(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】走行支援方法、及び、走行支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240620BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20240620BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20240620BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240620BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/04
B60W40/06
B60W60/00
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2020074352
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】武井 翔一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 千加夫
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156075(JP,A)
【文献】特開2019-209813(JP,A)
【文献】特開2019-085039(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031238(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190212(WO,A1)
【文献】特開2019-123449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/10
B60W 40/04
B60W 40/06
B60W 60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の位置と速度を算出し、
前記自車両の位置の情報に基づいて地図情報における前記自車両の位置を推定し、
前記自車両の目的地の情報に基づいて前記地図情報における前記自車両の現在の位置から前記目的地までの走行経路を生成し、
本線と前記本線から分岐する分岐路とを含む走行車線において、前記走行経路が前記本線から前記分岐路に進入するように生成され、且つ前記自車両が前記本線を走行中に前記自車両の周囲の物体を検知するセンサが前記分岐路において渋滞車列を検知したときに、
前記渋滞車列において前後方向に並ぶ複数の渋滞車両の前記自車両からの相対位置と相対速度をそれぞれ算出し、
前記地図情報における前記自車両の位置と複数の前記渋滞車両の前記相対位置に基づいて前記地図情報における複数の前記渋滞車両の前記分岐路における位置をそれぞれ推定し、
前記渋滞車列の前後方向で隣接する2つの前記渋滞車両の間に形成される各車間領域において、前記自車両の位置と速度、及び複数の前記渋滞車両の前記相対位置と前記相対速度に基づいて、前記本線を走行する前記自車両が各車間領域に割り込み可能な各位置にそれぞれ到達したと仮定したときの当該車間領域の車間距離をそれぞれ予測することで複数の前記車間領域における割り込み実現性をそれぞれ算出し、
複数の前記車間領域において前記渋滞車列の最後尾から離れた位置にある前記車間領域ほど当該車間領域における前記割り込み実現性を低く補正し、
補正後の複数の前記割り込み実現性のうち基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域に
前記自車両の割り込みが行われるように
前記走行経路を変更し、
前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域が複数ある場合に、前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記自車両の現在の位置から最も距離の近い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する、又は前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記割り込み実現性が最も高い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する、走行支援方法。
【請求項2】
請求項1
に記載の走行支援方法であって、
さらに、前記
本線の幅が狭いほど、
前記割り込み実現性をより低く補正する、走行支援方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の走行支援方法であって、
さらに、前記
本線の曲率が大きいほど、
前記割り込み実現性をより低く補正する、走行支援方法。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の走行支援方法であって、
さらに、前記
本線の車線数が多いほど、
前記割り込み実現性をより低く補正する、走行支援方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の走行支援方法であって、
さらに、
前記走行車線が、前記本線と前記分岐路との間を分離する分離帯と、前記分離帯の開始点よりも車両の進行方向の後方であって前記本線からの前記分岐路の分岐が開始される分岐点とをさらに含み、前記走行経路が前記本線から前記分岐路の前記分岐点と前記開始点の間から進入するように生成された場合において、複数の前記車間領域のうち前記開始点よりも後方であって前記開始点に最も近接した前記車間領域における前記割り込み実現性をゼロに補正する、走行支援方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の走行支援方法であって、
一つの前記車間領域を形成する2つの前記渋滞車両のうち、後方の前記渋滞車両の加速度が前方の前記渋滞車両の加速度よりも小さい場合には、当該
車間領域における前記割り込み実現性をより高く算出する、走行支援方法。
【請求項7】
自車両の位置と速度を算出する第1のセンサと、
前記自車両の周囲の物体を検知する第2のセンサと、
前記自車両の位置の情報にもとづいて地図情報における前記自車両の位置を推定する位置推定部と、
前記自車両の目的地の情報に基づいて前記地図情報における前記自車両の現在の位置から前記目的地までの走行経路を生成するコントローラと、を含む走行支援装置であって、
本線と前記本線から分岐する分岐路とを含む走行車線において、前記走行経路が前記本線から前記分岐路に進入するように生成され、且つ前記自車両が前記本線を走行中に前記第2のセンサが前記分岐路において渋滞車列を検知したときに、
前記コントローラは、
前記第2のセンサを介して前記渋滞車列を構成し前後方向に並ぶ複数の渋滞車両の前記自車両からの相対位置と相対速度をそれぞれ算出し、
前記地図情報における前記自車両の位置と複数の前記渋滞車両の前記相対位置に基づいて前記地図情報における複数の前記渋滞車両の前記分岐路における位置をそれぞれ推定し、
前記渋滞車列の前後方向で隣接する2つの前記渋滞車両の間に形成される各車間領域において、前記自車両の位置と速度、及び複数の前記渋滞車両の前記自車両からの前記相対位置と前記相対速度に基づいて、前記本線を走行する前記自車両が各車間領域に割り込み可能な各位置にそれぞれ到達したと仮定したときの当該車間領域の車間距離をそれぞれ予測することで複数の前記車間領域における割り込み実現性をそれぞれ算出し、
複数の前記車間領域において前記渋滞車列の最後尾から離れた位置にある前記車間領域ほど当該車間領域における前記割り込み実現性を低く補正し、
補正後の複数の前記割り込み実現性のうち基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更し、
前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域が複数ある場合に、前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記自車両の現在の位置から最も距離の近い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する、又は前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記割り込み実現性が最も高い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する、走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法、及び、走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行を支援する方法の1つとして、渋滞車列への割り込みを支援する方法が知られている。例えば、特許文献1には、渋滞車列への割り込みを支援する技術の一例が開示されている。この技術によれば、低速で渋滞車列の側方を走行している間に、渋滞車列を構成する車両の前後間隔が比較的広いと予測される場所を渋滞割り込み箇所として特定し、特定した割り込み箇所において渋滞車列への割り込みが行われるように支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術を用いる場合には、渋滞車列における位置によらずに特定した割り込み箇所に基づいた走行支援を実行するため、適切な走行支援の実施が難しいという問題が有った。
【0005】
本発明の目的は、渋滞車列の位置に応じた渋滞車列への割り込み実現性を求め、求めた割り込み実現性に基づいて走行支援を行うことにより、渋滞車列への割り込みの失敗を低減する走行支援方法、及び、走行支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様による走行支援方法は、自車両の位置と速度を算出し、前記自車両の位置の情報に基づいて地図情報における前記自車両の位置を推定し、前記自車両の目的地の情報に基づいて前記地図情報における前記自車両の現在の位置から前記目的地までの走行経路を生成し、本線と前記本線から分岐する分岐路とを含む走行車線において、前記走行経路が前記本線から前記分岐路に進入するように生成され、且つ前記自車両が前記本線を走行中に前記自車両の周囲の物体を検知するセンサが前記分岐路において渋滞車列を検知したときに、前記渋滞車列において前後方向に並ぶ複数の渋滞車両の前記自車両からの相対位置と相対速度をそれぞれ算出し、前記地図情報における前記自車両の位置と複数の前記渋滞車両の前記相対位置に基づいて前記地図情報における複数の前記渋滞車両の前記分岐路における位置をそれぞれ推定し、前記渋滞車列の前後方向で隣接する2つの前記渋滞車両の間に形成される各車間領域において、前記自車両の位置と速度、及び複数の前記渋滞車両の前記相対位置と前記相対速度に基づいて、前記本線を走行する前記自車両が各車間領域に割り込み可能な各位置にそれぞれ到達したと仮定したときの当該車間領域の車間距離をそれぞれ予測することで複数の前記車間領域における割り込み実現性をそれぞれ算出し、複数の前記車間領域において前記渋滞車列の最後尾から離れた位置にある前記車間領域ほど当該車間領域における前記割り込み実現性を低く補正し、補正後の複数の前記割り込み実現性のうち基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更し、前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する前記車間領域が複数ある場合に、前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記自車両の現在の位置から最も距離の近い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する、又は前記基準値よりも高い前記割り込み実現性を有する複数の前記車間領域のうち前記割り込み実現性が最も高い前記車間領域に前記自車両の割り込みが行われるように前記走行経路を変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の走行支援方法によれば、渋滞車列への割り込みの失敗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る走行支援装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、渋滞車列への割り込みをする自車両の走行状況を示す図である。
【
図3】
図3は、運転支援制御を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、走行経路の生成制御を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、割り込み実現性の補正方法の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書における「運転支援」は、車両のドライバによる運転操作の一部を補助する車両の動作制御(自動運転レベル1~4)の他、ドライバによる操作無しの車両の動作制御(自動運転レベル5)も含む概念である。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る走行支援装置1の概略構成図である。なお、この走行支援装置1は、車両などに搭載され、自車の周辺環境を検出し、検出された周辺環境の情報に基づいて走行環境を推定する。そして、走行支援装置1は、走行環境の推定結果に基づいて、加減速や車線変更など
を実行することで走行支援を行う。走行支援装置1は、走行経路や加減速のタイミングを、モニタによる表示や音声による報知等により走行支援を行ってもよい。
【0011】
走行支援装置1は、物体検出センサ11と、物体認識部12と、自車位置取得センサ13と、地図記憶部14と、地図内自車位置推定部15と、走行経路生成部20と、車両制御部31とを有する。
【0012】
なお、本実施形態の例においては、走行支援装置1のうちの一部の構成、例えば、物体認識部12と、地図記憶部14と、地図内自車位置推定部15と、走行経路生成部20と、車両制御部31とが、1つのコントローラにより構成されている。コントローラは、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RΑM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータで構成される。なお、コントローラは一つの装置として構成されていても良いし、複数のブロックに分けられ、本実施形態の各処理を当該複数のブロックで分散処理するように構成されていても良い。
【0013】
以下、走行支援装置1におけるそれぞれの構成について、詳細に説明する。
【0014】
物体検出センサ11は、自車の周辺に存在する物体(例えば、車両やバイク、歩行車、障害物等)について、その位置、進行方向、大きさ、速度等を取得する。なお、物体検出センサ11は、LiDAR(Light Detection And Ranging)、ミリ波レーダー、及び、カメラ等である。物体検出センサ11による物体の検出結果には、自車が走行する路面における物体の位置、進行方向、大きさ、速度等が含まれる。物体検出センサ11は、物体の検出結果を物体認識部12に出力する。
【0015】
物体認識部12は、物体検出センサ11による物体の検出結果を用いて、センサにおける誤差の補正などを行い、検出結果における物体ごとに誤差が最小となる合理的な位置、進行方向、大きさ、速度等を求める。さらに、物体認識部12は、異なる時刻の検出結果における物体の同一性の検証(対応付け)を行い、その対応付けに基づいて物体の速度を推定する。物体認識部12は、自車の周囲に存在する物体の位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を、走行経路生成部20に出力する。物体認識部12による認識結果は、自車を中心とした相対座標を用いて示される。
【0016】
自車位置取得センサ13は、GPS(Global Positioning System)やオドメトリ等の絶対位置を計測するセンサにより、自車の絶対位置、進行方向、速度等を計測する。自車位置取得センサ13は、自車の位置情報を、地図内自車位置推定部15に出力する。
【0017】
地図記憶部14は、高精度地図データを記憶しており、高精度地図データから縁石や車線等の絶対位置、車線の接続関係や相対位置関係等の地図情報を提供する。地図記憶部14は、記憶している地図情報を、地図内自車位置推定部15に出力する。
【0018】
地図内自車位置推定部15は、自車位置取得センサ13により得られた自車の位置情報と、地図記憶部14に記憶されている地図情報とに基づいて、地図内における自車の位置を推定する。地図内自車位置推定部15は、地図内の自車の位置情報を、走行経路生成部20に出力する。
【0019】
走行経路生成部20は、物体認識部12による認識結果、及び、地図内自車位置推定部15により得られる地図内の自車の位置情報を用いて、走行経路を生成する。なお、目的地までの走行経路において、渋滞車列への割り込みが必要な場合には、渋滞車列へ割り込みを行う割り込み箇所が定められ、その割り込み箇所へと進行するような走行経路が生成される。
【0020】
なお、走行経路生成部20は、渋滞車列における任意の位置における、割り込みが成功する可能性としての割り込み実現性を算出し、算出した割り込み実現性を地図情報に記憶する。そして、走行経路生成部20は、割り込み実現性が基準値を上回る箇所を割り込み箇所として決定し、割り込み箇所へと走行するような走行経路を生成することで、割り込み支援を行う。なお、割り込み実現性の算出においては、渋滞車列を構成する車両の前後距離を推定し、その推定された前後距離が比較的長い場所において、高い割り込み実現性が算出される。
【0021】
図2は、渋滞車列への割り込みを行う場合の車両の走行状況を示す図である。これらの図においては、図下から上に向かって車両が進行するものとする。
【0022】
この図には、図右側の本線L1と、本線L1から分岐する分岐路L2とが示されている。本線L1と分岐路L2とは、開始点Xから開始される分離帯により分離されている。なお、分岐路L2は、分離帯の開始点X(以降において分岐点Xとも称する)よりも進行方向手前の分岐点Yから開始している。本線L1においては自車両Aが走行し、分岐路L2においてはn台の車両B(車両B1~Bn)により構成される渋滞車列Cが存在する。なお、渋滞車列Cは、分岐路L2の分岐が開始される分岐点Yよりも手前の路側帯にまで伸びていてもよい。
【0023】
走行経路生成部20は、渋滞車列Cを構成する車両B1~Bnそれぞれの走行速度及び走行経路を予測し、渋滞車列C中において前後方向に隣接する任意の2つの車両Bの間隔が、割り込み可能長よりも長くなるか否かに応じて、渋滞車列Cの位置に応じた割り込み実現性を算出する。そして、走行経路生成部20は、割り込み実現性が高い位置を割り込み位置として決定し、決定された割り込み位置へと向かうような走行経路を生成する。例えば、割り込み可能長は、自車両Aの前後方向の全長に対してマージンを加えた予め定められた距離である。あるいは、相対速度と予め定めたTTC(Time to Collision:衝突余裕時間)とを乗算して求めた距離、すなわちTTCが予め定められた時間となる距離を割り込み可能長としても良い。
【0024】
このような状況において、割り込み実現性が比較的高く、それぞれの割り込み実現性が等しい箇所として、D1、D2、D3の3か所が特定されたものとする。D1は分岐路L2の分岐点Yの直後であり、D3は、分岐帯の開始点Xの直前である。D2は、D1とD2との間に位置するものとする。
【0025】
このような場合において、D1~D3において予測される車間距離が等しく割り込み実現性が等しいとしても、渋滞車列C内の車両Bのドライバの心理として、進行方向の手前のD1においては割り込みを許容しやすく、前方のD3においては割り込みを許容しにくい傾向がある。
【0026】
そこで、走行経路生成部20は、割り込み実現性が算出されるD1~D3について、渋滞車列Cの全体の中での位置に応じて、割り込み実現性を補正する。例えば、渋滞車列Cの最後尾からの距離が長いほど、割り込み実現性は低く補正される。また、D3においては、分離帯の開始点Xの直前であるため、割り込み失敗時には再度割り込みを試行することが難しいため、割り込み実現性はゼロに補正されて、D3よりも前方を割り込み禁止区間としてもよい。
【0027】
なお、自車両Aが割り込み箇所に近づいた時に、割り込み箇所の後方の車両Bが減速せず、車両Bの前後間隔が割り込み可能長よりも長くならずに、割り込みに失敗する場合がある。このような場合には、走行経路生成部20は、さらに、再度割り込み実現性の高い箇所を他の割り込み箇所として特定し、その割り込み箇所において割り込みが行われるような走行経路を再生成する。このような走行経路の生成を繰り返すことによって、自車両の渋滞車列Cへの割り込みを支援する。
【0028】
再び、
図1を参照すれば、
図2に示されるような割り込み実現性の算出は、走行経路生成部20により行われる。走行経路生成部20は、経路設定部21、及び、割り込み経路生成部22を含む。
【0029】
経路設定部21は、地図記憶部14に記憶されている地図情報、及び、地図内自車位置推定部15により得られる地図内の自車の位置情報を取得する。地図情報には、推奨される走行経路が含まれており、経路設定部21は、自車の走行経路となる情報を抽出して走行経路を設定する。
【0030】
経路設定部21は、地図情報を取得できない場合には、物体検出センサ11により取得される画像情報などに基づいて、走行経路を設定する。経路設定部21による走行経路の設定には、カメラなどの車載センサにより取得される情報が用いられてもよく、また、地図データに含まれる道路表示、構造物、及び、旋回先の車線などの情報を補助的に用いてもよい。
【0031】
割り込み経路生成部22は、自車両Aの走行経路に渋滞車列Cが存在する場合には、渋滞車列Cにおける割り込み箇所を検出し、割り込み箇所へと向かうような割り込み経路を生成する。これにより、走行経路は割り込み経路を含むように変更されて、自車両Aの割り込みが支援される。
【0032】
割り込み経路生成部22は、渋滞車列判定部221、車間距離推定部222、割り込み実現性算出部223、及び、割り込み実現性付与部224を有しており、これらのブロックは、以下の処理を行う。
【0033】
渋滞車列判定部221は、物体認識部12による認識結果に基づいて、前後方向に列をなした複数の車両を検出すると、それらの車両の前後方向の車間距離が所定の距離より短く、かつ、車両の平均車速が所定の速度よりも遅い場合には、当該複数の車両により渋滞車列Cが構成されていることを判定する。なお、渋滞車列判定部221は、渋滞車列Cの最後尾を検出することができる。また、この渋滞車列Cの最後尾は、通信を介してネットワークから取得してもよい。
【0034】
車間距離推定部222は、渋滞車列Cを構成する車両Bのそれぞれの走行経路及び速度を求め、自車両Aがその位置に到達した場合における前後方向に隣り合う2つの車両Bの全ての車間距離を推定する。すなわち、2つの前後に隣接する車両Bのうち、後の車両Bの方が前の車両Bよりも加速度が小さい場合には、車間距離が長いものと推定される。
【0035】
割り込み実現性算出部223は、渋滞車列Cにおいて、車間距離推定部222により推定される車間距離が閾値を下回る箇所については、割り込み実現性をゼロとして算出し、予測される車間距離が閾値を上回る箇所については、予測される車間距離が長いほど高い割り込み実現性を算出する。さらに、割り込み実現性算出部223は、渋滞車列Cにおける位置に応じて算出された割り込み実現性に対して、渋滞車列判定部221により取得された渋滞車列Cの最後尾から割り込み箇所までの距離に応じて補正する。具体的には、割り込み実現性に対して、1以下の補正率が乗算されることにより、より小さくなるように補正される。渋滞車列Cの最後尾から割り込み箇所までの距離が短いほど、補正率は1に近い大きな値となり、当該距離が長いほど、補正率はゼロに近い小さな値となる。これにより、距離が長いほど、割り込み実現性は低くなるように補正される。
【0036】
割り込み実現性付与部224は、割り込み実現性算出部223により算出された割り込み実現性を、地図記憶部14に記憶する。このようにすることで、経路設定部21は、地図記憶部14において記録された情報に基づいて、割り込み実現性が所定の基準値よりも高い箇所を割り込み箇所として定め、その割り込み箇所へと進むように自車両Aの走行を支援することができる。なお、割り込み実現性が基準値を上回る割り込み箇所が複数ある場合には、自車両Aの現在地から最も距離の近い割り込み箇所へと向かうように走行経路を生成してもよいし、割り込み実現性の最も高い箇所へと向かうように走行経路を生成してもよい。
【0037】
図3は、走行支援装置1により行われる運転支援制御を示すフローチャートである。なお、この運転支援制御は、所定の周期で繰り返し実行される。また、この運転支援制御は、走行支援装置1が備えるコントローラに記憶されたプログラムが実行されることにより行われてもよい。
【0038】
ステップS1において、コントローラ(物体認識部12)は、物体検出センサ11による自車周囲の物体の検出結果を用いて、自車周囲に存在する物体ごとの位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を取得する。検出結果には、例えば、自車両を空中から眺める天頂図において、物体の2次元位置、姿勢、大きさ、速度などが含まれる。
【0039】
ステップS2において、コントローラ(物体認識部12)は、ステップS1における物体の検出結果を基に物体検出センサ11の誤差を補正し、さらに、異なる時刻に出力された物体の検出結果において物体の同一性検証(対応付け)を行う。このようにして、コントローラ(物体認識部12)は、自車両の周囲に存在する物体の位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を、走行経路生成部20に出力する。
【0040】
ステップS3において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、自車位置取得センサ13の検出結果に基づいて、自車位置を取得する。
【0041】
ステップS4において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、地図記憶部14に記憶されている高精度地図データを取得する。
【0042】
ステップS5において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、ステップS3において取得された自車位置と、ステップS4において取得された地図データとを用いて、地図内における自車位置を特定する。
【0043】
ステップS6において、コントローラ(走行経路生成部20)は、ステップS2において取得された自車の近傍に存在する物体の検出結果、及び、ステップS5において取得された地図内における自車位置や、目的地の情報を用いて、自車の走行経路を生成する。
【0044】
そして、コントローラ(割り込み経路生成部22)は、渋滞車列Cを検出し、渋滞車列Cにおいて割り込み実現性を算出し、算出された割り込み実現性を地図記憶部14に記憶する。
【0045】
ステップS7において、コントローラ(走行経路生成部20)は、割り込み実現性が基準値を上回る割り込み個所において割り込みを支援するような割り込み経路を生成する。
【0046】
ステップS8において、コントローラ(車両制御部31)は、生成された走行経路に沿って自車両を走行させる。また、コントローラは、走行経路に沿って走行するように、走行支援を行ってもよい。
【0047】
図4は、
図3のステップS6に示された走行経路の生成制御の詳細を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS61において、コントローラ(渋滞車列判定部221)は、物体認識部12の認識結果に基づいて自車両Aの周囲に存在する渋滞車列Cを検出する。コントローラ(渋滞車列判定部221)は、渋滞車列Cの最後尾位置(末尾位置)をあわせて検出する。なお、本処理において、コントローラは、渋滞車列を検出し、かつ、その側方を走行する場合に、さらにステップS62の処理を行ってもよい。このようにすることで、処理負荷の軽減を図ることができる。
【0049】
ステップS62において、コントローラ(車間距離推定部222)は、渋滞車列Cの長さ、及び、その最後尾位置を検出する。
【0050】
ステップS63において、コントローラ(割り込み実現性算出部223)は、前後に隣接する2つの車両Bの全ての車間距離を予測する。なお、予測される車間距離は、自車両Aがその2つの車両Bの間の割り込み位置に到達したと仮定した場合におけるものとする。そして、車間距離が割り込みに必要な距離を上回ると予測される場所については、その予測される車間距離が長いほど、割り込み実現性が高く算出される。
【0051】
ステップS64において、コントローラ(割り込み実現性算出部223)は、ステップS63において算出された割り込み実現性に対して、1以下の補正率を乗ずることで、補正を行う。具体的には、コントローラは、ステップS61において検出された渋滞車列Cの最後尾からの距離が短いほど、補正率は1に近く、距離が長いほど補正率はゼロに近い。すなわち、その距離が長いほど、割り込み実現性を低く補正される。なお、過去における割り込みの成功確率を蓄積して、割り込みの成功確率に応じて補正方法を変更してもよい。例えば、割り込みの成功確率と車間距離との関係とを記憶し、成功確率が閾値を下回るような車間距離である場合には、補正率をより低く設定してもよい。
【0052】
ステップS65において、コントローラ(割り込み実現性付与部224)は、割り込み実現性算出部223により算出された割り込み実現性を、地図記憶部14に記憶する。
【0053】
ステップS66において、コントローラ(経路設定部21)は、地図記憶部14において記録された情報に基づいて、割り込み実現性が基準値を上回る割り込み個所へと進むような走行経路を生成する。なお、走行経路がすでに作成されている場合には、コントローラは、割り込み実現性が高い割り込み箇所へと進むように、走行経路を変更する。
【0054】
このようすることで、渋滞車列Cを構成する車両Bの前後方向の距離に応じて算出された割り込み実現性が、さらに、渋滞車列Cの最後尾からの距離に応じて補正される。その結果、より高い精度で後続車両へ自車両Aが割り込み可能か否かを推定することができるので、割り込みの失敗を低減できる。
【0055】
なお、本実施形態においては、割り込み実現性は、予測される車間距離に応じて算出された後に、渋滞車列Cの最後尾からの距離に応じて補正されたが、これに限らない。割り込み実現性は、予測される渋滞車列Cの車両Bの速度をさらに用いて算出されてもよい。例えば、予測される車両Bの速度が速い場合には、割り込み実現性は、より低く算出される。
【0056】
また、本実施形態においては、割り込み実現性は、渋滞車列Cの最後尾からの距離に応じて、割り込み実現性を補正したがこれに限らない。渋滞車列Cの最後尾からの距離の、渋滞車列の全長に対する比に応じて、割り込み実現性を補正してもよい。このようにすることで、渋滞車列Cの長さに応じて補正を正確に行うことができるので、割り込みが失敗する可能性を低減することができる。
【0057】
また、本実施形態においては渋滞車列Cへの割り込みを行う例について記載したが、これに限らない。例えば、複数の車両Bからなる車列Cが、渋滞せずに所定の速度で走行しているような場合に、その車列Cの走行車線へ車線変更を行うと仮定して、車列Cへの割り込み実現性を算出してもよい。このようにすることで、車列Cの走行車線への変更を失敗する可能性を抑制することができる。
【0058】
このような第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0059】
第1実施形態の走行支援方法によれば、コントローラは、渋滞車列の任意の位置において渋滞車列Cを構成する前後に隣接する車両の前後距離に基づいて割り込み実現性を算出し(S63)、算出された割り込み実現性について渋滞車列Cの最後尾からの距離の長さに応じて補正する(S64)。そして、渋滞車列Cの位置に応じた割り込み実現性が付与されて(S65)、割り込み実現性が基準値を上回る割り込み箇所において自車両Aが渋滞車列Cに割り込みを行うように走行経路が生成される(S66)。そして、生成された走行経路に沿って走行するように、自車両の走行支援が行われる(S8)。
【0060】
ここで、渋滞車列C内の車両Bのドライバの心理として、進行方向の手前のD1においては割り込みを許容しやすく、前方のD3においては割り込みを許容しにくい傾向がある。そこで、コントローラは、算出された割り込み実現性に対して、渋滞車列Cの最後尾からの距離が長いほど小さくなるように補正をする(S64)。このように、渋滞車列の車両Bの車間距離だけでなく、自車両Aが進んだ距離に応じても割り込み実現性を変化させることにより、より割り込み実現性を精度よく算出できるため、渋滞車列Cへの割り込み実現性を向上させることができる。
【0061】
第1実施形態の走行支援方法によれば、コントローラは、渋滞車列Cを構成し前後方向に隣接する2つの車両Bのうち、後方の車両Bの加速度が前方の車両Bよりも加速度が小さい場合には、車間距離が広くなりやすいので、割り込み実現性がより高くなるように算出する。このように算出される割り込み実現性の高い箇所においては、両車両Bの間の車間距離が長くなりやすいため、割り込みがしやすい。このように算出される割り込み実現性にも基づいて割り込み支援を行うことにより、割り込みの失敗を低減できる。
【0062】
第1実施形態の走行支援方法によれば、コントローラは、算出された割り込み実現性に対して、渋滞車列Cの最後尾からの距離の、渋滞車列Cの全長に対する割合が大きいほど、小さくなるような補正をする(S64)。このようにすることで、渋滞車列Cの全長に応じて割り込み実現性が変化するので、補正の精度を高めることができるので、より正確に割り込み実現性を求めることができる。
【0063】
第1実施形態の走行支援方法によれば、渋滞車列が、自車が走行する本線L1の前方で分岐する分岐路L2に存在する場合には、本線と分岐路との分離帯の開始点Xから所定距離内においては、割り込み実現性を割り込み不可となるようにする(ゼロとする)。このようにすることで、分離帯の開始点Xの近傍においては割り込みが行われないようになるため、危険性の高い割り込みを抑制することができる。
【0064】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、渋滞車列Cにおいて最後尾からの距離に応じて割り込み実現性を補正したが、これに限らない。第2実施形態においては、他のパラメータを用いて、割り込み実現性を補正してもよい。
【0065】
例えば、コントローラは、渋滞車列Cの車両Bの平均速度が速いほど、割り込み実現性をより小さく補正する。ここで、渋滞車列Cの車速が速いほど、割り込みに必要な車間距離は長いため、割り込み実現性は低くなる。このように、さらに他のパラメータとして渋滞車列Cの平均車速に応じて割り込み実現性を補正することにより、割り込み失敗を低減することができる。
【0066】
また、例えば、
図5に示されるように、自車両Aの前方を他車両Eが走行しており、他車両Eが渋滞車列Cの車両B3とB4との間において割り込みを行ったものとする。このような場合には、割り込まれた車両B4の運転手は、その後に自車両Aの割り込みを許容する可能性が低いと推測できる。そこで、車両B3とB4との間においては、より割り込み実現性が低くなるように補正する。
【0067】
一方、車両B4よりも後方の車両は前方において割り込みが行われたことを視認でき、また、割り込みを行った他車両Eよりも前方の車両はサイドミラーなどにより後方において割り込みが行われたことを視認できる。そのため、これらの車両の運転者は、心理的には割り込みを許容する可能性が高いため、例えば、1よりも大きな補正率を設定して、補正後の割り込み実現性をより高くする。このようにすることで、割り込み実現性をより高い精度で求めることができるので、割り込み失敗を抑制できる。
【0068】
さらに、コントローラは、自車両の走行車線の幅が狭いほど、割り込み実現性をより低く補正してもよい。自車の走行車線の幅が狭い場合には、割り込む際に、渋滞車列Cにおける割り込み箇所の車間距離が長い方が好ましい。そこで、割り込み実現性をより低く補正することで、安全性の高い割り込みを行うことができる。
【0069】
また、コントローラは、自車両の走行車線の曲率が大きいほど、割り込み実現性をより低く補正してもよい。自車の走行車線の曲率が大きい場合には、割り込む際に、渋滞車列Cにおける割り込み箇所の車間距離が長い方が好ましい。そこで、割り込み実現性をより低く補正することで、安全性の高い割り込みを行うことができる。
【0070】
また、コントローラは、自車両の走行車線の車線数が多いほど、割り込み実現性をより低く補正してもよい。自車の走行車線の車線数が大きい場合には、割り込む際に、渋滞車列Cにおける割り込み箇所の車間距離が長い方が好ましい。そこで、割り込み実現性をより低く補正することで、安全性の高い割り込みを行うことができる。
【0071】
なお、上記各実施形態は、矛盾を生じない範囲の任意の組み合わせで相互に組み合わせることが可能である。
【0072】
上記各実施形態で説明した処理をコンピュータであるコントローラに実行させるための制御プログラム、及び当該制御プログラムを記憶した記憶媒体も、本出願における出願時の明細書等に記載された事項の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 走行支援装置
11 物体検出センサ
12 物体認識部
13 自車位置取得センサ
14 地図記憶部
15 地図内自車位置推定部
20 走行経路生成部
21 経路設定部
22 割り込み経路生成部
31 車両制御部
221 渋滞車列判定部
222 車間距離推定部
223 割り込み実現性算出部
224 割り込み実現性付与部