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特許7506832劣化診断装置および劣化診断方法、並びに電動機制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】劣化診断装置および劣化診断方法、並びに電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240619BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023529417
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2021024180
(87)【国際公開番号】W WO2022269913
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高田 英人
(72)【発明者】
【氏名】高野 裕理
(72)【発明者】
【氏名】梁田 哲男
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-52441(JP,A)
【文献】特開2001-337716(JP,A)
【文献】特開2019-184406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象装置に接続された電動機を駆動する電力を出力する電力変換器と、位置指令値と前記電動機の位置検出値との偏差に応じて速度指令値を出力する位置制御器と、前記速度指令値と前記電動機の速度検出値の偏差に応じてトルク電流指令値を出力する速度制御器と、前記トルク電流指令値と前記電動機に供給されるトルク電流検出値との偏差に応じて前記電力変換器の出力電流を調整する電流制御器とを有する電動機制御装置と一体または別体として提供される劣化診断装置であって、
前記電動機の運転情報に応じて電動機の劣化診断を行う劣化診断部と、
前記劣化診断部の診断結果を保存する振動情報保存器と、を有し、
前記劣化診断部は、前記運転情報から演算した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を前記振動情報保存器に保存し、前記電動機の振動状態に関する情報が所定の閾値より大きい場合に振動が発生したと判定する劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化診断装置において、
前記電動機の運転情報は、前記電動機の速度検出値であり、
前記電動機の振動状態に関する情報は、速度検出値の振動振幅量と振動周期とを含むものであり、
前記劣化診断部は、前記速度検出値の振動振幅量と振動周期から振動判定し、振動判定結果を前記振動情報保存器に保存する劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の劣化診断装置において、
前記電動機の運転情報は、前記電動機の位置検出値またはトルク電流検出値であり、
前記劣化診断部は、前記位置検出値またはトルク電流検出値の振動振幅量と振動周期とから振動判定し、振動判定結果を前記振動情報保存器に保存する劣化診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の劣化診断装置において、
前記劣化診断部が振動が発生したと判定した場合に、前記劣化診断装置または前記電動機制御装置と一体または別体の表示器から前記電動機の振動状態に関する情報および劣化診断結果を表示する劣化診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の劣化診断装置において、
前記劣化診断部は、予め指定した電動機の駆動区間毎に、前記電動機の振動状態に関する情報を取得して、前記振動情報保存器に蓄積し、
蓄積した前記電動機の振動状態に関する情報を時系列に表示器で表示する劣化診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の劣化診断装置において、更に、
前記振動判定結果に基づいて制御ゲイン指令を作成する制御ゲイン調整器を備え、
前記制御ゲイン調整器は、前記劣化診断部が振動が発生したと判定した場合に、前記電動機制御装置の制御器に制御ゲインを調整する制御ゲイン指令を送出する劣化診断装置。
【請求項7】
電動機を駆動する電動機制御装置が、電動機の運転情報を取得する第1ステップと、
取得した運転情報から電動機の振動状態に関する複数種類の情報を測定する第2ステップと、
測定した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を保存する第3ステップと、
前記振動状態に関する情報が所定の閾値を超えたときに振動したと判定し、ユーザに表示する第4ステップと、
振動を判定した情報から振動特徴量を抽出し振動抑制する第5ステップと、
を備える劣化診断方法。
【請求項8】
請求項7に記載の劣化診断方法において、
前記電動機の運転情報は、電動機の速度検出値、位置検出値、トルク電流検出値の何れかであり、
前記電動機の振動状態に関する情報は、振動振幅量と振動周期を含むものである劣化診断方法。
【請求項9】
請求項7に記載の劣化診断方法であって、
前記第2ステップでは、予め指定した電動機の駆動区間毎に、前記電動機の振動状態に関する情報を取得する劣化診断方法。
【請求項10】
請求項7に記載の劣化診断方法であって、
前記第4ステップでは、ユーザに劣化診断結果を表示し、ユーザの要求に応じて電動機の振動を抑制する指示を入力する劣化診断方法。
【請求項11】
請求項7に記載の劣化診断方法であって、
前記第4ステップでは、劣化診断結果で取得した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を、ユーザの要求に従って表示を切り替える劣化診断方法。
【請求項12】
駆動対象装置に接続された電動機を駆動する電力を出力する電力変換器と、位置指令値と前記電動機の位置検出値との偏差に応じて速度指令値を出力する位置制御器と、前記速度指令値と前記電動機の速度検出値の偏差に応じてトルク電流指令値を出力する速度制御器と、前記トルク電流指令値と前記電動機に供給されるトルク電流検出値との偏差に応じて前記電力変換器の出力電流を調整する電流制御器とを有する電動機制御装置であって、
劣化診断装置を備え、
前記劣化診断装置は、
前記電動機の運転情報に応じて電動機の劣化診断を行う劣化診断部と、
前記劣化診断部の診断結果を保存する振動情報保存器と、
前記劣化診断部の診断結果に基づいて、制御器への制御ゲイン指令を作成する制御ゲイン調整器、
を有し、
前記劣化診断部は、前記運転情報から演算した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を前記振動情報保存器に保存し、前記電動機の振動状態に関する情報が所定の閾値より大きい場合に振動が発生したと判定し、
前記制御ゲイン調整器は、前記劣化診断部が振動が発生したと判定した場合に、前記電動機制御装置の制御器に制御ゲインを調整する制御ゲイン指令を送出する電動機制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の電動機制御装置において、
前記電動機の運転情報は、前記電動機の速度検出値であり、
前記電動機の振動状態に関する情報は、速度検出値の振動振幅量と振動周期とを含むものであり、
前記劣化診断部は、前記速度検出値の振動振幅量と振動周期とから振動判定し、振動判定結果を前記振動情報保存器に保存する電動機制御装置。
【請求項14】
請求項12に記載の電動機制御装置において、
前記電動機の運転情報は、前記電動機の位置検出値またはトルク電流検出値であり、
前記劣化診断部は、前記位置検出値またはトルク電流検出値の振動振幅量と振動周期とから振動判定し、振動判定結果を前記振動情報保存器に保存する電動機制御装置。
【請求項15】
請求項12に記載の電動機制御装置において、
前記劣化診断部は、予め指定した電動機の駆動区間毎に、前記電動機の振動状態に関する情報を取得して、前記振動情報保存器に蓄積し、
蓄積した前記電動機の振動状態に関する情報を時系列に表示器で表示する劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の劣化診断装置および劣化診断方法、並びに電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機制御において電動機を駆動するとき、電動機や電動機に連結された駆動対象装置が経年劣化すると、振動が発生する場合がある。電動機や駆動対象装置の振動を検出して、電動機や電動機に連結された駆動対象装置の経年劣化を診断する技術がある。
【0003】
特許文献1(特開2020-25462号公報)には、「モータ駆動機構を駆動するモータを駆動制御するモータ制御システムであって、所定のデータ異常判定しきい値と、モータ駆動時における時系列検出データに基づいて算出したマハラノビス距離と、の比較に基づいてデータ異常を判定するデータ異常判定部と、前記データ異常の発生頻度に基づいて前記モータ駆動機構の経年劣化を判定する機械劣化判定部と、前記機械劣化判定部が前記経年劣化の発生を検出した場合、前記経年劣化の発生を報知、及び前記モータの駆動制御を停止するモータ停止部と、を有するモータ制御システムが適用される。」(段落[0007]参照)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-25462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、データ異常判定しきい値と、モータ駆動時における時系列検出データから機械システム全体の異常を判定する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、劣化診断時の振動量に着目しており、振動周波数や振動周期といった他の振動要因には言及されていない。また、劣化診断後の振動低減手法については言及されていない。
【0007】
本発明は、振動量だけでなく、振動周期などの他の振動要因も考慮して、的確な劣化診断を行う劣化診断装置および劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための、本発明の「劣化診断装置」の一例を挙げるならば、
駆動対象装置に接続された電動機を駆動する電力を出力する電力変換器と、位置指令値と前記電動機の位置検出値との偏差に応じて速度指令値を出力する位置制御器と、前記速度指令値と前記電動機の速度検出値の偏差に応じてトルク電流指令値を出力する速度制御器と、前記トルク電流指令値と前記電動機に供給されるトルク電流検出値との偏差に応じて前記電力変換器の出力電流を調整する電流制御器とを有する電動機制御装置と一体または別体として提供される劣化診断装置であって、前記電動機の運転情報に応じて電動機の劣化診断を行う劣化診断部と、前記劣化診断部の診断結果を保存する振動情報保存器と、を有し、前記劣化診断部は、前記運転情報から演算した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を前記振動情報保存器に保存し、前記電動機の振動状態に関する情報が所定の閾値より大きい場合に振動が発生したと判定するものである。
【0009】
また、本発明の「劣化診断方法」の一例を挙げるならば、
電動機を駆動する電動機制御装置が、電動機の運転情報を取得する第1ステップと、取得した運転情報から電動機の振動状態に関する複数種類の情報を測定する第2ステップと、測定した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を保存する第3ステップと、前記振動状態に関する情報が所定の閾値を超えたときに振動したと判定し、ユーザに表示する第4ステップと、振動を判定した情報から振動特徴量を抽出し振動抑制する第5ステップと、を備えるものである。
【0010】
また、本発明の「電動機制御装置」の一例を挙げるならば、
駆動対象装置に接続された電動機を駆動する電力を出力する電力変換器と、位置指令値と前記電動機の位置検出値との偏差に応じて速度指令値を出力する位置制御器と、前記速度指令値と前記電動機の速度検出値の偏差に応じてトルク電流指令値を出力する速度制御器と、前記トルク電流指令値と前記電動機に供給されるトルク電流検出値との偏差に応じて前記電力変換器の出力電流を調整する電流制御器とを有する電動機制御装置であって、劣化診断装置を備え、前記劣化診断装置は、前記電動機の運転情報に応じて電動機の劣化診断を行う劣化診断部と、前記劣化診断部の診断結果を保存する振動情報保存器と、前記劣化診断部の診断結果に基づいて、制御器への制御ゲイン指令を作成する制御ゲイン調整器、を有し、前記劣化診断部は、前記運転情報から演算した電動機の振動状態に関する複数種類の情報を前記振動情報保存器に保存し、前記電動機の振動状態に関する情報が所定の閾値より大きい場合に振動が発生したと判定し、前記制御ゲイン調整器は、前記劣化診断部が振動が発生したと判定した場合に、前記電動機制御装置の制御器に制御ゲインを調整する制御ゲイン指令を送出するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、振動量だけでなく、振動周期などの他の振動要因も考慮して、適格な劣化診断を行うことができる。
【0012】
また、電動機の劣化診断結果により、振動を抑制するように制御装置の制御ゲインを調整することで、電動機の振動を抑制した電動機駆動が可能となる。
【0013】
上記した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図である。
図2A】実施例1の劣化診断器装置のブロック構成図である。
図2B】実施例1の劣化診断装置を構成するフィルタ器のブロック構成図である。
図2C】実施例1の劣化診断装置を構成するフィルタ器で高次周波数成分、低次周波数成分を除去した速度検出値の波形図である。
図3】電動機を正逆繰り返し駆動しながら、制御ゲインを増大した時に電動機が振動する様子を示す図である。
図4】電動機が正転中の一部区間で振動した様子を示す図である。
図5】電動機が正転中の一部区間で発生する振動を抑制するため、制御ゲインを該当する区間のみ低減した様子を示す図である。
図6】実施例1による振動検出判定器の電動機振動状態の特徴量を測定した波形図である。
図7A】実施例1による振動検出判定器の処理フローチャートである。
図7B図7Aに続く、実施例1による振動検出判定器の処理フローチャートである。
図8】実施例1による測定期間毎に測定した振動時運転情報を保存する様子を示した図である。
図9A】実施例1による振動情報保存器が保存した振動時運転情報(振動振幅最大値)を表示器で表示した図である。
図9B】実施例1による振動情報保存器が保存した他の振動時運転情報(振動振幅平均値)を表示器で表示した図である。
図9C】実施例1による振動情報保存器が保存した他の振動時運転情報(振動回数)を表示器で表示した図である。
図10】本発明を適用した実施例1のシステム構成の一例である。
図11】振動情報保存器が蓄積する振動時運転情報を、表示器に表示する画面構成の一例である。
図12】本発明の実施例2の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図である。
図13】本発明の実施例3の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電動機制御において電動機を駆動するとき、電動機や電動機に連結された駆動対象装置が経年劣化すると、電動機や駆動対象装置の摩耗や形状変化によって振動が発生する場合がある。電動機や駆動対象装置が振動する場合、電動機に取り付けられた位置検出器や電流検出器が振動状態となる。
【0016】
本発明では、劣化診断方法として電動機の振動を検出する。電動機の速度検出波形などを任意の区間で、また任意のタイミングで測定し、速度検出波形などが一定の振幅量を持つ場合に振動状態と判定する。また、電動機が振動状態にある時の、速度検出値などの振動振幅量や振動周波数など振動に関する情報を振動情報保存器へ保存する。振動情報保存器は電動機制御装置に接続された表示器に振動情報として表示し、ユーザの必要に応じて電動機の振動を抑制するよう制御ゲインを調整する。
【0017】
以下、電動機の劣化診断装置および劣化診断方法について説明し、電動機を駆動しながら、電動機の運転情報の1つである速度検出値の振動発生の有無を監視し、電動機が振動状態となった場合に、振動に関する振動情報を取得、保存し、必要に応じて表示器へ表示し、電動機の振動を抑制する手段について、実施例を示す。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし主旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施例の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図である。実施例1は、電動機の振動時運転情報を取得し、フィードバック制御パラメータを自動調整することで電動機の振動を低減することを目的とする。
【0019】
図1において、101は電動機、102は前記電動機101により駆動される駆動対象装置、103は前記電動機101と前記駆動対象装置102を連結する連結軸、104は前記電動機101を駆動する電力変換器である。105は前記電動機101に取り付けられ、前記電動機101の位置検出値θMを出力する位置検出器、106は位置指令値θM *と前記電動機101の前記位置検出値θMとの位置偏差θeを演算する減算器である。107は前記位置偏差θeに応じて速度指令値ωM *を出力する位置制御器である。
【0020】
108は前記位置検出器105の出力する位置検出値θMを入力して、前記電動機101の速度検出値ωMを出力する速度演算器である。109は前記速度指令値ωM *と前記電動機101の速度検出値ωMとの速度偏差ωeを演算する減算器、110は前記速度偏差ωeに応じてトルク電流指令値Ιq *を出力する速度制御器である。
【0021】
111は前記電動機101に供給されるトルク電流検出値Ιqを検出する電流検出器、112は前記トルク電流指令値Ιq *と前記電動機1に供給される前記トルク電流検出値Ιqとの電流偏差Ιeを演算する減算器である。113は前記電流偏差Ιeに応じて前記電力変換器104の出力電流を調整する電流制御器である。114は前記電動機101を駆動する位置指令θM *を生成する位置指令生成器である。
【0022】
115は、電動機の運転情報である前記速度検出値ωMに応じて、電動機の振動状態を判断する劣化診断装置である。この劣化診断装置115は前述の速度検出値ωMの入力から、電動機101が振動状態と判断した場合、劣化診断装置115で取得した振動時運転情報に従って、前記速度制御器110の制御ゲインを調整し、振動を抑制する。116は、電動機制御装置117と接続し、劣化診断装置115が保持する振動時運転情報を表示する表示器である。表示器116は、例えばモニタやPCなどが挙げられる。
【0023】
電力変換器104、減算器106、位置制御器107、速度演算器108、減算器109、速度制御器110、減算器112、電流制御器113、位置指令生成器114、劣化診断装置115で電動機制御装置117を構成している。なお、図では劣化診断装置115が電動機制御装置117に組み込まれているが、劣化診断装置115は電動機制御装置117に外付けされる形式であってもよい。この場合、劣化診断装置115は速度演算器108からの速度検出値ωMを電動機制御装置117の外部出力端子(図示せず)から入力して上記の演算を行い、電動機制御装置117の外部入力端子(図示せず)を介して速度制御器110に制御ゲイン値を出力する。
【0024】
本実施例では、回転型電動機(ロータリモータ)に本発明を適用した例を説明する。電動機の運転情報を電動機制御装置にフィードバックすることにより生成される電動機振動状態判定値により電動機の駆動状態を監視しつつ、電動機の振動状態であることを判定する第1の手段、電動機振動の特徴量を抽出する第2の手段、電動機振動の特徴量に従って制御ゲインを調整し、電動機振動を抑制する第3の手段、および電動機振動の特徴量をモニタする第4の手段について、実施例を示す。
【0025】
まず初めに、上位装置から電動機制御装置117に対して電動機駆動指令を入力することで電動機101を駆動し、連結軸103を介して駆動対象装置102を駆動する。このとき、駆動対象装置102を安定的に駆動するため、電動機制御装置117の位置制御ゲインおよび速度制御ゲインは、駆動対象装置102の持つ固有振動周波数より小さく設定する必要がある。
【0026】
図2Aは、劣化診断装置115のブロック構成図である。なお、劣化診断装置115は処理周期Vibsearchtimeで逐次実行している。劣化診断装置115は、前記速度検出器108から入力された速度検出値ωMをフィルタ器201に入力する。フィルタ器201では、速度検出値ωMから、高次の周波数成分と低次の周波数成分を除去した、フィルタ後速度検出値ωMfiltを生成する。202は、前記フィルタ器201の出力値であるフィルタ後速度検出値ωMfiltから電動機の振動状態の判定と、振動時運転情報を生成する振動検出判定器である。振動検出判定器202は、図6図7にて後述する手段を用いて、電動機101が振動状態であることを示す振動状態フラグVibflgを生成し、電動機101が振動した時の振動時運転情報(振動状態に関する情報)を取得する。なお、振動時運転情報は電動機振動の特徴となる情報であり、例えば、電動機101が振動した時の振動周波数、振動振幅値、振動検出回数などを言う。
【0027】
制御ゲイン調整器203は、表示器116で振動時運転情報を表示した際、ユーザが振動を抑制するため、制御ゲイン調整指令gainsetflgをONすると、振動時運転情報に従って、振動を抑制した制御ゲインControlgainを出力し、速度制御器110へ入力する。
【0028】
振動情報保存器204は、振動検出判定器202の判定結果を逐次保存する振動時運転情報保存器である。また、振動情報保存器204は、電動機制御装置117に接続した表示器116に振動情報保存データ群Vibinfogroupを出力し、表示器116で振動時運転情報を表示する。
【0029】
図2Bは、フィルタ器201のブロック図である。フィルタ器201は、位置検出器105や速度検出器108で発生する高周波ノイズ成分と、電動機101の振動成分には寄与しない低周波数成分を除去する。フィルタ器201は、入力された速度検出値ωMを高次周波数除去フィルタ器205へ入力し、高周波成分を除去した高周波低減速度検出値ωMfilt_LPFを生成する。高周波低減速度検出値ωMfilt_LPFは、低次周波数除去フィルタ器206へ入力され、低次周波数成分を除去したフィルタ後速度検出値ωMfiltを生成し、振動検出判定器202へ入力される。
【0030】
また、図2Cは、それぞれ波形207で速度検出値ωMを、波形208で高周波低減速度検出値ωMfilt_LPFを、波形209でフィルタ後速度検出値ωMfiltを示している。
【0031】
図3は、電動機101が駆動開始位置Pstartから目標位置Ptargetへ正転し、正転動作停止後に駆動開始位置Pstartへ逆転駆動する際の、電動機の位置波形301、速度波形302、トルク波形303、制御ゲイン設定値304、振動検出状態305をそれぞれ示している。位置波形301、速度波形302、トルク波形303、制御ゲイン設定値304、振動検出状態305は、それぞれの縦軸を位置Position、速度Speed、トルクTorque、制御ゲインControlgain、振動状態フラグVibflg、横軸を時間Timeとし、正逆転動作後に、制御ゲインControlgainを増大して、正逆転を再度実施する様子を示した波形である。
【0032】
駆動期間Pattern1、駆動期間Pattern2、駆動期間Pattern3は電動機101の正逆転駆動区間であり、駆動期間Patttern1から駆動期間Pattern2に変化する際、制御ゲインControlgainを増加し、正常に電動機が正逆転することを示している。駆動期間Pattern2から駆動期間Pattern3に変化する際、制御ゲインControlgainを電動機振動限界制御ゲインViblimより大きく設定した状態で、電動機101が正逆転動作を開始すると、電動機101が振動し、図6図7で後述する手段により、振動状態フラグVibflgがONし、電動機101が振動したこと示している。なお、電動機振動限界制御ゲインViblimは、駆動対象装置102が持つ固有振動周波数などが要因として挙げられる。電動機振動限界制御ゲインViblimは、装置の構成によって異なり、また経年劣化により変化しうる値である。電動機101、駆動対象装置102で発生する振動は、電動機振動限界制御ゲインViblimより小さく設定するよう制御ゲインControlgainを設定することが求められる。
【0033】
図4では、電動機101が正転した際、一部の区間で振動が発生したことを示す図である。例えば、駆動対象装置102がボールねじ機構であるとして、ボールねじの一部が劣化、または損傷し、形状が変化した場合などが挙げられる。401から405はそれぞれ図3と同様に、位置波形401、速度波形402、トルク波形403、制御ゲイン設定値404、振動検出状態405を示す。区間Section1、区間Section2、区間Section3、区間Section4では、図6図7で後述する手段を用いて、電動機101の振動状態を判定する。区間Section1、区間Section3、区間Section4ではそれぞれ電動機101、駆動対象装置102、連結軸103が振動状態にないため、速度波形402が振動せず、劣化診断装置115で振動状態フラグVibflgはONしない。
【0034】
一方、区間Section2では、電動機101、駆動対象装置102、連結軸103が振動したことを示している。電動機101が振動すると、速度検出値ωMの波形である速度波形402が振動した波形となる。劣化診断装置115は、速度検出器105から入力された速度検出値ωMが振動波形であることから、図6図7で後述する手段を用いて、電動機101が振動状態であると判定して、振動状態フラグVibflgをONする。
【0035】
つまり、区間Section1~区間Section4に対し、それぞれの区間で電動機101の振動有無を判定することで、装置全体動作の振動だけでなく、装置動作のある任意の個所で発生する振動を検出することができる。また、振動が発生した区間の振動のみ抑制することで、振動抑制の影響を一部に抑えることができる。
【0036】
図5では、図4の区間Section2で振動状態フラグがONした際の振動抑制方法の一例を示す。振動検出状態405に示すように、振動状態フラグVibflgがONした区間Section2では、振動検出判定器202にて、位置Pchk1から位置Pchk2の間で振動していることを振動時運転情報として、振動情報保存器204に保存する。振動状態フラグVibflgがONした時の振動時運転情報を制御ゲイン調整器203へ入力し、図9で後述する手段を用いて制御ゲインControlgainを区間Section2のみ低減することで、電動機101の振動を抑制した駆動が可能となる。言うまでもなく、制御ゲインControlgainを低減するのは一例であり、その他、指定した振動周波数成分を除去するノッチフィルタで電動機101の振動を区間Section2のみ低減するなど、指定した区間だけ振動を抑える手段を用いることができる。また、電動機101を駆動対象装置102に取り付け、振動未発生状態の速度検出値の振動振幅値ωMstartを計測しておき、振動発生時に、後述する振動振幅量ωMampと比較することで、振動発生時の増大量Vibincを式(1)で示すことができ、ノッチフィルタの低減量設定に適用できる。
Vibinc = log|ωMampMstart| … 式(1)
【0037】
図6では、図2Aで示す振動検出判定器202で測定する振動時運転情報について記載する。振動検出判定器202は、フィルタ後速度検出値ωMfiltから、フィルタ後速度検出値ωMfiltの振幅量、振動回数、振動周期を測定する。測定の処理フローについては図7で後述する。
【0038】
波形601は、横軸を駆動時間Vibtime、縦軸を速度としたフィルタ後速度検出値ωMfiltである。
【0039】
波形602は縦軸を振動周期測定時間、横軸を駆動時間とした振動時間測定値Vibtimeschである。振動時間測定値Vibtimeschは、振動発生時のフィルタ後速度検出値ωMfiltの振動半周期の時間となる。振動時間測定値Vibtimeschは、振動時運転情報として振動情報保存器203に保存する。
【0040】
波形603は縦軸を区間振動回数Vibcnt、横軸を駆動時間とした区間振動回数Vibcntである。区間振動回数Vibcntは、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定上限ωMmax_jdgより大きくなった後、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限ωMmin_jdgより小さくなると、電動機101が1周期分の振動を発生したとしてカウントアップする。振動を複数回繰り返すごとに振動回数としてカウントアップすることで、測定区間で発生した振動回数を測定することができる。振動回数Vibcntは、振動時運転情報として振動情報保存器203に保存する。
【0041】
波形604は縦軸を区間振動振幅最大値ωMampmax、横軸を駆動時間としている。区間振動振幅最大値ωMampmaxは、図7で後述する振動振幅値ωMampの測定区間ごとの振動振幅を複数回測定した際に、一番大きな値となる振動振幅値ωMampを区間振動振幅最大値ωMampmaxとして、振動情報保存器203に保存する。
【0042】
波形605は縦軸を振動振幅積算値、横軸を駆動時間とした波形である。振動振幅積算値ωMampsumは、電動機101の振動を検出する毎に振動振幅値ωMampを積算して生成する。また、電動機101の振動測定が1区間終了分すると、振動振幅積算値ωMampsumを区間振動回数Vibcntで除算することで振動振幅平均値ωMampaveを算出する。振動振幅平均値ωMampaveは、式(2)となる。
ωMampave = ωMampsum ÷ Vibcnt … 式(2)
【0043】
その結果、振動振幅平均値ωMampaveと振動振幅積算値ωMampsumは振動情報保存器203に保存する。また、区間毎に区間開始位置と区間終了位置を振動情報保存器203に保存する。ここでいう区間開始位置と区間終了位置は、区間Section2を例にすると、区間開始位置は位置Pchk1となり、区間終了位置はPchk2となる。
【0044】
図7A図7Bは、振動検出判定器202の処理フローチャートである。振動検出判定器202は、電動機101が振動状態にある場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値が正負に振れることで振動状態を判断する。振動状態は、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限より小さくなったこと、及びフィルタ後速度検出値ωMfiltが速度検出値振動判定上限より大きくなったことをそれぞれ複数回連続で検出した場合、電動機101は、振動ありと判断して振動時運転情報を更新する。
【0045】
処理701は、振動検出判定器202の処理を開始し、比較処理702へ遷移する。比較処理702は、上限探索状態が未完了であること(Vibsearch_maxjdg = OFF)を判定する。上限探索状態が未完了である場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値が正方向に振れたことを判定するため処理703へ移動する。なお、上限探索状態が完了状態である場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値は正に振れたと判定し、比較処理709へ遷移する。
【0046】
比較処理703から処理708では、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値が振動判定上限ωMmax_jdgより大きくなったことを複数回連続で検出することで、正方向に振れたと判定している。以下、順を追って示す。
【0047】
比較処理703では、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定上限ωMmax_jdgより大きいこと(ωMfilt>ωMmax_jdg)を判定することで、フィルタ後速度検出値ωMfiltが正方向に対し、一定以上の振幅量を持つと判断する。
【0048】
比較処理703で、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定上限ωMmax_jdg以下の場合、処理704へ遷移し、処理704で、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定上限ωMmax_jdgを、連続で上回った回数を示す振動判定上限状態カウント値Vibsearch_maxcntをクリアし(Vibsearch_maxcnt = 0)、比較処理709へ遷移する。
【0049】
処理705では、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定上限ωMmax_jdgを上回った回数を測定するため、振動判定上限状態カウント値Vibsearch_maxcntをカウントアップし(Vibsearch_maxcnt = Vibsearch_maxcnt + 1)、比較処理706へ遷移する。
【0050】
比較処理706では、振動判定上限状態カウント値Vibsearch_maxcntが振動判定上限カウント判定値Vibsearch_maxjdgcntより大きい場合(Vibsearch_maxcnt > Vibsearch_maxjdgcnt)、フィルタ後速度検出値ωMfiltが、振動判定上限ωMmax_jdgを一定回数連続して超えたため、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値は正方向に振れていると判断し、処理707へ遷移する。
【0051】
処理707では、上限探索状態を完了状態にセットし(Vibsearch_maxjdg = ON)、処理708へ遷移後、振動判定上限カウント値をクリアして(Vibsearch_maxcnt = 0)、処理709へ遷移する。
【0052】
なお、比較処理706で、振動判定上限状態カウント値Vibsearch_maxcntが振動判定上限カウント判定値Vibsearch_maxjdgcnt以下の場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltが、振動判定上限ωMmax_jdgを一定回数連続して超えていないため、上限探索状態は未完了状態のまま、比較処理709へ遷移する。
【0053】
比較処理709は、下限探索状態が未完了であること(Vibsearch_minjdg = OFF)を判定する。下限探索状態が未完了である場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値が負方向に振れたことを判定するため処理710へ移動する。なお、下限探索状態が完了状態である場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値は負に振れたと判定し、処理716へ遷移する。
【0054】
比較処理710から処理715では、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値が振動判定下限ωMmin_jdgより小さくなったことを複数回連続で検出することで、負方向に振れたと判定している。以下、順を追って示す。
【0055】
比較処理710では、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限ωMmin_jdgより小さいこと(ωMfilt<ωMmin_jdg)を判定することで、フィルタ後速度検出値ωMfiltが負方向に対し、一定以上の振幅量を持つと判断する。
【0056】
比較処理710で、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限ωMmin_jdg以上の場合、処理711へ遷移し、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限ωMmin_jdgを、連続で下回った回数を示す振動判定下限状態カウント値Vibsearch_mincntをクリアし(Vibsearch_mincnt = 0)、処理716へ遷移する。
【0057】
処理712では、フィルタ後速度検出値ωMfiltが振動判定下限ωMmin_jdgを下回った回数を測定するため、振動判定下限状態カウント値Vibsearch_mincntをカウントアップし(Vibsearch_mincnt = Vibsearch_mincnt + 1)、比較処理713へ遷移する。
【0058】
比較処理713では、振動判定下限状態カウント値Vibsearch_mincntが振動判定下限カウント判定値Vibsearch_minjdgcntより大きい場合(Vibsearch_mincnt > Vibsearch_minjdgcnt)、フィルタ後速度検出値ωMfiltが、振動判定下限ωMmin_jdgを一定回数連続して超えたため、フィルタ後速度検出値ωMfiltの値は負方向に振れていると判断し、処理714へ遷移する。
【0059】
処理714では、下限探索状態を完了状態にセットし(Vibsearch_minjdg = ON)、処理715へ遷移後、振動判定下限カウント値Vibsearch_mincntをクリアして(Vibsearch_mincnt = 0)、処理716へ遷移する。
【0060】
なお、比較処理713で、振動判定下限状態カウント値Vibsearch_mincntが振動判定下限カウント判定値Vibsearch_minjdgcnt以下の場合、フィルタ後速度検出値ωMfiltが、振動判定下限ωMmin_jdgを一定回数連続して超えていないため、下限探索状態は未完了状態のまま、処理716へ遷移する。
【0061】
図7Bにおいて、処理716は、比較処理717へ遷移する。
【0062】
比較処理717は、上限探索状態、及び下限探索状態が共に完了状態である場合(Vibsearch_maxjdg = ON && Vibsearch_minjdg = ON)、電動機101の振動時運転情報を振動情報保存器204へ保存するため、処理718へ遷移し、更新状態でない場合、比較処理724へ遷移する。
【0063】
処理718は、後述する処理727と処理729で取得した、現在速度検出最大値ω Mmax と現在速度検出最小値ωMminとの差分から振動振幅量ωMampを算出する(ωMamp = ωMmax - ωMmin)。振動振幅量ωMampは、フィルタ後速度検出値ωMfiltの振動1周期分の振幅値であり、振動の大きさを示す。振動振幅量ωMamp算出後、処理719へ遷移する。
【0064】
処理719は、次周期の振動振幅量ωMampを取得するため、現在速度最大値ωMmaxと現在速度最小値ωMminを初期化する処理である(ωMmax = 0、 ω Mmin = 0)。初期化後、処理720へ遷移する。
【0065】
処理720は、再度振動状態を検出するため、上限探索完了状態、下限探索完了状態を未完了とするためOFFにセットし(Vibsearch_maxjdg = OFF、 Vibsearch_minjdg = OFF)、処理721へ遷移する。
【0066】
処理721は、振動時間測定値Vibtimeschを振動情報保存器204へ保存するため、振動時間Vibtimeで更新し(Vibtimesch = Vibtime)、処理722へ遷移する。なお、振動時間測定値Vibtimeschは、振動検出判定器202の処理周期Vibsearchtimeと振動時間Vibtimeを乗算することで電動機振動の半周期となる。振動周波数Vibfreqは、式(3)となり、制御ゲインControlgainを振動周波数Vibfreqより小さな値となるよう調整する場合に用いることができる。
Vibfreq =1÷ (Vibtimesch × Vibsearchtime × 2) … 式(3)
【0067】
処理722は、次周期の振動時間測定値Vibtimeschを測定するため、振動時間Vibtimeをゼロクリアして(Vibtime = 0)、処理723へ遷移する。
【0068】
処理723は、振動振幅積算値ωMampsumを更新するため、振動振幅積算値ωMampsumと振動振幅量ωMampを加算して(ωMampsum = ωMampsum + ωMamp)、比較処理724へ遷移する。
【0069】
比較処理724と処理725は、処理721で、振動状態の半周期となるカウント値を測定する処理である。比較処理724は、上限探索状態、または下限探索状態のいずれかが完了状態である場合(Vibsearch_maxjdg = ON、 or Vibsearch_minjdg = ON)、処理725へ遷移し、処理725で振動時間Vibtimeをカウントアップし(Vibtime = Vibtime + 1)、比較処理726へ遷移する。なお、比較処理724が条件を満たさない場合、比較処理726へ遷移する。
【0070】
振動時間Vibtimeは、上限探索状態と下限探索状態が共に完了状態になった時、処理722でゼロクリアされるため、上限探索状態、または下限探索状態のいずれかが完了状態なってから、上限探索状態と下限探索状態が共に完了状態になるまでの時間を測定することとなり、振動の半周期時間を測定することとなる。
【0071】
比較処理726は、電動機101の振動振幅量ωMampを取得するため、電動機の振動振幅最大値を取得する処理である。フィルタ後速度検出値ωMfiltが現在速度最大値ωMmaxより大きくなった場合(ωMfilt > ωMmax)、処理727へ遷移する。比較処理726が条件を満たさない場合、比較処理728へ遷移する。処理727では、現在速度最大値ωMmaxをフィルタ後速度検出値ωMfiltで更新し(ωMmax = ωMfilt)、処理728へ遷移する。
【0072】
比較処理728は、電動機101の振動振幅ωMampを取得するため、電動機の振動振幅最小値を取得する処理である。フィルタ後速度検出値ωMfiltが現在速度最小値ωMminより小さくなった場合(ωMfilt < ωMmin)、処理729へ遷移する。比較処理728が条件を満たさない場合、処理730へ遷移する。処理729では、現在速度最小値ωMminをフィルタ後速度検出値ωMfiltで更新し(ωMmin = ωMfilt)、処理730へ遷移する。処理730は振動検出判定器202を終了する。振動検出判定器202は、フィルタ後速度検出値ωMfiltが入力された場合に処理701から再度動作する。
【0073】
図7A及び図7Bに示す振動検出判定器202の処理フローを逐次実行することで、図6に示すように電動機101の振動時運転情報を取得することができ、表示器116へ出力することで、振動判定や振動発生時の低減手段、振動時運転情報のモニタ監視処理が可能となる。
【0074】
図8は、振動情報保存器204に保存する振動時運転情報の保存形態の一例である。波形801から波形803は図4図5と同様に位置、速度、トルクの波形である。804から806は、それぞれ測定期間Time1、測定期間Time2、測定期間Time3に測定した振動時運転情報のデータ群である振動情報保存データ群Vibinfogroupを示している。測定期間とは、予め指定した各区間を前述の劣化診断装置115で運転状態を測定、保存するまでの期間である。測定期間は、複数回実施され、例えば、測定期間Time1と測定期間Time2は、1日毎に駆動の電源投入後初回のみ測定する。別の手法として、電動機制御装置117が時計機能を持つ、または電動機制御装置117へ時刻情報を与え、予め指定した時間経過毎に測定してもよい。
【0075】
測定期間Time1、測定期間Time2、測定期間Time3は、それぞれ異なる時刻で電動機101を駆動した時の運転状態を測定している。また、振動情報保存データ群Vibinfogroupは、測定期間毎に区間Section1から区間Section4で測定した振動時運転情報を保存している。測定期間毎に運転情報を測定、保存することで電動機101を駆動対象装置102に取り付け後、駆動し続けた運転を常に保存し、経年により劣化し、電動機の駆動状態が変化した場合に、外部に取り付けられたモニタなどで表示が可能である。
【0076】
図9A図9C図8で保存した、振動情報保存器204の振動時運転情報を表示器116に出力した時の表示波形の一例である。
【0077】
X軸方向を時間、Y軸方向を区間とし、Z軸方向をそれぞれ任意の振動時運転情報を表示することができる。図9A図9B図9Cは、Z軸方向に表示する振動時運転情報を変更した一例を示す。
【0078】
図9AはZ軸方向を区間別振動振幅最大値ω Mampmax 図9BはZ軸方向を区間別振動振幅平均値ωMampave図9CはZ軸方向を振動回数Vibcntとしたグラフである。図9Aから図9Cでは、測定期間Time3まで振動が発生していないことを示しており、測定期間Time4より区間Section2にて電動機101から振動を検出したことを示している。
【0079】
ここで、ユーザは、図9Aを確認して、電動機101の振動が小さいため、振動を除去する必要がないと判断すると、振動を抑制する手段を実行せず、電動機101の動作を継続する。その後、測定期間Time5、Time6と駆動し続けた時に、電動機101の振動が増大したことを示している。ユーザは、図9Aを確認して、測定期間Time6で検出した振動を抑制するため、区間Section2の制御ゲインControlgainを低減し、振動を抑制する。振動を抑制する制御ゲインControlgain設定の一例を挙げるならば、図9Cの振動回数Vibcntから算出し、電動機101の振動周波数より小さくなるよう、制御ゲイン調整器203から、速度制御器110の制御ゲインを自動設定する。測定期間Time7は、制御ゲインControlgainを低減したことにより、電動機の振動が抑制され継続して電動機が駆動していることを示している。この時、速度制御器110の制御ゲインを抑制しているが、位置制御器107の制御ゲインも同時に調整してもよい。
【0080】
図10は、第1の実施例を採用する電動機制御装置の全体のシステム構成図である。図10において、1001はボールネジユニット、1002は電動機、1003は電動機1002の位置検出器、1005は負荷1004を搭載するスライダー、1000は電動機制御装置、1006は電動機1002の位置検出信号を電動機制御装置1000に伝送するケーブルである。また、1007は、電動機制御装置1000から電動機1002に駆動電力を供給するケーブル、1008は電動機制御装置1000に電源を供給するケーブルである。1009は、電動機の振動時運転情報を表示、振動低減指令を入力するパソコン、1010は電動機制御装置1000から、電動機の振動時運転情報をパソコン1009に伝送するための通信ケーブルである。
【0081】
なお、図10では、本発明を採用できる電動機制御装置の全体システム構成図として、電動機制御装置の駆動対象に回転系の電動機を用いた場合を例として説明を行ったが、本発明を採用できる電動機制御装置の全体システム構成は、電動機制御装置の駆動対象に、直動系の電動機を用いた場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0082】
また、電動機1002は図1でいう電動機101、電動機制御装置1000は図1でいう電動機制御装置117、パソコン1012は、図1でいう表示器116である。
【0083】
図11は、振動情報保存器204が保存する振動時運転情報を、電動機制御装置117を介して、表示器116に表示する画面構成例である。
【0084】
1101は表示器116である。1102は振動時運転状態を表示したグラフ画面を示している。1103、1104では、グラフ画面1102で表示する測定期間の表示開始期間と表示終了期間をそれぞれ設定する。1105では、グラフ画面1102で表示する振動時運転情報を選択する。図9であれば、図9A図9Cのいずれを表示するか選択することとなる。1106は、電動機が振動状態の時に振動時運転状態に従って自動で制御ゲインを調整する場合、ONを設定するボタンである。ボタン1106をONすると、電動機制御装置117を介して、劣化診断装置に制御ゲイン調整指令gainsetflg=ONを入力する。劣化診断装置115へ入力された制御ゲイン調整指令gainsetflgは、制御ゲイン調整器203へ入力され、振動情報保存器204が保存する振動時運転情報に従って、電動機の振動を低減した制御ゲインControlgainを出力し、速度制御器110へ設定する。1107は表示器116の表示を終了するボタンである。
【0085】
本実施例によれば、速度検出値の振幅量だけでなく、振動周期や振動の変化などの他の運転情報も考慮して、的確な劣化診断を行うことができる。また、劣化診断結果に基づいて、振動を検出した区間において、振動を抑制するよう制御装置の制御ゲインを調整することで、電動機の振動を抑制した電動機駆動が可能となる。
【実施例2】
【0086】
図12に、本発明の第2の実施例の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図を示す。第1の実施例は、速度検出値を用いて劣化診断を行うものであるが、第2の実施例は、位置検出器105からの位置検出値を用いて劣化診断を行うものである。図3図4に示すように、振動が発生すると位置を示す信号も振動する。図12に示すように、位置検出器105からの位置検出値θMを劣化診断装置115へ入力する。第2の実施例も、実施例1と同様に電動機の振動を検出し、電動機の振動状態、および振動時運転情報を取得し、保存する。また、ユーザに振動時運転情報を表示し、ユーザの必要に応じて電動機の振動を低減する。
【0087】
本実施例によれば、位置検出器105からの位置検出値θMを劣化診断装置115へ入力し、実施例1と同様の処理を行うことで、的確な電動機の劣化診断を行うことができる。
【実施例3】
【0088】
図13に、本発明の第3の実施例の劣化診断装置を取り付けた電動機制御装置のブロック構成図を示す。第1の実施例は、速度検出値を用いて劣化診断を行うものであるが、第3の実施例は、電流検出器111からのトルク電流検出値を用いて劣化診断を行うものである。図3図4に示すように、振動が発生するとトルクを示す信号も振動する。図13に示すように、電流検出器111からのトルク電流検出値Ιqを劣化診断装置115へ入力する。第3の実施例も、実施例1、実施例2と同様に電動機の振動を検出し、電動機の振動状態、および振動時運転情報を取得し、保存する。また、ユーザに振動時運転情報を表示し、ユーザの必要に応じて電動機の振動を低減する。
【0089】
本実施例によれば、電流検出器111からのトルク電流検出値Ιqを劣化診断装置115へ入力し、実施例1と同様の処理を行うことで、的確な電動機の劣化診断を行うことができる。
【実施例4】
【0090】
第4の実施例は、実施例1と同様に電動機の振動を検出し、電動機の振動状態、および振動時運転情報を取得し、保存する。また、ユーザに振動時運転情報を表示し、ユーザの必要に応じて電動機の振動を低減する。実施例4では、図11に示すように、前記速度検出値ωMを劣化診断装置115へ入力し、振動振幅値ωMampが増加傾向にあることで電動機が振動したと判定する。
【符号の説明】
【0091】
101…電動機
102…駆動対象装置
103…連結軸
104…電力変換器
105…位置検出器
106…減算器
107…位置制御器
108…速度演算器
109…減算器
110…速度制御器
111…電流検出器
112…減算器
113…電流制御器
114…位置指令生成器
115…劣化診断装置
116…表示器
117…電動機制御装置
201…フィルタ器
202…振動検出判定器
203…制御ゲイン調整器
204…振動情報保存器
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13