(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ウィッグ用ベース、ウィッグ、及びウィッグの製造方法
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
A41G3/00 D
A41G3/00 N
(21)【出願番号】P 2023183952
(22)【出願日】2023-10-26
【審査請求日】2023-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 正雄
(72)【発明者】
【氏名】菅原 文隆
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-024489(JP,U)
【文献】実開昭52-157991(JP,U)
【文献】実開昭47-007082(JP,U)
【文献】特開2001-329421(JP,A)
【文献】特開2015-036302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上のベース材を接合部分で接合して構成されるウィッグ用ベースであって、
前記接合部分において、装着者の頭部側に相当する内面側に位置する接合部分が外縁部分に設定された第1のベース材と、
該第1のベース材の接合部分に対して、擬毛が植設される外面側に重なる接合部分が外縁部分に設定された第2のベース材と、を備え、
前記第1
のベース材及び第2
のベース材には、伸縮性が異なる複数の領域として、低伸縮領域と、低伸縮領域より伸縮性の高い高伸縮領域とが設定され、
前記高伸縮領域は、ウィッグ用ベースのうち側頭部から後頭部に跨がって設定される高伸縮範囲において、複数箇所に点在するように、且つ複数種類の大きさを用いて配置され、
前記高伸縮範囲は、頭頂部側に近づくに従って、大きなサイズの前記高伸縮領域が配置される領域を含むようにして構成され、
前記第1のベース材の接合部分は、当該第1のベース材の厚み分の段差しかウィッグ用ベースの前記内面側に生じないよう折り返しを設けない構成とされ、
前記第1のベース材の外周部分を形成する外縁が、前記第2のベース材の外縁部分よりも内側において前記内面側に位置する配置にした状態で、前記第1のベース材と前記第2のベース材とが接着により一体化されて構成され、
前記第1のベース材の厚み分に相当する段差のみが前記内面側に生じるようにして前記接合部分が構成されている、ことを特徴とするウィッグ用ベース。
【請求項2】
前記接合部分には、2列に並んで配列される点状の接着部が設けられ、1つの列の接着部と、隣の列の接着部とが隣り合わないように互いにズレた位置に配置される領域を含んで構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のウィッグ用ベース。
【請求項3】
前記低伸縮領域と前記高伸縮領域は、互いに異なる色として視認可能であって、ウィッグ用ベースを視認した場合に前記低伸縮領域と前記高伸縮領域とを識別可能に構成され、
前記高伸縮範囲には、略菱形状に構成された前記高伸縮領域が、前頭部側から側頭部を経由して後頭部に連続する周方向において複数並んで配置され、前記高伸縮領域において対角に位置する2つの頂点部分が周方向の両側に位置し、残りの2つの頂点部分が頭頂部側と、ウィッグ用ベースの外周縁側に相当する下側に位置する配置となるようにして構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のウィッグ用ベース。
【請求項4】
請求項1から3に記載のウィッグ用ベースに擬毛を植設して構成される、ウィッグ。
【請求項5】
請求項1から3に記載のウィッグ用ベースを用いたウィッグの製造方法であって、
2枚以上のベース材を接合部分で接合し、ウィッグ用ベースの外周縁部分の少なくとも一部に、折り返しのない区間が設定されたウィッグ用ベースを製造するベース製造工程と、
前記ベース製造工程で製造されたウィッグ用ベースの外周縁部分の少なくとも一部を切断して除去することにより、ウィッグ用ベースの大きさを調整するサイズ調整工程を備えていることを特徴とするウィッグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィッグ用ベース、ウィッグ、及びウィッグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウィッグの装着者には、自毛が残っている人もいれば、自毛がほとんど無い人もいるし、ウィッグの大きさについても、部分的なものから頭部全体を覆うようなものまで多様であり、多種のウィッグが開発されている。この多種のウィッグの1つとして、ウィッグの装着者の頭部に自毛がほとんど残っていない状況でも利用可能な全頭タイプのウィッグがある。特許文献1には、全頭タイプのウィッグ(カツラ)として、伸縮性のある帯体の表面に滑止め材を設けることで、着用時のフィット感を高めるとともに、ウィッグの位置ずれを防止するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、全頭タイプのウィッグなどに利用可能なウィッグ用ベースは、複数枚のベース材を縫い合わせて立体的な形状とする必要があるが、この縫い合わせが行われる接合部分は、装着者にとって違和感となることがあった。また縫い合わせ部分の段差が大きいと、自毛が少ない装着者の頭皮に段差部分が接触して擦れることとなり、皮膚に与える刺激が大きいと肌荒れを生じさせてしまう可能性があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ベース材の接合部分が皮膚に接触することによる違和感を低減することが可能なウィッグ用ベース、ウィッグ、及びウィッグの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のウィッグ用ベースは、
2枚以上のベース材を接合部分で接合して構成されるウィッグ用ベースであって、
前記接合部分において、装着者の頭部側に相当する内面側に位置する接合部分が外縁部分に設定された第1のベース材と、
該第1のベース材の接合部分に対して、擬毛が植設される外面側に重なる接合部分が外縁部分に設定された第2のベース材と、を備え、
前記第1のベース材及び第2のベース材には、伸縮性が異なる複数の領域として、低伸縮領域と、低伸縮領域より伸縮性の高い高伸縮領域とが設定され、
前記高伸縮領域は、ウィッグ用ベースのうち側頭部から後頭部に跨がって設定される高伸縮範囲において、複数箇所に点在するように、且つ複数種類の大きさを用いて配置され、
前記高伸縮範囲は、頭頂部側に近づくに従って、大きなサイズの前記高伸縮領域が配置される領域を含むようにして構成され、
前記第1のベース材の接合部分は、当該第1のベース材の厚み分の段差しかウィッグ用ベースの前記内面側に生じないよう折り返しを設けない構成とされ、
前記第1のベース材の外周部分を形成する外縁が、前記第2のベース材の外縁部分よりも内側において前記内面側に位置する配置にした状態で、前記第1のベース材と前記第2のベース材とが接着により一体化されて構成され、
前記第1のベース材の厚み分に相当する段差のみが前記内面側に生じるようにして前記接合部分が構成されている、ことを特徴とする。
【0007】
本発明のウィッグ用ベースは、前記接合部分には、2列に並んで配列される点状の接着部が設けられ、1つの列の接着部と、隣の列の接着部とが隣り合わないように互いにズレた位置に配置される領域を含んで構成されている、こととしてもよい。
【0009】
また、前記低伸縮領域と前記高伸縮領域は、互いに異なる色として視認可能であって、ウィッグ用ベースを視認した場合に前記低伸縮領域と前記高伸縮領域とを識別可能に構成され、前記高伸縮範囲には、略菱形状に構成された前記高伸縮領域が、前頭部側から側頭部を経由して後頭部に連続する周方向において複数並んで配置され、前記高伸縮領域において対角に位置する2つの頂点部分が周方向の両側に位置し、残りの2つの頂点部分が頭頂部側と、ウィッグ用ベースの外周縁側に相当する下側に位置する配置となるようにして構成されている、こととしてもよい。
【0010】
本発明のウィッグは、本発明のウィッグ用ベースに擬毛を植設して構成されている。
【0011】
本発明のウィッグの製造方法は、本発明のウィッグ用ベースを用いたウィッグの製造方法であって、2枚以上のベース材を接合部分で接合し、ウィッグ用ベースの外周縁部分の少なくとも一部に、折り返しのない区間が設定されたウィッグ用ベースを製造するベース製造工程と、前記ベース製造工程で製造されたウィッグ用ベースの外周縁部分の少なくとも一部を切断して除去することにより、ウィッグ用ベースの大きさを調整するサイズ調整工程を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のウィッグ用ベースによれば、ベース材の接合部分に縫い目を設けなくてよいため、装着者の頭部に接合部分が接触した場合の違和感を低減することができる。また接合部分の内面側の段差がベース材の厚み分のみに抑えられることによっても、装着者の頭部に接合部分が接触した場合の違和感を低減することができる。このため、頭部の大部分を覆うような全頭タイプのウィッグであって、特に、自毛が少なく、皮膚に与えられる刺激の影響を受けやすい治療中の患者が利用する医療用のウィッグに好適なウィッグ用ベースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のウィッグ用ベースを示した図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【
図3】ベース材の接合部分を示した図であり、(a)はウィッグ用ベースの平面図、(b)は接合部分の拡大図、(c)は接合部分を示す断面図である。
【
図4】(a)はウィッグ用ベースの側面図、(b)は変形規制部の周辺を示す断面図、(c)は外周縁部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のウィッグ用ベースは、ベース材の接合部分に縫い目を設けず、内面側の段差を小さく設定したことにより、装着者の頭部に接合部分が接触した場合の違和感を低減したものである。
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
図1(a)はウィッグ用ベース10の平面図であり、
図1(b)は側面図、
図2はウィッグ用ベースの背面図である。なお、以下においては理解の容易のために、ウィッグ用ベース10のうち、擬毛Hが設けられる側を外面側とし、装着者の頭皮に接触する側を内面側として説明する。また、
図1(a)には、ウィッグ用ベース10の理解を容易にするために、擬毛Hの一部が植設されたウィッグWを模式的に示すと共に高伸縮領域R2の図示を省略し、
図1(b)には、装着者の頭部を一点鎖線で参考のために図示し、左側のベース材21Bの高伸縮領域R2のみを示して中央のベース材21Aの高伸縮領域R2の図示を省略し、
図2には、中央のベース材21Aの高伸縮領域R2のみを示して他のベース材21B,21Cの高伸縮領域R2の図示を省略している。
【0016】
ウィッグ用ベース10は、頭部の大部分を覆うような全頭タイプのウィッグWに利用可能なものであり、平面状のベース材21を複数枚接合して構成される。具体的には、中央のベース材21Aと、左右対称の構成としたベース材21B,21Cを組み合わせて構成される場合を例示している。ウィッグ用ベース10を構成するベース材21の数は、3つに限らず、2つ又は4つ以上を組み合わせてもよいし、形状についても、中央と左右両側とに分割する構成に限らず、他の分割構造としてもよい。
【0017】
ベース材21は、伸縮性を有する素材であることが好ましく、また、低伸縮領域R1と、低伸縮領域R1より伸縮性の高い高伸縮領域R2とが設定されることが好ましい。例えば、低伸縮領域R1は、ナイロン製のメッシュ層と、ポリエステル製のメッシュ層とを重ね合わせて構成し、高伸縮領域R2は、伸縮性の高いナイロン製のメッシュ層のみにより構成することができる。ベース材21には、他の素材を利用することもできる。ベース材21の低伸縮領域R1と高伸縮領域R2は、低伸縮領域R1に相当する素材に対して、高伸縮領域R2に相当する部分に抜蝕加工を施すことによって設定することができる。
【0018】
ウィッグ用ベース10は、従来のウィッグ用シートのように内面側にネットが設けられず、ベース材21が直接装着者に接触するようにして使用される。これにより、ウィッグWを装着者が装着したとき、ネットが介在することで滑りやすくなる事態を回避することができる。
【0019】
図1及び
図2に示すように、ウィッグ用ベース10のうち、低伸縮領域R1は、例えば、頭頂部に近い領域と外周縁に近い周縁の一部分に沿った一定範囲(低伸縮範囲A1)に設定される。高伸縮領域R2は、頭頂部と外周縁に近い部分との間に設定され、ウィッグ用ベース10のうち側頭部から後頭部に跨がる領域(高伸縮範囲A2)に設定される。
図2には、高伸縮範囲A2として、左側頭部から後頭部側に連続する範囲を細線で模式的に示している。高伸縮範囲A2は、左側頭部側から右側頭部側まで連続した左右対称に構成される。これにより、装着者の毛量が多い状況から少ない状況に変動したとしても、ウィッグ用ベース10の側面側から背面側の高伸縮領域R2が伸縮性に富み、装着者の毛髪を好適に収容することができる。
【0020】
このように、ネットを使用せず、伸縮性が異なる領域を設定したウィッグ用ベース10によれば、シワが無い状態で、装着者の頭部の全体に、ピタリとフィットし、ストレスの少ない着け心地のウィッグWを提供することができる。このウィッグ用ベース10に擬毛Hを植設したウィッグWは、特に抗ガン剤治療などの治療を受けている患者に好適であり、治療によって毛量が変動しても着け心地がよく、見栄えの良いウィッグとすることができる。
【0021】
次に、複数枚のベース材21を用いたウィッグ用ベース10の構成について、更に詳しく説明する。ウィッグ用ベース10には、側頭部から後頭部に跨がって設定される高伸縮範囲A2を構成するように、高伸縮領域R2が、複数箇所に点在し、且つ複数種類の大きさを用いて配置されている。具体的には、外周縁に近い側に、小さな大きさの高伸縮領域R2が設定され、頭頂部に近い上側に近づくに従って、大きなサイズの高伸縮領域R2が配置される部分を含むようにして構成される。これにより、ウィッグ用ベース10の外周縁に近い部分についての形状変化は少なくし、且つ、低伸縮範囲A1と高伸縮範囲A2との境界部分において、伸縮性が急変しないようにすることができ、これによっても着け心地を向上することができる。
【0022】
高伸縮領域R2は、多角形状、円形状、楕円形状などの種々の形状に構成することができるが、略菱形状に形成されることは好ましい。略菱形状の高伸縮領域R2は、前頭部側から側頭部を経由して後頭部に連続する周方向D1において複数並ぶようにして配置されている。高伸縮領域R2において対角に位置する2つの頂点部分は、周方向D1の両側に位置し、残りの2つの頂点部分が頭頂部側と、ウィッグ用ベース10の外周縁側に相当する下側に位置する配置となるようにして構成される。この多数の略菱形状の高伸縮領域R2が、上下方向D2に複数列となるようにして配置されることにより、高伸縮範囲A2における機能性に加えて、ウィッグ用ベース10の単体としての見栄えも向上させることができる。また高伸縮領域R2を略菱形の形状とし、周方向D1に長く、上下方向D2に短い形状とすることが好ましく、これにより、周方向についての変形が抑制され、上下方向D2においての変形は許容することで外方側に膨らんで毛髪を収容可能とする変形を容易にしたウィッグ用ベース10とすることができる。
【0023】
ウィッグ用ベース10は、低伸縮領域R1と高伸縮領域R2とで、材質が異なり、厚さも異なるものであり、この複数種類の領域の組み合わせによりウィッグWのデザインの一部とすることができる。高伸縮領域R2と低伸縮領域R1とで、色味を異ならせることも好ましく、これにより、ウィッグWの単体の内面側には、多数の略菱形の形状が並ぶことで、伸縮性が異なる部分が設定されたウィッグWであることを、装着者に判り易く示唆することができる。色としては、例えば、低伸縮領域R1を白色に近い肌色とし、高伸縮領域R2を、低伸縮領域R1よりも濃い肌色を用いて構成することができる。
【0024】
なお、ベース材21は必ずしも2つの色のみを用いて構成する必要はなく、3色以上を用いてもよい。例えば、黒色に近い領域を前頭部側に相当する前側の外周縁に近い部分など、一部の外周縁部分に近い領域に設定することも好ましい。これにより、自毛の多い部位との境界部分を目立たないようにすることができる。複数の色を用いたベース材21は、例えば、ベース材21に対しての印刷を用いて設定することができる。
【0025】
次に、ベース材21の接合部分について、
図3を参照して詳しく説明する。
図3はベース材21の接合部分を示した図であり、
図3(a)はウィッグ用ベース10の平面図、
図3(b)は、
図3(a)の接合部分の一部(
図3(a)の一点鎖線の範囲)の拡大図、
図3(c)は接合部分を示す
図3(b)のA-A線における断面図である。
【0026】
ベース材21の接合部分は、内面側(頭皮側)に位置するベース材21(例えば、ベース材21A、
図3(c)参照)の接合部分に対して、擬毛Hが植設される外面側(擬毛Hが植設される側)に重なるベース材21(例えば、ベース材21B)の接合部分が位置することにより構成される。内面側に位置するベース材21Aの接合部分は、ベース材21の厚み分の段差しかウィッグ用ベース10の内面側に生じないよう折り返しを設けない構成とされている。このため、内面側に位置するベース材21の厚み分に相当する段差のみがウィッグ用ベース10の内面側に生じるようにして接合部分が構成される。これにより、接合部分の内面側の段差がベース材21の厚み分のみに抑えられるため、装着者の頭部に接合部分が接触した場合の違和感を低減することができる。なお、外面側に重なるベース材21の外縁部分には、必ずしも折り返しを設けないように構成する必要はなく、折り返しを設けて接合部分を補強するようにしてもよい。
【0027】
また、内面側に位置するベース材21の外周部分を形成する外縁21Dは、外面側に重なるベース材21の外縁部分(外縁21Eに近い部分)よりも内側において内面側に位置する配置にして、2つのベース材21が接着により一体化されている。このため、ベース材21の接合部分に縫い目を設けなくてよいため、装着者の頭部に接合部分が接触した場合の違和感を低減することができる。
【0028】
ベース材21の接合部分の接着は、例えば、ホットメルト接着を用いることができる。この場合、接着部分を線状に設定してもよいが、点状の接着部22が多数離間して設定されるドット接着を利用することが好ましい。これにより、ドット接着を利用しない場合と比べて、接合部分と、その付近との間でのベース材21の収縮性の変化が無いようにすることができる。また、接合部分の連続する方向においての伸縮性を損なわず、ウィッグ用ベース10を頭部にフィットし易くすることができる。なお、
図3(a)及び(b)には、点状の接着部22を細線で示し、
図3(c)には接着部22を模式的に示している。
【0029】
なお、接合部分は、2列に並んで配列される点状に接着部22が設けられることが、より好ましい。また、1つの列の接着部22と、隣の列の接着部22とが隣り合わないように互いにズレた位置に配置される領域を含んで構成されるようにすることが好ましく、これにより、伸縮性と強度との両方を兼ね備えることができる。ドット接着の間隔は略3mmから略10mmの範囲内に設定することがよく、略5mm程度に設定することが好ましい。
【0030】
このように、ベース材21の接合部分に縫い目を設けず、接合部分の内面側の段差をベース材21の厚み分のみに抑えられることにより、頭部の大部分を覆うような全頭タイプのウィッグに好適なウィッグ用ベース10を提供することができる。そして、特に、自毛が少なく、皮膚に与えられる刺激の影響を受けやすい治療中の患者が利用する場合にも、シワができたり、接合部分の段差で強く擦られることのないウィッグWとすることができ、医療用のウィッグに好適なウィッグ用ベース10を提供することができる。
【0031】
次に、他の特徴部分について
図4を参照して説明する。
図4(a)はウィッグ用ベース10の側面図、(b)は変形規制部24の周辺を示すB-B線における断面図、(c)は外周縁部分を示すC-C線における断面図である。なお、
図4(a)には、点状の接着部26を細線で示し、
図4(b)には接着箇所を一点鎖線で模式的に示している。
【0032】
ウィッグ用ベース10は、変形規制材23を内包して構成される変形規制部24が設けられている。変形規制材23は、形状記憶合金(例えば、Ni-Ti合金)や銅合金、ステンレス合金を帯板状にして構成することができ、硬質のプラスチックにより構成することもできる。
【0033】
この変形規制部24についても、ウィッグ用ベース10の装着の際に、縫い目の違和感が生じないように、接着により袋状の部分を形成して構成することが好ましく、ベース材21の接合部分と同様で略同一サイズの点状の接着部26を用いることが好ましい。外面側に取り付けられるカバー材25の材質についても、ベース材21と同一のものを用いることが好ましい。またウィッグ用ベース10の内面側に大きな段差が生じないよう、カバー材25は、擬毛Hが植設される外面側に設けることが好ましく、この場合、カバー材25によって外面側に膨らむように袋状部分が形成され、ウィッグ用ベース10の内面側には突出する部分が少なくなるよう、外面側に凸状となる長さ設定にしてカバー材25をベース材21に接着することが好ましい。また変形規制部24は、もみあげ部分に設けられる場合を例示しているが、これに限らず、生え際や襟足など他の部位に設けてもよい。
【0034】
次に、ウィッグ用ベース10の外周縁部分の形状調整機能について説明する。ウィッグ用ベース10の外周縁部分は、
図4(c)に示すように、厚さが一定で折り返しのない形状により構成される。このため、ウィッグ用ベース10の外縁は、ハサミで切断することで、自在に形状を変更することができ、アウトラインとなる外形形状を調整することができる。
【0035】
本発明のウィッグ用ベース10を製造する場合、まず2枚以上のベース材21を接合部分で接合し、ウィッグ用ベース10の外周縁部分の少なくとも一部に、折り返しのない区間が設定されたウィッグ用ベース10を製造する(ベース製造工程)。
【0036】
その後、ベース製造工程で製造されたウィッグ用ベース10の外周縁部分の少なくとも一部を切断して除去することにより、ウィッグ用ベース10の大きさを、装着者に合わせるように、調整する(サイズ調整工程)。
【0037】
このように、サイズ調整工程を実施することにより、ウィッグ用ベース10は、装着者毎に、専用の形状にして製造する必要がなくなる。よって、同一形状のウィッグ用ベース10を数多く生産し易くすることができ、ウィッグWとしての製造コストを低減することができる。なお形状調整が可能な部分は、ウィッグ用ベース10の外周縁部分の全周とする必要はなく、生え際や襟足、耳の周りなどのうちの一部にのみ形状調整を可能とし、部分的に折り返しが設けられる部位を設定するなどして形状調整ができない箇所を外周縁部分の一部として含むように構成してもよい。
【0038】
なお、本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されず、上記した各効果と同様の効果を奏する別の実施の形態に変更できることは勿論である。
【0039】
例えば、ウィッグ用ベース10の内面側に、滑り止め機能を付加してもよく、薄板シート状の滑り止め部材(図示せず)を、ベース材21の内面側に接着してもよい。滑り止め部材の材質としてはシリコン性のシートにより構成することができ、表面に凸状部分を多数設けて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のウィッグ用ベースは、擬毛が植設されたウィッグに利用可能であり、頭部の大部分を覆うような全頭タイプのウィッグに好適に利用することができ、また、自毛が少なく、皮膚に与えられる刺激の影響を受けやすい治療中の患者が利用する医療用のウィッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 :ウィッグ用ベース
21,21A~21C :ベース材
21D,21E :外縁
22 :接着部
23 :変形規制材
24 :変形規制部
25 :カバー材
26 :接着部
A1 :低伸縮範囲
A2 :高伸縮範囲
H :擬毛
R1 :低伸縮領域
R2 :高伸縮領域
W :ウィッグ
【要約】
【課題】 ベース材の接合部分が皮膚に接触することによる違和感を低減することが可能なウィッグ用ベースを提供する。
【解決手段】 装着者の頭部側に相当する内面側に位置する接合部分が外縁部分に設定されたベース材21Aと、ベース材21Aの接合部分に対して、擬毛が植設される外面側に重なる接合部分が外縁部分に設定されたベース材21Bとを備え、ベース材21Aの接合部分は、ベース材21Aの厚み分の段差しかウィッグ用ベース10の内面側に生じないよう折り返しを設けない構成とされ、ベース材21Aの外周部分を形成する外縁が、ベース材21Bの外縁部分よりも内側において内面側に位置する配置にした状態で、ベース材21Aとベース材21Bとが接着により一体化されて構成され、ベース材21Aの厚み分に相当する段差のみが内面側に生じるようにして接合部分が構成されている。
【選択図】
図3