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特許7506888複合ヘリコプタにおける振動抑制システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】複合ヘリコプタにおける振動抑制システム
(51)【国際特許分類】
   B64C 13/16 20060101AFI20240620BHJP
   B64C 9/04 20060101ALI20240620BHJP
   B64C 27/26 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B64C13/16 A
B64C9/04
B64C27/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020095179
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021187327
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】小林 航
(72)【発明者】
【氏名】林 大貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 瑞城
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅文
(72)【発明者】
【氏名】田辺 安忠
(72)【発明者】
【氏名】小曳 昇
(72)【発明者】
【氏名】菅原 暎明
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-220999(JP,A)
【文献】特開平10-240353(JP,A)
【文献】特開平04-039197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0151001(US,A1)
【文献】特表2003-509276(JP,A)
【文献】米国特許第06135713(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 13/16
B64C 9/00
B64C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼と固定翼とを備える複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、
前記固定翼は、後縁部分に可動翼片を備え、
前記可動翼片を周期的に動作させて前記固定翼に生じる揚力を周期的に変化させることで、前記回転翼の回転により生じる振動とは逆位相の振動を空力的に生じさせるように構成されていることを特徴とする複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項2】
前記可動翼片は、上下方向に揺動可能されていることを特徴とする請求項1に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項3】
前記可動翼片は、前記複合ヘリコプタの胴体の左右に設けられた前記固定翼にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項4】
左右の前記固定翼にそれぞれ設けられた左右の前記可動翼片を同じ周期で互いに同じ動作量だけ動作させることを特徴とする請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項5】
左右の前記固定翼にそれぞれ設けられた左右の前記可動翼片を同じ周期だが互いに異なる動作量で動作させることを特徴とする請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項6】
左右の前記固定翼のうち一方の前記固定翼の前記可動翼片のみを周期的に動作させることを特徴とする請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項7】
前記可動翼片は、前記複合ヘリコプタの胴体の左右に設けられた記固定翼のうち一方の前記固定翼のみに設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項8】
前記可動翼片を動作させるためのアクチュエータが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【請求項9】
前記アクチュエータとして圧電素子が用いられていることを特徴とする請求項8に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転翼と固定翼とを備える複合ヘリコプタにおける振動抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば図5に示すような回転翼101と固定翼102とを備える複合ヘリコプタ(コンパウンドヘリコプタや混合ヘリコプタ等ともいう。)の研究が進められている(例えば特許文献1等参照)。
また、複合ヘリコプタを含む回転翼を有する回転翼機では、従来から、回転翼の回転による周期的な振動が胴体に伝わり、キャビンが振動して乗員が不快な思いをする場合があることが知られている。
【0003】
そして、このような回転翼の回転により生じる振動を抑制するためのアクティブ・バイブレーション・コントロールシステム等が従来から存在する。
アクティブ・バイブレーション・コントロールシステムでは、重い鉛の塊などを、回転翼の回転により生じる振動と同じ周期で上下方向に逆位相で振動させることで振動を抑制するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-121996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複合ヘリコプタの場合には、回転翼の回転による振動が胴体を経て固定翼に伝わり、固定翼の先端部分が上下に振動するため、回転翼の回転による振動を抑制するためには、固定翼の先端部分を逆位相で振動させることが効果的である。
しかし、固定翼の先端部分は、上下方向の幅が非常に小さいため、そこで鉛の塊などを上下方向に振動させるように構成することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の点を鑑みてなされたものであり、回転翼と固定翼とを備える複合ヘリコプタにおいて回転翼の回転により生じる振動を効果的に抑制することが可能な複合ヘリコプタにおける振動抑制システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
回転翼と固定翼とを備える複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、
前記固定翼は、後縁部分に可動翼片を備え、
前記可動翼片を周期的に動作させて前記固定翼に生じる揚力を周期的に変化させることで、前記回転翼の回転により生じる振動とは逆位相の振動を空力的に生じさせるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、前記可動翼片は、上下方向に揺動可能されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、前記可動翼片は、前記複合ヘリコプタの胴体の左右に設けられた前記固定翼にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、左右の前記固定翼にそれぞれ設けられた左右の前記可動翼片を同じ周期で互いに同じ動作量だけ動作させることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、左右の前記固定翼にそれぞれ設けられた左右の前記可動翼片を同じ周期だが互いに異なる動作量で動作させることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、左右の前記固定翼のうち一方の前記固定翼の前記可動翼片のみを周期的に動作させることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、前記可動翼片は、前記複合ヘリコプタの胴体の左右に設けられた記固定翼のうち一方の前記固定翼のみに設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、前記可動翼片を動作させるためのアクチュエータが設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の複合ヘリコプタにおける振動抑制システムにおいて、前記アクチュエータとして圧電素子が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転翼と固定翼とを備える複合ヘリコプタにおいて回転翼の回転により生じる振動を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る複合ヘリコプタの構成を表す図である。
図2】上下方向に揺動可能な可動翼片や可動翼片を揺動させるためのアクチュエータを表す図である。
図3】前後方向に移動可能な可動翼片や可動翼片を揺動させるためのアクチュエータを表す図である。
図4】一方の固定翼に可動翼片が設けられた複合ヘリコプタを表す図である。
図5】従来の複合ヘリコプタの構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る複合ヘリコプタにおける振動抑制システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下では、上下、前後、左右の各方向については、複合ヘリコプタにおける各方向に従って説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る複合ヘリコプタの構成を表す図である。
複合ヘリコプタ1は、主に、胴体2と、回転翼3と、固定翼4と、垂直尾翼5を備えて構成されている。なお、図示を省略するが、胴体2(その前部や後部、側面等)や固定翼4等にプロペラやジェットエンジン等の推進装置が設けられていてもよく、テールロータ等が設けられていてもよい。
【0020】
複合ヘリコプタ1の回転翼3のブレードは、図1に示すような4枚の場合に限定されない。
また、本実施形態では、固定翼4は胴体2の左右に設けられている。なお、図示を省略するが、固定翼4に補助翼(エルロン)等が設けられていてもよく、垂直尾翼5に方向舵等が設けられていてもよい。
【0021】
左右の固定翼4には、後縁部分に可動翼片41(フラップ等ともいう。)がそれぞれ設けられている。
なお、図1では、可動翼片41を固定翼4の先端付近のみに設けた場合を示したが、可動翼片41は固定翼4の後縁の全域にわたって設けられていてもよく、固定翼4の根元付近に設けられていてもよい。
【0022】
可動翼片41には種々のタイプが存在するが、例えば図2に示すように、可動翼片41を上下方向に揺動することができるように構成することが可能である。
そして、本実施形態では、可動翼片41を上下方向に揺動させるためのアクチュエータ6が設けられている。
【0023】
アクチュエータ6は、可動翼片41を上下方向に揺動させることができるものであれば特に限定されないが、アクチュエータ6として圧電素子(ピエゾ素子等ともいう。)を用いれば、ピエゾ素子は高周期で伸縮できるため可動翼片41を高周期で揺動させることが可能となるほか、可動部が少ない機構で可動翼片41を揺動させることが可能となるため、機械的な耐久性や信頼性を向上させることが可能となる。
なお、図2では、アクチュエータ6を見やすくするために、アクチュエータ6等を固定翼4の外部に露出させた状態で記載したが、アクチュエータ6等を固定翼4の内部等に設けるように構成することも可能である。
【0024】
そして、本実施形態では、アクチュエータ6を駆動させて可動翼片41を周期的に動作させて固定翼4に生じる揚力を周期的に変化させることで、回転翼3の回転により生じる振動とは逆位相の振動を空力的に生じさせるように構成されている。
なお、本実施形態では、上記のように可動翼片41を上下方向に揺動させる場合について説明するが、例えば図3に示すように、可動翼片41をピエゾ素子等のアクチュエータ6で前後方向に周期的に移動させて固定翼4に生じる揚力を周期的に変化させるように構成することも可能である。
【0025】
次に、本実施形態に係る複合ヘリコプタ1における振動抑制システムの作用について説明する。
本実施形態のように、可動翼片41を上下方向に揺動させても、その動作自体で生じる振動は僅かであり、回転翼3の回転により生じる振動を打ち消すまでには至らないが、本実施形態では、可動翼片41を周期的に動作させて固定翼4に生じる揚力を周期的に変化させることで空力的に複合ヘリコプタ1の胴体2に上下方向の振動を生じさせる。
【0026】
そして、その際、回転翼3の回転により生じる振動とは逆位相の振動を生じさせることで、可動翼片41の周期的な動作(例えば揺動)により空力的に固定翼4に生じる揚力の周期的な変化で、回転翼3の回転により生じる振動を相殺することで、回転翼3の回転により複合ヘリコプタ1の胴体2(特にキャビン)に生じる振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0027】
以上のように、本実施形態に係る複合ヘリコプタ1における振動抑制システムによれば、回転翼3と固定翼4とを備える複合ヘリコプタ1において、固定翼4の後縁部分に設けられた可動翼片41を周期的に動作させて固定翼4に生じる揚力を周期的に変化させて、回転翼3の回転により生じる振動とは逆位相の振動を空力的に生じさせるように構成されているため、回転翼3の回転により生じる振動を効果的に抑制することが可能となる。
また、鉛の塊などを振動させるアクティブ・バイブレーション・コントロールシステム等を固定翼4の先端部分に設けることができないような場合でも、本実施形態に係る複合ヘリコプタ1における振動抑制システムを用いることにより回転翼3の回転により生じる振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
なお、本実施形態では、可動翼片41が、複合ヘリコプタ1の胴体2の左右に設けられた固定翼4にそれぞれ設けられている場合を示したが、この場合、左右の可動翼片41を同じ周期で互いに同じ動作量(本実施形態の場合は同じ振幅)だけ動作(揺動)させるように構成することが可能である。
このように構成すれば、左右の固定翼4で同じ大きさ(同程度の大きさ)の揚力を周期的に発生させることが可能となり、左右の可動翼片41の動作により機体に上下方向の振動を生じさせることが可能となる。
【0029】
また、例えば、回転翼3の回転により生じる振動に上下方向の成分だけでなくローリング方向の成分が混ざっているような場合には、例えば、左右の可動翼片41を同じ周期だが互いに異なる動作量で動作させるように構成することが可能である。また、2枚の固定翼4のうち一方の固定翼4の可動翼片41のみを周期的に動作させるように構成することも可能である。
また、図4に示すように、胴体2の左右の2枚の固定翼4のうちいずれか一方の固定翼4のみに可動翼片41を設けておき、その可動翼片41を動作させるように構成することも可能である。なお、図4では、左側の固定翼4に可動翼片41を設ける場合を示したが、右側の固定翼4に可動翼片41を設けてもよい。
【0030】
いずれの場合も、可動翼片41を動作させることで上下方向の振動のほかにローリング方向の振動も生じさせることが可能となる。
そして、このような振動を、回転翼3の回転により生じる振動の上下方向の成分やローリング方向の成分と相殺するように生じさせることで、回転翼3の回転により生じる振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0031】
また、可動翼片41を周期的に動作させる際の周波数は、回転翼3のブレードの枚数等に応じて、回転翼3の回転数[rpm]から算出される周波数の1~4倍程度の周波数(1~1/4程度の周期)とされる。
また、可動翼片41を動作させるタイミングは、例えば、回転翼3を回転させるタイミングに基づいて決めることが可能であり、あるいは回転翼3の回転により生じる振動を測定したセンサ等の測定値に基づいて決めるように構成することも可能である。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明が、上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 複合ヘリコプタ
2 胴体
3 回転翼
4 固定翼
6 アクチュエータ
41 可動翼片
図1
図2
図3
図4
図5