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特許7506911光触媒の製造方法、還元方法、及び光触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】光触媒の製造方法、還元方法、及び光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20240620BHJP
   B01J 21/16 20060101ALI20240620BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20240620BHJP
   C01B 33/40 20060101ALI20240620BHJP
   C01B 33/42 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B01J35/39 ZAB
B01J21/16 M
B01J37/10
C01B33/40
C01B33/42
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020107863
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2021070024
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019196519
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月10日に環境放射能除染学会第8回環境放射能除染研究発表会にて予稿集の配布及び発表
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】下山 巖
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-522368(JP,A)
【文献】特開2011-224533(JP,A)
【文献】特開2002-085980(JP,A)
【文献】特開平11-057492(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 33/40
C01B 33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒雲母と塩化カルシウム、黒雲母と硝酸リチウム、タルクと塩化カルシウム、またはカオリナイトと塩化カルシウムとを混合し、500℃以上で加熱することによって、光触媒を得ることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒の製造方法において、
前記黒雲母、前記タルク、または前記カオリナイトは、粒径が53μm以下の粉末状であることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光触媒の製造方法によって製造された前記光触媒と、金属化合物とを混合し、光を照射することによって、前記金属化合物を還元することを特徴とする還元方法。
【請求項4】
請求項に記載の還元方法において、
200nm~500nmの波長の光を照射することを特徴とする還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒の用途は、有機物の分解、細菌やウィルスの失活、有害金属の除去、水の分解によるエネルギー創出など、非常に多岐にわたる。また、地球上に到達する太陽光のエネルギー量は、1m当たり約1kWと膨大であり、この光エネルギーを有効利用して化学反応を触媒することができる光触媒の開発は、循環型社会の構築を実現する上で極めて重要である。
【0003】
光触媒活性を示す物質としては、酸化チタンをはじめとして、タングステン、亜鉛、インジウム、バナジウム、ガリウム、ビスマス、ヒ素、カドミウム、モリブデン、銀などの金属化合物が知られている。このうち、酸化チタンは、安価、無毒、物理的及び化学的に安定であり、光触媒化合物としての研究が進んでいる(例えば、特許文献1)。
【0004】
光触媒開発においては、他種金属との接合や元素のドーピング等による光触媒効率の向上や、光触媒反応に利用できる光波長範囲の改善などが検討されている。酸化チタンを例に挙げると、酸化チタンにドープまたは接合することによって光触媒活性が向上するとされている元素は、銀、銅、白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属や、スカンジウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ニオブ、モリブデン等の遷移金属、ビスマス、インジウム等の貧金属、窒素、リン、ケイ素、炭素、フッ素、塩素、硫黄等の非金属など、多種多様である。これら元素との複合による光触媒活性の向上は、電子状態の変化(バンド構造の変化)によるバンドギャップの縮小や、接合した金属への電子補足による。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-206766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光触媒の製造には産出地に偏りのある金属や環境負荷の大きい原料の使用、煩雑な合成手順が必要であることが多く、費用対効果の観点から実用に至る光触媒材料の数は極めて少ない。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、光触媒活性を示す光触媒を、入手が容易な材料から環境負荷の低い方法で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る光触媒の製造方法は、黒雲母と塩化カルシウム、黒雲母と硝酸リチウム、タルクと塩化カルシウム、またはカオリナイトと塩化カルシウムとを混合し、500℃以上で加熱することによって、光触媒を得ることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、地球上に無尽蔵に存在する粘土鉱物を熱処理するだけで光触媒を得ることができる。すなわち、入手が容易な材料から環境負荷の低い方法で光触媒を製造することができる。
【0010】
また、上記記載の光触媒の製造方法において、前記黒雲母、前記タルク、または前記カオリナイトは、粒径が53μm以下の粉末状であることを特徴としてもよい。
【0011】
上記構成によれば、粘土鉱物と塩とが均一に混合されると共に、熱処理の効果の偏りを抑制することができる。その結果、効率的に光触媒を製造することができる。
【0014】
本発明の一形態に係る還元方法は、上記記載の光触媒の製造方法によって製造された前記光触媒と、金属化合物とを混合し、光を照射することによって、前記金属化合物を還元することを特徴とする。
【0015】
また、上記記載の還元方法において、200nm~500nmの波長の光を照射することを特徴としてもよい。
【0016】
上記構成によれば、膨大な太陽光エネルギーを利用して金属化合物を還元することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、入手が容易な材料から環境負荷の低い方法で光触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る光触媒製造装置の概略構成図である。
図2】熱処理温度と成果物の組成との関係を示す図である。
図3図1の光触媒製造装置で製造した光触媒を用いて、金属化合物を還元する還元装置の模式図である。
図4】光源から照射する光の波長を示す図である。
図5】光触媒製造装置で熱処理をする前の黒雲母が光触媒活性を示すか否かを確認する試験の結果を示す図である。
図6】熱処理における最高温度と光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。
図7】UV-Aと光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。
図8】青色光と光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。
図9】タルクが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。
図10】モンモリロナイトが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。
図11】カオリナイトが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。
図12】黒雲母及び硝酸リチウムの混合物を加熱して製造した光触媒の性能を示す図であって、(A)はUV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を、(B)はUV-Aを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、実施形態に係る光触媒製造装置1を説明する。なお、以下に記載する本発明の実施形態は、本発明を具体化する際の一例を示すものであって、本発明の範囲を実施形態の記載の範囲に限定するものではない。従って、本発明は、実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る光触媒製造装置1の概略構成図である。本実施形態に係る光触媒製造装置1は、粘土鉱物及び塩を原材料として光触媒を製造する装置であって、例えば図1に示すように、環状電気炉を用いることができる。但し、光触媒製造装置1の具体例は環状電気炉に限定されず、マッフル炉などでもよい。
【0023】
図1に示すように、光触媒製造装置1は、両端が開放された筒形状の筒体2と、筒体2の外側面を覆う発熱体3と、発熱体3のさらに外側を覆う断熱材4と、筒体2の両端を閉塞する輻射熱断熱材5a、5b及びシリコンゴム栓6a、6bと、筒体2内部の温度を計測する温度センサ(例えば、熱電対)7と、光触媒製造装置1を制御する制御装置8とを主に備える。
【0024】
原料が入ったPtるつぼ9を筒体2に挿入し、輻射熱断熱材5a、5b及びシリコンゴム栓6a、6bで筒体2の両端を閉塞する。このとき、筒体2の内部は大気下であってもよいし、アルゴン雰囲気下であってもよい。次に、制御装置8が発熱体3に電力を供給することによって、筒体2の内部を昇温(熱処理)する。
【0025】
例えば、0.5℃/sのペースで昇温し、所定の加熱時間(例えば、1.5~2時間)だけ、最高温度(例えば、500~800℃)を維持する。昇温スピード、最高温度、及び加熱時間は、温度センサ7及びタイマ(図示省略)に基づいて制御装置8によって制御される。
【0026】
熱処理が終了した後、Ptるつぼ9内の成果物を洗浄する。より詳細には、洗浄処理は、自然冷却後の成果物を14mLの蒸留水で超音波処理(例えば、1min)し、遠心分離(例えば、4000rpmで30min)して固液分離する。そして、前述の洗浄処理を2回繰り返した後、真空中で乾燥させる。
【0027】
Ptるつぼ9に投入される原料は、粘土鉱物と、塩とを少なくとも含む。より詳細には、粉末状の黒雲母と、粉末状の塩化カルシウムと、蒸留水とを、Ptるつぼ9内で混合する。黒雲母は、予めメッシュで分級して、所定の粒径(例えば、53μm)以下の粉末状とするのが望ましい。黒雲母及び塩化カルシウムの混合比は、1:1~1:8、より好ましくは1:5程度とする。
【0028】
図2は、熱処理温度と成果物の組成との関係を示す図である。黒雲母100mgと、塩化カルシウム5mmolと、蒸留水0.5mLとを混合して、前述の熱処理および洗浄処理を行った後、X線回折法で成分の解析を行うと共に、電子顕微鏡で成果物を観察した。熱処理の最高温度は、600℃、650℃、700℃、800℃の4種類である。
【0029】
図2に示すように、熱処理の最高温度が600℃のとき、成果物の組成は、原料の黒雲母から変化していない。一方、熱処理の最高温度が650℃のとき、原料の黒雲母が普通輝石に変質し、粒径も小さいくなっている。さらに、熱処理の最高温度が700℃、800℃のとき、原料の黒雲母がワダライトに変質し、最高温度が高いほど粒径が大きく成長している。
【0030】
すなわち、原料の黒雲母は、650℃前後で組織が一旦破壊されて新たな鉱物に変質し、熱処理の温度が高いほど粒子が大きく成長すると考えられる。また、熱処理時に塩素ガスが発生した。
【0031】
以下、図3図8を参照して、図1の光触媒製造装置1で製造した成果物が光触媒活性を示すか否かを確認する試験について説明する。図3は、図1の光触媒製造装置1で製造した光触媒を用いて、金属化合物を還元する還元装置10の模式図である。図3に示すように、還元装置10は、石英のビーカー11と、ビーカー11内に収容された回転子12と、ビーカー11を支持すると共に回転子12を回転させるスターラー13と、所定の波長の光をビーカー11に向けて照射する光源14とを主に備える。
【0032】
金属化合物及びサリチル酸を含む水溶液と、光触媒製造装置1で製造した成果物(光触媒)とをビーカー11内で混合し、回転子12を回転させて攪拌する。そして、光源14から所定の波長の光をビーカー11に照射する。
【0033】
還元の対象となる金属化合物は、金属酸化物或いは金属塩化物であって、典型的には、六価クロムやロジウム等が該当する。また、水溶液中の金属化合物とサリチル酸との比率は、2:1とする。さらに、成果物は、水溶液1Lに対して0.167gの割合で添加する。以下の試験では、六価クロム0.4mM、サリチル酸0.2mM、成果物5mgを、ビーカー11に投入する。
【0034】
図4は、光源14から照射する光の波長を示す図である。効果確認試験では、UV-C、UV-A、及び青色光の3つの波長を用いた。UV-Cは、254nmに極大波長を持つ200~280nmの波長領域の光である。UV-Aは、365nmに極大波長を持つ320~400nmの波長領域の光である。青色光は、470nmに極大波長を持つ420~520nmの波長領域の光である。
【0035】
また、図4に示すように、UV-C、UV-A、及び青色光と、太陽光のスペクトルと比較すると、UV-Cは太陽光に含まれておらず、UV-Aは太陽光の3%程度を占め、青色光は太陽光の中で最も日射強度が高い波長領域の可視光である。
【0036】
図5は、光触媒製造装置1で熱処理をする前の黒雲母が光触媒活性を示すか否かを確認する試験の結果を示す図である。この試験では、触媒を添加しないビーカー11A、黒雲母を添加したビーカー11B、酸化チタンを添加したビーカー11Cそれぞれに対して、UV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。
【0037】
より詳細には、各ビーカー11A、11B、11Cを暗所に1時間置いた後、強度が1.1mW/cmのUV-Cを4時間に亘って照射した。UV-Cを照射する光源14には、4W低圧水銀灯を用いた。
【0038】
図5を参照すると、触媒無しのビーカー11A、黒雲母を添加したビーカー11B内の六価クロムの割合は、ほとんど変化していない。一方、酸化チタンを添加したビーカー11C内の六価クロムは、5時間(UV-Cの照射開始から4時間)で30%程度減少した。減少した六価クロムは、還元されて三価クロムに変化したと考えられる。これにより、光触媒製造装置1で熱処理していない黒雲母は、光触媒活性を発現しないことが確認された。
【0039】
図6は、熱処理における最高温度と光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。この試験では、触媒を添加しないビーカー11A、黒雲母を添加したビーカー11B、500℃で熱処理した成果物を添加したビーカー11D、650℃で熱処理した成果物を添加したビーカー11E、700℃で熱処理した成果物を添加したビーカー11Fそれぞれに対して、UV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。その他の試験条件は、図5と同様である。以下、黒雲母をx℃で熱処理して得られる成果物を「x℃成果物」と表記する。
【0040】
図6を参照すると、500℃成果物のビーカー11D内の六価クロムの割合は、ビーカー11A、11Bと比較して、僅かに減少した。一方、650℃成果物のビーカー11E内の六価クロムは、5時間(UV-Cの照射開始から4時間)で45%程度減少した。さらに、700℃成果物のビーカー11F内の六価クロムは、5時間(UV-Cの照射開始から4時間)で50%程度減少した。
【0041】
これにより、UV-Cに対して黒雲母が実用的な光触媒活性を獲得するためには、500℃以上の温度で熱処理をする必要があり、より好ましくは650℃以上での加熱が望ましいことが確認された。換言すれば、図2に示すように、塩を添加熱処理によって組織を変質させた成果物は、より優れた光触媒活性を獲得することが確認された。また、成果物の光触媒活性は、熱処理の最高温度が高いほど高くなることが確認された。
【0042】
図7は、UV-Aと光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。この試験では、前述したビーカー11A、11B、11D、11E、11Fそれぞれに対して、UV-Aを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。この試験では、強度が1.1mW/cmのUV-Aを照射した。UV-Aを照射する光源14には、4W高圧水銀灯を用いた。その他の試験条件は、図5と同様である。
【0043】
図7を参照すると、500℃成果物のビーカー11D内の六価クロムは、ほとんど減少していない。また、650℃成果物のビーカー11E、及び700℃成果物のビーカー11F内の六価クロムは、いずれも15%程度減少しているものの、図6の試験結果と比較すると減少割合が少なくなっている。
【0044】
すなわち、光触媒製造装置1で製造される光触媒は、UV-Aを照射した場合に発現する光触媒活性が、UV-Cを照射した場合より低いことが確認された。但し、熱処理の温度を高くすることによって、太陽光に含まれるUV-Aでも、十分に実用に耐え得る光触媒活性を発現することが確認された。
【0045】
図8は、青色光と光触媒活性との関係を確認する試験の結果を示す図である。この試験では、黒雲母を添加したビーカー11B、800℃で熱処理した成果物を添加したビーカー11Gそれぞれに対して、青色光を照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。青色光を照射する光源14には、72mWのblue-LEDパネルを用いた。また、青色光の照射時間は、9時間とした。その他の試験条件は、図5と同様である。
【0046】
図8を参照すると、800℃成果物のビーカー11G内の六価クロムは、8%程度減少している。すなわち、光触媒製造装置1で製造される光触媒は、青色光を照射した場合に発現する光触媒活性が、UV-C、UV-Aを照射した場合より低いことが確認された。但し、熱処理の温度を高くすることによって、太陽光に最も多く含まれる青色光(可視光)でも光触媒活性が発現することが確認された。
【0047】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0048】
上記の実施形態によれば、天然に無尽蔵に存在する黒雲母及び塩化カルシウムを熱処理するだけで光触媒を得ることができる。その結果、入手が容易な材料から環境負荷の低い方法で光触媒を製造することが可能となる。
【0049】
また、上記の実施形態では、粉末状の黒雲母を53μm以下に分級してからPtるつぼ9に投入するので、黒雲母と塩化カルシウムとが均一に混合されると共に、熱処理の効果の偏りを抑制することができる。その結果、効率的に光触媒を製造することができる。
【0050】
さらに、光触媒製造装置1で製造される光触媒は、可視光を含む幅広い波長の光(UV-C、UV-A、青色光)で光触媒活性を発現するので、膨大な太陽光エネルギーを有効利用することができる。
【0051】
なお、上記の実施形態では、特定の波長領域の光を選択的に照射する光源を用いる例を説明したが、光源の具体的な構成はこれに限定されない。他の例として、太陽光または疑似太陽光照射する光源と、カットオフフィルタとを組み合わせることによって、特定の波長領域の光をビーカー11に照射してもよい。さらに他の例として、ビーカー11に照射される光は、特定の波長領域の光と、その他の波長領域の光とが混合していてもよい。
【0052】
また、上記の実施形態では、粘土鉱物の一例である黒雲母と、塩の一例である塩化カルシウムとを混合して光触媒を製造する方法を説明した。しかしながら、粘土鉱物及び塩の具体例はこれに限定されない。
【0053】
光触媒を製造する原料としての粘土鉱物は、例えば、1:1型の粘土鉱物と、2:1型の粘土鉱物とが挙げられる。より詳細には、1:1型の粘土鉱物の具体例としては、蛇紋石族(例えば、カオリナイト)が挙げられる。また、2:1型の粘土鉱物の具体例としては、タルク-パイロフィライト族(例えば、タルク)、スメクタイト族(例えば、モンモリロナイト)、バーミキュライト族(例えば、風化黒雲母)、雲母族(例えば、黒雲母、イライト、バイオタイト)、脆雲母族、緑泥石族が挙げられる。
【0054】
図9は、タルクが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。この試験では、熱処理していないタルク(図9の「タルク」)を添加したビーカー11H、800℃で熱処理したタルク(図9の「CFMタルク」)を添加したビーカー11Iそれぞれに対して、UV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。その他の試験条件は、図5と同様である。また、CFMタルクの製造方法は、図1を用いて説明した方法と同一である。
【0055】
図9を参照すると、ビーカー11Iの六価クロムの割合は、試験開始から2時間(UV-Cの照射開始から1時間)が経過したあたりから減少し始め、試験開始から3時間が経過したあたりで1を下回り、試験開始から5時間後には0.9程度にまで減少した。すなわち、800℃で熱処理したタルクは、僅かではあるが光触媒活性を発現することが確認された。ビーカー11Hの六価クロムはほとんど減少していないことから、前述の方法で熱処理することが光触媒活性を発現させる条件であることが確認された。
【0056】
図10は、モンモリロナイトが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。この試験では、熱処理していないモンモリロナイト(図10の「モンモリロナイト」)を添加したビーカー11J、800℃で熱処理したモンモリロナイト(図10の「CFMモンモリロナイト」)を添加したビーカー11Kそれぞれに対して、UV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。その他の試験条件は、図5と同様である。また、CFMモンモリロナイトの製造方法は、図1を用いて説明した方法と同一である。
【0057】
図10を参照すると、ビーカー11Kの六価クロムの割合は、試験開始から1時間(UV-Cの照射開始直後)から減少し始め、試験開始から2時間が経過したあたりで1を下回り、試験開始から5時間後には0.8程度にまで減少した。すなわち、800℃で熱処理したモンモリロナイトは、光触媒活性を発現することが確認された。ビーカー11Jの六価クロムはほとんど減少していないことから、前述の方法で熱処理することが光触媒活性を発現させる条件であることが確認された。
【0058】
図11は、カオリナイトが光触媒活性を発現するか否かを確認する試験の結果を示す図である。この試験では、熱処理していないカオリナイト(図11の「カオリナイト」)を添加したビーカー11L、800℃で熱処理したカオリナイト(図11の「CFMカオリナイト」)を添加したビーカー11Mそれぞれに対して、UV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を確認した。その他の試験条件は、図5と同様である。また、CFMカオリナイトの製造方法は、図1を用いて説明した方法と同一である。
【0059】
図11を参照すると、ビーカー11Mの六価クロムの割合は、試験開始から1時間(UV-Cの照射開始直後)から減少し、試験開始から5時間後には0.6程度にまで減少した。すなわち、800℃で熱処理したカオリナイトは、高い光触媒活性を発現することが確認された。ビーカー11Lの六価クロムはほとんど減少していないことから、前述の方法で熱処理することが光触媒活性を発現させる条件であることが確認された。
【0060】
また、光触媒を製造する原料としての塩は、塩化物塩(例えば、塩化カルシウム)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム)、アルカリ金属塩、ハロゲン化物などが挙げられる。図12は、黒雲母及び硝酸リチウムの混合物を加熱して製造した光触媒の性能を示す図であって、(A)はUV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を、(B)はUV-Cを照射した場合の六価クロムの割合の経時変化を示す。
【0061】
なお、その他の製造条件は図1を用いた説明と共通し、確認試験の条件は図5を用いた説明と共通する。図12において、プロット“〇”は500℃成果物を指し、プロット“◇”は600℃成果物を指し、プロット“□”は700℃成果物を指す。
【0062】
図12を参照すると、硝酸リチウムを用いて製造した光触媒は、塩化カルシウムを用いて製造した光触媒(図6図7参照)と同様に、光触媒活性を発現させることが確認された。すなわち、塩化カルシウム以外の塩を黒雲母に添加して、光触媒を製造できることが確認された。
【0063】
図5図10に示すように、図1の光触媒製造装置1を用いた光触媒の製造方法によれば、様々な鉱物に光触媒活性を付与できることが確認された。また、図12に示すように、塩化カルシウム以外の塩を添加しても、鉱物に光触媒活性を付与できることが確認された。これは、酸化チタンに対して種々の元素をドープまたは接合することによって光触媒活性が向上することと同様に、塩を構成する元素(例えば、Cl、Ca、Li、N、Cu等)が鉱物と反応(例えば、化学結合、結晶に混入)することによって、バンドギャップの縮小または電子補足効果が発現し、光触媒が得られるものと考えられる。
【0064】
以上、本発明の実施形態等について説明したが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【符号の説明】
【0065】
1…光触媒製造装置、2…筒体、3…発熱体、4…断熱材、5a,5b…輻射熱断熱材、6a,6b…シリコンゴム栓、7…温度センサ、8…制御装置、9…Ptるつぼ、10…還元装置、11…石英のビーカー、12…回転子、13…スターラー、14…光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12