IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MUアイオニックソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7507014非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240620BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240620BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20240620BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01G11/64
H01G11/60
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020102971
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021197278
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 大希
(72)【発明者】
【氏名】矢三 勇介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 良規
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 宏行
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第103618109(CN,B)
【文献】特開2018-081782(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088002(WO,A1)
【文献】特開2015-159120(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230506(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/0587
H01G 11/64
H01G 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、式(I)で表される2,4,6-トリフルオロ-1,3,5-トリアジンを、非水電解液全量に対して、0.1~1質量%含有し、更に式(II)~(IV)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を、非水電解液全量に対して、合計で0.1~0.5質量%含有し、前記式(I)で表される化合物と前記式(II)~(IV)で表される化合物の含有量比が、[式(I)の化合物の含有量/式(II)~(IV)の化合物の含有量の合計]で表される比で、0.1~10の範囲内であることを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【化1】
【化2】
(式中、RとRはそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示し、RとRが互いに結合し環を形成してもよい。)
【化3】
(式中、Rは少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基または炭素数2~6のアルキニル基を示す。)
【化4】
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基または炭素数2~3のアルケニル基を示す。)
【請求項2】
前記式(II)で表される化合物が、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドであることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項3】
前記式(III)で表される化合物が、リチウム メチルサルフェート、リチウムエチルサルフェートまたはリチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェートであることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項4】
前記式(IV)で表される化合物が、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネートであることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項5】
非水電解液が、フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項6】
正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が請求項1から5のいずれか1項に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクル後の電池特性を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、長期の使用により電池が劣化するため電池の交換が必要となる。それゆえ充放電の繰り返しによる劣化が抑えられる、つまりはサイクル特性の良好なリチウム電池が求められている。尚、本明細書において、リチウム電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
リチウム電池は、主にリチウムを吸蔵および放出可能な材料を含む正極および負極、ならびにリチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート〔EC〕、プロピレンカーボネート〔PC〕等のカーボネートが使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵および放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料やケイ素材料を用いたリチウム電池が広く実用化されている。
【0004】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、電極界面の抵抗が上昇することや、サイクル特性を低下させ電池特性を劣化させる。また、リチウム金属やその合金、スズまたはケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム電池は、初期の容量は高いがサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、界面抵抗、電池容量やサイクル特性のような電池特性が大きく低下する。これらの非水溶媒の分解物が更に蓄積すると負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなりサイクル特性が低下しやすくなる。
【0005】
特許文献1にはフッ素原子を含有する環状窒素化合物を電解液に添加することで、リチウムイオン電池の安全性を向上させると報告されている。
【0006】
特許文献2には環状窒素化合物とニトリル化合物を電解液に添加することで、リチウムイオン電池の容量維持率と電圧維持率を向上させると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許第103618109号明細書
【文献】特開2018-081782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、蓄電デバイスにおいて電池特性を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ね、非水溶媒にフッ素を含有する環状窒素化合物と、極性基の-OS(=O)-基または-OS(=O)O-基を有する特定の化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とが溶解されている非水電解液を用い、電気化学的手法により負極表面を被覆することで、蓄電デバイスの電池特性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の(1)~(6)を提供するものである。
【0011】
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、式(I)で表される2,4,6-トリフルオロ-1,3,5-トリアジン〔化合物1〕を、非水電解液全量に対して、0.01~8質量%含有し、更に式(II)~(IV)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液。
【0012】
【化1】
【0013】
【化2】
(式中、RとRはそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示し、RとRが互いに結合し環を形成してもよい。)
【0014】
【化3】
(式中、Rは少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基または炭素数2~6のアルキニル基を示す。)






【0015】
【化4】
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基または炭素数2~3のアルケニル基を示す。)
【0016】
(2)前記式(II)で表される化合物が、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドであることを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0017】
(3)前記式(III)で表される化合物が、リチウム メチルサルフェート、リチウムエチルサルフェートまたはリチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェートであることを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0018】
(4)前記式(IV)で表される化合物が、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネートであることを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0019】
(5)非水電解液が、フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0020】
(6)正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が(1)から(5)のいずれか1つに記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蓄電デバイスにおいて、サイクル後の電池特性を向上できる非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【0023】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液中に前記式(I)で示される2,4,6-トリフルオロ-1,3,5-トリアジン〔化合物1〕を含有し、更に前記式(II)~(IV)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液である。
【0024】
本発明の非水電解液が、蓄電デバイスの電池特性を向上させる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
蓄電デバイスの電池特性が低下する要因のひとつとして、負極上で非水溶媒の分解物が蓄積し負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなることが挙げられる。本発明の前記式(I)で表される化合物は負極上で還元分解し、フッ素原子を多く含む被膜を形成する。フッ素原子を多く含む被膜に、前記式(II)~(IV)で表される極性基の-OS(=O)-基または-OS(=O)O-基を有する特定の化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を同時に取り込むことによってより強固かつ、イオン電導性の高い被膜を形成し、電池特性を向上させると考えられる。
【0025】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記式(I)で表される化合物の含有量は、非水電解液中に非水電解液全量に対して、0.01~8質量%であると、電池容量が向上するため好ましい。また、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0026】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記式(II)~(IV)で表される化合物の含有量の合計は、非水電解液中に非水電解液全量に対して、0.01~8質量%であると、電池容量が向上するため好ましい。また、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
【0027】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記式(I)および前記式(II)~(IV)で表される化合物の含有量の合計は、前記範囲であれば効果を十分に発揮するが、前記式(I)の化合物と、前記式(II)~(IV)の化合物との含有量比が一定の範囲であればより電池特性を向上させるため好ましい。前記含有量比(式(I)の化合物の含有量/式(II)~(IV)の化合物の含有量の合計)が、0.1~10の範囲であることが好ましく、0.3~8の範囲であることがより好ましく、0.5~5の範囲であることが更に好ましく、1~4の範囲であることが特に好ましい。
【0028】
前記式(II)において、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基を示し、RとRが互いに結合し環を形成してもよい。RとRは水素原子または炭素数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1もしくは2のアルキル基がより好ましい。
【0029】
前記RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基もしくはn-ヘキシル基等の直鎖のアルキル基またはiso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基もしくはtert-ブチル基等の分枝のアルキル基が好適に挙げられ、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基またはn-ブチル基が好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0030】
また、RおよびRが互いに結合し環を形成する場合の具体例としては、シクロブチル構造、シクロペンチル構造、シクロヘキシル構造、シクロヘプチル構造またはシクロオクチル構造を有するものが好適に挙げられ、シクロペンチル構造またはシクロヘキシル構造を有するものがより好ましい。
【0031】
前記式(III)において、Rは少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基または炭素数2~6のアルキニル基を示し、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1もしくは2のアルキル基がより好ましい。
【0032】
前記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基もしくは2,2,2-トリフルオロエチル基等の少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基またはビニル基、1-プロペニル基もしくは2-プロペニル基等のアルケニル基が挙げられる。メチル基、エチル基または2,2,2-トリフルオロエチル基であれば電池特性を向上させるためより好ましく、メチル基またはエチル基が更に好ましい。
【0033】
前記式(IV)において、Rは炭素数1~3のアルキル基または炭素数2~3のアルケニル基を示す。
【0034】
の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基もしくはiso-プロピル基等のアルキル基またはビニル基、1-プロペニル基もしくは2-プロペニル基等のアルケニル基が好適に挙げられ、メチル基、ビニル基または2-プロペニル基が更に好ましく、メチル基または2-プロペニル基が特に好ましい。
【0035】
前記式(II)~(IV)で表される化合物としては、具体的に以下の化合物が好適に挙げられる。




































【0036】
【化5】
【0037】
上記好適例の中でも化合物A1~A3、A12、A13、A15、A16、A17~A19、A23、A25またはA26が好ましく、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(化合物A1)、4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(化合物A2)、テトラヒドロ-4H-シクロペンタ[d][1,3,2]ジオキサチオール2,2-ジオキシド(化合物A15)、テトラヒドロベンゾ[d][1,3,2]ジオキサチオール2,2-ジオキシド(化合物A16)、リチウム メチルサルフェート(化合物A17)、リチウムエチルサルフェート(化合物A18)、リチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート(化合物A19)、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート(化合物A23)または1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル 2-プロペン-1-スルホネート(化合物A26)がより好ましく、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(化合物A1)、リチウム メチルサルフェート(化合物A17)、リチウムエチルサルフェート(化合物A18)または1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート(化合物A23)が特に好ましい。
【0038】
〔電解質塩〕
本発明に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
リチウム塩としては、LiPF、LiBFもしくはLiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOF)〔LiFSI〕、LiN(SOCF〔LiTFSI〕、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-CもしくはLiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩または(CF(SONLiもしくは(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を有するリチウム塩等が好適に挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好適に挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOおよびLiN(SOF)から選ばれる1種または2種以上が好ましく、LiPFを用いることがもっとも好ましい。電解質塩のそれぞれの濃度は、前記の非水電解液全量に対して、4質量%以上であることが好ましく、9質量%以上がより好ましく、13質量%以上が更に好ましく、また、28質量%以下であることが好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0039】
また、これらの電解質塩は1種で使用しても十分な性能を発揮するが、電解質塩を組み合わせることで更に電池特性を向上させる。好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiN(SOCFおよびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましく、LiPFを含み、更にLiBFまたはLiN(SOF)が非水電解液中に含まれることがより好ましく、特にLiN(SOF)を含むことが好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水電解液全量に占めるそれぞれの割合は特に限定されないが、0.01質量%以上であると、電池特性が向上するため好ましい。更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上、最も好ましくは1質量%以上である。また、好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。
【0040】
〔非水溶媒〕
本明細書において、「溶媒」とは溶質を溶解するための物質を示す。
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトン、エーテルおよびアミドから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。電池特性が向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることが最も好ましい。
【0041】
尚、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0042】
前記環状カーボネートとしては、フッ素原子を有する環状カーボネート、炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートならびにフッ素原子および不飽和結合を含まない環状カーボネートが挙げられる。フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートの具体例としては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン〔FEC〕、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン〔DFEC〕、ビニレンカーボネート〔VC〕、ビニルエチレンカーボネート〔VEC〕または4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン〔EEC〕等が挙げられ、フッ素原子および不飽和結合を含まないカーボネートの具体例としては、エチレンカーボネート〔EC〕、プロピレンカーボネート〔PC〕、1,2-ブチレンカーボネートまたは2,3-ブチレンカーボネート等が挙げられる。
【0043】
前記フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、FECまたはDFECが好ましく、FECが特に好ましい。また、前記炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとしてはVC、VECまたはEECが好ましく、VCが特に好ましい。
【0044】
前記フッ素原子および不飽和結合を含まない環状カーボネートとしてはECまたはPCが好ましく、ECが特に好ましい。
【0045】
前記環状カーボネートの総含有量は、非水電解液全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と電池特性が向上するので好ましい。
【0046】
前記環状カーボネートは1種類で使用してもよいが、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。特に本発明の電解液においては、前記フッ素原子を有する環状カーボネートおよび前記不飽和結合を有する環状カーボネートから選ばれる1種以上と、前記フッ素原子および不飽和結合を含まない環状カーボネートから選ばれる1種以上を組み合わせて使用すると電池特性をより向上させるため好ましい。組み合わせて使用する場合、その質量比((フッ素原子を有する環状カーボネートまたは炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネート)/(フッ素原子および不飽和結合を含まない環状カーボネート))は1以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。また、組み合わせた場合のフッ素原子および不飽和結合を含まない環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と電池特性が向上するので好ましい。
【0047】
これらの環状カーボネートの好適な組み合わせとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、VCとFEC、ECとFEC、PCとFEC、FECとDFEC、ECとDFEC、PCとDFEC、VCとDFEC、VECとDFEC、VCとEEC、ECとEEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとVEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、ECとVCとDFEC、PCとVCとDFEC、ECとPCとVCとFECまたはECとPCとVCとDFEC等が好ましい。前記の組み合わせのうち、ECとVC、ECとFEC、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFECまたはECとPCとVCとFECの組み合わせがより好ましい。
【0048】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート〔MEC〕、メチルプロピルカーボネート〔MPC〕、メチルイソプロピルカーボネート〔MIPC〕、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネートおよびメチルフルオロエチルカーボネート〔FMEC〕から選ばれる1種または2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート〔DMC〕、ジエチルカーボネート〔DEC〕、ジプロピルカーボネートおよびジブチルカーボネートから選ばれる1種または2種以上の対称鎖状カーボネートまたはピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル〔MP〕、プロピオン酸エチル〔EP〕、プロピオン酸プロピル〔PP〕、酢酸メチル〔MA〕、酢酸エチル〔EA〕および酢酸プロピル〔PA〕から選ばれる1種または2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0049】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルフルオロエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸プロピルから選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0050】
本発明の非水電解液に用いる非水溶媒における鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水電解液全量に対して、5~90質量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が5質量%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下してサイクル後の容量維持率が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0051】
前記環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、サイクル後の容量維持率向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(質量比)が10:90~50:50が好ましく、30:70~40:60が特に好ましい。
【0052】
その他の非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンまたは1,2-ジブトキシエタン等の鎖状エーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、スルホラン等のスルホンおよびγ-ブチロラクトン〔GBL〕、γ-バレロラクトンまたはα-アンゲリカラクトン等のラクトンから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。
【0053】
上記その他の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組み合わせは、例えば、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組み合わせまたは環状カーボネートと鎖状エステルとエーテルとの組み合わせ等が好適に挙げられ、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組み合わせがより好ましく、ラクトンの中でもGBLを用いると更に好ましい。
【0054】
その他の非水溶媒の含有量は、非水電解液全量に対して、通常1質量%以上が好ましく、より好ましくは2質量%以上であり、また通常40質量%以下が好ましく、また、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。当該濃度範囲中であれば電気伝導度が低下するおそれや、溶媒の分解によって電池特性が低下するおそれが少ない。
【0055】
〔その他の添加剤〕
一段とサイクル後の容量維持率を向上させる目的で、非水電解液中に更にその他の添加剤を加えることが好ましい。
その他の添加剤の具体例としては、以下の(A)~(I)の化合物が挙げられる。
【0056】
(A)シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼンもしくは1-フルオロ-4-tert-ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物またはビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネートもしくはジフェニルカーボネート等の芳香族化合物。
【0057】
芳香族化合物の中では、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンから選ばれる1種または2種以上がより好ましく、ビフェニル、o-ターフェニル、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンから選ばれる1種または2種以上が特に好ましい。
【0058】
(B)メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種または2種以上のイソシアネート化合物。
【0059】
イソシアネート化合物の中では、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートから選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0060】
(C)2-プロピニル メチル カーボネート、酢酸 2-プロピニル、ギ酸 2-プロピニル、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジホルメートから選ばれる1種または2種以上の三重結合含有化合物。
【0061】
三重結合含有化合物としては、2-プロピニル メチル カーボネート、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種または2種以上が好ましく、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0062】
(D)1,3-プロパンスルトン(PS)、1,3-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトンまたは2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート等のスルトン含有化合物。
【0063】
スルトン含有化合物としては、1,3-プロパンスルトン、1,3-プロペンスルトンから選ばれる1種または2種以上が好ましく、1,3-プロパンスルトンが更に好ましい。
【0064】
(E)分子内に「アセタール基」を有する環状アセタール化合物。分子内に「アセタール基」を含有していればその種類は特に限定されない。その具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサンまたは1,3,5-トリオキサン等の環状アセタール化合物。
【0065】
環状アセタール化合物としては、1,3-ジオキソランまたは1,3-ジオキサンが好ましく、1,3-ジオキサンが更に好ましい。
【0066】
(F)リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートおよび2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートから選ばれる1種または2種以上のリン含有化合物。
【0067】
リン含有化合物としては、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートまたは2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが好ましく、2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが更に好ましい。
【0068】
(G)分子内に「C(=O)-O-C(=O)基」、「C(=O)-O-S(=O)基」または「S(=O)-O-S(=O)基」を有する酸無水物。その具体例としては、無水酢酸もしくは無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物または無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、1,2-オキサチオラン-5-オン 2,2-ジオキシドおよび1,2,6-オキサジチアン 2,2,6,6-テトラオキシドから選ばれる1種または2種以上の環状酸無水物。
【0069】
環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸または3-アリル無水コハク酸が好ましく、無水コハク酸または3-アリル無水コハク酸が更に好ましい。
【0070】
(H)分子内に「N=P-N基」を有するホスファゼン化合物。分子内に「N=P-N基」を含有していれば特にその種類は限定されない。その具体例としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物。
【0071】
環状ホスファゼン化合物としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物が好ましく、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンが更に好ましい。
【0072】
(I)前記電解質塩とは別のシュウ酸骨格を有するリチウム塩化合物またはリン酸骨格を有するリチウム塩化合物。その具体例としては、リチウム ビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート〔LiDFOB〕、リチウム テトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート〔LiTFOP〕もしくはリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕等のシュウ酸骨格を有するリチウム塩またはLiPOもしくはLiPOF等のリン酸骨格を有するリチウム塩化合物。
【0073】
シュウ酸骨格を有するリチウム塩化合物としてはビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート〔LiDFOB〕およびリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕から選ばれる1種または2種以上が好ましく、ビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕およびリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕から選ばれる1種または2種以上が更に好ましい。
【0074】
リン酸骨格を有するリチウム塩化合物としてはLiPOおよびLiPOFから選ばれる1種または2種以上が好ましく、LiPOが更に好ましい。
【0075】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩および該非水電解液に対して前記式(I)と、前記式(II)~(IV)で表される化合物を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒および非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0076】
本発明の非水電解液は、下記の第1~第3の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する第1の蓄電デバイス用(即ち、リチウム電池用)または第3の蓄電デバイス用(即ち、リチウムイオンキャパシタ用)として用いることが好ましく、リチウム電池用として用いることが更に好ましく、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0077】
〔第1の蓄電デバイス(リチウム電池)〕
本明細書においてリチウム電池とは、リチウム一次電池およびリチウム二次電池の総称である。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。本発明の蓄電デバイスであるリチウム電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなる。非水電解液以外の構成部材は特に制限なく使用できる。
【0078】
リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガンおよびニッケルからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるかまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1-x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、ZnおよびCuから選ばれる1種または2種以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体およびLiNi1/2Mn3/2から選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0079】
また、Niを含む正極活物質は、理論的なLi吸蔵量が多いため、蓄電デバイスの正極活物質として使用することが好ましい。しかしながら、Niを含む正極活物質は、Niの触媒作用により正極表面での非水溶媒の分解が起き、電池の抵抗が増加しやすい傾向にある。特に高温環境下での電池特性が低下しやすい傾向にあるが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電池特性の低下を抑制することができる。蓄電デバイスの容量を向上させるという観点では、正極活物質中の全遷移金属元素の原子濃度に対するNiの原子濃度の割合が、30atomic%を超える正極活物質を用いた場合に上記効果が顕著になるので好ましく、50atomic%以上が更に好ましく、75%以上が特に好ましい。具体的には、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が好適に挙げられる。
【0080】
正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、WおよびZr等から選ばれる1種以上の元素で置換することや、これらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0081】
正極活物質としては、特に限定されることはないが、Co、Niを含む正極活物質を用いた場合、特に電池特性を向上させることができる。例えば、LiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1およびLiNi0.8Co0.15Al0.05、が好適に挙げられる。
【0082】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0083】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で、2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
【0084】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、およびリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm(ナノメータ)以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛等〕、金属単体および合金〔スズやケイ素等〕や金属化合物〔スズ酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸リチウム酸化物等〕から選ばれる1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
前記炭素材料の中では、リチウムイオンの吸蔵および放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm以下、特に0.335~0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と正極活物質からの金属溶出量の改善と、充電保存特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、I(110)/I(004)の上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、サイクル後の容量維持率が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によってサイクル後の容量維持率を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池ではサイクル後の容量維持率が良好となる。
【0086】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵および放出可能な金属単体や合金としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、Ti、In、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも1種含有する金属が挙げられる。これらの金属は単体、合金、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよい。中でも、Si、GeおよびSnから選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、SiおよびSnから選ばれる少なくとも1種の金属が電池を高容量化できるので特に好ましい。
【0087】
負極活物質としてのリチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、Ti、In、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、硼化物等が挙げられる。中でもSi元素およびTi元素を含有する金属化合物が電池特性を向上させるため好ましい。Si元素を含む金属化合物の中では、SiとSiOのコンポジット材料であるSiOはサイクル維持率を含む電池特性をより向上させることができるため好ましい。尚、前記xの範囲は0<x<2である。Ti元素を含む金属化合物の中では、LiTi12やTiNbを主成分とするチタン含有金属酸化物が充放電時の膨張収縮が小さく、難燃性であるため、電池の安全性を高める面では好ましい。
【0088】
前記リチウム二次電池用負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出可能であれば特に制限されることはないが、リチウム金属、炭素材料、ケイ素金属、Si元素を含む金属酸化物(SiO)またはTi元素を含む金属酸化物(LiTi12やTiNb等)から選ばれる1種単独または2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、炭素材料、ケイ素金属、SiOから選ばれる1種単独または2種以上を組み合わせて用いることが更に好ましく、炭素材料とSiOとを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0089】
前記負極活物質として、炭素材料とSiO組み合わせて使用する場合、SiOの重量比は特に限定はされないが、負極活物質、導電剤、結着剤、高沸点溶剤とを含む負極合材全体の質量に対して30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
【0090】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で2時間程度真空下加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量を更に高めるため、好ましくは1.3g/cm以上であり、特に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、2g/cm以下が好ましい。
【0091】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の微多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0092】
〔第2の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)〕
第2の蓄電デバイスは、電解液と電極界面の電気二重層容量を利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。本発明の一例は、電気二重層キャパシタである。この蓄電デバイスに用いられる好ましい電極材料は、C原子を含む材料やSi原子を含む材料であり、その具体例としては活性炭やシリコンが挙げられる。二重層容量は概ね表面積に比例して増加する。
【0093】
〔第3の蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ)〕
第3の蓄電デバイスは、負極であるグラファイト等の炭素材料またはSi原子を含む材料へのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。リチウムイオンキャパシタ(LIC)と呼ばれる。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気ニ重層を利用したものや、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。電解液には少なくともLiPF等のリチウム塩が含まれる。
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にもサイクル特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1~30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、-40~100℃、好ましくは-10~80℃で充放電することができる。
【実施例
【0094】
実施例1
LiCoO(LCO);94質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);3質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに切り抜き、正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cmであった。
また、人造黒鉛(負極活物質)85質量%、一酸化ケイ素(負極活物質)10質量%を混合し、カルボキシメチルセルロース(増粘剤);1.7%、ブタジエンの共重合体(結着剤);3.3質量%を水に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。
この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに切り抜き、負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.5g/cmであった。
非水電解液溶媒として、体積割合でECとMECの割合、EC:MEC=3:7(体積比)になるように調製し、電解質塩としてLiPFを1mol/Lとなるように前記電解液溶媒に加え、更にFECを非水電解液の全量に対して1質量%加え、基準電解液を調製した。前記基準電解液に更に前記式(I)に記載の化合物1を電解液の全質量に対して1質量%と、化合物A1を電解液の全質量に対して0.5質量%とを加え、実施例1の非水電解液を調製した。尚、実施例1の非水電解液を質量割合で表記すると、EC:MEC:LiPF:FEC:化合物1:化合物A1=29.7:53.0:14.8:1.0:1.0:0.5(質量比)となる。
前記正極シート、微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、前記調製した非水電解液を加えて、ラミネート型電池を作製した。
【0095】
実施例2~6
表1記載の基準電解液組成と、添加剤に変更したことを除き実施例1と同様にラミネート型電池を作製した。尚、実施例2の非水電解液を質量割合で表記すると、EC:MEC:LiPF:FEC:化合物1:化合物A17=29.8:53.1:14.8:1.0:1.0:0.3(質量比)となる。
【0096】
比較例1~2
表1記載の基準電解液組成と、添加剤に変更したことを除き実施例1と同様にラミネート型電池作製した。尚、比較例1の非水電解液を質量割合で表記すると、EC:MEC:LiPF:FEC=30.1:53.8:15.0:1.0(質量比)となり、比較例2の非水電解液を質量割合で表記すると、EC:MEC:LiPF:FEC:化合物1=29.9:53.3:14.9:1.0:1.0(質量比)となる。
【0097】
〔サイクル試験〕
サイクル後の容量維持率と交流抵抗値(電極界面抵抗値)を表1に示す。前記の方法で作製した電池を用いて45℃の恒温槽中、1Cの定電流で終止電圧4.2Vまで充電し、次に1Cの定電流下で、放電電圧2.7Vまで放電することを1サイクルとし、これを200サイクルに達するまで繰り返した。以下の式により1Cの200サイクル後の容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
交流抵抗は前記サイクル試験後に充電率50%、0℃の恒温槽中で25mHzの交流インピーダンスの実部の抵抗値を測定した。それぞれの値は比較例1で測定した値を100%としたときの相対値である。
















【0098】
【表1】
【0099】
表1の結果から、添加剤1と添加剤2とを組み合わせて使用することで、容量維持率の大幅な改善に加え、新たに交流抵抗を抑制する効果を見出し、本願化合物の組み合わせによる特有の効果であることが判明した。
【0100】
また、前記実施例1に記載の基準電解液に化合物1を電解液の全質量に対して10質量%加えたことを除き、実施例1と同様にラミネート型電池を作製し、充放電を行った。実施例1の1サイクル目の放電容量を100としたとき、前記化合物1を電解液の全質量に対して10質量%加えた電解液を使用した場合の1サイクル目の放電容量は44となり、化合物1が過剰に含まれる場合は容量が低下する。化合物1の含有量は本発明の規定する濃度で効果を発揮することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の非水電解液を使用すればサイクル後の電池特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。