(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-18
(45)【発行日】2024-06-26
(54)【発明の名称】内皮眼インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/14 20060101AFI20240619BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
A61F2/14
C08L33/12
(21)【出願番号】P 2023577578
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 IB2022055461
(87)【国際公開番号】W WO2022264005
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-02-14
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523470212
【氏名又は名称】アイヨン メディカル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EYEYON MEDICAL LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ダフナ,オフェル
(72)【発明者】
【氏名】ダブソン,ドミトリー
(72)【発明者】
【氏名】フェレーラ,ナハム
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0170786(US,A1)
【文献】国際公開第2009/146151(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2021/0113375(US,A1)
【文献】特表2021-509631(JP,A)
【文献】特表2012-515054(JP,A)
【文献】特表2018-519897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0076601(US,A1)
【文献】国際公開第2011/069059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14
C08L 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼インプラントを含むデバイスであって、
前記眼インプラントが、透明で生物学的に適合性のある材料で構成され、かつ角膜の後面に連続的に取り付けられるように構成された親水性の外面を含み、前記眼インプラントが、前記角膜の後面への最初の取付時に第1の曲率半径を有し、前記角膜の後面への最初の取付の後に、前記第1の曲率半径とは異なる第2の曲率半径を有し、前記眼インプラントが、前記第1および第2の曲率半径の両方において前記角膜の後面に取り付けられた状態を維持することを特徴とするデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートのコポリマーで構成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、ポリ[(メチルメタクリレート)-co(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)-co(エチレングリコールジメタクリレート)]を含むランダムに架橋されたアクリレートベースのコポリマーで構成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、26%±10%の含水率を有するように水和されていることを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、2.5MPa±10%の引張強度を有することを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、250%±10%の伸びを有することを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、35℃で1.458±10%の屈折率を有することを特徴とするデバイス。
【請求項8】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、中央部分と、この中央部分から外側に延びる周縁部とを備えることを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項8に記載のデバイスにおいて、
前記周縁部が、前記周縁部と前記中央部分との接合部において、前記中央部分よりも薄く、前記接合部で段差バリアを形成することを特徴とするデバイス。
【請求項10】
請求項8に記載のデバイスにおいて、
前記周縁部が、前記周縁部と前記中央部分の接合部においてよりも、その半径方向外側の縁部において薄いことを特徴とするデバイス。
【請求項11】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記眼インプラントが、裏返すことが可能であることを特徴とするデバイス。
【請求項12】
請求項1に記載の
インプラントにおいて、
前記第1の曲率半径が、前記第2の曲率半径よりも大きいことを特徴とする
インプラント。
【請求項13】
請求項8に記載の
インプラントにおいて、
前記周縁部の長さと前記インプラントの半径との間の比が、0.010~0.133:1であることを特徴とする
インプラント。
【請求項14】
請求項1に記載の
インプラントにおいて、
前記第1の曲率半径が、前記第2の曲率半径よりも小さいことを特徴とする
インプラント。
【請求項15】
請求項1に記載のインプラントにおいて、
前記インプラントが、約1.8mm~約3.0mmの切開を通して移植するために折り畳み可能であることを特徴とするインプラント。
【請求項16】
請求項1に記載のインプラントにおいて、
前記インプラントのヤング率が、3.0MPa±10%であることを特徴とするインプラント。
【請求項17】
請求項1に記載のインプラントにおいて、
前記インプラントの曲率半径が、約6.0~8.0mmであることを特徴とするインプラント。
【請求項18】
請求項1に記載の
インプラントにおいて、
前記インプラントが、複数の曲率半径を有することを特徴とする
インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、過剰に水和した浮腫性角膜を治療するための内皮眼インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
目の感覚機能の質は、角膜を通る光伝導の質、水晶体を通る光伝導の質、それら器官の光学的な質、角膜と水晶体の透明度などに大きく依存する。
【0003】
角膜の透明度は、一般に、角膜が脱水状態に留まる能力に依存し、通常は約78%の水和レベルで維持されている。角膜の脱水状態は、いくつかの相互依存的な要因に影響を受けるが、その中で最も重要なのは、角膜の最深部の細胞層である内皮に存在する活性ポンプである。手術、外傷、感染症、先天性素因の結果、内皮機能が一定レベルを超えて破壊されると、角膜のすべての層に水分が流入し、透明性が損なわれる。その状況の病的状態は、視力が著しく低下するだけでなく、進行すると、水疱性角膜症として知られるように、大きな痛みや瘢痕を生じる可能性がある。
【0004】
角膜の水分補給に影響を与えるもう一つの因子は、間質膨張圧(SP)である。これは、線維間プロテオグリカンや他のタンパク質によって実質が膨張する傾向のことである。正常な間質圧は55mmHgの陽圧である。吸収圧(IP)は、グリコサミノグリカンによって引き起こされる陰圧であり、それによって角膜内に流体が引き込まれる。眼内圧(IOP)は、間質膨張圧と吸収圧の和である。IOP(>50~60mmHg)が間質圧を超えると、上皮浮腫が生じる。例えば、IOPが高くSPが正常であれば急性緑内障であり、IOPが正常でSPが低ければ内皮ジストロフィーである。
【0005】
上皮は内皮に比べて水流に対して2倍の抵抗があり、電解質抵抗は上皮の方が内皮より200倍高い。内皮ポンプ機能は、能動的な輸送を通して、角膜実質から房水への流体の通過を確実にする。角膜内皮の透過性は、中心内皮細胞密度が2000細胞/mm2未満に減少すると徐々に増加する。代償的な代謝ポンプ機構は、中心内皮細胞密度が約500細胞/mm2に達するまで脱水状態を維持する。
【0006】
角膜の水分補給に影響を与えるもう一つの要因は、涙の蒸発である。通常の涙の蒸発(約2.5ml/cm2/時)により涙が高張になり、浸透圧抽出が起こり、角膜が5%薄くなる。脱水症状は涙液膜から水分が蒸発することで起こり、より濃縮した溶液が目の表面に残り、涙液膜がより高張になる。高張の涙液膜は、浸透圧によって角膜自体から多くの水分を引き込み、夜間、まぶたが閉じているときはその逆となる。初期のフックス内皮ジストロフィー患者の視力の日内変動で観察されるように、蒸発は、上皮の脱水を維持する要因となりうる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、以下により詳細に説明するように、角膜浮腫の治療用の内皮眼インプラントに関する。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、透明で生物学的に適合性のある材料で構成され、かつ角膜の後面に連続的に取り付けられるように構成された親水性の外面を含む眼インプラントが提供され、この眼インプラントが、角膜の後面への最初の取付時に第1の曲率半径を有し、角膜の後面への最初の取付の後に、第1の曲率半径とは異なる第2の曲率半径を有し、眼インプラントが、第1および第2の曲率半径の両方において角膜の後面に取り付けられた状態を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は、以下の詳細な説明を図面とともに参照することにより、より十分に理解および評価されるであろう。
【
図1】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、本発明の一実施形態に従って構築され動作する内皮インプラントの簡略化された背面図、側面図および正面図である。
図1Dは、
図1Bの線分1D-1Dに沿ったインプラントの簡略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1DのIIで示される、インプラントの縁部の拡大図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、周縁部での細胞増殖前および増殖後における、本発明の一実施形態に係る、角膜後面(内皮)に移植されたインプラントの簡略図である。
【
図4】
図4A、
図4Bおよび
図4Cは、それぞれ、患者への移植前のインプラント(
図4A)、腫れて肥厚した角膜後面に最初に取り付けられたインプラント(
図4B)、および浮腫を治療した後の取り付けられたインプラント(
図4C)の簡略図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、腫れて肥厚した角膜後面に最初に取り付けられたインプラント、および浮腫を治療した後の取り付けられたインプラントの簡略化した写真である。
【
図6】
図6は、複数の曲率半径を有するインプラントの一実施形態の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1A、
図1B、
図1C、
図1Dおよび
図2を参照すると、本発明の一実施形態に従って構築され動作する角膜インプラント10を示している。インプラント10は、DSEK(デスメ剥離内皮角膜移植)またはDMEK(デスメ膜内皮角膜移植)手術においてドナーからのインプラントの代わりに使用することができる擬似内皮インプラントであり得る。インプラント10は、角膜の脱水を可能にする水バリアとして機能する。
【0011】
インプラント10は、透明で生物学的に適合性のある材料で構成することができ、それには、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコーン、シリコーンゴム、コラーゲン、ヒアルロン酸(そのナトリウム塩、カリウム塩および他の塩を含む)、アクリルまたはメタクリル酸ヒドロゲルなどのヒドロゲル、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートまたはメタクリル酸コポリマー/部分的に加水分解されたポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PolyHEMAとして知られている)、ポリスルホン、熱不安定性材料、および他の比較的硬いまたは比較的軟らかい柔軟な生物学的に不活性な光学材料、またはそのような材料の任意の組合せ、例えば、ポリマー中にカプセル化されたゲルなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。インプラント10は、例えば、硬質、半硬質または折り畳み可能であってもよい。
【0012】
インプラント10は、その一部またはすべてが親水性または疎水性であってもよい。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、インプラント10が、英国エセックス州サフランウォルデンのContamac Ltd.からCi26として市販されている、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートのコポリマーで作られている。この材料は、機械加工特性、屈折率、折り畳み性に優れている。これらの機械的特性により、インプラントを容易に折り畳んで注入することができると同時に、円滑で制御された展開が可能になる。
【0014】
Ci26は、ポリ[(メチルメタクリレート)-co-(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)-co-(エチレングリコールジメタクリレート)]からなるランダム架橋アクリレート系コポリマー、すなわち、メチルメタクリレート(MMA)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とエチレングリコールジメタクリレート(EGDM)のコポリマーである。メチルメタクリレート(MMA)は、実質的に水を吸収しないホモポリマーを形成する疎水性モノマーである。2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)は、MMAの修飾物であり、MMAの非極性ペンダントメチル基が極性ヒドロキシエチル官能基に置き換えられている。HEMAがホモポリマー(pHEMA)になると、疎水性骨格構造は維持されるが、極性ペンダント基により水がポリマーマトリックスに吸収される。pHEMAの完全に水和したヒドロゲルには、通常、最大40重量%の水が含まれる。
【0015】
EGDMは、重合してポリマー鎖間に架橋を形成する2つのメタクリレート官能基、MMAおよびHEMAを含み、本質的に疎水性である。
【0016】
Ci26は、約14%のMMA、85%のHEMA、そして1%未満のEGDMのブレンドで、水を吸収することができ、完全に水和すると26重量%の水を含む材料となる。このため、この材料は親水性成分と疎水性成分の両方の混合物を含む。
【0017】
Ci26の製造元であるCONTAMAC社によると、Ci26は以下のステップで製造される。
a.原料(MMA、HEMAおよびEGDM)を混合する。
b.混合物を型(例えば、ロッド型)に流し込み、重合槽に入れる。
c.重合後、材料をアニールして内部応力を除去し、材料を強化する。
d.アニールした材料を、ブランク内へ機械加工し、ブランクの形で販売する。
【0018】
Ci26が水和して、水性環境下にある場合、極性ペンダントヒドロキシ基が表面からそれ自体外向きに配向し、外面に親水性を与える。空気中または非水性環境では、それらの親水性ペンダント基が、それ自体内向きに配向し、外面に疎水性骨格およびメチル基が現れる。上記の結果、Ci26材料の化学的性質は疎水性要素と親水性要素の両方を含み、外面は、水性環境では親水性であり、非水性環境では疎水性である。
【0019】
Ci26の仕様の概要は以下の通りである。
引張強さ=2.5MPa±10%
ヤング率=3.0MPa±10%
伸び=250%±10%
(ASTM(米国材料試験協会)D-638(プラスチックの引張強さ、ヤング率、伸びの試験標準)による)
含水率=26%(水和後)±10%(20℃)
水和後の膨潤(20℃)=1.13(膨潤は式:(w2-w1)/(w1)で計算され、式中、w1=ポリマーの重量(膨潤前)、w2=ポリマーの重量(膨潤後)である)
屈折率=1.458±10%(35°C)(ASTM D-542、プラスチックの屈折率試験標準による)
【0020】
インプラントは、治癒中の角膜の輪郭に沿うように曲率半径を変化させることができ(
図4A~
図5Bを参照してさらに後述)、しかもすべての曲率半径でその形状、機械的特性、物理的特性、光学的特性を保持する。さらに、インプラントは眼の小さな切開部に入るように折り畳むことができ、しかも眼内でその場で展開した後もその形状、機械的特性、物理的特性および光学的特性を保持する。それら特徴は、限定されるわけはないが、インプラントが作られる材料(例えば、Ci26)のアニールにより達成され、それによって、内部応力が除去され、材料の柔軟性が増すと同時に、材料が強化されて、展開後の形状、機械的特性、物理的特性および光学的特性が保持される。それら特徴の実現に役立つ他の特性には、材料の粘弾性特性、引張強さ、ヤング率および伸び特性が含まれるが、それらに限定されるものではない。例えば、Ci26の上記の引張強度、ヤング率および伸び特性、並びにその粘弾性特性により、Ci26から作られたインプラントは、治癒中の角膜の輪郭に沿うようにその曲率半径を変化させることができ、すべての曲率半径においてその形状、機械的特性、物理的特性および光学的特性を保持することができ、Ci26から作られたインプラントは、眼内の小さな切開部に入るように折り畳むことができ、しかも眼内でその場で展開した後もその形状、機械的特性、物理的特性および光学的特性を保持することができる。
【0021】
Ci26は、インプラントの製造、輸送および外科的操作中にインプラントが受ける可能性のある傷に対して高い耐久性を有する。これは、機械的、物理的および光学的特性を低下させることなく、標準的な機械的処置(研磨または機械加工など(ただし、それらに限定されない))によって傷を容易に除去することができることを意味している。
【0022】
本発明者等は、驚くべきことに、Ci26で作られたインプラントの親水性外面が、縫合または追加の結合剤を必要とせずに、インプラントを角膜に付着させるのに役立つことを発見した。しかしながら、任意選択的には、追加の結合剤を使用することができ、さらに任意選択的には、縫合糸を使用してインプラントを定位置に一時的に保持することもできる。治癒過程では、主にフィブロネクチンやラミニンといったタンパク質の吸着を介した生体活性付着により、インプラントの角膜組織への長期的な固着が促進される。
【0023】
Ci26コポリマーは、不透明になる傾向はなく、クリアで透明である。それは、生物学的に不活性であり、FDAにより長期の眼内移植の承認を受けている。それは、紫外線(300~400nm)に対して20年間安定である。
【0024】
本発明の一態様では、
図1Aおよび
図1Cに示すように、角膜インプラント10は、直径約4mm(明細書および特許請求の範囲全体を通じて「約」は±10%である)の中央部分12と、後述するように、中央部分12とは異なる幾何学的形状を有する、中央部分12から外側に延びる周縁部14とを有する。中央部分12は透明であってもよく、正または負の倍率、乱視補正、屈折調整などの光学的特性を有しても有さなくてもよい。周縁部14は任意であり、すなわち、本発明は、追加の周縁部14を設けずに、中央部分12のみを用いて実施することができる。
【0025】
周縁部を有するそれら実施形態では、周縁部14を、中央部分12と同じ材料で作ることができる。代替的には、周縁部14は、中央部分12とは異なる材料で作られて、中央部分12に接合または他の方法で取り付けられるようにしてもよい。周縁部14は透明であってもよいが、代わりに不透明であってもよい。
【0026】
以下の表および
図2に見られるように、周縁部の長さ(表ではステップ長fとも呼ばれる)は、0.05~0.2mm±10%であるが、これに限定されるものではない。インプラント全体の半径(表ではインプラント直径eの半分)は、1.5~5.0mm±5%である。したがって、例えば、周縁部の長さ0.2mm、インプラント半径3.25mmの場合、周縁部の長さとインプラント半径の比は0.0615:1(つまり、周縁部が全半径の6.15%である)。周縁部の長さとインプラント半径の比は、0.010~0.133:1の範囲とすることができが、これに限定されるものではない。
【0027】
インプラントの非限定的な寸法は、
図1Dおよび
図2に示す名称を使用すると、以下の通りである。
【0028】
ベースカーブ半径は、インプラントの曲率半径であり、
図4A、
図4Bおよび
図4Cを参照して以下にさらに説明する。
【0029】
図示の実施形態では、周縁部14が、周縁部14と中央部分12との接合部において中央部分12よりも薄く、段差バリア19を形成する。
図3Aおよび
図3Bを参照して以下に説明するように、細胞(例えば、上皮細胞)、治癒プロセス中に生成されるタンパク質または他の生体分子は、段差バリア19まで周縁部14上で半径方向内側に増殖することができる。段差バリアは、細胞が中央部分12上にさらに増殖するのを阻止する。このため、周縁部14は、a)中央部分12よりも薄いことにより、細胞、タンパク質または他の生体分子が、中央部分12とは対照的に、周縁部14上で半径方向内向きに増殖しやすく、b)段差バリア19が、中央部分12上に細胞がさらに増殖するのを阻止する、という少なくとも2つの利点を有する。
【0030】
インプラント10は、角膜実質への房水の受動的移動に対する物理的バリアを提供する。角膜表面からの蒸発効果により、角膜の脱水と透明性を維持する。
【0031】
インプラント10の製造
インプラント10は以下のように製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
a.Ci26ポリマーブランクの旋盤切削プロセス
インプラントは、コンピュータによって制御されるダイヤモンド切削工具を有する旋盤切削機械を使用して製造することができ、それにより、最終的なサイズおよび曲率が生成される。インプラントの寸法および初期曲率は、特定の患者に合わせてカスタムメイドすることができる。
【0033】
b.インプラント水和プロセス
水和プロセスは、インプラントを0.9%塩化ナトリウム水溶液に1~24時間(この時間に限定されるものではない)浸漬することにより行うことができる。この段階で、インプラントは硬質から軟質へと変化し、最終的な水和形状に膨張する。
【0034】
c.品質管理(100%):デバイスの適合性を保証するため、すべてのインプラントに対して品質検査(100%検査)が実施される。
【0035】
d.インプラントの包装およびラベル表示:インプラントはISOクラス5の層流キャビネットで洗浄および包装される。インプラントは、0.9%塩化ナトリウム水溶液で満たされたガラス製バイアル内に提供され、この塩化ナトリウム水溶液は、水和媒体として、また搬送時の製品の無菌性を保証する微生物学的バリアとして機能する。さらに、各バイアルは段ボール箱で梱包され、バイアルと箱には専用のラベルが貼られる。梱包材は、処理、保管、出荷、取り扱い、流通中のデバイスを変質や損傷から適切に保護する。
【0036】
e.デバイスの滅菌:インプラントは湿熱滅菌により滅菌され、単回使用として供給される。バイアルは蒸気滅菌法で滅菌することができる。
【0037】
f.デバイスの最終検査とリリース。
【0038】
インプラント10の挿入
インプラント10は、1.8~3.0mmの切開、代替的には1.8~2.7mmの切開、代替的には1.8~2.4mmの切開、代替的には2.0~2.4mmの切開、好ましくは2.2~2.4mmの切開を通して眼内に挿入することができるが、それらサイズに限定されるものではない。インプラントは、縫合糸を使用しない方法で、あるいはより適切な位置決めのために縫合糸を1本使用して配置することもできる。インプラントは、鉗子、標準的なIOLインジェクタまたは特別設計のインジェクタを使用して、折り畳んで前房内に挿入することができる。
【0039】
インプラント10の移植は、次のように行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
a.標準的な手術手順に従って患者の準備を行う。
【0041】
b.患者を手術用顕微鏡下の定位置に配置する。
【0042】
c.ケラトームサイドポートで一次エントリ(例えば、1.8~2.6mm)、スティレットで二次エントリポイント(必要に応じて1~2箇所)を作成する。
【0043】
d.任意選択的に、BSS(平衡塩類溶液)または空気で前房維持器を挿入する。
【0044】
e.任意選択的に、BSSまたは空気下で前房にデスセメトルヘキシス(例えば4~8mm)を形成する。
【0045】
f.滅菌したインプラントの包装を、滅菌技術のみを使用および維持して開封する。滅菌した無傷の器具を使用してインプラントを慎重に取り出す。
【0046】
g.使用前に、インプラントに損傷や欠陥がないか点検する。
【0047】
h.挿入前に、インプラントの向きを確認する:インプラントの外周面には、数字や文字などのマーク18(
図1aおよび
図1C)が付されている。(
図1Cのように)マークが正しく現れる(
図1AのようにFが反転していない)ようにする必要がある。インプラント10は裏返し、すなわち表裏反転させることが可能であることに留意されたい。それにもかかわらず、インプラント材料は元の湾曲した形状に戻る傾向があるため、インプラントが元の向きに「ポンと」戻るのを避けるために、インプラントを適切な向きで眼内に配置することが好ましい。これは、周縁部14を有する実施形態にも当てはまる。
【0048】
i.インプラントを鉗子またはインジェクタで前眼房内に挿入する。
【0049】
j.挿入後、(上述したように)インプラントの正しい位置と向きを確認する。そうでない場合は、インプラントをひっくり返す。
【0050】
k.瞳孔の中心に対して気泡でインプラントを位置合わせする。
【0051】
l.任意選択的に、次のステップの前(最後の気泡の前)に抗生物質を注入する。
【0052】
m.必要に応じて傷口を縫合する。
【0053】
n.任意選択的に、前房を空気、SF6(六フッ化硫黄)ガス20%またはC3F8(オクタフルオロプロパン)10%で10~90分間完全に満たす。
【0054】
o.10~90分後、前房内の気泡を75%に減少させる。インプラントの不安定性が疑われる場合は、インプラントを縫合すること、またはインプラントの周囲に粘弾性体を使用して、より適切な位置にインプラントを配置することを検討する。代替的には、インプラントの位置決めが良好であれば、更なる操作を必要とせずに、最初に約75%の気泡を注入することができる。
【0055】
p.任意選択的に、(瞳孔ブロックを防ぐために)瞳孔拡張薬を点眼する。
【0056】
q.術後4時間は、患者を仰臥位で放置する。
【0057】
r.移植後48時間は目をこすらないようにし、アイシールドを使用するように患者に指示する。
【0058】
ここで
図3Aおよび
図3Bを参照すると、周縁部に細胞が増殖する前および後の、本発明の一実施形態に従って角膜後面24に移植されたインプラントがそれぞれ示されている。
図3Bは、治癒プロセス中に生じた細胞(例えば、上皮細胞)またはタンパク質もしくは他の生体分子が、段差バリア19まで、周縁部14上に半径方向内側に増殖することができ、段差バリアが、細胞またはタンパク質もしくは他の生体分子が中央部分12上で増殖するのを阻止することを示している。細胞またはタンパク質もしくは他の生体分子は、インプラントを角膜内皮に固着するのに役立つ。
【0059】
Ci26で作られたインプラントは、含水率26%の膨潤能力を有する。この材料膨潤のプロセスは、インプラントが生理食塩水で水和された直後に活性化される。インプラントが水和されると、タンパク質に付着するようになる。
【0060】
インプラントの縁部14は、角膜内皮の損傷を受けていない領域の角膜内皮細胞の付着を高めて、インプラントの固定を改善することが、動物実験後の組織学的評価で証明されている。この結果は、吸着されたタンパク質(フィブロネクチン、コラーゲンなど)がインプラントの組織への付着を仲介していることを示している。Ci26インプラントは、インプラント材料に親水性成分と疎水性成分の両方を含む。親水性成分は、移植直後のインプラントの湿潤性と水環境への適応に重要である(そうでない場合、インプラントは気泡で覆われ、吸着されたタンパク質との相互作用ができない可能性がある)。
【0061】
浮腫が報告されていない角膜の角膜前面の平均半径は7.79±0.27(標準偏差)mm、角膜後面の平均半径は6.53±0.25mmと測定されている。どちらの面も垂直方向よりも水平方向に平坦であることが分かっている。角膜前面と角膜後面の非球面性は曲率半径に依存せず、角膜前面の非球面性と角膜後面の非球面性との間には相関がないことが判明している。その結果、角膜前面の形状は、角膜後面の非球面性を知るための決定的な根拠を提供しない。角膜後面の曲率および非球面は、角膜外面(前面)とは無関係であるため、角膜後面の曲率半径の変化は明らかではなく、容易に測定することができない。本発明は、角膜後面の曲率半径のあらゆる変化に対応できるインプラントを独自に提供する。
【0062】
インプラントの周縁部は、インプラント10の材料特性と組み合わさって、治療中ずっと、インプラント10を角膜後面に適切に付着した状態に保つ。周縁部は、その上の細胞増殖とともに、角膜の厚さおよび曲率半径のすべての段階において、インプラントを角膜後面に良好に固定する。
【0063】
図4A、
図4Bおよび
図4Cを参照すると、インプラントが3つの異なる基本的な曲率半径を有し得ることが示されている。
図4Aは、製造業者から提供されたときのインプラントを示している。使用前のこの段階では、曲率半径はR0と示され、6.0~8.0mmであるが、これに限定されるものではない。
【0064】
図4Bは、実質と内皮、または実質のみである角膜後面24に最初に取り付けられたインプラント10を示し、
図4Cは、角膜の腫れが減少した後(患者に応じて、数時間後、または1日後、2日以上後)の角膜後面に取り付けられたインプラント10を示している。また、
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、腫れて肥厚した角膜後面に最初に取り付けたインプラントと、浮腫を治療した後の取り付けたインプラントの簡略化された写真である。
【0065】
図4Bに見られるように、角膜浮腫により、移植直後は、角膜後面24と上皮26が腫れて肥厚している。
図5Aに見られるように、この例では、浮腫の厚さが1139μmである。浮腫の腫れにより、腫れていない正常な厚さの角膜とは対照的に、角膜後面が平坦になる場合がある。この平坦化効果により、インプラントの曲率半径(
図4BのR1)が少なくとも7mm、ある場合には約7~12mm、多くの場合には約10~12mmに増大する。治癒中のインプラントの曲率半径は、角膜後面の曲率半径と実質的に同じである。
【0066】
図4Cは、浮腫の治療後の角膜後面24に取り付けられたインプラント10の効果を示している。
図4Cは、角膜後面24および上皮26が、正常な厚さ、限定するものではないが、556μm(
図5B)に戻ったことを示している。
図4Cに見られるように、厚さの減少により、インプラントは、例えば6.53±0.25mm(これに限定されるものではない)の曲率半径R2を有し、これは実質的に角膜後面24の曲率半径と同じであり得る。
【0067】
このように、インプラント10の曲率半径は、初期の移植時から、角膜浮腫が軽減した後の異なる曲率半径へと徐々に変化する。多くの場合、角膜の平坦化により、R1(浮腫の曲率半径)がR2(浮腫後の曲率半径)よりも大きくなる。しかしながら、半径方向の寸法の範囲はこれに限定されるものではなく、場合によってはR2がR1より大きくなることもある。いずれの場合も、インプラント10の材料特性(限定されるものではないが、材料がアニールされて内部応力が除去され、材料が強靭化されていること、材料が粘弾性であること、材料の引張強さ、ヤング率および伸び特性など)により、インプラントは、その曲率半径を変化させて、浮腫状態から浮腫後の状態まで治癒中の角膜の輪郭に追従することができる。このように、インプラントは、その曲率半径を、最初の移植状態の第1の曲率半径(R1)から、治療後の移植状態の第2の曲率半径(R2)まで変化させる特性を有する。2つの曲率半径R1とR2との間の差は、インプラントの機能に影響を与えることなく、プラスマイナス5~100%とすることができる。
【0068】
インプラントの製造時(インプラント移植前)の曲率半径(R0)は、R2と同じにすることも、それとは異なるようにすることも、R1と同じにすることも、それとは異なるようにすることもできることに留意されたい。
【0069】
図6を参照すると、本発明のインプラントの別の可能性のある特徴が示されている。角膜後面は、ただ1つの均一な曲率半径の代わりに、複数の異なる曲率半径を有する不均一なものとすることが可能性である。これにより、本発明のインプラントは、それ自体それら複数の曲率半径に対応し、対応する複数の曲率半径、例えば、限定するものではないが、中央の曲率半径X1、および中央の曲率半径X1からオフセットした1または複数の曲率半径Y1、Y2などを有することができる。それら曲率半径の各々は、上記の3つの値、すなわち、製造時の第1の値、初期移植時の第2の値、および治療後の第3の値を有することができる。
【要約】
眼インプラントは、透明で生物学的に適合性のある材料で構築され、かつ角膜の後面に連続的に取り付けられるように構成された親水性の外面を含む。眼インプラントは、角膜後面への初期取付時に第1の曲率半径を有し、角膜後面への初期取付の後に第2の曲率半径を有する。第1の曲率半径は第2の曲率半径とは異なる。眼インプラントは、第1および第2の曲率半径の両方において角膜後面に取り付けられたままである。
【選択図】
図2