(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】炭素含有量が低減された中マンガン冷間圧延帯鋼中間材およびそのような鋼中間材を提供するための方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20240619BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240619BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240619BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C21D9/46 G
C22C38/00 301S
C22C38/14
C22C38/38
C22C38/00 302A
(21)【出願番号】P 2021524107
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2019067977
(87)【国際公開番号】W WO2020011638
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-25
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506029255
【氏名又は名称】フェストアルピネ シュタール ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE STAHL GMBH
【住所又は居所原語表記】VOESTALPINE-STRASSE 3, A-4020 LINZ, AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリザン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】スタイニーダー,キャサリーナ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ラインホルト
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03222734(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第107858586(CN,A)
【文献】国際公開第2017/222189(WO,A1)
【文献】特表2016-513169(JP,A)
【文献】P.J.Gibbs,Austenite Stability Effects on Tensile Behavior of Manganese-Enriched-Austenite Transformation-Induced Plasticity Steel,Metallurgical and Materials Transactions A,vol.42,米国,Springer US,2011年12月,3691-3702
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも40%のfts値を示す中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を提供するための方法であって、
前記fts値は、ノッチのない鋼製の平らな引張試料について、式:(d
0
-d
1
)/d
0
*100(%)で計算された値であり、d
0
は、試料の初期厚さであり、d
1
は、破断面の厚さであり、
前記方法は、
冷間圧延帯鋼中間材を提供するステップであって、前記冷間圧延帯鋼中間材の合金は、
・ 炭素含有量(C):0.003重量%≦C≦0.12重量%の範囲、
・ マンガン含有量(Mn):3.5重量%≦Mn≦12重量%の範囲、
・ 合金成分としてケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1、
および、
チタン成分(Ti)、ニオブ成分(Nb)、およびバナジウム成分(V)よりなる微細合金成分であって、併せて0.15重量%の最大比率を有する微細合金成分、
を含み、
前記合金の残部は、鉄(Fe)および溶融物中の不可避的不純物からなる、ステップと、
提供された前記冷間圧延帯鋼中間材の炭素含有量(重量%)に依存する、最大焼鈍温度(T2)を定義するステップと、
温度A
c1よりも高く、前記最大焼鈍温度(T2)よりも低い焼鈍温度で
臨界間ボックス焼鈍プロセス(S.2.1,S.2.2)を実行するステップと、
を含み、
一段焼鈍プロセス(GR1)については、前記最大焼鈍温度(T2)は、648℃-(352℃*炭素含有量(重量%))の式によって定義され、
二段焼鈍プロセス(GR2)については、
温度Ac
1
よりも高くかつ温度Ac
3
よりも低い温度の焼鈍である前記
臨界間ボックス焼鈍(S.2.2)の前に、温度A
c
3
よりも高い温度
の完全オーステナイト焼鈍
プロセス(S.1)が適用され、前記最大焼鈍温度(T2)は、684℃-(517℃*炭素含有量(重量%))の式によって定義される、
方法。
【請求項2】
前記
臨界間ボックス焼鈍プロセス(S.2.1,S.2.2)は、加熱ステップ(E2)と、保持期間(Δ2)を含む保持フェーズ(H2)と、冷却プロセス(Ab2)と、を含み、前記保持期間(Δ2)は、1000分超6000分未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記完全オーステナイト焼鈍プロセス(S.1)は、温度A
c
3
よりも高い焼鈍温度(T1)で実行され、前記焼鈍温度(T1)は、少なくとも10秒の保持期間(Δ1)の間、保持されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素含有量(C)は、0.003重量%≦C≦0.08重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記マンガン含有量(Mn)は、4重量%≦Mn≦10重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記合金のケイ素含有量(Si)は、0重量%≦Si<1重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記合金のアルミニウム含有量(Al)は、0重量%≦Al<1重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記合金のクロム含有量(Cr)は、0重量%≦Cr≦1重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記合金の硫黄含有量(S)は、60ppm未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記保持期間(Δ2)は、5000分未満であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記保持期間(Δ1)は、10秒と6000分との間であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記マンガン含有量(Mn)は、5重量%≦Mn≦8重量%の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記合金のケイ素含有量(Si)は、0.2重量%≦Si≦0.9重量%の範囲であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記合金のアルミニウム含有量(Al)は、0.01重量%≦Al≦0.7重量%の範囲であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有量が低減された中マンガン冷間圧延帯鋼中間材およびそのような中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組成およびそれぞれの合金、ならびに製造プロセスにおける熱処理は、共に鋼材の特性に多大な影響を及ぼす。
【0003】
現在の鋼合金の重要な成分は、マンガン(Mn)である。多くの場合、マンガンの含有量は、重量%で、3%~12%の範囲である。そのため、これらの鋼は、いわゆる中マンガン鋼である。
【0004】
中マンガン鋼は、例えばフェライト系マトリックスと残留オーステナイトからなる構造を特徴とする。中マンガン鋼中のフェライトの含有量は、通常、90体積%で最大となる。しかしながら、オーステナイト含有量は、通常、約30体積%の範囲である。
【0005】
フェライト(アルファ結晶またはα混晶とも呼ぶ)は、格子内(すなわち格子の中間位置)に炭素が格子間溶解している、体心立方鉄の混晶の冶金学的名称である。純粋なフェライト系構造では、強度は低いが、延性は高い。炭素を添加することで強度を改善することができるが、これは、延性に悪影響を及ぼす。
【0006】
オーステナイト構造(ガンマ混晶またはγ混晶とも呼ぶ)は、鋼材中に形成され得る面心立方鉄の混晶である。これは、例えば炭素、マンガン、ニッケルなどの合金元素の添加によって室温で安定化することができる高温相である。
【0007】
中マンガン鋼の技術分野では、長年にわたっていくつかの開発段階や進歩があった。
【0008】
図1は、引張強度R
m(MPa)に対する破断後の伸び率A
80(%)をプロットした図である。また、
図1は、現在使用されている鋼材の強度クラスの概要を示す。一般に、鋼合金の引張強度が高いほど、その合金の破断後の伸び率が低くなるとされている。すなわち、引張強度が増加するに伴って破断後の伸び率は減少し、その逆もまた同様であるということができる。したがって、破断後の伸び率と引張強度との間の最適な妥協点を用途ごとに見出す必要がある。
図1から、様々な鋼材の強度と変形能との関係に関する記述を抽出することができる。
【0009】
参照符号1で示される領域には、上述した中マンガン鋼が模式的に示されている。参照符号1で示される領域は、Mn含有量が3重量%~12重量%の中マンガン鋼を含む。
【0010】
参照符号2は、いわゆるTRIP鋼を表し、参照符号3は、いわゆるTRIP型ベイニティックフェライト(Trip Bainitic Ferrite:TBF)鋼およびQP(Quenching and Partitioning:焼入-分配)鋼を表す。TRIPは、「Transformation Induced Plasticity(変態誘起塑性)」を意味する。
【0011】
自動車の分野では、車両のそれぞれの用途に合わせて最適化された冷間成形可能な様々な鋼合金が使用されている。良好なエネルギー吸収性を有するこれらの合金は、内装および外装パネル、構造部品、ならびにバンパーに使用される。車両の外板用の合金は、低い降伏強度、典型的には600MPaまでの引張強度、および高い破断後の伸び率を有する。構造部材用の鋼合金は、例えば600MPa~1200MPaの範囲の引張強度を有する。これには、例えばTRIP鋼が適切である(
図1の参照符号2)。
【0012】
一方、第3世代超高張力鋼(AHSS)に属する中マンガン鋼がある。これらの鋼は、強度と伸び率の良好な組み合わせを示す。第3世代のより新しい鋼は、約30,000MPa%のR
m×A
80値を達成しており、例えば、自動車産業で使用されるような、深絞り加工された複雑な部品の製造に適している(
図1の参照符号1)。また、上述したTBF鋼およびQP鋼も、第3世代高張力鋼として扱われる。これらの鋼種は、例えば、鋼製の防壁(例えば車両部品の侵入に対抗する側面衝撃吸収)としての使用に適している。これらの鋼のマンガン含有量は、1.5重量%~3重量%の範囲である。
【0013】
プロセス面において、このような強力な鋼を作製するための様々な方法が存在するが、特に、指定された温度範囲、加熱/冷却速度およびその他の側面が、構造に大きな影響を与え、それゆえに鋼材の品質および特性に大きな影響を与える。
【0014】
既知の冷間圧延帯鋼中間材と比較して向上した変形能を有する冷間圧延帯鋼中間材を提供することが求められている。変形能は、全体的な部分と局所的な部分から構成される。全体的な変形能は、主に深絞り加工中の材料の挙動を表す。均一伸び率Ag(英語では均一伸び率UE)は、全体的な変形能を表すのに適している。その一方で、局所的な変形能は、例えば穴拡げ試験のような多軸応力下での材料の挙動を示す指標である。破断部板厚ひずみfts(%)は、鋼の局所的な変形能の対応する指標である。この特徴の詳細な説明は、P. Larourらによる「Reduction of cross section area at fracture in tensile test: measurement and applications for flat sheet steels」(IDDRG,2017)に記載されている。
【0015】
これまでは、局所的な変形能と全体的な変形能との間で妥協点を見出す必要があった。
図2のグラフからも分かるように、DP鋼(二相鋼の略)は、CP鋼(複合相鋼の略)よりも大幅に低いfts値を示す一方で、良好な全体的な変形能を示す。全体的な変形能は、UEの値(%)で表すことができる。複合相鋼のより均質な微細構造は、例えば、局所的な変形能について、DP鋼よりも優れた特性をもたらし、より高いfts値を示す。
【0016】
DP鋼とCP鋼の特性の違いには、いくつかの理由がある。その1つとして、これらの材料の個々の構造部材の間の硬度コントラストの差が挙げられる。DP鋼は、通常、CP鋼と比較して構造の硬度コントラストが高い。したがって、DP鋼は、高い硬化率を示し、その結果、高い伸び率、すなわち高いUE値を示す。DP鋼は、あまり局所的に変形しないが、良好に深絞り加工を行うことができる。その一方で、CP鋼は、DP鋼よりも硬化率が低いため、より良好に局所的に変形することができる。
【0017】
ここで対象となっている中マンガン鋼は、その構造のため、DP鋼と同様に高い硬度コントラストを示しており、より良好な全体的な成形性、すなわちより高いUE値が期待できる。中マンガン鋼中の高い硬度コントラストは、変形中に、残留オーステナイトが硬質マルテンサイトに変質することに起因する。これにより、軟質フェライト系マトリックスと硬質マルテンサイト系介在物との間に高い硬度コントラストが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特に、本発明の目的は、引張強度と破断後の伸び率との良好な組み合わせを示すと同時に、良好な局所的な変形能を示す冷間圧延帯鋼中間材を提供することである。特に、本発明の目的は、均一伸び率(UE値)と局所的な変形能(fts値)との組み合わせがDP鋼やCP鋼よりも良好な冷間圧延帯鋼中間材を提供することである。
【0019】
本発明によって、マルテンサイト系強度が低く、フェライト系強度が可能な限り高く、安定性が高いために可能な限り均質で徐々に変質するオーステナイトを含む構造を有する冷間圧延帯鋼中間材が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を提供する方法に関する。その合金は、
・ 炭素含有量(C):0.003重量%≦C≦0.12重量%の範囲、
・ マンガン含有量(Mn):3.5重量%≦Mn≦12重量%の範囲、
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1の範囲、
・ 任意選択のさらなる合金成分、および
・ 任意選択の微細合金成分、特にチタン成分(Ti)および/またはニオブ成分(Nb)および/またはバナジウム成分(V)、
を含み、
合金の残部は、鉄(Fe)および溶融物中の不可避的不純物からなる。該方法は、冷間圧延ステップの後に実行される、684℃-(517℃*炭素含有量(重量%))の最大焼鈍温度で臨界間ボックス焼鈍を実行するステップ、
を含む。
【0021】
少なくとも一部の実施形態において、臨界間ボックス焼鈍法が一段焼鈍プロセスの一部として選択され。これにより、冷間圧延帯鋼中間材は、このステップの後に、
・ 残留オーステナイト含有量:10%以上60%以下の範囲、好ましくは10%以上40%以下の範囲、
・ アルファフェライト含有量:20%以上90%以下の範囲、好ましくは50%以上80%以下の範囲、および
・ セメンタイト含有量:0%以上5%以下の範囲、
を含む微細構造を有する。
好ましくは、臨界間ボックス焼鈍法のためのこれらの実施形態において、最大焼鈍温度は、648℃-(352℃*炭素含有量(重量%))に指定される。
【0022】
少なくとも一部の実施形態において、臨界間ボックス焼鈍法が二段焼鈍プロセスの一部として選択される。これにより、冷間圧延帯鋼中間材は、このステップの後に、
・ マルテンサイト含有量:0%以上20%以下の範囲、好ましくは0%以上10%以下の範囲、
・ 残留オーステナイト含有量:10%以上60%以下の範囲、好ましくは10%以上40%以下の範囲、
・ アルファフェライト含有量:20%以上90%以下の範囲、好ましくは50%以上80%以下の範囲、および
・ セメンタイト含有量:0%以上5%以下の範囲、
を含む微細構造を有する。
好ましくは、これらの実施形態において、臨界間ボックス焼鈍の前に、完全オーステナイト焼鈍プロセスが実行される。
【0023】
少なくとも一部の実施形態において、fts値が少なくとも40%の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を得るために、炭素含有量(重量%)に依存する、最大焼鈍温度よりも低い焼鈍温度が特に選択される。一段焼鈍プロセスを使用する場合、最大焼鈍温度は、648℃-(352℃*炭素含有量(重量%))の式で定義される。二段焼鈍プロセスを使用する場合、最大焼鈍温度は、684℃-(517℃*炭素含有量(重量%))の式で定義される。
【0024】
本発明によれば、プロセスの概念と合金概念との組み合わせによって、良好な局所的および全体的な成形性を有する、好ましくは冷間圧延帯鋼中間材である鋼中間材が提供される。
【0025】
本発明によれば、他の中マンガン鋼と同様に良好なRm*A80の組み合わせを有すると同時に、良好な局所的な変形能、すなわち高いfts値を有する冷間圧延帯鋼中間材が提供される。
【0026】
このような冷間圧延帯鋼中間材は、本発明による方法によって提供される。本方法では、炭素含有量が低下され、特別に適用された焼鈍によって、フェライト形態(morphology)およびオーステナイト形態が意図的に変化される。さらに、製造中の鋼中間材の焼鈍時に使用される臨界間焼鈍温度を低減させることで、安定性の高い残留オーステナイトが調整される。
【0027】
鋼中間材の強度を向上させる場合、炭素含有量を増加させるのが一般的だが、本発明は、炭素含有量の大幅な減少に依存する。炭素含有量を減少させることで、マルテンサイト系強度が低下する。これは、構造中の硬度コントラストの低減に対応する。
【0028】
比較的高いケイ素含有量およびアルミニウム含有量を適用するのが一般的だが、本発明は、ケイ素含有量およびアルミニウム含有量の大幅な減少に依存する。ケイ素およびアルミニウム合金の割合は、Si重量%+Al重量%<1の式で制限される。ここでは、ケイ素およびアルミニウム合金の割合が制限されているため、パラメータを変更して焼鈍プロセスを実行することができる。
【0029】
少なくとも一部の実施形態において、硫黄含有量が非常に低い合金組成が特に使用される。好ましくは、硫黄含有量は、60ppm未満である。硫黄含有量を低減させることで、より少なく硫化物が生成され、焼鈍プロセスの工程によっては、fts値が改善される場合がある。
【0030】
熱力学モデルに基づいて、鋼合金のための最適な焼鈍温度を計算することができる。これは、最大残留オーステナイト含有量を達成するため、すなわち優れたRm×A80の組み合わせを実現するために選択される。
【0031】
本発明の方法は、特別に最適化された中マンガン合金に基づいており、より低い焼鈍温度によってより良好な変形特性が達成されるため、より低い焼鈍温度にも基づいている。臨界間焼鈍温度を低下させることで、本発明の中マンガン合金は、その引張強度および均一伸び率のいくらかを失うが、同時に、より高い残留オーステナイト安定性を達成することができる。これは、より高い全体的な変形能(すなわち、より高いfts値)につながる。
【0032】
フェライト形態およびオーステナイト形態を特に変化させるには、少なくとも一部の実施形態において、完全オーステナイト焼鈍とそれに続く臨界間焼鈍とが使用される。これにより、対応して焼鈍された中間鋼材に、より高いfts値を実現することができる。
【0033】
好ましくは、本発明は、冷間圧延された平板(例えばコイル)の形態の冷間圧延帯鋼中間材を提供するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下では、本発明の実施例を、図面を参照してより詳細に説明する。
【
図1】様々な鋼(従来技術)について、引張強度R
m(MPa)に対する破断後の伸び率A
80(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図2】DP鋼およびCP鋼(従来技術)について、均一伸び率UE(%)に対する破断部板厚ひずみFTS(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図3】異なる炭素含有量を有する本発明の3つの中マンガン合金について、焼鈍中に使用された温度に対する破断部板厚ひずみfts(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図4】温度に対する破断部板厚ひずみfts(%)をプロットした、非常に模式的な図であり、ここでは、一段焼鈍を伴う第1の焼鈍経路(GR1)および二段焼鈍を伴う第2の焼鈍経路(GR2)に供された本発明の中マンガン鋼合金のfts値をプロットした。
【
図5A】DP鋼、CP鋼、および第1の焼鈍経路(GR1)に供された本発明の中マンガン鋼合金について、均一伸び率UE(%)に対する破断部板厚ひずみfts(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図5B】DP鋼、CP鋼、および第2の焼鈍経路(GR2)に供された本発明の中マンガン鋼合金について、均一伸び率UE(%)に対する破断部板厚ひずみfts(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図6】本発明の様々な中マンガン鋼合金について、炭素含有量に対する焼鈍温度をプロットした、非常に模式的な図であり、具体的には、炭素含有量の関数として残留オーステナイトの最大量に達したときの、実験的に決定された焼鈍温度T
RAmaxが示されており、さらに、増加したfts値を達成するための、一段および二段焼鈍における最大焼鈍温度T
ANmaxが示されている。
【
図7】様々な強度クラスR
m(MPa)に対する破断部板厚ひずみfts(%)をプロットした、非常に模式的な図である。
【
図8】本発明の鋼(中間)材の一段温度処理(GR1)について、例示的な温度-時間図を示す模式図である。
【
図9】本発明の鋼(中間)材の二段温度処理(GR2)について、例示的な温度-時間図を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の冷間圧延帯鋼中間材は、出発合金の炭素含有量を低下させることで作製される。炭素含有量を大幅に減少させることで、fts値を増加させることができることが示されている。炭素含有量を減少させることで、構造中の硬度コントラストが低減される。この関係は、炭素含有量に限界があることを示した研究に基づいて確認および定量化されている。したがって、本発明では、炭素含有量が0.12重量%未満の合金のみを使用した。
【0036】
fts値は、試験済みのノッチのない鋼製の平らな引張試料で決定された。中間鋼材d0の初期厚さと破断面d1の厚さを決定する必要がある。fts値は、次のように計算された:(d0-d1)/d0*100(%)。
【0037】
図3は、焼鈍温度に対する本発明の複数の鋼合金のfts値をプロットした図である。ここで、具体的には、
・ 炭素含有量(C):0重量%~0.12重量%の範囲、および
・ マンガン含有量(Mn):6重量%、
を含み、合金がSi重量%+Al重量%<1の式に従ってケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)を含み、合金の残部が鉄(Fe)および溶融物中の不可避的不純物からなる、複数の試料を調査した。
【0038】
図3には、以下に示す様々な関係が見られる。例えば、
・ 炭素含有量(C):0.12重量%、
・ マンガン含有量(Mn):6重量%、および
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1、
の組成を含み、残部が鉄(Fe)および不可避的不純物からなる合金1(Leg.1と示す)を、異なる温度で焼鈍した場合、焼鈍温度の上昇に伴ってfts値が大幅に低下した。
【0039】
合金2および3(それぞれLeg.2、Leg.3と示す)についても同様に観察することができた。
【0040】
また、炭素含有量が減少すると、fts値が大幅に増加することも示された。Leg.2は、
・ 炭素含有量(C):0.056重量%、
・ マンガン含有量(Mn):6重量%、および
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1、
の組成を含み、合金の残部は、鉄(Fe)および不可避的不純物からなる。
【0041】
Leg.3は、
・ 炭素含有量(C):0.0重量%、
・ マンガン含有量(Mn):6重量%、および
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1、
の組成を含み、合金の残部は、鉄(Fe)および不可避的不純物からなる。
【0042】
換言すると、このような中マンガン合金は、高すぎる温度で焼鈍をしてはならず、高いfts値を得るには、可能な限り炭素含有量を低くする必要がある。
図3で上向きに示されているブロック矢印-Cは、炭素含有量の減少がfts値の増加につながることを示している。
【0043】
焼鈍温度の低下は、オーステナイトのより高い化学的濃縮度、より小さい粒子サイズ、およびより安定した残留オーステナイトにつながる。調査によれば、本発明の合金の場合、有利には10%以上60%以下の範囲の残留オーステナイトが示された。これらの効果は、fts値の増加につながる。
【0044】
また、結果として得られたfts値に対する様々な焼鈍法の影響も調査した。これに関連して、臨界間ボックス焼鈍法(
図8の手順S.2.1)を伴う第1の焼鈍経路(以下、GR1)と、完全オーステナイト焼鈍ステップ(ボックスまたは連続焼鈍で実行)を伴う第2の焼鈍経路(以下、GR2)と、それに続く臨界間ボックス焼鈍法(
図9の手順S.1+S.2.2)を調査した。
【0045】
図4は、焼鈍温度に対する本発明の鋼合金のfts値をプロットした図である。ここで、第1の焼鈍経路の影響と、第2の焼鈍経路の影響とを比較した。具体的には、ここで調査した本発明による鋼合金試料は、
・ 炭素含有量(C):0.1重量%、
・ マンガン含有量(Mn):6重量%、および
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1
を含み、合金の残部は、鉄(Fe)および溶融物中の不可避的不純物からなる。
【0046】
臨界間ボックス焼鈍(
図8の手順S.2.1)を1回だけ行う第1の焼鈍経路GR1に供された合金試料は、
図4において黒い四角で表されている。ここでは、
図3に関連して上述したように、合金試料の炭素含有量が0.12重量%未満である場合に、焼鈍温度の減少は、fts値の増加につながる。
図4においてこの効果は、黒いブロック矢印で表されている。
【0047】
完全オーステナイト焼鈍を伴う第2の焼鈍経路GR2とそれに続く臨界間ボックス焼鈍法(
図9の手順S.1+S.2.2)に供された合金試料は、
図4において白く塗りつぶされたひし形で表されている。例えば第1の合金試料が第1の焼鈍経路GR1に供されて、同様の第2の合金試料が第2の焼鈍経路GR2に供された場合、第2の合金試料は、第1の合金試料のfts値よりも高いfts値を示す。
図4においてこの効果は、白いブロック矢印で表されている。
【0048】
完全オーステナイト焼鈍ステップ(
図9の手順S.1)を伴う二段焼鈍GR2とそれに続く臨界間ボックス焼鈍法(
図9の手順S.2.2)を実行することで、微細構造の最適化を図ることができる。具体的には、フェライト強度が向上して、残留オーステナイトの安定性が増加することが示された。
【0049】
これらの合金試料をさらに調査した結果、第1の焼鈍経路GR1を通過した第1の合金試料と、第2の焼鈍経路GR2を通過した同様の第2の合金試料とを比較すると、第2の焼鈍経路GR2においても均一伸び率UEの増加が見られることがわかった。すなわち、焼鈍経路の選択と、それぞれの焼鈍経路のパラメータ(保持温度H1またはH2、保持期間Δ1またはΔ2など)は、fts値だけでなく、UE値にも影響を与えることがわかった。
【0050】
図5Aは、本発明の様々な鋼のfts値対均一伸び率(UE)をプロットしたグラフである。これは、第1の焼鈍経路GR1に供された本発明の鋼合金に関する。
図2と同様に、ここではCP鋼またはDP鋼のいずれかに属する鋼合金も示されている。この図において、本発明の鋼合金は、クロスハッチ(網掛け)された領域に示されている。この非常に模式的な図から、本発明の鋼合金が、CP鋼よりも著しく高いUE値を達成したことがわかる。また、本発明の鋼は、DP鋼よりも著しく高いfts値を達成した。
【0051】
ここで、以下の組成を含む合金試料を調製して、第1の焼鈍経路GR1に供した(表1参照)。これらの合金について、663MPa~873MPaの範囲の引張強度R
mが得られた。これらの合金試料のfts値は、約48%~74%の範囲であり、UE値は、約14%~32%の範囲であった。
【表1】
【0052】
図5Bは、本発明の鋼の均一伸び率(UE)に対するfts値をプロットしたグラフである。これは、第2の焼鈍経路GR2に供された本発明の鋼合金である。この図において、本発明の鋼合金は、クロスハッチされた領域に示されている。ここでも、本発明の鋼合金が、CP鋼よりも著しく高いUE値を達成したことがわかる。また、本発明の鋼は、DP鋼よりも著しく高いfts値を達成した。
【0053】
ここで、以下の組成を含む合金試料を調製して、第2の焼鈍経路GR2に供した(表2参照)。これらの合金について、597MPa~996MPaの範囲の引張強度R
mを達成した。これらの合金試料のfts値は、約51%~75%の範囲であり、UE値は、約10%~36%の範囲であった。
【表2】
【0054】
表3は、異なる温度処理後の機械的特性値を示している。それぞれの温度処理について、820MPa~875MPaの範囲の引張強度、および27%~31%の範囲の均一伸び率が得られた。これは、得られたfts値が有利であることを証明している。
図9によれば、二段焼鈍プロセスGR2の一部としての完全オーステナイト焼鈍S.1が好ましく、ここでは、1000分≦H1≦6000分の比較的長い保持時間が設定された。
図9に示すように、この完全オーステナイト焼鈍の後に、臨界間焼鈍S.2.2が実行された。
【表3】
【0055】
要約すると、本発明の検討された合金組成について、以下が仮定され得る:
・ 焼鈍が本発明のプロセス要件に従って実行される場合、以下の特性値が、本発明による合金組成で達成することができ、
・ fts値が40%超の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、
・ 特に、一段焼鈍GR1(
図8参照)によって、fts値が48%≦fts≦74%の範囲(
図5A参照)の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、
・ 特に、二段焼鈍GR2(
図9参照)によって、fts値が51%≦fts≦75%の範囲(
図5B参照)の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、
・ UE値が10%超の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、
・ 特に、UE値が14%≦UE≦32%(
図5A参照)の範囲の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、
・ 特に、UE値が10%≦UE≦36%(
図5A参照)の範囲の中マンガン冷間圧延帯鋼中間材を作製することができ、ここで、UE=10%が最小要件として定義される。
【0056】
要約すると、本発明の検討された合金組成について、以下が仮定され得る:
・ 中マンガン合金の炭素含有量を減少させることで、fts値を増加させることができ、
・ 上記中マンガン合金の焼鈍S.2.1またはS.2.2で使用される臨界間焼鈍温度T2を減少させることで、fts値を増加させることができ、
・ 焼鈍経路(焼鈍経路GR1またはGR2)を選択することで、fts値を増加させることができ、
・ ケイ素およびアルミニウム合金成分を適切に減少させることで、鋼中間材をさらに最適化することができ、
・ 硫黄含有量を任意選択で減少させることで、鋼中間材をさらに最適化することができる。
【0057】
上記で単純且つ純粋に模式的に要約したこれらの仮定は、合金を定義する開発者に多くの自由度を与える。その例を以下で説明する。
【0058】
二段焼鈍(GR2)では一段焼鈍(GR1)よりも高いfts値が得られるため、二段焼鈍(GR2)を適用する場合、一段焼鈍GR1よりもある程度高い炭素含有量を含む合金を使用することができる。
【0059】
図6は、本発明の合金組成に基づいて観察された様々な効果を示している。この図は、縦軸に焼鈍温度、横軸に合金組成の炭素含有量を示している。改善されたfts値を達成したときの実験的に決定された最大焼鈍温度T
ANmaxは、炭素含有量の関数として記載されている。
【0060】
白いひし形を結ぶ点線は、二段焼鈍法(GR2)に供された合金について実験的に決定された焼鈍温度TANmaxを表す。黒い四角を結ぶ破線は、一段焼鈍プロセス(GR1)に供された合金について実験的に決定された焼鈍温度TANmaxを表す。白い丸を結ぶ実線は、炭素含有量の関数として残留オーステナイトの最大量に達したときの実験的に決定された焼鈍温度TRAmaxを表す。
【0061】
ここでは、マンガン(Mn)の含有量が6重量%の合金組成を調査した。横軸に示す炭素含有量を0重量%~0.12重量%の範囲で変化させた。
【0062】
図6の点線は、次の式(1)で表すことができる。ここで、T
ANmaxは、最大焼鈍温度を表す。式(1)は、
図9の臨界間焼鈍S.2.2における最大焼鈍温度T2を定義する。
【数1】
【0063】
図6の破線は、次の式(2)で表すことができる。式(2)は、
図8の臨界間焼鈍S.2.1における最大焼鈍温度T2を定義する。
【数2】
【0064】
図6にまとめた検討結果から、改善されたfts値を達成するために、炭素含有量が低い場合には、比較的高い焼鈍温度で作業することができることを確認した。炭素含有量が高い場合、改善されたfts値を達成するために、焼鈍温度T2を下げる必要がある。
【0065】
図6にまとめた結果から、炭素含有量を0重量%に近い値に減少させることが非常に効果的であるため、そのような合金組成を焼鈍する際に、温度T
RAmaxを超えても、fts値を減少させることなく、焼鈍温度T2で作業できることを推定することができる。すなわち、炭素含有量の減少は、本発明の合金における特に効果的な手段の1つである。
【0066】
また、
図6にまとめた結果から、例えば0.05重量%~0.12重量%の範囲のより高い炭素含有量では、焼鈍温度T2を減少させることで、より高いfts値を達成できることも推定することができる。本発明による合金の炭素含有量が高いほど、焼鈍温度T2をより減少させる必要がある。
【0067】
図9に示すように、焼鈍を2回実施した場合、0.056重量%超の炭素含有量において、T
RAmaxに対して焼鈍温度T2を下げるだけでよい。
【0068】
図7では、本発明のさらなる態様が示されている。この図では、横軸に強度クラスR
m(MPa)、縦軸にfts値(%)をプロットした。最小fts値は斜めの破線で表され、境界条件としてUE値が少なくとも10%、すなわちUE10%以上と仮定した。この破線は、式(3)で数学的に記述することができる。
【数3】
【0069】
図7において、参照符号4で表す長方形の範囲には、本発明の合金が含まれる。範囲4内の合金は、一方では良好な局所的な変形能を有し、他方では良好な全体的な変形能を有することが保証されている。UE値は、常に10%超であり、fts値は、常に40%超である。
【0070】
表4に、本発明の合金の特徴的な特性をいくつかまとめた。
【表4】
【0071】
表5に、一部の合金組成およびそれらの特徴的な特性をまとめた。本発明に従って選択された焼鈍温度と組み合わされたこれらの合金組成は、本発明によって定義される範囲4の外にあるため、意図的に表5に示されている。
【表5】
【0072】
試料3.1では、8.1%のUE値しか得られなかった。この8.1%は、10%の最小UE値よりも小さい。最小UE値が得られなかった理由として、上限の0.12重量%を上回る0.18重量%の炭素含有量が挙げられる。さらに、式3による40%のfts値の最小要件も得られなかった。
【0073】
試料3.2では、十分に高いUE値が得られたが、29%のfts値は、ftsmin=40%を大きく下回っている。式(2)から、本発明によるこの特定の合金の焼鈍温度T2は、最大612.8℃であるように計算される。しかしながら、試料3.2は、比較的高い680℃で焼鈍されたため、fts値が大幅に低くなってしまった。
【0074】
試料3.3では、十分に高いUE値が得られたが、47%のfts値は、式3による57%のfts値を大きく下回っている。最小fts値が得られなかった理由として、下限の3.5重量%を下回る1.83重量%のマンガンの含有量が挙げられる。
【0075】
したがって、本発明によれば、該合金は、
・ 炭素含有量(C):0.003重量%≦C≦0.12重量%の範囲、
・ マンガン含有量(Mn):3.5重量%≦Mn≦12重量%の範囲、
・ 合金成分としてのケイ素含有量(Si)および/またはアルミニウム含有量(Al):Si重量%+Al重量%<1、
・ 任意選択のさらなる合金成分、および
・ 任意選択の微細合金成分、特にチタン成分(Ti)および/またはニオブ成分(Nb)および/またはバナジウム成分(V)、
の材料から構成され、合金の残部は、鉄(Fe)および溶融物中の不可避的不純物からなる。
【0076】
少なくとも一部の実施形態において、炭素含有量(C)は、0.003重量%≦C≦0.08重量%の範囲であり、および/またはマンガン含有量(Mn)は、4重量%≦Mn≦10重量%の範囲であり、特に6重量%≦Mn≦10重量%の範囲であり、この場合、特に高いfts値を達成することができる。
【0077】
少なくとも一部の実施形態において、ケイ素含有量(Si)は、0重量%≦Si≦1重量%の範囲である。特に、ケイ素含有量(Si)は、0.2重量%≦Si≦0.9重量%の範囲である。
【0078】
少なくとも一部の実施形態において、アルミニウム含有量(Al)は、0重量%≦Al≦1重量%の範囲である。特に、アルミニウム含有量(Al)は、0.01重量%≦Al≦0.7重量%の範囲である。
【0079】
少なくとも一部の実施形態において、合金の硫黄含有量(S)は、重量%で、60ppm未満である。
【0080】
少なくとも一部の実施形態において、合金のクロム含有量(Cr)は、0重量%≦Cr≦1重量%の範囲である。
【0081】
少なくとも一部の実施形態において、合金は、
・ チタン成分(Ti)、
・ ニオブ成分(Nb)、および
・ バナジウム成分(V)
の微細合金成分のうちの1種または複数種を含む。
【0082】
少なくとも一部の実施形態において、チタン含有量(Ti)は、存在する場合、0重量%<Ti≦0.12重量%の範囲である。
【0083】
少なくとも一部の実施形態において、微細合金成分は、併せて合金の0.15重量%の最大比率を有する。
【0084】
合金の組成について本明細書に記載する情報は、重量パーセントで示されていることに留意されたい。合金の残部は、鉄(Fe)、およびこのような溶融物では不可避の不純物からなる。重量パーセントのデータは、常に合計で100重量%になる。
【0085】
上述したように、本発明の方法は、冷間圧延ステップの後に実行される特別な焼鈍ステップを含む。
【0086】
この方法では、臨界間ボックス焼鈍S.2.1またはS.2.2を、684℃-(517℃*炭素含有量(重量%))の最大焼鈍温度T2で実行する。炭素含有量(重量%)は、ここではC%とも呼ぶ。この臨界間ボックス焼鈍法が一段焼鈍プロセスの一部である場合、最大焼鈍温度T2は、648℃-(352℃*炭素含有量(重量%))の式で表されるように、これらの値を下回ることもできる。
【0087】
図8には、一段焼鈍プロセスGR1の例示的な詳細が示されている。臨界間ボックス焼鈍プロセスS.2.1において、合金を保持温度T2に加熱した。
図8において、加熱はE2で表されている。次いで、合金を、保持期間Δ2の間、保持温度T2で保持した。次いで、冷却を行った。
図8において、冷却はAb2で表されている。以下の表6には、本発明の一段焼鈍プロセスGR1における例示的なパラメータが示されている。
【表6】
【0088】
臨界間焼鈍とも呼ぶ臨界間ボックス焼鈍を、α+γの2相領域において保持温度T2で実行した。Ac
3とAc
1との間の領域(
図8および
図9参照)を、α+γの2相領域と呼ぶ。
【0089】
完全オーステナイト焼鈍法S.1(
図9参照)を、単相のγ領域において、Ac
3の温度を上回る、すなわち1>Ac
3の保持温度T1で実行した。
【0090】
図9には、二段焼鈍プロセスGR2の例示的な詳細が示されている。完全オーステナイト焼鈍プロセスS.1において、合金を保持温度T1に加熱した。
図9において、加熱はE1で表されている。次いで、合金を、保持期間Δ1の間、保持温度T1で保持した。次いで、冷却を行った。
図9において、冷却はAb1で表されている。続く臨界間ボックス焼鈍プロセスS.2.2において、合金を保持温度T2に加熱した。
図9において、この加熱はE2で表されている。次いで、合金を、保持期間Δ2の間、保持温度T2で保持した。次いで、冷却を行った。
図9において、冷却はAb2で表されている。以下の表7には、本発明の二段焼鈍プロセスGR2における例示的なパラメータが示されている。
【表7】
【0091】
様々な図とその図の説明からわかるように、40%超の高いfts値を達成するには、臨界間ボックス焼鈍プロセスの焼鈍温度T2を高く設定しすぎないことが重要である。臨界間ボックス焼鈍プロセスで使用される最大焼鈍温度T2は、常にAc3を下回り、式(1)または(2)によってその上限が設定される。
【0092】
本発明の冷間圧延帯鋼中間材の特性は、特に、焼鈍温度T1および/またはT2の選択によって影響される。特に、温度T2は、炭素含有量(重量%)に依存し、常に最大焼鈍温度Ac3よりも低い。
【0093】
本発明の冷間圧延帯鋼中間材のfts値は、式(3)によれば、最小均一伸び率(Ag)が10%、引張強度(Rm)が590MPa~1350MPaの範囲内で、少なくとも104*e(-0.001*Rm)である。これらのfts値は、冷間圧延帯鋼中間材のノッチのない平らな引張試料を用いて決定した。
【0094】
特に、
図8の一段焼鈍プロセスGR1が使用された場合、本発明の冷間圧延帯鋼中間材は、
・ 残留オーステナイト含有量:10%以上60%以下の範囲、
・ アルファフェライト含有量:20%以上90%以下の範囲、および
・ セメンタイト含有量((Fe,Mn)
3C):0%以上5%以下の範囲、
を含む微細構造を有することを特徴とする。
【0095】
特に、
図9の二段焼鈍プロセスGR2が使用された場合、本発明の冷間圧延帯鋼中間材は、
・ マルテンサイト含有量:0%以上20%以下の範囲、
・ 残留オーステナイト含有量:10%以上60%以下の範囲、
・ アルファフェライト含有量:20%以上90%以下の範囲、および
・ セメンタイト含有量((Fe,Mn)
3C):0%以上5%以下の範囲、
を含む微細構造を有することを特徴とする。
【0096】
マルテンサイト成分、残留オーステナイト成分、アルファフェライト成分およびセメンタイト成分を含むこの微細構造は、本発明の冷間圧延帯鋼中間材の特別な特性を提供する。
【符号の説明】
【0097】
1 中マンガン鋼の領域
2 TRIP鋼の領域
3 TBFおよびQP鋼の領域
4 領域
γ オーステナイト相
α+γ 2相領域
A 破断後の伸び率(%)
Ab1 オーステナイト焼鈍中の冷却
Ab2 臨界間焼鈍中の冷却
Ac1 オーステナイト形成/オーステナイト開始温度(℃)
Ac3 オーステナイト形成/オーステナイト終了温度(℃)
Ag 均一伸び率(%)
A80 測定長さ80mmでの破断後の伸び率(%)
C% 炭素含有量(重量パーセント)
E1 オーステナイト焼鈍中の加熱
E2 臨界間焼鈍中の加熱
d0 中間鋼材の初期厚さ
d1 中間鋼材の破断面の厚さ
Δ1 完全オーステナイト焼鈍中の保持期間
Δ2 臨界間焼鈍中の保持期間
fts 破断部板厚ひずみ(%)
ftsmin 破断部板厚ひずみの最小値(%)
α フェライト系相
GR 焼鈍経路
H1 完全オーステナイト焼鈍中の保持
H2 臨界間焼鈍中の保持
Rm 引張強度(MPa)
S.1 完全オーステナイト焼鈍
S.2.1,S.2.2 臨界間焼鈍
t 時間
T1 完全オーステナイト焼鈍中の保持温度
T2 臨界間焼鈍中の保持温度
TANmax 最大焼鈍温度(℃)
TRAmax 残留オーステナイトの最大量に達した際の焼鈍温度(℃)
UE 均一伸び率(%)