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  • 特許-触媒物品、方法及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】触媒物品、方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20240619BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20240619BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240619BHJP
   B01J 35/61 20240101ALI20240619BHJP
   B01J 35/64 20240101ALI20240619BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240619BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/86 222
B01D53/86 245
B01D53/86 280
B01J35/60 F
B01J35/61
B01J35/64
F01N3/10 A
F01N3/28 Q
F01N3/28 301B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021559104
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 US2020030904
(87)【国際公開番号】W WO2020227042
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】62/842,651
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ハイイン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、エリック
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-243305(JP,A)
【文献】特開平10-328566(JP,A)
【文献】特開2012-215108(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095557(WO,A1)
【文献】特開2014-100631(JP,A)
【文献】特表2016-505380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63
B01D 53/86
B01J 35/60
B01J 35/61
B01J 35/64
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための三元触媒物品であって、
第1の層が上に設けられた基材であって、前記第1の層上に第2の層が設けられている、基材を含み、
前記第1の層が、第1の金属、第1のアルミナ及びOSC成分を含み、
前記第1のアルミナが、シータアルミナを含み、
前記OSC成分は、セリア又はセリアを含む混合酸化物であり、
前記第2の層が、第2の金属及び第2のアルミナを含み、
前記第2のアルミナが、ガンマアルミナを含み、
記第1の金属がPdであり、前記第2の金属がRhであり、
前記第1のアルミナが、前記第1の層においてPdの担体であり、
前記第2のアルミナが、前記第2の層においてRhの担体である、三元触媒物品。
【請求項2】
前記第1の金属がPdであり、前記第2の金属がロジウムである、請求項1に記載の三元触媒物品。
【請求項3】
前記第1のアルミナが、シータアルミナを含む、請求項1又は2に記載の三元触媒物品。
【請求項4】
前記第2のアルミナが、ガンマアルミナを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項5】
前記シータアルミナが、少なくとも20nmのフレッシュ平均細孔直径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項6】
前記シータアルミナが、1050℃で10時間エージングした後、フレッシュBET表面積の最大5%の変化を有するエージング後BET表面積を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項7】
前記シータアルミナが、La、Nd、Sr、Si、Ti、Zr、Ba、Ca及びCeからなる群から選択される1つ以上の安定化元素で安定化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項8】
前記1つ以上の安定化元素が、前記アルミナの総重量の0.1~5重量%で存在する、請求項7に記載の三元触媒物品。
【請求項9】
前記第1の金属がPdであり、前記第1の層がアルカリ金属又はアルカリ土類金属成分を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項10】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、バリウム及び/又はストロンチウムである、請求項9に記載の三元触媒物品。
【請求項11】
前記第1及び/又は前記第2の層が、酸素吸蔵成分を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項12】
前記三元触媒物品が、密結合されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項13】
前記基材が、フロースルーモノリスである、請求項1~12のいずれか一項に記載の三元触媒物品。
【請求項14】
火花式点火エンジンからの排気ガスを処理する方法であって、前記排気ガスを請求項1~13のいずれか一項に記載の三元触媒物品と接触させることを含む、方法。
【請求項15】
前記排気ガスが、300~1050℃の範囲の温度を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記排気ガスが、900~1050℃の範囲の温度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1000℃の温度で火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の三元触媒物品の使用。
【請求項18】
前記三元触媒物品が、請求項1~13のいずれか一項に記載されている、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか一項に記載の三元触媒物品を含む、排気ガス処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気ガスの処理用の触媒物品に関する。具体的には、本開示は、内燃機関からの排気ガスを処理するためのTWC触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
火花式点火エンジンは、火花点火を用いて炭化水素及び空気混合物の燃焼を引き起こす。対照的に、圧縮点火エンジンは、炭化水素を圧縮空気中に噴射することによって炭化水素の燃焼を引き起こす。火花式点火エンジンは、ガソリン燃料、メタノール及び/又はエタノールを含む含酸素添加剤とブレンドされたガソリン燃料、液体石油ガス、又は圧縮天然ガスを燃料とすることができる。火花式点火エンジンは、化学量論的に動作するエンジン又はリーン燃焼により動作するエンジンであり得る。
【0003】
三元触媒(TWC)は、典型的には、1つ以上の白金族金属、特に白金、パラジウム、及びロジウムからなる群から選択されるものを含有する。
TWCは、3つの反応を同時に触媒することを意図している:
(i)一酸化炭素の二酸化炭素への酸化、
(ii)未燃炭化水素の二酸化炭素及び水への酸化、並びに
(iii)窒素酸化物の窒素及び酸素への単体化。
【0004】
これらの3つの反応は、TWCが化学量論的点で又はその付近で作動するエンジンから排気ガスを受け取ると、最も効率的に生じる。当該技術分野において周知のように、火花式点火(例えば火花点火)内燃機関においてガソリン燃料が燃焼したときに放出される一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NO)の量は、主に燃焼筒内の空燃比に影響を受ける。化学量論的にバランスのとれた組成を有する排気ガスは、酸化性ガス(NO及びO)及び還元性ガス(HC、H及びCO)の濃度が実質的に一致しているものである。この化学量論的にバランスのとれた排気ガス組成を生じる空燃比は、典型的には14.7:1として与えられる。
【0005】
理論的には、化学量論的にバランスのとれた排気ガス組成において、O、NO、CO、H、及びHCを、CO、HO、及びN(及び残留O)に完全に変換できる必要があり、これがTWCの役割である。したがって、理想的には、燃焼混合物の空燃比が化学量論的にバランスのとれた排気ガス組成を生成するような方法でエンジンを動作させる必要がある。
【0006】
排気ガスの酸化性ガスと還元性ガスとの間の組成バランスを定義する方法は、排気ガスのラムダ(λ)値であり、式(1)に従って定義することができる:
実際のエンジン空燃比/化学量論的エンジン空燃比、(1)
ラムダ値が1の場合、化学量論的にバランスのとれた(又は化学量論的)排気ガス組成を表し、ラムダ値が>1の場合、過剰のO及びNOを表し、組成は「リーン」と記載され、ラムダ値が<1の場合、過剰のHC、H、及びCOを表し、組成は「リッチ」と記載される。これは、空燃比を生じる排気ガス組成に応じて、「化学量論的」、「リーン」又は「リッチ」としてエンジンが動作する空燃比:したがって、化学量論的に動作するガソリンエンジン又はリーンバーンガソリンエンジンでの空燃比を指すこともまた、当該技術分野において一般的である。
【0007】
TWCを使用したNOのNへの還元は、排気ガス組成が化学量論的にリーンであるときは効率が低下することを理解されたい。同様に、TWCは、排気ガス組成がリッチであるとき、CO及びHCを酸化する能力が低くなる。したがって、課題は、TWCに流入する排気ガスの組成を、可能な限り化学量論的組成に近いまま維持することである。
【0008】
当然のことながら、エンジンが定常状態にあるとき、空燃比が化学量論的であることを確保することは比較的容易である。しかしながら、エンジンが車両を推進するために使用される場合、必要とされる燃料量は、運転者がエンジンにかける負荷要求に応じて一時的に変化する。これにより、三元変換のために化学量論的な排気ガスが生成されるように空燃比を制御することが特に困難になる。実際には、排気ガス酸素(EGO)(又はラムダ)センサから排気ガス組成に関する情報を受け取るエンジン制御ユニット、いわゆる、閉ループフィードバックシステムによって、空燃比を制御する。このようなシステムの特徴は、空燃比の調節に関連するタイムラグがあるため、わずかにリッチな化学量論的(又は制御セット)点とわずかにリーンとの間で、空燃比が振動する(又は摂動する)ことである。この摂動は、空燃比の振れ幅及び応答周波数(Hz)によって特徴付けられる。
【0009】
典型的なTWC中の活性成分は、高表面積酸化物上に担持されたロジウムと組み合わせた白金及びパラジウムの一方又は両方、並びに酸素吸蔵成分を含む。
【0010】
排気ガス組成が設定点よりわずかにリッチな場合、未反応CO及びHCを消費するため、すなわち反応をより化学量論的にするために少量の酸素が必要とされる。逆に、排気ガスがわずかにリーンになると、過剰な酸素を消費する必要がある。これは、摂動中に酸素を放出又は吸収する酸素吸蔵成分の開発によって達成された。最新のTWCにおける最も一般的に使用される酸素吸蔵成分(OSC)は、酸化セリウム(CeO)又はセリウムを含有する混合酸化物、例えば、Ce/Zr混合酸化物である。
【0011】
米国特許出願公開第2011/0014101号では、エンジンからの排気ガスを浄化するための触媒を開示している。触媒は、ウォッシュコートでコーティングされたフロースルーモノリスを提供する。ウォッシュコートは、金属酸化物担体上に担持された貴金属を含む。アルミナを含む、広範囲の好適な金属酸化物担体が開示される。実施例では、白金の担体として作用するシータアルミナを用いているが、この種のアルミナを選択する理由は示されていない。米国特許出願公開第2011/0014101号の実施例及び開示では、単層構造のみを企図している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、従来技術の欠点を解決する改善されたTWC触媒を提供すること、又は少なくともそれに対する商業的に有用な代替物を提供することが目的である。
【0013】
本発明の一態様は、火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための三元触媒物品に関する。該触媒物品は、
第1の層が上に設けられた基材であって、第1の層上に第2の層が設けられている、基材を含み、
第1の層が、第1の金属及び第1のアルミナを含み、
第2の層が、第2の金属及び第2のアルミナを含み、
(i)第1の金属がPdであり、第2の金属がRhであるか、又は(ii)第1の金属がRhであり、第2の金属がPdであるかのいずれかであり、
第1及び第2のアルミナの少なくとも1つは、シータアルミナを含む。
【0014】
更なる態様によれば、火花式点火エンジンからの排気ガスを処理する方法が提供される。該方法は、火花式点火エンジンからの排気ガスを、本明細書に記載される触媒物品と接触させることを含む。排気ガスは、触媒物品との接触点において、300~1150℃、好ましくは500~1000℃の範囲の温度を有し得る。いくつかの実施形態では、排気ガスは、≧900℃、例えば≧900~1050℃の温度を有し得る。
【0015】
更なる態様によれば、少なくとも1000℃の温度で火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための、シータアルミナを含む三元触媒物品の使用が提供される。好ましくは、触媒物品は、本明細書に記載のとおりである。
【0016】
更なる態様によれば、本明細書に記載の触媒物品を含む、排気ガス処理システムが提供される。
【0017】
更なる態様によれば、本明細書に記載される排気ガスシステムを備える、ガソリンエンジンが提供される。エンジンは、リーンバーンガソリンエンジンであっても、化学量論的燃焼エンジンであってもよい。更に、本開示は、本明細書に記載されるエンジンを備える、乗用車などの車両を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の触媒物品による、フロースルーモノリス基材のチャネルを通る断面図を示す。
【発明の詳細な説明】
【0019】
本発明の一態様は、火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための三元触媒物品に関する。該触媒物品は、
第1の層が上に設けられた基材であって、第1の層上に第2の層が設けられている、基材を含み、
第1の層が、第1の金属及び第1のアルミナを含み、
第2の層が、第2の金属及び第2のアルミナを含み、
(i)第1の金属がPdであり、第2の金属がRhであるか、又は(ii)第1の金属がRhであり、第2の金属がPdであるかのいずれかであり、
第1及び第2のアルミナの少なくとも1つは、シータアルミナを含む。
【0020】
ここで、本発明を更に説明する。以下の節において、本発明の異なる態様は、より詳細に定義される。そのように定義された各態様は、別途明確に示されていない限り、任意の他の態様又は複数の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であると示された任意の特徴は、好ましい又は有利であると示された任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0021】
本発明は、火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための三元触媒物品に関する。本明細書で使用するとき、触媒物品は、排気ガスシステムの成分、特に排気ガスの処理用のTWC触媒を指す。このような触媒物品は、触媒と接触させたガスを処理するための担持触媒を提供する。
【0022】
好ましくは、触媒物品は、密結合されている。「密結合された」とは、触媒物品がエンジンのエキゾーストマニホールドに近接して設置されることを意味する。すなわち、好ましくは、触媒物品は、車両の床下ではなく、エンジンベイ内に設置される。好ましくは、触媒物品は、エンジンマニホールドの下流に設けられる第1の触媒物品である。密結合位置は、エンジンに近接しているため、非常に熱くなっている。
【0023】
触媒物品は、第1の層が上に設けられた基材を含み、第2の層は、第1の層上に設けられている。
【0024】
基材はフロースルー基材(例えば、フロースルーモノリス基材)として構成され得、各通路は基材の第1及び第2の面の両方において開放しており、通路は基材の全長にわたって延びる。その結果、基材の第1の面を通って通路内に入る排気ガスは、排気ガスが基材の第2の面から出るまで、同じ通路内の基材を通過する。あるいは、基材は、いくつかの通路が基材の第1の面において栓塞されており、他の通路が基材の第2の面において栓塞されている、フィルタ基材(例えば、モノリシックフィルタ基材)として構成され得る。このような構成では、基材の第1の面を通って第1の通路内に入った排気ガスは、基材に沿って途中までその第1の通路に沿って流れ、その後、基材の多孔質フィルタ壁を通過して第2の通路内に入る。その後、排気ガスは上記第2の通路に沿って進み、基材の第2の面から出ていく。このような機構は当技術分野においてウォールフロー型フィルタとして知られるようになっている。
【0025】
基材の典型的な長さは、長さ2~12インチ(5.1~30.5cm)、好ましくは長さ3~6インチ(7.6~15.2cm)である。断面は、好ましくは円形であり、典型的には、直径4.66及び5.66インチ(11.8cm及び14.4cm)のフィルタを有してもよい。しかしながら、断面はまた、基材を固定する必要がある車両上の空間によっても決定され得る。
【0026】
基材のチャネルは、排気ガスを処理するための触媒材料を備えている。チャネルは、排気ガスを処理することができる触媒の表面積を増加させるための多孔質壁を有してもよい。好ましくは、基材は、コーディエライト、コーディエライト-αアルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュメン、アルミナ-シリカマグネシア、ジルコンシリケート、シリマナイト、マグネシウムシリケート、ジルコン、ペタライト、α-アルミナ、又はアルミノシリケートを含む。好ましくは、基材は多孔質である。基材は、40~75%、例えば45~70%(例えば、45~65%)又は50~60%の多孔率を有し得る。
【0027】
触媒物品は、第1の層が上に設けられた基材を含み、第2の層は、第1の層上に設けられている。すなわち、物品は、図1に示されるように、第2の層が第1の層上にあり、第1の層が基材上にある積層構造を提供する。第2の層は、介在層なしで第1の層上に直接存在してもよい。第1の層は、介在層なしで基材上に直接存在してもよい。第2の層は、第1の層の上面を完全に覆うことができる。第1の層は、基材の表面を完全に覆うことができる。一実施形態では、第1及び第2の層は、基材の全長(すなわち、実質的に全長)、特にモノリス基材のチャネルの全長にわたって延びていてもよい。あるいは、第1及び第2の層は、基材の部分的長さだけ延びてもよい。別の代替例では、第1又は第2の層の1つは、基材の全長にわたって延びてもよく、他の層は、基材の部分的長さにわたって延びてもよい(すなわち、第1又は第2の層の1つのみが存在する基材表面の領域が存在してもよい)。
【0028】
第1の層は、第1の金属及び第1のアルミナを含む。第2の層は、第2の金属及び第2のアルミナを含む。第1の金属はパラジウム又はロジウムであってもよく、但し、第1の金属がパラジウムである場合、第2の金属はロジウムであり、第1の金属がロジウムである場合、第2の金属はパラジウムである。好ましくは、第1の金属はパラジウムであり、第2の金属はロジウムである。アルミナは、各層に含まれる白金族金属の担体として作用し得る。一実施形態では、第1及び/又は第2の層は、Ptなどの更なるPGMを更に含んでもよい。
【0029】
TWCの活性を高めるために、PdからRhを分離することが望ましく、これは、記載された2層構造を使用することによって達成され得る。Rh及びPdが共に提供される場合、PdはRhを封入し、その効率を低下させることがあると考えられる。加えて、Pdは、CeなどのOSCに対する促進効果を有する。
【0030】
触媒物品中のPd及びRhは、200:1~1:200の重量比を有してもよい。好ましくは、Pd及びRhは、100:1~1:100の重量比を有する。より好ましくは、Pd及びRhは、50:1~1:50の重量比を有する。最も好ましくは、Pd及びRhは、15:1~1:15の重量比を有してもよい。触媒物品中の総PGM担持量は、好ましくは、PGM成分の1~350g/ft、好ましくは5~150g/ft、より好ましくは10~100g/ftである。
【0031】
アルミナの構造に応じて、異なる特性を有する異なる種類のアルミナが知られている。第1及び第2のアルミナの少なくとも1つは、シータアルミナを含む。好ましくは、第1のアルミナは、シータアルミナを含む。より好ましくは、第1のアルミナは、シータアルミナからなる。好ましくは、第2のアルミナは、ガンマアルミナを含む。より好ましくは、第2のアルミナは、ガンマアルミナからなる。いくつかの実施形態では、第1及び第2のアルミナの両方は、シータアルミナである。
【0032】
ガンマアルミナは、立方晶構造を有する準安定相である。シータアルミナは、単斜晶構造を有する準安定相である。これらの相を取得及び同定するための方法は、当該技術分野において周知である。
【0033】
車両製造業者の間では、法令及びコストによって推進される、燃料消費量を削減するという全体の傾向がある。このことにより、所与の車両重量に用いられるエンジンサイズの縮小が全般的にもたらされた。エンジンの小型化による出力低下を補うために、ターボチャージャーが通常用いられる。更に、エンジンは、一貫して、化学量論的条件(ラムダ)に近づくように作動している。すなわち、これらの排気温度を冷却するためにリッチ条件が活用されていない。このことは、排気システム内の温度を低下させ、それによって排気システム構成要素の完全性を維持するために採用された方策であった。これは、燃料使用量を増加させるため、現時点では望ましくない。
【0034】
これらの傾向は、特にガソリンエンジン内のTWC触媒などの密結合構成要素の場合、排気システムの構成要素によって生じる状態がより高温になっていることを意味する。エンジンは、負荷上昇の下にあり、発熱があまり抑えられていない。
【0035】
本発明者らは、従来使用されているガンマアルミナのみを含む触媒物品が、そのような高温条件下での使用に十分に安定ではないことを見出した。驚くべきことに、層状Pd/Rh-TWC触媒へのシータアルミナの組み込みは、より熱的に耐久性のある触媒を提供し得ることが見出された。更に、シータアルミナのこのような使用は、背圧を低減することが見出された。特に、本発明者らは、シータアルミナ担体が、フレッシュである場合、ガンマアルミナ担体よりもはるかに小さい表面積を有し得、1000℃以上の温度でエージングされた場合、ガンマアルミナの表面積は著しく減少し、他方、シータアルミナは実質的に変化しなかったことを見出した。
【0036】
好ましくは、シータアルミナは、少なくとも20nm、好ましくは20~40nmのフレッシュ平均細孔直径を有する。
【0037】
好ましくは、シータアルミナは、2~10μm、好ましくは2~8μm、より好ましくは3~5μmの範囲のD50を有する粒子分布を有する。
【0038】
D10、D50及びD90値を得るために必要な粒径測定値は、体積ベースの手法であるMalvern Mastersizer 2000を使用したレーザー回折粒径分析によって得られ(すなわち、D50及びD90は、D50及びD90(又はD(v,0.50)及びD(v,0.90)とも称され得る)、数学的Mie理論モデルを適用して粒径分布を求める。レーザー回折システムは、球近似に基づいて粒子の直径を求めることによって機能する。希釈されたウォッシュコート試料は、界面活性剤を含まない蒸留水中において、35ワットで30秒間、超音波処理することによって調製した。
【0039】
好ましくは、シータアルミナは、50m/g~100m/gのBET表面積を有する。これは、200m/gを超えることのある典型的に使用されるガンマアルミナのものよりも低いが、シータアルミナは、はるかに安定しており、使用におけるエージング後も実質的に同じBET表面積を保持する。これは、当該技術分野において既知の技術を用いて測定することができる。好ましくは、シータアルミナは、フレッシュBET表面積の5%以内の、1050℃で10時間エージングした後のBET表面積、及びフレッシュBET表面積の10%以内の、1100℃で10時間エージングした後のBET表面積を有する。
【0040】
好ましくは、シータアルミナは、La、Nd、Sr、Si、Ti、Zr、Ba、Ca及びCeからなる群から選択される1つ以上の安定化元素で安定化される。最も好ましくは、シータアルミナは、La又はNdで安定化される。好ましくは、1つ以上の安定化元素は、アルミナの総重量の0.1~5重量%で存在する。最も好ましくは、3.5~4.5重量%の量のLa安定化である。
【0041】
好ましくは、第1の金属はパラジウムであり、第1の層は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属成分を更に含み、好ましくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、バリウム又はストロンチウムである。好ましくは、バリウム又はストロンチウムは、存在する場合、第1及び/又は第2の触媒の総重量に基づいて、0.1~15重量パーセント、より好ましくは3~10重量パーセントバリウムの量で存在する。好ましくは、バリウムはBaCO複合材料として存在する。このような材料は、当該技術分野において既知の任意の方法、例えば、初期湿潤含浸又は噴霧乾燥によって実施することができる。あるいは、水酸化バリウムを触媒物品に使用することもできる。
【0042】
好ましくは、第1及び/又は第2の層は、OSC成分を更に含む。OSCは、複数の価数状態を有し、酸化条件下で酸素若しくは亜酸化窒素などの酸化剤と能動的に反応することができ、又は還元条件下で一酸化炭素(CO)若しくは水素などの還元剤と反応する存在物である。好適な酸素吸蔵成分の例としては、セリアが挙げられる。プラセオジムもまた、OSCとして含まれ得る。層へのOSCの送達は、例えば、混合酸化物を使用することによって達成することができる。例えば、セリアは、セリウム及びジルコニウムの混合酸化物、並びに/又はセリウム、ジルコニウム、及びネオジムの混合酸化物によって送達することができる。好ましくは、OSCは、1つ以上の混合酸化物を含むか、又はそれからなる。OSCは、セリア、又はセリアを含む混合酸化物であり得る。OSCは、セリア及びジルコニアの混合酸化物;セリウム、ジルコニウム、及びネオジムの混合酸化物;プラセオジム及びジルコニウムの混合酸化物;セリウム、ジルコニウム、及びプラセオジムの混合酸化物;又はプラセオジム、セリウム、ランタン、イットリウム、ジルコニウム、及びネオジムの混合酸化物を含んでもよい。好ましくは、第1及び第2の層のOSCは各々独立して、酸化セリウム、セリア-ジルコニア混合酸化物、及びアルミナ-セリア-ジルコニア混合酸化物からなる群から選択される。CeZr混合酸化物が最も好ましい。セリア-ジルコニア混合酸化物は、ジルコニアとセリアとの重量比が、80:20~20:80、85:15~15:85、より好ましくは75:25~25:75であってもよい。
【0043】
好ましくは、触媒物品におけるOSCの担持量は、0.5~4g/in、好ましくは1~3g/in、及び最も好ましくは約2.5g/inである。
【0044】
本発明の触媒物品は、当業者に知られている更なる成分を含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、少なくとも1つのバインダー及び/又は少なくとも1つの界面活性剤を更に含んでもよい。バインダーが存在する場合、分散性アルミナバインダーが好ましい。
【0045】
更なる態様によれば、火花式点火エンジンからの排気ガスを処理する方法が提供される。該方法は、火花式点火エンジンからの排気ガスを、本明細書に記載される触媒物品と接触させることを含む。排気ガスは、触媒物品との接触点において、300~1150℃、好ましくは500~1000℃の範囲の温度を有し得る。いくつかの実施形態では、排気ガスは、≧900℃、例えば≧900~1050℃の温度を有し得る。
【0046】
更なる態様によれば、少なくとも1000℃の温度で火花式点火エンジンからの排気ガスを処理するための、シータアルミナを含む三元触媒物品の使用が提供される。好ましくは、触媒物品は、本明細書に記載のとおりである。
【0047】
更なる態様によれば、本明細書に記載の触媒物品を含む、排気ガス処理システムが提供される。
【0048】
所望により、排気システムはまた、更なる触媒又はフィルタなどの追加の構成要素を含むことができる。例えば、ガソリンエンジンに特に適用可能な排気システムにおいて、NOトラップは、記載される触媒物品の上流のいずれかに配置され得る。NOトラップは、NO吸収触媒(NAC)としても知られ、例えば米国特許第5,473,887号から既知であり、リーン作動モードでの動作中に、リーン(酸素リッチ)排気ガス(ラムダ>1)から窒素酸化物(NO)を吸着し、排気ガス中の酸素濃度が低下したときNOを脱着する(化学量論的又はリッチ作動モード)ように設計されている。脱着したNOは、NAC自体の、又はNACの下流に位置する、ロジウム又はセリアなどの触媒成分によって促進される、好適な還元剤、例えばガソリン燃料でNに還元することができる。更なる構成要素の例としては、炭化水素トラップ、選択的触媒還元(SCR)触媒、触媒スートフィルタ(CSF)、選択的触媒還元フィルタ(SCRF(商標))触媒、アンモニアスリップ触媒(ASC)、ガソリン微粒子フィルタ(GPF)、及びこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。このような構成要素は、当該技術分野において周知である。
【0049】
一実施形態では、排気システムは、第1のTWC触媒及び第2のTWC触媒を含んでもよく、TWC触媒の一方又は両方は、本発明による触媒物品を含む。このような実施形態では、第1及び第2のTWC触媒の両方が、密結合位置に配置されてもよい。
【0050】
更なる態様によれば、本明細書に記載される排気ガスシステムを備えるガソリンエンジンが提供される。エンジンは、リーンバーンガソリンエンジン又は化学量論的燃焼エンジンであってもよい。更に、本開示は、本明細書に記載されるエンジンを備える、乗用車などの車両を含むことができる。
【0051】
これから、以下の非限定的な図に関連して本発明を説明する。
【0052】
図1は、本明細書に記載の触媒物品による、フロースルーモノリス基材のチャネルを通る断面図を示す。
【0053】
図1は、フロースルー触媒1の一部分を示す。具体的には、上流側10から下流側15までフロースルーモノリス1を通る、チャネル5を示す。
【0054】
チャネル5は、コーディエライトハニカムモノリスなどの基材20から形成される。基材20は、第1の層25及び第2の層30を備える。基材20に対して、第1の層25は底層と見なされ得、処理される排気ガス35に対して、第2の層30は上層と見なされ得る。
【0055】
第1の層25は、Pd及びシータアルミナを含む。第2の層30は、Rh及びガンマアルミナを含む。下層25は、CeZr混合酸化物などの酸素吸蔵成分を更に含む。上層は、CeZr混合酸化物などの酸素吸蔵成分を更に含む。
【0056】
使用中、排気ガス35は、エンジンのエキゾーストマニホールド(図示せず)から、フロースルー触媒1のチャネル5内に流れる。排気ガスは、第1の層25及び第2の層30の構成要素に接触し、処理される。
【実施例
【0057】
これから、以下の非限定的な実施例に関連して、本発明を説明する。
【0058】
熱耐久性試験
La安定化ガンマアルミナ及びLa安定化シータアルミナ粉末を、以下の表1に記載のエージング条件に供した。粉末がフレッシュである場合、及び各エージングサイクル後に、各アルミナのBET表面積を測定した。BET表面積を、N多孔率技術によって求めた。
【0059】
【表1】
【0060】
触媒物品の調製
比較例1
円筒形コーディエライトモノリス基材を、OSCと、La安定化ガンマアルミナを含む担体上に担持されたパラジウム触媒と、を含む第1の(下)層でウォッシュコートし、次いで、OSCと、La安定化ガンマアルミナを含む担体上に担持されたロジウム触媒と、を含む第2の(上)層でウォッシュコートした。各ウォッシュコートの適用後、基材を乾燥させ、焼成した。第1及び第2の層の両方は、基材のチャネルの全長にわたって延びていた。下層のLa安定化ガンマアルミナの総担持量は1.0g/inであり、上層のLa安定化ガンマアルミナの総担持量は0.35g/inであり、下層の総パラジウム担持量は83g/ftであり、上層の総ロジウム担持量は5g/ftRhであった。
【0061】
実施例2
底層のLa安定化ガンマ-アルミナを、0.8g/inのLa安定化シータアルミナ及び0.05g/inのバインダー成分で代替したことを除いて、触媒物品を比較例1と同様に調製した。
【0062】
実施例3
円筒形コーディエライト基材を、OSC(比較例1及び実施例2とは異なる)と、La安定化シータアルミナ及び微量のバインダー成分を含む担体上に担持されたパラジウム触媒と、を含む第1の(下)層でウォッシュコートし、次に、OSCと、La安定化シータアルミナ及び微量のバインダー成分を含む担体上に担持されたロジウム触媒と、を含む第2の(上)層でウォッシュコートした。各ウォッシュコートの適用後、基材を乾燥させ、焼成した。下層のLa安定化シータアルミナの総担持量は、0.8g/inであり、下層のバインダー成分の総担持量は、0.1g/inであった。上層のLa安定化シータアルミナの総担持量は、0.25g/inであり、上層のバインダー成分の総担持量は0.1g/inであった。下層の総パラジウム担持量は83g/ftであり、上層の総ロジウム担持量は5g/ftRhであった。
【0063】
実施例4
La安定化シータアルミナ及び上層のバインダー成分を、0.35のLa安定化ガンマアルミナで代替したことを除いて、実施例3と同様にして触媒物品を調製した。
【0064】
背圧試験
実施例2、3及び4、並びに比較例1の触媒物品を、市販のフローベンチを用いて背圧試験に供した。結果を以下の表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
結論として、これらの実施例は、TWCの層(例えば、下層)でガンマアルミナをシータアルミナで置き換えることにより、触媒コーティングからの背圧(BkP)寄与を元の配合の約25%低減できることを示している。
【0067】
特に明記しない限り、本明細書における全ての百分率は、重量によるものである。
【0068】
本発明の好ましい実施形態について本明細書で詳細に説明してきたが、本発明の範囲又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、変形がなされ得ることが当業者には理解されるであろう。
図1