(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】鉄骨有孔梁の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/08 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
E04C3/08
(21)【出願番号】P 2020125710
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田島 暢之
(72)【発明者】
【氏名】牛渡 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】岡村 祥子
(72)【発明者】
【氏名】田仲 秀典
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-020097(JP,A)
【文献】特開2014-020162(JP,A)
【文献】特開2015-004249(JP,A)
【文献】特開2007-154493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00 - 3/46
E04B 1/62 - 1/99
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の貫通孔が形成されたウェブと、前記ウェブの上側の上フランジと、前記ウェブの下側の下フランジと、を有する鉄骨梁と、
前記貫通孔の上側で、前記ウェブと前記上フランジとに接合された上補強プレートと、
前記貫通孔の下側で、前記ウェブと前記下フランジとに接合された下補強プレートと、
前記貫通孔の左右両側で、矩形状の前記貫通孔の辺に沿って上下方向に延びている一対の縦スチフナと、
を備え
、
前記上補強プレート、前記下補強プレート、及び一対の前記縦スチフナは、前記ウェブの同じ面に設けられる、
鉄骨有孔梁の補強構造。
【請求項2】
前記縦スチフナは、前記ウェブ、前記上フランジ、前記下フランジ、前記上補強プレート、及び前記下補強プレートに接合されている、
請求項1に記載の鉄骨有孔梁の補強構造。
【請求項3】
前記貫通孔内に配置されるとともに前記貫通孔の角部に沿って屈曲され、前記角部に接合される屈曲部を有する屈曲プレートを備える、
請求項1又は請求項2に記載の鉄骨有孔梁の補強構造。
【請求項4】
前記ウェブ、前記上フランジ、及び前記上補強プレートによって形成されている開口、及び前記ウェブ、前記下フランジ、及び前記下補強プレートによって形成されている他の開口は、前記縦スチフナによって塞がれている、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の鉄骨有孔梁の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨有孔梁の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェブに貫通孔が形成された鉄骨有孔梁の補強構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された補強構造では、例えば、貫通孔の上下に補強プレートがそれぞれ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ウェブに矩形状の貫通孔が形成された鉄骨梁を特許文献1に開示された補強構造によって補強する場合、補強効率が低下する可能性があるため、この点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、矩形状の貫通孔が形成されたウェブの座屈等を抑制し、鉄骨梁の耐力を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造は、矩形状の貫通孔が形成されたウェブと、前記ウェブの上側の上フランジと、前記ウェブの下側の下フランジと、を有する鉄骨梁と、前記貫通孔の上側で、前記ウェブと前記上フランジとに接合された上補強プレートと、前記貫通孔の下側で、前記ウェブと前記下フランジとに接合された下補強プレートと、前記貫通孔の左右両側で、矩形状の前記貫通孔の辺に沿って上下方向に延びている一対の縦スチフナと、を備える。
【0007】
第1態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、鉄骨梁は、矩形状の貫通孔が形成されたウェブと、ウェブの上側の上フランジと、ウェブの下側の下フランジと、を有する。また、上補強プレートは、貫通孔の上側で、ウェブと上フランジとに接合される。一方、下補強プレートは、貫通孔の下側で、ウェブと下フランジとに接合される。さらに、一対の縦スチフナは、貫通孔の左右両側で、矩形状の貫通孔の辺に沿って上下方向に延びている。この一対の縦スチフナによって、貫通孔の左右両側のウェブが補強される。
【0008】
ここで、鉄骨梁のウェブに矩形状の貫通孔を形成した場合、貫通孔の左右両側において、ウェブに座屈等が発生し易くなる。
【0009】
これに対して本発明では、前述したように、一対の縦スチフナによって貫通孔の左右両側のウェブが補強される。これにより、貫通孔の左右両側におけるウェブの座屈等が抑制される。したがって、ウェブに矩形状の貫通孔が形成された鉄骨梁を効率的に補強することができる。
【0010】
第2態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造は、第1態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造において、前記縦スチフナは、前記ウェブ、前記上フランジ、前記下フランジ、前記上補強プレート、及び前記下補強プレートに接合されている。
【0011】
第2態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、縦スチフナは、ウェブ、上フランジ、下フランジ、上補強プレート、及び下補強プレートに接合される。これにより、地震時に、貫通孔の左右両側のウェブに作用するせん断力が、縦スチフナを介して上フランジ、下フランジ、上補強プレート、及び下補強プレートに伝達される。したがって、貫通孔の左右両側におけるウェブの座屈等がさらに抑制される。
【0012】
また、縦スチフナと上補強プレート及び下補強プレートとを接合することにより、縦スチフナ、上補強プレート、及び下補強プレートの座屈等も抑制される。
【0013】
第3態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造は、第1態様又は第2態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造において、前記貫通孔内に配置されるとともに前記貫通孔の角部に沿って屈曲され、前記角部に接合される屈曲部を有する屈曲プレートを備える。
【0014】
第3態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、屈曲プレートは、貫通孔内に配置されるとともに貫通孔の角部に沿って屈曲された屈曲部を有する。この屈曲部を角部に接合することにより、鉄骨梁のせん断耐力および曲げ耐力を向上させる。
【0015】
第4態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造は、第1態様~第3態様の何れか1つに係る鉄骨有孔梁の補強構造において、前記ウェブ、前記上フランジ、及び前記上補強プレートによって形成されている開口、及び前記ウェブ、前記下フランジ、及び前記下補強プレートによって形成されている他の開口は、前記縦スチフナによって塞がれている。
【0016】
第4態様に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、ウェブ、上フランジ、及び上補強プレートによって形成されている開口は、縦スチフナによって塞がれている。これにより、例えば、火災時に開口内に火が入り、上補強プレートの内面が直接火に晒されることが抑制される。
【0017】
また、縦スチフナによって開口を塞いだ状態で、縦スチフナを耐火被覆することにより、火災時に開口内に火が入ることがより確実に抑制される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る鉄骨有孔梁の補強構造によれば、矩形状の貫通孔が形成された鉄骨梁のせん断耐力および曲げ耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造が適用された鉄骨梁を示す斜視図である。
【
図4】第一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の変形例が適用された鉄骨梁を示す立面図である。
【
図5】実施例に係る解析モデルを示す斜視図である。
【
図6】実施例、及び比較例1,2に係る解析モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図7】実施例、変形例、比較例3に係る解析モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図8】第二実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造が適用された鉄骨梁を示す立面図である。
【
図10】第一実施形態、及び第二実施形態に係る解析モデルの解析結果を示すグラフである。
【
図11】第二実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の変形例が適用された鉄骨梁を示す立面図である。
【
図13】(A)及び(B)は、第一実施形態における下補強プレートの変形例を示す
図3に対応する断面図である。
【
図14】第一実施形態における貫通孔の変形例を示す
図2に対応する立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0021】
(鉄骨梁)
図1には、本実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造が適用された鉄骨梁10が示されている。なお、各図に適宜示される矢印Xは、鉄骨梁10の材軸方向(長手方向)を示し、矢印Yは、鉄骨梁10の幅方向を示し、矢印Zは、鉄骨梁10の上下方向(梁成方向)を示している。
【0022】
図1に示されるように、鉄骨梁(鉄骨有孔梁)10は、H形鋼によって形成されており、図示しない一対の柱に架設されている。この鉄骨梁10は、ウェブ12と、ウェブ12の上端部に設けられた上フランジ14と、ウェブ12の下端部に設けられた下フランジ16とを有している。
【0023】
図2に示されるように、ウェブ12には、当該ウェブ12を厚み方向に貫通する貫通孔20が形成されている。貫通孔20は、正面視にて、矩形状に形成されている。この貫通孔20は、4つの角部20Cを有している。また、貫通孔20は、鉄骨梁10の材軸方向に沿った上下の横辺(横縁)20Aと、鉄骨梁10の上下方向に沿った左右の縦辺(縦縁)20Bとを有している。この貫通孔20には、例えば、ダクト22等の断面矩形状の設備が挿入される。
【0024】
(上補強プレート、下補強プレート)
貫通孔20の上側には、上補強プレート30Uが設けられている。この上補強プレート30Uは、貫通孔20の上側で、ウェブ12及び上フランジ14に接合されている。一方、貫通孔20の下側には、下補強プレート30Lが設けられている。下補強プレート30Lは、貫通孔20の下側で、ウェブ12及び下フランジ16に接合されている。
【0025】
なお、上補強プレート30Uと下補強プレート30Lとは、貫通孔20に対して上下対称に構成されている。そのため、以下では、下補強プレート30Lの構成について説明し、上補強プレート30Uの構成の説明は適宜省略する。
【0026】
下補強プレート30Lは、例えば、フラットバー(平鋼板)によって形成されており、鉄骨梁10の材軸方向に沿って配置されている。また、下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eは、貫通孔20の左右の縦辺20Bよりも鉄骨梁10の材軸方向の両側(外側)に配置されている。
【0027】
図3に示されるように、下補強プレート30Lは、ウェブ12の厚さ方向の両側に設けられている。この下補強プレート30Lは、ウェブ12と下フランジ16とに亘るように、ウェブ12及び下フランジ16に対して傾斜している。
【0028】
下補強プレート30Lの上端部は、貫通孔20の下の横辺20Aに沿って配置され、ウェブ12の表面に溶接されている。一方、下補強プレート30Lの下端部は、下フランジ16の上面に溶接されている。これにより、下補強プレート30L、ウェブ12、及び下フランジ16によって、三角形状の閉断面40が形成されている。また、下補強プレート30Lの長手方向の両端には、閉断面40の開口40A(
図2参照)がそれぞれ形成されている。
【0029】
(縦スチフナ)
図2に示されるように、貫通孔20の左右両側には、すなわち貫通孔20に対する鉄骨梁10の材軸方向の両側(外側)には、一対の縦スチフナ50が設けられている。一対の縦スチフナ50は、例えば、フラットバー(平鋼板)によって形成されており、厚み方向を鉄骨梁10の材軸方向として配置されている。また、一対の縦スチフナ50は、上下方向(鉄骨梁10の梁成方向)に沿って配置されている。
【0030】
各縦スチフナ50は、貫通孔20の縦辺20Bに沿って上下方向に延びている。ここで、「縦スチフナ50が貫通孔20の縦辺20Bに沿って上下方向に延びている」とは、縦スチフナ50が、貫通孔20の縦辺20Bに隣接する場合だけでなく、縦スチフナ50が貫通孔20の縦辺20Bから離れた位置で上下方向に延びている場合も含む概念である。
【0031】
なお、本実施形態では、ウェブ12に縦スチフナ50を溶接(隅肉溶接)するために、貫通孔20の縦辺20Bから若干離れた位置に縦スチフナ50が配置されている。
【0032】
一対の縦スチフナ50は、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lの長手方向の両側に配置されている。この縦スチフナ50の長手方向に沿った端部は、ウェブ12の表面に突き当てられた状態で溶接されている。
【0033】
各縦スチフナ50は、上フランジ14の下面と下フランジ16の上面とに亘って配置されている。この縦スチフナ50の上端部は、上フランジ14の下面に突き当てられた状態で溶接されている。また、縦スチフナ50の下端部は、下フランジ16の上面に突き当てられた状態で溶接されている。
【0034】
縦スチフナ50の上部は、上補強プレート30Uの長手方向の端部30E(端面)に突き当てられた状態で溶接されている。これにより、上補強プレート30U、ウェブ12、及び上フランジ14によって形成された閉断面40(
図3参照)の開口40Aが、縦スチフナ50の上部によって塞がれている。また、縦スチフナ50と上補強プレート30Uとを接合することにより、縦スチフナ50と上補強プレート30Uとの間で応力が伝達可能とされている。
【0035】
縦スチフナ50の下部は、下補強プレート30Lの長手方向の端部30E(端面)に突き当てられた状態で溶接されている。これにより、下補強プレート30L、ウェブ12、下フランジ16によって形成された閉断面40(
図3参照)の開口40Aが、縦スチフナ50の下部によって塞がれている。また、縦スチフナ50と上補強プレート30Uとを接合することにより、縦スチフナ50と下補強プレート30Lとの間で応力が伝達可能とされている。
【0036】
(作用)
次に、第一実施形態の作用について説明する。
【0037】
図2に示されるように、本実施形態によれば、鉄骨梁10のウェブ12には、矩形状の貫通孔20が形成されている。これにより、貫通孔20に、断面矩形状のダクト22等の設備を効率的に貫通させることができる。
【0038】
ここで、鉄骨梁10のウェブ12に矩形状の貫通孔20を形成した場合、地震時に、貫通孔20の上下両側及び左右両側において、ウェブ12および上フランジ14、下フランジ16に座屈が発生し易くなる。
【0039】
これに対して本実施形態では、貫通孔20の上側に上補強プレート30Uが設けられ、貫通孔20の下側に下補強プレート30Lが設けられている。これらの上補強プレート30U及び下補強プレート30Lによって、貫通孔20の上下両側のウェブ12が補強(補剛)されている。したがって、地震時に、貫通孔20の上下両側のウェブ12、および上フランジ14、下フランジ16が座屈することが抑制される。
【0040】
また、貫通孔20の左右両側には、一対の縦スチフナ50が設けられている。この一対の縦スチフナ50によって、貫通孔20の左右両側のウェブ12が補強(補剛)されている。したがって、地震時に、貫通孔20の左右両側のウェブ12が座屈することが抑制される。
【0041】
さらに、一対の縦スチフナ50と、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lとを接合することにより、これらの縦スチフナ50、上補強プレート30U、及び下補強プレート30Lの座屈等も抑制される。したがって、地震時に、貫通孔20の左右両側のウェブ12が座屈することがさらに抑制される。
【0042】
また、上補強プレート30Uは、ウェブ12及び上フランジ14で三角形状の閉断面40を形成している。この閉断面40の開口40Aは、上補強プレート30Uの長手方向両側の端部30Eにおいて、一対の縦スチフナ50の上部によってそれぞれ塞がれている。これにより、例えば、火災時に開口40A内に火が入り、上補強プレート30Uの内面が直接火に晒されることが抑制される。
【0043】
また、下補強プレート30Lは、上補強プレート30Uと同様に、ウェブ12及び下フランジ16とで三角形状の閉断面40を形成している。この閉断面40の開口40Aは、下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eにおいて、一対の縦スチフナ50の下部によってそれぞれ塞がれている。これにより、例えば、火災時に開口40A内に火が入り、下補強プレート30Lの内面が直接火に晒されることが抑制される。
【0044】
また、上補強プレート30U、下補強プレート30L、及び一対の縦スチフナ50を耐火被覆することにより、火災時に、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eの開口40A内に火が入ることをより確実に抑制することができる。したがって、鉄骨梁10の耐火性能が向上する。
【0045】
(第一実施形態の変形例)
次に、第一実施形態の変形例について説明する。
【0046】
図4に示される変形例では、貫通孔20の上側に上補強プレート60Uが設けられ、貫通孔20の下側に下補強プレート60Lが設けられている。
【0047】
なお、上補強プレート60Uと下補強プレート60Lとは、貫通孔20に対して上下対称に構成されている。そのため、以下では、下補強プレート60Lの構成について説明し、上補強プレート60Uの構成の説明は適宜省略する。また、本変形例では、貫通孔20の横幅が、上記第一実施形態の貫通孔20(
図2参照)の横幅よりも広くされている。
【0048】
下補強プレート60Lは、内側プレート部62と、一対の外側プレート部64とを有している。内側プレート部62、及び一対の外側プレート部64は、例えば、フラットバーによってそれぞれ形成されている。また、内側プレート部62は、一対の縦スチフナ50の内側に配置されている。一方、一対の外側プレート部64は、一対の縦スチフナ50の外側に配置されている。
【0049】
内側プレート部62、及び一対の外側プレート部64は、ウェブ12と下フランジ16とに亘るように、ウェブ12及び下フランジ16に対して傾斜しており、ウェブ12及び下フランジ16に溶接されている。
【0050】
内側プレート部62の長手方向の両端部は、一対の縦スチフナ50に突き当てられた状態で溶接されている。また、一対の外側プレート部64の長手方向の一端部は、一対の縦スチフナ50に突き当てられた状態で溶接されている。これらの内側プレート部62と一対の外側プレート部64とは、一対の縦スチフナ50を介して、鉄骨梁10の材軸方向に連続するように接合されている。
【0051】
このように一対の縦スチフナ50の外側に一対の外側プレート部64を設けることも可能である。
【0052】
なお、本変形例では、内側プレート部62及び一対の外側プレート部64が、別々のフラットバーによって形成されている。しかし、内側プレート部62及び一対の外側プレート部64は、例えば、1本のフラットバーによって形成されても良い。この場合、下補強プレート60Lの傾斜角度に応じて斜めにカットされた縦スチフナ50の下端側を、下補強プレート60Lの表面に突き当てた状態で溶接しても良い。
【0053】
(実施例の応力解析)
次に、第一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の応力解析について説明する。
【0054】
<解析モデル>
本解析では、実施例に係る鉄骨梁10の解析モデルMを応力解析した。実施例に係る解析モデルMには、
図5に示されるように、上記第一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造が適用されている。なお、実施例に係る解析モデルMにおいて、上記第一実施形態に係る鉄骨梁10の構成要素と対応する要素には同符号を付している。
【0055】
また、本解析では、比較例1,2に係る鉄骨梁の解析モデルを応力解析した。図示を省略するが、比較例1に係る解析モデルは、鉄骨梁のウェブに矩形状の貫通孔が形成されるものの、上補強プレート、下補強プレート、及び一対の縦スチフナが設けられていない。また、比較例2に係る解析モデルは、鉄骨梁のウェブに貫通孔が形成されておらず、また、上補強プレート、下補強プレート、及び一対の縦スチフナも設けられていない。
【0056】
<解析方法>
実施例に係る解析モデルMについて、鉄骨梁10の貫通孔20側の一端を固定として鉄骨梁10の他端に上向きの荷重Pを付加した場合に鉄骨梁10に作用する応力を有限要素法により解析し、解析モデルMの変形角(部材角)とせん断力との関係を求めた。これと同様の方法により、比較例1,2に係る解析モデルについても、解析モデルの変形角とせん断力との関係を求めた。
【0057】
<解析結果>
図6には、実施例に係る解析モデルM、及び比較例1,2に係る解析モデルの解析結果示されている。
図6から分かるように、実施例に係る解析モデルMは、貫通孔が形成された比較例1に係る解析モデルよりも耐力が大きくなった。さらに、実施例に係る解析モデルMは、貫通孔が形成されていない比較例1に係る解析モデルよりも耐力が大きくなった。このことから、上記第一実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の有効性が確認された。
【0058】
(変形例の応力解析)
次に、変形例に係る鉄骨有孔梁の補強構造の応力解析について説明する。
【0059】
<解析モデル>
本解析では、変形例に係る鉄骨梁10の解析モデルを応力解析した。なお、変形例に係る解析モデルは、
図4に示される鉄骨梁10、上補強プレート60U、下補強プレート60L、及び一対の縦スチフナ50をモデル化したものである。
【0060】
また、本解析では、実施例に係る鉄骨梁の解析モデルを応力解析した。図示を省略するが、実施例に係る解析モデルは、
図4に示される上補強プレート60U及び下補強プレート60Lから一対の外側プレート部64をそれぞれ省略したモデルである。
【0061】
また、本解析では、比較例3に係る鉄骨梁の解析モデルを応力解析した。図示を省略するが、比較例3に係る解析モデルは、
図4に示される鉄骨梁10から上補強プレート60U、下補強プレート60L、及び一対の縦スチフナ50を省略したモデルである。
【0062】
<解析方法>
前述した第一実施形態に係る応力解析と同様の方法により、変形例、実施例、及び変形例3に係る解析モデルについて、解析モデルの変形角とせん断力との関係を求めた。
【0063】
<解析結果>
図7には、変形例、実施例、及び比較例3に係る解析モデルの解析結果示されている。
図7から分かるように、変形例に係る解析モデルは、貫通孔が形成された比較例3に係る解析モデルよりも耐力が大きくなった。さらに、変形例に係る解析モデルは、実施例に係る解析モデルよりも耐力が若干大きくなった。このことから、上記変形例に係る鉄骨有孔梁の補強構造の有効性が確認された。
【0064】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0065】
図8及び
図9に示されるように、第二実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造は、一対の屈曲プレート70を備えている。一対の屈曲プレート70は、例えば、C形鋼によって形成されており、貫通孔20を貫通している。
【0066】
一対の屈曲プレート70は、貫通孔20内の左右両側に配置されている。この一対の屈曲プレート70は、各々の開断面の開口側を鉄骨梁10の材軸方向に対向させた状態で配置されている。なお、一対の屈曲プレート70は、貫通孔20の中心に対して左右対称に構成されている。
【0067】
屈曲プレート70は、上下の横壁部70Aと、上下の横壁部70Aを接続する縦壁部70Bとを有し、断面C字形状に形成されている。上下の横壁部70Aは、貫通孔20の上下の横辺20Aに沿って配置されるとともに、当該横辺20Aにそれぞれ溶接されている。また、縦壁部70Bは、貫通孔20の縦辺20Bに沿って配置されるとともに、当該縦辺20Bに溶接されている。
【0068】
なお、上の横壁部70A及び縦壁部70Bは、貫通孔20の上の角部20Cに沿って屈曲されるとともに、上の角部20Cに溶接された屈曲部の一例である。また、下の横壁部70A及び縦壁部70Bは、貫通孔20の下の角部20Cに沿って屈曲されるとともに、下の角部20Cに接合された屈曲部の一例である。
【0069】
一対の屈曲プレート70は、鉄骨梁10の材軸方向に間隔を空けて配置されている。そのため、貫通孔20の上下の横辺20Aの中央部は、屈曲プレート70(横壁部)によって補強されていない。
【0070】
ここで、
図8に示されるように、例えば、一対の屈曲プレート70によって鉄骨梁10をせん断補強する場合、一対の屈曲プレート70の上下の横壁部70Aの長さLは、貫通孔20の縦幅をHとすると、H/2以上が好ましい(L≧H/2)。
【0071】
また、例えば、一対の屈曲プレート70によって鉄骨梁10を曲げ補強する場合、一対の屈曲プレート70の上下の横壁部70Aの長さLは、貫通孔20の横幅をWとすると、W/3以上が好ましい(L≧W/3)。
【0072】
(作用)
次に、第二実施形態の作用について説明する。
【0073】
図8に示されるように、本実施形態によれば、一対の屈曲プレート70は、縦壁部70Bと、上下の横壁部70Aとを有している。縦壁部70B及び上の横壁部70Aは、貫通孔20の上の角部20Cに沿って屈曲されるとともに、上の角部20Cに溶接されている。また、縦壁部70B及び下の横壁部70Aは、貫通孔20の下の角部20Cに沿って屈曲されるとともに、下の角部20Cに溶接されている。この一対の屈曲プレート70によって、貫通孔20の各角部20Cが補強されている。したがって、地震時に、せん断応力の流れを助けるとともに、有孔部のフィーレンディールに伴う付加曲げに対する補強となり、梁のせん断耐力および曲げ耐力を向上させる。
【0074】
また、一対の屈曲プレート70は、鉄骨梁10の材軸方向に間隔を空けて配置されている。そのため、貫通孔20の上下の横辺20Aの中央部は、屈曲プレート70(横壁部)によって補強されていない。これにより、本実施形態では、貫通孔20の全周に亘って屈曲プレートを設ける場合と比較して、効率的に補強することができる。
【0075】
また、一対の屈曲プレート70を、例えば、既製のC形鋼によって形成することにより、コストを削減することができる。
【0076】
(応力解析)
次に、第二実施形態に係る鉄骨有孔梁の補強構造の応力解析について説明する。
【0077】
<解析モデル>
本解析では、第二実施形態に係る鉄骨梁10の解析モデルを応力解析した。なお、第二実施形態に係る解析モデルは、
図8に示される鉄骨梁10、上補強プレート60U、下補強プレート60L、一対の縦スチフナ50、及び一対の屈曲プレート70をモデル化したものである。
【0078】
また、本解析では、一対の屈曲プレート70の効果を確認するために、第一実施形態に係る鉄骨梁の解析モデルを応力解析した。図示を省略するが、第一実施形態に係る解析モデルは、
図8に示される鉄骨梁10から一対の屈曲プレート70を省略したモデルである。
【0079】
<解析方法>
第一実施形態及び第二実施形態に係る解析モデルについて、鉄骨梁10の貫通孔20側の一端を固定として鉄骨梁10の他端に上向きの荷重Pを付加した場合に鉄骨梁10に作用する応力を有限要素法により解析し、解析モデルのせん断耐力と曲げ耐力との関係を求めた(
図10参照)。
【0080】
<解析結果>
図10には、第一実施形態及び第二実施形態に係る解析モデルの解析結果が示されている。
図10から分かるように、一対の屈曲プレート70が設けられた第二実施形態に係る解析モデルは、一対の屈曲プレート70がない第一実施形態に係る解析モデルよりもせん断耐力が大きくなった。このことから、一対の屈曲プレート70の有効性が確認された。
【0081】
(第二実施形態の変形例)
次に、第二実施形態の変形例について説明する。
【0082】
図11及び
図12に示される変形例では、貫通孔20の4つの角部20Cに、屈曲プレート80がそれぞれ設けられている。各屈曲プレート80は、例えば、L形鋼によって形成されており、貫通孔20を貫通している。
【0083】
各屈曲プレート80は、横壁部80A及び縦壁部80Bを有し、断面L字形状に形成されている。横壁部80Aは、貫通孔20の横辺20Aに沿って配置されるとともに、当該横辺20Aに溶接されている。また、縦壁部80Bは、貫通孔20の縦辺20Bに沿って配置されるとともに、当該縦辺20Bに溶接されている。
【0084】
なお、横壁部80A及び縦壁部80Bは、貫通孔20の角部20Cに沿って屈曲されるとともに、当該角部20Cに溶接された屈曲部の一例である。
【0085】
貫通孔20の各角部20Cに設けられた屈曲プレート80は、鉄骨梁10の材軸方向に間隔を空けて配置されるとともに、鉄骨梁10の上下方向に間隔を空けて配置されている。これにより、貫通孔20の上下の横辺20Aの中央部は、屈曲プレート80によって補強されていない。また、貫通孔20の左右の縦辺20Bの中央部は、屈曲プレート80によって補強されていない。
【0086】
このように貫通孔20の4つの角部20Cを屈曲プレート80によってそれぞれ補強することも可能である。また、屈曲プレート80を、例えば既製のL形鋼によって形成することにより、コストを削減することができる。
【0087】
(変形例)
次に、上記第一実施形態及び上記第二実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上記第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、上記第二実施形態にも適宜適用可能である。
【0088】
上記第一実施形態では、下補強プレート30Lが、フラットバーによって形成されている。しかし、例えば、
図13(A)に示されるように、下補強プレート90は、L形プレート(L形鋼)によって形成しても良い。また、例えば、
図13(B)に示されるように、下補強プレート92は、円弧状に湾曲した湾曲プレートによって形成しても良い。また、図示を省略するが、上補強プレートも、L形プレートや湾曲プレートによって形成しても良い。
【0089】
また、上記第一実施形態では、一対の縦スチフナ50が、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eに接合されている。しかし、一対の縦スチフナ50は、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eに接合せずに、接触させても良い。また、一対の縦スチフナ50は、上補強プレート30U及び下補強プレート30Lの長手方向両側の端部30Eから離れた位置に配置しても良い。
【0090】
また、上記第一実施形態では、貫通孔20にダクト22が通されている。しかし、貫通孔20に通す部材は、ダクト22に限らず、適宜変更である。例えば、
図14に示される変形例では、貫通孔20にケーブル等のラック24が通されている。
【0091】
また、上記第一実施形態では、貫通孔20が横長に形成されている。しかし、貫通孔は、縦長に形成しても良い。また、貫通孔20の各角部20Cには、丸み(アール)が付けられても良い。
【0092】
また、上記第一実施形態では、上補強プレート30U、下補強プレート30L、及び一対の縦スチフナ50が鉄骨梁10に溶接によって接合されている。しかし、上補強プレート30U、下補強プレート30L、及び一対の縦スチフナ50は、鉄骨梁10に接着剤等によって接合されても良い。
【0093】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0094】
10 鉄骨梁
12 ウェブ
14 上フランジ
16 下フランジ
20 貫通孔
20B 縦辺(貫通孔の辺)
20C 角部
30L 下補強プレート
30U 上補強プレート
40A 開口
50 縦スチフナ
60L 下補強プレート
60U 上補強プレート
70 屈曲プレート
70A 横壁部(屈曲部)
70B 縦壁部(屈曲部)
80 屈曲プレート
80A 横壁部(屈曲部)
80B 縦壁部(屈曲部)