(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ストレッチ用マット及びストレッチ用マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 25/10 20060101AFI20240620BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240620BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240620BHJP
A63B 71/00 20060101ALI20240620BHJP
A63B 6/00 20060101ALI20240620BHJP
D02G 3/32 20060101ALI20240620BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20240620BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B32B25/10
B32B7/022
B32B27/40
A63B71/00
A63B6/00
D02G3/32
D02G3/36
A47G27/02 101Z
A47G27/02 102
(21)【出願番号】P 2021001978
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】511184752
【氏名又は名称】株式会社ジュート
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】森平 茂生
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3144724(JP,U)
【文献】特開2014-173852(JP,A)
【文献】特開2009-136615(JP,A)
【文献】特開2020-152884(JP,A)
【文献】特開2012-236406(JP,A)
【文献】特開2002-065889(JP,A)
【文献】特開2018-094113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A47G 27/00-27/06
A63B 1/00-26/00
D02G 3/32、 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を有するストレッチ用マットであって、
前記表面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数を0.5以下の値とすることを特徴とするストレッチ用マット。
【請求項2】
前記ポリウレタン弾性糸及び熱可塑性エラストマー樹脂、あるいはいずれか一方が、導電性材料を含むことを特徴とする請求項1に記載のストレッチ用マット。
【請求項3】
前記表面層の厚さを0.5~5mmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のストレッチ用マット。
【請求項4】
前記表面層のポリウレタン弾性糸が、ポリウレタンコアヤーンに対する、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維の少なくとも一つからなる、一重螺旋巻きカバードヤーン、あるいは二重螺旋巻きカバードヤーンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のストレッチ用マット。
【請求項5】
前記背面層の熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のストレッチ用マット。
【請求項6】
前記背面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数を1以上の値とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のストレッチ用マット。
【請求項7】
前記背面層の厚さを5~50mmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のストレッチ用マット。
【請求項8】
ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層とを有するストレッチ用マットの製造方法であって、下記工程(1)及び(2)を含むことを特徴とするストレッチ用マットの製造方法。
(1)前記表面層と、前記背面層と、を対向配置する工程
(2)前記表面層と、前記背面層と、を熱圧着し、前記表面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数が0.5以下の値のストレッチ用マットとする工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ用マット及びそのようなストレッチ用マットの製造方法である。特に、使用環境に寄らず、優れた表面滑り性や固定安定性等を発揮するストレッチ用マット及びそのようなストレッチ用マットの効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エクササイズマット(ヨガマットと称する場合もある。)は、その使用者が、平坦な床に設置し、その上で、ヨガ等のエクササイズをするために多用されている。
例えば、特許文献1に記載のエクササイズマット200は、使用者が、ヨガを容易かつ効果的に行えるように、少なくともトップ層210及びボトム層230から構成されていた。
より具体的には、
図10に示されるように、エクササイズマット200は、典型的には、表面側に、高い摩擦特性等を付与するため、ポリウレタン樹脂等を含むトップ層210を有している。
又、任意構成ではあるが、クッション性や柔軟性等を増強するための織布や不織布等を含むミドル層220を有している。
次いで、背面側に、グリップ性等を付与するための熱可塑性エラストマー樹脂等を含むボトム層230を有している。
そして、これらのトップ層210、ミドル層220、ボトム層230を、それぞれ接着剤等を介して熱圧着したり、更には、ポリウレタン等をモールド内に流し込みながら硬化させたり、ゴムを加硫したりしながら、多層構造のエクササイズマット200を製造することが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-236406(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のエクササイズマットは、使用者が、ヨガ動作を容易かつ効果的に行えるように構成されており、少なくとも表面側に、クッション性や柔軟性、更には高い摩擦特性等を向上させるため、ポリウレタン樹脂等からなるトップ層を備えることを特徴としている。
したがって、このように高い摩擦特性等を有するエクササイズマットは、ヨガマットには使用できても、良好な表面滑り性が要求されるストレッチ用マットには不適であるという問題があった。
【0005】
すなわち、使用者が十分な膂力を有していない高齢者等が、このようなエクササイズマットを利用した場合、安定的にストレッチ効果を得るのは困難であり、場合によっては、適切に体の部位を滑らすことができず、怪我等が発生しやすい懸念があった。しかも、かかるエクササイズマットは、製造工程が複雑かつ高コストであり、製造上や経済上の問題も見られた。
更に言えば、かかるエクササイズマットは、夏場の高温、高湿の使用環境(例えば、35℃、80%RH)で使用したような場合に、使用者から発汗した汗を、ポリウレタン樹脂等からなるトップ層を透過し、内部に吸収してしまい、清潔感が乏しくなって、衛生的にも問題が生じやすかった。
しかも、従来のエクササイズマットは、使用環境におけるほこりやごみ等を吸着しやすく、更に、それらが汗等に付着しやすいという問題が見られた。
一方、かかるエクササイズマットを、冬場の低温、低湿の使用環境(例えば、15℃、20%RH)で使用したような場合に、耐久性やフレキシブル性が著しく低下するとともに、ポリウレタン樹脂等からなるトップ層において、静電気が発生しやすくなって、使用感が低下したり、更に使用環境におけるほこりやごみ等を吸着しやすく、かつ、容易に除去できないという問題が見られた。
【0006】
そこで、本願の発明者は、このような問題点に鑑み鋭意努力した結果、所定構成のストレッチ用マットとすることによって、夏場であっても、冬場であっても、表面層において、優れた表面滑り性等が得られる一方、背面層においては、優れた固定安定性やクッション性等が得られ、かつ、製造が容易となることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、使用環境等によらず、良好なストレッチ効果、更には優れた耐久性、耐汚染性等が得られるストレッチ用マット、及びそのようなストレッチ用マットの効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、少なくともポリウレタン弾性糸に由来した繊維からなる表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を有するストレッチ用マットであって、表面層のJIS K 7125(プラスチック-フィルムーシートー摩擦係数試験方法)に準拠して測定される静摩擦係数(以下、CF1と称する場合がある。)を0.5以下の値とすることを特徴とするストレッチ用マットが提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、表面層においては、主としてポリウレタン弾性糸に由来した繊維等に起因し、夏場の使用環境であって、使用者が発汗したような場合であっても、ストレッチ用マットの表面層としての所定繊維に吸着され、簡易的に拭くだけで汗や、それに付着するゴミ等についても簡単に除去することができる。
又、表面層が、ポリウレタン弾性糸を含んでいることから、単なるウレタン樹脂と比較して、耐熱性や耐久性(機械的強度)が向上したため、ストレッチ用マットの表面に対して、ロゴや装飾シート等を、アイロンや熱コテ等を利用して、熱圧着することができる。
又、冬場の環境条件で使用した場合であっても、ストレッチ用マットとして、優れた表面滑り性、良好なフレキシブル性等を維持することができる。
一方、背面層においては、所定樹脂の種類や、表面層との間の優れた密着性に起因して、背面層の側面までカバーし、優れた固定安定性やクッション性等を得ることができる。
更に又、このようなストレッチ用マットであれば、所定の表面層と、背面層と、を積層してあるだけで、所定の表面層が、背面層の側面を含む表面を十分に被覆し、かつ、背面層の側面を含む表面の動きに容易に追随するため、両者が剥がれることなく、良好な耐久性を発揮することができる。
【0008】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、ポリウレタン弾性糸及び熱可塑性エラストマー樹脂、あるいはいずれか一方が、導電性材料を含むことが好ましい。
このような構成によれば、ストレッチ用マットを製造する際、あるいは、使用する際の静電気発生を防止し、製造工程速度を速めたり、あるいは、ゴミ付着等を有効に防止したりすることができる。
又、配合成分が導電性材料であれば、その種類や配合量等を適宜調整することによって、表面層や背面層における摩擦係数の制御にも寄与することができ、ひいては、冬の乾燥した環境条件等で使用した場合であっても、静電気の発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、表面層の厚さを0.5~5mmの範囲内の値とすることが好ましい。
このような厚さの表面層であれば、表面層の静摩擦係数の制御が容易になるばかりか、表面層の耐久性や取り扱い性等についても向上させることができる。
【0010】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、表面層のポリウレタン弾性糸が、ポリウレタンコアヤーンに対する、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維の少なくとも一つからなる、一重螺旋巻きカバードヤーン、あるいは二重螺旋巻きカバードヤーンであることが好ましい。
このような種類のポリウレタン弾性糸であれば、表面層の摩擦係数の制御が更に容易になるばかりか、表面層の耐久性、耐熱性、取り扱い性、着色性等についても、更に向上させることができる。
【0011】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、背面層の熱可塑性エラストマー樹脂が、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の少なくとも一つであることが好ましい。
このような種類の熱可塑性エラストマー樹脂を用いて背面層を構成することによって、背面層の耐久性、クッション性、更には、摩擦係数の制御等を容易にすることができる。
又、このような種類の熱可塑性エラストマー樹脂であれば、汎用の押出成形方法等によって、所望厚さや機械的特性、更には形態安定性に優れた背面層を容易かつ安定的に形成することができる。
しかも、熱可塑性エラストマー樹脂であれば、各種添加剤や粘着付与剤等を均一に配合できることから、ガラス転移温度の調整ばかりでなく、耐熱性や機械的特性の調整も容易になる。
【0012】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、背面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数(以下、CF2と称する場合がある。)を1以上の値とすることが好ましい。
このような静摩擦係数を有する背面層とすることによって、表面層との摩擦係数との差が明確になって、背面層の固定安定性等を容易かつ確実に制御し、ひいては、ストレッチ用マットの取り扱い性や耐久性も向上させることができる。
【0013】
又、本発明のストレッチ用マットを構成するに当たり、背面層の厚さを5~50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
このような背面層の厚さであれば、良好な固定安定性や耐久性が得られやすくなるばかりか、ストレッチ用マットの取り扱い性やクッション性についても向上させることができる。
【0014】
又、本発明のストレッチ用マットの別の態様は、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層とを有するストレッチ用マットの製造方法であって、下記工程(1)及び(2)を含むことを特徴とするストレッチ用マットの製造方法である。
(1)表面層と、背面層と、を対向配置する工程
(2)ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を熱圧着し、表面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数(CF1)が0.5以下のストレッチ用マットとする工程
このように所定構造のストレッチ用マットを製造することにより、使用環境によらず、表面層において、優れた滑り性が得られるばかりか、良好な使い勝手性や固定安定性等に優れ、かつ、良好なストレッチ効果を、清潔的に発揮できるストレッチ用マットを、効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)~(b)は、それぞれ本発明のストレッチ用マットの層構造(二層構造又は三層構造)を説明するために供する図である。
【
図2】
図2(a)~(b)は、それぞれポリウレタン弾性糸のカバードヤーン(SYC、DYC)を説明するために供する図である。
【
図3】
図3は、ストレッチ用マットの表面層の静摩擦係数(CF1)と、ストレッチ性との関係を説明するために供する図である。
【
図4】
図4(a)は、ストレッチ用マットの表面層の表面状態を示す図(写真)、
図4(b)は、ストレッチ用マットの背面層の凹凸模様を示す図(写真)である。
【
図5】
図5は、ストレッチ用マットの背面層の静摩擦係数(CF2)と、固定安定性との関係を説明するために供する図である。
【
図6】
図6(a)~(b)は、それぞれ導電性材料を含むストレッチ用マット(二層構造及び三層構造)を説明するために供する図であり、
図6(c)は、周囲に縁部を有するストレッチ用マット(二層構造)を説明するために供する図である。
【
図7】
図7(a)~(d)は、それぞれストレッチ用マットの折りたたみ状態を説明するために供する図(写真)である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、それぞれストレッチ用マットの使用法を説明するために供する概念図である。
【
図9】
図9(a)~(d)は、それぞれストレッチ用マットの別な使用法を説明するために供する概念図である。
【
図10】
図10は、従来のエクササイズマットを説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、
図1(a)に例示するように、少なくともポリウレタン弾性糸に由来した繊維(図示せず)を有する表面層12と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層14と、を有するストレッチ用マット100であって、JIS K 7125に準拠して測定される表面層12の静摩擦係数(CF1)を0.5以下の値とすることを特徴とするストレッチ用マット100である。
以下、本発明のストレッチ用マットの実施形態につき、適宜図面を参照しながら具体的に説明する。
【0017】
1.表面層
(1)材質
図1(a)に例示されるストレッチ用マット100において、表面層12を構成する繊維の材質としては、
図2(a)~(b)に例示されるスパンデックスが主原料であって、ポリウレタン弾性糸又はスパンデックス繊維と称されるものを好適に使用することができる。
すなわち、スパンデックス繊維の中心は、通常、繊維の全体量に対して、85重量%以上のポリウレタンセグメントを組成として有する長鎖状合成高分子よりなるポリウレタン弾性糸である。
そして、スパンデックス繊維では、硬さは主としてポリウレタン、軟らかい弾性を示す性質は主としてポリエーテルに依存している。
【0018】
又、
図2(a)に示すように、ポリウレタン弾性糸10´が、中心のポリウレタンコアヤーン10aに対して、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維の少なくとも一つの繊維10bを席巻してなる、一重螺旋巻きカバードヤーン(SYCと称する場合がある。)であることが好ましい。
この理由は、このような一重螺旋巻きカバードヤーンであれば、席巻してなる樹脂繊維の種類や巻圧等を適宜変更することによって、表面層の摩擦係数や伸縮性の制御が容易になるばかりか、表面層の耐久性、取り扱い性、着色性等についても向上させることができるためである。
【0019】
又、
図2(b)に示すように、ポリウレタン弾性糸10´´が、中心のポリウレタンコアヤーン10aに対して、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維の少なくとも一つの繊維10bと、もう一つの同一又は異なる繊維10cとを、逆方向に席巻しなる、二重螺旋巻きカバードヤーン(DYCと称する場合がある。)であることも好ましい。
この理由は、このような二重螺旋巻きカバードヤーンであれば、席巻してなる樹脂繊維の種類や巻圧、更には巻き方等を適宜変更することによって、表面層の摩擦係数や伸縮性の制御が更に容易になるばかりか、表面層の耐久性、取り扱い性、着色性等についても向上させることができるためである。
【0020】
更に言えば、このようなSYCやDYCであれば、単なるウレタン弾性糸と比較して、より高強度であることから、比較的細い糸にすることができ、しかも、融点が比較的高く(230℃以上)、機械的強度、吸水性、耐老化性などの調整も容易である。
したがって、SYCやDYCの一方のみを使用するもよく、あるいは、両者を組み合わせて混合使用することも好ましい。
そのように混合使用する場合、SYC:DYCの重量比を80:20~20:80の範囲内の値とすることが好ましく、70:30~30:70の範囲内の値とすることがより好ましく、60:40~40:60の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0021】
(2)滑り性
JIS K 7125に準拠して測定される表面層の静摩擦係数を0.5以下の値とすることを特徴とする。
このような構成によれば、
図3の特性曲線に示すように、表面層の静摩擦係数を所定範囲に調整し、ひいては滑り性を良くして、ストレッチ用マットを用いた、人体の筋肉、筋膜、腱等に対するストレッチ性等を存分に発揮することができる。
【0022】
ここで、
図3に言及し、ストレッチ用マットの表面層の静摩擦係数(CF1)と、使用者におけるストレッチ性(相対値)との関係を説明する。
横軸に、表面層の静摩擦係数が採って示してあり、縦軸に、使用者におけるストレッチ用マットによるストレッチ性評価(相対値)の値を採って示してある。
すなわち、後述する実施例1に記載した基準に基づき、ストレッチ性評価が◎の場合を5点、〇の場合を3点、△の場合を1点、×の場合を0点として、ストレッチ性を相対評価したものである。
【0023】
かかる
図3の特性曲線に示すように、表面層の静摩擦係数(CF1)が0.4以下であれば極めて良好なストレッチ性が得られ、0.4~0.5の範囲になると相応のストレッチ性が得られている。
そして、更に表面層における摩擦係数が大きくなって、0.5を超え、1.0程度の範囲になると、著しくストレッチ性が低下し、更に1を超えた値になると、ストレッチ性がほとんど得られないことが理解される。
したがって、使用者が良好なストレッチ性を得るためには、表面層の静摩擦係数を0.5以下とすることが有効であると理解できる。
【0024】
但し、表面層の静摩擦係数が過度に小さくなると、表面層における摩擦係数の調整が難しくなって、過度に滑りやすくなって、使用者が体やその部位をささえにくくなる場合がある。
したがって、JIS K 7125に準拠して測定される表面層の静摩擦係数(CF1)を0.05~0.4の範囲内の値とすることがより好ましく、0.1~0.3の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0025】
なお、表面層の静摩擦係数(CF1)は、例えば、JIS K 7125に準拠してなる、静摩擦係数測定機(例えば、熊谷理機工業株式会社製、No.2088)によって、測定することができる。
そして、表面層を構成する繊維の材質(添加剤の種類や配合量等も含む。)の変更や、表面層の凹凸等によって、所望範囲内の値に制御することができる。
【0026】
例えば、スパンデックス繊維におけるポリウレタン繊維の硬さを硬くしたり、軟化点を高くしたりすれば、表面層の静摩擦係数を比較的小さくすることができる。
逆に、表面層の静摩擦係数を比較的大きくするには、ポリウレタン繊維の硬さを柔らかくしたり、軟化点を低下させたりすればよい。
又、スパンデックス繊維における周囲を席巻するポリアミド繊維等の硬度を硬くすれば、表面層の静摩擦係数を比較的小さくすることができ、逆に、表面層の静摩擦係数を比較的大きくするには、席巻するポリアミド繊維等の硬度を柔らかくすればよい。
【0027】
又、スパンデックス繊維に配合する金属酸化物や導電性材料(カーボン材料等)の充填剤の配合量を多くしたり、あるいは、配合する充填剤の平均粒径を比較的大きくしたりすれば、表面層の静摩擦係数を比較的小さくすることができる。
逆に言えば、表面層の静摩擦係数を比較的大きくするには、スパンデックス繊維に配合する充填剤の配合量を少なくしたり、配合する金属酸化物等の平均粒径を比較的小さくしたりすればよい。
【0028】
(3)厚さ
又、
図1(a)に示されるように、表面層12の厚さ(t1)を、通常、0.5~5mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような厚さの表面層であれば、表面層の静摩擦係数の制御が容易になるばかりか、表面層の耐久性や取り扱い性等についても向上させられるためでる。
より具体的には、表面層の厚さが0.5mm未満になると、表面層における摩擦係数の調整が難しくなって、所望の滑り性が得られにくくなったり、あるいは、耐久性や、背面層等への積層が困難となったりする場合があるためである。
一方、表面層の厚さが5mmを超えると、表面層における摩擦係数の調整がやはり難しくなったり、あるいは、背面層等への積層が困難となったりする場合があるためである。
したがって、表面層の厚さを0.8~3mmの範囲内の値とすることがより好ましく、1~2mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0029】
(4)表面状態(凹凸模様)
又、
図4(a)に例示するように、表面層の表面(使用者が直接接触する面)に、平均高さ(底部と頂点の間の長さにおける10箇所の平均長さ)が0.05~0.8mmの凹凸模様(凹部模様や凸部模様を含む。)を有することが好ましい。
この理由は、このような凹凸模様を有することによって、装飾性や手触り性を向上させることができるとともに、使用する人との接触面積が変化して、静摩擦係数を所定範囲内の値に調整しやすくなるためである。
【0030】
より具体的には、表面層の表面凹凸が0.05mm未満になると、表面層における摩擦係数の調整が難しくなって、所望の滑り性が得られにくくなったり、あるいは、耐久性や、背面層等への積層が困難となったりする場合があるためである。
一方、表面層の表面凹凸が0.8mmを超えると、表面層における摩擦係数の調整がやはり難しくなったり、あるいは、背面層等への積層が困難となったりする場合があるためである。
したがって、表面層の表面凹凸を0.1~0.7mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.2~0.6mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、表面層の凹凸模様の模様自体については特に制限されるものでなく、スパンデックス繊維の網目模様であっても良い。あるいは、円形、楕円形、三画形や四角形(ひし形を含む)等の多角形、線模様、十字模様、格子模様、花柄模様、更には異形模様等の少なくとも一つであることも好ましい。
【0031】
(5)添加剤
又、表面層を構成する繊維に、各種添加剤を配合することが好ましい。
この理由は、各種添加剤を配合することによって、表面層の滑り性、耐久性、装飾性、及び硬度等を、所望範囲に制御することができるためである。
したがって、後述する導電性材料、潤滑材料、電気絶縁材料、酸化防止剤、樹脂フィラー、無機フィラー、カップリング剤等の少なくとも一つである。
なお、導電性材料については、より具体的かつ詳細に後述する。
【0032】
又、添加剤の配合量は、添加剤の種類等に対応して、適宜変更できるが、通常、表面層を構成する繊維の全体量(100重量部)に対して、0.01~10重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる添加剤の配合量が0.01重量部未満の値になると、配合効果が安定して得られない場合があるためである。
一方、かかる添加剤の配合量が10重量部を超えた値になると、表面層(繊維)中に、均一に混合分散することが困難となる場合があるためである。
したがって、かかる添加剤の配合量を、表面層を構成する繊維の全体量(100重量部)に対して、0.1~5重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~1重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0033】
(6)繊維
又、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維の形態についても特に制限されるものではないが、通常、平織り、綾織り、朱子織り等の少なくとも一つであることが好ましい。
特に、平織りであれば、オックスフォード、シャンブレー、キャンパス、ブロードクロス、シーチング、ウエザークロス等が代表的であるが、比較的安価であって、かつ、安定的に伸長特性等を示すことから、これらの少なくとも一つが好ましい。
又、綾織りであれば、サージ、ギャバジン、デニム等を代表的とし、比較的機械強度が高まることから、その少なくとも一つであることが好ましい。
更に、朱子織りであれば、サテン等の少なくとも一つが代表的であるが、金属ライクの光沢等を発揮できることから好ましい。
【0034】
又、繊維の平均径についても、発明の用途や目的等に応じて、適宜変更することができるが、通常、5~400デニールの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる平均径が5デニール未満の値になると、表面層の機械的強度や耐久性が低下したり、更には、静摩擦係数の調整が困難になったりする場合があるためである。
一方、かかる平均径が400デニールを超えると、伸縮性が低下し、背面層とを積層した際に、位置ずれが生じたり、両者が剥離しやすくなったり、更には、静摩擦係数の調整が困難になる場合があるためである。
したがって、表面層を構成する繊維の平均径を10~300デニールの範囲内の値とすることがより好ましく、50~200デニールの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、繊維の平均径(デニール単位)については、複数ロットにおいて、所定長さ(9000m)当たりの質量(g)を測定することにより、その平均値として算出することができる。
【0035】
(7)伸縮性
又、表面層の伸縮性(ポリウレタン弾性糸自体の伸縮性、或いは、それに由来した繊維の伸縮性も含む。)の目安として、JIS L1096 A法 カットストリップ法(17.7N荷重、5cm幅)で測定した伸長率を30~500%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる伸長率が30%未満の値になると、伸縮性が低下し、背面層とを積層した際に、位置ずれが生じたり、両者が剥離しやすくなったり、更には、静摩擦係数の調整が困難になる場合があるためである。
一方、かかる伸長率が500%を超えると、表面層の機械的強度や耐久性が低下したり、更には、静摩擦係数の調整が困難になったりする場合があるためである。
したがって、表面層の伸縮性の目安として、かかる伸長率を80~400%の範囲内の値とすることがより好ましく、100~300%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0036】
(8)機能層
又、表面層の更に外側、すなわち、ストレッチ用マットの使用者が接触する側に、所定の機能層を設けることも好ましい。
例えば、機能層の一つとして装飾層を設け、文字、図形、記号、模様、点字等を表示し、ストレッチ用マットの装飾性や情報性等を向上させることが好ましい。
そして、かかる装飾層として、後述する
図7(b)に示すように、商標等の文字や図形を明確に表示したり、精度良く印刷したり、あるいは安定的に貼付したりするために、表面層の一部に凹部があって、その凹部の内側に、更に平坦部を設けることがより好ましい。
【0037】
又、機能層の一つとして吸水層を設けて、ストレッチ用マットの使用者の汗等を吸収し、清潔感を向上させ、耐ウイルス性や防カビ性を有効に発揮させることが好ましい。
又、機能層の一つとして帯電防止層、特にアース付き帯電防止層を設けて、ストレッチ用マットの使用者の動きに応じて発生する静電気を外部に放出することが好ましい。
更に、機能層の一つとして、接着剤等を介して保護層や硬度調整層を設けて、その下方に位置する表面層の劣化防止を図るとともに、当該保護層や硬度調整層が劣化した場合には、新規な保護層等に張替える構成であることが好ましい。
なお、上述した機能層は、表面層とは別個に設けても良いが、表面層に、吸水層、帯電防止層、保護層、硬度調整層等の機能を付与して、表面層の一部とすることもできる。
【0038】
2.背面層
(1)材質
又、
図1(a)に例示されるストレッチ用マット100において、背面層14を構成する熱可塑性エラストマー樹脂としては、スチレン系熱可塑性エラストマー樹脂、ウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂の少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、このような種類の熱可塑性エラストマー樹脂から背面層を構成することによって、背面層の耐久性、クッション性、更には、摩擦係数の制御等を容易にすることができるためである。
又、このような種類の熱可塑性エラストマー樹脂であれば、汎用の押出成形方法等によって、所望厚さや機械的特性のシート状物を容易かつ安定的に形成することができるためである。
【0039】
(2)配合成分
又、背面層は、比較的厚いことから、各種目的に対応して、主材料としての熱可塑性エラストマー以外に、所定の配合成分を含有することが好ましい。
このような配合成分の好適例としては、樹脂フィラー、無機フィラー、カーボン材料、金属材料、金属酸化物材料、金属鉱物材料、セラミック材料、着色材料、軽量化材料、酸化防止剤、キレート剤、粘着付与剤、オイル、潤滑材料、カップリング剤等の少なくとも一つである。
特に、カーボン材料であれば、後述するように帯電防止性や着色性(遮光性)等も有効に発揮できることから、更に好適な配合成分である。
【0040】
そして、各種目的に対応させて、適宜配合成分の種類を選択することができるが、例えば、比重が比較的軽い樹脂フィラー、カーボン材料、着色材料、軽量化材料、酸化防止剤、キレート剤等であれば、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常、0.01~5重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.1~3重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.3~1重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
い。
又、比重が比較的重い、金属材料、金属酸化物材料、鉱物材料、及びセラミック材料等であれば、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常、1~30重量部の範囲内の値とすることが好ましく、2~15重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、3~10重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0041】
その上、粘着付与剤、オイル等であれば、背面層の耐熱性、ガラス転移温度、機械的強度等に影響しやすいため、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、通常、20~150重量部の範囲内の値とすることが好ましく、50~130重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、70~100重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0042】
(3)滑り性1
又、JIS K 7125に準拠して測定される背面層の静摩擦係数(CF2)を1.0以上の値とすることが好ましい。
この理由は、このような静摩擦係数を有することによって、床材等に対する背面層の固定安定性やクッション性等を容易に制御し、ひいては、ストレッチ用マットの取り扱い性も向上させることができるためである。
より具体的には、JIS K 7125に準拠して測定される背面層の静摩擦係数が1.0未満の値になると、床材等に対する背面層の固定安定性が著しく低下する場合があるためである。
【0043】
但し、かかる背面層の静摩擦係数が過度に大きくなると、背面層を安定的に形成したり、あるいは、静摩擦係数を増加させるための充填物の配合量等が多くなって、不均一に分散したりする場合がある。
したがって、各種床材等に対する背面層の固定安定性等が更に良好になるため、かかる背面層の静摩擦係数(CF2)を1.5~5の範囲内の値とすることがより好ましく、1.8~3の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0044】
ここで、
図5に言及し、ストレッチ用マットの背面層の静摩擦係数と、ストレッチ用マットの固定安定性(相対値)との関係を説明する。
横軸に、背面層の静摩擦係数が採って示してあり、縦軸に、使用者のストレッチ用マットの固定安定性(相対値)の値を採って示してある。すなわち、固定安定性の評価が◎の場合を5点、〇の場合を3点、△の場合を1点、×の場合を0点として、固定安定性を相対評価したものである。
かかる
図5中の特性曲線から理解されるように、背面層の静摩擦係数が1以上になると、3点以上の評価点が得られ、背面層の静摩擦係数が1.5以上となると、5点以上の評価点が得られている。
一方、背面層の静摩擦係数が1.0未満になると、固定安定性の相対評価が著しく低下し、0.5未満になると、固定安定性の相対評価はゼロとなる。
したがって、使用者が良好なストレッチ用マットの固定安定性が得られ、ひいては、有効にストレッチするためには、背面層の静摩擦係数を1.0以上にすることが有効であると理解できる。
【0045】
(4)滑り性2
又、JIS K 7125に準拠して測定される背面層の静摩擦係数(CF2)を、表面層の静摩擦係数(CF1)を考慮して定めることが好ましい。
この理由は、かかる背面層の静摩擦係数/表面層の静摩擦係数の比率(CF2/CF1)を所定範囲内の値とすることによって、より効果的なストレッチ性が得られるためである。
より具体的には、かかる比率(CF2/CF1)が1未満の値になると、床材等に対する背面層の固定安定性が著しく低下し、効果的なストレッチ性が得られない場合があるためである。
但し、かかる比率(CF2/CF1)が過度に大きくなると、過度な滑り性が発揮され、逆に、効果的なストレッチ性が得られない場合があるためである。
したがって、比率(CF2/CF1)を2~20の範囲内の値にすることが好ましく、3~18の範囲内の値にすることがより好ましく、8~15の範囲内の値にすることが更に好ましい。
【0046】
(5)厚さ
又、
図1(a)に示されるように、背面層14の厚さ(t2)を5~50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような背面層の厚さであれば、固定安定性や耐久性ばかりか、ストレッチ用マットの取り扱い性やクッション性についても向上させることができるためである。
より具体的には、背面層の厚さが5mm未満の値になると、床材等に対する背面層の安定性やクッションが著しく低下したり、耐久性や機械的特性についても低下したりする場合があるためである。
一方、かかる背面層の厚さが50mmを超えると、ストレッチ用マットとしたときの取り扱い性や運搬性が低下したり、更には、静摩擦係数を所定範囲内の値に調整したりするのが困難となる場合がある。
したがって、背面層の厚さを6~30mmの範囲内の値とすることがより好ましく、70~20mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0047】
(6)表面凹凸
又、背面層の表面に、
図4(b)に例示されるように、平均高さ(底部と頂点の間の長さにおける10箇所の平均長さ)が0.5~5mmの表面凹凸(凹部又は凸部を含む。)を有することが好ましい。
この理由は、このような表面凹凸によれば、背面層における静摩擦係数の制御が容易になるばかりか、背面層の耐久性や取り扱い性等についても向上させることができるためである。
より具体的には、背面層の表面凹凸が0.5mm未満になると、背面層における摩擦係数の調整が難しくなって、床材等に対する所望の固定性が強くなり、使用後に床材等から引き剥がすことが困難となったり、あるいは、装飾性や、クッション性が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、背面層の表面凹凸が5mmを超えると、背面層における摩擦係数の調整がやはり難しくなって、床材等に対する所望の固定性が得られにくくなったり、あるいは、装飾性や、クッション性が著しく低下したりする場合があるためである。
したがって、背面層の表面凹凸を0.8~3mmの範囲内の値とすることがより好ましく、1~2mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0048】
3.中間層
(1)材質
又、
図1(b)に例示されるストレッチ用マット100において、表面層12と、背面層14との間に、中間層13(プライマー層や接着剤層を含む。)を設けることも好ましい。
この理由は、かかる中間層によって、ストレッチ用マットのクッション性、取り扱い性、耐久性、機械的強度等を所望範囲に容易に調整できるためである。
又、かかる中間層によって、表面層と、背面層との間の密着性(接着性)も更に良好になるためである。
【0049】
(2)種類及び形態
中間層を構成する素材の種類としては、ストレッチ用マットの用途や目的等に応じて、適宜変更することができるが、通常、ウレタン樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、セラミック素材、炭素素材等の少なくとも一つとすることが好ましい。
又、中間層を構成する素材中に、カーボン繊維、カーボン粒子、金属繊維、金属粒子、セラミック繊維、セラミック粒子等の補強材料等を、所定量、例えば、中間層の全体量に対して、0.01~10重量%の範囲で、含むことも好ましい。
更に、中間層の形態としては、ストレッチ用マットの用途や目的等に応じて、適宜変更することができるが、通常、メッシュ素材、穴あき素材、繊維素材(ナノ繊維、短繊維、長繊維、織布のみならず、不織布を含む。)、棒材、板材等の少なくとも一つとすることが好ましい。
【0050】
(3)厚さ
又、
図1(b)に示されるように、中間層13の厚さ(t3)を、通常、0.01~20mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような中間層の厚さであれば、表面層と、背面層との間の密着性(接着性を含む)を向上させたり、あるいは、ストレッチ用マットの固定安定性、耐久性、取り扱い性、及びクッション性等についても向上させたりすることができるためである。
より具体的には、中間層の厚さが0.01mm未満の値になると、接着性向上等の形成効果や挿入効果が明確に発現しない場合があるためである。
一方、かかる中間層の厚さが20mmを超えると、ストレッチ用マットとしたときの厚さが過度になって、取り扱い性や運搬性が低下したり、更には、静摩擦係数を所定範囲内の値に調整したりするのが困難となる場合があるためである。
したがって、かかる中間層の厚さを0.1~10mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.3~5mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0051】
(4)単層構造及び複合構造
図1(b)に例示するように、中間層13は、表面層12と、背面層14との間の密着性等を向上させるべく、所定樹脂等からなる単層構造とすることがより好ましい。
この理由は、このように単層構造の中間層であれば、表面層と、背面層との間に積層する工程数も少なくなり、かつ、その厚さや機械的強度等の調整も容易になるためである。
【0052】
一方、中間層は、表面層と、背面層との間の密着性等をより細かく制御して、向上させるべく、第1の中間層~第nの中間層(n番目、nは2以上の自然数)からなる複合層とすることも好ましい。
より具体的には、中間層が、複数層の場合、層数を2~10の範囲内の値とすることが好ましく、3~5の範囲内の値とすることがより好ましい。
この理由は、複合層を構成する各層における樹脂の種類や色彩、更には機械的強度やクッション性等をかえて、使用者の嗜好や所望特性に、より合致する中間層を含むストレッチ用マットとできるためである。
そして、かかる中間層が、複数層の場合も、各層の厚さにつき、所望目的等に応じて同一又は異ならせて、適宜変更できるが、通常、一層当たりの平均厚さを0.01~10mmの範囲内の値とすることが好ましく、0.1~5mmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.3~1mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0053】
4.その他
(1)導電性
図6(a)に例示するように、ストレッチ用マット100bを構成する表面層12、及び背面層14の少なくとも一層が、導電性材料12a、14aを含有することが好ましい。
又、
図6(b)に例示するように、ストレッチ用マット100cを構成する表面層12、中間層13、及び背面層14の少なくとも一層が、導電性材料12a、13a、13b、14aを全体的又は部分的に含むことが好ましい。
この理由は、このように導電性材料を含むことによって、ストレッチ用マット100b~100cが、所定の導電性を示すことができるためである。
したがって、ストレッチ用マットを製造する際、あるいは、それを使用する際の静電気発生を防止し、製造工程速度を速めたり、あるいは、ゴミ付着等を有効に防止したり、更には良好な着色性(遮光性)を発揮することができる。
特に、冬場の環境条件(低温、低湿条件)になると、ストレッチ用マットを使用する際に、静電気が容易に発生し、使用時の不快感や、ゴミ付着等が多くなりやすいものの、導電性材料を含むことにより、それらを有効に防止できるためである。
なお、ストレッチ用マットの一部に、アースをとることにより、静電気が発生した場合であっても、外部に流すことができ、更に有効に静電気防止ができる。
【0054】
又、導電性材料の種類は、特に制限されるものではないが、カーボン材料、金属メッキ樹脂材料、金属材料、金属酸化物材料、金属鉱物等を所定量配合することが好ましい。
そして、導電性材料の配合量の目安として、表面層、中間層、及び背面層の少なくとも一層の体積抵抗率を1×106~1×1013Ω・cmの範囲内に調整することが好ましく、1×107~1×1012Ω・cmの範囲内に調整することがより好ましく、1×108~1×1011Ω・cmの範囲内に調整することが更に好ましい。
【0055】
又、導電性材料の平均粒径(凝集粒子の場合には、その二次粒径を意味し、繊維状の場合には、長辺方向の長さを意味する。)を0.01~50μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる導電性材料の平均粒径が過度に小さくなると、均一に混合分散することが困難になったり、所定の導電性として、例えば、体積抵抗率を1×106~1×1013Ω・cmの範囲内に調整することが困難になったりする場合があるためである。
一方、かかる導電性材料の平均粒径が過度に大きくなると、逆に均一に混合分散することが困難になったり、表面平滑性が著しく低下したりする場合があるためである。
したがって、導電性材料の平均粒径を0.1~30μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~10μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、導電性材料の平均粒径は、その電子顕微鏡写真を画像処理して、その算術平均値として算出することもできるし、あるいは、レーザー式粒度分布計を用いて、導電性材料の粒度分布を測定し、それから算術平均値として算出することもできる。
【0056】
更に、各種導電性材料のうち、特にカーボン材料であれば、比較的安価かつ比重が軽く、その種類や配合量等を適宜調整することによって、均一分散が可能であって、かつ、表面層や後述する背面層における摩擦係数の制御にも寄与できることから好適である。
そして、かかるカーボン材料の種類として、カーボン粒子、カーボン繊維、カーボンブラック(オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等を含む。)、カーボンナノチューブ、カーボンフレーク、フラーレン(C60炭素)、カーボン蒸着品等の少なくとも一つが挙げられる。
【0057】
なお、各種導電性材料、特に、所定のカーボン材料を配合するにあたり、界面活性剤、カップリング剤、フッ素系撥水性材料、シリコーン系撥水性材料等と予め混合し、カーボン材料等を実質的に親水性あるいは疎水性に改質することが好ましい。
このように表面改質されたカーボン粒子等の導電性材料であれば、表面層、中間層、及び背面層を構成する樹脂等に、比較的均一に、かつ短時間で配合することができるためである。
その他、カーボン粒子等の導電性材料であれば、その種類や配合量等を適宜調整することによって、表面層や背面層における摩擦係数(CF1、CF2)の制御にも寄与することができる。
【0058】
(2)着色剤
又、ストレッチ用マットを構成する表面層、及び背面層の少なくとも一層、あるいは、ストレッチ用マットを構成する表面層、中間層、及び背面層の少なくとも一層に、着色剤(上述したカーボン材料以外)を含有させることが好ましい。
この理由は、このよう着色剤を含むことにより、ストレッチ用マットを製造する際、あるいは、使用する際の表裏を明確にし、製造工程速度を速めたり、あるいは、ゴミ付着等を有効に視認したり、検査したりすることができるためである。
又、所定の着色剤であれば、その種類や配合量等を適宜調整することによって、表面層や背面層における摩擦係数の制御にも寄与することができる。
その上、雲母(マイカ)等の着色剤であれば、外部の光を反射して、きらきら光るため、更に、夜間照明下での装飾性を向上させることもできる。
【0059】
(3)折り畳み構造
又、
図7(a)~(d)に例示されるように、ストレッチ用マットを複数枚の個別マット及びその接合部からなる折り畳み構造とすることが好ましい。
このように折り畳み構造とすることによって、使用用途としての取り扱い性が幅広くなるとともに、携帯性が向上し、又、保管時の省スペース化にも寄与するためである。
したがって、ストレッチ用マットの長さや大きさにもよるが、通常、2~14枚の個別マットからなる折り畳み構造とすることが好ましく、3~10枚の個別マットからなる折り畳み構造とすることが好ましく、4~8枚の個別マットからなる折り畳み構造とすることが更に好ましい。
【0060】
すなわち、折り畳み構造とするための一枚当たりの個別マットの大きさを、通常、横方向(折り畳み方向に沿った、短手方向)の長さを50~90mmの範囲内とし、かつ、縦方向(折り畳み方向に沿った、長手方向)の長さを12~30mmの範囲内とすることが好ましい。
又、より好ましくは、横方向の長さを55~80mmの範囲内とし、かつ、縦方向の長さを13~25mmの範囲内とすることであり、更に好ましくは、横方向の長さを60~75mmの範囲内とし、かつ、縦方向の長さを15~22mmの範囲内とすることである。
なお、折り畳み構造として、縦方向の長さを、段階的に変えることが好ましい。具体的には、個別マットの横方向の長さを3~30mmずつ小さくしていくことも好ましい。
このように段階的に小さくすることで、折り畳んだ際に三角柱状になり、使用用途としての取り扱い性が更に幅広くなるためである。
したがって、個別マットの横方向の長さを5~25mmずつ小さくしていくことがより好ましく、10~20mmずつ小さくしていくことが更に好ましい。
【0061】
そして、折り畳み構造として、容易に多段に折りたためるように、接合部として、背面層に折り畳みのための凹状の溝(単に、折り目と称する場合がある。)を、長手方向のみ、あるいは長手方向及び短手方向の両方に設け、かつ、当該溝の深さを、背面層の厚さの1/2~1/4とすることが好ましい。
そして、かかる折り畳み構造の溝に沿って、表面層としてのポリウレタン弾性糸に由来した繊維は容易に追随するため、ストレッチ用マットの取り扱い性や使用性が低下するおそれが少なくなる。
より具体的には、折り畳みのための凹状の溝の深さを0.5~4mmの範囲内の値とすることが好ましく、1~3mmの範囲内の値とすることがより好ましく、1.5~2mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
又、折り畳みのための凹状の溝の幅を0.5~20mmの範囲内の値とすることが好ましく、2~18mmの範囲内の値とすることがより好ましく、3~10mmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0062】
[第2実施形態]
第2の実施形態は、少なくともポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層とを有するストレッチ用マットの製造方法であって、下記工程(1)及び(2)を含むことを特徴とするストレッチ用マットの製造方法である。
(1)ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を対向配置する工程(以下、第1工程と称する場合がある。)
(2)ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を熱圧着し、表面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数が0.5以下の値のストレッチ用マットとする工程(以下、第2工程と称する場合がある。)
以下、本発明のストレッチ用マットの製造方法に関する実施形態につき、適宜図面を参照しながら具体的に説明する。
【0063】
1.第1工程
第1工程は、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を対向配置させる工程である。
すなわち、シート状のポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層とを、積層する順に、対向させて位置合わせする工程である。
【0064】
典型的には、熱ラミネータ装置等の所定場所に、所定幅(例えば、330~1000mm)のシート状で、かつ、所定長さ(例えば、100~2000m)のロール状のポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層を配置する工程である。
又、それに合わせて、熱ラミネータ装置等の所定場所に、背面層となる、所定幅(例えば、300~1000mm)のシート状で、かつ、所定長さ(例えば、100~2000m)のロール状の熱可塑性エラストマーを配置する工程である。
【0065】
但し、表面層を構成する繊維が、背面層の熱可塑性エラストマーに由来したシートに比べて、比較的薄く、かつ伸長しやすく、その上、背面層の両エッジもカバーできるため、表面層となるロール幅を、背面層のロール幅よりも、1~20%程度広くしておくことが好ましく、5~15%程度広くしておくことがより好ましい。
なお、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層や、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層についての詳細は、第1の実施形態で述べたのと同様とすることが好ましく、再度の説明は省略する。
【0066】
2.第2工程
第2工程は、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層と、を熱圧着し、表面層のJIS K 7125に準拠して測定される静摩擦係数が0.5以下であるストレッチ用マット(長尺状)とする工程である。
ここで、少なくとも表面層と、背面層と、を積層する際に、表面樹脂製の押圧ロールや、エンボスロールを用いることが好ましい。
この理由は、このようなロールを用いることによって、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層が、200~300℃の比較的低温であっても、容易に伸長し、かつ、背面層に対して、接着することができるためである。
又、第2工程における熱圧着条件としては、ポリウレタン弾性糸の太さやウレタン種に応じて、適宜変更することができるが、典型的には、温度180~280℃、圧力50~300KPa、時間3~60秒の範囲内の値とすることが好ましく、温度190~260℃、圧力60~250KPa、時間4~30秒の範囲内の値とすることがより好ましい。
そして、長尺状のストレッチ用マットを、所定長さ及び幅の個別マットからなる折り畳み構造とするために、長尺状の所定箇所に、折り目(接合部)として、例えば、押圧ロール、エンボスロール、超音波カッター等を用い、背面層に折り畳みのための凹状の溝を、長手方向のみ、あるいは長手方向及び短手方向の両方に設けることが好ましい。
【0067】
3.縁部
又、第2工程で得られたストレッチ用マットの積層状態を更に強固にしたり、あるいは、平坦な縁部を形成したりするために、エンボスロールやプレス機、あるいはコテ等を用いて、
図6(c)に示すように、ストレッチ用マット100dの周辺(
図6(c)中、b領域)を押圧熱処理し、縁部18を形成する工程を含むことが好ましい。
この理由は、このような押圧熱処理によって、ストレッチ用マットの周辺に全面的あるいは部分的に平坦な縁部を設けることができ、ひいては、当該ストレッチ用マットの更なる固定安定性が得られやすいためである。
なお、縁部の幅については、ストレッチ用マットの大きさ等を考慮して定めることができるが、通常、0.5~5cmの範囲内の値とすることが好ましく、1~3cmの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0068】
4.使用法
得られたストレッチ用マットの使用法としては、
図8(a)~(d)に例示するように、使用者110の意図や、使いやすさや運動強度等を考慮し、少なくとも20種以上のストッレチ動作をするのに使用できる。また、ストレッチ動作を行った場合のストレッチ方向として矢印Aを示す。
例えば、
図8(a)に示すように、折り畳み構造を有するストレッチ用マット100を全体的に開き、フロアマットとして十分な広さを確保するとともに、その上で、開脚動作をして、腿の筋肉や、背中を伸ばすことで、所定ストレッチ効果を得ることができる。
又、
図8(b)に示すように、折り畳み構造を有するストレッチ用マット100を片側のみ部分的に開くとともに、非開部に座って、尻の位置の高さを高くした状態で、前後方向のストレッチ動作をすることにより、腿の筋肉や、背中に対する負荷を上げることができる。
又、
図8(c)に示すように、折り畳み構造を有するストレッチ用マット100の両端側を、それぞれ部分的に開くとともに、両方の非開部を跨ぐように両足を伸ばして座り、尻の位置の高さを低くした状態で、前後方向のストレッチ動作をすることにより、腿の筋肉や、背中に対する負荷を上げることもできる。
更に又、
図8(d)に示すように、例えば、部屋の壁等の垂直物に対して、ストレッチ用マット100を折り畳んだ状態で当接させ、その上に片足、又は両方の足を載せて、踏み込むことで、ヒラメ筋、腓腹筋、アキレス筋につき、ストレッチ動作を行い、強化することができる。
【0069】
又、例えば、
図9(a)に示すように、折り畳み構造を有するストレッチ用マット100を片側のみ部分的に開くとともに、非開部に膝が載るように座って、前後方向のストレッチ動作をすることにより、前脛骨筋に対するストレッチ補助をすることができる。
又、
図9(b)に示すように、ストレッチ用マット100を折り畳んだ状態の上に、上向きに寝ることによって、自己の体重を併用して、肩甲骨、三角筋の後方への可動範囲を広げる、上半身のストレッチ動作をすることもできる。
又、
図9(c)に示すように、ストレッチ用マット100を折り畳んだ状態の上に、片腕を乗せて、それを下方に押圧することにより、三角筋や上腕筋のストレッチ動作をすることもできる。
更に、
図9(d)に示すように、ストレッチ用マット100を一部折り畳んだ状態の上に、上向きに寝て、下方に押圧することにより、胸椎のストレッチ動作をすることもできる。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
1.ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層の準備
長尺状(ロール状)の表面層の原反として、カーボン粒子(カーボンブラック、平均粒径:0.1μm)を0.5重量%含むポリウレタン弾性糸に由来した長尺状繊維(厚さ2mm、長さ100m、幅75cm、平織り、タイプA1)を準備した。
【0071】
2.熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層の準備
一方、酸化防止剤及びカーボンブラック(平均粒径:0.5μm、配合量1重量%)をそれぞれ含む熱可塑性エラストマー樹脂(SBS系熱可塑性エラストマー樹脂/表1中、タイプB1)を、溶融押出装置に投入し、250℃、100kPaの条件で押出し成形し、所定形態の背面層の原反(厚さ8mm、長さ100m、幅65cm)を準備した。
次いで、所定形態の背面層の原反の片側のみに、エンボス処理を行い、所定凹凸模様(直径10mmの円形模様、隣接円距離が15mm)を有する長尺状(ロール状)の背面層とした。
【0072】
3.ストレッチ用マットの作成
次いで、熱エンボスロールを用い、ポリウレタン弾性糸に由来した繊維を含む表面層と、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層とが対向するように、位置合わせし、中間層として、アクリル樹脂層を介して、ラミネータの巻き出し位置(第1の巻き出し位置及び第2の巻き出し位置)にそれぞれ裁置した。
次いで、上下2種類のエンボスロール(#200、#300、)を用い、250℃、100kPa、5秒の加熱条件で熱圧着し、表面層と、背面層とを熱圧着し、所定大きさのストレッチ用マットとした。
なお、背面層において、積層された表面層とは反対側に、折り目をつけるとともに、所定凹凸模様を同時にエンボスするとともに、所定長さに切断し、12枚の個別マット(幅約61cm、長さ約15cm)及びその間の接続部からなる、長さ約182cm、幅約61cm、厚さ約8mmの折り畳み構造を有するストレッチ用マットとした。
【0073】
4.ストレッチ用マットの評価
(1)表面層の静摩擦係数の評価(評価1)
JIS K 7125に準拠して、20℃、50%RHの条件下、表面層の静摩擦係数(CF1)を測定し、下記基準に沿って、評価した。
◎:0.3以下である。
〇:0.5以下である。
△:1以下である。
×:1超である。
【0074】
(2)背面層の静摩擦係数の評価(評価2)
JIS K 7125に準拠して、20℃、50%RHの条件下、背面層の静摩擦係数(CF2)を測定し、下記基準に沿って、評価した。
◎:3以上である。
〇:1以上である。
△:0.5以上である。
×:0.5未満である。
【0075】
(3)背面層の静摩擦係数/表面層の静摩擦係数の評価(評価3)
評価1及び2で得られた表面層の静摩擦係数(CF1)及び背面層の静摩擦係数(CF2)から、その比率(CF2/CF1)を算出し、下記基準に沿って、評価した。
◎:比率が8以上である。
〇:比率が3以上である。
△:比率が1以上である。
×:比率が1未満である。
【0076】
(4)ストレッチ用マットによるストレッチ性(評価4)
フローリング床の上に、得られたストレッチ用マットをフロアマットのように広げて載置し、その上で、試験者10人が、23℃、50%RHの条件下、各自の両足のゆっくりとした前後開閉動作を、それぞれ10分間繰り返し、ストレッチ用マットによるストレッチ性を下記基準に沿って、評価した。
◎:8人~10人が、筋肉が十分ほぐれ、良好なストレッチ効果が得られたと感じた。
〇:6人~7人が、筋肉が十分ほぐれ、良好なストレッチ効果が得られたと感じた。
△:3人~5人が、筋肉が十分ほぐれ、良好なストレッチ効果が得られたと感じた。
×:0~2人が、筋肉が十分ほぐれ、良好なストレッチ効果が得られたと感じた。
【0077】
(5)ストレッチ用マットの固定安定性(評価5)
フローリング床の上に、得られたストレッチ用マットをフロアマットのように広げて載置し、その上で、試験者10人が、23℃、50%RHの条件下、各自の両足のゆっくりとした前後開閉動作を、それぞれ10分間繰り返した後、ストレッチ用マットが、初期位置からずれずに済む固定安定性を下記基準に沿って、評価した。
◎:8人~10人が、安定的にストレッチ動作ができると感じた。
〇:6人~7人が、安定的にストレッチ動作ができると感じた。
△:3人~5人が、安定的にストレッチ動作ができると感じた。
×:0~2人が、安定的にストレッチ動作ができると感じた。
【0078】
(6)ストレッチ用マットの帯電防止性(評価6)
フローリング床の上に、得られたストレッチ用マットにアースを電気接続した後、フロアマットのように広げて載置し、その上で、試験者10人が、冬場の使用環境を想定し、15℃、25%RHの条件下、各自の両足のゆっくりとした前後開閉動作を、それぞれ5分間繰り返した後、静電気の発生具合から帯電防止性を下記基準に沿って、評価した。
◎:8人~10人が、静電気の発生が無いと感じた。
〇:6人~7人が、静電気の発生が無いと感じた。
△:3人~5人が、静電気の発生が無いと感じた。
×:0~2人が、静電気の発生が無いと感じた。
【0079】
(7)ストレッチ用マットの清潔性(評価7)
フローリング床の上に、得られたストレッチ用マットをフロアマットのように広げて載置し、その上で、試験者10人が、夏場の使用環境を想定し、35℃、80%RHの条件下、各自の両足のゆっくりとした前後開閉動作を、それぞれ30分間繰り返した。
その後、ストレッチ用マットに付着した発汗を、綿布を用いて容易に拭取れるか否かで、清潔性を下記基準に沿って、評価した。
◎:8人~10人が、綿布で発汗を容易に拭取れ、清潔感があると感じた。
〇:6人~7人が、綿布で発汗を容易に拭取れ、清潔感があると感じた。
△:3人~5人が、綿布で発汗を容易に拭取れ、清潔感があると感じた。
×:0~2人が、綿布で発汗を容易に拭取れ、清潔感があると感じた。
【0080】
(8)ストレッチ用マットの摩耗耐久性(評価8)
JIS L 1096に準拠して、スコット形摩擦試験機No.363(株式会社東洋精機製作所製)を用い、押圧荷重20N、摩擦距離10mm、摩擦速度120回/分の条件で、得られたストレッチ用マットにつき、摩耗耐久性試験を行った。
すなわち、ストレッチ用マットの外観変化を観察し、下記基準に沿って、摩擦耐久性を評価した。
◎:5000回以上の摩擦試験において、表面層の剥がれを含む外観変化が認められなかった。
〇:1000回以上の摩擦試験において、表面層の剥がれを含む外観変化が認められなかった。
△:300回以上の摩擦試験において、表面層の剥がれを含む外観変化が認められなかった。
×:300回未満の摩擦試験において、表面層の剥がれを含む外観変化が認められた。
【0081】
[実施例2~4]
実施例2~4において、中間層として、アクリル樹脂層を省略し、かつ、表面層として、ポリウレタン弾性糸(タイプA2~A4)に添加したカーボン粒子の配合量を、それぞれ0重量%、1重量%、4重量%(伸長率:3倍、2倍、1.5倍)と変更した。
又、背面層に添加したカーボン粒子の配合量を、それぞれ0重量%、1重量%、4重量%とし、その上、実施例2のみにおいて、背面層の厚さを20mmとしたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0082】
[実施例5~6]
実施例5~6において、それぞれ表面層(タイプA1)の厚さを1mm及び5mmとし、かつ、背面層を構成する熱可塑性エラストマーとして、カーボン材料を1重量%の範囲で含むウレタン系熱可塑性エラストマー樹脂(タイプB2)とした。
そして、実施例5では、背面層の厚さを40mmとし、実施例6では、背面層の厚さを30mmとしたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0083】
[実施例7~8]
実施例7~8において、それぞれ表面層(タイプA1)の厚さを3mmとし、かつ、背面層の熱可塑性エラストマー樹脂として、SEBS系熱可塑性エラストマー樹脂(タイプB3)を用いた。
そして、実施例7では、背面層の厚さを15mmとし、実施例8では、背面層の厚さを50mmとしたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0084】
[比較例1]
比較例1において、表面層に、ポリウレタン繊維(表面層の静摩擦係数:0.7、伸長率:3倍、タイプA5)を用い、かつ、背面層に、カーボン材料を1重量%の範囲で含むオレフィン系樹脂(タイプB4)を用いたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0085】
[比較例2]
比較例2において、表面層に、ポリウレタン弾性糸(表面層の静摩擦係数:1.0、伸長率:5倍、タイプA6)を用い、かつ、背面層に、カーボン材料を1重量%の範囲で含むオレフィン系樹脂(タイプB4)を用いたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0086】
[比較例3]
比較例3において、表面層の形成に、発泡ポリウレタン樹脂からなる背面層(表面層の静摩擦係数:1.4、伸長率:2倍、タイプA7)を用いたほかは、実施例1と同様に、ストレッチ用マットを作成し、評価した。
【0087】
【0088】
【表2】
*評価1:CF1
*評価2:CF2
*評価3:CF2/CF1
*評価4:ストレッチ性
*評価5:固定安定性
*評価6:帯電防止性
*評価7:清潔性
*評価8:摩擦耐久性
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上の説明のとおり、本発明のストレッチ用マット、特に、所定の折り畳み構造を有するストレッチ用マットによれば、個別マットを部分的に開いたり、閉じたりして、極めて多くのストレッチ動作ができるようになった。
その上、本発明のストレッチ用マット等であれば、以下のような、幅広い産業上の利用可能性や予期せぬ効果を発揮することができるようになった。
よって、本発明のストレッチ用マットによれば、その製造方法の技術分野を含み、広範囲において、有効な産業上の利用可能性が期待される。
【0090】
1)本発明のストレッチ用マットによれば、強固に接着された所定の表面層と、背面層とを備えることにより、表面滑り性や耐久性等に優れるとともに、床等に敷いた場合に、優れた固定安定性やストレッチ性等を発揮することができるようになった。
2)又、夏場の使用環境(例えば、35℃、80%RH)であっても、表面滑り性に優れるとともに、使用者の発汗を容易に拭取ることができ、良好な清潔感も得られるようになった。
3)又、冬場の使用環境(例えば、15℃、20%RH)であっても、表面滑り性に優れるとともに、優れた帯電防止性等を発揮し、良好な使用感を得ることができるようになった。
4)又、ストレッチ用マットを袋状物等に挿入し、保管する場合であっても、表面層が滑ることから、従来のエクササイズマット(ヨガマット等)と比較して、出し入れが極めて容易になった。
5)又、表面層が、ポリウレタン弾性糸を含んでいることから、単なるウレタン樹脂と比較して、耐熱性や機械的強度が向上したため、ストレッチ用マットの表面に対して、ロゴや装飾シート等を、アイロンや熱コテ等を利用して、熱圧着することができるようになった。
【0091】
6)一方、折り畳み構造を有するストレッチ用マットによれば、床等のごみやほこりが、熱可塑性エラストマー樹脂に由来した背面層に付着した場合であっても、折り畳んだとしても、隣接する個別マットの表面層同士が接触することから、表面層に転着されることが極めて少なく、表面層における清潔感等が維持されるようになった。
7)折り畳み構造を有するストレッチ用マットによれば、複数個を積層したとしても、ほぼ長方体の塊として取り扱えることから、従来のロール状のエクササイズマットと比較して、保管性や運搬性が、飛躍的に向上するようになった。
8)更に、本発明のストレッチ用マットの製造方法によれば、表面滑り性に優れるとともに、床等に敷いた場合に、優れた固定安定性、ストレッチ性、耐久性等を発揮するストレッチ用マットが効率的かつ経済的に得られるようになった。
【符号の説明】
【0092】
10、10´、10´´:ポリウレタン弾性糸
12:表面層
13:中間層
13a:カーボン繊維
13b:カーボン粒子
14:背面層
100,100a~c:ストレッチ用マット
110:使用者
A:ストレッチ方向