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特許7506692縫合糸にテンションを付与する装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】縫合糸にテンションを付与する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
A61B17/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021571612
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-17
(86)【国際出願番号】 US2020036947
(87)【国際公開番号】W WO2020251986
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】62/859,446
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506243057
【氏名又は名称】エルエスアイ ソルーションズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サウアー, ジュード, エス.エム.ディー.
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-502233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0228165(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0218206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00―17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
第1把持面を有し、前記ハウジングに移動可能に連結された第1クリートと、
前記第1クリートと同一直線上にあり、第2把持面を有し、前記ハウジングに連結され、前記第2把持面が前記第1把持面と対向する第2クリートと、
前記ハウジングに連結され、前記第1クリートおよび前記第2クリートと同一直線上にあるインジケータ要素と、
前記ハウジングに連結され、前記第1クリートとコンタクトするアクチュエータと、
を備え、
前記第1クリートの前記第1把持面と前記第2クリートの前記第2把持面とで縫合糸を把持し、
前記インジケータ要素は、テンションを付与された縫合糸によりバイアスされて変位し、この変位により縫合糸にテンションが付与されたことを示し、
前記アクチュエータは、前記第1クリートを、前記第2クリートに近づけたり前記第2クリートから遠ざけたりするように移動させる、縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項2】
前記ハウジングが縫合糸チャネルをさらに含む、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項3】
前記ハウジングが複数の縫合糸チャネルをさらに含む、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項4】
前記第1クリートが複数の凹部をさらに含む、請求項1に記載の縫合糸に張力をかけるための装置。
【請求項5】
前記第1クリートが複数の平坦なスポットをさらに含む、請求項1に記載の縫合糸に張力を付与する装置。
【請求項6】
前記第2クリートが複数の突起をさらに含む、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項7】
前記複数の突起が歯である、請求項6に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項8】
前記歯が非対称である、請求項7に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項9】
前記第2クリートが複数の凹部をさらに含む、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項10】
前記アクチュエータに結合されたカムをさらに備え、前記カムは、前記アクチュエータにより回転され、前記第1クリートのカム凹部と協働して前記第1クリートを前記第2クリートに対して移動させる、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項11】
前記アクチュエータは、ロック解除位置と、テンション付与位置と、ロック位置との間で移動可能であり、
a)前記アクチュエータが前記ロック解除位置にあるとき、前記第1クリートと前記第2クリートがコンタクトしておらず、縫合糸を保持するための装置を通る縫合糸の通過を制限せず、
b)前記アクチュエータが前記テンション付与位置にあるとき、前記第1クリートと前記第2のクリートが部分的にコンタクトし、縫合糸を保持するための装置を通る縫合糸の通過を部分的に制限し、
c)前記アクチュエータが前記ロック位置にあるとき、前記第1クリートと前記第2クリートが完全にコンタクトしており、縫合糸を保持するための装置を通る縫合糸の通過を完全に制限するように、
構成されている、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項12】
前記第1クリートと前記第2クリートとの間での縫合糸にかかる保持力が、少なくとも1kgである、請求項11に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項13】
前記インジケータ要素が縫合糸チャネルをさらに含む、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項14】
前記インジケータ要素は、(a)アクチュエータがロック位置にあり、かつ(b)前記第1クリートと前記第2クリートとの間に保持された縫合糸にテンションが付与されている時に、作動するように構成されている、請求項13に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項15】
クリートアレイをさらに備え、前記クリートアレイは前記第1クリートと前記第2クリートの複数の対を有する、請求項1に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項16】
前記クリートアレイは、6つの第1クリートと6つの第2クリートをさらに含み、前記第1クリートのそれぞれは前記第2クリートのそれぞれに対向し、前記第1クリートと前記第2クリートがクリート対を構成する、請求項15に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項17】
複数のスペーサーブロックをさらに備え、前記スペーサーブロックが前記クリート対の間に挿入されている、請求項16に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項18】
前記スペーサーブロックのそれぞれが、複数の逃がし凹部を有する、請求項17に記載の縫合糸にテンションを付与する装置。
【請求項19】
複数の縫合糸チャネルを含むハウジングと、クリートアレイと、複数のインジケータ要素と、アクチュエータとを備え、
前記クリートアレイは、前記ハウジングに移動可能に連結された第1クリートアレイ部分と、前記ハウジングに固定的に連結された第2クリートアレイ部分とを有し、
前記第1クリートアレイ部分は、それぞれが第1把持面を有する複数の第1クリートと、前記第1クリート間に介在された複数のスペーサーブロックとを含み、
前記第2クリートアレイ部分は、それぞれが第2把持面を有し前記第1クリートと同一直線上にある複数の第2のクリートと、前記第2クリート間に介在された複数のスペーサーブロックとを含み、
前記第1クリートの前記第1把持面と前記第2クリートの前記第2把持面とで縫合糸を把持し、
前記インジケータ要素はそれぞれ、前記ハウジングに連結され、前記第1クリートおよび前記第2クリートと同一直線上にあり、縫合チャネルを含み、
前記インジケータ要素は、テンションを付与された縫合糸によりバイアスされて変位し、この変位により縫合糸にテンションが付与されたことを示し、
前記アクチュエータは前記ハウジングに連結され、前記第1クリートアレイ部分とコンタクトしており、ロック解除位置と、テンション付与位置と、ロック位置との間で移動可能である、縫合糸にテンションを付与する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用装置、より具体的には、低侵襲の外科的処置のための縫合糸の管理およびテンション付与に用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低侵襲心臓手術の最近の進歩により、外科医は、術後の痛み、入院、および術後の制限を軽減しながら、患者の寿命を延ばし、患者の生活の質を向上させる外科手術を行うことができるようになった。このような低侵襲手術の中で、三尖弁の修復はより困難な手術の1つである。
【0003】
そのような手術を成し遂げるために必要な専門的な医療知識と外科的スキルに加えて、外科医とその医療スタッフは縫合糸の管理にも非常に熟達している必要がある。外科スタッフが縫合糸を管理し適切な縫合糸のテンション(張力)を維持するのを助ける改良された装置を有することが望ましい。また、現代の低侵襲外科手術中に外科スタッフに追加のセキュリティと視覚的フィードバックを提供する、縫合糸の管理とテンション付与のための改良された装置を有することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0004】
縫合糸にテンションを付与する装置が開示されている。この装置は、ハウジングと、第1把持面を有し、前記ハウジングに移動可能に連結された第1クリートと、前記第1クリートと同一直線上にあり、第2把持面を有し、前記ハウジングに連結され、前記第2の把持面が前記第1の把持面と対向する第2クリートと、前記ハウジングに連結され、前記第1クリートおよび前記第2クリートと同一直線上にあるインジケータバイアス要素と、前記ハウジングに連結され、前記第1クリートとコンタクトするアクチュエータと、を備えている。
【0005】
縫合糸にテンションを付与する装置はまた、複数の縫合糸チャネルを含むハウジングと、クリートアレイとを備え、前記クリートアレイは、前記ハウジングに移動可能に連結された第1クリートアレイ部分と、前記ハウジングに固定的に連結された第2クリートアレイ部分とを有し、前記第1クリートアレイ部分は、それぞれが第1把持面を有する複数の第1クリートと、前記第1クリート間に介在された複数のスペーサーブロックとを含み、前記第2クリートアレイ部分は、それぞれが第2把持面を有し前記第1クリートと同一直線上にある複数の第2のクリートと、前記第2クリート間に介在された複数のスペーサーブロックとを含む。縫合糸にテンションを付与する装置はまた、複数のインジケータバイアス要素と、アクチュエータとを備え、前記インジケータバイアス要素はそれぞれ、前記ハウジングに連結され、前記第1クリートおよび前記第2クリートと同一直線上にあり、縫合糸チャネルを含み、前記アクチュエータは前記ハウジングに連結され、前記第1クリートアレイ部分とコンタクトしており、ロック解除位置と、テンション付与位置と、ロック位置との間で移動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】縫合糸テンション付与装置における縫合糸テンション付与要素の部分断面図である。
【0007】
図1B図1Aの縫合糸テンション付与要素を左上の正面側から見た斜視図である。
【0008】
図2A】手術中の縫合糸テンション付与装置の部分断面図である。
図2B】手術中の縫合糸テンション付与装置の部分断面図である。
図2C】手術中の縫合糸テンション付与装置の部分断面図である。
図2D】手術中の縫合糸テンション付与装置の部分断面図である。
【0009】
図3A】6本の縫合糸にテンションを付与することができる縫合糸テンション付与装置の一実施形態を、左上の正面側から見た斜視図である。
図3B】同縫合糸テンション付与装置を、左上の背面側から見た斜視図である。
【0010】
図4図3Aの縫合糸テンション付与装置を、カバーを外した状態で示す左上の正面側から見た斜視図である。
【0011】
図5図3A図3Bの縫合糸テンション付与装置のクリートアレイを、左上の正面側から見た斜視図である。
【0012】
図6A図5のクリートアレイのスペーサー要素の側面図である。
図6B】同クリートアレイの別のスペーサー要素の側面図である。
図6C】同クリートアレイの別のスペーサー要素の側面図である。
【0013】
図7図3Aの縫合糸テンション付与装置をシャフトに装備してなる圧着器具の一実施形態を、左上の背面側から見た斜視図である。
【0014】
図8図3Aの縫合糸テンション付与装置をシャフトに装備してなる圧着器具の他の実施形態を、左上の背面側から見た斜視図である。
【0015】
明確にするためにそして適切であると思われる場合に、参照番号が対応するフィーチャを示すために図で繰り返されていること、およびフィーチャをより良く示すために図面の種々の構成要素が必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではないこと、を理解されたい。
【発明の詳細な説明】
【0016】
図1Aは、縫合糸テンション付与装置(suture tensioning device;縫合糸張力付与装置)の縫合糸テンション付与要素の部分断面図である。図1Aの縫合糸テンション付与要素は、第1または上側クリート(cleat;滑り止め)12と第2または下側クリート22により構成されている。上側クリート12は、2つの上側クリート穴14と上側クリートカム凹部16とを有する。上側クリート穴14は、上側クリート12を外部の構造またはアセンブリに固定又は保持するように構成されている。上側クリートカム凹部16は、カム(ここには示されていないが、後で詳細に説明する)を受け入れるように構成されている。上側クリート12の縫合糸に面する把持面12Aは、数個の交互に配置された表面凹部18および平坦なスポット20を有しており、これら表面凹部18と平坦スポット20は、下側クリート22に対向している(または対向して保持されている)ときに、十分な力で縫合糸10を保持するように構成されている。下側クリート22は、下側クリート22を外部の構造またはアセンブリに固定するように構成された2つの下側クリート穴24を有する。下側クリート22の縫合糸に面する把持面22Aは、数個の交互に配置された突起または表面歯26と平坦スポット28と、表面凹部み30を有し、これらは、上側クリート12に対向している(または対向して保持されている)ときに、十分な力で縫合糸10を保持するように構成されている。上側クリート12と下側クリート22は、互いに同一直線上にあり(colinear)、それらが同じ線またはリニアな配列内に配置されている。下側クリート22の非対称の歯は、本明細書に示されるようなクリート対を有する縫合糸テンション付与装置の動作中に縫合糸が張力をかけられる方向に対して反対方向に向けられている。上側クリート12または下側クリート22は、表面凹部18および平坦スポット20の交互配置のように、突起と表面凹部18と平坦スポット20を交互に配置してもよいし、表面凹部18と平坦スポット20を交互以外のパターンで配置してもよい。上側クリート12または下側クリート22は、様々な対称または非対称のサイズおよび形状を有する同様のフィーチャにより構成してもよい。このフィーチャの形状は、鋸歯、正方形、丸みを帯びた形状、傾斜した形状、三角形、またはそれらの反転形状または組み合わせを含むが、これらに限定されない。上側クリートは、前述のフィーチャの全てを備えていてもよいし、全てを備えていなくてもよい。第2のクリートは前述のフィーチャの全てを備えていてもよいし、全てを備えていなくてもよい。非対称の歯は、張力をかけた縫合糸と同じ方向に向けることができ、代替の実施形態では張力をかけた縫合糸の方向と反対の方向に向けることができる。前述の形状およびフィーチャは、縫合糸に面する表面によって形成される平坦な線から突出または凹んでいてもよく、前述の形状または特徴のうちの1つまたは複数から構成されていてもよい。第1のクリート(または上側クリート)12と第2のクリート(または下側クリート)22は、縫合糸への十分な保持力を保持することができる金属、プラスチック、または他の剛性材料のプレートで構成される。本明細書で使用される「縫合糸」という用語は、天然および/または合成を問わず、糸、ケーブル、ワイヤー、フィラメント、ストランド、ライン、ヤーン、ガット、または同様の構造を包含し、モノフィラメント、複合フィラメント、またはマルチフィラメントの形態(編み、織り、ねじり、またはその他の方法で一緒に保持されている)を包含するばかりか、そのような材料や形態の均等物、置換、組み合わせをも包含していることを理解されたい。
【0017】
十分な力とは、ロック位置において2つの対向する把持面の間で縫合糸を保持し張力を付与するために必要な最小レベルの力を指すことに留意されたい。十分な力は、特定の外科的処置に対する考慮、縫合糸の材料特性、または装置構成によって決定することができる。代替の縫合糸の材料または形態は、低侵襲の外科的処置中に縫合糸を保持しテンション(張力)を付与するために必要な十分な力に関して、異なる実際の値をもたらす可能性がある。一例として、ある外科的処置は、テンション付与装置に同時に保持された1つまたは複数の縫合糸を引っ張るために、縫合糸に少なくとも1kgの保持力またはテンション付与力を必要とする。クリート対の構成または配置は、このレベルの保持力またはテンションを提供するために改変することができる。図IBは、図1Aの縫合糸テンション付与要素を左上の正面側から見た斜視図である。図1Aと同様に、縫合糸10が上側クリート12と下側クリート22との間に保持された状態で示されている。
【0018】
図2A図2Dは、手術中の縫合糸テンション付与装置の部分断面図である。図2Aに示すテンション付与装置32は、テンション付与装置本体34と、いくつかの支持壁36と、側壁40とを有する。各支持壁36は、縫合糸10を通過するように構成された縫合糸チャネル38を有している。縫合糸テンション付与装置32はまた、装置カバー42を有している。この装置カバー42は取り外し可能であってもよいし、取り外し可能でなくてもよい。装置カバー42は、インジケータバイアス要素48の頂部50をユーザーが見られるように構成された開口44を有している。インジケータバイアス要素48はまた、ビーム49を有している。インジケータバイアス要素48は、要素サポート46を介して装置本体34に接続されている。インジケータバイアス要素48はまた、バイアス要素縫合糸チャネル52を有し、この縫合糸チャネル52は縫合糸を受け入れるように構成されている。インジケータバイアス要素48におけるバイアス要素縫合糸チャネル52の配置により、チャネル52を通過する縫合糸10がテンションを付与された状態にあるときに、インジケータバイアス要素48のビーム49が屈曲し、頂部50が図2Aに示される位置から下げられるようになっている。したがって、インジケータバイアス要素48は、上側クリート12および下側クリート22の両者と同一直線上にある。上側クリート12と下側クリート22の対は、クリート対とも言う。
【0019】
縫合糸テンション付与装置32はまた、アクチュエータマウント56に連結されたアクチュエータ54を有する。アクチュエータマウント56はアクチュエータ54が回転した時に回転する。カム58がアクチュエータマウント56に連結されている。カム58は様々な位置を経て回転したとき、上側クリート12の上側クリートカム凹部16に接し、上側クリート12を、下側クリート22に対して様々な垂直位置へと移動させる。2つの支持壁36の間には側板60が配置されている。この側板60は、2つの位置合わせ用の側板ピンガイド62を有しており、このピンガイド62は、2つの上側クリートピン64を介して上側クリート12に取り付けられている。2つの上側クリートピンはまた、対応する位置合わせ用側板(この図には示されていない)を上側クリート12の反対側に取り付ける。上側クリート12とその関連構造は、縫合糸テンション付与装置32の装置本体34内で移動可能である。下側クリート22は、2つの下側クリートピン66を介して装置本体34に固定されている。2つの下側クリートピン66は、上側クリート12がその様々な位置を経て移動される間、上側クリート12および下側クリート22を垂直に位置合わせする目的で、位置合わせ用側板60の位置合わせ用側板ピンガイド62を通過する。アクチュエータの動作により上側クリート12が下側クリート22に近づくが、アクチュエータ54が図2Aに示されるロック解除位置にあるとき、第1のクリート12と第2のクリート22はコンタクトせず(接触せず)、縫合糸テンション付与装置32の様々な縫合糸チャネル38、52を通る縫合糸の通過は、制限されない。
【0020】
図2Bは、アクチュエータ54が部分的なテンション付与位置に動かされた状態での縫合糸テンション付与装置32の部分断面を示している。アクチュエータ54が移動方向68で回転すると、カム58はまた、カム58の異なる半径ポイントが上側クリートカム凹部16と接触する位置へと移動する。移動方向68のこの位置は、部分的ロック位置と言う。この部分的ロック位置では、縫合糸は、縫合糸テンション付与装置32によって提供され得る力の総量の一部だけを受ける。下側クリート22に対する上側クリート12のこの位置では、縫合糸は、縫合糸テンション付与装置32内に保持され、抵抗を伴って装置を通って移動することができる。この部分的ロック位置またはテンション付与位置では、縫合糸10は、縫合糸テンション付与装置32内の様々な縫合糸チャネル38、52を通って移動することができる。図2Bは、部分的ロック位置にある縫合糸テンション付与装置32を示しており、この位置では、第1のクリート12および第2のクリート22は部分的にコンタクトしており、縫合糸テンション付与装置32の様々な縫合糸チャネル38、52を通る縫合糸の通過は部分的に制限されている。装置32または縫合糸10が互いに対して相対的に移動する場合、下側クリート22に対して上側クリート12が部分的テンション付与状態にあるため、動きに抵抗または摩擦が生じる。
【0021】
図2Cは、アクチュエータ54が完全ロック位置へと動かされた状態の縫合糸テンション付与装置32の部分断面を示している。アクチュエータ54が移動方向72に回転されると、カム58も、カム58の異なる半径ポイントが上側クリートカム凹部16と接触する位置へと移動する。移動方向72のこの位置は、完全ロック位置と言う。この完全ロック位置では、縫合糸10は、縫合糸テンション付与装置32によって提供され得る力の総量の最大量を受ける。図2Cは、完全なロック位置(構成)またはロック位置(構成)にある縫合糸テンション付与装置32を示す。アクチュエータ54がロック位置にあるとき、第1のクリート12と第2のクリート22が完全にコンタクトし、縫合糸テンション付与装置32内の様々な縫合糸チャネル38、52を通る縫合糸10の通過は完全に制限される。
【0022】
図2Dは、アクチュエータ54が完全ロック位置にある縫合糸テンション付与装置32の部分断面を示している。縫合糸10を縫合糸テンション付与装置32内の様々な縫合糸チャネル38、52内に配置しロックしたとき、適切な縫合糸テンションの視覚的確認が望ましい。低侵襲外科的処置において、本明細書に記載されているように縫合糸が縫合糸テンション付与装置32に固定されてから、縫合糸を引き締めることも望ましい。縫合糸テンション付与装置32が方向76に引っ張られると、縫合糸はぴんと引っ張られ、ロックされた第1のクリート12と下側クリート22との間にしっかりと保持される。縫合糸10が、縫合糸チャネル38およびインジケータバイアス要素の縫合糸チャネル52に通されているので、図2Dに示すように、縫合糸10は引き締められると、緩い形態から真っ直ぐな形態へと移動する。そのため、インジケータバイアス要素48は方向78に下向きに移動し、インジケータバイアス要素48の頂部50が装置カバー42の開口44から出る。これにより、術者に視覚的な表示が提供され、術者は縫合糸テンション付与装置32内で縫合糸への適切なテンションが達成されていることを認識することができる。この視覚効果は可逆的であり、装置のテンションが緩和されると、インジケータバイアス要素48は元の形態に戻り、インジケータバイアス要素48の頂部50は、装置カバー42の開口44内の元の位置に戻る。インジケータバイアス要素48は、ロックされたときに必要な閾値レベルの張力が縫合糸にかかるように設計されている。視覚的な確認に必要な力の量は、バイアス要素の代替材料または形状を利用することによって変更することができる。装置をロックすることによって縫合糸への適切なテンションが達成されたことを示すために、代替のテンションレベルまたは視覚化方法を提供することができる。テンションの視覚化の手段としてインジケータバイアス要素48の動きが示されているが、色、文字、数字、記号、音、または照明など、当業者に知られている他の手段を用いることもできる。
【0023】
図3A図3Bは、6本の縫合糸にテンションをかけることができる縫合糸テンション付与装置の実施形態を、それぞれ左上の正面側から見た斜視図と左上の背面側から見た斜視図である。図示の縫合糸テンション付与装置80は、本体82とアクチュエータ96とシャフト用凹部100を有する。本体82は、2つの人間工学的に設計されたグリップフィーチャ88を有している。人間工学的なグリップフィーチャ88は、低侵襲の外科的処置中に、ロックされテンションをかけられた複数の縫合糸を保持し引っ張るための快適な手の位置を提供するように構成されている。アクチュエータ96は、図2A図2Dについて説明したような上側クリートのカム凹部と係合するカムを回転させる。シャフト用凹部100は、圧着器具(crimping instrument)のシャフト上に設置されるように構成されている。シャフト用凹部100の上には、複数の縫合糸を方向付けし組織化するための数個の外部縫合糸チャネル98がある。縫合糸テンション付与装置80は、カバー開口92を有するカバー90を備えており、このカバー開口92を通して6つのインジケータの頂部94を見ることができる。この縫合糸テンション付与装置80は、低侵襲外科手術で使用される6本の縫合糸に関連するロック、テンション付与、および視覚的表示を提供することができる。図3Aはさらに、数個の上側クリートピン位置84(この図には示されていない)と下側クリートピン位置86を示し、縫合糸テンション付与装置80内の様々なクリート対の相対位置を示している。
【0024】
図4は、図3Aの縫合糸テンション付与装置を左上の正面側から見た斜視図であり、カバーを外した状態で示す。縫合糸テンション付与装置80は、1本の縫合糸108とともに示されている。この縫合糸108は、装置80に通され、縫合糸チャネル98の1つを通って出る。カバーを外すと、数個の上側クリート102が見える。上側クリート102間に数個のスペーサー104が配置されている。アクチュエータ96に取り付けられたカム106は、上側クリート102とスペーサー104によって形成されたカム凹部内に配置されている。これらのスペーサーブロック104は、上側クリート102のそれぞれの間に介在されている。
【0025】
図5は、図3A図3Bの縫合糸テンション付与装置のクリートアレイを左上の正面側から見た斜視図である。クリートアレイ112が図5に示されている。クリートアレイ112は、数個の上側クリート102と、上側クリートアレイ部分の長さに沿って挿入された数個の上側クリートスペーサー104により、構成されている。上側クリートアレイ部分は、2つの上側クリートピン114によって一緒に保持されている。上側クリート102と上側クリートスペーサー104によって形成される個々の構成要素および組み合わせ構造は、本明細書の前の実施形態に記載されるようにカムを受け入れるアレイカム凹部116を形成する。クリートアレイ112はまた、数個の第1の下側クリートスペーサー120と数個の第2の下側クリートスペーサー122との間に挿入された数個の下側クリート118を含み、下側クリートアレイ部分を形成する。第1の下側クリートスペーサー120は、数個の逃がし凹部124を有している。第2の下側クリートスペーサー122も数個の逃がし凹部126(この図には示されていない)を有する。これらの逃がし凹部124、126の目的は、ロック位置にあるときに、縫合糸が上側クリート102と下側クリート118との間の空間から膨らむことを可能にすることにある。いくつかの縫合糸材料、特に延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から作られた縫合糸の場合、縫合糸は、上下のクリートのロック機構によって生じる圧縮力で、外向きに膨らむことがある。そのような設計または材料の縫合糸は、圧力下での縫合糸の膨張を許容する空間がないと、テンションをかけたときに破断する可能性がある。これらのスペーサーまたはスペーサーブロックは、当業者に知られているレリーフ凹部の代替の配置、形状、または構成を有することができる。下側アレイ部分は、2つの下側クリートピン128によって一緒に保持される。アレイの上側部分と下側部分は、側部アライメント板130に保持されている。対応する側部アライメント板130は、クリートアレイ112の一部であるが、図を見やすくするために示されていない。2つのアライメント板は、上側クリートピン114と下側クリートピン128を受け入れ、上側クリート102を下側クリート118と位置合わせする。この実施形態のクリートアレイ112は、一緒に取り付けられた数個の部品から構成されているが、他の実施形態では、図示の実施形態のフィーチャと構造のいくつかまたは全てを備えていながら、上側部分又は下側部分又は両部分が単一の部品で構成されていてもよい。これらアレイの部品は、プラスチック材料を成形、印刷、または機械加工することにより得ることができ、または、金属または金属合金材料を機械加工、印刷、または鋳造することにより得ることができる。上述のクリートアレイを構築する他の材料または方法は、当業者に知られているであろう。
【0026】
図6A図6Cは、図5のクリートアレイの異なるスペーサー要素の側面図である。図6Aは、第1の下側クリートスペーサー120の側面図であり、第1の下側クリートスペーサー120によって画成されたピン穴132とスペーサー凹部124の位置を示している。図6Bは、第2の下側クリートスペーサー122の側面図であり、第2の下側クリートスペーサー122によって画成されたピン穴134とスペーサー凹部126の位置を示している。図6Cは、上側クリートスペーサー104の側面図であり、上側クリートスペーサー104によって画成されたピン穴136とカム凹部138の位置を示している。
【0027】
図7は、シャフトに装着された図3Aの縫合糸テンション付与装置を備えた圧着器具(crimping instrument)の実施形態を、左上の背面側から見た斜視図である。圧着器具140は、3本のシャフト148と、シャフトサポート150と、3つの圧着端152を有しており、3つの機械的ノット(mechanical knots)を同時に締めることができる。圧着器具140は、ハンドル144を画成するハウジング142を有する。器具140は作動レバー146を有しており、この作動レバー146は、動作時に機械的ノットを圧着すると同時に縫合糸を切断する。縫合糸テンション付与装置80は、シャフト148の上を覆うようにして器具に設置される。縫合糸テンション付与装置80は、シャフト用凹部100をシャフト148上に配置することにより、シャフト148に沿ってスライド可能に係合される。縫合糸テンション付与装置80は、1つまたは複数の機械的ファスナ(mechanical fasteners)に通された縫合糸にテンションをかける目的で、操作者に向かう方向153に引っ張ることができる。
【0028】
図8は、圧着器具の別の実施形態を、左上の背面側から見た斜視図である。この圧着器具154は、シャフトに装着された図3Aの縫合糸テンション付与装置を備えている。圧着器具154は、3つのシャフト172と、シャフトサポート174と、3つの圧着端176を有し、3つの機械的ノットを同時に締めることができる。圧着器具154は、ハンドル158を画成するハウジング156を有する。器具154は作動レバー160を有し、この作動レバー160は、動作時に機械的ファスナを圧着すると同時に縫合糸を切断する。縫合糸テンション付与装置80は、シャフト172に被さるようにして器具に設置されている。縫合糸テンション付与装置80は、シャフト凹部100をシャフト172の上に配置することにより、シャフト172に沿ってスライド可能に係合されている。縫合糸テンション付与装置80は、1つまたは複数の機械的ファスナに通された縫合糸にテンションをかけるために、操作者に向かう方向153に引っ張ることができる。ハウジング156の上部にはガイドレール162がある。このガイドレール162は、いずれかの側に複数のラチェット164を有している。
【0029】
器具154はまた、ターゲットトレイ180とターゲットカバー182を有するスネアアセンブリまたはスネアローダー178を有している。スネアローダー178内のスネア170は、縫合糸テンション付与装置80を通り、スネア引き具166内に固定される(固定機構はこの図には示されていないが、機械的ファスナ、ハンドル、スネアターゲット、またはスネアをスネア引き具166に固定するのに適した他の構造とすることができる)。スネア引き具166は、複数のスネアを縫合糸テンション付与装置80を通して符号184で示す方向に同時に引っ張るために、人間工学的グリップ168を有している。これと同様の実施形態は、複数の縫合糸をスネアして縫合糸テンション付与装置80に通すために、スネアローダー178にロードされた複数のスネアを有することができる。
【0030】
機械的固定工程の前にテンションをかけるべき複数の縫合糸を必要とする低侵襲外科手術において、スネア170は、縫合糸テンション付与装置80を通して縫合糸を引っ張る。複数の縫合糸が縫合糸テンション付与装置80に通されてロックされると、縫合糸テンション付与装置80は、端部176から外れ、ガイドレール162に配置されて係合され得る。縫合糸テンション付与装置80が方向184でさらにテンションをかけるかまたは調整する必要がある場合、ラチェット164は、方向184に対する逆方向の動きを防ぐために、縫合糸テンション付与装置80の対応するフィーチャと係合する。テンションをかけ、引っ張った後に縫合糸テンション付与装置80を保持する他の手段または方法は、当業者に知られている。
【0031】
低侵襲性縫合のための縫合糸セキュリティ装置の様々な利点について議論してきた。本明細書で論じられる実施形態は、本明細書の例として記述されている。前述の詳細な開示は、例としてのみ提示されることを意図しており、限定するものではないことは、当業者には明らかであろう。本明細書に明示的に記載されていないが、様々な変更、改善、および修正を当業者は意図するであろう。これらの変更、改善、および修正は、ここに示唆されることを意図しており、クレームされた発明の精神および範囲内にある。図面は必ずしも縮尺通りではない。さらに、要素の処理またはシーケンスの記載された順序、または数字、文字、または他の指定は、したがって、特許請求の範囲で指定されている場合を除き、請求項を任意の順序に限定することを意図しない。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲およびその均等物よってのみ限定される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8