(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】超音波検査方法及び超音波検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240620BHJP
G01N 29/32 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/32
(21)【出願番号】P 2022075247
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591041417
【氏名又は名称】ジャパンプローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140866
【氏名又は名称】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小倉 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】大平 克己
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-138818(JP,A)
【文献】特開2011-053188(JP,A)
【文献】特開2017-090201(JP,A)
【文献】特開2011-117878(JP,A)
【文献】特表2000-504946(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0092902(KR,A)
【文献】田中 雄介ほか,超音波伝搬に伴い発生するエッジ波の発生と振幅変動についての検討,信学技報,Vol.120, No.355,電子情報通信学会,2021年01月22日,p.21-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する送信手段と超音波を受信する受信手段とを検査対象物の一方側に配置し、前記送信手段から送信され、前記検査対象物を伝搬して前記受信手段により受信された超音波を用いて検査を行う超音波検査方法であって、
前記送信手段から前記受信手段へと直接到達する超音波
であるエッジ波の直接伝搬時間が、前記送信手段から
送信された超音波である直接波が前記検査対象物
に達し、前記検査対象物を伝搬する超音波であるガイド波が前記検査対象物の外面から漏洩した超音波である漏洩ガイド波が前記受信手段に到達す
る検査対象物経由伝搬時間より長くなるように、前記検査対象物に対して前記送信手段及び前記受信手段を配置することを特徴とする、超音波検査方法。
【請求項2】
前記直接伝搬時間は、前記送信手段から前記受信手段へと
前記エッジ波が空中を通って直接到達する時間であり、
前記検査対象物経由伝搬時間は、前記送信手段から前記検査対象物へと
前記直接波が空中を通って到達する送信側空中伝搬時間と、前記送信手段から前記受信手段へと向かう方向に
前記ガイド波が前記検査対象物を通って伝搬する物質伝搬時間と、前記検査対象物から前記受信手段へと
前記漏洩ガイド波が空中を通って到達する受信側空中伝搬時間と、を合算した時間であり、
前記送信手段及び前記受信手段は、互いに離間する直線離間距離及び前記検査対象物に対する各々の間隔距離について、前記受信手段により受信する
前記漏洩ガイド波の波数と周期に基づき設定された波数検出時間を、前記検査対象物経由伝搬時間に加算した時間よりも、前記直接伝搬時間が長くなるように設定されることを特徴とする、請求項1に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
前記送信手段及び前記受信手段は、超音波送信用及び超音波受信用の各々一の送信探触子及び受信探触子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
前記検査対象物における溶接部の欠陥検査に用いられ、前記受信手段により受信した
前記漏洩ガイド波の受信信号が所定値より小さい場合に、前記溶接部に欠陥があると判定することを特徴とする、請求項1
又は2に記載の超音波検査方法。
【請求項5】
前記検査対象物として板状部材における背面接着部の欠陥検査に用いられ、前記受信手段により受信した
前記漏洩ガイド波の受信信号が所定値より大きい場合に、前記背面接着部に欠陥があると判定することを特徴とする、請求項1
又は2に記載の超音波検査方法。
【請求項6】
超音波を送信する送信手段と超音波を受信する受信手段とを検査対象物の一方側に配置し、前記送信手段から送信され、前記検査対象物を伝搬して前記受信手段により受信された超音波を用いて検査を行う超音波検査システムであって、
前記送信手段から前記受信手段へと直接到達する超音波
であるエッジ波の直接伝搬時間が、前記送信手段から
送信された超音波である直接波が前記検査対象物
に達し、前記検査対象物を伝搬する超音波であるガイド波が前記検査対象物の外面から漏洩した超音波である漏洩ガイド波が前記受信手段に到達する超音波の検査対象物経由伝搬時間より長くなるように、前記検査対象物に対して前記送信手段及び前記受信手段が配置されていることを特徴とする、超音波検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて検査を行う超音波検査方法及び超音波検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空中に超音波を発して、試験体の内部の状態を検査する超音波検査方法では、試験体を挟んで超音波探触子を配置し、試験体の一方の面から他方の面に透過した信号を計測していたため、試験体の両面側に、超音波探触子を配置するための空間が空いている必要があった。また、その他の超音波検査方法として、V透過法やガイド波を利用した方法があるが、送信超音波探触子から受信超音波探触子へ直接伝搬する信号が、試験体から発生する信号より非常に大きく、試験体の欠陥計測を行うためには送信超音波探触子と受信超音波探触子の間に遮蔽板が必要である。
【0003】
この種の超音波検査方法として、出願人等は、被検体(検査対象物)の片側外面に対して送信超音波探触子及び受信超音波探触子を傾斜させた姿勢で互いに対向するように配置し、被検体に印加する超音波と受信する超音波との干渉を防ぐために、送信超音波探触子と受信超音波探触子との間にしきり板(遮蔽板)を設けて検査を行うV透過法による方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、遮蔽板を設ける必要があるため、非接触での超音波計測である空中超音波計測の利便性が低下する場合もある。一方、遮蔽板を設けなければ、送信超音波探触子から直接、受信超音波探触子に伝搬する超音波により、検査対象物に印加した超音波が干渉してしまい、検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の適正な評価が困難になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、検査システムを簡素化しつつも検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の適正な評価を可能とする超音波検査方法及び超音波検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、以下の超音波検査方法が提供される。
(1)
超音波を送信する送信手段と超音波を受信する受信手段とを検査対象物の一方側に配置し、前記送信手段から送信され、前記検査対象物を伝搬して前記受信手段により受信された超音波を用いて検査を行う超音波検査方法であって、
前記送信手段から前記受信手段へと直接到達する超音波の直接伝搬時間が、前記送信手段から前記検査対象物を経由して前記受信手段に到達する超音波の検査対象物経由伝搬時間より長くなるように、前記検査対象物に対して前記送信手段及び前記受信手段を配置することを特徴とする、超音波検査方法。
【0008】
(1)の超音波検査方法では、超音波を送信する送信手段と超音波を受信する受信手段とを検査対象物の一方側に配置し、送信手段から送信され、検査対象物を伝搬して受信手段により受信された超音波を用いて検査を行う。
その際、送信手段及び受信手段については、送信手段から受信手段へと直接到達する超音波の直接伝搬時間が、送信手段から検査対象物を経由して受信手段に到達する超音波の検査対象物経由伝搬時間より長くなるように、検査対象物に対して配置する。
【0009】
ここで、送信手段から検査対象物を経由して受信手段に到達する超音波(例えば、漏洩ガイド波等)の振幅は、送信手段から受信手段へと直接到達する超音波(例えば、エッジ波等)の振幅より極めて小さい。このため、検査対象物を経由した超音波に、直接到達する超音波が干渉してしまうと、検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の評価が困難になる。
【0010】
(1)の超音波検査方法によれば、送信手段から検査対象物を経由して受信手段に到達する超音波を、送信手段から受信手段へと直接到達する超音波よりも早く検出することができるので、送信手段と受信手段との間に干渉防止用の遮蔽板を設けなくても、送信手段から受信手段に直接到達する超音波に干渉される前に、検査対象物を経由した超音波を受信することができる。
したがって、検査システムを簡素化しつつも検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の適正な評価を可能とする。
【0011】
本発明の好ましい一実施形態としては、以下の超音波検査方法が提供される。
(2)
前記直接伝搬時間は、前記送信手段から前記受信手段へと超音波が空中を通って直接到達する時間であり、
前記検査対象物経由伝搬時間は、前記送信手段から前記検査対象物へと超音波が空中を通って到達する送信側空中伝搬時間と、前記送信手段から前記受信手段へと向かう方向に超音波が前記検査対象物を通って伝搬する物質伝搬時間と、前記検査対象物から前記受信手段へと超音波が空中を通って到達する受信側空中伝搬時間と、を合算した時間であり、
前記送信手段及び前記受信手段は、互いに離間する直線離間距離及び前記検査対象物に対する各々の間隔距離について、前記受信手段により受信する超音波の波数と周期に基づき設定された波数検出時間を、前記検査対象物経由伝搬時間に加算した時間よりも、前記直接伝搬時間が長くなるように設定されることを特徴とする、(1)に記載の超音波検査方法。
【0012】
(2)の超音波検査方法によれば、具体的に、送信手段から検査対象物を経由して受信手段に到達する超音波の検査対象物経由伝搬時間に波数検出時間を加算した時間よりも、送信手段から受信手段へと直接到達する超音波の直接伝搬時間の方が長くなるように、送信手段及び受信手段を配置することで、検査に必要な前者の超音波を最先に検出することができ、これによって必要な超音波を高精度に検出することができる。
【0013】
本発明の好ましい他の実施形態としては、以下の超音波検査方法が提供される。
(3)
前記送信手段及び前記受信手段は、超音波送信用及び超音波受信用の各々一の送信探触子及び受信探触子であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の超音波検査方法。
【0014】
(3)の超音波検査方法によれば、各々一の送信探触子及び受信探触子を検査対象物の外面に対して適切に配置するだけでよいので、これらの探触子を含む検査システムの小型化や部品コストの削減に大きく寄与することができる。
【0015】
本発明の好ましい他の実施形態としては、以下の超音波検査方法が提供される。
(4)
前記検査対象物における溶接部の欠陥検査に用いられ、前記受信手段により受信した超音波の受信信号が所定値より小さい場合に、前記溶接部に欠陥があると判定することを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0016】
(4)の超音波検査方法によれば、検査対象物における溶接部の欠陥検査に適用し、超音波の受信信号が所定値より小さければ、溶接部の欠陥を検知することができるので、溶接部の欠陥検査を高精度に行うことができる。
【0017】
本発明の好ましい他の実施形態としては、以下の超音波検査方法が提供される。
(5)
前記検査対象物として板状部材における背面接着部の欠陥検査に用いられ、前記受信手段により受信した超音波の受信信号が所定値より大きい場合に、前記背面接着部に欠陥があると判定することを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の超音波検査方法。
【0018】
(5)の超音波検査方法によれば、検査対象物として板状部材における背面接着部の欠陥検査に適用し、超音波の受信信号が所定値より大きければ、板状部材の背面接着不良といった欠陥を検知することができるので、背面接着部の欠陥検査を高精度に行うことができる。
【0019】
本発明の他の側面によれば、以下の超音波検査システムが提供される。
(6)
超音波を送信する送信手段と超音波を受信する受信手段とを検査対象物の一方側に配置し、前記送信手段から送信され、前記検査対象物を伝搬して前記受信手段により受信された超音波を用いて検査を行う超音波検査システムであって、
前記送信手段から前記受信手段へと直接到達する超音波の直接伝搬時間が、前記送信手段から前記検査対象物を経由して前記受信手段に到達する超音波の検査対象物経由伝搬時間より長くなるように、前記検査対象物に対して前記送信手段及び前記受信手段が配置されていることを特徴とする、超音波検査システム。
【0020】
(6)の超音波検査システムによれば、(1)の超音波検査方法を実現し、同方法によるものと同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検査システムを簡素化しつつも検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の適正な評価を可能とする超音波検査方法及び超音波検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムを説明するための概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにおいて発生する超音波の種類を説明するための波形図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムの概念構成を説明するための概念図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにおいて検出される超音波の信号波形を説明するための波形図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにより検査可能な溶接部の欠陥検査を説明するための説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにより検査可能な電池パッケージの欠陥検査を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための一実施形態(以下、本実施形態という)について詳細に説明する。なお、各図においては、同一又は類似の構成要素に同一の符号を付している。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の超音波検査システムは、超音波を用いて検査対象物Mの欠陥検査を行うものであり、検査装置1、パルス送受信器2、超音波の送信探触子10及び超音波の受信探触子20を具備して構成される。本実施形態の超音波検査システムは、本発明の実施形態に係る超音波検査方法を実施するシステムであり、検査対象物Mの一方側に送信探触子10及び受信探触子20が配置される。本実施形態において、「一方側」とは、検査対象物Mが平面を有する形状(板形状や立方体形状や直方体形状等)であれば、1つのある平面側である。また、「一方側」とは、検査対象物Mが軸形状や湾曲面を有する形状であれば、送信探触子10から送信された超音波が直接受信探触子20に伝搬する経路が、検査対象物Mに遮られない位置である。
【0025】
また、超音波検査システムでは、当該超音波検査方法による時間的配置条件に基づき、送信探触子10及び受信探触子20が後述する互いの直線離間距離D及び検査対象物Mの一方側(例えば、片側外面)に対する各々の間隔距離h(後述する
図3参照)が適切となるように配置されている。
【0026】
検査装置1は、データ処理や制御処理を行う例えば周辺機器を含むコンピュータであり、パルス送受信器2と接続されている。検査装置1は、パルス送受信器2を制御するとともに、当該パルス送受信器2を介して得られた超音波の受信信号に基づくデータ解析によって検査対象物Mの欠陥有無を判定し、判定結果を検査データとして表示手段(モニタ等)に表示したり、出力手段(プリンタ等)に出力したり、記憶手段(ハードディスク等の記憶デバイス)に記憶したりする。
【0027】
パルス送受信器2は、検査装置1並びに送信探触子10及び受信探触子20と接続され、デジタルのパルス信号を送信探触子10に印加し、超音波を出力させるとともに、受信探触子20を介して受信したアナログの超音波信号をデジタルのパルス信号に変換して検査装置1に出力するものである。
【0028】
送信探触子10は、パルス送受信器2から入力された超音波信号に基づいて超音波を振動子から振動面を通じて発生(送信)するものである。本実施形態の送信探触子10は、いわゆる空中超音波探触子が適用され、検査対象物Mの片側外面に対して斜めとなる所定の入射角で検査対象物Mへと超音波が進入するように配置される。
【0029】
受信探触子20は、主として検査対象物Mの片側外面から漏洩する超音波を振動面から振動子を通じて検知(受信)し、検知した超音波を電気信号に変換しパルス送受信器2に出力するものである。本実施形態の受信探触子20も、空中超音波探触子が適用され、送信探触子10と同一側となる検査対象物Mの片側外面に対して斜めとなる所定の出射角で検査対象物Mから放出された超音波を検知するように配置される。本実施形態においては、検査対象物Mの片側外面に対する超音波の入射角と出射角とは、概ね同一であるが、これに限らず、超音波の入射角と出射角は、検査対象物Mの形状や検査する環境に応じて、任意に設定することができる。
【0030】
このような送信探触子10及び受信探触子20は、後述する
図3に示すように、互いに直線離間距離Dだけ離間するように配置されているとともに、検査対象物Mの片側外面に対して各々の間隔距離hを維持するように配置されている。これらの直線離間距離D及び間隔距離hについては、
図3を参照して後に詳述する。
【0031】
次に、本実施形態において生じる超音波の種類について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにおいて発生する超音波の種類を説明するための波形を模式的に示す図である。
図2(a)は、送信探触子10から検査対象物Mの片側外面へと進行する超音波としての直接波を示している。直接波は、空中伝搬速度(音速)が略340m/s、周波数が20kHz以上の例えば300~1000kHzといった極めて高い帯域に設定される。直接波は、
図2(b),(c)に示す他の超音波に対して最も振幅が大きく、振動エネルギーも最大となる。なお、
図2は、波形を模式的に示すものであり、(a)直接波、(b)エッジ波、(c)漏洩ガイド波の振幅の大きさの違いを概念的に示すものに過ぎず、正確な数値に基づく波形を示すものではない。
【0032】
図2(b)は、送信探触子10から受信探触子20へと空中を通って直接到達する超音波としてのエッジ波を示している。このエッジ波は、直接波端部から球面状に波面が発生したものであり、超音波検査に際して本来不要であるものの受信探触子20によって検知される。このようなエッジ波は、空中伝搬速度(音速)が
図2(a)の直接波と同じく略340m/sである一方、空中ではエッジ波の拡散角度にもよるが振幅が直接波の概ね10%以下で最大振幅として10%を考慮する。
【0033】
図2(c)は、送信探触子10から送信された直接波が空中を伝搬し検査対象物Mの片側外面へ進入することで、検査対象物Mの内部をガイド波が伝搬し、このガイド波が検査対象物Mの片側外面から漏洩し、空中を伝搬して受信探触子20で受信される漏洩ガイド波を示している。検査対象物Mの内部を伝搬するガイド波は、検査対象物Mがアルミニウムやステンレスの場合、物質伝搬速度が略2800~3000m/s程度となる。また、受信探触子20で検知される際の漏洩ガイド波の振幅は、空中から検査対象物Mの内部に入射する超音波の量が非常に少ないため、直接波の振幅に対して0.01%以下となる。すなわち、検査対象物Mの欠陥有無の判定に用いる漏洩ガイド波の振幅は、当該判定に不要なエッジ波の振幅の1/1000以下である。このため、漏洩ガイド波と同時にエッジ波が受信探触子20で検知されると、受信信号から漏洩ガイド波のみの成分を検出することが困難で、高精度な欠陥検査の解析を行うことができなくなる。このような観点に基づき、本実施形態においては、次に詳述するように、送信探触子10と受信探触子20との間を何ら遮蔽せずとも、これらの直線離間距離Dと各々の間隔距離hを適切に設定することにより、欠陥検査の解析を高精度に行うことができるようになっている。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態に係る超音波検査システムの概念構成を説明するための概念図である。
図3に示すように、送信探触子10と受信探触子20とが離間する直線離間距離D、検査対象物Mの片側外面に対する送信探触子10及び受信探触子20夫々の間隔距離hについては、次のような時間的配置条件を満たすように設定されている。なお、本実施形態においては、検査対象物Mに対する送信探触子10の間隔距離hと、検査対象物Mに対する受信探触子20の間隔距離hとが同一に設定されているが、各々異なる間隔距離に設定してもよい。また、本実施形態において、間隔距離hは、検査対象物Mに対する送信探触子10及び受信探触子20夫々の最短距離として設定されているが、送信探触子10から検査対象物Mへと直接波が進行する実質的な伝搬距離や、検査対象物Mから受信探触子20へと漏洩ガイド波が進行する実質的な伝搬距離を、検査対象物Mに対する所定の入射角や出射角に基づいて算定し、これらの伝搬距離を間隔距離hに代えて設定するようにしてもよい。あるいは、伝搬距離から逆算的に間隔距離hを求めて設定するようにしてもよい。
【0035】
時間的配置条件としては、まず、送信探触子10から受信探触子20へとエッジ波が空中を通って直接到達するまでの直接伝搬時間が「td」、送信探触子10から検査対象物Mの片側外面へと直接波が到達するまでの送信側空中伝搬時間が「t1」、送信探触子10から受信探触子20の方向へと検査対象物Mの内部を通ってガイド波が伝搬する物質伝搬時間が「tg」、検査対象物Mの片側外面から受信探触子20へと漏洩ガイド波が空中を通って到達するまでの受信側空中伝搬時間が「t2」として仮定される。すなわち、送信探触子10から受信探触子20へと直接到達する超音波(エッジ波)の直接伝搬時間tdが前提条件として想定される。また、送信探触子10から検査対象物Mを経由して受信探触子20へと到達する超音波(直接波、ガイド波及び漏洩ガイド波)の検査対象物経由伝搬時間が、送信側空中伝搬時間t1、物質伝搬時間tg、受信側空中伝搬時間t2を合算した時間となり、このような検査対象物経由伝搬時間も前提条件として想定される。
【0036】
さらに、前提条件としては、受信信号から漏洩ガイド波のみの成分を、より確実に時間的に分離して検出することができるように、受信探触子20で検知される漏洩ガイド波の周期T(周波数の逆数でも可)と検出時間に相当する分の漏洩ガイド波の波数nとに基づき、これらを乗算した波数検出時間が「nT」として想定される(
図4参照)。検査装置1は、
図3に示す態様で送信探触子10及び受信探触子20が配置された状態で、実際の検査に先立ち、超音波を送受信することで、周期T及び波数nを取得する。また、本実施形態において、波数検出時間を「nT」としているがこれに限らず、波数検出時間は、「nT/2以上、nT以下」としてもよい。
【0037】
上記した前提条件に係る時間を用いて、超音波検査方法による時間的配置条件としては、検査対象物経由伝搬時間(t1+tg+t2)に波数検出時間nTを加算した時間よりも直接伝搬時間tdが長くなるように設定されている。すなわち、次のような不等式を満たすように、直線離間距離D及び間隔距離hが設定されている。
td>t1+tg+t2+nT
【0038】
図4は、本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにおいて検出される超音波の信号波形を説明するための波形図である。
本実施形態の超音波検査システムにおいては、このような時間に係る不等式の時間的配置条件を満たすように直線離間距離D及び間隔距離hが適切に設定された位置に送信探触子10及び受信探触子20を配置した。これにより、送信探触子10と受信探触子20との間に遮蔽板等を設けなくても、
図4に示すように、受信探触子20及びパルス送受信器2を介して得られた超音波の受信信号において、漏洩ガイド波の成分をエッジ波から時間的に分離することができ、互いに干渉させることなく高精度に漏洩ガイド波を検出することができる。
【0039】
図1に示すように、超音波検査システムにおいて、上記時間的配置条件を満たすように送信探触子10及び受信探触子20が配置された状態で、検査装置1は、パルス送受信器2を制御し、送信探触子10から検査対象物Mに超音波(直接波)を送信し、受信探触子20で受信した超音波(漏洩ガイド波)の受信信号に基づくデータ解析によって検査対象物Mの欠陥有無を判定する。
【0040】
検査装置1は、例えば、検査対象物Mの適正品における漏洩ガイド波の受信信号を示す基準データ(例えば、基準となる波形や振幅の大きさを示すデータ等)を記憶手段に記憶しておき、検査対象物M毎に受信した漏洩ガイド波の受信信号と基準データとを対比し、所定の閾値以上に両者の違いがあれば、欠陥があると判定する。
【0041】
図5は、本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにより検査可能な溶接部の欠陥検査を説明するための説明図である。
図6は、本発明の一実施形態に係る超音波検査システムにより検査可能な電池パッケージの欠陥検査を説明するための説明図である。
本実施形態の超音波検査方法が適用された超音波検査システムは、
図5に示すように、検査対象物Mの溶接部Mwを検査対象とした欠陥検査について好適に適用することができ、
図6に示すように、例えばリチウムイオン電池といった電池パッケージBを検査対象物Mとして、当該電池パッケージBの内壁接着部位を検査対象とした欠陥検査についても好適に適用することができる。
【0042】
図5(a)は、溶接部Mwに欠陥がない場合を示している。
図5(b)は、溶接部Mwの内部に生じたブローホールによる欠陥F1と、溶接部Mwの表面に生じたピットによる欠陥F2とを示している。
図5(c)は、検査対象物Mの溶接部位と溶接部Mwの表面との境界付近に生じたアンダーカットによる欠陥F3を示している。
図5(d)は、溶接部Mwの表面から内部に生じた縦割れによる欠陥F4と、検査対象物Mの溶接部位近傍に生じた止端割れによる欠陥F5とを示している。
図5(e)は、検査対象物Mの溶接部位近傍に生じた熱的影響やアークストライクによる欠陥F6を示している。
【0043】
図5(a)に示すように、検査対象物Mの溶接部Mwやその近傍に欠陥が存在しない場合、ガイド波が溶接部Mwをそのまま透過することにより、受信探触子20で検知される漏洩ガイド波の量も十分となる。その一方、検査対象物Mの溶接部Mwやその近傍に
図5(b)~(e)に示すような空間が形成された欠陥1~6が存在する場合、ガイド波は、透過信号が小さくなり、それらの欠陥1~6が大きいほど反射する程度も大きくなり、その結果、受信探触子20及びパルス送受信器2を介して得られる漏洩ガイド波の受信信号は、振幅成分が相対的に小さくなる傾向がある。
【0044】
検査装置1は、受信信号の振幅成分が予め定められた所定値(基準データ)よりも小さい場合、溶接部Mwやその近傍に欠陥1~6が存在すると判定する。
【0045】
また、検査装置1は、例えば、欠陥1~6のそれぞれが存在する場合の漏洩ガイド波の受信信号を示す欠陥種類基準データを、それぞれ記憶手段に記憶しておき、検査対象物M毎に受信した漏洩ガイド波の受信信号と複数の欠陥種類基準データ(欠陥1~6にそれぞれ対応する欠陥種類基準データ)とを対比し、近似する欠陥種類基準データがあった場合、当該欠陥種類基準データが対応する欠陥の種類の欠陥が存在すると判定してもよい。
【0046】
次に、
図6(a)は、電池パッケージBの内部に電池セルCが収容されるとともに、電池パッケージBのカバー部材B1と電池セルCの上部との間に放熱樹脂HRが充填され、カバー部材B1の背面と放熱樹脂HRとで背面接着部が緊密に形成されたものを示している。一方、
図6(b)は、背面接着部が連続的に非接着となってその部分に空間による欠陥F7が生じたものを示している。
【0047】
図6(a)に示すように、検査対象物Mとして電池パッケージBの背面接着部に欠陥が存在しない場合、放熱樹脂HRへと一部のガイド波が漏洩することにより、受信探触子20で検知される漏洩ガイド波の量が十分であるものの相対的に小さくなる。その一方、電池パッケージBの背面接着部に
図6(b)に示すような欠陥7が存在する場合、ガイド波は、空間による欠陥F7が存在する部分からは放熱樹脂HRに漏洩しにくくなり、カバー部材B1内をそのまま透過するため、欠陥7が大きく連続しているほど漏洩する程度が小さくなり、その結果、受信探触子20及びパルス送受信器2を介して得られる漏洩ガイド波の受信信号は、振幅成分が相対的に大きくなる傾向がある。
【0048】
検査装置1は、受信信号の振幅成分が予め定められた所定値(基準データ)よりも大きい場合、電池パッケージBの背面接着部に欠陥7が存在すると判定する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の超音波検査方法が適用された超音波検査システムによれば、送信探触子10と受信探触子20との間に干渉防止用の遮蔽板等を設けなくても、送信探触子10から受信探触子20に直接到達するエッジ波に干渉される前に、検査対象物を経由した漏洩ガイド波を受信することができる。
したがって、検査システムを簡素化しつつも検査対象物を経由した超音波に基づく、検査対象物の適正な評価が可能となる。
【0050】
具体的には、送信探触子10から検査対象物Mを経由して受信探触子20に到達する直接波、ガイド波及び漏洩ガイド波の検査対象物経由伝搬時間(t1+tg+t2)に波数検出時間nTを加算した時間よりも、送信探触子10から受信探触子20へと直接到達するエッジ波の直接伝搬時間tdの方が長くなるように、送信探触子10及び受信探触子20を配置することで、欠陥検査に必要な漏洩ガイド波を最先に検出することができ、これによって必要な漏洩ガイド波を高精度に検出することができる。
【0051】
また、本実施形態の超音波検査システムでは、各々一の送信探触子10及び受信探触子20を検査対象物Mの片側外面に対して適切に配置するだけでよいので、これらの探触子を含む検査システムの小型化や部品コストの削減に大きく寄与することができる。
【0052】
本実施形態の超音波検査システムについては、検査対象物Mにおける溶接部Mwの欠陥検査に適用し、漏洩ガイド波の受信信号が所定値より小さければ、溶接部Mwの欠陥を確実に検知することができるので、溶接部Mwの欠陥検査を高精度に行うことができる。
【0053】
また、本実施形態の超音波検査システムについては、検査対象物Mとして電池パッケージBのカバー部材B1における背面接着部の欠陥検査に適用し、漏洩ガイド波の受信信号が所定値より大きければ、カバー部材B1の背面接着不良といった欠陥を検知することができるので、このような電池パッケージBにおける背面接着部の欠陥検査についても高精度に行うことができる。
【0054】
なお、本発明は、上記した実施形態の超音波検査方法及び超音波検査システムに限定されるものではない。
【0055】
上記実施形態の説明では、検査対象物Mの片側外面上で送信探触子10からの直接波が反射し、その反射波が受信探触子20に影響を及ぼさないようにも、直線離間距離D及び間隔距離hが設定されていることについて、特に詳述していないが、反射波の影響も加味した上で直線離間距離D及び間隔距離hを設定するようにしてもよい。その際には、直接波の入射角や漏洩ガイド波の出射角をパラメータとして含む時間的配置条件を規定すればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 検査装置
2 パルス送受信器
10 送信探触子
20 受信探触子
M 検査対象物
B 電池パッケージ
B1 カバー部材
Mw 溶接部
F1~F7 欠陥