(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】タイヤ法線力を推定するための方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/016 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
B60G17/016
(21)【出願番号】P 2022523442
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2019078823
(87)【国際公開番号】W WO2021078371
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ヨナソン,マッツ
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブソン,ベンクト
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-083743(JP,A)
【文献】特開2013-216278(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0131154(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)に作用するタイヤ力(F
z)のタイヤ法線力レンジ(F
z,min,F
z,max)を決定するための方法であって、
前記車両(100)のサスペンションシステムと関連付けられたサスペンションデータ(310)を取得するステップ(S1)と、
前記車両(100)と関連付けられた慣性測定ユニット(IMU)のデータ(320)を取得するステップ(S2)と、
サスペンションに基づく推定器(330)によって前記サスペンションデータ(310)に基づいて第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)を推定する
ステップ(S3)と、
慣性力に基づく推定器(340)によって前記IMUデータ(320)に基づいて第2のタイヤ法線力レンジ(F
z2,min,F
z2,max)を推定するステップ(S4)
と、
前記第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)と前記第2のタイヤ法線力レンジ(F
z2,min,F
z2,max)とに基づいて前記タイヤ法線力レンジ(F
z,min,F
z,max)を決定するステップ(S5)と
を含み、
前記タイヤ法線力レンジ(Fz,min,Fz,max)は、2つの異なる値によって区切られる範囲である、方法。
【請求項2】
前記サスペンションデータ(310)は、車軸長さ(L
w)またはトラック幅(w)と、車軸質量(m
axle)と、サスペンション圧縮力値と、左右レベリングセンサ値とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サスペンション圧縮
力値は、ベローズ圧力値(F
z、bellow)、電気機械式サスペンション圧縮値、または前記車両(100)のサスペンションシステムと関連付けられた他の圧縮力値である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)は関係
【数1】
に基づいて推定され(S21)、式中、F
zはタイヤ法線力であり、F
z,suspensionは前記サスペンションシステムと関連付けられた圧縮力であり、m
axleは車輪車軸の質量であり、c
rollは前記車輪車軸と関連付けられたロール剛性値であり、φは前記車輪車軸と関連付けられたロール角である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)は、前記サスペンションデータ(310)に対する所定の制約のセットの下での前記サスペンションデータ(310)に基づくタイヤ力(F
z)の式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)は、前記サスペンションデータ(310)に基づいて取得されるタイヤ力(F
z)のノミナル値と、前記サスペンションデータ(310)の所定の摂動とに基づいて決定される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のタイヤ法線力レンジを推定するステップは、
各車両ユニット(801、901、902)について少なくとも1つの仮
想車軸(820、930、940)を定めるステップ(S41)と、
各仮想車軸についてタイヤ法線力を推定するステップ(S42)と、
前記推定されたタイヤ法線力を前記車両ユニット(801、901、902)
の実際の車軸(810、910、920)の間で割り当てるステップ(S43)とを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの仮想車軸(820、930、940)は対応する車両ユニット(801、901、902)の重心に基づいて定められる(S44)、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの仮想車軸(820、930、940)の位置は前記車両ユニット(801、901、902)と等価なピッチトルクとなるように選択され(S45)、
前記少なくとも1つの仮想車軸の車軸ロール剛性は対応する実際の車軸の実際のロール剛性を加えることによって決定され、
前記少なくとも1つの仮想車軸のロールセンタ高さは前記対応する実際の車軸の平均ロールセンタ高さとして定義される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記推定されたタイヤ法線力を前記車両の前記実際の車軸の間で割り当てるステップは、前記推定されたタイヤ法線力を実際の車軸間の既知の荷重比に基づいて割り当てるステップ(S46)を含む、請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のタイヤ法線力レンジ(F
z2,min,F
z2,max)は、前記IMUデータ(320)に対する所定の制約のセットの下での前記IMUデータ(320)に基づくタイヤ力(F
z)の式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定される、請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のタイヤ法線力レンジ(F
z2,min,F
z2,max)は、前記IMUデータ(320)に基づいて取得されるタイヤ力(F
z)のノミナル値と、前記IMUデータ(320)の所定の摂動とに基づいて決定される、請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記タイヤ法線力レンジの上限(F
z,max)を、前記第1のタイヤ法線力レンジの上限(F
z1,max)および前記第2のタイヤ法線力レンジの上限(F
z2,max)のうちの最大のものとして決定するステップ(S51)を含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記タイヤ法線力レンジの下限(F
z,min)を、前記第1のタイヤ法線力レンジの下限(F
z1,min)および前記第2のタイヤ法線力レンジの下限(F
z2,min)のうちの最小のものとして決定するステップ(S52)を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記決定されたタイヤ法線力レンジ(F
z,min,F
z,max)と関連付けられた不確実性値(F
z,uncertainty)を決定するステップ(S6)を含み、前記不確実性値は道路粗さの尺度に基づいている、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記道路粗さの尺度は、IMU垂直加速度値、IMUピッチレート値のいずれか、および前記車両サスペンションシステムのレベルセンサにおける変動に基づいて取得される(S61)、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記不確実性値(F
z,uncertainty)は道路粗さの尺度の2乗の和に基づいて決定される(S62)、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記決定されたタイヤ法線力レンジに基づいて車両加速能力のレンジ(a
min,a
max)を決定するステップ(S7)を含む、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
車両操作のための車輪トルクを各車輪に関する前記決定されたタイヤ法線力レンジ(F
z,min,F
z,max)に基づいて前記車両(100)の車輪の間で分配するステップ(S8)を含む、請求項1から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
コンピュータプログラム(920)であって、前記
コンピュータプログラムがコンピュータ上でまたは制御ユニット(800)の処理回路(810)上で実行されるときに請求項1から19のいずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラム(920)。
【請求項21】
コンピュータプログラム(920)を担持するコンピュータ可読媒体(910)であって、前記コンピュータプログラム(920)は、前記
コンピュータプログラ
ムがコンピュータ上でまたは制御ユニット(800)の処理回路(810)上で実行されるときに請求項1から19のいずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータ可読媒体(910)。
【請求項22】
車両(100)に作用するタイヤ力のタイヤ法線力レンジを決定するように構成されている制御ユニット(800)であって、請求項1から19のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成されている、制御ユニット(800)。
【請求項23】
請求項22に記載の制御ユニット(800)を備える車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のタイヤに作用する法線力(normal force;垂直力)を推定するための方法、制御ユニット、および車両に関する。これらの方法には、例えば、レベル4(L4)の自律運転での用途がある。
【0002】
本発明は、トラックおよび建設機械などの大型車両に適用可能である。本発明を主にセミトレーラー車両およびトラックなどの貨物輸送車両に関して記載するが、本発明はこの特定の種類の車両に制約されず、乗用車などの他の種類の車両にも使用され得る。
【背景技術】
【0003】
例えば自律運転機能性をサポートするためにおよび高度運転支援システム(ADAS)によって車両安全性を改善するために、高度な車両挙動制御システムが導入されている。これらの車両制御システムでは、所与の運転シナリオに関して、車両または車両の一部が制御信号に応答してどのように振る舞うと予測されるかを記述するモデルが使用される。
【0004】
重要なパラメータは、車両のタイヤに作用する法線力である。タイヤの法線力は例えば車両の加速能力に大きな影響を与えるが、その理由は、それが道路のグリップに影響するからである。タイヤ法線力はまた、車両の挙動の制御時に達成可能な横方向の力にも影響を与える。したがって、車両操作中に車両に作用するタイヤ法線力を推定することが望まれている。
【0005】
米国特許公開第2018/0361812号では、タイヤ法線力のリアルタイム決定のためのシステムおよび方法が検討されている。
【0006】
しかしながら、車両の車輪に作用する法線力を決定するためのよりロバストな方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
タイヤ法線力を推定するための改善された方法を提供することが本開示の目的である。この目的は、車両に作用するタイヤ力Fzのタイヤ法線力のレンジFz,min~Fz,maxを決定するための方法によって達成される。この方法は、車両のサスペンションシステムと関連付けられたサスペンションデータを取得することと、車両100と関連付けられた慣性測定ユニット(IMU)のデータを取得することとを含む。方法は、サスペンションに基づく推定器によってサスペンションデータ310に基づいて第1のタイヤ法線力レンジFz1,min~Fz1,maxを推定することと、慣性力に基づく推定器によってIMUデータに基づいて第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxを推定することと、を含む。次いで方法は、第1のタイヤ法線力レンジと第2のタイヤ法線力レンジとに基づいて、タイヤ法線力レンジFz,min~Fz,maxを決定する。
【0008】
このようにして、推定に少なくとも部分的に独立したデータセットに対して動作する2つの別個の推定器を利用するというかたちで、タイヤ法線力を推定するためのロバストな方法が提供される。単なる単一の値ではなくタイヤ法線力値のレンジが提供されることは利点である。開示される方法によって、例えば車両制御器に、タイヤ法線力のロバストな推定値を提供することができる。
【0009】
いくつかの態様によれば、レンジは、単一の法線力値、すなわち、Fz,min=Fz,maxを含む。そのような場合、方法は、選択操作として第1のタイヤ法線力レンジと第2のタイヤ法線力レンジとに基づいて、タイヤ法線力レンジFz,min~Fz,maxを決定する。その場合、最も高い信頼度で推定された法線力が選択され得る。
【0010】
いくつかの態様によれば、サスペンション圧縮値は、ベローズ(bellow)圧力値、電気機械式サスペンション圧縮値、または車両のサスペンションシステムと関連付けられた他の圧縮力値である。
【0011】
したがって、開示される方法を様々な異なる種類のサスペンションシステムと共に使用することができ、このことは利点である。
【0012】
他の態様によれば、第1のタイヤ法線力レンジ(F
z1,min~F
z1,max)は、関係
【数1】
に基づいて推定され、式中、F
zはタイヤ法線力であり、F
z,suspensionはサスペンションシステムと関連付けられた圧縮力であり、m
axleは車輪車軸の質量であり、c
rollは車輪車軸と関連付けられたロール剛性値であり、φは車輪車軸と関連付けられたロール角である。
【0013】
この式の複雑さは比較的低いが、このことは、処理リソースが限定されていても推定を行うことができるため利点である。この式はその変数に関して線形であり、したがって最小化操作および最大化操作に適しており、このことは利点である。
【0014】
いくつかの態様によれば、第1のタイヤ法線力レンジ(Fz1,min~Fz1,max)は、サスペンションデータに対する所定の制約のセットの下でのサスペンションデータに基づくタイヤ力の式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定される。以下で示すように、これらの最適化操作は簡単な方法で行うことができる。この結果、実際のタイヤ法線力を高確率で含むロバストなレンジが得られ、このことは利点である。
【0015】
他の態様によれば、第1のタイヤ法線力レンジ(Fz1,min~Fz1,max)は、サスペンションデータに基づいて取得されるタイヤ力のノミナル値と、サスペンションデータの所定の摂動(perturbation;ずれ)とに基づいて決定される。
【0016】
入力データにおける摂動を考慮に入れることによってモデルに測定誤差を含めることができ、このことによって開示される方法のロバストさが更に改善される。この摂動によってまた、実際のタイヤ力が含まれる可能性の高いタイヤ法線力値のレンジも得られる。
【0017】
いくつかの態様によれば、第2のタイヤ法線力レンジを推定することは、各車両ユニットについて少なくとも1つの仮想車両車軸を定めることと、各仮想車軸についてタイヤ法線力を推定することと、推定されたタイヤ法線力を車両ユニットの実際の車軸の間で割り当てることとを含む。
【0018】
この場合、有利なことに、複数車軸の車両ユニットに作用するタイヤ法線力を、比較的複雑さの低い方法で推定することができる。開示される方法によって複数車軸の車両に作用するタイヤ法線力も効率的かつロバストに推定できることは利点である。
【0019】
いくつかの態様によれば、推定されたタイヤ法線力を車両の実際の車軸の間で割り当てることは、推定されたタイヤ法線力を実際の車軸間の既知の荷重比に基づいて割り当てることを含む。この「仕掛け」によって計算が簡略化され、このことは利点である。
【0020】
いくつかの態様によれば、第2のタイヤ法線力レンジ(Fz2,min~Fz2,max)はまた、IMUデータに対する所定の制約のセットの下でのIMUデータに基づくタイヤ力の式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定される。
【0021】
ここでも、これらの最適化操作は簡単な方法で行うことができる。この結果、実際のタイヤ法線力を高確率で含むロバストに推定されたレンジが得られる。
【0022】
いくつかの態様によれば、第2のタイヤ法線力レンジ(Fz2,min~Fz2,max)は、IMUデータに基づいて取得されるタイヤ力のノミナル値と、IMUデータの所定の摂動とに基づいて決定される。
【0023】
ここでも、入力データにおける摂動を考慮に入れることによってモデルに測定誤差を含めることができ、このことによって開示される方法のロバストさが更に改善される。
【0024】
本明細書で開示する方法はまた、決定されたタイヤ法線力レンジ(Fz,min~Fz,max)と関連付けられた不確実性値Fz,uncertaintyを決定することも含んでよく、不確実性値は道路粗さの尺度(measure of road roughness)に基づく。
【0025】
このようにして、車両制御器は、システムからその時点で提供される冗長さのレベルについての情報を受信し、このことは利点である。車両制御は、提供されるタイヤ法線力推定値の信頼度に能動的に基づき得る。例えば、報告される不確実性が増大する場合、速度マージンなどを事前に大きくすることができる。
【0026】
いくつかの態様によれば、道路粗さの尺度は、IMU垂直加速度値、IMUピッチレート値のいずれかに、および車両サスペンションシステムのレベルセンサにおける変動に基づいて取得される。この場合、不確実性尺度はすでに利用可能なデータに基づいており、このことは利点である。
【0027】
いくつかの態様によれば、開示される方法はまた、決定されたタイヤ法線力レンジに基づいて車両加速能力のレンジを決定することも含む。
【0028】
このことは車両制御アルゴリズムに車両の現時点の加速能力を提供できることを意味し、このことは利点である。加速能力がロバストに決定されるが、その理由はそれらが、単一のタイヤ法線力推定値だけにではなく、タイヤ法線力の決定されたレンジに基づいているからである。
【0029】
いくつかの態様によれば、開示される方法はまた、車両操作のための車輪トルクを各車輪に関する決定されたタイヤ法線力レンジに基づいて車両の車輪の間で分配することも含む。この場合、車輪トルクを現時点の車輪法線力に応じて分配することができ、このことにより例えば車両のロバストさの向上が実現される。
【0030】
本明細書ではまた、上で検討した利点と関連付けられる制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、および車両も開示される。
【0031】
一般に、特許請求のレンジで使用される全ての用語は、本明細書において別途明示的に定義されていない限りは、当該技術分野におけるそれらの通常の意味において解釈されるべきである。「1つの(a)/1つの(an)/その(the)要素、装置、構成要素、手段、ステップ等」への言及は全て、そうでないと明示的に述べられていない限りは、それらの要素、装置、構成要素、手段、ステップ等の少なくとも1つの例を指すものとして、オープンに解釈するべきである。本明細書で開示する任意の方法のステップは、明示的に述べられていない限りは、開示されている厳密な順序で実行されなくてもよい。付属の特許請求のレンジおよび以下の説明を検討すれば、本発明の更なる特徴および利点が明らかになるであろう。本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に記載されているものとは別の実施形態を本発明のレンジから逸脱することなく創出し得ることを、当業者は認識する。
【0032】
添付の図面を参照して、例として引用される本発明の実施形態のより詳細な説明を以下に続ける。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】車両タイヤに作用するいくつかの例示の力を示す図である。
【
図3】法線力レンジ推定を説明するブロック図である。
【
図4】サスペンションに基づく法線力推定器を概略的に示す図である。
【
図5】法線力推定用の例示の車両モデルを示す図である。
【
図6】法線力推定用の例示の車両モデルを示す図である。
【
図7】法線力推定用の例示の車両モデルを示す図である。
【
図8】実際の車軸が仮想車軸にマッピングされている車両ユニットを示す図である。
【
図9】実際の車軸が仮想車軸にマッピングされている車両ユニットを示す図である。
【
図12】例示のコンピュータプログラム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ここで本発明について、本発明の特定の態様が示されている添付の図面を参照して、以下により十分に記載する。ただし、本発明は多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書に明記する実施形態および態様に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろこれらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなるように、および本発明のレンジを当業者に十分に伝えるように、例として提供されている。本明細書の全体を通して、同様の数字は同様の要素を指している。
【0035】
本発明は本明細書に記載するおよび図面に図示する実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、添付の特許請求のレンジのレンジ内で多くの変更および修正を行い得ることを、当業者は認識するであろう。
【0036】
図1は、貨物輸送用の車両100を示す。車両は車輪110で支持され、車輪110のいくつかは動力付与または駆動される車輪である。各車輪はそれぞれのタイヤ法線力F
zと関連付けられる。タイヤ法線力(測定単位はニュートン)は、車輪またはタイヤの荷重と呼ばれる場合もある垂直力である。車両100は、タイヤ法線力を推定するように構成されている制御ユニット101を含み得る。
【0037】
以下では、x軸は車両100の縦(進行)方向に延びており、y軸は車両の横方向に延びており、z軸は車両の垂直方向に延びている。
【0038】
図2は、前輪タイヤまたは後輪タイヤなどの車両タイヤ200を概略的に示す。タイヤは縦方向の力F
x、横方向の力F
y、および法線力F
zを受ける。法線力F
zは、いくつかの重要な車両特性の決定への鍵である。例えば、達成可能な横方向のタイヤ力F
yは法線力によって大部分決定されるが、その理由は通常F
y≦μF
zであるからであり、式中、μは道路摩擦条件と関連付けられる摩擦係数である。
【0039】
タイヤ200に作用する現時点の法線力に関する情報が与えられると、aminとamaxの間の車両加速能力のレンジを決定することができる。この情報は、自律運転用の制御アルゴリズムなどの何らかの車両制御アルゴリズムへと報告され得る。その場合、制御アルゴリズムは車両軌道をより良好に計画することができるが、その理由は、このアルゴリズムが、車両からどのような加速度が要求され得るかを分かっているからである。
【0040】
車両100はまた、車両操作のための車輪トルクを各車輪に関する決定されたタイヤ法線力レンジに基づいて車両100の車輪の間で分配するためにも、推定されたタイヤ法線力を使用し得る。より大きい法線力と関連付けられる車輪はより大きいトルクをサポートし得るが、より小さい法線力と関連付けられる車輪は、同程度のトルクをサポートできない場合がある。この情報は例えば、車両安定性を確保することに関連し得る。
【0041】
図3は、タイヤ法線力のロバストな推定のためのシステムを概略的に示す。システムは、少なくとも部分的に独立した2つの異なる推定器に基づく。
【0042】
第1の推定器330は、タイヤ法線力を推定するために車両サスペンションシステムからのデータを使用する。この推定器は、例えば、ベローズ(bellow)圧力またはサスペンションシステムからの他の圧縮力関連値、および車両サスペンションシステムからの(レベリングセンサからの)サスペンション位置データなどの、データ310を取得する。このデータに基づいて、上限Fz1,maxおよび下限Fz1,minによって区切られる法線力のレンジが決定される。
【0043】
第2の推定器340は、タイヤ法線力を推定するために、少なくとも1つの慣性測定ユニット(IMU)からのデータ320を使用する。IMUデータは例えば、x、y、およびz軸を中心とする加速度値を含み得る。この推定の結果、同じく、タイヤ法線力に関する上限Fz2,maxおよび下限Fz2,minが得られる。
【0044】
レンジは例えば、法線力に関する式を、入力パラメータに対する制約下でサスペンションデータ310とIMUデータ320とに基づいて最小化することおよび最大化することからそれぞれ決定され得る。
【0045】
レンジはまた、最初に2つの異なる推定器を使用してそれぞれの法線力に関するノミナル値を推定することと、次いで推定値がどのように変動するかを決定するためにサスペンションデータ310およびIMUデータ320に摂動をそれぞれ適用することとによっても決定され得る。その場合、ノミナル力値からの上下の変動によって所望のレンジのタイヤ法線力が与えられる。
【0046】
第1および第2の推定器は、それらが法線力を推定するために異なる種類のデータを使用するという意味で、少なくとも部分的に独立している。したがって、
図3の法線力推定システムは冗長さを含み、このことは利点である。類似しているべき法線力推定値を検証するために、2つの推定器からの出力を比較することができる。
【0047】
2つの推定器からの出力は、下限Fz,minと上限Fz,maxの間の推定された最終的なタイヤ法線力レンジへと組み込まれる。
【0048】
最大値関数350は、推定された最終的なタイヤ法線力レンジに関する上限Fz,maxを決定する。この最大値関数は例えば、第1の推定器の上限Fz1,maxおよび第2の推定器の上限Fz2,maxから最も大きい値を単に選択することを含み、または、この最大値関数は、これら2つの間のより高度な重み付け関数、すなわちFz,max=w1*Fz1,max+w2*Fz2,maxを含んでもよく、式中、w1およびw2は合計が1になる重みである。
【0049】
対応する最小値関数360は、推定された最終的なタイヤ法線力レンジに関する下限Fz,minを決定する。この最小値関数もまた、Fz1,min.およびFz2,minから単に最小値を取ることを含み、または、この最小値関数は上記のような何らかの重み付け関数を含んでもよい。
【0050】
重みw1およびw2を例えば2つの推定器の正確度レベルに応じて選ぶことができ、より正確度の高い推定器には、より正確度の低い推定器と比較してより大きい重みが割り当てられる。
【0051】
要約すれば、本明細書は、2つの別個の法線力推定器330、340を使用してタイヤ法線力を推定するシステムを開示し、各推定器においてタイヤ法線力に関する上限および下限が計算される。システムは、タイヤ法線力が少なくとも2つの異なる原理に基づいて、すなわち、サスペンションデータ310およびIMUデータ320に基づいて推定されるという意味で、冗長である。システムは、いくつかの態様によれば、車両100に作用するタイヤ力Fzのタイヤ法線力レンジFz,min、Fz,maxを決定するための方法を実行するように構成される。方法は、車両100のサスペンションシステムと関連付けられたサスペンションデータ310を取得することと、車両100と関連付けられたIMUデータ320を取得することとを含む。方法は、サスペンションに基づく推定器330によってサスペンションデータ310に基づいて第1のタイヤ法線力レンジFz1,min、Fz1,maxを推定することと、慣性力に基づく推定器340によってIMUデータ320に基づいて第2のタイヤ法線力レンジFz2,min、Fz2,maxを推定することとを含む。方法はその場合、第1のタイヤ法線力レンジFz1,min、Fz1,maxと第2のタイヤ法線力レンジFz2,min、Fz2,maxとに基づいて、タイヤ法線力レンジFz,min、Fz,maxを決定する。
【0052】
不整地上で車両100を操作する場合、慣性に基づく推定器340が完全には信用できない場合があることが了解されるが、その理由は、車両が凸凹した表面上を移動する際に、IMUデータの正確性が悪影響を受けるからである。そのようなシナリオでは、正確な法線力推定値は主に、サスペンションに基づく推定器330から得られる。この状況では、1つの推定器がもはや信頼できないという点で冗長さが低減するので、性能が低下する。これらの種類の状況に対処するために、車両が不整地上で運転されていることを検出するためのモニタ370を追加してもよい。モニタは、レンジFz,min~Fz,maxと関連付けられた不確実性尺度Fz,uncertaintyを出力する。車両が不整道路上で運転される場合には不確実性尺度が高くなり、法線力推定値の最終使用者は、例えば車両速度を落とすことによって対処することができる。
【0053】
いくつかの態様によれば、サスペンションに基づく推定器330および慣性力に基づく推定器340は、法線力のそれぞれの単一の値を決定する。この場合、決定される法線力レンジは単一の値になる、すなわちFz,min=Fz,maxである。決定することはその場合、サスペンションに基づく推定器330および慣性力に基づく推定器340から、最も信頼できる法線力推定値を選択することを含む。
【0054】
サスペンションに基づく推定器330および慣性力に基づく推定器340について、以下でより詳細に検討する。
【0055】
図4は、サスペンションシステム430、440を有する車両の車輪車軸を概略的に示す。サスペンションシステムは、圧縮力値F
z,suspensionに変換可能な圧縮を示す読み取り値を出力するように構成されている、レベルセンサ410、420、およびベローズ(bellows)またはばねなどの弾性部材430、440を含む。圧縮値は例えば、ベローズ(bellow)圧力値F
z,bellow、電気機械式サスペンション圧縮値、または車両100のサスペンションシステムと関連付けられた他の圧縮力値であり得る。
【0056】
2つの車輪401、402は、重量maxleを有する車軸403によって接続される。
【0057】
図4のモデルの場合、タイヤ法線力レンジ(F
z1,min,F
z1,max)は関係
【数2】
に基づいて推定することができ、式中、F
zはタイヤ法線力であり、F
z,suspensionはサスペンションシステムと関連付けられた圧縮力、例えばサスペンションベローズ(bellows)からの圧力値であり、m
axleは車輪車軸の質量であり、c
rollは車輪車軸と関連付けられたロール剛性値であり、φは車輪車軸と関連付けられたロール角である(
図4には図示せず)。上記の関係を簡潔にするために、実際のサスペンション部材にかかる力は無視されていることに留意されたい。ロール角φは例えば、レベルセンサから
【数3】
として得ることができ、式中、lは左レベルセンサ出力、rは右レベルセンサ出力、wは車両のトラック幅である。
【0058】
いくつかの態様によれば、第1のタイヤ法線力レンジFz1,min~Fz1,maxは、サスペンションデータ310に対する所定の制約のセットの下での、サスペンションデータ310に基づくタイヤ力Fzに関する上記の式の最小化操作および最大化操作にそれぞれ基づいて決定される。
【0059】
サスペンションデータ310に基づくタイヤ力Fzに関する式は入力変数の線形結合であるため、第1のタイヤ法線力レンジを取得するために微分を含む方法を利用することができる。計算を簡略化するために、パラメータを最初に、より少ない量のパラメータへとまとめてもよい。その後式を微分して、最小値および最大値を取得する。
【0060】
サスペンションデータ310に基づく法線力に関する式はF
z=f(k,u)として定式化し直すことができ、式中、
【数4】
かつ、
【数5】
である。
【0061】
サスペンションデータ310に基づくタイヤ力F
zに関する式はその場合、
【数6】
になり、式中、a
iはベクトルaの要素iを表す。
【0062】
F
z1,minは、最適化問題
【数7】
を、パラメータベクトルkおよびuに対する所定の制約のセットの下で解くことによって見出だすことができる。これらの制約は例えば、測定されたノミナル値からの何らかの統計的偏差として設定され得る、および/または、手作業で構成され得る。同様に、F
z1,maxは、
【数8】
を、パラメータベクトルkおよびuに対する所定の制約のセットの下で解くことによって見出だすことができる。
【0063】
この種の線形式を最小化および最大化するための方法は知られており、本明細書ではこれ以上詳細には検討しない。
【0064】
しかしながら、車両100の車中で最適化問題をリアルタイムで繰り返し解くことは、常に現実的であるわけではなく、または演算能力的に実行可能ですらない場合がある。上記の例はそれほど複雑ではないが、以下で詳細に検討する慣性に基づく推定器は、より複雑であり、極小値から動かなくなるリスクを伴う、すなわち、大域的な最小値および最大値が見つからない場合がある。
【0065】
代替または補完として、演算を簡略化し大域的な最小値および最大値を高確率で見付ける手法を以下で提示する。法線力に関する上記の式は、以下のように再度定式化し直される。
【数9】
ここで摂動の生じたパラメータp
i=p
i,0±Δp
iを検討する。式中、p
i,0はパラメータのノミナル値であり、±Δp
iは予測される偏差であり、つまり、パラメータを[p
i,0-Δp
i,p
i,0+Δp
i]内に限定したことになる。同じことを入力u
i=u
i,0±Δu
iについても行う。すると、
【数10】
である。
【0066】
最小値を見付けることは、式を最小化する上記の+および-の数列を選択することによって行うことができる。p
i,0およびu
i,0がいずれも正であれば、最も小さい値は
【数11】
によって与えられる。
【0067】
したがって、上記の例によれば、第1のタイヤ法線力レンジFz1,min~Fz1,maxは、サスペンションデータ310に基づいて取得されるタイヤ力Fzのノミナル値と、サスペンションデータ310の所定の摂動とに基づいて決定される。
【0068】
図3の第2の推定器340は、タイヤ法線力F
zを推定するために、少なくとも1つのIMUからのデータ320を使用する。慣性力に基づく推定器340は、x、y、およびz軸を中心とする加速度と、(同じくx、y、z軸を中心とする)角速度とを含む測定に基づく。このモデルはサスペンションシステムからの直接測定を必ずしも含まないが、このモデルはロール剛性などのサスペンションパラメータは含む。
【0069】
多くの車軸(>2)を有する車両モデルは多くの場合、過度の複雑さおよび結果的にモデルの妥当性が低下するという関連リスクを伴うので、モデルの複雑さを低減するための方策が提案されている。この方策は仮想車軸の設定に基づく。
図8および
図9は、仮想車軸の設定を概略的に示す。
図8は、単一の車両ユニット801が3つの車軸で支持されている例800を示し、
図9は、2つの車両ユニット901、902が合計6つの車軸で支持されている例900を示す。
【0070】
例えば、車両ユニット801が2つの後車軸810を有する場合、それらは1つにまとめられ、単一の仮想車軸820によって表されている。同じく2つの後車軸910を有する
図9の車両ユニット901について、同様の状況が示されている。1つにまとめられた3つの実際の車軸920を有する牽引された車両ユニット902は、
図9に示すように、3つの実際の車軸910を表す単一の仮想車軸940を有する車両ユニット902としてモデル化されることになる。
【0071】
車両ユニットの重心(CoG)が利用できる場合には、実際の車軸を前または後の垂直車軸に割り振るために、CoGを通る垂直平面を使用してもよい。少なくとも1つの仮想車軸820、930、940の場所は、対応する車両ユニット801、901、902と等価なピッチトルクとなるように選択され得る。
【0072】
少なくとも1つの仮想車軸のうちの前車軸Cfおよび後車軸Crに関する車軸ロール剛性は、対応する実際の車軸の実際のロール剛性を加えることによって決定され得る。
【0073】
少なくとも1つの仮想車軸のロールセンタ高さHrc、は対応する実際の車軸の平均ロールセンタ高さとして定義され得る。
【0074】
そして仮想車軸のうちの1つまたは複数上の車輪について、法線力が推定される。
【0075】
図5~
図7を参照すると、2つの車軸を有するユニットに関する法線力F
z1、F
z2、F
z3、F
z4を計算するために、以下の方程式の系を解くことができる。
m*a
x=F
x(縦方向タイヤ力)、
m*a
y=F
yr+F
yf(横方向車軸力)、
0=F
z1+F
z2+F
z3+F
z4-m*g(垂直力、縦方向加速度
【数12】
が無視できるほど小さいと仮定)、
【数13】
(縦方向軸線を中心とするロールトルク)、
0=l
r(F
z3+F
z4)-l
f(F
z1+F
z2)-h*F
x(横方向軸線を中心とするピッチトルク、無視できるほど小さいピッチ加速度を仮定)、
【数14】
(垂直軸線を中心とするヨートルク)、
【数15】
(前ロール剛性、H
rcが車軸ごとに同じと仮定)、
【数16】
(後ロール剛性、H
rcが車軸ごとに同じと仮定)、式中、
F
z1、F
z2、F
z3、F
z4- 前左、前右、後左、および後右の法線力、ここで、
m- 車両ユニット質量、
g- 地球の重力定数、
a
x、a
y- 縦方向および横方向の加速度計読み取り値、
F
x- 縦方向タイヤ力、
F
yr、F
yf- 後車軸および前車軸のそれぞれの横方向の力
J
x、J
z- ロールおよびヨー慣性、
【数17】
- x軸を中心とする車両ユニットロール角およびロール加速度、
【数18】
- y軸を中心とする車両ユニットロール角およびロール加速度、
【数19】
- z軸を中心とする車両ユニットロール角およびロール加速度、
l
f、l
r- 前車軸および後車軸のCoGからの縦方向距離、
h- CoG高さ、
w- トラック幅、
M
z- 例えばディファレンシャルブレーキングからの外的トルク、
C
f、C
r- 前車軸および後車軸のロール剛性、
H
rc- 車両ユニットのロールセンタ高さ(実際の車軸の平均値)、である。
【0076】
解は
【数20】
で表すことができ、式中、L=l
f+l
rである。
【0077】
ロール角は、
【数21】
としても取得できることに留意されたい。
【0078】
仮想車軸に関する推定されたタイヤ法線力F
z1、F
z2、F
z3、F
z4が与えられると、車両ユニットの実際の車軸間への割り当てを行うことができる。割り当ては、プッシャ車軸と後車軸の間の荷重が(これらの荷重は測定されるので)既知であるとの仮定の下で行われる。この比(quotient)を以下ではqと表す。例えば、力を2つの車軸上の4つの車輪に割り当てるために、法線力割り当て量は、以下の方程式の系の解から得られる。
F
zc3=F
z3+F
z5
F
zc4=F
z4+F
z6
【数22】
(後ロール剛性、この場合車軸が操舵され横方向の力は無視される)
F
z3+F
z4=q*(F
z5+F
z6)
式中、F
zc3およびF
zc4は左右の側のまとめられた荷重であり、この系は陽解:
【数23】
を与える。
【0079】
サスペンションに基づく推定器に関するレンジを決定するための、上で検討した同じ原理を、IMUに基づく推定器にも適用することができる。すなわち、第2のタイヤ法線力レンジFz2,min、Fz2,maxを、IMUデータ320に対する所定の制約のセットの下でのIMUデータ320に基づくタイヤ力Fzの式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定することができる。
【0080】
【0081】
【0082】
12個のパラメータの代わりに、式は5個のパラメータp1~p5を含む。別法としてまたは補完として、第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxは、IMUデータ320に基づいて取得されるタイヤ力Fzのノミナル値と、IMUデータ320の所定の摂動とに基づいて決定される。
【0083】
図5~
図7は、上記の検討内容に係る法線力推定をサポートするために使用され得る車両モデルの詳細を示す。
図5は、角度φ
yrで坂を下って移動する車両ユニットの側面
図500を示す。
図6は、何らかの基準面に対してバンク角φ
xrにある車両の背面図を示す。本明細書では
図5~
図7におけるパラメータ同士の間の関係を明示的に定義していないが、当業者は異なるパラメータ間の関係を簡単な方法で決定できることが了解される。
【0084】
図5~
図7においてモデル化した車両はこの場合、1つの剛性の車体と2つの車軸とを有する。各車軸は2つの車輪を有する。車体はしたがって4自由度、すなわち、道路平面における縦方向および横方向の動きならびにロール角方向およびヨー角方向の動きを有する。ロールする動きは、前車軸および後車軸におけるロールセンタ高さによって定められるロール軸線を中心に示されている。考察を複雑にしないように車体ピッチ角の自由度を意図的に無視していることに留意されたい。サスペンションは車軸ごとにらせんばねを有するものとして概念的にモデル化され、ロール剛性およびロールセンタ高さの2つの車軸パラメータを有する。車軸は無質量でモデル化され、サスペンション減衰は無視される。
【0085】
表記は上記の通りであるが、追加として、
a
x(m/s
2)- 縦方向の加速度
a
y(m/s
2)- 横方向の加速度
F
a(N)- 空気抵抗力
h
a(m)- 空気抵抗高さ
J
x(kgm
2)- ロール慣性
J
z(kgm
2)- ヨー慣性
l
f(m)- CoGと前車軸の間の長さ
l
r(m)- CoGと後車軸の間の長さ
w(m)- 車両トラック幅
δ(rad)- 前タイヤ対道路ステアリング角
φ
x(rad)- ロールセンタを中心とする車体のロール角
【数26】
(rad/s
2)- ロールセンタを中心とするロール角加速度
【数27】
(rad/s
2)- CoGを中心とするヨー角加速度
φ
xr(rad)- 道路バンク、正=右側が下がる
φ
yr(rad)- 道路傾斜、正=坂を下る
【0086】
図10は、上記の検討内容を要約した方法を説明するフローチャートである。車両100に作用するタイヤ力F
zのタイヤ法線力レンジF
z,min~F
z,maxを決定するための方法が示されている。方法は、車両100のサスペンションシステムと関連付けられたサスペンションデータ310を取得するステップS1と、更に、車両100と関連付けられた慣性測定ユニット(IMU)データ320を取得するステップS2とを含む。これら2種類のデータは上で検討した。
【0087】
いくつかの態様によれば、サスペンションデータ310は、車軸長さLwまたはトラック幅wと、車軸質量maxleと、サスペンション圧縮力値と、左右レベリングセンサ値とを含む。
【0088】
例えば、サスペンション圧縮値は、エアサスペンション圧縮力Fz,bellowに関連するベローズ(bellow)圧力値、電気機械式サスペンション圧縮値、または車両100のサスペンションシステムと関連付けられた他の圧縮力値であり得る。
【0089】
図3に示すように、方法はまた、サスペンションに基づく推定器330によって、第1のタイヤ法線力レンジF
z1,min~F
z1,maxを、サスペンションデータ310に基づいて推定するステップS3も含む。例えば、第1のタイヤ法線力レンジF
z1,min~F
z1,maxは関係
【数28】
に基づいて推定すること(S21)ができ、式中、F
zはタイヤ法線力であり、F
z,suspensionはサスペンションシステムと関連付けられた圧縮力であり、m
axleは車輪車軸の質量であり、c
rollは車輪車軸と関連付けられたロール剛性値であり、φは車輪車軸と関連付けられたロール角である。
【0090】
第1のタイヤ法線力レンジFz1,min、Fz1,maxは、サスペンションデータ310に対する所定の制約のセットの下でのサスペンションデータ310に基づくタイヤ力Fzの式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定され得る。
【0091】
第1のタイヤ法線力レンジFz1,min、Fz1,maxはまた、サスペンションデータ310に基づいて取得されるタイヤ力Fzのノミナル値と、サスペンションデータ310の所定の摂動とに基づいても決定され得る。
【0092】
方法はまた、慣性力に基づく推定器340によって、IMUデータ320に基づいて第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxを推定するステップS4も含む。
【0093】
いくつかの態様によれば、第2のタイヤ法線力レンジを推定するステップはまた、各車両ユニット801、901、902について少なくとも1つの仮想車両車軸820、930、940を定めるステップS41と、各仮想車軸についてタイヤ法線力を推定するステップS42と、推定されたタイヤ法線力を車両ユニット801、901、902の実際の車軸810、910、920の間で割り当てるステップS43とを含む。
【0094】
いくつかの態様によれば、少なくとも1つの仮想車軸820、930、940は、対応する車両ユニット801、901、902の重心(CoG)に基づいて定められる(S44)。
【0095】
いくつかの更なる態様によれば、少なくとも1つの仮想車軸820、930、940の位置は、車両ユニット801、901、902と等価なピッチトルクとなるように選択され(S45)、少なくとも1つの仮想車軸の車軸ロール剛性は対応する実際の車軸の実際のロール剛性を加えることによって決定され、少なくとも1つの仮想車軸のロールセンタ高さは対応する実際の車軸の平均ロールセンタ高さとして定義される。
【0096】
いくつかの態様によれば、推定されたタイヤ法線力を車両の実際の車軸の間で割り当てるステップは、推定されたタイヤ法線力を実際の車軸間の既知の荷重比に基づいて割り当てるステップS46を含む。
【0097】
第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxは、例えば、IMUデータ320に対する所定の制約のセットの下でのIMUデータ320に基づくタイヤ力Fzの式の最小化および最大化にそれぞれ基づいて決定され得る。
【0098】
第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxはまた、IMUデータ320に基づいて取得されるタイヤ力Fzのノミナル値と、IMUデータ320の所定の摂動とに基づいても決定され得る。
【0099】
開示される方法はまた、第1のタイヤ法線力レンジFz1,min~Fz1,maxと第2のタイヤ法線力レンジFz2,min~Fz2,maxとに基づいて、タイヤ法線力レンジFz,min~Fz,maxを決定する(S5)。
【0100】
開示される方法は、タイヤ法線力レンジの上限Fz,maxを、第1のタイヤ法線力レンジの上限Fz1,maxおよび第2のタイヤ法線力レンジの上限Fz2,maxのうちの最大のものとして決定するステップS51を更に含み得る。
【0101】
開示される方法はまた、タイヤ法線力レンジの下限Fz,minを、第1のタイヤ法線力レンジの下限Fz1,minおよび第2のタイヤ法線力レンジの下限Fz2,minのうちの最小のものとして決定するステップ(S52)も含み得る。
【0102】
いくつかの態様によれば、開示する方法は、決定されたタイヤ法線力レンジFz,min、Fz,maxと関連付けられた不確実性値Fz,uncertaintyを決定するステップS6を含み、不確実性値は道路粗さの尺度に基づく。
【0103】
道路粗さの尺度は例えば、IMU垂直加速度値、IMUピッチレート値のいずれか、および車両サスペンションシステムのレベルセンサにおける変動に基づいて取得され得る(S61)。
【0104】
いくつかの態様によれば、不確実性値Fz,uncertaintyは、道路粗さの尺度の2乗の和に基づいて決定される(S62)。
【0105】
開示される方法はまた、決定されたタイヤ法線力レンジに基づいて車両加速能力のレンジamin~amaxを決定するステップ(S7)も含み得る。
【0106】
開示される方法は、車両操作のための車輪トルクを各車輪に関する決定されたタイヤ法線力レンジFz,min、Fz,maxに基づいて車両100の車輪の間で分配するステップS8を更に含み得る。
【0107】
図11は、本明細書において検討している実施形態に係る制御ユニット101の構成要素を、いくつかの機能ユニットの観点から概略的に示す。この制御ユニット101は車両100に含まれてもよい。処理回路1110は、例えば記憶媒体1130の形態のコンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行できる、好適な中央処理装置CPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSP等のうちの、1つまたは複数の任意の組合せを使用して提供される。処理回路1110は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASICまたはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとして、更に提供され得る。
【0108】
特に、処理回路1110は、制御ユニット101に動作またはステップのセット、例えば
図10と関連させて検討した方法を実行させるように、構成される。例えば、記憶媒体1130は動作のセットを格納してもよく、処理回路1110は、制御ユニット101に動作のセットを実行させるべく、記憶媒体1130から動作のセットを取り込むように構成され得る。動作のセットは実行可能命令のセットとして提供され得る。この場合、処理回路1110はしたがって、本明細書に開示するような方法を実行するように構成される。
【0109】
記憶媒体1130はまた、永続的ストレージを備えてもよく、例えば磁気メモリ、光学メモリ、ソリッドステートメモリ、または更には遠隔に取り付けられたメモリのうちの任意の単一のものまたは組合せであり得る。
【0110】
制御ユニット101は、サスペンションシステムセンサまたはIMUなどの少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース1120を更に含み得る。そのようなインターフェース1120は、アナログおよびデジタル構成要素と有線または無線通信用の好適な数のポートとを備える1つまたは複数の送信機および受信機を含み得る。
【0111】
処理回路1110は、例えば、データおよび制御信号をインターフェース1120および記憶媒体1130に送信することによって、インターフェース1120からデータおよびレポートを受信することによって、ならびに記憶媒体1130からデータおよび命令を取り込むことによって、制御ユニット101の全体的動作を制御する。本明細書に提示する概念を曖昧にしないように、制御ノードの他の構成要素および関連する機能性は省略されている。
【0112】
図12は、コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体1210を示しており、コンピュータプログラムは、上記プログラム製品がコンピュータ上で実行されるときに
図10に示す方法を実行するためのプログラムコード手段1220を備える。コンピュータ可読媒体およびコード手段はまとまって、コンピュータプログラム製品1200を形成し得る。