(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】水産餌料に用いる微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240620BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240620BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240620BHJP
A23K 50/80 20160101ALN20240620BHJP
A23K 10/30 20160101ALN20240620BHJP
A01K 61/54 20170101ALN20240620BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/00 B
C12M1/00 E
A23K50/80
A23K10/30
A01K61/54
(21)【出願番号】P 2021511482
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012769
(87)【国際公開番号】W WO2020203422
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019069139
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502110953
【氏名又は名称】株式会社ゼネラル・オイスター
(73)【特許権者】
【識別番号】519147348
【氏名又は名称】株式会社ホタルクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 利典
(72)【発明者】
【氏名】真野 泰広
(72)【発明者】
【氏名】小勝 俊亘
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-296911(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129703(WO,A1)
【文献】特開平06-105658(JP,A)
【文献】特開平10-084800(JP,A)
【文献】国際公開第2005/102031(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0112165(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107916211(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00- 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主波長440~470nmで半値幅が40nm以下である青色光と、主波長660~690nmで半値幅が40nm以下である赤色光とを、光量子束密度で
1:1.5~1:2.5(青色光:赤色光)の割合で混合した可視光を、微細藻類を含む培養液に対して、光量子束密度で、50~300μmol/m
2/sの光強度で照射する、水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項2】
培養液が、無菌かつ無ウィルス状態の海水であって、該海水が、表層水単独、海洋深層水単独、または表層水と海洋深層水とを混合した海水である、請求項1に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項3】
水産餌料に用いる微細藻類の培養を、培養液のpHを、6~8.5の条件下、前記可視光を連続的に照射して行う、請求項1または2に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項4】
水産餌料に用いる微細藻類が、珪藻類、ハプト藻類、またはプラシノ藻類である、請求項1~3のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項5】
水産餌料に用いる微細藻類が、二枚貝用の餌料である、請求項1~4のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項6】
水産餌料に用いる微細藻類が、陸上養殖用のカキの餌料である、請求項5に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【請求項7】
前記青色光と赤色光を発光する光源がLEDであり、該LEDを複数個実装した基板を一つの面、もしくは両面、または円周上もしくは多角形上の複数面に配置した発光装置により照射する、請求項1~6のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産餌料に用いる微細藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中に存在する植物プランクトンは魚貝類の餌や動物プランクトンの餌となることから水産餌料として用いられている。このような植物プランクトンの中でも非常に小さな単細胞性の植物プランクトンは、総称として微細藻類とよばれている。これらの微細藻類を水産餌料として用いる際には、膨大な量の微細藻類を必要とする。このため、微細藻類の高密度培養が要請されている。しかしながら、微細藻類の分裂は光に依存するため、密度が高くなると光の透過率が減少し、分裂しなくなる。さらに、微細藻類を高密度培養するためには、大量の光を照射するためかなりの量の電力が必要となるなど、微細藻類の高密度培養には問題が存在している。そこで、微細藻類の高密度培養のため、光の照射などにおいても、効率的な培養条件の解明などが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、100nm以下の帯域幅を有し、410~500nm、500~600nmおよび600~780nmの中心波長を有する少なくとも1つの可視光を、珪藻に対して照射して行う珪藻の培養方法が記載されている。
また、特許文献2には、カキの陸上養殖を行う際に、蛍光灯を用いて光を照射することにより、海洋深層水を含む海水中で微細藻類を培養し、培養した微細藻類をカキに給餌し、カキを養殖することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-296911号公報
【文献】国際公開第2016/129703号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような培養方法では、微細藻類を高密度培養するには、不十分であり、水産給餌用として用いる微細藻類をより大量に得ることが必要であり、そのため、より効率的な培養が求められている。すなわち、本発明は、光の照射を特定の条件で行うことにより、より効率的に水産給餌に用いる微細藻類を高密度に培養することができる培養方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、光の照射条件について鋭意検討し、特定の条件下で微細藻類に対して光照射することにより、水産給餌に用いる微細藻類が高密度に、しかも効率的に培養できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のものに関する。
(1)主波長440~470nmで半値幅が40nm以下である青色光と、主波長660~690nmで半値幅が40nm以下である赤色光とを、光量子束密度で1:1~1:3(青色光:赤色光)の割合で混合した可視光を、微細藻類を含む培養液に対して、光量子束密度で、50~300μmol/m2/sの光強度で照射する、水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(2)培養液が、無菌かつ無ウィルス状態の海水であって、該海水が表層水単独、海洋深層水単独、または表層水と海洋深層水とを混合した海水である、上記(1)に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(3)水産餌料に用いる微細藻類の培養を、培養液のpHを、6~8.5の条件下、前記可視光を連続的に照射して行う、上記(1)または(2)に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(4)水産餌料に用いる微細藻類が、珪藻類、ハプト藻類、またはプラシノ藻類である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(5)水産餌料に用いる微細藻類が、二枚貝用の餌料である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(6)水産餌料に用いる微細藻類が、陸上養殖用のカキの餌料である、上記(5)に記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
(7)前記青色光と赤色光を発光する光源がLEDであり、該LEDを複数個実装した基板を一つの面、もしくは両面、または円周上もしくは多角形上の複数面に配置した発光装置により照射する、上記(1)~(6)のいずれかに記載の水産餌料に用いる微細藻類の培養方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、水産給餌に用いる微細藻類を高密度に、しかも効率的に培養できる培養方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、青:赤の単色光を1:1.9の割合で混合した光を照射した際の増殖曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、水産給餌に用いられる微細藻類を、特定の光を照射することにより培養する培養方法であり、培養に際しての照射する光、培養条件、および培養の対象となる水産給餌に用いる微細藻類について、それぞれ説明する。
【0011】
(1)照射する光
一般に植物プランクトンである微細藻類は、細胞内に含まれるクロロフィルなどの光合成色素を利用して光合成を行い、分裂かつ増殖を行っている。植物プランクトンである微細藻類が有する色素の種類は多種多様であるが、主にこれらの微細藻類で用いられている色素はクロロフィルaである。したがって、既知の研究ではクロロフィルaの吸収波長(420nm、660nm)を照射することで、微細藻類の培養が行われている。しかし、植物プランクトンである微細藻類の細胞内には、多種の光合成色素が存在するため、最も利用されている波長がクロロフィルaの波長と同一となるとは限らない。
そこで、水産給餌用として用いられている微細藻類である珪藻類やハプト藻類などについて、その有効な光吸収波長を調べたところ、クロロフィルaの吸収波長とは、わずかに異なり460nmと670nmの付近に吸収を有していることが判明した。そこで、水産給餌に用いる微細藻類(以下、単に「微細藻類」ともいう)の培養をこの波長の光、すなわち460nmと670nmとを有する光を用いて微細藻類の培養を行うこことにより、効率的に培養を行うことができることが判明した。
ただし、微細藻類が460nmと670nmの光を吸収するといっても、微細藻類の吸収波長には多少のバラツキがある。そのため、培養に用いる光は、波長が440~470nmおよび660~690nmの光と多少の幅をもって規定したもので、具体的には、主波長が440~470nmである青色光と、主波長が660~690nmの赤色光とを有する可視光であることが好ましい。
【0012】
このような可視光の光源としては、単一の波長ピークを有し、上記の波長の光を発光する青色光および赤色光のLEDを用いることが好ましく、このような波長のLEDをそれぞれ選択し、これらのLEDを用いて、両者の光を特定の割合となるように混合し、調整することが、照射光の波長を容易に調整できることから好ましい。
また、本発明の光照射用の発光装置は、これらのLEDを複数個配置して、照射用の光源として培養に用いるものであるが、照射光源を形成する際のLEDの配置や数は、必要とする青色光と赤色光との光強度が得られ、培養液に対する効率的な照射が可能となるようにLEDを配置すればよく、例えば、このようなLEDを複数個実装した基板を一つの面、もしくは両面、または円周上もしくは多角形上の複数面に配置して発光装置を構成することができ、このような発光装置を用いて照射することは、培養容器の形状や配置状態に応じて、光の利用効率を向上できるという点で、好ましい態様の一つである。
【0013】
また、照射する波長は、微細藻類が効率よく吸収する波長であるが、その波長と照射する波長がずれているとしても、青色光および赤色光ともに半値幅が40nm以下であれば、十分な光を微細藻類に吸収させることができることから好ましいものである。一方、照射光のエネルギーと微細藻類に対する光の吸収エネルギーの効率の点からは、半値幅が30nm以下、好ましくは20nm以下であることが好ましく、このような半値幅の光であっても、半値幅40nm以下の場合と同様に、高密度培養が可能であった。
【0014】
微細藻類の培養には、440~470nmの青色光と、660~690nmの赤色光とを用いるものであるが、これらの青色光と赤色光との混合割合が重要である。赤色光が少ないと、分裂かつ増殖が低下する傾向が見られる。
したがって、微細藻類の培養にあっては、440~470nmの青色光と、660~690nmの赤色光との混合比率を、光量子束密度で、青色光:赤色光が、1:1~1:3の割合であることが好ましく、1:1.5~1:2.5であることがより好ましく、1:1.8~1:2であることが最も好ましい。
なお、ここで光量子束密度は、光量子束密度計(メイワフォーシス社製)を用いて、光量子束密度を測定することにより算出でき、青色光と赤色光との発光するそれぞれのLEDの光量子束密度の割合を調整することにより、所定の割合で青色光と赤色光とを含有する照射光としての可視光の照射強度を調整することができる。
そして、このようにして得られた可視光は、培養液に対して、光量子束密度で、50~300 μmol/m2/sの光強度で照射することが好ましく、50~250 μmol/m2/sの光強度で照射することがより好ましく、50~200 μmol/m2/sの光強度で照射することがさらに好ましい。
照射強度が、50μmol/m2/sよりも少ない場合には、微細藻類が生育できず培養効率が低下し、300μmol/m2/sよりも多い場合には、いわゆる光障害が発生し、培養した微細藻類の死滅が起こり、培養効率が低下する場合がある。
【0015】
また、照射した光を効率的に用いる観点から、上記可視光を照射する照射装置と培養容器とを反射シートなどの光反射材を用いて覆うことにより、培養効率を向上することができる。この場合、光反射材で覆うことにより、照射装置と培養容器とに覆われた空間の温度が上昇するようなことを防ぐため、外部空間に放熱する隙間を設けて光反射材を設置することが好ましい。また、光反射材を隙間を設けて設置することに代えて、照射装置と培養容器とに覆われた空間の温度などを調整するため、空気循環装置を設けて、温度を制御することもできる。
【0016】
(2)培養条件について
本発明の培養方法は、培養液中の微細藻類に対して上記の条件で光を照射して培養を行う。ここで用いる培養液は、微細藻類が成育できる海水であればよいが、無菌かつ無ウィルス状態の、表層水、海洋深層水をそれぞれ単独で、または表層水と海洋深層水とを混合して用いることができ、海洋深層水を含む海水を用いることが好ましく、海洋深層水で培養することがより好ましい。
【0017】
海洋深層水は、200m~700mの深度からくみ出された海水であって、硝酸態窒素、リン酸態リン、ケイ素などの無機栄養塩類を含み、人間の排水や化学物質などで汚染された河川水の影響を受けないため、人体に危害を加える可能性のある病原性細菌やウィルスなどの微生物が存在せず、しかも化学的に清浄であるという特徴を有している。これに加えて、深層海水中に生息する植物プランクトンは光合成もできないため、海水表層から深層へ沈んだ無機物質は消費されずに深層水中に蓄積されている。そのため、海洋深層水には、微細藻類を増やす無機栄養塩が豊富に含まれていることになる。
このような海洋深層水としては、富山県入善町、沖縄県久米島町、高知県室戸市を初めとして全世界に数多くの海洋深層水取水施設が知られており、既存の取水施設に限らずいずれの施設で取水される海洋深層水も使用することができる。
【0018】
海洋深層水を含む海水は、海洋深層水を含んだ海水であれば良いが、培養を良好に行うためには、海洋深層水を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、100質量%で用いることがさらに好ましい。なお、海洋深層水を含む海水は、海洋深層水と海水とを混合して用いればよく、海洋深層水に混合する海水としては、人工海水や、殺菌した表層海水などがあげられる。このようにして、使用する培養液には、海洋深層水を含む無菌かつ無ウィルス状態の海水を用いることができる。
【0019】
微細藻類の培養には、通常の空気供給装置や光照射装置などを備えた培養装置を使用し、微細藻類を含有する海洋深層水を含む海水を撹拌しながら、上記の可視光を照射しつつ培養を行う。
光の照射には、明暗周期を有する条件下での照射や、暗条件下において、特定時間、あるいは周期的に光を照射する、あるいは光を連続的に照射し続けることがあるが、本発明においては、連続的に照射することが好ましい。
【0020】
また、培養に際して、培養液中には、空気を導入することが好ましく、空気の量は、培養液の撹拌を兼ねて、例えば、培養容器として、3Lの程度の容器を用いる場合には、0.4~1L/min程度の量とすることが好ましく、0.8~1L/min程度の量とすることがさらに好ましい。
【0021】
さらに、培養における培養液(海水)の温度は、10~30℃が好ましく、15~27℃がより好ましく、20~26℃であることがさらに好ましい。また、培養液のpHは、6~8.5であることが好ましく、7~8であることがより好ましく、7~7.5であることが更に好ましい。温度やpHがこの範囲外となると、微細藻類の増殖が遅くなるとともに、死滅するおそれがある。
【0022】
また、海洋深層水を含む海水に、微細藻類を接種し、培養を開始した後、メタケイ酸ナトリウムのような、いわゆる施肥を追加して用い、増殖速度を高めることが好ましい。施肥としては、培養微細藻類の成育に応じたものが好ましいが、一般に、複合ビタミンなども用いることができ、添加量としては、培養液1Lあたり、0.5~100μg程度とすることが好ましい。
【0023】
さらに、上述のように、微細藻類を高密度に培養することから、必要に応じて、用いる海水に予め無機塩を添加して、培養液を調整し、微細藻類の培養を開始することもできる。
添加する無機塩としては、微細藻類の増殖に必要となる、窒素、リン、およびケイ素を含む化合物があげられ、例えば、各種アンモニウム塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸アンモニウム、ケイ酸塩などがある。また、無機塩とともに、または無機塩とは別に、培養に際して、微量金属類やビタミン類を前もって添加することもできる。なお、微量金属類としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルト、モリブデンなど及びこれらの栄養塩類が挙げられ、ビタミン類としては、ビタミンB12やビオチン、チアミン類などの添加があげられる。
【0024】
上記のようにして培養することにより、通常、10時間以下の時間で細胞数が倍化し、約72時間程度の時間で300万細胞/ml程度の培養物を得ることができる。倍化時間により最高到達密度の違いが顕著である。なお、ここで培養後の微細藻類の細胞数は、顕微鏡下でビルケルチュルク血球計算盤により計測することができる。
【0025】
得られた微細藻類の培養物は、動物プランクトン、貝類、特に二枚貝(例えば、カキ、アサリなど)やウニ、甲殻類など、あるいは小型の魚類などの餌として用いることができ、養殖される魚介類などの種類や成育段階などに応じて、それぞれの養殖培地に添加され、魚介類の育成に用いられる。
【0026】
(3)微細藻類について
次に、水産給餌用として用いる微細藻類について説明する。
上記のように水産餌料に用いる微細藻類は、動物プランクトンや魚介類の餌になるものであれば制限されないが、主として、珪藻類、ハプト藻類、プラシノ藻類などの微細藻類があげられる。
【0027】
珪藻類(キートセロス類)は、魚介類、特に貝類の幼生、動物性プランクトンの飼料として用いられ、また、ハプト藻類(イソクリシス類)も貝類の幼生などの飼料として用いられ、これらの微細藻類は、水産養殖、種苗生産などに広く利用されている。具体的な微細藻類としては、上記のキートセロス類、イソクリシス類の他、プラシノ藻類のテトラセルミス株、珪藻の一種であるフェオダクチラムなどがあげられる。
【0028】
また、国際公開第2016/129703号(特許文献2)には、カキの幼生を、海洋深層水を含む海水中で培養した微細藻類を給餌し、海洋深層水を含む海水を用いて水槽中で成貝まで育成する、カキの陸上養殖方法が記載されており、このカキの陸上養殖に際して、カキに給餌する微細藻類として、好適に使用することができる。海洋深層水を含む無菌かつ無ウィルス状態の海水を用いることにより、ウィルス、微生物、細菌類が含まれておらず、極めて安全性の高いカキを得ることができる。
【0029】
カキの陸上養殖に対して微細藻類を給餌する場合には、微細藻類の種類は、カキの成長に応じ、カキが取り込める微細藻類の大きさと微生物への汚染耐性、また大量生産の経済性を考慮すると、以下のような微細藻類が好ましい。
(a)浮遊幼生期:
キートセロス グラシリス(Chaetoceros gracilis)
キートセロス カルシトランス(Chaetoceros calcitrans)
イソクリシス sp(Isochrysis sp)
(b)稚貝期:
キートセロス セラトスポラム(Chaetoceros ceratosporum)
イソクリシス ガルバナ(Isochrysis galbana)
キートセロス グラシリス(Chaetoceros gracilis)
キートセロス カルシトランス(Chaetoceros calcitrans)
(c)成貝期:
キートセロス グラシリス(Chaetoceros gracilis)
キートセロス セラトスポラム(Chaetoceros ceratosporum)
キートセロス カルシトランス(Chaetoceros calcitrans)
テトラセルミス sp(Tetraselmis sp)
フェオダクチラム(Phaeodactylum)
このような微細藻類を、カキの成育状態にあわせて、カキを養殖している水槽中に添加する量を調整し、給餌することにより、カキの養殖を行うことができる。
【実施例】
【0030】
まず、水産給餌に用いる微細藻類の光吸収特性について検討した。
イソクリシス sp、イソクリシス ガルバナ、キートセロス カルシトランス、キートセロス グラシリス、をそれぞれ、100万細胞/ml程度まで培養する。その後、約1万の微細藻類を回収し、培地に懸濁した。そのサンプルを蛍光分光光度計にセットし、吸光度を計測した。また、コントロールには藻類を含まない、培地を用いた。
測定結果をクロロフィルa(Chlorophll a)とともに表1に示した(実験例1~5)。
【0031】
【0032】
次いで、微細藻類の培養を行った。
培養は、3Lフラスコに培地及び4種の微細藻類をそれぞれ接種し、フラスコの中心距離から10cmの位置にLED(光源)を設置し、光量子束密度が100μmol/m2/sとなるようにして培養を行った。培養した藻類を継時的に回収し、ルゴールで固定後、ビルケルチュルク血球計算盤で計測した。
【0033】
用いた青色光LEDは、400~500nmの帯域を示し、451nmに中心波長を有し、半値幅が22nmの発光スペクトルを示すものであり、赤色光LEDは、600~700の帯域を示し、662nmの中心波長を有し、半値幅が20nmの発光スペクトルを示すものであり、所定の光量子束密度となるにように両者を組み合わせて用いた。
【0034】
培養に際して、1Lの表層水又は海洋深層水(pH=7.5~8.0)に、硝酸ナトリウム(75mg)、リン酸二水素ナトリウム(6mg)、メタケイ酸ナトリウム(10mg)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(4.4mg)、塩化鉄(III)六水和物(3.1mg)、硫酸コバルト(II)七水和物(12μg)、硫酸亜鉛七水和物(21μg)、酢酸マンガン(II)四水和物(180μg)、硫酸銅(II)五水和物(70μg)、モリブデン酸ナトリウム二水和物(70μg)を添加し、121℃で15分間滅菌処理を行い、常温に戻した。その後、ビタミンB12(0.5μg)、ビオチン(0.5μg)、チアミン(100μg)を添加し、培地を調製した。
【0035】
次いで、この得られた培地を用いて、室内に設置した培養装置(光照射装置とエアレーション設置)で、3Lのフラスコに培養密度100万細胞/mlの元種1mlを入れ、光の照射をしながら、1L/minでエアレーションを行い、海水温25℃で培養を開始し、開始直後に、施肥を滴下した。所定の光を照射して培養を行い、エアレーションは常に最大量(2L/min)にした。
【0036】
元種としては、イソクリシス sp(Isochrysis sp)、イソクリシス ガルバナ(Isochrysis galbana)、およびキートセロス カルシトランス(Chaetoceros calcitrans)キートセロス グラシリス(Chaetoceros gracilis)、のハプト藻類や珪藻類を用いて、同様に培養を行った。
【0037】
また、施肥としては、人工合成栄養塩培地であるギラードf/2培地:(組成は上記培地と同じ)を用いて培養をおこなった。
【0038】
なお、光の照射は、光量子束密度100μmol/m2/sとなるように、培養器の側面10cmの距離から培養期間中連続して照射した。
【0039】
得られた培養結果を、イソクリシス sp(
Isochrysis sp)の場合について、青色光と赤色光の混合比率に対する、倍化時間および最高到達密度を表2にそれぞれ示した(実験例6~11)。また、最も培養効率の良かった、青色光:赤色光が1:1.9の時(実験例11)の増殖曲線(細胞密度の変化)を
図1に示した。
なお、前記のカキの陸上養殖に際して微細藻類を培養した際に光照射の光源として用いた、蛍光灯の場合を、本願におけるLEDの場合と対比として実験例6として記載した。
【0040】
【表2】
これらの結果から、青色光成分に対して赤色光成分が多い方がよく、青色光と赤色光との比率を1:1~3、最も好ましくは1:1.8~2の範囲とすることにより、効率よく、高密度培養を行うことができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の水産給餌に用いる微細藻類の培養方法によると、微細藻類を大量に、効率良く培養できることから、水産給餌に用いる微細藻類の場合はもとより、水産給餌に用いる微細藻類以外の場合にも、本発明の培養方法を適用することができ、微細藻類を大量に、効率良く培養することができる。