(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】超特大クラスの高速ユニタリ変換を備えた特大多入力多出力アンテナシステムを用いる通信システム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0456 20170101AFI20240619BHJP
【FI】
H04B7/0456 100
(21)【出願番号】P 2022518908
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(86)【国際出願番号】 US2020051927
(87)【国際公開番号】W WO2021061604
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-06-27
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519169742
【氏名又は名称】ランパート コミュニケーションズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン,マシュー ブランドン
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0277083(US,A1)
【文献】国際公開第2015/186531(WO,A1)
【文献】特開2012-170110(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0134902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0456
IEEE Xplore
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを含み、第2の通信装置からもアクセス可能なユニタリ行列のコードブックにアクセスするように構成された第1の通信装置と、
前記第1の通信装置に動作可能に結合されたプロセッサを含むシステムであって、前記プロセッサが、
入力データに基づいて複数のシンボルを生成し、
前記ユニタリ行列のコードブックの複数のユニタリ行列のうちの各ユニタリ行列を関連付けられた複数のレイヤに分解し、
前記複数のユニタリ行列のうちの各ユニタリ行列について、当該ユニタリ行列に関連付けられた前記複数のレイヤのうちの各レイヤが置換及びプリミティブ変換行列を含むようにし、
複数の変換されたシンボルを生成するために、前記複数のシンボルのうちの各シンボルに、前記複数のユニタリ行列のうちの関連付けられたユニタリ行列の少なくとも1個のレイヤを適用し、
複数のプリコードされたシンボルを生成するために、前記複数の変換されたシンボルのうちの各々の変換されたシンボルに、前記ユニタリ行列のコードブックから選択されたプリコード行列を適用し、
前記第2の通信装置に、複数の信号の送信を引き起こす信号を送り、前記複数の信号のうちの各信号は前記複数のプリコードされたシンボルのうちの1個のプリコードされたシンボルを表し、前記複数の信号の各信号は前記複数のアンテナのうちの一意なアンテナを用いて送信される、ように構成されているシステム。
【請求項2】
前記複数のアンテナが第1の複数のアンテナであり、
前記第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されていて、
前記第1の複数のアンテナがT個のアンテナを含み、前記第2の複数のアンテナがR個のアンテナを含み、前記MIMO演算は前記第1の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog
2T)算術演算を伴い、前記MIMO演算は前記第2の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog
2R)算術演算を伴う、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数のアンテナが第1の複数のアンテナであり、前記第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の信号の送信を引き起こす前記信号が、いかなる前記プリコード行列の送信も引き起こさない、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ユニタリ行列のコードブックから少なくとも1個のプリコード行列が疑似ランダムに選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記ユニタリ行列のコードブックが時間領域から周波数領域への変換を含まない、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ユニタリ行列のコードブックが周波数領域から時間領域への変換を含まない、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
通信装置の複数のアンテナにおいて、通信チャネルを介して
複数の信号を受信することであって、複数の信号のうちの各信号が
、変換行列のコードブックを用いて変換された、第1の複数の変換されたシンボルのうちの変換されたシンボルを表す
、ことと、
前記通信チャネルの左特異ベクトル及び前記通信チャネルの右特異ベクトルを識別するために、前記通信装置において、前記通信チャネルの表現の特異値分解を実行することと、
第2の複数の変換されたシンボルを生成するために、前記第1の複数の変換されたシンボルから前記左特異ベクトル及び前記右特異ベクトルを除去することと、
前記第2の複数の変換されたシンボルに基づいて
前記変換行列のコードブックを照会することにより前記複数の信号に関連付けられた少なくとも1個のメッセージを識別することを含む方法。
【請求項9】
前記変換行列のコードブック
は、ユニタリ変換行列を、複数のレイヤのうちの各レイヤが置換及びプリミティブ変換行列を含む複数のレイヤに分解すること
で生成される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記通信装置は第1の通信装置であり、
前記複数のアンテナが前記第1の通信装置が有する第1の複数のアンテナであり、
第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されていて、
前記第1の複数のアンテナがR個のアンテナを含み、前記第2の複数のアンテナがT個のアンテナを含み、前記MIMO演算は前記第1の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog
2R)算術演算を伴い、前記MIMO演算は前記第2の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog
2T)算術演算を伴う、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記通信装置は第1の通信装置であり、
前記複数のアンテナが前記第1の通信装置が有する第1の複数のアンテナであり、第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されている、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前
記変換行列
のコードブックが時間領域から周波数領域への変換又は周波数領域から時間領域への変換を含まない、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記特異値分解が、実数ユニタリ行列又は複素数ユニタリ行列の少なくとも1つに基づく因数分解である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
複数のアンテナを含み、第2の通信装置からもアクセス可能なユニタリ行列のコードブックにアクセスするように構成された第1の通信装置と、
前記第1の通信装置に動作可能に結合されたプロセッサを含むシステムであって、前記プロセッサが、
複数のシンボルを受信し、
複数の変換されたシンボルを生成するために、前記複数のシンボルのうちの各シンボルに、前記ユニタリ行列のコードブックの複数のユニタリ行列のうちの関連付けられたユニタリ行列の少なくとも1個のレイヤを適用し、
複数のプリコードされたシンボルを生成するために、前記複数の変換されたシンボルのうちの各々の変換されたシンボルに、前記ユニタリ行列のコードブックの複数のプリコード行列から選択されたプリコード行列を適用し、
前記第2の通信装置に、複数の信号の送信を引き起こす信号を送り、前記複数の信号のうちの各信号は前記複数のプリコードされたシンボルのうちの1個のプリコードされたシンボルを表し、前記複数の信号のうちの各信号は前記複数のアンテナのうちの一意なアンテナを用いて送信される、ように構成されているシステム。
【請求項15】
前記複数のアンテナが第1の複数のアンテナであり、
前記第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置が多入力多出力(MIMO)演算を実行するように構成されていて、
前記第1の複数のアンテナがT個のアンテナを含み、前記第2の複数のアンテナがR個のアンテナを含み、前記MIMO演算は前記第1の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog
2T)算術演算を伴い、前記MIMO演算は前記第2の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog
2R)算術演算を伴う、請求項
14に記載のシステム。
【請求項16】
前記複数のアンテナが第1の複数のアンテナであり、前記第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されている、請求項
14に記載のシステム。
【請求項17】
前記複数の信号の送信を引き起こす前記信号が、前記複数のプリコード行列のうちのいかなるプリコード行列の送信も引き起こさない、請求項
14に記載のシステム。
【請求項18】
前記ユニタリ行列のコードブックから選択された前記プリコード行列が、前記ユニタリ行列のコードブックから疑似ランダムに選択された少なくとも1個のプリコード行列を含む、請求項
14に記載のシステム。
【請求項19】
前記ユニタリ行列のコードブックが時間領域から周波数領域への変換を含まない、請求項
14に記載のシステム。
【請求項20】
前記ユニタリ行列のコードブックが周波数領域から時間領域への変換を含まない、請求項
14に記載のシステム。
【請求項21】
通信装置の複数のアンテナにおいて、通信チャネルを介して
複数の信号を受信することであって、複数の信号のうちの各信号が
、変換行列のコードブックを用いて変換された、第1の複数の変換されたシンボルのうちの変換されたシンボルを表す
、ことと、
前記通信チャネルの左特異ベクトル及び前記通信チャネルの右特異ベクトルを識別することと、
第2の複数の変換されたシンボルを生成するために、前記第1の複数の変換されたシンボルから前記左特異ベクトル及び前記右特異ベクトルを除去することと、
前記第2の複数の変換されたシンボルに基づいて
前記変換行列のコードブックを照会することにより前記複数の信号に関連付けられた少なくとも1個のメッセージを識別することを含む方法。
【請求項22】
前記変換行列のコードブック
は、ユニタリ変換行列を、複数のレイヤのうちの各レイヤが置換及びプリミティブ変換行列を含む複数のレイヤに分解すること
で生成される、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記通信装置は第1の通信装置であり、
前記複数のアンテナが前記第1の通信装置が有する第1の複数のアンテナであり、
第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されていて、
前記第1の複数のアンテナがR個のアンテナを含み、前記第2の複数のアンテナがT個のアンテナを含み、前記MIMO演算は前記第1の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog
2R)算術演算を伴い、前記MIMO演算は前記第2の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog
2T)算術演算を伴う、請求項
21に記載の方法。
【請求項24】
前記通信装置は第1の通信装置であり、
前記複数のアンテナが前記第1の通信装置が有する第1の複数のアンテナであり、第2の通信装置が第2の複数のアンテナを含み、前記第1の通信装置及び前記第2の通信装置がMIMO演算を実行するように構成されている、請求項
21に記載の方法。
【請求項25】
前
記変換行列
のコードブックが時間領域から周波数領域への変換又は周波数領域から時間領域への変換を含まない、請求項
21に記載の方法。
【請求項26】
命令を保存した非一時的プロセッサ可読媒体であって、前記命令は、プロセッサに、
複数のシンボルを受信し、
複数の変換されたシンボルを生成するために、前記複数のシンボルのうちの各シンボルに、ユニタリ行列のコードブックに関連付けられた少なくとも1個のレイヤを適用し、
複数のプリコードされたシンボルを生成するために、前記複数の変換されたシンボルのうちの各々の変換されたシンボルに、前記ユニタリ行列のコードブックの複数のプリコード行列から選択されたプリコード行列を適用し、
通信装置に、複数の信号の送信を引き起こす信号を送り、前記複数の信号のうちの各信号は前記複数のプリコードされたシンボルのうちの1個のプリコードされたシンボルを表し、前記複数の信号のうちの各信号
は異なるアンテナを用いて送信される、ことを行わせる非一時的プロセッサ可読媒体。
【請求項27】
前記通信装置がMIMO演算を実行するように構成されている、請求項
26に記載の非一時的プロセッサ可読媒体。
【請求項28】
前記複数の信号の送信を引き起こす前記信号が、前記複数のプリコード行列のうちのいかなるプリコード行列の送信も引き起こさない、請求項
26に記載の非一時的プロセッサ可読媒体。
【請求項29】
前記ユニタリ行列のコードブックから前記プリコード行列が疑似ランダムに選択される、請求項
26に記載の非一時的プロセッサ可読媒体。
【請求項30】
前記ユニタリ行列のコードブックが時間領域から周波数領域への変換を含まない、請求項
26に記載の非一時的プロセッサ可読媒体。
【請求項31】
前記ユニタリ行列のコードブックが周波数領域から時間領域への変換を含まない、請求項
26に記載の非一時的プロセッサ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府の関心事項に関する宣言
[0001] 合衆国政府は、合衆国政府のあらゆる目的に沿ってライセンス供与する権限により、本発明の非排他的、不可逆的、無償ライセンスを保持している。
【0002】
関連出願の相互参照
[0002] 本出願は、2019年9月24日出願の米国特許出願第16/580,722号の題名“Communication System and Methods Using Very Large Multiple-In Multiple-Out (MIMO) Antenna Systems with Extremely Large Class of Fast Unitary Transformations”の優先権を主張すると共にその継続出願であり、その全内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
[0003] 本出願は、2018年7月10日発行の米国特許第10,020,839号の題名“RELIABLE ORTHOGONAL SPREADING CODES IN WIRELESS COMMUNICATIONS”、及び2019年7月1日出願の米国特許出願第16/459,262号の題名“COMMUNICATION SYSTEM AND METHOD USING LAYERED CONSTRUCTION OF ARBITRARY UNITARY MATRICES”、並びに2019年7月31日出願の米国特許出願第16/527,240号の題名“COMMUNICATION SYSTEM AND METHOD USING UNITARY BRAID DIVISIONAL MULTIPLEXING (UBDM) WITH PHYSICAL LAYER SECURITY (PLS) ”に関連しており、それぞれの開示はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
技術分野
[0004] 以下の記述は、電子通信のため無線信号を送信するシステム及び方法に関し、特に、非常に多くのアンテナを介して実行される無線通信のデータレートを向上させ、計算の複雑度を低下させることに関する。
【背景技術】
【0005】
背景
[0005] 多重アクセス通信において、複数のユーザー機器が、所与の通信チャネルを介して受信機に信号を送信する。これらの信号は重ね合わされて、その通信チャネルを介して伝播する合成信号を形成する。受信機は次いで、合成信号に対して分離動作を実行して合成信号から1個以上の個別信号を復元する。例えば、各ユーザー機器は、異なるユーザーが所有する携帯電話であってよく、受信機は中継塔であってよい。異なるユーザー機器により送信された信号を分離することにより、異なるユーザー機器は同一通信チャネルを干渉無しに共有することができる。
【0006】
[0006] 送信機は、搬送波又は副搬送波の状態を変化させることにより、例えば搬送波の振幅、位相及び/又は周波数を変化させることにより、異なる記号を送信することができる。各記号は1個以上のビットを表していてよい。これらの記号は各々複素平面の離散的な値にマッピングされて直交振幅変調を生起させるか、又は各記号を離散的な周波数に割り当てることにより周波数偏移キーイングを生起させることができる。これらの記号は次いで、記号送信レートの少なくとも2倍であるナイキストレートでサンプリングされる。結果的に得られた信号は、デジタル/アナログ変換器を介してアナログに変換され、次いで、送信用の搬送波周波数に上方変換される。異なるユーザー機器が通信チャネルを介して同時に記号を渡す場合、これらの記号が表す正弦波が重ね合わされて受信機で受信される合成信号を形成する。
【発明の概要】
【0007】
概要
[0007] 一装置が、プロセッサに動作可能に結合されていて変換行列のコードブックにアクセスすべく構成された、複数のアンテナを有する第1の通信装置を含む。プロセッサは、入力データに基づいてシンボルの集合を生成し、各シンボルに置換を適用して置換されたシンボルの集合を生成する。プロセッサは少なくとも1個のプリミティブ変換行列に基づいて各々の置換されたシンボルを変換して、変換されたシンボルの集合を生成する。プロセッサは、各々の変換されたシンボルに、変換行列のコードブックから選択されたプリコード行列を適用してプリコードされたシンボルの集合を生成する。変換行列のコードブックは第2の通信装置にアクセス可能である。プロセッサは、プリコードされたシンボルの集合のうちの1個のプリコードされたシンボルを各々表す複数の信号の送信を生起させる1個の信号を第2の通信装置に送り、各信号が複数のアンテナのうちの一意なアンテナを用いて送信される。
【0008】
[0008] 1個以上の実装の詳細事項が添付の図面及び以下の記述により開示される。他の特徴も記述及び図面から、並びに請求項から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面の簡単な説明
【
図1】[0009]一実施形態による、高速空間ユニタリ変換用の例示的な特大多入力多出力(MIMO)通信システムを示すブロック図である。
【
図2】[0010]一実施形態による、プリコードされたシンボルの生成及び送信を含む高速空間ユニタリ変換を実行する第1の例示的な方法を示すフロー図である。
【
図3】[0011]一実施形態による、プリコードされたシンボルの生成及び送信を含む高速空間ユニタリ変換を実行する第2の例示的な方法を示すフロー図である。
【
図4】[0012]一実施形態による、特異値分解及び変換された信号の生成を含む例示的な通信方法を示すフロー図である。
【
図5】[0013]一実施形態による、任意の行列の階層構造を用いる通信方法を示すフロー図である。
【数1】
の離散的フーリエ変換(DFT)を示す図である。
【
図7】[0015]一実施形態による、ユニタリ行列の階層構造を用いる通信システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
[0016] いくつかの多入力多出力(MIMO)通信システムは複数の空間アンテナに跨ってユニタリ変換を適用する送信器及び受信器を含み、適用される特定のユニタリ行列は通信チャネル(例えば、マルチパス及びその他の環境特徴を有する自由空間等、信号が送られる物理的送信媒体)に基づいてプロセッサにより判定される。ユニタリ行列は、基本的にランダムなユニタリ行列のコードブックから選択することができる。このような方式が大多数の公知MIMOシステムに充分である理由は、大多数の公知MIMOシステムが比較的少ない個数のアンテナ(一般的に2~4個のアンテナ)を含むからである。しかし、空間的多様性及び空間多重化に対するデータ要件及び需要が増大するにつれて、所望の通信チャネルの個数も増大する。その結果、送信器(Tx)及び受信器(Rx)で実行される、関連付けられたユニタリ前乗算及び後乗算の回数も増大する可能性がある。行列乗算の回数がO(N2)で増大するため、この複雑度の増大は計算コストが高価/阻害要因になり得る。式O(N2)の「O」は数学的表記「ビッグO」であり、関連する関数/演算が漸近する近似値を示す。
【0011】
[0017] 本明細書に開示する複数の実施形態は、MIMOプリコーディング用の高速ユニタリ行列のコードブックの構築及びそれらの空間的多様性/MIMOシステムへの適用を介してMIMO通信の効率向上を実現することができる。2019年7月1日出願の米国特許出願第16/459,262号“COMMUNICATION SYSTEM AND METHOD USING LAYERED CONSTRUCTION OF ARBITRARY UNITARY MATRICES”において、シンボルの送信前に、(例:逆高速フーリエ変換(iFFT)を代替する)周波数領域で変調されたシンボルを変換する特大クラスの「高速」ユニタリ行列を適用する技術について議論している。「特大クラス」の高速ユニタリ行列は、2400~220,000(例:28,000)個の高速ユニタリ行列を含むクラスを指す場合がある。本開示のシステム及び方法は、直交周波数分割多重化(OFDM)システムの場合、「高速」ユニタリ演算子の構築及び実装を周波数領域の範囲外まで拡張する。OFDMは複数の搬送周波数でデジタルデータを符号化する方法である。
【0012】
[0018] 高速ユニタリ行列が全体ユニタリグループ(すなわち可能なユニタリ行列の全体集合)内で比較的密であるため、高速ユニタリ行列から潜在的チャネル行列の適当なコードブックを設計し、従って、他の仕方で可能なものよりもはるかに大きいMIMOシステムを構成することが可能である。本明細書に開示する複数の実施形態は、高速ユニタリ行列から(本明細書において「演算子」又は「変換」とも称する)チャネル行列コードブックを構築することを含むため、はるかに大きなMIMOシステムを、計算が複雑なユニタリ空間変換を直接実行せずに設計することができる。本明細書で用いる「速い」又は「高速」変換は、O(NlogN)又はO(KlogK)の浮動小数点演算(例:N×K行列を与えられて)よりも悪くないオーダーの動作を用いて実行できるものを指す。
【0013】
[0019] MIMOシステムは典型的に、「プリコーディング」と称する処理を用いる。MIMOプリコーディングに関する詳細は例えば“Practical Physical Layer Security Schemes for MIMO-OFDM Systems Using Precoding Matrix Indices” by Wu, Lan, Yeh, Lee, and Cheng, published in IEEE Journal on Selected Areas in Communications (Vol. 31, Issue 9, September 2013)に見ることができ、その全内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。例示のため、アリスとびボブ(通信主体のペア)が通信中に使用できるユニタリ行列の「コードブック」(すなわち、保存されたユニタリ行列の集合)に同意したと考える。アリスはボブにトレーニングシーケンスを送信し、ボブは当該トレーニングシーケンスに基づいてチャネル行列Hを決定することができる。チャネル行列Hから、ボブは一般化されたチャネル容量を用いてコードブックのどのユニタリ行列が容量を最大化するかを判定し、当該行列にラベル付けしているビットだけをアリスに送りかえすことができる。アリスは次いで、当該時点から自身が送信するすべてのボーを、コードブックの適当なユニタリ行列で前乗算、すなわち「プリコード」することができる。ボブは次いで、残りのユニタリ特異行列を乗算して特異値をスケールアウトする。コードブックの行列は疑似ランダムに選択することができる。疑似ランダムに選択された行列を用いて(すなわち、行列そのものを識別/使用しなくても)送信ビット量の減少を伴う効率面での利点が得られる。
【0014】
[0020] プリコード/前乗算されたユニタリ行列は周波数又は時間ではなく空間全体にわたり適用される。換言すれば、t個のアンテナが全て同時に送信中であり、送信したいシンボルが
【数2】
、且つプリコード行列がFである場合、第1のアンテナは実際には
【数3】
を送信し、第2のアンテナは
【数4】
を送信し、以下同様である。上記は空間ユニタリ行列の適用を示す。
【0015】
[0021] 同様の手順を、高速ユニタリブレイド分割多重化(fUBDM)(2019年7月31日出願の米国特許出願第16/527,240号“Communication System and Method Using Unitary Braid Divisional Multiplexing (UBMD) with Physical Layer Security (PLS) ”に詳述されており、参照により本明細書に組み込まれる)におけるユニタリ行列と協働して実行することができる。例えば、n番目のアンテナで送信されるシンボルが、
【数5】
であり、且つn番目のアンテナのfUBDMユニタリをA
nとする。次いで送信器は最初に
【数6】
を全てのnについて計算する。シンボル
【数7】
はn番目のアンテナで実際に送信されているものである。次いで、受信器がt個の値
【数8】
(n=1,...,t)を送信する準備ができている場合、送信器は次式
【数9】
の値を計算して送信する。
【0016】
[0022] 以下の例を考える。N=2且つt=2とし、第1のアンテナが行列A
1を使用し、第2のアンテナが行列A
2を使用するものとし、ここに
【数10】
である。
【0017】
[0023] また、時空間行列が次式で与えられるとする。
【数11】
【0018】
[0024] 次に、第1のアンテナがシンボル
【数12】
を送信する予定であり、第2のアンテナが
【数13】
を送信する予定であるとする。最初に、両方のアンテナは自身のシンボルを拡張することにより、第1のアンテナが次式を計算し、
【数14】
第2のアンテナが次式を計算する。
【数15】
【0019】
[0025] 送信時刻が来れば、アンテナは構成要素全体に空間ユニタリを適用する。空間ユニタリFが単位行列である場合、第1のアンテナは第1の時間スロットで次式を送信し、
【数16】
第2のアンテナは同時に次式を送信する。
【数17】
【0020】
[0026] しかし、Fは単位行列でないため、第1の時間スロットで送信器は次式を計算する。
【数18】
【0021】
[0027] 第1のアンテナは、第1の値
【数19】
を送信し、同時に第2のアンテナは第2の値
【数20】
を送信する。
【0022】
[0028] 次いで、第2の時間スロットで、送信器は次式を計算する。
【数21】
(0.0.7)の値は第1の送信器と第2の送信器が第2の時間スロット中で各々同時に送信する2個の値である。
【0023】
[0029] これらの値が通信チャネルを介して送信されたならば、通信チャネルによりFの効果が除去される。これは通信チャネルが実行する内容の少なくとも一部を逆向きに適用することを含む、当該処理が「プリコーディング」と呼ばれる理由を示す。送信された信号を受信器が受信した場合、プリコードしている部分は通信チャネルが効果的に除去しているため、これらを除去する必要はない。受信器は次いで特異値をスケールアウトし、次いで他の特異ベクトルを除去し、次いでジェネレータ行列A1、A2の逆行列を適用する。
【0024】
[0030] 特異値のスケーリングアウトの一例は以下の通りである。信号「T」が送信されたことに応答して、受信器はHTを受信し、ここに「H」はチャネル行列を表す。Hの特異値分解がH=BDAt(上付き添え字tは共役転置を示す)である場合、受信器は(BDAt)Tを受信する。TがAbとして選択され、Aがチャネルと同じユニタリ(先の考察の行列「F」と同様)であって、bが送信されたシーケンスである場合、受信器は(BDAt)Ab=BDbを受信する。次いで受信器がBDbにBの共役転置を乗算したならば、結果はBtBDb=Db、すなわち全ての非負値を有する対角行列Dであって対角値が特異値であるDが乗算された送信シーケンスbである。このように、「特異値からスケーリングアウトする」とはDbの各成分を特異値で除算することを指す。又は同値的に、「特異値からスケーリングアウトする」とはDbにDの逆行列(D-1と表記)を乗算することを指す。その結果、送信器は送信されたシーケンスであるD-1Db=bを取得する。
【0025】
[0031] MIMOシステムにおける重大な問題は、アンテナの個数が増大するにつれて、(上で議論したような)行列乗算の複雑度が、送信器ではO(t2)及び受信器ではO(r2)で増大することである。公知の実用的なMIMOシステムの多くは比較的小さい(例:2~4個のアンテナ)が、システム及びデータレート要件が高まるにつれて、公知の方法では充分でなくなる。より大きいアンテナアレイに対してユニタリ変換の計算を施すことが一般的に不可能なことは、これらのシステムの拡張の阻害要因になる。
【0026】
[0032] 本明細書に開示する複数の実施形態は、UBDM及びより高速に適用可能なユニタリ行列に伴う大きいクラスを利用することにより上述の課題に対処する。コードブックが「速い」行列の集合から選択されている場合、MIMOシステムの複雑度は送信器ではO(tlogt)、及び受信器ではO(rlogr)で成長するため、現行技術よりも急激に向上することを示している。
【0027】
[0033] 本開示の複数の実施形態が重要であると期待される応用分野は、モノのインターネット(IoT)及び「大規模」MIMOシステムである。IoTは成長し続けており、装置も増え続け、その全てが帯域幅を奪い合っている。一般に装置は極めて小型、極めて低電力、極めて複雑度が低い装置となっていくため、空間的多様性だけではより高いデータレートを実現するには不充分である(例えば、送信の帯域幅及び/又は出力をうまく増やすことができない可能性がある)。対照的に、本明細書に開示する高速ユニタリ行列により、送信帯域幅及び/又は送信出力を高い信頼性及び費用対効果で向上させるシステムを実現することができる。更に、いくつかの実施形態においてシステム設計者は、標準時分割多重化、周波数分割多重化、符号分割多重化(例えばUBDMの符号分割多元アクセス(CDMA)特徴を介して)、及びシステム設計時の空間多重化(例えば高速ユニタリ行列に起因するMIMOプリコーディング複雑度の減少による)のうち一つ以上を用いる結果、設計の自由度が向上する。代替的又は追加的に、UBDMを用いる場合、設計者は、典型的には標準的暗号化、顕著なパワードロー、バッテリー寿命、ネットワーク遅延及び待ち時間、チップ上の物理的空間、及び暗号化に伴う全てのオーバーヘッドに用いられる論理/チップの組を省略することができる。代替的又は追加的に、UBDM(OFDMと比較して)内の減少したピーク電力対平均電力比(PAPR)はバッテリー寿命を顕著に伸ばすことができる。代替的又は追加的に、UBDMにより、従来の公開鍵アルゴリズムよりも少ない計算資源でより速い鍵交換を実現することができる。UBDMの直接スペクトル拡散方式(DSSS)機能はまた、所望のデータレート/帯域幅使用に応じて異なるユーザーに常にコードを再割当する中心ハブを提供することができる。
【0028】
[0034] 本明細書に開示する複数の実施形態はまた、「大規模MIMO」システム(すなわち、Verizon(登録商標)Fios(登録商標)等の「家庭まで光ファイバ」サービス内で所望のデータレートを実現する「ラストマイル」問題を主要なアプリケーションとするシステム)と互換性を有している。大規模MIMOシステムは典型的にミリメートル波の中心周波数で動作し、(約GHzの)膨大なスペクトル帯域幅を有し、膨大な空間/MIMO多様性(r=約1,000~10,000個の送信アンテナ)を利用する。このような構成は容量を1,000~10,000倍に増やすが、このようなシステムの計算の複雑度(最低O(1,0002)=O(1,000,000)を要する)の故に非現実的である。本明細書に開示する複数の実施形態によるfUBDMのユニタリ行列構造を用いることにより、現実的な大規模MIMOシステムを実現することができる。
【0029】
システムの概要
[0035]
図1は、一実施形態による、高速空間ユニタリ変換を行う例示的な特大(例:1,000~10,000個の送信アンテナ)多入力多出力(MIMO)通信システムを示すブロック図である。
図1に示すように、システム100は第1の通信装置120及び第2の通信装置150を含む。第1の通信装置120は、処理回路122、トランシーバ回路146、複数のアンテナ148(多数であってよい)、及び非一時的プロセッサ可読メモリ124を含む。同様に、第2の通信装置150は、処理回路152、トランシーバ回路176、複数のアンテナ178(多数であってよい)、及び非一時的プロセッサ可読メモリ154を含む。第1の通信装置120のメモリ124は、変換行列のコードブック126、シンボル128、変換されたシンボル130、置換132、プリミティブ変換行列134、置換されたシンボル136、信号138、プリコード行列140、ユニタリ行列142、及びレイヤ144のうち1個以上を保存することができる。同様に、第2の通信装置150のメモリ154は、変換行列のコードブック156、シンボル158、変換されたシンボル160、置換162、プリミティブ変換行列164、置換されたシンボル166、信号168、プリコード行列170、ユニタリ行列172、及びレイヤ174のうち1個以上を保存することができる。アンテナ148及び/又はアンテナ178は、多入力多出力(MIMO)演算を実行すべく構成されていてよい。
【0030】
[0036] メモリ124、154は各々、
図2~5を参照しながら以下に図示及び記述するような方法ステップを実行する、関連付けられた処理回路(各々122、152)により可読な複数の命令を保存することができる。代替的又は追加的に、命令及び/又はデータ(例:変換行列のコードブック126、シンボル128、変換されたシンボル130、置換132、プリミティブ変換行列134、置換されたシンボル136、信号138、プリコード行列140、ユニタリ行列142、及びレイヤ144)を媒体112及び/又は114に保存可能であって、第1の通信装置120及び/又は第2の通信装置150からそれぞれアクセス可能であってよい。
【0031】
[0037]
図2は、一実施形態による、プリコードされたシンボルの生成及び送信を含む、高速空間ユニタリ変換を実行する第1の例示的な方法を示すフロー図である。方法200は、例えば、
図1のMIMO通信システム100を用いることにより実行できる。
図2に示すように、本方法200は、210において、入力データ(すなわち、シリアル化されていてもいなくてもよいデータを含み得るパケットを含み得る任意の入力データストリーム等)に基づいてシンボルの集合を生成し、212においてシンボルの集合の各シンボルに置換を適用して置換されたシンボルの集合を生成することを含む。214において、置換されたシンボルの集合の各々の置換されたシンボルを少なくとも1個のプリミティブ変換行列に基づいて変換して変換されたシンボルの集合を生成する。216において、変換行列のコードブックから(例えば疑似ランダムに)選択されたプリコード行列を、変換されたシンボルの集合の各々の変換されたシンボルに適用してプリコードされたシンボルの集合を生成する。変換行列のコードブックは、第2の通信装置にアクセス可能であり、任意選択的に周波数領域変換又は時間領域変換を含まない。変換行列のコードブックは、時間分割多重化、周波数分割多重化、符号分割多重化、又は空間多重化のうち少なくとも一つに用いるべく構成されていてよい。218において、複数の信号の送信を生起させる1個の信号を第2の通信装置に送り、複数の信号のうちの各信号はプリコードされたシンボルの集合の1個のプリコードされたシンボルを表し、各信号はアンテナの組の一意なアンテナを用いて送信された複数の信号からのものである。複数の信号は、プリコード行列が除去されるように、複数の信号にチャネル変換を適用する通信チャネルを介して送ることができる。いくつかの実装において、複数の信号の送信を生起させる信号は、いかなるプリコード行列の送信も生起させず、及び/又は変換行列のコードブックの送信も生起させない。
【0032】
[0038] いくつかの実施形態において、方法200はまた、ユニタリ変換行列を複数のレイヤのうちの各レイヤが置換及びプリミティブ変換行列を含む複数のレイヤに分解することによりプリコード行列のコードブックを生成することを含む。代替的又は追加的に、複数のアンテナはアンテナの第1の組であり、第2の通信装置はアンテナの第2の組を含み、第1の通信装置及び第2の通信装置はMIMO演算を実行すべく構成されている。アンテナの第1の組はT個のアンテナを含んでよく、アンテナの第2の組はR個のアンテナを含んでよく、MIMO演算は第1の通信装装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog2T)算術演算を伴い、MIMO演算は第2の通信装装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog2R)算術演算を伴う。
【0033】
[0039]
図3は、一実施形態による、プリコードされたシンボルの生成及び送信を含む、高速空間ユニタリ変換を実行する第2の例示的な方法を示すフロー図である。方法300は、例えば、
図1のMIMO通信システム100を用いることにより実行できる。
図3に示すように、方法300は、310において、入力データに基づいてシンボルの集合を生成し、312において、ユニタリ行列のコードブックの複数のユニタリ行列のうちの各ユニタリ行列を関連付けられたレイヤの集合に分解することを含む。複数のユニタリ行列のうちの各ユニタリ行列毎に、当該ユニタリ行列に関連付けられた複数のレイヤのうちの各レイヤは置換及びプリミティブ変換行列を含んでよい。314において、複数のユニタリ行列の関連付けられたユニタリ行列の少なくとも1個のレイヤを、シンボルの集合の各シンボルに適用して変換されたシンボルの集合を生成する。316において、ユニタリ行列のコードブックから選択されたプリコード行列を、変換されたシンボルの集合の各々の変換されたシンボルに適用してプリコードされたシンボルの集合を生成する。318において、複数の信号の送信を生起させる1個の信号を第2の通信装置に送る。複数の信号のうちの各信号は、プリコードされたシンボルの集合の1個のプリコードされたシンボルを表す。複数の信号のうちの各信号は、複数のアンテナの組からの一意なアンテナを用いて送信される。いくつかの実装において、複数の信号のうち送信を生起させる信号は、いかなるプリコード行列の送信も生起させず、及び/又は変換行列のコードブックの送信も生起させない。
【0034】
[0040] いくつかの実施形態において、複数のアンテナの組はアンテナの第1の組であり、第2の通信装置はアンテナの第2の組を含み、第1の通信装置及び第2の通信装置はMIMO演算を実行すべく構成されている。第1の複数のアンテナはT個のアンテナを含んでよく、第2の複数のアンテナはR個のアンテナを含んでよい。MIMO演算は第1の通信装装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog2T)算術演算を伴い、MIMO演算は第2の通信装装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog2R)算術演算を伴う場合がある。
【0035】
[0041]
図4は、一実施形態による、特異値分解及び変換された信号の生成を含む、例示的な通信方法を示すフロー図である。方法400は、例えば、
図1のMIMO通信システム100を用いて実行ができる。
図4に示すように、方法400は、410において、通信装置のアンテナのアレイで、通信チャネルを介して複数の信号を受信することを含む。複数の信号のうちの各信号は、変換されたシンボルの第1の集合の変換されたシンボルを表す。412において、通信装置で通信チャネルの表現の特異値分解を実行して通信チャネルの左特異ベクトル及び通信チャネルの右特異ベクトルを識別する。m×n実数又は複素数行列Mの特異値分解はUΣV
*の形式の因数分解であり、ここにUはm×m実数又は複素数ユニタリの行列、Σは対角成分が非負実数であるm×n矩形対角行列、Vはn×n実数又は複素数ユニタリ行列である。Σの対角項σ
iはMの特異値として既知である。Uの列及びVの列は各々Mの左特異ベクトル及び右特異ベクトルと呼ばれる。414において、変換されたシンボルの第1の集合から左特異ベクトル及び右特異ベクトルを除去して変換されたシンボルの第2の集合を生成する。416において、第2の複数の変換されたシンボルに基づいて変換行列のコードブックを照会することにより、複数の信号に関連付けられた少なくとも1個のメッセージを識別する。任意選択的に、変換行列のコードブックは、周波数領域変換又は時間領域変換を含まない。
【0036】
[0042] いくつかの実施形態において、方法400はまた、ユニタリ変換行列を複数のレイヤに分解して変換行列のコードブックを生成することを含む。複数のレイヤのうちの各レイヤは、置換及びプリミティブ変換行列を含んでよい。代替的又は追加的に、アンテナのアレイはアンテナの第1のアレイであり、第2の通信装置はアンテナの第2の列を含み、第1の通信装置及び第2の通信装置はMIMO演算を実行すべく構成されている。アンテナの第1のアレイはR個のアンテナを含んでよく、アンテナの第2のアレイはT個のアンテナを含んでよい。MIMO演算は第1の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Rlog2R)算術演算を伴い、MIMO演算は第2の通信装置において関連付けられる計算コストがO(Tlog2T)算術演算を伴う。
【0037】
例示的高速ユニタリ変換-システム及び方法
[0043]
図5は、一実施形態による、任意の行列の階層構造を用いる通信方法を示すフロー図である。方法500は、510において、第1の計算装置の第1のプロセッサを介して複数の記号を生成することを含む。方法500はまた、520において、サイズN×Nの任意の変換を複数の記号のうちの各記号に適用して複数の変換済み記号を生成することを含み、Nは正整数である。任意の変換は反復的処理(例えば複数の層を含む)を含み、各反復は、1)置換に続いて、2)サイズM×Mの少なくとも1個のプリミティブ変換行列の適用を含み、MはN以下の値を有する正整数である。
【0038】
[0044] 530において、複数の変換済み記号を表す信号が複数の送信機に渡され、当該送信機は複数の変換済み記号を表す信号を複数の受信機に送信する。方法500はまた、540において、複数の信号受信機で複数の記号を復元すべく、複数の変換済み記号を送信する前に任意の変換を複数の信号受信機に送信すべく任意の変換を表す信号を第2の計算装置に渡すことを含む。
【0039】
[0045] いくつかの実施形態において、複数の信号受信機は、複数のアンテナアレイを含み、複数の信号受信機及び複数の信号送信機は多入力多出力(MIMO)動作を実行すべく構成されている。いくつかの実施形態において、任意の変換はユニタリ変換を含む。いくつかの実施形態において、任意の変換は、フーリエ変換、ウォルシュ変換、ハー変換、傾斜変換、又はテプリッツ変換のうち一つを含む。
【0040】
[0046] いくつかの実施形態において、少なくとも1個のプリミティブ変換行列からの各プリミティブ変換行列は、大きさが2の次元(例:長さ)を有し、反復的処理の反復回数はlog2Nである。いくつかの実施形態において、プリミティブ変換行列に他の任意の適当な長さを用いてもよい。例えば、プリミティブ変換行列は、2を超える(例:3、4、5等)長さを有していてよい。いくつかの実施形態において、プリミティブ変換行列は、様々な次元の複数のより小さい行列を含む。例えば、プリミティブ変換行列はブロックU(m)行列を含んでよく、mは単一層内で又は異なる層間で異なる値であってよい。
【0041】
[0047] 方法500の高速行列演算(例:520)は離散的フーリエ変換(DFT)に関してより詳細に調べることができる。いかなる特定の理論も又は動作モードに縛られることなく、ベクトル
【数22】
の成分B
kを有する
【数23】
と表記されるDFTは次式で与えられる。
【数24】
ここに
【数25】
である。
【0042】
[0048] 一般にDFTは、式(18)で示すように、簡単な行列乗算を用いて実行された場合、N
2回の乗算を行う。しかし、単位根は乗算の回数を減らすことができる対称性の組を有している。この目的のため、式(18)における和を(Nが2の倍数であると仮定して)次式のように偶数及び奇数の項に分けることができる。
【数26】
【0043】
[0049] また、
【数27】
であるため、B
kは次式のように書くことができる。
【数28】
ここでkはnの2倍の範囲にわたる。しかし次式を考える。
【数29】
その結果、(N/2)点フーリエ変換におけるk値の「後半」を容易に計算することができる。
【0044】
[0050] DFTにおいて、Bkを求める当初の和はN回の乗算を含む。上述の解析は当初の和を各々が(N/2)回の乗算を含む2組の和に分解する。ここで、nにわたる和は、偶数又は奇数にわたるのではなく0~(N/2)-1である。これにより、(N/2もまた2の倍数であると仮定して)上で述べたのと全く同じ仕方で、これらの和を再びで偶数又は奇数の項に分割することができる。この結果各々が(N/4)個の項を有する4個の和が得られる。Nが2のべき乗である場合、分割処理は2点DFT乗算まで継続することができる。
【0045】
[0051]
図6は、ベクトル
【数30】
の離散的フーリエ変換(DFT)を示す図である。ω
N値に各ノードへ下側入力線上の数が乗算される。
図6の3列の各々でN回の乗算があり、列の個数を2、すなわちlog(N)に達する前に2で除算することができる。従って、当該DFTの複雑度はO(N
*logN)である。
【0046】
[0052] 上の解析は次式のようにDFTの範囲を超えて拡張することができる。最初に、ベクトルへの入力値に置換が実行されて置換済みベクトルを生成する。置換は通常O(1)の演算である。次いで、置換済みベクトルの要素のペアに対して一連のU(2)行列乗算が実行される。上のDFT例の第1列におけるU(2)値は全て次式で与えられる。
【数31】
【0047】
[0053] U(2)行列乗算は((23)に示すもの以外の)他の行列を用いても実行できる。例えば、任意の行列
【数32】
を用いてよく、ここに
【数33】
は直和を示し、当該行列がブロック対角構造を与える。
【0048】
[0054] 本明細書に記述するように、1個の置換と1シリーズのU(2)行列乗算の組み合わせは1個の層と見なすことができる。当該処理は、追加的な層において継続することができ、その各々が
【数34】
における更に別の行列による1個の置換及び複数の乗算を含む。いくつかの実施形態において、階層的計算は約log(N)回反復することができる。いくつかの実施形態において、層の個数は他の任意の値(例:利用可能な計算能力の範囲内で)であってよい。
【0049】
[0055] 上述の階層的計算の結果は、以下の形式の行列を含む。
【数35】
ここにA
iはi番目の層における行列乗算のi番目のシリーズを表し、P
iはi番目の置換を表す。
【0050】
[0056] 置換及びA行列が全てユニタリであるため、逆変換も容易に計算することができる。上述の階層的計算において、置換は計算が自由であり、計算コストはAi行列の乗算から生じる。より具体的には、計算は合わせて各Aiにおける2N回の乗算を含み、Ai行列のlog(N)がある。従って、計算は合わせて2N*log(N)、又はO(N*log(N))回の演算を含み、これはOFDMの複雑度と同等である。
【0051】
[0057] 階層的計算は、他の任意のブロックU(m)行列にも適用することができる。例えば、A
i行列は
【数36】
であってよい。他の任意の個数mを用いてよい。また、置換とブロックU(m)行列の任意の組み合わせも許容可能な当該階層的計算に用いることができる。
【0052】
[0058] いくつかの実施形態において、1層内での置換及びブロックU(m)変換は非連続的に実行することができる。例えば、置換の後で、ブロックU(m)変換の前に、他の任意の動作を次に実行することができる。いくつかの実施形態において、置換はユニタリ群の閉部分群であるため、ある置換の後に別の置換が続くことはない。いくつかの実施形態において、ブロックU(m)変換もユニタリ群の閉部分群を形成するため、その後に別のブロックU(m)変換が続くことはない。換言すれば、B
nをブロックU(n)とし、Pを置換とすれば、
【数37】
のような演算を実行することができる。対照的に、2個の置換又は2個のブロックU(m)変換はここでは連続的であるため、
【数38】
のような演算は冗長であり得る。
【0053】
[0059] ユニタリ行列を構築する階層的アプローチもまた、結果的に得られる通信システムの安全性を保障することができる。結果的に得られる通信の安全性は、全グループU(N)と比較して高速ユニタリ行列の行列空間のサイズに依存し得る。
【0054】
[0060]
図7は、一実施形態による、ユニタリ行列の階層構造を用いる通信システムの模式図である。システム700は、複数の信号送信機710(1)~710(i)(包括的に送信機710と称する)及び複数の信号受信機720(1)~720(j)(包括的に受信機720と称する)を含み、i及びjは共に正整数である。いくつかの実施形態において、iとjは等しくてよい。他のいくつかの実施形態において、iはjと異なっていてよい。いくつかの実施形態において、送信機710及び受信機720は多入力多出力(MIMO)動作を実行すべく構成されている。
【0055】
[0061] いくつかの実施形態において、各送信機710はアンテナを含み、送信機710はアンテナアレイを形成することができる。いくつかの実施形態において、各受信機はアンテナを含み、受信機720もまたアンテナアレイを形成することができる。
【0056】
[0062] システム700はまた、信号送信機710に動作可能に結合されたプロセッサ730を含む。いくつかの実施形態において、プロセッサ730は単一のプロセッサを含む。いくつかの実施形態において、プロセッサ730はプロセッサのグループを含む。いくつかの実施形態において、プロセッサ730は1個以上の送信機710に含まれていてよい。いくつかの実施形態において、プロセッサ720は送信機710とは別個であってよい。例えば、プロセッサ730は、入力データ701を処理し、次いで入力データ701を表す信号を送信機710に送信させるべく構成された計算装置に含まれていてよい。
【0057】
[0063] プロセッサ730は、入力データ701に基づいて複数の記号を生成して、サイズN×Nのユニタリ変換行列を層の組に分解すべく構成されていて、Nは正整数である。各層は、置換及びサイズM×Mの少なくとも1個のプリミティブ変換行列を含み、MはN以下の正整数である。
【0058】
[0064] プロセッサ730はまた、層の組から少なくとも1個の層を用いて複数の記号のうちの各記号を符号化して複数の変換済み記号を生成すべく構成されている。複数の変換済み記号を表す信号は次いで、複数の信号受信機720に送信すべく複数の送信機710に渡される。いくつかの実施形態において、複数の送信機710の各送信機は複数の受信機720の任意の受信機と通信することができる。
【0059】
[0065] いくつかの実施形態において、プロセッサ730は更に、変換済み記号を表す信号を受信機720に送信する前に、(1)ユニタリ変換行列、又は(2)ユニタリ変換行列の逆変換の一方を表す信号を信号受信機720に送信すべく構成されている。信号受信機720が当該信号を用いて、入力データ701から生成された記号を復元することができる。いくつかの実施形態において、記号復元のためにユニタリ変換行列を用いることができる。いくつかの実施形態において、復元はユニタリ変換行列の逆変換を用いて実現することができる。
【0060】
[0066] いくつかの実施形態において、高速ユニタリ変換行列は、フーリエ行列、ウォルシュ行列、ハー行列、傾斜行列、又はテプリッツ行列のうち一つを含む。いくつかの実施形態において、プリミティブ変換行列は、大きさが2の次元(例:長さ)を有し、層の組はlog2N個の層を含む。いくつかの実施形態において、上記のように他の任意の長さを用いてよい。いくつかの実施形態において、信号受信機720は、複数の変換済み記号を表す信号を目標装置に送信すべく構成されている。本明細書に図示及び記述する複数の実施形態は複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナを有するMIMOシステム(例:単一ユーザーMIMOシステム(SU-MIMO))に言及しているが、本明細書に開示する方法は、受信アンテナは複数あるが単一の送信アンテナ、又は単一の受信アンテナを有する複数の送信アンテナを含んでよい複数ユーザーMIMOシステム(MU-MIMO)等、他のシステムにも適用可能である。
【0061】
[0067] 本明細書に記述する各種の技術の実装は、デジタル電子回路、又はコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、或いはこれらを組み合わせて実装することができる。実装は、コンピュータプログラム製品、すなわち、情報担持体、例えば、機械可読記憶装置(コンピュータ可読媒体、非一時的コンピュータ可読記憶媒体、有形のコンピュータ可読記憶媒体、例えば
図1の媒体112、114を参照)内に、又はデータ処理装置、例えば、プログラム可能プロセッサ、1個のコンピュータ、又は複数のコンピュータによる処理のための、又はその動作を制御すべく伝播される信号内に有形に実装されたコンピュータプログラムとして実装されていてよい。上述のコンピュータプログラム等のコンピュータプログラムは、コンパイラ又はインタープリタ言語を含む任意の形状のプログラミング言語で書かれていてよく、スタンドアローンプログラム、又はモジュール、コンポーネント、サブルーチン、或いはコンピューティング環境での使用に適した他の装置を含む任意の形式で展開可能である。コンピュータプログラムは、1台のコンピュータ、又は1サイトに配置された、或いは複数サイトに跨って分散されて通信ネットワークにより相互接続された複数のコンピュータで処理されるべく展開することができる。
【0062】
[0068] 方法ステップは、入力データに作用して出力を生成することにより機能を実行すべくコンピュータプログラムを実行する1個以上のプログラム可能プロセッサにより実行されてよい。方法ステップはまた、専用論理回路、例えばFPGA(フィールドプログラム可能ゲートアレイ)又はASIC(特定用途向け集積回路)により実行されてよく、且つ装置をこれらの回路として実装することができる。
【0063】
[0069] コンピュータプログラムの処理に適したプロセッサは、一例として、汎用及び専用マイクロプロセッサの両方、及び任意の種類のデジタルコンピュータの1個以上の任意のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは読出専用メモリ又はランダムアクセスメモリから或いは両方から命令及びデータを受信する。コンピュータの要素は、命令を実行する少なくとも1個のプロセッサ、及び命令及びデータを保存するための1個以上のメモリ装置を含んでよい。一般に、コンピュータはまた、例えば、磁気、光磁気ディスク、又は光ディスク等、データ保存用の1個以上の大量記憶装置を含むか、又はデータ受信又はデータ転送或いはその両方を行うべくこれらに動作可能に結合されていてよい。コンピュータプログラム命令及びデータの実装に適した情報担持体は、一例として半導体メモリ素子、例えば、EPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリ素子、磁気ディスク、例えば、内蔵ハードディスク又は着脱可能ディスク、光磁気ディスク、及びCD-ROM並びにDVD-ROMディスクを含むあらゆる形式の不揮発性メモリを含む。プロセッサ及びメモリは、専用論理回路により補完されるか、又はこれに組み込まれていてよい。
【0064】
[0070] ユーザーとの対話を提供すべく、実装は、ユーザーに情報を提示するための表示装置、例えば液晶ディスプレイ(LCD又はLED)モニタ、タッチスクリーンディスプレイ、及びユーザーがコンピュータへの入力を提供できるキーボード及びポインティング機器、例えばマウス又はトラックボールを有するコンピュータ上で実装することができる。他の種類の機器を用いて同じくユーザーとの対話を提供することができ、例えば、ユーザーに提供されるフィードバックは、知覚フィードバック、例えば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバック等、任意の形式であってよく、ユーザーからの入力は、音響、音声、又は触覚入力を含む任意の形式で受信することができる。
【0065】
[0071] 実装は、例えばデータサーバとしてのバックエンド要素を含む、又はミドルウェア要素、例えばアプリケーションサーバを含む、或いはフロントエンド要素、例えばユーザーと実装との対話を仲介できるグラフィカルユーザーインターフェース又はウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ、若しくはこのようなバックエンド、ミドルウェア、又はフロントエンド要素の任意の組み合わせを含むコンピュータシステムに実装することができる。要素は、デジタルデータ通信の任意の形式又は媒体、例えば通信ネットワークにより相互接続されていてよい。通信ネットワークの複数の例として、ローカルエリアネットワーク(LAN)及びワイドエリアネットワーク(WAN)、例えばインターネットが含まれる。
【0066】
[0072] 上述の実装の特定の特徴を本明細書の記述に従い説明してきたが、当業者には多くの改良、代替、変更及び等価物が想起されよう。従って、添付の請求項が、実装の範囲内にあるような全てのそのような改良及び変更をカバーすることを意図していることを理解されたい。これらが限定目的ではなく例示目的でのみ提示されており、形式及び詳細事項に各種の変更がなされ得ることを理解されたい。本明細書に記述する装置及び/又は方法の任意の部分を、互いに排他的な組み合わせを除き、任意の組み合わせで組み合わせてよい。本明細書に記述する実装は、記述する異なる実装の各種の機能、要素及び/又は特徴の組み合わせ及び/又は副次的組み合わせを含んでよい。