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  • 特許-防眩フィルム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】防眩フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20240619BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240619BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240619BHJP
   G02B 1/111 20150101ALN20240619BHJP
【FI】
G02B5/02 C
B32B7/023
B32B27/20 Z
G02B1/111
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023172529
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2022054190の分割
【原出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023175912
(43)【公開日】2023-12-12
【審査請求日】2023-10-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 旭平
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034416(JP,A)
【文献】特開2015-014735(JP,A)
【文献】特開2009-244305(JP,A)
【文献】特開2006-227353(JP,A)
【文献】特開2011-082149(JP,A)
【文献】国際公開第2020/246314(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
B32B 7/023
B32B 27/20
G02B 1/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、
前記防眩層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び、(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記防眩層形成用組成物は、
前記(B)成分が、体積平均粒径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であり、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満のものであり、
前記防眩層表面の、算術平均粗さ(Ra)が90~400nm、二乗平均粗さ(Rq)が120~500nm、最大山高さ(Rp)が2~15μmであり、
前記防眩フィルムの、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置を用いて測定される透過鮮明度が400以上であり、
前記防眩層表面のヘイズ値が、3%以上、30%以下であり、かつ、
前記防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であること
を特徴とする防眩フィルム。
【請求項2】
前記(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対し、0質量部超2質量部未満である、請求項に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記(B)成分が、定形の無機成分含有フィラーである、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記防眩層の残留溶媒濃度が30(ppm)以下である、請求項1~3のいずれかに記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記防眩層表面の60°グロス値が、20以上である、請求項1~のいずれかに記載の防眩フィルム。
【請求項6】
前記防眩層の、基材層とは反対の面側に反射防止層を有する、請求項1~のいずれかに記載の防眩フィルム。
【請求項7】
100ppi(ピクセル/インチ)以上の解像度のディスプレイに用いられるものである、請求項1~のいずれかに記載の防眩フィルム。
【請求項8】
基材層と防眩層を有する防眩フィルムの製造方法であって、
(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、(C)成分:分散剤、及び、蒸発速度が0.5(mg/cm・分)以下の溶媒を、全溶媒の20~80質量%含む混合溶媒を含有する防眩層形成用組成物であって、
前記(B)成分が、体積平均粒径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であって、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、かつ、
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満である防眩層形成用組成物を、
前記基材層としての基材フィルム上にコーティングして塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥した後、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させて防眩層を形成することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防眩性を有するとともに、高精細ディスプレイに適用した場合であっても、経時的な外観変化が少なく、白ムラやギラツキの発生を効果的に抑制することができる防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラウン管や液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等のディスプレイにおいては、画面において外部からの入射光(以下、「外光」と称する場合がある。)が反射して、表示画像が視認しにくくなるのを防止するために、防眩層を有する防眩フィルムを用いる技術が実施されている。
【0003】
防眩層の形成手法としては、フィラーを含有する防眩層形成用組成物を用いる方法が知られている。用いるフィラーとしては、アクリル系フィラー等の有機フィラー(樹脂微粒子)、シリカ系フィラー等の無機フィラー、及び、シリコーン系フィラー等の有機無機ハイブリッドフィラー等が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂微粒子とシリカ微粒子を両方含む組成物を用いる、防眩性ハードコートフィルムの作製方法が開示されている。
特許文献2には、シリカ微粒子とシリコーン樹脂微粒子を用いる、防眩性フィルムの作成方法が開示されている。
特許文献3には、無機酸化物粒子と重合性不飽和基を含む有機化合物とを結合させてなる粒子と、シリコーン微粒子を用いる、防眩性ハードコートフィルムの作成方法が開示されている。
特許文献4には、シリカ微粒子、樹脂粒子を用いる、防眩ハードコートフィルムの作成方法が開示されている。
特許文献5には、有機系又は無機系の球状微粒子を用いる、防眩フィルムの作成方法が開示されている。
特許文献6には、粒径の異なる2種類の微粒子を用いる、防眩ハードコートフィルムの作成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6603652号
【文献】特開2004-082613号公報
【文献】特開2010-204479号公報
【文献】特開2021-085014号公報
【文献】特開2015-132744号公報
【文献】特開2010-237585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、これまでにも、各種フィラーを用いた防眩フィルムの作製方法がいくつか提案されている。
しかしながら、得られる防眩フィルムには、経時的に外観が変化したり、防眩性が低下する等の問題があった。特に高精細ディスプレイにおいては、このような外観変化の発生や防眩性の低下がわずかに発生するだけで、白ムラやギラツキが発生し易く、画質の低下を招き易いため適用が難しく、適用できたとしても所望の性能を満たさない不良品の発生頻度も多いため歩留まりが悪い。
従って、経時的に外観が変化することがなく、かつ、高精細ディスプレイにも好適な防眩フィルムが望まれている。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、優れた防眩性を有するとともに、経時的に外観が変化することのない防眩フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記課題を解決すべく検討した結果、基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、前記防眩層が、活性エネルギー線硬化性樹脂、シリカフィラー及び/又はシリコーンフィラー、並びに分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成されてなる層であり、防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)が80nm以上、二乗平均平方根粗さ(Rq)が80~500nm、又は、最大山高さ(Rp)が1μm以上であり、かつ、透過鮮明度が400以上である防眩フィルムは、優れた防眩性を有するとともに、経時的に外観が変化することのないものであり、白ムラやギラツキの発生をも効果的に抑制できることを見出した。そして、この知見を一般化することにより、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、下記〔1〕~〔10〕の防眩フィルム、及び、〔11〕の防眩フィルムの製造方法が提供される。
〔1〕基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、
前記防眩層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び、(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記防眩層形成用組成物は、
前記(B)成分が、体積平均粒径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であり、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、かつ、
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満のものであり、
前記防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)が90nm以上であり、
前記防眩フィルムの、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置を用いて測定される透過鮮明度が400以上であり、
前記防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であることを特徴とする防眩フィルム。
〔2〕基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、
前記防眩層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び、(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記防眩層形成用組成物は、
前記(B)成分が、体積平均粒径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であり、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、かつ、
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満のものであり、
前記防眩層表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)が80~500nmであり、
前記防眩フィルムの、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置を用いて測定される透過鮮明度が400以上であり、
前記防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であることを特徴とする防眩フィルム。
〔3〕基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、
前記防眩層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び、(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記防眩層形成用組成物は、
前記(B)成分が、体積平均粒径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であり、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、かつ、5
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満のものであり、
前記防眩層表面の最大山高さ(Rp)が1μm以上であり、
前記防眩フィルムの、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置を用いて測定される透過鮮明度が400以上であり、
前記防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であることを特徴とする防眩フィルム。
〔4〕前記(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対し、0質量部超2質量部未満である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔5〕前記(B)成分が、定形の無機成分含有フィラーである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔6〕前記防眩層の残留溶媒濃度が30(ppm)以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔7〕前記防眩層表面のヘイズ値が、3%以上、30%以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔8〕前記防眩層表面の60°グロス値が、20以上である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔9〕前記防眩層の、基材層とは反対の面側に反射防止層を有する、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔10〕100ppi(ピクセル/インチ)以上の解像度のディスプレイに用いられるものである、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の防眩フィルム。
〔11〕基材層と防眩層を有する防眩フィルムの製造方法であって、
(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、(C)成分:分散剤、及び、蒸発速度が0.5(mg/cm・分)以下の溶媒を、全溶媒の20~80質量%含む混合溶媒を含有する防眩層形成用組成物であって
前記(B)成分が、体積平均粒子径が0.1~10μmの球状フィラーであり、
前記(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であって、
前記(C)成分が、分子内に少なくとも一つの、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基から選ばれる極性基を有する化合物の少なくとも一種であり、かつ、
有機フィラーを含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満である防眩層形成用組成物を、
前記基材層としての基材フィルム上にコーティングして塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥した後、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させて防眩層を形成することを特徴とする〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた防眩性を有するとともに、経時的な外観の変化がなく、白ムラやギラツキの発生を効果的に抑制することができる防眩フィルムが提供される。本発明の防眩フィルムは、高精細ディスプレイに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の防眩フィルムの特徴を説明するための模式図である。図1(a)は、フィラーとしてアクリルフィラーを含有する防眩層から、アクリルフィラーに吸収された溶媒が経時的に揮発し、結果として外観が変化することを説明する模式図である。図1(b)は、フィラーとしてシリカフィラーを含有する防眩層の経時的変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の防眩フィルムを詳細に説明する。
本発明の防眩フィルムは、基材層と防眩層とを有する防眩フィルムであって、前記防眩層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成される層であり、前記防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)が80nm以上であり、前記防眩フィルムの透過鮮明度が400以上であり、かつ、前記防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であることを特徴とする。
【0013】
1.基材層
本発明の防眩フィルムは、基材層と防眩層とを有する。
本発明に係る基材層としては、従来光学用フィルムとして用いられている公知の樹脂フィルムの中から適宜選択して好ましく用いることができる。
【0014】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、透明性や基材密着性に優れ、耐熱性に優れる観点、及び、後述する光学物性を満たし易い観点から、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが好ましい。
【0015】
基材層は、後述する光学物性を満たすものであれば、単層又は2層以上の樹脂フィルムからなるものであってよい。また、基材層表面には、その上に防眩層等を形成するに際して、接着性向上のために、コロナ放電処理、酸化処理等の物理的処理を施してもよい。
【0016】
基材層の厚みは、得られる防眩フィルムとしての取扱い性等を考慮すると、15~300μmであるのが好ましく、後述するヘイズ変化率等の光学物性を満たし易い観点から、20~200μmであるのがより好ましく、40~160μmであるのがさらに好ましく、50~120μmであるのが特に好ましく、60~90μmであるのが最も好ましい。
【0017】
2.防眩層
本発明に係る防眩層は、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:無機成分含有フィラー、及び(C)成分:分散剤を含有する防眩層形成用組成物から形成される層である。
【0018】
(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂
本発明に係る防眩層を形成するための防眩層形成用組成物は、(A)成分として活性エネルギー線硬化性樹脂(本明細書において「(A)成分」と称する場合がある。)を含有する。当該(A)成分は、紫外線、電子線、X線等の活性エネルギー線が照射されることによって、架橋、硬化する重合性化合物である。
【0019】
(A)成分としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものの中から選択することができ、活性エネルギー線硬化性のモノマー、オリゴマー、樹脂又はこれらの混合物を用いることができる。
【0020】
なかでも、(A)成分としては、(B)成分と(C)成分との混錬性の観点、及び、ヘイズ変化率等の光学物性等を所望の範囲に調整し易い観点から、多官能(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマー等を使用することが好ましい。
【0021】
ここで、本明細書において、(メタ)アクリル系モノマーとは、アクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーを意味し、(メタ)アクリレート系プレポリマーは、アクリレート系プレポリマー又はメタクリレート系プレポリマーを意味する。
【0022】
多官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらのモノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
前記(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、ポリエステルアクリレート系プレポリマー、エポキシアクリレート系プレポリマー、ウレタンアクリレート系プレポリマー、ポリオールアクリレート系プレポリマー等が挙げられる。
【0024】
ここで、ポリエステルアクリレート系プレポリマーは、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸に、アルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシアクリレート系プレポリマーは、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。
ウレタンアクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
ポリオールアクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
これらのプレポリマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上述した多官能(メタ)アクリル系モノマーと併用してもよい。
【0025】
また、優れた硬度や耐擦傷性を有する防眩フィルムを得られ易い観点、並びに、後述するヘイズ変化率及び光学物性等を所望の範囲に調整し易くなる観点から、(A)成分として、シリカゾル含有の活性エネルギー線硬化性樹脂を用いるのも好ましい。
シリカゾル含有の活性エネルギー線硬化性樹脂としては、シリカゾル含有の前記多官能(メタ)アクリル系モノマー、シリカゾル含有の前記(メタ)アクリレート系プレポリマー等が挙げられる。
【0026】
(B)成分:無機成分含有フィラー
本発明に係る防眩層を形成するための防眩層形成用組成物は、(B)成分として、無機成分含有フィラー(本明細書において「(B)成分」と称する場合がある。)を含有する。当該(B)成分は、フィラー自体を焼成した場合に無機残渣が残るフィラーである。なお、(B)成分には、いわゆる、無機フィラー及び有機無機ハイブリッドフィラーが含まれる。
本発明に係る防眩層は、(B)成分を含有することで、ヘイズ変化率等の光学物性を満たし易く、また、所望の硬度や耐擦傷性を有した上で高精細ディスプレイに好適な表面粗さを得られ易いものである。
また、(B)成分は、有機フィラーと比較して、溶媒を吸収しにくいという特徴がある。そのため、防眩層を形成するための防眩層形成用組成物が溶媒を含む場合、当該防眩層形成用組成物中で、(B)成分が溶媒を吸収して膨潤することによる粒径変化が抑制される。これにより、防眩層形成後に、防眩層中の(B)成分から経時的に溶媒が揮発して、防眩層の光学物性(ヘイズ等)が変化してしまうといった不具合を防止することができる。
【0027】
無機フィラーとしては、珪素、ジルコニウム、チタン、インジウム、亜鉛、錫、アンチモン、タングステンから選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物粒子;炭酸カルシウム微粒子;硫酸バリウム微粒子;タルク微粒子;カオリン微粒子;硫酸カルシウム微粒子;等が挙げられる。なかでも、(A)成分と(C)成分との混錬性が良好になり易い観点、及び、ヘイズ変化率等の光学物性を所望の範囲に調整し易い観点から、珪素、ジルコニウム、チタン、インジウム、亜鉛、錫、アンチモン、タングステンから選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物粒子を使用することが好ましく、(A)成分及び(C)成分と相俟って高精細ディスプレイに好適な表面粗さを形成し易い観点から、珪素酸化物粒子を使用することが特に好ましい。
有機無機ハイブリッドフィラーとしては、シリコーン系フィラー等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、(A)成分と(C)成分との混錬性が良好になり易い観点、及び、ヘイズ変化率等の光学物性を所望の範囲に調整し易い観点から、珪素、ジルコニウム、チタン、インジウム、亜鉛、錫、アンチモン、タングステンから選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物粒子、シリコーン系フィラーを使用することが好ましく、防眩層が高精細ディスプレイに好適な表面粗さを得られ易い観点から、珪素酸化物粒子(本明細書において「シリカ系フィラー」と称する場合がある。)、シリコーン系フィラーを使用することがより好ましく、ヘイズ変化率を所望の範囲にし易い観点から、シリカ系フィラーを使用することが特に好ましい。
【0029】
シリカ系フィラーとしては、乾式シリカ微粒子、湿式シリカ微粒子、シリカゲル微粒子、カルシウムイオン交換シリカ微粒子、コロイド状シリカ微粒子、表面官能基を有するシリカ微粒子等が挙げられる。
表面官能基を有するシリカ微粒子としては、表面官能基として重合性不飽和基を含む基を有するシリカ微粒子(本明細書において「反応性シリカ微粒子」と称する場合がある。)が挙げられる。かかる反応性シリカ微粒子は、例えば、シリカ微粒子の表面のシラノール基に、該シラノール基と反応し得る官能基を有する重合性不飽和基含有有機化合物を反応させることにより得ることができる。
重合性不飽和基としては、ラジカル重合性の(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
シラノール基と反応し得る官能基を有する重合性不飽和基含有有機化合物としては、アクリル酸、アクリル酸クロリド、アクリル酸2-イソシアナートエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2,3-イミノプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等;及びこれらアクリル酸誘導体に対応するメタクリル酸誘導体;を好ましく用いることができる。
これらのアクリル酸誘導体やメタクリル酸誘導体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
シリコーン系フィラーとしては、ポリオルガノシロキサン骨格を有する珪素化合物粒子等のシリコーン樹脂フィラー;エポキシ変性シリコーン樹脂フィラー、アリール変性シリコーン樹脂フィラー、末端アルケニル変性シリコーン樹脂フィラー、アクリル変性シリコーン樹脂フィラー等の変性シリコーン樹脂;等が挙げられる。
【0031】
本発明に用いる(B)成分は、後述する溶媒との関係において、フィラー10mgを溶媒10ml中に24時間浸漬させたときの溶媒吸収量が、1mg以下であるものが好ましく、0.1mg以下であるものがより好ましく、0.01mg以下であるものが特に好ましい。溶媒吸収量をこのような範囲とすることにより、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整することができるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを形成し易くなる。なお、当該溶媒吸収量の下限値は、通常0mgである。
【0032】
(B)成分の形状は、定形であっても不定形であってもよい。ここで、定形であるとは、フィラーが、略一定の形状を有することを意味し、不定形であるとは、フィラーが、特に定まった形状を有しないことを意味する。(B)成分の形状は、上述した(A)成分と混合されたときに、当該(A)成分中に均一に分散し、光の散乱状態を均質化して、防眩性を安定化させる観点から、定形であることが好ましく、球状であることがより好ましく、真球状であることが特に好ましい。ここで、球状とは、真球状の他、回転楕円体、卵形、金平糖状、まゆ状等球体に近似できる多面体形状を含む意である。
【0033】
(B)成分の形状が球状である場合、その体積平均粒子径は、特に制限されないが、通常、0.1~10μmであり、0.5~6μmであることが好ましく、1.0~3μmであることがより好ましく、1.2~2.0μmであることがさらに好ましく、1.3~1.8μmであることが特に好ましい。これにより、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整することができるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを形成し易くなる。
なお、(B)成分の体積平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
(B)成分の屈折率は、1.2~1.6であることが好ましく、1.3~1.55であることがより好ましく、1.4~1.5であることがさらに好ましく、1.42~1.45であることが特に好ましい。これにより、ヘイズ値変化率等の光学物性を満たし易いものとなる。
【0035】
(B)成分の配合量は、特に制限されないが、前記(A)成分100質量部に対して、0.1~100質量部であるのが好ましく、0.5~50質量部であることがより好ましく、1~30質量部であることがさらに好ましく、2~20質量部であることが特に好ましく、3~12質量部であることが最も好ましい。これにより、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整することができるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを形成し易くなる。
(B)成分の配合量を0.1質量部以上とすることで、防眩層の表面に好適な範囲でフィラーが偏在し、微細な凹凸が形成され、所望の防眩性が得られやすくなる。
また、(B)成分の配合量を100質量部以下とすることで、ヘイズ値が大きくなりすぎてディスプレイの表示画像の視認性が低下するのを防ぎ、活性エネルギー線硬化性樹脂の配合割合を下げずに、耐擦傷性や良好な硬度が得られやすくなる。
【0036】
また、本発明に係る防眩層を形成するための防眩層形成用組成物は、有機フィラー(フィラー自体を焼成した場合に無機残渣が残らないフィラー)を含有しない、又は、有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、0質量部超5質量部未満であることが好ましく、有機フィラーを含有しないことが特に好ましい。
有機フィラーは、無機成分含有フィラーに比べて溶媒を吸収しやすい特徴がある。そのため、有機フィラー及び溶媒を含む防眩層形成用組成物から形成された防眩層においては、その形成過程において、有機フィラーは溶媒を吸収して膨潤し易く、膨潤した状態のまま(溶媒を吸収した状態のまま)防眩層中に残り易い。そして、有機フィラー中に残留した溶媒は、フィルム形成後に経時により揮発し、これにより、ヘイズ値等の光学物性の変化を引き起こすおそれがある。したがって、有機フィラーを用いないのが好ましい。
【0037】
(C)成分:分散剤
本発明に係る防眩層を形成するための防眩層形成用組成物は、(C)成分として分散剤(本明細書において「(C)成分」と称する場合がある。)を含有する。
当該(C)成分を含有することにより、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整できるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有するものとなる。このことは、次のように推定される。
(B)成分としての無機成分含有フィラーは、有機フィラーに比べて比重が大きく沈降しやすいため、沈降具合の制御が難しく、無機成分含有フィラーを防眩層の表面に偏析させて高精細ディスプレイに好適な表面粗さや防眩性ならびに光学物性を安定的に得ることは困難であった。ゆえに、(B)成分を使用することは、高精細な防眩フィルムの作製には不向きであると考えられていた。しかしながら、(C)成分を併用することによって、沈降し易い(B)成分を使用するにも関わらず、防眩層形成用組成物の塗膜における(B)成分の沈降具合が制御される。これにより、(B)成分は、防眩層表面に好適に偏在し、微細な凹凸を安定的に形成し、ひいては優れた防眩性を発出することができる。したがって、(C)成分を含有することにより、本発明に係る防眩層は、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整できるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有するものとなると考えられる。
【0038】
(C)成分は、上記の目的を達成するために、分子内に少なくとも1つの極性基を有する化合物であることが好ましい。ここで、極性基は、極性をもった官能基(又は原子団)をいい、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アミド基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、スルホニウム塩基及びホスホニウム塩基などが挙げられる。
これらの極性基を有する(C)成分を用いることにより、防眩層形成用組成物の塗膜における無機成分含有フィラーの沈降具合をより効果的に制御することができる。
かかる(C)成分のメカニズムは、明確には解明されていないが、分散剤中の極性基が、無機成分含有フィラーの表面に配位し、その結果、無機成分含有フィラーの表面の極性が変化し、無機成分含有フィラーが塗膜の表面近傍に存在する確率が高くなるものと推定される。
【0039】
上述した極性基の中でも、カルボキシル基、スルホ基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基が特に好ましい。これらの極性基を有する分散剤は、無機成分含有フィラーの表面に対して、より効果的に配位することができるためである。
また、上述した極性基は、樹脂の分子中にランダムに配置されていてもよいが、ブロック構造、又はグラフト構造により、極性基が分子中の末端部分に配置されているものが好ましい。これにより、フィラーへの吸着性能が高くなる。
【0040】
(C)成分が有する極性基は、分子内に1つ導入されていても、複数導入されていてもよい。分子内に複数の極性基を有する場合、それぞれの極性基を有する有機化合物同士を結合する基本骨格が必要となるが、そのような基本骨格としては、エステル連鎖、ビニル連鎖、アクリル連鎖、エーテル連鎖及びウレタン連鎖等で構成されるものが好ましい。さらにまた、これらの分子中の水素原子の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0041】
これらの中でも、(C)成分としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びアルキド樹脂が好ましく、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整できるとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有するものとなる観点から、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が特に好ましい。
また、(C)成分の分子量は特に限定されず、100から90万までの幅広いものの中から選択することができる。
(C)成分は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
(C)成分の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して、0質量部超2質量部以下であることが好ましく、0.1~1.5質量部であることがより好ましく、0.2~1質量部であることがさらに好ましく、0.3~0.6質量部であることが特に好ましい。(C)成分の配合量をこのような範囲にすることで、ヘイズ値変化率等の光学物性を所望の範囲に調整できるとともに、高精細ディスプレイがより好適な表面粗さを有するものとなる。
(C)成分を配合しない場合には、(B)成分を防眩層の表面において好適な範囲で偏在させることが困難となり、所望の防眩性を得ることが困難となるおそれがある。一方、(C)成分の配合量が2質量部を超えると、防眩層の耐擦傷性や硬度が低下するおそれがある。
【0043】
(D)成分:他の成分
本発明に係る防眩層を形成するための防眩層形成用組成物は、前記(A)~(C)成分以外に、他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、レベリング剤、光重合開始剤等が好ましく挙げられる。
【0044】
レベリング剤を用いることにより、形成される防眩層の膜厚が均一になり、スジ状の欠点やムラ等がなく、優れた外観を有し、所望の光学物性を発揮できる防眩層が得られる。
【0045】
レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、ビニル系レベリング剤等が挙げられる。なかでも、レベリング性が高く、他の成分との相溶性がいいこと等から、シリコーン系レベリング剤及びフッ素系レベリング剤が好ましい。
【0046】
シリコーン系レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサン又は変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
フッ素系レベリング剤としては、パーフルオロアルキル基又はフッ素化アルケニル基を主鎖又は側鎖に有する化合物等が挙げられる。
レベリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
レベリング剤を用いる場合、その配合割合は、(A)成分100質量部に対して、通常0.0005~10質量部であり、0.001~5質量部であることが好ましく、0.01~1質量部であることがより好ましく、0.05~0.6質量部であることがさらに好ましく、0.1~0.3質量部であることが特に好ましい。レベリング剤の配合割合がこのような範囲にあることで、レベリング効果を十分に得ることができ、得られる防眩層は、所望の光学物性を発揮するとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有するものとなる。
【0048】
また、光重合開始剤を用いることにより、防眩層を形成する際、重合硬化時間及び光線照射量を少なくすることができる。特に、活性エネルギー線として紫外線などの活性光を照射して架橋させる場合には、光重合開始剤を存在させることが好ましい。
【0049】
光重合開始剤としては、特に制約はなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、p-ジメチルアミノ安息香酸エステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
光重合開始剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
光重合開始剤を用いる場合、その配合割合は、(A)成分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.2~10質量部であることがより好ましい。光重合開始剤の配合量が0.1質量部未満では、配合効果が得られない。一方、光重合開始剤の配合量が20質量部を超えると、防眩層の耐擦傷性及び硬度が低下する場合がある。
【0051】
(E)防眩層形成用組成物の調製
本発明で用いる防眩層形成用組成物は、適当な溶媒中に、上述した必須成分としての(A)~(C)成分、及び所望により(D)成分を加え、溶解又は分散させることにより調製することができる。
このとき、(A)~(D)成分の他にも、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シラン系カップリング剤、光安定剤、消泡剤、赤外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤等の他の成分を、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で適宜配合することもできる。
【0052】
用いる溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチルセロソルブ、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のセロソルブ類;3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1-エトキシ-2-プロパノール等のグリコールエーテル類;等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、本発明においては、溶媒として、蒸発速度が0.5(mg/cm・分)以下の溶媒を、全溶媒の20~80質量%、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%使用するのが好ましい。すなわち、蒸発速度が0.5(mg/cm・分)以下の溶媒と、蒸発速度が0.5(mg/cm・分)超えの溶媒とを所定の割合で有する混合溶媒を使用するのが好ましい。
このような溶媒を用いることにより、(B)成分を防眩層表面に好適な範囲で偏在させやすくし、所望の光学物性を発揮するとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有する防眩層を得ることができる。また、例えば、経時的なヘイズ変化をより抑制することができ、ひいては防眩フィルムの経時的な外観変化を抑制できる。
【0054】
蒸発速度が0.5(mg/cm・分)以下の溶媒としては、1-ブタノール(0.47)、ジイソブチルケトン(0.2)、シクロヘキサノン(0.32)、イソホロン(0.026)、エチルセロソルブ(0.38)、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル(0.08)、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル(0.19)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(0.07)、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート(0.10)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(0.004)、1-エトキシ-2-プロパノール(0.34)等が挙げられる(かっこ内は、蒸発速度(mg/cm・分)を表す)。
【0055】
溶媒の使用量は、防眩層形成用組成物が、塗膜形成に適した状態(濃度、粘度)となるように、状況に応じて適宜決定することができる。
溶媒の使用量は、前記(A)成分100質量部に対して、50~500質量部であるのが好ましく、70~300質量部であるのがより好ましく、90~200質量部であるのがさらに好ましく、100~150質量部であるのが特に好ましい。溶媒の使用量を上記範囲とすることにより、無機成分含有フィラーを防眩層表面に好適な範囲で偏在させやすくし、所望の光学物性を発揮するとともに、高精細ディスプレイに好適な表面粗さを有する防眩層を得ることが容易となる。また、例えば、経時的なヘイズ変化をより抑制することができ、ひいては防眩フィルムの経時的な外観変化をより抑制できる。
【0056】
(F)防眩層の形成
防眩層の形成方法としては、特に制約はない。
例えば、前記基材層としての基材フィルムに、直接又は他の層を介して、前記防眩層形成用組成物を、従来公知の塗工法を用いてコーティングし、塗膜を形成する。塗工法としては、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥した後、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させ、防眩層を形成することができる。
【0057】
塗膜を硬化させる際に用いる活性エネルギー線としては、紫外線;電子線;半導体レーザー、アルゴンレーザー、He-Cdレーザー等のレーザー光;α線、β線、γ線、中性子線、X線、加速電子線のような電離性放射線;等が挙げられる。
これらの中でも、活性エネルギー線としては、比較的簡便な装置を用いて発生させることができることから、紫外線、電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0058】
活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、紫外線源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。
【0059】
紫外線の光量は特に制限はないが、通常100~1,000mJ/cmであり、照度は通常100~1000mW/cmである。照射時間は、通常1秒から1時間であり、照射温度は、通常20~100℃である。
【0060】
本発明に係る防眩層の膜厚は、特に限定されないが、通常0.5~20μm、好ましくは0.8~15μm、より好ましくは1~10μm、さらに好ましくは1.5~6μm、特に好ましくは2~5μmである。
防眩層の膜厚をこのような範囲とすることにより、所望の光学物性を発揮するとともに、高精細ディスプレイに好適な防眩フィルムを得ることがより容易となる。
防眩層の膜厚が0.5μm未満となると、鉛筆硬度において実使用上必要な硬度を得ることが困難となる場合がある。
一方、防眩層の膜厚が20μmを超えると、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化収縮に伴うカールや、防眩フィルムを曲げた際に生じる防眩層におけるクラックを抑制することが困難になる場合がある。
【0061】
前記他の層としては、プライマー層が挙げられる。プライマー層は、基材層と防眩層の双方の面と親和性があり、接着性の強い材料からなるものである。当該プライマー層は、例えば、基材層の表面に、ポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールと、ポリイソシアネートとよりなる反応型の塗工液を0.5~2g/m塗工して形成することができる。
【0062】
(G)反射防止層
本発明の防眩フィルムは、防眩層の、基材層側とは反対の面側に、反射防止層を有していてもよい。
反射防止層を設けることにより、太陽光、蛍光灯などによる反射から生じる画面の映り込みが解消され、また、表面の反射率を抑えることで、全光線透過率が上がり、透明性が向上する。なお、反射防止層の種類によっては、帯電防止性の向上を図ることもできる。
本発明においては、反射防止層を形成する工程が増え、防眩フィルムの形成により多くの時間を要する場合であっても、経時的に防眩層の外観が変化するおそれがなく管理が容易である。
【0063】
反射防止層は、例えば、アクリル系樹脂、中空シリカ微粒子、及び、光重合開始剤等を含有する反射防止層形成用組成物の塗布液を、防眩層上に直接又は他の層を介して塗布し、乾燥させることで形成することができる。
反射防止層の膜厚は、通常5~200nm、好ましくは50~150nmである。
本発明の防眩フィルムが反射防止層を有する場合、その反射率は、3.0%以下であることが好ましい。なお、当該反射率は、通常0%以上である。
反射率がこのような範囲であることで、外光の映りこみが抑制され、視認性に優れた光学製品を提供でき、特に高精細ディスプレイに好適なものとなる。
反射率は、紫外可視近赤外(UV-VIS-NIR)分光光度計を用いて測定することができる。
【0064】
(H)防眩フィルムの構成等
本発明の防眩フィルムは、表示体用として好適に用いられ、特に高精細ディスプレイに好適に用いられる。ここで、本明細書において、高精細ディスプレイとは、100ppi(ピクセル/インチ)以上の解像度のディスプレイを意味する。当該高精細ディスプレイの解像度は、140ppi以上であることが好ましく、180ppi以上であることがより好ましく、220ppi以上であることがさらに好ましく、260ppi以上であることが特に好ましい。
このような解像度を有する高精細ディスプレイにおいては防眩性の低下やギラツキの発生などの不具合が生じ易いが、本発明の防眩フィルムは、このような解像度を有する高精細ディスプレイの表面に積層しても前述した不具合が抑制されるため好適に用いることができる。
【0065】
本発明の防眩フィルムの層構成としては、以下のもの等が挙げられる。
基材層/防眩層、基材層/プライマー層/防眩層、基材層/防眩層/反射防止層、基材層/プライマー層/防眩層/反射防止層
【0066】
防眩フィルムは、使用時まで防眩層の表面を保護する目的で、一方の面又は両面に表面保護シートを有していてもよい。表面保護シートは使用時に剥離除去されるものである。
表面保護シートとしては、従来公知の樹脂フィルムが用いられる。具体的には、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等;これらの架橋フィルム;これらの積層フィルム;等が挙げられる。
【0067】
また、本発明の防眩フィルムは、偏光子に貼合して偏光板とすることもできる。
【0068】
3.防眩フィルムの特性
本発明の防眩フィルムは、防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)は80nm以上であり、透過鮮明度は400以上であり、かつ、防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下のものである。
これにより、優れた防眩性を有するとともに、経時的に外観が変化することがなく、白ムラやギラツキの発生をも効果的に抑制することができ、特に高精細ディスプレイに好適なものとなる。
【0069】
(1)表面粗さ〔算術平均粗さ(Ra)、二乗平均平方根粗さ(Rq)、最大山高さ(Rp)〕
本発明の防眩フィルムにおいては、防眩層表面(基材層側とは反対側の表面)の算術平均粗さ(Ra)が80nm以上であることが好ましく、90nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、120nm以上であることが特に好ましい。
本発明の防眩フィルムは、防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)が80nm以上であることにより、優れた防眩性を発揮し、特に高精細ディスプレイに好適なものとなる。
また、防眩層表面の算術平均粗さ(Ra)は、400nm以下であることが好ましく、所望の光学物性を満たし易い観点から、300nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましく、ヘイズ変化率を特に満たし易い観点から、200nm以下であることが特に好ましい。
【0070】
また、防眩層表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)は、80~500nmであることが好ましく、110~400nmであることがより好ましく、120~300nmであることがさらに好ましく、ヘイズ変化率を満たし易い観点から、180~300nmであることが特に好ましい。
防眩層表面の最大山高さ(Rp)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。最大山高さ(Rp)は、15μm以下であることが好ましい。
【0071】
本発明の防眩フィルムは、防眩層の表面粗さ(Ra、Rq、Rp)がこのような値を有するものであり、フィラーが防眩層表面に偏析しており、高精細で緻密な凹凸を有し、防眩性が高く、高精細ディスプレイに適用した場合であっても、白ムラやギラツキが発生しにくいものである。
【0072】
表面粗さ〔算術平均粗さ(Ra)、二乗平均平方根粗さ(Rq)、最大山高さ(Rp)〕は、JIS B601-2001に準拠して、表面粗さ測定装置を用いて測定することができる。
なお、防眩層の上に反射防止層を備える場合、前記「防眩層の表面」は、「防眩層上の反射防止層の表面」を意味する。以下にて同様である。
【0073】
(2)透過鮮明度
本発明の防眩フィルムの透過鮮明度は、400以上であることが好ましく、400~480であることがより好ましい。
透過鮮明度は視認性の指標となり、この値が低いと十分に良好な表示画質(視認性)が得られない。本発明の防眩フィルムは、透過鮮明度が上記範囲を満たし、クリア感に優れるものであるため、特に高精細ディスプレイに好適なものとなる。
透過鮮明度は、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置を用いて、透過モードで、防眩層側から光を照射し、5クシの写像性合計値(クシ幅:0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を算出することにより求めることができる。
【0074】
(3)ヘイズ値及びヘイズ変化率
本発明の防眩フィルムにおいて、防眩層表面のヘイズ値は、3~30%であることが好ましく、4~25%であることがより好ましく、5~18%であることがさらに好ましく、7~15%であることが特に好ましい。ヘイズ値がこのような範囲にあることで、防眩フィルムは、優れた防眩性を発揮し、特に高精細ディスプレイに好適なものとなる。
ヘイズ値が3%未満となると、優れた防眩性を得ることが困難になるおそれがある。
一方、ヘイズ値が30%を超えると、ディスプレイの表示画像の視認性が低下するおそれがある。
ヘイズ値は、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0075】
本発明の防眩フィルムにおいては、防眩フィルムを70℃で7日間放置した後の防眩層表面のヘイズ変化率が5%以下であり、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1.0%以下であり、特に好ましくは0.6%以下であり、最も好ましくは0.1%以下である。
ここで、ヘイズ変化率は、式:〔(初期のヘイズ値)-(70℃で7日間放置した後のヘイズ値)〕/(初期のヘイズ値)×100(%)により算出される値である。
【0076】
図1に、防眩層表面の経時変化を表す模式図を示す。
図1(a)は、有機フィラーであるアクリルフィラーを用いた場合、図1(b)は、無機成分含有フィラーであるシリカフィラーを用いた場合を表す。
有機フィラーであるアクリルフィラーを用いた場合、図1(a)左図に示すように、アクリルフィラーは溶媒分子を吸収して膨潤する。その後、経時的に溶媒分子はアクリルフィラーから揮発していくため、防眩層表面の状態が変化し、防眩層のヘイズ変化が生じる。
一方、無機成分含有フィラーであるシリカフィラーを用いた場合、図1(b)左図に示すように、シリカフィラーはアクリルフィラーのようには溶媒分子を吸収しない。そのため、溶媒分子が経時的に揮発していくということがなく、結果として、防眩層のヘイズが低下することがない。
【0077】
本発明の防眩フィルムにおいては、防眩層に、溶媒を吸収しやすい有機フィラーを実質的に使用せず(有機フィラーの含有量が、(A)成分100質量部に対して、通常5質量部未満)、無機成分含有フィラーを用いる。そのため、防眩層表面のフィラーから、吸収された溶媒が揮発して、経時的にヘイズが低下するおそれがない。従って、本発明の防眩フィルムを高精細ディスプレイに適用した場合であっても、白ムラやギラツキを抑制することができる。
【0078】
(4)残留溶媒濃度
本発明の防眩フィルムにおいては、防眩層の残留溶媒濃度は、30(ppm)以下であることが好ましく、20(ppm)以下であることがより好ましく、10(ppm)以下であることがさらに好ましく、10(ppm)未満であることが特に好ましい。残留溶媒濃度の下限値は、通常0(ppm)である。
本発明の防眩フィルムの防眩層は、溶媒を吸収しやすい有機フィラーを実質的に含まないため、上記残留溶媒濃度が上記範囲であることで、経時的に溶媒が揮発して、ヘイズが変化するおそれがなく、特に高精細ディスプレイに好適に使用することができる。
残留溶媒濃度は、後述する試験例に示す方法にて測定することができる。
【0079】
(5)60°グロス
本発明の防眩フィルムの防眩層表面の60°グロス(光沢度)の値は、20以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、ヘイズ変化率との両立の観点から、40以上であることがさらに好ましく、50以上であることが特に好ましく、55以上であることが最も好ましい。また、当該60°グロスの値は、150以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましく、100以下であることが特に好ましい。
60°グロスが上記範囲であることから、本発明の防眩フィルムを高精細ディスプレイに適用した場合であっても、白ムラやギラツキをより効果的に抑制することができる。
60°グロスの値が150を超えると表面光沢度が大きくなり過ぎて(光の反射が大きくなり過ぎて)、防眩性に悪影響を及ぼす場合がある。
60°グロスは、JIS Z 8741:1997に準拠して、グロスメーターを用いて、測定することができる。
【0080】
(7)全光線透過率
本発明の防眩フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは91%以上である。全光線透過率の上限値は、通常100%である。
本発明の防眩フィルムは、高い全光線透過率を有するため、ディスプレイの表示画像の視認性に優れたものとなり、特に高精細ディスプレイに好適に使用することができる。
全光線透過率は、JIS K 7361-1に準拠して、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0081】
(8)硬度
本発明の防眩フィルムの防眩層の鉛筆硬度は、H以上であることが好ましく、2H以上であることが好ましい。また、当該鉛筆硬度は、通常9H以下であり、7H以下であることが好ましく、5H以下であることがより好ましく、4H以下であることがさらに好ましく、3H以下であることが特に好ましい。本発明の防眩フィルムは、このような硬度を有するため、耐擦傷性に優れ、高精細ディスプレイ等の表示体の表面において使用された際に、優れた表面保護性を発揮する。特に表面が傷つきにくくなるため、表示体の美観を良好に保持することができる。
鉛筆硬度は、JIS K5600に準拠して、鉛筆引っかき硬度試験機を用いて測定することができる。
【0082】
(9)耐擦傷性
本発明の防眩フィルムの防眩層は、スチールウールを用いた耐擦傷性の評価において外観変化がないものであることが好ましい。具体的には、防眩層表面について、JIS K5600-5-10に準じて、#0000のスチールウールを用いて、250g/cmの荷重で10cm、10往復擦った後、当該表面に傷が生じないことが好ましい。これにより、高精細ディスプレイ等の表示体の表面において使用された際に、優れた表面保護性を発揮し、表示体の美観を良好に保持することができる。
耐擦傷性の評価は、後述する試験例に記載の方法により実施することができる。
【0083】
本発明の防眩フィルムは、上述の通り、適度な表面粗さ、透過鮮明度を有し、経時的なヘイズ変化率が小さく、優れた防眩性を有し、高精細ディスプレイに好適に用いることができる。
【0084】
なお、本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0086】
[実施例1-3、5、6、比較例1-3]
(1)防眩層形成用組成物の調製
表1及び下記に示すように、(A)成分としての活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分としての無機成分含有フィラー、(C)成分としての分散剤、及び、(D)成分としてのレベリング剤を溶媒中で混合し、防眩層形成用組成物を調製した。
なお、表1及び下記における(A)成分、(B)成分の配合量は、固形分換算された値を示す。
【0087】
(A)成分
シリカゾル含有ウレタンアクリレート(オプスター7530、濃度:73質量%、荒川化学社製):100質量部
(B)成分
B1:高純度シリカ球状微粒子粉体(平均粒子径1.5μm、シーホスターKE-S150、日本触媒社製、屈折率1.43)
B2:シリコーン樹脂微粒子(平均粒子径2μm、球状、トスパール120、モメンティブ社製、屈折率1.43)
B3:架橋アクリルビーズ(平均粒子径1.2μm、球状、ART PEARL J-3PY、根上工業社製、屈折率1.50):このものは、本発明の(B)成分に該当しないが、便宜上B3成分として記載する。
【0088】
(C)成分
カルボキシル基含有ポリマー変性物(フローレン G-700(濃度100質量%)、共栄社化学社製)
(D)成分
レベリング剤(ポリジメチルシロキサン:SH28(濃度100質量%)、ダウ・東レ社製)
【0089】
〈溶媒〉
下記の溶媒を100ml用いた。
S1:プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)/シクロヘキサノン混合溶媒(質量比:1:1)
S2:PGM
【0090】
(2)塗布工程
得られた防眩層形成用組成物を、基材層としてのトリアセチルセルロースフィルム(製品名「コニカタックKC8UAW」、厚さ80μm、コニカミノルタ社製)上に、ワイヤーバー#14を用いて、硬化後の膜厚が5μmとなるように塗布し、塗布層を形成した。
【0091】
(3)乾燥工程
得られた塗布層を、熱風乾燥装置を用いて、70℃、1分間の条件で乾燥させた。
【0092】
(4)硬化工程
次いで、乾燥させた塗布層に対して、紫外線照射装置(光源:高圧水銀灯、ジーエスユアサコーポレーション製)を用いて、照度:200mW/cm、光量:200mJ/cmの条件にて紫外線を照射し、塗布層を硬化させて防眩層を形成し、実施例1-3、5、6、比較例1-3の防眩フィルムを得た。
【0093】
[実施例4]
多官能(メタ)アクリレートを含有するアクリル系樹脂(製品名「NKエステルA-DPH」、固形分濃度100質量%、新中村化学社製)10質量部、中空シリカ微粒子(製品名「スルーリア4320」、固形分濃度20.5質量%、日揮触媒社製)30質量部、光重合開始剤(製品名「OMNIRAD 907」、固形分濃度100質量%、BASF社製)0.3質量部、及び、フッ素系防汚剤(製品名「メガファックRS-90」、固形分濃度10質量%、DIC社製)0.2質量部を、メチルイソブチルケトンとシクロヘキサノンとの混合溶媒(質量比:1:1)中で混合し、固形分濃度1.0~2.0質量%の反射防止層形成用組成物の塗布液を得た。
次いで、実施例3で得られた防眩フィルムの防眩層の、基材層とは反対の面側に、前記塗布液を、乾燥後の厚さが100nmとなるように塗布した。得られた塗膜を、熱風乾燥装置を用いて、70℃、1分間の条件にて乾燥させた後、紫外線照射装置(光源:高圧水銀灯、ジーエスユアサコーポレーション製)を用いて、照度:200mW/cm、光量:200mJ/cmとの条件にて紫外線を照射することにより、反射防止層を形成した。
これにより、基材層/防眩層/反射防止層の層構成からなる、実施例4の反射防止層付防眩フィルムを得た。
【0094】
実施例1-6、比較例1-3で得られた防眩フィルムについて、下記の評価を行った。
(1)表面粗さ
得られた防眩フィルムの防眩層表面の表面粗さ〔算術平均粗さRa(nm)、二乗平均平方根粗さRq(nm)及び最大山高さRp(μm)〕を、JIS B601-2001に準拠して、表面粗さ測定装置(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0095】
(2)透過鮮明度
得られた防眩フィルムにつき、JIS K 7374に準拠して、写像性試験装置(ICM-1T、スガ試験機社製)を用いて、透過モードで、防眩層側から光を照射し、5クシの写像性合計値(クシ幅:0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を算出した。
結果を表1に示す。
【0096】
(3)ヘイズ値及びヘイズ変化率
得られた防眩フィルムの防眩層表面のヘイズ値(%)を、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘイズメーター(NDH5000、日本電色工業社製)を用いて、ブランクで補正後に、防眩層側から光を照射して測定した。
さらに、当該防眩フィルムを70℃で7日間放置した後のヘイズ値(%)を同様に測定した。そして、ヘイズ変化率(%)を、式:〔(初期のヘイズ値)-(70℃で7日間放置した後のヘイズ値)〕/(初期のヘイズ値)×100(%)により算出した。
結果を表1に示す。
【0097】
(4)残留溶媒濃度
得られた防眩フィルムの防眩層の残留溶媒濃度を測定した。
すなわち、ガスクロマトグラフィー装置(装置名「GC-2010」、島津株式会社製)を使用し、キャリアガスとして窒素を用い、カラムオーブンで120℃で20分間加熱し、防眩層中に含まれる残留溶媒濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0098】
(5)60°グロス(光沢度)
得られた防眩フィルムにつき、JIS Z 8741に準拠して、グロスメーター(VG7000、日本電色社製)を用いて、防眩層表面の60°グロスを測定した。
結果を表1に示す。
【0099】
(6)全光線透過率
得られた防眩フィルムにつき、JIS K 7361-1に準拠して、ヘイズメーター(NDH5000、日本電色工業社製)を用いて、ブランクで補正後に防眩層側から光を照射して、全光線透過率(%)を測定した。
結果を表1に示す。
【0100】
(7)硬度
得られた防眩フィルムにおける防眩層表面の鉛筆硬度を、JIS K5600に準拠して、鉛筆引っかき硬度試験機(製品名「No.553-M」、安田精機製作所社製)を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0101】
(8)耐擦傷性
得られた防眩フィルムにおける防眩層表面の耐擦傷性を評価した。
すなわち、防眩層表面を、JIS K5600-5-10に準拠して、#0000のスチールウールを用いて、250g/cmの荷重で10cmの摺動距離にて10往復擦った。次いで、防眩層表面における傷の有無を、3波長蛍光灯の下で目視にて確認し、下記基準に沿って評価した。
○:防眩層の外観に変化が確認されない(確認される傷の本数が0本)
×:防眩層の外観に変化が確認される(確認される傷の本数が1本以上)
結果を表1に示す。
【0102】
(9)反射率
反射防止層を設けた実施例4の防眩フィルムについて、UV-VIS-NIR測定器(UV-3600、島津製作所製)を用い、反射率を測定した。
反射率は2.4%であった。
【0103】
(10)防眩性
実施例および比較例で得られた防眩フィルムにおける基材側の面と、黒板とを、粘着剤を用いて貼り合わせて、測定用サンプルを得た。当該測定用サンプルについて、防眩層側の面(基材層側とは反対の面)の上方で3波長蛍光灯を点灯させ、その光を当該面で反射させた。
反射光を目視して、以下の基準で防眩性を評価した。
結果を表1に示す。
◎:視認される蛍光灯の輪郭がぼやけた。
〇:視認される蛍光灯の輪郭が少しぼやけた。
×;視認される蛍光灯の輪郭が全くぼやけなかった。
【0104】
(11)ギラツキ
実施例及び比較例で得られた防眩フィルムの基材層側の面を、タブレット端末(製品名「NEW iPad(登録商標)」、解像度:264ppi、アップル社製)の表示面と接触するように積層した。その後、タブレット端末を全面緑色表示(RGB値(R,G,B)=0,255,0)とした状態で、目視によりギラツキの有無を確認した。その結果に基づいて、以下の基準にてギラツキの評価を行った。
結果を表1に示す。
◎:ギラツキが全く確認されなかった。
〇:ギラツキがわずかに確認された。
×:ギラツキが全面に確認された。
【0105】
【表1】
【0106】
表1より、実施例1-6の本発明の防眩フィルムは、光学特性、硬度、耐擦傷性及び防眩性に優れ、経時的なヘイズ変化率が低く、ギラツキが少ないことが分かる。
一方、比較例1の防眩フィルムは、表面粗さが80nm未満と小さいものであるため、防眩性が低いものである。
比較例2の防眩フィルムは、フィラーとしてアクリルフィラーを使用しているため、残留溶媒濃度が高く、ヘイズ変化が大きいことが確認された。
分散剤を用いない比較例3の防眩フィルムは、分散剤を用いる実施例3の防眩フィルムと比較してフィラーが偏析しにくいものであり、表面粗さが小さく、防眩性が低いものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上、詳述したように、本発明の防眩フィルムは、優れた防眩性を維持しつつ、白ムラやギラツキの発生を効果的に抑制するものであり、高精細ディスプレイにおける視認性の向上に著しく寄与することが期待される。
図1