(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ダイシング用基体フィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240620BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2020076500
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【氏名又は名称】北原 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太地
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125521(JP,A)
【文献】特開2017-063210(JP,A)
【文献】特表2006-513056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/52
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイシング用基体フィルムであって、
少なくとも表層/
第1接着層/中間層
/第2接着層/裏層の順に積層された構成を含み、
前記表層及び前記裏層
の各々は、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、
前記第1及び第2接着層の各々は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む樹脂組成物からなり、
前記第1及び第2接着層の各々を構成する樹脂組成物に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量は、5重量%以上、40重量%以下であり、
前記中間層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる、
ダイシング用基体フィルム。
【請求項2】
前記表層及び前記裏層
の各々は、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂を含む樹脂組成物からなる、請求項1に記載のダイシング用基体フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイシング用基体フィルムの表層側に、粘着剤層とダイボンド層とをこの順に設けたダイシングフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハをチップ状にダイシングする際に、半導体ウェハに貼着して固定し使用される、ダイシング用基体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する方法として、半導体ウェハを予め大面積で製造し、次いでその半導体ウェハをチップ状にダイシング(切断分離)し、最後にダイシングされたチップをピックアッップする方法がある。半導体ウェハの切断方法として、近年、レーザー加工装置を用い、半導体ウェハに接触することなく半導体ウェハを切断(分断)するステルスダイシングが知られている。
【0003】
特許文献1及び2は、出願人の技術のダイシング用基体フィルムであり、このフィルムは、熱による復元性が高く、ヒートシュリンク性が良好に発揮され、ラック回収性に優れているので、このフィルムを用いると、ダイシング済みのダイシングフィルムのラックへの回収が、より迅速にかつ簡便に行える。また、このフィルムを用いると、低温条件下でエキスパンドを実施した場合であっても、ダイシングフィルムが均一に伸張する。更に、このフィルムを用いると、例えばステルスダイシング後、半導体ウェハとダイボンド層を切断(分断)する場合に、低温条件及び高速条件下でエキスパンドを実施した場合であっても、ダイシングフィルムが良好に伸張する。
【0004】
特許文献3は、最外層を含む二層以上の積層構造を有し、前記最外層は、融点が98℃以上の熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、前記最外層以外の少なくとも一層は、不飽和カルボン酸含有量が17質量%以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体及び前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーのいずれか一方を少なくとも含有する樹脂組成物からなる、積層フィルムと、前記積層フィルムの最外層の反対側に位置する層の表面上に配置された粘着層とを備えたダイシングフィルムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-125521号公報
【文献】国際公開番号WO2019/039253A1
【文献】特許第5087717号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好なピックアップ性を有する、新たなダイシング用基体フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、新たなダイシング用基体フィルムを提供することができる。
【0008】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いて形成するダイシングフィルムは、シワや撓み(たわみ)によるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を有する。
【0009】
項1.
ダイシング用基体フィルムであって、
少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成を含み、
前記表層及び前記裏層は、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、
前記中間層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる、
ダイシング用基体フィルム。
【0010】
項2.
前記表層及び前記裏層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂を含む樹脂組成物からなる、前記項1に記載のダイシング用基体フィルム。
【0011】
項3.
前記項1又は2に記載のダイシング用基体フィルムの表層側に、粘着剤層とダイボンド層とをこの順に設けたダイシングフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、新たなダイシング用基体フィルムを提供することができる。
【0013】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いて形成するダイシングフィルムは、好ましくは、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のダイシング用基体フィルムを用いて、引張試験による歪量(撓み量)の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成を含み、前記表層及び前記裏層は、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、前記中間層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなるダイシング用基体フィルムである。
【0016】
本発明は、ダイシング用基体フィルムに、更に、そのダイシング用基体フィルム上に粘着剤層とダイボンド層をこの順に設けたダイシングフィルムに関する。
【0017】
半導体ウェハをダイシングして、個別化された半導体チップは、半導体加工用テープからピックアップすることにより、そのテープから剥がされて、実装又はケースに保管される。剥がす方法は、半導体加工用テープ裏面からUV光等を当てて、半導体チップとそのテープとの粘着力を低下させて、そのテープ側から半導体をニードル等で突き上げてピックアップコレット等で吸着させて取り外す。
【0018】
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、ピックアップ代替評価の残留歪(ひずみ)の値が1.5%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、これから形成するダイシングフィルムは、ニードル等で突き上げを行っても、ダイシングフィルム(半導体加工用テープ)のダイシング用基体フィルムに歪(ひずみ)が生じない。本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、半導体チップが小さく、数が多い場合や、ピックアップ回数(突き上げる回数)が多い場合であっても、ダイシング用基体フィルムに突き上げによる残留歪(ひずみ)が低減されている、或は蓄積されず、シワや撓みが生じない。
【0020】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、これから形成するダイシングフィルムは、シワや撓みの影響が無く、半導体チップをピックアップする時に、半導体チップの位置のズレ、半導体チップの傾き、半導体チップの割れ等が発生せず、ピックアップ不良が低減されている、或は生じない。本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を有する。
【0021】
(1)ダイシング用基体フィルム
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、引張試験(ピックアップ代替評価)に従って測定した歪(ひずみ)量は、1.5%以下である。
【0022】
本発明のダイシング用基体フィルムは、
1回目引張試験として、(1)予備荷重をかけて撓みを取り、(2)変位量が10%になるまで引っ張り、(3)10秒間保持し、(4)試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻し、(5)再度予備荷重をかけてサンプルの撓みを取り、
2回目引張試験として、前記1回目引張試験の(5)に引き続き、再度前記(1)~(5)の操作を行い、
前記1回目の試験の後、ダイシング用基体フィルムの試験応力が0(ゼロ)Nになった時の変位量の地点を原点として(原点は、1回目の試験の後で、サンプルの撓みを取った点である)、その原点から、前記2回目の試験の後、試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻した時に、その変位量を歪(ひずみ)量の値として、
その歪(ひずみ)量は、1.5%以下である、ダイシング用基体フィルムである。
【0023】
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成であり、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含み、前記表層及び前記裏層は、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、前記中間層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0024】
以下、本発明のダイシング用基体フィルムを構成する各層について詳細に説明する。
【0025】
(1-1)表層
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成であり、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む時、前記表層は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0026】
表層に含まれるポリエチレン系樹脂として、好ましくは、分岐鎖状低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、及びアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を用いる。
【0027】
表層に含まれるポリエチレン系樹脂として、より好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いる。
【0028】
表層は、これら少なくとも1種の成分を含む樹脂組成物からなることで、ダイシング用基体フィルムは、基材の引張物性に優れ、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を発揮する。
【0029】
その他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、ポリプロピレン系樹脂を配合しても良い。
【0030】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、30g/10分程度以下であれば良く、好ましくは、20g/10分程度以下であり、より好ましくは、15g/10分程度以下であり、更に好ましくは、10g/10分程度以下である。EVAのMFRを10g/10分以下に設定することにより、中間層との粘度差を抑制できる為、安定した製膜が可能となる。
【0031】
また、EVAのMFRは、樹脂の押出しを容易にするため、好ましくは、0.1g/10分程度以上であり、より好ましくは、0.3g/10分程度以上である。
【0032】
EVAの密度は、好ましくは、0.9g/cm3~0.96g/cm3程度であり、より好ましくは、0.92g/cm3~0.94g/cm3程度である。
【0033】
表層及び裏層にEVAを用いる場合、後述する通り、接着層に用いるEVAは、表層及び裏層に用いるEVAに比べ、ビニル基の含有量(VA含有量)が高いEVAを用いることが好ましい。
【0034】
表層及び裏層では、VA含有量が、好ましくは5重量%~15重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、7重量%~13重量%程度のEVAを用いることである。
【0035】
EVAの融点は、好ましくは、20℃~120℃であり、より好ましくは、30℃~110℃、更に好ましくは、40℃~97℃である。
【0036】
接着層では、1つの態様として、VA含有量が、好ましくは、15重量%~40重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、28重量%~35重量%程度のEVAを用いることである。
【0037】
接着層では、もう1つの態様として、VA含有量が、好ましくは、5重量%~40重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、8重量%~35重量%程度のEVAを用いることであり、更に好ましくは、9重量%~33重量%程度のEVAを用いることである。
【0038】
分岐鎖状低密度ポリエチレン(LDPE)の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、10g/10分程度以下が好ましく、6g/10分程度以下がより好ましい。上記MFRを10g/10分以下に設定することにより、中間層との粘度差を抑制できるため、安定した製膜が可能となる。
【0039】
また、LDPEのMFRは、樹脂の押出しを容易にするため、0.1g/10分程度以上が好ましく、0.3g/10分程度以上がより好ましい。
【0040】
LDPEの密度は、0.9g/cm3~0.95g/cm3程度が好ましく、0.91g/cm3~0.94g/cm3程度がより好ましい。
【0041】
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、10g/10分程度以下が好ましく、6g/10分程度以下がより好ましい。上記MFRを10g/10分以下に設定することにより、中間層との粘度差を抑制できるため、安定した製膜が可能となる。
【0042】
また、LLDPEのMFRは、樹脂の押出しを容易にするため、0.1g/10分程度以上が好ましく、0.3g/10分程度以上がより好ましい。
【0043】
LLDPEの密度は、0.9g/cm3~0.95g/cm3程度が好ましく、0.91g/cm3~0.94g/cm3程度がより好ましい。
【0044】
ここで、メルトフローレート(MFR)はISO 1133に準拠して求めたものであり、密度はISO 1183-1:2004に準拠して求めたものである。
【0045】
表層には、必要に応じ、更に帯電防止剤を含んでいても良い。前記表層で使用できる帯電防止剤を、表層においても使用できる。表層で用いられる帯電防止剤としては、アニオン系,カチオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤を選択できるが、とりわけ持続性、耐久性の点から、PEEA樹脂、親水性PO樹脂等のノニオン系界面活性剤が好適である。
【0046】
表層が帯電防止剤を含む場合、帯電防止剤の含有量は、表層の樹脂組成物中、好ましくは、5重量%~25重量%程度であり、より好ましくは、7重量%~22重量%程度である。帯電防止剤を前記範囲で配合することにより、エキスパンドリングと接して一様にエキスパンドされる場合の表層の滑り性を損なうことがない。
【0047】
また、表層が帯電防止剤を含むことで、有効に半導電性が付与されるため、発生する静電気を素早く除電することが可能となる。例えば、上記した範囲で帯電防止剤を含有させた本発明のダイシング用基体フィルムは、その裏面の表面抵抗率が107Ω/□~1012Ω/□程度となるため好ましい。
【0048】
表層には、更にアンチブロッキング剤等を加えても良い。アンチブロッキング剤を添加することにより、ダイシング用基体フィルムをロール状に巻き取った場合等のブロッキングが抑えられ好ましい。アンチブロッキング剤としては、無機系又は有機系の微粒子を例示することができる。
【0049】
(1-2)裏層
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成であり、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む時、前記裏層は、表層と同様に、好ましくは、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0050】
裏層には、表層に用いられるポリエチレン系樹脂を使用しても良く、表層とは異なるポリエチレン系樹脂を使用してもよい。
【0051】
裏層に含まれるポリエチレン系樹脂として、より好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いる。
【0052】
裏層には、また、必要に応じて、表層と同様、帯電防止剤やアンチブロッキング剤を含んでいても良い。
【0053】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、前記表層及び/又は裏層は、単層であっても良いし、複層であっても良い。本発明のダイシング用基体フィルムは、必要に応じて、表層及び/又は裏層を複数層設けることができる。
【0054】
表層及び/又は裏層を複層とする場合、最表層側から順に表層-1、表層-2、表層-3、・・・と表し、また、最裏層側から順に裏層-1、裏層-2、裏層-3、・・・と表す。
【0055】
表層、裏層及び、後述する接着層では、同種のポリエチレン系樹脂を用いても良く、異種のポリエチレン系樹脂を用いても良い。
【0056】
表層及び裏層では、同種のポリエチレン系樹脂を用いる場合として、例えば、EVAを用いる場合、表層及び裏層に用いるEVAは、後述する接着層に用いるEVAに比べて、ビニル基の含有量(VA含有量)が低いEVAを用いることが好ましい。表層及び裏層では、VA含有量が、好ましくは5重量%~15重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、7重量%~13重量%程度のEVAを用いることである。
【0057】
表層及び裏層に用いるEVAは、後述する接着層に用いるEVAに比べて、メルトフローレート(MFR)が低いEVAを用いることが好ましい。表層及び裏層では、EVAの190℃におけるMFRは、好ましくは、0.1g/10分~10g/10分程度であり、より好ましくは、5g/10分~10g/10分程度である。
【0058】
(1-3)中間層
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成であり、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む時、前記中間層は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0059】
中間層に含まれるポリエチレン系樹脂として、好ましくは、分岐鎖状低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、及びアイオノマー樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を用いる。
【0060】
中間層に含まれるポリエチレン系樹脂として、より好ましくは、アイオノマー樹脂を用いる。
【0061】
ダイシング用基体フィルムが、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる中間層を有することにより、基材の引張物性に優れ、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を発揮する。
【0062】
ダイシング用基体フィルムが、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる中間層を有することにより、例えばステルスダイシング後、半導体ウェハとダイボンド層を切断(分断)する場合に、基材の引張物性に優れ、ダイシングフィルムが良好に伸張し、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を発揮する。
【0063】
(i)アイオノマー樹脂
アイオノマー樹脂は、オレフィンと不飽和カルボン酸とを構成単位とする共重合体である。前記オレフィンは、好ましくは、エチレン、プロピレン等である。前記不飽和カルボン酸は、好ましくは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等のメタクリル酸アルキルエステルを用いる。
【0064】
アイオノマー樹脂は、好ましくは、エチレン及び(メタ)アクリル酸を重合体の構成成分とする2元共重合体、或は、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルを重合体の構成成分とする3元共重合体を、金属イオンで架橋した樹脂である。
【0065】
金属イオンは、好ましくは、一価の金属イオン、二価の金属イオン、三価の金属イオン等である。前記金属イオンは、好ましくは、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、リチウムイオン(Li+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、バリウムイオン(Ba2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、鉄イオン(Fe2+)、コバルトイオン(Co2+)、スズイオン(Sn2+)、鉛イオン(Pb2+)、マンガンイオン(Mn2+)、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄イオン(Fe3+)、クロムイオン(Cr3+)等である。
【0066】
前記エチレン及び(メタ)アクリル酸を重合体の構成成分とする2元共重合体、若しくは、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルを重合体の構成成分とする3元共重合体のカルボキシル基における陽イオンによる中和度は、好ましくは、40 mol%~75 mol%である。
【0067】
アイオノマー樹脂の融点は、好ましくは、75℃以上(下限値)である。これにより表面層の耐熱性が向上する。アイオノマー樹脂の融点の上限値は、特に限定されない。アイオノマー樹脂の融点の上限値は、好ましくは、実質的に、100℃程度である。
【0068】
アイオノマー樹脂の、ISO 1133:2011に示される試験方法における試験温度190℃、試験荷重21.18NでのMFR(メルトフローレート)は、好ましくは、3g/10min以下(上限値)である。これにより、ダイシングフィルムの切削屑発生を抑制することができる。アイオノマー樹脂のMFRの下限値は、特に限定されない。アイオノマー樹脂のMFRの下限値は、好ましくは、実質的に、0.8g/10minである。
【0069】
アイオノマー樹脂の密度は、好ましくは、930Kg/m3~970Kg/m3である。密度は、ISO 1183:2004に準拠して求めた値である。
【0070】
アイオノマー樹脂を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは、炭素原子数が3以上~8以下であるアルキルエステルを用いられる。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは、具体的には、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチルブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸1,2-ジメチルブチル等が挙げられる。
【0071】
中間層は、構成する樹脂組成物が、前記アイオノマー樹脂に加えて、他のポリエチレン系樹脂を含んでも良い。
【0072】
(ii)ポリエチレン系樹脂
ポリエチレン系樹脂は、前記表層で使用可能な樹脂を用いることができる。
【0073】
中間層に、前記表層で使用されているポリエチレン系樹脂と同じ樹脂を用いても良く、表層で使用されているポリエチレン系樹脂と異なる樹脂を用いても良い。中間層では、上記ポリエチレン系樹脂(好ましくはアイオノマー樹脂)と共に、ポリエチレン系樹脂は、好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いる。
【0074】
中間層にポリエチレン系樹脂を含む場合の含有割合は、0重量%~80重量%が好ましく、0重量%~70重量%が好ましい。
【0075】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、中間層のポリエチレン系樹脂が0重量%~80重量%の範囲であると、基材の引張物性に優れ、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を発揮する。
【0076】
(1-4)接着層
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む時、前記接着層は、表層や裏層と同様に、好ましくは、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0077】
接着層には、表層や裏層に用いられるポリエチレン系樹脂を使用しても良く、表層や裏層とは異なるポリエチレン系樹脂を使用してもよい。
【0078】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、前記接着層は、単層であっても良いし、複層であっても良い。本発明のダイシング用基体フィルムは、必要に応じて、接着層を複数層設けることができる。
【0079】
表層、裏層及び接着層とは、同種のポリエチレン系樹脂を用いても良く、異種のポリエチレン系樹脂を用いても良い。
【0080】
接着層に含まれるポリエチレン系樹脂として、より好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いる。
【0081】
本発明のダイシング用基体フィルムは、接着層では、1つの態様として、表層や裏層と同種のポリエチレン系樹脂を用いる場合として、例えば、EVAを用いる場合、接着層に用いるEVAは、VA含有量が、好ましくは、5重量%~40重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、8重量%~35重量%程度のEVAを用いることであり、更に好ましくは、9重量%~33重量%程度のEVAを用いることである。本発明のダイシング用基体フィルムでは、接着層に用いるEVAは、低いVA含有量でも、良好に、接着性を発揮する。
【0082】
本発明のダイシング用基体フィルムは、接着層では、もう1つの態様として、表層や裏層と同種のポリエチレン系樹脂を用いる場合として、例えば、EVAを用いる場合、接着層に用いるEVAは、表層及び裏層に用いるEVAに比べ、ビニル基の含有量(VA含有量)が高いEVAを用いることが好ましい。接着層では、VA含有量が、好ましくは、15重量%~40重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、28重量%~35重量%程度のEVAを用いることである。
【0083】
接着層に用いるEVAは、表層及び裏層に比べて、メルトフローレート(MFR)が高いEVAを用いることが好ましい。接着層では、EVAの190℃におけるMFRは、好ましくは、0.1g/10分~40g/10分程度であり、より好ましくは、0.5g/10分~35g/10分程度である。
【0084】
(1-5)ダイシング用基体フィルムの層構成
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、少なくとも表層/中間層/裏層の順に積層された構成、又は表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む。
【0085】
表層は、ウェハ接触側であり、粘着層と接する層である。
【0086】
中間層は、各樹脂単独で層(単層)を形成しても良いし、樹脂の混合物で層(単層)を形成しても良いし、樹脂毎に層(多層)を形成しても良い。
【0087】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、表裏層は、LDPE、EVA等が、各樹脂で層(単層)を形成しても良いし、樹脂の混合物で層(単層)を形成しても良いし、樹脂毎に層(多層)を形成しても良い。
【0088】
本発明のダイシング用基体フィルムの全体の厚さとしては、好ましくは、50μm~300μm程度であり、より好ましくは、70μm~200μm程度であり、更に好ましくは、80μm~150μm程度である。ダイシング用基体フィルムの全体の厚さを50μm以上に設定することにより、半導体ウェハをダイシングする際に、半導体ウェハを衝撃から保護することが可能となる。
【0089】
ダイシング用基体フィルム全厚さに対し、表層及び裏層の厚さの割合は、好ましくは、42%~78%程度であり、より好ましくは、6%~56%程度である。ダイシング用基体フィルム全厚さに対し、接着層の厚さの割合は、好ましくは、4%~78%程度であり、より好ましくは、4%~54%程度である。
【0090】
ダイシング用基体フィルム全厚さに対し、中間層の厚さの割合は、好ましくは、20%~96%程度であり、より好ましくは、40~90%程度である。
【0091】
ダイシング用基体フィルムの具体例として、ダイシング用基体フィルムの全厚さは、好ましくは、60μm~100μm程度の場合を説明する。
【0092】
表層及び裏層の厚さは、各1.8μm~70.2μm程度が好ましく、各5.4μm~50.4μm程度がより好ましい。接着層の厚さは、各1.8μm~70.2μm程度が好ましく、各3.6μm~48.6μm程度がより好ましい。
【0093】
中間層の厚さは18μm~80.4μm程度が好ましく、36μm~81μm程度がより好ましい。中間層が複層である時は、総厚さとして、上記の厚み範囲内で各層を形成すればよい。
【0094】
3種5層とする例(表層/接着層/中間層/接着層/裏層)
表層と接着層とは、同種のポリエチレン系樹脂を用いても良く、異種のポリエチレン系樹脂を用いても良い。
【0095】
裏層と接着層とは、同種のポリエチレン系樹脂を用いても良く、異種のポリエチレン系樹脂を用いても良い。
【0096】
表層及び裏層では、同種のポリエチレン系樹脂を用いる場合として、例えば、EVAを用いる場合、接着層に用いるEVAは、表層及び裏層に用いるEVAに比べ、ビニル基の含有量(VA含有量)が高いEVAを用いることが好ましい。
【0097】
表層及び裏層では、VA含有量が、好ましくは5重量%~15重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、7重量%~13重量%程度のEVAを用いることである。
【0098】
接着層では、VA含有量が、好ましくは、5重量%~40重量%程度のEVAを用いることであり、より好ましくは、8重量%~35重量%程度のEVAを用いることである。
【0099】
また、MFRの観点では、接着層に用いるEVAは、表層及び裏層に比べて、メルトフローレート(MFR)が高いEVAを用いることが好ましい。
【0100】
表層及び裏層では、EVAの190℃におけるMFRは、好ましくは、0.1g/10分~10g/10分程度であり、より好ましくは、0.5g/10分~10g/10分程度である。
【0101】
接着層では、EVAの190℃におけるMFRは、好ましくは、0.1g/10分~40g/10分程度であり、より好ましくは、0.5g/10分~35g/10分程度である。
【0102】
(2)ダイシング用基体フィルムの歪(ひずみ)量の測定
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、引張試験(ピックアップ代替評価)を行った時の歪(ひずみ)量の値が1.5%以下の基材である。本発明のダイシング用基体フィルムは、より詳しくは、標線長さ50mm、幅25mmのサンプルに10%の変位を2回繰り返えす引張試験に従って測定した歪量(撓み(たわみ)量)は、1.5%以下の基材である。
【0103】
(2-1)引張試験(ピックアップ代替評価)
(A)サンプル調製
サンプル(試験片)形状:短冊状、標線長さ50mm、幅25mm
(厚み80μm~150μm程度)
サンプル数:標線長さがMD方向のサンプル
(フィルム成形の押出方向)
n=2(2回分)
標線長さがTD方向のサンプル
(フィルム成形により成形されたフィルムの幅方向)
n=2(2回分)
使用機器:引張試験機
(例:株式会社島津製作所製「オートグラフAG-500NX TRAPEZIUM X」)
試験温度:23℃
【0104】
(B)サンプルの試験方法(図1参照)
1回目試験
ダイシング用基体フィルムのサンプル(試験片)を、その標線長さ50mmの位置で、チャックする。
【0105】
(1)サンプルに予備荷重(例えば0.3N)をかけて、サンプルの撓みを取る(
図1の(1)参照)。試験応力(グラフの縦軸)が0(ゼロ)Nの位置に調整する。
【0106】
(2)サンプルを、例えば200mm/minの速度で、変位量(グラフの横軸)が10%になるまで引っ張る(
図1の(2)参照)。
【0107】
(3)サンプルを、変位量が10%伸ばした状態で、10秒間保持する(
図1の(3)参照)。
【0108】
(4)サンプルを、例えば60mm/minの速度で、試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻す(
図1の(4)参照)。
【0109】
(5)サンプルを、上記(1)の位置へチャックを移動する(
図1の(5)参照)。サンプルに予備荷重をかけて、試験応力が0(ゼロ)Nの位置に調整し、サンプルの撓み(たわみ)を取る(
図1の(1)参照)。
【0110】
2回目試験
1回目試験の(5)に引き続き、上記(1)~(5)の操作を行う。
【0111】
(C)サンプルの歪(ひずみ)量の測定
1回目の試験の後、サンプルの試験応力が0(ゼロ)Nになった時の変位量の地点(1回目の試験において、
図1の(4)参照)を「原点」とする。原点は、1回目の試験の後で、サンプルの撓みを取った点である。その原点から、2回目の試験の後、試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻した時(2回目の試験において、
図1の(4)参照)に、その変位量を「歪(ひずみ)量」の値とする(
図1の(5)参照)。
【0112】
サンプルの歪(ひずみ)量の値は、測定した全てのサンプル、つまり、MD方向でn=2(2回分)サンプル、TD方向でn=2(2回分)サンプルの全ての値の平均値とする。
【0113】
(2-2)サンプルの歪(ひずみ)量の評価
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、引張試験に従って測定した歪(ひずみ)量は、1.5%以下である。
【0114】
本発明のダイシング用基体フィルムは、歪(ひずみ)量は1.5%以下であり、これを用いて形成するダイシングフィルムは、ダイシング工程で、ニードル等で突き上げを行っても、ダイシングフィルムのダイシング用基体フィルムに歪(ひずみ)が生じない、或は低減されており、半導体チップが小さく、数が多い場合や、ピックアップ回数(突き上げる回数)が多い場合であっても、残留歪(ひずみ)に起因する、シワや撓みが生じない。
【0115】
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、歪(ひずみ)量は1.5%以下であり、これを用いて形成するダイシングフィルムは、ダイシング工程で、シワや撓みの影響が無く、半導体チップをピックアップする時に、半導体チップの位置のズレ、半導体チップの傾き、半導体チップの割れ等が発生せず、ピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を有することの効果を発揮する。
【0116】
本発明のダイシング用基体フィルムは、半導体製品の小型化が進み上で、最適なダイシング用基体フィルムである。
【0117】
(3)ダイシング用基体フィルムの製法
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、表層/中間層/裏層の順に積層された構成を含む時、表層/中間層/裏層のダイシング用基体フィルムは、表層、中間層、及び裏層用の樹脂組成物を多層共押出成形して製造することができる。具体的には、前記表層用樹脂組成物、中間層用樹脂組成物、及び裏層用樹脂組成物を、表層/中間層/裏層の順に積層されるよう共押出成形することにより製造することができる。
【0118】
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層された構成を含む時、各表層及び裏層用の樹脂組成物を夫々の押出機に投入し、例えば、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順に積層されるように共押出成形することにより製造することができる。
【0119】
表層を構成する樹脂組成物には、必要に応じて更に帯電防止剤を加えることができる。裏層も同様である。
【0120】
上記した各層用樹脂を夫々この順でスクリュー式押出機に供給し、180℃~240℃で多層Tダイからフィルム状に押出し、これを30℃~70℃の冷却ロ-ルに通しながら冷却して実質的に無延伸で引き取る。或いは、各層用樹脂を一旦ペレットとして取得した後、上記の様に押出成形しても良い。
【0121】
引き取りの際に実質的に無延伸とするのは、ダイシング後に行うフィルムの拡張を有効に行うためである。この実質的に無延伸とは、無延伸、或いは、ダイシングフィルムの拡張に悪影響を与えない程度の僅少の延伸を含むものである。通常、フィルム引き取りの際に、たるみの生じない程度の引っ張りであれば良い。
【0122】
(4)ダイシングフィルムの製造
本発明のダイシングフィルムは、周知の技術に沿って製造することができる。例えば、粘着剤層を構成する粘着剤を有機溶剤等の溶媒に溶解させ、これをダイシング用基体フィルム上に塗布し、溶媒を除去することにより基体フィルム/粘着剤層の構成のフィルムを得ることができる。
【0123】
ダイボンド層を構成する樹脂組成物を、有機溶剤等の溶媒に溶解させ、別のフィルム(剥離フィルム)上に塗布し、溶媒を除去することによって、ダイボンドフィルムを作製する。
【0124】
更に、前記粘着剤層とダイボンド層を対向するように重ね合わせることにより、ダイシングフィルムを作製する。これにより、基体フィルム/粘着剤層/ダイボンド層の構成のフィルムを得ることができる。この段階ではダイボンド層は、半導体ウェハと粘着層と弱く(擬似)接着した状態で、貼り合わされている。
【0125】
エキスパンド後、分断された半導体チップとダイボンド層は、所定のパッケージ又は半導体チップを積層させて、ダイボンド層が強く接着する温度まで過熱し、接着させる。
【0126】
本発明のダイシング用基体フィルムは、ダイシング用基体フィルムは、これから形成したダイシングフィルムは、ニードルにより突き上げられた(伸ばされた)後でも、フィルムの残留歪(ひずみ)(少しだけ伸びた部分)(ピックアップ代替評価)は、1.5%以下である。本発明のダイシング用基体フィルムはシワが残らないので、次にピックアップする(取る)チップや隣の列のチップに、そのシワが原因となるズレが低減されている、或はズレが生じないという効果を発揮する。
【実施例】
【0127】
以下に、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
(1)ダイシング用基体フィルムの原料
表1にダイシング用基体フィルムの原料を示した。
【0129】
[略称の説明]
PE-01~04:ポリエチレン系樹脂1~4
EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体
VA含量:酢酸ビニル含有割合[重量%]
MFR:各温度でのメルトフローレート[g/10分]
【0130】
【0131】
(2)表層/接着層/中間層/接着層/裏層のダイシング用基体フィルムの製造
表2に記載の単層(比較例1)、又は、表層/接着層/中間層/接着層/裏層(5層)(実施例1~3)となる様に、各成分及び組成で樹脂組成物を配合し、ダイシング用基体フィルムを作製した。
【0132】
単層を構成する樹脂組成物を、220℃に調整された押出機に投入し、220℃のTダイスにより押出し、30℃の冷却水が循環するチルロール上に共押出しせしめて、フラット状の単層フィルムを得た。
【0133】
各層を構成する樹脂組成物を、220℃に調整された夫々の押出機に投入し、表層/接着層/中間層/接着層/裏層の順序になるように、220℃のTダイスにより押出し、積層し、30℃の冷却水が循環するチルロール上に共押出しせしめて、フラット状の5層フィルムを得た。
【0134】
(3)ダイシング用基体フィルムの評価
引張試験機を用いて、以下の通り、23℃環境下で、200mm/minの引張速度で、フィルムサンプルを、MD方向及びTD方向に、夫々10%伸ばす引張試験(標線長さ50mm、幅25mmのサンプルに10%の変位を2回繰り返えすピックアップ代替評価)を実施した。
【0135】
(A)サンプル調製
サンプル(試験片)形状:短冊状、標線長さ50mm、幅25mm
(厚み80μm~150μm程度)
サンプル数:標線長さがMD方向のサンプル
(フィルム成形の押出方向)
n=2(2回分)
標線長さがTD方向のサンプル
(フィルム成形により成形されたフィルムの幅方向)
n=2(2回分)
使用機器:引張試験機
株式会社島津製作所製「オートグラフAG-500NX TRAPEZIUM X」
試験温度:23℃
【0136】
(B)サンプルの試験方法(図1参照)
ダイシング用基体フィルムの試験サンプルとして、標線長さ50mm、幅25mmのサンプルを用い、これに10%の変位を2回繰り返えす引張試験を行い、その歪量(撓み量)を測定する試験である。
【0137】
1回目試験
ダイシング用基体フィルムのサンプル(試験片)を、その標線長さ50mmの位置で、チャックする。
【0138】
(1)サンプルに予備荷重(0.3N)をかけて、サンプルの撓みを取る(
図1の(1)参照)。試験応力(グラフの縦軸)が0(ゼロ)Nの位置に調整する。
【0139】
(2)サンプルを、200mm/minの速度で、変位量(グラフの横軸)が10%になるまで引っ張る(
図1の(2)参照)。
【0140】
(3)サンプルを、変位量が10%伸ばした状態で、10秒間保持する(
図1の(3)参照)。
【0141】
(4)サンプルを、60mm/minの速度で、試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻す(
図1の(4)参照)。
【0142】
(5)サンプルを、上記(1)の位置へチャックを移動する(
図1の(5)参照)。サンプルに予備荷重をかけて、試験応力が0(ゼロ)Nの位置に調整し、サンプルの撓み(たわみ)を取る(
図1の(1)参照)。
【0143】
2回目試験
1回目試験の(5)に引き続き、上記(1)~(5)の操作を行う。
【0144】
(C)サンプルの歪(ひずみ)量の測定
1回目の試験の後、サンプルの試験応力が0(ゼロ)Nになった時の変位量の地点(1回目の試験において、
図1の(4)参照)を「原点」とする。原点は、1回目の試験の後で、サンプルの撓みを取った点である。その原点から、2回目の試験の後、試験応力が0(ゼロ)Nになるまで戻した時(2回目の試験において、
図1の(4)参照)に、その変位量を「歪(ひずみ)量」の値とする(
図1の(5)参照)。
【0145】
サンプルの歪(ひずみ)量の値は、測定した全てのサンプル、つまり、MD方向でn=2(2回分)サンプル、TD方向でn=2(2回分)サンプルの全ての値の平均値とする。
【0146】
(D)サンプルの歪(ひずみ)量の評価
ダイシング用基体フィルムは、引張試験(ピックアップ代替評価)に従って測定した歪(ひずみ)量は、1.5%以下であると、良好であるとする。
【0147】
【0148】
(4)考察
半導体ウェハをダイシングして、個別化された半導体チップは、半導体加工用テープからピックアップすることにより、そのテープから剥がされて、実装又はケースに保管される。剥がす方法は、半導体加工用テープ裏面からUV光等を当てて、半導体チップとそのテープとの粘着力を低下させて、そのテープ側から半導体をニードル等で突き上げてピックアップコレット等で吸着させて取り外す。
【0149】
本発明のダイシング用基体フィルムは、好ましくは、ピックアップ代替評価の残留歪(ひずみ)の値が1.5%以下であることを特徴とする。
【0150】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、これから形成するダイシングフィルムは、ニードル等で突き上げを行っても、ダイシングフィルム(半導体加工用テープ)のダイシング用基体フィルムに歪(ひずみ)が生じない。本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、半導体チップが小さく、数が多い場合や、ピックアップ回数(突き上げる回数)が多い場合であっても、ダイシング用基体フィルムに突き上げによる残留歪(ひずみ)が低減されている、或は蓄積されず、シワや撓み(たわみ)が生じない。
【0151】
本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、これから形成するダイシングフィルムは、シワや撓みの影響が無く、半導体チップをピックアップする時に、半導体チップの位置のズレ、半導体チップの傾き、半導体チップの割れ等が発生せず、ピックアップ不良が低減されている、或は生じない。本発明のダイシング用基体フィルムを用いると、シワや撓みによるピックアップ不良が低減されている、或は生じず、良好なピックアップ性を有する。
【0152】
本発明のダイシング用基体フィルムは、半導体製品の小型化が進み上で、最適なダイシング用基体フィルムである。