(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】熱電変換素子とその製造方法、および熱電変換デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20240620BHJP
H10N 10/817 20230101ALI20240620BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20240620BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/817
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2021554147
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034386
(87)【国際公開番号】W WO2021079644
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019194228
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 智紀
(72)【発明者】
【氏名】磯田 幸宏
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107925(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066657(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052272(WO,A1)
【文献】特開2010-037641(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0299170(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3428980(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0152990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0342659(US,A1)
【文献】特開2009-188368(JP,A)
【文献】特開2017-175122(JP,A)
【文献】特開2017-152691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0380175(US,A1)
【文献】特開2015-026672(JP,A)
【文献】特開2007-146283(JP,A)
【文献】特開2002-094131(JP,A)
【文献】特開2014-204093(JP,A)
【文献】特開2018-160560(JP,A)
【文献】特開2018-152499(JP,A)
【文献】特開2015-050273(JP,A)
【文献】特開2015-050272(JP,A)
【文献】特開2018-174211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0033938(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0051808(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104362249(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103219456(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0011668(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1825302(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/851
H10N 10/817
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体と、
p型半導体と、
前記n型半導体の第一面、第二面にそれぞれ形成されたn側接合層と、
前記p型半導体の第一面、第二面にそれぞれ形成されたp側接合層と、
片側が前記n側接合層を介して前記n型半導体の第一面に接合され、他の片側が前記p側接合層を介して前記p型半導体の第一面に接合された第一電極と、
前記n型半導体の第二面、前記p型半導体の第二面に、それぞれ前記n側接合層、前記p側接合層を介して接合された第二電極と、を備え、
前記n型半導体が、下記(1)式で表される組成を有し、
前記p型半導体が、下記(2)式で表される組成を有し、
前記n側接合層および前記p側接合層が、Alを含
み、
前記第一電極、前記第二電極が、Niを主成分として含み、
前記n側接合層が、前記第一電極との接合界面、前記第二電極との接合界面のそれぞれから順に、AlNi層、Al
3
Ni
2
層を有し、
前記p側接合層が、前記第一電極との接合界面、前記第二電極との接合界面のそれぞれから順に、Ni
3
Sn
2
層、AlNi層、Al
3
Ni
2
層を有することを特徴とする熱電変換素子。
Mg
2Si
aSn
1-a+A (1)
(ただし、0.25≦a<0.75であり、AはSb、Bi、Feのうち少なくとも一つを含む。)
Mg
mSi
xSn
yGe
z+B (2)
(ただし、1.98≦m≦2.01、0<x≦0.25、0.60≦y≦0.95、z≧0、かつx+y+z=1、-1.00x+0.40≧z≧-2.00x+0.10(0.00<x≦0.25)、-1.00y+1.00≧z≧-1.00y+0.75(0.60≦y≦0.90)、-2.00y+1.90≧z≧-1.00y+0.75(0.90<y≦0.95)であり、Bは、1A族のアルカリ金属、Au、Ag、Cu、Zn、Ca、Gaのうち少なくとも一つを含む。)
【請求項2】
前記n側接合層
および前記p側接合
層に、Snが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記p側接合層が、第一電極側に、前記第一電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第一p側合金層を、前記第一電極との接合界面から有し、第二電極側に、前記第二電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第二p側合金層を、前記第二電極との接合界面から有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記n側接合層が、第一電極側に、前記第一電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第一n側合金層を、前記第一電極との接合界面から有し、第二電極側に、前記第二電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第二n側合金層を、前記第二電極との接合界面から有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記n側接合層および前記p側接合層におけるSiの含有比率が、2wt%以上15wt%以下であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱電変換素子が、複数連結されてなる熱電変換デバイスであって、
隣接する二つの前記熱電変換素子が、前記第二電極を共有し、
隣接する二つの前記熱電変換素子のうち、一方を構成する前記n側接合層と、他方を構成する前記p側接合層とが、共有する前記第二電極を挟んで連結されていることを特徴とする熱電変換デバイス。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱電変換素子の製造方法であって、
前記n型半導体の前記第一面、前記第二面に対して、それぞれ、第一n側接合層、第二n側接合層を配置し、
前記p型半導体の前記第一面、前記第二面に対して、それぞれ、第一p側接合層、第二p側接合層を配置し、
前記第一n側接合層および前記第一p側接合層に対して、両接合層を跨ぐように第一電極を配置し、
前記第二n側接合層、前記第二p側接合層に対して、それぞれ、二つの前記第二電極のうち一方、他方を配置してなる、積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体に対し、積層方向における両側から加圧する加圧工程と、
加圧された前記積層体を加熱する加熱工程と、を有し、
前記加熱工程において、加熱温度を550℃以上570℃以下とし、加熱時間を1分以上60分以下とすることを特徴とする熱電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程後の前記積層体の降温速度を、2℃/min以上500℃/min以下とすることを特徴とする請求項
7に記載の熱電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程前の前記積層体の昇温速度を、5℃/min以上200℃/min以下とすることを特徴とする請求項
7または
8のいずれかに記載の熱電変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記加圧工程において、前記積層体に対して加える圧力を、0.01kg/cm
2以上816kg/cm
2以下とすることを特徴とする請求項
7~
9のいずれか一項に記載の熱電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子とその製造方法、および熱電変換デバイスに関する。
本願は、2019年10月25日に、日本に出願された特願2019-194228号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
地球温度化対策となる省エネルギー社会を実現するため、自動車や工場から排出されている200~400℃の廃熱を有効利用する研究開発が盛んになっている。熱電変換は、ゼーベック効果を利用した熱エネルギーから電気エネルギーへの直接変換、または、ペルチェ効果を利用した電気エネルギーから熱エネルギーへの直接変換を行う技術である。例えば、熱電素子に温度差を与えると、ゼーベック効果による熱起電力を発生させることができるため、熱電変換は、廃熱からの発電を可能とする技術として注目されている。中温域で使用される熱電材料としては、希少金属や毒性を有する元素を含まないMg2SiSnが注目されており、Mg2SiSnを用いた、熱電変換デバイスの開発が行われている。
【0003】
熱電変換デバイスを構成する熱電材料と電極との接合に、アルミニウム系材料が用いられている。アルミニウム系材料を用いるメリットとして、他の接合材(Ag系材料、Ti系材料、Ni系材料)と比較して、接合温度が低いことが挙げられる。特許文献1では、接合材料としてのアルミろうと電極の間にTi層を形成し、熱電材料と電極を接合する技術が開示されている。特許文献2~4では、Siを含む組成のMg2Si系、Si-Ge系、MnSi系のシリサイドの熱電材料と電極の接合界面に、AlとNiからなる化合物、または熱電素子を構成する元素とAlの化合物層を形成し、熱電素子と電極を接合する技術が開示されている。特許文献5では、接合材料としてのNi層とNi電極の接合界面に、Al3Ni2、Al3Niを含む層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-49736号公報
【文献】特許第5931657号公報
【文献】特許第6160740号公報
【文献】特開2018-160560号公報
【文献】特開2018-152499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Mg2SiSnを用いた高出力デバイスの作製には、Mg2SiSnと電極との接合が重要な技術となる。Mg2SiSnの使用上限温度は400℃であり、この温度に耐えうる接合が必要となる。接合方法としては、炉中ろう付けが最適であると考えられるが、ろう付け温度は一般的に700℃付近の高い温度となっている。Mg2SiSnの電極接合には、活性銀ろうが多く用いられているが、接合温度が高く、銀が拡散することにより、接合界面にクラックや空隙が生じることが問題となっている。このような事情により、200~400℃の中温域を熱源とした熱電変換デバイスの実用化・製品化が困難となっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、信頼性が高く、高出力を得ることが可能な熱電変換素子とその製造方法、および熱電変換デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る熱電変換素子は、n型半導体と、p型半導体と、前記n型半導体の第一面、第二面にそれぞれ形成されたn側接合層と、前記p型半導体の第一面、第二面にそれぞれ形成されたp側接合層と、片側が前記n側接合層を介して前記n型半導体の第一面に接合され、他の片側が前記p側接合層を介して前記p型半導体の第一面に接合された第一電極と、前記n型半導体の第二面、前記p型半導体の第二面に、それぞれ前記n側接合層、前記p側接合層を介して接合された第二電極と、を備え、前記n型半導体が、下記(1)式で表される組成を有し、前記p型半導体が、下記(2)式で表される組成を有し、前記n側接合層および前記p側接合層が、Alを含んでいる。
Mg2SiaSn1-a+A (1)
(ただし、0.25≦a<0.75であり、AはSb、Bi、Feのうち少なくとも一つを含む。)
MgmSixSnyGez+B (2)
(ただし、1.98≦m≦2.01、0<x≦0.25、0.60≦y≦0.95、z≧0、x+y+z=1、かつ-1.00x+0.40≧z≧-2.00x+0.10(0.00<x≦0.25)、-1.00y+1.00≧z≧-1.00y+0.75(0.60≦y≦0.90)、-2.00y+1.90≧z≧-1.00y+0.75(0.90<y≦0.95)であり、Bは、1A族のアルカリ金属、Au、Ag、Cu、Zn、Ca、Gaのうち少なくとも一つを含む。)
【0009】
(2)前記(1)に記載の熱電変換素子において、前記n側接合層と前記p側接合層の少なくとも一方に、Snが含まれていることが好ましい。
【0010】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載の熱電変換素子において、前記p側接合層が、第一電極側に、前記第一電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第一p側合金層を有し、第二電極側に、前記第二電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第二p側合金層を有することが好ましい。
【0011】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の熱電変換素子において、前記n側接合層が、第一電極側に、前記第一電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第一n側合金層を有し、第二電極側に、前記第二電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第二n側合金層を有することが好ましい。
【0012】
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の熱電変換素子において、前記第一電極、前記第二電極が、Niを主成分として含み、前記n側接合層が、前記第一電極側または前記第二電極側から順に、AlNi層、Al3Ni2層を有し、前記p側接合層が、前記第一電極側または前記第二電極側から順に、Ni3Sn2層、AlNi層、Al3Ni2層を有することが好ましい。
【0013】
(6)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の熱電変換素子において、前記n側接合層および前記p側接合層におけるSiの含有比率が、2wt%以上15wt%以下であることが好ましい。
【0014】
(7)本発明の一態様に係る熱電変換デバイスは、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の熱電変換素子が、複数連結されてなる熱電変換デバイスであって、隣接する二つの前記熱電変換素子が、前記第二電極を共有し、隣接する二つの前記熱電変換素子のうち、一方を構成する前記n側接合層と、他方を構成する前記p側接合層とが、共有する前記第二電極を挟んで連結されている。
【0015】
(8)本発明の一態様に係る熱電変換素子の製造方法は、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の熱電変換素子の製造方法であって、前記n型半導体の前記第一面、前記第二面に対して、それぞれ、第一n側接合層、第二n側接合層を配置し、前記p型半導体の前記第一面、前記第二面に対して、それぞれ、第一p側接合層、第二p側接合層を配置し、前記第一n側接合層および前記第一p側接合層に対して、両接合層を跨ぐように第一電極を配置し、前記第二n側接合層、前記第二p側接合層に対して、それぞれ、二つの前記第二電極のうち一方、他方を配置してなる、積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体に対し、積層方向における両側から加圧する加圧工程と、加圧された前記積層体を加熱する加熱工程と、を有し、前記加熱工程において、加熱温度を550℃以上640℃以下とし、加熱時間を1分以上60分以下とする。
【0016】
(9)前記(8)に記載の熱電変換素子の製造方法において、前記加熱工程後の前記積層体の降温速度を、2℃/min以上500℃/min以下とすることが好ましい。
【0017】
(10)前記(8)または(9)のいずれかに記載の熱電変換素子の製造方法において、前記加熱工程前の前記積層体の昇温速度を、5℃/min以上200℃/min以下とすることが好ましい。
【0018】
(11)前記(8)~(10)のいずれか一つに記載の熱電変換素子の製造方法の前記加圧工程において、前記積層体に対して加える圧力を、0.01kg/cm2以上816kg/cm2以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、信頼性が高く、高出力を得ることが可能な熱電変換素子とその製造方法、および熱電変換デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱電変換素子の平面図である。
【
図2】
図1の熱電変換素子を複数連結した熱電変換デバイスの斜視図である。
【
図3】(a)本発明の実施例1の熱電変換素子における、n型半導体、接合層、電極の接合部分のSEM画像である。(b)(a)のSEM画像のうち、接合層と電極の接合部分の近傍を拡大したものである。
【
図4】(a)本発明の実施例1の熱電変換素子における、p型半導体、接合層、電極の接合部分のSEM画像である。(b)(a)のSEM画像のうち、接合層と電極の接合部分の近傍を拡大したものである。
【
図5】実施例1の熱電変換素子によって得られる、出力特性の測定結果を示すグラフである。
【
図6】(a)~(c)本発明の実施例2、比較例1、2の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。
【
図7】(a)~(c)本発明の実施例3、比較例3、4の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。
【
図8】(a)、(b)本発明の実施例4、比較例5の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。
【
図9】(a)~(c)本発明の実施例5、6、比較例6の熱電変換素子における、p型半導体の接合部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る、π型の熱電変換素子100の構成を、模式的に示す平面図である。熱電変換素子100は、主に、n型半導体101と、二つのn側接合層102と、p型半導体103と、二つのp側接合層104と、第一電極105と、二つの第二電極106と、を備えている。n型半導体101は、n側接合層102を介して、第一電極105、第二電極106に接合されており、p型半導体103は、p側接合層104を介して、第一電極105、第二電極106に接合されている。
(以下では、n型半導体101、n側接合層102、p型半導体103、p側接合層104、第一電極105と、第二電極106について、それぞれ半導体101、接合層102、半導体103、接合層104、電極105、電極106と呼ぶことがある。)
【0023】
n型半導体101は、下記(1)式で表される組成を有する。
Mg2SiaSn1-a+A (1)
ただし、0.25≦a<0.75であり、AはSb、Bi、Feのうち少なくとも一つを含む。
【0024】
p型半導体103は、下記(2)式で表される組成を有する。
MgmSixSnyGez+B (2)
ただし、1.98≦m≦2.01、0<x≦0.25、0.60≦y≦0.95、z≧0、x+y+z=1、かつ-1.00x+0.40≧z≧-2.00x+0.10(0.00<x≦0.25)、-1.00y+1.00≧z≧-1.00y+0.75(0.60≦y≦0.90)、-2.00y+1.90≧z≧-1.00y+0.75(0.90<y≦0.95)であり、Bは、1A族のアルカリ金属、Au、Ag、Cu、Zn、Ca、Gaのうち少なくとも一つを含む。
【0025】
n側接合層102は、n型半導体101の表面うち、一方の主面(第一面)101a、および他方の主面(第二面)101bに形成されている。p側接合層103は、p型半導体103の表面うち、一方の主面(第一面)103a、および他方の主面(第二面)103bに形成されている。n側接合層102、p側接合層104の厚みは、いずれも5μm以上500μm以下であることが好ましく、80μm程度であればより好ましい。
【0026】
n側接合層102、p側接合層104の材料としては、例えば、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、あるいは、それらを80w%以上含む合金(Alろう、銀ろう、チタンろう、ニッケルろう)等が挙げられる。これらの中でも、接合温度が低いAlろうが特に好ましい。AlろうのAl以外の組成材料としては、例えば、Si、Fe、Mg、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti、Bi等が挙げられる。AlろうをAl、Si、Feで構成する場合のAlろうの組成比は、一例として、Al:87.2wt%、Si:12wt%、Fe:0.8wt%とすることができる。
【0027】
n型半導体101を、第一電極105、第二電極106と接合するための加熱温度(接合温度)は、n側接合層102におけるSiの含有比率に比例する。同様に、p型半導体103を、第一電極105、第二電極106と接合するための加熱温度は、p側接合層104におけるSiの含有比率に比例する。そのため、このSiの含有比率を調整することにより、好適な接合温度を実現することができる。具体的には、Siの含有比率が11wt%以上13wt%以下であれば、接合温度を550℃~640℃程度とすることができ、信頼性が高く、デバイスとして動作させた際に高出力を得ることが可能な接合状態を実現することができる。
【0028】
n側接合層102は、第一電極105側の界面近傍に、第一電極105の構成材料と、Alとの少なくとも一方を含む第一n側合金層(不図示)を有することがある。同様に、n側接合層102は、第二電極側の界面近傍に、前記第二電極の構成材料とAlの少なくとも一方を含む第二n側合金層(不図示)を有することがある(後述する実施例参照)。
第一n側合金層、第二n側合金層がある場合、積層方向における組成の変化が緩やかになるため、応力緩和の効果が得られると考えられ、第一電極105、第二電極106の剥がれの問題を防ぐことができ、信頼性を高めることができる。
【0029】
p側接合層104は、第一電極105側の界面近傍に、第一電極105の構成材料と、Alとの少なくとも一方を含む第一p側合金層(不図示)を有することがある。同様に、p側接合層104は、第二電極106側の界面近傍に、第二電極106の構成材料と、Alとの少なくとも一方を含む第二p側合金層(不図示)を有することがある(後述する実施例参照)。第一p側合金層、第二p側合金層がある場合、積層方向における組成の変化が緩やかになるため、応力緩和の効果が得られると考えられ、第一電極105、第二電極106の剥がれの問題を防ぐことができ、信頼性を高めることができる。
【0030】
一例として、第一電極105、第二電極106が、Niを主成分として含む場合には、これらと接するn側接合層102、p側接合層104の界面近傍に、Niが染み出すように分布し、NiとAlの合金層が形成される。この場合、n側接合層102は、第一電極105側または第二電極106側(接合界面)から順に、AlNi層、Al3Ni2層を有することになる。また、p側接合層104は、第一電極105側または前記第二電極106側(接合界面)から順に、Ni3Sn2層、AlNi層、Al3Ni2層を有することになる。
【0031】
n側接合層102とp側接合層104の少なくとも一方に、Sn(スズ)が含まれていることが好ましい。Snが含まれていることにより、クラック等の発生が抑えられ、半導体102、103と電極105、106との接合状態を向上させることができる。Snが含まれた状態は、例えば、半導体102、103を構成する一部のSnが、加熱工程において活性化されてフリーになり、接合層102、104を貫通し、最終的に、電極105、106の界面近傍の合金層に、偏析することによって実現する。(Snの偏析のさせ方は、このプロセスに沿っていなくてもよい。)実際には、n型半導体101に比べて、p型半導体103の方が融点が低く、Snがフリーになりやすいため、n側接合層102に比べて、p側接合層104に対し、より高い頻度でSnが偏析されることになる。
【0032】
第一電極105、二つの第二電極106(106A、106B)は、形状が限定されることはないが、平板状であることが好ましい。第一電極105は、片側105a(ここでは左側)が、n側接合層102を介してn型半導体の第一面101aに接合されており、他の片側105b(ここでは右側)が、p側接合層104を介してp型半導体の第一面103aに接合されている。一方の第二電極106Aは、片側(ここでは右側)が、n側接合層102を介してn型半導体の第二面101bに接合され、他方の第二電極106Bは、片側(ここでは左側)が、p側接合層104を介してp型半導体の第二面103bに接合されている。
【0033】
第一電極105、第二電極106の材料としては、例えば、Ni、Cu、Ti、Fe、Au、Ag、Al等が挙げられるが、熱電変換素子の製造過程においては500℃以上の高い温度での加熱が必要になるため、高い耐熱性を有するNiが好ましい。
【0034】
図2は、熱電変換素子100を複数連結した熱電変換デバイス110の斜視図である。隣接する二つの熱電変換素子100が、第二電極106を共有している。隣接する二つの熱電変換素子100のうち、一方を構成するn側接合層101と、他方を構成するp側接合層103とが、共有する第二電極106を挟んで連結されている。
【0035】
本実施形態の熱電変換素子100は、主に、次の手順を経て製造することができる。
【0036】
初めに、n型半導体101、n側接合層102、p型半導体103、p側接合層104、第一電極105、第二電極106を、完成状態の熱電変換素子100の積層順と揃うように積層し(組み立てて)、積層体を形成する(積層体形成工程)。
【0037】
具体的には、n型半導体101の第一面101a、第二面101bに対して、それぞれ、第一n側接合層102A、第二n側接合層102Bを配置する。同様に、p型半導体103の第一面103a、第二面103bに対して、それぞれ、第一p側接合層104A、第二p側接合層104Bを配置する。
【0038】
その上で、第一n側接合層102Aおよび第一p側接合層104Aに対して、両接合層を跨ぐように第一電極105を配置する。つまり、第一電極105を、片側が第一n側接合層102Aに接するように、かつ他の片側が第一p側接合層104Aに接するように配置する。
【0039】
また、第二n側接合層102B、第二p側接合層104Bに対して、それぞれ、二つの第二電極106のうち一方(ここでは左側)の第二電極106A、他方(ここでは右側)の第二電極106Bを配置する。つまり、一方の第二電極106Aを、片側が第二n側接合層102Bに接するように配置し、他方の第二電極106Bを、片側が第二p側接合層104Bに接するように配置する。
【0040】
次に、形成した積層体に対し、各層の配置を固定するために、積層方向Lにおける両側から加圧(押圧)する(加圧工程)。積層体に対して加える圧力は、0.01kg/cm2以上816kg/cm2以下とすることが好ましい。
【0041】
最後に、加圧した積層体を、真空炉に収容して加熱する(加熱工程)ことによって、本実施形態の熱電変換素子100を得ることができる。加熱温度(接合温度)は550℃以上570℃以下とし、加熱時間(接合時間)は1分以上19分以下とすることが好ましい。加熱工程前の前記積層体の昇温速度は、5℃/min以上200℃/min以下とすることが好ましく、加熱工程後の前記積層体の降温速度は、2℃/min以上500℃/min以下とすることが好ましい。
【0042】
熱電変換デバイス110を形成する場合には、積層体形成工程において、各層が熱電変換デバイス110と同様の配置となるように、組み立てを行った上で、加圧工程、加熱工程を行う。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る熱電変換素子は、n型半導体とp型半導体が、いずれもMg2SiSn系の熱電材料で構成されており、両半導体がほぼ同等の線膨張係数を有している。そのため、製造過程の高温状態における線膨張係数差を小さく抑えることができ、電極との接合部分の破損を防ぐことができ、信頼性を高めることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る熱電変換素子では、接合材として、接合温度が低いアルミニウム系の材料が用いられている。そのため、n型半導体とp型半導体を構成するMg2SiSnの融点(845℃)、および使用温度(400℃)に対応した温度での、熱電変換素子の製造が可能であり、熱によるクラック等のダメージを抑えた最適な接合状態を実現することができる。その結果として、デバイスとして動作させた際に、高い出力を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0046】
(実施例1)
上述した手順に沿って、熱電変換素子を製造した。各半導体と各層の材料および組成は、次の通りとした。
・n型半導体:Mg2Si0.5Sn0.5+Sb10000ppm・p型半導体:Mg2Si0.25Sn0.65Ge0.1+Ag20000ppm+Li5000ppm
・n側接合層、p側接合層:Alろう
(Al:87.2wt%、Si:12wt%、Fe:0.8wt%)
・第一電極、第二電極:Ni
【0047】
また、各構成要素の寸法は次の通りとした。
・n型半導体、p型半導体:4mm×4mm×4mm
・n側接合層、p側接合層:4mm×4mm×80μm
・第一電極、第二電極:4mm×4mm×1mm
【0048】
これらを積層し、積層方向に加圧した上で、加熱を行った。加熱温度(接合温度)を561℃、加熱時間(接合時間)を20分、昇温速度を10℃/min、降温速度を5℃とした。
【0049】
図3(a)は、降温後に得られた熱電変換素子における、n型半導体101、n側接合層102、第二電極106の接合部分のSEM画像である。
図3(b)は、
図3(a)のSEM画像のうち、n側接合層102と第二電極106の接合部分の近傍を拡大したものである。これらのSEM画像から、n側接合層102と第二電極106との間に、合金層107が形成されていることが分かる。合金層107は二つの層で構成されており、元素分析の結果、n側接合層102側から一層目107AがAl
3Ni
2で構成され、二層目107BがAlNiで構成されていることが分かっている。合金層の一層目107Aの厚みは0.45~1.5μmとなっており、二層目107Bの厚みは6~7μmとなっている。合金層107とn側接合層107の界面の一部に、Snの偏析部108が見られる。
【0050】
図4(a)は、降温後に得られた熱電変換素子における、p型半導体103、p側接合層102、第二電極106の接合部分のSEM画像である。
図4(b)は、
図4(a)のSEM画像のうち、p側接合層102と第二電極106の接合部分の近傍を拡大したものである。これらのSEM画像から、p側接合層102と第二電極106との間に、合金層109が形成されていることが分かる。合金層109は三つの層で構成されており、元素分析の結果、p型半導体103側から一層目109AがAl
3Ni
2で構成され、二層目109BがAlNiで構成され、三層目109CがNi
3Sn
2で構成されていることが分かっている。合金層の一層目109Aの厚みは5.4~9.4μmとなっており、二層目109Bの厚みは10~2.1μmとなっており、三層目109Cの厚みは0.6μmとなっている。
【0051】
得られた熱電変換素子の出力特性を測定した。
図5は、その結果を示すグラフである。
グラフの横軸は、第一電極105側と第二電極106側との温度差ΔT(℃)を示しており、グラフの縦軸は、熱電変換素子から発生する出力P(W)を示している。温度差が0.9℃のときの出力は0.91μWとなり、温度差が370.1℃のときの出力は0.24Wとなっている。いずれの測定結果のプロットも、ほぼ同一の曲線に載っていることから、安定した出力特性が得られていることが分かる。
【0052】
(実施例2、比較例1、2)
加熱工程において、加熱時間を20分とし、加熱温度を561℃、573℃、615℃とした場合について、それぞれ実施例2、比較例1、2として、熱電変換素子を製造した。加熱時間、加熱温度以外の条件については、実施例1と同様とした。
【0053】
図6(a)~(c)は、それぞれ、本発明の実施例2、比較例1、2の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。加熱温度を573℃、615℃とした場合には、クラックやボイドが生じており、熱電変換素子に適していない状態となっているが、561℃とした場合には、良好な接合界面が得られている。なお、ここには開示していないが、加熱温度を549℃とした場合には、界面の反応が不十分であり、n型半導体と電極とを十分に接合することができていない。
【0054】
(実施例3、比較例3、4)
加熱工程において、加熱温度を573℃とし、加熱時間を5分、10分、20分とした場合について、それぞれ実施例3、比較例3、4として、熱電変換素子を製造した。加熱時間、加熱温度以外の条件については、実施例1と同様とした。
【0055】
図7(a)~(c)は、それぞれ、本発明の実施例3、比較例3、4の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。加熱時間を20分とした場合には小さなボイドが多数発生しているが、加熱時間を5分、10分にした場合には、こうしたボイドは発生していない。また、加熱時間を20分、10分とした場合には、n型半導体と電極の接合界面が凹凸構造を有しているが、加熱時間を5分にした場合には、当該接合界面が平坦になっている。
【0056】
(実施例4、比較例5)
加熱工程における加熱温度を573℃とし、加熱工程の加熱後の降温速度を5℃/min、1℃/minとした場合について、それぞれ実施例4、比較例5として、熱電変換素子を製造した。加熱温度、降温速度以外の条件については、実施例1と同様とした。
【0057】
図8(a)、(b)は、それぞれ、本発明の実施例4、比較例5の熱電変換素子における、n型半導体の接合部の写真である。降温速度を1℃/minとした場合、接合後のAlろうが溶け出しており、合金層の厚みが均一になっておらず、また、ボイドが合金層の40%を占めている。これに対し、降温速度を5℃/minとした場合には、合金層が正常に形成されており、良好な接合界面が得られている。
【0058】
(実施例5、6、比較例6)
加熱工程において、加熱温度を561℃、567℃、573℃とした場合について、それぞれ実施例5、比較例6として、熱電変換素子を製造した。加熱温度以外の条件については、実施例1と同様とした。
【0059】
図9(a)、(b)は、それぞれ、本発明の実施例5、6、比較例6の熱電変換素子における、p型半導体の接合部の写真である。加熱温度を573℃とした場合には、クラックやボイドが生じており、熱電変換素子に適していない状態となっているが、561℃、567℃とした場合には、良好な接合界面が得られている。
【符号の説明】
【0060】
100・・・熱電変換素子
101・・・n型半導体
101a・・・n型半導体の第一面
101b・・・n型半導体の第二面
102・・・n側接合層
102A・・・第一n側接合層
102B・・・第二n側接合層
103・・・p型半導体
104・・・p側接合層
105・・・第一電極
105a・・・第一電極の片側
105b・・・第一電極の他の片側
106・・・第二電極
107・・・合金層
107A・・・合金層の一層目
107B・・・合金層の二層目
108・・・Snの偏析部
109・・・合金層
109A・・・合金層の一層目
109B・・・合金層の二層目
109C・・・合金層の三層目
110・・・熱電変換デバイス
L・・・積層方向