(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】動的試験装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
G01M7/02 B
G01M7/02 G
G01M7/02 D
(21)【出願番号】P 2021212615
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊 栄生
(72)【発明者】
【氏名】樋園 康平
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-15544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を加振する動的試験装置であって、
試験体を保持可能な保持部を備え、前記試験体を保持した保持部を往復動可能に構成された振動部と、
前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、動電式の第1加振手段と、
前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、空気圧式の第2加振手段と、
前記第1加振手段と前記第2加振手段を制御して前記振動部を加振するための制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、振動の準静的領域で、前記第1加振手段および前記第2加振手段による個別の加振を行うよう、同じ制御信号に基づいて、当該第1加振手段および第2加振手段を制御することを特徴とする動的試験装置。
【請求項2】
前記制御手段は、入力する制御信号に基づいて、前記第1加振手段を制御するための第1信号と、前記第2加振手段を制御するための第2信号であって、ローパスフィルタを含むフィルタ部を介した第2信号と、を生成することを特徴とする請求項1に記載の動的試験装置。
【請求項3】
前記フィルタ部の伝達関数が、ゲインKと時定数T
0を含む次式、K/(T
0S+1)で表され、KおよびT
0を調整可能であることを特徴とする請求項2に記載の動的試験装置。
【請求項4】
前記制御手段は、Kを調整することにより、振動の静的領域において前記第2加振手段が前記振動部から受ける負荷を受け持つことを特徴とする請求項3に記載の動的試験装置。
【請求項5】
前記試験体に加わる荷重を計測する荷重計測手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記荷重計測手段の計測結果に基づき前記第1加振手段と前記第2加振手段を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の動的試験装置。
【請求項6】
試験体を加振する動的試験装置の制御方法であって、
試験体を保持可能な保持部を備え、前記試験体を保持した保持部を往復動可能に構成された振動部と、
前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、動電式の第1加振手段と、
前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、空気圧式の第2加振手段と、
を用意し、
前記第1加振手段と前記第2加振手段を制御して前記振動部を加振し、および、振動の準静的領域で、前記第1加振手段および前記第2加振手段による個別の加振を行うよう、同じ制御信号に基づいて、当該第1加振手段および第2加振手段を制御することを特徴とする制御方法。
【請求項7】
入力する制御信号に基づいて、前記第1加振手段を制御するための第1信号と、前記第2加振手段を制御するための第2信号であって、ローパスフィルタを含むフィルタ部を介した第2信号と、を生成することを特徴とする請求項6に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的試験装置およびその制御方法に関し、詳しくは、加振される試験体からの負荷を担う空気圧を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動的試験装置において、被検体に空気圧による静荷重を作用させながら、振動試験を行うことが知られている。特許文献1には、試験体とこれを保持して振動する可動部の重量と釣り合うように空気圧(空気ばね)が負担する静荷重を設定し、加振中にその設定した空気ばねによる静荷重を一定に制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の動的試験装置では、ボイスコイルモータによる可動部および被検体への加振の制御と、空気ばねが負担する静荷重の制御は、互いに関連せずに行われている。このため、例えば、加振入力信号の周波数が低い振動試験や、加振負荷が準静的に変動する振動試験を行う場合、ボイスコイルモータと空気ばねのそれぞれの周波数特性(応答性)の違いによって、制御が不安定になる恐れがある。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、空気ばねによって付加される静荷重を制御する際に生じる制御の不安定さを解消する動的試験装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る試験体を加振する動的試験装置は、試験体を保持可能な保持部を備え、前記振動部を保持した保持部を往復動可能に構成された振動部と、前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、動電式の第1加振手段と、前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、空気圧式の第2加振手段と、前記第1加振手段と前記第2加振手段を制御して前記振動部を加振するための制御手段と、を備え、前記制御手段は、振動の準静的領域で、前記第1加振手段および前記第2加振手段による個別の加振を行うよう、同じ制御信号に基づいて、当該第1加振手段および第2加振手段を制御することを特徴とする。
【0007】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る試験体を加振する動的試験装置の制御方法は、試験体を保持可能な保持部を備え、前記試験体を保持した保持部を往復動可能に構成された振動部と、前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、動電式の第1加振手段と、前記振動部を往復動させて当該振動部を加振する、空気圧式の第2加振手段と、を用意し、前記第1加振手段と前記第2加振手段を制御して前記振動部を加振し、および、振動の準静的領域で、前記第1加振手段および前記第2加振手段による個別の加振を行うよう、同じ制御信号に基づいて、当該第1加振手段および第2加振手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動的試験装置および動的試験装置の制御方法によれば、空気ばねによって付加される静荷重を制御する際に生じる制御の不安定さを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の動的試験装置の制御係の全体概要を表す、ブロック線図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の動的試験装置の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の実施形態の動的試験装置に用いるリニア式アクチュエータの概略図である。
【
図4】
図4は、変位を目標値として試験を行う場合の、グラフであり、(a)は、制御装置における目標とする変位の時間経過における変動を表すグラフであり、(b)は、アクチュエータによる発生力の時間経過における変動を示すグラフである。
【
図5】
図5は、荷重を目標値として試験を行う場合の、生じた荷重の時間経過における変動を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態の動的試験装置の制御系を表すブロック線図である。
【
図7】
図7は、
図6における制御系モデルの、特定の条件下での制御系の応答を表すシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は、各ブロックの特性を示すゲイン線図であり、(b)は、各ブロックの特性を示す位相線図である。
【
図8】
図8は、ゲインK、時定数T
0およびカットオフ周波数f
0を変化させた場合の、
図6における制御系のシミュレーション結果を表すグラフであり、(a)は、K=3、T
0=1.592、f
0=0.1(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、(b)は、K=3、T
0=0.531、f
0=0.3(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、(c)は、K=5、T
0=0.796、f
0=0.2(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、(d)は、K=5、T
0=0.318、f
0=0.5(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフである。
【
図9】
図9は、静的加振力が加えられる場合の時間変化における各加振力の変化を表すグラフであり、(a)は、必要な加振力の時間変化を示すグラフであり、(b)は、電気加振力の時間変化を示すグラフであり、(c)は、空気圧による加振力の時間変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、準静的加振力が加えられる場合の時間変化における各加振力の変化を表すグラフであり、(a)は、必要な加振力の時間変化を示すグラフであり、(b)は、電気加振力の時間変化を示すグラフであり、(c)は、空気圧による加振力の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
<制御系の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る動的試験装置100の制御系を示すブロック線図であり、動的試験装置100に入出力される制御信号の流れと制御系を構成する各ブロックを示している。動的試験装置100の制御装置に入力される目標値の制御信号は、フィードバック信号fbsと差がとられ、その差分信号はPID制御部1に入力する。PID制御部1でPID制御が施された信号Ueは、電力増幅器3およびフィルタ部2にそれぞれ入力する。ここで、目標値は、
図4、
図5にてその例が後述されるように動的試験の種類ないし目的に応じて異なる形態をとる。また、フィードバック信号fbsは、動的試験の種類に応じてその内容が切り替えられる。フィルタ部2は、伝達関数が一次遅れ系のK/(T
0S+1)で表され、後述されるようにローパスフィルタを構成する。なお、本実施形態ではフィルタ部2をソフトウエアによって実現するが、この形態に限定されず周知の他の構成によって実現されてもよい。電力増幅器3は、入力する信号Ueに応じた増幅信号を生成し、動的試験装置100のアクチュエータに供給する。これにより、アクチュエータは、
図2に後述される振動台に目標値の制御信号に応じた振動を生じさせることができる。また、フィルタ部2からの信号Uaは空気圧制御部4に入力し、空気圧制御部4はこの信号Uaに応じて、
図2にて後述するエア受圧部(空気バネ)の空気圧を制御する。
【0012】
保持治具に保持された試験体の振動は、センサによって感知され、フィードバック信号fbsとしてフィーバックされる。このフィードバック信号は、試験体の変位によって初期位置を決定した場合には変位の値が、試験体に加えられる荷重によって初期位置を決定した場合には荷重の値が、それぞれフィードバックされるようにフィードバックモードの切り替えを行う。
【0013】
<動的試験装置の概要>
図2は、本発明の実施形態の動的試験装置100を一部断面で示す模式図である。動的試験装置100は、クロスヘッド101、上部荷重計102、試験体保持治具103、下部荷重計104、昇降部106、動電式アクチュエータ110を備えて構成される。試験体保持治具103には、試験体105をプリロードによる所定のたわみhを有して固定することができる。
【0014】
図2における動電式アクチュエータ110は、変位センサ111、取り付け面112、励磁コイル113、駆動コイル114、ヨーク115、振動台116、上部ガイド117、下部ガイド118を含んで構成される。また、動電式アクチュエータ110の内部に形成されるエア受圧部(空気ばね)123は、受圧面120、エア室121、エア継手122を含んで構成される。エア受圧部123の空気圧は、空気圧制御部4によるバルブ等の切替え操作の制御を介して、エアタンク(不図示)に貯留された空気をエア受圧部123に供給し、またはエア受圧部123から空気を排出し、変化させることができる。
【0015】
励磁コイル113と駆動コイル114はボイスコイルモータを構成しており、励磁コイル113に直流電流を流しつつ、駆動コイル114に交流電流を流すことで、駆動コイル114が交流電流の周波数に応じた周波数で加振力を振動台116に加える。それにより、保持治具103に固定されている試験体105に加振力が加えられる。これと並行して、エア室121内の空気圧を静的又は準静的に変化させることで、駆動コイル114による加振力に加えて、空気圧による静的又は準静的な加振力が振動台116に加えられる。
【0016】
<アクチュエータの他の形態>
本発明の他の実施形態として、動電式アクチュエータ110の代わりに、
図3に示されるような、リニア式アクチュエータ200を用いることもできる。リニア式アクチュエータ200は、受圧面201、一次側コイル202、二次側磁石203、振動台206、取り付け面207、上部ガイド208、変位センサ209、および、下部ガイド210を含んで構成される。また、エア室204、エア継手205によってエア受圧部(空気ばね)211を構成する。
【0017】
このように、前述の動電加振機と空気ばねの組み合わせだけでなく、リニアモータと空気ばねの組み合わせを用いたリニア式アクチュエータ200によって、動的試験装置を構成することもでき、前記動電式アクチュエータ110を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0018】
さらに他の実施例として、動的試験装置が、油圧式加振機と空気ばねの組み合わせによって構成されても良い。
【0019】
<動的試験の例>
図4(a)、(b)および
図5は、本発明の実施形態に係る動的試験装置100において実行することが可能な動的試験の二つの例を示している。
【0020】
図4(a)、および(b)は、第1の例に係る、変位を目標値として試験体の性能試験を行う場合のグラフを示しており、
図4(a)は、制御における目標値の変位の時間経過における変化、すなわち、
図1にて上述した、動的試験装置100の制御装置に入力される制御信号を示している。一方、図(b)は、
図4(a)に示す制御信号に基づいて、動電式アクチュエータ110が発生する力(荷重)の時間経過における変化を示している。
【0021】
この性能試験は、一定のプリロード(たわみ)を加えて、動的加振をし、試験体のたわみと荷重を計測して、試験体のある周波数における動剛性、減衰を、その試験体の性能として求める。試験の回数により、試験体は硬くなったり柔らかくなったりする。荷重が一定の場合、試験体が硬くなるとたわみが小さくなり、逆に柔らかくなるとたわみが大きくなる。本試験は、例えば、一定の大きさのたわみ(変位)を受けるような環境で使用される部品などの試験体の試験に適している。
【0022】
ここで、例えば、
図4(a)に示されるように、試験体の初期位置が6mmとなるように一定のプリロードを加えた上で、周波数10Hz、変位が±5mmとなるように動的加振力を加える。このとき、試験体のばね定数が100N/mmの場合、
図4(b)に示されるように、動電式アクチュエータ110の発生力、すなわち、試験体に加わる荷重は、600±500Nとなる。なお、試験体の初期位置については、一例であり、これに限定されないことはもちろんである。
【0023】
図5は、第2の例に係る、荷重を目標値として試験を行う場合の、生じた荷重の時間経過における変化を示している。この試験は試験体の耐久試験を行うものであり、耐久試験は、一般には荷重基準であり、荷重が目標値となる。すなわち、この例では、
図1にて上述した、動的試験装置100の制御装置に入力される制御信号(目標値)は、
図5に示す動電式アクチュエータ110の発生力と同じものとなる。
【0024】
耐久試験は、
図5に示される試験パターンの波形で、連続加振して、耐久性を調べる。この耐久試験は、例えば、常に一定の荷重を受ける環境で使用される部品などを試験体とする試験に適している。また、加える荷重の周波数と大きさはユーザが試験体の使用条件に応じて設定する。
【0025】
例えば、試験体に加えられるプリロードが600Nであり、周波数10Hz、荷重の変化が±500Nとなるように動的加振を加える場合、
図5に示されるように生じた荷重の変動は最大で1100N、最小で100Nとなる。
【0026】
<制御系モデルの説明>
図6は、
図1に示した動的試験装置100の制御系モデルを表すブロック線図である。
【0027】
図6に示すメイン加振機5は、
図1にて上述した電力増幅器3と動的試験装置100のアクチュエータを含んで構成されるものであり、その応答特性は一時遅れ系として表現できる。また、エア部6は、同様に、
図1にて上述した空気圧制御部4と動的試験装置100のエア受圧部(空気ばね)123を含んで構成されるものであり、その応答特性も一時遅れ系として表現されるものである。さらに、被振動部7は、試験体とその保持治具など加振によって振動する部分であり、その応答特性は二次遅れ系として表現されるものである。
【0028】
図1にて上述したように、制御装置に入力される目標値の制御信号は、PID制御部1を経た制御信号Ueとして、メイン加振機5に入力するとともに、フィルタ部2に入力する。このフィルタ部2は伝達関数が一次遅れ系のK/(T
0S+1)で表され、
図7(a)および(b)にて具体的に後述されるように、入力する制御信号Ueの比較的低い周波数成分を通過させ、比較的高い周波数成分の通過を減じるローパスフィルタ(1次フィルタ)を構成する。より詳しくは、フィルタ部2から出力される制御信号Uaは、メイン加振機5へと送られる制御信号Ueに対してK倍の値を持ち、また、時定数T
0のゲインおよび位相の特性をもつ。ここで、KおよびT
0は調整可能であり、また、制御装置により、Kを調整することで、振動の静的領域においてエア部6が振動部から受ける負荷を受け持つことができる。
【0029】
図7(a)および(b)は、
図6に示すフィルタ部2の周波数特性を説明する線図であり、一例として、K=2、時定数T
0=1.592である場合の特性を示している。
図7(a)はゲイン線図を、
図7(b)は位相線図をそれぞれ示す。
図7(a)および(b)において、破線は、フィルタ部2の周波数特性を示し、一点鎖線は、
図6において、フィルタ部2およびエア部6が無い場合の制御系と電力増幅器3と動的試験装置100のアクチュエータを含めた開ループ伝達関数の周波数特性を示す。そして、実線は、
図6に示す本実施形態の制御系、つまり、フィルタ部2およびエア部6とメイン加振機5を合わせた制御系の周波数特性を示している。
【0030】
フィルタ部2の周波数特性は、
図7(a)における破線で示される。ここで周波数f
0と時定数T
0との関係は、f
0=1/(2πT
0)であり、以下も同様である。T
0=1.592の場合、周波数が0.1Hz〔1/(2πT
0)〕でゲインが減少し始める。すなわち、フィルタ部2は、入力信号のうち、周波数が1/(2πT
0)Hz(図に示す例では0.1(10
-1Hz);以下、「カットオフ周波数」とも言う)以下の領域(以下では、「準静的領域」ともいう)の周波数成分を通過させ、1/(2πT
0)Hzより高い周波数成分の通過を減少させる。そして、この準静的領域では、K=2である例では、エア部6が被振動部7の静的荷重の2/3を受け持ち、メイン加振機5が1/3を受け持つことになる。このようにフィルタ部2(およびエア部6)が存在することによって、本実施形態の制御系の全体では、実線で示すように、準静的領域において、メイン加振機5とエア部6の制御を関連付けて行うことができ、これにより、メイン加振機5とエア部6の応答性の違いにもかかわらず、安定した加振制御を行うことが可能となる。また、
図7(a)および(b)に示すように、周波数が10Hz以上の安定性に影響する高周波領域では、ゲインの増加、位相の遅れがなく、共にフィルタ部2およびエア部6が無い場合と同じ周波数特性を示す。
【0031】
なお、時定数T0およびK値について上記で示した値は一例であり、動的試験装置によって実現される系に応じてそれらの値が定まることはもちろんである。また、K値については、制御系の安定性を考慮に入れた上で決定される。また、時定数T0は、空気圧により担う荷重の周波数範囲を考慮して、低い周波数となるよう大きい値とする。一方、時定数T0が小さい場合、高周波領域の影響が大きくなることから、ゲインKを小さくするように調整する。
【0032】
以上説明したように、メイン加振機5によって発生する力とエア部6によって発生する力は、エア部6が試験体へのプリロードに当たる荷重を担当しつつ、試験体の静的又は準静的な応答へ対応することから、制御の不安定さを解消できる。すなわち、試験体を所定の位置に変位を保持することができ、また、所定の荷重位置にも保持することができ、目標位置へと試験体が保持されず変動してしまうのを防ぐことができる。
【0033】
<制御系モデルの他の例>
図8(a)~(d)は、ゲインKおよび時定数T
0(カットオフ周波数f
0)を変化させた場合の4つの例を示しており、
図6における制御系モデルのシミュレーション結果を表すグラフである。
図8(a)は、K=3、T
0=1.592、f
0=0.1(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、
図8(b)は、K=3、T
0=0.531、f
0=0.3(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、
図8(c)は、K=5、T
0=0.796、f
0=0.2(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフであり、
図8(d)は、K=5、T
0=0.318、f
0=0.5(Hz)の場合の周波数の変化に対する出力割合の変化を示したグラフである。
【0034】
図8(a)~(d)において、実線は、必要な加振信号を示し、破線は、エア部6の加振信号を示し、一点鎖線は、メイン加振機5の加振信号を示す。
【0035】
図8(a)~(d)のグラフを見ると分かるように、ゲインK、時定数T
0といったパラメータを変動させても、周波数が1Hz以下の準静的領域では、エア部6が加振出力の多くを担っている。それに対して、周波数が10Hz以上の高周波領域では、メイン加振機5が加振出力のほとんどを担っているのが分かる。
【0036】
このように、エア部6は応答性が低いため、速い外乱信号の変動には反応せず、周波数が1Hz以下の準静的領域でのみ加振信号を与えている。安定性に影響する高い周波数の速い信号の変動について、エア部がない時と同様に維持される。
【0037】
<時間変化における各加振力の変化>
図9は、静的加振力が加えられる場合の時間変化における各加振力の変化を表すグラフであり、
図9(a)は、K=5、f
0=0.1Hz、T
0=1.592の場合に、必要な加振力の時間変化を示すグラフであり、
図9(b)は、電気加振力の時間変化を示すグラフであり、
図9(c)は、空気圧による加振力の時間変化を示すグラフである。
【0038】
今、必用な静的加振力が600Nであり、必要な動的加振力が周波数10Hzで±500Nである場合を考える。すると、
図9(a)に示されるような試験体を加振するのに必要な加振力を、メイン加振機5のみで受け持つ場合には、必要な加振力は最大で1100Nとなる。それに対してエア部6を用いて静的負荷を一部受け持つ場合、ゲインK=5の時に、メイン加振機5の受け持つ静的負荷は、600Nの1/(5+1)倍となり、100Nである。エア部6の受け持つ静的負荷は、600Nの5/(5+1)倍で、500Nとなる。これにより、
図9(b)に示されるように、メイン加振機5の時間に対する加振力の変動は±600となり、
図9(c)に示されるように、エア部6の時間に対する加振力の変動は500Nで一定となる。
【0039】
静的荷重(プリロード)をメイン加振機5が受け持つ場合、常に一定の電流を流して力を出す必要がある。このため、常にエネルギーを消費することになる。また、静的荷重に加振能力の一部を使用するため、必要とされる動的加振力に加振能力が足りず、より大きな加振装置にする必要が出てくることから、さらに、エネルギーを消費することになり、エネルギー効率が悪くなる。
【0040】
エア部6を用いて、静的荷重(プリロード)を受け持つ場合、エア部6は、バルブを閉じることで、圧力を一定に保持することが可能であるため、わずかな空気漏れに対して空気を補給すればよいだけであり、メイン加振機5のみの場合に比べてエネルギー消費を小さくできる。
【0041】
このように、エア部6が受け持つ静的負荷を大きくすることで、メイン加振機5の受け持つ静的負荷を小さくでき、動的試験装置のエネルギー消費を小さくすることができ、エネルギー効率を改善することができる。
【0042】
<時間変化における各加振力の変化>
図10は、準静的加振力が加えられる場合の時間変化における各加振力の変化を表すグラフであり、
図10(a)は、K=5、f
0=0.2Hz、T
0=0.796の場合に、必要な加振力の時間変化を示すグラフであり、
図10(b)は、電気加振力の時間変化を示すグラフであり、
図10(c)は、空気圧による加振力の時間変化を示すグラフである。
【0043】
今、必要な準静的加振力が、周波数0.1Hzで600±300Nであり、必要な動的加振力が、周波数10Hzで±500Nである場合を考える。すると、
図10(a)に示されるような試験体を加振するのに必要な加振力を、メイン加振機5のみで受け持つ場合には、必要な加振力は最大で1400Nとなる。それに対してエア部6を用いて準静的負荷を全て受け持つ場合、ゲインK=5の時に、メイン加振機5の受け持つ静的負荷は、0Nである。エア部6の受け持つ静的負荷は、最大で900N、最小で300Nとなる。これにより、
図10(b)に示されるように、メイン加振機5の時間に対する加振力の変動は±500Nとなり、
図10(c)に示されるように、エア部6の時間に対する加振力の変動は最大で900N、最小で300Nとなる。
【0044】
この場合、前記の場合と比べて、0.1Hzで変動する準静的負荷をエア部6が受け持つことから、メイン加振機5におけるエネルギー効率をさらに改善することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 PID制御部
2 フィルタ部
3 電力増幅器
4 空気圧制御部
5 メイン加振機
6 エア部
7 被振動部
100 動的試験装置
102 上部荷重計
103 試験体保持治具
104 下部荷重計
105 試験体
110 動電式アクチュエータ
113 励磁コイル
114 駆動コイル
116 振動台
120 受圧面
121 エア室
122 エア継手
123 空気ばね
200 リニア式アクチュエータ