(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】三次元培養皮膚シート、その製造に使用するための細胞培養容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240619BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021512193
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2020015109
(87)【国際公開番号】W WO2020204106
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019072299
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】傳田 光洋
(72)【発明者】
【氏名】熊本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】長山 雅晴
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/222065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともケラチノサイトを含み、かつ、基底部の少なくとも一部に複数の凹部を有する三次元培養皮膚シートであって、
前記凹部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凹部の間隔幅が平均15μm~25μmである
、三次元培養皮膚シート
であって、
前記基底部に密着させた、複数の凸部を有する多孔性膜をさらに備え、
ここで前記凸部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の間隔幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の高さが平均25μm~35μmであり、
前記凸部が、前記基底部の前記凹部と密着していることを特徴とする、三次元培養皮膚シート。
【請求項2】
前記凹部の高さが、平均25μm~35μmである、請求項1に記載の三次元培養皮膚シート。
【請求項3】
前記三次元培養皮膚シートの平均の厚さが、50μm以上である、請求項1~
2のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
【請求項4】
前記多孔性膜が、平均0.2μm~3μmの平均孔径を有する、請求項
1~
3のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
【請求項5】
前記凸部が、樹脂からなる、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器であって、
培養表面の少なくとも一部に設けられた多孔性膜と、
前記多孔性膜の上に形成され、三次元培養皮膚シートの基底部に凹部を形成するための凸部と、
を備え、
ここで前記凸部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の間隔幅が平均15μm~25μmであ
り、かつ、前記凸部の高さが平均25μm~35μmであることを特徴とする、細胞培養容器。
【請求項7】
前記多孔性膜が、平均0.2μm~3μmの平均孔径を有する、請求項
6に記載の細胞培養容器。
【請求項8】
前記凸部が、樹脂からなる、請求項
6~
7のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項9】
三次元培養皮膚シートの製造方法であって、
(1)請求項
6~
8のいずれか1項に記載の細胞培養容器の多孔膜の上に、培地に懸濁したケラチノサイトを含む細胞を播種する工程、
(2)前記細胞培養容器の前記多孔性膜の外側に培地を接触させて培養する工程、
を含む、方法。
【請求項10】
さらに、
(3)前記細胞培養容器の前記多孔膜の上の培地を除去して、前記細胞を空気に暴露させながら培養する工程、
を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記ケラチノサイトが、生体組織から単離培養後、継代回数2以上のケラチノサイトを含む、請求項
9または
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元培養皮膚シートに関する。また、本発明は、三次元培養皮膚シートの製造に使用するための細胞培養容器に関する。また、本発明は、三次元培養皮膚シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は生体内と生体外の環境を分ける体表を覆う器官である。皮膚は、物理的なバリアとして働き、乾燥や有害物質が生体内へ侵入することから守り、生命の維持に不可欠な役割を果たしている。
【0003】
高等脊椎動物の皮膚は、最外層から大別すると表皮、真皮、皮下組織の層から形成されている。表皮と真皮の境界面には起伏を有しており、この起伏は、老化に伴い平坦化することが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。表皮は、主にケラチノサイトと呼ばれる細胞から構成されており、表皮の最深部(基底層)でケラチノサイトが分裂しながら、上層に向かって有棘層、顆粒層、そして角層へと分化しながら表面へと移動し、やがて垢となって脱落する。このサイクルはヒトの場合概ね4週間で行われる。
【0004】
表皮構造、及びその機能を生体外で模倣した様々な培養皮膚モデルの構築が試みられている(例えば、特許文献1及び非特許文献2)。近年、培養表面上に凸部を備えた多孔性膜で表皮細胞を培養することによる、肥厚化した三次元培養皮膚モデルが得られることが報告されている(特許文献2参照)。また、培養表面の表面形状が、表皮幹細胞の分化に影響を与えることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
培養皮膚モデルは、化粧品や皮膚へ塗布する薬剤の安全性試験や、基礎研究等で用いられており、動物を代替するモデルとして注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-235921号公報
【文献】国際公開第2017/222065号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Lavker R.M.Structural alterations in exposed and unexposed aged skin.J Invest Dermatol.1979 Jul;73(1):59-66.
【文献】Bell E.,et al.,The reconstitution of living skin.J Invest Dermatol.1983 Jul;81(1 Suppl):2s-10s.
【文献】Zijl S.,et al.,Acta Biomater.2019 Jan 15;84:133-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
継代回数が少ない初代培養細胞を用いた場合に限らず、皮膚を構成する任意の細胞を用いたとしても、生体と同等又はそれに近い厚さを有し、バリア機能を備えた三次元培養皮膚を、安価、安定的かつ簡便に得る技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、培養表面上の凸部の設計を最適化した多孔性膜で表皮細胞を培養することにより、従来の培養方法と比較して肥厚化又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られることを見出した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
[1] 少なくともケラチノサイトを含み、かつ、基底部の少なくとも一部に複数の凹部を有する三次元培養皮膚シートであって、
前記凹部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凹部の間隔幅が平均15μm~25μmであることを特徴とする、三次元培養皮膚シート。
[2] 前記凹部の高さが、平均5μm~40μmである、[1]に記載の三次元培養皮膚シート。
[3] 前記凹部の高さが、平均25μm~35μmである、[1]に記載の三次元培養皮膚シート。
[4] 前記三次元培養皮膚シートの平均の厚さが、50μm以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
[5] 前記基底部に密着させた、複数の凸部を有する多孔性膜をさらに備え、
ここで前記凸部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の間隔幅が平均15μm~25μmであり、
前記凸部が、前記基底部の前記凹部と密着していることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
[6] 前記凸部の高さが、平均5μm~40μmである、[5]に記載の三次元培養皮膚シート。
[7] 前記凸部の高さが、平均25μm~35μmである、[5]に記載の三次元培養皮膚シート。
[8] 前記多孔性膜が、平均0.2μm~3μmの平均孔径を有する、[5]~[7]のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
[9] 前記凸部が、樹脂からなる、[5]~[8]のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シート。
【0011】
[10] [1]~[9]のいずれか1項に記載の三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器であって、
培養表面の少なくとも一部に設けられた多孔性膜と、
前記多孔性膜の上に形成され、三次元培養皮膚シートの基底部に凹部を形成するための凸部と、
を備え、
ここで前記凸部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の間隔幅が平均15μm~25μmであることを特徴とする、細胞培養容器。
[11] 前記凸部の高さが、平均5μm~40μmである[10]に記載の細胞培養容器。
[12] 前記凸部の高さが、平均25μm~35μmである、[10]に記載の細胞培養容器。
[13] 前記多孔性膜が、平均0.2μm~3μmの平均孔径を有する、[10]~[12]のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
[14] 前記凸部が、樹脂からなる、[10]~[13]のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【0012】
[15] 三次元培養皮膚シートの製造方法であって、
(1)[10]~[14]のいずれか1項に記載の細胞培養容器の多孔膜の上に、培地に懸濁したケラチノサイトを含む細胞を播種する工程、
(2)前記細胞培養容器の前記多孔性膜の外側に培地を接触させて培養する工程、
を含む、方法。
[16] さらに、
(3)前記細胞培養容器の前記多孔膜の上の培地を除去して、前記細胞を空気に暴露させながら培養する工程、
を含む、[15]に記載の方法。
[17] 前記ケラチノサイトが、生体組織から単離培養後、継代回数2以上のケラチノサイトを含む、[15]または[16]に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の三次元培養皮膚シートよりも、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。これにより、化粧品や皮膚へ塗布する薬剤の安全性試験、基礎研究に有用な三次元皮膚モデルが提供可能となる。また、本発明の細胞培養容器を用いれば、従来の三次元培養皮膚シートよりも、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが安定的かつ安価に提供可能となる。さらにまた、本発明の培養方法を用いれば、従来の三次元培養皮膚シートよりも、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが安定的かつ安価に提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施態様を示す概念図を示す。(a)一実施態様における本発明の細胞培養容器の断面図を示す。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【
図2】本発明の三次元培養皮膚シートの構造を示す概念図である。
【
図3】一実施態様における本発明の細胞培養容器を示す概念図である。
【
図4】一実施態様における本発明の細胞培養容器を示す概念図である。
【
図5】一実施態様における本発明の細胞培養容器を示す概念図である。
【
図6】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートのHE染色像を示す。以下の凸幅×間隔を有する平均孔径0.4μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養した:(A)コントロール(凸部無し)、(B)凸幅20μm×間隔100μm、(C)凸幅25μm×間隔25μm、(D)凸幅50μm×間隔20μm、(E)凸幅20μm×間隔20μm、(F)凸幅30μm×間隔30μm、(G)凸幅50μm×間隔50μm。なお、凸部の高さは、(A)~(F):30μm、(G):50μmである。スケールバー=50μm。SC:角層、SG:顆粒層、SS:有棘層、SB:基底層。
【
図7】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートのHE染色像及び免疫染色像を示す。以下の凸幅×間隔を有する平均孔径0.4μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養した:(A)コントロール(凸部無し)、(B)凸幅20μm×間隔20μm。なお、凸部の高さは、全て30μmである。1段目:HE染色、2段目:抗Filaggrin抗体(赤)及びDAPI(青)、3段目:抗Loricrin抗体(赤)及びDAPI(青)、4段目:抗ZO-1抗体(赤)、抗Claudin-1抗体(緑)及びDAPI(青)。スケールバー=50μm。
【
図8】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートのHE染色像を示す。以下の凸幅×間隔を有する平均孔径1.0μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養した:(A)コントロール(凸部無し)、(B)凸幅20μm×間隔20μm、(C)凸幅30μm×間隔30μm、(D)凸幅15μm×間隔15μm、(E)凸幅25μm×間隔25μm、(F)凸幅50μm×間隔50μm。なお、凸部の高さは、全て30μmである。スケールバー=50μm。
【
図9】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートのHE染色像(
図8よりも低倍率)を示す。以下の凸幅×間隔を有する平均孔径1.0μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養した:(A)コントロール(凸部無し)、(B)凸幅15μm×間隔15μm、(C)凸幅20μm×間隔20μm、(D)凸幅30μm×間隔30μm、(E)凸幅50μm×間隔20μm。なお、凸部の高さは、全て30μmである。
【
図10】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートの免疫染色像を示す。以下の凸幅×間隔を有する平均孔径1.0μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養した:(A)コントロール(凸部無し)、(B)凸幅20μm×間隔20μm、(C)凸幅25μm×間隔25μm。左図:抗Filaggrin抗体(赤)及びDAPI(青)、右図:抗Loricrin抗体(赤)及びDAPI(青)。なお、凸部の高さは、全て30μmである。
【
図11】凸部を有する多孔性膜上で培養した三次元培皮膚シートのバリア機能(水分蒸散量)を評価した結果を示す。凸部を有する平均孔径1.0μmの多孔性膜上で継代回数4のケラチノサイトを培養して得た三次元培皮膚シートの水分蒸散量を調べた。(A)0~2時間まで、(B)2~4時間まで、(C)4~6時間までの経皮水分蒸散量(mg/cm
2/時間)を示している。Control:凸部無し、15-20:凸幅15μm×間隔20μm、20-20:凸幅20μm×間隔20μm、25-25:凸幅25μm×間隔25μm、30-30:凸幅30μm×間隔30μm、50-50:凸幅50μm×間隔50μm、EPS:EpiSkin(登録商標)。なお、凸部の高さは、全て30μmである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。なお、以下の「三次元培養皮膚シート」、「三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器」及び「三次元培養皮膚シートの製造方法」のそれぞれで説明されている事項は、「三次元培養皮膚シート」、「三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器」及び「三次元培養皮膚シートの製造方法」のいずれにおいても適用され得る。
【0016】
<三次元培養皮膚シート>
一実施態様において、本発明は、少なくともケラチノサイトを含み、かつ、基底部の少なくとも一部に複数の凹部を有する三次元培養皮膚シートであって、
前記凹部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凹部の間隔幅が平均15μm~25μmであることを特徴とする、三次元培養皮膚シートを提供する。
【0017】
図1は、本実施形態で使用する細胞培養容器1、及び、その一部の培養表面断面拡大部6を示す断面図である。細胞培養容器1は、細胞を播種するセルカルチャーインサート2と、セルカルチャーインサート2の外部に培地を満たすためのボトムウェル4とを含む。セルカルチャーインサート2は多孔性膜3を備えている。多孔性膜3上の細胞へ、多孔性膜3を通してセルカルチャーインサート2の外部を満たす培地5から、栄養分及び酸素等を供給することが可能である。本発明の実施形態において、多孔性膜3の表面には、本発明の三次元培養皮膚シート10に凹凸を形成するための凸部7を備えている。本発明の細胞培養容器1に表皮細胞を播種して培養することで、表皮細胞が重層化され、三次元培養皮膚シート10の基底部11(
図2参照、太線)の少なくとも一部に凹凸を有する、三次元培養皮膚シート10が得られる。
【0018】
本発明において、三次元培養皮膚シート10の「基底部」とは、表皮細胞を細胞培養容器1に播種した際、シート状に形成される表皮細胞の細胞培養容器表面に接する面をいい、例えば、
図1に示す多孔性膜3の表面、及び/又は、凸部7に接する面をいう(
図2参照、11、太線)。また、本発明において、「基底部」とは、生体の皮膚組織における、表皮と真皮の間に形成された基底膜に相当する構造体であるが、必ずしも生体の基底膜と同様の膜構造を有する必要はない。すなわち、本発明における「基底部」は、少なくとも一部に凹凸形状を有する「表皮基底膜様構造体」を含み、該表皮基底膜様構造体は、表皮細胞を含んでいる。また、該表皮基底膜様構造体は、生体の皮膚組織において表皮細胞が形成する基底膜を含んでもよい。
【0019】
図2は、
図1(b)から多孔性膜3及び凸部7を除いた三次元培養皮膚シート10を示す断面図である。三次元培養皮膚シート10は、細胞核を有しない角層9、及び、角層9以外の表皮細胞8を含んでいる。上述の多孔性膜3上に備えた凸部7によって、三次元培養皮膚シート10は、表皮細胞非存在領域Vが形成される。
【0020】
本発明において、三次元培養皮膚シート10の基底部11が有する「凹凸」とは、本発明の三次元培養皮膚シートにおいて、細胞培養容器の培養面に接する面の少なくとも一部に構成されるものであって、表皮細胞を平坦な培養器材表面で培養したときに偶発的に得られる起伏よりも大きな起伏をいう。本発明において、三次元培養皮膚シート10の凹部110とは、細胞培養容器の空気暴露(上層)方向に向かって陥没した基底部11の部分をいい、
図1の多孔性膜3上の凸部7によって形成される部分である(
図2参照)。一方、本発明において、三次元培養皮膚シートの凸部111とは、基底部11の凹部110以外の部分をいう。任意の凹部110の最陥没部と、その隣接する凸部111の先端部の、培養面に対する垂直方向の距離を凹部110の高さH’ということができる。三次元培養皮膚シート10に形成される凹部110の形状及び高さH’は、多孔性膜3上に備えられた凸部7の形状及び高さHに依存する。また、三次元培養皮膚シート10に形成される凹部110の間隔W’は、多孔性膜3上の凸部7の間隔幅Wに依存する。また、三次元培養皮膚シート10に形成される凹部110の幅Y’は、多孔性膜3上の凸部7により形成される凸部7の幅Yに依存する。
【0021】
三次元培養皮膚シートの凹部110の高さH’、間隔幅W’、及び/又は、幅Y’は、例えば、HE染色を行った組織切片を作製し、市販の光学顕微鏡を用いて測定してもよく、免疫組織化学法によって染色し、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡若しくは二光子レーザー顕微鏡を用いて観察して測定してもよく、電子顕微鏡を用いて観察して測定してもよく、特に限定されない。三次元培養皮膚シートの凹部110の高さH’は、通常の顕微鏡、蛍光顕微鏡等にカメラを装備した装置により取得される画像から測定することができる。顕微鏡としては、例えば、オリンパス株式会社 システム工業顕微鏡(落射透過兼用)BX51を用いることができる。カメラとしては、例えば、オリンパス株式会社顕微鏡用デジタルカメラ「DP71」を用いることができる。取得した画像は、画像解析の定法によりコンピュータ解析ソフトに取り込み、解析をすることができる。
【0022】
本明細書において、「三次元」とは、従来の付着細胞を細胞培養皿等での培養で得られるほぼ1層の細胞層、つまり、二次元の細胞層の状態とは異なり、細胞が垂直方向へと積み重なり、重層化した態様をいう。例えば、本発明の三次元培養皮膚シートは、表皮基底膜様構造に凹凸を有し、表皮細胞が重層化されて厚みをもった三次元化した構造体をいう。
【0023】
本明細書において、「三次元培養皮膚シート」とは、生体に生来的に備わっている皮膚組織とは区別されるものであって、細胞間の接着タンパク質を分解してバラバラにして得られた皮膚組織由来の細胞、及び/又は、多能性幹細胞から分化誘導して得られた皮膚を構成する細胞を含む細胞群を、細胞培養容器等に播種し、細胞培養容器上で培養して再構築したシート状の三次元皮膚様組織をいう。本発明において、三次元培養皮膚シートを構成する細胞は表皮細胞を含んでおり、三次元培養表皮シートということもできる。本発明において、三次元培養皮膚シート又は三次元培養表皮シートは、表皮細胞以外の細胞、例えば、表皮を構成する表皮細胞以外の細胞(メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞等)及び/又は、真皮組織に含まれる細胞(線維芽細胞、神経細胞、肥満細胞、形質細胞、血管内皮細胞、組織球、meissner小体、等)が含まれていてもよい。また、本発明の三次元培養皮膚シートは、さらに基底部11と接触した凸部を有する多孔性膜3を備えるものであってもよい。
【0024】
本発明の三次元培養皮膚シートを構成する細胞は、いずれの動物由来であってもよいが、脊椎動物由来が好ましく、哺乳動物由来がより好ましく、ヒト由来であることが最も好ましい。
【0025】
本発明において、「表皮細胞」とは、表皮を構成する分化段階の異なる全ての細胞を含む細胞をいう。表皮細胞は、主に、角化細胞又はケラチノサイトとも呼ばれる細胞から構成されている。生体において、表皮組織は、分化段階の異なる表皮細胞が層状に重なって形成されている。表皮の最深部は基底層又は基底細胞層(以下、「基底層」という。)と呼ばれ、円柱状の細胞が一層を形成し、幹細胞を含むと考えられている。基底層は真皮との境界面でもあり、その上層には有棘層が存在する。また、生体においては、基底層の直下に真皮を構成する乳頭層が存在する。
【0026】
有棘層とは、有棘細胞層とも呼ばれ、生体組織においては2~10層程度から構成されている。この層は、互いに棘で繋がっているように見えるために有棘層と呼ばれる。基底層の細胞のみが増殖能を有しており、表皮細胞は分化段階が進むにつれて扁平な形状に変化しながら外層へと移動する。
【0027】
有棘層より分化段階が進むと、ケラトヒアリン顆粒、ラメラ顆粒を有する顆粒層(顆粒細胞層)を形成する。顆粒層は、生体組織においては2~3層程度で構成されている。顆粒層よりさらに分化段階が進むと、細胞核が消失し、角層(角層細胞層)を形成する。表皮は大別して上述の4種類の層を構成するが、表皮組織は、表皮細胞の他にも、メラニン細胞、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞等が含まれており、それぞれ紫外線が真皮へ到達することを防いだり、皮膚の免疫機能に重要な役割を果たしたり、知覚に関与したりする。本発明においては、三次元培養皮膚シートは、表皮細胞以外の細胞が含まれても良く、使用する用途に応じて適宜変更することが可能である。
【0028】
皮膚が備える「バリア機能」とは、一般に、体内の水分や生体成分の損失を防止する機能や、生体外部から生体内部へ異物(微生物、ウイルス、ホコリ等)が入ることを防止する機能をいう。本明細書において、本発明の三次元培養皮膚シートが有するバリア機能は、経表皮水分蒸散量(Transepidermal water loss:TEWL)を調べることにより評価することができる。三次元培養皮膚シートからの経表皮水分蒸散量、すなわち、水分透過量が少ないほど、バリア機能が高いことを示す。本発明において、経表皮水分蒸散量を調べる方法は、当業者に用いられる一般的な方法を用いることができる(例えば、Kumamoto J.,Tsutsumi M.,Goto M.,Nagayama M.,Denda M.Japanese Cedar(Cryptomeria japonica)pollen allergen induces elevation of intracellular calcium in human keratinocytes and impairs epidermal barrier function of human skin ex vivo.Arch.Dermatol.Res.308:49-54,2016を参照のこと)。
【0029】
本発明において、三次元培養皮膚シートの凹部110の高さH’の平均は、例えば、1μm~50μm、好ましくは5μm~40μmの範囲である。凹部110の高さH’が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0030】
本発明において、三次元培養皮膚シートの凹部110の間隔幅W’の平均は、15μm~25μmの範囲であり、より好ましくは、17.5μm~22.5μm、最も好ましくは20μmである。凹部110の間隔幅W’が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0031】
本発明において、三次元培養皮膚シートの凹部110の幅Y’の平均は、15μm~25μmの範囲であり、より好ましくは、17.5μm~22.5μm、最も好ましくは20μmである。凹部110の間隔幅W’が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0032】
本発明の三次元培養皮膚シートは、その少なくとも一部に、基底部11に凹部110を有することより、凹部110を有さないものと比較して、基底部11上の表皮細胞層(例えば、有棘層、顆粒層及び/又は角質層)が、肥厚化した三次元培養皮膚シートが得られる。特に、本発明によって得られる三次元培養皮膚シートは、細胞や細胞接着タンパク質などの生体物質から構成される凸部によらず、非生体物質から構成される凸部によって物理的に基底部11に凹部110を形成させるだけで肥厚化するという優れた効果を発揮する。また、凸部が、非生体物質から構成される凸部である場合、培養期間中及びその後使用する場合においても、凸部が分解されることなく、安定的に三次元培養皮膚シートの基底部に凹部の形状を維持することができ、本発明の効果を持続させることができる。本発明の三次元培養皮膚シートの凹部110の平均の高さ、形状及び間隔幅は、細胞培養容器の多孔性膜表面に設けられた凸部の高さ、形状及び間隔幅等により制御可能である。また、本発明により得られる三次元培養皮膚シートは、従来の三次元培養皮膚シートと比較して経皮水分蒸散量が少なく、バリア機能が高い。三次元培養皮膚シートの基底部11の少なくとも一部に凹部110を有することにより、バリア機能が亢進する。三次元培養皮膚シートの基底部11は、培養表面(多孔性膜と凸部とを含む培養面)と密着していることが好ましい。三次元培養皮膚シートの基底部11が培養表面に密着していると、バリア機能がより向上する。より好ましくは、三次元培養皮膚シートの基底部11が培養表面の全面に密着している状態である。
【0033】
本発明において、多孔性膜表面に設けられた凸部は、生体物質により構成されたものでもよく、非生体物質により構成されたものでもよく、生体物質と非生体物質とを組み合わせて構成されたものであってもよい。本明細書において、「非生体物質」とは、生体物質、すなわち、生体を構成する生体高分子(核酸、タンパク質、多糖及びこれらの構成要素(ヌクレオチド、ヌクレシド、アミノ酸、糖))や、ビタミンなどを除く物質をいう。本発明の凸部を構成するために用いられる非生体物質は、細胞の培養に影響を与えない生体適合性物質であることが好ましい。本発明において、多孔性膜表面に設けられた凸部は、さらに、表面に生体物質、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、ビトロネクチン、ポリリジン(D体、L体)、トロンボスポンジン等がコートされたものであってもよい。
【0034】
従来の三次元培養皮膚シートは、細胞外マトリックスを構成するタンパク質を含むゲルを、凹凸を有するモールドに流し込んで形成した凹凸面に、表皮細胞を播種することで作製していた(例えば、米国特許出願公開第2011/0171180号明細書)。しかし、当該方法では、培養面全体がタンパク質を含むゲルによって形成されているため、これらが培養中に分解されてしまい、その結果、細胞が接着できず、三次元培養皮膚シートが収縮するという問題があった。一方、本発明では、該凸部が、伸縮しない多孔性膜表面上に設けられており、培養しても培養面は分解されないため、収縮していない三次元培養皮膚シートを得ることができる。
【0035】
本発明において用いられる細胞は、初代表皮細胞であってもよく、初代表皮細胞を継代操作して増殖させた表皮細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞、又はMuse細胞等の多能性幹細胞から分化誘導して得られる表皮細胞を用いてもよく、株化された表皮細胞であってもよい。好ましくは、生体組織から採取して播種した初代培養表皮細胞、又は該初代培養細胞をさらに継代処理して得られた継代表皮細胞である。生体組織から採取して得られた表皮細胞であれば、生体と同様の性質を維持している可能性が高く、薬剤の効能、副作用を調べる試験を行ったり、基礎研究を行う上で使用する際に都合が良い。
【0036】
本明細書において、初代培養表皮細胞とは、生体組織から採取した後に細胞培養容器で一度だけ培養されて回収された表皮細胞であり、「継代回数0(又は、第1世代)」の表皮細胞ともいう。コンフルエント又はサブコンフルエントとなった継代回数0の表皮細胞を、継代操作により、さらに増幅培養することが可能である。1度の継代操作により得られた表皮細胞は、「継代回数1(又は、第2世代)」の表皮細胞という。継代操作数に対応して「継代回数2、3、4・・・n(n(整数)は継代回数)(第n+1世代)」と表現することができる。市販の初代培養細胞(例えば、クラボウ社の凍結NHEK(NB)、カタログ番号:KK-4009)は、継代回数0~継代回数2程度のものを初代培養細胞として提供されている。市販の初代培養細胞を本発明に用いる場合、継代回数は、添付の書類等に記載されている継代回数又は世代数を参考すればよい。各継代操作の間に、細胞を凍結処理する工程が含まれていてもよい。
【0037】
通常、株化されていない体細胞の多くは、継代操作を繰り返すことによって性質が変化したり、構成される細胞の割合が変化したりするため、継代回数が少ない細胞集団とは異なる細胞集団へと変化する。これは継代を繰り返して細胞分裂を繰り返す度にテロメアが短くなったり、コンフルエントになること及び/又はトリプシン処理等によって、生物学的なストレス及び/又は物理的なストレスが加わったことによって細胞の老化が引き起こされることが原因と考えられている。そのため、通常は、培養細胞を使用した組織モデルを作製する場合は、継代回数が少ない細胞が用いられる。
【0038】
しかしながら、初代培養細胞は、直接生体組織から単離された細胞であり、継代回数が少ないために、供給可能な細胞数に限界がある。倫理的な問題から採取できる組織の大きさや量が限られているだけでなく、ドナーによっても得られる細胞の性質にばらつきも存在する。初代培養細胞は市販されているものもあるが、供給量の点から、必然的に高価格となる。そのため、大量の三次元培養皮膚シートを構築する必要がある場合は、高価な細胞を大量に入手する必要があり、コスト面で問題があった。安価に製造するためには、初代培養細胞を継代して増殖させて使用することも可能であるが、上述のように、得られた細胞は、必ずしも初代培養細胞と同様の性質を示すとは限らない。表皮細胞の三次元培養皮膚モデルを作製する場合、初代表皮細胞やその細胞を三次元化するキットが市販されており、それを購入して作製することが可能であるが(例えば、ケラチノサイト三次元培養スターターキット、CELLnTEC社)、2以上の継代回数の表皮細胞を用いた場合、自発的に三次元化する性質が弱まり、厚い三次元培養皮膚モデル(三次元培養皮膚シートともいう。)が得られない等の問題がある。
【0039】
本発明の実施形態において、三次元培養皮膚シートの基底部11に凹部110を有したものであれば、従来、初代培養細胞(例えば、継代回数0又は1)でしか得られなかった肥厚化した三次元培養皮膚シートが、生体組織から単離培養後、継代回数2以上の表皮細胞を用いた場合であっても構築される。初代培養細胞(例えば、継代回数0又は1)を用いた場合も、本発明によって肥厚化した三次元培養皮膚シートが得られる。使用される表皮細胞の継代回数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10以上であってよく、三次元培養皮膚シートの有棘層、顆粒層、及び/又は角層が肥厚化するものであれば限定されない。本発明の実施形態において、使用される初代表皮細胞の動物種は、特に限定されないが、好ましくはヒト由来である。また、本発明の実施形態において、使用される初代表皮細胞は、胎児、新生児、未成年、又は成人由来等いずれのものであってもよいが、好ましくは胎児、新生児、又は未成年由来の細胞である。ヒトの未成年由来の細胞を用いる場合、例えば、20歳未満、1~19歳、1~10歳、1~5歳の細胞を用いるのが好ましい。ヒトの成人由来の細胞を用いる場合であっても、若年、例えば、20歳~29歳、30歳~39歳、40歳~49歳の細胞を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態において、三次元培養皮膚シートの平均の厚さは、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、90μm以上、95μm以上、100μm以上、105μm以上、110μm以上、115μm以上、120μm以上、125μ以上、150μm以上、175μm以上、200μm以上、225μm以上、250μm以上、275μm以上、300μm以上であってもよい。好ましい平均の厚さは50μm以上である。三次元培養皮膚シートの平均の厚さの上限値は、表皮細胞の動物種、継代回数、年齢等により変化するため、特に限定されない。
【0041】
<三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器>
一実施態様において、本発明は、
培養表面の少なくとも一部に設けられた多孔性膜と、
前記多孔性膜の上に形成され、三次元培養皮膚シートの基底部に凹部を形成するための凸部と、を備え、
ここで前記凸部の幅が平均15μm~25μmであり、かつ、前記凸部の間隔幅が平均15μm~25μmであることを特徴とする、三次元培養皮膚シートを製造するための細胞培養容器を提供する。
【0042】
図3は、本発明の細胞培養容器1の一実施態様を示す。多孔性膜3上には、本発明の三次元培養皮膚シートに凹部110を形成するための凸部71が直接形成されている。凸部71は、円柱構造を有している。凸部7の高さH1を調節することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹部110の高さH’を制御することが可能である。例えば、
図3(b)に示すように、凸部71aは正方形の格子点に位置するように配置可能である。凸部間隔幅W1aを調整することによって、前述の本発明の三次元培養皮膚シートの凸部間隔幅W’を制御することが可能である。例えば、
図3(c)に示すとおり、凸部71bは、正三角形の格子点に位置するように配置されている。凸部間隔幅W1bを調整することによって、前述の本発明の三次元培養皮膚シートの凸部間隔幅W’を制御することが可能である。また、凸部幅Y1を調整することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹部幅Y’を制御することが可能である。
【0043】
図4は、本発明の細胞培養容器1の一実施態様を示す。多孔性膜3上には、本発明の三次元培養皮膚シートに凹凸を形成するための凸部72が配置されている。凸部72は、角柱形状の一種である立方体形状を有している。凸部の高さH2を調節することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹凸の高さH’を制御することが可能である。例えば、
図4(b)に示すように、凸部72aは正方形の格子点に位置するように配置可能である。凸部間隔幅W2aを調整することによって、前述の本発明の三次元培養皮膚シートの凸部間隔幅W’を制御することが可能である。例えば、
図4(c)に示すとおり、凸部72bの重心が、正三角形の格子点に位置するように配置可能である。凸部間隔幅W2bを調整することによって、前述の本発明の三次元培養皮膚シートの凸部間隔幅W’を制御することが可能である。また、凸部幅Y2を調整することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹部幅Y’を制御することが可能である。
【0044】
図5は、本発明の細胞培養容器1に設けられる凸部(73、74、75)の実施形態を示す断面図である。例えば、
図5(a)は、錐体形状(三角錐、四角錐、若しくは円錐)を有する凸部73を示す。例えば、
図5(b)は、錐台形状を有する凸部74を示す。例えば、
図5(c)は、釣鐘型を有する凸部75を示す。それぞれの凸部の高さ(H3、H4、H5)を調整することにより、本発明の三次元培養皮膚シートの凹凸の高さH’を制御することが可能である。凸部間隔幅(W3、W4、W5)を調整することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹部間隔幅W’を制御することが可能である。また、凸部幅(Y3、Y4、Y5)を調整することによって、本発明の三次元培養皮膚シートの凹部幅Y’を制御することが可能である。それぞれの凸部(73、74、75)の平面上の配置は、
図3及び
図4と同様に配置することが可能であるが、これに限定されない。
【0045】
本発明の実施態様において、凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)の形状については上記に限定されないが、例えば、略半球形、略直方体形等も含まれる。
【0046】
凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)の表面に、細胞が接着しやすいように公知の方法によってプラズマ処理等が行われていても良い。
【0047】
本発明の細胞培養容器1において、凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)の間隔幅(W、W1、W2、W3、W4、W5)の平均は、15μm~25μmの範囲であり、より好ましくは、17.5μm~22.5μm、最も好ましくは20μmである。凸部の間隔幅(W、W1、W2、W3、W4、W5)が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0048】
本発明の細胞培養容器1において、凸部の高さ(H、H1、H2、H3、H4、H5)の平均は、例えば、1μm~50μm、好ましくは5μm~40μmの範囲である。凸部の高さ(H、H1、H2、H3、H4、H5)が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0049】
本発明の細胞培養容器1において、凸部幅(Y、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5)の平均は、15μm~25μmの範囲であり、より好ましくは、17.5μm~22.5μm、最も好ましくは20μmである。凸部幅(Y、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5)が上記の範囲であれば、肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した三次元培養皮膚シートが得られる。
【0050】
凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)は、多孔質膜3上に直接形成されていることが好ましく、例えば、3Dプリンタ技術又は半導体プロセス技術(例えば、リソグラフィープロセス(フォトリソグラフィ、マスクレスフォトリソグラフィなど)及びドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)又はウエットエッチングを組み合わせた方法等)等で使用される方法で形成することができる。凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)の材質については、生体物質により構成されたものでもよく、非生体物質により構成されたものでもよく、生体物質と非生体物質とを組み合わせて構成されたものであってもよい。例えば、ポリエステル若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ジルコニア、ガラス不溶性コラーゲン、シリコンゴム、樹脂(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)が挙げられ、細胞培養が可能であれば、その他材質で形成されてもよい。凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)は、多孔性膜3の上に直接形成されていることが好ましい。凸部(7、71、71a、71b、72、72a、72b、73、74、75)が、多孔性膜3の上に直接形成されていることによって、表皮細胞が凸部の下部に潜り込まず、肥厚化及び/又はバリア機能の向上効果が著しく発揮される。
【0051】
本発明の実施形態において使用される細胞培養容器1の材質は、通常細胞培養容器に用いられる材質であれば特に限定されない。例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等である。本発明に用いられる細胞培養容器の形状は特に限定されないが、ディッシュ型、マルチウエルプレート型、フラスコ型等が挙げられる。本発明の細胞培養容器は、その細胞培養容器の一部に多孔性膜を有するため、セルカルチャーインサート型であることが好ましい。本発明に用いられるセルカルチャーインサートとは、細胞は透過できないが、培養液等は透過できる多孔性の孔を有する膜を備えた細胞培養容器をいう。多孔性膜の培養表面の反対側、つまり、付着細胞の付着面の裏側からも培養液等を供給することが可能である。本発明に用いられるセルカルチャーインサートは、市販のものを使用してもよく、多孔性膜の培養表面上に直接凸部を設けた膜を有するセルカルチャーインサートであってもよい。多孔性膜の平均孔径は、0.1μm~5.0μm、好ましくは0.2μm~3.0μm、さらに好ましくは0.3~1.5μmである。この範囲の細孔を有する多孔性膜を用いることにより、肥厚化及び/又はバリア機能が向上した三次元培養皮膚シートが得られる。多孔性膜の細孔密度は、例えば、1×105~1×109個/cm2、好ましくは5×105~5×108個/cm2、より好ましくは1×106~5×108個/cm2である。多孔性膜の平均の厚さは、例えば1~50μm、好ましくは3~25μm、より好ましくは5~20μmである。多孔性膜の素材は、従来の細胞培養に用いられる多孔性膜と同様、例えば、ポリエステル若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)、又は、ポリカーボネート、ポリスチレン等を用いれば良い。
【0052】
本発明の実施形態において、多孔性膜3上に凸部を有する細胞培養容器に細胞が付着して増殖しやすいように、培養表面をコーティングしてもよい。例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、ビトロネクチン、ポリリジン(D体、L体)、トロンボスポンジン、フィブリン等が挙げられる。
【0053】
<三次元培養皮膚シートの製造方法>
一実施態様において、本発明は、
(1)上記の細胞培養容器の多孔膜の上に、培地に懸濁したケラチノサイトを含む細胞を播種する工程、
(2)前記細胞培養容器の前記多孔性膜の外側に培地を接触させて培養する工程、
を含む、三次元培養皮膚シートの製造方法を提供する。
【0054】
他の実施態様において、本発明は、上記工程に加え、さらに
(3)前記細胞培養容器の前記多孔膜の上の培地を除去して、前記細胞を空気に暴露させながら培養する工程、
を含む、方法であってもよい。
【0055】
本発明の方法において用いられるケラチノサイトを含む細胞の数は、公知の方法に従えばよい。例えば、細胞を、0.01×106~10.0×106個/cm2、好ましくは0.05×106~5.0×106個/cm2、より好ましくは0.1×106~1.0×106個/cm2の量で播種する。本発明において用いられる培地(培養液ともいう)は、表皮細胞の培養に通常使用される培地、例えばKG培地、EpilifeKG2(クラボウ社)、Humedia-KG2(クラボウ社)、アッセイ培地(TOYOBO社)、CnT-Prime,Epithelial culture medium(CELLnTEC社)などを用いることができる、約37℃で0~14日間かけて行うことができる。培地としては、その他にDMEM培地(GIBCO社)又は2-0-a-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸含有KGMとDMEMを1:1混合した培地などが使用できる。表皮細胞の三次元化(重層化)には、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)を用いても良い。その他、培地を使用することが可能である。
【0056】
本発明の実施形態において、表皮細胞を培養し、三次元化(重層化)して角質化を促進するために、上述のセルカルチャーインサート2を含む細胞培養容器1に播種し、増殖培養させればよい。具体的には、表皮細胞を培地に懸濁し、セルカルチャーインサート2上に播種する。セルカルチャーインサートの多孔性膜3の外側に培地を接触させるように、ボトムウェル4にも培地を添加して、セルカルチャーインサート2を浸漬させて培養する。これにより、表皮細胞の上部及び底部の両方から培地が供給されて培養される。
【0057】
セルカルチャーインサート2上の表皮細胞が、コンフルエント又はサブコンフルエントになるまで数日間程度(1~6日間程度、好ましくは2~4日間程度)培養させることが好ましい。その後、細胞を三次元化(重層化)をさらに促進するために、セルカルチャーインサート内外の培地を、例えば、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)へ交換することが好ましい。これにより、さらに表皮細胞の三次元化が促進される。CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)へと培地を交換して培養後、1~36時間後、好ましくは6時間~24時間後、さらに好ましくは12時間~18時間後、セルカルチャーインサートの内部の培地のみを除去して表皮細胞の上面を気相に暴露して培養することが好ましい。これによって、表皮細胞の三次元化及び角質化が促進され、より厚い三次元培養皮膚シートが得られる。
【0058】
なお、本発明における各培養工程の培養温度は由来動物の体温付近であればよく、具体的にはヒト細胞の場合は、33~38℃程度とするのが好適である。
【0059】
上記のようにして本発明によって得られる三次元培養皮膚シートは、動物実験代替法の一つ、例えば皮膚モデルとして用いることができる。例えば、皮膚の化学物質(例えば、化粧料、工業製品、家庭用品、薬剤、皮膚外用剤等)に対する反応性を評価する方法に用いることができる。また、本発明の三次元培養皮膚シートは、従来の三次元培養皮膚シートと比較してより肥厚化及び/又はバリア機能が亢進した組織が得られるため、皮膚科学の基礎研究においても有用な皮膚モデルとして使用することが可能である。さらにまた、本発明で得られた三次元培養皮膚シートは、従来の三次元培養皮膚シートと比較して肥厚化していることから、外部からのバリア機能も高く、熱傷、創傷等を治癒するための三次元培養皮膚シートとしても有用である。
【0060】
一実施態様において、本発明に用いられる細胞培養容器は、該凸部と該多孔性膜とが培養終了後に分離可能な細胞培養容器であっても良い。この場合、該細胞培養容器で製造した三次元培養皮膚シートは、その基底部に該凸部を接触させたまま該多孔性膜から分離される。そのため、該三次元培養皮膚シートの基底部は、凹凸構造を維持したまま移動させることが可能となる。本発明に用いられる細胞培養容器は、該凸部が、生体物質、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ゼラチン、ビトロネクチン、ポリリジン(D体、L体)、トロンボスポンジン等を含む生体物質であることが好ましく、特に、不溶性コラーゲンであることがより好ましい。
【0061】
<三次元培養皮膚シートを用いた皮膚のバリア機能を改善及び/又は回復させる対象物質を評価する方法>
一実施態様において、本発明の三次元培養皮膚シートに、対象物質を添加することによって、皮膚のバリア機能を改善及び/又は回復させる対象物質を評価する方法を提供することができる。
【0062】
例えば、本発明の三次元培養皮膚シートに対象物質を添加後、三次元培養皮膚シートの表面から蒸発する水分蒸散量を測定することによって、皮膚のバリア機能の変化を評価することができる(Kumamoto J.,et al.,Arch.Dermatol.Res.308:49-54,2016を参照)。また、本発明の三次元培養皮膚シートに対象物質を添加後、皮膚のバリア機能に関連する公知のマーカー(例えば、Filaggrin、Loricrin、ZO-1、Claudin-1など)の発現を調べることによって皮膚のバリア機能の変化を評価することができる。
【0063】
本実施態様において、皮膚のバリア機能を改善及び/又は回復させる対象物質としては、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物もしくは抽出物又は培養産物などであってもよい。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0065】
<細胞の準備>
本発明に用いられる表皮細胞は、新生児由来ケラチノサイト(以下、「ケラチノサイト」。クラボウ社、製品名:凍結NHEK(NB)、カタログ番号:KK-4009)を使用した。継代培養は、販売会社から提供されたインストラクションに従い行った。
【0066】
<実施例1>
1.材料及び実験方法
1-1.凸部を有するセルカルチャーインサート(細孔サイズ:0.4μm)の作製
(1)12-Well Millicell Hanging Cell Culture inserts PET(細孔サイズ:0.4μm、Millipore)から多孔性膜のみ剥がし、多孔性膜を80℃に加熱して光感光性樹脂シート(30μm又は50μmの厚さ)をローラーで押し当ててラミネートした。
(2)意図する凸部の幅と凸部の間隔幅の円形の孔が設けられているフォトマスクを、光感光性樹脂シートをラミネートした多孔性膜に被せ、フォトマスクを介してUV光を照射した。これにより、UV光の通過/遮光部のパターンが光感光性樹脂シートに転写された。UV光が照射された光感受性樹脂のみが硬化した。
(3)(2)で得られた多孔性膜を有機溶剤に浸漬して現像した。これにより、UV光照射部のみがパターンとして残り、遮光部は現像によって除去された。
(4)(3)で得られた多孔性膜をエタノールに浸漬して、洗浄した。その後、凸部が形成された多孔性膜をセルカルチャーインサートの枠に再び取り付けた。
【0067】
1-2.凸部を有するセルカルチャーインサートを用いた三次元培養皮膚シートの作製及び観察
(1)CELLstart CTS (gibco社)をDPBS(gibco社)で50倍希釈し、1つのセルカルチャーインサートに86μL滴下し、2時間37℃の条件に維持した。
(2)CELLstart CTSを除去し、継代回数4の新生児由来ケラチノサイト22~25万個をCnT-Prime,Epithelial culture medium(CELLnTEC社) 500μLに分散し、セルカルチャーインサート内に滴下、同じ培地(CnT-Prime,Epithelial culture medium)を1mLセルカルチャーインサート外部に滴下し、72時間37℃、CO2インキュベーターで培養した。
(3)セルカルチャーインサート内外のCnT-Prime、Epithelial culture mediumを除去し、CnT-Prime、3D barrier medium(CELLnTEC社)で置き換え、16時間37℃CO2インキュベーターで培養した。
(4)セルカルチャーインサート内外の培地を除去し、セルカルチャーインサート内は空気に曝露し、セルカルチャーインサート外に500μL CnT-Prime、3D barrier mediumを入れた。
(5)毎日セルカルチャーインサート外の500μL CnT-Prime、3D barrier mediumを交換しながら37℃CO2インキュベーターで7日間培養した。
(6)セルカルチャーインサート内膜ごと三次元培養皮膚シートを切り取り、4%パラフォルムアルデヒドPBS溶液で固定し、組織切片標本を作製して、公知の方法従ってヘマトキシリン・エオジン(HE)染色又は免疫組織染色(抗Filaggrin抗体(sc-30229,Santa Cruz,Dallas,USA)、抗Loricrin抗体(PRB-145P,Biolegend,San Diego,USA)、抗ZO-1抗体(#33-9100,Invitrogen,Carlsbad,USA)、抗Claudin-1抗体(#51-9000,Invitrogen,Carlsbad,USA)又はDAPI(R37606,Invitrogen,Carlsbad,USA)を行い、顕微鏡にて観察した。
【0068】
2.結果
平均0.4μmの細孔を有する多孔性膜上に高さ(30μm又は50μm)、幅(20μm~50μm)及び間隔(15μm~50μm)を変えた凸部を形成し、その上でケラチノサイトを培養した(
図6)。その結果、凸部の高さ:30μm、凸部の幅:20μm、凸部の間隔:20μmで設計された凸部を有する多孔性膜が、三次元培養皮膚シートを肥厚化させる効果が最も高かった。
【0069】
また、凸部を有さない多孔性膜と、凸部の高さ:30μm、凸部の幅:20μm、凸部の間隔:20μmで設計された凸部を有する多孔性膜で作製した三次元培養皮膚シートについて、免疫組織染色を行った(
図7)。抗フィラグリン(Filaggrin)抗体(顆粒細胞のマーカー抗体)、抗ロリクリン(Loricrin)抗体(顆粒層のマーカー抗体)、抗ZO-1抗体及び抗Claudin-1抗体(タイトジャンクションのマーカー抗体)で染色した結果、より広い範囲に特にZO-1、Claudin-1が特有の構造をもって、より明確に発現していた。
【0070】
<実施例2>
12-Well Millicell Hanging Cell Culture inserts PET(1.0μm、Millipore)を用いること以外、実施例1と同じ手順により三次元培養皮膚シートを作製し、観察した。
【0071】
平均1.0μmの細孔を有する多孔性膜上に高さ(30μm)、幅(15μm~50μm)及び間隔(15μm~30μm)を変えた凸部を形成し、その上でケラチノサイトを培養した(
図8及び9)。その結果、凸部の高さ:30μm、凸部の幅:20~25μm、凸部の間隔:20~25μmで設計された凸部を有する多孔性膜が、三次元培養皮膚シートの角層を肥厚化させる効果が最も高かった。
【0072】
また、凸部を有さない多孔性膜、高さ:30μm、幅:20μm、間隔:20μmで設計された凸部を有する多孔性膜、及び、高さ:30μm、幅:20μm、間隔:20μmで設計された凸部を有する多孔性膜で作製した三次元培養皮膚シートについて、免疫組織染色を行った(
図10)。抗フィラグリン(Filaggrin)抗体(顆粒細胞のマーカー抗体)、抗ロリクリン(Loricrin)抗体(顆粒層のマーカー抗体)で染色した結果、それぞれの発現は認められたが、Filaggrin及びLoricrinの発現の範囲は狭かった。
【0073】
<実施例3>
バリア機能の評価
12-Well Millicell Hanging Cell Culture inserts PET(1.0μm、Millipore)を用いること以外、実施例1と同じ手順により三次元培養皮膚シートを作製した。
【0074】
三次元培養皮膚シートを構築したセルカルチャーインサートを、底部に培養液を入れたシリコンゴム容器にはめこみ、水分蒸散が表皮モデル表面からのみ起きるようにした。その後、2時間おきにインサートをはめこんだ容器の重量を測定し、減少した重量を水分蒸散量とし、単位面積当たりの数値に換算した。この手法はKumamotoの論文(Kumamoto J.,Tsutsumi M.,Goto M.,Nagayama M.,Denda M.Japanese Cedar(Cryptomeria japonica)pollen allergen induces elevation of intracellular calcium in human keratinocytes and impairs epidermal barrier function of human skin ex vivo.Arch.Dermatol.Res.308:49-54,2016を参照のこと)に記載された方法と同じ原理である。
【0075】
比較例として、市販の三次元皮膚モデル(Episkin(登録商標)、ニコダームリサーチ)のバリア機能も評価した。
【0076】
得られた結果は、統計学的に解析を行い、(ANOVA分散解析後Scheffeによる多重検定解析)、膜のみで培養して得られた三次元培養皮膚シートと比較して、多重検定の結果、p<0.05であるものを有意差があるものと判断した。
【0077】
その結果、凸部の高さ:30μm、凸部の幅:20μm、凸部の間隔:20μmで設計された凸部を有する多孔性膜(平均細孔サイズ:1.0μm)を用いて作製した三次元培養皮膚シートが、最も経皮水分蒸散量が少なく、高角層バリア機能を有していることが明らかとなった(
図11)。
【符号の説明】
【0078】
1 細胞培養容器
2 セルカルチャーインサート
3 多孔性膜
4 ボトムウェル
5 培地
6 培養表面断面拡大部
7、71、71a、71b、72、72a、72b、73~75 凸部
8 表皮細胞
9 角層
10 三次元培養皮膚シート
11 基底部(太線)
110 三次元培養皮膚シートの凹部
111 三次元培養皮膚シートの凸部
H~H5 凸部の高さ
H’ 三次元培養皮膚シートの凹部の高さ
V 表皮細胞非存在領域
W、W1、W1a、W1b、W2、W2a、W2b、W3~W5 凸部間隔幅
W’ 三次元培養皮膚シート凸部間隔幅
Y、Y1~Y5 凸部幅
Y’ 三次元培養皮膚シート凹部の幅