(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】吸引ノズル
(51)【国際特許分類】
B08B 5/04 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B08B5/04 Z
(21)【出願番号】P 2020156100
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】593016444
【氏名又は名称】三和システムエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 壽夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋志
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/039972(WO,A1)
【文献】特開2018-202375(JP,A)
【文献】特開2005-236047(JP,A)
【文献】特開平11-192409(JP,A)
【文献】特開平11-122846(JP,A)
【文献】登録実用新案第3125991(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 1/00-17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引するべき対象物が存在する面に接触することなく前記対象物を吸引する吸引ノズ
ルであって、
前記対象物に向けられる吸引口が、筒状本体部の先端部に形成されるとともに、
前記筒状本体部における中心軸線の方向で前記吸引口とは反対側に、所定の捕捉部に連通される排出口が形成され、
前記筒状本体部の内周面には
、前記内周面の接線に対して斜め内向きでかつ斜め上向きに傾斜して開口している複数の噴気孔
が、前記中心軸線を中心とした円周方向および前記中心軸線の方向のそれぞれに所定の間隔をあけて配列されて形成され、
前記噴気孔から加圧した気体を噴射して前記筒状本体部の内部に前記気体の螺旋流を生じさせて前記吸引口によって前記対象物を吸引するように構成されている
ことを特徴とする吸引ノズル。
【請求項2】
請求項
1に記載の吸引ノズ
ルであって、
前記複数の噴気孔は、前記中心軸線を中心としかつ前記中心軸線の方向に互いにずれている複数条の螺旋線の上に位置するように配列されていることを特徴とする吸引ノズル。
【請求項3】
請求
項2に記載の吸引ノズ
ルであって、
所定の一条の螺旋線上に位置する前記噴気孔と前記所定の一条の螺旋線に隣接する他の螺旋線上に位置する前記噴気孔とは、前記中心軸線を中心とした円周方向において互いにずれて位置していることを特徴とする吸引ノズル。
【請求項4】
請求項1ない
し3のいずれか一項に記載の吸引ノズ
ルであって、
前記複数の噴気孔のうち最も前記吸引口側に位置する噴気孔は、前記吸引口の開口端から前記排出口側に所定寸法後退して配置されていることを特徴とする吸引ノズル。
【請求項5】
請求項1ない
し4のいずれか一項に記載の吸引ノズ
ルであって、
前記筒状本体部は、前記噴気孔が形成されている内筒と、前記内筒の外周面との間に所定の空間をあけて前記内筒と同心円上に配置された外筒とを備え、
前記噴気孔は、前記内筒を貫通して前記空間に開口し、
前記空間は、前記加圧した気体が供給される圧力室とされている
ことを特徴とする吸引ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば二次電池用電極板の表面に付着した数μmないし数十μm程度の塵埃などの微細な異物(コンタミネーション:コンタミ)を吸引するためのノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の高精度製品では、数μmないし数十μmの異物(コンタミ)が表面粗さの低下、擦り傷、電気的短絡などの欠陥の原因になることがある。この種の製品をクリーンルームで製造することにより、外部からの塵埃による影響を回避できるが、製造過程で生じる塵埃もしくは異物は、その製造過程で除去する必要がある。製造の過程で製品表面に付着した塵埃を除去する場合、製品表面の損傷を回避するために非接触で除去することが望ましく、この種の非接触で異物を除去する装置として、吸引式の集塵機が知られている。
【0003】
吸引式の集塵機もしくは清掃装置として、異物もしくは塵埃を吸入した空気を螺旋流とすることにより、異物もしくは塵埃を遠心力によって空気から分離するように構成された装置が広く知られている。また、吸引式の集塵機あるいは清掃装置を使用する場合、その吸引口に向けて異物を吹き飛ばすためのブロアを併用することも従来行われている。
【0004】
吸引式の集塵機もしくは清掃装置は、吸引ファンなどの負圧源に接続したホースの先端部に吸引ノズルを取り付け、その吸引ノズルを異物に近づけることにより、吸引ノズルに吸い込まれる空気流を異物に当て、その空気流によって異物を、製品表面から運び去るように構成された装置である。その空気流から異物を分離する手段として、フィルタやサイクロンなどが用いられている。
【0005】
また一方、特許文献1には、円筒状の排出体の下端開口部から空気を吹き込んで螺旋流を生じさせ、それに伴う吸引作用によって、排出体の下端中央部に設けた流入口からごみを吸入するように構成した集塵機が記載されている。その排出体の下端開口縁と流入口との間の隙間が空気の流入部になっており、その周囲には螺旋羽が設けられていて、排出体の内部に吹き込まれる空気流が螺旋流となるように構成されている。空気を上記のように排出体の内部に吹き込むことにより、排出体の内部には上昇流が生じ、その上昇流によってごみを吸い上げて集塵作業車両の荷台に載せるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した一般的な吸引式の集塵機は、例えば家庭用掃除機としては充分な吸引力を発揮する。しかしながら、例えば精密製品の表面に付着している粒径もしくは長さが数μmないし数十μm程度の微細な異物をもれなく吸引して除去することは困難である。その理由は、以下のように考えられる。
【0008】
負圧源に接続されている吸引ノズルの開口端部における内外の圧力差は、吸引ノズルを負圧源に接続しているホースでの圧力損失などが要因となって0.1MPaより小さくなる。すなわち、吸引ノズルの内部の圧力が外気圧(大気圧)に近くなる。そのため、吸引ノズルの内部に向けて流れ込む空気流の流速が必ずしも速くならない。
【0009】
また、吸引ノズルに流入する空気流は、吸引ノズルの中心に向けて直線的に流れ込もうとする。さらに、吸引ノズルの外部から吸引ノズルの中心に向けて流れる空気流の一部は、吸引ノズルの開口端の外面に突き当たり、その部分で空気流の乱れが生じ、空気の一部が吸引ノズルに対して外向きの流れや下向きもしくは上向きの流れになる。
【0010】
このように、負圧源に接続された吸引ノズルによって塵埃などを吸引する方式の集塵機では、吸引ノズルの中心に向けた空気流の流速が必ずしも速くないうえに、上記のような空気流の乱れが生じることにより、製品の表面に付着している異物を吸い込めなかったり、あるいは製品の表面に付着している異物の一部を吹き飛ばしてしまって、当該製品の他の部分あるいは他の製品に付着させてしまったりする場合がある。
【0011】
このような事情は、特許文献1に記載されている集塵機においても同様である。すなわち、特許文献1に記載されている集塵機は、排出体の下端外周部に設けられている螺旋翼によって螺旋流を生じさせ、これを排出体の下端部からその内部に流入させるように構成されているが、排出体の内部に吹き込まれた空気流が螺旋流を維持することはなく,少なくとも螺旋流を維持する手段が設けられていないので、螺旋流は単なる直線的な流れになってしまう。したがって、排出体の中心部に、ごみの吸引に充分な負圧部が生じることがなく、万が一、負圧部が生じるとしても圧力が特には低くなく、ごみの吸引を充分には行い得ない可能性がある。そして、特許文献1に記載された集塵機は、排出体の内部に空気を吹き込むように構成されているのに対して、排出体の流入口側の開口部とこれとは反対の上端側の開口部とにおける圧力は共に大気圧であるから、排出体の内部に吹き込んだ空気の全量が必ずしも上端側に流れるとは言い得ず、空気が流入口から噴き出したり、乱流となって渦巻いたりし、その結果、吸引するべきごみを吹き飛ばして、ごみの収集を確実には行い得ない可能性がある。
【0012】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、微細な異物などの対象物であっても確実に吸引し、あるいは吸入することのできるノズルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために、吸引するべき対象物が存在する面に接触することなく前記対象物を吸引する吸引ノズルであって、前記対象物に向けられる吸引口が、筒状本体部の先端部に形成されるとともに、前記筒状本体部における中心軸線の方向で前記吸引口とは反対側に、所定の捕捉部に連通される排出口が形成され、前記筒状本体部の内周面には、前記内周面の接線に対して斜め内向きでかつ斜め上向きに傾斜して開口している複数の噴気孔が、前記中心軸線を中心とした円周方向および前記中心軸線の方向のそれぞれに所定の間隔をあけて配列されて形成され、前記噴気孔から加圧した気体を噴射して前記筒状本体部の内部に前記気体の螺旋流を生じさせて前記吸引口によって前記対象物を吸引するように構成されていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明では、前記複数の噴気孔は、前記中心軸線を中心としかつ前記中心軸線の方向に互いにずれている複数条の螺旋線の上に位置するように配列されていてよい。
【0016】
本発明では、所定の一条の螺旋線上に位置する前記噴気孔と前記所定の一条の螺旋線に隣接する他の螺旋線上に位置する前記噴気孔とは、前記中心軸線を中心とした円周方向において互いにずれて位置していてよい。
【0017】
本発明では、前記複数の噴気孔のうち最も前記吸引口側に位置する噴気孔は、前記吸引口の開口端から前記排出口側に所定寸法後退して配置されていてよい。
【0018】
本発明では、前記筒状本体部は、前記噴気孔が形成されている内筒と、前記内筒の外周面との間に所定の空間をあけて前記内筒と同心円上に配置された外筒とを備え、前記噴気孔は、前記内筒を貫通して前記空間に開口し、前記空間は、前記加圧した気体が供給される圧力室とされていてよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る吸引ノズルにおいては、空気などの加圧した気体を噴気孔から噴射させると、筒状本体部の内部に、吸引口から排出口に向けた螺旋流が生成される。その気体の圧力は、螺旋流が生じる範囲で特には制約がなく、大気圧の数倍の圧力に設定することができる。本発明では、気体の圧力をこのように高くすることができることにより、螺旋流の流速が、真空引きして生じさせた螺旋流の流速より格段に速くなる。また、各噴気孔がそれぞれ螺旋方向を向いているので、所定の一つの噴気孔から噴射された気体流は、当該一つの噴気孔の前方の他の噴気孔から噴射された気体流に巻き込まれて流速が維持もしくは増大させられる。すなわち、各噴気孔から噴射された気体は、噴射された直後に運動量を失い始めるが、前方側の噴気孔から噴射された気体の流れに乗って継続して流動する。すなわち、本発明では、高速でかつ安定した螺旋流を筒状本体部の内部に生成しかつ維持できる。
【0020】
その状態で吸引口を塵埃などの吸引対象物に接近させると、筒状本体部の内部の螺旋流が塵埃などの異物を巻き上げて排出口に向けて搬送する。また、筒状本体部の外気を吸引口から筒状本体部の内部に吸い込み、その外気の流れに乗せて異物を排出口に向けて搬送する。その場合、吸引口の開口端においても螺旋流が生じていてその流速が速いから、吸引口の開口端における乱流やそれに起因する外向きの流れが生じることが殆どない。そのため、除去すべき塵埃などの異物を吹き飛ばすなどのことがなく、確実に吸引口の内部に引き寄せることができる。すなわち、数ミクロンメータあるいは数十ミクロンメータ程度の微細な異物をも確実に吸引でき、また排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る吸引ノズルの一例を示す断面図である。
【
図2】内筒の円周方向における噴気孔の配列位置を示す説明図である。
【
図4】噴気孔の配列状態を説明するための、内筒の内面の展開図である。
【
図5】吸引口付近における空気流の速度分布を測定した結果を矢印(ベクトル)で示す図である。
【
図6】内筒の上下方向での中央部付近における空気流の上昇速度分布を測定した結果を矢印(ベクトル)で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施した場合の一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0023】
本発明に係る吸引ノズル1は、空気などの気体の螺旋上昇流(以下、螺旋流と記す)を生じさせることに伴う負圧によって対象物を吸引し、その対象物を吸入した場合には螺旋流に乗せて系外に排出するように構成されている。吸引ノズル1は
図1に示すように、そのような螺旋流を生じさせるために筒状本体部(以下、本体部と記す)2を有しており、その本体部2の一方の端部(具体的には下端部)が吸引口3となっている。本発明においては、本体部2の内部から気体を吸引することにより螺旋流を生じさせるのではなく、本体部2の内部に空気などの気体を吹き込んで螺旋流を生じさせるように構成されている。
【0024】
そのための構成を具体的に説明すると、
図1に示す例では、本体部2は、内筒4と外筒5との二重管構造になっている。内筒4および外筒5は共に同じ長さの円筒体であり、内筒4の外径に対して外筒5の内径が所定寸法大きく、したがって内筒4と外筒5とは、両者の間に所定の隙間(空間)をあけた状態で、同一軸線上(同心円上)に配置されている。これら内筒4と外筒5とは、
図1での下端部に取り付けられた環状のロアープレート6と、
図1での上端部に取り付けられた環状のアッパープレート7とによって一体化されている。したがって、内筒4の外周面と外筒5の内周面との間の隙間(空間)の部分は、ロアープレート6とアッパープレート7とによって閉じられており、この空間部分が本発明における圧力室8となっている。
【0025】
ロアープレート6は、外径が外筒5の外径とほぼ等しく、内径が内筒4の内径とほぼ等しい環状の板状部材であり、中心側の貫通孔は、本体部2の下端側に向けて内径が大きくなるようにテーパ状に形成され、このテーパ状の貫通孔が吸引口3になっている。上記の圧力室8に空気などの加圧した気体を供給する給気ポート9は、上記の外筒5の外周面の適宜の箇所やアッパープレート7あるいはロアープレート6などに設けることができ、
図1に示す例では、ロアープレート6の外周部の所定箇所(単数もしくは複数の箇所)に、給気ポート9が設けられている。給気ポート9は、要は、可撓性ホースなどの適宜の給気パイプ10を接続する部分であり、
図1に示すように、ロアープレート6の外周部の所定箇所が外側に突き出ており、給気ポート9はその突き出ている突出部11に、
図1の上向きに開口するように設けられている。その突出部11の内部には、圧力室8に繋がっている給気路12が形成されている。したがって、給気ポート9に接続した給気パイプ10から給気路12を介して圧力室8に加圧した気体(例えば、0.3MPa程度の空気)を供給するように構成されている。
【0026】
一方、アッパープレート7は、上記の圧力室8の上側の端部を密閉する板状の部材であり、したがって内筒4の内径程度の半径の貫通孔が中心部に形成された環状をなしている。このアッパープレート7における中心側の貫通孔が本発明における排出口13になっている。
【0027】
圧力室8に供給された気体(以下、空気とする)を本体部2の内部に噴射して螺旋流を生じさせる複数の噴気孔14が、内筒4をその内外周に貫通して設けられている。本発明における螺旋流は、本体部2(内筒4)の中心軸線Gを中心とした旋回流であって、かつ吸引口3から排出口13に向けて上昇する空気の流れである。このような螺旋流を生じさせるために、噴気孔14は、
図2に示すように、内筒4の内周側に向けた噴気孔14の開口端における内筒4の内周面での接線よりも幾分内向きに開口し、また
図3に示すように、前記吸引口3から排出口13の方向に斜め上向きに傾斜して開口している。このように斜め内向きおよび斜め上向きに形成された複数の噴気孔14は、
図2に示すように、前記中心軸線Gを中心とした円周方向には所定の間隔をあけて配列され、また
図1に示すように、中心軸線Gの方向(上下方向)には所定の間隔をあけて配置されている。
【0028】
図2に示す例では、円周方向に6つの噴気孔14が等間隔に配置されており、各噴気孔14の中心線l1と、その開口端を通る内筒4の半径線l2とのなす角度θ1は、2π/n(nは、円周方向に等間隔に設けられた噴気孔14の数)であり、したがって開口端における接線l3との角度θ2は、「π/2-2π/n=(n-4)・π/2n」である。
【0029】
また、各噴気孔14の斜め上向きの角度(中心軸線Gに垂直な平面に対する傾斜角度)θ3は、一例として30度程度である。この傾斜角度θ3は、本体部2の内部に生成する螺旋流に影響し、小さい角度では空気の流れの上昇成分が不足して螺旋流が生じずに、旋回流あるいはそれに近い流れとなることが考えられる。なお、その場合、排出口13側から低圧で吸引すれば、必要充分な螺旋流を生じさせることが可能である。また反対に噴気孔14の傾斜角度θ3が大きい場合には、空気流の上昇速度成分が過剰になって、螺旋流が生じずに、上昇流もしくはそれに近い流れになってしまう可能性がある。さらに、空気流の運動量は噴射速度に影響されることも考えられる。したがって、噴気孔14の好ましい傾斜角度θ3は、内筒4の内径、軸線方向の長さ、圧力室8の空気圧(空気の噴射圧力)、噴気孔14の内筒4の内周側に向けた開口角度(前記中心線l1の接線l3に対する角度θ2)などに応じて、実験やシミュレーションなどによって求めることができる。
【0030】
図4は上記の複数の噴気孔14の配列状態の一例を示す展開図である。ここに示す例は、6つの噴気孔14を設けた例であり、噴気孔14の位置は内筒4の内周面における開口端の位置として丸印で示し、その内筒4の内周面の一部を軸線方向に切断して平面に展開してある。これら6つの噴気孔14は、それぞれ3つずつを一群とした二群に分けることかでき、第1の一群の噴気孔14
a1,14
a2,14
a3は、内筒4の円周方向および上下方向(中心軸線Gに沿う方向)に等間隔に配置されている。したがってこれら3つの噴気孔14
a1,14
a2,14
a3は、所定の螺旋線(
図4では傾斜線)L
1の上に配列されている。第2の一群の噴気孔14
b1,14
b2,14
b3は、第1の一群の噴気孔14
a1,14
a2,14
a3に対して内筒4の円周方向に180度ずれて配置されている。なお、第2の一群の噴気孔14
b1,14
b2,14
b3の配列の形態は第1の一群の噴気孔14
a1,14
a2,14
a3の配列の形態と同じであり、第2の一群の噴気孔14
b1,14
b2,14
b3は、内筒4の円周方向および中心軸線Gに沿う方向に一定の間隔をあけて配列されている。これらの噴気孔14
b1,14
b2,14
b3を結んだ線は、第1の一群の噴気孔14
a1,14
a2,14
a3が並んでいる上記の螺旋線L
1に対して内筒4の円周方向に所定寸法(中心軸線Gを中心とした開き角度では180度)ずれている螺旋線(
図4では傾斜線)L
2になっている。これら各螺旋線L
1,L
2のリード角(
図4では傾斜角)は、各噴気孔14の斜め上向きの傾斜角度と同角度、もしくはその角度に近い角度であってよい。
【0031】
なお、後述するように、内筒4の内部における空気流の上方向の速度成分は内筒4の上側で次第に速くなるので、各噴気孔14の上下方向での間隔は、内筒4の上側では下側におけるよりも大きくしてよい。その場合、各噴気孔14は螺旋線上には並ばず、上側の噴気孔14は下側の2つの噴気孔14を結んだ螺旋線に対して上側にずれて位置することになる。
【0032】
そして、各噴気孔14のうちで最も下側(吸引口3側)に位置する噴気孔14a1(もしくは14b1)は、吸引口3の開口端縁(本体部2の最下端縁)から排出口13側に所定寸法後退した位置に設けられている。これは、当該噴気孔14a1(もしくは14b1)から噴射した空気が、吸引するべき対象物を吹き飛ばさないようにするためである。
【0033】
また、各噴気孔14の形状は、内筒4の外周側では大径で、内筒4の内周側では小径になる形状である。
図3に示す例では、内径が二段に変化する形状としてあるが、これに限らず、先細りのテーパ形状であってもよい。これは、内筒4の内部に向けて噴射する空気の流速を速くするためである。
【0034】
上述した排出口13は、適宜のフレキシブルパイプもしくはフレキシブルダクトなどの排気管路15を介して捕捉部16に接続するように構成されている。捕捉部16は、吸引口3から吸入した異物などの対象物17を、本体部2から排出される空気流から分離させて収集する部分であり、フィルタによって対象物17を捕捉するように構成された装置、あるいはサイクロン式の収集装置などであってよい。
【0035】
つぎに上述した吸引ノズル1の作用について説明する。前述したように排出口13に排気管路15を接続し、かつ給気ポート9に給気パイプ10を接続して、本体部2に加圧した空気を供給する。給気パイプ10から供給された空気は圧力室8に送られ、その加圧空気はこの圧力室8をいわゆるヘッダとして各噴気孔14に分散されて各噴気孔14から内筒4の内部に噴射される。
【0036】
供給する空気の圧力は大気圧より数倍高い圧力とすることができ、これに加えて、各噴気孔14は先細りになって空気流が絞られるので、内筒4の内部には高速で空気が噴射される。その場合、内筒4の内周面が円形に湾曲しているだけでなく、噴気孔14が内筒4の内周面の接線よりも内向きに開口しているので、空気流が内筒4の内面に接触して速度が減衰することが抑制される。言い換えれば、噴気孔14から噴射した空気流は、より積極的に、内筒4の中心軸線Gを中心とした螺旋流となる。
【0037】
また、所定の一つの噴気孔14から噴射した空気流は、内筒4の内部の広い空間で流速や圧力を急速に失うが、当該一つの噴気孔14に隣接する他の噴気孔14からもほぼ同方向で同圧力で空気が噴射されて螺旋流となっているから、当該他の噴気孔14から噴射された空気流と混ざり合って螺旋流としての流動を継続する。内筒4に設けてある噴気孔14は前述したように、螺旋方向に向けて開口し、かつ螺旋線L1,L2に沿って配列されているから、連続しかつ安定した空気の螺旋流を内筒4の内部に生じさせることができる。
【0038】
内筒4の内部に高速で安定した螺旋流が生じることにより、吸引口3から外気を吸い込む作用が生じる。吸い込まれた外気は、内筒4の内部の螺旋流に巻き込まれて旋回しながら上昇する。その場合の外気の流速は、噴気孔14から噴射した空気による螺旋流の速度程度になる。しかも、内筒4の内周面に沿った空気流となる。そのため、吸引口3の開口端縁部における吸入される外気の流れは、内筒4の内周面方向に沿った整流となる。したがって、吸引口3を所定の製品面18上の対象物17に近づけると、その対象物17は、吸引口3に吸い込まれる空気流によって吸引口3の中心部に向けてあたかも掃き集められるようにして内筒4の内部に吸い上げられる。すなわち、吸引口3の開口端縁の付近に外気の乱流が生じたり、そのために対象物17を吹き飛ばして吸入できなかったりすることが回避され、製品面18上の対象物を確実に吸引・吸入することができる。
【0039】
図5および
図6に、本発明品の作用を確認するために行った実験の結果を示してある。この実験で使用した吸引ノズルは、内筒の内径(直径)が19mm、高さ(軸線方向の長さ)が70mm、噴気孔の数は6個、各噴気孔の開口径は0.6mmであり、圧力室の空気圧は0.3MPaとした。
図5は、吸引口付近における空気流の水平方向および上下方向の二次元での速度分布の測定結果を示している。なお、速度は、対象物17を微細な粉粒体とし、空気流で運ばれる粉粒体にレーザ光を照射して高速度カメラでその動きを連続的に撮影し、その画像から速度を算出した。
図5から知られるように、製品面18に近い箇所では、流速が遅いが、中心部に向けた整流となっている。したがって、煙のように振る舞う粉粒体は、中心部に向けて掃き集められ、その中心部で吸い上げられている。そして、製品面18から離れるほど(高い位置ほど)、上昇方向の流速が速くなっている。この結果から、本発明品によれば、対象物である粉粒体を確実に吸入し、かつ排出口から捕捉部に向けて送ることが可能なことが認められた。
【0040】
図6は、本体部2の上下方向での中間部における円周方向の速度分布を測定した結果を示している。
図6に示すように、速度ベクトルが内筒4の内周面に沿った方向に揃っており、上記の
図5で得られた上下方向の速度ベクトルを考慮すると、安定した螺旋流が生じていることが認められた。なお、円周方向の流速は、中心部側で遅く、外周側ほど、速くなっていた。したがって、螺旋流に乗っている粉粒体が内筒4の内周面に接触するとしても、その部分での空気流が高速であるから、粉粒体は空気流から脱落することなく排出口13側に運ばれるものと考えられ、この点においても粉粒体(すなわち塵埃などの対象物17)を確実に吸入して製品面18から排除することが可能である。
【0041】
なお、本発明では、負圧源で吸引して螺旋流を生じさせるものではなく、空気などの気体を本体部2の内部に高速で吹き込んで螺旋流を生じさせ、それに伴う負圧で吸引口3から外気を引き込み、かつその外気の流れによって対象物を吸引するように構成されている。したがって、上述した内筒4の内部にはその中心軸線Gを中心とした螺旋流が生じるものの、これと併せて、部分的に、また一時的に竜巻に類似した現象が生じる可能性がある。その現象による渦流の下端部が製品面18あるいは対象物17にまで達すると(下降すると)、対象物17はその渦流によっても内筒4の内部に巻き上げられ、ついには前述した螺旋流に乗って排出口13から外部に運び去られる。このような渦流は、螺旋流の一部に一時的に発生し、かつ消滅するものと思われ、したがって螺旋流に対して乱流を生じさせる要因になるものと思われる。しかしながら、その渦流は、内筒4の内部を吸引口3側から排出口13側に吸い上げる作用を行うものであるから、対象物17の吸引・吸入には特には支障とならず、むしろ吸引を補助する付加的な作用を行う。
【0042】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態の構成に限られないのであり、例えば、圧力室は、本体部を二重管構造にせずに、本体部の外周部に適宜のジャケットを取り付けて形成してもよい。また、噴気孔の数は、上述した実施形態で示した数以上もしくは以下であってもよく、またそれらの噴気孔を配列する螺旋線は二条である必要はなく、三条以上であってもよい。さらに、噴気孔同士の間隔は必ずしも等間隔である必要はなく、適宜の間隔に設定してよい。さらに、本発明の吸引ノズルは、吸引口の中心部に向けて適宜の対象物を吸引する機能を備えるものの、その内部には吸入しないように構成されていてもよい。そして、本発明における気体は空気に限られないのであって、窒素ガスなどの他の気体であってもよく、それらの気体は水蒸気を可及的に含まない乾燥気体であることが好ましい。
【符号の説明】
【0043】
1 吸引ノズル
2 本体部
3 吸引口
4 内筒
5 外筒
6 ロアープレート
7 アッパープレート
8 圧力室
9 給気ポート
10 給気パイプ
11 突出部
12 給気路
13 排出口
14 噴気孔
15 排気管路
16 捕捉部
17 対象物
18 製品面
G 中心軸線
L1,L2 螺旋線