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特許7507025診断支援システム、診断支援方法、及び診断支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】診断支援システム、診断支援方法、及び診断支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/372 20210101AFI20240620BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240620BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
A61B5/372
A61B5/055 382
A61B5/055 390
A61B10/00 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020125485
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021716
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】308008801
【氏名又は名称】満倉 靖恵
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】満倉 靖恵
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170408(JP,A)
【文献】特表2018-511457(JP,A)
【文献】特開2020-062369(JP,A)
【文献】国際公開第2020/048593(WO,A1)
【文献】特許第6263308(JP,B1)
【文献】BABILONI, C., et al.,Resting state cortical electroencephalographic rhythms are related to gray matter volume in subjects with mild cognitive impairment and Alzheimer's disease,Human brain mapping,2013年06月,Vol.34, No.6,pp.1427-1446,<DOI: 10.1002/hbm.22005>, <Epub 2012 Feb 14>
【文献】BABILONI, C., et al.,Hippocampal volume and cortical sources of EEG alpha rhythms in mild cognitive impairment and Alzheimer disease,NeuroImage,2009年01月01日,Vol.44, No.1,pp.123-135,<DOI: 10.1016/j-neuroimage.2008.08.005>, <Epube 2008 Aug 16>
【文献】BABILONI, C., et al.,Occipital sources of resting-state alpha rhythms are related to local gray matter density in subjects with amnesic mild cognitive impairment and Alzheimer's disease,Neurobiology of aging,2015年02月,Vol.36, No.2,<DOI: 10.1016/j.neurobiolaging.2014.09.011>, <Epub 2014 Sep 21>, <Author Manuscript, NIH public Access>
【文献】MORETTI, D.V.,Increase of EEG Alpha3/Alpha2 Power Ratio Detects Inferior Parietal Lobule Atrophy in Mild Cognitive Impairment,Current Alzheimer Research,2018年03月14日,Vol.15, No.5,pp.443-451,<DOI: 10.2174/1567205014666171030105338>
【文献】満倉靖恵 ,脳波による脳内部情報の取得とその相関性~実社会で脳波診断は適用可能か~,BIO Clinica,2020年04月10日,Vol.35, No.4,pp.363-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の脳波を取得する脳波取得手段と、
人体の脳を構成する所定の組織の組織量の大きさを算出する組織量算出手段と、
前記脳波を入力とし、前記組織量の大きさに対応して付与された複数のラベルを出力とする訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記脳波から前記組織量を推定する推定モデルを構築する学習手段と、
患者の脳波及び前記推定モデルに基づいて、前記患者の前記組織量が前記複数のラベルのうちの何れのラベルに対応する大きさであるか推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする診断支援システム。
【請求項2】
前記組織量算出手段は、前記人体の脳を撮影した画像に基づいて、前記所定の組織の組織量を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記患者が罹患している疾病は、該疾病の進行に伴い前記組織量の大きさが段階的に変化する疾病であり、
前記推定手段は、前記推定した、前記患者の前記組織量が前記複数のラベルのうちの何れのラベルに対応する大きさであるかを、前記患者を診断する医師に対して提示する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の診断支援システム。
【請求項4】
前記所定の組織は、前記人体の脳を構成する灰白質の組織であり、
前記患者が罹患している疾病は、認知症である、
ことを特徴とする請求項に記載の診断支援システム。
【請求項5】
前記組織量は、所定の疾病の症状と相関性があり、
人体の脳を撮影した画像に基づいて、前記所定の疾病の症状と相関性がある他の指標値を算出する指標値算出手段をさらに備え
前記患者の脳波が取得できた場合には、前記推定手段が前記推定を行い、
前記患者の脳を撮影した画像が取得できた場合には、前記指標値算出手段が前記他の指標値を算出する、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の診断支援システム。
【請求項6】
人体の脳波を取得する脳波取得ステップと、
人体の脳を構成する所定の組織の組織量を算出する組織量算出ステップと、
前記脳波を入力とし、前記組織量の大きさに対応して付与された複数のラベルを出力とする訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記脳波から前記組織量を推定する推定モデルを構築する学習ステップと、
患者の脳波及び前記推定モデルに基づいて、前記患者の前記組織量が前記複数のラベルのうちの何れのラベルに対応する大きさであるか推定する推定ステップと、
を含むことを特徴とする診断支援方法。
【請求項7】
人体の脳波を取得する脳波取得機能と、
人体の脳を構成する所定の組織の組織量を算出する組織量算出機能と、
前記脳波を入力とし、前記組織量の大きさに対応して付与された複数のラベルを出力とする訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記脳波から前記組織量を推定する推定モデルを構築する学習機能と、
患者の脳波及び前記推定モデルに基づいて、前記患者の前記組織量が前記複数のラベルのうちの何れのラベルに対応する大きさであるか推定する推定機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする診断支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援システム、診断支援方法、及び診断支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療技術の進歩等に伴い高齢者が増加している。そのため、高齢者が罹患する可能性が高い認知症等の診断に関して、より一層の診断支援が望まれる。
このような認知症等の診断に関する技術の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示の技術では、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置により撮影した脳画像から、脳の特定部位の組織量を算出する。そして、この算出した組織量に基づいて、脳の萎縮を定量的に評価することで、認知症の診断を支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-237441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等に開示されているような、脳に関する診断を支援する技術については、未だ改善の余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものである。そして、本発明の課題は、脳に関する診断を、より適切に支援することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る診断支援システムは、
人体の脳波を取得する脳波取得手段と、
人体の脳を構成する所定の組織の組織量を算出する組織量算出手段と、
前記脳波及び前記組織量に基づいた訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記脳波から前記組織量を推定する推定モデルを構築する学習手段と、
患者の脳波及び前記推定モデルに基づいて、前記患者の前記組織量を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、脳に関する診断を、より適切に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る診断支援システムのシステム構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る脳波測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る脳波判定装置が実行する測定処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る推定装置が実行する推定モデル構築処理の流れを示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る推定装置が実行する推定処理の流れを示すフローチャートである。
図7】機械学習により構築される学習モデルの構造の一例を示す模式図である。
図8】認知症の被験者群、軽度認知障害の被験者群、及び健常者の被験者群のそれぞれに含まれる各被験者のFA値の平均値の一例を比較したグラフである。
図9】FA値の提示を実現するための推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。
【0010】
[システム構成]
図1は、本実施形態に係る診断支援システムSのシステム構成を示す図である。図1に示すように、診断支援システムSは、脳波測定装置10と、推定装置20とを含む。また、図1には、画像診断装置である脳画像撮影装置と、診断支援システムSを利用するユーザ(例えば、医師)が診断対象とする患者も図示する。
【0011】
推定装置20は、脳波測定装置10及び脳画像撮影装置のそれぞれと相互に通信可能に接続される。この通信は、任意の通信方式に準拠して行われてよく、その通信方式は特に限定されない。また、通信接続は、有線接続であっても、無線接続であってもよい。さらに、各装置の間での通信は、直接行われてもよいし、中継装置を含んだネットワークを介して行われてもよい。この場合、ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)や、インターネットや、携帯電話網といったネットワーク、或いはこれらを組み合わせたネットワークにより実現される。
【0012】
診断支援システムSは、医師による患者の診断を支援する。本実施形態では説明のための一例として、診断支援システムSが、脳に関する疾病のなかでも、特にアルツハイマー病に代表される認知症の診断を支援することを想定する。
一般的に、認知症の進行に伴い脳が萎縮し、脳の構造が変化することが知られている。例えば、視床や大脳基底核の灰白質が萎縮することが知られている。したがって、認知症の診断を行う医師に対して、灰白質の組織量を提示することにより、診断を支援することができる。
本発明者は、このような事情を踏まえた上で試験研究を重ねた結果、脳波と、脳を構成する所定の組織(ここでは、灰白質)の組織量に相関性があることを見出し、脳波に基づいて組織量を推定することが可能であると着想し、本発明を成すに至った。診断支援システムSは、このような本発明の実施形態の一例である。
【0013】
脳波測定装置10は、人体の頭部における脳波の電位の変動を測定することにより、人体の脳波に対応するデータ(以下、「脳波データ」と称する。)を生成する。脳波測定装置10は、少なくとも一対の電極を備えており、これら電極のそれぞれが、電気的に人体の所定の部位に接触するヘッドセット型の形状に構成されている。そして、脳波測定装置10は、これら電極のそれぞれで人体の脳波を測定すると共に、測定した脳波に対して所定の前処理を行うことにより、脳波データを生成する。また、脳波測定装置10は、生成した脳波データを、推定装置20に対して送信する。
【0014】
脳画像撮影装置は、磁気共鳴により人体の脳の画像を撮影する。脳画像撮影装置は、例えば、MRI装置により実現される。本実施形態では、説明の一例として、脳画像撮影装置は、人体の脳の画像をT1強調画像(T1WI:T1 Weighted Image)として撮影することを想定する。また、脳画像撮影装置は、撮影した脳の画像のデータ(以下、「脳画像データ」と称する。)を、推定装置20に対して送信する。なお、MRI装置の構成や機能については、当業者にとって広く知られているので、これ以上の説明を省略する。
【0015】
推定装置20は、患者の組織量を推定する。推定装置20は、例えば、パーソナルコンピュータやサーバ装置により実現される。
具体的に、推定装置20は、脳画像撮影装置から受信した脳画像データから、人体の脳を構成する所定の組織(ここでは、灰白質)の組織量を算出する。また、推定装置20は、脳波測定装置10から受信した脳波データと、算出した組織量とに基づいた訓練データを用いて機械学習を行うことにより、脳波から組織量を推定する推定モデルを構築する。
そして、推定装置20は、この構築した推定モデルと、患者の脳波とに基づいて、患者の組織量を推定する。
【0016】
このように、診断支援システムSにおける各装置が協働することにより、脳波と、脳を構成する所定の組織の組織量という相関性のある複数の情報に基づいて推定モデルを構築し、この推定モデルと患者の脳波を用いて、患者についての組織量を推定することができる。すなわち、患者の脳画像を用いなくとも、患者の脳波を用いることができれば、この患者の脳の構造を示す情報である組織量を推定することができる。そのため、仮に、患者の状態(例えば、患者の身体的状態や、認知症の進行状態)や、患者のおかれている環境(例えば、患者が通院する医療施設にMRIが設置されていない)等の事情によって、患者に対してMRI等を用いた脳画像の撮影を行うことが困難な場合であっても、組織量を推定することができる。そして、この推定した患者の組織量は、例えば、医師が認知症等の脳に関する診断をする際に有益な情報として活用できる。
従って、診断支援システムSによれば、脳に関する診断を、より適切に支援することができる。
【0017】
次に、このような処理を実現するための、脳波測定装置10及び推定装置20の構成や機能について、より詳細に説明をする。なお、以下では説明を明確とする趣旨で、被験者と患者とを区別して説明する。具体的には、診断支援システムSが推定モデルを構築するために脳波データや脳画像データの取得対象とする人物(図示を省略する)を「被験者」と称する。一方で、診断支援システムSを利用する医師が診断対象とする人物を「患者」と称する。
【0018】
[脳波測定装置の構成]
次に、脳波測定装置10の構成について、図2を参照して説明をする。図2は、脳波測定装置10の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、脳波測定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、通信部14と、記憶部15と、入力部16と、測定部17と、を備えている。これら各部は、信号線により接続されており、相互に信号を送受する。
【0019】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部15からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理(例えば、後述する測定処理)を実行する。
RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0020】
通信部14は、CPU11が、他の装置(例えば、推定装置20)との間で通信を行うための通信制御を行う。
記憶部15は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の半導体メモリで構成され、各種データを記憶する。
入力部16は、各種ボタン等で構成され、ユーザの指示操作に応じて各種情報を入力する。
【0021】
測定部17は、被験者や患者の頭部の電位の変動(すなわち、人体の特定の脳領域の脳波)を測定する。例えば、測定部17は、基準電極導出法によって、国際10-20法で定めるFp1の単極の脳波を測定する。この場合、測定部17の備える一対の電極の一端を、電位が0に近い点である被験者の耳朶に接触させて基準電極とする。また、他端を、被験者や患者の頭部のFp1に対応する部位に接触させて探査電極とする。そして、測定部17は、基準電極と探査電極の電位差の変動を、被験者や患者の脳波として、所定のサンプリング周波数(例えば、512[Hz])で経時的に脳波を測定する。
【0022】
ここで、上述したように脳波測定装置10はヘッドセット型の形状である。そして、測定部17が備えるこれら一対の電極は、それぞれ測定に適した位置(ここでは、被験者や患者が脳波測定装置10を装着した場合に、耳朶に接触する位置と、Fp1に対応する部位に接触する位置)に配置される。なお、頭に電極ネットを覆いかぶせるような一般的な形状の脳波計を用いる場合、被験者や患者に対して圧迫感を与えることから、被験者の脳波に、被験者や患者の緊張に起因するノイズが発生してしまう。これに対して、脳波測定装置10は、ヘッドセット型の形状であることから、このような圧迫感を与えることなく、被験者や患者の緊張を抑制した状態で測定することができる。そのため、脳波測定装置10によれば、被験者や患者の緊張に起因するノイズの発生を抑制して、精度よく測定をすることができる。
【0023】
脳波測定装置10では、これら各部が協働することにより、「測定処理」を行なう。ここで、測定処理は、被験者や患者の脳波を測定すると共に、測定した脳波に対して所定の前処理等を行う一連の処理である。
【0024】
測定処理が実行される場合、図2に示すように、CPU11において、測定制御部111と、前処理部112と、脳波データ送信部113と、が機能する。
以下で特に言及しない場合も含め、これら機能ブロック間では、処理を実現するために必要なデータを、適切なタイミングで適宜送受信する。
【0025】
測定制御部111は、入力部16が受け付けた被験者や患者や医師からの指示操作(又は、通信部14を介して受信した被験者や判定者や医師からの指示情報)に基づいて、測定部17による被験者や患者の脳波の測定を制御する。例えば、測定制御部111は、指示操作(又は、指示情報)に基づいて、測定部17による測定の開始や終了のタイミングを制御したり、測定におけるサンプリング周期等を制御したりする。そして、測定制御部111は、測定部17による測定により得られた被験者や患者の脳波を、前処理部112に対して出力する。
【0026】
ここで、測定制御部111による脳波の測定は、任意の場面で行われてよいが、本実施形態では、一例として、被験者や患者が安静閉眼時の状況で脳波の測定を行うことを想定する。ただし、これは好適な一例に過ぎず、他の場面において脳波の測定を行うようにしてもよい。また、測定する時間の長さについても任意であるが、例えば、100秒程度を測定する時間の長さとすることができる。ここで、脳波測定装置10は、上述のようにヘッドセット型であり圧迫感を与えないことから、安静閉眼時のような状況であっても、被験者や患者の緊張を抑制した状態で測定することができる。また、測定を100秒程度の短時間で終了することにより、脳画像撮影装置での撮影が困難な患者であったとしても、問題なく測定を行うことが可能となる。
【0027】
前処理部112は、測定制御部111から入力された脳波に対して前処理を行うことによって、脳波データを生成する。具体的には、前処理部112は、まず図示を省略したバンドパスフィルタを用いて、測定制御部111から入力された脳波から、所定の周波数帯(例えば、1~45[Hz])のみを抽出する。次に、前処理部112は、抽出された脳波に対して、所定時間単位(例えば、5秒)ごとに分割をする。前処理部112は、このように、バンドパスフィルタを用いたノイズ成分の除去と、所定時間単位での分割とを前処理として行うことにより脳波データを生成する。そして、前処理部112は、生成した脳波データを脳波データ送信部113に対して出力する。
【0028】
脳波データ送信部113は、前処理部112から入力された脳波データを、推定装置20に対して送信する。なお、送信は、測定制御部111による脳波データの生成の都度リアルタイムに行われてもよいし、生成された脳波データを記憶部15に記憶しておき、測定終了後に記憶部15に記憶されている脳波データをまとめて一度に送信するようにしてもよい。
【0029】
[推定装置の構成]
次に、推定装置20の構成について、図3を参照して説明をする。図3は、推定装置20の構成の一例を示すブロック図である。図3に示すように、推定装置20は、CPU21と、ROM22と、RAM23と、通信部24と、記憶部25と、入力部26と、出力部27と、ドライブ28と、を備えている。これら各部は、信号線により接続されており、相互に信号を送受する。
【0030】
CPU21は、ROM22に記録されているプログラム、又は、記憶部25からRAM23にロードされたプログラムに従って各種の処理(例えば、後述する推定モデル構築処理や、推定処理)を実行する。
RAM23には、CPU21が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0031】
通信部24は、CPU21が、他の装置(例えば、脳波測定装置10や脳画像撮影装置)との間で通信を行うための通信制御を行う。
記憶部25は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の半導体メモリで構成され、各種データを記憶する。
【0032】
入力部26は、各種ボタン及びタッチパネル、又はマウス及びキーボード等の外部入力装置で構成され、ユーザの指示操作に応じて各種情報を入力する。
出力部27は、ディスプレイやスピーカ等で構成され、画像や音声を出力する。
【0033】
ドライブ28には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア(図示を省略する。)が適宜装着される。ドライブ28よってリムーバブルメディアから読み出されたプログラムや各種データは、必要に応じて記憶部25にインストールされる。
【0034】
推定装置20では、これら各部が協働することにより、「推定モデル構築処理」、及び「推定処理」を行なう。
ここで、推定モデル構築処理は、推定装置20が、被験者の脳波及び被験者の組織量に基づいた訓練データを用いて機械学習を行うことにより、脳波から組織量を推定する推定モデルを構築する一連の処理である。
また、推定処理は、患者の脳波及び推定モデルに基づいて、患者の組織量を推定する一連の処理である。
すなわち、本実施形態において、推定装置20は、まず推定モデル構築処理において推定モデルを構築すると共に、その構築した推定モデルを推定処理において利用することにより患者の組織量を推定し、医者の診断を支援する。
【0035】
これら推定モデル構築処理や推定処理が実行される場合、図3に示すように、CPU21において、脳波取得部211と、脳画像データ取得部212と、特徴量抽出部213と、組織量算出部214と、学習部215と、推定部216と、が機能する。
また、記憶部25の一領域には、脳波データ記憶部251と、脳画像データ記憶部252と、推定モデル記憶部253と、が設けられる。
以下で特に言及しない場合も含め、これら機能ブロック間では、処理を実現するために必要なデータを、適切なタイミングで適宜送受信する。
【0036】
脳波取得部211は、脳波測定装置10から送信された被験者や患者の脳波データを、受信することにより取得する。そして、脳波取得部211は、取得した脳波データを脳波データ記憶部251に記憶させる。すなわち、脳波データ記憶部251は、脳波データを記憶する記憶部として機能する。
【0037】
脳画像データ取得部212は、脳画像撮影装置から送信された被験者の脳画像データを、受信することにより取得する。そして、脳画像データ取得部212は、取得した脳画像データを脳波データ記憶部251に記憶させる。すなわち、脳波データ記憶部251は、脳画像データを記憶する記憶部として機能する。
【0038】
なお、脳波測定装置10や脳画像撮影装置は、脳波データや脳画像データをリムーバブルメディアに格納するようにしてもよい。そして、脳波取得部211や脳画像データ取得部212は、脳波データや脳画像データを通信により取得するのではなく、ドライブ28に挿入された、このリムーバブルメディアから取得するようにしてもよい。
【0039】
特徴量抽出部213は、脳波データ記憶部251に記憶されている脳波データから、特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部213は、この抽出した特徴量を学習部215に対して出力する。この抽出した特徴量は、学習部215が推定モデルを構築するための訓練データの一部として利用される。
【0040】
特徴量抽出部213による特徴量の抽出は、任意の手法から適宜選択することができる。ここで、脳波データは、上述したように脳波測定装置10の前処理部112により、所定時間単位(例えば、5秒)ごとに分割されている。そこで、特徴量抽出部213は、この分割されている脳波データそれぞれについて、例えば、標準偏差を求め、その値を特徴量として抽出する。他にも、特徴量抽出部213は、例えば、標準偏差に代えて、平均絶対偏差、中央値絶対偏差、L1ノルム、L2ノルム、及びMaxノルム等の何れかを求め、その値を特徴量として抽出するようにしてもよい。
【0041】
他にも、特徴量抽出部213は、例えば、次式(1)として下記に示す、既存の自己回帰モデルを用いて特徴量を抽出するようにしてもよい。
【0042】
【数1】
ただし、式(1)において、xは特徴量であり、s及びjは時間であり、Mは次数であいr,αは重みを示すパラメータ係数であり、εは残差である。
【0043】
この場合に、パラメータ係数αと、εを算出するための分散σとは、最尤推定法によって推定される。特徴量抽出部213は、例えば、最尤推定法における近似方法として、次式(2)として下記に示すユール-ウォーカー方程式(Yule-Walker equation)を用い、時系列データにダミーの系列を使用することで近似させてもよい。
【0044】
【数2】
ただし、式(2)において、係数ベクトルC(0)~C(M)にて、長さ・最大値・最小値・平均・分散・歪度等の指標を算出する。
【0045】
組織量算出部214は、脳画像撮影装置から受信した脳画像データから、人体の脳を構成する所定の組織(ここでは、灰白質)の組織量を算出する。このような組織料の算出は、既存の手法で実現することが可能である。例えば、組織量算出部214は、VBM(Voxel based morphometry)により、脳画像データから、灰白質の組織量を算出する。この場合、例えば、VBMを行なう機能をソフトウェアに実装したSPM(Statistical Parametric Mapping)等を用いるようにしてもよい。また、組織量算出部214は、複数の被験者の脳波データに基づいて、複数の被験者それぞれの灰白質の組織量を算出すると、これら複数の被験者それぞれの灰白質の組織量を正規化する。例えば、平均「100」で、標準偏差「15」という条件で正規化する。
【0046】
そして、組織量算出部214は、正規化した灰白質の組織量の大きさに応じて複数のラベルのうちの何れかのラベルを被験者に付与する。例えば、正規化した灰白質の組織量が「70以下」であれば第1のラベル、「70以上80未満」であれば第2のラベル、「80以上90未満」であれば第3のラベル、「90以上100未満」であれば第4のラベル、「100以上」であれば第5のラベルというような複数のラベルのうちの何れかを付与する。また、組織量算出部214は、このように正規化した灰白質の組織量に対応した複数のラベルを学習部215に対して出力する。この複数のラベルは、学習部215が推定モデルを構築するための訓練データの一部として利用される。
【0047】
学習部215は、特徴量抽出部213が抽出した被験者の脳波の特徴量と、組織量算出部214が被験者の灰白質の組織量に基づいて付与したラベルとを訓練データとして用いて機械学習を行うことにより、脳波データから灰白質の組織量を推定する推定モデルを構築する。なお、構築とは、新たに推定モデルを作成することのみならず、既存の推定モデルを新たな訓練データで更新することも含む。
【0048】
機械学習の方法は、特に限定されないが、例えば、複数の決定木を融合させたアンサンブル学習であるランダムフォレストを用いることができる。この場合、複数の被験者それぞれについての脳波の特徴量と、対応するラベルとを組として訓練データを作成する。ランダムフォレストにより、脳波の特徴量に基づいた分類を行うことで、脳波データから灰白質の組織量を推定する推定モデルを構築する。この場合に、パラメータとしては、例えば、決定木の数を「300」とし、決定木の深さを「300」とする。
【0049】
学習部215は、このようにして構築した推定モデルを、推定モデル記憶部253に記憶させる。すなわち、推定モデル記憶部253は、推定モデルを記憶する記憶部として機能する。
【0050】
推定部216は、特徴量抽出部213が抽出した患者の脳波の特徴量と、学習部215が構築した推定モデルとに基づいて、患者の灰白質の組織量を推定する。ここで、学習部215が構築した推定モデルは、脳波の特徴量に基づいた分類を行うことで、脳波データから灰白質の組織量を推定する推定モデルである。そのため、推定部216は、患者の脳波の特徴量を、推定モデルに入力データとして入力する。そして、推定部216は、推定モデルからの出力を、患者の灰白質の組織量の推定結果として医師に対して提示する。この提示は、例えば、出力部27に含まれるディスプレイへの表示や、出力部27に含まれるスピーカからの音声出力や、通信部24を介した印刷装置(図示を省略する。)からの紙媒体への印刷や、通信部24を介した医師が利用する端末(図示を省略する。)への送信等であってよい。医師は、この提示された推定結果を、認知症等の診断をする際に有益な情報として活用することができる。したがって、本実施形態によれば、診断を、より適切に支援することが可能となる。
【0051】
また、組織量算出部214は、上述したように灰白質の組織量の大きさに応じて複数のラベルを付与している。そのため、推定モデルの出力(すなわち、推定部216の提示する推定結果)は、患者の灰白質の組織量が、この複数のラベルのうちの何れのラベルに応じた組織量の大きさであることを示すものとなる。すなわち、本実施形態によれば、複数のラベルを利用したことにより、組織量の大きさを段階的に推定することができるので、組織量の萎縮等がどの程度進行しているのかという、その度合いも考慮した診断も、より適切に支援することが可能となる。
【0052】
[測定処理]
次に、図4を参照して、脳波測定装置10が実行する測定処理の流れについて説明する。図4は、脳波測定装置10が実行する測定処理の流れを説明するフローチャートである。測定処理は、被験者や患者や医師からの、測定開始の指示操作に伴い実行される。
【0053】
ステップS11において、測定制御部111は、測定部17による脳波の測定を制御することにより、測定部17による脳波の測定を開始する。そして、測定制御部111は、測定部17による測定により得られた被験者の脳波を前処理部112に対して出力する。
【0054】
ステップS12において、前処理部112は、測定制御部111から入力された脳波に対して前処理を行うことによって、脳波データを生成する。そして、前処理部112は、生成した脳波データを脳波データ送信部113に対して出力する。
【0055】
ステップS13において、脳波データ送信部113は、前処理部112から入力された脳波データを、推定装置20に対して送信する。なお、図中では、測定制御部111による脳波データの生成と共にリアルタイムに送信を行うことを想定しているが、生成された脳波データを記憶部15に記憶しておき、測定終了後に記憶部15に記憶されている脳波データをまとめて一度に送信するようにしてもよい点については上述した通りである。
【0056】
ステップS14において、測定制御部111は、測定部17による脳波の測定を終了するか否かを判定する。例えば、測定制御部111は、測定の開始から所定時間が経過した場合や、被験者や患者や医師からの測定終了指示操作があった場合に、脳波の測定を終了すると判定する。脳波の測定を終了する場合は、ステップS14においてYesと判定される。これにより、本処理は終了する。一方で、脳波の測定を終了しない場合は、ステップS14においてNoと判定され、処理はステップS11から再度繰り返される。
【0057】
以上説明した測定処理により、脳波測定装置10は、被験者や患者の脳波を測定し、測定した脳波に基づいて生成した脳波データを、推定装置20に対して送信することができる。
【0058】
[推定モデル構築処理]
次に、図5参照して、推定装置20が実行する推定モデル構築処理の流れについて説明する。図5は、推定装置20が実行する推定モデル構築処理の流れを説明するフローチャートである。推定モデル構築処理は、医師や診断支援システムSの管理者からの、水滴モデル構築処理開始の指示操作に伴い実行される。なお、処理の前提として、判定処理により生成された脳波データは、脳波取得部211により受信され、脳波データ記憶部251に記憶されているものとする。また、同様に、脳画像撮影装置により撮影された脳画像データは、脳画像データ取得部212により受信され、脳画像データ記憶部252に記憶されているものとする。
【0059】
ステップS21において、特徴量抽出部213は、脳波データ記憶部251に記憶されている被験者の脳波データから特徴量を抽出する。
ステップS22において、組織量算出部214は、脳画像データ記憶部252に記憶されている被験者の脳画像データ灰白質の組織量を算出し、算出した灰白質の組織量の大きさに応じたラベルを被験者に付与する。
【0060】
ステップS23において、学習部215は、複数の被験者それぞれについての、ステップS21にて抽出された特徴量と、ステップS22にて付与されたラベルとの組を訓練データとして、推定モデルを構築するための機械学習を実行する。
【0061】
ステップS24において、学習部215は、機械学習を終了する所定の条件が満たされたか否かを判定する。なお、この機械学習を終了する所定の条件は、任意に設定することができるが、例えば、推定モデルの出力とラベルの誤差が所定の基準以下となることや、学習の繰り返し回数が所定回数に達したことや、機械学習を開始してから所定時間が経過したこと等を所定の条件とすることができる。機械学習を終了する所定の条件が満たされた場合は、ステップS24においてYesと判定され、処理はステップS25に進む。一方で、機械学習を終了する所定の条件が満たされていない場合は、ステップS24においてNoと判定され、処理はステップS23に戻り、機械学習を再度繰り返す。
【0062】
ステップS25において、学習部215は、ステップS23における機械学習の結果に基づいて、推定モデルを構築(上述したように、推定モデルの更新を含む)する。そして、学習部215は、構築した推定モデルを、推定モデル記憶部253に記憶させる。これにより、本処理は終了する。
【0063】
以上説明した推定モデル構築処理により、推定装置20は、推定処理において用いられる推定モデルを構築することができる。
【0064】
[推定処理]
次に、図6を参照して、推定装置20が実行する推定処理の流れについて説明する。図6は、推定装置20が実行する推定処理の流れを説明するフローチャートである。推定処理は、医師からの、推定開始指示操作に伴い実行される。なお、処理の前提として、推定モデル構築処理において、構築された推定モデルは、推定モデル記憶部253に記憶されているものとする。
【0065】
ステップS31において、特徴量抽出部213は、脳波データ記憶部251に記憶されている患者の脳波データから特徴量を抽出する。
【0066】
ステップS32において、学習部215は、ステップS31にて抽出された患者の脳波データの特徴量と、推定モデル記憶部253に記憶されている推定モデルとに基づいて、患者の灰白質の組織量の大きさを推定する。
【0067】
ステップS33において、推定部216は、ステップS32における学習部215の推定結果を医師に対して提示する。これにより、本処理は終了する。
【0068】
以上説明した各処理により、脳波と、脳を構成する所定の組織の組織量という相関性のある複数の情報に基づいて推定モデルを構築し、この推定モデルと患者の脳波を用いて、患者についての組織量を推定することができる。すなわち、患者の脳画像を用いなくとも、患者の脳波を用いることができれば、この患者の脳の構造を示す情報である組織量を推定することができる。そのため、例えば、患者の状態や、患者のおかれている環境等の事情によって、患者に対してMRI等を用いた脳画像の撮影を行うことが困難な場合であっても、組織量を推定することができる。そして、この推定した患者の組織量は、例えば、医師が認知症等の脳に関する診断をする際に有益な情報として活用できる。
従って、診断支援システムSによれば、脳に関する診断を、より適切に支援することができる。
【0069】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他の様々な実施形態を取ることが可能である共に、省略及び置換等種々の変形を行うことができる。この場合に、これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
一例として、以上説明した本発明の実施形態を、以下のようにして変形してもよい。
【0070】
<第1の変形例>
上述した実施形態では、学習部215は、機械学習としてランダムフォレストを行うことにより推定モデルを作成していた。これに限らず、他の機械学習の手法を用いて推定モデルを作成するようにしてもよい。
【0071】
例えば、各データ点との距離を最大化させる機械学習の手法であり、未学習データに対して高い識別性能を持つSVM(Support Vector Machine)を用いて推定モデルを作成するようにしてもよい。
【0072】
他にも、例えば、分類に必要な特徴を自動で学習する機械学習の手法である、CNN(Convolutional Neural Network)を用いて推定モデルを作成するようにしてもよい。この場合、CNNは、特徴を自動で学習することができるため、特徴量抽出部213における被験者の脳波データから特徴量の抽出を行うことなく、被験者の脳波データを直接CNNの入力とするようにしてもよい。また、CNNの構造についても任意に設定することができる。図7は、機械学習により構築される学習モデルの構造の一例を示す模式図である。図7に示すように、一例として、CNNにおいて、畳み込み層とプーリング層の組を3組設けると共に、3層の全結合層を設ける。
【0073】
そして、脳波データを入力した場合に、複数のラベルに対応する出力がなされるように構成する。具体的には、訓練データに含まれる被験者の脳波データをCNNに対して入力データとして与え、CNNの出力が訓練データに含まれる被験者に付与されたラベルと同じとなるように、各層の重み付け値を変更しながら学習を繰り返す。例えば、フォワードプロパゲーション(Forward-propagation)と呼ばれる手法で出力した後に、バックプロパゲーション(Back-propagation、誤差逆伝搬法とも呼ばれる。)という手法により各層の出力の誤差を小さくするように重み付け値を調整することを繰り返す。学習部215は、このようにして、訓練データの特徴を学習し、入力から結果を推定するための推定モデルを帰納的に構築することができる。
【0074】
なお、この場合、学習部215と同様に、推定部216も特徴量抽出部213における脳波データから特徴量の抽出を行うことなく、患者の脳波データを直接CNNの入力とする。したがって、このようにCNNを用いる場合には、推定装置20から特徴量抽出部213を省略するようにしてもよい。
【0075】
<第2の変形例>
他にも、上述した実施形態では、推定装置20は、患者の脳波の特徴量を、推定モデルに入力データとして入力し、この推定モデルからの出力を、患者の灰白質の組織量の推定結果として、医師に対して提示していた。そして、医師が、この推定された患者の組織量を認知症等の脳に関する診断をする際に有益な情報として活用することを想定していた。これに限らず、他の情報を、医師に対して提示するようにしてもよい。例えば、脳画像データに基づいて、上述の実施形態と同じ疾病である認知症の症状(すなわち、認知能力)と相関性がある指標値を算出し、この指標値を、医師に対して提示するようにしてもよい。
【0076】
例えば、指標値として、FA値(Fractional Anisotropy Value)を算出して、医師に対して提示するようにしてもよい。ここで、上述したように、一般的に、認知症の進行に伴い脳が萎縮し、脳の構造が変化することが知られている。本発明者は、このような事情を踏まえた上で試験研究を重ねた結果、さらに、FA値と、認知症の症状(すなわち、認知能力)に相関性があることを見出した。図8は、認知症(AD:Alzheimer’s Disease)の被験者群、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の被験者群、及び健常者(Normal)の被験者群のそれぞれに含まれる被験者のFA値の平均値の一例を比較したグラフである。前提として、本例では、各被験者に対して一般的な認知症スクリーニング検査(MMSE:Mini Mental State Examination)を行った。そして、検査結果が、「23点以下」の被験者を認知症の被験者群に分類し、「24点以上27点以下」の被験者を軽度認知障害の被験者群に分類し、「28点以上」の被験者を健常者の被験者群に分類した。そして、各被験者群のそれぞれに含まれる各被験者のFA値の平均値の一例を比較した。
【0077】
その結果、グラフに示すように、健常者の被験者群と、軽度認知障害の被験者群には、有意水準5%を超える有意差が存在した。また、軽度認知障害の被験者群と、軽度認知障害群の被験者にも、有意水準5%を超える有意差が存在した。このことから、FA値は、認知症の症状(すなわち、認知能力)と相関性がある指標値であることが分かる。そのため、FA値は、医師が認知症等の脳に関する診断をする際に有益な情報として活用できる。そこで、本変形例では、指標値としてFA値を算出し、このFA値を医師に対して提示する。図9は、本変形例において、FA値の提示を実現するための推定装置20aの構成の一例を示すブロック図である。図9に示すように、推定装置20aの基本的な構成は、上述した実施形態の推定装置20と共通である。ただし、推定装置20aには、指標算出部217が追加されている点で、推定装置20と相違する。なお、共通する点については、重複した説明を省略する。
【0078】
指標算出部217は、脳画像データ取得部212がFA値を算出するために患者の脳画像データを取得し、脳画像データ記憶部252にこの患者の脳画像データが記憶された場合に、指標値(ここでは、FA値)を算出し、この指標値を、医師に対して提示する。ここで、FA値は、異等方性拡散性の大きさに対応するパラメータ値である。FA値は、MRI装置により撮影された脳画像データから、拡散テンソル画像(DTI:Diffusion Tensor Imaging)を生成する場合等に、既存の手法によって算出される。指標算出部217は、このような拡散テンソル画像を生成する場合と同様の手法により、患者のFA値を算出する。そして、指標算出部217は、この算出した患者のFA値を、認知症の症状(すなわち、認知能力)と相関性がある指標値として医師に対して提示する。この提示は、例えば、出力部27に含まれるディスプレイへの表示や、出力部27に含まれるスピーカからの音声出力や、通信部24を介した印刷装置(図示を省略する。)からの紙媒体への印刷や、通信部24を介した医師が利用する端末(図示を省略する。)への送信等であってよい。
【0079】
医師は、この提示された、患者の指標値(ここでは、FA値)を、認知症等の診断をする際に有益な情報として活用することができる。したがって、本変形例によれば、診断を、より適切に支援することが可能となる。本変形例は、例えば、上述した実施形態により、患者の灰白質の組織量の推定結果を医師に対して提示していた後に、さらに、この患者の脳画像データが取得できた場合に好適である。他にも、例えば、或る患者については、脳画像データのみが取得できた場合に好適である。
【0080】
<第3の変形例>
他にも、上述した実施形態では、脳波測定装置10は、Fp1の単極の脳波を測定していたが、複数の極の脳波を測定するようにしてもよい。そして、複数の各極の脳波に基づいて、上述した処理を一連の処理を行うようにしてもよい。
【0081】
<第4の変形例>
他にも、上述した実施形態における診断支援システムSの装置構成は一例に過ぎず、適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施形態では、脳波測定装置10と、推定装置20とが別体の装置として実現されていたが、脳波測定装置10と、推定装置20とが一体の装置として実現されてもよい。他にも、例えば、推定装置20における機械学習に関する処理には、一般的に多くの演算処理能力を要する。そこで、例えば、推定装置20を実現する装置に、GPU(Graphics Processing Units)を搭載し、GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)と呼ばれる技術により、GPUを機械学習に伴う演算処理に用いて高速処理を行うようにしてもよい。他にも、装置を複数台用いてコンピュータ・クラスターを構築し、このコンピュータ・クラスターに含まれる複数の装置にて並列処理を行うようにしてもよい。
【0082】
[構成例]
以上のように、本実施形態に係る診断支援システムSは、脳波取得部211と、組織量算出部214と、学習部215と、推定部216と、を備える。
脳波取得部211は、人体の脳波を取得する。
組織量算出部214は、人体の脳を構成する所定の組織の組織量を算出する。
学習部215は、脳波及び組織量に基づいた訓練データを用いて機械学習を行うことにより、脳波から組織量を推定する推定モデルを構築する。
推定部216は、患者の脳波及び推定モデルに基づいて、患者の組織量を推定する。
このように、診断支援システムSは、脳波と、脳を構成する所定の組織の組織量という相関性のある複数の情報に基づいて推定モデルを構築し、この推定モデルと患者の脳波を用いて、患者についての組織量を推定することができる。すなわち、患者の脳画像を用いなくとも、患者の脳波を用いることができれば、この患者の脳の構造を示す情報である組織量を推定することができる。そのため、例えば、患者の状態や、患者のおかれている環境等の事情によって、患者に対してMRI等を用いた脳画像の撮影を行うことが困難な場合であっても、組織量を推定することができる。そして、この推定した患者の組織量は、例えば、医師が認知症等の脳に関する診断をする際に有益な情報として活用できる。
従って、診断支援システムSによれば、脳に関する診断を、より適切に支援することができる。
【0083】
組織量算出部214は、人体の脳を撮影した画像に基づいて、所定の組織の組織量を算出する。
これにより、MRI等により撮影した脳画像から得られる情報である組織量を、患者の脳波から推定することができる。すなわち、患者の脳波から、MRI等により撮影した脳画像から得られる情報と同様の情報を推定することができる。
【0084】
所定の組織は、人体の脳を構成する灰白質の組織である。
これにより、認知症の進行に伴い萎縮すると考えられる灰白質の組織量を推定することができる。したがって、医師による認知症の診断を、より適切に支援することができる。
【0085】
学習部215は、所定の組織の組織量の大きさに対応して付与された複数のラベルを出力とした教師あり学習により推定モデルを構築し、
推定部216は、患者の組織量が複数のラベルのうちの何れのラベルに対応する大きさであるかを推定する。
これにより、組織量の大きさを段階的に推定することができるので、組織量の萎縮等がどの程度進行しているのかという、その度合いも考慮した診断も支援することが可能となる。
【0086】
診断支援システムSは、指標算出部217をさらに備える。
組織量は、所定の疾病の症状と相関性がある。
指標算出部217は、人体の脳を撮影した画像に基づいて、所定の疾病の症状と相関性がある他の指標値を算出する。
これにより、或る1つの疾病(例えば、認知症)に関連性がある情報として、組織量に加えて、他の指標値(例えば、FA値)を算出することができる。したがって、医師による診断を、より適切に支援することができる。
【0087】
[ハードウェアやソフトウェアによる機能の実現]
上述した実施形態による一連の処理を実行させる機能は、ハードウェアにより実現することもできるし、ソフトウェアにより実現することもできるし、これらの組み合わせにより実現することもできる。換言すると、上述した一連の処理を実行する機能が、診断支援システムSの何れかにおいて実現されていれば足り、この機能をどのような態様で実現するのかについては、特に限定されない。
【0088】
例えば、上述した一連の処理を実行する機能を、演算処理を実行するプロセッサによって実現する場合、この演算処理を実行するプロセッサは、シングルプロセッサ、マルチプロセッサ及びマルチコアプロセッサ等の各種処理装置単体によって構成されるものの他、これら各種処理装置と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の処理回路とが組み合わせられたものを含む。
【0089】
また、例えば、上述した一連の処理を実行する機能を、ソフトウェアにより実現する場合、そのソフトウェアを構成するプログラムは、ネットワーク又は記録媒体を介してコンピュータにインストールされる。この場合、コンピュータは、専用のハードウェアが組み込まれているコンピュータであってもよいし、プログラムをインストールすることで所定の機能を実行することが可能な汎用のコンピュータ(例えば、汎用のパーソナルコンピュータ等の電子機器一般)であってもよい。また、プログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理のみを含んでいてもよいが、並列的或いは個別に実行される処理を含んでいてもよい。また、プログラムを記述するステップは、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、任意の順番に実行されてよい。
【0090】
このようなプログラムを記録した記録媒体は、コンピュータ本体とは別に配布されることによりユーザに提供されてもよく、コンピュータ本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供されてもよい。この場合、コンピュータ本体とは別に配布される記憶媒体は、磁気ディスク(フロッピディスクを含む)、光ディスク、又は光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、或いはBlu-ray(登録商標) Disc(ブルーレイディスク)等により構成される。光磁気ディスクは、例えば、MD(Mini Disc)等により構成される。これら記憶媒体は、例えば、図3のドライブ28に装着されて、コンピュータ本体に組み込まれる。また、コンピュータ本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される記録媒体は、例えば、プログラムが記録されている図2のROM12、図3のROM22、図2の記憶部15、或いは図3の記憶部25に含まれるハードディスク等により構成される。
【符号の説明】
【0091】
10 脳波測定装置、20 推定装置、11,21 CPU、12,22 ROM、13,23 RAM、14,24 通信部、15,25 記憶部、16,26 入力部、17 測定部、27 出力部、28 ドライブ、111 測定制御部、112 前処理部、113 脳波データ送信部、211 脳波取得部、212 脳画像データ取得部、213 特徴量抽出部、214 組織量算出部、215 学習部、216 推定部、217 指標値算出部、251 脳波データ記憶部、252 脳画像データ記憶部、253 推定モデル記憶部、S 診断支援システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9