(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
A47J 27/00 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
A47J27/00 109B
(21)【出願番号】P 2022132692
(22)【出願日】2022-08-23
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】500201602
【氏名又は名称】シロカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一威
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-235689(JP,A)
【文献】特開2015-000159(JP,A)
【文献】特開2013-039328(JP,A)
【文献】特開2022-105384(JP,A)
【文献】特開2014-200453(JP,A)
【文献】特開2012-183423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00-27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理対象物を加熱調理する加熱調理器であって、
前記調理対象物を収容する内鍋と、
前記内鍋の開口部を閉鎖する蓋部と、
前記開口部が前記蓋部によって閉鎖された状態で前記内鍋を加熱する加熱部と、
ユーザ操作により、低温調理モードと、圧力調理モードと、前記低温調理モードおよび前記圧力調理モードを組み合わせた組み合わせ調理モードとのうちのいずれかを選択する選択部と、
前記選択部により選択されたモードに応じた、目標温度の時系列推移を規定する温度プロファイルに従い、前記加熱部の駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記組み合わせ調理モードに対応する温度プロファイルは、
低温調理を行うために予め設定された第1温度に上昇させて該第1温度を維持する第1区間と、
前記第1区間の後、圧力調理を行うために予め設定された、前記第1温度より高い第2温度に上昇させて該第2温度を維持する第2区間と、
を含み、
前記加熱調理器は、ユーザ操作により前記第1温度と前記第1区間の時間長とを設定する設定部を更に有し、
前記設定部により設定可能な前記第1区間の時間長の上限は、前記低温調理モードのために設定可能な調理時間の上限より短い時間である、
ことを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
前記第1温度は40℃~75℃の範囲内の温度であり、前記第2温度は100℃以上の温度である、ことを特徴とする請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記温度プロファイルは、
前記第2区間の後、保温温度として予め設定された第3温度に低下させる第3区間と、
前記第3区間の後、前記第3温度を維持する第4区間と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記蓋部は、該蓋部の内外を連通する排気通路を開閉する調整弁を含み、
前記制御部は、前記第3区間において前記内鍋内が減圧されるように前記調整弁を制御する、
ことを特徴とする請求項3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記内鍋内の圧力を検知する圧力検知部を更に有し、
前記制御部は、前記第2区間においては、前記圧力検知部により検知される圧力が目標値の上下1kPaの範囲内で推移するように前記加熱部の駆動を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気圧力鍋のような加熱調理器が提供されている(特許文献1)。圧力鍋は、鍋内を高圧にすることで鍋内の水の沸点を100℃以上にし、高温調理を可能にするものであり、時短料理や煮崩れ防止に役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の圧力鍋では、100℃以上1気圧以上の高温高圧で調理を行うため、食材(特に魚介類)が熱によって変成し硬くなる傾向があった。
【0005】
本発明は、とりわけ調理後の食材の柔らかさの維持の点において良好な仕上がり性能を得ることができる加熱調理器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、調理対象物を加熱調理する加熱調理器であって、前記調理対象物を収容する内鍋と、前記内鍋の開口部を閉鎖する蓋部と、前記開口部が前記蓋部によって閉鎖された状態で前記内鍋を加熱する加熱部と、ユーザ操作により、低温調理モードと、圧力調理モードと、前記低温調理モードおよび前記圧力調理モードを組み合わせた組み合わせ調理モードとのうちのいずれかを選択する選択部と、前記選択部により選択されたモードに応じた、目標温度の時系列推移を規定する温度プロファイルに従い、前記加熱部の駆動を制御する制御部と、を備え、前記組み合わせ調理モードに対応する温度プロファイルは、低温調理を行うために予め設定された第1温度に上昇させて該第1温度を維持する第1区間と、前記第1区間の後、圧力調理を行うために予め設定された、前記第1温度より高い第2温度に上昇させて該第2温度を維持する第2区間と、を含む、ことを特徴とする加熱調理器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、とりわけ調理後の食材の柔らかさの維持の点において良好な仕上がり性能を得ることができる加熱調理器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】加熱調理器のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図4】組み合わせ調理モードにおける調理制御の一例を示すフローチャート。
【
図5】組み合わせ調理モードにおける調理制御に係る例示的なタイミングチャート。
【
図7】調理品質試験(鉄の溶出量)の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
本発明の一実施形態に係る加熱調理器100について説明する。
図1は、本実施形態の加熱調理器100全体の外観構成の一例を示す斜視図である。
図1は、本体部1から蓋部2を取り外した状態を示している。また、ここではX軸方向を加熱調理器100の左右方向、Y軸方向を加熱調理器100の前後方向、Z軸方向を加熱調理器100の上下方向としている。以下の説明において「X軸方向」と記載している場合、それは+X方向および-X方向を含むものとして定義されうる。「Y軸方向」および「Z軸方向」についても同様である。
【0011】
加熱調理器100は、調理対象物を加熱調理する機器である。加熱調理器100は、一例において、供給された電気によって鍋を加熱し100℃以上1気圧以上の高温高圧で調理を行うことが可能な電気圧力鍋でありうる。加熱調理器100は、種々の加熱プログラムに従って内鍋3の加熱制御を行う本体部1と、内鍋3の開口部を閉鎖(密閉)する蓋部2とを備える。蓋部2は、本体部1の上部に着脱可能(取り外し可能)に取り付けられる。加熱調理器100は、調理対象物としての食材が入れられ蓋部2により密閉された内鍋3に対して加熱を行う加熱制御を行うことで、内鍋3内の食材を調理可能に構成されている。本実施形態の加熱調理器100は、本体部1から蓋部2を完全に取り外すことができるように、即ち、本体部1と蓋部2とを互いに分離できるように構成されている。
【0012】
本体部1は、内鍋3を収容可能な収容部10と、収容部10に収容された内鍋3を加熱する、
図1には不図示の加熱部(ヒータ)と制御部とを含みうる。収容部10は、上側が開放された有底円筒の形状を有し、本体部1から蓋部2が取り外された状態で、上側開放部から内鍋3を出し入れ自在に構成されている。収容部10は、外鍋とも呼ばれ、例えば金属などによって形成されうる。
【0013】
加熱部は、例えば、収容部10に収容された内鍋3を誘導加熱するための誘導加熱コイルを有していてもよい。また、制御部は、例えばCPUなどのプロセッサおよびメモリを有し、内鍋3内の食材を調理するための所定の加熱プログラムに従って加熱部(誘導加熱コイル)への給電(加熱部の駆動)を制御することにより、内鍋3の加熱処理(食材の調理)を制御することができる。
【0014】
また、本体部1の外面には、ユーザによる操作を受け付ける操作部13が設けられる。操作部13は、内鍋3の加熱処理の内容(即ち、内鍋3に入れられた食材の調理内容)を設定・調整するためにユーザによって操作されるユーザインタフェースであり、例えばボタンやダイヤル、ディスプレイなどによって構成されうる。
【0015】
蓋部2は、本体部1の上部に取り付けられ、本体部1の収容部10に対して開閉される。蓋部2は、本体部1の上部に装着される、配置される、或いは、設置されると理解されてもよい。本実施形態の場合、蓋部2は、ハンドル部15および排気機構20の他、不図示の内蓋を備える。内蓋は、蓋部2が本体部1の上部に取り付けられたときに収容部10(内鍋3)の上側開口部を覆い、収容部10(内鍋3)を閉空間にするように構成され、収容部10に固定されうる。
【0016】
ハンドル部15は、蓋部2の開閉動作を行うためにユーザが把持する部分であり、左右方向(X軸方向)に延設するように蓋部2の上面に設けられうる。蓋部2は、内鍋3の内部から機外(外部)へ気体(蒸気)を排出するための排気機構20を備える。排気機構20は、蓋部2の内外を連通する排気通路である排気孔20aと、排気孔20aを開閉する排気弁(調整弁)24とを含みうる。例えば、排気機構20は、内鍋3内の食材の調理(内鍋3の加熱処理)が終了した場合に、制御部の制御により排気弁24を開き、蓋部2の上面に設けられた排気孔20aから内鍋3の内部の気体を排出するように構成されうる。これにより、内鍋3の内部圧力(単に「圧力」とも言う。)を低減させ、大気圧(機外の圧力)に近づけることができる。ここで、排気機構20は、蓋部2の上面に設けられた排気ボタン16がユーザによって押下された場合に、機械的に排気弁24を開き、内鍋3の内部から機外へ気体を排出(強制排気)するように構成されてもよい。また、排気機構20は、ソレノイド等の駆動部を駆動させて排気弁24を動作させることにより自動排気を行うように構成されていてもよい。当該駆動部は、内鍋3の内部から機外へ気体(蒸気)を排出するために、蓋部2内に配置された排気弁24を駆動して排気孔20aを開く(開放する)ように動作する。
【0017】
蓋部2は、固定機構30を更に有し、本体部1の収容部10の内部を閉空間に維持するように収容部10に対して蓋部2の内蓋を固定することができる。固定機構30における固定状態は、ロック機構40によりロックされる。ロック機構40は、固定機構30のレバーがユーザ操作によって移動されることを制限するための制限機構として機能しうる。
【0018】
次に、
図2を参照して、加熱調理器100のハードウェア構成の一例について説明する。加熱調理器100は、制御部201、加熱部202、圧力検知部203、温度検知部204、タイマー205、表示部206、排気弁駆動部207、操作部13を含みうる。
【0019】
制御部201は、加熱調理器100全体の動作を制御する。制御部201は、例えばCPUなどのプロセッサとメモリから構成されてもよいし、マイクロコントローラ或いはMCU(Micro Controller Unit)として構成されてもよい。制御部201は、加熱調理器100の電源が投入されると、ユーザから調理方法の設定を操作部13を介して受け付け、受け付けた調理方法に従って調理を開始する。調理方法の設定は、例えば、プリセットメニューからいずれかのプリセットを選択するか、或いは、圧力値、温度、時間などをマニュアルで設定することにより行うことができる。制御部201は、設定された内容に応じたシーケンスで加熱部202及び排気弁駆動部207等の動作を制御して調理を実行する。
【0020】
加熱部(ヒータ)202は、誘導加熱コイルを含みうる。制御部201は、加熱部202の駆動を制御して内鍋3の加熱処理を行う。圧力検知部203は、内鍋3内の内部圧力を検知する。検知された圧力値は制御部201に伝えられる。制御部201は、圧力検知部203から伝送された圧力値に応じて加熱部202の駆動を制御する。圧力検知部203は、例えば、内鍋3内の内部圧力を検知するための圧力センサを含みうる。圧力センサは、例えば内鍋3の底部に配置される。なお、温度から演算によって圧力が求められてもよい。例えば、蓋部2側に温度センサを設置し、制御部201が温度センサから出力された温度から圧力値を算出してもよい。温度検知部204は、内鍋3内の温度を検知する。検知された温度は、制御部201に伝送される。温度検知部204は、例えば内鍋3の温度を検知するためのサーミスタで構成された温度センサを含みうる。温度センサは、内鍋3の底部、側面に接触するよう配置されてもよいし、蓋部2側に配置されていてもよい。制御部201は、温度検知部204から伝送された温度値に応じて加熱部202の駆動を制御する。
【0021】
タイマー205は、例えば予約調理処理を実行する際に、処理の経過時間等を計測する計時手段である。制御部201はタイマー205を制御して経過時間を測定することができる。表示部206は、LEDやLCDなどで構成され、制御部201の制御に従い、調理経過時間、温度、圧力、メニュー番号、調理種別などの各種情報を提供する。排気弁駆動部207は、ソレノイドや歯車等を用いた動力伝達機構等を含みうる。排気弁駆動部207は制御部201により駆動され、排気弁24を動作させることにより、内鍋3内の気体を機外に排出して内鍋3内の圧力を下げることができる。操作部13は、ユーザからの操作入力を受け付けるための部材を含む。操作部13は、タッチパネルとして表示部206と一体化されているものを含みうる。操作部13は、タッチパネルの他、ボタン、スイッチなど、各種の機械式の操作部材を含むことができる。
【0022】
加熱調理器100は、100℃以上1気圧以上の高温高圧で調理を行う圧力調理モードと、100℃未満1気圧未満の低温常圧で調理を行う低温調理モードとを有する。圧力調理モードでは、ユーザによって指定された圧力値(例えば、50kPa~95kPaの範囲内の値)、ユーザによって指定された時間(例えば、1分~1時間の範囲内の値)で圧力調理が行われうる。低温調理モードでは、ユーザによって指定された温度(例えば、40℃~75℃の範囲内の値)、ユーザによって指定された時間(例えば、5分~12時間)で低温調理が行われうる。加熱調理器100は、低温調理と圧力調理とを組み合わせた組み合わせ調理モードを更に有する。組み合わせ調理モードでは、ユーザによって指定された時間で低温調理が行われ、その後、ユーザによって指定された圧力値、ユーザによって指定された時間で圧力調理が行われうる。
【0023】
図3には、操作部13の外観構成例が示されている。
図3の例においては、操作部13は表示部206を含む。表示部206は、操作部13内の各キーを介したユーザ操作に応じた設定内容、加熱調理器100の状態等を表示しうる。表示部206には、選択肢として圧力調理モード32、低温調理モード33、組み合わせ調理(コンビ調理)モード34が表示されており、ユーザは、選択キー31を用いて所望する調理モードを指定することができる。
図3では、圧力調理モード32が指定された状態が示されている。圧力調理モード32が指定されている場合、ユーザは、選択キー31を用いて、例えば50kPa~100kPaの範囲内において所望する圧力値を指定することができ、また、例えば1分~1時間の範囲内において所望する調理時間を指定することができる。指定された圧力値は表示領域35に表示され、指定された調理時間は表示領域36に表示される。低温調理モード33が指定されている場合、ユーザは、選択キー31を用いて、例えば40℃~75℃の範囲内において所望する温度を指定することができ、また、例えば1分~24時間の範囲内において所望する調理時間を指定することができる。指定された温度は表示領域35に表示され、指定された調理時間は表示領域36に表示される。組み合わせ調理モード34が指定されている場合、ユーザは、選択キー31を用いて、例えば40℃~75℃の範囲内において所望する低温調理の温度を指定することができ、例えば1分~12時間の範囲内において所望する低温調理の調理時間を指定することができ、例えば50kPa~100kPaの範囲内において所望する圧力調理の圧力値を指定することができ、また、例えば1分~1時間の範囲内において所望する圧力調理の調理時間を指定することができる。
【0024】
決定キー37は操作を確定するためのキー、取消キー38は操作の取消または調理の中止を指示するためのキー、スタートキー39は調理の開始を指示するためのキーである。なお、上記したように、操作部13は、表示部206に重ねて構成されるタッチパネルによって構成されてもよい。また、操作部13には、その他のキー、ダイヤル等が更に配置されていてもよい。
【0025】
以下では、組み合わせ調理モードにおける調理制御について詳しく説明する。この調理制御のプログラムは、例えば制御部201が有するメモリに格納されており、制御部201(のプロセッサ)によって実行される。ユーザ操作により組み合わせ調理モードが選択されスタートキー39が押されたことに応じて、そのプログラムの実行が開始される。制御部201は、選択された調理モード(ここでは、組み合わせ調理モード)に応じた、目標温度の時系列推移を規定する温度プロファイルに従い、加熱部202の駆動を制御する。そのような温度プロファイルの例が、
図5(b)に示されている。
図5(b)に示された温度プロファイルは、低温調理を行うために予め設定された第1温度T1に上昇させて第1温度T1を維持する第1区間と、第1区間の後、圧力調理を行うために予め設定された、第1温度T1より高い第2温度T2に上昇させて第2温度T2を維持する第2区間とを含んでいる。
【0026】
制御部201は、この温度プロファイルを実現するように制御を行う。そのような制御は、
図4に示されたフローチャートによって具現化される。また、
図5(a)には、内鍋3内の圧力の時系列推移を表す圧力プロファイルが示されている。
図5(c)には、加熱部202の駆動(ヒータON/OFF)のタイミングチャートが示されている。また、
図5(d)には、排気弁24の開閉のタイミングチャートが示されている。
【0027】
調理対象物である食材が全て内鍋3内に収容され、ユーザ操作により組み合わせ調理モードが選択されスタートキー39が押されると、制御部201は、温度プロファイルの第1区間に対応する低温調理工程を開始する。低温調理工程は、加熱工程S401および維持工程S402からなる。加熱工程S401では、加熱部202を継続的に駆動して内鍋3内の温度を、
図5(b)に示すように第1温度T1に上昇させる。加熱工程S401では、
図5(c)に示すように、ヒータON時間を長く確保(デューティ比を高く)して、温度を室温から短時間で高温まで上昇させる。上記したように、第1温度T1は低温調理を行うための温度であり、例えば40℃~75℃の範囲内においてユーザにより指定されうる温度である。維持工程S402では、制御部201は、加熱工程S401で到達した第1温度T1が維持されるように加熱部202を間欠的に駆動する(
図5(c)参照)。制御部201は、温度検知部204で検知される温度に基づいて加熱部202に供給する駆動パルスを調整することにより第1温度T1を維持することができる。
【0028】
低温調理工程の時間(すなわち第1区間)の長さは、ユーザ操作により設定されうる。操作部13は、ユーザ操作により第1温度T1と第1区間の時間長とを設定する設定部として機能しうる。設定可能な第1区間の時間長の上限は、低温調理モードのために設定可能な調理時間の上限より短い時間である。上記したように、低温調理モードの調理時間の指定可能範囲は、例えば1分~24時間である。これに対し、組み合わせ調理モードにおける低温調理工程の時間の指定可能範囲は、例えば1分~12時間である。
【0029】
低温調理工程が終了すると、制御部201は、温度プロファイルの第2区間に対応する加圧工程を開始する。加圧工程は、加熱工程S403および維持工程S404からなる。加熱工程S403では、加熱部を継続的または間欠的に駆動して内鍋3内の温度を、
図5(b)に示すように第1温度T1より高い第2温度T2に上昇させる。第2温度T2は圧力調理を行うための温度であり、100℃以上の温度、例えば約120℃でありうる。ただし、この第2温度T2の実例である120℃は厳密な数値ではなく120℃付近の値であればよい。このとき、内鍋3内の圧力は
図5(a)に示すように、圧力値P1まで上昇する。圧力値P1は、上記したように、例えば50kPa~100kPaの範囲内においてユーザ操作により指定されうる。なお、本実施形態では、内鍋3内の圧力をゲージ圧(大気圧を0kPaとする)で示すこととする。また、上記した温度や圧力に関する具体的な数値は一例であって、その他の値とすることもできる。例えば、圧力値P1の上限は100kPaよりも高くてもよく、また圧力値P1の下限は50kPaより低くてもよい。
【0030】
維持工程S404では、制御部201は、圧力値P1が維持されるように、加熱部202を間欠的に駆動して(
図5(c)参照)第2温度T2を維持する。例えば、制御部201は、圧力検知部203により検知される圧力、及び、温度検知部204により検知される温度の少なくともいずれかに基づいて加熱部202に供給する駆動パルスを調整することにより第2温度T2を維持することができる。加圧工程の時間(すなわち第2区間)の長さは、ユーザ操作により、例えば1分~1時間の範囲内において、設定されうる。
【0031】
本実施形態の維持工程S404では、内鍋3内の圧力がほぼ一定に維持されることが好ましい。例えば、制御部201は、圧力検知部203により検知される圧力が目標値の例えば上下1kPaの許容範囲内で推移するように加熱部202の駆動を制御する。一例において、温度プロファイルの第2区間に対応する加圧工程の間、制御部201は、圧力検知部203により検知される圧力を監視している。制御部201は、取得した圧力の平均値等の統計値が上記許容範囲の上限を超えたとき加熱部202の駆動をOFF、取得した圧力の平均値等の統計値が上記許容範囲の下限を下回ったとき加熱部202の駆動をONする。こうすることで、それにより、栄養成分の溶出を抑えつつ、内鍋内の調味液を食材に十分に染み込ませることができる。
【0032】
本実施形態において、
図5(b)に示される温度プロファイルは、第2区間の後、保温温度として予め設定された第3温度Twに低下させる第3区間と、第3区間の後、第3温度Twを維持する第4区間とを更に有する。加圧工程が終了すると、制御部201は、温度プロファイルの第3区間に対応する減圧工程S405を開始する。減圧工程S405において、制御部201は加熱部202の駆動を停止し、内鍋3内の温度及び圧力を下降させる。このとき、制御部201は排気弁駆動部207を制御して排気弁24の開閉動作を行い(
図5(d)参照)、内鍋3内の気体(蒸気)を排気機構20を介して排出させてもよい。これにより、内鍋3内の内部圧力と温度を強制的に下げることができる。このとき、内部圧力は大気圧(機外の圧力)と同程度にまで下がる。また、圧力の低下に応じて温度も下がる(
図5(a)参照)。
【0033】
減圧工程S405において、制御部201は、温度検知部204により検知される温度を監視している。温度検知部204により検知された温度が第3温度Tw(例えば、65度)まで下がった場合、制御部201は、温度プロファイルの第4区間に対応する保温工程S406を開始する。保温工程S406において、制御部201は、温度検知部204により検知される温度が第3温度Twに維持されるように加熱部202の駆動を制御する。保温工程S406は、例えば、ユーザにより取消キー38が押されたこと、または、所定の上限時間が経過したことにより終了する。
【0034】
<実施例>
次に、本発明を以下の実施例によってさらに明らかにするが、以下の実施例は本発明の単なる典型的なものであることを意図する。
【0035】
以下に示す加熱調理器100を用いた調理品質試験の結果を通じて、上述の組み合わせ調理モードによる調理の優位性を示す。調理品質試験においては、以下の食材および調理条件の下で、食材の調理品質の差異を検証した。
(1)食材:生牡蠣
(2)調理条件(設定温度および調理時間)
A:低温調理(65℃10分)
B:組み合わせ調理1(65℃10分→50kPa10分)
C:組み合わせ調理2(65℃10分→50kPa3分)
D:圧力調理(60kPa3分)
E:常圧鍋調理(100℃10分)
【0036】
(3)硬さの測定
水500mlに生牡蠣5個(約100g)を入れて、調理条件A~Eそれぞれの下で、調理を行った。
島津製作所材料試験装置EZ-TEST LXを用いて、調理後の食材の応力ひずみ曲線を求めた。各調理条件に対して5回繰り返し測定を行い、得られたデータ群間で有意差検定(Tukeyの多重比較検定)を行った。食材の最も膨らんでいる部分にブレードを当てて破断試験を行った。この破断試験において、ひずみ50%のときの応力値から弾性率を求めた。
【0037】
各調理条件による調理後の食材の弾性率を、
図6に示す。弾性率が小さいほど食材が柔らかく、弾性率が大きいほど食材が硬いことを示す。
図6において、エラーバーは標準偏差を示しており、調理条件間の比較において、エラーバーが重なっている場合は有意差なし、エラーバーが重なっていない場合は有意差ありと判断することができる。
【0038】
食材が最も柔らかいのは調理条件A、すなわち低温調理のみ、である。ただし、この場合、生臭さが残る未調理状態に近いものである。逆に最も食材が硬い結果となるのは、調理条件E、すなわち常圧鍋料理、である。次に食材が硬くなるのは、調理条件D、すなわち圧力調理、である。調理条件DとEとを比べると、圧力調理は常圧鍋料理より有意に弾性率が小さい、すなわち柔らかい、ということがわかる。
【0039】
そして、調理条件BおよびC、すなわち組み合わせ調理1および2であるが、調理条件Dと比べると、組み合わせ調理は圧力調理よりも有意に弾性率が小さい、すなわち柔らかい、ということがわかる。かつ、調理条件BおよびCを調理条件Aと比べると、エラーバーが重なっていて有意差がない、すなわち、組み合わせ調理によれば、低温調理のみ(未調理)に近い柔らかさが得られる、ということがわかる。このように、実施形態に係る組み合わせ調理によれば、圧力調理のみや常圧鍋料理と比べて食材の柔らかさを保つことが可能である。また、調理条件Aでは生臭さが残る未調理状態に近いものであったことを考えると、調理条件Bおよび調理条件Cでは、最終工程として圧力調理が加わっているため、食材の菌の繁殖を抑え、安全な食事を提供することが可能であるともいえる。
【0040】
なお、調理条件B(組み合わせ調理1)と調理条件C(組み合わせ調理2)との間には有意差はみられなかった。これは、低温調理後の圧力調理時間が異なっていても弾性率に有意差がないことを示している。常圧から50kPaまで昇圧(昇温)するのに15分ほどかかり、その昇圧(昇温)の間に調理が完結していることを示唆している。
【0041】
(4)栄養成分の溶出量の測定
食材に含まれる鉄(Fe)の溶出量を分析した。
島津製作所原子吸光分析装置AA-7000を用いて、溶液中の濃度を分析し、調理後の調味液中の鉄の絶対量を算出する。食材(牡蠣)の質量、および調理後の調味液の量は別途測定しておく。また、ブランクとして調理前の調味液中の鉄の量も分析する。
【0042】
アセチレン/空気を燃料とする高温の炎(2000℃)に測定対象の元素を含む溶液を霧状に噴霧すると、当該元素に固有な光の波長の吸収が起こる。原子吸光分析では、鉄専用のカソードランプ(光源波長248nm)を使用して、その吸収の程度から濃度を測定する。この方法は、他の元素からの干渉を受けにくく、かつ、ppbレベルの高感度分析が可能である。
【0043】
ここでは、調理条件B(組み合わせ調理1)、調理条件C(組み合わせ調理2)、調理条件E(常圧鍋料理)の調理結果において、鉄の溶出量の有意差をみるため、調理後の調味液から分析用試料を3回採取して分析した。また、各回の前に1回ずつ調理前の調味液(標準液)を分析し、その後にデータから検量線を求めた。具体的な解析は以下の手順に従って、食材1kg当たりの調理に伴う鉄の溶出量(mg-Zn/kg食材)を求める。
【0044】
1.調理後の調味液を10倍希釈する。
2.10倍希釈液の吸光度を求める。
3.検量線を用いて吸光度を濃度に換算する。
4.10倍して希釈前の濃度を求める。
5.予め記録しておいた調理後の液量を用いて、調理後の液中の鉄の絶対量m1を求める。
6.調味液の吸光度を求め、調味液中の鉄濃度を求める。
7.予め記録しておいた調理前の液量を用いて、調味液中にもともと含まれていた鉄の絶対量m0を求める。
8.調理に伴い食材から溶出した鉄の絶対量Mを、M=m1-m0により求める(調理前の調味液に含まれていた鉄分を差し引く)。
9.溶出した絶対量Mを、予め記録しておいた食材の質量で割ることにより、食材1kgあたりの鉄の溶出量(mg-Zn/kg食材)を求める。
【0045】
分析結果を、
図7に示す。
図7は、調理条件B(組み合わせ調理1)、調理条件C(組み合わせ調理2)、調理条件E(常圧鍋料理)それぞれの下で調理された食材からの鉄の溶出量を示している。
図7において、エラーバーは標準偏差を示している。
図7から、調理条件Bまたは調理条件Cによれば、調理条件Eに比べて鉄の溶出量が抑えられることがわかる。なお、調理条件Bと調理条件Cとの間では有意差はみられなかった。食品データベースによれば生牡蠣の鉄含有量は21mg-Zn/kg食材であることから、調理条件Bおよび調理条件Cの場合約8%の鉄が、調理条件Eの場合約14%の鉄が、溶出していることになる。
【0046】
このように、実施形態に係る組み合わせ調理によれば、常圧鍋料理と比べて、鉄の溶出量を抑えることができ、食材から鉄分を多く摂ることができる。
【0047】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:本体部、2:蓋部、3:内鍋、10:収容部、24:排気弁