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特許7506951廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240620BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240620BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/06
C22B3/10
C22B3/26
C22B3/38
C22B23/00 102
C22B26/12
C22B47/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023523131
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2022036538
(87)【国際公開番号】W WO2023054621
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-04-14
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2021159019
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021159027
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021159042
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下垣内 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】厳 寅男
(72)【発明者】
【氏名】黒滝 真行
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】池渕 立
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181816(WO,A1)
【文献】特開2020-105597(JP,A)
【文献】特開2020-105598(JP,A)
【文献】特開2004-307983(JP,A)
【文献】特開平9-209054(JP,A)
【文献】特開平1-194988(JP,A)
【文献】特開昭61-143527(JP,A)
【文献】特開2009-193778(JP,A)
【文献】特開2011-195948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B7/00
C22B3/10,3/26,3/38
C22B23/00
C22B26/12
C22B47/00
C01G51/10
C01G53/10
H01M10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、
該廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を第1の鉱酸中に溶解して酸溶解液を得る溶解工程と、
該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、マンガン、コバルト、及びニッケルを溶媒抽出によりそれぞれ分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る溶媒抽出工程を含み、
該第1の鉱酸は塩酸を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記溶媒抽出工程が、2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む第1の抽出溶媒を使用してコバルトを抽出するコバルト抽出工程、
該コバルト抽出工程で得られた有機相をコバルト用第2の鉱酸によりスクラビングするコバルト用第1のスクラビング工程、及び、コバルト用第3の鉱酸によりコバルトを逆抽出するコバルト逆抽出工程を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記コバルト用第1のスクラビング工程で得られる有機相をコバルト用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするコバルト用第2のスクラビング工程を更に含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記溶媒抽出工程が、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む抽出溶媒を使用してニッケルを抽出するニッケル抽出工程、
該ニッケル抽出工程で得られた有機相をニッケル用第2の鉱酸によりスクラビングするニッケル用第1のスクラビング工程、及び
ニッケル用第3の鉱酸によりニッケルを逆抽出するニッケル逆抽出工程を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記ニッケル用第1のスクラビング工程で得られる有機相を前記ニッケル用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするニッケル用第2のスクラビング工程を更に含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項6】
請求項1に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記溶媒抽出工程が、前記酸溶解液を第1の正抽出液として第1の有機溶媒によるマンガンの溶媒抽出を行い、マンガン含有有機相と第1の抽出残液とを得るマンガン抽出工程と、
該第1の抽出残液を第2の正抽出液として第2の有機溶媒によるコバルトの溶媒抽出を行い、コバルト含有有機相と第2の抽出残液とを得るコバルト抽出工程と、
該第2の抽出残液を第3の正抽出液として第3の有機溶媒によるニッケルの溶媒抽出を行い、ニッケル含有有機相と第3の抽出残液としての前記第1のリチウム塩水溶液とを得るニッケル抽出工程と、
該第1~3のいずれかの少なくとも1つの有機相を有価金属用第2の鉱酸によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第1のスクラビング工程と、
有価金属用第3の鉱酸により、マンガン、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有価金属を逆抽出する、少なくとも1つの、有価金属逆抽出工程を含み、かつ
少なくとも1つの該有価金属用第1のスクラビング工程後の該有価金属用第2の鉱酸を、少なくとも1つの該有価金属用第1のスクラビング工程における有機相に対応する該第1~3のいずれかの正抽出液に戻すことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
少なくとも1つの、前記有価金属用第1のスクラビング工程で得られる、少なくとも1つの有機相を有価金属用第3の鉱酸又は水によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第2のスクラビング工程を更に含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項8】
請求項6に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
前記第1の有機溶媒はリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を含み、前記第2の有機溶媒は2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含み、前記第3の有機溶媒はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項9】
請求項1~3及び6~8のいずれか1項に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
コバルトの前記溶媒抽出に使用される抽出溶媒が、ノナン、デカン、及びウンデカンからなる群から選ばれる少なくとも1つの直鎖状炭化水素化合物を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項10】
請求項1及び4~8のいずれか1項に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、
ニッケルの前記溶媒抽出に使用される抽出溶媒が、デカンを含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項11】
請求項2又は3に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記コバルト用第3の鉱酸は硫酸を含むこと特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【請求項12】
請求項4又は5に記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記ニッケル用第3の鉱酸は硫酸を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項記載の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法において、前記溶解工程が、
前記活物質粉を、50~150g/Lの範囲の濃度の塩酸に、該塩酸中の塩化水素に対して250~1000%の範囲の質量比で供給し、前記活物質粉の塩酸懸濁液を得る工程と、
該塩酸懸濁液に所定量の塩酸を加えることにより、該塩酸懸濁液中の塩酸の濃度を150~350g/Lの範囲とし、且つ該塩酸懸濁液中の前記活物質粉が、該塩酸懸濁液中の塩化水素に対して50~200%の範囲の質量比になるよう調整し、攪拌する工程を含むことを特徴とする、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からリチウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の有価金属を回収し、前記リチウムイオン電池の正極活物質として再利用する方法が検討されている。
【0003】
従来、前記廃リチウムイオン電池から前記有価金属を回収する際には、前記廃リチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)して、ないし加熱処理せずに粉砕、分級する等して得られた前記有価金属を含む粉末(以下、電池粉という)を酸に溶解し、該有価金属を酸により浸出して得られた浸出液を溶媒抽出に供することが行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
前記浸出液がコバルトを含む場合、前記浸出液からコバルトを溶媒抽出した後、硫酸により逆抽出することにより硫酸コバルト水溶液を得ることができ、該硫酸コバルト水溶液を晶析することにより硫酸コバルトを得ることができる(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、前記浸出液がニッケルを含む場合、前記浸出液からニッケルを溶媒抽出した後、硫酸により逆抽出することにより硫酸ニッケル水溶液を得ることができる(例えば、特許文献6参照)。
【0005】
さらに硫酸ニッケルに含有される、有価金属の浸出後の中和時に使用される水酸化ナトリウムに由来するNaを低減するために、粗硫酸ニッケル溶液からニッケルを酸性有機抽出剤によりpH6.0~7.0の範囲で抽出し、抽出後の有機相中のニッケル含有量を、前記酸性有機抽出剤が有するニッケル保持化学量論量の0.6~1.7倍に保持し、抽出後のニッケル保持有機相を洗浄した後、硫酸による逆抽出を行う方法が知られている(例えば、特許文献7参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法により、前記浸出液からマンガン、コバルト、ニッケルを順次溶媒抽出すると、該浸出液に含まれるリチウムの一部もマンガン、コバルト、ニッケルに伴われて共抽出されることとなる。この結果、最終的な抽出残液としてのリチウム塩水溶液におけるリチウムの含有量が前記浸出液におけるリチウムの含有量より少なくなるという不都合がある。
【0007】
特許文献4に記載された方法により製造された硫酸コバルトは、リチウムイオン電池の正極活物質とするには、有価金属の浸出後の中和時に使用される水酸化ナトリウムに由来するNa、有価金属の浸出時に使用される塩酸に由来するCl等の不純物を所定の範囲以下にする必要があるという問題がある。これらの不純物が硫酸コバルトに所定の範囲を超えて含まれていると、電池特性及び安全性の確保に不都合が生じ、更に正極材を焼成する際に炉体を痛めてしまう。そこで、前記逆抽出により得られた硫酸コバルト水溶液を電解液として電気分解して電気コバルトを得た後、該電気コバルトを酸に溶解し、得られたコバルト溶解液から更にコバルトを溶媒抽出し、逆抽出することにより、前記硫酸コバルトに含有される不純物を所定の範囲以下にする方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、特許文献5に記載の方法の操作は煩雑である。
【0008】
特許文献6に記載の方法は、硫化剤を使用するため、窒息の危険があり、かつ操作が煩雑であり、特許文献7に記載の方法は、ニッケルをpH6.0~7.0の範囲で抽出するため、抽出に伴って水酸化ニッケルが析出する可能性が高い。しかも、どちらの方法もNa及びClのそれぞれをニッケル1kg当たり100mg未満にすることができないという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4865745号公報
【文献】特許第6835820号公報
【文献】特許第6869444号公報
【文献】国際公開第2013/099551号
【文献】特開2020-105597号公報
【文献】特許第5904459号公報
【文献】特許第3546912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる不都合を解消して、廃リチウムイオン電池から高純度の各有価金属を回収できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸中に溶解した酸溶解液から、該活物質粉に含まれる有価金属のうち、マンガン、コバルト、及びニッケルを溶媒抽出によりそれぞれ高い純度で分離し、該溶媒抽出の残液として回収された第1のリチウム塩水溶液から高純度のリチウムを回収できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0012】
本発明は、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、該廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を第1の鉱酸中に溶解して酸溶解液を得る溶解工程と、該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、マンガン、コバルト、及びニッケルを溶媒抽出によりそれぞれ分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る溶媒抽出工程を含み、当該第1の鉱酸は塩酸を含む、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法に関する。
前記溶媒抽出工程は、好ましくは、2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む第1の抽出溶媒を使用してコバルトを抽出するコバルト抽出工程、該コバルト抽出工程で得られた有機相をコバルト用第2の鉱酸によりスクラビングするコバルト用第1のスクラビング工程、及び、コバルト用第3の鉱酸によりコバルトを逆抽出するコバルト逆抽出工程を含む。
前記溶媒抽出工程は、好ましくは、前記コバルト用第1のスクラビング工程で得られる有機相をコバルト用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするコバルト用第2のスクラビング工程を更に含む。
前記溶媒抽出工程は、好ましくは、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む抽出溶媒を使用してニッケルを抽出するニッケル抽出工程、該ニッケル抽出工程で得られた有機相をニッケル用第2の鉱酸によりスクラビングするニッケル用第1のスクラビング工程、及び、ニッケル用第3の鉱酸によりニッケルを逆抽出するニッケル逆抽出工程を含む。
本発明の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法は、好ましくは、前記ニッケル用第1のスクラビング工程で得られる有機相をニッケル用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするニッケル用第2のスクラビング工程を更に含む。
さらに前記溶媒抽出工程は、好ましくは、前記酸溶解液を第1の正抽出液として第1の有機溶媒によるマンガンの溶媒抽出を行い、マンガン含有有機相と第1の抽出残液とを得るマンガン抽出工程と、該第1の抽出残液を第2の正抽出液として第2の有機溶媒によるコバルトの溶媒抽出を行い、コバルト含有有機相と第2の抽出残液とを得るコバルト抽出工程と、該第2の抽出残液を第3の正抽出液として第3の有機溶媒によるニッケルの溶媒抽出を行い、ニッケル含有有機相と第3の抽出残液としての前記第1のリチウム塩水溶液とを得るニッケル抽出工程と、該第1~3のいずれかの少なくとも1つの有機相を有価金属用第2の鉱酸によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第1のスクラビング工程と、有価金属用第3の鉱酸により、マンガン、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有価金属を逆抽出する、少なくとも1つの、有価金属逆抽出工程を含み、かつ少なくとも1つの該有価金属用第1のスクラビング工程後の該有価金属用第2の鉱酸を、少なくとも1つの該有価金属用第1のスクラビング工程における有機相に対応する該第1~3のいずれかの正抽出液に戻す。
本発明の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法は、好ましくは、少なくとも1つの、前記有価金属用第1のスクラビング工程で得られる、少なくとも1つの有機相を有価金属用第3の鉱酸又は水によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第2のスクラビング工程を更に含む。
前記第1の有機溶媒は、好ましくはリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を含み、前記第2の有機溶媒は2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含み、前記第3の有機溶媒はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む。
【0013】
コバルトの前記溶媒抽出に使用される抽出溶媒は、好ましくは、ノナン、デカン、及びウンデカンからなる群から選ばれる少なくとも1つの直鎖状炭化水素化合物を含む。
ニッケルの前記溶媒抽出に使用される抽出溶媒は、好ましくはデカンを含む。
前記コバルト用第3の鉱酸、ニッケル用第3の鉱酸のそれぞれは、好ましくは硫酸を含む。
【0014】
前記溶解工程は、好ましくは、前記活物質粉を、50~150g/Lの範囲の濃度の塩酸に、該塩酸中の塩化水素に対して250~1000%の範囲の質量比で攪拌して、前記活物質粉の塩酸懸濁液を得る工程と、該塩酸懸濁液に所定量の塩酸を加えることにより、該塩酸懸濁液中の塩酸の濃度を150~350g/Lの範囲とし、且つ該塩酸懸濁液中の前記活物質粉が、該塩酸懸濁液中の塩化水素に対して50~200%の範囲の質量比になるよう調整し、攪拌する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。
本発明の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法は、廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸中に溶解して酸溶解液を得る溶解工程を含む。前記溶解工程では、廃リチウムイオン電池から得られた各種有価金属を含む粉末(電池粉)を鉱酸により浸出し、マンガン、コバルト、及びニッケルを含む各種有価金属が溶解している酸溶解液を得る。
【0016】
本発明の廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法(以下、「有価金属回収方法」という場合がある)において、前記廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等を意味する。
【0017】
前記有価金属を含む粉末は、例えば、次のようにして得ることができる。まず、リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、例えば100~450℃の範囲の温度で加熱処理(焙焼)した後、又は加熱処理せずにハンマーミル、ジョークラッシャー等の粉砕機で粉砕し、該廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けにより除去(分級)して、有価金属を含む粉末として、電池粉を得ることができる。
【0018】
あるいは、放電処理後又は加熱処理していない廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕し、筐体、集電体等を篩分けにより除去した後、前記範囲の温度で加熱処理することにより、前記電池粉を得るようにしてもよい。
【0019】
本発明の有価金属回収方法では、前記電極粉を第1の鉱酸により浸出する。この結果、前記各種有価金属の酸溶解液が得られる。前記第1の鉱酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは塩酸を含む。
【0020】
前記溶解工程は、前記活物質粉を、50~150g/Lの範囲の濃度の塩酸に、該塩酸中の塩化水素に対して250~1000%の範囲の質量比で供給し、攪拌して、前記活物質粉の塩酸懸濁液を得る工程と、該塩酸懸濁液に所定量の塩酸を加えることにより、該塩酸懸濁液中の塩酸の濃度を150~350g/Lの範囲とし、且つ該塩酸懸濁液中の前記活物質粉が、該塩酸懸濁液中の塩化水素に対して50~200%の範囲の質量比になるよう調整し、攪拌する工程を含んでいてよい。
【0021】
本発明の有価金属回収方法は、好ましくは、前記酸溶解液をアルカリで中和する中和工程を含む。前記アルカリは、例えばアルカリ金属の水酸化物を含む。前記アルカリ金属は、好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及びフランシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは、リチウム、ナトリウム、及びカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。前記アルカリは、水溶液として前記酸溶解液に添加されてよく、固体として前記酸溶解液に添加されてもよく、水溶液及び固体の両方の状態で前記酸溶解液に添加されてもよい。
【0022】
本発明の有価金属回収方法は、前記酸溶解液から、前記活物質粉に含まれる金属のうち、マンガン、コバルト、及びニッケルを溶媒抽出によりそれぞれ分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る溶媒抽出工程を含む。
【0023】
本発明の第1の実施形態の有価金属回収方法では、前記溶媒抽出工程が、2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む第1の抽出溶媒を使用してコバルトを抽出するコバルト抽出工程を含む。前記コバルト抽出工程では、前記酸溶解液から、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を抽出溶媒としてマンガンを溶媒抽出し、得られた抽出残液をコバルト塩水溶液とできる。前記マンガンの溶媒抽出は、例えば、前記有価金属の浸出液に、ケロシンで希釈した1モル/Lのリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(ナカライテスク株式会社製)を添加し、調整して行うことができる。
【0024】
前記抽出残液であるコバルト塩水溶液には、ノナン、デカン、及びウンデカンからなる群から選ばれる少なくとも1つの直鎖状炭化水素化合物で希釈されたビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を添加して、コバルトの溶媒抽出を実施してよい。例えば、デカンで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)を添加して、コバルトの溶媒抽出を行うことができる。
【0025】
本発明の第1の実施形態の有価金属回収方法は、前記コバルト抽出工程で得られた有機相をコバルト用第2の鉱酸によりスクラビングするコバルト用第1のスクラビング工程、及び、コバルト用第3の鉱酸によりコバルトを逆抽出するコバルト逆抽出工程を含む。さらに本発明の第1の実施形態の有価金属回収方法は、前記コバルト用第1のスクラビング工程で得られる有機相をコバルト用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするコバルト用第2のスクラビング工程を更に含んでいてよい。前記コバルト用第2の鉱酸及びコバルト用第3の鉱酸のそれぞれは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは塩酸又は硫酸を含み、更に好ましくは塩酸又は硫酸である。コバルトを抽出した前記有機相について、コバルト用第2の鉱酸を用いてコバルト用第1のスクラビングを行い、当該コバルト用第1のスクラビング後の有機相について、コバルト用第3の鉱酸を用いて逆抽出を行うことにより、コバルト塩水溶液が得られる。前記コバルト塩水溶液は、不純物としてのNa及びClの含有量がリチウムイオン電池の正極活物質として要求される範囲よりも低減されている。
【0026】
なお、前記コバルト塩水溶液に含まれる有価金属及びNaの濃度は、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析装置(パーキンエルマー社製、商品名:Optima-8300、以下、「ICP-OES」と称する場合がある)により、測定することができる。また、前記コバルト塩水溶液に含まれるClの濃度はイオンクロマトグラフ装置(メトローム社製、商品名:930 コンパクトIC Flex、以下、「IC」と称する場合がある)により測定できる。
【0027】
本発明の第2の実施形態の有価金属回収方法では、前記溶媒抽出工程が、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む抽出溶媒を使用してニッケルを抽出するニッケル抽出工程を含む。前記ニッケル抽出工程では、前記酸溶解液からニッケルを抽出することもできるが、該酸溶解液からリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を抽出溶媒としてマンガンを溶媒抽出したマンガン抽出残液から、更に2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を抽出溶媒としてコバルトを抽出し、コバルト抽出残液からニッケルを抽出することもできる。前記マンガンの溶媒抽出は、例えば、前記酸溶解液に、ケロシンで希釈した1モル/Lのリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(ナカライテスク株式会社製)を添加し、行うことができる。
【0028】
また、前記コバルトの溶媒抽出は、例えば、前記マンガン抽出残液に対して中和処理を行い、前記マンガンの溶媒抽出で抽出されなかったマンガンを沈殿させて該沈殿を濾別した後、ノナン、デカン、及びウンデカンからなる群から選ばれる少なくとも1つの直鎖状炭化水素化合物で希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)を添加して行うことができる。
【0029】
前記コバルト抽出残液からのニッケルの抽出は、該コバルト抽出残液に対し、デカンで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)を添加して行うことができる。
【0030】
本発明の第2の実施形態の有価金属回収方法は、前記ニッケル抽出工程で得られた有機相をニッケル用第2の鉱酸によりスクラビングするニッケル用第1のスクラビング工程、及び、ニッケル用第3の鉱酸によりニッケルを逆抽出するニッケル逆抽出工程を含む。さらに本発明の第2の実施形態の有価金属回収方法は、前記ニッケル用第1のスクラビング工程で得られる有機相をニッケル用第3の鉱酸又は水によりスクラビングするニッケル用第2のスクラビング工程を更に含んでいてよい。前記ニッケル用第2の鉱酸及びニッケル用第3の鉱酸のそれぞれは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは硫酸を含み、更に好ましくは硫酸である。ニッケルを抽出した前記有機相について、ニッケル用第2の鉱酸を用いてニッケル用第1のスクラビングを行い、当該ニッケル用第1のスクラビング後の有機相について、ニッケル用第3の鉱酸を用いて逆抽出を行うことにより、コバルト塩水溶液が得られる。前記ニッケル塩水溶液の、不純物としてのNa及びClそれぞれの含有量は、好ましくは、リチウムイオン電池の正極活物質として要求されるニッケル1kg当たり100mg未満の範囲に低減されている。
【0031】
なお、前記ニッケル塩水溶液に含まれる有価金属及びNaの濃度は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により、測定することができる。また、前記ニッケル塩水溶液に含まれるClの濃度はイオンクロマトグラフ装置(IC)により測定することができる。
【0032】
本発明の第3の実施形態の有価金属回収方法では、前記溶媒抽出工程が、前記酸溶解液を第1の正抽出液として第1の有機溶媒によるマンガンの溶媒抽出を行い、マンガン含有有機相と第1の抽出残液とを得るマンガン抽出工程(a)と、該第1の抽出残液を第2の正抽出液として第2の有機溶媒によるコバルトの溶媒抽出を行い、コバルト含有有機相と第2の抽出残液とを得るコバルト抽出工程(b)と、該第2の抽出残液を第3の正抽出液として第3の有機溶媒によるニッケルの溶媒抽出を行い、ニッケル含有有機相と第3の抽出残液としての前記第1のリチウム塩水溶液とを得るニッケル抽出工程(c)を含む。
【0033】
前記第1の有機溶媒は好ましくはリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を含み、前記第2の有機溶媒は好ましくは2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート又はビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含み、更に前記第3の有機溶媒は好ましくはビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む。
【0034】
本発明の第3の実施形態の有価金属回収方法は、前記第1~3のいずれかの少なくとも1つの有機相を有価金属用第2の鉱酸によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第1のスクラビング工程と、有機相用第3の鉱酸により、マンガン、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1つの有価金属を逆抽出する、少なくとも1つの、有価金属逆抽出工程を含む。さらに本発明の第3の実施形態の有価金属回収方法は、少なくとも1つの、前記有価金属用第1のスクラビング工程で得られる、少なくとも1つの有機相を有価金属用第3の鉱酸又は水によりスクラビングする、少なくとも1つの、有価金属用第2のスクラビング工程を更に含んでいてよい。前記有価金属用第2の鉱酸及び有価金属用第3の鉱酸のそれぞれは、塩酸、硫酸、及び硝酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくは硫酸を含み、更に好ましくは硫酸である。有価金属を抽出した前記有機相について、有価金属用第2の鉱酸を用いて有価金属用第1のスクラビングを行い、当該有価金属用第1のスクラビング後の有機相について、有価金属用第3の鉱酸を用いて逆抽出を行うことにより、有価金属塩水溶液が得られる。
【0035】
前記抽出工程(a)~(c)は、例えば以下の通りに実施される。
前記酸溶解液としての有価金属溶液75Lを第1の正抽出液として、ケロシンで希釈した1モル/Lのリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(ナカライテスク株式会社製)75Lを添加し、マンガンの溶媒抽出を行い、第1の抽出残液としてコバルト塩水溶液80Lを得る。前記コバルト塩水溶液80Lに対して中和処理を行い、生成した沈殿を濾別してコバルト塩水溶液83Lを得る。
【0036】
前記第1の抽出残液としてのコバルト塩水溶液83Lを第2の正抽出液として、ノナン、デカン、及びウンデカンからなる群から選ばれる少なくとも1つで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)83Lを添加し、コバルトの溶媒抽出を行う。得られた第2の有機相について、塩酸16.6Lを用いて、スクラビングを行い、スクラビング後の塩酸を前記第2の正抽出液に戻す。また、スクラビング後の第2の有機相について、硫酸11Lを用いて、逆抽出操作を行う。
【0037】
前記第2の抽出残液としてのニッケル塩水溶液83Lを第2の正抽出液として、デカンで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)83Lを添加し、ニッケルの溶媒抽出を行う。
【0038】
本発明の第3の実施形態の廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法では、前記第1~3のいずれかの有機相に対し塩酸によるスクラビングを行い、該スクラビング後の塩酸を、該スクラビングを行った有機相に対応する該第1~3のいずれかの正抽出液に戻す。例えば、前記第3の有機相について、塩酸溶液16.6Lを用いて、スクラビング操作を行い、スクラビング後の塩酸を前記第2の正抽出液に戻す。また、スクラビング後の第3の有機相について、硫酸溶液15Lを用いて、逆抽出操作を行う。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<有価金属塩水溶液に含まれる有価金属及びNaの質量の測定>
各有価金属塩水溶液に含まれる有価金属及びNaの質量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により、測定された。
【0041】
<有価金属塩水溶液に含まれるClの質量の測定>
各有価金属塩水溶液に含まれるClの質量はイオンクロマトグラフ装置(IC)により測定された。
【0042】
実施例1
リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、空気雰囲気下で400℃の温度に10分間維持して加熱した。次に、前記正極箔を、ジョークラッシャーを用いて粉砕した後、目開き1mmの篩でアルミニウム箔を分離し、正極粉(電池粉末)を得た。
次に、前記正極粉10kgを、塩酸48kg(40L)と水35kg(35L)との混合液に溶解し、酸溶解液75Lを得た。前記75Lの前記酸溶解液に、ケロシンで希釈した1モル/Lのリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(ナカライテスク株式会社製)75Lを添加し、更に20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、マンガンの溶媒抽出を行い、抽出残液として80Lの粗コバルト塩水溶液を得た。
次に、得られた0.5Lの前記粗コバルト塩水溶液から、0.025Lを採取し、ノナンで調整した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)0.025Lを添加し、Coの溶媒抽出操作を行い、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
抽出した有機相から0.020Lを採取し、pH0.2に調整した2.3質量%の塩酸0.0010Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相から0.012Lを採取し、1.8Mの硫酸液0.0020Lを用いて逆抽出し、逆抽出液を得た。
前記逆抽出液に含まれる金属の質量をICP-OES及びICをより測定したところ、18mgのCoと、0.014mgのNaと、0.020mg(1100mg/kg)のClを含んでいた。すなわち前記逆抽出液は、1kgのCo当たり770mgのNaと、1kgのCo当たり1100mgのClを含んでいた。
【0043】
実施例2
0.5Lの前記粗コバルト塩水溶液から、0.025Lを採取し、デカンで調整した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)0.025Lを添加し、Coの溶媒抽出操作を行い、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
抽出した有機相から0.020Lを採取し、pH0.2に調整した希釈硫酸0.0010Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相から0.012L採取し、1.8Mの硫酸液0.0020Lを用いて逆抽出し、逆抽出液を得た。
前記逆抽出液に含まれる金属の質量をICP-OES及びICをより測定したところ、18mgのCoと、0.044mgのNaと、0.057mgのClを含んでいた。すなわち前記逆抽出液は、1kgのCo当たり2400mgのNaと、1kgのCo当たり3100mgのClを含んでいた。
【0044】
実施例3
0.5Lの前記粗コバルト塩水溶液から、0.025Lを採取し、ウンデカンで調整した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)0.025Lを添加し、Coの溶媒抽出操作を行った。平衡pHが3.9になるまで20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
抽出した有機相から0.020Lを採取し、pH0.2に調整した希釈硫酸0.0010Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相から0.012Lを採取し、1.8Mの硫酸液0.0020Lを用いて逆抽出し、逆抽出液を得た。
前記逆抽出液に含まれる金属の質量をICP-OES及びICをより測定したところ、19mgのCoと、0.046mgのNaと、0.061mgのClを含んでいた。すなわち前記逆抽出液は、1kgのCo当たり2400mgのNaと、1kgのCo当たり3200mgのClを含んでいた。
【0045】
実施例4
0.5Lの前記粗コバルト塩水溶液から、0.025Lを採取し、ケロシンで調整した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)0.025Lを添加し、Coの溶媒抽出操作を行った。平衡pHが3.9になるまで20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
抽出した有機相から0.020Lを採取し、pH0.2に調整した希釈硫酸0.0010Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相から0.012Lを採取し、1.8Mの硫酸液0.0020Lを用いて逆抽出し、逆抽出液を得た。
前記逆抽出液に含まれ金属の質量をICP-OES及びICをより測定したところ、20mgのCoと、0.15mgのNaと、0.20mgのClを含んでいた。すなわち前記逆抽出液は、1kgのCo当たり7700mgのNaと、1kgのCo当たり10000mgのClを含んでいた。
【0046】
実施例5
リチウムイオン電池の製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料である正極箔(集電体であるアルミニウム箔に正極活物質を含む正極合剤が塗布されたもの)を、電気炉中、空気雰囲気下で400℃の温度に10分間維持して加熱した。次に、前記正極箔を、ジョークラッシャーを用いて粉砕した後、目開き1mmの篩でアルミニウム箔を分離し、正極粉(電池粉末)を得た。
次に、前記正極粉10kgを、塩酸48kg(40L)と水35kg(35L)との混合液に溶解し、酸溶解液75Lを得た。
次に、75Lの前記粗有価金属溶液に、ケロシンで希釈した1モル/Lのリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(ナカライテスク株式会社製)75Lを添加し、20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して調整して、マンガンの溶媒抽出を行い、抽出残液としてコバルト塩水溶液80Lを得た。
前記コバルト塩水溶液80Lに対して20質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和処理を行い、該沈殿を濾別してコバルト塩水溶液83Lを得た。
前記抽出残液83Lに、デカンで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)83Lを添加し、Coの溶媒抽出操作を行った。抽出した有機相について、2.3質量%の塩酸16.6Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相について、硫酸溶液11Lを用いて、逆抽出操作を行った。
前記抽出残液83Lに、デカンで希釈した1モル/Lのビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Solvay社製)83Lを添加し、Niの溶媒抽出操作を行った。抽出した有機相について、2.3質量%の塩酸16.6Lを用いて、スクラビング操作を行った。スクラビング後の有機相について、硫酸溶液15Lを用いて、逆抽出操作を行った。逆抽出後のニッケル塩水溶液は980g(65g/kg)のNiと、10mg(10mg/kg)のLiと、10mg(10mg/kg)のNaを含んでいた。