(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】地盤改良複合杭基礎、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎、及び、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20240620BHJP
E02D 5/46 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D5/46
(21)【出願番号】P 2018179477
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-09-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】本間 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小梅 慎平
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】蔵野 いづみ
【審判官】澤田 真治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-303563(JP,A)
【文献】特開2001-317039(JP,A)
【文献】特開2004-132047(JP,A)
【文献】特開2006-257749(JP,A)
【文献】特開昭62-197516(JP,A)
【文献】日本建築学会,建築基礎構造設計指針,第268-269頁、第279-282頁,日本,日本建築学会,2004年08月10日
【文献】日本道路協会,杭基礎設計便覧 平成18年度改訂版,日本,日本道路協会,2007年04月27日,第391-394頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-5/80
E02D 3/12
E02D 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の表層部に設けられ、前記表層部の土砂及び該土砂と撹拌混合された固化材によって構成された改良体と、
前記改良体の内部に沈設された1つ以上の杭と、を備え、
前記地盤の表層部は粘土地盤によって構成され、
前記杭の外径をDpとし、前記杭の中心から前記改良体の外縁又は前記改良体に外接する仮想の多角形までの距離をLpiとするとき、
前記粘土地盤は2.5Dp以上の深さを有し、
前記距離Lpiが次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係を満たし、
前記改良体の外周面の周面摩擦力と前記改良体の底面の先端支持力の和である鉛直支持力が前記改良体の外周長及び底面積に基づいて設定されるように構成されている
ことを特徴とする地盤改良複合杭基礎。
【請求項2】
前記1つ以上の杭は、前記改良体に鉛直荷重を伝達するための突起を有さない
ことを特徴とする請求項1に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項3】
前記改良体の周りの周辺地盤の表面を覆う地盤表面補強層を更に備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項4】
前記改良体の表面を覆う改良体表面補強層を更に備える
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項5】
前記改良体表面補強層は金属製の板によって構成され、
前記板と一体に設けられ、前記改良体の内部、又は、前記改良体と当該改良体の周辺の周辺地盤との境界に埋設された突起を更に備える
ことを特徴とする請求項4に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項6】
前記突起は、前記地盤における前記杭の杭頭部に水平力が作用したときに斜め上方に変位しようとする塑性域Iと当該塑性域Iの下方の塑性域IIとの境界深さに位置する前記杭の外周面の部位から上方に向けて斜めに伝播する断面視にて受働崩壊角の傾きを有する直線すべり線を遮るように構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項7】
前記板は、1つ以上の貫通孔を有する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項8】
前記板は、前記杭に接合されている
ことを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項9】
前記改良体の内部に、前記杭に取り付けられた突起部を有し、
前記突起部は、前記地盤における前記杭の杭頭部に水平力が作用したときに斜め上方に変位しようとする塑性域Iと当該塑性域Iの下方の塑性域IIとの境界深さに位置する前記杭の外周面の部位から上方に向けて斜めに伝播する断面視にて受働崩壊角の傾きを有する直線すべり線を遮るように配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の地盤改良複合杭基礎。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の地盤改良複合杭基礎と、
前記杭及び前記改良体の上に配置され、コンクリートによって構成されるフーチングと、を備え、
前記フーチングの底面積をAfとし、前記改良体の表面積をAiとしたとき、次式:
0.8Ai≦Af≦1.2Ai
で示される関係を満たしている
ことを特徴とする地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎。
【請求項11】
地盤の表層部に設けられ、前記表層部の土砂及び該土砂と撹拌混合された固化材によって構成された改良体と、
前記改良体の内部に沈設された1つ以上の杭と、
前記杭及び前記改良体の上に配置され、コンクリートによって構成されるフーチングと、を備え、前記地盤の表層部が粘土地盤によって構成されている地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法において、
前記杭の外径をDpとし、前記杭の中心から前記改良体の外縁又は前記改良体に外接する仮想の多角形までの距離をL
piとするとき、
前記粘土地盤は2.5Dp以上の深さを有し、
前記距離Lpiが次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係を満たすように、前記杭の外径Dp及び前記距離Lpiを設定し、
前記フーチングの底面積をAfとし、前記改良体の表面積をAiとしたとき、次式:
0.8Ai≦Af≦1.2Ai
で示される関係を満たすように前記フーチングの底面積Af及び前記改良体の表面積Aiを設定し、
前記改良体の外周面の周面摩擦力と前記改良体の底面の先端支持力の和である鉛直支持力が前記改良体の外周長及び底面積に基づいて設定されるように構成する
ことを特徴とする地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法。
【請求項12】
前
記1つ以上の杭に、前記改良体に鉛直荷重を伝達するための突起を設けない
ことを特徴とする請求項11に記載の地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地盤改良複合杭基礎、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎、及び、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軟弱な地盤の支持力を増加させ、また沈下を抑制するために地盤改良が行われている。例えば、特許文献1が開示する地盤改良は、軟弱な地盤にソイルセメント合成杭を構築するものである。該ソイルセメント合成杭の構築にあたっては、セメントミルク等の固化材を地盤に注入しながら撹拌混合して地盤にソイルセメント柱体(改良体)を形成し、該ソイルセメント柱体に羽根付既製杭を挿入している。羽根付既製杭の上端には、羽根付既製杭の外径よりも大径の円筒既製杭が連結され、ソイルセメント柱体の外径は、円筒既製杭の外周で拡大されている。該ソイルセメント合成杭によれば、大径の円筒既製杭を設け、ソイルセメント柱体の外径を円筒既製杭の外周で拡大することで、円筒既製杭とその外周のソイルセメント柱体が一体となって挙動し、水平抵抗力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
杭に水平力が作用したとき、杭周辺の地盤が塑性化して隆起し、杭の水平抵抗力が低下する。この際、地盤の隆起は、地盤における塑性域Iと塑性域IIの境界深さに位置する杭の部位から、斜め上方に向けてすべり線が伝播することにより生じると考えられる。そして、杭の水平抵抗力は、すべり面に作用するせん断力に依存し、せん断力は内部摩擦角φと粘着力cに関係するため、すべり線の全域に渡って、これらを高くすることができれば、杭の水平抵抗力を高めることができると考えられる。
【0005】
これに対し、特許文献1は、杭の水平抵抗力を高めるために、杭とソイルセメント柱体が一体となって挙動するようにソイルセメント柱体の外径を設定することしか開示しておらず、すべり線が地盤の塑性域Iと塑性域IIの境界深さに位置する杭の部位から斜め上方に発生することや、すべり線における粘性(粘着力)を高めることまでは開示していない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、水平抵抗力が改善された地盤改良複合杭基礎、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎、及び、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る地盤改良複合杭基礎は、
地盤の表層部に設けられ、前記表層部の土砂及び該土砂と撹拌混合された固化材によって構成された改良体と、
前記改良体の内部に沈設された1つ以上の杭と、を備え、
前記地盤の表層部は粘土地盤によって構成され、
前記杭の外径をDpとし、前記杭の中心から前記改良体の外縁又は前記改良体に外接する仮想の多角形までの距離をLpiとするとき、
前記粘土地盤は2.5Dp以上の深さを有し、
前記距離Lpiが次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係を満たし、
前記改良体の外周面の周面摩擦力と前記改良体の底面の先端支持力の和である鉛直支持力が前記改良体の外周長及び底面積に基づいて設定されるように構成されている。
【0008】
粘性土系地盤は、内部摩擦角φが小さく、粘着力cを有する特徴があり、一般的に内部摩擦角φ≒0と考えられるので、粘土地盤(粘土性系地盤を含む)では、塑性域Iと塑性域IIの境界深さは、最大で杭の外径Dpの2.5倍程度になり、すべり線は境界深さから45度の角度で斜め上方へと伝播する。このため、地盤の表面においてすべり線が到達する範囲は、杭を中心として6Dp程度の範囲となる。
これを考慮して上記構成(1)では、杭の中心から改良体の外縁又は改良体に外接する多角形までの距離Lpiを2.6Dp超3.4Dp未満に設定している。これにより、境界深さから伝播するすべり線の略全域が改良体を通過することになり、すべり線における粘性ひいてはせん断力を高くすることができる。この結果として、すべり線の発生が抑制され、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記1つ以上の杭は、前記改良体に鉛直荷重を伝達するための突起を有さない。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記改良体の周りの周辺地盤の表面を覆う地盤表面補強層を更に備える。
【0012】
杭と改良体の一体性が高く、周辺地盤と改良体の強度差が大きい場合、改良体の周辺地盤ですべり線が発生し、周辺地盤が変形して水平抵抗が低下する虞がある。
この点、上記構成(3)によれば、周辺地盤の表面を地盤表面補強層で覆うことで、周辺地盤の変形を抑制し、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか1つにおいて、
前記改良体の表面を覆う改良体表面補強層を更に備える。
【0014】
上記構成(4)によれば、改良体表面補強層を設けることによって、改良体の変形を抑制することができ、杭の水平抵抗力を更に高めることができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(4)において、
前記改良体表面補強層は金属製の板によって構成され、
前記板と一体に設けられ、前記改良体の内部、又は、前記改良体と当該改良体の周辺の周辺地盤との境界に埋設された突起を更に備える。
上記構成(5)によれば、突起を設けたことで、改良体の変形を抑制することができ、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(5)において、
前記突起は、前記地盤における前記杭の杭頭部に水平力が作用したときに斜め上方に変位しようとする塑性域Iと当該塑性域Iの下方の塑性域IIとの境界深さに位置する前記杭の外周面の部位から上方に向けて斜めに伝播する断面視にて受働崩壊角の傾きを有する直線すべり線を遮るように構成されている。
上記構成(6)によれば、突起によってすべり線の発生が抑制され、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0017】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(5)又は(6)において、
前記板は、1つ以上の貫通孔を有する。
上記構成(7)によれば、板の貫通孔内に硬化前の改良体が浸入し、その後硬化することで、板と改良体の一体性が高くなる。このため、板によって改良体の変形を一層抑制することができ、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0018】
(8)幾つかの実施形態では、上記構成(5)乃至(7)の何れか1つにおいて、
前記板は、前記杭に接合されている。
上記構成(8)によれば、杭の変形や変位が板を介して改良体に伝達されることで、杭の変形や変位が抑制されるので、杭の水平抵抗力を一層高めることができる。
【0019】
(9)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(8)の何れか1つにおいて、
前記改良体の内部に、前記杭に取り付けられた突起部を有し、
前記突起部は、前記地盤における前記杭の杭頭部に水平力が作用したときに斜め上方に変位しようとする塑性域Iと当該塑性域Iの下方の塑性域IIとの境界深さに位置する前記杭の外周面の部位から上方に向けて斜めに伝播する断面視にて受働崩壊角の傾きを有する直線すべり線を遮るように配置されている。
上記構成(9)によれば、突起部によってすべり線の発生が抑制され、杭の水平抵抗力を高めることができる。
【0020】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎は、
上記構成(1)乃至(9)の何れか1つに記載の地盤改良複合杭基礎と、
前記杭及び前記改良体の上に配置され、コンクリートによって構成されるフーチングと、を備え、
前記フーチングの底面積をAfとし、前記改良体の表面積をAiとしたとき、次式:
0.8Ai≦Af≦1.2Ai
で示される関係を満たしている。
【0021】
上記構成(10)によれば、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、フーチングによって改良体の変形を抑制することができ、杭の水平抵抗力を高めることができる。また、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、上部構造からの鉛直荷重を改良体に直接負担させることができる。このため、上部構造の鉛直荷重を杭を介して改良体に伝達する必要がなく、杭頭接合構造を簡単にすることができるとともに、圧縮強度が低い杭を用いることが可能となる。
【0022】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法は、
地盤の表層部に設けられ、前記表層部の土砂及び該土砂と撹拌混合された固化材によって構成された改良体と、
前記改良体の内部に沈設された1つ以上の杭と、
前記杭及び前記改良体の上に配置され、コンクリートによって構成されるフーチングと、を備え、前記地盤の表層部が粘土地盤によって構成されている地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法において、
前記杭の外径をDpとし、前記杭の中心から前記改良体の外縁又は前記改良体に外接する仮想の多角形までの距離をLpiとするとき、
前記粘土地盤は2.5Dp以上の深さを有し、
前記距離Lpiが次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係を満たすように、前記杭の外径Dp及び前記距離Lpiを設定し、
前記フーチングの底面積をAfとし、前記改良体の表面積をAiとしたとき、次式:
0.8Ai≦Af≦1.2Ai
で示される関係を満たすように前記フーチングの底面積Af及び前記改良体の表面積Aiを設定し、
前記改良体の外周面の周面摩擦力と前記改良体の底面の先端支持力の和である鉛直支持力が前記改良体の外周長及び底面積に基づいて設定されるように構成する。
【0023】
上記構成(11)によれば、杭の中心から改良体の外縁又は改良体に外接する多角形までの距離Lpiを2.6Dp超3.4Dp未満に設定することにより、境界深さから伝播するすべり線の略全域が改良体を通過することになり、すべり線における粘性ひいてはせん断力を高くすることができる。この結果として、すべり線の発生が抑制され、杭の水平抵抗力を高めることができる。
また上記構成(11)によれば、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、フーチングによって改良体の変形を抑制することができ、杭の水平抵抗力を高めることができる。また、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、上部構造からの鉛直荷重を改良体に直接負担させることができる。このため、上部構造の鉛直荷重を杭を介して改良体に伝達する必要がなく、杭頭接合構造を簡単にすることができるとともに、圧縮強度が低い杭を用いることが可能となる。
【0024】
(12)幾つかの実施形態では、上記構成(11)において、
前記1つ以上の杭に、前記改良体に鉛直荷重を伝達するための突起を設けない。
【0025】
上記構成(12)によれば、杭の中心から改良体の外縁又は改良体に外接する多角形までの距離を塑性域Iと塑性域IIの境界深さに基づいて設定することで、境界深さから伝播するすべり線の略全域が改良体を通過するようにすることができる。この結果として、すべり線における粘性ひいてはせん断力を高くすることができ、すべり線の発生が抑制され、杭の水平抵抗力を高めることができる。
また上記構成(12)によれば、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、フーチングによって改良体の変形を抑制することができ、杭の水平抵抗力を高めることができる。また、フーチングが改良体の略表面全域に渡って設けられているので、上部構造からの鉛直荷重を改良体に直接負担させることができる。このため、上部構造の鉛直荷重を杭を介して改良体に伝達する必要がなく、杭頭接合構造を簡単にすることができるとともに、圧縮強度が低い杭を用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、水平抵抗力が改善された地盤改良複合杭基礎、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎、及び、地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の少なくとも一実施形態に係る地盤改良複合杭基礎、及び、地盤改良複合杭基礎によって支持された上部構造を説明するための概略的な図である。
【
図2】地盤改良複合杭基礎を説明するための概略的な部分断面図である。
【
図3】地盤改良複合杭基礎の概略的な平面図である。
【
図4】杭頭部に水平力が作用したときの地盤の変形を説明するための図である。
【
図5】粘土地盤における、非排水せん断強度と境界深さの関係を示すグラフである。
【
図6】(a)及び(b)は、それぞれ本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な平面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図9】改良体表面補強層の作用効果を説明するための図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図13】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図14】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図15】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図16】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図17】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な平面図である。
【
図18】
図17の地盤改良複合杭基礎を構成する杭と板の概略的な部分断面図である。
【
図19】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な平面図である。
【
図20】
図19の地盤改良複合杭基礎を構成する杭と板の概略的な部分断面図である。
【
図21】本発明の他の一実施形態に係る地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎を説明するための概略的な部分断面図である。
【
図22】
図21の地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
【
図24】本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎の概略的な部分断面図である。
【
図25】砂質地盤におけるN値と境界深さZpcとの関係を示すグラフである。
【
図26】砂質地盤における内部摩擦角φと境界深さZpcとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
【0029】
図1は、本発明の少なくとも一実施形態に係る地盤改良複合杭基礎(以下、単に杭基礎ともいう)1、及び、杭基礎1によって支持された上部構造5を説明するための概略的な図である。
図2は、杭基礎1の一例である杭基礎1Aを説明するための概略的な部分断面図である。
図3は、杭基礎1Aの概略的な平面図である。
上部構造5は、例えば、S造(鉄骨造)の中低層建築物であり、3~4階程度の高さを有する。上部構造5は、例えば、店舗、倉庫、工場、体育館等として使用されるものである。
【0030】
図1~
図3に示したように、地盤改良複合杭基礎1Aは、改良体7と、1つ以上の杭9とを備えている。
改良体7は、地盤11の表層部に設けられ、表層部の土砂及び該土砂と撹拌混合された固化材によって構成されている。なお、地盤11の表層部とは、地盤の表面側という意味である。改良体7は、表層部を撹拌しながら固化材を注入し、固化材が硬化することにより形成される。例えば、固化材はセメントミルクであり、改良体7はソイルセメントである。ソイルセメントは、例えば、200kN/m
2以上5000kN/m
2以下の圧縮強度を有する。改良体7は、例えば円柱形状を有するが、
図3に2点鎖線で示したように角柱形状を有していてもよい。
【0031】
1つ以上の杭9は、改良体7の内部に沈設されている。杭9の杭頭部9aは改良体7の表面から突出している。一方、杭9の先端部(下端部)9bは改良体7の内部に位置している。杭9は、例えば、中空の円筒形状又は角筒形状を有するが、中実であってもよい。杭9は、例えば、PRC杭(プレストレストコンクリート杭)やPHC杭(高強度プレストレストコンクリート杭)等のコンクリート杭や、鋼管杭である。杭9は、例えば、50mm以上500mm以下の外径を有し、好ましくは、300mm以下の外径を有する。
【0032】
地盤11の表層部は粘土地盤によって構成されている。粘土地盤は、粒径0.074mm以下のシルト又は粒径0.005mm以下の粘土を主成分とする地盤であるが、砂を多少含んでいてもよい。つまり、本明細書中での「粘土地盤」は、粘土性系地盤を含むものである。
【0033】
地盤改良複合杭基礎1Aにおいては、杭9を中心とする改良体7の外径をDiとし、杭9の外径をDpとしたとき、次式:
5.2Dp<Di<6.8Dp
で示される関係が満たされている。
なお、改良体7が角柱形状の場合、杭9を中心とする改良体7の外径Diとは、杭9を中心として改良体7に内接する円の直径をさすものとする。同様に、杭9が角柱形状の場合、杭9の外径Dpとは、杭9に内接する円の直径をさすものとする。
【0034】
また別の表現をすれば、地盤改良複合杭基礎1Aにおいては、杭9の外径をDpとし、平面視にて杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離をLpiとしたとき、次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係が満たされている。
【0035】
杭基礎1においては、杭9の頭部(杭頭部9a)が改良体7から突出しており、杭頭部9aは、コンクリートによって構成されたブロック形状のフーチング13によって囲まれている。フーチング13は、改良体7上に部分的に設けられ、上部構造5の鉛直荷重を杭9に伝達するように構成されている。フーチング13には、上部構造5の柱(鉄骨)15が立設されている。
【0036】
図4は、杭頭部に水平力が作用したときの地盤の変形を説明するための図である。
図5は、粘土地盤における、非排水せん断強度Cuと境界深さZpcの関係を示すグラフである。境界深さZpcは、塑性域Iと塑性域IIの境界の深さを示すものであり、杭の外径によって規格化されている。従って、境界深さZpcに杭の外径を乗じることによって、現実の境界深さを求めることができる。
【0037】
図4に示したように、杭頭部に水平力が作用した場合、水平力の作用方向にて前方側(前面側)では、塑性域Iの土砂が杭によって押され、すべり線が発生して斜め上方へと変位し、水平力の作用方向にて後方側(背面側)では杭の変形にともなって塑性域Iの土砂が沈下する。
一方、水平力によって杭が変形したとしても、水平力の前方側の塑性域IIの土砂は、土被り圧が作用しているため、杭の側方に回り込んで後方側へと移動するのみで、上方へとは移動しない。
従って、水平力による杭の周辺の地盤の変形を抑制するためには、塑性域Iを改良することが重要であり、そのためには塑性域Iの深さを把握することが重要である。
【0038】
図5に示したように、粘土地盤では、塑性域Iと塑性域IIの境界深さは、最大で杭の外径Dpの2.5倍程度になり、すべり線は境界深さから45度の角度で斜め上方へと伝播する。このため、地盤の表面においてすべり線が到達する範囲は、杭を中心として6Dp程度の範囲となる。
【0039】
これを考慮して上記構成では、改良体7の外径Diを5.2Dp超6.8Dp未満に設定し、換言すれば、杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離Lpiを2.6Dp超3.4Dp未満に設定している。これにより、境界深さから伝播するすべり線16aの略全域が改良体7を通過することになり、すべり線16aにおける粘性ひいてはせん断力を高くすることができる。この結果として、すべり線16aの発生が抑制され、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0040】
なお、改良体7の外径Diが大きすぎると、改良範囲が広くなり、作業時間及びコストの増加を招くことから、改良体7の外径Diは6Dpになるべく近い方がよい。このため、改良体7の外径Diは、好ましくは5.6Dp超6.4Dp未満に設定され、より好ましくは5.8Dp超6.2Dp未満に設定される。換言すれば、距離Lpiは、好ましくは2.8Dp超3.2Dp未満に設定され、より好ましくは2.9Dp超3.1Dp未満に設定される。
【0041】
以下、本発明の他の実施形態について説明するが、上述した実施形態と同一又は類似の構成については、同一の名称又は符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0042】
図6(a)は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Bの概略的な平面図である。地盤改良複合杭基礎1Bの改良体7は、複数の改良体7a,7b,7c,7dが一つとなって構成されている。このように、改良体7は、複数の改良体7a~7dが部分的に重なるように配置されたラップ配置(例えば、杭形式、壁形式又はブロック形式)を採用したものであってもよいし、複数の改良体7a~7dが相互に接するか離れている非ラップ配置(例えば、杭配置や接円配置)を採用したものであってもよい。そして、ラップ配置やオーバーラップ配置の場合、改良体7を構成する改良体7a~7dの数は4つに限定されることはなく、2つ以上であればよい。
そして、各改良体7a,7b,7c,7dには杭9が沈設され、杭9の外径Dpと各改良体7a,7b,7c,7dの外径Diとの間には、次式:
5.2Dp<Di<6.8Dp
で示される関係が成立している。
【0043】
また別の表現をすれば、地盤改良複合杭基礎1Bにおいては、複数の改良体7a~7dが1つの改良体7を構成している場合も考慮して、杭9の外径をDpとし、平面視にて杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離をLpiとしたとき、次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係が満たされている。
なお、改良体7に複数の杭9が沈設される場合、杭9同士の中心間隔Lcは、例えば2.0Dp以上2.5Dp以下に設定されるが、これに限定されることはない。
【0044】
図6(b)は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1B’の概略的な平面図である。地盤改良複合杭基礎1B’の改良体7は、複数の改良体7e,7f,7g,7hが一つとなって構成されている。地盤改良複合杭基礎1B’の改良体7は、平面視にて改良体7e~7hの重複面積が、地盤改良複合杭基礎1Bの改良体7における改良体7a~7dの重複面積よりも小さくなるように、改良体7e~7hの外径Di及び位置が決定されている。つまり、
図6(a)に示すように、中心間隔Lcが2.0Dp以上2.5Dp以下で各改良体7a~7dの中心に杭9が配置されている場合、改良体7a~7dの重複面積が大きくなってしまうが、
図6(b)に示すように、改良体7e~7hの中心を杭9に対し偏位させれば、改良体7全体としての大きさは略同じであっても、各改良体7e~7hの外径Diを小さくすることができる。
【0045】
地盤改良複合杭基礎1B’においても、杭9の外径をDpとし、平面視にて杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離をLpiとしたとき、次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係が満たされている。
なお一方、地盤改良複合杭基礎1B’においては、杭9の外径Dpと各改良体7e~7fの外径Diとの間に、次式:
5.2Dp<Di<6.8Dp
で示される関係が必ずしも成立している必要はない。つまり、ラップ配置で杭9の中心が各改良体7e~7fの中心から偏位している場合、2.6Dp<Lpi<3.4Dpが成立していればよく、5.2Dp<Di<6.8Dpである必要はない。
【0046】
図7は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Cの概略的な部分断面図である。
図7に示したように、地盤改良複合杭基礎1Cは、改良体7の周りの周辺地盤11aの表面を覆う地盤表面補強層17を更に備える点において、地盤改良複合杭基礎1Aと異なっている。
【0047】
杭9と改良体7の一体性が高く、周辺地盤11aと改良体7の強度差が大きい場合、改良体7の周辺地盤11aですべり線16bが発生し、周辺地盤11aが変形して水平抵抗が低下する虞がある。
この点、上記構成によれば、周辺地盤11aの表面を地盤表面補強層17で覆うことで、周辺地盤11aの変形を抑制し、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0048】
なお、地盤表面補強層17の外径Drは、改良体7の外径Diの5.2倍超6.8倍未満であることが望ましいが、地盤表面補強層17の外径Drを当該範囲まで大きくした場合、地盤表面補強層17の面積が広くなりすぎてしまう。一方、
図5によれば、境界深さZpcを1.5とすれば、非排水せん断強度Cuが0.625
tf/m
2
(≒6.25kN/m
2
)の範囲(N値に換算して
1.0の範囲)までカバーすることができる。境界深さZpcを1.5とすれば、すべり線16bの到達範囲の外径は、杭9を中心として改良体7の外径Diの4倍(4Di)となる。この点を考慮し、地盤表面補強層17の外径Drは、改良体7の外径Diの4倍以上6.8倍未満に設定されるのが好ましい。
【0049】
幾つかの実施形態では、地盤表面補強層17は、コンクリート17a又はアスファルトによって構成されている。
上記構成によれば、地盤表面補強層17をコンクリート17a又はアスファルトによって構成することによって、簡単な構成にて、周辺地盤11aの変形を抑制し、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0050】
図8は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Dの概略的な部分断面図である。
図8に示したように、地盤改良複合杭基礎1Dは、改良体7の表面を覆う改良体表面補強層19を更に備える点において、地盤改良複合杭基礎1Aと異なっている。改良体表面層19は、杭頭部9aを囲むように設けられ、改良体7の表面に密着している。
【0051】
上記構成によれば、改良体表面補強層19を設けることによって、改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を更に高めることができる。
ここで、
図9は、改良体表面補強層19の作用効果を説明するための図である。
図9に示したように、杭頭部9aに大きな水平力が作用すると、杭頭部9aは水平力の作用方向にて前方に移動し、後方に隙間が生じる。また、杭9の側方から前方に向かって30~40度の角度にて亀裂が生じる。このように亀裂や隙間が生じると、水平力の作用方向にて改良体7の後方側は、杭9の水平方向の変位を抑制することができなくなってくる。
【0052】
この点、改良体表面補強層19を設ければ、改良体7のすべりによる浮き上がりを抑えることができる。また、水平抵抗に最も寄与する地表面付近で、杭9と改良体7の一体性を高めることができ、杭9の変形を抑えることができる。このとき、隙間や亀裂が発生していたとしても、改良体表面補強層19を設けたことで、水平力の作用方向にて改良体7の後方側も杭9の変形抑制に寄与することができる。これらの結果、地震動のような繰り返し荷重に対しても、改良体表面補強層19を設ければ、改良体7の損傷を低減させることができる。かくして、改良体表面補強層19を設けることによって、改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を更に高めることができる。
【0053】
図10~
図12は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1E~1Gの概略的な部分断面図である。
図10~
図12に示したように、地盤改良複合杭基礎1E~1Gは、地盤表面補強層17及び改良体表面補強層19を備えている点において、地盤改良複合杭基礎1C又は地盤改良複合杭基礎1Dと異なっている。
上記構成によれば、地盤表面補強層17及び改良体表面補強層19の両方を備えていることによって、杭9の水平抵抗力を更に高めることができる。
【0054】
幾つかの実施形態では、改良体表面補強層19は、
図8及び
図10に示したように金属製の板(鋼板)19aによって構成され、
図11に示したように鉄筋コンクリート19bによって構成され、
図12に示したようにコンクリート19cによって構成され、又は、アスファルトによって構成される。
上記構成によれば、改良体表面補強層19を金属製の板19a、鉄筋コンクリート19b、コンクリート19c又はアスファルトによって構成することによって、簡単な構成にて、改良体7の変形を抑制し、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0055】
図13は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Hの概略的な部分断面図である。
図13に示したように、地盤改良複合杭基礎1Hは、改良体7の内部に、杭9に取り付けられた突起部21を有する点において、地盤改良複合杭基礎1A等と異なっている。突起部21は、地盤11における塑性域Iと塑性域IIとの境界深さに位置する杭9の外周面の部位から上方に向けて斜めに伝播するすべり線16aを遮るように配置されている。
上記構成によれば、突起部21によってすべり線16aの発生が抑制され、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、突起部21は、環状、C字状、筒状又は螺旋状の金属部材を含む。
上記構成によれば、突起部21が環状、C字状、筒状又は螺旋状の金属部材を含むことによって、簡単な構成にてすべり線16aの発生が抑制され、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0057】
図14は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Jの概略的な部分断面図である。
図14に示したように、地盤改良複合杭基礎1Jは、板19aと一体に設けられた突起23を更に備える点において、
図8に示した地盤改良複合杭基礎1Dと異なっている。突起23は、鉛直方向に延在し、改良体7の内部、又は、改良体7と周辺地盤11aとの境界に埋設されている。
上記構成によれば、突起23を設けたことで、改良体7と板19aの一体性が高くなる。また、突起23を設けたことで、すべり線16aが改良体7を通過して周辺地盤11aの表面に到達することが確実に防止される。これらの結果、改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0058】
図15は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Kの概略的な部分断面図である。
図15に示したように、地盤改良複合杭基礎1Kは、板19aと一体に設けられた複数の突起23を備え、突起23が改良体7に埋設されている点において、
図8に示した地盤改良複合杭基礎1Dと異なっている。上記構成によれば、複数の突起23を設けたことで、改良体7と板19aの一体性が高くなる。また、複数の突起23を設けたことで、すべり線16aが改良体7を通過して周辺地盤11aの表面に到達することが確実に防止される。これらの結果、改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0059】
図16は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Lの概略的な部分断面図である。
図16に示したように、地盤改良複合杭基礎1Lは、板19aと一体に設けられた複数の突起23を備え、突起23の長さが相互に異なる点において、
図15に示した地盤改良複合杭基礎1Kと異なっている。例えば、杭9から遠くなるほど、突起23の長さは長くなっている。
上記構成によれば、複数の突起23を設けたことで、改良体7と板19aの一体性が高くなる。また、複数の突起23を設けたことで、すべり線16aが改良体7を通過して周辺地盤11aの表面に到達することが確実に防止される。これらの結果、改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、突起23は、円筒形状若しくは角筒形状の金属製の筒、丸鋼若しくは異形の鉄筋、又は、平鋼等によって構成されている。
上記構成によれば、突起23を、円筒形状若しくは角筒形状の金属製の筒、丸鋼若しくは異形の鉄筋、又は、平鋼等によって構成することで、簡単な構成にて、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0061】
図17は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Mの概略的な平面図である。
図17に示したように、地盤改良複合杭基礎1Mは、板19aが1つ以上の貫通孔25を有する点において、
図8に示した地盤改良複合杭基礎1D等と異なっている。
上記構成によれば、板19aの貫通孔25内に硬化前の改良体7が浸入し、その後硬化することで、板19aと改良体7が相互に密着し、板19aと改良体7の一体性が高くなる。このため、板19aによって改良体7の変形を一層抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0062】
図18は、地盤改良複合杭基礎1Mに用いられる杭9及び板19aの概略的な部分断面図である。
図18に示したように、板19aと杭9は、相互に接合されている。例えば、コンクリート製の杭9に板19aを溶接により接合する場合、杭頭部9aに金属製の補強バンド27を設けておき、補強バンド27に板19aを溶接すればよい。
上記構成によれば、杭9の変形や変位が板19aを介して改良体7に伝達されることで、杭9の変形や変位が抑制されるので、杭9の水平抵抗力を一層高めることができる。
【0063】
なお、
図18中の杭9はPRC杭であり、中空で円筒形状のコンクリート部29と、コンクリート部29の両端に配置された端板31と、端板31間に設けられてコンクリート部29を貫通するPC鋼棒33とを備えている。補強バンド27は、コンクリート部29の両端部の外周面を覆っている。また、杭符号35は溶接部(隅肉溶接部)を示している。
【0064】
図19は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Nの概略的な平面図である。
図20は、
図19中のXX-XX線に沿う地盤改良複合杭基礎1Nに用いられる杭9及び板19aの概略的な部分断面図である。
図19及び
図20に示したように、地盤改良複合杭基礎1Nは、杭9と板19aが相互に接合されながら、杭9と板19aとの間に隙間37が設けられている点において、
図18に示した地盤改良複合杭基礎1Mと異なっている。
上記構成によれば、板19aの貫通孔25及び隙間37に硬化前の改良体7が浸入し、その後硬化することにより、板19と改良体7が相互に密着し、板19aと改良体7の一体性が高くなる。このため、板19aによって改良体7の変形を一層抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0065】
図21は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎(以下、単にフーチング基礎ともいう)3の概略的な平面図である。フーチング基礎3は、地盤改良複合杭1Aとともに、改良体7の略表面全域に渡って設けられたフーチング13を備えている。フーチング13は、コンクリートによって構成されており、改良体7の表面から突出した杭頭部9aを囲んでいる。例えば、杭頭部9aは、50mm~150mmの長さにて改良体7の表面から突出し、フーチング13によって囲まれている。従って、上部構造5に作用する水平力は、フーチング13を介して杭9に作用するように構成されている。
【0066】
一方、フーチング13は、ブロック形状を有し、上部構造5の鉛直荷重を改良体7の全域に渡って伝達するように構成されている。つまり、フーチング基礎3は、杭9によって上部構造5の鉛直荷重を支持するのではなく、改良体7によって支持する点において、杭基礎1と機能において異なっている。そのために、フーチング13の底面積は、改良体7の表面積と略等しく、例えば、フーチング13の底面積をAfとし、改良体7の表面積をAiとしたとき、底面積Afは、表面積Aiの0.8倍以上1.2倍以下であり(0.8Ai≦Af≦1.2Ai)、好ましくは0.9倍以上1.1倍以下であり、より好ましくは0.95倍以上1.05倍以下である。なお、改良体7の表面積Aiは、杭9が沈設された部分の面積、すなわち杭9の表面積も含む。フーチング13には、上部構造5の柱(鉄骨)15が立設されている。
【0067】
また、上記構成によれば、フーチング13が改良体7の略表面全域に渡って設けられているので、フーチング13によって改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。また、フーチング13が改良体7の略表面全域に渡って設けられているので、上部構造5からの鉛直荷重を改良体7に直接負担させることができる。このため、上部構造5の鉛直荷重を杭9を介して改良体7に伝達する必要がなく、杭頭接合構造を簡単にすることができるとともに、杭9として圧縮強度が低い杭を用いることが可能となる。杭頭接合構造を簡単にすることができるのは、対象とする中低層の建物では引抜力が作用しないことがほとんどである等の理由によるものであり、例えば、杭頭部9aをフーチング13に埋設するのみとし、杭頭部9aとフーチング13を鉄筋等で連結しないことを意味する。更に、上記構成によれば、杭9の鉛直荷重を改良体7に伝達するために、杭9に突起を設ける必要がない。ただし、後述するように、改良体7に鉛直荷重を伝達するためではなく、すべり線16aを遮るための突起を杭9に設けてもよい。
【0068】
図22は、
図21のフーチング基礎3の設計方法(以下、単に設計方法ともいう)の概略的な手順を示すフローチャートである。
図23は、設計方法を説明するための図である。
図22に示したように、設計方法は、地盤表層部判定工程S1、改良体径設定工程S3、杭本数設定工程S5、杭水平抵抗力判定工程S7、改良体深さ設定工程S9、及び、鉛直支持力判定工程S11を備えている。
【0069】
地盤表層部判定工程S1では、地盤11の表層部の改良が必要であるか否かを判定する。具体的には、地盤11の表層部が粘土地盤であり軟弱である場合に、改良が必要であると判定する。
改良が必要である場合、改良体径設定工程S3及び杭本数設定工程S5が実施される。
改良体径設定工程S3では、杭9を中心とする改良体7の外径をDiとし、杭9の外径をDpとしたとき、次式:
5.2Dp<Di<6.8Dp
で示される関係が満たされるように、改良体7の外径Di及び杭9の外径Dpが設定される。
【0070】
あるいは、改良体径設定工程S3では、杭9の外径をDpとし、平面視にて杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離をLpiとしたとき、次式:
2.6Dp<Lpi<3.4Dp
で示される関係が満たされるように、杭9の外径Dp及び杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離Lpiが設定される。
【0071】
杭本数設定工程S5では、改良体7に沈設される杭9の数nが適宜設定される。なお、1つの改良体7に複数の杭9が沈設される場合、杭9の中心間隔Lcは、例えば、2.0Dp~2.5Dpに設定される。
【0072】
改良体径設定工程S3及び杭本数設定工程S5の後、杭水平抵抗力判定工程S7が実施される。杭水平抵抗力判定工程S7では、改良体径設定工程S3及び杭本数設定工程S5で設定された仕様に基づいて、杭9の水平抵抗力が判定される。
具体的には、上部構造5を考慮してフーチング13から各杭9に作用する水平荷重Q/nを与え、杭9の水平変位量や発生曲げモーメント等が許容値以内であるか否か判定する。水平変位量や発生曲げモーメント等が許容値を超えている場合、杭9の水平抵抗力は不十分であると判定され、改良体径設定工程S3及び杭本数設定工程S5が再度実施される。
【0073】
一方、水平変位量や発生曲げモーメント等が許容値以内であれば、杭9の水平抵抗力は十分であると判定され、改良体深さ設定工程S9が実施される。
改良体深さ設定工程S9では、改良体7の長さLiが適宜設定される。改良体7の長さLiは、杭9の長さ(杭長)Lp以上に設定される(Li≧Lp)。なお、杭長Lpは、杭9を長い杭とみなせるように設定される。具体的には、杭9の特性値βを用いて杭長Lpは、次式:
Lp>3/β
を満たすように設定される。
なお、特性値βは次式:
β=(khDp/4EI)^0.25
で示される。式中の記号は以下の通りである。
kh:水平地盤反力係数 kh=ξ・α・700N・(Dp)^-0.75
N:N値
Dp:無次元化杭径(杭径をcmで表した無次元化数値)
ξ:割り増し係数
α:定数
【0074】
改良体深さ設定工程S9の後、鉛直支持力判定工程S11が実施される。鉛直支持力判定工程S11では、改良体7の鉛直支持力が十分であるか否かが判定される。
具体的には、鉛直支持力が十分であるか否かは、次式:
qa=min(qa1,qa2)≧σe=Na/Af
が成立するか否かによって判定される。
なお、式中の記号は以下の通りである。
qa1=(1/3)・{(qd・Ab+ψΣτdi・hi)/Af}
qa2=(1/3)・{(Rpu+ψΣτdi・hi)/Af}
σe:改良体鉛直応力度
Na:長期柱軸力
qd:下部地盤の極限鉛直支持力度(kN/m2)
Ab:改良体の底面積(m2)
τdi:改良体の各層の極限周面摩擦応力度(kN/m2)
hi:各層の層厚(m)
ψ:改良体の外周長(m)
Af:フーチングの底面積又は改良体の断面積(m2)
Rpu:改良体の極限先端鉛直支持力(kN/m2)
【0075】
すなわち、フーチング13から改良体7に作用する鉛直応力度σeを、改良体7及び改良体7の下部地盤が支持することができるか否かを判定する。
改良体7の鉛直支持力が不十分であると判定された場合、杭本数の設定変更が必要であれば、杭本数設定工程S5が再度実施され、不必要であれば、改良体深さ設定工程S9が再度実施される。一方、改良体7の鉛直支持力が十分であると判定された場合、設計は終了する。
【0076】
上述した設計方法を地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法に適用する場合、フーチング13の底面積をAfとし、改良体7の表面積をAiとしたとき、次式:
0.8Ai≦Af≦1.2Ai
で示される関係を満たすように、フーチング13の底面積Af及び改良体の表面積Aiを設定する。
【0077】
上記した地盤改良複合杭基礎の設計方法によれば、改良体7の外径Diを5.2Dp超6.8Dp未満に設定することにより、あるいは杭9の中心から改良体7の外縁又は改良体7に外接する多角形までの距離Lpiを2.6Dp超3.4Dp未満に設定することにより、境界深さから伝播するすべり線16aの略全域が改良体を通過することになり、すべり線16aにおける粘性ひいてはせん断力を高くすることができる。この結果として、すべり線16aの発生が抑制され、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0078】
また上記した地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎の設計方法によれば、フーチング13が改良体7の略表面全域に渡って設けられているので、フーチング13によって改良体7の変形を抑制することができ、杭9の水平抵抗力を高めることができる。また、フーチング13が改良体7の略表面全域に渡って設けられているので、上部構造5からの鉛直荷重を改良体7に直接負担させることができる。このため、上部構造5の鉛直荷重を杭9を介して改良体7に伝達する必要がなく、杭頭接合構造を簡単にすることができるとともに、上部構造5の鉛直荷重を杭9介して改良体7へ伝達させるための突起などを杭9に設ける必要がなく、杭9として圧縮強度が低い杭を用いることが可能となる。
【0079】
図24は、本発明の他の実施形態に係る地盤改良複合杭基礎1Pを用いたフーチング基礎3の概略的な部分断面図である。
先述した実施形態では、地盤11の表層部は粘土地盤であったが、地盤改良複合杭基礎1Pは、砂を主成分とする砂質地盤に適用される。地盤11の表層部が砂質地盤であっても、杭9を中心とする改良体7の外径Diを、地盤11における塑性域Iと塑性域IIの境界深さに基づいて設定すればよい。
ここで、
図25は、砂質地盤におけるN値(標準貫入試験による打撃回数)と境界深さZpcとの関係を示すグラフである。
図26は、砂質地盤における内部摩擦角φと境界深さZpcとの関係を示すグラフである。すべり線16aの角度θは、次式:
θ=45+φ/2
によって表される。
【0080】
従って、
図25及び
図26を用いて、砂質地盤であっても、N値から境界深さを求め、更にすべり線16aの角度θを求めることで、境界深さから伝播したすべり線16aが地盤11の表面に到達する範囲を把握することができる。当該範囲を改良体7とすることで、すべり線16aが全域に渡って改良体7を通過するようにすることができる。
かくして、杭9を中心とする改良体7の外径Diを、地盤11における塑性域Iと塑性域IIの境界深さに基づいて設定し、境界深さから伝播したすべり線16aが全域に渡って改良体7を通過するようにすれば、すべり線16aにおける粘性ひいてはせん断力を高くすることができ、すべり線16aの発生が抑制され、杭9の水平抵抗力を高めることができる。
【0081】
最後に、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態やこれらを組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0082】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J,1K,1L,1M,1N,1P 地盤改良複合杭基礎
3 地盤改良複合杭併用独立フーチング基礎
5 上部構造
7,7a,7b,7c,7d,7e,7f,7g,7h 改良体
9 杭
9a 杭頭部
9b 先端部
11 地盤
11a 周辺地盤
13 フーチング
15 柱
16a,16b すべり線
17 地盤表面補強層
17a コンクリート
19 改良体表面補強層
19a 板
19b 鉄筋コンクリート
19c コンクリート
21 突起部
23 突起
25 貫通孔
27 補強バンド
29 コンクリート部
31 端板
33 PC鋼棒
35 溶接部(隅肉溶接部)
37 隙間