(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物焼結板及び全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240619BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240619BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240619BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240619BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20240619BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240619BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2022570833
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020048035
(87)【国際公開番号】W WO2022137360
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 努
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 瑞稀
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093221(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221140(WO,A1)
【文献】特開2018-206609(JP,A)
【文献】特表2006-520525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物焼結板であって、前記リチウム複合酸化物焼結板は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成され、
気孔率が20~40%であり、
平均気孔径が3.5μm以上であり、
単位断面積1μm
2当たりの界面長が0.45μm以下である、リチウム複合酸化物焼結板。
【請求項2】
前記単位断面積1μm
2当たりの界面長が0.10~0.40μmである、請求項1に記載のリチウム複合酸化物焼結板。
【請求項3】
前記気孔率が20~36%である、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物焼結板。
【請求項4】
前記平均気孔径が3.5~15.0μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム複合酸化物焼結板。
【請求項5】
前記リチウム複合酸化物焼結板の厚さが30~300μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム複合酸化物焼結板。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物におけるLi/(Ni+Co+Mn)のモル比が0.95~1.10である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム複合酸化物焼結板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム複合酸化物焼結板を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
前記正極層と前記負極層との間にセパレータ層として介在し、かつ、前記リチウム複合酸化物焼結板の気孔にも充填される、LiOH・Li
2SO
4系固体電解質と、
を含む、全固体二次電池。
【請求項8】
前記負極活物質がLi
4Ti
5O
12である、請求項7に記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記LiOH・Li
2SO
4系固体電解質が前記負極層の気孔にも充填される、請求項7又は8に記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記LiOH・Li
2SO
4系固体電解質がX線回折により3LiOH・Li
2SO
4と同定される固体電解質を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物焼結板、及び全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質層として、リチウム複合酸化物(典型的にはリチウム遷移金属酸化物)の粉末とバインダーや導電剤等の添加物とを混練及び成形して得られた、粉末分散型の正極が広く知られている。かかる粉末分散型の正極は、容量に寄与しないバインダーを比較的多量に(例えば10重量%程度)含んでいるため、正極活物質としてのリチウム複合酸化物の充填密度が低くなる。このため、粉末分散型の正極は、容量や充放電効率の面で改善の余地が大きかった。そこで、正極ないし正極活物質層をリチウム複合酸化物焼結板で構成することにより、容量や充放電効率を改善しようとする試みがなされている。この場合、正極又は正極活物質層にはバインダーが含まれないため、リチウム複合酸化物の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率が得られることが期待される。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池においては、イオンを移動させる媒体として、希釈溶媒に可燃性の有機溶媒を用いた液体の電解質(電解液)が従来使用されている。このような電解液を用いた電池においては、電解液の漏液や、発火、爆発等の問題を生ずる可能性がある。このような問題を解消すべく、本質的な安全性確保のために、液体の電解質に代えて固体電解質を使用するとともに、その他の要素の全てを固体で構成した全固体電池の開発が進められている。このような全固体電池は、電解質が固体であることから、発火の心配がなく、漏液せず、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。
【0004】
焼結体電極及び固体電解質を用いた様々な全固体電池が提案されている。例えば、特許文献1(WO2019/093222A1)には、空隙率が10~50%のリチウム複合酸化物焼結板である配向正極板と、Tiを含み、かつ、0.4V(対Li/Li+)以上でリチウムイオンを挿入脱離可能な負極板と、配向正極板又は負極板の融点若しくは分解温度よりも低い融点を有する固体電解質とを備えた、全固体リチウム電池が開示されている。この文献には、そのような低い融点を有する固体電解質として、Li3OCl、xLiOH・yLi2SO4(式中、x+y=1、0.6≦x≦0.95である)(例えば3LiOH・Li2SO4)等の様々な材料が開示されている。このような固体電解質は融液として電極板の空隙に浸透させることができ、強固な界面接触を実現できる。その結果、電池抵抗及び充放電時のレート性能の顕著な改善、並びに電池製造の歩留まりも大幅な改善を実現できるとされている。また、特許文献2(WO2015/151566A1)には、Lip(Nix,Coy,Mnz)O2(式中、0.9≦p≦1.3、0<x<0.8、0<y<1、0≦z≦0.7、x+y+z=1)で表される基本組成の層状岩塩構造を有する配向正極板と、Li-La-Zr-O系セラミックス材料及び/又はリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料で構成される固体電解質層と、負極層とを備えた、全固体リチウム電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2019/093222A1
【文献】WO2015/151566A1
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、上述した低融点固体電解質の中でも、とりわけ3LiOH・Li2SO4等のLiOH・Li2SO4系固体電解質が高いリチウムイオン伝導度を呈するとの知見を得ている。しかしながら、特許文献1に開示されるような焼結体電極に3LiOH・Li2SO4等のLiOH・Li2SO4系固体電解質を用いてセルを構成し、電池動作したところ、活物質量より想定される理論容量よりも放電容量が低くなることが判明した。
【0007】
本発明者らは、今般、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物焼結板において、リチウム複合酸化物焼結板の微構造(特に気孔)を制御することにより、放電容量を大幅に向上できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、リチウムイオン二次電池に正極として組み込まれた場合に、放電容量を大幅に向上可能なリチウム複合酸化物焼結板を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物焼結板であって、前記リチウム複合酸化物焼結板は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成され、
気孔率が20~40%であり、
平均気孔径が3.5μm以上であり、
単位断面積1μm2当たりの界面長が0.45μm以下である、リチウム複合酸化物焼結板が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、
リチウム複合酸化物焼結板を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
前記正極層と前記負極層との間にセパレータ層として介在し、かつ、前記リチウム複合酸化物焼結板の気孔にも充填される、LiOH・Li2SO4系固体電解質と、
を含む、全固体二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本発明を特定するために用いられるパラメータの定義を以下に示す。
【0012】
本明細書において「気孔率」とは、焼結板における、気孔の体積比率である。この気孔率は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、焼結板を樹脂埋めし、イオンミリングにより断面研磨した後、研磨断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察して断面SEM像(例えば倍率500~1000倍)を取得し、得られたSEM画像を解析して、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)の合計面積に占める、樹脂で充填された部分の面積の割合(%)を算出して焼結板の気孔率(%)を算出すればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく気孔率を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する気孔率の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0013】
本明細書において「平均気孔径」とは、電極の焼結板内に含まれる気孔の直径の平均値である。かかる「直径」は、典型的には、当該気孔の投影面積を2等分する線分の長さ(マーチン径)である。本発明においては、「平均値」は、個数基準で算出されたものが適している。この平均気孔径は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、上述した気孔率測定で取得したSEM画像を解析して、焼結板における、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた後、樹脂で充填された部分の領域において、各領域の最大マーチン径を求め、それらの平均値を焼結板の平均気孔径とすればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく平均気孔径を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する平均気孔径の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0014】
本明細書において「単位断面積1μm2当たりの界面長」とは、焼結板の単位断面積1μm2当たりの、当該単位断面積に含まれる全ての気孔/活物質の界面の合計長さである。この界面長は、焼結板の断面SEM像を画像解析することにより測定することができる。例えば、上述した気孔率測定で取得したSEM画像を解析して、焼結板における、電極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた後、樹脂で充填された部分の領域において、全領域の周囲長(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分との界面の合計長さ)と、解析した全領域(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分の両方からなる領域)の面積を求める。そして、周囲長を、解析した全領域の面積で除し、単位断面積1μm2当たりの界面長とすればよい。所望の精度で測定が行えるのであれば、焼結板を樹脂埋めすることなく界面長を測定してもよい。例えば、気孔に固体電解質が充填された焼結板(全固体二次電池から取り出した正極板)に対する界面長の測定は、固体電解質が充填されたままの状態で行うことが可能である。
【0015】
リチウム複合酸化物焼結板
本発明によるリチウム複合酸化物焼結板は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるものである。このリチウム複合酸化物焼結板は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される。そして、このリチウム複合酸化物焼結板は、気孔率が20~40%であり、平均気孔径が3.5μm以上であり、単位断面積1μm2当たりの界面長が0.45μm以下である。このように、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるリチウム複合酸化物焼結板において、リチウム複合酸化物焼結板の微構造(特に気孔)を制御することにより、放電容量を大幅に向上することができる。
【0016】
前述のとおり、LiOH・Li2SO4系固体電解質等の低融点の固体電解質を採用した全固体リチウム電池が知られており(例えば特許文献1参照)、固体電解質が融液として電極板の空隙に浸透させることで界面接触を実現できる。その結果、電池抵抗及び充放電時のレート性能の改善、並びに電池製造の歩留まりも改善を実現できる。しかし、焼結体電極にLiOH・Li2SO4系固体電解質を用いてセルを構成し、電池動作したところ、活物質量より想定される理論容量よりも放電容量が低くなる。これは、正極活物質と固体電解質の反応による、固体電解質の劣化(伝導率低下)や界面でのLiイオン伝導の阻害となる高抵抗層の形成が、充放電特性に悪影響を及ぼすためではないかと考えられる。この点、本発明によればリチウム複合酸化物焼結板の微構造(特に気孔)を制御することにより、上記問題が解消ないし軽減され、その結果、放電容量が大幅に向上するものと考えられる。とりわけ、平均気孔径が大きく、かつ、単位断面積当たりの界面長が小さい特有の微構造が、放電容量の向上に大きく寄与する。これは、上記特有の微構造であると、固体電解質と焼結板間での元素拡散が抑制され、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和されるためと考えられる。
【0017】
リチウム複合酸化物焼結板は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される。換言すれば、リチウム複合酸化物焼結板は、Li、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子が結合した構造を有している。このリチウム複合酸化物は、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウムとも称されるものであり、NCMと略称されている。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα-NaFeO2型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。典型的なNCMは、Lip(Nix,Coy,Mnz)O2(式中、0.9≦p≦1.3、0<x<0.8、0<y<1、0≦z≦0.7、x+y+z=1であり、好ましくは0.95≦p≦1.10、0.1≦x<0.7、0.1≦y<0.9、0≦z≦0.6、x+y+z=1である)で表される組成を有し、例えばLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2及びLi(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2である。したがって、リチウム複合酸化物におけるLi/(Ni+Co+Mn)のモル比は0.95~1.10であるのが好ましく、より好ましくは0.97~1.08、さらに好ましくは0.98~1.05である。
【0018】
リチウム複合酸化物焼結板の気孔率は20~40%であり、好ましくは20~38%、より好ましくは20~36%、さらに好ましくは20~33%である。このような範囲内であると、電池を作製した場合に、気孔に固体電解質を十分に充填させることができ、かつ、正極内の正極活物質の割合が増えるため、電池としての高エネルギー密度を実現することができる。
【0019】
リチウム複合酸化物焼結板の平均気孔径は3.5μm以上であり、好ましくは3.5~15.0μmが好ましく、より好ましくは3.5~10.0μm、さらに好ましくは3.5~8.0μmである。このような範囲内であると、固体電解質と焼結板間での副反応による劣化を受けにくい固体電解質部(界面から離れた距離にある固体電解質部)が増える。そのため、固体電解質と焼結板間での元素拡散が抑制され、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、より効果的に放電容量が向上するものと考えられる。
【0020】
リチウム複合酸化物焼結板における単位断面積1μm2当たりの界面長は0.45μm以下であり、好ましくは0.10~0.40μm、より好ましくは0.10~0.35μm、さらに好ましくは0.10~0.30μmである。このような範囲内であると、焼結板と固体電解質が副反応を起こす場が減る。そのため、固体電解質と焼結板間での元素拡散が抑制され固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、より効果的に放電容量を向上するものと考えられる。
【0021】
リチウム複合酸化物焼結板の厚さは、電池のエネルギー密度向上等の観点から、30~300μmが好ましく、より好ましくは50~300μm、さらに好ましくは80~300μmである。
【0022】
リチウム複合酸化物焼結板の製造方法
本発明のリチウム複合酸化物焼結板はいかなる方法で製造されたものであってもよいが、好ましくは、(a)NCM原料粉末の作製、(b)NCMグリーンシートの作製、及び(c)NCMグリーンシートの焼成を経て製造される。
【0023】
(a)NCM原料粉末の作製
まず、NCM原料粉末を作製する。好ましいNCM原料粉末はLi(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2粉末、又はLi(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2粉末である。Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2粉末は、Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.00~1.30となるように秤量された(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末とLi2CO3粉末を混合後、700~1200℃(好ましくは750~1000℃)で1~24時間(好ましくは2~15時間)焼成することにより作製することができる。また、Li(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2粉末は、Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.00~1.30となるように秤量された(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末とLi2CO3粉末を混合後、700~1200℃(好ましくは750~1000℃)で1~24時間(好ましくは2~15時間)焼成することにより好ましく作製することができる。
【0024】
本発明のリチウム複合酸化物焼結板における特有の微構造(特に気孔)を実現するためには、体積基準D50粒径が3~20μm(好ましくは5~15μm)の大きめのNCM原料粉末と、体積基準D50粒径が0.05~1μm(好ましくは0.1~0.6μm)の小さめのNCM原料粉末を作製し、これらを混合して得た混合粉末を用いるのが好ましい。これらの大小2種類の混合粉末に占める大きめのNCM原料粉末の割合は50~99重量%が好ましく、より好ましくは70~95重量%である。小さめのNCM原料粉末は、大きめのNCM原料粉末をボールミル等の公知の手法で粉砕することにより作製すればよい。その際、小さめのNCM原料粉末には、焼結促進の目的でホウ酸リチウム(Li3BO3等)や硫酸リチウム(Li2SO4)を添加するのが好ましい。このように焼結助剤を添加することで、所望の微構造(界面長、気孔径等)を実現しやすくなり、無添加の場合と比べて焼成温度を低くすることもできる。小さめのNCM原料粉末に対するLi3BO3等の添加量は、Li3BO3添加後の混合粉末の合計量に対して、0.3~69重量%が好ましく、より好ましくは1.5~51重量%である。
【0025】
(b)NCMグリーンシートの作製
NCM原料粉末(好ましくは上述したNCM混合粉末)、溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散剤を混合してペーストとする。得られたペーストを粘度調整した後、シート状に成形することによってNCMグリーンシートを作製する。
【0026】
(c)NCM焼結板の作製
こうして作製したNCMグリーンシートを所望のサイズ及び形状に切り出し、焼成用鞘内に載置して焼成を行う。焼成は、昇温速度50~600℃/h(好ましくは100~300℃/h)で、800~1000℃(好ましくは850~970℃)に昇温して1~24時間(好ましくは2~12時間)保持することにより行うのが望ましい。こうしてリチウム複合酸化物焼結板(NCM焼結板)が得られる。
【0027】
全固体二次電池
本発明によるリチウム複合酸化物焼結板は、リチウムイオン二次電池(典型的には全固体電池)の正極に用いられるものである。したがって、本発明の好ましい態様によれば、本発明のリチウム複合酸化物焼結板を含む正極層と、負極層と、LiOH・Li2SO4系固体電解質とを備える全固体二次電池が提供される。負極層は負極活物質を含む。LiOH・Li2SO4系固体電解質は、正極層と負極層との間にセパレータ層として介在し、かつ、リチウム複合酸化物焼結板の気孔にも充填される。このように、微構造(特に気孔)が制御されたリチウム複合酸化物焼結板を正極層として含む全固体二次電池は、従来のLiOH・Li2SO4系固体電解質を用いた全固体二次電池よりも、高い放電容量を呈することができる。
【0028】
負極層(典型的には負極板)は負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に一般的に用いられる負極活物質を用いることができる。そのような一般的な負極活物質の例としては、炭素系材料や、Li、In、Al、Sn、Sb、Bi、Si等の金属若しくは半金属、又はこれらのいずれかを含む合金が挙げられる。その他、酸化物系負極活物質を用いてもよい。
【0029】
特に好ましい負極活物質は0.4V(対Li/Li+)以上でリチウムイオンを挿入脱離可能な材料を含み、好ましくはTiを含んでいる。かかる条件を満たす負極活物質は、少なくともTiを含有する酸化物であるのが好ましい。そのような負極活物質の好ましい例としては、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTOと称することがある)、ニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7、酸化チタンTiO2が挙げられ、より好ましくはLTO及びNb2TiO7、さらに好ましくはLTOである。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。
【0030】
負極は、一般に合材電極と呼ばれる、負極活物質、電子伝導助剤、リチウムイオン伝導性材料及びバインダー等の混合物を成形した形態であってもよいが、負極原料粉末を焼結した焼結板の形態であるのが好ましい。すなわち、負極又は負極活物質は焼結板の形態であるのが好ましい。焼結板は電子伝導助剤やバインダーを含まなくて済むため、負極のエネルギー密度を増大することができる。焼結板は緻密体でも多孔体でもよく、その多孔体の孔内には固体電解質を含んでもよい。
【0031】
負極活物質ないしその焼結板の気孔率は20~45%が好ましく、より好ましくは20~40%、さらに好ましくは25~35%である。このような範囲内の気孔率であると、負極活物質内の気孔に固体電解質を十分に充填させることができ、かつ、負極内の負極活物質の割合が増えるため、電池としての高エネルギー密度を実現することができる。
【0032】
負極活物質ないしその焼結板の厚さは、電池のエネルギー密度向上等の観点から、40~410μmが好ましく、より好ましくは65~410μm、さらに好ましくは100~410μm、特に好ましくは107~270μmである。
【0033】
固体電解質は、LiOH・Li2SO4系固体電解質である。LiOH・Li2SO4系固体電解質は、LiOH及びLi2SO4の複合化合物であり、典型的な組成は一般式:xLiOH・yLi2SO4(式中、x+y=1、0.6≦x≦0.95である)であり、代表例として、3LiOH・Li2SO4(上記一般式中x=0.75、y=0.25の組成)が挙げられる。好ましくは、LiOH・Li2SO4系固体電解質は、X線回折により3LiOH・Li2SO4と同定される固体電解質を含む。この好ましい固体電解質は3LiOH・Li2SO4を主相として含むものである。固体電解質に3LiOH・Li2SO4が含まれているか否かは、X線回折パターンにおいて、ICDDデータベースの032-0598を用いて同定することで確認可能である。ここで「3LiOH・Li2SO4」とは、結晶構造が3LiOH・Li2SO4と同一とみなせるものを指し、結晶組成が3LiOH・Li2SO4と必ずしも同一である必要はない。すなわち、3LiOH・Li2SO4と同等の結晶構造を有するかぎり、組成がLiOH:Li2SO4=3:1から外れるものも「3LiOH・Li2SO4」に包含されるものとする。したがって、ホウ素等のドーパントを含有する固体電解質(例えばホウ素が固溶し、X線回折ピークが高角度側にシフトした3LiOH・Li2SO4)であっても、結晶構造が3LiOH・Li2SO4と同一とみなせるかぎり、3LiOH・Li2SO4として本明細書では言及するものとする。同様に、本発明に用いる固体電解質は不可避不純物の含有も許容するものである。
【0034】
したがって、LiOH・Li2SO4系固体電解質には、主相である3LiOH・Li2SO4以外に、異相が含まれていてもよい。異相は、Li、O、H、S及びBから選択される複数の元素を含むものであってもよいし、あるいはLi、O、H、S及びBから選択される複数の元素のみからなるものであってもよい。異相の例としては、原料に由来するLiOH、Li2SO4及び/又はLi3BO3等が挙げられる。これらの異相については3LiOH・Li2SO4を形成する際に、未反応の原料が残存したものと考えられるが、リチウムイオン伝導に寄与しないため、Li3BO3以外はその量は少ない方が望ましい。もっとも、Li3BO3のようにホウ素を含む異相については、高温長時間保持後のリチウムイオン伝導度維持度の向上に寄与しうることから、所望の量で含有されてもよい。もっとも、固体電解質はホウ素が固溶された3LiOH・Li2SO4の単相で構成されるものであってもよい。
【0035】
LiOH・Li2SO4系固体電解質(特に3LiOH・Li2SO4)はホウ素をさらに含むのが好ましい。3LiOH・Li2SO4と同定される固体電解質にホウ素をさらに含有させることで、高温で長時間保持した後においてもリチウムイオン伝導度の低下を有意に抑制することができる。ホウ素は3LiOH・Li2SO4の結晶構造のサイトのいずれかに取り込まれ、結晶構造の温度に対する安定性を向上させるものと推察される。固体電解質中に含まれる硫黄Sに対するホウ素Bのモル比(B/S)は、0.002超1.0未満であるのが好ましく、より好ましくは0.003以上0.9以下、さらに好ましくは0.005以上0.8以下である。上記範囲内のB/Sであるとリチウムイオン伝導度の維持率を向上することが可能である。また、上記範囲内のB/Sであるとホウ素を含む未反応の異相の含有量が低くなるため、リチウムイオン伝導度の絶対値を高くすることができる。
【0036】
LiOH・Li2SO4系固体電解質は、溶融凝固体を粉砕した粉末の圧粉体であってもよいが、溶融凝固体(すなわち加熱溶融後に凝固させたもの)が好ましい。
【0037】
LiOH・Li2SO4系固体電解質は、負極層の気孔にも充填されるのが好ましい。固体電解質層の厚さ(正極層及び負極層内の気孔に入り込んだ部分を除く)は充放電レート特性と固体電解質の絶縁性の観点から、1~500μmが好ましく、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~40μmである。
【0038】
全固体二次電池の製造
リチウムイオン二次電池(典型的には全固体電池)の製造は、例えば、i)正極(すなわち本発明のリチウム複合酸化物焼結板)と負極とを準備し、ii)正極と負極との間に固体電解質を挟んで加圧や加熱等を施して正極、固体電解質及び負極を一体化させることにより行うことができる。正極、固体電解質、及び負極は他の手法により結合されてもよい。この場合、正極と負極の間に固体電解質を形成させる手法の例としては、一方の電極上に固体電解質の成形体や粉末を載置する手法、電極上に固体電解質粉末のペーストをスクリーン印刷で施す手法、電極を基板としてエアロゾルディポジション法等により固体電解質の粉末を衝突固化させる手法、電極上に電気泳動法により固体電解質粉末を堆積させて成膜する手法等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の説明において、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.3Co0.6Mn0.1)O2等のLi、Ni、Co及びMnを含む層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を「NCM」と略称し、Li4Ti5O12を「LTO」と略称するものとする。
【0040】
まず、以下に示すように正極板を作製するためのNCM原料粉末1~10を作製した。また、これら原料粉末の特徴を要約したものを表1に示す。
【0041】
[NCM原料粉末1の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)2粉末(平均粒径9~10μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、750℃で10時間保持し、NCM原料粉末1を得た。この粉末の体積基準D50粒径は8μmであった。
【0042】
[NCM原料粉末2の作製]
NCM原料粉末1にLi3BO3を(NCM原料粉末1及びLi3BO3の合計量に対して)2.45重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末2を得た。
【0043】
[NCM原料粉末3の作製]
NCM原料粉末1にLi3BO3を(NCM原料粉末1及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末3を得た。
【0044】
[NCM原料粉末4の作製]
NCM原料粉末1をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約5.5μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末4を得た。
【0045】
[NCM原料粉末5の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径7~8μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、850℃で10時間保持し、NCM原料粉末5を得た。この粉末の体積基準D50粒径は6.5μmであった。
【0046】
[NCM原料粉末6の作製]
NCM原料粉末5にLi3BO3を(NCM原料粉末5及びLi3BO3の合計量に対して)9.2重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末6を得た。
【0047】
[NCM原料粉末7の作製]
NCM原料粉末5にLi3BO3を(NCM原料粉末5及びLi3BO3の合計量に対して)16.8重量%加え、ボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末7を得た。
【0048】
[NCM原料粉末8の作製]
NCM原料粉末5をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約0.4μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末8を得た。
【0049】
[NCM原料粉末9の作製]
NCM原料粉末5をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約4.3μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末9を得た。
【0050】
[NCM原料粉末10の作製]
Li/(Ni+Co+Mn)のモル比が1.15となるように秤量された市販の(Ni0.3Co0.6Mn0.1)(OH)2粉末(平均粒径7~8μm)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、950℃で10時間保持し、得られた粉末をボールミルの湿式粉砕にて体積基準D50粒径を約1.9μmに調整した後、乾燥してNCM原料粉末10を得た。
【0051】
上記原料粉末1~10を用いて、以下に示すように正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0052】
例1
(1)正極板の作製
(1a)NCMグリーンシートの作製
まず、表1に示されるようにNCM原料粉末1及び2を80:20の配合割合(重量比)で均一に混合してNCM混合粉末Aを用意した。この混合粉末Aと、テープ成形用の溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散剤とを混合した。得られたペーストを粘度調整した後、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にシート状に成形することによってNCMグリーンシートを作製した。NCMグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが100μmとなるように調整した。
【0053】
(1b)NCM焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたNCMグリーンシートをポンチで直径11mmの円形に抜き出し、焼成用鞘内に載置した。昇温速度200℃/hで940℃まで昇温して10時間保持することで焼成を行った。得られた焼結板の厚みはSEM観察より、約100μm厚であった。このNCM焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。こうして、正極板を得た。
【0054】
(2)負極板の作製
(2a)LTOグリーンシートの作製
Li/Tiのモル比が0.84となるように秤量された市販のTiO2粉末(平均粒径1μm以下)とLi2CO3粉末(平均粒径3μm)を混合後、1000℃で2時間保持し、LTO粒子からなる粉末を得た。この粉末をボールミルの湿式粉砕にて平均粒径約2μmに調整した後、テープ成形用の溶媒、バインダー、可塑剤及び分散剤と混合した。得られたペーストの粘度を調整した後、このペーストをPETフィルム上にシート状に成形することによってLTOグリーンシートを作製した。LTOグリーンシートの厚さは焼成後の厚さが130μmとなるように調整した。
【0055】
(2b)LTO焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたLTOグリーンシートをポンチで直径11mmの円形に抜き出し、焼成用鞘内に載置した。昇温速度200℃/hで850℃まで昇温して2時間保持することで焼成を行った。得られた焼結板の厚さはSEM観察より、約130μmであった。このLTO焼結板の片面にスパッタリングによりAu膜(厚さ100nm)を集電層として形成した。こうして、負極板を得た。
【0056】
(3)固体電解質の作製
(3a)原料混合粉末の準備
Li2SO4粉末(市販品、純度99%以上)、LiOH粉末(市販品、純度98%以上)、及びLi3BO3(市販品、純度99%以上)をLi2SO4:LiOH:Li3BO3=1:2.6:0.05(モル比)となるように混合して原料混合粉末を得た。これらの粉末は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で取り扱い、吸湿等の変質が起こらないように十分に注意した。
【0057】
(3b)溶融合成
Ar雰囲気中で原料混合粉末を高純度アルミナ製のるつぼに投入した。このるつぼを電気炉にセットし、430℃で2時間、Ar雰囲気で熱処理を行い溶融物を作製した。引き続き、電気炉内にて100℃/hで溶融物を冷却して凝固物を形成した。
【0058】
(3c)乳鉢粉砕
得られた凝固物をAr雰囲気中のグローブボックス内で乳鉢にて粉砕することによって、体積基準D50粒径が5~50μmの固体電解質粉末を得た。
【0059】
(4)全固体電池の作製
正極板上に固体電解質粉末を載置し、その上に負極板を載置した。更に負極板上に重しを載置し、電気炉内で400℃で45分間加熱した。このとき、固体電解質粉末は溶融し、その後の凝固を経て電極板間に固体電解質層が形成された。得られた正極板/固体電解質/負極板で構成されるセルを用いて電池を作製した。
【0060】
(5)評価
(5a)厚さ及び気孔率の測定
上記(1)で作製された正極板(固体電解質を含まない状態のNCM焼結板)と上記(2)で作製された負極板(固体電解質を含まない状態のLTO焼結板)のそれぞれの厚さ及び気孔率(体積%)を以下のようにして測定した。まず、正極板(又は負極板)を樹脂埋め後、イオンミリングにより断面研磨した後、研磨された断面をSEMで観察して断面SEM画像を取得した。このSEM画像より厚さを算出した。気孔率測定のSEM画像は、倍率1000倍及び500倍の画像とした。得られた画像に対し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板(又は負極板)における、正極活物質(又は負極活物質)の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)の合計面積に占める、樹脂で充填された部分の面積の割合(%)を算出して正極板(又は負極板)の気孔率(%)とした。2値化する際のしきい値は、判別分析法として大津の2値化を用いて設定した。正極板の気孔率は表2に示されるとおりであり、負極板の気孔率は38%であった。
【0061】
(5b)平均気孔径の測定
上記の気孔率測定に使用したSEM画像を用い、以下のようにして平均気孔径を測定した。画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板(又は負極板)における、正極活物質(又は負極活物質)の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた。その後、樹脂で充填された部分の領域において、各領域の最大マーチン径を求め、それらの平均値を正極板(又は負極板)の平均気孔径(μm)とした。正極板の平均気孔径は表2に示されるとおりであり、負極板の平均気孔径は2.1μmであった。
【0062】
(5c)単位断面積1μm2当たりの界面長の測定
上記の気孔率測定に使用したSEM画像を用い、以下のようにして単位断面積1μm2当たりの界面長を測定した。画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Premier)を用いて、2値化処理を行い、正極板における、正極活物質の部分と樹脂で充填された部分(もともと気孔であった部分)を切り分けた。その後、樹脂で充填された部分の領域において、全領域の周囲長(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分との界面の合計長さ)と、解析した全領域(すなわち正極活物質の部分と樹脂で充填された部分の両方からなる領域)の面積を求めた。周囲長を、解析した全領域の面積で除し、単位断面積1μm2当たりの界面長(μm)とした。結果を表2に示す。
【0063】
(5d)正極板における金属元素のモル比の測定
上記(1)で作製された正極板におけるLi含有量のNi、Co及びMnの合計含有量に対するモル比率Li/(Ni+Co+Mn)を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES法)による金属元素分析の測定結果から算出した。結果を表2に示す。
【0064】
(5e)XRDによる固体電解質の同定
上記(3c)で得られたLiOH・Li2SO4系固体電解質をX線回折(XRD)で解析したところ、3LiOH・Li2SO4と同定された。
【0065】
(5f)充放電評価
上記(4)で作製された電池について、150℃の作動温度における電池の放電容量を2.5V-1.5Vの電圧範囲において測定した。この測定は、電池電圧が上記電圧範囲の上限に達するまで定電流定電圧充電した後、上記電圧範囲の下限になるまで放電することにより行った。結果を表2に後述する他の例との相対値で示す。
【0066】
例2
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末1及び3を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Bを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0067】
例3
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末5及び6を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Cを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0068】
例4
上記(1)の正極板の作製において、焼成温度を950℃としたこと以外は、例3と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0069】
例5
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末5及び6を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Dを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0070】
例6
上記(1)の正極板の作製において、焼成温度を950℃としたこと以外は、例5と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0071】
例7
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末5及び7を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Eを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0072】
例8
上記(1)の正極板の作製において、焼成温度を950℃としたこと以外は、例7と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0073】
例9
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末5及び8を90:10の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Fを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0074】
例10
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末5及び8を95:5の配合割合(重量比)で含むNCM混合粉末Gを用いたこと、及び2)焼成温度を950℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0075】
例11
上記(1)の正極板の作製において、焼成温度を970℃としたこと以外は、例10と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0076】
例12(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末4のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0077】
例13(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末9のみを用いたこと、及び2)焼成温度を920℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0078】
例14(比較)
上記(1)の正極板の作製において、1)混合粉末Aの代わりに、表1に示されるNCM原料粉末10のみを用いたこと、及び2)焼成温度を890℃としたこと以外は、例1と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0079】
例15(比較)
上記(1)の正極板の作製において、焼成温度を920℃としたこと以外は、例14と同様にして正極板及び電池を作製し、各種評価を行った。
【0080】
結果
表2に各例で作製した正極板の仕様及びセルの評価結果を示す。なお、充放電特性は同レート条件で比較し、例13(比較)で測定された放電容量を100とし、これに対する相対値を算出して表2に示した。
【0081】
【0082】
【0083】
本発明の要件を満たすリチウム複合酸化物焼結板を用いた例1~11の電池では、本発明の要件を満たさない例12~15(比較例)の電池に対して、有意に高い放電容量を示した。これは、界面長を小さくすることにより正極層と固体電解質が副反応を起こす場が減ったこと、及び平均気孔径が大きくなることにより副反応による劣化を受けにくい固体電解質部(界面から離れた距離にある固体電解質部)が増えたことに起因するものと考えられる。これにより、固体電解質の劣化によるLiイオン伝導性の低下が緩和され、レート特性ないし放電容量の大幅な向上につながったものと考えられる。