036】
また、上記可塑剤としては、エチル基、ブチル基等の炭素数2以上のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数4以上のアルキル基を有するものがより好ましい。
上記可塑剤は、炭素数が2以上のアルキル基を含有することで、可塑剤への水分の吸収を抑制して、得られる無機微粒子分散シートにボイドやふくれ等の不具合を発生することを防止することができる。特に、可塑剤のアルキル基は分子末端に位置していることが好ましい。
また、上記可塑剤は、エチル基等の炭素数が2の官能基、ブチル基等の炭素数が4の官能基、ブトキシエチル基等の官能基を有することが好ましい。上記官能基は末端分子鎖に存在することが好ましい。
末端分子鎖にエチル基等の炭素数が2の官能基を持つ可塑剤はメタクリル酸エチルに由来するセグメントとの相性がよく、末端分子にブチル基等の炭素数が4の官能基を持つ可塑剤はメタクリル酸ブチルに由来するセグメントとの相性が良い。炭素数が2又は4の官能基を持つ可塑剤は本発明にかかる(メタ)アクリル樹脂との相性が良く、樹脂の脆性を好ましく改善することができる。更には、ブトキシエチル基はメタクリル酸エチルに由来するセグメント及びメタクリル酸ブチルに由来するセグメントの両方の組成と相性がよく好ましく用いることができる。
【0037】
上記可塑剤は、炭素:酸素比が5:1~3:1であることが好ましい。
炭素:酸素比を上記範囲とすることで、可塑剤の燃焼性を向上させて、残留炭素の発生を防止することができる。また、(メタ)アクリル樹脂との相溶性を向上させて、少量の可塑剤でも可塑化効果を発揮させることができる。
また、プロピレングリコール骨格やトリメチレングリコール骨格の高沸点有機溶剤も、炭素数が4以上のアルキル基を含有し、炭素:酸素比が5:1~3:1であれば好ましく用いることができる。
【0038】
上記可塑剤の沸点は240℃以上390℃未満であることが好ましい。上記沸点を240℃以上とすることで、乾燥工程で蒸発しやすくなり、成形体への残留を防止できる。また、390℃未満とすることで、残留炭素が生じることを防止できる。なお、上記沸点は、常圧での沸点をいう。
【0039】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3.0重量%である。上記範囲内とすることで、可塑剤の焼成残渣を少なくすることができる。
【0040】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、更に、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されないが、HLB値が10以上20以下のノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性、親油性を表す指標として用いられるものであって、計算方法がいくつか提案されており、例えば、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1-S/A)とする等の定義がある。具体的には、脂肪鎖にアルキレンエーテルを付加させたポリエチレンオキサイドを有するノニオン系界面活性剤が好適であり、具体的には例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が好適に用いられる。なお、上記ノニオン系界面活性剤は、熱分解性がよいが、大量に添加すると無機微粒子分散スラリー組成物の熱分解性が低下することがあるため、含有量の好ましい上限は5重量%である。
【0041】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物の粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定した場合の粘度の好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。
上記粘度を0.1Pa・s以上とすることで、ダイコート印刷法等により塗工した後、得られる無機微粒子分散シートが所定の形状を維持することが可能となる。また、上記粘度を100Pa・s以下とすることで、ダイの塗出痕が消えない等の不具合を防止して、印刷性に優れるものとできる。
【0042】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記(メタ)アクリル樹脂(A)、上記無機微粒子(B)、上記溶剤(C)及び必要に応じて添加される可塑剤等の他の成分を3本ロール等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0043】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を塗布し、乾燥させてシートを作製し、更に、得られたシートを350℃以下の温度で焼成することで無機微粒子分散シートを製造することができる。
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を塗布し、乾燥させてシートを得る工程、及び、前記シートを350℃以下で焼成する工程を有する無機微粒子分散シートの製造方法もまた本発明の1つである。
【0044】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を、片面離型処理を施した支持フィルム上に塗工し、有機溶剤を乾燥させ、シート状に成形することで、無機微粒子分散シートを製造することができる。
本発明の無機微粒子分散シートは、厚みが1~20μmであることが好ましい。
【0045】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物の印刷、成型方法については特に限定されないが、U字に開口させたスクリーン版を上下交互に塗りながらコイル状を形成したり、基材上に直接印刷して積層体を形成したり、基板を無機微粒子分散スラリー組成物へディップコートしても良い。高沸点の有機溶媒を用いることでスクリーン印刷等を用いて成型することが可能となる。
【0046】
また、上記塗布する方法としては、例えば、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物をロールコーター、ダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーター等の塗工方式によって支持フィルム上に均一に塗膜を形成する方法等が挙げられる。
【0047】
上記乾燥させる方法としては、例えば、加熱乾燥等が挙げられる。乾燥温度は80~130℃が好ましい。
【0048】
本発明の無機微粒子分散シートを製造する際に用いる支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有すると共に可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーター、ブレードコーターなどによって支持フィルムの表面に無機微粒子分散スラリー組成物を塗布することができ、得られる無機微粒子分散シート形成フィルムをロール状に巻回した状態で保存し、供給することができる。
【0049】
上記支持フィルムを形成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレン等の含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等が挙げられる。
上記支持フィルムの厚みは、例えば、20~100μmが好ましい。
また、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましく、これにより、転写工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0050】
上記焼成する工程において、加熱温度は350℃以下であり、250℃以上であることが好ましい。
【0051】
例えば、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物において、無機微粒子(B)としてNd2Fe14Bを用いた場合、フェライト磁石基板上に上記スラリーを印刷、乾燥し、磁力プレスを掛け、磁力を配向させながら300℃程度で焼成する。これにより、磁力の低下が抑えられたネオジム磁石が製造できる。
また、例えば、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物において、無機微粒子(B)としてLi0.33La0.56TiO3(LLTO)を用いてスラリー組成物を作製し、負極Li箔上にべた印刷した後乾燥し、正極として同じくLi0.33La0.56TiO3(LLTO)、導電助剤としてアセチレンブラック、正極活物質としてリチウム酸ニオブからなる正極シートとラミネートし、300℃で焼成することで、容量の大きな全固体電池が製造できる。
300℃程度の焼成では無機微粒子(B)の焼結性が不充分である場合、ほう珪酸塩やリン酸塩等を焼結助剤として添加してもよい。
【0052】
また、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物、無機微粒子分散シートを、誘電体グリーンシート、電極ペーストに用いることで積層セラミクスコンデンサを製造することができる。
【0053】
上記全固体電池を製造する方法としては、電極活物質及び電極活物質層用バインダーを含有する電極活物質層用スラリーを成形して電極活物質シートを作製する工程、前記電極活物質シートと本発明の無機微粒子分散シートとを積層して積層体を作製する工程、及び、前記積層体を焼成する工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0054】
上記電極活物質としては特に限定されず、例えば、上記無機微粒子と同様のものを用いることができる。
【0055】
上記電極活物質層用バインダーとしては、上記(メタ)アクリル樹脂を用いることができる。
【0056】
上記電極活物質シートと本発明の無機微粒子分散シートとを積層する方法としては、それぞれシート化した後、熱プレスによる熱圧着、熱ラミネート等を行う方法等が挙げられる。
【0057】
上記焼成する工程において、加熱温度の好ましい下限は250℃、好ましい上限は350℃である。
加熱温度が上記範囲であると、無機微粒子(B)の優れた特性を維持することができる。
【0058】
上記製造方法により、全固体電池を得ることができる。
上記全固体電池としては、正極活物質を含有する正極層、負極活物質を含有する負極層、及び、正極層と負極層との間に形成された固体電解質層を積層した構造を有することが好ましい。
【0059】
上記積層セラミクスコンデンサを製造する方法としては、本発明の無機微粒子分散シートに導電ペーストを印刷、乾燥して、誘電体シートを作製する工程、及び、前記誘電体シートを積層する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0060】
上記導電ペーストは、導電粉末を含有するものである。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金等が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記導電ペーストを印刷する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0062】
上記積層セラミクスコンデンサの製造方法では、上記導電ペーストを印刷した誘電体シートを積層することで、積層セラミクスコンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、低温分解性に優れ、ペロブスカイト型無機材料のキュリー点以下での脱脂が可能であり、ペロブスカイト型無機材料の磁力や圧電特性の劣化を抑制することができ、また、印刷性にも優れる無機微粒子分散スラリー組成物を提供できる。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いた無機微粒子分散シートの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0065】
(製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコにイソブチルメタクリレート(iBMA)60重量部、グリシジルメタクリレート(GMA)5重量部、n-ブチルメタクリレート(nBMA)30重量部を加えた。更に、有機溶剤として酢酸ブチル500重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0066】
得られたモノマー混合液を窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら内温を80℃として、酢酸ブチルで希釈した重合開始剤溶液を加えた。また、重合中に重合開始剤溶液を数回添加した。なお、重合開始剤としては、ジラウリルパーオキサイドを用いた。
重合開始から7時間後、室温まで冷却して重合を終了させ、(メタ)アクリル樹脂を含有する組成物を得た。
【0067】
ブロックセグメントとしてポリプロピレングリコール(富士フィルムWAKO純薬社製、プロピレングリコールセグメント長1500)5重量部と0.01N塩酸2重量部とを樹脂組成物に加え、80℃で2時間反応させた。GPCならびにFTIRにて余剰のポリプロピレングリコールを評価したところ、ほぼすべてが(メタ)アクリル樹脂にグラフト鎖として付与されていることが分かった。これによりグラフト鎖としてポリプロピレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
得られた(メタ)アクリル樹脂(A)をオーブンで乾燥させ、THF中に樹脂濃度0.1重量%にて溶解させてカラムとしてSHODEX LF-804を用い、GPCによりポリスチレン換算の分子量を測定したところ、数平均分子量は3万、重量平均分子量は6万であった。
また、乾燥させた(メタ)アクリル樹脂(A)を水酸化ナトリウム水溶液にて、ケン化によりエステル鎖を加水分解させた。アクリル樹脂は水に溶解し、油滴状成分が分離した。
分離した油滴状成分を乾燥させて計量し、上記式により(メタ)アクリル樹脂(A)全体に対するグラフト鎖であるブロックセグメントの含有量を算出したところ10重量%であった。
また、油滴状成分の分子量をGPCにて確認したところ、数平均分子量が1500であることが確認され、また、ケン化後の(メタ)アクリル樹脂(A)の数平均分子量を測定して算出したところ、主鎖の平均長を100としたときのグラフト鎖であるポリプロピレングリコールブロックセグメントの平均長は5であった。
更に、熱分解GC-MSによりiBMAセグメントの割合を確認したところ、60モル%であった。
【0068】
(製造例2)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコに無水マレイン酸5重量部、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールセグメント長230)10重量部、溶剤としてエチルカルビトールアセテート(沸点217℃)40重量部を添加し、窒素雰囲気下150℃で2時間攪拌し、無水マレイン酸とポリプロピレングリコールとを反応させた。更に、iBMA60重量部、メチルメタクリレート(MMA)10重量部を加えた。更に、有機溶剤としてエチルカルビトールアセテート700重量部を加えて混合し、モノマー混合液を得た。液温が80℃となるように調節しながら重合開始剤を数回に分けて添加し、重合を完了させた。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は1万、重量平均分子量は2万であった。
また、GC-MSにて余剰のポリプロピレングリコールを評価したところ、ほぼすべてが(メタ)アクリル樹脂にグラフト鎖として付与されていることが分かった。これによりグラフト鎖としてポリプロピレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
【0069】
(製造例3)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。別のフラスコに2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、カレンズMOI)4.6重量部、ポリテトラメチレングリコール(三菱化学社製、PTMG250)5.4重量部を加え、窒素雰囲気下60℃で2時間反応させ、ポリテトラメチレングリコール鎖を有するメタクリルモノマーを得た。
得られたメタクリルモノマー5重量部を2Lセパラブルフラスコに移し、iBMA70重量部、メタクリル酸2-エチルヘキシル(2EHMA)20重量部、有機溶剤として酢酸ヘキシル(沸点170℃)20重量部を加えて、窒素雰囲気下80℃として重合開始剤を複数回に分けて添加して重合させ、ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は20万、重量平均分子量は40万であった。
【0070】
(製造例4)
100mLセパラブルフラスコに分留管ウィットマー、L字連結管、ジムロート冷却管を設置し、メタクリル酸(MAc)20重量部、ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)200重量部を混合し、真空ポンプで-0.1MPaに減圧しながら120℃で1時間反応させ、反応液をクロロホルムで希釈し、LCカラムを用いて未反応のMAcを除去した。送風オーブンでクロロホルムを蒸発させ、ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂を得た。
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコに得られた(メタ)アクリル樹脂20重量部、iBMA50重量部、エチルメタクリレート(EMA)20重量部、2EHMA10重量部、有機溶剤としてテルピネオール400重量部を加え、窒素雰囲気下80℃として重合開始剤を複数回に分けて添加して重合させ、ポリテトラメチレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は2万、重量平均分子量は4万であった。
【0071】
(製造例5)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコにプロピレングリコールモノメタクリレート(PMA)60重量部、iBMA40重量部、nBMA20重量部を加えた。更に、有機溶剤として酢酸ブチル100重量部を加えて混合し、モノマー混合液を得た。
【0072】
得られたモノマー混合液を窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら内温を80℃として、酢酸ブチルで希釈した重合開始剤溶液を加えた。重合中、重合開始剤溶液を数回添加した。
重合開始から7時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これによりプロピレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は10万、重量平均分子量は20万であった。
【0073】
(製造例6)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコに長鎖エステル置換基を有するモノマーとしてステアリルメタクリレート(SMA)10重量部、iBMA80重量部、MMA10重量部を加えた。更に、有機溶剤としてエチルカルビトールアセテート(沸点217℃)90重量部を加えて混合し、モノマー混合液を得た。
得られたモノマー混合液を80℃になるように調整しながら重合開始剤を数回に分けて添加し、重合を完了させて、ステアリル基を有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は10万、重量平均分子量は20万であった。
【0074】
(製造例7)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコにポリエチレングリコールブロックを有するモノマーとしてポリエチレングリコールモノメタクリレート4重量部、iBMA70重量部、2EHMA26重量部を加えた。更に、有機溶剤として酢酸ヘキシル(沸点170℃)600重量部を加えて混合し、モノマー混合液を得た。
得られたモノマー混合液を80℃になるように調整しながら重合開始剤を数回に分けて添加し、重合を完了させて、ポリエチレングリコールブロックセグメントを有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は2万、重量平均分子量は4万であった。
【0075】
(製造例8)
撹拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコにエステル置換基にテトラメチレン構造を有するモノマーとしてブタンジオールモノメタクリレート20重量部、iBMA40重量部、EMA40重量部を加えた。更に、有機溶剤として酢酸ヘキシル(沸点170℃)200重量部を加えて混合し、モノマー混合液を得た。
得られたモノマー混合液を80℃になるように調整しながら重合開始剤を数回に分けて添加し、重合を完了させて、ブチレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
GPCにより同様に測定したところ、数平均分子量は4万、重量平均分子量は8万であった。
【0076】
(実施例1~8、比較例1~4)
(1)無機微粒子分散スラリー組成物の調製
表1に示す(メタ)アクリル樹脂(A)、ペロブスカイト構造を有する無機微粒子(B)、有機溶剤(C)を用い、表1の配合となるように混合して、高速撹拌機で混錬して、無機微粒子分散スラリー組成物を得た。
【0077】
(2)無機微粒子分散シートの作製
得られた無機微粒子分散スラリー組成物を、予め離型処理したポリエチレンテレフタレート(PET)からなる支持フィルム(幅400mm、長さ30m、厚さ38μm)上にブレードコーターを用いて塗布し、形成された塗膜を100℃で10分間乾燥することにより溶剤を除去して、厚さ50μmの無機微粒子分散シートを支持フィルム上に形成した。
支持フィルムを剥離し、無機微粒子分散シートを積層して、厚さ500μmのシートを作製した。
【0078】
(3)無機焼結体の作製
得られたシートをセラミクス皿に載せ、電気炉にて300℃で10時間加熱し、バインダーを脱脂した。常温になるまで養生後、オーブンから取り出し、磁場プレス装置で磁界10KOe、10MPasでプレスし磁性配向させた無機焼結体を得た。
【0079】
【0080】
<評価>
実施例及び比較例で得られた無機微粒子分散スラリー組成物、無機焼結体について以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0081】
(1)シート印刷性
「(2)無機微粒子分散シートの作製」において、乾燥前の塗膜を目視にて確認し、以下の基準でシート印刷性を評価した。
〇:表面平滑で光沢があり良好な状態であった。
△:塗工できているが、表面がざらざらしていた。
×:ハジキやカスレがあり、きれいに塗工できていなかった。
【0082】
(2)脱脂性
得られた無機焼結体について、堀場製作所社製、炭素硫黄分析装置を用いて残留炭素を確認し、以下の基準で脱脂性(低温分解性)を評価した。
残留炭素が少ないと、低温分解性に優れているといえる。
〇:残留炭素が50ppm以下であった。
△:残留炭素が50ppmより多く、100ppm未満であった。
×:残留炭素が100ppm以上であった。
【0083】
(3)結晶解析
得られた無機焼結体について、リガク社製、広角X線回折装置にてCuKα線を用いて結晶の形成状態を確認し、以下の基準で結晶形成性を評価した。
結晶形成性が優れていると、理論値どおりの性能が期待できる。
◎:2θ=30°付近の強い回折ピークが確認でき、40°までに小さな散乱がなかった。
〇:2θ=30°付近に強い回折ピークが確認でき、30~40°の間に小さな散乱があった。
△:2θ=30°付近に回折ピークが2重に割れていた。
×:2θ=30°付近の回折ピークが2重に割れており、更に、30~40°の間に強い散乱があった。
【0084】
(4)焼結体特性
得られた無機焼結体について、交流磁化率測定装置(XacQuan、和貴研究所)を用いて磁力を測定した。また、強誘電体評価システム(FCE10、東陽テクニカ社)を用いて圧電特性を確認した。また、実施例、比較例で用いたペロブスカイト構造を有する無機微粒子をバインダーを用いずに押し固めてサンプルを作製し、同様にして磁力、圧電特性を確認した。
押し固めて得られたサンプルの磁力又は圧電特性に対して、無機焼結体の磁力又は圧電特性の劣化の程度を確認し、以下の基準で焼結体特性を評価した。
◎:磁力又は圧電特性の劣化の程度が10%未満であった。
〇:磁力又は圧電特性の劣化の程度が10%以上20%未満であった。
△:磁力又は圧電特性の劣化の程度が20%以上30%未満であった。
×:磁力又は圧電特性の劣化の程度が30%以上であった。
【0085】
【0086】
実施例1~8ではいずれの評価においても優れた特性が確認された。特に主鎖の平均長に対するブロックセグメントの平均長が2~5である実施例1、2、5、6では非常に良好な結晶構造をとっており、磁性又は圧電特性の劣化がほとんどなかった。
一方、比較例1~4で得られた無機焼結体は残留炭素が多く、結晶構造も複雑で、磁性又は圧電特性が著しく劣化した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、低温分解性に優れ、ペロブスカイト型無機材料のキュリー点以下での脱脂が可能であり、ペロブスカイト型無機材料の磁力や圧電特性の劣化を抑制することができ、また、印刷性にも優れる無機微粒子分散スラリー組成物を提供できる。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いた無機微粒子分散シートの製造方法を提供できる。