(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/52 20180101AFI20240620BHJP
F24F 3/044 20060101ALI20240620BHJP
F24F 11/54 20180101ALI20240620BHJP
F24F 11/80 20180101ALI20240620BHJP
【FI】
F24F11/52
F24F3/044
F24F11/54
F24F11/80
(21)【出願番号】P 2024059805
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509162791
【氏名又は名称】東亜事業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】100188075
【氏名又は名称】石黒 修
(72)【発明者】
【氏名】神谷 大樹
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078412(JP,A)
【文献】特開2013-015300(JP,A)
【文献】特開2005-147651(JP,A)
【文献】特開2015-064115(JP,A)
【文献】特開2012-202631(JP,A)
【文献】特開2001-108277(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170491(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/071950(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00 ー 11/89
F24F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界空間と連通可能な共用空間と、前記共用空間と連通可能な個室空間とを有する施設の空調システムにおいて、
前記共用空間の冷房空調を行う共用空調装置と、
前記個室空間の冷房空調を行う個室空調装置と、
前記個室空調装置の冷房空調温度を設定する個室温度コントローラとを備え、
前記共用空調装置の冷房空調温度の下限である共用下限温度が、前記個室空調装置の冷房設空調度の下限である個室下限温度より低く、
前記個室温度コントローラの冷房設定温度の表示が前記共用下限温度まで可能であることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
請求項1に記載の空調システムにおいて、
前記共用下限温度と前記個室下限温度との差異が2℃以内であることを特徴とする空調システム。
【請求項3】
外界空間と連通可能な共用空間と、前記共用空間と連通可能な個室空間とを有する施設の空調システムにおいて、
前記共用空間の暖房空調を行う共用空調装置と、
前記個室空間の暖房空調を行う個室空調装置と、
前記個室空調装置の暖房空調温度を設定する個室温度コントローラとを備え、
前記共用空調装置の暖房空調温度の上限である共用上限温度が、前記個室空調装置の暖房空調温度の上限である個室上限温度より高く、
前記個室温度コントローラの暖房設定温度の表示が前記共用上限温度まで可能であることを特徴とする空調システム。
【請求項4】
請求項3に記載の空調システムにおいて、
前記共用上限温度と前記個室上限温度との差異が2℃以内であることを特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空調システム、特に、共用空間と個室空間とを有する施設の空調システムに係る。
【背景技術】
【0002】
従来から、カラオケ施設等では、共用空間と個室空間とを有している構成が知られている(以下、このような施設を短期利用施設と呼ぶことがある。なお、短期利用施設とは、同一利用者による個室空間の継続利用期間が1日未満であるものをいう。)。
ここで、共用空間は、利用者が共用できる空間であり、外界空間と連通可能となっている。
また、個室空間は、利用者が個別に利用できる空間であり、共用空間と連通可能となっている。
【0003】
このような短期利用施設においては、個室空間ではそれぞれの利用者が好みの室内温度状態を実現できるように個室空間、共用空間はそれぞれ個別に空調されているのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1では、総電力消費量が少なくなるように緩衝空間(共用空間)の温度調節を行う空調システムの構成が開示されている。
しかし、特許文献1の空調システムは構成が複雑であり、また、定常状態を基本とするいわば長期利用施設(なお、長期利用施設とは、同一利用者による個室空間の継続利用期間が1日以上であるものをいう。)に適した構成となっており、利用者が短期間で入れ替わる短期利用施設に適した構成とはなっていない。
【0005】
すなわち、短期利用施設では、個室空間の利用頻度にもムラがあり、個室空間の室内温度状態が定常状態に移行する前に利用者が短期間で変わってしまう場合も多々ある。
換言すると、短期利用施設では、共用空間の空調温度を変数としても適切な総電力消費量が出力されない(バラツキの大きい過渡状態、遷移状態のデータ集合体となり、共用空間の温度変数に依存しない各個室空間の総電力消費量を出力してしまう)場合が頻出してしまう虞がある。
【0006】
さらに、個室空間の温度調整は利用者に委ねられており、電力消費量の増大に伴う電気料金分を徴収されることもないため、利用者によっては敢えて不必要な過大な電力消費を伴う温度設定(冷房時における下限温度、暖房時における上限温度)を行ってしまう場合もある。
これより、短期利用施設のように共有空間の温度と電力消費量との相関係数の絶対値が小さい場合には、共有空間の温度調整によって電力消費量を抑制するのは困難となる。
【0007】
また、近年、電力消費量がピークを迎える夏季、冬季においては電力需要量が電力供給量に迫る電力供給逼迫状態が頻発しており、電力消費量を抑制する必要性は以前に比してより重要度を増している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、より簡便な構成で、電力消費量を削減できる空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1の態様によれば、空調システムは、外界空間と連通可能な共用空間と、共用空間と連通可能な個室空間とを有する施設の空調システムであり、共用空間の冷房空調を行う共用空調装置と、個室空間の冷房空調を行う個室空調装置と、個室空調装置の冷房空調温度を設定する個室温度コントローラとを備える。
【0011】
そして、共用空調装置の冷房空調温度の下限である共用下限温度が、個室空調装置の冷房空調温度の下限である個室下限温度より低くなっている。
さらに、個室温度コントローラの冷房設定温度の表示が共用下限温度まで可能となっている。
【0012】
これにより、個室下限温度が、共有下限温度より高く設定されているため、個室空間の冷房空調温度が制限されている。
このため、個室空間の過度の冷房状態が抑制され、より簡便な構成で、電力消費量を削減することができる。
【0013】
なお、共用下限温度が個室下限温度より低く設定されているのは、共用空間は外界空間と連通可能な空間となっており、外界空間との連通による直接的擾乱があり、より広い温度範囲での調整が必要となるためである。
【0014】
また、個室温度コントローラの冷房設定温度の表示が共用下限温度まで可能となっている。
これにより、個室温度コントローラの冷房設定温度の表示は、個室下限温度を下回る値を示すことができる。
このため、プラセボ効果により、電力消費量の増大を伴うことなく主観的体感温度を低下させることができる。
【0015】
また、個室温度コントローラの冷房設定温度の表示を共用下限温度までとすることで、個室温度コントローラと共用空調装置の冷房空調温度を設定する共用温度コントローラの構成を共通態様とすることができる。
これにより、空調システムの構成部材の部品種類を減らすことができ、空調システムの構成をより簡素なものとすることができる。
【0016】
本開示の第2の態様によれば、空調システムは、外界空間と連通可能な共用空間と、共用空間と連通可能な個室空間とを有する施設の空調システムであり、共用空間の暖房空調を行う共用空調装置と、個室空間の暖房空調を行う個室空調装置と、個室空調装置の暖房空調温度を設定する個室温度コントローラとを備える。
【0017】
そして、共用空調装置の暖房空調温度の上限である共用上限温度が、個室空調装置の暖房空調温度の上限である個室上限温度より高くなっている。
さらに、個室温度コントローラの暖房設定温度の表示が共用上限温度まで可能となっている。
【0018】
これにより、個室上限温度が、共用上限温度より低く設定されているため、個室空間の暖房空調温度が制限されている。
このため、個室の過度の暖房状態が抑制され、より簡便な構成で、電力消費量を削減することができる。
【0019】
なお、共用上限温度が個室上限温度より高く設定されているのは、共用空間は外界空間と連通可能な空間となっており、外界空間との連通による直接的な擾乱があり、より広い温度範囲での調整が必要となるためである。
【0020】
また、個室温度コントローラの暖房設定温度の表示が共用上限温度まで可能となっている。
これにより、個室温度コントローラの暖房設定温度の表示は、個室上限温度を上回る値を示すことができる。
このため、プラセボ効果により、電力消費量の増大を伴うことなく主観的体感温度を上昇させることができる。
【0021】
また、個室温度コントローラの暖房設定温度の表示を共用上限温度までとすることで、個室温度コントローラと共用空調装置の暖房空調温度を設定する共用温度コントローラの構成を共通態様とすることができる。
これにより、空調システムの構成部材の部品種類を減らすことができ、空調システムの構成をより簡素なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示を実施するための形態を実施例に基づいて説明する。
なお、以下の実施例は具体的な一例を開示するものであり、本開示が以下の実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0024】
[実施例の構成]
実施例の空調システム1の構成を、
図1を用いて説明する。
空調システム1は、外界空間と連通可能な共用空間2と、共用空間2と連通可能な個室空間3とを有するカラオケ施設等の短期利用施設の空調システムである。
【0025】
空調システム1は、共用空間2の冷暖房空調を行う共用空調装置5と、個室空間3の冷暖房空調を行う個室空調装置6と、個室空調装置6の冷暖房空調温度を設定する個室温度コントローラ6rとを備える。
なお、共用空調装置5の冷暖房空調温度は、共用温度コントローラ5rによって行っている。
【0026】
ここで、共用空調装置5の空調温度設定は、施設管理者が共用温度コントローラ5rによって行っている。
一方、個室空調装置6の空調温度設定は、それぞれの個室空間3を利用する利用者が個室温度コントローラ6rによって行っている。
【0027】
また、共用空調装置5の冷房空調温度の下限である共用下限温度が、個室空調装置6の冷房空調温度の下限である個室下限温度より低く設定されている。
さらに、共用空調装置5の暖房空調温度の上限である共用上限温度が、個室空調装置6の暖房空調温度の上限である個室上限温度より高く設定されている。
【0028】
なお、共用空調装置5の空調可能な上下限温度は、共用空調装置5側によって制限されるものであっても、共用温度コントローラ5r側によって制限されるものであってもよい。
同様に、個室空調装置6の空調可能な上下限温度は、個室空調装置6側によって制限されるものであっても、個室温度コントローラ6r側によって制限されるものであってもよい。
【0029】
実施例においては、それぞれ、共用空調装置5の上下限温度は、共用空調装置5側による制限となっており、個室空調装置6の上下限温度は、個室空調装置6側による制限となっている。
すなわち、共用温度コントローラ5r、個室温度コントローラ6rへの入力設定温度に関わらず共用空調装置5、個室空調装置6は、上下限温度範囲内での空調運転となる構成となっている。
なお、実施例における共用空調装置5の下限温度(共用下限温度)は20℃、上限温度(共用上限温度)は28℃であり、個室空調装置6の下限温度(個室下限温度)は22℃、上限温度(個室上限温度)は26℃となっている。
【0030】
また、個室温度コントローラ6rの冷房設定温度の表示が共用下限温度まで可能となっている。
同様に、個室温度コントローラ6rの暖房設定温度の表示が共用上限温度まで可能となっている。
【0031】
すなわち、実施例において、個室温度コントローラ6rは、個室空調装置6の空調可能な温度範囲が22℃~26℃にも拘わらず、設定可能な温度表示範囲が20℃~28℃となっている。
なお、共有温度コントローラ5rは、共有空調装置5の空調可能な温度範囲が20℃~28℃に対して、設定可能な温度表示範囲が20℃~28℃となっている。
よって、共用温度コントローラ5r、個室温度コントローラ6rともに、設定可能な温度表示範囲は、20℃~28℃となっている。
【0032】
[実施例の効果]
空調システム1は、共用空調装置5の冷房空調温度の下限である共用下限温度が、個室空調装置6の冷房空調温度の下限である個室下限温度より低くなっている。
これにより、個室下限温度が、共用下限温度より高く設定されているため、個室空間3の冷房空調温度が制限されている。
このため、個室空間3の過度の冷房状態が抑制され、より簡便な構成で、電力消費量を削減することができる。
【0033】
なお、共用下限温度が個室下限温度より低く設定されているのは、共用空間2は外界空間と連通可能な空間となっており、外界空間との連通による直接的擾乱があり、より広い温度範囲での調整が必要となるためである。
換言すると、個室空間3は、擾乱の抑制された共用空間2と連通するのみであり、直接的な外界空間の擾乱の影響が少なくなっているため、個室下限温度が共用下限温度より高く設定されていても問題が少ない。
【0034】
また、空調システム1は、共用空調装置5の暖房空調温度の上限である共用上限温度が、個室空調装置6の暖房空調温度の上限である個室上限温度より高くなっている。
これにより、個室上限温度が、共用上限温度より低く設定されているため、個室空間の暖房空調温度が制限されている。
このため、個室空間3の過度の暖房状態が抑制され、より簡便な構成で、電力消費量を削減することができる。
【0035】
なお、共用上限温度が個室上限温度より高く設定されているのは、共用空間2は外界空間と連通可能な部分となっており、外界空間との連通による直接的擾乱があり、より広い温度範囲での調整が必要となるためである。
換言すると、個室空間3は、擾乱の抑制された共用空間2と連通するのみであり、直接的な外界空間の擾乱の影響が少なくなっているため、個室上限温度が共用上限温度より低く設定されていても問題が少ない。
【0036】
なお、これらの電力消費量削減の効果は、個室空間3が複数ある場合により顕著な効果を奏する。
また、実施例においては、空調システム1は、短期利用施設に対するものであったが、長期利用施設に対しても効果を奏することは言うまでもない。
【0037】
また、個室温度コントローラ6rの冷房設定温度の表示が共用下限温度まで可能となっている。
これにより、個室温度コントローラ6rの冷房設定温度の表示は、個室下限温度を下回る値を示すことができる。
このため、プラセボ効果により、電力消費量の増大を伴うことなく主観的体感温度を低下させることができる。
【0038】
また、個室温度コントローラ6rの冷房設定温度の表示を共用下限温度までとすることで、個室温度コントローラ6rと共用温度コントローラ5rの構成を共通態様とすることができる。
これにより、空調システム1の構成部材の部品種類を減らすことができ、空調システム1の構成をより簡素なものとすることができる。
【0039】
また、個室温度コントローラ6rの暖房設定温度の表示が共用上限温度まで可能となっている。
これにより、個室温度コントローラ6rの暖房設定温度の表示は、個室上限温度を上回る値を示すことができる。
このため、プラセボ効果により、電力消費量の増大を伴うことなく主観的体感温度を上昇させることができる。
【0040】
また、個室温度コントローラ6rの暖房設定温度の表示を共用上限温度までとすることで、個室温度コントローラ6rと共用温度コントローラ5rの構成を共通態様とすることができる。
これにより、空調システム1の構成部材の部品種類を減らすことができ、空調システム1の構成をより簡素なものとすることができる。
【0041】
また、空調システム1では、共用下限温度と個室下限温度との差異が2℃となっている。
さらに、空調システム1では、共用上限温度と個室上限温度との差異が2℃となっている。
【0042】
一般的に、風速1m/sの条件下で体感温度は1℃低下すると言われている。
空調システムからの離間距離に応じて空調風の風速も変化するため体感温度も変化する。
このため、2℃程度の表示温度と空調温度の差異では、違和感が生じることは少ないものと思われる。
なお、体感温度差2℃分である風速2m/sは一般的な小型扇風機の微風程度に相当する。
【0043】
よって、共用上下限温度と個室上下限温度との差異が2℃、換言すると、個室空間3において個室温度コントローラ6rでの冷暖房設定温度の表示と個室空間3の空調温度との差異が2℃程度までであると表示温度と実際の空調温度との間では違和感が生じにくいものと思われる。
【0044】
[変形例]
本発明はその要旨を逸脱しない範囲で様々な変形例を考えることができる。
実施例においては、個室温度コントローラ6rと共用温度コントローラ5rの構成は共通態様であったが、それぞれの空調装置に対してより適した温度コントローラを用いる構成としてもよい。
これにより、共用空調装置5、個室空調装置6それぞれに対し、より詳細な設定を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 空調システム 2 共用空間 3 個室空間 5 共用空調装置 6 個室空調装置
6r 個室温度コントローラ
【要約】
【課題】簡便な構成で、電力消費量を削減できる空調システムを提供する。
【解決手段】空調システム1は、外界空間と連通可能な共用空間2と、共用空間2と連通可能な個室空間3とを有する施設の空調システムであり、共用空間2の冷房空調を行う共用空調装置5と、個室空間3の冷房空調を行う個室空調装置6と、個室空調装置6の冷房空調温度を設定する個室温度コントローラ6rとを備える。
共用空調装置5の冷房空調温度の下限である共用下限温度が、個室空調装置6の冷房空調温度の下限である個室下限温度より低くなっている。
さらに、個室温度コントローラ6rの冷房設定温度の表示が共用下限温度まで可能となっている。
これにより、個室下限温度が、共用下限温度より高く設定されているため、個室空間3の冷房温度が制限されている。
このため、個室空間3の過度の冷房状態が抑制され、より簡便な構成で、電力消費量を削減することができる。
【選択図】
図1