(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結体、その製造方法、および窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体製造装置用部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/581 20060101AFI20240620BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C04B35/581
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2020117613
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019132906
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 則幸
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-048669(JP,A)
【文献】特開2007-191383(JP,A)
【文献】特開2001-064079(JP,A)
【文献】特開2001-089246(JP,A)
【文献】特開平03-108508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581-35/582
H01L 21/67-21/687
C30B 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置に用いられる窒化アルミニウム焼結体であって、
前記窒化アルミニウム焼結体の250nmの波長の励起光によるフォトルミネッセンススペクトルの350nm~700nmの波長範囲において、前記窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが580nm~620nmの波長範囲に出現することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体製造装置用部品。
【請求項3】
前記半導体製造装置は、静電チャック、セラミックヒータ、またはサセプタであることを特徴とする請求項
2に記載の半導体製造装置用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置に用いられる窒化アルミニウム焼結体、その製造方法、および窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体製造装置用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム焼結体は、焼成条件、焼成助剤の種類や濃度により、容易に色調が変化する材料であり、大型部材を作製する場合は同一条件下で作製したものでも個体差があり、また同一個体内でも色むらが容易に発生する材料である。
【0003】
特許文献1のものでは、窒化アルミニウムに対してエルビウム(Er)を金属換算で5重量%以上添加し、シミや色ムラの発生を抑制した窒化アルミニウム焼結体が記載されているが、エルビウム(Er)は、基本的に半導体デバイスにとって有害であり、窒化アルミニウム焼結体の半導体製造装置用部材への適用を阻害するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、色ムラを抑制させることができる半導体製造装置に用いられる窒化アルミニウム焼結体、その製造方法、および窒化アルミニウム焼結体を用いた半導体製造装置用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
半導体製造装置に用いられる窒化アルミニウム焼結体であって、
前記窒化アルミニウム焼結体の250nmの波長の励起光によるフォトルミネッセンススペクトルの350~700nmの波長範囲において、前記窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが580nm~620nmの波長範囲に出現することを特徴とする。
【0007】
実験の結果から考察すると、環境等の影響により不純物である酸素(O)が多くなると窒化アルミニウム焼結体の色ムラが悪化すると考えられる。そして、実験の結果、従来よりも色ムラが抑えられる程度に窒化アルミニウム焼結体の酸素含有量を抑えさせると、窒化アルミニウム焼結体に250nmの波長の励起光を照射したときのフォトルミネッセンススペクトルの350~700nmの波長範囲において、窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが580nm~620nmの波長範囲に現れることを発見した。
【0008】
従って、本発明によれば、従来よりも色ムラを抑えることができる半導体製造装置用の窒化アルミニウム焼結体を提供することができる。
【0011】
[2]また、本発明においては、従来よりも色ムラを抑えることができる半導体製造装置用部品を提供することができる。
【0012】
本発明によれば、従来よりも色ムラを抑えることができる半導体製造装置用部材を提供することができる。
【0013】
[3]また、本発明においては、従来よりも色ムラを抑えることができる半導体製造装置用部品として、静電チャックまたはセラミックヒータを提供することができる。
【0014】
本発明によれば、従来よりも色ムラを抑えることができる静電チャックまたはセラミックヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態及び比較例の窒化アルミニウム焼結体の250nmの波長の励起光によるフォトルミネッセンススペクトルを示すグラフである。
【
図2】
図2は、本実施形態における静電チャック1000の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における静電チャック1000のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、セラミックスヒータの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態の窒化アルミニウム焼結体を説明する。
【0017】
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、例えば半導体ウエハを載置する静電チャック、セラミックスヒータ、およびサセプタなどの半導体製造装置用部品として半導体製造装置に用いられる。
【0018】
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、窒化アルミニウムを主成分とする成形体、脱脂体、または仮焼結体の吸着水分比が0.2重量%未満になるように保管する工程を含む。吸着水分比とは、成形体、脱脂体又は仮焼体の作製直後の重量をW1とし、焼成のための窯詰め直前の成形体、脱脂体または仮焼体の重量をW2としたときに、(W2-W1)/W1で表される。
【0019】
このようにして保管された成形体、脱脂体、または仮焼体を焼成することで得られた窒化アルミニウム焼結体は従来よりも色ムラが低減されていた。
【0020】
これは、得られた窒化アルミニウム焼結体の酸素(O)の含有量が抑制されたためと考えられる。本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、250nmの励起光を照射したフォトルミネッセンススペクトルの350nm~700nmの波長範囲において、580nm~620nmの波長範囲に窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが確認された。フォトルミネッセンススペクトルは、例えば、日本分光製のFP-8500を用いて測定される。
【0021】
次に、成形体プレス法による窒化アルミニウム焼結体の製造方法について説明する。
【0022】
まず、造粒工程として、95重量%の窒化アルミニウム粉末と5重量%の酸化イットリウム粉末を含む原料粉にバインダー、可塑剤、分散剤を添加して顆粒状の造粒粉を生成する。具体的には、溶剤を用いて原料粉末等を混合した後、スプレードライ乾燥することにより造粒粉を得る。そして、成形工程として、造粒粉を冷間等方加圧法(CIP:Cold Isostatic Pressing)により、板状などの所定の形状に成形する。CIPにより成形されたインゴットを機械加工により所定の外形に加工することにより成形体を得る。次いで、脱脂工程として、例えば、大気雰囲気下で600℃以下の熱処理を行なうことにより成形体を脱脂し、脱脂体を得る。
【0023】
次いで、脱脂した脱脂体を直ちに焼成しない場合には、保管工程として、脱脂体ができるだけ水分を取り入れないような雰囲気で保管する。ここでの保管方法としては、例えば、10℃以下での冷蔵保管または冷凍保管などの、窒化アルミニウムに吸着する水分量が抑制される方法を用いることができる。
【0024】
次いで、カーボン型に載置してから窯詰めされた脱脂体を窒素雰囲気下、1850℃、10MPaの条件で一軸加圧焼成して、窒化アルミニウム焼結体を得る。
【0025】
このときの吸着水分比は、脱脂工程直後の脱脂体の重量をW1とし、窯詰め直前の脱脂体の重量をW2としたときに(W2-W1)/W1の関係式で表される。
【0026】
ここまでで、成形体プレス法による窒化アルミニウム焼結体の製造方法を説明したが、本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、成形体プレス法に限らず、他のものであってもよい。例えば、粉末ホットプレスによる窒化アルミニウム焼結体の製造方法であってもよい。粉末ホットプレスによる窒化アルミニウム焼結体の製造方法では、溶媒を用いて窒化アルミニウムの原料粉末等を混合してから造粒した造粒粉の状態で成形体プレス法と同様の保管工程を行い、カーボン型などの型に造粒粉を詰めて一軸加圧焼成する点を除き、成形体プレス法と同一に製造される。
【0027】
このときの吸着水分比は、造粒直後の造粒粉の単位容積当たりの重量をW3、焼成直前の造流粉の単位容積当たりの重量をW4としたときに、(W4-W3)/W3の関係式で表される。
【0028】
図1は、本実施形態の実施例として、成形体プレス法により直径370mm、厚み25mmの円板状の成形体を作製し、成形体を大気雰囲気下で600℃以下の熱処理を行なうことにより作製され、焼成するまで本実施形態の管理方法で保管した脱脂体を焼成した窒化アルミニウム焼結体と、比較例として実施例と同様の方法により脱脂体を作製し、焼成するまでの間に環境管理を行なうことなく、焼成した窒化アルミニウム焼結体との250nmの波長の励起光によるフォトルミネッセンススペクトルを示すグラフである。励起光の波長の2倍の500nmの領域に励起光の影響による発光強度ピークが現れている。
図1から明らかなように、実施例の窒化アルミニウム焼結体では、350nm~700nmの測定波長範囲のうち580nm~620nmの波長範囲に窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが位置しているのに対し、破線で示す比較例の窒化アルミニウム焼結体では、510nm~550nmの波長範囲に窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが位置していることが分かる。
【0029】
このとき、実施例の脱脂体の吸着水分比は0.05重量%であり、比較例の脱脂体の吸着水分比は0.2重量%であった。
【0030】
図1の実験の結果から考察すると、環境等の影響、特に水分の影響により不純物である酸素(O)が多くなると窒化アルミニウム焼結体の色ムラが悪化すると考えられる。そして、実験の結果、従来よりも色ムラが抑えられる程度に窒化アルミニウム焼結体の酸素含有量を抑えさせると、窒化アルミニウム焼結体に250nmの波長の励起光を照射したときに、350nm~700nmの波長範囲において、窒化アルミニウム焼結体による最高発光強度ピークが580nm~620nmの波長範囲に現れることを発見した。これは、酸素欠陥の変わりに他の物質で欠陥が補われることで580~620nmの波長範囲に発光強度ピークが現れたと考えられる。
【0031】
発光強度ピークのピーク位置は極大値をとる場合はその値を、その他発光強度ピークが重なる場合は、2回微分または3回微分した波形から求めることができる。
【0032】
従って、本実施形態の窒化アルミニウム焼結体によれば、従来よりも色ムラを抑えることができる半導体製造装置用の窒化アルミニウム焼結体を提供することができる。
【0033】
A.実施形態:
A-1.静電チャック1000の構成:
図2は、本実施形態における静電チャック1000の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図3は、本実施形態における静電チャック1000のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図2及び
図3には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック1000は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0034】
静電チャック1000は、対象物(例えばウエハ1500)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウエハ1500を固定するために使用される。静電チャック1000は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置されたセラミックス板1010およびベース板1020を備える。セラミックス板1010とベース板1020とは、セラミックス板1010の下面(以下、「セラミックス側接着面S2」という)とベース板1020の上面(以下、「ベース側接着面S3」という)とが上記配列方向に対向するように配置されている。静電チャック1000は、さらに、セラミックス板1010のセラミックス側接着面S2とベース板1020のベース側接着面S3との間に配置された接着層1030を備える。
【0035】
セラミックス板1010は、例えば円形平面の板状部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックス板1010の直径は、例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、セラミックス板1010の厚さは、例えば1mm~20mm程度である。
【0036】
セラミックス板1010の形成材料としては、種々のセラミックスが用いられ得るが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性、後述するベース板1020の形成材料との関係等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。
【0037】
セラミックス板1010の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された一対の内部電極1040が設けられている。一対の内部電極1040に電源(図示せず)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウエハ1500がセラミックス板1010の上面(以下、「吸着面S1」という)に吸着固定される。
【0038】
また、セラミックス板1010の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されたヒータ1050が設けられている。ヒータ1050に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ1050が発熱することによってセラミックス板1010が温められ、セラミックス板1010の吸着面S1に保持されたウエハ1500が温められる。これにより、ウエハ1500の温度制御が実現される。なお、ヒータ1050は、セラミックス板1010の吸着面S1をできるだけ満遍なく温めるため、例えばZ方向視で略同心円状に配置されている。
【0039】
ベース板1020は、例えばセラミックス板1010と同径の、または、セラミックス板1010より径が大きい円形平面の板状部材であり、金属材料により形成されている。ベース板1020の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース板1020の厚さは、例えば20mm~40mm程度である。
【0040】
ベース板1020の形成材料としては、Al(アルミニウム)やTi(チタン)が用いられることが好ましい。
【0041】
ベース板1020の内部には冷媒流路1021が形成されている。冷媒流路1021に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース板1020が冷却され、接着層1030を介したベース板1020とセラミックス板1010との間の伝熱によりセラミックス板1010が冷却され、セラミックス板1010の吸着面S1に保持されたウエハ1500が冷却される。これにより、ウエハ1500の温度制御が実現される。
【0042】
接着層1030は、セラミックス板1010とベース板1020とを接着している。接着層1030の厚さは、例えば0.03mm~1mm程度である。
【0043】
A-2.セラミックスヒータ2000の構成:
図4は、実施例のセラミックスヒータ2000の平面図である。
図5は、
図4のA-A線に沿った断面図である。
【0044】
本実施例のセラミックス構造体としてのセラミックスヒータ2000は、
図4に示すように、例えば、Y
2O
3を含むAINのセラミックス焼結体からなる板状のセラミックス基材としての基材2020を有している。
【0045】
基材2020は、円板形状を有している。基材2020は、一方の面が基板載置面2020Sとなっている。基材2020を形成するセラミックス焼結体の材料としては、上記した窒化アルミニウムの他、窒化珪素、サイアロン、炭化珪素、窒化ホウ素、アルミナ等を使用することも可能である。
【0046】
図5に示すように、基板SB(
図5において破線で示す)は、基板載置面2020S上に接して載置される。
【0047】
基板載置面2020Sの中心点Cを中心とする円の内部には、基板載置領域SRが設けられている。
【0048】
支持体としてのシャフト2011は、円筒状の中空シャフト部材である。シャフト2011は、例えば、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)または窒化ケイ素(Si3N4)等のセラミックス焼結体からなっている。
【0049】
シャフト2011には、軸方向の一方の端部においてフランジ部2011Fが設けられている。シャフト2011は、当該フランジ部2011Fが形成されている一端において、基材2020の主面である下面2021に取り付けられている。例えば、シャフト2011の基材2020への取付けは、基材2020の下面2021とフランジ部2011Fの表面とを固相接合することによって行われる。
【0050】
金属電極層としての電極2030は、基材2020内に埋設されている発熱抵抗体である。金属端子としての給電ロッド2040は、当該一端部において電極2030と電気的に接続している。また、給電ロッド2040は、他端部において、電源(図示せず)に接続されている。すなわち、電極2030には、給電ロッド2040を介して電源からの電力が供給される。電極2030は、この電力の供給により発熱する発熱体であり、それによって基材2020全体が加熱される。図示しないが、電極2030には、複数の給電ロッド2040が電気的に接続されている。
【0051】
電極2030は、基板載置面2020Sと垂直な方向から見て、基板載置領域SRに亘って延在するように埋設されている。また、電極2030は、例えば、基板載置面2020Sと垂直な方向から見てメッシュ形状を有している。電極2030は、例えば、モリブデン等の金属材料からなっている。
【0052】
給電ロッド2040は、シャフト2011の中空部分においてシャフト2011の軸方向に伸長し、かつ一端部が基材2020内まで伸長する柱状に形成されている。
【0053】
給電ロッド2040の材料としては、ニッケル(Ni)等を使用することができる。尚、給電ロッド2040の形状は、柱状のものであれば、例えば、多角柱や円錐台等の形状にすることもできる。