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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】植物生育促進剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20240620BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240620BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240620BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20240620BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240620BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20240620BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P21/00
A01N25/02
A01N59/20
A01N59/16 Z
A01N37/44
A01G7/06 A
A01G7/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020080169
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172635
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度~令和2年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(73)【特許権者】
【識別番号】000240950
【氏名又は名称】片倉コープアグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 義弘
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 真理
(72)【発明者】
【氏名】谷口 伸治
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 英司
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝憲
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-052169(JP,A)
【文献】特開平11-157968(JP,A)
【文献】特開2010-280677(JP,A)
【文献】特開平01-208386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/
A01P 21/
A01N 25/
A01N 59/
A01G 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸金属キレート及びグリシンベタインを有効成分として含む植物生育促進剤であって、
前記グルコン酸金属キレートがグルコン酸銅、又はグルコン酸亜鉛である植物生育促進剤
【請求項2】
グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、並びに無機金属塩をさらに含
前記グルコン酸塩がグルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、及びグルコン酸カルシウムからなる群から選択される1以上の塩であり、
前記無機金属塩が無機銅、又は無機亜鉛である、請求項1載の植物生育促進剤。
【請求項3】
前記グルコン酸金属キレートの含有量が0.1mM~50mMである、請求項1又は2に記載の植物生育促進剤。
【請求項4】
前記グリシンベタインの含有量が10ppm~500ppmである、請求項1~のいずれか1項に記載の植物生育促進剤。
【請求項5】
植物栽培方法であって、
請求項1~のいずれか1項に記載の植物生育促進剤を対象植物に施用する施用工程、及び
該対象植物を培養する培養工程
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物生育促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生育を促進させる技術は、農作物の早期収穫や植物バイオマス生産量の増加等、農林業上、極めて重要である。また、近年の新興国の経済成長に伴う生活水準の向上や中長期的な人口増加により、世界の食糧需要は上昇傾向が予測されている。そのため効率的で安全、かつ安価な植物生育方法の開発は急務となっている。
【0003】
それ故に、当該分野では、栽培条件の最適化、肥料や生育促進剤の開発、ノックアウト植物及びトランスジェニック植物の作製等、上記課題を解決するための様々な試みがなされてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】農林水産省 農林水産政策研究所 平成30年度 2028年における世界の食料需給見通し―世界食料需給モデルによる予測結果―
【文献】農林水産省大臣官房政策課食料安全保障室 令和元年9月 2050年における世界の食料需給見通し 世界の超長期食料需給予測システムによる予測結果
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物の生育を促進することのできる安全性の高い新たな薬剤を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
グルコン酸金属キレートは、近年、植物ウイルスに対する防除効果が明らかになっている(特開2017-178838)。一般的なグルコン酸金属キレートには、グルコン酸銅やグルコン酸亜鉛が挙げられる。銅、及び亜鉛は、植物の生育上不可欠な元素であり、それらの欠乏により植物は生育が抑制される、又は停止することが知られている。それを回避するために、銅や亜鉛は肥料や植物活力剤としても広く利用されている。
【0007】
そこで、本発明者は、グルコン酸金属キレートが植物ウイルス防除効果に加え、植物生育促進効果を有することを期待し、上記課題解決のためグルコン酸金属キレートを用いた新規植物生育促進剤の研究開発を行った。しかし、グルコン酸金属キレート単独では、僅かながらの生育促進効果が見られるに過ぎなかった。
【0008】
ところが、グルコン酸金属キレートをベタインと組み合わせて植物に施用した場合、それぞれを単独で使用したときの効果を顕著に上回る植物生育促進効果が現れることが明らかとなった。ベタインは、植物の根毛の発生を促進し、根量を増加させる等植物の地下部の生育に対する促進効果があることが知られているが、地上部の生育に対する促進効果は見られない(特開平1-208386、特開平1-228416)。一方、グルコン酸金属キレートとベタインの組み合わせでは植物の地上部及び地下部のいずれの生育促進効果も見られた。本発明は、当該知見に基づくものであって、以下を提供する。
【0009】
(1)グルコン酸金属キレート及びグリシンベタインを有効成分として含む植物生育促進剤であって前記グルコン酸金属キレートがグルコン酸銅、又はグルコン酸亜鉛である植物生育促進剤
(2)グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、並びに無機金属塩をさらに含前記グルコン酸塩がグルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、及びグルコン酸カルシウムからなる群から選択される1以上の塩であり、前記無機金属塩が無機銅、又は無機亜鉛である、(1)記載の植物生育促進剤。
(3)前記グルコン酸金属キレートの含有量が0.1mM~50mMである、(1)又は(2)に記載の植物生育促進剤。
(4)前記グリシンベタインの含有量が10ppm~500ppmである、(1)~()のいずれかに記載の植物生育促進剤。
(5)植物栽培方法であって、(1)~()のいずれかに記載の植物生育促進剤を対象植物に施用する施用工程、及び該対象植物を培養する培養工程を含む前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の植物生育促進剤によれば、植物への施用が認められている2つの薬剤を用いることで、新規の植物生育促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グルコン酸亜鉛とベタインの組み合わせによるトマトの生育促進効果を示した図である。Aは植物地上部の新鮮重を、またBは植物地下部の新鮮重(根重)を示す。(a)は対照区で水のみを付与、(b)はベタイン区で、ベタインのみを終濃度100ppmで付与、(c)はグルコン酸亜鉛区で、グルコン酸亜鉛のみを終濃度0.5mMで付与、(e)グルコン酸亜鉛/ベタイン区:終濃度0.5mMグルコン酸亜鉛と終濃度100ppmのベタインを付与した試験区である。
図2】グルコン酸銅とベタインの組み合わせによるトマト生育促進効果を示した図である。Aは植物地上部の新鮮重を、またBは植物地下部の新鮮重(根重)を示す。(a)は対照区で水のみを付与、(b)はベタイン区で、ベタインのみを終濃度100ppmで付与、(d)はグルコン酸銅区:グルコン酸銅のみを終濃度0.5mMで付与、(f)グルコン酸銅/ベタイン区:終濃度0.5mMグルコン酸銅と終濃度100ppmのベタインを付与した試験区である。
図3】グルコン酸亜鉛とベタインの組み合わせによるイチゴの匍匐枝(ランナー)における地下部の新鮮重(根重)の生育促進効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.植物生育促進剤
1-1.概要
本発明の第1の態様は、植物生育促進剤である。本発明の植物生育促進剤は、構成成分としてグルコン酸金属キレート及びベタインを含む組成物である。本発明の植物生育促進剤によれば、植物地上部及び地下部の両者の生育を促進することができる。
【0013】
1-2.定義
本明細書で頻用する用語について、以下で定義する。
本明細書において「植物(の)生育」とは、植物体の重量、好ましくは乾燥重量の増加をいい、具体的には、植物体の伸長及び/又は拡大、葉数及び/又は茎数の増加、花芽形成、結実等が該当する。
【0014】
「植物生育促進(作用)」とは、対照植物と比較して、生育を促進すること、又はその作用をいう。これにより、同環境下において同期間で栽培した対照植物よりも多くのバイオマスを得ることができる。ここでいう「対照植物」とは、本発明の植物生育促進剤を施用する対象植物と同種の植物であって、本発明の植物生育促進剤が非施用であることを除いて同一条件下で栽培される植物をいう。
【0015】
本明細書において「施用」とは、植物に対して薬剤や肥料等を投与し、使用することをいう。
【0016】
本明細書において「(対象)植物」とは、本発明の植物生育促進剤の施用対象となる植物であり、また後述する第2態様における植物栽培方法において栽培対象となる植物をいう。植物の種類は問わない。被子植物又は裸子植物のいずれであってもよい。さらに、草本植物及び木本植物も問わない。本発明の植物生育促進剤の施用対象植物の具体例としては、農業上重要な植物、例えば、穀類、野菜、果物等の作物植物や花卉植物が挙げられる。具体的には、単子葉植物では、イネ科(Poaceae)植物(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、コウリャン、芝草(例えば、Zoysia, Cynodon, Pao, Agrostis, Festuca, Lolium等に属する種))が挙げられる。また、双子葉植物では、アブラナ科(Brassicaceae)植物(例えば、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、アブラナ)、キク科(Asteraceae)植物(例えば、レタス、ゴボウ、キク)、マメ科(Fabaceae)植物(例えば、ダイズ、落花生、エンドウ、インゲンマメ、レンズマメ、ヒヨコマメ、ソラマメ)、ナス科(Solanaceae)植物(例えば、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、トウガラシ、ペチュニア)、バラ科(Rosaceae)植物(例えば、イチゴ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、バラ、ウメ、サクラ)、ウリ科(Cucurbitaceae)植物(例えば、キュウリ、ウリ、カボチャ、メロン、スイカ)、ユリ科(Liliaceae)植物(例えば、ネギ、タマネギ、ユリ)、ミカン科(Rutaceae)植物(例えば、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ユズ)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)植物(例えば、サツマイモ)、ツバキ科(Theaceae)植物(例えばチャノキ)、及びブドウ科(Vitaceae)植物(例えば、ブドウ)が該当する。
【0017】
1-3.構成
1-3-1.構成成分
本発明の植物生育促進剤は、グルコン酸金属キレート及びベタインを必須の構成成分として含む。このグルコン酸金属キレート及びベタインが本発明の生育促進剤における有効成分となり得る。さらに必要に応じて、グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、並びに無機金属塩、そして農学上許容可能な担体を含むことができる。以下、それぞれの構成成分について、具体的に説明をする。
【0018】
(1)グルコン酸
「グルコン酸(C6H12O7)」は、グルコースにおける1位の炭素が酸化されピラノース環が開裂したカルボン酸で、強力なキレート剤として知られている。自然界にも存在し、ハチミツやローヤルゼリー等の食品にも含まれる植物や人体に安全な低分子化合物である。本発明の植物生育促進剤では、限定はしないが、通常、水に溶解した状態(グルコン酸水溶液)で存在し得る。したがって、水に溶解することで加水分解によってグルコン酸となるグルコノラクトンも本明細書においては、グルコン酸に包含される。グルコン酸は、本発明の植物生育促進剤における選択的構成成分であり、必要に応じて添加すればよい。
【0019】
(2)グルコン酸金属キレート
「グルコン酸金属キレート」とは、グルコン酸が重金属をキレート配位した化合物である。グルコン酸金属キレートの種類は限定しないが、配位する金属が植物生育上不可欠な元素であることが好ましい。例えば、グルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、グルコン酸鉄等が挙げられる。本発明の植物生育促進剤は、1種、又は2種以上のグルコン酸金属キレートを含むことができる。例えば、前述のグルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、グルコン酸鉄をそれぞれ単独で含んでいてもよいし、グルコン酸銅とグルコン酸鉄、グルコン酸亜鉛とグルコン酸鉄、グルコン酸銅とグルコン酸亜鉛、並びにグルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、及びグルコン酸鉄等の組み合わせにより2種以上のグルコン酸金属キレートを含んでいてもよい。
【0020】
植物生育促進剤におけるグルコン酸金属キレートの含有量は、限定はしないが、施用時の終濃度が0.1mM~50mMの範囲にあればよい。例えば、グルコン酸銅を0.1mM~5mM、0.2mM~10mM、0.5mM~20mM、及び1mM~40mMの範囲とすることができる。グルコン酸金属キレートを複数種包含する場合、それぞれのグルコン酸金属キレートの含有量は同一であってもよいし、異なっていてもよい。ただし、施用前の植物生育促進剤は濃縮状態であってもよく、施用時に水、バッファー等で希釈することもできる。この場合、植物生育促進剤に含まれるグルコン酸金属キレートの含有量は前記終濃度の範囲を超えていてもよい。その場合、施用時の終濃度を濃縮率で乗じた濃度を含むことができる。濃縮率は限定しないが、例えば、5倍~1000倍、10~800倍、100~500倍の範囲であればよい。
【0021】
(3)ベタイン
「ベタイン」とは、植物や海産物等に含有される形で自然界に広く存在する物質であり、構造的には、同一分子内の隣接しない位置に負電荷及び解離水素が結合しない正電荷を有し、分子全体として電荷を持たない分子内塩としての特徴を有する。本発明の植物生育促進剤におけるベタインの種類はグリシンベタイン(トリメチルグリシン)である
【0022】
植物生育促進剤におけるベタインの含有量は、限定はしないが、施用時の終濃度が10ppm~500ppmの範囲にあればよい。例えば、10ppm~100ppm、30ppm~200ppm、50ppm~300ppm、及び80ppm~400ppmの範囲とすることができる。だし、施用前の植物生育促進剤は濃縮状態であってもよく、この場合、植物生育促進剤に含まれるベタインの含有量は前記終濃度の範囲を超えていてもよい。その場合、上記グルコン酸金属キレートと同様に、施用時の終濃度を濃縮率で乗じた濃度を含むことができる。
【0023】
(4)グルコン酸塩
「グルコン酸塩」とは、グルコン酸の塩類である。グルコン酸塩は、本発明の植物生育促進剤における選択的構成成分であり、必要に応じて添加される。
グルコン酸塩の具体例としては、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられるが、これに限定はされない。グルコン酸塩は、本発明の植物生育促進剤中に1種、又は2種以上含まれていてもよい。
【0024】
(5)無機金属塩
「無機金属塩」は、本発明の植物生育促進剤における選択的構成成分であり、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、炭酸塩等が該当する。無機金属塩における金属元素の種類は限定しないが植物生育上不可欠な元素であることが好ましい。例えば、銅、亜鉛、鉄等が挙げられる。したがって、好ましい無機金属塩は、無機銅、無機亜鉛、及び無機鉄である。具体的には、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸鉄、リン酸銅、リン酸亜鉛、リン酸鉄、硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸鉄、塩化銅、塩化亜鉛、塩化鉄、酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸鉄、炭酸銅、炭酸亜鉛、炭酸鉄等が挙げられる。無機金属塩は、本発明の植物生育促進剤中に1種、又は2種以上含まれていてもよい。
【0025】
本発明の植物生育促進剤において無機金属塩と前記グルコン酸及び/又はグルコン酸塩は、組み合わせて添加することが望ましい。これは、無機金属塩とグルコン酸又はグルコン酸塩を水中で溶解し、キレート化させることで、有効成分であるグルコン酸金属キレートを新たに生成できるからである。
【0026】
(6)農学上許容可能な担体
本発明の植物生育促進剤は、選択的な構成要素として、必要に応じて農学上許容可能な担体を含むことができる。
「農学上許容可能」とは、本発明の植物生育促進剤の施用を容易にし、その分解を阻害若しくは抑制し、及び/又はその作用速度を制御する物質であって、野外及び屋内において植物の栽培に施用しても、土壌及び水質等の環境に対する有害な影響がないか又は小さく、かつ動物、特にヒトに対する有害性がないか又は低い性質を有していることをいう。
【0027】
「担体」は、例えば、溶剤及び補助剤が該当する。
【0028】
「溶媒」には、水、芳香族化合物溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロナフタレン、アルキル化ナフタレン若しくはその誘導体)、パラフィン類(例えば、鉱油留分)、クロロホルム、四塩化炭素、ケトン類(例えば、アセトン、シクロヘキサノン)、ピロリドン類(例えば、NMP又はNOP)、アセテート(二酢酸グリコール)、グリコール類、脂肪酸ジメチルアミド類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0029】
「補助剤」としては、粉砕天然鉱物、粉砕合成鉱物、乳化剤、分散剤、展着剤及び界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
粉砕天然鉱物には、例えば、カオリン、クレイ、タルク及びチョークが挙げられる。
【0031】
粉砕合成鉱物には、例えば、高分散シリカ及びシリケートが挙げられる。乳化剤としては、非イオン性乳化剤やアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、アルキルスルホネート及びアリールスルホネート)が挙げられる。
【0032】
分散剤には、例えば、リグノ亜硫酸廃液及びメチルセルロースが挙げられる。
【0033】
界面活性剤には、例えば、リグノスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルフェート、アルキルスルホネート、脂肪アルコールスルフェート、脂肪酸及び硫酸化脂肪アルコールグリコールエーテル、さらに、スルホン化ナフタレン及びナフタレン誘導体とホルムアルデヒドの縮合物、ナフタレン又はナフタレンスルホン酸とフェノール及びホルムアルデヒドの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、エトキシル化イソオクチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、トリステアリルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、アルコール及び脂肪アルコール/エチレンオキシドの縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、エトキシル化ポリオキシプロピレン、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセタール、ソルビトールエステル、リグノ亜硫酸廃液、及びメチルセルロースが挙げられる。
【0034】
(7)その他
本発明の植物生育促進剤は、必要に応じて他の作用を有する成分、例えば、栄養素、成長強化剤、殺菌剤、殺虫剤等を包含することもできる。「栄養素」とは、その物質の欠乏により植物が成長上又は生殖上何らかの異常をきたし、その症状の回復が他の物質の供給では補償できない物質をいう。原則として植物の必須元素を意味する。一般的な植物の必須元素としては、17種の元素、すなわち、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、鉄(Fe)、マンガン(Mg)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、塩素(Cl)、及びニッケル(Ni)が挙げられる。また、それらの元素を含む肥料(例えば、尿素、アンモニウム塩、(過)リン酸塩)もここでいう栄養素に含まれる。
【0035】
1-3-2.剤型
本発明の植物生育促進剤の剤型は、特に限定はしない。例えば、液体状態、又は固体状態とすることができる。液体状態の場合、各構成成分を適切な溶液に懸濁したものであればよい。適切な溶液としては、例えば、水(滅菌水、脱イオン水、超純水を含む)、バッファー、液体培地等が挙げられる。固体状態の場合、例えば、顆粒状態、粉末状態、又はゲルのような半固体状態が挙げられる。
【0036】
本発明の植物生育促進剤の剤型の具体例として、液剤、粉剤、粒剤、水和剤、育苗培土等の剤型が挙げられる。
【0037】
2.植物栽培方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、植物栽培方法である。本態様の植物栽培方法は、前記第1態様の植物生育促進剤を対象植物に施用して当該植物を栽培することを特徴とする。本態様の植物栽培方法により、対象植物の生育を促進させることができる。
【0038】
2-2.方法
本発明の植物栽培方法は、必須の工程として施用工程及び栽培工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0039】
2-2-1.施用工程
本明細書において「施用工程」は、前記第1態様の植物生育促進剤を対象植物に施用する工程である。施用工程では、植物生育促進剤の有効成分であるグルコン酸金属キレートとベタインを対象植物に付与することを目的とする。
【0040】
施用方法については、対象植物に第1態様の植物生育促進剤を施用することができる方法であれば、当該分野で公知の方法を用いればよく、特に限定はされない。第1態様の植物生育促進剤の有効成分は、対象植物の茎葉部、及び根部等、植物体表面全体から吸収され得ることから、栽培用途や目的に合わせて施用することができる。例えば、茎葉部等に直接、塗布、噴霧、散布又は浸漬によって接触させる施用法であってもよい。また後述する栽培工程において、対象植物を、土壌で栽培するのであれば土壌中に、培地であれば培地中に、また水耕栽培であれば水耕液中に、添加すればよい。ここでいう「土壌」は、対象植物の生育が可能な土壌であれば特に制限はしない。通常は、適当な栄養素を含み、適切なpH値を有する対象植物の栽植用土壌が利用される。土壌の場所は、問わない。播種又は苗の植え付け前の本圃土壌又は育苗土壌のいずれであってもよい。また、「培地」は、人工的に調製した対象植物の栽植用培地をいう。寒天培地のような固体培地であってもよいし、液体培地であってもよい。培地の例として、例えば、隔離ベッド、根域制限ポット又は苗床が挙げられる。培地の組成は、当該分野で公知の培地組成でよい。植物の種類等によって適宜選択することができる。「水耕液」とは、水耕栽培に用いる液体培地又は液体肥料をいう。水耕液の組成は、当該分野で公知の水耕液でよい。例えば、社団法人 日本施設園芸協会編、培養液栽培新マニュアル、に記載の組成に基づいて調製することができる。また、水耕液は、園芸用品メーカーからも市販されており、それらを利用してもよい。施用後は、植部生育促進剤を均一化するため、土壌、培地、水耕液などを十分に撹拌することが好ましい。
【0041】
2-2-2.栽培工程
「栽培工程」は、前記施用工程後の対象植物を所定の期間栽培する工程である。本工程は、第1態様の植物生育促進剤を付与した対象植物を所望の状態にまで生育させることを目的とする。
【0042】
栽培工程における、植物の栽培形態は、特に制限はしない。土壌栽培、培地栽培、水耕栽培のいずれの栽培形態も適用できる。対象植物の種類や栽培目的に合わせて適宜選択すればよい。各栽培形態の具体的な方法については、公知の方法に基づいて実施すればよい。栽培における、明暗時間(光照射時間及び暗黒時間)、気温及び湿度等の気象条件、二酸化炭素(CO2)濃度、生育期間、及び肥料や至適pH等の栽培条件については、対象植物に合わせて適宜選択する。
【0043】
2-3.効果
本態様の植物栽培方法によれば、第1態様の植物生育促進剤を用いて植物を栽培することで、該植物生育促進剤を使用しない栽培法と比較して、同じ栽培期間内で植物バイオマス生産量を増加することができる。
【実施例
【0044】
<実施例1:植物生育促進剤による植物の生育促進効果の検証(1)>
(目的)
本発明の植物生育促進剤の有効成分による植物の生育促進効果について検証する。
【0045】
(材料と方法)
(1)供試植物にはトマト(品種:レジナ)を用いた。
(2)供試薬剤には、グルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、及びベタインを超純水に溶解して使用した。
(3)供試試験区として6試験区を設置した。各試験区の詳細は、(a)対照区:供試薬剤無付与(水散布)、(b)ベタイン区:ベタインのみを終濃度100ppmで付与、(c)グルコン酸亜鉛区:グルコン酸亜鉛のみを終濃度0.5mMで付与、(d)グルコン酸銅区:グルコン酸銅のみを終濃度0.5mMで付与、(e)グルコン酸亜鉛/ベタイン区:終濃度0.5mMグルコン酸亜鉛と終濃度100ppmのベタインを付与、(f)グルコン酸銅/ベタイン区:終濃度0.5mMグルコン酸銅と終濃度100ppmのベタインを付与、である。
(4)栽培条件は、室温25℃、明条件16時間、暗条件8時間に設定した人工気象室内で土壌栽培した。
(5)薬剤の付与方法は、播種2週間後の本葉1.5~1.8葉期から各濃度に調整した水溶液を供試植物の茎葉に散布して行った。散布は、播種2週間後から開始し、以降6~8日毎に合計3回行った。
(6)生育調査は、最終散布から10日後に地上部新鮮重、及び地下部新鮮重を測定した。
【0046】
(結果)
図1及び図2に結果を示す。図1は、(a)対照区、(b)ベタイン区、(c)グルコン酸亜鉛区、及び(e)グルコン酸亜鉛/ベタイン区を示す図であり、図2は、(a)対照区、(b)ベタイン区、(d)グルコン酸銅区、及び(f)グルコン酸銅/ベタイン区を示す図である。図1及び図2、共にAは植物地上部の新鮮重を、またBは植物地下部の新鮮重(根重)を示す。
【0047】
図1において、(b)ベタイン区では、従来の結果と同様、地下部の新鮮重のみが(a)対照区よりも高くなる傾向が見られた。一方、(c)グルコン酸亜鉛区では、地上部及び地下部共に(a)対照区よりもやや高くなる傾向が見られた。ところが、(e)グルコン酸亜鉛/ベタイン区では、(a)対照区よりも顕著に高くなり、また(b)ベタイン区及び(c)グルコン酸亜鉛区よりも、地上部及び地下部共に明らかに高くなった。
【0048】
図2でも図1とほぼ同様の結果が得られた。(b)ベタイン区では、従来の結果と同様、地下部の新鮮重のみが(a)対照区よりも高くなる傾向が見られた。一方、(d)グルコン酸銅区では、地上部は(a)対照区よりもやや高くなったが、逆に地下部で(a)対照区より低い結果となった。ところが、(f)グルコン酸銅/ベタイン区では、(a)対照区よりも顕著に高くなり、また(b)ベタイン区及び(d)グルコン酸銅区よりも、地上部及び地下部共に明らかに高くなった。
【0049】
以上のことから、グルコン酸金属キレートであるグルコン酸亜鉛又はグルコン酸銅とベタインの組み合わせによって、相乗的な生育促進効果が現れることが立証された。
【0050】
<実施例2:植物生育促進剤による植物の生育促進効果の検証(2)>
(目的)
イチゴの繁殖には種子繁殖と栄養繁殖がある。栄養繁殖は親株の遺伝形質を受継ぎ、比較的早く生育させることが可能なため、イチゴでは主に栄養繁殖が行われている。栄養繁殖は、ランナー(匍匐枝)と呼ばれる蔓のように長く伸びる茎の節にできる新芽によって行われる。この新芽を土に触れさせておくと、新芽から根が伸びて、葉が成長し、切り離せば新たな苗(ランナー子株)になる。苗の採取方法には大きく2種類あり、新芽の葉が2~3葉位まで育った段階で親株から完全に切り離して別の鉢に植え付ける「挿し苗法」と、親株から切り離さず新芽の部分の下に鉢をおき、ピンで新芽を鉢に固定して、十分に大きくなった後に切り離す方法の2種類がある。「挿し苗法」は、親株のランナーから切り離して栽培するので場所の制限はないが、切り離し後に根が伸長していない場合、枯れてしまう。そこで、本発明の植物生育促進剤が挿し苗法における発根促進とその伸長において、ベタイン以上に有効であることを検証する。
【0051】
(材料と方法)
(1)供試植物にはイチゴ(品種:女峰)を用いた。
(2)供試薬剤には、グルコン酸亜鉛、及びベタインを超純水に溶解して使用した。
(3)供試試験区として4試験区を設置した。各試験区の詳細は、(a’)対照区:供試薬剤無付与(水散布)、(b’)ベタイン区:ベタインのみを終濃度100ppmで付与、(c’)グルコン酸亜鉛区:グルコン酸亜鉛のみを終濃度0.5mMで付与、(d’)グルコン酸亜鉛/ベタイン区:終濃度0.5mMグルコン酸亜鉛と終濃度100ppmのベタインを付与、である。
(4)栽培条件は、ガラスハウス内で土壌栽培にて行った。
(5)採苗は、ランナー子株が本葉2葉になった時に第2節間の途中で切り取り採苗した。なお、採苗時点での発根は見られなかった。
(6)薬剤の付与方法は、ランナー子株を切り離す9日前から散布を開始、各濃度に調整した水溶液を子株だけでなく、親株の茎葉にまんべんなく散布した。挿し苗後も同様に子株の茎葉に散布した。散布頻度は、ランナー子株を切り離す9日前及び1日前、及び採苗後は6日毎に2回、合計4回散布した。
(7)生育調査は、最終散布から15日後に地下部新鮮重(新根重)を測定した。
【0052】
(結果)
図3に結果を示す。(a’)は対照区、(b’)はベタイン区、(c’)はグルコン酸亜鉛区、及び(d’)はグルコン酸亜鉛/ベタイン区で、いずれも植物地下部の新鮮重(新根重)を示す図である。
【0053】
図3から、ベタイン区(b’)及びグルコン酸亜鉛区(c’)の新根重は、対照区(a’)のそれと有意な差はなく、ほぼ同等で、新根発生効果は明らかではなかった。ところが、(d’)グルコン酸亜鉛/ベタイン区では、(a)対照区や(b)ベタイン区及び(c’)グルコン酸亜鉛区よりも新根重は顕著に高く、グルコン酸亜鉛とベタインの組み合わせによって、相乗的な新根の発根促進効果を有することが明らかとなった。
図1
図2
図3