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特許7507008遮水シート端部の遮水構造及びその構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】遮水シート端部の遮水構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20240620BHJP
   B09B 1/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
E02B3/12
B09B1/00 F ZAB
B09B1/00 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020087979
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181725
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】石田 正利
(72)【発明者】
【氏名】池谷 典尚
(72)【発明者】
【氏名】和木 多克
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4441240(JP,B2)
【文献】特開2002-206220(JP,A)
【文献】特開2008-248583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
B09B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造であって、
前記遮水シートが分断して施工される位置の前記鋼製矢板の下端近傍にシート端部定着壁体の壁体下端を着脱自在に収容する部位を有する位置決め保持手段が形成され、
前記位置決め保持手段に、前記シート端部定着壁体の下端が案内、収容され、前記遮水シートが分断して施工された位置に保持された前記シート端部定着壁体と、前記遮水シートが分断された位置の前記鋼製矢板とで閉空間が形成され、
前記遮水シートが分断された位置を挟んで、連続して施工された前記鋼製矢板に敷設された前記遮水シートの各シート端部が、前記シート端部定着壁体で定着保持され、前記閉空間内に不透水性遮水材料が充填された、
ことを特徴とする遮水シート端部の遮水構造。
【請求項2】
海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造であって、
前記遮水シートが分断して施工される位置の前記鋼製矢板の下端近傍に、一部に形成されたテーパ部に沿ってシート端部定着壁体の下端を案内し、保持位置に保持する位置決め保持手段が形成され、
下端が前記位置決め保持手段に着脱自在に位置決めされ、前記遮水シートが分断して施工された位置に保持された前記シート端部定着壁体と、前記遮水シートが分断された位置の前記鋼製矢板とで閉空間が形成され、
前記遮水シートが分断された位置を挟んで、連続して施工された前記鋼製矢板に敷設された前記遮水シートの各シート端部が、前記シート端部定着壁体で定着保持され、前記閉空間内に不透水性遮水材料が充填された、
ことを特徴とする遮水シート端部の遮水構造。
【請求項3】
前記シート端部定着壁体は、下端が前記位置決め保持手段で保持され、頂部が前記鋼製矢板の頂部との間に架設された固定部材によって保持された請求項1または請求項2に記載の遮水シート端部の遮水構造。
【請求項4】
海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造の構築方法であって、
前記遮水シートが分断して施工される位置のシート端部を、下端が前記鋼製矢板の下端近傍に着脱自在に位置決め保持されたシート端部定着壁体で前記鋼製矢板との間に定着保持し、
その後、前記遮水シートが分断された位置を挟んで、前記鋼製矢板に連なって新たに施工された鋼製矢板に敷設された前記遮水シートのシート端部も合わせて前記シート端部定着壁体で定着保持し、
前記遮水シートが分断された部位の前記鋼製矢板と前記シート端部定着壁体とで閉空間を区画し、該閉空間内に不透水性遮水材料を充填する、
ことを特徴とする遮水シート端部の遮水構造の構築方法。
【請求項5】
前記不透水性遮水材は、アスファルト系、コンクリート系、ケミカル系あるいは土質系のいずれか、またはこれらの組み合わせで構成された請求項1に記載の遮水シート端部の遮水構造。
【請求項6】
前記不透水性遮水材は、透水係数が1.0×10-5cm/s以下である請求項1に記載の遮水シート端部の遮水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮水シート端部の遮水構造及びその構築方法に係り、特に海面処分場等の埋立域を囲む管理型護岸の鋼製矢板に敷設される鉛直遮水工としての遮水シートが分断されて施工される際、遮水シート端部を海中において安定した状態で存置させるとともに、シート端部での遮水性を確保するようにした管理型護岸における遮水シート端部の遮水構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般廃棄物及び産業廃棄物の海面最終処分場の埋立域を区画する管理型護岸は、連結部分を遮水構造とした複数のケーソンや継手部に遮水を施した鋼製矢板や遮水シート等による管理型護岸構造物によって建設され、供用後、管理型護岸構造物及び基礎地盤で囲まれた管理型廃棄物最終処分場から周辺海域及び周辺陸域への廃棄物の流出や保有水の浸出防止が図られている。
【0003】
上述した管理型護岸の構造等については、「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令(以下、基準省令)」(非特許文献1)にその基本構造が明示されている。その一例として、図8には、海域51と海面処分場となる埋立域52とを区画するために、海域側がケーソン式混成堤護岸54で、埋立域側が鋼製矢板56で区画され、その内部が固化処理土57で裏埋めされた管理型護岸50が示されている。
【0004】
これらの構成のうち、管理型護岸50の埋立域側の鋼製矢板56は、鉛直遮水壁としての機能が求められており、さらに経年劣化による構造性能の低下を防止するために、鋼製矢板56の外面側(埋立域52側)の表面全面にわたり、外側鉛直遮水工10が敷設される。外側鉛直遮水工10は、芯材としての遮水シート21の両面が保護マット22,22で挟まれた積層遮水シート20から構成されている。
【0005】
ところで、この鋼製矢板56の外面鉛直遮水工10において、鋼製矢板56の建て込みと、鋼製矢板56の表面に積層遮水シート20を取り付ける作業とは、一般的には気象・海象条件の厳しい冬季に行わず年度を跨いで工事が行われることが多い。このとき各工区間(たとえば、当該年度工区と次年度工区との間(図3(a)))の工区境において、工事休止期間の間、遮水シートの端部を海中の全水深において安定した状態に保持しておく必要がある。また、工区境において、遮水シートが連続しない分断部が生じるため、工区境において分断された遮水シート端部での遮水性を確保する必要がある。
【0006】
このような遮水シートの分断部でのシート端部での遮水性を確保するためにシート接続構造体が提案されている(特許文献1)。このシート接続構造体に設けられる遮水シートの接合部において、接合される遮水シートのそれぞれの端部を覆うように、連結体の枠体をシート端部に被せ、その内部にアスファルト混合物等の遮水材を充填するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4441240号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】環境庁 法令・告示・通達、“一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令”、[online]、最終更新:平成29年6月9日公布改正、環境省、[令和2年3月6日検索]、インターネット<URL:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=352M50000102001&openerCode=1>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたシート接続構造体では、遮水シートの接合部において、それぞれの遮水シートの端部での遮水性能は保持することが可能となるが、それぞれの遮水シートを接合する工程を含む場合において、分断された箇所での遮水シート端部を安定した状態で保持する点や、その状態での遮水性を確保する点については考慮されていない上に、鉛直連結体と鋼製箱型矢板とを一体的に固定するための施工性の難易度が高いという課題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消するために、遮水シートの分断部におけるシート端部を安定した状態に保持するとともに、施工性の難易度が低く、かつ安定した接合部構造体を提供することで、十分な遮水性を確保できるようにした遮水シート端部の遮水構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の遮水シート端部の遮水構造は、 海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造であって、前記遮水シートが分断して施工される位置の前記鋼製矢板の下端近傍にシート端部定着壁体の壁体下端を着脱自在に収容する部位を有する位置決め保持手段が形成され、前記位置決め保持手段に、前記シート端部定着壁体の下端が案内、収容され、前記遮水シートが分断して施工された位置に保持された前記シート端部定着壁体と、前記遮水シートが分断された位置の前記鋼製矢板とで閉空間が形成され、前記遮水シートが分断された位置を挟んで、連続して施工された前記鋼製矢板に敷設された前記遮水シートの各シート端部が、前記シート端部定着壁体で定着保持され、前記閉空間内に不透水性遮水材料が充填されたことを特徴とする。
【0012】
他の本発明の遮水シート端部の遮水構造としては、海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造であって、前記遮水シートが分断して施工される位置の前記鋼製矢板の下端近傍に、一部に形成されたテーパ部に沿ってシート端部定着壁体の下端を案内し、保持位置に保持する位置決め保持手段が形成され、下端が前記位置決め保持手段に着脱自在に位置決めされ、前記遮水シートが分断して施工された位置に保持された前記シート端部定着壁体と、前記遮水シートが分断された位置の前記鋼製矢板とで閉空間が形成され、前記遮水シートが分断された位置を挟んで、連続して施工された前記鋼製矢板に敷設された前記遮水シートの各シート端部が、前記シート端部定着壁体で定着保持され、前記閉空間内に不透水性遮水材料が充填されたことを特徴とする。
【0013】
前記シート端部定着壁体は、下端が前記位置決め保持手段で保持され、頂部が前記鋼製矢板の頂部との間に架設された固定部材によって保持されることが好ましい。
【0014】
他の発明として本発明は、海面処分場を区画するように造成された管理型護岸構造物の処分場域側を構成するように連続して施工される鋼製矢板の側面に沿って敷設される遮水シートが分断して施工される部位での遮水シート端部の遮水構造の構築方法であって、前記遮水シートが分断して施工される位置のシート端部を、下端が前記鋼製矢板の下端近傍に着脱自在に位置決め保持されたシート端部定着壁体で前記鋼製矢板との間に定着保持し、その後、前記遮水シートが分断された位置を挟んで、前記鋼製矢板に連なって新たに施工された鋼製矢板に敷設された前記遮水シートのシート端部も合わせて前記シート端部定着壁体で定着保持し、前記遮水シートが分断された部位の前記鋼製矢板と前記シート端部定着壁体とで閉空間を区画し、該閉空間内に不透水性遮水材料を充填することを特徴とする。
【0015】
上述の遮水シート端部の遮水構造あるいはその構築方法の発明において、前記閉空間に充填される不透水性遮水材は、耐久性と追随性と充填性等に富んだアスファルトマスチックの他、コンクリート系、ケミカル系あるいは土質系のいずれか、またはこれらの組み合わせとすることが好ましい。
【0016】
前記不透水性遮水材は、透水係数が1.0×10-5cm/s以下とすることが好ましい。

【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の遮水シート端部の遮水構造が適用された、鋼製矢板表面に敷設された外側遮水工の積層遮水シートの分断部を模式的に示した側断面図、正面図。
図2図1(b)に示した外部鉛直遮水工の分断部におけるシート端部定着壁体の取り付け状態を示した斜視図。
図3】外側鉛直遮水工の分断部における本発明の遮水シート端部の遮水構造の構築手順を追って説明した概略説明図。
図4】シート端部定着壁体の下端部に設けられた位置決め保持部材(ピボット)による遮水シート、シート端部定着壁体の位置決め保持状態を示した状態説明図。
図5図3各図における遮水構造の構築手順を拡大して示した概略説明図(1)。
図6図3各図における遮水構造の構築手順を拡大して示した概略説明図(2)。
図7図3各図における遮水構造の構築手順を拡大して示した概略説明図(3)。
図8】海面処分場管理型護岸の全体構造を示した側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の遮水シート端部の遮水構造の実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1各図は、本発明の遮水シート端部の遮水構造を、図8に例示した海面処分場と同程度の規模の海面処分場の管理型護岸の鉛直遮水壁として供された鋼製矢板の外側鉛直遮水工として取り付けられた遮水シートの分断部に適用した実施形態を示している。
【0020】
遮水シート20の分断部5は、たとえば図3(a)~(d)に示したように、管理型護岸1の鋼製矢板6と、鋼製矢板6の外側表面を覆うように敷設される外側鉛直遮水工10の構築工事が年度ごとに設定された工区単位で進行するような場合に生じる。その場合、当該年度の工事が完了した段階において、鋼製矢板の外側鉛直遮水工10(構成の詳細は後述する。)の遮水シート20の端部を、海中において安定した状態で次年度工事の開始時期まで越年させるために、本発明ではシート端部定着壁体30が使用されている。
【0021】
このシート端部定着壁体30は、工事の進捗に合わせて以下のような役割を果たすために用いられている。
(1)すでに施工された外側鉛直遮水工10の遮水シート20の端部を鋼製矢板6の表面に確実に仮定着させるため(図3(b)参照)
(2)隣接した工区で新たに施工された外部鉛直遮水工10の遮水シート10の端部と(1)で仮定着された遮水シート20の端部の両方の端部の本定着のため(図1(b)、図2図3(d)参照)
(3)鋼製矢板6とで遮水シート20の端部が本定着された状態の閉空間7を形成し、その閉空間7内に中詰めアスファルトマスチックA(7)を充填する際の型枠部材を構成するため(図2図7(f)参照)
【0022】
(シート端部定着壁体の構成)
シート端部定着壁体30の構成について、図1各図、図2を参照して説明する。図1各図に示した遮水シート20の分断部5において、管理型護岸1の埋立域側に位置する鋼製矢板6の下端は遮水基盤として施工された深層混合処理土(C.D.M.)62に所定根入れ長を確保して建て込まれ、管理型護岸1の埋立域側不透水性壁体が構築されている。鋼製矢板6の埋立域52側の深層混合処理土62表面には不陸整正用水中不分離性コンクリート67が打設されてほぼ平滑化され、その上にアスファルトマスチックを充填した根固めアスファルトマスチック遮水層65が形成され、鋼製矢板6の根入れ部6aでの遮水性が確保されている。外側鉛直遮水工10の遮水シート20のシート端部も、全高にわたってシート端部定着壁体30(以下、定着壁体30と記す。)に覆われた状態で遮水層65内に十分な長さを確保して定着されている(図1(a))。
【0023】
図2は、図1(b)に示した遮水シートの分断部5における遮水シート端部の遮水構造のうち、定着壁体30の詳細構成および遮水シート20のシート端部が定着壁体30と鋼製矢板6との間に挟持されて定着され、さらに閉空間7内に中詰めアスファルトマスチックA(7)が充填された状態を示している。この中詰めアスファルトマスチックA(7)を構成するアスファルトマスチックは、透水係数が1.0×10-5以下の不透水性材料であり、遮水シート20のシート端部が充填されたアスファルトマスチック内に埋設されることで、分断部5での高い遮水性が確保される。なお、図1(b)、図2において、定着壁体30の下端部を示すために、図1(a)に示した根固めアスファルトマスチック遮水層Aの図示、図2中での外部鉛直遮水工10の遮水シート20の一部の図示を省略している。
【0024】
本実施形態の定着壁体30は一般構造用圧延鋼鋼板からなり、図1両図に示したように、建て込まれた鋼製矢板6の海底面から頂部までの長さに略等しい高さ、両側端位置で各遮水シート20のシート端部を定着可能な幅、後述する中詰めアスファルトマスチックの充填時の型枠強度及び廃棄物埋立荷重、波浪荷重等の外力に抗する強度等を得られる板厚を有する所定寸法に製作されている。なお、所定の仕様を満たす鋼材であれば、各種の異形矢板、半割鋼管、大型形鋼等を使用することができる。
【0025】
定着壁体30は、上述したように、先行施工された遮水シート20のシート端部の仮定着作業、新たに施工された遮水シート20のシート端部と既施工の遮水シートの端部の両方のシート端部の本定着を行う。このため、シート端部を保持した状態での壁体の位置決め、壁体の着脱作業を容易かつ確実に行う必要がある。そこで、本実施形態では、たとえば図2に示したように、定着壁体30を鋼製矢板6の所定位置に位置決め保持する位置決め保持部材32として、ピボットとクサビとが用いられている。壁体の上端側は、仮定着時の仮締め付け部材35、本定着時の固定枠体39とが使い分けて用いられている。各位置決め保持部材32、仮締め付け部材35、固定枠体39は作業の進行に合わせて着脱して使用されるが、最終的には本溶接されて各部材によって定着壁体30の恒久的な固定保持がなされる。位置決め保持部材32についてはピボットとクサビの組み合わせ以外にも伸縮ジャッキ、スクリューロッド等による締め付け固定機能を有する部材も使用できる。
【0026】
(外部鉛直遮水工の構成)
本実施形態の外側鉛直遮水工10の遮水シート20は、芯材としての遮水シート21の両面に保護マット22としての不織布が一体的に積層された三層一体型に積層されたシート構成(以下、積層遮水シート20と記す。)からなる(図1(a))。この積層遮水シート20は、高い遮水性能を有することに加え、遮水シート21の両面に保護マット22としての不織布を積層して配置することにより、鋼製矢板6側においては遮水シート21が鋼製矢板6の表面と直接接しないようにすることで遮水シート21の傷みを軽減し、埋立域2側においても、不織布によって投入廃棄物による衝撃を緩衝する役割を果たす。
【0027】
本実施形態の遮水シート21は、低密度ポリエチレンシート(LLDPE:厚さ3mm)からなる。遮水シート21の好適な他の素材としては、ポリ塩化ビニル(PVC)製シート、不織布とPVCシートとの積層シート、熱可塑性系エラストマー(TPE)シート、高密度ポリエチレンシート(HDPE)の単体シート等があり、適宜選択して使用することができる。シート厚としては管理型廃棄物埋立護岸設計・施工・管理マニュアル(改訂版)に示されたように、自重による伸びや外側鉛直遮水工の変形による影響を抑えるために、1.5mm以上としなければならない。
【0028】
本実施形態の保護マット22は、ポリエチレンテレフタラート(PET)不織布(500g/m2)からなる。保護マット22の好適な他の素材としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等を使用することができるが、遮水シートの各面に接する現場状況によっては、遮水シート21の片面のみに保護マット22を使用する。
【0029】
(遮水構造の構築手順)
上述したように、例とした管理型護岸工事では隣接工区との間で施工時期が異なるため、外側鉛直遮水工10の積層遮水シート20は、工区境(以下、分断部5と記す。)において分断されて鋼製矢板6に取り付けられことになる。以下、この位置を分断部5と呼び、この分断部5における本発明の遮水シートのシート端部の遮水構造を構築する工程について、以下、図3各図~図7各図を参照して説明する。
【0030】
図3(a)~(e)は、外側鉛直遮水工10の分断部5における本発明の遮水シート端部の遮水構造の構築手順を追って説明した概略説明図である。図5(a)~図7(f)は、図3各図の工程に対応する遮水構造の構築状態を拡大して示した説明図である。
【0031】
図3(a)、図5(a)には、当該年度の工事の終端部分における鋼製矢板6および積層遮水シート20の端部が示されている。積層遮水シート20の端部は分断部5に位置し、図示したように、遮水シートと片面の保護シート22とからなる2層一体型の積層遮水シート21Aが鋼製矢板6の端部から直線状に所定長さだけ突出している。前述した直線状に突出した遮水シートのシート端部定着壁体内での定着長が不足する場合には、さらに鋼製矢板6の屈曲部から鋼製矢板6の表面に沿って分岐するように、アンカー付遮水シート21Bと片面の保護シート22とからなる2層一体型の積層遮水シート25(以下、分岐遮水シート25と記す。)が付加されている。この分岐遮水シート25は、遮水シート21と同等の厚さを有し、その表面に棒状のアンカー突起が列設された遮水シートで、遮水シート21と鋼製矢板6の屈曲部で枝分かれするように分岐して、その根元部が遮水シート21の表面に溶着接合され、鋼製矢板6の表面に沿って分断部5内の所定範囲まで延設されている。また、分断部5近傍に施工される鋼製矢板6の下端には、位置決め保持部材としてのピボット32が2箇所溶接固定されている(図4(a))。
【0032】
図5(b)は、定着壁体30を用いて上述した積層遮水シートの端部を分断部5に仮定着させた状態を示している。当該年度の工事を終了するに当たり、分断部5において定着壁体30を取り付けて積層遮水シート20の端部を鋼製矢板6の表面に押さえつけるようにして仮定着し、次年度工事の開始時期までシート端部を海中において安定した状態で存置することができる。
【0033】
定着壁体30の取り付け方法について、図4各図を参照して説明する。分断部5位置の鋼製矢板6の下端には、図4(a)に示したような、位置決め保持部材としてのピボット32があらかじめ溶接固定されている。このピボット32は、図2図4各図に示したように、鋼製矢板6側の側面にテーパ部32aと、壁体収容ポケット32bとが形成された加工鋼材である。このピボット32位置において、積層遮水シート20と定着壁体30とは、鋼製矢板6に沿って建て込まれ、それぞれの下端が壁体収容ポケット32b内に収容される(図4(b))。積層遮水シート20の下端が定着壁体30の下端で押さえられた状態でクサビ33をピボット32のテーパ部32aに沿って打ち込む(図4(b)、(c))。これにより積層遮水シート20は定着壁体30によって鋼製矢板6の表面に密着して取り付けることができる。
【0034】
一方、図5(b)に示したように、定着壁体30の頂部には仮締め付け部材35が取り付けられ、この仮締め付け部材35によって定着壁体30が積層遮水シート20の端部と鋼製矢板6の表面とに仮固定されるようになっている。仮締め付け部材35では、鋼製矢板と定着壁体30の頂部とに掛け渡されたターンバックル36の締め付けより積層遮水シート20の端部を定着壁体30と鋼製矢板6とで挟んで確実に仮定着させることができる。頂部固定のための付加部材として定着壁体30の頂部の両端位置にはグリップ37が取り付けられている。グリップ37は定着壁体30の建て込み時における仮固定部材として機能する。また、積層遮水シート20は、定着壁体30の一側端のみで仮定着されるため、締め付け時における他端での鋼製矢板6と定着壁体30との間の隙間の調整のために、鋼製矢板6と定着壁体30との間に隙間調整マット38が介装されている。
【0035】
図3(b)、(c)、図6(c)、(d)は、隣接工区の鋼製矢板6が工区境で既施工の鋼製矢板6と連結されて構築され、鋼製矢板6の表面に外部鉛直遮水工10としての積層遮水シート20が施工された状態を示している。図3(c)、図6(d)に示したように、積層遮水シート20を施工する前に、分断部5において既施工の積層遮水シート20の端部を仮定着していた定着壁体30、仮締め付け部材35とを一時的に撤去しておく。新たに施工される積層遮水シート20の端部は、既施工の積層遮水シート20の端部と分断部5の中心位置に関して対称形状をなす。この端部を図6(d)に示したように、反転して折り返して分岐遮水シート25を鋼製矢板6の表面に位置させた状態で再び定着壁体30を分断部5に取り付け、仮締め付け部材35で設計位置に位置決め後、本溶接によって当該位置を保持して固定する(図3(d)、図7(e))。
【0036】
最終工程として、分断部5における定着壁体30と鋼製矢板6の頂部の固定を行う本設固定枠体39を取り付ける。この本設固定枠体39は、本実施形態では側面視して略逆U字形状をなす溝型鋼の組立部材で、定着壁体30と鋼製矢板6の頂部の隙間、位置を精度よく保持固定することができる。そしてこの状態で定着壁体30と鋼製矢板6との間に形成された閉空間7に中詰めアスファルトマスチックA(7)を充填する(図7(f))。なお、中詰めアスファルトマスチックA(7)の充填のタイミングは、根固めアスファルトマスチック遮水層A(図1(a))の施工に合わせて行えばよい。
【0037】
以上で説明した本実施形態の分断部5では、溶融状態のアスファルトマスチックが充填され、アスファルトマスチックが粘弾性体としての機能を保持して固化することで、各部での遮水性と充填性とが確保される。この不透水性の充填遮水材としてのアスファルトマスチックに代えて、ハンドリング性、使用時における遮水性等が同等に期待できる(たとえば透水係数が1.0×10-5cm/s以下が確保される。)各種のアスファルト系混合物の他、コンクリート系材料、土質系材料、ケミカル系材料等を単独で、あるいは複数種を組み合わせて使用することも有効である。
【0038】
以上の説明において、本発明は種々の実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1 管理型護岸
4 ケーソン
5 分断部
6 鋼製矢板
10 外側鉛直遮水工
20 積層遮水シート
25 分岐遮水シート
30 シート端部定着壁体
32 位置決め保持部材(ピボット)
35 仮締め付け部材
39 本設固定枠体
A 根固めアスファルトマスチック遮水層
A(7) 中詰めアスファルトマスチック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8