(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】β型サイアロン蛍光体の製造方法、波長変換部材の製造方法、及び発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20240620BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240620BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240620BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2020115726
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小林 学
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良祐
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-002245(JP,A)
【文献】国際公開第2007/066733(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042957(WO,A1)
【文献】特開2009-256427(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188631(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054350(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/077368(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/143590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00- 11/89
H01L 33/00- 33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素、アルミニウム及びユウロピウムを含有する原料粉末を混合する混合工程と、
混合して得た前記原料粉末を不活性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で焼成して、一般式Si
6-zAl
zO
zN
8-z:Eu(ただし、
前記一般
式中、zは、0<z≦0.09の範囲を満たす。)で示されるβ型サイアロン蛍光体を生成する焼成工程と、
得られた前記β型サイアロン蛍光体を、少なくとも水素ガスを含む還元性雰囲気下でアニール処理するアニール工程と、を含み、
前記アニール工程中の雰囲気温度が、1600℃以上1800℃以下で
あり、
前記アニール工程中の雰囲気ガスが、
水素ガス、または
水素ガス及び不活性ガスの混合ガスのいずれかより選択される(ただし、前記混合ガス中の水素ガス濃度が、前記混合ガス100体積%中、1体積%以上である)、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記不活性ガスが、アルゴンガス、周期律表第18属元素の希ガス又は窒素を含む、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記アニール工程後に、前記β型サイアロン蛍光体を酸溶液に浸す酸処理工程を含む、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記焼成工程の焼成温度が、1800℃以上2100℃以下である、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
波長450nmの青色光を照射した場合のピーク波長が540nm以下の前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
波長450nmの青色光を照射した場合のピーク波長における半値幅が、50nm以下である前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
レーザー回折散乱法で測定される、β型サイアロン蛍光体の製造方法で得られた前記β型サイアロン蛍光体の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、50%となる粒子径をD50、90%となる粒子径をD90としたとき、
((D90-D10)/D50)が、1.00以上3.00以下を満たす前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法で得られたβ型サイアロン蛍光体を用いて、波長変換部材を製造する工程を含む、波長変換部材の製造方法。
【請求項9】
発光光源の発光面に、請求項
8に記載の波長変換部材の製造方法で得られた波長変換部材を搭載する工程を含む、発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型サイアロン蛍光体の製造方法、波長変換部材の製造方法、及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでβ型サイアロン蛍光体において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、式Si
6-zAl
zO
zN
8-z:Eu(式中、zは、0<z≦4.2を満たす数である。)で表される組成を有するβサイアロン蛍光体の製造方法について、実施例1のピーク波長が、比較例1よりも高く、約445nmであることが記載されている(特許文献1の段落0094、
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のβ型サイアロン蛍光体において、ピーク波長を短波長化させたβ型サイアロン蛍光体の発光強度の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Euで表されるβ型サイアロン蛍光体の組成中のz値を0.09以下とし、ピーク波長を540nm以下に短波長化したβ型サイアロン蛍光体に対して、水素ガスを含む還元性雰囲気下でのアニール処理を施すことによって、ピーク波長を短波長化させたβ型サイアロン蛍光体における発光強度を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
ケイ素、アルミニウム及びユウロピウムを含有する原料粉末を混合する混合工程と、
混合して得た前記原料粉末を不活性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で焼成して、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu(ただし、前記一般式中、zは、0<z≦0.09の範囲を満たす。)で示されるβ型サイアロン蛍光体を生成する焼成工程と、
得られた前記β型サイアロン蛍光体を、少なくとも水素ガスを含む還元性雰囲気下でアニール処理するアニール工程と、を含む、
β型サイアロン蛍光体の製造方法が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記のβ型サイアロン蛍光体の製造方法で得られたβ型サイアロン蛍光体を用いて、波長変換部材を製造する工程を含む、波長変換部材の製造方法が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
発光光源の発光面に、上記の波長変換部材の製造方法で得られた波長変換部材を搭載する工程を含む、発光装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピーク波長を短波長化させた際に発光強度に優れたβ型サイアロン蛍光体、それを用いた波長変換部材、及び発光装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のβ型サイアロン蛍光体の製造方法の概要を説明する。
【0011】
β型サイアロン蛍光体の製造方法は、ケイ素、アルミニウム及びユウロピウムを含有する原料粉末を混合する混合工程と、混合して得た原料粉末を不活性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で焼成して、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu(ただし、一般式中、zは、0<z≦0.09の範囲を満たす。)で示されるβ型サイアロン蛍光体を生成する焼成工程と、得られたβ型サイアロン蛍光体を、少なくとも水素ガスを含む還元性雰囲気下でアニール処理するアニール工程と、を含む。
【0012】
β型サイアロン蛍光体のピーク波長を短波長化する方法としては、例えば一般式Si6-zAlzOzN8-z:Euで表される組成中のz値を下げることによって、波長450nmの青色光を照射した場合のピーク波長について短波長化できる。その時のz値は0.09以下であるとよい。z値を小さくすると、β型サイアロン蛍光体の結晶構造において、Euイオン周囲の結晶格子を小さくなるため、β型サイアロン蛍光体の発光が短波長化する。
【0013】
発明者の検討によれば、z値が0.09以下の組成を有しており、ピーク波長が短波長化したβ型サイアロン蛍光体に対して、水素ガスを含む還元性雰囲気下でのアニール処理を施すことによって、発光強度を向上できることが見出された。さらに水素ガス雰囲気下のアニール処理によって、波長450nmの青色光を照射した時の蛍光スペクトルにおいて、半値幅をより小さくすることが可能になり、色純度を向上できることが見出された。
【0014】
本実施形態によれば、高色純度かつ発光強度に優れるβ型サイアロン蛍光体を実現できる。
このため、β型サイアロン蛍光体を発光装置に使用することで、発光装置の輝度を向上させことが可能である。
【0015】
以下、本実施形態のβ型サイアロン蛍光体について詳述する。
【0016】
本実施形態のβ型サイアロン蛍光体は、Light Emitting Diode(以下LED)などの光源用蛍光体として極めて有用である。
【0017】
短波長化したβ型サイアロン蛍光体は、例えば、波長420nm~480nmの範囲の青色光を吸収して、540nm以下のピーク波長を有する光を発光できる。
【0018】
波長450nmの青色光をβ型サイアロン蛍光体に照射した発光スペクトルにおいて、ピーク波長の上限が、例えば、540nm以下、好ましくは539nm以下、さらに好ましくは538nm以下である。これにより、短波長領域におけるより深い緑色発光を実現できる。一方、ピーク波長の下限は、例えば、525nm以上でもよい。
【0019】
上記発光スペクトルにおいて、ピーク波長における半値幅の上限が、好ましくは50nm以下である。これにより、短波長化したβ型サイアロン蛍光体の色純度を高めることができる。一方、半値幅の下限は、例えば、40nm以上でもよく、45nm以上でもよい。
【0020】
レーザー回折散乱法で測定される、β型サイアロン蛍光体の製造方法で得られたβ型サイアロン蛍光体の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、50%となる粒子径をD50、90%となる粒子径をD90とする。
【0021】
D50は、例えば、1μm以上30μm以下、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは10μm以上20μm以下である。上記の範囲内とすることで、発光特性のバランスを図ることができる。
【0022】
((D90-D10)/D50)の下限は、例えば、1.00以上でもよく、1.20以上でもよく、1.35以上でもよい。一方、((D90-D10)/D50)の上限は、3.00以下、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.80以下である。上記の範囲内とすることで、発光特性のバランスを図ることができる。
【0023】
次に、本実施形態のβ型サイアロン蛍光体の製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態のβ型サイアロン蛍光体の製造方法は、以下の混合工程、焼成工程、及びアニール工程を含む。
【0025】
混合工程は、ケイ素、アルミニウム及びユウロピウムを含有する原料粉末を混合する。
【0026】
焼成工程は、混合して得た原料粉末を不活性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で焼成して、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu(ただし、一般式中、zは、0<z≦0.09の範囲を満たす。)で示されるβ型サイアロン蛍光体を生成する。
【0027】
上記β型サイアロン蛍光体は、一般式Si6-zAlzOzN8-z:Eu(0<z≦0.09)で示される結晶を有する。β型サイアロン蛍光体を含む蛍光体は、一部又は全体が上記結晶相で構成されてもよい。
【0028】
一般式Si6-zAlzOzN8-z:Euにおいて、z値は、0.09以下、好ましくは0.08以下である。これにより、β型サイアロン蛍光体における発光の短波長化を実現できる。
【0029】
一般式Si6-zAlzOzN8-z:Euにおいて、ユウロピウムの含有量は、例えば、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0030】
焼成工程の焼成温度は、例えば、1800℃以上2100℃以下、好ましくは1850℃以上2050℃以下である。焼成温度を上記下限値以上とすることで、蛍光強度を向上させることができる。
【0031】
焼成工程は複数回実施しても良い。また、2回目以降の焼成を行う際には原料の一部を加えても良い。
【0032】
アニール工程は、得られたβ型サイアロン蛍光体を、少なくとも水素ガスを含む還元性雰囲気下でアニール処理する。
【0033】
アニール工程中の雰囲気温度は、たとえば、1600℃以上1800℃以下、好ましくは1600℃以上1750℃以下である。アニール温度を上記下限値以上とすることで、蛍光強度を向上できる。アニール温度を上記上限値以下とすることで、結晶性の改善効果が得られ、ピーク強度が低下することを抑制できる。
【0034】
アニール工程中の雰囲気ガスが、水素ガス、または水素ガス及びアルゴンガスの混合ガスのいずれかより選択される。少なくとも水素ガスを含むことによって、ピーク強度を向上させ、半値幅を狭めることが可能になる。
【0035】
水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いてもよい。不活性ガスとしては、アルゴンガスの他にも、周期律表第18属元素の希ガス又は窒素であり、ヘリウムが挙げられる。
【0036】
混合ガス中の水素ガス濃度は、混合ガス100体積%中、例えば、1体積%以上、好ましくは20体積%以上、より好ましくは40体積%以上である。これにより、β型サイアロン蛍光体の結晶性を高められる。
【0037】
アニール工程での特性向上効果は、減圧から加圧の幅広い雰囲気圧力で発揮されるが、1kPaよりも低い圧力は、雰囲気による還元効果が小さく、あまり特性が向上しないとともに、β型サイアロン蛍光体の分解が促進されるため、好ましくない。また、雰囲気を加圧することにより、アニール効果を発現させるために必要な他の条件を広げる(低温下、時間短縮)ことができるが、雰囲気圧力があまりに高くても、アニール効果が頭打ちになるとともに、特殊で高価なアニール装置が必要となるため、量産性を考慮すると、好ましい雰囲気圧力は10MPa以下であり、より好ましくは1MPa未満である。
【0038】
アニール工程における処理時間は、あまりに短いと結晶性向上効果が低く、あまりに長いとアニール効果が頭打ちになるため、1時間以上24時間以下であり、好ましくは2時間以上10時間以下である。
【0039】
また、本実施形態の製造方法は、アニール工程後に、β型サイアロン蛍光体を酸溶液に浸す酸処理工程を含んでもよい。これにより、蛍光体の特性が更に向上できる。
【0040】
酸処理工程は、酸溶液にβ型サイアロン蛍光体を浸し、フィルター等でβ型サイアロン蛍光体と酸を分離し、分離されたβ型サイアロン蛍光体を水洗する工程を有することが好ましい。酸処理によってアニール工程の際に生じるβ型サイアロン蛍光体結晶の分解物の除去をすることができ、これにより蛍光特性が向上する。酸処理に用いられる酸としては、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、又は、硝酸の単体又は混合体が挙げられ、分解物の除去に適したフッ化水素酸と硝酸とからなる混酸が好ましい。酸処理時の酸溶液の温度は、室温でも構わないが、酸処理の効果を高めるためには、加熱して50℃以上90℃以下にすることが好ましい。
【0041】
以上により、β型サイアロン蛍光体を得ることができる。
なお、必要に応じて公知の工程を追加してもよい。例えば、破砕・分級処理、精製処理、乾燥処理などの後処理を行ってもよい。
β型サイアロン蛍光体の粒径を調整する工程は、焼成工程後、アニール工程後、酸処理工程後のいずれの時点で行ってもよい。
【0042】
(波長変換体)
本実施形態の波長変換部材の製造方法は、β型サイアロン蛍光体の製造方法で得られたβ型サイアロン蛍光体を用いて、波長変換部材を製造する工程を含んでもよい。
【0043】
本実施形態の波長変換体は、発光素子から照射された光を変換して発光するものであって、上記β型サイアロン蛍光体を有するものである。波長変換体は、β型サイアロン蛍光体からのみで構成されてもよく、β型サイアロン蛍光体が分散した母材を含んでもよい。母材としては、公知のものを使用できるが、例えば、ガラス、樹脂、無機材料などが挙げられる。
【0044】
上記波長変換体は、その形状が特に限定されず、プレート状に構成されてもよく、発光素子の一部または発光面全体を封止するように構成されてもよい。
【0045】
(発光装置)
【0046】
本実施形態の発光装置の製造方法は、発光光源の発光面に、波長変換部材の製造方法で得られた波長変換部材を搭載する工程を含んでもよい。
【0047】
本実施形態に係る発光装置は、発光光源(発光素子)と上記波長変換体とを含む発光部材を備える。
発光光源と波長変換体とを組み合わせることによって高い発光強度を有する光を発光させることができる。
【0048】
発光装置の一例は、LEDパッケージが挙げられる。LEDパッケージは、発光光源(LEDチップ)と、発光光源を搭載する基板(リードフレーム)と、発光光源を被覆する波長変換体と、を備えてもよい。LEDチップは、近紫外から青色光の波長として300nm~500nmの光を発生してよい。LEDチップとリードフレームとはボンディングワイヤで電気的に接続されてよい。波長変換体は、合成樹脂製のキャップで覆われていてよい。
【0049】
上記波長変換体は、上記β型サイアロン蛍光体を含むものであればよいが、この他に、他の蛍光体を含んでもよい。他の蛍光体として、例えば、α型サイアロン蛍光体、KSF蛍光体、CASN蛍光体、SCASN蛍光体、YAG蛍光体をさらに含んでもよい。これらの蛍光体は一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記β型サイアロン蛍光体を用いた発光装置の場合、発光光源として、300nm以上500nm以下の波長を含有している近紫外光や可視光を励起源として照射することで、525nm以上540nm以下の範囲の波長にピークを持つ緑色の発光特性を有する。このため、発光光源として近紫外LEDチップ又は青色LEDチップとβ型サイアロン蛍光体と、さらに赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体、黄色発光蛍光体又は橙発光蛍光体をひとつもしくは複数組み合わせることによって、白色光にすることができる。
【0051】
一例として、緑色を示すβ型サイアロン蛍光体と、赤色を示すKSF系蛍光体とを組み合わせて用いることによって、高演色TV等に適したバックライト用LED等に好適に用いることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. ケイ素、アルミニウム及びユウロピウムを含有する原料粉末を混合する混合工程と、
混合して得た前記原料粉末を不活性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で焼成して、一般式Si
6-z
Al
z
O
z
N
8-z
:Eu(ただし、一般式[1]中、zは、0<z≦0.09の範囲を満たす。)で示されるβ型サイアロン蛍光体を生成する焼成工程と、
得られた前記β型サイアロン蛍光体を、少なくとも水素ガスを含む還元性雰囲気下でアニール処理するアニール工程と、を含む、
β型サイアロン蛍光体の製造方法。
2. 1.に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記アニール工程中の雰囲気温度が、1600℃以上1800℃以下である、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
3. 1.又は2.に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記アニール工程中の雰囲気ガスが、水素ガス、または水素ガス及びアルゴンガスの混合ガスのいずれかより選択される、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
4. 3.に記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記混合ガス中の水素ガス濃度が、前記混合ガス100体積%中、1体積%以上である、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記アニール工程後に、前記β型サイアロン蛍光体を酸溶液に浸す酸処理工程を含む、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
前記焼成工程の焼成温度が、1800℃以上2100℃以下である、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
波長450nmの青色光を照射した場合のピーク波長が540nm以下の前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
波長450nmの青色光を照射した場合のピーク波長における半値幅が、50nm以下である前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法であって、
レーザー回折散乱法で測定される、β型サイアロン蛍光体の製造方法で得られた前記β型サイアロン蛍光体の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、50%となる粒子径をD50、90%となる粒子径をD90としたとき、
((D90-D10)/D50)が、1.00以上3.00以下を満たす前記β型サイアロン蛍光体を得る、β型サイアロン蛍光体の製造方法。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載のβ型サイアロン蛍光体の製造方法で得られたβ型サイアロン蛍光体を用いて、波長変換部材を製造する工程を含む、波長変換部材の製造方法。
11. 発光光源の発光面に、10.に記載の波長変換部材の製造方法で得られた波長変換部材を搭載する工程を含む、発光装置の製造方法。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0053】
<β型サイアロン蛍光体の作製>
[実施例1]
比較例1のβ型サイアロン蛍光体は、以下に記載するように、原料混合粉末を焼成して焼成物を得る焼成工程を実施し、焼成工程後の焼成物に、さらに解砕粉砕処理、分級処理、アニール処理及び酸処理を施して製造した。
【0054】
(焼成工程、原料混合粉末と焼成)
α型窒化ケイ素(SN-E10グレード、酸素含有量1.0質量%、宇部興産社製)98.52質量%、窒化アルミニウム(Eグレード、酸素含有量0.8質量%、トクヤマ社製)0.58質量%、及び酸化ユーロピウム(RUグレード、信越化学工業社製)0.90質量%となるように秤量した。当該原料の配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6-zAlzOzN8-zにおいて、酸素量は考慮せず、Si/Al比から算出したz値が、z=0.04となるように設計した。この原料混合粉末をV型混合機(S-3、筒井理化学器械社製)で10分間乾式混合した。混合後の原料のうち、目開き250μmのナイロン製篩を通過したものを以下の工程に用いた。前記混合物を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、1950℃で15時間加熱処理を行った。焼成終了後、容器から取り出し、室温になるまで放置した。
【0055】
(焼成物の解砕、粉砕、分級処理)
得られた塊状の焼成物を、ロールクラッシャーで解砕し、目開き150μmの篩を通過させた粉体を以下の処理に用いた。
【0056】
(アニール処理)
前記焼成工程後の粉体を、蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器に充填し、タングステンヒーターの炉内が全てメタルの電気炉で、水素ガス濃度が100体積%の水素ガス雰囲気下、雰囲気圧力0.15MPa、1700℃で6時間アニール処理し、粉末を得た。本実施例における炉内のメタルは、炉内部材をタングステン及びモリブデンで構成されたものである。
【0057】
(酸処理)
アニール処理後の粉体を、50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中、75℃で30分間浸す酸処理を行った。そのまま酸処理後の粉末を沈殿させ、上澄み液と微粉を除去するデカンテーションを溶液のpHが5以上で上澄み液が透明になるまで繰り返し、最終的に得られた沈殿物をろ過、乾燥し、実施例1の蛍光体を得た。
【0058】
得られた実施例1の蛍光体に対し、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定を行った結果、結晶相はβ型サイアロン蛍光体単相であった。
【0059】
[実施例2~5]
原料の配合比を、表1に記載のz値となるように設計し、表1に記載のアニール処理の条件を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5のβ型サイアロン蛍光体を得た。
【0060】
[比較例1~6]
原料の配合比を、表1に記載のz値となるように設計し、表1に記載のアニール処理の条件を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~6のβ型サイアロン蛍光体を得た。
【0061】
【0062】
各実施例・各比較例のβ型サイアロン蛍光体について、以下の特性および評価項目を評価した。
【0063】
(蛍光特性)
β型サイアロン蛍光体の蛍光特性は、以下の方法で測定したピーク強度、ピーク波長及びスペクトルの半値幅により評価した。
装置としては、ローダミンB法および標準光源により校正した分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F-7000)を用いた。得られた蛍光体粉末を専用の固体試料ホルダーに充填し、次いで、分光蛍光光度計を用いて、波長455nmに分光した励起光を照射したときの蛍光スペクトルを測定し、得られた蛍光スペクトルからピーク強度、ピーク波長及び半値幅を求めた。得られた結果を表1に示す。
なお、ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位であり、各実施例および比較例において同一条件で測定し、各実施例および比較例のβ型サイアロン蛍光体を連続して測定し、比較を行った。表1では、比較例1のβ型サイアロン蛍光体のピーク強度を100%として比較した。
【0064】
(粒度分布)
β型サイアロン蛍光体の粒度分布を、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)で測定した。0、2%に調整したヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液を分散媒として用いた。得られた体積頻度粒度分布曲線から、10体積%径(D10)、50体積%径(D50)、90体積%径(D90)を求め、得られた値から粒子径分布のスパン値((D90-D10)/D50)を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
実施例1~5のβ型サイアロン蛍光体は、ピーク波長が540nm以下の光を発光するものであり、比較例1~6と比べて、比較的半値幅が狭く、蛍光強度が向上することが示された。このような実施例1~5のβ型サイアロン蛍光体は、高輝度の蛍光体を実現できる。このため、実施例1~5のβ型サイアロン蛍光体を発光装置に使用することで、蛍光特性を向上させことが可能である。