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特許7506820安定した圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する方法及びコンピュータプログラム製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】安定した圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する方法及びコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/58 20060101AFI20240619BHJP
   B21B 13/14 20060101ALI20240619BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20240619BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B21B37/58
B21B13/14 L
B21B37/00 221Z
B21B38/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023500013
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021068604
(87)【国際公開番号】W WO2022008486
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】102020208633.8
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】リッター・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】メルツ・ライナー
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-203207(JP,A)
【文献】特開平09-285804(JP,A)
【文献】特開2002-239609(JP,A)
【文献】特開平10-230308(JP,A)
【文献】特開平05-050109(JP,A)
【文献】特開平08-108201(JP,A)
【文献】特開2017-018971(JP,A)
【文献】特開昭58-154407(JP,A)
【文献】国際公開第2011/018126(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106994465(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延スタンドにおいて金属ストリップの少なくとも1つの部分を圧延する際に安定的な圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する方法であって、以下のステップ:
i)パススケジュール演算装置のための入力データを提供するステップであって、入力データが、圧延スタンドにおける他のロールに対するワークロールの設定された初期オフセットも含んでおり、
圧延プロセス前及び/又は圧延プロセス中に、
ii)ロールのプロセスモデルが進行するパススケジュール演算装置を用いて、入力データを考慮しつつワークロールへの目標水平力を演算するステップ、
iii)パススケジュール演算装置により算出される目標水平力が、金属ストリップの異なる部分についての少なくとも2つの演算された水平力が同一の符号を有すること、及び/又は演算された目標水平力がそれぞれ材料に依存した、ワークロールに対する所定の負荷限界を超過しないことという限界基準を満たすかどうかをチェックするステップであって、
満たす場合には、目標水平力の演算の基礎となったオフセットをワークロールにおいて設定し、得られた目標水平力で圧延材を圧延し、又は
満たさない場合には、最後に演算された目標水平力が最後に変更されたオフセットを考慮して限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、利用可能なNの異なるオフセットのうちワークロールのそれぞれ変更されたオフセット(saw)をもって、及びそのほかの変更されていない入力データをもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すステップ
を有する前記方法において、
オフセットのそれぞれ単独の変更をもったステップi),ii),iii)の反復的な繰り返しによっても、ステップiii)において目標水平力が限界基準を満たさない場合には、オプション「満たさない場合」でのステップiii)における方法が以下の第1の修正:
演算された目標水平力が限界基準を最良に満たす最適なオフセットをNのオフセットから選択すること
及び
最後に演算された目標水平力が、最後に変更された張力を考慮して限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、利用可能なL個の異なる張力のうち圧延スタンドの導入側における圧延材へのそれぞれ変更可能な張力をもって、及び/又は利用可能なMの異なる張力のうち圧延スタンドの導出側における圧延材へのそれぞれ変更可能な張力をもって、及びそれぞれ一定に維持された最適なオフセットをもって、及びその他の変更されない入力データをもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すこと
を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
圧延されるべき金属ストリップが、導入部分と、中央部分と、導出部分とを備えていること、及び
ステップi),ii),iii)が金属ストリップの個々の部分における各目標水平力を演算するために個別に実行されることで、前記部分のうち少なくとも1つのための目標水平力が、圧延スタンドのロールギャップへの導入部分における圧延材の導入時のワークロールへの水平力(Haw einl)の形態で、圧延材のフィレットの圧延時のワークロールへの水平力(Haw filet)の形態で、及び/又は圧延スタンドからの導出部分における圧延材の導出時の水平力(Haw ausl)の形態で個別に演算されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一定に維持された最適なオフセットにおいて行われた張力の変更をもったステップi),ii),iii)の反復的な繰り返しによっても、ステップiii)において少なくとも1つの演算された目標水平力が前記限界基準を満たさない場合には、オプション「満たさない場合」でのステップiii)における方法が以下の第2の修正:
一定に維持された最適なオフセットにおいて、及びその他の一定に維持された入力データにおいて、演算された目標水平力が前記限界基準を最良に満たす最適な張力を導入側におけるLの利用可能な異なる張力から、及び/又は導出側におけるMの利用可能な異なる張力から選択すること
及び
最後に演算された目標水平力が前記限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、それぞれ一定に維持された最適なオフセット及びそれぞれ一定に維持された最適な張力及びその他の一定に維持された入力データにおいて、ワークロールについてのそれぞれ反復的に変更された圧下力(FA)をもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すこと
を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
圧延機には、複数の圧延スタンドが圧延方向において相前後して配置されていること、 相前後して配置された圧延スタンドにおける複数のワークロールについての少なくとも1つの目標水平力が個別に算出されること、及び
圧延スタンドのワークロールにおけるパス順序についての、反復的に算出される割り当てられた最適なパラメータがあらかじめ設定されるか、あるいは設定されること
を特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
入力データが、設備データ、材料データ、製品データであり、及び/又はオプションで生産計画データも有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
技術的な限界についてのデータが、以下の個々のパラメータ:
材料に依存する、圧延スタンドのロールセットの水平安定性についての負荷限界と、水平力についての符号の記載を含む限界値と、力必要量及び動作必要量についての限界値と、中立面の位置についての限界値と、駆動部の前進について、及び駆動部のトルクについての限界値
についての少なくとも限界値を有していることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
進行する圧延プロセス中に、測定データとしてワークロールのうち少なくとも1つのワークロールの少なくとも1つの実際の水平力及び/又は実際の水平方向位置が検出されること、及び
実際の水平力がそれぞれの目標水平力と比較され、及び/又は実際の水平力がワークロールのそれぞれの目標水平方向位置と比較されること
を特徴とする請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
識される目標値と実際値の間の偏差が所定の許容範囲内にあるかどうかについてチェックされること、及び
許容される場合には、偏差は、パススケジュール演算装置において進行するプロセスモデルの適合に用いられること
を特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
測定データは、さらに、少なくとも1つの圧延スタンドから圧延材へ加えられる圧延力、圧延材の厚さ、圧延材の温度、圧延速度、ワークロールのオフセット、圧延材への引張負荷、ロールの接触又は回転のために圧延スタンドに割り当てられた駆動部のモータトルク及び/又は圧延材の冷却を表す冷却データであることを特徴とする請求項又はに記載の方法。
【請求項10】
圧延スタンドの少なくとも1つのロールが駆動されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
圧延スタンドが可逆スタンドとして形成されていること、及び
圧延材が圧延スタンドを用いて可逆動作において圧延されること
を特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
デジタルコンピュータの内部メモリに直接ロードされることが可能であり、製品がコンピュータにおいて実行する場合に請求項1~11のいずれか1項に記載のステップが実行されるソフトウェアコード部分を含むことを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機において金属ストリップを圧延する際の安定的な圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する方法及び対応するコンピュータプログラム製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延材、特に金属製のストリップの平坦圧延時には、小さな端部厚さの達成のために(又はエネルギー効率の理由から)、小さなワークロール直径を設定する必要があることが知られている。しかし、小さなワークロール直径は、駆動ジャーナルのあり得る幾何形状ひいては高められた材料強度/高められた変形抵抗において同様により大きく低下するあり得る駆動トルクを制限してしまう。
【0003】
小さなワークロール直径を使用する場合の欠点は、大きな縦横比(ロール直径に対する支持手段間隔の比率)において作用する水平力によるロールの水平方向のたわみである(図6参照)。水平方向の曲げにより、ロールセット全体の不安定性に至るのみならず、ロールがゆがむこととなり得る。非常に小さなワークロールにおいては、たわみが水平方向の成分のみならず、更にワークロールを支持するロールに対する方向における垂直方向の成分も有し得る。この考察においては、ロールギャップ輪郭を調整(設定)するためのワークロール所望の垂直方向のたわみは重要ではない。
【0004】
従来技術では、圧延過程中に水平方向のゆがみに対して薄いロールを保護するとともに安定化させるために様々な措置が知られている。
【0005】
これら措置のうちの1つは、いわゆる水平方向のオフセットである。ここで、ワークロール対の軸方向の延長は、支持されているロール対からオフセットされている。0(ゼロ)のオフセットは、不安定なロールセットにつながるとともに、基本的には避けられる。なぜなら、ロールギャップ変更時にロールが軸受の遊びにより「変動」し得るとともに、ストリップエラー及びストリップの亀裂が生じ得るためである。
【0006】
固定されたオフセットは、ストリップ張力が危機的な作用をロールギャップ条件にほとんど影響を与えないとともにロールセットの安定性が得られる熱間圧延機に適している。特に大きな製品範囲をもった冷間圧延機及び/又は可逆動作及び/又は駆動されないワークロールにおいては、固定されたオフセットは不十分である。
【0007】
固定されたオフセットの発展形態は、HS変位(装置)によって設定される、いわゆる(Horizontal Stabilisation(水平安定性))HSオフセットである。ここで、HS変位は、ワークロール対がその取付部材と共にストリップ走行方向において±に変位することを意味する。これは、基本的にはオフセットの可変の調整(設定)である。HSオフセットの量及び方向は、垂直方向の接触力FA及びオフセットに基づき生じる力成分と、全ての圧延段階における導入張力Ze及び導出張力Zaに基づき得られる張力差とが、できる限り、好ましくはほぼ完全に補整され、それにもかかわらずロールが当該ロールを支持するロールの側において安定的に接触するように調整(設定)される。設定されるべき側は、パラメータ、例えば圧延力、トルク、両ロールのロール直径、導入側及び導出側のストリップ張力に応じて導入側(-)又は導出側(+)に位置し得る。HSオフセットの設定により最小化される水平力は、結果的に、絶対的に安定したロール位置における最小の水平方向のたわみのみをもたらす。
【0008】
接触力FA並びに圧延スタンドの導入側における張力Ze及び導出側における張力Zaは、金属ストリップにおいて達成されるべき変形作業を担うメインの力である。オフセットに基づく力成分、すなわちワークロールの水平力Hawは、他の上述の力成分に基づくベクトルの加算によって得られる力であり、全ての力成分は、図7に示されているように、共にベクトル式に0へ合計される必要がある。水平力Haw及びオフセットは、以下の関数上の比例関係にある:
Haw=f(FA,-saw,MA,Ze-Za,μ,r)
ここで、
MAは駆動トルク、
μは摩擦係数、
rはワークロールの半径、
sawはオフセットであり、
詳細な公知の演算は、ロールセット及びその駆動の種類に応じて変化する。
【0009】
ワークロールが例えば図6に示されているように不都合に水平方向にたわむ傾向があることで、特に小さな直径を有するワークロールが大きな水平力に対して特に重大に反応するため、大きな縦横比を有するワークロールを使用する場合に水平力を大きくしないことが重要である。そのため、従来技術では、圧延プロセスのプロセスモデルが実行するパススケジュール演算装置を用いて、ワークロールへの目標水平力を演算することが知られているとともに通常である。パススケジュール演算装置は、複数の入力データを考慮して水平力を演算する。
【0010】
どの入力データに基づいてパススケジュール演算装置がセットアップデータ、すなわち圧延プロセスの開始前の圧延スタンドのための事前設定を演算するかが図8において具体的に図示されている。入力データが、設備データ、技術的な限界についてのデータ、材料データ、圧延ストラテジについてのデータ、関連データ、製品データ及び/又はオプションで生産計画データであることがわかる。
【0011】
入力データには、慣習的に、所定の初期の手動で算出され、データベール又はテーブルにメモリされた、圧延スタンドにおけるワークロールを支持する他のロールに対するワークロールのオフセットも含まれる。
【0012】
そして、従来技術では、当該入力データを考慮して演算された目標水平力は、一定の条件下での圧延時の所定の限界基準を満たすかどうかについてチェックされる。満たす場合には、目標水平力の演算の基礎となった初期オフセットがワークロールにおいて設定され、圧延材が圧延される。そして、設定されたオフセットに基づき、あらかじめ演算された、限界基準を満たす目標水平力がオフセットされたワークロールに作用すると考えられる。限界基準の遵守は、安定的なロールセット及び圧延プロセスを表す。
【0013】
次に演算される目標水平力が所定の限界基準を満たさない場合には、従来技術においては、最後に演算された目標水平力が最後に変更された(最適な)オフセットを考慮して限界基準を初めて最良に満たすことが確認されるまで、Nの量の利用可能な異なるオフセットのうちそれぞれ変更されたオフセットをもって、しかしその他の変更されない入力データをもって、目標水平力の演算が繰り返される。
【0014】
当該公知の方法は最も近い従来技術を形成している。そのため、請求項1は、これに対して限定された。公知の方法は、演算された目標水平力が限界基準内にあり、したがって安定的な圧延条件が保証される、ワークロールについての最適なオフセットを算出するために用いられる。
【0015】
実務においては、目標水平力の演算が、その他の一定に維持された入力データにおいて、特に圧延スタンドの導入側及び/又は導出側における一定に維持された張力において、並びにワークロールについての一定に維持された接触力において、オフセットの反復によってだけでは必ずしも有効ではないことが分かった。すなわち、オフセットの単独の変更あるいは反復の場合に、必ずしも演算された目標水平力が上記限界基準を満たすこととはならない。これにより、特に、大きなストリップ張力に関連して特に大きな縦横比を有するワークロールを用いる場合には問題となる。なぜなら、ワークロールが、例えば上述の不都合な水平方向のたわみによって過剰に大きな水平力に対して特に重大に反応するためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の基礎となる課題は、特に高い強度を有する圧延材としての薄い金属製のストリップを、薄いワークロールを用いて平坦圧延する際に、圧延スタンドにおけるロールセットの安定性ひいては圧延プロセスの安定性が更に改善されるように、特に金属製の圧延材の圧延時の安定した圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する公知の方法及び公知のコンピュータプログラム製品を発展形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
当該課題は、方法に関しては請求項1において請求される方法によって解決される。
【0018】
「設定データ」という用語は、初期化データあるいは事前設定データに関するものであり、当該データは、圧延プロセスの開始前に圧延スタンドに(あらかじめ)設定される。当該データは、部分的に後に圧延プロセス中に変更されることが可能である。
【0019】
本発明により演算される「目標水平力」は、圧延プロセスの開始前に圧延スタンドにおいて直接設定されることがない純粋な演算量である。上述のように、これは、特に圧延スタンドにおけるワークロールの導入張力、導出張力及び接触力のベクトルの加算に基づき得られる力である。しかし、「目標水平力」は代表的な量として用いられ、当該量に基づき、圧延プロセスの安定性を表す所定の限界基準を目標水平力が満たすか否かに応じて、特に、大きな縦横比を有するワークロールを用いる場合に圧延プロセスの安定性を予測あるいは算出することができる。しかし、得られる水平力は、圧延プロセス中に曲げブロック(追加的な構造上の手間)におけるロードセルを介して直接、又はスタンド若しくは方向転換ローラにおけるロードセル、圧力測定部を介して間接的に、及び駆動スピンドルにおけるトルク測定部を介して間接的に(ソフトセンサ)スタンドの駆動側及び操作側について算出されることが可能である。
【0020】
ワークロール直径に対する支持手段間隔の比率によって規定される縦横比は、上述のように、圧延プロセスの安定性に影響する特性量である。5以上の縦横比から不安定性のおそれが大きく増大する。
【0021】
本発明により請求される、圧延スタンドの導入側及び/又は導出側での圧延材に対する最適な張力の算出により、オフセットの反復的な変更のみでは目標水平力を限界基準内に維持することが不可能であっても、目標水平力自体が限界基準内にまだ維持されることが可能であるという利点が得られる。
【0022】
目標水平力の全体的な考察の別の利点は、ロールセット全体の軸受負荷を最小化することにあり、これにより、ロール支持部の寿命が大幅に延長される。
【0023】
本発明の第1の実施例によれば、圧延されるべき金属ストリップの異なる部分kについての目標水平力の演算は別々に、あるいは個別に行われる。なぜなら、金属ストリップは当該異なる部分において異なる速度を有するとともに、異なるストリップ張力を受けるためである。
【0024】
本発明の第2の実施例によれば、限界基準として、圧延プロセスの水平安定性についての、特にワークロールについての限界基準が、
1.金属ストリップの異なる部分についての少なくとも2つの演算された水平力が同一の符号を有する必要があるように、及び/又は
2.演算された目標水平力がそれぞれ材料に依存した、ワークロールに対する所定の負荷限界を超過しないように
規定される。
【0025】
第3の実施例によれば、演算される目標水平力自体は、オフセットと、圧延スタンドの導入側及び/又は導出側における張力の変更のみでは目標水平力を限界基準内に維持することができなくても、目標水平力自体は限界基準内にまだ維持されることが可能である。このために、第3の実施例は、最後に演算された目標水平力が限界基準を満たすことが確認されるまで、それぞれ一定に維持された最適なオフセット及びそれぞれ一定に維持された最適な張力またその他の一定に維持される入力データにおいて、ワークローラについての接触力も追加的に変更されるようになっている。
【0026】
別の一実施例では、パススケジュール演算装置のための入力データは、特に技術的な限界についてのデータでもある。本発明によれば、これには、特に圧延スタンドのロールセットの水平安定性についての材料に依存する負荷限界、水平力についての符号を含む限界値、力必要量及び動作必要量についての限界値、中立面の位置についての限界値と、前進について、及び圧延スタンドのロールについての駆動部のトルクについての限界値も含まれる。ロールセット、特にワークロールの水平安定性についての、上述の請求される圧延材料に依存する負荷限界は、本発明により、特に、ワークロールへの目標水平力の演算において、ワークロールの水平方向の目標位置の演算において、圧延スタンドの導入部及び/又は導出部における圧延材の目標張力の演算において、並びに圧延スタンドの少なくとも1つのパスについての目標低減の演算において、考慮されるべきである。
【0027】
上述の目標設定データの演算における、材料に依存する負荷限界の請求された考慮により、ワークロールのほかに圧延スタンドの全ての中間ロール及びバックアップロールも含むロールセットの安定性ひいては圧延プロセスの安定性も全体として改善されるという利点が得られる。すなわち、圧延スタンドの導出部における右方又は左方へのストリップの不都合な走行、ストリップの亀裂、ロールキス及びロールの座屈又はゆがみが回避されるか、又は少なくとも最小化される。材料に依存する負荷限界を考慮することで、圧延スタンドにおけるロールを支持するための追加的な機械的なアセンブリ又は流体状のアセンブリを設ける必要なく、顧客が望む薄い圧延材厚さを、同時に非常に大きな強度値において、従来の4Hi圧延スタンド、6Hi圧延スタンド、マルチ圧延スタンド又は奇数のロール数を有する圧延スタンドにおいても、しかも非対称にも圧延することが達成される。
【0028】
本発明による方法に可能となる安定的な境界条件は、圧延プロセスのために有利にはあらかじめ決定され、圧延スタンドにおける上述の(目標)設定データの事前設定によってあらかじめ圧延プロセスの開始前に保証されることが可能である。このようにして、追加的な装置なしに、自動的な圧延スタンドへの導入あるいは圧延スタンドからの導出も安定的に保証されることが可能である。進行する動作中にも圧延プロセスの安定性を確保するために、本発明による方法により、進行する圧延プロセス中に上述の目標設定データの永続的な監視及び場合によってはその補正が可能となる。本発明による方法により、存在する圧延設備の製品範囲をそのロール数及び構成にかかわらず、例えばより薄い最終厚さの圧延へ拡張することが可能である。そのほか、上述のより薄い最終厚さを圧延するために、及びこのとき同時にエネルギーを削減するために、より小さなワークロールを当該圧延スタンドのために用いることが可能である。
【0029】
別の一実施例によれば、本発明による方法は、個々の圧延スタンドにおいてのみならず、複数の圧延スタンドが圧延ラインの形態で相前後して配置された圧延機においても用いられる。上述の目標設定データは、個々の圧延スタンドについてのみならず、圧延ラインの上述のパススケジュールについても、すなわち、好ましくはその全ての圧延スタンドについても、本発明により材料に依存する負荷限界を考慮して演算及び設定されることが可能である。
【0030】
本発明の別の一実施例によれば、ワークロールに対する実際の水平力は、圧延プロセス中に永続的に監視され、それぞれパススケジュール演算装置によって実際に演算される目標水平力へ制御される。水平力の制御は、例えばワークロールの水平方向オフセット、圧延スタンドの導入側及び/又は導出側における圧延材の張力及び/又は圧延スタンドによって圧延材において行われる厚さ低減(接触力)のような圧延スタンドにおいて使用可能な制御要素の適切な変更によって行われる。
【0031】
圧延プロセスの安定性の更なる改善は、目標設定データの演算時に、例えば圧延プログラムの最適化に関するデータ、生産計画に基づくデータ、作業計画及び設備稼働率のような生産計画データも共に考慮されることで達成されることが可能である。
【0032】
実際の水平力、圧延スタンドの実施の水平方向位置、圧延スタンドの導入部及び/又は導出部における圧延スタンドへの実際の張力、及び/又は圧延スタンドによる圧延材の実際の厚さ低減のような進行する圧延プロセスの監視時に得られる測定データは、好ましくはそれぞれ関連する実際の目標設定データと比較される。このようにして場合によっては認識される目標値と実際値の間の偏差は、好ましくはプロセスモデルの継続的な適応のために用いられることが可能である。
【0033】
本発明による方法の構成についての更なる利点は、従属請求項の対象である。
【0034】
さらに、上述の課題は、コンピュータプログラム製品によって解決される。当該コンピュータプログラム製品の利点は、請求される方法に関して上述した利点に対応している。
【0035】
本発明には全部で8つの図が添付されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】入力データ及び出力データをもったパススケジュール演算装置のシステム全体を示す図であり、本発明により関連する入力データ及び出力データには下線が付されている。
図2】第1の実施例による、目標水平力を演算する本発明による方法についてのフローチャートである。
図3】圧延されるべき金属ストリップの圧延スタンドにおける導入時及び導出時の技術的な関係及び差異を示す図である(従来技術)。
図4a】本発明の第2の実施例による、目標水平力を演算する本発明による方法についてのフローチャートである。
図4b】本発明の第2の実施例による、目標水平力を演算する本発明による方法についてのフローチャートである。
図5】プロセスモデルの追加的な適応による本発明による方法についてのフローチャートである。
図6】大きな縦横比をもったワークロールの不都合な水平方向のたわみを示す図である(従来技術)。
図7】圧延スタンドにおいてワークロールを支持する中間ロール又はバックアップロールに対するワークロールのオフセット及び関連する力の平行四辺形を示す図である(従来技術)。
図8】従来技術による入力データ及び出力データをもったパススケジュール演算装置のシステム全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、特に図1図5を参照しつつ実施例の形態において本発明を詳細に説明する。全ての図において、同一の技術的な要素には同一の参照符号が付されている。
【0038】
図1は、本発明の方法による少なくとも1つの圧延スタンド用のパススケジュールの複雑な演算のフローを説明する図である。少なくとも1つの圧延スタンドを用いて圧延材を圧延する圧延プロセスを制御するためのコア構成要素はいわゆるパススケジュール演算装置であり、当該パススケジュール演算装置では、圧延プロセスのプロセスモデルが実行する。プロセスモデルは、変形技術及びロールセットの状態に基づく公知の基礎方程式を用いて、ロールギャップにおける複雑な変形プロセスを表す。ロールセットは、圧延材のロールギャップを生じさせるワークロールのほか、圧延スタンドの中間ロール及び/又はバックアップロールを含むことができる。プロセスモデルがパススケジュール演算装置において実行することで、現在の圧延材の後に圧延されるべき次の圧延材のための事前演算、現在の圧延材に関する後演算又は重畳された製品最適化を実行することが可能である。パススケジュールを演算することができるように、パススケジュール演算装置に入力データが提供され、当該入力データは、パススケジュール演算装置が当該入力データにアクセスできるように、適切な態様で例えばデータベース又はパラメータデータにメモリされる必要がある。例えば、圧延スタンドあるいはマルチスタンド圧延機は、入力データとしての設備データを介して記述される必要がある。さらに、圧延プロセスにとって、必ず遵守される必要がある技術的な限界が重要である。そのほか、圧延されるべき圧延材の変形技術的な特性は、その材料データを介して数学的に記述される必要がある。
【0039】
さらに、圧延されるべき圧延材は、製品データを介して規定される必要がある。さらに、いわゆる関連データ及び圧延ストラテジは、ストラテジデータを介してそれぞれ入力データとして設定される必要がある。加えて、例えば設備稼働率又は圧延プログラム最適化のような上位の目標を考慮するために生産計画データも考慮することが可能である。入力データについての上述の全ての用語は、それぞれ、図1に図示された様々な個別データについての総称である。
【0040】
そして、パススケジュール演算装置は、当該入力データに基づき、及び境界条件に基づき、次に実行されるべき圧延プロセスのために、以下では目標データあるいは初期化データと呼ばれる、いわゆるセットアップデータを演算し、これを事前調整のために少なくとも1つの圧延スタンドに送る。
【0041】
従来技術によるパススケジュールを示す図8とは異なり、図1による技術的な限界について本発明によるデータは、ロールセットの水平安定性についての圧延材料に依存する負荷限界も、またパススケジュールの異なる圧延段階中の水平力の許容されない符号の変化のようなプロセス技術的な限界も含んでいる。従来技術に対する更なる差異は、水平安定性、HS位置、すなわち圧延スタンドにおいてワークロールを支持する他のロールに対するワークロールのオフセット及び/又はHS力、すなわち進行する圧延プロセス中の水平力が算出され、好ましくは測定され、特にプロセスモデルを適合するために用いられることにある。
【0042】
従来技術に対する最も重要な差異は、セットアップデータの少なくともいくつか(図1ではブロック「セットアップデータ」において下線が付されている)が圧延プロセス全体について一度のみ設定されるのではなく、圧延プロセスのできる限り高い安定性に関して反復的に算出されることにある。すなわち、ロールセットの水平安定性、特にワークロールへの水平力の演算は、パススケジュール演算に統合される。
【0043】
以下に、従来技術とは異なる当該データの本発明における使用を詳細に説明する。
【0044】
図2には、特に請求項1においても請求されるように、本発明による方法のフローが概略的に示されている。本発明による方法においては、図1を参照して上述したように、第1の反復時に、第1の方法ステップi)においてパススケジュール演算装置のための入力データが提供される。本発明によれば、当該入力データは、圧延スタンドにおいてワークロールを支持する別のロールに対するワークロールの初期オフセットsawも含んでいる。初期オフセットは、テーブル又はデータベースから算出されることができるが、好ましくは、図7から分かる数式に基づく算出がなされ、このために、ストリップ張力Ze,Zaがゼロにセットされる。そして、圧延プロセス前及び/又は圧延プロセス中には、本発明による方法は、第2のステップii)において、ワークロールへの目標水平力がパススケジュール演算装置を用いて演算されるようになっている。この目的のために、パススケジュール演算装置では、圧延プロセスのプロセスモデルが進行し、パススケジュール演算装置は、入力データを考慮して目標水平力を演算する。
【0045】
これにつづく第3の方法ステップiii)では、パススケジュール演算装置によって事前に初期オフセットをもって算出された目標水平力が、所定の限界基準を満たすかどうかについてチェックされる。当該限界基準は、圧延プロセスの水平安定性、特にワークロールの水平安定性を表す。本発明によれば、当該限界基準は、
1.金属ストリップの異なる部分についての少なくとも2つの演算された水平力が同一の符号を有する必要があるように、及び/又は
2.演算された目標水平力がそれぞれ材料に依存した、ワークロールに対する所定の負荷限界を超過しないように
規定されている。
【0046】
算出された目標水平力が限界基準を満たす場合には、本発明による方法は、目標水平力の演算を基礎とする(最適な)オフセットsawopt、すなわちここでは初期オフセットが圧延スタンドにおいて設定されていること、及びその後、圧延材あるいは金属ストリップが上述の初期の最適なオフセットをもって圧延されることとなっている。設定された最適なオフセットに基づき、限界基準を満たす演算された目標水平力をもって圧延が行われると考えることができる。
【0047】
他の場合には、すなわち、初期オフセットをもって演算された目標水平力が限界基準を満たさない場合には、本発明による方法は、ステップi),ii),iii)は、最大でN(回)の更なる反復ステップにおいて、Nの量の異なるオフセットのうちワークロールのそれぞれ訂正/変更されたオフセットsawをもって反復され、そのほか、最後に演算された目標水平力が最後に変更あるいは設定された最適なオフセットを考慮して限界基準を満たすことがステップiii)において最終的に確認されるまで変更されていない入力データをもって反復されるようになっている。
【0048】
利用可能なN(回)のオフセットのうちいずれに対しても演算された目標水平力が限界基準を満たさない場合には、本発明による方法は、ステップi),ii),iii)が、更なる最大でL(回)及び/又はM(回)の反復ステップにおいて、導入側での利用可能なL∈Nの量の異なる張力のうち圧延スタンドの導入側での圧延材に対するそれぞれ変更された張力Zeをもって、及び/又は圧延スタンドの導出側での利用可能なM∈Nの量の異なる張力のうち圧延スタンドの導出側での圧延材に対するそれぞれ変更された張力Zaをもって、及びそれぞれ一定に維持された最適なオフセットsawoptをもって、及びその他の変更されない入力データをもって、最終的にステップiii)において、最後に演算された目標水平力が最後に変更された最適な張力を考慮して限界基準を満たすことが確認されるまで繰り返されるようになっている。上述の最適なオフセットは、事前に行われたオフセットの反復において演算された目標水平力が限界基準を満たす確率が最も高いオフセットである。
【0049】
図2には、当該本発明による方法が図示されており、略字「saw」はワークロールのオフセットを表し、略字「Ze」は圧延スタンドの導入側におけるストリップ張力を表し、略字「Za」は圧延スタンドの導出側におけるストリップ張力を表す。
【0050】
本発明によれば、目標水平力の演算は、金属ストリップ全体に対して統一的に行われるのではなく、金属ストリップの異なる部分に対して個別に行われる。このことは、金属ストリップが制動される場合に、圧延されるべき金属ストリップが圧延スタンドを通過する速度と、金属ストリップへ加えられる加速度と、金属ストリップが圧延スタンドへあるいはそのロールギャップに入れられる金属ストリップの導入部分における摩擦条件とが、金属ストリップの中央部分(フィレット)の圧延中及び導出部分の圧延中の金属ストリップの速度と、加速度と、摩擦条件とは異なるため、有意義である。速度、加速度及び摩擦条件のほかに、金属ストリップに加えられるストリップ張力も金属ストリップの部分において異なる。
【0051】
図3では、従来技術において一般的に知られた当該技術的な関係が説明されている。
【0052】
当該問題は、上述のように、金属ストリップの個別の部分k∈Nについての目標水平力が個別に演算されることによって、本発明により取り上げられる。金属ストリップにおいては、k=1である導入部分と、k=4である中央部分(フィレット)と、k=7である導出部分との間で区別される。本発明によれば、図2によるステップi),ii),iii)が金属ストリップの個々の部分における各目標水平力を演算するために個別に実行されることで、当該少なくとも2つの部分についての目標水平力は、圧延スタンドのロールギャップへの導入部分k=1での圧延材の導通時にワークロールに作用する水平力Haw einlの形態で、k=4での圧延材のフィレットの圧延時にワークロールに作用する水平力Haw filetの形態で、及び/又は圧延材の導出部分k=7である圧延材の圧延スタンドからの導出時の水平力Haw auslの形態で個別に演算される。
【0053】
図4aでは、演算された目標水平力が、オフセットの単独の反復的な変更においても、また圧延スタンドの導入側におけるストリップ張力Zeの単独の反復的な変更においても、また金属ストリップの導出側におけるストリップ張力の単独の変更においてもそれぞれ演算された目標水平力が限界基準をみなすこととならない場合についての本発明による方法についての別の一実施例が説明されている。当該場合には、本発明による方法は、まず、導入側におけるLの量の利用可能な異なる張力のうち、及び/又は圧延スタンドの導出側におけるMの量の利用可能な異なる張力のうち、演算された目標水平力が一定に維持された最適なオフセットにおいて、及びその他の一定に維持された入力データにおいても限界基準を最良に満たす最適な張力が作用するようになっている。そして、最後に演算された目標水平力が限界基準を満たすことが方法ステップiii)において確認されるまで、このように選択された最適なオフセットと、このように選択された最適な張力とによって、本発明による方法ステップi),ii),iii)が、h=1...HをもったHの量の利用可能な接触力のうちそれぞれ反復的に変更される接触力FA hをもって繰り返される。そして、このように算出される、圧延スタンドの導入側及び導出側におけるオフセット及びストリップ張力についての最適な値並びに接触力についての最適な値は、圧延過程前に、及び圧延過程中に圧延スタンドにおいて設定される。金属ストリップの個々の部分についての最適な値の演算が個別に行われるため、金属ストリップのどの部分がまさに圧延されるかに応じて、算出される最適なパラメータも圧延過程中に個別に新たに設定される。
【0054】
本発明による方法により反復的に算出される最適なパラメータとは異なり、演算される目標水平力は、圧延スタンドにおいて直接あらかじめ設定されなくてもよい。目標水平力は、むしろ、圧延スタンドにおける上記パラメータの設定(調整)時に自動的に設定(調整)され、得られる量である。上記パラメータについての最適な値が設定されれば、目標水平力が限界基準を満たすこと、及びそのため、プロセスが安定的に実行されることについて信頼することができる。
【0055】
圧延されるべき金属ストリップが、圧延スタンドのみならず、圧延方向に相前後して配置された複数の圧延スタンドを有する圧延工場において通過する場合には、ワークロールについての目標水平力は、個々のスタンドにおけるパススケジュール演算に際して個別に算出され、圧延スタンドのワークロールにおけるパス順序についての、反復的に算出された割り当てられた最適なパラメータがあらかじめ設定されるか、あるいは設定される。
【0056】
パススケジュール演算装置には、技術的な限界も入力として供給されることを図1及び図8を参照しつつ上述した。本発明によれば、これは、特に材料に依存する、圧延スタンドのロールネックの水平安定性についての負荷限界と、水平力についての符号の記載を含む限界値と、力必要量及び動作必要量についての限界値と、中立面の位置についての限界値と、前進について、及び例えば圧延スタンドのロールについての駆動部のトルクについての限界値でもある。
【0057】
許容される水平力を考慮した設定されるべきHSオフセットの演算は、例えば以下のように実行し得る(図4b参照):
1162mmのストリップ幅及び330mmのワークロール直径における初期厚さ2.0から0.793mmへの設定された圧延パスについて、パススケジュール特有のストリップ張力Ze,Zaがまず算出される。さらに、生じる接触力FA、しかし特に導入段階及び導出段階k=1,k=7並びにストリップフィレットの圧延段階k=4についての水平力Haw Einfaedeln,Haw Filet,Haw Ausfaedelnが、様々な考えられる設定可能なオフセット位置sawに関して演算される。最適なオフセット位置を設定するために、設備特有の変形技術的なパラメータが考慮される。
【0058】
演算は、一定の接触力(FA)、一定の張力(Ze/Za)及び異なるオフセット位置sawにおいて水平力Hawが変化することを示す。しかし、様々な圧延段階kにおける水平力Haw又は全体として得られる水平力Fresが決定されるべきである。圧延段階k=1,k=4,k=7に置ける水平力Haw又はFresが本発明による第2の限界基準によって設定された許容される限界値を超えると、ロールの損傷又はプロセス不安定性(非平坦性、不都合なヒステリシス)につながることがあり、ひいでは生産ロスにつながり得る。許容される値は、図4に示されるように演算される。
【0059】
オフセット位置が金属ストリップの部分間の符号変化(第1の限界基準)につながると、このことは、結果的に定義されていない不安定なロール状況につながることがあり、当該ロール状況は、良好でない平坦度値につながるだけではなく、ロールが自由に移動することにもつながり、これにより、ロール及びその軸受並びに隣り合うロールの損傷ももたらされ得る。そのほか、ワークロール又は隣り合うロールの収容部は、ストリップ走行に関する最も重大な問題である。ストリップは、ロールギャップから側方へ移動される。斜めの波状部又はストリップの亀裂さえ生じる。水平力が小さすぎると、圧延スタンドの振動傾向が増大し、品質公差を遵守することができない。水平力が大きすぎると、高められたヒステリシスによって、油圧による接触の制御の動的応答がネガティブに影響を受ける。
【0060】
図4bによる演算例では、3つのストリップ部分k=1,k=4,k=7における関連する演算された水平力Hawにおいて-8及び-6の両オフセット位置sawについて符号の変更が生じないが、saw=-8のオフセット位置については、84.3kNの値を有するFbawを有するワークロールに対する関連する水平力Hawが、材料に依存する、ここでは例示的に80kNの大きさである負荷限界の許容される限界値を最小限上回っていることが明らかとなる。
【0061】
負荷の算出及びその限界考察については、生じる水平力HAW/2も、また最大の曲げ力FaBWも考慮に入れられ、Fres、すなわち全体の力として、許容される限界基準と比較される。
【0062】
-6のオフセットsawにおいては全ての条件がポジティブに満たされているため、図4bによる例では、-6の最適なオフセットが当該圧延パスに対して設定される。
【0063】
量Nに基づく水平方向の負荷及びあり得るオフセット位置の演算によって許容される設定が得られない場合には、図2及び図4aを参照して上述したようにパススケジュールを自動的に適合する必要がある。ストリップ張力、パスリダクション、圧延力あるいは接触力及び限定的にワークロール直径(例えば新たな、又は研磨されたロールによる圧延)を適合することが可能である。パススケジュール演算に基づき得られる値は、安定的な条件が生じるまで、水平方向の負荷の演算の値と自動的に比較される。
【0064】
図5には、本発明による方法の別の一態様が示されている。これは、様々な測定データ、特に少なくとも1つの実際の水平力及び/又は実際の水平方向位置(=オフセット)がワークロールのうち少なくとも1つによって好ましくは周期的に検出されることで、図1において既に図示したように、進行する圧延プロセスが永続的に監視され、このように算出された実際の水平力がそれぞれ現在の目標水平力と比較され、及び/又は実際の水平方向位置がそれぞれワークロールの現在の目標水平方向位置と比較されるようになっている。当該比較は、特に差の形成である。そして、目標値と実際値の間のこのようにして場合によっては認識される偏差(デルタ)は、本発明により、当該偏差が所定の許容範囲内にあるかどうかについてチェックされる。許容される場合には、偏差は、パススケジュール演算装置において実行するプロセスモデルの好ましくは連続的な適合に用いられる。これにより、プロセスは自己学習的である。目標値と実際値の間の偏差(デルタ)が許容されない場合には、ストリップ張力は、算出される偏差ができる限り再び許容されるものとなるよう、進行するパスの間に適合される。
【0065】
さらに、測定データは、例えば、少なくとも1つの圧延スタンドから圧延材へ加えられる圧延力、圧延材の厚さ、圧延材の温度、圧延速度、ワークロールのオフセット、圧延材への引張負荷、例えばロールの接触又は回転のために圧延スタンドに割り当てられた駆動部のモータトルク及び/又は例えば圧延材の冷却を表す冷却データであり得る。
【0066】
圧延スタンドの圧延材の少なくとも1つの、好ましくは両方のワークロールが駆動されている。
【0067】
圧延スタンドは、可逆スタンドとして形成されることができ、素の場合、圧延材は、圧延スタンドを用いて可逆(逆転)動作において圧延される。
【0068】
本発明を改善する追加的な措置:
【0069】
-本発明は、同様に個別スタンド及びタンデム圧延ライン並びにワンウェイ動作及び可逆動作のために用いられることができる。本発明は、4Hi及び6Hi圧延スタンドにも、またjHi(j=2~6)圧延スタンドにも適している。
【0070】
-オフセット位置sawの設定のために、公知のHS変位システムが用いられる。当該HS変位システムは、構造上、ロール組立部材の範囲に配置されているとともに、圧延スタンドに固定されている。したがって、ロール胴体に沿った追加的な機械的な装置を設ける必要がない。当該範囲は、有効なロール冷却/ロール潤滑、誘導子、ブラシ、ストリップガイド要素のために空けたままとなっている。
【0071】
-小さなワークロールの許容されあり得る駆動トルクの活用は、トルク監視部又は温度監視部を有するハイトルクHTスピンドルの使用によって行われる。
【0072】
-ワークロールツインドライブは、両ワークロール間のあり得るトルク歪みを低減し、したがって、同様に、得られる水平力の低減又はロール直径の更なる低減のための別の措置としても用いられることが可能である。
【0073】
-水平力の統合された演算による自動的なパススケジュール演算/パススケジュール生成は、自動化の様々なレベルに関連している。
【0074】
-基本的な自動化(レベル0、レベル1)により、演算された目標値が強制的に設定されることが保証される。目標値が設定されなければ(目標値と実際の測定値の比較)、導入ブロックが検討される。
【0075】
-パススケジュール演算及び水平力の統合された演算は、物理的なプロセスモデル(レベル2)又は部分集合(サブセット)(部分モデルレベル2)の構成要素である。
【0076】
-水平力の関連する演算を伴うモデル及び/又はパススケジュール演算は、重畳された最適化アルゴリズムを有することが可能である。最適化は、自己学習的に、又は適応を介して行われることができ、場合によっては存在する測定値を考慮することができる。
【0077】
-生産計画ツールとの関連付け(レベル2.5又はレベル3)を設定することが可能である。したがって、技術的に安定的に形成可能でないパス順序は、圧延設備自体が問題に至ることなく、生産経路によって形成されることが可能である。これに代えて、設備において中断時間を避けるために、製造されるべき製品の生産計画ツールとの関連付けによって適合されることが可能である。
【0078】
-用いられるワークロール直径での微調整を達成するために、自動的なメンテナンス計画との関連付け(レベル2.5又はレベル3)を設定することが可能である。
【0079】
-事前に演算して得られる水平力は、測定された水平力と比較される。測定のために、力測定装置(例えばピエゾ素子、圧力測定部、ひずみゲージ又はロードセル)を曲げ装置の範囲に設けることが可能である。これに代えて、測定は、デジタルのソフトセンサによって間接的に、関与する測定可能なパラメータを介して逆算することが可能である。
【0080】
-水平力の演算値と測定値の比較は、プロセスモデル又は部分モデルの構成部材としての学習アルゴリズムによって達成されることができ、その結果、モデルに基づく演算の適合(長期適応/短期適応)を行うことが可能である。
なお、本発明は、以下の態様も包含し得る:
1.圧延スタンドにおいて金属ストリップの少なくとも1つの部分を圧延する際に安定的な圧延プロセスのためのパススケジュールを演算する方法であって、以下のステップ:
i)パススケジュール演算装置のための入力データを提供するステップであって、入力データが、圧延スタンドにおける他のロールに対するワークロールの設定された初期オフセットも含んでおり、
圧延プロセス前及び/又は圧延プロセス中に、
ii)ロールのプロセスモデルが進行するパススケジュール演算装置を用いて、入力データを考慮しつつワークロールへの目標水平力を演算するステップ、
iii)パススケジュール演算装置により算出される目標水平力が所定の限界基準を満たすかどうかをチェックするステップであって、
満たす場合には、目標水平力の演算の基礎となったオフセットをワークロールにおいて設定し、得られた目標水平力で圧延材を圧延し、又は
満たさない場合には、最後に演算された目標水平力が最後に変更されたオフセットを考慮して限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、利用可能なNの量の異なるオフセットのうちワークロールのそれぞれ変更されたオフセット(saw)をもって、及びそのほかの変更されていない入力データをもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すステップ
を有する前記方法において、
オフセットのそれぞれ単独の変更をもったステップi),ii),iii)の反復的な繰り返しによっても、ステップiii)において目標水平力が限界基準を満たさない場合には、オプション「満たさない場合」でのステップiii)における方法が以下の第1の修正:
演算された目標水平力が限界基準を最良に満たす最適なオフセットをNの量のオフセットから選択すること
及び
最後に演算された目標水平力が、最後に変更された張力を考慮して限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、利用可能なNの量の異なる張力のうち圧延スタンドの導入側における圧延材へのそれぞれ変更可能な張力をもって、及び/又は利用可能なMの量の異なる張力のうち圧延スタンドの導出側における圧延材へのそれぞれ変更可能な張力をもって、及びそれぞれ一定に維持された最適なオフセットをもって、及びその他の変更されない入力データをもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すこと
を行うことを特徴とする方法。
2.圧延されるべき金属ストリップが、複数kの部分、特にk=1をである導入部分と、k=2であるフィレットとしての中央部分と、k=3である導出部分とを備えていること、及び
ステップi),ii),iii)が金属ストリップの個々の部分における各目標水平力を演算するために個別に実行されることで、前記部分のうち少なくとも1つのための目標水平力が、圧延スタンドのロールギャップへの導入部分における圧延材の導入時のワークロールへの水平力(Haw einl)の形態で、圧延材のフィレットの圧延時のワークロールへの水平力(Haw filet)の形態で、及び/又は圧延スタンドからの導出部分における圧延材の導出時の水平力(Haw ausl)の形態で個別に演算されることを特徴とする上記1.に記載の方法。
3.限界基準として、圧延プロセスの水平安定性についての、特にワークロールについての限界基準が、
1.金属ストリップの異なる部分についての少なくとも2つの演算された水平力が同一の符号を有する必要があるように、及び/又は
2.演算された目標水平力がそれぞれ材料に依存した、ワークロールに対する所定の負荷限界を超過しないように
規定されることを特徴とする上記1.又は2.に記載の方法。
4.一定に維持された最適なオフセットにおいて行われた張力の変更をもったステップi),ii),iii)の反復的な繰り返しによっても、ステップiii)において少なくとも1つの演算された目標水平力が限界基準を満たさない場合には、オプション「満たさない場合」でのステップiii)における方法が以下の第2の修正:
一定に維持された最適なオフセットにおいて、及びその他の一定に維持された入力データにおいて、演算された目標水平力が限界基準を最良に満たす最適な張力を導入側におけるLの量の利用可能な異なる張力から、及び/又は導出側におけるMの量の利用可能な異なる張力から選択すること
及び
最後に演算された目標水平力が限界基準を満たすことがステップiii)において確認されるまで、それぞれ一定に維持された最適なオフセット及びそれぞれ一定に維持された最適な張力及びその他の一定に維持された入力データにおいて、ワークロールについてのそれぞれ反復的に変更された接触力(FA)をもって、ステップi),ii)及びiii)を繰り返すこと
を行うことを特徴とする上記1.~3.のいずれか1つに記載の方法。
5.圧延機には、複数の圧延スタンドが圧延方向において相前後して配置されていること、
相前後して配置された圧延スタンドにおける複数のワークロールについての少なくとも1つの目標水平力が個別に算出されること、及び
圧延スタンドのワークロールにおけるパス順序についての、反復的に算出される割り当てられた最適なパラメータがあらかじめ設定されるか、あるいは設定されること
を特徴とする上記1.~4.のいずれか1つに記載の方法。
6.入力データが、設備データ、技術的な限界についてのデータ、材料データ、圧延ストラテジについてのデータ、関連データ、製品データであり、及び/又はオプションで生産計画データも有することを特徴とする上記1.~5.のいずれか1つに記載の方法。
7.技術的な限界についてのデータが、以下の個々のパラメータ:
材料に依存する、圧延スタンドのロールセットの水平安定性についての負荷限界と、水平力についての符号の記載を含む限界値と、力必要量及び動作必要量についての限界値と、中立面の位置についての限界値と、例えば圧延スタンドのロールについての、駆動部の前進について、及び駆動部のトルクについての限界値
についての少なくとも限界値を有していることを特徴とする上記6.に記載の方法。
8.進行する圧延プロセス中に、測定データ、特にワークロールのうち少なくとも1つのワークロールの少なくとも1つの実際の水平力及び/又は実際の水平方向位置が好ましくは周期的に検出されること、及び
実際の水平力がそれぞれ現在の目標水平力と比較され、及び/又は実際の水平力がワークロールのそれぞれ現在の目標水平方向位置と比較されること
を特徴とする上記3.~7.のいずれか1つに記載の方法。
9.このようにして場合によっては認識される目標値と実際値の間の偏差が所定の許容範囲内にあるかどうかについてチェックされること、及び
許容される場合には、偏差は、パススケジュール演算装置において進行するプロセスモデルの好ましくは連続的な適合に用いられること
を特徴とする上記8.に記載の方法。
10.測定データは、さらに、例えば、少なくとも1つの圧延スタンドから圧延材へ加えられる圧延力、圧延材の厚さ、圧延材の温度、圧延速度、ワークロールのオフセット、圧延材への引張負荷、例えばロールの接触又は回転のために圧延スタンドに割り当てられた駆動部のモータトルク及び/又は例えば圧延材の冷却を表す冷却データであることを特徴とする上記8.又は9.に記載の方法。
11.圧延スタンドの少なくとも1つの、好ましくは2つのロールが駆動されることを特徴とする上記1.~10.のいずれか1つに記載の方法。
12.圧延スタンドが可逆スタンドとして形成されていること、及び
圧延材が圧延スタンドを用いて可逆動作において圧延されること
を特徴とする上記1.~11.のいずれか1つに記載の方法。
13.デジタルコンピュータの内部メモリ、ここでは特に圧延スタンド又は圧延ラインのパススケジュール演算装置のメモリに直接ロードされることが可能であり、製品がコンピュータにおいて実行する場合に上記1.~12.のいずれか1つに記載のステップが実行されるソフトウェアコード部分を含むことを特徴とするコンピュータプログラム製品。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8