(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ニッケル亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/30 20060101AFI20240619BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240619BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240619BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20240619BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20240619BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240619BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M50/434
H01M50/466
H01M50/446
H01M50/414
H01M50/489
H01M50/44
H01M50/46
H01M4/52
H01M4/42
H01M50/451
(21)【出願番号】P 2023506728
(86)(22)【出願日】2021-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2021039084
(87)【国際公開番号】W WO2022195942
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021041901
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】松矢 淳宣
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069760(WO,A1)
【文献】特開2019-117780(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113169316(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/30
H01M 50/434
H01M 50/466
H01M 50/446
H01M 50/414
H01M 50/489
H01M 50/44
H01M 50/46
H01M 4/52
H01M 4/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質を含む正極板と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含む負極板と、
前記負極板を覆う又は包み込む保液部材と、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを備え、前記正極板が保液部材で覆われておらず又は包み込まれておらず、それにより前記正極板が前記水酸化物イオン伝導セパレータと直接接触している、ニッケル亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記保液部材が不織布である、請求項1に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記不織布が10~200μmの厚さを有する、請求項2に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記正極板が、前記水酸化物イオン伝導セパレータで覆われ又は包み込まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記保液部材で覆われた又は包み込まれた前記負極板を含む負極構造体が、前記水酸化物イオン伝導セパレータで更に覆われ又は包み込まれている、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記水酸化物イオン伝導セパレータが、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物を含むLDHセパレータである、請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記LDHセパレータが、多孔質基材を更に含み、前記LDH及び/又はLDH様化合物が前記多孔質基材の孔に充填された形態で前記多孔質基材と複合化されている、請求項6に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項8】
前記多孔質基材が高分子材料製である、請求項7に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項9】
前記LDHセパレータが、5~100μmの厚さを有する、請求項6~8のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項10】
前記単位セルを複数個有し、それにより複数個の前記単位セルが全体として多層セルをなしている、請求項1~9のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。水熱処理を経て作製したLDH/多孔質基材の複合材料をロールプレスすることで更なる緻密化を実現したLDHセパレータも提案されている。例えば、特許文献4(国際公開第2019/124270号)には、高分子多孔質基材と、この多孔質基材に充填されるLDHとを含み、波長1000nmにおける直線透過率が1%以上である、LDHセパレータが開示されている。
【0004】
また、LDHとは呼べないもののそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物としてLDH様化合物が知られており、LDHとともに水酸化物イオン伝導層状化合物と総称できる程に類似した水酸化物イオン伝導特性を呈する。例えば、特許文献5(国際公開第2020/255856号)には、多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、水酸化物イオン伝導セパレータであって、このLDH様化合物が、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるものが開示されている。この水酸化物イオン伝導セパレータは、従来のLDHセパレータと比べ、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制できるとされている。
【0005】
ところで、特許文献6(国際公開第2019/069760号)及び特許文献7(国際公開第2019/077953号)には、負極活物質層の全体を保液部材及びLDHセパレータで覆う又は包み込み、かつ、正極活物質層を保液部材で覆う又は包み込んだ構成のニッケル亜鉛二次電池が提案されている。保液部材としては不織布が用いられている。かかる構成によれば、LDHセパレータと電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能なニッケル亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/118561号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【文献】国際公開第2019/124270号
【文献】国際公開第2020/255856号
【文献】国際公開第2019/069760号
【文献】国際公開第2019/077953号
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献6及び7に開示され、かつ、
図6に例示されるように、LDHセパレータを採用した従来の多層セル型ニッケル亜鉛二次電池100においては、電解液18を保持するために正極板12及び負極板14の各々を保液部材としての不織布で覆う又は包み込む構成が採用されていた。しかしながら、かかる構成を採用した場合、充放電サイクル後に自己放電が起こりやすいことが判明した。
【0008】
本発明者らは、今般、負極板を保液部材で覆う又は包み込む一方、正極板を保液部材で覆ったり又は包み込んだりせずに正極板が水酸化物イオン伝導セパレータと直接接触する構成とすることで、充放電サイクルを経ても正極活物質が脱落しにくく、それにより自己放電の発生を効果的に抑制できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、充放電サイクルを経ても正極活物質が脱落しにくく、それにより自己放電の発生を効果的に抑制可能な、ニッケル亜鉛二次電池を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、
水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極活物質を含む正極板と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含む負極板と、
前記負極板を覆う又は包み込む保液部材と、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを備え、前記正極板が保液部材で覆われておらず又は包み込まれておらず、それにより前記正極板が前記水酸化物イオン伝導セパレータと直接接触している、ニッケル亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明によるニッケル亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池のA-A’線断面の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池のA-A’線断面の他の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明のニッケル亜鉛二次電池において正極活物質が脱落しにくいことを説明するための概念図である。
【
図5】本発明の構成とは別に採用可能なニッケル亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
【
図6】従来のニッケル亜鉛二次電池の一例に示す模式断面図である。
【
図7】従来のニッケル亜鉛二次電池において正極活物質が脱落しやすいことを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ニッケル亜鉛二次電池
図1及び2に本発明によるニッケル亜鉛二次電池の一態様を示す。
図1及び2に示されるニッケル亜鉛二次電池10は、電池要素11を密閉容器20中に備えたものであり、電池要素11は、正極板12と、負極板14と、水酸化物イオン伝導セパレータ16と、保液部材17と、電解液18とを含む単位セル10aを備える。正極板12は、正極活物質を含む。正極活物質は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。負極板14は、負極活物質を含み、負極活物質は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。保液部材17は、負極板14を覆う又は包み込む。一方、正極板12は保液部材17で覆われておらず又は包み込まれておらず、それにより正極板12は水酸化物イオン伝導セパレータ16と直接接触している。このように、負極板14を保液部材17で覆う又は包み込む一方、正極板12を保液部材17で覆ったり又は包み込んだりせずに正極板12が水酸化物イオン伝導セパレータ16と直接接触する構成とすることで、充放電サイクルを経ても正極活物質が脱落しにくく、それにより自己放電の発生を効果的に抑制できる。
【0013】
すなわち、
図6に示されるように、従来の多層セル型ニッケル亜鉛二次電池100においては、正極板12及び負極板14の各々(つまり両方)を不織布等の保液部材17で覆う又は包み込む構成が採用されていた。しかしながら、かかる構成を採用した場合、充放電サイクル後に自己放電が起こりやすい。この問題を本発明者が精査したところ、
図7に示されるように、正極活物質が脱落し、脱落物12aとして保液部材17である不織布に食い込んでいることが判明した。これは、充放電によって正極が過充電状態に移行しうるところ、オキシ水酸化ニッケル等の正極活物質は過充電状態になると体積膨張するため、それにより正極活物質の脱落が起こるためではないかと考えられる。この脱落物12aは例えば保液部材17の貫通孔内を通過することで負極側に移動する可能性があり、正極活物質脱落物12aが負極に付着することで局部電池化反応による自己放電が起こるものと考えられる。これに対し、本発明においては、負極板14を保液部材17で覆う又は包み込む一方、正極板12を保液部材17で覆ったり又は包み込んだりせずに正極板12が水酸化物イオン伝導セパレータ16と直接接触する構成とする。こうすることで、
図4に示されるように、従来の構成では不織布の孔に脱落物12aとして入り込んでいたであろう部分が、水酸化物イオン伝導セパレータ16によってブロックされることで脱落しにくくなる。つまり、本発明の構成によれば、正極活物質が脱落しようとしても、緻密な水酸化物イオン伝導セパレータ16(典型的にはLDHセパレータ)が接しているためその場に留まらざるを得なくなり、その結果、正極活物質の脱落が阻止される。なお、本発明の構成によれば、正極板12は保液部材17と接触しないことになるが、負極板14を覆う又は包み込む保液部材17が保持する電解液18にて反応が十分に行われること、また、正極板12自体の保水性で電解液18を保持できることから、電池動作上、特に問題は無い。
【0014】
正極板12は、正極活物質を含む。正極活物質は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。典型的には、正極板12は正極集電体(図示せず)をさらに含んでおり、正極集電体は正極板12の端部(例えば上端)から延出する正極集電タブ13を有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、
図2に示される正極板12は正極集電体(例えば発泡ニッケル)を含むものであるが図示されていない。これは、ニッケル亜鉛二次電池の場合、正極集電体が正極活物質と渾然一体化しているため、正極集電体を個別に描出できないためである。ニッケル亜鉛二次電池10は、正極集電タブ13の先端に接続する正極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の正極集電タブ13が1つの正極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、正極端子26への接続もしやすくなる。また、正極集電板自体を正極端子26として用いてもよい。
【0015】
正極板12は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である添加剤を含んでいてもよく、これにより自己放電反応により発生する水素ガスを吸収する正極反応を促進することができる。また、正極板12は、コバルトをさらに含んでいてもよい。コバルトは、オキシ水酸化コバルトの形態で正極板12に含まれるのが好ましい。正極板12において、コバルトは導電助剤として機能することで、充放電容量の向上に寄与する。
【0016】
負極板14は負極活物質を含む。負極活物質は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液18と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0017】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0018】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0019】
好ましくは、負極板14は負極集電体15をさらに含み、負極集電体15は負極板14の端部(例えば上端)から延出する負極集電タブ15aを有する。負極集電タブ15aは、正極集電タブ13と重ならない位置に設けられるのが好ましい。ニッケル亜鉛二次電池10は、負極集電タブ15aの先端に接続する負極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の負極集電タブ15aが1つの負極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、負極端子28への接続もしやすくなる。また、負極集電板自体を負極端子28として用いてもよい。
【0020】
負極集電体15の好ましい例としては、銅箔、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタルが挙げられるが、より好ましくは銅エキスパンドメタルである。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0021】
保液部材17は、負極板14を覆う又は包み込むように設けられる。こうすることで、負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16の間に電解液18を万遍なく存在させることができ、負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材17は電解液18を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材17の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材17ないし不織布は10~200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは20~200μmであり、さらに好ましくは20~150μmであり、特に好ましくは20~100μmであり、最も好ましくは20~60μmである。上記範囲内の厚さであると、負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材17内に十分な量の電解液18を保持させることができる。一方、本発明においては、正極板12は保液部材17で覆う又は包み込まれない。
【0022】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離するように設けられる。例えば、
図2に示されるように、正極板12が、水酸化物イオン伝導セパレータ16で覆われ又は包み込まれる構成とするのが好ましい。また、
図3に示されるように、保液部材17で覆われた又は包み込まれた負極板14を含む負極構造体が、水酸化物イオン伝導セパレータ16で更に覆われ又は包み込まれる構成としてもよい。これらの構成を採用することで、水酸化物イオン伝導セパレータ16と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能なニッケル亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。もっとも、
図4に示されるように、正極板12又は負極板14の一面側に水酸化物イオン伝導セパレータ16が配置するシンプルな構成であってもよい。
【0023】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離可能なセパレータであれば特に限定されないが、典型的には、水酸化物イオン伝導固体電解質を含み、専ら水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すセパレータである。好ましい水酸化物イオン伝導固体電解質は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である。したがって、水酸化物イオン伝導セパレータ16はLDHセパレータであるのが好ましい。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。LDHセパレータは多孔質基材と複合化されているのが好ましい。したがって、LDHセパレータは、多孔質基材を更に含み、LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔に充填された形態で多孔質基材と複合化されているのが好ましい。すなわち、好ましいLDHセパレータは、水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。例えば、特許文献1~7に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。LDHセパレータの厚さは、5~100μmが好ましく、より好ましくは5~80μm、さらに好ましくは5~60μm、特に好ましくは5~40μmである。
【0024】
正極板12及び/又は負極板14が、保液部材17及び/又はセパレータ16で覆われる又は包み込まれる場合、それらの外縁が(正極集電タブ13や負極集電タブ15aが延出される辺を除いて)閉じられているのが好ましい。この場合、保液部材17及び/又はセパレータ16の外縁の閉じられた辺が、保液部材17及び/又はセパレータ16の折り曲げや、保液部材17同士及び/又はセパレータ16同士の封止により実現されているのが好ましい。封止手法の好ましい例としては、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ、及びそれらの組合せが挙げられる。特に、高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータはフレキシブル性を有するが故に折り曲げやすいとの利点を有するため、LDHセパレータを長尺状に形成してそれを折り曲げることで、外縁の1辺が閉じた状態を形成するのが好ましい。熱溶着及び超音波溶着は市販のヒートシーラー等を用いて行えばよいが、LDHセパレータ同士の封止の場合、外周部分を構成するLDHセパレータの間に保液部材17の外周部分を挟み込むようにして熱溶着及び超音波溶着を行うのが、より効果的な封止を行える点で好ましい。一方、接着剤、接着テープ及び封止テープは市販品を用いればよいが、アルカリ電解液中での劣化を防ぐため、耐アルカリ性を有する樹脂を含むものが好ましい。かかる観点から、好ましい接着剤の例としては、エポキシ樹脂系接着剤、天然樹脂系接着剤、変性オレフィン樹脂系接着剤、及び変成シリコーン樹脂系接着剤が挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点でより好ましい。エポキシ樹脂系接着剤の製品例としては、エポキシ接着剤Hysol(登録商標)(Henkel製)が挙げられる。
【0025】
セパレータ16の上端となる1辺の外縁は開放されているのが好ましい。この上部開放型の構成はニッケル亜鉛電池等における過充電時の問題への対処を可能とするものである。すなわち、ニッケル亜鉛電池等において過充電されると正極板12で酸素(O2)が発生しうるが、LDHセパレータは水酸化物イオンしか実質的に通さないといった高度な緻密性を有するが故に、O2を通さない。この点、上部開放型の構成によれば、密閉容器20内において、O2を正極板12の上方に逃がして上部開放部を介して負極板14側へと送り込むことができ、それによってO2で負極活物質のZnを酸化してZnOへと戻すことができる。このような酸素反応サイクルを経ることで、上部開放型の電池要素11を密閉型ニッケル亜鉛二次電池に用いることで過充電耐性を向上させることができる。なお、セパレータ16や保液部材17の上端となる1辺の外縁が閉じられている場合であっても、閉じられた外縁の一部に通気孔を設けることで上記開放型の構成と同様の効果が期待できる。例えば、LDHセパレータの上端となる1辺の外縁を封止した後に通気孔を開けてもよいし、封止の際、通気孔が形成されるように上記外縁の一部を非封止としてもよい。
【0026】
電解液18はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。
図2において電解液18は局所的にしか図示されていないが、これは正極板12及び負極板14の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0027】
電池要素11は、
図2に示されるように、複数枚の正極板12と、複数枚の負極板14、複数枚のセパレータ16を備え、正極板12/セパレータ16/負極板14の単位が繰り返されるように積層された正負極積層体の形態とされるのが好ましい。すなわち、ニッケル亜鉛二次電池10は、単位セル10aを複数個有し、それにより複数個の単位セル10aが全体として多層セルをなしているのが好ましい。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。
【0028】
密閉容器20は樹脂製であるのが好ましい。密閉容器20を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。密閉容器20は上蓋20aを有する。密閉容器20(例えば上蓋20a)はガスを放出するための放圧弁を有していてもよい。また、2以上の密閉容器20が配列されたケース群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【0029】
ところで、本発明の構成とは別に採用可能な態様として、
図5に示されるように、保液部材17(不織布等)が、正極板12を覆う又は包み込む一方、負極板14が保液部材17で覆われておらず又は包み込まれておらず、それにより負極板14が水酸化物イオン伝導セパレータ16と直接接触している構成としてもよい。すなわち、従来の構成においては、
図6に示されるように、正極板12及び負極板14の各々(つまり両方)を不織布等の保液部材17で覆う又は包み込む構成が採用されていたが、負極板14から保液部材17を無くしてもよい。こうすることで、充放電サイクルにより起こりうる不織布等の保液部材17における孤立亜鉛の発生を抑制して、サイクル寿命を長くすることができる。
【0030】
LDH様化合物
本発明の好ましい態様によれば、LDHセパレータは、LDH様化合物を含むものであることができる。LDH様化合物の定義は前述したとおりである。好ましいLDH様化合物は、
(a)Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(b)(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である、又は
(c)Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、該(c)において前記LDH様化合物がIn(OH)3との混合物の形態で存在する。
【0031】
本発明の好ましい態様(a)によれば、LDH様化合物は、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。例えば、LDH様化合物は、Zn及び/又はKをさらに含むものであってもよい。こうすることで、LDHセパレータのイオン伝導率をより一層向上することができる。
【0032】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータは、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH2Oが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0033】
上記態様(a)によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0034】
本発明の別の好ましい態様(b)によれば、LDH様化合物は、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Ti、Y、添加元素M、所望によりAl及び所望によりMgの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。添加元素Mは、In、Bi、Ca、Sr、Ba又はそれらの組合せである。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0035】
上記態様(b)によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比が0.50~0.85であるのが好ましく、より好ましくは0.56~0.81である。LDH様化合物におけるY/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.20であるのが好ましく、より好ましくは0.07~0.15である。LDH様化合物におけるM/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.35であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.32である。LDH様化合物におけるMg/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.10であるのが好ましく、より好ましくは0~0.02である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.04である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0036】
本発明の更に別の好ましい態様(c)によれば、LDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDH様化合物がIn(OH)3との混合物の形態で存在するものでありうる。この態様のLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、所望によりAl、及び所望によりInの、複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。なお、LDH様化合物に含まれうるInは、LDH様化合物中に意図的に添加されたもののみならず、In(OH)3の形成等に由来してLDH様化合物中に不可避的に混入したものであってもよい。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。
【0037】
上記態様(c)による混合物はLDH様化合物のみならずIn(OH)3をも含む(典型的にはLDH様化合物及びIn(OH)3で構成される)。In(OH)3の含有により、LDHセパレータにおける耐アルカリ性及びデンドライト耐性を効果的に向上することができる。混合物におけるIn(OH)3の含有割合は、LDHセパレータの水酸化物イオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性及びデンドライト耐性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。In(OH)3はキューブ状の結晶構造を有するものであってもよく、In(OH)3の結晶がLDH様化合物で取り囲まれている構成であってもよい。In(OH)3はX線回折により同定することができる。
【実施例】
【0038】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0039】
例1
(1)評価セルの作製
以下に示される正極板、負極板、LDHセパレータ、不織布、密閉容器、及び電解液を用意した。
・正極板:発泡ニッケルの孔内に水酸化ニッケル及びバインダーを含む正極ペーストを充填して乾燥させたもの
・負極板:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含むペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの
・LDHセパレータ:ポリエチレン微多孔膜の孔内及び表面にNi-Al-Ti-LDH(層状複水酸化物)を水熱合成により析出させてロールプレスしたもの、厚さ:25μm
・不織布:ポリエチレン製、厚さ100μm
・密閉容器:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の筐体(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)
・電解液:0.4mol/LのZnOを溶解させた5.4mol/LのKOH水溶液
【0040】
図1に示されるように、正極板をLDHセパレータで包み込んで上端以外の3辺を熱融着封止して上部開放された正極構造体とする一方、負極板を不織布で包み込んで上端以外の3辺を熱融着封止して上部開放された負極構造体とした。正極構造体及び負極構造体を交互に積層し、積層された状態のまま、正極集電体を樹脂蓋の正極集電端子に、負極集電体を樹脂蓋の負極集電端子にそれぞれまとめて溶接し、樹脂ケース内に配置し、樹脂ケースと樹脂蓋を熱溶着して一体化させた。その後、注液口から電解液を加え、真空引き等により電解液を十分に正極板及び負極板に浸透させた。その後、注液口を塞ぎ密閉セルとした。こうして、100個の評価セルを作製した。
【0041】
(2)不良品発生の有無
充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを100回実施した。充放電サイクル実施後から1週間の開回路電圧(OCV)の推移を測定し、自己放電による電圧低下を調べた。得られた電圧低下結果に基づき、自己放電による電圧低下速度が0.15mV/dayを超えるセル(すなわち不良品)の有無を調べた。なお、開回路電圧(OCV)の推移の測定は、電圧測定器(日置電機株式会社製、バッテリハイテスタBT3561A)を用いて、以下の手順で行った。
1)充放電サイクル評価後のセルOCVを放電末(SOC0%)の状態で1日置きに1週間測定する。
2)電圧降下値の平均値を日数で割り返し、電圧降下速度を算出する。
【0042】
例2
LDHセパレータの厚さを10μmに変更したこと以外は、例1と同様にしてセルの作製及び評価を行った。
【0043】
例3
不織布の厚さを150μmに変更したこと以外は、例2と同様にしてセルの作製及び評価を行った。
【0044】
例4(比較)
i)
図3に示されるように、不織布で包み込まれた正極板をさらに外側からLDHセパレータ(例1で用いたものと同じ厚さ25μmのもの)で包み込んで上端以外の3辺を熱融着封止して正極構造体としたこと、及びii)LDHセパレータの代わりに不織布(例1で用いたものと同じ厚さ100μmのもの)で負極板を包み込んで上端以外の3辺を熱融着封止して負極構造体としたこと以外は、例1と同様にしてセルの作製及び評価を行った。
【0045】
例5(比較)
LDHセパレータの厚さを10μmに変更したこと以外は、例4と同様にしてセルの作製及び評価を行った。
【0046】
結果
例1~5における測定結果(不良品発生率、及び不良品における不良原因)は表1に示されるとおりであった。なお、例4及び5(比較例)における不良品を分解して観察したところ、正極活物質が正極板から脱落して不織布に食い込んだ状態が確認され、また脱落した正極活物質が負極活物質上に付着していることを確認し、この脱落した正極活物質が不良原因であることが確認された。
【0047】