(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】持続性活性を有するテトラサイクリン複合体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/65 20060101AFI20240619BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240619BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20240619BHJP
A61K 6/69 20200101ALI20240619BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
A61K31/65
A61K47/12
A61K47/30
A61K6/69
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2021547925
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 EP2019079566
(87)【国際公開番号】W WO2020089249
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-18
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】キーゾフ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ブッフホルツ,ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】サレンベ,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】メーデル,カルステン
(72)【発明者】
【氏名】キルヒベルク,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】アイック,シグルン
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-522240(JP,A)
【文献】特表2006-523703(JP,A)
【文献】特表2006-522162(JP,A)
【文献】特表2002-503684(JP,A)
【文献】特開昭61-225137(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103356910(CN,A)
【文献】特表2008-528501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0019396(US,A1)
【文献】特開昭62-123120(JP,A)
【文献】特表2004-514702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 6/00
A61P 31/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラサイクリン化合物(TC)又は製薬上許容されるその塩、水和物若しくは溶媒和物、及び二価金属カルボキシレート(MA
2)から形成されるキレート錯体を含む、歯周疾患を治療又は予防するための医薬製剤であって、ここで:
前記TC及び前記MA
2のモル比TC:MA
2は、1:0.8~3.0の範囲であり;
前記二価金属カルボキシレート中のカチオンMは、アルカリ土類金属カチオンであり;かつ、
前記二価金属カルボキシレート中のAは、C
8~C
24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンであり、ここで、
前記TCは、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、クロルテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、チゲサイクリン、デメクロサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、オマダサイクリン、サレサイクリン、エラバサイクリン、クロモサイクリン、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン及び9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-ミノサイクリンから選択され、かつ、さらに、
製薬上許容される賦形剤として、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸コグリコール酸)(PLGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)及びポリカプロラクトン(PCL)からなる群から選択される生分解性ポリエステル;PLA-PCL又はPLGA-PCLである混合生分解性ポリエステル;PEG-PLA、PEG-PLGA、PEG-PCL及びPEG-PCL-PLGAからなる群から選択される生分解性PEG化ジブロック(AB)又はトリブロック(ABA若しくはBAB)コポリマー;並びにペクチン;から選択される1若しくはそれ以上の生分解性ポリマーを含み、かつ/あるいは、ここで、
前記TCの総含有量が5~20質量%の範囲である、
医薬製剤。
【請求項2】
前記TC及び前記MA
2のモル比は、1:2であり;又は
前記Mは、Mg
2+及びCa
2+から選択され;又は
前記Aは、アラキジン酸(C20)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、カプリン酸(C10)、カプリル酸(C8)、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸から選択されるカルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;
請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記TC及び前記MA
2のモル比は、1:2であり;かつ
前記Mは、Mg
2+及びCa
2+から選択され;かつ
前記Aは、アラキジン酸(C20)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、カプリン酸(C10)、カプリル酸(C8)、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸から選択されるカルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;
請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
キレート錯体は、式[(TC)・2(MgA
2)](式中、TCは、ミノサイクリン又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物である)で表される、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項5】
さらに、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
局所投与用に配置され、及び/又は、押出物、粒子、顆粒、粉末、フィルム、チップ、ペースト、クリーム、ゲル、乳液、懸濁液、塗布剤、軟膏、バーム、ローション、スプレー、局所エアロゾル、局所溶液及び局所懸濁液からなる群より選択される、請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
生分解性ポリマーは、質量平均分子量範囲は4~250kDaであり;ガラス転移温度は42~48℃であり;固有粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)は0.03~1.70であり;及び/又はL/G比が5/95~95/5であるPLGAコポリマー(ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド))であるか、又は、
前記生分解性ポリマーは、L/G比が25/75~75/25であるPLGAコポリマーであり;質量平均分子量範囲(kDa)は5~90であり;固有粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)は0.14~0.82であり;及び/又は末端がエステル、アルキルエステル又はPEG基であるか、又は、
前記生分解性ポリマーは、質量平均分子量範囲が7,000~38,000及び/又は固有粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)が0.16~0.44である、PLA/PGA比が50:50であるポリ(ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、又は、質量平均分子量範囲が30~85kDa及び/又は固有粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)が0.45~0.80である、PLA/PGA比が50:50及びPEG末端基(PLGA-PEG)であるポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、である、
請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項8】
らせん状押出物の形態であって、ここで、断面が、本質的に円形又は本質的に楕円形であるか、又は、最大断面直径が、0.1~10mm、0.2~5mm、0.3~1mm、0.4~0.8mm、0.3~0.6mm、0.2~5mm、0.3~1mm、0.6~0.9mm、0.4~0.8mm、0.3~0.6mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm又は0.6mmである、請求項5~7のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
請求項1に記載の医薬製剤に含まれるキレート錯体の製造方法であって、以下の:
(a)テトラサイクリン化合物(TC)又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物、及び二価金属カルボキシレート(MA
2)を1:0.8~3.0のモル比で有機溶媒と混合して分散物を得る工程であって、ここで、前記二価金属カルボキシレート中のカチオンMは、アルカリ土類金属カチオンであり、前記二価金属カルボキシレート中のAはC
8~C
24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;
(b)前記分散物を加熱してキレート錯体を形成する工程;
(c)前記有機溶媒を除去して前記キレート錯体を得る工程;
を含む、方法。
【請求項10】
以下の:
(d)請求項1に記載の医薬製剤に含まれるキレート錯体、及び存在する場合には、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤、を粉砕して押出成形前駆体を得る工程;
(e)前記押出成形前駆体を室温より高い温度で押出する工程;
(f)工程(e)の生成物を冷却して、らせん状押出物の形態の医薬製剤を得る工程;を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(i)細菌感染症、又は(ii)Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythia、Streptococcus gordonii、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces naeslundii及びParvimonas micraからなる群から選択される1以上の細菌による細菌感染症、の治療用及び/又は予防用の、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
抗生物質活性が、少なくとも21日間にわたり持続する、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
歯周疾患は、急性、慢性若しくは再発性である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
歯周疾患は、歯垢誘発性歯肉疾患、歯周炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の症状としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周組織膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎及び歯内感染症から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、テトラサイクリン抗生物質の制御放出に関する。特に、本発明は、テトラサイクリン化合物(TC)又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物、及び二価金属カルボキシレートを含む複合体;当該複合体を含む医薬製剤、当該複合体及び当該医薬製剤を製造する方法、並びにヒト若しくは動物の体の治療方法、具体的には、細菌感染の治療及び/若しくは予防、で用いられる複合体又は医薬製剤;並びに/又は、ここで、抗生物質活性は長期間にわたり持続され;並びに/又は急性、慢性又は再発性歯周疾患の治療及び/又は予防のための複合体又は医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラサイクリン化合物は、リボソーム受容体(A)部位へのアミノアシルtRNAの結合を阻害することにより、タンパク質合成を阻害する抗生物質の一種である。当該テトラサイクリン系は広域スペクトル薬剤であり、広範囲のグラム陽性菌及びグラム陰性菌、クラミジア、マイコプラズマ、リケッチア等の非定型微生物、原虫寄生虫に対して活性を示す。当該薬剤は抗菌活性が好ましく、かつ、重大な副作用がないため、広範なヒト及び動物の感染症、例えば歯周病の治療に用いられてきた(非特許文献1)。テトラサイクリン分子は、様々な官能基が結合した直鎖状の縮合四環核(A、B、C、Dと命名された環)を含む。検出可能な抗菌活性を示す最も単純なテトラサイクリンは6-デオキシ-6-デメチルテトラサイクリンであり、以下の構造:
【0003】
【化1】
は最小ファーマコフォアとみなしうる(非特許文献2)。
【0004】
臨床で広く用いられているテトラサイクリン系抗生物質としては、ドキシサイクリン(doxycycline)、ミノサイクリン及びテトラサイクリンがあげられる。最も一般的に用いられるテトラサイクリン系抗生物質の概要は以下のとおりである:
【0005】
【化2】
このうち、特にドキシサイクリンとミノサイクリンは歯周病治療に用いられてきた。しかしながら、当該活性物質は持続時間が比較的短く、かつ、水性環境で不安定であるため、当該活性物質の治療適用には問題がある。
【0006】
歯周病は著しく蔓延している。世界の人口の約30%が罹患している。これは、個人や社会に大きな影響を与え、治療にも費用がかかる。歯科医療費は、全ての疾患の中で4番目に高く、全ての医療資源の5~10%を占めている(非特許文献3)。代表的な集団研究では、歯周疾患は広範に分布し、その有病率は1997年以降増加していることが示される(非特許文献4)。ドイツの成人集団のうち、52.7%が中等度の重度の歯周炎に罹患し、20.5%が重度の歯周炎に罹患していた。ドイツにおける歯周炎直接治療のための医療保険支出は約11億ユーロであるが(非特許文献5)、これには二次疾患による費用は含まれない。
【0007】
歯周炎は,多細菌性誘発が原因の歯周組織の炎症状態をいう一般的な用語であり,心血管疾患,関節リウマチ,慢性閉塞性肺疾患,アルツハイマー病等の様々な全身性疾患と密接に関連する。
現在確立される歯周炎の治療は、ドイツ歯科口腔内科学会の勧告により、一般に、口腔バイオフィルム全体を崩壊させ、潜在的病原体による再定着の機会を阻止する消毒剤(口腔洗浄剤による毎日の消毒)の適用と共に、手動の上顎及び歯肉下デブリドマン(細菌プラークの除去)によって行われる(非特許文献6)。さらに、アジュバント全身性広域スペクトル抗生物質療法は、持続性又は再発性の限局性深在性部位等の進行性疾患系に適用される(非特許文献7)。後者ではまた、バイオフィルムの非選択的破壊がおこり、かつ、特定の作用部位、すなわち歯肉ポケットで十分な治療レベルに達するには、高用量で長期間にわたる投与が必要である。歯周炎の標準的なアジュバント療法としては、例えば、ドキシサイクリン(1回あたり1×200mg/日)を1日間全身投与し、かつ、さらに18日間2×100mg/日を全身投与することがあげられる(非特許文献8)。その結果、経口病原体における耐性発現が観察される。さらに、患者の腸内のマイクロバイオームが破壊されて、代謝支持体及び免疫調節が喪失され、潜在的な病原体による再定着が可能になる。限定標的療法は、歯周炎の治療及び歯周病関連病態の有意な改善をいう。一の系統的レビューにおいて、テトラサイクリン製剤が歯周プローブ深さの軽減に有意な効果があることが示された(非特許文献9)。
歯周病原性細菌の存在は、歯周炎患者によって異なる。それにもかかわらず、歯肉下プラークにおけるある種の細菌種の発生は、歯周疾患の病因と密接に関連していることが見出されている(非特許文献10)。歯周炎発症の第一段階は、細菌「黄色複合体」、「緑色複合体」及び「紫色複合体」の健常歯周部位におけるコロニー形成である。放線菌種は「黄色複合体」(Streptococcus sanguis、Streptococcus mitis、Streptococcus gordonii、Streptococcus intermedius)、「緑色複合体」(Eikenella corrodens、Capnocytophaga gingivalis、Capnocytophaga sputigena)及び「紫色複合体」(Veillonella parvula、Actinomyces dontolyticus)のメンバーに近縁である。当該複合体には、Fusobacterium nucleatum/peronticum subspecies、Prevotella intermedia、Prevotella nigrescens、Parvimonas micra (以前はPeptostreptococcusとして知られていた)を含む、いわゆる「オレンジ複合体」である細菌のメンバーによるコロニーが形成される。当該「オレンジ複合体」メンバーによる健常な歯周部位のコロニー形成は、歯肉炎の発生と相関することが見いだされている。当該「オレンジ複合体」の細菌はさらに、いわゆる「赤色複合体」の細菌によるコロニー形成を促進し、それらはその後深度ポケットや慢性歯周炎に関連する。Tannerella forsythia、Porphyromonas gingivalis及びTreponema denticolaの密接に関連したグループからなる当該「赤色複合体」は、歯周疾患の臨床的尺度、特に、ポケットの深さ及びプロービング時の出血と強く関連する。さらに、非特許文献11及び12では、S. gordoniiがPorphyromonas gingivalisのコロニー形成に関連することが示された。
【0008】
局所適用粘着性徐放性投与形態における抗生物質又は消毒剤の適用は技術的に困難である。口腔粘膜は液体膜で覆われ、部分的に細菌が定着する。また、会話、嚥下、咀嚼による機械的ストレスを受けやすい。当該ストレス源は、歯周ポケット自体には存在しないが、溝液体の存在(歯周炎の場合、その流速は著しく高まる)により、活性物質がポケットから洗浄されやすい。
【0009】
この困難な開始状況により、満足のいく方法で既存の問題を解決しうる既存の製品や局所抗生物質や消毒薬治療はなかった。例えば、アクチザイト(登録商標)は、歯周ポケット埋込用繊維を含有するテトラサイクリンであるが、専門の歯科医が歯周ポケットへ複雑な塗布をしなければならず、10日後の抜去にさらなる介入が必要である。当該製品はもはやドイツでは販売されていない。メトロニダゾール含有ゲルであるElyzol(登録商標)は、ゲルの接着性が十分でなく、2日以後は有効成分の放出の期待値に合致しない。当該製品はもはやドイツでは販売されていない。また、ドキシサイクリン含有2シリンジ混合システムで構成される徐放性製剤「アトリドックス(登録商標)」もまた、ドイツ市場から撤退した。
【0010】
ドキシサイクリンを含有適用システムであるリゴサン(登録商標)とクロルヘキシジン含有生分解性チップであるペリオチップ(登録商標)は、現在でも市販される唯一の局所投与用製品である。
リゴサン(登録商標)は、歯周ポケットに適用する生分解性ゲルマトリックス中にドキシサイクリンの14%を含む適用システムで、12日間継続放出され、特殊な位置決めシステムを用いた適用で歯周ポケットを改善する。しかし、ゲルの取り扱い及び管理が複雑であり、特に側歯領域に直接目に見えない歯間隙が考えられる場合、ポケットの全ての部分に適当量を適用するのは困難である。当該ゲルは特殊な適用システムで挿入する必要がある。さらに、その深部歯周ポケットの細菌に対する効果は証明されるが、完全治療には適さず、古典的治療法に代替しえない(非特許文献13)。また、歯科医に対する費用がかかるが、歯科医にとってのインセンティブは低く、この治療法の全般的な適用は難しいようだ(非特許文献14参照)。ペリオチップ(登録商標)には、ピンセットで歯周ポケットに挿入できる生分解性ゼラチンチップにクロルヘキシジンを2.5mg含有する。当該チップは7~10日間ポケットに残存し、薬物は経時的に継続放出される。しかしながら、局所抗生物質ほど細菌組成に有効ではないことが見いだされた。また、医療費は支払われない(非特許文献15参照)。要約すると、歯周炎パラメータ(ポケットの深さ及び炎症パラメータ)は当該システムである程度改善されたが、適用は複雑であり、さらに、患者に請求される膨大な費用はドイツの公的医療保険会社では払い戻しされない。
【0011】
長期治療として低用量ドキシサイクリン(ペリオスタット(登録商標))の全身投与も適用される。しかしながら、予想される薬理学的効果は必ずしも臨床結果の成功と相関しない。例えば、喫煙者に対する治療は効果が低下するようだ。さらに、患者側に高レベルのコンプライアンスが必要であり、臨床的改善がみられるかに関する科学的研究の結果には議論の余地がある。したがって、この治療法は一般には推奨しえない(非特許文献16及び17)。
【0012】
最後に、アレスチン(登録商標)は歯周ポケットへの歯肉縁下投与用生体吸収性ポリマー、ポリ(グリコリド‐コ‐dl‐ラクチド)又はPGLAに組み込まれた抗生物質塩酸ミノサイクリンを含む微小球で構成される歯肉縁下徐放性製品である。各単位用量カートリッジは、ミノサイクリン遊離塩基1mgに相当するミノサイクリン塩酸塩を送達する。薬物放出の持続性は14日間と記載される。しかしながら、ドイツではもはや販売されていない(非特許文献18参照)。材料(微小球)の一貫性のため、特殊カートリッジを用いた適用が必要であり、そのため、取り扱い及び歯周ポケットへの配置が困難となり、信頼性が極めて低い。
【0013】
上記のように、有効な治療法の選択肢はいくつかあるが、いずれも改善の余地がある。従って、活性を維持したテトラサイクリン抗生物質の投与、特に歯周炎及び関連疾患の治療の新規の改良型開発に対する高い需要がある。歯周炎治療の理想的な薬物送達システムは、単純な製造、容易な適用、無溶媒、及び生物活性の高度に長期間制御される放出を組み合わせるべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Chopra et al., Microbiol Mol Biol Rev. 2001, June 65(2):232-60
【文献】Mitscher, L. A. 1978. The chemistry of the tetracycline antibiotics. Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y
【文献】Batchelor, P. British Dental Journal 2014, 217, 405-409
【文献】Micheelis, W. et al. Vierte Deutsche Mundgesundheitsstudie (DMS IV), Deutscher Aerzte-Verlag, Kоeln, 2006
【文献】Statistisches Bundesamt, 2008
【文献】Sanz, I. et al.J Evid Based Dent Practice 2012, 12(3), 76-86
【文献】Jepsen, K. et al. Periodontol 2000 2016, 71(1), 812-112
【文献】Wissenschaftliche Stellungnahme: Adjuvante Antibiotika in der Parodontitistherapie, Deutsche Gesellschaft fuer Zahn- Mund- und Kieferheilkunde, DZZ 200
【文献】Matesanz-Perez, P. et al. J Clin Periodontol 2013, 40(3), 227-241
【文献】Socransky et al., Journal of Clinical Periodontology, 1998, 25, 134-144
【文献】Lamont et al.,Microbiology 2002, 148, 1627-1636.
【文献】Daep et al., Infect. Immun. 2006, 74, 5756-5762
【文献】Eickholz, P et al.; J Clin Periodontol 2002; 108-117; Ratka-Krueger, P. et al., J Periodontol. 2005/1,76: 66-74
【文献】https://www.parodontitis.com/ligosan-slow-releaseR-zur-behandlung-von-zahnfleischtaschen.html
【文献】https://www.parodontitis.com/lokale-behandlung-der-zahnfleischtaschen-mit-periochip-ec40-chxhtml.html
【文献】G. Greenstein, Efficacy of submicrobial-dose doxycycline in the treatment of periodontal diseases: a critical evaluation, The international journal of Periodontics & Restorative Dentistry, 2004, 24(6):528-543
【文献】I. Needleman et al., A randomized-controlled trial of low-dose doxycycline for periodontitis in smokers, Journal of clinical Periodontology, 2007, 34(4):325-333
【文献】https://www.parodontitis.com/vom-markt-genommen-atridoxR-actisiteR-arestinR-und-elyzolR.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記を考慮して、本発明は、安定性が高く、;及び/又は活性が持続し;及び/又は、より単純で、より容易で、及び/又は、より適用や取り扱いの信頼性が高い、テトラサイクリン化合物の投与形態の提供を目的とする。特に、本発明は、歯科医にとって簡便であり、信頼性があり、なるべく無痛の方法で抗生物質を適用しうる局所適用形態の提供を目的とする。さらに、必要な活性レベルが長期間(すなわち、14日を超える期間)にわたり持続するように、有意に長期間の均一放出を目標とする。最後に、当該新規投与形態は、好ましくは、安全で、信頼性があり、公的健康保険により払い戻される程度に十分に安価であることが望ましい。
【0016】
本発明のさらなる他の目的は、当該投与形態を製造する方法の提供;ヒト又は動物の体の処置方法、及び/又は当該方法で用いる化合物若しくは医薬製剤の提供;細菌感染の治療方法若しくは予防方法、及び/又は当該方法で用いる化合物若しくは医薬製剤の提供;急性、慢性又は再発性歯周疾患の処置方法若しくは予防方法、及び/又は当該方法で用いる化合物化合物若しくは医薬製剤化合物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、テトラサイクリン化合物(TC)又は製薬上許容されるその塩、及び、二価金属カルボキシレート(MA2)から形成される複合体を提供し、ここで、モル比TC:MA2は、1:0.8~3.0の範囲であり;前記二価金属のカチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり;かつ、前記Aは、C8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである。
【0018】
本発明は、さらに、態様1~4のいずれか1つの複合体及び場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む医薬製剤を、好ましくは、らせん状押出物の形態で、提供する。
【0019】
本発明は、さらに、(a)テトラサイクリン化合物(TC)又はその製薬上許容される塩、及び2価金属カルボキシレート(MA2)を1:0.8~3.0のモル比で有機溶媒と混合して分散物を得る工程であって、ここで、前記2価金属カチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり、AはC8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;(b)前記分散物を加熱して複合体を形成する工程;(c)前記溶媒を除去して複合体を得る工程;を含む。本発明は、さらに、らせん状押出物の形態の医薬製剤を製造する方法を提供し、当該方法は、(d)前記複合体、及び存在する場合には、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤、を粉砕して押出成形前駆体を得る工程;(e)前記押出前駆体を室温より高い温度で押出する工程;(f)工程(e)の生成物を冷却して、らせん状押出物の形態の医薬製剤を得る工程;を含む。
【0020】
本発明は、さらに、ヒト又は動物の身体の処置方法で用いる;及び/又は細菌感染、好ましくは、Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythia、Streptococcus gordonii、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces naeslundii及びParvimonas micraからなる群から選択される1又はそれ以上の細菌により生じる細菌感染の処置及び/又は予防の方法で用いる;及び/又は抗生物質活性を少なくとも21日間にわたり持続させるために用いる;並びに/又は急性、慢性又は再発性の歯周病の処置及び/又は予防の方法で用いる、上記で定義された複合体及び/又は上記で定義された医薬製剤を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明者らは、本発明によるテトラサイクリン化合物の複合体が、対応するテトラサイクリン化合物よりも水性環境でより緩慢に分解することを見出した。さらに、当該複合体は水への溶解度が低く、対応するテトラサイクリン化合物やアレスチン(登録商標)等の徐放性系に比べて、その放出がより遅延性及び持続性であることがわかった。マグネシウム又はカルシウムイオンとの1:0.5の比によるテトラサイクリン化合物のキレート複合体が既に報告されるが、本複合体はその化学量論の点で異なる。本発明による複合体形成は、化合物の化学的特性を改変する。具体的には、溶解度、光度挙動及び反応性は好ましい方法で影響を受ける。当該活性物質は長期間にわたり生物学的活性を維持し、水への溶解度が低く、水溶液中での分解に対する安定性が高まり、カルボキシレートアニオンの親油性が高いため、遅延放出される。さらに、当該複合体形成により、テトラサイクリン化合物がより活性の低いエピマーへ変換するのを妨げ、つまり、活性物質の生物学的活性の長期維持に寄与するようだ。当該効果は、本発明による複合体を単独投与するか、又は医薬製剤、例えば局所投与用調製物中の1又はそれ以上の医薬賦形剤と併用投与する場合に持続しうる。
【0022】
さらに、複合体が、押出物等の医薬製剤(純物質として、又は賦形剤、例えば、生分解性ポリマーとともに)中で提供される場合、より長い放出及び活性が達成されうる。当該押出物は、(例えば、歯周ポケットに挿入されるには)形成及び取り扱いが容易であり、さらに、薬物放出の遅延性が高まる。最後に、口腔粘膜への接着性が良好であり、適用信頼性に優れる。
【0023】
本明細書に記載された製造方法は、治療上望ましい驚くほど顕著な薬物の持続的放出を伴う新規なテトラサイクリン化合物複合体の形成をもたらす。さらに、本発明の製造方法により得られた複合体は、有機溶媒への溶解度が高く、水溶解度が低い。本発明による複合体及び製剤の製造方法は、簡便、多様であり、有毒な有機溶媒を用いず、かつ、十分に確立され、信頼性があり、安全な医薬成分のみを用いることに基づきうる。さらに、本発明による複合体は、容易に成形可能であり、単独で、又は1又はそれ以上の賦形剤とともに押出して、適当な所望の幾何学的形状の押出し物に変換でき、例えば、歯周ポケットへの容易な配置に適する。
【0024】
当該複合体及び製剤は、放出挙動及び持続的抗菌活性、特に歯周炎の発生及び進行に関連する経口病原体に対して優れていることが示された。これにより、非外科的歯周炎治療の有効性が高まり、その結果、必要な外科的治療量が低減され、コスト削減も著しい。さらに、全身投与された抗生物質による治療により生じる患者の負担は、局所適用の有効な治療形態に置換することにより低減されうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】異なるモル比の乾燥ミノサイクリン/ステアリン酸マグネシウム複合体があるガラス試験管の写真である。左から右へ:ミノサイクリン塩酸塩/ステアリン酸マグネシウムのモル比は1:1、1:2、ミノサイクリン遊離塩基/ステアリン酸マグネシウムのモル比は1:1及び1:2(各々実施例4、3、2及び1に相当)。
【
図2】ミノサイクリン/ステアリン酸マグネシウムのモル比が1:1(左、実施例2)及び1:2(右、実施例1)である乾燥ミノサイクリン/ステアリン酸マグネシウムの顕微鏡写真である。
【
図3】ドキシサイクリン/ステアリン酸マグネシウムのモル比が1:1(左、実施例6)及び1:2(右、実施例5)である乾燥ドキシサイクリン-ステアリン酸マグネシウムの顕微鏡写真を示す。
【
図4】pH7.1(上)及び2.3(下)の緩衝液中、37℃で所定の時間(0日目は常に上の曲線)でインキュベーションされたミノサイクリン(左)及び実施例1(右)による複合体のクロマトグラムのグラフである。
【
図5】実施例1に関するミノサイクリン及びミノサイクリン複合体の塩酸添加前(左)及び添加後(右)のエタノール中のUV/Vis吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図6】680~4000cm
-1の領域におけるミノサイクリン、ステアリン酸マグネシウム及び実施例1による複合体のFTIR-ATRスペクトルを示すグラフである。
【
図7】純粋なミノサイクリン/ステアリン酸マグネシウム複合体1:2、並びに押出時の様々なPLGAポリマー(実施例10~13)からなる実施例9の押出物の放出曲線を示すグラフである。
【
図8】ナイフエッジブレードを取り付けたテクスチャアナライザにおける押出物の変形時の力-変位図を示すグラフである。
【
図9】11.5%のミノサイクリンを含有するレゾマ(Resomer)502 RG(上)及びレゾマ503 RG(下)を含む本発明より得られた押出物の写真である。両方の押出物を600μmの押出装置で押出した。503 RG押出物の直径がより大きいことは、ポリマーの粘弾性特性を示す。
【
図10】粘膜(A)への接着力及び当該測定物(B)に特異的に用いられる流路の形状を評価する実験アセンブリを示す写真である。
【
図11】溶出液(希釈液)対Streptococcus gordonii ATCC 10558及びPorphyromonas gingivalis ATCC 33277(最長42日間)の最小発育阻止濃度を示すグラフである。
【
図12】バイオフィルム形成に対する24時間、2日、7日、14日及び28日後に得られた溶出液の阻害効果を示すグラフである。
【
図13】マグネシウム-及びステアリン酸カルシウムと対になったドキシサイクリン及びそれらの複合体のHClの添加後のミノサイクリン及びドキシサイクリンのUV/VISスペクトル(230~450nm)を示すグラフである。比はモル比を表す。
【
図14】ミノサイクリン、マグネシウム及びステアリン酸カルシウム並びにその複合体の680~4000cm
-1のFTIR-ATR-スペクトルを示すグラフである。ミノサイクリン:a-υ O-H;b-υ N-H;c-υ C-H;d-υ CONH
2;e-υ C=C(芳香族);f-υ C-Nステアリン酸マグネシウム/ステアリン酸カルシウム:g-υ C-H;h-υ
as COO
-;i-δ C-H;j-CH
2の揺動振動である。
【
図15】ドキシサイクリン、マグネシウム及びステアリン酸カルシウム並びにその複合体の、680~4000cm
-1のFTIR-ATR-スペクトルを示すグラフである。ドキシサイクリン:a-υ O-H /υ N-H;b-υ C-H;c-υ CONH
2;d-υ C=C(芳香族);f-υ C-Nステアリン酸マグネシウム/ステアリン酸カルシウム:e-υ C-H;f-υ
as COO
-;g-δ C-H;h-CH
2の揺動振動である。
【
図16】S.aureus ATCC 29213とインキュベートした寒天プレートを示す写真である。左プレート:エタノールを充填したディスク、中プレート:エタノール性ミノサイクリン複合体溶液を充填したディスク、右プレート:エタノール性ミノサイクリン溶液を充填したディスク。
【
図17】37℃におけるPBS pH7.0中のいくつかのミノサイクリン複合体PLGA組成物の放出プロファイルを示すグラフである。
【
図18】37℃におけるpH7.0及びpH2.3におけるミノサイクリン及びミノサイクリン複合体のクロマトグラムを示すグラフである。
【
図19】ミノサイクリン塩酸塩(左)の5質量%懸濁液及びリン酸二ナトリウム(右)の5質量%溶液を示す写真である。
【
図20】混合ミノサイクリンHCl及びリン酸二ナトリウム溶液(2.5質量% t ミノサイクリンHCl、2.5質量%リン酸二ナトリウム)を示す写真である。
【
図21】ミノサイクリン塩酸塩の1質量%溶液(左)及びリン酸二ナトリウムの1質量%溶液(右)を示す写真である。
【
図22】ミノサイクリンHCl及びリン酸二ナトリウム溶液(0.5質量% t ミノサイクリンHCl、0.5質量%リン酸二ナトリウム)の混合物を示す写真である。
【
図23】ミノサイクリンHClとリン酸二ナトリウム溶液の混合物(0.5質量% t ミノサイクリン HCl、0.5質量%リン酸二ナトリウム、ただし、400μlの0.1M HClを添加した場合)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔複合体〕
本発明は、テトラサイクリン化合物(TC)又は製薬上許容されるその塩、水和物若しくは溶媒和物、及び二価金属カルボキシレート(MA2)を含む複合体を提供し、ここで、TC:MA2のモル比は1:0.8~3.0の範囲であり;前記二価金属のカチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり;かつ、前記Aは、C8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである。
【0027】
テトラサイクリン類の制御放出は、水中での化学的不安定性が主要な問題である。例えば、ミノサイクリンは活性損失を伴うエピマー化反応を示す。また、ドキシサイクリンは水中で分解される。つまり、薬物の分解前の放出は避けるべきである。本発明者らは、脂溶性複合体の形成が薬物の安定性を高め、放出時間を延長しうるという仮説を確立した。
【0028】
〔テトラサイクリン化合物〕
本明細書中で用いられる用語「テトラサイクリン化合物」(TC)は、テトラサイクリン抗生物質のファミリーに属する、すなわち、以下の、6-デオキシ-6-デメチルテトラサイクリン最小ファーマコフォア構造:
【0029】
【0030】
好ましくは、テトラサイクリン化合物(TC)は、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、チゲサイクリン、デメクロサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、オマダサイクリン、サレサイクリン及びエラバサイクリンから選択される。好ましいテトラサイクリン化合物はまた、非引用文献1の表2に詳しく記載されるように、7-クロルテトラサイクリン、5-ヒドロキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、6-デメチル-7-クロルテトラサイクリン、2-N-ピロリジノメチルテトラサイクリン、2-N-リシノメチルテトラサイクリン、N-メチロール-7-クロルテトラサイクリン、6-メチレン-5-ヒドロキシテトラサイクリン(メタサイクリン)、6-デオキシ-5-ヒドロキシテトラサイクリン(ドキシサイクリン)、7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(ミノサイクリン)、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-ミノサイクリン、9-(t-ブチルグリシルアミド)-ミノサイクリン(チゲサイクリン)からなる群から選択される。さらに好ましいテトラサイクリン化合物としては、クロモサイクリン(N-メチロール-7-クロルテトラサイクリン)、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン及び9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-ミノサイクリンがあげられる。
【0031】
本明細書中で用いられる用語「テトラサイクリン化合物」又は「TC」は、化合物の一般クラス、すなわちテトラサイクリン抗生物質のファミリーに属する化合物をいい、一方、用語「テトラサイクリン」は、特定の好ましい化合物(4S,4aS,5aS,12aS)-4-(ジメチルアミノ)-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,6,10,12,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミド):
【0032】
【0033】
好ましくは、当該テトラサイクリン化合物(TC)は、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、チゲサイクリン、デメクロサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、オマダサイクリン、サレサイクリン、エラバサイクリン、クロモサイクリン、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-6-デメチル-6-デオキテトラサイクリン及び9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-ミノサイクリンから選択される。当該抗生物質には、安全であり、臨床的に確立されており、よって信頼性があり、本明細書に記載される様々な治療用途に適しうるという利点がある。
【0034】
最も好ましくは、当該テトラサイクリン化合物は、ミノサイクリン(7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン)
【0035】
【化5】
又は(4S,4aS,5aR,12aR)-4,7-ビス(ジメチルアミノ)-1,10,11,12a-テトラヒドロキシ-3,12-ジオキソ-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキシアミド)又はドキシサイクリン(6-デオキシ-5-ヒドロキシテトラサイクリン)
【0036】
【化6】
又は(4S,4aR,5S,5aR,6R,12aR)-4-(ジメチルアミノ)-1,5,10,11,12a-ペンタヒドロキシ-6-メチル-3,12-ジオキソ-4a,5,5a,6-テトラヒドロ-4H-テトラセン-2-カルボキシアミド)、さらに好ましくはミノサイクリンである。
【0037】
当該抗生物質には、歯周疾患の治療において、それらの適用性が臨床的に確立されるという付加的な利点がある。
【0038】
〔モル比〕
モル比TC:MA2は、好ましくは1:0.8~3.0の範囲である。本発明者らは、本発明による複合体の調製で得られる主な種は、TC:MA2が1:1又は1:2であることを見出した。したがって、モル比TC:MA2が1:1~1:2の間である混合物もまた、本発明の範囲内であることが意図される。例えば、TC:MA2=1:0.8の微量過剰のTCもまた、本発明の範囲内である。同様に、例えば、TC:MA2の比が1:2又は1:3を超える過剰のMA2も、過剰の金属カチオンがTCに配位しているかによらず、本発明の範囲内であると考えられる。従って、TC:MA2の比率が特定された複合体と、ある程度の過剰量である成分とを含む当該混合物もまた、本発明による複合体の定義に包含されることが意図される。好ましくは、TC:MA2は1:1又は1:2であり、より好ましくはTC:MA2は1:2である。モル比TC:MA2のさらなる好ましい範囲は、例えば、1:0.7-1:1.2、1:0.7~1:1.1、1:0.8~1:1.1、1:0.9~1:1.2、1:0.9~1:1.1、1:1.1~1:2.9、1:1.4~2.5、及び1:1.8~1:2.2、より好ましくは1:0.9~1:1.1及び/又は1:1.9~1:2.1である。
【0039】
〔カルボキシレートアニオン〕
Aは、C8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである。カルボキシレートアニオンの親油性は、本発明による複合体及び調製物からのテトラサイクリン抗生物質の持続的放出の改善に寄与する。
【0040】
カルボン酸は飽和又は不飽和でありうる。好ましくは、Aは、アラキジン酸(C20)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、カプリル酸(C10)、カプリル酸(C8)、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸から選択されるカルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである。ヒドロキシステアリン酸は、好ましくは10-ヒドロキシステアリン酸又は12-ヒドロキシステアリン酸でありうる。最も好ましくは、カルボキシレートアニオンはステアリン酸塩(C18)である。
【0041】
〔製薬上許容される塩、水和物及び溶媒和物〕
本明細書中で用いられる用語「製薬上許容される」は、ヒト及び獣医学的使用をともに含む。例えば、用語「製薬上許容される」は、獣医学的に許容される化合物又はヒトの医薬及び医療で許容される化合物を包含する。当該テトラサイクリン化合物の塩、水和物及び溶媒和物は、対イオン又は関連する溶媒が製薬上許容される。しかしながら、製薬上許容されない対イオン又は関連溶媒を有する塩、水和物及び溶媒和物は、例えば、他の化合物及びそれらの製薬上許容される塩、水和物及び溶媒和物の調製における中間体として用いるため、本発明の範囲内にある。好適な塩としては、有機酸及び無機酸又は塩基のいずれかと共に形成されるものがあげられる。製薬上許容される酸付加塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフェニル酢酸、スルファミン、スルファニル酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アリールスルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸又はナフタレンジスルホン酸)、サリチル酸、グルタール酸、グルコン酸、トリカルバリル酸、ケイ皮酸、置換ケイ皮酸(例えば、4-メトキシケイ皮酸及び4-メトキシケイ皮酸を含む、フェニル、メチル、メトキシ、又はハロで置換されたケイ皮酸)、アスコルビン酸、オレイン酸、ナフトエ酸、ヒドロキシナフトエ酸(例えば、1-又は3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ナフタレンアクリル酸、安息香酸、4-メトキシ安息香酸、2-又は4-ヒドロキシ安息香酸、4-クロロ安息香酸、4-フェニル安息香酸、ベンゼンアクリル酸(例えば、1,4-ベンゼンジアクリル酸)、イセチオン酸、過塩素酸、プロピオン酸、グリコール酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、パモ酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸、及びトリフルオロ酢酸から形成されるものが含まれる、特に好ましい酸付加塩は、塩酸塩、ヒクラート(塩酸ヘミエタノレート半水和物、・HCl・1/2EtOH・1/2H2O)、及びマレイン酸又はシュウ酸から形成される酸付加塩である。製薬上許容される塩基塩には、アンモニウム塩、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属塩、並びにジシクロヘキシルアミン及びN-メチル-D-グルカミン等の有機塩基との塩が含まれる。本発明の化合物の全ての製薬上許容される酸付加塩形態は、本発明の範囲に包含されることが意図される。
【0042】
〔医薬製剤〕
本発明は、上記等の複合体、及び、場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む医薬製剤を提供する。
本明細書中で用いられる用語「医薬製剤」は、本発明に関する化合物を治療有効量で含む製品、及び本発明に関する化合物の組合せから直接的又は間接的に生じるいかなる製品を包含することを意図する。
【0043】
本発明による医薬製剤では、テトラサイクリン化合物(TC)の全含量(total content)は、好ましくは5~30質量%、30~50質量%、より好ましくは8~28質量%、32~48質量%、さらに好ましくは10~20質量%、さらに好ましくは11~15質量%、さらに好ましくは11.5±5質量%、さらに好ましくは27.9質量%±5質量%、11.5±2質量%、27.9質量%±2質量%、11.7~14.75質量%、15.25~19.75質量%、最も好ましくは11.5質量%又は27.9質量%の範囲である。さらに当該医薬製剤中のテトラサイクリン複合体(好ましくは式[(TC)・2(MgA2)]を有する複合体)の総含有量(overall content)は、5~95質量%、より好ましくは、10~80質量%、さらに好ましくは15~75質量%、よりさらに好ましくは20~60質量%、なおさらに好ましくは30~50質量%、最も好ましくは41.2質量%である。
【0044】
〔賦形剤〕
本明細書中で用いられる用語「賦形剤」とは、担体、結合剤、崩壊剤、及び/又はガレニック製剤用のさらなる適当な添加剤、例えば、押出物、クリーム、ゲル、乳液、懸濁液、塗布剤、軟膏、粉末、ペースト、バーム、ローション、点眼剤、スプレー、局所エアロゾル、局所溶液、局所懸濁液、皮膚パッチ及び不織布をいう。当該混合物に添加しうる担体としては、必要かつ不活性な薬学的賦形剤があげられ、これには、適当な放出遅延剤、懸濁剤、滑剤、フレーバー剤、甘味剤、保存剤、コーティング剤、造粒剤、染料、及び着色剤が含まれるが、これらに限定されない。
特に好ましいクラスの賦形剤は、生分解性ポリマーであり、以下で、より詳細に説明される。
【0045】
さらに好ましいタイプの賦形剤は、グリセロールモノステアレート等の乳化剤であり、好ましくは5~15質量%、より好ましくは8~12質量%、最も好ましくは10質量%の量で存在しうる。当該賦形剤を添加することで、当該製剤、特に押出物の放出挙動を調節(例えば、促進)しうる。
【0046】
さらに好ましいタイプの賦形剤は、好ましくは5~15質量%、より好ましくは8~12質量%、最も好ましくは10質量%の量で存在しうるポリエチレングリコール(PEG)等の可塑剤である。好ましいタイプの可塑剤はPEG 1500である。当該賦形剤を添加することで、当該製剤の機械的挙動、特に押出物の機械的挙動を調節(例えば、脆性及び/又は経時変化に伴う硬化傾向の低減)しうる。
【0047】
〔投与経路及び製剤の種類〕
好ましくは、本発明の医薬製剤は、局所投与用に調整される。局所投与とは、疾患治療のための皮膚又は粘膜等の体表面への、クリーム、フォーム、ゲル、ローション、及び軟膏を含む広範囲のクラスを介した適用をいう。多くの局所(外用)薬は皮膚上で、皮膚に直接塗布されることをいう。局所薬はまた、喘息薬等の吸入薬であってよく、又は結膜に適用される点眼薬等の皮膚以外の組織の表面に適用されてよく、又は耳に適用される点耳薬、又は歯、歯肉若しくは歯周ポケットの表面に適用される薬剤であってよい。
【0048】
さらに好ましくは、医薬製剤は、押出物、粒子、顆粒、粉末、フィルム、ストリップ、コンパクト、チップ、ペースト、クリーム、ゲル、乳液、懸濁液、塗布剤、軟膏、バーム、ローション、点眼液、スプレー、局所エアロゾル、局所溶液、局所懸濁液、皮膚パッチ及び不織布からなる群より選択される。
さらに好ましくは、医薬製剤は、歯周ポケットへの適用のために調整される。
【0049】
〔押出物〕
発明者らは、歯周炎治療の理想的な薬物送達システムが、単純な製造、容易な適用、溶媒不使用、及び生物活性の高い長期制御放出を組み合わせるべきとの理想を模倣するホットメルト押出物の開発を目指した。ホットメルト押出物は、製薬産業では連続的で十分に確立されたプロセスであり、好ましい技術である。サイズ及び形状は、押出成形パラメータにより適合させうる。加えて、柔軟性及び膨潤挙動は、賦形剤の適当な選択により修正しうる。押出物は適当な長さに切断しうる。押出物の挿入は容易かつ迅速なプロセスである。微粒子及び高粘度ゲルの適用とは対照的に、特殊な装置が必要ない。
【0050】
本明細書中で用いられる用語「押出物」は、ダイを通して押出されるいかなる材料をもいう。特に、押出物とは、断片に切断されうるロッドに前駆体を押出して成形することにより得られる投薬形態、又は、例えば、局所投与又は異なる投与経路用の徐放性投薬形態として用いうるものをいう。好ましくは、医薬製剤は、例えば、
図9に示すように、らせん状押出物の形態である。らせん形状の押出物は、好ましくは、本質的に円形又は本質的に楕円形の断面、及び/又は最大断面直径が、0.1~10mm、0.2~5mm、0.3~1mm、0.4~0.8mm、0.3~0.6mm、より好ましくは0.2~5mm、さらに好ましくは0.3~1mm、よりさらに好ましくは0.4~0.8mm、最も好ましくは0.3~0.6mm、0.3、0.4、0.5又は0.6mmの範囲である。適当な直径により、所定のサイズの歯周ポケットへの容易、無痛、かつ信頼しうる配置が可能となる。
【0051】
〔生分解性ポリマー〕
本発明による医薬製剤は、好ましくは、可能な賦形剤として、1又はそれ以上の生分解性ポリマーを含む。これらは、生分解性ポリエステル、例えば、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)又はポリカプロラクトン(PCL);混合生分解性ポリエステル、例えば、PLA-PCL及びPLGA-PCL;生分解性PEG化ジブロック(AB)又はトリブロック(ABA又はBAB)コポリマー、例えば、PEG-PLA、PEG-PLGA、PEG-PCL及びPEG-PCL-PLGA;並びにペクチンから選択されうる。
【0052】
ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)及びそれらの共重合体は、本発明の使用に適する生分解性ポリエステルである。それらは、エステル骨格の単純な加水分解により、体内で分解し、無害で無毒性の化合物になる。分解産物は腎臓によって排泄されるか、又はよく知られた生化学的経路によって二酸化炭素と水として排泄される。PLA/PGAポリマーは、事実上すべての先進国の規制当局によって安全、無毒性、かつ生体適合性があると考えられており、当該材料の追加的用途は、生体適合性が未確認の新規ポリマーを利用するものよりも早く市場に出され、費用効率が高い。本発明における使用に適したPLA/PGAポリマーの例としては、例えば、以下の表1に示すエボニックレームファーマGmbHにより製造されたレゾマポリマー(RESOMER(登録商標)生分解性ポリマー、医療機器応用研究、レゾマ(登録商標)材料、エボニックレームGmbH、https://www.sigmaaldrich.com/technical-documents/articles/materials-science/polymer-science/resomer.html、2018年10月25日)である。
[ポリグリコール酸(PGA)]
PGAは、高融点(225-230℃)で、有機溶媒への溶解度が様々で、一般に低く、ポリマー分子量に依存する高結晶性物質である。ポリマー骨格のエステル結合のため、加水分解を受けやすい。溶解度が低いにもかかわらず、当該ポリマーは様々な形態及び構造に加工される。PGA系構造の開発に用いられる技術としては、押出成形、射出成形及び圧縮成形、並びに微粒子浸出及び溶媒鋳造があげられる。PGAの繊維は、強度及び係数が高く、特に剛性が高い。
【0053】
[ポリ乳酸(PLA)]
グリコリドとは異なり、ラクチドはキラル分子であり、L-ラクチドとD-ラクチドという2つの異なる光学活性型として存在する。当該モノマーが各々重合すると、得られるポリマーは半結晶性である。L-及びD-ラクチドのラセミ混合物の重合により、ポリ‐D、L-ラクチド(PDLLA)が生成され、これは非晶質であり、ガラス転移温度は55~60℃である。結晶化度は、ポリマー内のD対Lのエナンチオマーの比を変化させて調整しうる。PLAの立体化学の選択は、ポリマーの性質、加工性及び生分解性に大きな影響を及ぼしうる。ポリ(L-ラクチド)又はPLLAは、天然に存在する立体異性体であるL(+)-乳酸単位に分解され、つまり、最小限の毒性で排泄されるため、鋳造/押出生物医学装置用に選択されるポリマーであることが多い。
【0054】
[ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)共重合体(PLGA)]
L-及びDL-ラクチドは共重合に用いられる。異なる組成のラクチドに対するグリコリドの比率により、ポリマーの結晶度を制御しうる。結晶性PGAをPLAと共重合すると、結晶化度が低下し、その結果、水和速度と加水分解速度が高まる。従って、共重合体の分解時間は合成に用いられるモノマーの比に関係すると結論できる。一般に、グリコリドの含有量が多いほど、分解速度は速い。しかし、この規則の例外は、PGA:PLAの50:50の比であり、これは最も速い分解を示す。
【0055】
末端基としては、3種類の末端基官能基、すなわち、(i)遊離カルボン酸基、(ii)エステル末端基、(iii)アルキルエステル基が好ましい。エステル末端を有するポリマー及びアルキルエステル基でキャップされたポリマーは、通常、遊離カルボン酸類似体よりも分解寿命が長い。
【0056】
【表1】
本発明で用いるのにさらに好適な生分解性ポリマーは、メルクKGaA(PLA&PLGAポリマーポートフォリオ、ペプチド及び小分子製剤http://www.merckmillipore.com/INTERSHOP/web/WFS/Merck-DE-Site/de_DE/-/EUR/ShowDocument-Pronet-id=201604.101、2018年10月25日)製EXPANSORB(登録商標)より入手しうる:
【0057】
【表2】
本発明により用いられる生分解性ポリマーの質量平均分子量の範囲は、好ましくは、4~250、4~240、4~15、5~210、5~90、5~20、7~17、10~25、10~18、10~15、15~40、15~30、18~28、24~38、25~60、30~70、30~60、35~60、37~84、42~65、45~85、50~95、60~85、65~95、65~85、70~100、76~130、76~116、80~130、80~115、100~160、110~166、185~210、190~240、より好ましくは7~85、8~16、25~37、0,45~0,80、0,46~0,64、0,66~0,79、最も好ましくは、7~17、24~38、45~65及び/又は65~80である。本発明で用いられる生分解性ポリマーのガラス転移温度は、好ましくは42~48℃、より好ましくは43~47℃、さらに好ましくは42~46又は44~48℃である。本発明により用いられる生分解性ポリマーの固有(固有;inherent,intrinsic)粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)は、好ましくは、0.03~1.70、0.03~1.75、0.05~1.60、0.05~0.20、0.06~1.60、0.08~0.21、0.13~1.32、0.16~1.28、0.12~0.46、0.14~0.22、0.14~1.70、0.15~0.21、0.15~0.25、0.15~0.30、0.15~0.43、0.16~0.24、0.18~0.22、0.25~0.35、0.25~0.35、0.25~0.40、0.25~0.50、0.30~0.46、0.30~0.50、0.32~0.44、0.35~0.42、0.35~0.55、0.38~0.64、0.40~0.50、0.40~0.55、0.40~0.60、0.42~0.67、0.42~0.82、0.45~0.60、0.45~0.65、0.47~0.63、0.47~0.78、0.66~0.80、0.65~0.90、0.70~0.90、0.71~1.00、0.75~1.00、0.80~1.10、0.80~1.20、1.00~1.30、1.30~1.70である。エステル、アルキルエステル及び/又はPEG基で末端が置換された(キャップされた)ポリマーが好ましい。
【0058】
本発明において用いられる生分解性ポリマーは、好ましくは、PLGAコポリマー(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド))であり、L/G比が、5/95~95/5、10/90~90/10、15/85~85/15、25/75~75/25、35/65~65/35、45/55~55/45、45/55~50/50、50/50~55/45、55/45~65/35、65/35~75/25、75/25~85/15、85/15~90/10、90/10~95/5、より好ましくは25/75、45/55、50/50、55/45、65/35、75/25、75/25、85/15、90/10、95/5、95/5、最も好ましくは、50/50である。
【0059】
好ましい生分解性ポリマーは、PLGAコポリマーであり、L/G比が、25/75~75/25、好ましくは35/65~65/35、より好ましくは45/55~55/45、最も好ましくは50/50の;質量平均分子量(kDa)が5~90、好ましくは7~85、より好ましくは7~17、24~38、30~60、60~85、さらに好ましくは8~18、25~37、31~59、61~84;固有(固有;inherent,intrinsic)粘度[dl/g](クロロホルム中0.1%、25℃)が、0.14~0.82、好ましくは0.16~0.80、より好ましくは0.16~0.24、0.32~0.44、0.45~0.65、0.65~0.85、さらに好ましくは0.17~0.23、0.323~0.43、0.46~0.64、0.66~0.84;及び、エステル、アルキルエステル及び/又はPEG基で末端化され;場合によっては、ガラス転移温度が、42~48℃、好ましくは42~46又は44~48℃、さらに好ましくは43~45又は45~47℃である。
【0060】
好ましい生分解性ポリマーは、PLA/PGA比が50:50のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリドであり;好ましくは質量平均分子量の範囲が、7,000~38,000、より好ましくは7,000~17,000又は24,000~38,000;及び/又は固有粘度が0.16~0.44、より好ましくは0.16~0.24又は0.32~0.44;及び/又はガラス転移温度が42~48℃、より好ましくは42~46又は44~48℃である。さらに好ましくは、生分解性ポリマーは、レゾマ(登録商標)RG502(「レゾマ502」)、レゾマ(登録商標)RG503(「レゾマ503」)又はそれらの混合物から選択される。
【0061】
好ましい生分解性ポリマーはまた、PLA/PGA比が50:50及び及び末端がPEG末端基(PLGA-PEG)であるポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド;好ましくは質量平均分子量の範囲が、30~85kDa、より好ましくは30~60kDa;及び/又は好ましくは固有粘度が0.45~0.80、より好ましくは0.45~0.65である。さらに好ましくは、当該生分解性ポリマーは、EXPANSORB(登録商標)DLG 50-6Pである。
【0062】
〔製造方法〕
本発明は、さらに、上記の複合体の製造方法を提供し、当該方法は、(a)テトラサイクリン化合物(TC)又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物、及び2価金属カルボキシレート(MA2)を1:0.8~3.0のモル比で有機溶媒と混合して分散物を得る工程であって、ここで、前記2価金属カチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり、前記AはC8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;(b)前記分散物を加熱して複合体を形成する工程;(c)前記溶媒を除去して複合体を得る工程;を含む。好ましいテトラサイクリン化合物、モル比、カルボキシレートアニオン、製薬上許容される塩、水和物及び溶媒和物は、上記の「複合体」の記載のとおりである。好ましい実施形態では、本発明による複合体は、本明細書に記載の製造方法により得られる。
【0063】
混合工程(a)では、好ましい溶媒は、例えば、水の存在下又は非存在下におけるメタノール、エタノール又はそれらの混合物等のアルコールである。好ましくは、溶媒に対するTCの質量/体積比が1:100~1:300、好ましくは1:200であるものを用いてよい。
【0064】
分散物の加熱工程(b)では、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、最も好ましくは70℃以上の温度で、かつ溶媒の沸点まで複合体の形成が促進される。選択した溶媒、温度及び溶媒に対するTCの質量/体積比に応じて、工程(b)の間に完全な溶解が起こり、複合体の溶液が得られる。
【0065】
工程(c)では、当該溶媒を、当技術分野で公知の適当な方法で除去しうる。好ましくは、当該溶媒は、室温又は高温で、及び/又は振盪機、オーブン中で、又はフィルム上/中で、及び/又は大気圧下又は好ましくは減圧下で蒸発させうる。
【0066】
本発明による医薬製剤は、特段の規定がない限り、当技術分野で公知の適当な方法により調製しうる。しかしながら、医薬製剤がらせん状押出物の形態である場合、後者は、好ましくは、以下の工程:(d)当該複合体、及び存在する場合には、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤、を粉砕して押出成形前駆体を得る工程;(e)前記押出前駆体を室温より高い温度で押出する工程;(f)工程(e)の生成物を冷却して、らせん状押出物の形態の医薬製剤を得る工程;を含む方法により調製される。好ましい賦形剤、投与経路及び製剤の種類、押出物、及び生分解性ポリマーは、上記の「医薬製剤」で記載のとおりである。好ましい実施形態では、本発明による医薬製剤は、本明細書に記載の製造方法によって得られる。
【0067】
粉砕工程(d)では、複合体を、(上記のように、及び存在する場合には)1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤と共に混合し、粉砕し、ホモジナイズして、押出し前駆体を得る。好ましくは、1又はそれ以上の生分解性ポリマー、乳化剤、及び/又は上記の可塑剤を賦形剤として添加してよい。さらに好ましくは、添加されるテトラサイクリン化合物(TC)の含有量は、混合される成分の総量に対して5~30質量%、より好ましくは8~28質量%、さらに好ましくは10~20質量%、さらに好ましくは11~15質量%、最も好ましくは11.5質量%又は27.9質量%の範囲である。粉砕は、好ましくはミル又はグラインダーで、より好ましくは低温、例えば-196℃のクライオミルで粉砕又は粉砕して、実施される。クライオミルが用いられる場合、押出し前駆体を得るには、6回、好ましくは5回のミリングサイクルを30Hzの周波数で150秒間実施し、中間冷却(30秒)はサイクル間の5Hzの周波数で実施することが、特に好ましい。
【0068】
押出工程(e)は、押出前駆体を、ダイを通して押出すことにより、行われる。好ましくは、ツインスクリーエクストルーダを用いうる。押出成形は、押出成形前駆体材料の塑性変形性を確保するのに十分な室温以上の適当な温度で行われる。前駆体の組成に応じて、好ましくは、軟化点(ポリマー成分を含まない純粋な複合体の場合)とほぼ等しいか、又はそれ以上の温度、又はガラス転移温度(生分解性ポリマー等のポリマー成分が存在する場合)と等しいか、又はそれ以上の温度である。通常、押出温度は、好ましくは48~56℃、より好ましくは49~55℃、さらに好ましくは49℃、52℃、53℃及び55℃から選択される。
【0069】
押出物の断面形状は、主として押出機の出口のダイによって決定され、これは、好ましくは、本質的に円形又は本質的に楕円形の断面及び/又は最大断面直径が、0.1~10mm、より好ましくは0.2~5mm、さらに好ましくは0.3~1mm、さらに好ましくは0.4~0.8mm、最も好ましくは0.6mmの範囲であってよい。Greenstein及びTonetti(Greenstein,G.et al.J Periodontol 2000,76,1237-1247)は、彼らの研究で、標的適用部位としての歯溝の困難性を実証した。炎症が起きた歯のポケットは、深さが少なくとも約5mm、幅が3mm、厚さが1mmである。15μlの溝体積は、1時間に約40回更新される。当該体積の制限により、局所的に高濃度のAPIが可能となる。従って、直径の長さが1mm未満及び/又は5mm未満、好ましくは3mm未満が、快適な適用に好ましい。好ましい押出物の直径は、例えば、125~975μm、425~575μm、625~775μmである。好ましくは、押出工程により、直径600~900μm、例えば620~880μmの均一な押出物が生成される。ポケットサイズに適合した異なる直径の使用及び異なる直径の同時適用(例えば、300μmで囲まれた600μm)は極めて有望であると考えられる。押出物の直径及び形状は調整しうる。例えば、押出機のダイは、直径又は幾何学的形状が異なるプレートにより、必要に応じて交換されうる。
【0070】
工程(e)の押出生成物を冷却すると、例えば
図9に示すように、らせん状押出物の形態の医薬製剤が得られる。このようにして得られたらせん形状は、例えば、さらに小さな破片に切断され、又は所望に応じて変形され、一定のサイズ又は形状の歯周ポケットへの配置に採用されうる。
【0071】
〔処置適用〕
本発明は、さらに、ヒト又は動物の体の処置方法に用いる、上記で定義された複合体及び/又は医薬製剤を提供する。本開示はまた、ヒト又は動物の体を処置する方法を提供し、この方法は、治療有効量の複合体及び/又は上記に定義した医薬製剤を、それが必要な被験体に投与することを含む。
【0072】
本発明は、さらに、細菌感染、好ましくはPorphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannelella forsythia、Streptococcus gordonii、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces naeslundii及びParvimonas micraからなる群から選択される1又はそれ以上の細菌が原因となる、処置及び/又は予防の方法;及び/又は抗生物質活性が少なくとも21日間、好ましくは少なくとも25日間、より好ましくは少なくとも28日間、さらに好ましくは少なくとも35日間、最も好ましくは42日間にわたり維持される;及び/又は急性、慢性又は再発性歯周疾患の処置及び/又は予防の方法で用いる、上記に定義された複合体及び/又は薬学的製剤を提供する。本開示はさらに、細菌感染、好ましくはPorphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannelella forsythia、Streptococcus gordonii、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces naeslundii及びParvimonas micraからなる群から選択される1又はそれ以上の細菌が原因となる、処置及び/又は予防の方法;及び/又は抗生物質活性が少なくとも21日間、好ましくは少なくとも25日間、より好ましくは少なくとも28日間、さらに好ましくは少なくとも35日間、最も好ましくは42日間にわたり維持され;及び/又は急性、慢性又は再発性歯周病の処置及び/又は予防の方法を提供し、当該方法は各々、治療有効量の複合体及び/又は医薬製剤を各々、それが必要な被験体に投与することを含む。
【0073】
現在、P.gingivalis、P.intermedia、T.forsythia、F.nucleatum及びP.microsは、特に歯周炎に関連する病原体であると考えられる。さらに、いわゆる「早期コロニー形成」に属するA.naeslundii及びS.gordoniiは、バイオフィルム(例えば、口腔病原性バイオフィルム)の形成に必須と考えられ、歯周疾患の症例にも存在する。
【0074】
歯周疾患及び歯周状態の主なカテゴリーは、歯垢誘発性歯肉疾患、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の徴候としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、及び歯内感染のグループに分類される。本発明において、急性、慢性又は再発性の歯周疾患は、好ましくは、歯垢誘発性歯肉疾患、歯周炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の症状としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周の膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎及び歯内感染からなる群から選択される。本開示はまた、歯垢誘発性歯肉疾患、歯周炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の発現としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周の膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎及び歯内感染からなる群から好ましくは選択される急性、慢性又は再発性歯周疾患の処置又は予防の方法を提供し、当該方法は、治療有効量の複合体及び/又は医薬製剤を、それが必要な被験体に投与することを含む。さらに、急性、慢性又は再発性の歯周疾患は、例えば、Armitage, Ann Periodotol 1999,4,1-6に記載される。
【0075】
本明細書中で用いられる用語「被験体」は、治療、治療、予防、観察又は実験の対象であるか又は対象であった動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトをいう。
【0076】
本明細書中で用いられる用語「治療有効量」は、研究者、獣医師、医師又は他の臨床医が探索する、組織系、動物又はヒトにおいて生物学的又は医学的応答を誘発する活性化合物又は薬剤の量をいい、治療される疾患又は障害の症状の緩和を含む。
【0077】
〔実施例〕
複合体の形成と特性
【実施例1】
【0078】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体の生成
ミノサイクリン(遊離塩基)を、ステアリン酸マグネシウムと共に丸底フラスコ中で、モル比1:2で秤量した。具体的には、ミノサイクリン(10mg、M=457.48g/モル、218.8μモル)をステアリン酸マグネシウム(25.848mg、M=591.24g/モル、43.717μモル)と混合した。両成分をハンドシェーカーで短時間混合した。混合物を未変性エタノール(96% v/v,2mL)に懸濁し、淡黄色の非半透明懸濁液を得た。密閉フラスコを穏やかに旋回させて水浴中に置いた。約50℃から複合体の生成と溶解が始まった。約60~70℃で、透明なオレンジ色の溶液が形成され、これは室温に冷却すると透明なままであった。溶媒を強化シェーカー中で除去した。
図1に乾燥製品の入ったバイアルを示す。
【実施例2】
【0079】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:1複合体の生成
適当に調整された量のミノサイクリン(遊離塩基)を用いて、実施例1に記載の類似の方法で、モル比が1:1の複合体を調製した。
【実施例3】
【0080】
塩酸ミノサイクリンとステアリン酸マグネシウムの1:2複合体の生成
モル比が1:2のミノサイクリン塩酸塩とステアリン酸マグネシウムの複合体を、上記実施例1と同様の方法で調製し、適量のミノサイクリン塩酸塩を用いて、ミノサイクリンとステアリン酸マグネシウムのモル比を1:2にした。
【実施例4】
【0081】
塩酸ミノサイクリンとステアリン酸マグネシウムの1:1複合体の生成
モル比が1:1のミノサイクリン塩酸塩とステアリン酸マグネシウムとの複合体を、上記実施例1と同様の方法で調製し、適量のミノサイクリン塩酸塩を用いて、ミノサイクリンとステアリン酸マグネシウムのモル比を1:1とした。
【実施例5】
【0082】
ドキシサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体の生成
ミノサイクリンの代わりにドキシサイクリンを用いた、モル比が1:2のドキシサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムとの複合体を、上記実施例1と同様の方法で調製した。
【実施例6】
【0083】
ドキシサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:1複合体の生成
ミノサイクリンの代わりにドキシサイクリン遊離塩基を用いて、モル比が1:1となるように適量のドキシサイクリンを用いて、モル比が1:1のドキシサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムとの複合体を、上記実施例1と同様の方法で調製した。
上記の実施例による生成物は各々、テトラサイクリン化合物(ミノサイクリン、ミノサイクリン塩酸塩及びドキシサイクリン)と比較して特性が異なり、別個の新しい複合体の生成が示された。
複合体の溶解度は各々、テトラサイクリン化合物(例えば、純粋なミノサイクリン)と比較して低下する。ミノサイクリンは、水、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール及びN-メチルピロリドン等のほとんどの極性溶媒に可溶である。これに対して、当該複合体は水にはやや溶けにくいが、クロロホルムにはよく溶ける。ステアリン酸塩対イオンは修飾溶解度特性に寄与すると考えられる。溶解度を調整するために、対イオンの変化を考慮してよい。
テトラサイクリン化合物とステアリン酸マグネシウムのモル比が1:1の生成物は乾燥すると結晶化するが、モル比が1:2の生成物は固化してガラス状の固体となる(
図1)。当該固体から試料を採取し、顕微鏡下で調べた。モル比が1:1の固体では不均一な組成が観察されたが(
図2、左)、モル比が1:2の試料では外観は均一であった(
図2、右)。同様に、ドキシサイクリンとステアリン酸マグネシウムから1:1の比で得られた固体は不均一な凝集体となったが(
図3、左)、へらによる1:2のモル比(
図3、右)抽出の場合にはガラス状構造が形成された。
【実施例7】
【0084】
水環境中での安定性
ミノサイクリン(10mg;
図4、左手)及び実施例1の複合体(20mg;
図4、右手)を別々のバイアルに入れ、ほぼ等量のミノサイクリンを得た。各試料をpH7.1(
図4上段)又はpH2.3(
図4下段)の各緩衝液(PBS)4mLに分散させた。複合体を有する試料は複合体の溶解度が低いために懸濁液となった。試料を37℃で数日間インキュベートし、波長355nmのUV検出器付きHPLCで分離したスペクトルを記録した。保持時間4.75分の主ピークはミノサイクリンに相当する。37℃の中性pH域では、純粋なミノサイクリンの場合、3日後に完全な分解が観察される(
図4、左上)。酸性条件下では分解は遅いが、ミノサイクリンはある程度まで継続的に分解する。この複合体は親油性のために溶解性が低く、溶媒との反応性が低く、分解されにくい(
図4、右側)。インキュベーションの間に、複合体のさらなる画分が溶解し、その後でのみ分解されると考えられる。活性物質の崩壊も観察されるが、複合体の場合、特に中性条件下(
図4、右上)では極めて遅い。従って、複合体形成により、水性環境中における組成物に安定性がもたらされると考えられる。
【実施例8】
【0085】
分光特性
a)UV/Vis吸収スペクトル
また、吸収スペクトルの変化が認められた(
図5)。新たに調製したミノサイクリンと実施例1の複合体のエタノール溶液を、ミノサイクリン5mg/mLの濃度で調製した。当該原液から10μLを採取し、エタノール(3mL)で希釈し、最終濃度16.6μg/mLのミノサイクリンを得た。島津UV-1800分光光度計で測定したスペクトルである。ミノサイクリンは255及び344nmに吸収極大を示す。複合体形成の際、第一極大は244nmにヒプソクロミカルにシフトし、他の極大は385nmに深色シフトする。少量の塩酸を加えると、両方の最大値が264及び355nmにシフトする。
【0086】
b)赤外吸収スペクトル
FTIR-ATRスペクトルは、4000~400cm
-1の領域にSensirATRユニットを装備したBrukerIFS28装置を用いて臭化カリウムペレット中で測定した。また、IRスペクトルは複合体形成の指標となる(
図6;ミノサイクリン:a-υ O-H;b-υ N-H;c-υ C-H;d-υ CONH
2;e-υ C=C(芳香族);f-υ C-Nステアリン酸マグネシウム/ステアリン酸カルシウム:g-υ C-H;h-υ
as COO
-;i-δ C-H;j-CH
2の揺動振動)。純粋なミノサイクリンの3478cm
-1におけるピークは、分子内水素結合を形成するヒドロキシ基の振動に起因する。対照的に、複合体は同じ位置で広いピークを示す。この基がキレートを形成する配位部位の一部を形成する事実により、ヒドロキシ基の自由振動の阻害、従ってピークの平滑化が錯化の際に観察される。さらに、ミノサイクリンのC-H振動は、ステアリン酸マグネシウムの強いC-H振動によって影が薄い。1570cm
-1のカルボキシレートのピークは、認識可能なままである。1700cm
-1で新たに生じるピークは、官能基に直接帰属しえない。指紋領域もまた、重なり合った振動のために修正される。
【0087】
〔製剤(押出物)の組成及び特性〕
【実施例9】
【0088】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体の押出
a) 複合体の調製
押出には、通常、より大量の複合体が必要である(例えば、100mg又はそれ以上の相当量のミノサイクリン)。当該成分を秤量し、実施例1で記載のように処理した。続いて、複合体溶液をテフロンフィルムで被覆した複数のペトリ皿上に広げ、穿孔アルミニウム箔で被覆した。ペトリ皿を真空染色オーブンで、室温で少なくとも8時間(又は一晩)乾燥させた。黄色の粉末が得られ、それをカードシートによってテフロンフィルムから除去した。
【0089】
b) 押出前駆体の調製
次に、Retsch CryoMillを用いて粉砕と均質化を行った。複合体粉末(1.00g、純粋なミノサイクリン289mgに相当)を、クライオミルジャー中で1cmサイズの2つの粉砕ボールと共にクライオミルジャー中で秤量した。ジャーをクライオミルに適合させ、以下のパラメータを調整した:自動予冷相では、各々150秒間、30Hzの周波数で6回のミリングサイクルを実施した;個々のミリングサイクルの間に、5Hzの周波数で中間冷却(30秒)を実施した。
【0090】
c) 押出
押出に、二軸スクリュー押出機の3つの加熱ゾーンを、H1=49℃、H2=52℃及びH3=55℃で予熱した。二軸押出機の制御ユニットは800rpmに設定され、これはスクリューの実際の回転数(推定150回転/分)に相当する。押出前駆体を、手で、そして小さな部分で、押出機に注意深く添加した。充分に充填し、必要な時間の経過後、材料は軟化点に達し、塑性変形できた。複合体は、連続らせんとして0.6mm幅のダイプレートを通して押出機から出て、テフロンフィルム被覆表面上に捕獲され、そこで、最終押出物を得るために室温まで冷却された。
【実施例10】
【0091】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体とレゾマ502との押出
a) 複合体の調製
複合体生成用成分を秤量し、実施例1で記載のように処理した。続いて、複合体溶液をテフロンフィルムで被覆した複数のペトリ皿上に広げ、穿孔アルミニウム箔で被覆した。ペトリ皿を真空染色オーブンで、室温で少なくとも8時間(又は一晩)乾燥させた。黄色の粉末が得られ、それをカードシートによってテフロンフィルムから除去した。
【0092】
b) 押出前駆体の調製
次に、Retsch CryoMillを用いて粉砕と均質化を行った。複合体粉末(412.3mg、純粋なミノサイクリン115mgに相当)を、所望の生分解性ポリマー(レゾマ502)587.7mgと1cmサイズの2つの粉砕ボールと共にクライオミルジャー内で秤量した。ジャーをクライオミルに適合させ、以下のパラメータを調整した:自動予冷相では、各々150秒間、30Hzの周波数で6回のミリングサイクルを実施した;個々のミリングサイクルの間に、5Hzの周波数で中間冷却(30秒)を実施した。室温までの解凍では、押出前駆体(1g、11.5質量%の純粋なミノサイクリンを含有する)を得た。
【0093】
c) 押出
押出に、二軸スクリュー押出機の3つの加熱ゾーンを、H1=49℃、H2=49℃及びH3=53℃で予熱した。二軸押出機の制御ユニットは800rpmに設定され、これはスクリューの実際の回転数(推定150回転/分)に相当する。押出前駆体を、手で、そして小さな部分で、注意深く添加された。十分に充填し、必要な時間の経過後、材料はガラス転移温度に達し、可塑変形できた。混合物は、連続らせんとして0.6mm幅のダイプレートを通して押出機から出て、テフロンフィルム被覆表面上に捕獲され、そこで、最終押出物を得るために室温まで冷却された。得られた押出物を
図9(上)に示す。
【実施例11】
【0094】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体とレゾマ503との押出
実施例1からのミノサイクリン(遊離塩基)及びステアリン酸マグネシウムの1:2複合体を、実施例10に記載のように、レゾマ503と共に含む押出物を調製したが、レゾマ503を、レゾマ502の代わりに用いた。得られた押出物を
図9(下)に示す。
【実施例12】
【0095】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムの1:2複合体と、レゾマ502/503(1:1)及び10%グリセロールモノステアレート(GMS)との押出
さらにグリセロールモノステアレート(混合物の全質量を基準として10質量%)を用い、レゾマ502とレゾマ503の混合物(1:1質量/質量)を、最大100質量%添加したレゾマ502の代わりに用いた実施例10に記載の類似の方法で押出物を調製した。
【実施例13】
【0096】
ミノサイクリン(遊離塩基)とステアリン酸マグネシウムとの1:2複合体をPEG-PLGA(Expansorb DLG 50-6P)及び10% PEG 1500と共に押出した
実施例1及び9で説明したように調製した複合体粉末(412.3mg、純粋なミノサイクリン115mg及びステアリン酸マグネシウム297.3mgに相当)を、所望の生分解性ポリマー(Expansorb DLG 50-6P、487.7mg)、可塑剤(PEG 1500、100mg)及び1cmサイズの2つの粉砕ボールと共にRetsch CryoMillチャンバー中で秤量した。その後、粉砕と均質化を行った。容器をクライオミルに適合させ、以下のパラメータを調整した:自動予冷相では、各々150秒間、30Hzの周波数で5回のミリングサイクルを実施した;個々のミリングサイクルの間に、5Hzの周波数で中間冷却(30秒)を実施した。室温まで解凍すると、押出前駆体(1g、11.5質量%の純粋なミノサイクリンを含有する)が得られた。
押出は、実施例10に記載のものに類似する方法で行った。
【実施例14】
【0097】
押出物の放出特性
図7は、ミノサイクリンの遅延放出に対する本発明による複合体の寄与を明確に示す。実施例9-13に記載の溶融押出しにより得られた押出し物を4mm長の小片に切断し、1mLの緩衝液中でpH7.0及び37℃でインキュベートした。実施例11-13の押出物のミノサイクリン含有量は11.5%であり、実施例9の純粋な複合押出物のミノサイクリン含有量は27.89%である。インキュベーション溶液から試料を採取するたびに、緩衝液全体を交換し、古い緩衝液中のミノサイクリン含有量を、HPLCを用いて測定した。
図7から分かるように、実施例9の純粋な複合押出物は、ほぼ3週間の遅延放出を示す。実験の最後に、実施例9の押出物中に残っているミノサイクリン残留物の量を分析し、活性物質がもはや存在しないことを示した。残りの40%は経時的に分解したと考えられる。
【0098】
実施例10-12の曲線から分かるように、PLGAポリマーを添加すると、さらなる放出遅延がおこる。この場合、残りのミノサイクリンの約10-13%は、実験終了時にもなお存在していた。これは、
図4に示されるように、PLGAポリマー中の酸性微小環境及び酸性媒体中のわずかに良好な安定性に部分的に起因する可能性がある。
【0099】
さらに、グリセロールモノステアレート等の賦形剤の添加(実施例12)は、所望であれば、放出を促進しうる。
【0100】
最後に、可塑剤としてExpansorb DLG50-6P及び10%のPEG 1500を含有する実施例13のPEG-PLGAベースの押出物も有利な徐放特性を示す。さらに、この押出物は、柔軟性及び機械的成形性が最適化されている。
【実施例15】
【0101】
押出物のさらなる特性
a) 機械的特性
図8は、ナイフ刃形状に嵌合した押出物の変形時の力-変位図である。当該実験のため、ナイフエッジブレードユニットを備えたブルックフィールドCT3テクスチャアナライザ上のスライド上に押出し物を取り付け、0.02mm/秒の速度で0.5mmの所定の貫通深さに必要な重力を加えて、決定した。上の図は、レゾマ502、503及び当該混合物を含む脆性特性又は押出物、並びにグリセロールモノステアレート含有及び非含有の混合物を示す。異なるExpansorbsを有するPEG-PLGA押出物(下図)は、侵入深さと必要な力との間にほぼ直線的な関係を示す。力が低下しないことは、塑性と考えられる不可逆的な変形を示す。肉眼的には、押出物は優れた柔軟性を示す。10% PEG 1500を含む組成物(実施例13)は、冷蔵庫で長期間保存しても機械的性質に関して変化を示さない。対照的に、5% PEGを有する組成物は、保存中に部分的に硬化し、PEGを添加せずに対応する押出物のように挙動する。
【0102】
b) 粘膜接着性
押出物調製物の保持能力を、
図10Aに示すように保持分析実験セットアップで試験した。Tonnies Lebensmittel GmbH&Co.KG(洗浄、分割、包装、凍結又は直ちに使用)から得られた豚腸粘膜を、
図10Bに示すチャネルに固定したモデル表面として用いた。所定の洗浄速度(好ましくは300μL/分)で、所定の時間にわたり脱イオン水を連続的に流した後、非特許文献3で提案された方法と同様の方法で、試験表面(粘膜)に保持された被験製剤の画分を測定した。本発明による調製物は良好な生体接着性を示すことが分かった。
【0103】
〔放出動態と抗菌活性〕
【実施例16】
【0104】
放出動態と抗菌活性(ミノサイクリン製剤)
活性物質の放出動態及び生物活性を評価するために、口腔内の条件、すなわち歯肉溝液中の溝の流量(ターンオーバー)及び組成(Goodson,JM(2003),Periodontol 2000 31:43-54;Tew,JG et al.(1985),Infect Immun 49:487-93に記載されるように)を考慮してアプローチを選択した。
【0105】
a) 放出速度論
具体的には、以下の物質の試料を試験した。各物質には、ミノサイクリン1mgに相当する量の活性物質が含まれていた(溶媒の押出物を除く):
・塩酸ミノサイクリン散(SIGMA製品番号M9511-25MGより購入。
図11/12:「ミノサイクリン」)
・ミノサイクリン/PLGA微小球(Orapharma Inc.Europe,PZN 1295115由来のアレスチン(登録商標);1カプセル=1mgミノサイクリン;
図11/12:「アレスチン」)
・実施例11(
図11/12:「押出物503」)
・実施例10(
図11/12:「押出物502」)
・テトラサイクリン化合物を含まない生分解性ポリマーで構成される対照(
図11/12:「賦形剤押出物」)
試料を暗い試験管に入れ、血清アルブミンを含む適量の緩衝生理食塩水(15mg/mL BSA含有リン酸緩衝生理食塩水)を添加した。所定の時間間隔で、試料を遠心分離し、所定量の緩衝液を除去し、保存し(溶出液)、次いで、緩衝液の新鮮な部分を添加した。表4に示すように、7週間にわたり溶出液を回収し、以下に記載する方法(最小発育阻止濃度測定及びバイオフィルム形成阻害)を用いて、それらの抗微生物活性に関して試験した。
表4.放出速度論的評価のために作成した溶出液試料のピペッティングチャート*は、当該時点で溶出した溶出液をMIC測定に用いて、#は、当該時点で溶出した溶出液をバイオフィルム形成阻害に用いたことを示す。
【0106】
【表3】
表5:溶出液(希釈液)のMICから算出した42日目までのミノサイクリンとStreptococcus gordonii ATCC 10558及びPorphyromonas gingivalis ATCC 33277の有効濃度
【0107】
【表4】
b) 最小発育阻止濃度(MIC)測定
2つの指標菌株(Porphyromonas gingivalis ATCC 33277、Streptococcus gordonii ATCC 10558)の増殖が依然として阻害される希釈物を測定した(最小発育阻止濃度、MIC)。この目的のために、試料を栄養培地及び各細菌株と混合し、好気性条件下で37℃で18時間インキュベートした。用いた方法及び培地は、欧州委員会の抗菌薬感受性試験-EUCASTの勧告に従った。各測定は2回実施し、成長コントロールは各1穴で実施した。
【0108】
図11は、希釈度成長阻害が依然として観察可能であることを示す(すなわち、溶出液(希釈)対S.gordonii ATCC 10558及びP.gingivalis ATCC 33277の最小発育阻止濃度)。純粋なミノサイクリン及び市販製品(アレスチン)の活性は21日まで存在したが、押出物調製物502及び503は観察終了(42日)まで活性を示した。
【0109】
表5では、2株(P.gingivalis ATCC 33277:0.25μg/mL、S.gordonii ATCC 10558:0.5μg/mL)に対するミノサイクリンのMICに基づき、活性物質の有効濃度を算出した。当該データはまた、長期の溶出液の活性を強調する。
【0110】
c) バイオフィルム形成阻害
96穴プレートの表面を10μLの溶出液で被覆した。歯周炎関連細菌の6種混合物を添加すると、6時間以上かけてバイオフィルムが形成された(例えば、Jurczyk K.,Nietzsche S.,Ender C.,Sculean A.,Eick S.In-vitro activity of sodium-hypochlorite gel on bacteria associated with periodontitis.Clin Oral Investig.2016 Nov;20(8):2165-2173)。その後、バイオフィルム中の生残菌数(コロニー形成単位=cfu)を測定した。
【0111】
図12は、24時間後、2日後、7日後、14日後及び28日後に得られた溶出液のバイオフィルム形成に対する阻害活性を示す。一方、バイオフィルム形成阻害は、抗菌活性、及びバイオフィルム形成の段階(微生物の表面への付着、又は既に付着している微生物への付着(共凝集)、マトリックス形成)の阻害に起因する可能性がある。ここで、ビヒクル由来溶出液は、いくつかの抗バイオフィルム特性も示すようだ。24時間培養後、被験物質間に差は認められなかった。しかし、その後、本発明の全ての調製物は、純粋なミノサイクリンよりも良好な活性を示す。28日後、Extrudate 503(-1.9log
10cfu)による有意な阻害が依然として存在した。
【実施例17】
【0112】
放出動態と抗菌活性(ドキシサイクリン製剤)
ドキシサイクリン製剤の放出及び動態並びに生物学的活性を評価するため、類似のアプローチを選択した。具体的には、ドキシサイクリン1mg相当量の活性物質(ビヒクル押出物を除く)を含有する以下の物質の試料を試験した:
・ドキシサイクリンヒクラート(ドキシサイクリンヒクラート1.15mg=ドキシサイクリン1mg)
・ドキシサイクリンゲル(リゴサン(登録商標)、1カートリッジ=260mg、14%ドキシサイクリン)
・ドキシサイクリン押出物(11.5%ドキシサイクリンに相当し、実施例13に記載のように類似の方法で製造される)
・ビヒクル押出物
試験は、上記実施例16に記載の類似の方法で実施された。参照試料に対する本発明による調製物の放出動態及び抗菌活性は、ミノサイクリン調製物について得られた結果と同等であることが分かった。
〔他の実施例〕
潜在的な錯化剤として、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウムを選択したが、その理由は、それらの高い理論的可能性、低毒性、生分解性、及び薬物送達用途でのそれらの広範な使用のためである。薬物複合体形成の後、UV/VIS‐及びIR‐分光法を行った。さらに、放出速度と機械的性質を修正するため、グリセロール‐モノステアリン酸塩の影響を研究した。
複合体の形成は薬物活性にも負の影響を与える可能性がある。そこで、生物活性測定を行った。最後に、インビトロ放出試験を行い、放出動力学に及ぼす製剤への影響を評価した。
【0113】
〔A.材料及び方法〕
ミノサイクリン及びドキシサイクリンは、オンタリオ・ケミカルズ社(オンタリオ州、カナダ)から購入した。ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムは、マグネシアドイツ(ムルヘルム、ドイツ)のご好意により提供された。PLGAポリマー及びTegin(登録商標)4100ペレット(グリセロールモノステアレートはGMSと略記)は、エボニック(ダルムシュタット、ドイツ)から贈与された。ナイルレッドは、シグマアルドリッチ(ドイツ、ミュンヘン)から取得した。Staphylococcus aureus ATCC 29213を抗菌活性のスクリーニングに用いた。用いた溶媒は全てシグマアルドリッチ及び少なくともPurissimumグレードから入手した。
【0114】
I.テトラサイクリン誘導体のキレート化
薬物安定性を高め、放出時間を延長させる潜在的な方法として、親油性薬物複合体の形成を提案した。このため、抗生物質及びステアリン酸マグネシウム‐又はステアリン酸カルシウムの各々異なるモル組成を調べた。複合体形成のため、テトラサイクリン類及びステアリン酸塩を、モル比1:1、1:2及び2:1でフラスコに計量した。例えば、ミノサイクリン10mgをステアリン酸マグネシウム25.48mg(モル比1:2)と対にし、エタノール2mlを各フラスコに加え、黄色の懸濁液を得た。フラスコを水浴中で70℃、2分間加熱した。
【0115】
II.複雑な特徴付けに用いる方法
ミノサイクリン複合体の存在を証明するためにキレートの研究が必要であった。そこで、純粋なテトラサイクリン誘導体とその複合体溶液の吸収スペクトルを、島津UV‐1800分光光度計(島津、ドイツ、デュースブルグ)を用いて調べた。あらかじめ、新たに調製した5mg/mlストック溶液10μlをエタノール3mlで希釈し、250~450nmの範囲の吸収スペクトルを石英キュベット中で採取した。赤外(IR)スペクトルの記録のため、APIとセレン化亜鉛の均一な複合体を作製した。その後、この複合体を、4000~680cm-1で動作するSensirATRユニット(Bruker,Billerica米国)を装備したBrukerIFS28で調査した。さらに、溶液を回転蒸発器で乾燥し、残渣をフラスコから掻き取った。当該遺体は顕微鏡(カールツァイス顕微鏡、イエナ、ドイツ)で調査した。当該残留物は、異なる溶媒にも曝露して、溶解度の変化を明らかにした。
【0116】
III.ディスク拡散検査
好適活性成分としてミノサイクリンを決定した後、寒天ディスク拡散試験を行い、複合体形成後の抗菌活性を検討した。この手順は、EUCASTによって設定された勧告に従った。被験物質はミノサイクリン10mg/mlを含むミノサイクリン複合体であり、対照はミノサイクリンをエタノール(10mg/ml)及び純粋なエタノールに溶解した。溶液をエタノールで3:7に希釈し、直後に各10μlを直径6mmの無負荷抗生物質試験ディスク(BD、Allschwil、スイス)にピペットで注入し、従って各ディスク(エタノール対照を除く)は30μgのミノサイクリンを含有した。S.aureus ATCC 29213の一晩培養物をMcFarland0.5に懸濁し、各100μlをMueller-Hinton-agarプレート(Oxoid Basingstoke、GB)上に広げた。溶媒を蒸発させた後、試験ディスクをプレート上に置いた。35℃で18時間インキュベートした後、阻止帯の直径を測定した。
【0117】
IV.クライオミリング及びホットメルト押出による押出前駆体の製造
低温化の前に、エタノール性ミノサイクリン複合体溶液を、液滴の薄層中のテフロン箔で覆ったペトリ皿上に広げた。ペトリ皿を真空乾燥オーブン中25℃で少なくとも12時間保存した。次に、乾燥したミノサイクリン複合体粉末をテフロン箔から回収した。
押出チャンバーの充填を十分に行うには、バッチサイズを1g程度にする必要がある。従って、低温化のため、412.3mgのミノサイクリン複合体粉末(115mgのミノサイクリンを含む)及び587.7mgの所望のPLGAポリマーを、2つの10mmスチール球と共に粉砕チャンバーに挿入した。すなわち、10%GMS含有押出物は、487.7mgのPLGAポリマーのみを封入した。RetschCryoMill(Retsch,Haan,Germany)で適当に調整した後、混合物を自動予冷相にかけ、その後、30Hzで150秒間5回のミリングサイクルを行った。各ミリングサイクルの後、30秒長い冷却相により、5Hzで適当なプロセス温度が保証された。
次いで、混合物を押出の準備に調整した。そこで、一体型SK 500 E周波数コンバータを有する二軸押出機ZE 5 Eco(スイス、セオン、3テック)を用いた。直径600μmのダイとL/D比21.25のスクリューを用いた。押出温度はポリマーと意図した直径に依存した。第1加熱ゾーンで49℃から開始し、第3加熱ゾーンでは、レゾマ502、503及びそれらの混合物の温度を53℃まで徐々に上昇させた。GMS10%含有押出物は、55℃を最後の加熱ゾーンに適用した。ミノサイクリン-PLGA粉末を、周波数変換器に従って800rpmで開口する押出機にゆっくりと手動で充填した。出現した連続高分子ストリングをテフロン箔被覆表面上に捕獲した。最終生成物をメスで所望の長さに切断した。
【0118】
V.薬物含有量の測定
押出物から薬物を抽出した後、HPLC法で押出物のミノサイクリン含有量を定量した。抽出には、A.Holmkvistら2016 (24)に着想を得た方法を用いた。秤量後、押出物を15ml遠心チューブに移し、0.1%トリフルオロ酸(TFA)を含むアセトニトリル2mlを加えてポリマーを溶解した。1分間、IKR-VIBRO-FIX-シェーカーで振盪した後、4mlのメタノールを添加して、ミノサイクリンを溶解し、ポリマーを沈殿させた。その後、チューブを1000rpmで5分間遠心分離し、0.45μmテフロンフィルターで滅菌濾過した。HPLCは、XTerra RP18 5μm 3,9×150カラム(Waters)を用いてWaters 600 Eシステム上で実施した。20μlの試料体積を1.0ml/分の流速で注入した。勾配プログラムを移動相に対して選択した。25mM KH2PO4+0.06% H3PO4(A)から開始し、10分間で60% アセトニトリル(B)にシフトする。5分後、移動相を1分以内に徐々にAに戻した。保持時間は9.5分であり、UV/VIS検出器を用いて355nmで薬物を検出した。直線検量線(r2>0.999)は2~50μg/mlの範囲で得られた。回収率96%を達成した。
安定性調査には、XTerra RP18 5μm 3.9×150カラム(Waters)を有するAgilent 1200シリーズシステムを用いた。10μlの試料体積を1.0ml/分の流速で注入した。この方法にはグラジエントプログラムも適用した。移動相は水/メタノール(95/5+0.1%TFA)(A)の組成で開始し、7分間かけて純粋なメタノール(0.1%TFA)(B)にシフトした。3分後、移動相は1分以内に溶媒Aに戻った。保持時間は4.8分であった。クロマトグラムの評価及び抽出にはChem32ソフトウェアを用いた。
【0119】
VI.放出試験及び安定性試験
押出物を長さ4mm+/100μmの小片に切断した。各ポリマータイプについて、5つの押出物(長さ4mm)を秤量し、2mlのガラスバイアル中の1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.0に曝露した。バイアルを、37℃の遮光水浴中でインキュベートした。2日毎に3週間試料を採取した。22日目から、試料採取間隔を4日間に延長した。試料採取は緩衝液の完全な置換を含んだ。上記HPLC法で薬物含有量を評価するまで、試料を2~8℃の冷蔵庫で保存した。放出プロファイルを42日間調べた。この時間の後、残りのミノサイクリン含有量を定量するため、当該HPLC法で押出物の残留物も調べた。
安定性調査のため、ミノサイクリンについては10mgの試料、複合体については20mgの試料を4mlのガラスバイアルに秤量した。各バイアルの1つを4mlのPBS pH7.0中でインキュベートし、もう1つのバイアルを4mlの酸性溶液にpH2.3で曝露し、塩酸で調整した。9日目までは、採取した検体は毎日採取したが、除去量は交換しなかった。そこから間隔を3~4日に延ばした。
【0120】
〔B.結果〕
I.複合体の形成
モル比
2:1、1:1及び1:2のモル比(テトラサイクリン誘導体:脂肪酸塩)を、可能性のあるキレート複合体として試験した。ミノサイクリンとステアリン酸マグネシウムの組合せは、全ての比率に対して黄色溶液を生じた。対照的に、ミノサイクリンをステアリン酸カルシウムと対にすると、1:2比の懸濁液が得られた。したがって、この比率は今後の調査から除外した。ドキシサイクリンはステアリン酸マグネシウム複合体に関してミノサイクリンと類似した。透明な溶液は、それほど強くない黄色で出現した。ドキシサイクリンとステアリン酸カルシウムの対合により、1:1及び1:2の比について溶液がわずかに濁ったことが明らかになった。
【0121】
II.複雑な特性評価
1.紫外・可視分光法
キレート化の成功を示す顕著な徴候は、吸収スペクトルの変化である。ミノサイクリンの吸収極大はエタノール中で255及び344nmである(
図13)。ステアリン酸マグネシウムとの対合後、スペクトルはステアリン酸マグネシウム濃度の関数として変化した。1:1及び1:2比のスペクトルはほぼ同一の形状を示し、それらの吸収極大の位置は類似する。複合体形成は、第一極大が244nmへの浅色シフトに至るのに対して、第二極大は385nmへの深色シフトに遭遇する。2:1の比は、ミノサイクリンのスペクトルと部分的に発達した複合体が重複しているため、明確な最大値を示さない。結論として、スペクトルは1:1~1:2のモル比のキレート化に成功したことを示した。
ミノサイクリンの吸収スペクトルは、ステアリン酸カルシウムと併用すると、同等の変化を示す。1:1の比は、短波最大では短色シフト、長波最大では深色シフトを導くが、1:2の比はすでに除外される。同様に、2:1の比は、純粋な原薬及び複合体の重複するスペクトルに類似する。両者とも、少量の塩酸(HCl)を添加した後、ミノサイクリンと複合体の吸収極大は264nmと約355nmにシフトする(
図13)。これは、複合体の崩壊を示し、これはHPLC分析中のその後の検出に有用である。
ドキシサイクリンについては、構造的に類似するため、結果はミノサイクリンに極めて近いと予想される。しかし、両方のドキシサイクリン吸収極大がキレートイオンとは独立に深色シフトしていることは注目に値する(
図13)。ステアリン酸マグネシウムは、脂肪酸塩の量に依存して吸収極大の位置にわずかな差異を示す。興味深いことに、2:1及び1:1の比のスペクトルは、ステアリン酸カルシウムについてほぼ同じである。したがって、キレート化は、1:2の比に達するまでは不完全であると思われる。HClを加えると、ミノサイクリンに近いスペクトルと極大をもつ複合体も崩壊する。
結論として、この実験は、全ての2:1比、及びドキシサイクリンとステアリン酸カルシウムの1:1比を、不十分な複合体形成のために除外した。
【0122】
2.赤外分光法
IRスペクトルからもキレート化の証拠が得られる(
図14)。純粋なミノサイクリンスペクトルにおける3478cm
-1(a)のピークは、分子内H結合に関与する水酸化物振動に帰属できる。この複合体は、代わりに幅広いピークを与える。これは、マグネシウム又はカルシウムイオンの存在による結合部位の自由振動に対する障害を示す。ミノサイクリンのC-H振動(c)は、マグネシウムとステアリン酸カルシウムのより顕著なC-Hピーク(g)に現れる。1570cm
-1(h)のカルボキシレートピークは、明瞭に認識可能なままである。1700cm
-1には新しいピークが現れるが、特定の官能基に明確に割り当てることはできない。また、指紋領域も振動の重複により変化したが、それ以上の証拠は得られなかった。
しかし、ドキシサイクリンについては、IRスペクトルは約3300cm
-1(a)に広いピークを露出し、これはO-HとN-H振動を区別することができない。それにもかかわらず、このピークはまた、二価陽イオンの存在下で広がり、滑らかになる(
図15)。
【0123】
3.複雑な乾燥と顕微鏡観察
さらなる処理のために、複合体を粉末形態に移す必要があった。従って、複雑な溶液をゆっくりと乾燥させ、それらの残留物をより密接に調べた。乾燥したミノサイクリン及びドキシサイクリン‐ステアリン酸マグネシウム複合体は、いずれもモル比が1:2のガラス状の非晶質構造として現れた。
図2は、ミノサイクリンの場合の1:1比の不均一な外観と同様、この均一な構造を示す。残念ながら、ステアリン酸カルシウム複合体は、いずれの抗生物質についても結果は均一でなかった。残りのモル比は他の形態の加工に適しているかもしれないが、モル比1:2は意図した用途により有望な特性を示した。
溶解度の変化も観察された。ミノサイクリン複合体は親薬物と比較して水溶解度が低下した。その代わり、有機溶媒、特にクロロホルムへの溶解度が改善された。当該変化はキレート複合体の形成も意味する。
この時点で、ドキシサイクリンステアリン酸マグネシウム複合体が均等に適しているように見えたが、ミノサイクリンをさらなる実験のために選択した。その理由は、活性のスペクトルが広く、組織浸透能に優れたからである(Cunha,BA.et al.Eur J Clin Microbiol Infect Dis.2018,37(1),15-20)。そこで、以下の段落では、ミノサイクリンステアリン酸マグネシウム複合体を1:2の比率で取り上げる。
【0124】
III.ディスク拡散検査
多価カチオンは、テトラサイクリン抗生物質の抗生物質としての可能性に負の影響を与えうることは周知である(Naz, S. et al. Arzneimittelforschung 1996, 46(7), 701-704)。そのため、ディスク拡散試験を行い、複合体形成後のミノサイクリンの抗生物質活性を検討した。阻害ゾーンの直径は抗生物質活性を決定する(
図16:S.aureus ATCC 29213とインキュベートした寒天プレート、左プレート:エタノールを添加した円板、中プレート:エタノールミノサイクリン複合体溶液を添加した円板、右プレート:エタノールミノサイクリン溶液を添加した円板)。エタノールを充填した対照ディスクは、試験菌の増殖を防げえなかった。純粋なミノサイクリンは26mmの直径を達成し、複合体は24mmを達成した。複合体の阻止領域はわずかに小さいが、複合体は微生物学的脅威に対して活性を維持する。
【0125】
IV.ホットメルト押出
押出プロセスの前の低温処理は、熱応力を最小限に維持しつつ、押出前駆体を確実に均一にする。
レゾマ502RG及び503RG押出物は、600~800μmのサイズ範囲で達成された(
図9)。レゾマ503が粘弾性を有し、押出直後に広がることが注目される。対照的に、レゾマ502は、一定の再現性のある600μmの押出物を生成する。同じ長さの押出物を用いると、直径が大きいほど、利用可能な薬物の量が異なる。
図9は、サイズの違いを示す。その後、レゾマ502、503の組成を調査した。当該ブレンドは、製品直径に影響を及ぼさなかった。GMSを添加しても押出物の直径は変化しなかったが、脆性が減少した。
それにもかかわらず、当該押出物は依然として所望のサイズ範囲内であった。さらに、純粋なミノサイクリン複合体粉末の押出を行った。このアプローチから押出物を獲得しえたが、それらは脆く、機械的弾性は脆弱であった。したがって、当該押出物は、インビトロ放出試験の参考としてのみ役立った。
【0126】
V.インビトロ放出
インビトロ放出プロファイル(
図17)は、すべての組成物について、初期放出速度が速く、徐々に低下することを示す。純粋なミノサイクリン複合体押出物は最も放出が速く、破裂も示さなかった。
PLGAポリマーの添加は、放出速度を所望のレベルに修正しうる。予想されるように、レゾマ502は、低分子量のため、レゾマ503と比較して放出がより速い。この相違は、放出速度が一致し始めるまで、特に最初の2週間で調査しうる。顕著なのは、レゾマ502の標準偏差がより高いことである。レゾマ502と503の1:1組成物については、単一ポリマーの曲線間の放出が予想された。当該期待は、ポリマーブレンドが遅れた7日目まで満たされた。42日後、ポリマーブレンドは、レゾマ503の放出レベルにほぼ達する。したがって、対照的に、GMSの影響はさらに大きいように思われる。当初、GMSは押出物の軟化剤として用いられたが、全体的な安定性は向上したものの、その効果は比較的小さかった。より大きな利点は、放出率の有意な増加であった。10日以内に、GMSを用いないバッチと比較して、倍量が放出された。10日目以降、それらの放出速度もアラインされ、それ以上の差はない。
インビトロ放出試験は、42日間にわたる制御された放出を実証する。
【0127】
VI.安定性試験
本研究は、未検出のミノサイクリンの少なくとも40%の展望を明らかにするために実施した。
図18は、培地のpHに依存するミノサイクリン及び複合体の進行中の崩壊を示す。ミノサイクリンは中性のpH値では分解が認められる。3日以内に、ミノサイクリンのピークは4.8分で消失するが、分解生成物は顕著になる。また、色が黄色から純黒に変わるため、巨大なレベルでの分解も間違いなく起きている。しかし、この複合体はミノサイクリンをある程度まで保護しうる。3週間後、ミノサイクリンのピークはまだ見えるが、もちろん分解生成物のピークは徐々に成長する。水への溶解度が低下すると、わずかに崩壊しやすくなる。それにもかかわらず、潜伏期間が進行するにつれて、複合体のより多くの部分が溶解し、検出可能となる。このことは、ミノサイクリンピークの上昇が観察される2日目のクロマトグラムでも認められる。崩壊の主題であり未解決のミノサイクリン複合体である溶解ミノサイクリン間の化学平衡の開始が可能である。
酸性環境により、APIの寿命が延びる。ミノサイクリンについては、中性pH条件と比較して、より中等度の減衰が観察される。同じことが複合体にもいえるが、ここではさらに経時的な解決が見られた。この時点から、ミノサイクリンと複合体は同じように分解される。上記のように、ミノサイクリンは酸性条件で複合体から放出される。そのため、似たようなクロマトグラムと分解速度が観察される。
【0128】
〔考察〕
テトラサイクリン系は広範囲の抗菌活性を有し、歯周治療における局所抗菌薬として証明される。すべてのテトラサイクリン類の問題は、水中での安定性が限定されることである。ミノサイクリンはドキシサイクリンよりも速く分解し、水性媒体及びいくつかの有機溶媒、特にN‐メチルピロリドン(NMP)中でエピマー化される傾向がある。当該エピマーは、最初の抗生物質活性の5%のみを提供する
ミノサイクリンが予めキレート化されていれば、当該プロセスの遅延が達成されうる。当該複合体のうち、マグネシウム複合体は、おそらく高い電荷密度のために、カルシウム複合体よりも安定であることが証明された。電荷密度の当該影響は、本明細書に記載のキレート化プロセスの間に顕著であった。マグネシウムカルシウムはともに二価のカチオンであるが、原子直径が小さい(Mg:145pm、Ca:194pm)ため、マグネシウムの電荷密度が高いほど、キレート化部位と相互作用しやすくなる。これにより、ドキシサイクリンとミノサイクリンの1:2の比の懸濁液の場合の濁液の生成が説明される。さらに、第二化合物としてマグネシウム及びカルシウム脂肪酸塩を選択することにより、水の回避及び原薬の物理的性質の変化を達成しうる。
UV/Vis‐及びIR‐分光法による研究により、複合体形成及びさらなる処理への適合性に関する証拠が与えられた。カチオンの濃度に依存する吸収極大のシフトとOH‐振動ピークの平滑化と広がりはキレート化の間の相互作用を示した。そこで、ミノサイクリンとドキシサイクリンは、複合体形成過程に対して同等の相溶性を示した。また、両抗生物質は、歯周炎等の炎症性疾患の治療に有益な抗炎症特性を示す。しかし、上記のように、ミノサイクリンは、より親油性が高く、活性スペクトルが優れていることから、さらなる開発のために選択された。
APIと多価カチオンとの相互作用を阻害する可能性があるため、この活性の耐久性を明らかにする必要があった。幸いなことに、ディスク拡散試験では、高い活性が示された。直径がわずかに小さくなったのは、ステアリン酸マグネシウム分子との相互作用により、ミノサイクリン分子が寒天マトリックスを通過する拡散が減少し、より大きな疎水性分子ができるためと考えられる。それにもかかわらず、当該結果により、次の開発段階、すなわち押出成形へ進みえた。
製造プロセス自体は、比較可能な高速で簡単である。前駆体の調製にはほとんど手間がかからず、有毒な溶媒が存在せず、製造中のリスクが軽減され、互換性のある製品が製造され、原薬の安定性が確保される。実験室スケールの生産の限界は、手動の押出機の充填であり、その結果、不連続な前駆体流が生じる。
予め形成された挿入物としての最終生成物は、意図された用途に関していくつかの有利な特性を示す。また、当該用途に特殊な設備は不要であり、ピンセットで十分である。押出物の直径は固定されないが、適合させうる。ポケットサイズに合わせた異なる直径の使用、及び異なる直径の同時適用(例えば、300μmで囲まれた600μm)は極めて有望であると思われる。
達成された11.5%の薬物負荷は、ステアリン酸マグネシウムとの複合体組成のため、合理的な限界に近い。押出物中の複合体の全体的なシェアは41.2%であり、放出制御ポリマーについては58.8%であった。ステアリン酸マグネシウムの量が多いことが押出物のわずかに柔軟な形質に寄与している。1つの溝に複数の押出物を同時に配置することで、様々な投与法の選択肢が想像できる。また、放出速度は、ポリマー及び追加の賦形剤の選択により調節可能である。
42日間のインビトロ放出期間は、市販のシステムと比較してこれまでのところ例外的である。予想されたように、低分子量のレゾマ502は、レゾマ503と比較して、放出速度がより速い。顕著なのは、レゾマ502のより高い標準偏差であり、これは、より低い分子量と、それゆえより速い自己触媒及び分解と結びつけることもできる(Fredenberg,S.et al.Int J Pharm 2011,415,34-52)。しかしながら、コポリマーのブレンドは驚くほど予期せぬ挙動を示した。その放出速度の急激な低下は、状況を明らかにする上で困難である。可能な説明としては、バッチ変動、分析上の問題又はポリマー-ポリマー相互作用のバッチであり、原薬の崩壊を促進する微小環境を作り出すか、又はミノサイクリンの放出を妨げるかのいずれかである。
すべての試料について、1つの観察結果が顕著であり、原薬のより高い割合が検出されないままである。そこで,安定性実験を予定した。水性媒体中のミノサイクリンの既知の脆弱性は、放出試験の期間にわたり最初の崩壊の仮定を導く。37℃の高温は、当該プロセスを促進する。より深い洞察を得るため、ミノサイクリンと複合体をpH7.0とpH2.3で調べた。中性pHは生理的pHに類似するが、酸性pHは劣化しているPLGAポリマーの内部で起こりうる条件をシミュレートする。安定性調査により、中性pH値で複合体の保護機能が明らかとなった。それにもかかわらず、APIの一部は減衰する。放出試験の終了時に実施した残留分析では、APIの10~15%が押出物内に残留することが明らかだった。まとめると、当該結果は、損なわれる原薬の運命を大部分に向けて啓発する。
【0129】
〔要約と結論〕
本研究の目的は、歯周炎の局所抗菌薬治療用の代替制御放出装置の開発であった。炎症性及び細菌性疾患として、歯周炎は局所抗生物質又は消毒剤で治療できる。当該製剤に含まれうる抗生物質の1つのクラスが、テトラサイクリン系抗生物質である。本研究の目的は、薬物安定性を高め、適用を容易にし、数週間にわたり制御放出を可能にする予備成形挿入物の提供であった。従って、テトラサイクリン抗生物質と脂肪酸塩からなるキレート複合体を提案した。この場合、ミノサイクリン及びドキシサイクリンは、異なるモル比で、マグネシウム-及びステアリン酸カルシウムと対になった。当該キレート複合体は、活性な医薬成分を安定化し、ホットメルト押出により、PLGAポリマーマトリクスへ組み込みが可能となる。キレート複合体をUV/Vis‐及びIR‐分光法により特徴付けすることにより、ミノサイクリン‐マグネシウム複合体の有利性が導かれた。複合体の抗生物質活性の再評価のため,ディスク拡散試験を行った。この複合体を異なるPLGAポリマーと混合し、押出前にクライオミルした。ホットメルト押出により、直径600~900μmの均一な押出物が得られた。ミノサイクリンを11.5%含有し、長さを調節でき、取り扱いが簡便である。インビトロ放出試験では、薬物の42日間の制御放出が明らかになった。
歯周病患者用の新規適用に対する発明者らのアプローチにはいくつかの利点がある。ミノサイクリンの安定性は、適用前後の提案した複合体形成によって高まる。製造プロセスは、毒性溶媒を全く含まず、スケールアップのしやすさを提供し、固形の予備成形挿入物を提供する汎用性がある。この予め形成された挿入物は、特別な装置がなくても容易に適用でき、調節可能で、42日間持続する長期制御放出を特徴とするが、これは他の製剤では未だ達成されていない。簡潔には、当該押出物は、特に歯周治療の分野において、価値ある治療選択肢として進展する可能性が有望である。
【0130】
〔比較例〕
比較例18:Na
2
HPO
4
による処理
公開された国際出願2012/128417は、実施例1で、5質量%テトラサイクリン塩酸塩水溶液と5質量%のNa
2HPO
4水溶液との1:1体積比の混合による「イオン複合体」の形成を記載する。ミノサイクリン・HClイオン複合体も国際出願2012/128417により主張される。従って、同様の反応を行って、ミノサイクリンリン酸塩と発明者らのミノサイクリンキレート複合体を比較した。
最初の試みでは、375mgのミノサイクリン・HClとNa
2HPO
4を各々15mlのファルコンチューブに秤量した。その後、各粉末に再蒸留水7.125mlを添加した。ミノサイクリン・HClは当該高濃度では溶解せず、黄色の懸濁液となった。Na
2HPO
4は、容易に可溶であった(
図19)。これら2つの溶液を混合した結果、オレンジ色の溶液が得られた(
図20)。国際出願2012/128417とは対照的に、沈殿は観察されず、溶解度は高められた。溶液を4000rpmで4分間遠心分離したが、沈殿は追跡できなかった。
実験を、1質量%のミノサイクリンHCl及び1質量%のNa
2HPO
4溶液を用いて繰り返した。つまり、各化合物75mgを各々15mlのファルコンチューブに秤量し、7,425mlの再蒸留水を添加した。この濃度では、ミノサイクリン・HClは可溶性で、黄色の溶液を生成した(
図21)。両方の成分を混合すると、黄色の溶液になる(
図22)。沈殿は観察されず、4000rpmで4分間の遠心分離でも溶液条件は変わらなかった。最終溶液のpH値は7.1であり、これはカチオンとしてのミノサイクリンの存在を示す。それにもかかわらず、両溶液の混合前にミノサイクリン類のカチオン状態を確実にするため、0.1M HClと7.425mlの再蒸留水400μlを交換して実験を繰り返した。また、pH変化は沈降をもたらさなかった(
図23)。
したがって、ミノサイクリン・HClでは、リン酸二ナトリウムを陰イオンとして用いても、低溶解性イオン複合体の沈殿は観察されなかった。
【0131】
本開示は、さらに、以下の態様を含む。
[1] テトラサイクリン化合物(TC)又は製薬上許容されるその塩、水和物若しくは溶媒和物、及び二価金属カルボキシレート(MA2)を含む複合体であって、モル比TC:MA2は、1:0.8~3.0の範囲であり;前記二価金属のカチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり;かつ、前記Aは、C8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである、複合体。[2]前記テトラサイクリン化合物(TC)は、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、チゲサイクリン、デメクロサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、オマダサイクリン、サレサイクリン、エラバサイクリン、クロモサイクリン、9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン及び9-(N,N-ジメチルグリシルアミド)-ミノサイクリンから選択される、[1]に記載の複合体。[3]前記TC:MA2の比は、1:2であり、及び/又はMは、Mg2+及びCa2+から選択され、及び/又は、Aは、アラキジン酸(C20)、ステアリン酸(C18)、パルミチン酸(C16)、ミリスチン酸(C14)、ラウリン酸(C12)、カプリル酸(C10)、カプリル酸(C8)、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸から選択されるカルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである、[1]又は[2]に記載の複合体。[4]式[(TC)・2(MgA2)](式中、前記テトラサイクリン化合物(TC)は、ミノサイクリン又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物である)を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の複合体。[5]態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体、及び場合によっては、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤を含む、医薬製剤。[6]局所投与用に配置され、及び/又は押出物、粒子、顆粒、粉末、フィルム、ストリップ、コンパクト、チップ、ペースト、クリーム、ゲル、乳液、懸濁液、塗布剤、軟膏、バーム、ローション、点眼液、スプレー、局所エアロゾル、局所溶液、局所懸濁液、皮膚パッチ及び不織布からなる群より選択される、態様[5]に記載の医薬製剤。[7]さらに、賦形剤として、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸コグリコール酸)(PLGA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)若しくはポリカプロラクトン(PCL)等の生分解性ポリエステル;PLA-PCL及びPLGA-PCL等の混合生分解性ポリエステル;、PEG-PLA、PEG-PLGA、PEG-PCL及びPEG-PCL-PLGA等の生分解性PEG化ジブロック(AB)若しくはトリブロック(ABA又はBAB)コポリマー;並びにペクチン;から選択される1若しくはそれ以上の生分解性ポリマーを含み、かつ/又は、ここで、前記テトラサイクリン化合物(TC)の総含有量が5~20質量%の範囲である、態様[5]~[7]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[8]好ましくは本質的に円形又は本質的に楕円形の断面及び/又は最大断面直径が0.1~10mmの範囲である、らせん状の押出物の形態である、態様[5]~[7]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[9]態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体の製造方法であって、以下の:(a)テトラサイクリン化合物(TC)又はその製薬上許容される塩、水和物若しくは溶媒和物、及び2価金属カルボキシレート(MA2)を1:0.8~3.0のモル比で有機溶媒と混合して分散物を得る工程であって、ここで、前記2価金属カチオンMは、土類アルカリ金属カチオンであり、前記AはC8~C24カルボン酸由来のカルボキシレートアニオンである;(b)前記分散物を加熱して複合体を形成する工程;(c)前記溶媒を除去して複合体を得る工程;を含む、方法。[10]態様[8]による医薬製剤の製造方法であって、以下の:(d)請求項1~4のいずれか一項に記載の複合体、及び存在する場合には、1又はそれ以上の製薬上許容される賦形剤、を粉砕して押出成形前駆体を得る工程;(e)前記押出前駆体を室温より高い温度で押出する工程;(f)工程(e)の生成物を冷却して、らせん状押出物の形態の医薬製剤を得る工程;を含む、方法。[11]ヒト又は動物体の処置方法で用いられる、態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体、又は態様[5]~[8]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[12](i)細菌感染;又は(ii)Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythia、Streptococcus gordonii、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces naeslundii及びParvimonas micraからなる群から選択される1又はそれ以上の細菌により生じる細菌感染;の治療及び/又は予防の方法で用いられる、態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体、又は態様[5]~[8]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[13]抗生物質活性が、少なくとも21日間にわたり持続する、態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体、又は態様[5]~[8]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[14]急性、慢性又は再発性の歯周疾患の治療及び/又は予防の方法で用いられる、態様[1]~[4]のいずれか一項に記載の複合体、又は態様[5]~[8]のいずれか一項に記載の医薬製剤。[15]前記歯周疾患は、歯垢誘発性歯肉疾患、歯周炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の症状としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周組織膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎及び歯内感染症から選択される、態様[14]による方法において用いる態様[5]~[8]のいずれか一項に記載の複合体。