(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】液体定量吐出装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20240620BHJP
B05B 1/32 20060101ALI20240620BHJP
F16K 1/42 20060101ALI20240620BHJP
G01K 11/12 20210101ALI20240620BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05B1/32
F16K1/42 G
G01K11/12 A
C09K9/02 C
(21)【出願番号】P 2020025683
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪内 繁貴
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 暢一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-005470(JP,A)
【文献】特開2018-179826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00- 5/04
B05B1/00- 3/18
7/00- 9/08
F16K1/00- 1/54
G01K1/00-19/00
C09K9/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を基材上に定量的に吐出してポッティングする液体定量吐出装置であって、
流動体状または半流動体状の液体を吐出する吐出口を有するノズルと、
前記ノズルに前記液体を供給する液室と、
前記液室内を前記ノズルに対して往復動可能なバルブと、
前記ノズルと前記液室との間に配置されており、前記ノズルの前記吐出口と前記液室との間を連通する貫通孔を有するバルブシートと、を備え、
前記液体は、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が加熱によって溶融した樹脂組成物であって、ロイコ染料、顕色剤および消色剤によって構成される示温材と、顕色作用および消色作用を有しないマトリックス材料と、を含
む粘性を有する液体であり、
前記バルブシートは、前記貫通孔の周囲に凹部が設けられており、
前記凹部は、前記ノズルの先端面に正対する底面を有し、
前記バルブの先端部は、ボール状であり、
前記バルブシートは、ボール形状に減肉された前記凹部を有し、
前記バルブの曲率半径は、前記凹部の曲率半径よりも大きく、
前記バルブの先端部が前記バルブシートに当接したとき、前記バルブの先端部と前記凹部の最底部との間に空間が形成される液体定量吐出装置。
【請求項2】
液体を基材上に定量的に吐出してポッティングする液体定量吐出装置であって、
流動体状または半流動体状の液体を吐出する吐出口を有するノズルと、
前記ノズルに前記液体を供給する液室と、
前記液室内を前記ノズルに対して往復動可能なバルブと、
前記ノズルと前記液室との間に配置されており、前記ノズルの前記吐出口と前記液室との間を連通する貫通孔を有するバルブシートと、を備え、
前記液体は、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が加熱によって溶融した樹脂組成物であって、ロイコ染料、顕色剤および消色剤によって構成される示温材と、顕色作用および消色作用を有しないマトリックス材料と、を含
む粘性を有する液体であり、
前記バルブシートは、前記貫通孔の周囲に凹部が設けられており、
前記凹部は、前記ノズルの先端面に正対する底面を有し、
前記バルブは、逆円錐台状であり、
前記バルブシートは、逆円錐台状に減肉された前記凹部を有し、
前記バルブの先端の全幅は、前記凹部の底面の全幅よりも大きく、
前記バルブの先端部が前記バルブシートに当接したとき、前記バルブの先端部と前記凹部の最底部との間に空間が形成される液体定量吐出装置。
【請求項3】
液体を基材上に定量的に吐出してポッティングする液体定量吐出装置であって、
流動体状または半流動体状の液体を吐出する吐出口を有するノズルと、
前記ノズルに前記液体を供給する液室と、
前記液室内を前記ノズルに対して往復動可能なバルブと、
前記ノズルと前記液室との間に配置されており、前記ノズルの前記吐出口と前記液室との間を連通する貫通孔を有するバルブシートと、を備え、
前記液体は、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が加熱によって溶融した樹脂組成物であって、ロイコ染料、顕色剤および消色剤によって構成される示温材と、顕色作用および消色作用を有しないマトリックス材料と、を含
む粘性を有する液体であり、
前記バルブシートは、前記貫通孔の周囲に凹部が設けられており、
前記凹部は、前記ノズルの先端面に正対する底面を有し、
前記バルブは、先端面が平面であり、
前記バルブシートは、前記凹部を有し、
前記バルブの先端の全幅は、前記凹部の全幅よりも大きく、
前記バルブの先端部が前記バルブシートに当接したとき、前記バルブの先端部と前記凹部の最底部との間に空間が形成される液体定量吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動体状または半流動体状の液体を定量的に吐出させる液体定量吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生鮮食品、医薬品等の品質管理に、温度検知ラベルが用いられている。温度検知ラベルは、温度に応答して顕色したり、消色したりするラベルであり、温度管理が必要な製品に貼付される等している。温度検知ラベルとしては、リライタブルな示温材を用いた簡便に初期化可能なものや、時間と温度の積算で色が変化する時間-温度インジケータ(Time-Temperature Indicator:TTI)も開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、温度検知材料と、基板と、を含み、基板上に温度検知材料を配設された温度インジケータが記載されている。温度検知材料は、第1示温材および第2示温材がヒステリシス特性を有しており、温度上昇と温度下降の両方を検知可能とされている。温度インジケータは、基材上に温度検知材料をスペーサと共に配置し、これらを透明基材で覆った構造に設けられている。
【0004】
温度検知材料としては、温度に応答して顕色する示温材を固体中に分散させるために、熱可塑性樹脂等のマトリックス材料が用いられることがある。温度検知ラベルは、このような示温材とマトリックス材料を含む樹脂組成物を、加熱して溶融させた後、基材上にポッティングすることによって作製されている。
【0005】
溶融状態の樹脂組成物のような流動体状または半流動体状の液体を塗布するプロセスでは、液体を定量的に吐出させるバルブディスペンサが広く用いられている。バルブディスペンサとしては、液体を空気圧で加圧して吐出させるエアー式のディスペンサや、液体を機械的に加圧して吐出させる機械式のディスペンサ等が知られている。
【0006】
一般に、バルブディスペンサは、シリンダ状の本体内に液室を有しており、往復動可能なバルブロッドを、液室を貫通するように備えている。バルブロッドの先端に備えられるバルブ本体の形態としては、ニードル型、ポペット型、ボール型等がある。バルブディスペンサとしては、液体を吐出するノズル側にバルブ本体が当接する着座式のものが知られている。
【0007】
着座式のバルブディスペンサにおいて、ノズルと液室との間には、バルブ本体に対向するように、貫通孔が設けられたバルブシートが配置されている。液室内の液体は、エアー式ないし機械式の加圧によって所定のエネルギが加えられ、バルブシートの貫通孔を通り、ノズルの吐出口から定量的に吐出される。
【0008】
特許文献2には、バルブを有する流体ディスペンサが記載されている。このような一般的なディスペンサにおいて、バルブシートの貫通孔の周囲には、横断面視で凹状の弁座面が形成されている。凹状の弁座面が形成されているバルブシートに、バルブ本体が当接すると、貫通孔が閉じて液体の吐出経路が閉塞する構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-179826号公報
【文献】特開2016-175071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
温度検知ラベルの製造において、温度に応答して顕色する示温材や、熱可塑性樹脂等のマトリックス材料を含む温度検知材料は、溶融状態となるように予め加熱されている。溶融して流動体状または半流動体状となった温度検知材料は、バルブディスペンサで基材上にポッティングされた後、透明フィルムで覆われて封止されている。バルブディスペンサによるポッティングは、溶融状態の温度検知材料がある程度の厚さとなるように定量的に行われている。
【0011】
しかし、温度検知ラベルの製造において、従来の一般的なバルブディスペンサを用いると、温度検知材料が厚くなり、基材上にポッティングされた温度検知材料の全高が高くなる問題を生じている。基材上にポッティングされた温度検知材料の全高が高すぎると、透明フィルムで封止するときに、基材と透明フィルムとの間に空隙が形成され易くなる。
【0012】
温度検知ラベルの製造においては、示温材を消色状態に初期化させる目的で、示温材を融点以上に加熱する溶融処理が行われることがある。微小な空隙や気泡であれば、このような溶融処理で消失させることが可能である。しかし、基材と透明フィルムとの間に大きな空隙が形成されていると、溶融処理を行ったとしても、空隙が残存し易くなるため、ラベル表示の視認性が悪化する問題を生じる。
【0013】
空隙の形成を防ぐ対策としては、特許文献1のように、ポッティングされる温度検知材料を囲むように、基材上にスペーサを配置する方法がある。しかし、スペーサを用いると、温度検知ラベルが厚くなり、ロール状等に湾曲させた形態で製造することができなくなる。また、部材点数が増えるため、温度検知ラベル自体の材料コストが高くなることも問題になる。
【0014】
そこで、本発明は、流動体状または半流動体状の液体を薄くポッティングすることができる液体定量吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、前記課題を解決するために本発明に係る液体定量吐出装置は、液体を基材上に定量的に吐出してポッティングする液体定量吐出装置であって、流動体状または半流動体状の液体を吐出する吐出口を有するノズルと、前記ノズルに前記液体を供給する液室と、前記液室内を前記ノズルに対して往復動可能なバルブと、前記ノズルと前記液室との間に配置されており、前記ノズルの前記吐出口と前記液室との間を連通する貫通孔を有するバルブシートと、を備え、前記液体は、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が加熱によって溶融した樹脂組成物であって、ロイコ染料、顕色剤および消色剤によって構成される示温材と、顕色作用および消色作用を有しないマトリックス材料と、を含む粘性を有する液体であり、前記バルブシートは、前記貫通孔の周囲に凹部が設けられており、前記凹部は、前記ノズルの先端面に正対する底面を有し、前記バルブの先端部は、ボール状であり、前記バルブシートは、ボール形状に減肉された前記凹部を有し、前記バルブの曲率半径は、前記凹部の曲率半径よりも大きく、前記バルブの先端部が前記バルブシートに当接したとき、前記バルブの先端部と前記凹部の最底部との間に空間が形成される。または、前記バルブは、逆円錐台状であり、前記バルブシートは、逆円錐台状に減肉された前記凹部を有し、前記バルブの先端の全幅は、前記凹部の底面の全幅よりも大きい。または、前記バルブは、先端面が平面であり、前記バルブシートは、前記凹部を有し、前記バルブの先端の全幅は、前記凹部の全幅よりも大きい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、流動体状または半流動体状の液体を薄くポッティングすることができる液体定量吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
【
図3】液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
【
図4】液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
【
図5】降温過程で顕色する示温材の温度による色濃度変化を示す図である。
【
図6】昇温過程で顕色する示温材の温度による色濃度変化を示す図である。
【
図7】降温過程で顕色する示温材と昇温過程で顕色する示温材とを組み合わせた場合の温度による色濃度変化を示す図である。
【
図8A】顕色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
【
図8C】消色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
【
図9A】顕色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
【
図9C】消色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<液体定量吐出装置>
以下、本発明の一実施形態に係る液体定量吐出装置について、図を参照しながら説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、実施形態を概略的に示したものである。本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値とする意味である。以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、液体定量吐出装置の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る液体定量吐出装置1は、ハウジング2と、チャンバライナ3と、下部固定部材4と、液体ポート部材5と、ノズル本体6と、ノズル固定部材7と、バルブロッド8と、バルブ先端部(バルブ)9と、バルブシート10と、ピストン11と、上部固定部材12と、シリンダばね13と、気体ポート部材14と、液体シール部材15と、気体シール部材16と、液体容器20と、液体チャンバ(液室)50と、気体チャンバ51と、を備えている。
【0020】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1は、流動体状または半流動体状の吐出液(液体)を定量的に吐出させることができる装置である。
図1には、このような装置の一例として、エアー駆動式のバルブロッドを備えたバルブディスペンサである液体定量吐出装置1を示している。
図1においては、液体定量吐出装置1の本体部側について、その断面構造を示している。
【0021】
図1に示す液体定量吐出装置1は、吐出液の吐出経路を開閉するバルブ本体として、バルブ先端部9を備えている。また、液体定量吐出装置1は、座ぐり(凹部)を有するバルブシート10を備えている。バルブシート10の座ぐりは、バルブ先端部9の先端側と略同様の形状に減肉された形状とされている。
【0022】
液体定量吐出装置1は、略円筒形状に設けられた本体部を有している。液体定量吐出装置1の本体部は、流動体状または半流動体状の吐出液を吐出するためのエアー駆動式の機構を備えている。本体部は、ハウジング2、チャンバライナ3、下部固定部材4、液体ポート5、上部固定部材12、気体ポート部材14等によって構成されている。
【0023】
液体定量吐出装置1の本体部には、液体容器20が接続されている。液体容器20は、液体定量吐出装置1によって吐出させる吐出液を貯留する容器である。液体容器20は、不図示のバルブを内蔵しており、貯留している吐出液を、必要時に、本体部に供給する構成とされている。吐出液としては、例えば、示温材や熱可塑性樹脂等を含む温度検知材料が溶融状態で用意される。
【0024】
ハウジング2は、略円筒形状に設けられており、下部側の内部に、円柱状の空間である下部空間を有している。また、上部側の内部に、円柱状の空間である上部空間を有している。下部空間と上部空間とは、ハウジング2と略同心に設けられた連通孔2aで互いに連通している。下部空間には、ハウジング2よりも小径の円筒形状に設けられたチャンバライナ3が嵌め込まれている。
【0025】
チャンバライナ3は、液体チャンバ50を形成する部材であり、下部固定部材4によってハウジング2の下部に固定されている。下部固定部材4は、ハウジング2と略同径の円筒形状に設けられている。下部固定部材4は、チャンバライナ3の外側を覆うように配置されて、ハウジング2の下部に不図示のボルト-ナット結合等で固定されている。
【0026】
液体定量吐出装置1は、吐出液を吐出するためのノズルを本体部の下方に有している。ノズルは、ノズル本体6、ノズル固定部材7等によって構成されている。
【0027】
ノズル本体6は、ノズル固定部材7によってチャンバライナ3の下方に固定されている。ノズル固定部材7は、有底の円筒形状に設けられている。ノズル固定部材7は、ノズル本体6の外側および下側を覆うように配置されて、チャンバライナ3の下部に不図示のボルト-ナット結合等で固定されている。
【0028】
ノズル本体6は、円板形状に設けられた基部と、基部から下方に向けて突出する先端部を有する形状に設けられている。ノズル本体6は、吐出液を吐出するための吐出口6aを有している。吐出口6aは、ハウジング2と略同心となるノズル本体6の中央に設けられている。吐出口6aは、液体チャンバ50と装置外との間を連通している。
【0029】
チャンバライナ3の内側には、円柱状の空間である液体チャンバ50が形成されている。液体チャンバ50は、吐出液をノズルに送出するバルブロッド8を内蔵しており、液体容器20から送られる吐出液をノズル本体6等によって形成されるノズルに供給する空間となっている。チャンバライナ3の側部には、チャンバライナ3とハウジング2を貫通するように液体ポート部材5が取り付けられている。
【0030】
液体ポート部材5は、略管状に設けられており、吐出液が通流可能な液体ポート5aを有している。液体ポート5aは、液体容器20の内部と液体チャンバ50との間を連通している。
【0031】
液体定量吐出装置1は、液体の吐出を駆動するためのピストン11を本体部の上部に有している。ピストン11は、ハウジング2の上部空間に、ハウジング2の長手方向に沿って往復動可能に支持されている。ピストン11は、略円板状に設けられており、ハウジング2の上部空間の内壁に対して、不図示のピストンシールを介して気密に接している。
【0032】
ピストン11は、上部固定部材12に支持されたシリンダばね13によって、ノズル側に弾性的に付勢されている。上部固定部材12は、ハウジング2と略同径の円柱形状に設けられている。上部固定部材12は、ハウジング2の上部空間を覆うように配置されて、ハウジング2の上部に不図示のボルト-ナット結合等で固定されている。
【0033】
ハウジング2の上部空間の内側には、ピストン11によって区画される下方側に、円柱状の空間である気体チャンバ51が形成されている。気体チャンバ51は、ピストン11を駆動する作動ガスが不図示のガス供給装置から供給される空間となっている。気体チャンバ51の側方には、ハウジング2を貫通するように気体ポート部材14が取り付けられている。
【0034】
気体ポート部材14は、略管状に設けられており、作動ガスが通流可能な気体ポート14aを有している。気体ポート14aは、不図示のガス供給装置と気体チャンバ51との間を連通している。
【0035】
液体チャンバ50と気体チャンバ51との間は、ハウジング2の連通孔2aによって、互いに連通している。連通孔2aには、バルブロッド8が挿通されている。バルブロッド8は、ハウジング2の長手方向に沿って延在している。バルブロッド8の基端は、ハウジング2と略同心となるピストン11の中央に固定されている。バルブロッド8は、ピストン11と連動してハウジング2の長手方向に沿って往復動可能な状態で支持されている。
【0036】
ハウジング2の連通孔2aには、液体チャンバ50側の内壁に、液体チャンバ50を液密に密閉するための液体シール部材15が取り付けられている。バルブロッド8は、液体シール部材15と摺動しながら往復動可能とされている。液体チャンバ50は、バルブロッド8が往復動しても、液体容器20から供給された吐出液が漏出しないように設けられている。
【0037】
また、ハウジング2の連通孔2aには、気体チャンバ51側の内壁に、気体チャンバ51を気密に密閉するための気体シール部材16が取り付けられている。バルブロッド8は、気体シール部材16と摺動しながら往復動可能とされている。気体チャンバ51は、バルブロッド8が往復動する間に、ピストン11を駆動する作動ガスが漏出しないように設けられている。
【0038】
バルブロッド8の先端には、吐出液の吐出経路を開閉するバルブ本体として、バルブ先端部9が設けられている。チャンバライナ3の下方には、ノズル固定部材7との間に、バルブシート10が挟まれている。バルブシート10は、ノズル本体6と液体チャンバ50との間に配置されている。バルブシート10は、吐出液の吐出経路を密閉する働きや、ノズル側に当接するバルブロッド8の衝撃を緩衝させる働きを有している。
【0039】
バルブシート10は、略円板状に設けられており、バルブ先端部9の先端面に対向するように配置されている。バルブシート10は、吐出液を通過させる貫通孔10aを有している。貫通孔10aは、ハウジング2と略同心となるバルブシート10の中央に設けられている。貫通孔10aは、ノズル本体6の吐出口6aと液体チャンバ50との間を連通している。
【0040】
バルブシート10には、液体チャンバ50に臨む上面に、座ぐり10bが設けられている。座ぐり10bは、バルブシート10の上面の貫通孔10aの周囲に形成されている。座ぐり10bは、バルブシート10に当接したバルブ先端部9の座りが安定するように、横断面視で凹状に設けられている。座ぐり10bは、横断面視において、バルブ先端部9の先端側と略相似した形状に減肉されている。座ぐり10bは、ノズルの軸方向に対して略垂直であり、ノズル先端部9の先端面に略正対する底面を有している。
【0041】
液体定量吐出装置1において、ピストン11は、加圧された作動ガスが気体チャンバ51に供給されると、シリンダばね13の収縮を伴って上方に引き上げられ、バルブロッド8をノズルから離隔する方向に移動させる。一方、加圧された作動ガスが気体チャンバ51から排気されると、シリンダばね13の伸長を伴って下方に押し下げられ、バルブロッド8をノズルに近接する方向に移動させる。
【0042】
このようにバルブロッド8の往復動が駆動されると、バルブ先端部9は、バルブシート10から離隔した位置と、バルブシート10に当接する位置との間で、ピストン11に連動して往復動する。バルブ先端部9は、ピストン11が引き上げられると、バルブシート10の表面から離隔するように引動作する。一方、ピストン11が押し下げられると、バルブシート10の表面に当接する位置まで押動作する。
【0043】
液体定量吐出装置1は、バルブ本体であるバルブ先端部9が、バルブシート10の表面に当接する着座式のバルブディスペンサとされている。液体定量吐出装置1では、バルブ先端部9がバルブシート10から離隔した状態において、吐出口6aを通じた吐出液の吐出が可能になる。一方、バルブ先端部9がバルブシート10に当接した状態において、吐出口6aを通じた吐出液の吐出が不能になる。
【0044】
バルブ先端部9がバルブシート10から離隔した初期位置にあるとき、バルブ先端部9の押動作が駆動されると、液体チャンバ50に供給された吐出液に押圧によるエネルギが伝達される。押動作を駆動されたバルブ先端部9がバルブシート10に当接すると、吐出液を吐出させる動作が中止される。その後、バルブ先端部9の引動作が駆動されると、バルブ先端部9が初期位置に復帰する。
【0045】
液体定量吐出装置1では、ノズルから吐出される吐出量が、1ストローク当たり、略一定量に制御される。吐出口6aから吐出される吐出液は、液体容器20内で加圧されてもよい。ノズルから吐出される吐出量は、バルブ先端部9およびバルブシート10の形状や表面積、吐出液に加えられる吐出圧力、吐出液を吐出させる吐出時間、吐出液の粘度等に依存するため、これらに応じて吐出量が調整される。
【0046】
図2は、液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
図2に示すように、液体定量吐出装置1のバルブ先端部9は、例えば、略球状(以下、ボール状という。)や略半球状に設けることができる。また、液体定量吐出装置1のバルブシート10は、バルブ先端部9の形状と略相似したボール形状の一部で減肉された座ぐりを有する形状に設けることができる。
【0047】
図2には、ボール状のバルブ先端部109と、ボール形状の一部で減肉されたバルブシート110と、を備えた液体定量吐出装置1のバルブ部の要部断面図を示す。
図2Aは、バルブ先端部109がバルブシート110から離隔している初期状態である。
図2Bは、バルブ先端部109がバルブシート110に当接した押動作の終了時の状態である。なお、本明細書において「当接」とは少なくとも一部が接触した状態を意味する。
【0048】
図2Aに示すように、バルブ先端部109のノズル側と、バルブシート110の座ぐり110bとは、横断面視において、互いに略相似した形状の表面を有している。バルブ先端部109のノズル側は、部分球状を呈している。座ぐり110bは、部分球状に減肉された凹状を呈している。
【0049】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、このようなボール状のバルブ先端部109の曲率半径が、バルブシート110の座ぐり110bの曲率半径よりも大きく設けられている。すなわち、バルブ先端部109のノズル側の表面の曲率は、座ぐり110bの表面の曲率よりも小さく設けられている。バルブ先端部109の全幅(直径)は、バルブシート110の座ぐり110bの全幅(直径)よりも大きく設けられている。
【0050】
また、バルブシート110の貫通孔110aは、凹状に設けられた座ぐり110bの底部に設けられている。座ぐり110bの底部は、ノズル軸に対して垂直な略平面状を呈していてもよい。貫通孔110aおよび吐出口106aは、座ぐり110bの全幅(直径)よりも十分に小径の略円柱状を呈している。
【0051】
従来の一般的なバルブは、多くの場合、バルブ先端部の形状と、バルブシートに設けられた座ぐりの形状とが、略一致する形状に設けられている。従来の一般的なバルブは、バルブ先端部がバルブシートに対して当接したとき、バルブ先端部の先端側の表面と、バルブシートの座ぐりの表面とが、略全面にわたって面接触するような形状である。
【0052】
そのため、従来の一般的なバルブの場合、バルブ先端部がバルブシートに対して当接したとき、バルブ先端部とバルブシートとの間に空間が形成されることはない。液体チャンバ側の液体が、バルブロッドのストロークによって、一時に完全に押し出される構造になっている。このような従来の一般的なバルブでは、基材上に液体をポッティングしたとき、基材上に吐出された液体の全高が高くなる。
【0053】
このような、ポッティングされた液体の全高が高くなる現象は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物等のように、粘性を有する液体の場合に顕著になる。例えば、温度検知ラベルの製造に際して、熱可塑性樹脂を含む温度検知材料を基材上にポッティングすると、基材上にポッティングされた温度検知材料の全高が高くなり、薄い材料層の形成が困難になる。温度検知材料の全高が高くなると、温度検知材料を透明基材で封止するとき、基材と透明基材とが互いに面接触し難くなるため、基材と透明基材との間に大きな空隙が形成され易くなる。
【0054】
温度検知ラベルの製造に際しては、示温材を消色状態に初期化させる目的で、示温材を融点以上に加熱する溶融処理が行われることがある。しかし、基材と透明基材との間に大きな空隙が形成されている場合には、溶融処理によって温度検知材料を流動化させたとしても、空隙ないし気泡が完全には排除されなくなる。透明基材の裏面等に空隙が残るため、屈折、散乱等を生じて、ラベル表示の視認性が悪化する。
【0055】
ポッティングされた液体の全高が高くなる現象は、ディスペンサのバルブ部が種々の形状である場合に起こる可能性がある。例えば、バルブシートの貫通孔とノズルの吐出口とが先端側に向かうに連れてテーパ状に縮径している構造(特許文献2参照)等においても、液体を薄くポッティングすることが容易ではない。
【0056】
これに対し、本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、
図2Bに示すように、バルブ先端部109の曲率半径が、バルブシート110の座ぐり110bの曲率半径よりも大きく設けられているため、バルブ先端部109がバルブシート110に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部109の中央側の表面と、バルブシート110の中央側(貫通孔110a側)の表面とが、対向する表面同士で互いに接触しない状態になる。すなわち、バルブの先端部と、バルブシートの凹部の最低部との間に空間が形成される。
【0057】
一方、バルブ先端部109がバルブシート110に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部109の外側の表面と、バルブシート110の外側(貫通孔110aとは反対側)の表面とは、互いに接触する状態になる。このような外側の接触は、平面視で円環状の線接触となる。この外側の接触によって、液体を吐出させる押動作が実質的に中止される。
【0058】
このようなバルブ部の構造によると、吐出液を吐出させる押動作の終了時に、バルブ先端部109の中央側の表面と、バルブシート110の中央側(貫通孔110a側)の表面との間に、液溜空間150が形成される。
【0059】
液溜空間150は、座ぐり110bの全幅(直径)に近い全幅を有し、バルブシート110の貫通孔110aよりも大径の空間となる。また、バルブシート110の貫通孔110aは、凹状に設けられた座ぐり110bの略平面状を呈する底部に設けられているため、バルブ先端部109の先端側の表面と、座ぐり110bの底部の表面とが、液溜空間150を挟んで正対する。
【0060】
このような液溜空間150が形成されるバルブ部の構造によると、バルブ本体であるバルブ先端部109によって吐出液に加えられるエネルギを緩和させるような作用が得られる。このような作用によって、基材上等に液体をポッティングしたとき、基材上に吐出された液体の全高が低くなり、流動体状または半流動体状の液体を薄くポッティングすることができるようになる。
【0061】
また、
図2に示すバルブ部の構造によると、バルブ先端部109がボール状に設けられているため、応力が分散され易くなり、バルブ先端部109やバルブシート110について、摩耗による形状変化や、当接時の衝撃力による変形・破壊を抑制することができる。
【0062】
なお、バルブ先端部109は、液溜空間150が形成される限り、直径や曲率半径等の形状、表面積、材質等が、特に制限されるものではない。また、バルブシート110は、液溜空間150が形成される限り、形状、表面積、材質、座ぐりの全幅、貫通孔径等が、特に制限されるものではない。液体の吐出は、適宜の吐出圧力や吐出時間で行うことができる。
【0063】
但し、吐出液に加えられるエネルギを緩和させる点から、座ぐり110bの底部は、バルブ先端部109の先端側の表面と正対する略平面であり、略水平であることが好ましい。また、ノズルの中心軸上において、座ぐり110bの底部と、バルブ先端部109の先端側の表面とは、互いに平行であるか、成す角が鋭角であることが好ましい。また、座ぐり110bの全幅(直径)は、貫通孔110aや吐出口106aの孔径よりも、半分程度以下に小さいことが好ましい。
【0064】
図3は、液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
図3に示すように、液体定量吐出装置1のバルブ先端部9は、逆円錐台状に設けることもできる。また、液体定量吐出装置1のバルブシート10は、バルブ先端部9の形状と略相似した逆円錐台形状の一部で減肉された座ぐりを有する形状に設けることもできる。
【0065】
図3には、逆円錐台状のバルブ先端部209と、逆円錐台形状の一部で減肉されたバルブシート210と、を備えた液体定量吐出装置1のバルブ部の要部断面図を示す。
図3Aは、バルブ先端部209がバルブシート210から離隔している初期状態である。
図3Bは、バルブ先端部209がバルブシート210に当接した押動作の終了時の状態である。
【0066】
図3Aに示すように、バルブ先端部209のノズル側と、バルブシート210の座ぐり210bとは、横断面視において、互いに略相似した形状の表面を有している。バルブ先端部209のノズル側は、ノズル側に向かうにつれて縮径する逆円錐台状を呈している。座ぐり210bは、ノズル側に向かうにつれて縮径する逆円錐台状に減肉された凹状を呈している。
【0067】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、このような逆円錐台状のバルブ先端部209のノズル側の先端の全幅(直径)が、バルブシート210の座ぐり210bの底部の全幅(直径)よりも大きく設けられている。バルブ先端部209の全幅(直径)は、バルブシート210の座ぐり210bの底面の全幅(直径)よりも大きく設けられている。
【0068】
また、バルブシート210の貫通孔210aは、凹状に設けられた座ぐり210bの底部に設けられている。座ぐり210bの底部は、ノズル軸に対して垂直な略平面状を呈している。貫通孔210aおよび吐出口206aは、座ぐり210bの底部の全幅(直径)よりも十分に小径の略円柱状を呈している。
【0069】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、
図3Bに示すように、バルブ先端部209のノズル側の先端の全幅(直径)が、バルブシート210の座ぐり210bの底部の全幅(直径)よりも大きく設けられているため、バルブ先端部209がバルブシート210に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部209の中央側の表面と、バルブシート210の中央側(貫通孔210a側)の表面とが、互いに接触しない状態になる。
【0070】
一方、バルブ先端部209がバルブシート210に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部209の外側の表面と、バルブシート210の外側(貫通孔210aとは反対側)の表面とは、互いに接触する状態になる。このような外側の接触は、バルブ先端部209の側面で起こり、接触面積が大きい面接触となる。この外側の接触によって、液体を吐出させる押動作が実質的に中止される。
【0071】
このようなバルブ部の構造によると、吐出液を吐出させる押動作の終了時に、バルブ先端部209の中央側の表面と、バルブシート210の中央側(貫通孔210a側)の表面との間に、液溜空間250が形成される。
【0072】
液溜空間250は、座ぐり210bの全幅(直径)に近い全幅を有し、バルブシート210の貫通孔210aよりも大径の空間となる。また、バルブシート210の貫通孔210aは、凹状に設けられた座ぐり210bの略平面状を呈する底部に設けられているため、バルブ先端部209の先端側の表面と、座ぐり210bの底部の表面とが、液溜空間250を挟んで正対する。
【0073】
このような液溜空間250が形成されるバルブ部の構造によると、バルブ本体であるバルブ先端部209によって吐出液に加えられるエネルギを緩和させるような作用が得られる。このような作用によって、基材上等に液体をポッティングしたとき、基材上に吐出された液体の全高が低くなり、流動体状または半流動体状の液体を薄くポッティングすることができるようになる。
【0074】
また、
図3に示すバルブ部の構造によると、バルブ先端部209とバルブシート210とが面接触する形状に設けられているため、バルブ先端部209やバルブシート210について、接触面の摩耗を抑制することができるし、当接時の衝撃力を緩和させることができる。
【0075】
なお、バルブ先端部209は、液溜空間250が形成される限り、直径やテーパ角度等の形状、表面積、材質等が、特に制限されるものではない。また、バルブシート210は、液溜空間250が形成される限り、形状、表面積、材質、座ぐりの全幅、貫通孔径等が、特に制限されるものではない。液体の吐出は、適宜の吐出圧力や吐出時間で行うことができる。
【0076】
但し、吐出液に加えられるエネルギを緩和させる点から、座ぐり210bの底部は、バルブ先端部209の先端側の表面と正対する略平面であり、略水平であることが好ましい。また、ノズルの中心軸上において、座ぐり210bの底部と、バルブ先端部209の先端側の表面とは、互いに平行であるか、成す角が鋭角であることが好ましい。また、座ぐり210bの全幅(直径)は、貫通孔210aや吐出口206aの孔径よりも大きいことが好ましい。貫通孔210aと吐出口206aは製造誤差の範囲内で同径であるのが好ましい。
【0077】
図4は、液体定量吐出装置のバルブ部の形状の一例を示す図である。
図4に示すように、液体定量吐出装置1のバルブ先端部9は、先端面が平面であり、先端の全幅がバルブシート10の座ぐりの全幅よりも大きい形状に設けることもできる。また、液体定量吐出装置1のバルブシート10は、バルブ先端部9が侵入しない大きさの座ぐりを有する形状に設けることもできる。
【0078】
図4には、円柱状のバルブ先端部309と、バルブ先端部9の形状とは異なる形状で減肉されたバルブシート310と、を備えた液体定量吐出装置1のバルブ部の要部断面図を示す。
図4Aは、バルブ先端部309がバルブシート310から離隔している初期状態である。
図4Bは、バルブ先端部309がバルブシート310に当接した押動作の終了時の状態である。
【0079】
図4Aに示すように、バルブ先端部309のノズル側と、バルブシート310の座ぐり310bとは、横断面視において互いに異なる形状の表面を有している。バルブ先端部309のノズル側は、円柱状を呈している。座ぐり310bは、ノズル側に向かうにつれて縮径する逆円錐台状に減肉された凹状を呈している。
【0080】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、このような円柱状のバルブ先端部309のノズル側の先端の全幅(直径)が、バルブシート310の座ぐり310bの全幅(直径)よりも大きく設けられている。座ぐり310bは、バルブ先端部309が侵入できない小径に設けられている。また、バルブ先端部309の先端面は、平面に設けられている。そのため、バルブ先端部309は、バルブシート310の上面に当接可能になっている。
【0081】
また、バルブシート310の貫通孔310aは、凹状に設けられた座ぐり310bの底部に設けられている。座ぐり310bの底部は、ノズル軸に対して垂直な略平面状を呈している。貫通孔310aおよび吐出口306aは、座ぐり310bの全幅(直径)よりも十分に小径の略円柱状を呈している。
【0082】
本実施形態に係る液体定量吐出装置1では、
図4Bに示すように、バルブ先端部309のノズル側の先端の全幅(直径)が、バルブシート310の座ぐり310bの全幅(直径)よりも大きく設けられているため、バルブ先端部309がバルブシート310に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部309の中央側の表面と、バルブシート310の中央側(貫通孔310a側)の表面とが、互いに接触しない状態になる。
【0083】
一方、バルブ先端部309がバルブシート310に対して1ストローク中に最初に当接したとき、バルブ先端部309の外側の表面と、バルブシート310の外側(貫通孔310aとは反対側)の表面とは、互いに接触する状態になる。このような外側の接触は、バルブシート310の上面で生じるため、接触面積が大きい面接触となる。この外側の接触によって、液体を吐出させる押動作が実質的に中止される。
【0084】
このようなバルブ部の構造によると、突出液を吐出させる押動作の終了時に、バルブ先端部309の中央側の表面と、バルブシート310の中央側(貫通孔310a側)の表面との間に、液溜空間350が形成される。
【0085】
液溜空間350は、座ぐり310bの全幅(直径)に一致する全幅を有し、バルブシート310の貫通孔310aよりも大径の空間となる。また、バルブシート310の貫通孔310aは、凹状に設けられた座ぐり310bの略平面状を呈する底部に設けられているため、バルブ先端部309の先端側の表面と、座ぐり310bの底部の表面とが、液溜空間350を挟んで正対する。
【0086】
このような液溜空間350が形成されるバルブ部の構造によると、バルブ本体であるバルブ先端部309によって吐出液に加えられるエネルギを緩和させるような作用が得られる。このような作用によって、基材上等に液体をポッティングしたとき、基材上に吐出された液体の全高が低くなり、流動体状または半流動体状の液体を薄くポッティングすることができるようになる。
【0087】
また、
図4に示すバルブ部の構造によると、バルブ先端部309とバルブシート310とが面接触する形状に設けられているため、バルブ先端部309やバルブシート310について、接触面の摩耗を抑制することができるし、当接時の衝撃力を緩和させることができる。バルブ先端部309は、座ぐり310bの内側に侵入しないため、バルブロッド308の衝突によるバルブシート310の破損を防止することができる。
【0088】
なお、バルブ先端部309は、液溜空間350が形成される限り、直径等の形状、表面積、材質等が、特に制限されるものではない。また、バルブシート310は、液溜空間350が形成される限り、形状、表面積、材質、座ぐりの全幅、貫通孔径等が、特に制限されるものではない。液体の吐出は、適宜の吐出圧力や吐出時間で行うことができる。
【0089】
但し、吐出液に加えられるエネルギを緩和させる点から、座ぐり310bの底部は、バルブ先端部309の先端側の表面と正対する略平面であり、略水平であることが好ましい。また、ノズルの中心軸上において、座ぐり310bの底部と、バルブ先端部309の先端側の表面とは、互いに平行であるか、成す角が鋭角であることが好ましい。また、座ぐり310bの全幅(直径)は、貫通孔310aや吐出口306aの孔径よりも、半分程度以下に小さいことが好ましい。
【0090】
バルブシート10(110,210,310)は、樹脂材料、鋳造材料、鍛造材料、焼結材料等の適宜の材料で形成することができる。バルブシート10は、耐熱性や耐摩擦性が良好な材料で形成されることが好ましい。但し、バルブシート10は、バルブ先端部9(109,209,309)による押圧で機械的変形を生じてもよいし、吐出液の熱等で熱変形を生じてもよい。
【0091】
バルブシート10(110,210,310)の材料の具体例としては、例えば、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体、ポリアミド、高密度ポリエチレン等の樹脂材料や、炭素鋼、ステンレス鋼、銅系合金、ニッケル系合金、コバルト系合金、クロム系合金、タングステン系合金、炭化タングステン等の金属材料が挙げられる。
【0092】
また、バルブロッド8(108,208,308)や、バルブ先端部9(109,209,309)についても、バルブシート10(110,210,310)と同様の材料で形成することができる。
【0093】
バルブシート10が機械的変形や熱変形を生じる場合には、バルブ先端部9(109,209)がバルブシート10(110,210)に当接したとき、バルブ先端部9が、バルブシート10の変形を伴いながら、座ぐりの底部に接触し得る。このような場合、液溜空間(150,250)は、当接した瞬間に一時的に形成されればよい。すなわち、液溜空間(150,250)は、バルブ先端部9がバルブシート10に対して1ストローク中に最初に当接したときに形成される限り、その後の機械的変形や熱変形で潰れて消失してもよい。
【0094】
一方、バルブシート10が機械的変形や熱変形を生じる場合であっても、バルブ先端部309が、バルブシート310の座ぐり310bの内側に侵入しない場合、液溜空間350が、機械的変形や熱変形で潰れ難くなるため、吐出液に加えられるエネルギを緩和させる作用が得られ易くなる。
【0095】
次に、液体定量吐出装置によって吐出させる液体の好ましい形態として、温度検知材料について、図を参照しながら説明する。
【0096】
<温度検知材料>
液体定量吐出装置1によって吐出させる液体としては、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が好ましく用いられる。温度検知材料は、物品の温度を検知する温度検知ラベル、温度インジケータ等の材料として用いられる。液体定量吐出装置1によって吐出させる温度検知材料は、流動体状または半流動体状の樹脂組成物であることが好ましく、後記するマトリックス材料を含むことが好ましい。
【0097】
流動体状または半流動体状の温度検知材料を、液体定量吐出装置1によって基材上にポッティングし、ポッティングされた温度検知材料を必要に応じて封止すると、温度検知ラベル、温度インジケータ等が得られる。温度検知材料は、加熱により溶融させると、流動体状または半流動体状の液体となるが、温度が下がると固体状態になって温度検知機能を発揮することができる。但し、温度検知材料は、流動体状態において、固体状の分散質が分散していてもよい。
【0098】
温度検知材料は、温度変化(昇温/降温)によって色濃度が可逆的に変化する示温材を含有する。示温材は、顕色状態と消色状態とに可逆的に変化するロイコ染料と、特定の条件で示温材を顕色状態に誘導する顕色剤と、特定の条件で示温材を消色状態にする消色剤と、を含む。
【0099】
温度検知材料は、降温過程で顕色する示温材(第1示温材)、および、昇温過程で顕色する示温材(第2示温材)のうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。降温過程で顕色する示温材(第1示温材)は、顕色温度が昇温過程における消色温度よりも低い示温材である。昇温過程で顕色する示温材(第2示温材)は、昇温過程における顕色温度が昇温過程における消色温度よりも低い示温材である。
【0100】
図5は、降温過程で顕色する示温材の温度による色濃度変化を示す図である。
図6は、昇温過程で顕色する示温材の温度による色濃度変化を示す図である。
図5および
図6において、Ta1は、降温過程で顕色する第1示温材の顕色温度、Td1は、第1示温材の消色温度、Ta2は、昇温過程で顕色する第2示温材の顕色温度、Td2は、第2示温材の消色温度、P1は、溶融状態を示す。各図には、横軸の温度や、縦軸の色濃度に関して、第1示温材や第2示温材の一例の応答を示している。
【0101】
図5に示すように、第1示温材は、温度による色濃度変化に可逆性がありヒステリシス特性を有している。第1示温材は、溶融状態から温度が下がると過冷却状態となり、過冷却状態から結晶化が起こると顕色する性質を有している。
【0102】
第1示温材の顕色剤は、結晶状態の消色剤に取り込まれるが、消色剤から分離すると、ロイコ染料と反応して顕色を誘導する性質を有している。第1示温材の消色剤は、温度が低下したとき、結晶状態になって凝固する性質を有している。第1示温材の消色剤は、主として、示温材の状態変化を起こして顕色および消色を制御するために添加されている。
【0103】
第1示温材は、消色温度Td1以上である溶融状態P1では、消色状態である。第1示温材は、溶融状態P1から温度が低下したとき、顕色温度Ta1に下がるまでは消色状態を維持している。顕色温度Ta1に下がるまでは、顕色剤を取り込んだ消色剤の非晶状態が維持されるため、ロイコ染料と顕色剤とが反応できず、消色状態が維持される。
【0104】
一方、第1示温材は、溶融状態P1から顕色温度Ta1以下に温度が下がると、顕色状態となる。顕色温度Ta1以下では、消色剤が結晶状態になり、非晶状態の消色剤に取り込まれていた顕色剤が分離するため、ロイコ染料と顕色剤とが反応できるようになり、第1示温材が顕色状態になる。
【0105】
図6に示すように、第2示温材は、温度による色濃度変化に可逆性がありヒステリシス特性を有している。第2示温材は、溶融状態から急冷すると非晶状態のまま凝固し、昇温により非晶状態から結晶化が起こると顕色する性質を有している。
【0106】
第2示温材の顕色剤は、結晶状態の消色剤に取り込まれるが、消色剤から分離すると、ロイコ染料と反応して顕色を誘導する性質を有している。第2示温材の消色剤は、結晶化し難い材料であり、急冷されたとき、結晶状態になることなく非晶状態で凝固する性質を有している。第2示温材の消色剤は、主として、示温材の状態変化を起こして顕色および消色を制御するために添加されている。
【0107】
第2示温材は、消色温度Td2以上である溶融状態P1では、消色状態である。第2示温材は、溶融状態P1から急冷されたとき、消色状態を維持している。消色剤として結晶化し難い材料を用いると、第2示温材の温度が下がっても、顕色剤を取り込んだ消色剤の非晶状態が維持されるため、ロイコ染料と顕色剤とが反応できず、消色状態が維持される。
【0108】
一方、第2示温材は、顕色温度Ta2以上に加熱されると、顕色状態となる。顕色温度Ta2以上に加熱されると、非晶状態の消色剤が結晶化し、非晶状態の消色剤に取り込まれていた顕色剤が分離するため、ロイコ染料と顕色剤とが反応できるようになり、第2示温材が顕色状態になる。
【0109】
一般的な示温材のように、温度変化によって可逆的に色変化を生じる場合、一旦、温度上昇や温度降下が生じて色変化を生じたとしても、環境温度が元に戻った場合に、示温材の色も元に戻ってしまう。そのため、このような示温材では、温度変化の有無を正確に知ることができない。これに対し、第1示温材や第2示温材のように、ヒステリシス特性を有し、色濃度が元に戻り難い材料を用いると、溶融状態に加熱されない限り、消色状態に戻らないため、温度変化の有無を正確に知ることができる。
【0110】
図7は、降温過程で顕色する示温材と昇温過程で顕色する示温材とを組み合わせた場合の温度による色濃度変化を示す図である。
図7において、クロスハッチング部は、物品の管理温度を示す。管理温度の上限は、第2示温材の顕色温度以下に設定されている。一方、管理温度の下限は、第1示温材の顕色温度以上に設定されている。図には、横軸の温度や縦軸の色濃度に関して、第1示温材や第2示温材の一例の応答を示している。
【0111】
図7に示すように、第1示温材と第2示温材とを組み合わせると、降温過程と昇温過程のそれぞれにおいて、示温材毎の色濃度変化が生じる。そのため、第1示温材および第2示温材の両方を含む温度検知材料を用いると、温度上昇および温度下降の両方を検知することができる。
【0112】
温度検知材料が第1示温材および第2示温材の両方を含むとき、第2示温材の顕色温度は、第1示温材の消色温度よりも低く、且つ、第1示温材の顕色温度は、第2示温材の前記顕色温度よりも低いことが好ましい。このような関係であると、物品の温度が管理温度の下限を下回ったとき、第1示温材によって顕色が起こるため、低温側への温度逸脱を確実に検知することができる。また、物品の温度が管理温度の上限を上回ったとき、第2示温材または第1示温材と第2示温材の両方によって顕色が起こるため、高温側への温度逸脱を確実に検知することができる。
【0113】
示温材としては、適宜の顕色温度および適宜の消色温度を示す材料を用いることができる。適切な示温材を組み合わせると、複数の温度を検知したり、管理温度の範囲を調整したりすることができる。第1示温材や第2示温材は、溶融状態に加熱すると消色状態に戻るため、温度検知機能を初期化させることができる。示温材としては、顕色温度や消色温度が異なる3種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0114】
(ロイコ染料)
ロイコ染料は、可逆的に発色および消色が可能な化合物である。ロイコ染料としては、例えば、電子受容性の顕色剤と反応して呈色する電子供与性の化合物を用いることができる。ロイコ染料は、感圧複写紙や感熱記録紙に用いられている染料であってもよい。
【0115】
ロイコ染料としては、例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等を用いることができる。
【0116】
ロイコ染料の具体例としては、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、2-メチル-6-(Np-トリル-N-エチルアミノ)-フルオラン6-(ジエチルアミノ)-2-[(3-トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン-9-スピロ-3’-フタリド、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルスピロ[フタリド-3,9’-キサンテン]、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1-エチル-8-[N-エチル-N-(4-メチルフェニル)アミノ]-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロスピロ[11H-クロメノ[2,3-g]キノリン-11,3’-フタリド]等が挙げられる。
【0117】
ロイコ染料の量は、所望される色濃度やコスト等を勘案して調整することができる。ロイコ染料としては、一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物を用いてもよい。
【0118】
(顕色剤)
顕色剤は、ロイコ染料を発色させる添加剤である。顕色剤としては、例えば、電子供与性のロイコ染料と反応してロイコ染料の分子構造を変化させる電子受容性の化合物を用いることができる。顕色剤は、感圧複写紙や感熱記録紙に用いられている化合物であってもよい。
【0119】
顕色剤の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’-ビフェノール、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン等や、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル等のフェノール類が挙げられる。
【0120】
顕色剤としては、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸およびサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等を用いることもできる。
【0121】
顕色剤としては、ロイコ染料や消色剤に対する相溶性が高い化合物が好ましい。このような顕色剤としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’-ビスフェノール、ビスフェノールA、没食子酸エステル類等の有機系顕色剤が挙げられる。
【0122】
顕色剤の量は、所望される色濃度等を勘案して調整することができる。顕色剤の量は、例えば、ロイコ染料1質量部に対して、0.1~100質量部とすることができる。顕色剤としては、一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物を用いてもよい。複数種の顕色剤を用いると、顕色時の色濃度の精密な調整が可能になる。
【0123】
(消色剤)
消色剤は、ロイコ染料を消色させる添加剤である。消色剤としては、例えば、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる化合物を用いることができる。例えば、消色剤が状態変化を起こす化合物である場合、顕色剤をロイコ染料と反応できないように非晶質相に取り込んだり、顕色剤をロイコ染料と反応できるように結晶相から分離したりすることができる。
【0124】
消色剤は、示温材を構成する成分のうちで、特に顕色温度や消色温度の制御に重要な成分である。消色剤としては、ロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料や顕色剤を溶解させる程度の極性を有する化合物が好ましい。
【0125】
このような消色剤としては、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N-オキシド化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂、糖、ペプチド、核酸、アルカロイド、ステロイド等が挙げられる。
【0126】
消色剤の具体例としては、トリカプリン、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸m-トリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、1,4-ジアセトキシブタン、デカン酸デシル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、クエン酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ブチルフタリルブチルグリコラート、N-メチルアントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸2-ヒドロキシエチル、ニコチン酸メチル、4-アミノ安息香酸ブチル、p-トルイル酸メチル、4-ニトロ安息香酸エチル、フェニル酢酸2-フェニルエチル、ケイ皮酸ベンジル、アセト酢酸メチル、酢酸ゲラニル、こはく酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、オキサル酢酸ジエチル、モノオレイン、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、酢酸リナリル、フタル酸ジ-n-オクチル、安息香酸ベンジル、ジエチレングリコールジベンゾアート、p-アニス酸メチル、酢酸m-トリル、けい皮酸シンナミル、プロピオン酸2-フェニルエチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸メチル、アントラニル酸メチル、酢酸ネリル、パルミチン酸イソプロピル、4-フルオロ安息香酸エチル、シクランデラート(異性体混合物)、ブトピロノキシル、2-ブロモプロピオン酸エチル、トリカプリリン、レブリン酸エチル、パルミチン酸ヘキサデシル、酢酸tert-ブチル、1,1-エタンジオールジアセタート、しゅう酸ジメチル、トリステアリン、アセチルサリチル酸メチル、ベンザルジアセタート、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2,3-ジブロモ酪酸エチル、2-フランカルボン酸エチル、アセトピルビン酸エチル、バニリン酸エチル、イタコン酸ジメチル、3-ブロモ安息香酸メチル、アジピン酸モノエチル、アジピン酸ジメチル、1,4-ジアセトキシブタン、ジエチレングリコールジアセタート、パルミチン酸エチル、テレフタル酸ジエチル、プロピオン酸フェニル、ステアリン酸フェニル、酢酸1-ナフチル、ベヘン酸メチル、アラキジン酸メチル、4-クロロ安息香酸メチル、ソルビン酸メチル、イソニコチン酸エチル、ドデカン二酸ジメチル、ヘプタデカン酸メチル、α-シアノけい皮酸エチル、N-フェニルグリシンエチル、イタコン酸ジエチル、ピコリン酸メチル、イソニコチン酸メチル、DL-マンデル酸メチル、3-アミノ安息香酸メチル、4-メチルサリチル酸メチル、ベンジリデンマロン酸ジエチル、DL-マンデル酸イソアミル、メタントリカルボン酸トリエチル、ホルムアミノマロン酸ジエチル、1,2-ビス(クロロアセトキシ)エタン、ペンタデカン酸メチル、アラキジン酸エチル、6-ブロモヘキサン酸エチル、ピメリン酸モノエチル、乳酸ヘキサデシル、ベンジル酸エチル、メフェンピル-ジエチル、プロカイン、フタル酸ジシクロヘキシル、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、4-アミノ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、トリパルミチン、1,2-ジアセトキシベンゼン、イソフタル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、バニリン酸メチル、3-アミノ-2-チオフェンカルボン酸メチル、エトミデート、クロキントセット-メキシル、ベンジル酸メチル、フタル酸ジフェニル、安息香酸フェニル、4-アミノ安息香酸プロピル、エチレングリコールジベンゾアート、トリアセチン、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3-ニトロ安息香酸メチル、酢酸4-ニトロフェニル、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル、くえん酸トリメチル、3-ヒドロキシ安息香酸エチル、3-ヒドロキシ安息香酸メチル、トリメブチン、酢酸4-メトキシベンジル、ペンタエリトリトールテトラアセタート、4-ブロモ安息香酸メチル、1-ナフタレン酢酸エチル、5-ニトロ-2-フルアルデヒドジアセタート、4-アミノ安息香酸エチル、プロピルパラベン、1,2,4-トリアセトキシベンゼン、4-ニトロ安息香酸メチル、アセトアミドマロン酸ジエチル、バレタマートブロミド、安息香酸2-ナフチル、フマル酸ジメチル、アジフェニン塩酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、酪酸ビニル、ビタミンK4、4-ヨード安息香酸メチル、3,3-ジメチルアクリル酸メチル、没食子酸プロピル、1,4-ジアセトキシベンゼン、メソしゅう酸ジエチル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(cis-、trans-混合物)、1,1,2-エタントリカルボン酸トリエチル、ヘキサフルオログルタル酸ジメチル、安息香酸アミル、3-ブロモ安息香酸エチル、5-ブロモ-2-クロロ安息香酸エチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、アリルマロン酸ジエチル、ブロモマロン酸ジエチル、エトキシメチレンマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、3-アミノ安息香酸エチル、安息香酸エチル、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、ニコチン酸エチル、フェニルプロピオル酸エチル、ピリジン-2-カルボン酸エチル、2-ピリジル酢酸エチル、3-ピリジル酢酸エチル、安息香酸メチル、フェニル酢酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸アミル、2,5-ジアセトキシトルエン、4-オキサゾールカルボン酸エチル、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリメチル(cis-、trans-混合物)、3-(クロロスルホニル)-2-チオフェンカルボン酸メチル、ペンタエリトリトールジステアラート、ラウリン酸ベンジル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、メタクリル酸フェニル、酢酸ベンジル、グルタル酸ジメチル、2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル、フェニルシアノ酢酸エチル、1-ピペラジンカルボン酸エチル、ベンゾイルぎ酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸フェニル、こはく酸ジエチル、トリブチリン、メチルマロン酸ジエチル、しゅう酸ジメチル、1,1-シクロプロパンジカルボン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、4-tert-ブチル安息香酸メチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、4-メトキシフェニル酢酸エチル、4-フルオロベンゾイル酢酸メチル、マレイン酸ジメチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ブロモ安息香酸エチル、2-ブロモ安息香酸メチル、2-ヨード安息香酸メチル、3-ヨード安息香酸エチル、3-フランカルボン酸エチル、フタル酸ジアリル、ブロモ酢酸ベンジル、ブロモマロン酸ジメチル、m-トルイル酸メチル、1,3-アセトンジカルボン酸ジエチル、フェニルプロピオル酸メチル、酪酸1-ナフチル、o-トルイル酸エチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸メチル、安息香酸イソブチル、3-フェニルプロピオン酸エチル、マロン酸ジ-tert-ブチル、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、1,1-エタンジオールジアセタート、アジピン酸ジイソプロピル、フマル酸ジイソプロピル、けい皮酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジアクリラート、トリオレイン、ベンゾイル酢酸エチル、p-アニス酸エチル、スベリン酸ジエチル、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸アミド、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、3-(tert-ブトキシカルボニル)フェニルボロン酸、ラセカドトリル、4-[(6-アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]-4’-シアノビフェニル、2-(ジメチルアミノ)ビニル3-ピリジルケトン、アクリル酸ステアリル、4-ブロモフェニル酢酸エチル、フタル酸ジベンジル、3,5-ジメトキシ安息香酸メチル、酢酸オイゲノール、3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、酢酸バニリン、炭酸ジフェニル、オキサニル酸エチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ニトロフタル酸ジメチル、(4-ニトロベンゾイル)酢酸エチル、ニトロテレフタル酸ジメチル、2-メトキシ-5-(メチルスルホニル)安息香酸メチル、3-メチル-4-ニトロ安息香酸メチル、2,3-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、4’-アセトキシアセトフェノン、trans-3-ベンゾイルアクリル酸エチル、クマリン-3-カルボン酸エチル、BAPTAテトラエチルエステル、2,6-ジメトキシ安息香酸メチル、イミノジカルボン酸ジ-tert-ブチル、p-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、3,4,5-トリメトキシ安息香酸メチル、3-アミノ-4-メトキシ安息香酸メチル、ジステアリン酸ジエチレングリコール、3,3’-チオジプロピオン酸ジテトラデシル、4-ニトロフェニル酢酸エチル、4-クロロ-3-ニトロ安息香酸メチル、1,4-ジプロピオニルオキシベンゼン、テレフタル酸ジメチル、4-ニトロけい皮酸エチル、5-ニトロイソフタル酸ジメチル、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸トリエチル、N-(4-アミノベンゾイル)-L-グルタミン酸ジエチル、酢酸2-メチル-1-ナフチル、7-アセトキシ-4-メチルクマリン、4-アミノ-2-メトキシ安息香酸メチル、4,4’-ジアセトキシビフェニル、5-アミノイソフタル酸ジメチル、1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンジカルボン酸ジエチル、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジメチル等のエステル化合物が挙げられる。
【0127】
また、消色剤の具体例としては、コレステロール、コレステリルブロミド、β-エストラジオール、メチルアンドロステンジオール、プレグネノロン、安息香酸コレステロール、酢酸コレステロール、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、n-オクタン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、3-クロロコレステン、trans-けい皮酸コレステロール、デカン酸コレステロール、ヒドロけい皮酸コレステロール、ラウリン酸コレステロール、酪酸コレステロール、ぎ酸コレステロール、ヘプタン酸コレステロール、ヘキサン酸コレステロール、こはく酸水素コレステロール、ミリスチン酸コレステロール、プロピオン酸コレステロール、吉草酸コレステロール、フタル酸水素コレステロール、フェニル酢酸コレステロール、クロロぎ酸コレステロール、2,4-ジクロロ安息香酸コレステロール、ペラルゴン酸コレステロール、コレステロールノニルカルボナート、コレステロールヘプチルカルボナート、コレステロールオレイルカルボナート、コレステロールメチルカルボナート、コレステロールエチルカルボナート、コレステロールイソプロピルカルボナート、コレステロールブチルカルボナート、コレステロールイソブチルカルボナート、コレステロールアミルカルボナート、コレステロールn-オクチルカルボナート、コレステロールヘキシルカルボナート、アリルエストレノール、アルトレノゲスト、9(10)-デヒドロナンドロロン、エストロン、エチニルエストラジオール、エストリオール、安息香酸エストラジオール、β-エストラジオール17-シピオナート、17-吉草酸β-エストラジオール、α-エストラジオール、17-ヘプタン酸β-エストラジオール、ゲストリノン、メストラノール、2-メトキシ-β-エストラジオール、ナンドロロン、(-)-ノルゲストレル、キネストロール、トレンボロン、チボロン、スタノロン、アンドロステロン、アビラテロン、酢酸アビラテロン、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロンアセタート、エチステロン、エピアンドロステロン、17β-ヒドロキシ-17-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3-オン、メチルアンドロステンジオール、メチルテストステロン、Δ9(11)-メチルテストステロン、1α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、17α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、スタノゾロール、テストステロン、プロピオン酸テストステロン、アルトレノゲスト、16-デヒドロプレグネノロンアセタート、酢酸16,17-エポキシプレグネノロン、11α-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、17α-ヒドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンアセタート、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、5β-プレグナン-3α,20α-ジオール、ブデソニド、コルチコステロン、酢酸コルチゾン、コルチゾン、コルテキソロン、デオキシコルチコステロンアセタート、デフラザコート、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、17-酪酸ヒドロコルチゾン、6α-メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、酢酸プレドニゾロン、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、コール酸メチル、ヒオデオキシコール酸メチル、β-コレスタノール、コレステロール-5α,6α-エポキシド、ジオスゲニン、エルゴステロール、β-シトステロール、スチグマステロール、β-シトステロールアセタート等のステロイド化合物が挙げられる。
【0128】
消色剤としては、ロイコ染料や顕色剤に対する相溶性が高い化合物が好ましい。このような消色剤としては、各種のエステル化合物、各種のステロイド化合物等が挙げられる。
【0129】
消色剤の量は、例えば、ロイコ染料1質量部に対して、10~100質量部とすることができる。消色剤としては、一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物を用いてもよい。複数種の消色剤を用いると、凝固点、融点、ガラス転移点、結晶化速度等を調整することができる。
【0130】
降温過程で顕色する第1示温材は、例えば、目的の温度で結晶化する消色剤を用いて作製することができる。温度が低下したときに結晶状態となり、非晶質相に取り込まれている顕色剤が分離されるような消色剤を用いると、降温過程で顕色状態への変化を起こすことができる。顕色状態から所定の温度に上がると、結晶状態から非晶状態に変化して顕色剤が取り込まれるため、昇温過程で消色状態への変化が起こる。
【0131】
このような降温過程で顕色する第1示温材の消色剤としては、所望する管理温度の範囲にもよるが、結晶性であり凝固点と融点との温度差が大きい化合物が好ましい。
【0132】
昇温過程で顕色する第2示温材は、例えば、目的の温度で結晶化し難い消色剤を用いて作製することができる。急冷されたときに非晶状態を維持し、非晶質相に顕色剤を取り込むような消色剤を用いると、降温過程で消色状態を維持することができる。消色状態から所定の温度に上がると、非晶状態から結晶状態に変化して顕色剤が分離するため、ロイコ染料と顕色剤が反応して、昇温過程で顕色状態への変化が起こる。
【0133】
このような昇温過程で顕色する第2示温材の消色剤としては、一般的な冷蔵装置、冷凍装置等による強制冷却で結晶化しない化合物が好ましい。消色剤としては、常温における自然冷却で結晶化しない化合物がより好ましい。具体的には、融点からガラス転移点まで100℃/分以下の冷却速度で結晶化しない化合物が好ましく、融点からガラス転移点まで20℃/分以下の冷却速度で結晶化しない化合物がより好ましい。
【0134】
消色剤のガラス転移点は、好ましくは-20℃以上60℃以下、より好ましくは-20℃以上25℃以下、更に好ましくは-20℃以上15℃以下である。示温材の結晶化に寄与する消色剤のガラス転移点が-20℃以上25℃以下であると、示温材中の消色剤を高混合比にした場合に、生鮮食品、冷凍食品、ワクチン、バイオ医薬品等の低温管理品に関して、温度変化を適切に検知することができる。
【0135】
消色剤の融点は、好ましくは40~250℃、より好ましくは60~150℃である。温度検知材料の温度検知機能を初期化させるためには、示温材を溶融状態に加熱する必要がある。初期化の温度は、管理温度を大きく上回っており、且つ、示温材や基材等の耐熱温度を下回っていることが望まれる。示温材の結晶化に寄与する消色剤の融点がこのような範囲であると、示温材中の消色剤を高混合比にした場合に、管理温度が常温付近に設計された温度検知材料を耐熱温度の範囲で適切に初期化させることができる。
【0136】
<温度検知材料の形態>
温度検知材料は、ロイコ染料、顕色剤および消色剤によって構成される示温材と、顕色作用および消色作用を有しないマトリックス材料と、を含むことが好ましい。このようなマトリックス材料を用いると、示温材が状態変化を生じたとしても、示温材の分散状態や状態変化の可逆性を保つことができる。また、異なる種類の示温材同士が混合するのを防ぐことができる。
【0137】
マトリックス材料を含む温度検知材料は、流動体状または半流動体状の樹脂組成物となるため、液体定量吐出装置1によって吐出させる液体として好ましい。バルブ先端部の表面と、バルブシートの貫通孔側の表面との間に、液溜空間が形成される構造である場合、基材上に吐出された温度検知材料の全高を、液溜空間が形成されない場合と比較して、顕著に低くすることができる。
【0138】
<相分離構造体>
温度検知材料は、固体状の相分離構造体を形成させて温度検知に用いることができる。相分離構造体は、マトリックス材料中に示温材の相を分散させて固体材料化させたものである。固体状の相分離構造体によると、温度検知材料の保存安定性が良好になる。また、示温材の変色特性を安定化させることができる。
【0139】
(マトリックス材料)
マトリックス材料としては、示温材の顕色性および消色性を損なわず、それ自体が顕色しない材料、例えば、電子受容性を示さない非極性の材料を用いることができる。マトリックス材料は、温度検知材料の使用温度で固体状態であり、示温材よりも融点が高く、ロイコ染料、顕色剤および消色剤に対する相溶性が低い材料であることが好ましい。
【0140】
マトリックス材料は、ハンセン溶解度パラメータにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギδdおよび分子間の水素結合によるエネルギδhが、それぞれ、3以下であることが好ましい。このようなマトリックス材料を用いると、ロイコ染料、顕色剤および消色剤に対する相溶性が十分に低くなるため、示温材の顕色作用および消色作用が損なわれ難くなる。マトリックス材料としては、一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物を用いてもよい。
【0141】
マトリックス材料としては、極性基を有しない有機化合物が好ましく、炭化水素がより好ましい。このようなマトリックス材料の具体例としては、パラフィン系、マイクロクリスタリン系、オレフィン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等のワックスや、プロピレン、エチレン、スチレン、シクロオレフィン、シロキサン、テルペン等で形成される骨格を多く持つ低分子化合物や高分子化合物が挙げられる。
【0142】
マトリックス材料としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリオレフィンおよびテルペン樹脂のうちの一以上が特に好ましい。これらの材料は、低粘度の液体の状態で取り扱うことが可能であり、常温付近で容易に固体化させることができるため、相分離構造体の作製に適している。また、これらの材料は、有機溶媒に溶解させることができるため、有機溶媒を揮発させて固体化させることができる。
【0143】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィンの分子量や粘度は、特に制限されるものではない。但し、溶融させた状態で低粘度であると、気泡が混入し難くなるし、成形性が良好になる。ポリオレフィンは、分子量が5万以下であって、融点近傍での粘度が10Pa・S以下であることが好ましく、分子量が1万以下であって、融点近傍での粘度が1Pa・S以下であることがより好ましい。
【0144】
図8は、温度検知材料の相分離構造を示す図である。
図8Aは、顕色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
図8Bは、顕色している状態の相分離構造体の模式図であり、
図8Aのivb部の拡大図である。
図8Cは、消色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
図8Dは、消色している状態の相分離構造体の模式図であり、
図8Cのivd部の拡大図である。
【0145】
図8A~
図8Dに示すように、相分離構造体120は、示温材121がマトリックス材料122中に分散した相分離構造を有する。相分離構造は、マトリックス材料122の相中に、示温材121の複数の相が相分離した状態で存在する構造である。
【0146】
図9は、温度検知材料の相分離構造を示す図である。
図9Aは、顕色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
図9Bは、顕色している状態の相分離構造体の光学顕微鏡写真であり、
図9Aのvb部の光学顕微鏡反射像である。
図9Cは、消色している状態の相分離構造体を示す模式図である。
図9Dは、消色している状態の相分離構造体の光学顕微鏡写真であり、
図9Cのvd部の光学顕微鏡反射像である。
【0147】
図9Bおよび
図9Dは、ハロゲンランプを光源として観測された反射像を示している。
図9A~
図9Dに示すように、相分離構造体120について光学顕微鏡による観察を行うと、示温材121がマトリックス材料122中に分散しており、微細な相分離構造が形成されていることが分かる。この相分離構造体120では、マトリックス材料122の融点が示温材121の融点よりも高いため、マトリックス材料122が固体のままである。
【0148】
マトリックス材料の量は、示温材1質量部に対して、0.1~100質量部とすることが好ましい。このような範囲であると、相分離構造体について、示温材による顕色の視認性を確保することができる。また、相分離構造体中に、示温材を安定的に保持させることができる。
【0149】
マトリックス材料の濃度は、示温材の濃度と同等以上とすることがより好ましい。マトリックス材料の量は、示温材1質量部に対して、1質量部以上とすることが更に好ましく、1~10質量部とすることが特に好ましい。マトリックス材料が示温材よりも多いと、マトリックス材料の相および示温材の相のそれぞれが繋がりあった構造(以下、共連続構造という。)を抑制することができる。共連続構造においても、マトリックス材料と示温材とは相分離しているため温度検知機能が発揮されるが、示温材が液漏れし易くなる。マトリックス材料が多いと、このような液漏れを抑制して、相分離構造体の長期安定性を向上させることができる。
【0150】
相分離構造体において、マトリックス材料中に分散した示温材の相の長径は、100nm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。示温材の相が100nm以上であると、温度検知機能に対する界面の影響が小さくなる。また、示温材の相が1mm以下であると、示温材の相が視認し難くなるため、顕色時の色ムラが低減される。示温材の相の大きさは、界面活性剤の添加や、初期化後の冷却時の攪拌によって調整することができる。示温材の相の長径は、相分離構造体を顕微鏡観察した顕微鏡像中の示温材の一相を楕円近似して求められる。
【0151】
<相分離構造体の製造方法>
相分離構造体は、示温材であるロイコ染料、顕色剤および消色剤と、マトリックス材料とを、溶融状態に加熱して混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物を冷却して固化させる冷却工程と、を含む製造方法によって製造することができる。冷却工程で混合物を冷却すると、マトリックス材料と示温材とが分離し、マトリックス材料中に示温材の相が分散した相分離構造が形成される。
【0152】
混合工程では、示温材とマトリックス材料とを、少なくともマトリックス材料が融点以上になるように加熱して、マトリックス材料中に示温材を分散させる。冷却工程では、示温材とマトリックス材料とを、少なくともマトリックス材料が凝固点以下になるように冷却して、マトリックス材料を固化させる。
【0153】
示温材とマトリックス材料とは、混合工程における溶融温度で、互いに相溶してもよいし、相溶しなくてもよい。但し、互いに相溶する組み合わせであると、マトリックス材料中に示温材の相を微細に分散させるのに有利である。例えば、マトリックス材料に対して、適切な極性を有する消色剤を高混合比で用いると、溶融温度において相溶させる一方で、固化温度において相分離させることができる。
【0154】
消色剤は、ハンセン溶解度パラメータにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギδdおよび分子間の水素結合によるエネルギδhが、それぞれ、1~10であることが好ましい。δdおよびδhが1~10である消色剤を用いると、示温材とマトリックス材料とを溶融状態に加熱したとき、極性が小さいマトリックス材料に対して、示温材を適切に相溶させることができる。示温材は、界面活性剤の添加や、初期化後の冷却時の攪拌を加えて、強制的に相溶させることもできる。
【0155】
また、δdおよびδhが1~10である消色剤を用いると、示温材を適切に相溶させることができるため、示温材の相が小さくなると共に、細かい分散状態になる。このような消色剤を用いると、マトリックス材料中に分散した示温材の相の長径を、容易に100nm以上1mm以下にすることができる。
【0156】
相分離構造体は、示温材とマトリックス材料とを、少なくともマトリックス材料が融点以上になるように加熱して溶融させた後、この溶融物を吐出液として液体定量吐出装置1によって基材上にポッティングし、ポッティングされた溶融物を冷却して固化させることによって得ることができる。基材上にポッティングされた溶融物は、透明基材で覆って封止することができる。透明基材は、溶融物の固化前に配置してもよいし、溶融物の固化後に配置してもよい。
【0157】
基材上に溶融物をポッティングするとき、基材上には、スペーサを配置してもよいし、スペーサを配置しなくてもよい。スペーサは、溶融物の周囲を囲む外枠としての機能や、基材と透明基材との間の間隔を規定する機能を有する部材であり、基材と透明基材との間に空隙が形成されるのを抑制する作用を示す。液体定量吐出装置1を用いる場合、基材上にポッティングされた溶融物の全高が低くなるため、スペーサを配置しなくても空隙を抑制することができる。
【0158】
<温度検知ラベル>
温度検知ラベルは、基材と、基材上に配置された温度検知材料と、温度検知材料上に配置された透明基材と、を備える。温度検知ラベルは、温度に応答して顕色または消色する温度検知材料が、基材と透明基材とに挟まれた構造を有する。
【0159】
温度検知ラベルは、温度検知材料の周囲を囲むように、基材と透明基材との間に、スペーサを備えてもよい。スペーサを用いる場合、温度検知材料とスペーサとが、基材と透明基材とに挟まれて固定された構造となる。
【0160】
基材は、紙、プラスチック等の有機材料や、セラミックス、ガラス、金属等の無機材料や、これらの複合材料等の適宜の材料で形成することができる。基材は、単層で構成してもよいし、互いに異なる材料等を積層させて複数層で構成してもよい。基材の材質は、高強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性、断熱性、導電性等、温度検知ラベルに要求される特性に合わせて選択することができる。基材は、粘着剤、磁性体組成物等の層を形成して、温度検知対象に対して貼付可能に設けてもよい。
【0161】
透明基材は、温度検知材料の顕色を確認可能な少なくとも一部に透明性を有する限り、紙、プラスチック等の有機材料や、セラミックス、ガラス、金属等の無機材料や、これらの複合材料等の適宜の材料で形成することができる。透明基材は、単層で構成してもよいし、互いに異なる材料等を積層させて複数層で構成してもよい。透明基材の材質は、高強度、耐熱性、耐候性、耐薬品性、断熱性、導電性、急冷に対する熱衝撃への耐性等、温度検知ラベルに要求される特性に合わせて選択することができる。
【0162】
透明基材の具体例としては、透明性の高い紙、アクリル、ポリカーボネート、シクロオレフィン等の透明性の高いプラスチック等の有機材料や、ガラス、透明電極膜等の透明性の高い無機化合物や、薄膜化して透明性を高めた材料等が挙げられる。
【0163】
温度検知ラベルは、温度検知材料の顕色を確認可能な限り、透明基材と温度検知材料との間や、透明基材上に、その他の層を備えていてもよい。
【0164】
例えば、温度検知ラベルは、透明基材と温度検知材料との間に印字紙を備えることができる。印字紙には、物品の管理に必要な情報等を印字して表示させることができる。印字紙を挟む透明基材や基材は、印字紙を露出させるための孔等が設けられていてもよい。このような構造とすると、物品の輸送の途中等に、印字紙への記入が可能になる。
【0165】
また、温度検知ラベルは、透明基材と温度検知材料との間に断熱層を備えることができる。断熱層は、空気や、アルゴン、窒素等のガスや、真空や、スポンジ、エアロゲル等の多孔性材料や、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバ等の繊維材料や、ウレタン、ポリスチレン、発泡ゴム等の発泡材料によって形成することができる。断熱層を設けると、温度検知材料の外部の温度に対して温度検知材料が顕色するまでの時間を調整することができる。
【0166】
以上の液体定量吐出装置1によると、バルブ先端部がバルブシートに当接したとき、バルブ先端部の表面とバルブシートの貫通孔側の表面との間に空間が形成され、バルブの表面とバルブシートの貫通孔とは反対側の表面とが接触するため、突出液を吐出させる押動作の終了時に、吐出液に加えられるエネルギが緩和されると考えられる。そのため、基材上等に液体をポッティングしたとき、基材上に吐出された液体の全高が低くなり、液体を薄くポッティングすることができるようになる。
【0167】
このような液体定量吐出装置1を温度検知ラベルの製造に用いると、基材と透明基材との間に大きな空隙が形成されなくなるため、スペーサを用いなくとも、ラベル表示の視認性が良好な温度検知ラベルを製造することができる。スペーサを用いないことにより、薄い温度検知ラベルを低コストで製造することが可能になる。また、スペーサを用いない温度検知ラベルは、ロール状に巻回可能な長尺の帯状のシート形態として製造することができる。温度検知材料を基材上にポッティングして長尺の帯状のシートを作製した後、シートを裁断することによって、生産性良く製造を行うことができる。
【0168】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【0169】
例えば、前記の液体定量吐出装置1は、エアー駆動式のバルブロッドを備えたバルブディスペンサとされている。しかしながら、液体定量吐出装置は、機械式の加圧を行う装置等の他の形態であってもよい。
図1に示す液体定量吐出装置1は、円筒形状の本体部を備えているが、液体定量吐出装置の形状、構造等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜の形態とすることができる。
図1に示す液体定量吐出装置1は、ピストン11の基端側等にストロークの調整機構を備えてもよい。
【0170】
また、前記の液体定量吐出装置1は、バルブ先端部と、バルブ先端部に対応した形状に減肉されたバルブシートと、を備えている。しかしながら、バルブ先端部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形状のニードル型、ポペット型等であってもよい。また、前記のバルブシートは、ノズル本体とは別体として設けられている。しかしながら、バルブシートは、任意の形状でノズル本体と一体的に設けられてもよい。これらの形態においても、形状、表面積、材質、座ぐりの全幅、貫通孔径等が、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0171】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0172】
バルブディスペンサである液体定量吐出装置を使用して、温度検知材料のポッティングを行い、基材上にポッティングされた液体の全高を評価した。
【0173】
温度検知材料としては、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材と、マトリックス材料との混合物を用いた。温度検知材料は、120℃で溶融させて流動体状にして液体定量吐出装置から吐出させた。液体定量吐出装置としては、
図1に示すように、ボール状のバルブ先端部と、ボール形状の一部で減肉された座ぐりを有するバルブシートと、を備えた装置を使用した。
【0174】
液体定量吐出装置のバルブ部について、バルブ先端部の曲率半径(a)と、バルブシートの座ぐりの曲率半径(b)とが、互いに異なる組み合わせを試験した。なお、全試験について、温度検知材料の吐出圧力や、温度検知材料の吐出時間は、同一の条件とした。
【0175】
実施例1は、バルブ先端部の曲率半径(a)がバルブシートの座ぐりの曲率半径(b)よりも大きい構造(a>b)である。バルブ先端部がバルブシートに対して最初に当接したとき、バルブ先端部の表面とバルブシートの貫通孔側の表面との間に液溜空間が形成される構造である。
【0176】
比較例1は、バルブ先端部の曲率半径(a)がバルブシートの座ぐりの曲率半径(b)と等しい構造(a=b)である。バルブ先端部がバルブシートに対して最初に当接したとき、バルブ先端部の表面とバルブシートの貫通孔側の表面との間に液溜空間が形成されない構造である。
【0177】
比較例2は、バルブ先端部の曲率半径(a)がバルブシートの座ぐりの曲率半径(b)よりも小さい構造(a<b)である。バルブ先端部がバルブシートに対して最初に当接したとき、バルブ先端部の表面とバルブシートの貫通孔側の表面との間に液溜空間が形成されない構造である。
【0178】
表1に、基材上にポッティングされた温度検知材料(ポッティング液)の全高を、液体用のマイクロメータで測定した結果を示す。
【0179】
【0180】
表1に示すように、実施例1は、バルブ先端部の曲率半径(a)がバルブシートの座ぐりの曲率半径(b)よりも大きい構造であり、比較例1や比較例2よりも、ポッティング液の全高が低い結果が得られた。
【0181】
バルブ先端部の表面とバルブシートの貫通孔側の表面との間に液溜空間が形成される構造であると、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材や、マトリックス材料を含む温度検知材料を、基材上に薄くポッティングすることができることが確認された。よって、温度検知ラベルの製造時において、基材と透明基材との間に大きな空隙が形成されるのを抑制して、視認性を確保できることが示された。
【符号の説明】
【0182】
1 液体定量吐出装置
2 ハウジング
2a 連通孔
3 チャンバライナ
4 下部固定部材
5 液体ポート部材
5a 液体ポート
6 ノズル本体(ノズル)
7 ノズル固定部材
8 バルブロッド
9 バルブ先端部(バルブ)
10 バルブシート
10a 貫通孔
10b 座ぐり(凹部)
11 ピストン
12 上部固定部材
13 シリンダばね
14 気体ポート部材
14a 気体ポート
15 液体シール部材
16 気体シール部材
20 液体容器
50 液体チャンバ(液室)
51 気体チャンバ
120 相分離構造体
121 示温材
122 マトリックス材料
108,208,308 バルブロッド
109,209,309 バルブ先端部
110,210,310 バルブシート
150,250,350 液溜空間(空間)