(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】光起電力装置用の作用電極、および前記作用電極を含む光起電力装置
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
H01G9/20 111B
H01G9/20 111A
H01G9/20 113A
H01G9/20 113B
H01G9/20 113Z
H01G9/20 307
H01G9/20 311
(21)【出願番号】P 2022530301
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2020083300
(87)【国際公開番号】W WO2021105172
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-06-17
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517294325
【氏名又は名称】エクセジャー オペレーションズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】リンドストロム,ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】フィリ,ジョヴァンニ
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-019253(JP,A)
【文献】米国特許第06359211(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第108962612(CN,A)
【文献】特開2015-119023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層(3)と、前記光吸収層(3)と電気的に接触して配置された導電層(6)とを備え、前記光吸収層(3)は、複数の色素分子からなる光吸収性光起電材料を含み、前記光吸収層(3)は、複数のクラスター(7)
からなる層によって形成され、各クラスター(7)は複数の色素分子によって形成され、クラスター(7)内の各色素分子は、その隣接する色素分子と結合し、前記光吸収層(3)は
、単層のクラスター(7)であり、前記クラスター(7)間に空間(8)が形成され、前記クラスター(7)間の前記空間(8)を満たす導電性媒体(9;42)を含み、
前記光吸収層(3)が、
色素分子が表面に堆積または吸着された
半導体粒子を含まないことを特徴とする、光起電力装置用の作用電極。
【請求項2】
前記光吸収層(3)を形成する前記クラスター(7)の少なくとも80%が、
1クラスターあたりの分子数が100より多い色素分子を含む、請求項1に記載の作用電極。
【請求項3】
前記光吸収層(3)を形成する前記クラスター(7)の少なくとも80%が、
1クラスターあたりの分子数が1000より多い色素分子を含む、請求項1に記載の作用電極。
【請求項4】
前記光吸収層(3)を形成する前記クラスター(7)の少なくとも80%が、
1クラスターあたりの分子数が10000より多い色素分子を含む、請求項1に記載の作用電極。
【請求項5】
前記光吸収層(3)の厚さが20nmと2μmとの間である請求項1~4のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項6】
前記光吸収層を形成する前記クラスター(7)の少なくとも40%が結晶性クラスターであり、異なる材料のカーネルまたは
種を使用して前記結晶性クラスターを形成するように前記クラスター(7)内の前記色素分子が配置される、請求項1~5のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項7】
前記光吸収層を形成する前記クラスター(7)の少なくとも50%が結晶性クラスターであり、異なる材料のカーネルまたは
種を使用して前記結晶性クラスターを形成するように前記クラスター(7)内の前記色素分子が配置される、請求項1~5のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項8】
前記光吸収層を形成する前記クラスター(7)の少なくとも70%が結晶性クラスターであり、異なる材料のカーネルまたは
種を使用して前記結晶性クラスターを形成するように前記クラスター(7)内の前記色素分子が配置される、請求項1~5のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項9】
前記色素分子が、有機色素分子、または有機金属色素分子、または天然色素分子である、請求項1~8のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項10】
前記光吸収層(3)を形成する前記クラスター(7)は、前記導電層(6)と物理的かつ電気的に接触しており、前記クラスター(7)は、前記導電層(6)に結合している、請求項1~
9のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項11】
前記作用電極は、前記光吸収層(3)および前
記導電層(6)の間に配置された反射層(9a)を備え、前記反射層(9a)は、前記光吸収層(3)を形成する前記クラスター(7)および前記導電層(6)と電気的に接触する半導体粒子(10)を含む、請求項1~
10のいずれか一つに記載の作用電極。
【請求項12】
前記反射層(9a)内の前記半導体粒子(10)の少なくとも80%のサイズは、0.1μmより大きい、請求項
11に記載の作用電極。
【請求項13】
前記反射層(9a)内の前記半導体粒子(10)の少なくとも80%のサイズは、0.2μmより大きい、請求項
11に記載の作用電極。
【請求項14】
前記反射層(9a)の厚さが0.1μmと10μmとの間である、請求項
11~
13のいずれか1つに記載の作用電極。
【請求項15】
前記反射層(9a)が多孔質であり、前記反射層(9a)の多孔率が40%~70%の間である請求項
11に記載の作用電極。
【請求項16】
- 請求項1~
15のいずれか一つに記載の前記作用電極、
- 対向電極(24)、および
- 前記対向電極(24)と前記作用電極との間で電荷を移動させるための導電性媒体を備えた光起電力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、光起電力装置に使用される光吸収層を含む作用電極に関する。また、本発明は、前記作用電極を含む光起電力装置に関する。
【0002】
背景
太陽光発電装置は、光起電力効果を示す半導体材料を使用して光を電気に変換する装置である。
【0003】
太陽電池などの光起電力装置は、太陽光を直接電気に変換する装置である。光起電力装置の表面に光が入射すると、電力が生成する。光起電力装置は、光吸収層を含む作用電極を備える。光吸収層は、光を吸収して光励起電子を生成する機能を有する光吸収性光起電材料を含む。光子のエネルギーが光吸収材料のバンドギャップ以上であるとき、光子は材料に吸収され、光励起電子が生成される。
【0004】
光子のエネルギーは、光源の種類に依存する。例えば、室内光の光子のエネルギーは、太陽光の光子のエネルギーより小さい。さらに、屋外の太陽光の光子のエネルギーは、緯度に依存する。光吸収材料に到達する光子のエネルギーが光吸収材料のバンドギャップより小さいと、光子は材料に吸収されないので、エネルギーを電気に変換することができない。一方、光吸収材料に到達する光子のエネルギーが光吸収材料のバンドギャップと等しいか、バンドギャップより大きい場合は、光子は材料に吸収されるが、バンドギャップに対応するエネルギー量のみが電気に変換される。したがって、光起電力装置の光吸収材料は、装置が使用する光源に合ったバンドギャップを有していることが重要である。
【0005】
したがって、屋外の太陽光だけでなく、屋内光などの弱い光源からの光スペクトルを効率的に電気エネルギーに変換できるように、光吸収性光起電材料のバンドギャップを調整できるようにすることが望まれている。
【0006】
今日、シリコンが太陽電池の光吸収性光起電材料として最も多く使用されている。シリコンは、例えば、化学的に安定で環境に優しいなどのいくつかの利点がある。シリコンは、太陽光のエネルギーを効率よく電気エネルギーに変換することができる。しかし、シリコンは弱い光源の変換には効率が悪い。
【0007】
また、太陽電池の光吸収性光起電材料として色素分子を使用することも知られている。このような太陽電池は色素増感太陽電池(DSSC)と呼ばれている。DSSC太陽電池では、光吸収層は、例えばTiO2粒子などの金属酸化物粒子の焼結粒子網を光吸着性色素で染色したものを含む半導体足場層を備える。光吸着性色素は増感色素とも呼ばれる。半導体粒子の表面には、色素分子が配置されている。色素は入射光を吸収し、その入射光のエネルギーを使って電子を励起する。半導体粒子は、励起電子を導電層に輸送するための材料として機能する。
【0008】
色素増感型太陽電池は、EP2533352に記載されている。EP2533352では、集電電極として機能する多孔質導電性金属層上に、多孔質半導体層が配置されている。多孔質半導体層は、色素を吸収する。色素分子は、多孔質半導体層の表面に付着する。多孔質半導体層は2つの機能を有し、色素分子を3次元構造に広げて保持する足場構造として機能する。もう1つの機能は、半導電層が励起電子(または正孔)を集電体に移動させることである。EP2533352には、集電体の金属特性により、多孔質半導電層の厚さを14μmより厚くしても高い変換効率が得られることがさらに記載されている(半導電層を厚くすると、より多くの色素を吸収することができる)。 EP2533352には、ルテニウム色素、フタロシアニン色素、シアニン色素など、一般的な色素がいくつか言及されている。
【0009】
色素増感太陽電池の他の構成は、EP2834823に記載されており、作用電極と、多孔質絶縁層と、前記多孔質絶縁層の上に形成され、光吸収層と電気的かつ物理的に接触して配置された多孔質第1導電金属層と、第2導電金属層を含む対向電極と、前記対向電極および前記作用電極の間で電荷を移動するための液体電解質の形態の導電性媒体とを備えた色素増感太陽電池が記載されている。前記作用電極は、前記第1導電層上に堆積された多孔質TiO2層を備える。色素分子は、従来の方法でTiO2層のTiO2粒子の表面に吸着される。
【0010】
色素分子は、好ましくは、足場半導電性構造の粒子上に色素分子の単層を形成する。十分な光吸収を確保するためには、光吸収層中に一定量の増感色素が存在する必要がある。十分な光吸収を得るために必要な1cm2あたりの分子数は、色素の吸収係数に依存する。光吸収層に十分な増感色素を実現するために、光吸収層には通常、数百層の色素半導体粒子が含まれる。この層数によって光吸収層の厚さが決まり、増感色素の量を増やすと光吸収層の厚さが増すことになる。このように、色素増感太陽電池では、色素の量を増やすために、多孔質半導体層が厚くなるという問題がある。半導体層が厚くなると、電子の拡散長が長くなるため、太陽電池の効率が低下する。
【0011】
多くの文献、例えばKR101469570、JP2016207919には、色素増感太陽電池の半導電層における色素分子の凝集を防止するためのさまざまな方法が記載されている。半導体の表面での凝集は、DSSCの効率を阻害することが記載されている。
【0012】
Lei Zhang et al, "Dye aggregation in dye-sensitized solar cells", Journal of materials chemistry A, vol. 5, no. 37, 5 September 2017に、太陽電池におけるTiO2上に塗布された色素の凝集に関するレビューが開示されている。19542ページ第2段には、特に、色素凝集体がDSSC装置の機能を著しく阻害すること、色素凝集体が光起電力DSSCの性能に影響を与えることが言及されている。DSSCにおける色素凝集は、最も避けた方が良い現象であると考えられている。
【0013】
他の種類の太陽電池は、WO2018/021952に記載されている。導電層と電気的に接触しているドープされた半導電性材料の複数の粒と、前記粒がPEDOTのような電荷伝導性材料によって少なくとも部分的に囲まれていることが記載されている。前記粒は、シリコン、あるいはCdTe、CIGS、CIS、GaAs、またはペロブスカイトからなることが記載されている。
【0014】
近年、有機色素とイオン系電解質との組み合わせにより、特に屋内用途のDSSC装置の性能が向上することが分かっており、色素増感太陽電池に使用される有機増感色素への関心が高まっている。光を吸収する能力の異なる多くの種類の増感色素が存在する。
【0015】
概要
本発明の目的は、上述の問題のいくつかを少なくとも部分的に解決し、光起電力装置のための改良された作用電極、および前記作用電極を含む改良された光起電力装置を提供することである。
【0016】
この目的は、請求項1に規定されるような作用電極によって実現される。
【0017】
光起電力装置用の作用電極は、光吸収層と、前記光吸収層と電気的に接触して配置された導電層とを備え、前記光吸収層は、複数の色素分子からなる光吸収性光起電材料を備える。光吸収層は、複数のクラスターの層によって形成されている場合、各クラスターは色素分子によって形成され、クラスター内の各色素分子は隣接する色素分子と結合している。
【0018】
色素分子は、色素分子の複数のクラスターを形成する。クラスターは光吸収層を形成し、前記光吸収層は導電層と電気的に接触している。クラスターの分離層は、半導電性材料の足場層上に分散されていない。
【0019】
色素分子を別の光吸収層を形成するクラスターに配置することで、従来の色素増感太陽電池の半導電性足場層を省略することができる。そのため、クラスター光吸収層を備えた太陽電池は、同じ色素分子量であれば、従来の色素増感太陽電池より薄くできる。
【0020】
光吸収層は、半導体粒子の表面に堆積または吸着された色素分子を含んでいない。クラスターを形成する色素分子は、半導体層内の半導体粒子上に堆積されていない。このクラスターは、半導体足場層の支持を受けずに、導電層表面に直接積層することができるため、外部回路に直接接続できる太陽電池の作用電極を形成することができる。
【0021】
色素増感太陽電池の作製において、色素を半導電層に吸収させる工程を省くことで、太陽電池の作製時間を大幅に短縮することができる。色素の吸収には数時間かかることがある。色素増感太陽電池を製造する際に半導電性足場層を形成する必要がないため、製造時間のさらなる短縮が実現される。
【0022】
また、光吸収層を色素分子のクラスターの別の層とすることで、色素分子を半導電層に吸収させた色素増感太陽電池に比べ、1m2あたりより多くの色素分子を入れることができるという利点もある。
【0023】
色素分子のクラスターからなる光吸収層を有する作用電極を備え、前記クラスターが別の層を形成している太陽電池は、色素を注入した半導電足場層を備えた色素増感太陽電池より薄く作製することができる。薄くなった太陽電池には多くの利点がある。太陽電池の電極間の距離が短くなると、太陽電池の効率が向上する。また、太陽電池の薄くなることにより、薄くて軽い太陽電池が望まれる新しい用途が見つかることもある。
【0024】
色素分子のクラスターは、色素分子を結晶格子に配置するか、ランダムな非晶質構造に配置するか、あるいはそれらの組み合わせによって形成される。ここでいう「結晶格子」という用語は、色素分子が規則的に繰り返し配置されていることを意味する。
【0025】
クラスター内の色素分子は、隣接する色素分子に結合している。色素分子間の結合は、静電結合、共有結合、またはファンデルワールス結合などである。
【0026】
「色素」という用語は、光起電力効果を示す色素、すなわち、光を吸収して光励起電子を生成する能力を有する色素を指すと理解されるものとする。
【0027】
クラスターの色素分子は、異なる化学組成の色素分子でありうる。色素の種類によって吸収係数が異なるため、光吸収層に必要な体積あたりの色素の量は、色素の種類に依存し、したがって光を吸収する能力も異なる。クラスターのサイズは、クラスターを製造中に制御できる。したがって、入射光を効率よく吸収するために光吸収層に必要な色素の量に応じて、異なるサイズのクラスターを作製することが可能である。クラスターを十分に大きくすれば、先行技術の色素増感太陽電池と同様の効果を得るために、たった1層のクラスターがあればよい。したがって、本発明の光吸収層は、大幅に薄くすることができる。
【0028】
過去数十年の間に、数千種類の色素が合成され、DSSC装置でテストされてきた。既知の色素分子は、単一の色素分子のHOMO/LUMOギャップとは異なるバンドギャップを有するクラスターや結晶性クラスターを形成するために使用することができる。これにより、バンドギャップの異なる光吸収層を作製することが可能となる。例えば、1.0~1.6eVのバンドギャップを有するクラスターを作製することが可能である。したがって、電気に変換されるべき特定の光スペクトルに関して、光起電力装置の光吸収層のバンドギャップを最適化することが可能である。
【0029】
ある一態様では、2種以上の色素の混合物が光吸収層のクラスターに使用される。
【0030】
ある一態様では、クラスター間に空間が形成され、作用電極は、光吸収層のクラスター間の空間を満たす導電性媒体を含む。導電性媒体は、作用電極内のクラスターに/から電荷を移動させる。
【0031】
ある一態様では、光吸収層を形成するクラスターは、基本的に単分子層のクラスターである。クラスターは、入射光を吸収し、光のエネルギーを利用して電子を励起する。この態様では、クラスターは、各クラスターが制限のない入射光に直接面するように単層内に配置されている。制限のない入射光とは、太陽やランプなどの光源から直接光が入射し、その光が単層内のクラスターの上に配置された他のクラスターによって遮られることがないことを意味する。各クラスターが入射光に面し、入射光の電気への変換に寄与することになるため、クラスターが単層であることが有利である。光吸収層が、互いに配置された2層以上のクラスターを含む場合、上層のクラスターが下層のクラスターを覆い隠してしまうため、光変換にあまり寄与しない。さらに、光吸収層が単層のクラスターを1つだけ有する場合、光吸収層の厚さを薄くすることができる。光吸収層の厚さは、単層のクラスターの厚さと実質的に等しい。
【0032】
ある一態様では、光吸収層を形成するクラスターの少なくとも40%は、予め定められた再現性のある方法でクラスター内の色素分子が配置された結晶性クラスターであり、好ましくはクラスターの少なくとも50%が結晶性クラスターであり、最も好ましくはクラスターの少なくとも70%が結晶性クラスターである。
【0033】
色素分子の結晶構造または少なくとも一部が結晶構造を有するクラスター(以下、結晶性クラスターと呼ぶ)は、いくつかの特有の利点を有する。色素分子が結晶になると、単一の色素分子の性質が変化する。例えば、単一の色素分子はHOMO/LUMOのギャップを有する。しかし、結晶性のクラスターは、クラスターに含まれる色素分子の種類に依存するバンドギャップを有する。HOMO/LUMOギャップに比べてバンドギャップが小さいと、単一色素分子に比べて結晶性クラスターの光吸収スペクトルは広くなる。光吸収スペクトルが広がるということは、単一色素分子に比べて、より広い波長域で光を吸収できるようになることを意味する。そのため、足場構造に同量・同種の色素分子を単一分子として吸着配置した構造に比べ、結晶性クラスターの集光能力が向上する。
【0034】
光吸収層が結晶性クラスターを備える作用電極において、クラスターの少なくとも40%、45%または50%が結晶性クラスターであるものとする。好ましくは、光吸収層内のクラスターの少なくとも70%または80%が結晶性クラスターであるものとし、最も好ましくは、クラスターの少なくとも90%が結晶性クラスターであるものとする。
【0035】
上記の利点に加え、結晶性クラスターの利点は、特定の光吸収スペクトルを有する太陽電池の設計が可能であることである。これにより、特定の光条件を有する特定の用途のために調整した太陽電池を作製することができる。結晶性クラスター内に異なる種類の色素分子を有する可能性は、太陽電池の設計の柔軟性をさらに向上させる。
【0036】
いくつかの態様では、導電層は、光吸収層と直接物理的かつ電気的に接触している。これは、クラスターの少なくとも一部が導電層と物理的に接触していることを意味する。
【0037】
いくつかの態様では、光吸収層を形成するクラスターは、導電層と物理的かつ電気的に接触しており、クラスターは導電層に接合している。光吸収層は、導電層がクラスターから光生成電荷を受け取るように、導電層と電気的に接触して配置される。クラスターが導電層と直接物理的かつ電気的に接触している実施形態では、クラスターは導電層に接合している。光吸収層内のクラスターは、互いに結合している必要はない。
【0038】
ある一態様では、クラスターは導電層に沿って単層で配置され、各クラスターは導電層と物理的かつ電気的に接触している。
【0039】
導電層は、好ましくは、焼結した金属粒子からなる多孔質層である。粒子はまた、導電性ガラス、炭素または半導電性材料の粒子のような、他の種類の導電性粒子であってもよい。
【0040】
いくつかの態様では、クラスターの少なくとも80%は、1クラスターあたり100より多くの色素分子を含む。好ましくは、クラスターの少なくとも80%は、クラスターあたり1000より多くの色素分子を含む。最も好ましくは、クラスターの少なくとも80%は、1クラスターあたり10000より多くの色素分子を含む。このように、光吸収層は、ほとんどの種類の色素について、電気に変換するための入射光のかなりの部分を吸収するのに十分な量の色素を含むことになる。
【0041】
十分な数の色素分子があれば、十分な光吸収が可能になる。色素分子の数が多ければ多いほど、より優れた光吸収を実現できる。既知の色素増感太陽電池と同等の光吸収を実現するためには、光吸収層は、既知の色素増感太陽電池とほぼ同数の単位表面積あたりの色素分子数を含む必要がある。クラスターが少ない分子数を含む場合は、光吸収層に十分な量の色素を含有させるために、光吸収層は1層より多くのクラスターを含んでもよい。クラスターが大きければ大きいほど、光吸収層に必要なクラスター層の数は少なくなる。
【0042】
いくつかの態様では、100より多くの色素分子を有するクラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶクラスターを通る直線に沿って5nmより大きい。この直線は、例えば、丸いクラスターの直径や結晶性クラスターの立方格子のz軸である。
【0043】
より大きなクラスターの場合、少なくとも80%のクラスターのサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶクラスターを通る直線に沿って10nmより大きくすることができる。最も好ましくは、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶクラスターを通る直線に沿って20nmより大きい。望ましいクラスターのサイズは、色素の種類とその吸光係数に依存する。クラスターのサイズが大きければ大きいほど、光吸収は良好になる。
【0044】
いくつかの態様では、クラスターが大きい場合、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶクラスターを通る直線に沿って2μm未満である。好ましくは、クラスターの少なくとも80%のサイズは、1μm未満である。したがって、光吸収層の厚さが薄くなる。光吸収層の厚さは、クラスターのサイズに依存する。光吸収層は、基本的に単分子層のクラスターである。単層のクラスターを含む光吸収層の場合、光吸収層の厚さは、クラスターの厚さに実質的に等しい。
【0045】
適切には、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶ直線において、5nmと2μmとの間である。好ましくは、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶ直線において、10nmと1μmとの間である。このように、光吸収層は、電気に変換するためのさまざまな光条件の入射光のかなりの部分を吸収するのに十分な量の色素を含むように設計することができ、光吸収層は薄いものとなる。
【0046】
いくつかの態様によれば、色素分子は、有機色素分子、有機金属色素分子、または天然色素分子である。
【0047】
ある一態様では、色素は、テトラヒドロキノリン、ピロリジン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン(TPA)、クマリン色素、インドール色素、アリールアミン色素、ポルフィリン色素、フッ素色素、カルバゾール系色素(CBZ)、フェノチアジン系色素(PTZ)、フェノキサジン系色素(POZ)、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、スクアライン系色素、ペリレン系色素、アントラキノン系色素、ボラジアザインダセン(BODIPY)色素、オリゴチオフェン色素、ポリマー色素、フッ化キノキサリン色素などの有機色素を含む群またはこれらからなる群から選択される。有機色素はDSSC装置の性能を向上することができることが分かっている。結晶性有機色素のクラスターを使用することで、バンドギャップが減少し、より広い波長域での光吸収と、より長い波長の光吸収を効率的に行うことができる。
【0048】
他の一態様では、色素は、ベタレイン色素、アントシアニン色素[268]、クロロフィル色素[269]、フラボノイド色素[270]、およびカロテノイド色素などの天然色素を含む群またはこれらからなる群から選択される。
【0049】
有機金属色素は、良好な光吸収を有し、可視光の効率的な吸収のために調整されたよく知られた光起電材料である。有機金属色素の例としては、一般的に使用されているルテニウム(Ru)ビピリジル誘導体(N3:シス-ジイソチオシアナト-ビス(2,2′-ビピリジル-4,4′-ジカルボン酸)ルテニウム(II);N719: ジ-テトラブチルアンモニウムシス-ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2′-ビピリジル-4,4′-ジカルボキシラト)ルテニウム(II);Z907:シス-ビス(イソチオシアナト)(2,2′-ビピリジル-4,4′-ジカルボキシアラト)(4,4´-ジ-ノニル-2′-ビピリジル)の色素でありうる。
【0050】
第3の態様では、色素は、有機金属色素分子、例えば、有機金属錯体、例えば、ルテニウム系錯体または鉄錯体もしくは白金錯体等の他の金属錯体を含む群またはこれらからなる群から選択される。
【0051】
他の種類の色素は、例えばエオシンY、アニリンブルー、ブロモフェノールブルー、アルシアンブルー、メチルオレンジ、クリスタルバイオレット、ファストグリーン、およびカルボルフクシンのような、金属を含まない有機色素でありうる。
【0052】
また、例えばアントシアニン、カロテノイド、フラボノイドまたはクロロフィル顔料のような天然色素も、太陽電池での使用を考慮することができる。
【0053】
本発明での使用に適した色素分子は、上にあげた例に限定されない。
【0054】
太陽電池での使用に適した色素を決定する方法の1つは、色素の発光を測定することである。光強度を弱めたり、光をシフトさせたりすることなく、入射光に対応する測定からの光の「エコー」は、色素の適合性の指標となりうる。
【0055】
いくつかの態様では、クラスターは、異なる材料のカーネルまたは種子を含んでいてもよい。クラスターは、結晶化プロセスを開始するために、クラスターの製造中に使用される他の材料の小さなカーネルを含んでもよい。結晶は、種/カーネル上で成長し、結晶性クラスターを形成する。製造プロセス中にカーネルを使用する利点は、クラスターを球状にし、実質的に等しいサイズにすることができることである。これにより、光吸収層の製造が容易になり、より均質な層を実現することが可能となる。カーネルを使用するもう一つの利点は、クラスターのサイズ分布を狭くすることが可能であることである。狭いサイズ分布は、クラスターのサイズを非常に精密に制御する必要がある場合に有用である。
【0056】
いくつかの態様では、クラスターは、光吸収層内で実質的に均一に分布している。これによって、光吸収層の表面全体にわたって入射光の均等な変換が提供される。また、クラスターが均一に分布していると、光を電気に変換するための活性表面積が大きくなる。均等に分布しているとは、光吸収層の全領域にわたって、1cm2当たりのクラスターの数が同じであるか、または実質的に同じであることを意味する。実質的に均等に分布しているとは、1cm2あたりのクラスターの数が光吸収層の異なる部分の間で±10%変動する可能性があることを意味する。
【0057】
いくつかの態様では、光吸収層の厚さは、2μm以下であり、好ましくは1μm以下である。本発明は、厚さが2μm以下である効率的な光吸収層を提供する。効率的な光吸収層の最適な厚さは、色素の光吸収スペクトルと光源の光放射スペクトルの両方に依存する。これにより、光吸収層は、色素の光吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの間の最適なバランスが得られるように設計することができるので、光起電力装置の利用に対する柔軟性が向上する。
【0058】
いくつかの態様では、光吸収層の厚さは、20nmと2μmとの間である。
【0059】
いくつかの態様では、作用電極は、上面に対して光吸収層の反対側に配置された反射層を備える。反射層は、光吸収層と第1導電層との間に配置される。クラスターを含む光吸収層は、反射層の上に配置される。反射層は、クラスターおよび第1導電層と電気的に接触している半導体粒子を含んでいる。半導体粒子は、反射材料、すなわち、光を反射する材料でできている。反射層は、光を反射して光吸収層へ戻す。半導体粒子は、互いに付着して反射層を形成している。反射層は、入射光を光吸収層に散乱させる鏡として機能し、それによって有効吸収経路長を増加させ、それゆえ光吸収層の光吸収を増加させる。反射層の光散乱効果は波長依存性であり、光散乱効果は反射層内の半導体粒子のサイズに強く依存する。したがって、光散乱は、目下の光起電力装置の用途に合わせて適切な粒子径の半導体粒子を選択することにより、調整し最適化することができる。半導体粒子は、光吸収層だけでなく、導電層にも電気的に接触している。したがって、クラスターは、半導体粒子を介して導電層と電気的に接触している。
【0060】
反射層内の半導体粒子は、光を反射するように設計されている。いくつかの態様では、反射層内の半導体粒子、または半導体粒子の凝集体の少なくとも80%のサイズは、0.1μmより大きく、好ましくは0.2μmより大きい。粒子が大きければ大きいほど、光をよく反射することができる。半導体粒子が0.1μmより小さいと、光を反射する能力が劣る。
【0061】
ある一態様では、半導体粒子の少なくとも80%のサイズは、0.1μmと2μmとの間である。これにより、半導体粒子の光散乱能が向上する。
【0062】
いくつかの態様では、半導体粒子は、二酸化チタン(TiO2)からなる。酸化チタンは、光を吸収せずによく反射するので、酸化チタンを使用することが有利である。酸化チタンは、屈折率が高く、バンドギャップが十分に大きいため、光の吸収を避けることができる。さらに、酸化チタンは、反射層が光吸収層から受け取った光励起電荷を導電層に効率的に移動することができるように、十分な導電性を有する。
【0063】
いくつかの態様では、反射層の厚さは0.1μmと10μmとの間である。好ましくは、反射層の厚さは、1μmと10μmとの間である。したがって、反射層は、光吸収層から導電層への光励起電荷の移動の間に小さな電気エネルギー損失を実現するのに十分な薄さである。
【0064】
好ましくは、反射層は、導電性媒体が反射層を通過することを可能にするために多孔質である。
【0065】
いくつかの態様では、反射層の多孔率は40%-70%の間である。反射層が十分に多孔質であることは、導電性媒体が反射層内部の孔を通る連続的な導電経路を形成することができるようにするために重要である。
【0066】
いくつかの態様では、光吸収層と反射層は、クラスターの一部が半導体粒子の間に形成された孔内に配置されるように重なり合っている。光吸収層が反射層の内部を貫通することによる利点は、有効光吸収経路長が増加し、より高い光吸収をもたらすることができることである。
【0067】
この場合、半導体粒子に酸化チタン(TIO2)を使用すると、酸化チタンは部分的に(partly)透明であり、反射層の孔内に配置されたクラスターに光を到達させることができるため、特に有利になる。
【0068】
半導体粒子間の孔内に配置することができるクラスターは、これらの色素分子の一部が凝集体を形成するかどうかにかかわらず、半導体足場構造に付着するために半導体構造体に注入される色素分子ではない、予め形成された色素分子のクラスターである。
【0069】
いくつかの態様では、反射層の孔のサイズは、10nmと1μmとの間である。したがって、反射層内の孔は、反射層の孔内にクラスターと導電性媒体の両方を収容するのに十分に大きい。
【0070】
他の態様では、本発明の目的は、本発明による作用電極を備えた光起電力装置によって実現される。
【0071】
光起電力装置は、本発明による作用電極と、対向電極と、前記対向電極と前記作用電極との間で電荷を移動するための導電性媒体とを備える。光起電力装置は、太陽電池でありうる。
【0072】
いくつかの態様では、光起電力装置は、多孔質絶縁基板を備え、導電層は、前記多孔質絶縁基板の一方の面に形成された多孔質導電層である。対向電極は、多孔質絶縁基板の反対側に配置された第2の導電層をさらに備えていてもよい。いくつかの態様では、クラスターは、第1導電層の表面に均一に分布している。
【0073】
いくつかの態様では、導電性媒体は、光励起電子を対向電極から作用電極に移動させるためのイオン系の電解質であり、ゲルポリマー電解質も含まれうる。また、正孔導電性媒体も可能な導電性媒体である。
【0074】
上述した本発明に係る作用電極を有する光起電力装置によるいくつかの利点に加えて、光吸収層の表面はより粗くなることもあり、この粗い表面は、反射光が吸収される確率を増加させる。これにより、表面での反射による効率損失を抑制することができる。より粗い表面は、入射光の角度が多様になり、光起電力装置の効率は、層に対する光の入射角度に大きく依存しなくなる。したがって、光損失は、既知の色素増感太陽電池と比べて低減される。
【0075】
図面の簡単な説明
次に、本発明の異なる実施形態の説明と添付の図を参照することにより、本発明をより詳細に説明する。
【0076】
図1は、光吸収層を含む作用電極の一例を示す。
図2は、光吸収層および反射層を含む作用電極の他の一例を示す。
図3は、
図1に示す作用電極を含む光起電力装置の一例を示す。
図4は、
図3に示す光起電力装置の光吸収層および導電層の部分拡大図を示す。
図5は、
図1に示す作用電極を含む光起電力装置の他の一例を示す。
図6は、
図2に示す作用電極を含む光起電力装置の一例を示す。
【0077】
詳細な説明
図中の同種の番号は、本明細書全体を通じて同種の要素を示す。
【0078】
図1は、光吸収性光起電材料からなる光吸収層3と、光吸収層3と電気的に接触する導電層6とを含む作用電極1aの略図である。光吸収層3は、入射光を受光するための上面5を有する。導電層6は、上面5に対して光吸収層3の反対側に配置されている。本実施例では、光吸収層3は、導電層6上に直接配置されている。光吸収性光起電材料は、複数の色素分子で構成されている。色素分子は、クラスター7を形成している。クラスター7内の色素分子は、各色素分子がその隣接する色素分子に結合するように配置されている。クラスター7は、導電層6の表面に配置され、基本的にすべてのクラスター7が導電層6に結合している。クラスター7は、光吸収層3の面積の大部分を占めるものとし、互いに結合している必要はない。好ましくは、光吸収層3は、導電性媒体が光吸収層を通過することができるように多孔質である。十分な光吸収を実現するために、ほとんどのクラスターは、100より多くの色素分子、好ましくは1000より多くの色素分子、最も好ましくは10000より多くの色素分子から構成されていてもよい。クラスター内の各色素分子は、その隣接する色素分子と結合している。
【0079】
色素は、光子を吸収し、光励起電子を生成する能力を有するものであれば、どのような種類のものでもありうる。光子を吸収して光励起電子を生成する能力を有する数千種類の既知の色素が存在する。色素分子は、有機色素分子、有機金属色素分子、天然色素分子でありうる。有機金属色素は、光吸収性に優れ、可視光を効率よく吸収するように調整することができる光起電材料としてよく知られている。
【0080】
有機色素の例:テトラヒドロキノリン、ピロリジン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン(TPA)、クマリン色素、インドール色素、アリールアミン色素、ポルフィリン色素、フッ素系色素、カルバゾール色素(CBZ)、フェノチアジン色素(PTZ)、フェノキサジン色素(POZ)、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素、スクアライン色素、ペリレン色素、アントラキノン色素、ボラジアザインダセン(BODIPY)色素、オリゴチオフェン色素、高分子色素、フッ化キノキサリン色素である。有機色素はDSSC装置の性能を向上することができることが分かっている。結晶性有機色素のクラスターを使用することでバンドギャップが小さくなった結果、より広い波長域で光を吸収することができ、より長波長の光を効率的に吸収することができる。
【0081】
有機金属色素の例:ルテニウム系錯体、または鉄錯体や白金錯体などの他の金属錯体である。
【0082】
天然色素の例:ベタレイン色素、アントシアニン色素[268]、クロロフィル色素[269]、フラボノイド色素[270]、カロテノイド色素である。
【0083】
本発明で使用するのに適した色素分子は、上記の例に限定されるものではない。さらに、クラスター内の色素分子は、2種以上の色素の混合物でありうる。
【0084】
適切には、クラスター7は、光吸収層3の表面全体にわたって入射光の均一な変換を実現するために、光吸収層3中に実質的に均一に分布している。クラスターは、互いに物理的に接触していてもよいが、互いに結合している必要はない。クラスター7は、典型的には、光吸収層3の下に配置された他の層、例えば、導電層6に結合している。導電層6は、クラスター7と電気的に接触するように配置されている。本実施例では、導電層6は、クラスター7と電気的に接触するとともに、物理的に接触して配置されている。
【0085】
クラスター7の望ましいサイズは、色素の種類とその吸収係数に依存する。クラスターのサイズが大きければ大きいほど、光の吸収がよくなる。クラスター7の形状やサイズは、クラスターの製造方法によって変化させうる。光を吸収する良好な能力を実現するには、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスターの表面上の2点を結ぶ、クラスターを通る直線に沿って5nmより大きいことが好ましい。例えば、この直線は、クラスターの直径である。より好ましくは、クラスターを通る直線に沿ったクラスターの少なくとも80%のサイズは、10nmより大きく、最も好ましくは20nmより大きい。適切には、クラスター表面の2点を結ぶ直線において、クラスターの少なくとも80%のサイズは、5nmと2μmとの間である。好ましくは、クラスターの少なくとも80%のサイズは、クラスター表面の2点を結ぶ直線において、10nmと1μmとの間である。クラスターのサイズは、例えば、SEM「走査型電子顕微鏡」を使用して測定される。
【0086】
例えば、
図1に示すように、光吸収層3において単層のクラスター7を形成するようにクラスター7を配置する。単層内のクラスター7のそれぞれは、入射光に面する上面を有するため、光変換に寄与することができる。
【0087】
効率的な光吸収層の最適な厚さは、色素の光吸収スペクトルと光源の光放射スペクトルの両方に依存する。例えば、光吸収層3の厚さは、2μmより薄く、好ましくは1μmより薄い。例えば、光吸収層の厚さは、20nmより厚い。光吸収層の厚さは、主にクラスター7の厚さに依存する。適切には、光吸収層の厚さは、20nmと2μmとの間である。
【0088】
光吸収層3は、
図3に示すように、導電性媒体9をさらに含んでもよい。クラスター7間には、導電性媒体を収容するための空間8が形成されている。例えば、導電性媒体9は、液体電解質、または導電性ポリマーなどの固体電荷伝導性材料とすることができる。導電性媒体9は、クラスター7間の空間8に配置される。例えば、
図5に示すように、クラスター7は、一部を導電性材料42で覆いうる。好ましくは、導電層6は、導電性媒体9が導電層6を貫通するように、多孔質でもある。導電層6は、導電性材料からなる。例えば、導電層6は、多孔質のTiからなる。
【0089】
作用電極は、
図3に示すように、導電層を外部負荷に接続するために、導電層6に電気的に接続された接続素子46を備えたものであってもよい。
【0090】
図1の例では、クラスター7は、導電層6上に配置されている。導電層6は、光吸収層3から光生成電子を取り出す。クラスター7は導電層6に結合している。クラスター7は、互いに物理的に接触することができるが、互いに結合しているわけではない。本実施例では、クラスターは、導電層6上に単層のクラスター7を形成するように、第1導電層6上に配置されている。クラスター7は、光に面する上面と、導電層6と機械的かつ電気的に直接接触している下面とを有する。単層のクラスターにおいて、各クラスターの各々は、光吸収層3の下に配置された他の層、例えば、第1導電層6と直接物理的かつ電気的に接触している。
【0091】
図2は、光吸収層3と、導電層6と、光吸収層3および導電層6の間に配置された反射層9aとを含む作用電極1bの他の一例を示す。反射層9aは、上面5に対して光吸収層3とは反対側に配置されている。光吸収層は、反射層9aの上に配置されており、反射層9aは、導電層6の上に配置されている。反射層9aは、光吸収層3から透過した光を反射して光吸収層3へ戻すように配置されている。反射層9aは、クラスター7および導電層6と電気的に接触する半導体粒子10を含む。光吸収層が光励起電荷を大きな電気エネルギー損失なしに反射層に移動できるように、反射層が光吸収層と良好な電気的接触を形成することが重要である。
【0092】
半導体粒子10は、反射性材料、すなわち、光を反射する材料からなる。半導体粒子10は、導電層6だけでなく光吸収層3とも電気的に接触している。したがって、クラスター7は、半導体粒子10を介して、導電層6と電気的に接触している。半導体粒子10は互いに結合し、導電層に結合している。半導体粒子は、例えば、TiO2、ZnO、またはNb2O5からなる。適切には、半導電性粒子10の少なくとも80%のサイズは、10nmと2μmとの間である。例えば、半導体粒子10は、二酸化チタン(TiO2)からなる。反射層は、入射光を光吸収層に散乱して戻す鏡として機能し、それによって有効吸収経路長を増加させた結果、光吸収層の光吸収を増加させる。反射層の光散乱効果は波長依存的である。光散乱効果は、反射層内の半導体粒子10のサイズに強く依存する。したがって、光散乱は、目下の用途に適した適切な粒子径を有する半導体粒子を選択することによって、調整および最適化することができる。
【0093】
本実施例では、反射層9a上にクラスター7が配置されている。半導体粒子10の少なくとも一部は、クラスター3の少なくとも一部と物理的に接触している。本実施例では、クラスター7は、反射層9aの半導体粒子10に結合している。例えば、
図2に示すように、反射層上に単層のクラスター7を形成するように、反射層9a上にクラスターが配置されている。好ましくは、反射層は、導電性媒体が反射層を通過することを可能にするために多孔質である。例えば、反射層の多孔率は、35%~80%または40%~70%である。反射層の厚さは、0.1μmと10μmとの間であり、好ましくは、1μmと10μmとの間である。
【0094】
また、反射層9aの孔内に一部のクラスター7を配置することも可能である。これらのクラスター7は、上記の記述に従ってクラスター7となるように準備され、例えば色素が半導電性構造体に注入される際に凝集を形成する過剰な色素によって形成されることはない。
【0095】
作用電極1aのすべての可能な実施形態において、光吸収層3の主要部分は、導電層6または反射層9aの表面上に配置された単層のクラスター7である。
【0096】
図3は、
図1に示す作用電極1aを備えた光起電力装置20の一例を示す。この光起電力装置は、第1導電層6と電気的に絶縁された第2導電層24を備えた対向電極と、この対向電極と作用電極との間で電荷を移動させるための導電性媒体9とを備える。導電性媒体9は、クラスター7間の空間8に配置されている。
【0097】
光起電力装置20は、第1および第2導電層6,24の間に配置された絶縁基板26をさらに備える。第1導電層6は、絶縁基板26の一方の面に配置され、第2導電層6は、絶縁基板26の反対側の面に配置される。光吸収層3は、第1導電層6上に配置されている。光吸収層3は、太陽光をクラスター7に当てて光励起電子を生成させるために、光起電力装置の太陽光に面した上面に配置されている。第1導電層6は、光吸収層3からの光生成電子を取り出すバックコンタクトとして機能する。好ましくは、第1導電層6は、導電性媒体を収容するため多孔質である。例えば、第1導電層6は、
図4に示すように、導電性材料からなる複数の導電性粒子28を含む。第1導電層の導電性粒子28は互いに結合し、互いに電気的に接触している。第1および第2の導電層6,24は、例えば、Ti、Ti合金、Ni合金、グラファイト、またはアモルファスカーボンからなる。好ましくは、第1および第2の導電層6,24は、多孔質のTiからなる。
【0098】
図4は、
図3に示す光起電力装置の光吸収層および第1導電層6の部分拡大図である。第1導電層6の導電性粒子28は、電荷を伝導するため、および光起電力装置の十分な機械的安定性を有するためのネットワークを形成している。光吸収層のクラスター7は、第1導電層6の導電性粒子28の一部と物理的かつ電気的に接触している。また、クラスター7の一部が第1導電層6に一部突出することも可能である。本実施例では、クラスター7は、導電性粒子28より大きい。しかしながら、クラスター7および導電性粒子28は、実質的に同じサイズでもありうる。
【0099】
光起電力装置20は、光吸収層3から第2導電層24に電荷を移動させるための導電性媒体をさらに備える。本実施例では、導電性媒体は液体電解質であり、図示されていない。しかし、導電性媒体は、ゲルや固体導電体など、任意の適切な種類の導電性媒体でもありうる。液体電解質は、例えば、電荷すなわち電子または正孔をクラスター7にまたはクラスター7から移動させることが可能なレドックス電解質である。また、レドックス電解質は、第2導電層24にまたは第2導電層24から電荷を移動させることも可能である。電解質の例としては、I-/I3
-レドックス対またはフェロセン化合物含有電解質があげられるが、銅系電解質またはコバルト系電解質などの他の電解質も使用することができる。電解質は、以下のようなヨウ素/ヨウ化物系電解質:
LiI /I2、NaI/I2、KI/I2、PMII/I2,
または、以下のようなコバルト系電解質:
トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト ビス(ヘキサフルオロホスフェート)/トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト トリス(ヘキサフルオロホスフェート)、または
ビス(6-(1H-ピラゾール-1-イル)-2,2'-ビピリジン)コバルト ビス(ヘキサフルオロホスフェート)/ビス(6-(1H-ピラゾール-1-イル)-2,2'-ビピリジン)コバルト トリス(ヘキサフルオロホスフェート)、または
トリス-(2,2'-ビピリジン)コバルト(II)ジ(テトラシアノボレート)/トリス-(2,2'-ビピリジン)コバルト(III)トリ(テトラシアノボレート)、
または、以下のような銅塩基性電解質
ビス-(2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン)銅(I)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド/ビス-(2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン)銅(II)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド クロライド、または
ビス-(4,4',6,6'-テトラメチル-2,2'-ビピリジン)銅(I)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド/ビス-(4,4',6,6'-テトラメチル-2,2'-ビピリジン)銅(II)ビス[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]、または
ビス(1,1-ビス(2-ピリジル)エタン)銅(I)ヘキサフルオロホスフェート/ビス(1,1-ビス(2-ピリジル)エタン)銅(II)ビス(ヘキサフルオロホスフェート)
を含む群またはこれらからなる群から選択されてもよい。
【0100】
また、導電性媒体として正孔輸送材料(HTM)を使用することもできる。
【0101】
絶縁基板26の多孔性によって、絶縁基板を介したイオン輸送が可能となる。第1導電層6の多孔性は、第1導電層を介したイオン輸送を可能にする。例えば、基板26および塗布された層3,6,24は、液体電解質に浸されて封止される。液体電解質は、第1多孔質導電層6の孔内、多孔質絶縁基板26の孔内、および光吸収層3におけるクラスター7間の空間内に満たされる。第1および第2導電層6,24は、絶縁基材26によって物理的かつ電気的に分離されているため、導電層6,24は直接物理的または電気的に接触していない。しかし、第1および第2導電層6,24は、多孔質絶縁基板を透過した電解質イオンを介して電気的に接続されている。
【0102】
また、光起電力装置20は、装置を保護し、電解液の漏出を防止するために、光起電力装置を囲む覆いまたはその他の手段も備える。例えば、光起電力装置20は、光起電力装置の上側を覆う第1シート30と、光起電力装置の下側を覆い、電解液の液体バリアとして機能する第2シート32とを備える。光起電力装置の上側の第1のシート30は、光を透過させるために透明である必要がある。シート30,32は、例えば、高分子材料からなる。光起電力装置の機械的安定性をさらに支持するために、対向電極24と下側のシート被覆32との間に追加の層が加えられてもよい。光起電力装置20は、第1導電層を外部回路Lに接続するために第1導電層6に電気的に接続された少なくとも1つの接続素子46と、第2導電層を外部回路Lに接続するために第2導電層24に電気的に接続された少なくとも1つの接続素子47とを備える。例えば、接続素子46,47は、バスバーである。第1および第2の導電層6,24は、外部回路Lを介して互いに接続されている。したがって、一方の種類の電荷キャリア、すなわち電子または正孔が、外部回路を介して第1導電層6から第2導電層6に輸送され、他方の種類の電荷キャリア、すなわち電子または正孔が、第1導電層6から第2の導電層24に電荷伝導性媒体を介して輸送される電気回路が形成される。
【0103】
図5は、作用電極1aを含む光起電力装置40の他の一例を示す。光起電力装置40は、多孔質絶縁基材26と、第2導電層24を含む対向電極とを含む。本実施例では、導電性媒体は、固体電荷伝導体42である。光吸収層3は、色素分子のクラスター7と固体電荷伝導体42とを含む。電荷伝導体42は、正孔導電体でありうるし、電子導電体でもありうる。例えば、導電体42は、PEDOT、PEDOT:PSSと呼ばれるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)などの、導電性高分子である。クラスター7は、光吸収層3中に基本的に均一に分布しており、固体電荷伝導体42は、クラスター7上およびクラスター間の空間に配置される。光起電力装置40は、光吸収層3と第2導電層24との間に配置され、光吸収層3と第2導電層24との間で電荷、すなわち正孔または電子を移動させることができる電荷伝導性材料の複数の電荷伝導路44をさらに備える。導電路6は、第1導電層6と多孔質絶縁基板26とを貫通する。適切には、第1導電層6は、電荷伝導体が第1導電層6を貫通するように多孔質である。
【0104】
図6は、
図2に示す作用電極1bを含む光起電力装置50の一例を示す。
【0105】
光吸収層は、さまざまな方法で製造することができる。例えば、クラスターを予め製造しておき、クラスターを含む溶液を光起電力装置の導電層上に堆積させることができる。クラスターは、例えば、予め製造された色素の結晶でありうる。あるいは、色素分子を含む溶液を光起電力装置の導電層上に堆積させ、溶液で覆われた導電層を乾燥中にクラスターを形成する。色素分子は、乾燥中に隣接する各色素分子と結合してクラスターを形成する。溶液で覆われた導電層が乾燥中に加熱される場合、色素分子は、導電層の表面上に色素結晶のクラスターを形成するように互いに結合することができる。
【0106】
ある一態様では、本方法は、溶媒中に分散した色素分子および/または色素分子のクラスターを含む溶液を作製すること、導電層上に溶液を分散させること、および溶液を塗布した導電層を溶媒が蒸発するまで乾燥させることを含む。例えば、噴霧によって塗布をおこなってもよい。あるいは、静電噴霧によって塗布をおこなってもよい。本方法は、色素分子のクラスターの結晶化を実現するために、溶液を塗布した導電層を加熱することを含んでいてもよい。光吸収層の本作製方法は、簡便かつ迅速であり、導電層の表面にクラスターを均一に分布させる。溶液は、溶媒に溶かされた色素分子を含んでいてもよい。例えば、色素粉末を溶媒に溶かして色素分子を含む溶液を形成する。その場合、乾燥中に色素分子同士が結合してクラスターを形成する。あるいは、あらかじめ望ましいサイズのクラスターを製造しておくこともできる。このクラスターを溶媒に添加して溶液を形成する。クラスターは、塗布中に導電層の表面に分散される。あるいは、溶液は、溶媒に溶かした色素分子だけでなく、色素分子のクラスターも含む。これは、色素分子がクラスター間、およびクラスターと導電層との間で接着剤として機能し、クラスターが互いに、および導電層に接着するようになるので有利になりうる。
【0107】
実施例1
本実施例では、クラスターは、導電層6の上に直接形成される。
【0108】
第1のステップでは、例えば、色素の粉末の形態の固体色素を、固体色素を溶かす適切な溶媒に溶かすことによって色素溶液を製造する。その結果、溶媒に溶けた色素分子の溶液が形成されている。ある一実施例では、色素はアリールアミン色素、例えば、(E)-3-(5-(4-(ビス(2',4'-ジブトキシ-[1,1'-ビフェニル]-4-イル)アミノ)フェニル)チオフェン-2-イル)-2-シアノアクリル酸(D35とも略称される)である。溶媒は、例えば塩化メチレン、アセトニトリル、NMP、DMF、THFA、ブチロラクトン、またはDMSO、メタノールなど、色素を溶かす能力を有する任意の有機溶媒であってもよい。
【0109】
第2のステップでは、多孔質Tiを含む導電層の上面に溶液を塗布する。例えば、導電層の上面の塗布は、導電層に溶液を噴霧することによって行われる。
【0110】
第3のステップでは、溶液を塗布した導電層を、溶媒が蒸発するまで乾燥させ、導電層上に色素分子の複数のクラスターを形成する。本実施例では、クラスターは、導電層上にクラスターの形成中、すなわち溶媒の蒸発中に導電層に結合する。
【0111】
本実施例では、溶液は、溶媒に溶けた色素分子を含み、溶液を導電層の表面に塗布した後にクラスターが得られる。
【0112】
実施例2
第1のステップでは、例えば、色素の粉末の形態の固体色素を、固体色素を溶かす適切な溶媒に溶かすことによって色素溶液を製造する。その結果、溶媒に溶けた色素分子の溶液が形成されている。色素および溶媒は、実施例1と同様とすることができる。
【0113】
第2のステップでは、溶液中の色素分子を析出させ、色素分子の結晶性クラスターからなる結晶を形成している。この結晶化は、いくつかの方法で実現することができる。例えば、色素の溶解度が低すぎるため、色素が析出し始めるレベルまで溶媒を除去することができる。あるいは、例えば塩のような沈殿剤を添加することによって色素を析出させることも可能である。
【0114】
第3のステップでは、結晶性クラスターを含む溶液を導電層6上に堆積させる。溶液を導電層6上に堆積させる前に、結晶性クラスターを含む溶液に色素分子を添加することが有利になる。
【0115】
第4のステップでは、溶液を塗布した導電層6を、溶媒が蒸発して結晶性クラスターが導電層の表面に分散するまで乾燥させる。添加された色素分子は、溶媒が蒸発した後、クラスターと導電層との間で接着剤として機能し、クラスターが導電層に付着するようにする。
【0116】
本実施例では、溶液は、溶媒に分散したクラスターを含む。
【0117】
実施例3
結晶性クラスターは、導電層6の上に直接形成することもできる。
【0118】
第1のステップでは、例えば、色素の粉末の形態の固体色素を、固体色素を溶かす適切な溶媒に溶かすことによって色素溶液を製造する。色素および溶媒は、実施例1と同様とすることができる。
【0119】
第2のステップでは、導電層の上面に溶液を塗布する。例えば、導電層に溶液を噴霧することによって導電層の上面の塗布を行う。
【0120】
第3のステップでは、溶液を塗布した導電層を一定時間、例えば70℃で3時間加熱(アニール)することにより、溶媒を蒸発させて導電層6の上に固体色素をクラスター状に析出させ、クラスターの結晶化を実現させる。アニールは、空気中または、例えばアルゴンのような不活性雰囲気中または真空中で行うことができる。溶媒は、加熱中に蒸発する。
【0121】
クラスターが光を効率的に吸収するのに十分な厚さを有するクラスターの層を実現するために、噴霧と加熱の手順を数回繰り返することができる。色素溶液の濃度や乾燥中の温度を変えることで、異なる品質のクラスター層を実現することが可能である。例えば、乾燥を速くするとクラスターが小さくなるため、乾燥温度を高くすると溶媒の蒸発が速くなってクラスターを小さくできる。溶媒をゆっくりと蒸発させることで、導電層に大きなクラスターを成長させることが可能である。
【0122】
実施例4
まず、色素溶液に陽イオンを添加して、色素溶液から結晶構造の色素を析出させることでクラスターを製造する。陽イオンによって色素は溶媒に不溶となり、その結果、色素は溶液中に結晶構造の形で析出する。この結晶性クラスターは、沈殿とデカンテーションによって溶液から分離される。結晶性クラスターは、遠心分離後にデカンテーションを行うことによっても、より効率的に溶液から分離することもできる。あるいは、結晶性クラスターは、フィルターを通して濾過することによって、好ましくは真空を用い、フィルターを通して液晶混合物を吸引することによって、溶液から分離することもできる。あるいは、濾過および結晶液体混合物に過圧をかけ、フィルターを通して液体を押圧して結晶をフィルター上に残すことによって、溶液から結晶性クラスターを分離することもできる。
【0123】
結晶性クラスターは、例えば、噴霧、真空吸引、または電気噴霧によって導電層上に堆積することができる。
【0124】
実施例5
本実施例では、反射層を有する作用電極の製造方法について説明する。
【0125】
第1のステップでは、TiO2および溶媒を含む第1溶液を製造する。
【0126】
第2のステップでは、多孔質Tiからなる導電層の上面に、第1溶液を塗布する。例えば、導電層の上面の塗布は、導電層上に第1溶液を噴霧または印刷することによって行われる。
【0127】
第2のステップでは、第1溶液を塗布した導電層を、50~80℃の温度で溶媒が蒸発するまで乾燥させ、第1導電層上にTiO2粒子の層を形成させる。さらに、TiO2粒子を塗布した導電層を、例えば、約500℃で15分間焼成して、TiO2粒子と導電層とを結合させ、TiO2粒子および導電層間の電気的接触を実現する。
【0128】
第3のステップでは、例えば色素の粉末の形態の固体色素を、固体色素を溶かす適切な溶媒に溶かすことによって、第2溶液を製造する。色素および溶媒は、実施例1と同様とすることができる。
【0129】
第4のステップでは、色素溶液でTiO2粒子の層を塗布する。例えば、TiO2粒子の層に色素溶液を噴霧することによって塗布を行う。
【0130】
第5のステップでは、溶媒が蒸発し、TiO2粒子の層上に色素分子の複数のクラスターが形成されるまで、50~80℃の間でTiO2粒子および色素溶液を塗布した導電層を乾燥させる。さらに、TiO2粒子および色素溶液を塗布した導電層は、析出した色素分子のクラスターの結晶性を高めるために、一定時間の加熱(アニーリング)を行うことができる。
【0131】
他の実施例では、クラスターを製造する際に、色素とは他の材料の種を用いて、結晶化プロセスを開始させることができる。結晶は種上で成長して結晶性クラスターを形成する。製造過程中に種を使用する利点は、クラスターが球状となり、実質的に等しいサイズになりうることである。これにより、光吸収層の製造が容易となり、より均質な層を実現することが可能となる。
【0132】
なお、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではなく、以下の請求項の範囲内で種々の変更や修正を行ってもよい。例えば、光吸収層は、少量の第2の光吸収性光起電材料を含んでもよい。