(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 17/32 20200101AFI20240620BHJP
【FI】
G01S17/32
(21)【出願番号】P 2020073007
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 章紘
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130472(WO,A1)
【文献】特開平02-184788(JP,A)
【文献】特開平03-264887(JP,A)
【文献】特開2018-205227(JP,A)
【文献】特開2017-003461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられた
単一ピークの所定の周波数帯域の光の一部が受光素子に入射し、前記光の残りの一部が物体に反射して前記受光素子に入射した場合に、前記受光素子に入射する光の特性の経時変化に基づいて前記物体までの距離を算出する
測距装置。
【請求項2】
前記特性は周波数、強度又は周波数と強度の組み合わせである
請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記特性は周波数差及び強度であり、前記強度の経時変化に基づいて前記物体までの距離を算出し、前記周波数の経時変化に基づいて前記物体の速度を算出する
請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記光源はCW(Continuous Wave)レーザーを発し、前記CWレーザーの光路に設けられたハーフミラーにより反射された光が前記光の一部として前記受光素子に入射し、前記ハーフミラーを透過した光が前記物体に反射して前記受光素子に入射する
請求項1から3のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項5】
前記ハーフミラーを透過した光の光路に設けられた、光の通過及び遮断を切り替えるスイッチが通過に切り替わった時刻と前記物体に反射した光が前記受光素子に入射した時刻とに基づいて前記物体までの距離を算出する
請求項4に記載の測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体までの距離を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物体までの距離を測定する技術として、特許文献1には、パルスを放射して、空間に存在する物体で反射された反射波に周波数変換を施して受信信号を生成し、生成した受信信号に基づいてドップラー速度を算出する技術が開示されている。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光を照射して物体で反射した光を受光して距離を測定する測距装置においては、例えば物体までの距離が長いほど照射した光が減衰し、十分な光量の光が受光されずに距離の測定が困難になる場合がある。
本発明は、上記の背景に鑑み、距離の算出の確実性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、光源から発せられた所定の周波数帯域の光の一部が受光素子に入射し、前記光の残りの一部が物体に反射して前記受光素子に入射した場合に、前記受光素子に入射する光の特性の経時変化に基づいて前記物体までの距離を算出する測距装置を第1の態様として提供する。
【0006】
第1の態様の測距装置によれば、単一周波数の光を用いる場合に比べて、距離の算出の確実性を向上させることができる。
【0007】
上記の第1の態様の測距装置において、前記特性は周波数、強度又は周波数と強度の組み合わせである、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0008】
第2の態様の測距装置によれば、受光素子で容易に測定可能な特性に基づき距離を測定することができる。
【0009】
上記の第1又は第2の態様の測距装置において、前記特性は周波数差及び強度であり、前記強度の経時変化に基づいて前記物体までの距離を算出し、前記周波数の経時変化に基づいて前記物体の速度を算出する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0010】
第3の態様の測距装置によれば、同一特性からの距離成分・速度成分の分離が不要なので、距離と速度の算出精度を高めることができる。
【0011】
上記の第1乃至第3のいずれか1の態様の測距装置において、前記光源はCW(Continuous Wave)レーザーを発し、前記CWレーザーの光路に設けられたハーフミラーにより反射された光が前記光の一部として前記受光素子に入射し、前記ハーフミラーを透過した光が前記物体に反射して前記受光素子に入射する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0012】
第4の態様の測距装置によれば、単一周波数の光を用いる場合に比べて、部品点数を減らすことができる。
【0013】
上記の第4の態様の測距装置において、前記ハーフミラーを透過した光の光路に設けられた、光の通過及び遮断を切り替えるスイッチが通過に切り替わった時刻と前記物体に反射した光が前記受光素子に入射した時刻とに基づいて前記物体までの距離を算出する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0014】
第5の態様の測距装置によれば、光の特性に含まれる距離成分及び速度成分の分離を行う場合に比べて、算出される距離及び速度の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】発光及び受光する光の強度の経時変化の一例を表す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1]実施例
図1は実施例に係る測距装置10の構成を表す。測距装置10は、光を照射して、物体に反射して戻ってきた光に基づいて物体までの距離を測定する装置である。測距装置10は、光源11と、光スイッチ12と、受光素子13と、ハーフミラー14と、ハーフミラー15と、制御部16とを備える。
【0017】
光源11は、所定の周波数帯域の光を発する光源であり、本実施例ではCW(Continuous Wave:連続波)レーザーを発する光源である。CWレーザーとは、連続的に出力されたレーザー又は極めて短い時間間隔で断続的に出力されたレーザーである。ハーフミラー14は、CWレーザーの光路に設けられ、入射する光の一部を反射し、残りの一部を透過するミラーである。
【0018】
ハーフミラー15は、ハーフミラー14が反射した光の光路A1に設けられ、第1面151に入射する光を反射し、第2面152に入射する光を透過するミラーである。ハーフミラー14が反射した光はハーフミラー15の第1面151に入射し、第1面151で反射した光は受光素子13に入射する。受光素子13は、受光した光の強度を電気信号に変換する素子であり、例えばPD(Photo Diode:フォトダイオード)である。
【0019】
光スイッチ12は、ハーフミラー14を透過した光の光路に設けられた、光の通過及び遮断を切り替えるスイッチである。光スイッチ12を透過した光は、光路A2を進み、光路A2に物体が存在した場合は、その物体で反射する。物体で反射した光の一部は測距装置10に向かう光路A3を進んでハーフミラー15の第2面152に入射する。ハーフミラー15は第2面152に入射する光を透過するので、光路A3を進んできた光はハーフミラー15を透過して受光素子13に入射する。
【0020】
上記のとおり、受光素子13には、光源11が発して光路A1を通過した光と、光スイッチ12を透過して物体で反射した光の2つの光が入射する。このように、測距装置10においては、光源11から発せられた所定の周波数帯域の光の一部が受光素子13に入射し、その光の残りの一部が物体に反射して受光素子13に入射する。また、ハーフミラー14により反射された光が光源11からの光の一部として受光素子13に入射し、ハーフミラー14を透過した光が物体に反射して受光素子13に入射するとも言える。
【0021】
制御部16は、光源11及び光スイッチ12の動作を制御する。制御部16は、プロセッサ、メモリ及びストレージを備える。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置、レジスタ及び周辺回路等を有する。メモリは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体であり、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等を有する。
【0022】
ストレージは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ハードディスクドライブ又はフラッシュメモリ等を有する。プロセッサは、RAMをワークエリアとして用いてROMやストレージに記憶されているプログラムを実行することで光源11及び光スイッチ12の動作を制御する。制御部16は、具体的には、次のように光源(光源11及び光スイッチ12)の動作を制御する。
【0023】
図2は光源が発する光の特性を表す。
図2では、横軸が周波数、縦軸が光量を示すグラフが表されている。制御部16は、光スイッチ12を遮断の状態に制御して、曲線B1が示すように、周波数f11から周波数f12までの周波数帯域(前述した所定の周波数帯域に相当)であり且つ最大光量C1の光を発するよう光源11を制御している。制御部16は、光源11の発光の制御を行った後、光スイッチ12を透過の状態に制御する。
【0024】
制御部16は、上記の制御を行って光源11から発せられた所定の周波数帯域の光の一部が受光素子13に入射し、その光の残りの一部が物体に反射して受光素子13に入射した場合に、受光素子13に入射した2つの光の特性の経時変化に基づいて物体までの距離を算出する。制御部16は、本実施例では、光の強度を光の特性として用いて物体までの距離を算出する。距離の算出方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0025】
図3は発光及び受光する光の強度の経時変化の一例を表す。
図3では、横軸が時刻を示し、縦軸が光量を示すグラフが表されている。制御部16は、まず、光スイッチ12を遮断にした状態で、上述した所定の周波数帯域の光を連続的に発するよう光源11を制御する。次に、制御部16は、光スイッチ12を遮断から透過の状態に切り替える制御を行う。この制御により、
図3(a)に表すように発光量C11の光が時刻t1に測距装置10から発せられる。
【0026】
測距装置10が発した光が物体に到達して反射されると、反射光の一部が測距装置10に向かい、その光と
図1に表す光路A1を通過する光源11からの光とが合成された合成光が受光素子13に到達する。合成光が受光素子13に到達すると、制御部16は、受光素子13が受光した合成光の光量(以下「受光量」と言う)を測定する。制御部16は、例えば、所定の周波数帯域に含まれる2以上の周波数の光の強度の平均値を、合成光全体の受光量として算出する。
【0027】
図3の例では、制御部16が、
図3(b)に表すように受光量C21の光を時刻t2に測定し、受光量C22の光を時刻t3に測定している。また、制御部16は、時刻t2以前にも、光路A1を通過した光の受光量C0を測定している。受光量C21、C22は、光路A1を通過した光と物体で反射して光スイッチ12からの光の反射光との合成光の光量を表している。受光量が段階的に増加しているのは、物体に起伏等があり、測距装置10からの距離が近い部分で反射した光が時刻t2に受光素子13に到達し、測距装置10からの距離が遠い部分で反射した光が時刻t3に受光素子13に到達したからである。
【0028】
制御部16は、光スイッチ12が透過に切り替わった時刻t1と、物体での反射光を含む合成光が受光された時刻t2、t3との時間差d2、d3に基づいて物体までの距離を算出する。具体的には、制御部16は、時間差d2、d3に光が空気中を進行する距離の2分の1を物体までの距離として算出する。以上のとおり、制御部16は、光スイッチ12が通過に切り替わった時刻と物体に反射した光が受光素子13に入射した時刻とに基づいて物体までの距離を算出する。制御部16は、2次元に配置された画素に対応する各方向の物体までの距離をそれぞれ算出し、立体物の画像を生成する。
【0029】
制御部16は、上記の構成に基づいて、物体までの距離を算出する算出処理を行う。
図4は算出処理における動作手順の一例を表す。まず、制御部16は、光源11による発光を開始させる(ステップS11)。次に、制御部16は、光源11からの光に基づくIF信号(Intermediate Frequency信号)を記録する(ステップS12)。続いて、制御部16は、光スイッチ12を遮断から通過に切り替える(ステップS13)。
【0030】
次に、制御部16は、物体での反射光の一部を含む合成光の受光量の測定が開始された時刻を取得する(ステップS14)。続いて、制御部16は、ステップS12において光スイッチ12を切り替えた時刻(
図3の例だと時刻t1)と、ステップS13において取得した受光量の測定開始時刻との時間差に基づいて物体までの距離を算出する(ステップS15)。そして、制御部16は、前述した全画素に対応する物体までの距離の算出が完了したか否かを判断し(ステップS16)、完了していない(NO)場合はステップS12に戻って動作を続け、完了した(YES)場合は算出処理を終了する。
【0031】
例えば単一の周波数の光を発して物体までの距離を測定する場合、反射光の特性が現れやすいようにするため、光アンプ等を用いて光の強度を高めることが行われている。本実施例では、所定の周波数帯域における2以上の周波数の光の強度に基づき距離を算出している。これにより、単一の周波数の光を発する場合に比べて受光する光の強度を高めることができ、距離の算出の確実性を向上させることができる。
【0032】
また、本実施例では、反射光の強度のように、受光素子13で容易に測定可能な特性に基づき距離を測定することができる。また、光源11はCWレーザーを出力するため、光アンプ等を用いなくても測定に十分な強度の光を発することができ、単一周波数の光を用いる場合に比べて、部品点数を減らすことができる。
【0033】
物体の表面の特性によっては、その表面での反射光の光量が光の周波数毎に異なる場合がある。その場合、単一の周波数の光を発すると、その周波数の反射光の光量が少ない物体については受光量が不十分になって距離の精度が低くなることがある。本実施例では、所定の周波数帯域における2以上の周波数の光の強度の平均値の経時変化に基づいて物体までの距離が算出されるので、単一の周波数の光を発する場合に比べて受光する光の強度が不足しにくくなり、距離の算出の精度を向上させることができる。
【0034】
[2]変形例
上述した実施例は本発明の実施の一例に過ぎず、以下のように変形させてもよい。また、実施例及び各変形例は必要に応じてそれぞれ組み合わせてもよい。
【0035】
[2-1]光の特性
制御部16は、実施例では、所定の周波数帯域における2以上の周波数の光の特性として光の強度を用いて物体までの距離を算出したが、これに限らない。制御部16は、例えば、受光素子13に入射したそれら2つの光(光源11からの光と光スイッチ12からの光)の周波数の経時変化に基づいて物体までの距離を算出してもよい。
【0036】
制御部16は、実施例と同様に、所定の周波数帯域の光を連続的に発するよう光源11を制御し、次に、遮断から通過に切り替えるよう光スイッチ12を制御する。光路A1を通過してきた光源11からの光と物体で反射した光の一部との合成光が受光素子13に到達すると、制御部16は、受光素子13が受光した合成光の周波数を測定する。
【0037】
図5は合成光の周波数の経時変化の一例を表す。
図5では、横軸が時刻を示し、縦軸が周波数を示すグラフが表されている。制御部16は、光路A1を通過してきた光だけが受光される期間は周波数f0を測定する。なお、制御部16は、受光する光が周波数帯域を有する場合、周波数帯域に含まれる各周波数に、その周波数の光の受光量の重み付けをして算出した周波数の平均値を、受光する光の周波数として測定する。
【0038】
制御部16は、
図5に表すように周波数f21の光を時刻t2に測定し、周波数f22の光を時刻t3に測定している。周波数f21、f22は、光路A1を通過してきた光と物体で反射した光との合成光の周波数を表している。制御部16は、光スイッチ12が発光した時刻t1と、合成光が受光された時刻t2、t3との時間差d2、d3に基づいて物体までの距離を算出する。具体的には、制御部16は、時間差d2、d3に光が空気中を進行する距離の2分の1を物体までの距離として算出する。
【0039】
なお、制御部16は、受光素子13に入射したそれら2つの光(光路A1を通過してきた光と物体で反射した光)の光量及び周波数の組み合わせの経時変化に基づいて物体までの距離を算出してもよい。その場合、制御部16は、実施例と同様に合成光の光量を測定し、上記のように合成光の周波数を測定し、測定した光量及び周波数を例えば所定の関数に代入して組み合わせの値を算出する。
【0040】
制御部16は、算出した組み合わせの値の経時変化に基づき、
図3及び
図5の例と同様に光スイッチ12が通過に切り替わった時刻と、合成光が受光された時刻との時間差を求めて物体までの距離を算出する。本変形例によれば、実施例と同様に、周波数又は周波数と強度の組み合わせのように受光素子で容易に測定可能な特性に基づき距離を測定することができる。
【0041】
[2-2]距離と速度の測定
制御部16は、物体までの距離だけでなく、物体の移動する速度を測定してもよい。その際、制御部16は、例えば、光源11に単一の周波数の光を発するよう制御を行い、その制御の後に測定される強度の経時変化に基づいて物体までの距離を算出し、同じくその制御の後に測定される周波数の経時変化に基づいて前記物体の速度を算出する。制御部16は、物体までの距離の算出は、実施例と同様に行えばよい。
【0042】
物体が測距装置10から遠ざかる方向又は近づく方向に移動している場合、ドップラー効果により反射光の周波数が変化する。物体が近づいている場合は周波数が高くなるように変化し、物体が遠ざかっている場合は周波数が低くなるように変化する。制御部16は、物体が動かない場合に測定される合成光の周波数と測定した合成光の周波数との差分に応じた速度を物体の速度として算出する。
【0043】
例えば測定される光の特性の経時変化に物体までの距離成分と物体の速度成分が含まれている場合、それらを分離して距離及び速度を算出することになる。その場合、分離の精度が悪ければ測定される距離及び速度の精度も悪くなる。本変形例では、光の特性に含まれる距離成分及び速度成分の分離が必要ないので、その分離を行う場合に比べて、算出される距離及び速度の精度を向上させることができる。
【0044】
[2-3]発明のカテゴリ
本発明は、測距装置10の他、測距装置10の制御部16が実施する処理を実現するための情報処理方法としても捉えられるし、測距装置10を制御するコンピュータを機能させるためのプログラムとしても捉えられる。このプログラムは、それを記憶させた光ディスク等の記録媒体の形態で提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してコンピュータにダウンロードさせ、それをインストールして利用可能にするなどの形態で提供されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…測距装置、11…光源、12…光スイッチ、13…受光素子、14…ハーフミラー、15…ハーフミラー、16…制御部。