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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ケーブルラック構造
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20240620BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H02G3/04 056
H02G1/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020139450
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035255
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柴 貞弘
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-171793(JP,A)
【文献】特開平06-245352(JP,A)
【文献】特開昭61-206796(JP,A)
【文献】特開2007-306653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/00-1/10
H02G 3/00-3/04
H02G 3/22-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルラックと、
基材から吊り下げ支持され、前記ケーブルラックの下方に配置され前記ケーブルラックを支持する吊り部材と、
前記ケーブルラックの下方に設けられ、ケーブルラックの外側へ張出す持ち上げ部材と、
を有し、
前記持ち上げ部材は、前記ケーブルラックの幅方向の両側から立ち上がり上端部から外側に張り出した構成とされているケーブルラック構造。
【請求項2】
前記吊り部材の上には、前記持ち上げ部材を上下方向に移動させる昇降装置が設置される設置部材が常時又は前記昇降装置の使用時のみ固定されている請求項に記載のケーブルラック構造。
【請求項3】
前記吊り部材は、上下方向に間隔をおいて複数段設けられており、
最下段の吊り部材に支持されたケーブルラックに第1持ち上げ部材として前記持ち上げ部材が設けられ、
前記最下段の吊り部材よりも上段側の吊り部材に支持されたケーブルラックに、平面視にて前記第1持ち上げ部材とずらして配置されると共に、前記上段側の吊り部材に沿って延びた第2持ち上げ部材が設けられている請求項に記載のケーブルラック構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルラック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ケーブルトレイに設けたブラケットの貫通孔に軸部を挿通し、軸部の下端にパイプ挿通部を設けた敷設ケーブルの持ち上げ装置が開示されている。この敷設ケーブルの持ち上げ装置では、ケーブルトレイ上に敷設されたケーブルの下にパイプが挿入され、パイプの両端部がパイプ挿通部に挿通されている。この状態で、軸部に螺着された昇降用ナットを螺回して吊上げボルトを上昇させることで、パイプと共にケーブルが持ち上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-224314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の敷設ケーブルの持ち上げ装置では、パイプと共にケーブルが持ち上げられる際に、ケーブルトレイは動かず固定されたままである。したがって、この持ち上げ装置では、ケーブルトレイを上下方向に可動させることはできず、配線作業又は防水更新工事などの作業を行う際に作業空間を確保できない可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、配線作業又は防水更新工事などの作業を行う際に作業空間を確保することができるケーブルラック構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様に記載のケーブルラック構造は、ケーブルラックと、基材から吊り下げ支持され、前記ケーブルラックの下方に配置され前記ケーブルラックを支持する吊り部材と、前記ケーブルラックの下方に設けられ、ケーブルラックの外側へ張出す持ち上げ部材と、を有する。
【0007】
第1態様に記載のケーブルラック構造によれば、基材から吊り下げ支持される吊り部材は、ケーブルラックの下方でケーブルラックを支持している。ケーブルラックの下方には、ケーブルラックの外側へ張出す持ち上げ部材が設けられており、持ち上げ部材を昇降装置が持ち上げ方向に移動させることで、ケーブルラックが上方向に移動する。このようなケーブルラック構造では、ケーブルラックを上方向に移動させることで、配線作業又は防水更新工事などの作業を行う作業空間をケーブルラックの下方に確保することができる。
【0008】
第2態様に記載のケーブルラック構造は、第1態様に記載のケーブルラック構造において、前記持ち上げ部材は、前記ケーブルラックの幅方向の両側から立ち上がり上端部から外側に張り出した構成とされている。
【0009】
第2態様に記載のケーブルラック構造によれば、持ち上げ部材は、ケーブルラックの幅方向の両側から立ち上がっており、この立ち上がった部分の外側の吊り部材の上に設置部材を架け渡すことで、ジャッキなどの昇降装置を配置するスペースを確保することができる。このため、例えば、ケーブルラック下方空間が小さい場所でも、昇降装置を設定し、持ち上げ部材を介してケーブルラックを上方向に移動させることができる。
【0010】
第3態様に記載のケーブルラック構造は、第1態様又は第2態様に記載のケーブルラック構造において、前記吊り部材の上には、前記持ち上げ部材を上下方向に移動させる昇降装置が設置される設置部材が常時又は前記昇降装置の使用時のみ固定されている。
【0011】
第3態様に記載のケーブルラック構造によれば、吊り部材の上に設置部材を固定することで、持ち上げ部材を移動させる昇降装置を設置部材の上に安定して配置することができる。また、昇降装置は、吊り部材の下方のスラブ又は天井に設置されていないので、スラブの防水更新工事の邪魔になることはなく、また、吊り部材の下方に地面のような強固な面が無い天井などの場合でも、昇降装置を設置することができる。
【0012】
第4態様に記載のケーブルラック構造は、第2態様に記載のケーブルラック構造において、前記吊り部材は、上下方向に間隔をおいて複数段設けられており、最下段の吊り部材に支持されたケーブルラックに第1持ち上げ部材として前記持ち上げ部材が設けられ、前記最下段の吊り部材よりも上段側の吊り部材に支持されたケーブルラックに、平面視にて前記第1持ち上げ部材とずらして配置されると共に、前記上段側の吊り部材に沿って延びた第2持ち上げ部材が設けられている。
【0013】
第4態様に記載のケーブルラック構造によれば、最下段の吊り部材に支持されたケーブルラックには、ケーブルラックの幅方向の両側から立ち上がり上端部から外側に張り出した第1持ち上げ部材が設けられている。これにより、第1持ち上げ部材の立ち上がった部分の外側の最下段の吊り部材の上に、昇降装置を配置するスペースを確保することができる。また、最下段の吊り部材よりも上段側の吊り部材に支持されたケーブルラックには、平面視にて第1持ち上げ部材とずらして第2持ち上げ部材が配置されている。第2持ち上げ部材は、上段側の吊り部材に沿って延びているので、最下段の吊り部材の上に配置された昇降装置により第2持ち上げ部材を上方向に移動させることができると共に、最上段のケーブルラック上方空間の省スペース化が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配線作業又は防水更新工事などの作業を行う際に作業空間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態のケーブルラック構造を示す斜視図である。
図2】第1実施形態のケーブルラック構造を示す正面図である。
図3】(A)は、第1実施形態のケーブルラック構造におけるケーブルラックを移動しない通常の状態を示す断面図であり、(B)は、第1実施形態のケーブルラック構造におけるケーブルラックを持ち上げた状態を示す断面図である。
図4】(A)は、第2実施形態のケーブルラック構造における上段ケーブルラックを移動しない通常の状態を示す断面図であり、(B)は、第2実施形態のケーブルラック構造における上段ケーブルラックを持ち上げた状態を示す断面図である。
図5】(A)は、第1比較例のケーブルラック構造を示す側面図であり、(B)は、第1比較例のケーブルラック構造におけるケーブルラックを持ち上げた状態を示す断面図である。
図6】(A)は、第2比較例のケーブルラック構造を示す側面図であり、(B)は、第2比較例のケーブルラック構造における上段ケーブルラックを持ち上げた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1図3にしたがって、第1実施形態に係るケーブルラック構造を備えたケーブルラック構造物10について説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態のケーブルラック構造物10は、ケーブルラック12と、ケーブルラック12を支持する吊り部材14と、ケーブルラック12を持ち上げる持ち上げ部材16と、を備えている。さらに、ケーブルラック構造物10は、吊り部材14の上に配置された設置部材18を備えている。設置部材18には、持ち上げ部材16を上下方向に移動させる昇降装置の一例としてのジャッキ50が設置される構成とされている。
【0019】
図1に示すように、ケーブルラック12は、左右一対のサイド材12Aと、サイド材12Aに間隔をおいて複数掛け渡された横架材12Bと、を備えている。ケーブルラック12における複数の横架材12Bの上には、サイド材12Aの長手方向に沿って複数の電線60(図2及び図3参照)が敷設されるようになっている。なお、電線60は、導体に絶縁を施した複数の絶縁電線の周囲に保護外被膜を施したケーブルでもよい。
【0020】
図2に示すように、ケーブルラック12は、上下方向に移動可能な可動部13Aと、可動部13Aの長手方向の外側で可動部13Aと分離した固定部13Bと、を含んで構成されている。本実施形態では、可動部13Aの長手方向の両側に固定部13Bが設けられている。可動部13Aとその両側の固定部13Bとは、間隔をあけて配置されている。可動部13Aと固定部13Bとの間には、複数の電線60が弛んだ状態で配置されている。これにより、固定部13Bに対して可動部13Aが上方向に移動したときに、可動部13Aと固定部13Bとの間に複数の電線60の余長が確保されることで、複数の電線60の長さが不足しないようになっている。なお、便宜上、上下方向に移動させる部分を可動部と称しているが、固定部13Bを上下方向に移動させるときは、固定部13Bを可動部と称することになる。
【0021】
図2に示すように、コンクリートスラブ30には、立ち上がり部32が設けられている。立ち上がり部32の上部には、複数の支柱34が設けられており、複数の支柱34の上部に、基材の一例としての鉄骨架台24が支持されている。支柱34は、例えば、鉄骨で構成されている。吊り部材14は、鉄骨架台24に設けられた吊りボルト26により吊り下げ支持されている。
【0022】
鉄骨架台24の上には、機器36が設置されている。機器36には、複数の電線60が接続されており(図2参照)、機器36から延びた複数の電線60がケーブルラック12に敷設されている。また、コンクリートスラブ30の上部及び立ち上がり部32の下部には、防水工事により防水層33が設けられている。
【0023】
図1及び図2に示すように、吊り部材14は、ケーブルラック12の下方に配置されている。ケーブルラック12を持ち上げない通常の状態では、吊り部材14は、ケーブルラック12の下部が接触することで、ケーブルラック12を支持している。本実施形態では、図1に示すように、吊り部材14は、少なくとも2つ以上の長尺状の支持材14A、14Bで構成されている。支持材14A、14Bの長手方向は、ケーブルラック12のサイド材12Aと交差する方向(本実施形態では、略直交する方向)とされている。吊り部材14を構成する支持材14A、14Bは、例えば、鋼材とされている。
【0024】
支持材14A、14Bの長手方向両端部は、一例として、ブラケット38を用いて吊りボルト26に固定されている。一例として、ブラケット38と支持材14A、及びブラケット38と支持材14Bには、上下方向にそれぞれ貫通孔(図示省略)が設けられており、上下の貫通孔に吊りボルト26が挿通されている。ブラケット38と支持材14A、及びブラケット38と支持材14Bは、上下に配置されたナット40(図1では上側のナット40のみを図示)を締め付けることで吊りボルト26に固定されている。なお、支持材14A、14Bの長手方向両端部を吊りボルト26に固定する構造は、変更が可能である。
【0025】
図1に示すように、ケーブルラック構造物10には、一例として、ケーブルラック12を吊り部材14に固定する複数(本実施形態では、4つ)の固定用部材42が設けられている。固定用部材42は、一例として、支持材14A又は支持材14Bに取り付けられる取付部42Aと、取付部42Aから立ち上がると共にサイド材12Aに係止される係止部42Bと、を備えている。係止部42Bは、例えば、フック状とされており、サイド材12Aの上部をくわえ込む形状とされている。取付部42Aは、係止部42Bがサイド材12Aの上部に係止された状態で、ボルト44とナット46により支持材14A又は支持材14Bに締結固定されている。
【0026】
ケーブルラック構造物10では、ケーブルラック12を持ち上げない通常の状態では、固定用部材42がボルト44とナット46により支持材14A又は支持材14Bに締結固定されており、ケーブルラック12が吊り部材14に固定されている。ケーブルラック12の持ち上げる作業を行う際に、ナット46を緩めて固定用部材42の係止部42Bをサイド材12Aから外すことで、吊り部材14からケーブルラック12が持ち上げ可能となる。なお、ケーブルラック12を吊り部材14に固定する固定用部材42などの構造は、変更が可能である。
【0027】
図1に示すように、持ち上げ部材16は、ケーブルラック12の下方に設けられている。持ち上げ部材16は、ケーブルラック12のサイド材12Aと交差する方向(本実施形態では、略直交する方向)に掛け渡されており、持ち上げ部材16の両端部がケーブルラック12の外側へ張出している。持ち上げ部材16は、ケーブルラック12の長手方向において、吊り部材14を構成する支持材14A、14Bの間に配置されている。
【0028】
持ち上げ部材16は、長尺状の板状部材を折り曲げた構成とされている。本実施形態では、持ち上げ部材16は、ケーブルラック12の幅方向の両側から立ち上がり上端部から外側に張り出した構成とされている。より具体的には、持ち上げ部材16は、ケーブルラック12の下側に配置される底壁部16Aと、底壁部16Aから屈曲されると共にケーブルラック12の幅方向の両側から立ち上がる縦壁部16Bと、縦壁部16Bの上端部から外側に張り出した張出部16Cと、を備えている。持ち上げ部材16は、例えば、鋼材で構成されている。本実施形態では、持ち上げ部材16は、ケーブルラック12に予め固定又は使用時に固定する構成とされている。例えば、持ち上げ部材16の底壁部16Aは、ケーブルラック12に溶接又はボルトとナット等の締結具により固定されている。
【0029】
設置部材18は、支持材14A、14Bの長手方向両端部に2つ設けられている。設置部材18は、一例として、板材で構成されている。2つの設置部材18は、ケーブルラック12の幅方向の外側で、支持材14A、14Bの上部に掛け渡されている。設置部材18は、例えば、鋼板で構成されている。本実施形態では、設置部材18は、支持材14A、14Bの上に予め固定又はジャッキ50の使用時のみ固定する構成とされている。例えば、設置部材18は、支持材14A、14Bの上部に溶接又はボルトとナット等の締結具により固定されている。
【0030】
設置部材18の上方には、設置部材18と間隔をおいて持ち上げ部材16の張出部16Cが配置されている。張出部16Cと設置部材18との上下方向の距離は、ジャッキ50を設置可能な寸法に設定されている。ケーブルラック12を持ち上げない通常の状態では、設置部材18の上にジャッキ50は配置されていない。すなわち、ケーブルラック構造物10は、ケーブルラック12を持ち上げない通常の状態では、ジャッキ50を備えない構成とされている。ケーブルラック12の持ち上げる作業を行う際に、設置部材18の上にジャッキ50が設置される。本実施形態では、複数の設置部材18を設けることで、複数のジャッキ50が設置される。ケーブルラック12を安定して持ち上げるためには、ジャッキ50は、ケーブルラック12の外側に少なくとも4箇所設置することが好ましい。ジャッキ50としては、例えば、油圧ジャッキが用いられる。
【0031】
次に、本実施形態のケーブルラック構造物10により、可動部13Aとしてのケーブルラック12を持ち上げる作業について説明する。
【0032】
図3(A)に示されるように、ケーブルラック12が吊り部材14の上に支持される通常の状態では、設置部材18の上にジャッキ50は設置されていない。例えば、コンクリートスラブ30(図2参照)の防水層33の更新工事を行う場合、固定用部材42のナット46(図1参照)を緩め、固定用部材42の係止部42Bをケーブルラック12のサイド材12A、12Bから外す。これにより、固定用部材42によるケーブルラック12の吊り部材14への固定状態が解除される。この状態では、ケーブルラック12が吊り部材14からフリーの状態となり、ケーブルラック12を上方向に動かすことが可能となる。
【0033】
さらに、吊り部材14の長手方向の両端部の設置部材18の上にそれぞれジャッキ50を設置する。ジャッキ50は、例えば、ケーブルラック12の外側に4箇所設置するようにしてもよい。そして、図3(B)に示すように、ジャッキ50の持ち上げ部50Aを持ち上げ部材16の張出部16Cに接触させ、持ち上げ部材16を持ち上げる。これにより、持ち上げ部材16を介してケーブルラック12を持ち上げることができる。
【0034】
図示を省略するが、ケーブルラック12を持ち上げた状態で、必要に応じてケーブルラック12の仮固定などの安全対策を行い、防水層33の更新工事などの作業を行う。ケーブルラック12の仮固定としては、例えば、ケーブルラック12を上方の機器36又は鉄骨架台24に仮設の吊り部材で仮固定する方法などがある。これにより、地震時にジャッキ50が外れてケーブルラック12が吊り部材14の側へ落下しないようにしている。
【0035】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0036】
まず、本実施形態の作用及び効果を説明する前に、図5を用いて、第1比較例のケーブルラック構造物200について説明する。
【0037】
図5に示すように、第1比較例のケーブルラック構造物200では、コンクリートスラブ30と鉄骨架台24との間にケーブルラック202が設けられており、ケーブルラック202の上には複数の電線60が敷設されている。図示を省略するが、ケーブルラック202は、コンクリートスラブ30に設置されたジャッキにより、上下方向に移動させる(図5(A)、(B)参照)。
【0038】
図5(A)に示すように、ケーブルラック202の上部の鉄骨架台24との距離D1が大きいと、ケーブルラック202と鉄骨架台24との間に大きな空間が確保され、電線60の配線作業を行うことができる。しかし、ケーブルラック202の下部のコンクリートスラブ30との距離D2が小さくなり、防水層33の更新工事を行うための十分な空間を確保することが困難となる。
【0039】
図5(B)に示すように、図示しないジャッキによりケーブルラック202を上方向に移動させ、ケーブルラック202の下側のコンクリートスラブ30との距離D4を大きくすると、防水層33の更新工事を行うための空間を確保することができる。しかし、ケーブルラック202の上部の鉄骨架台24との距離D3が小さくなり、ケーブルラック202と鉄骨架台24との間に電線60の配線作業を行うための十分な空間を確保することが困難となる。
【0040】
ケーブルラック構造物200では、特に建築上の制約により鉄骨架台24の高さを確保できない場合は、電線60の配線作業と防水層33の更新工事とを両立させることが難しい。また、コンクリートスラブ30の上にジャッキを配置するため、防水層33の更新工事を行う際にジャッキが邪魔になる。
【0041】
これに対して、本実施形態のケーブルラック構造物10では、以下のような作用及び効果が得られる。
【0042】
ケーブルラック構造物10では、鉄骨架台24から吊りボルト26により吊り部材14が吊り下げ支持されている。吊り部材14は、ケーブルラック12の下方に配置されており、吊り部材14の上にケーブルラック12が支持されている。ケーブルラック12の下方には、持ち上げ部材16が設けられており、持ち上げ部材16の張出部16Cがケーブルラック12の外側に張り出している。これにより、持ち上げ部材16の張出部16Cをジャッキ50が持ち上げ方向に移動させることで、ケーブルラック12が上方向に移動する。このようなケーブルラック構造物10では、ケーブルラック12を上方向に移動させることで、ケーブルラック12の下方に防水層33の更新工事などを行う作業空間を確保することができる。
【0043】
また、ケーブルラック12の上側で複数の電線60の配線作業を行う際には、ケーブルラック12を上方向に移動させずに、ケーブルラック12を吊り部材14に接触させた状態とする。これにより、ケーブルラック12と鉄骨架台24との間に十分な空間が確保され、電線60の配線作業を行うことができる。このため、ケーブルラック構造物10では、ケーブルラック12を上下方向に移動させることで、電線60の配線作業と防水層33の更新工事とを両立させることができる。
【0044】
また、ケーブルラック構造物10では、持ち上げ部材16は、ケーブルラック12の幅方向の両側から立ち上がった縦壁部16Bと、縦壁部16Bの上端部から外側に張り出した張出部16Cと、を備えている。これにより、持ち上げ部材16の縦壁部16Bの外側の吊り部材14の上に設置部材18を架け渡すことで、ジャッキ50を配置するスペースを確保することができる。このため、例えば、ケーブルラック12とコンクリートスラブ30との間隔が小さい場所でも、ジャッキ50を設定し、持ち上げ部材16を介してケーブルラック12を上方向に移動させることができる。
【0045】
また、ケーブルラック構造物10では、吊り部材14の上には、持ち上げ部材16を上下方向に移動させるジャッキ50が設置される設置部材18が常時又は使用時のみ固定されている。このため、持ち上げ部材16を移動させるジャッキ50を設置部材18の上に安定して配置することができる。また、ジャッキ50は、吊り部材14の下方のコンクリートスラブ30に設置されていないので、防水層33の更新工事の邪魔になることはない。また、吊り部材14の上に設置部材18が常時又は使用時のみ固定されているため、例えば、地面のような強固な面が無い場合でもジャッキ50を設置することができる。
【0046】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係るケーブルラック構造を備えたケーブルラック構造物100について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0047】
図4に示すように、第2実施形態のケーブルラック構造物100では、第1実施形態のケーブルラック構造物10の1つの吊り部材14に代えて、上下方向に間隔をおいて複数段(本実施形態では2つ)の吊り部材104、106が設けられている。本実施形態では、吊り部材104、106は、天井(図示省略)とその上方側に所定の間隔をおいて配置された上階床スラブ102との間に設けられている。上階床スラブ102は、基材の一例である。
【0048】
より具体的には、上階床スラブ102には、複数の吊りボルト26が設けられており、吊りボルト26に上段の吊り部材104と下段の吊り部材106が吊り下げ支持されている。下段の吊り部材106は、下方側の天井(図示省略)との間に間隔をおいて配置されている。下段の吊り部材104は、最下段の吊り部材の一例であり、上段の吊り部材106は、上段側の吊り部材の一例である。
【0049】
上段の吊り部材104と下段の吊り部材106の上には、それぞれケーブルラック12が支持されている。下段の吊り部材104には、第1実施形態のケーブルラック構造物10と同様に、ケーブルラック12の幅方向の外側に設置部材18が設けられているが、上段の吊り部材106には、設置部材は設けられていない。図示を省略するが、図4に示す上段のケーブルラック12と下段のケーブルラック12は、可動部であり、可動部の長手方向の外側には、固定部が配置されている。
【0050】
下段の吊り部材104に支持されたケーブルラック12には、第1持ち上げ部材の一例としての下段持ち上げ部材108が設けられている。下段持ち上げ部材108は、第1実施形態のケーブルラック構造物10の持ち上げ部材16と同様の形状であり、底壁部16Aと、縦壁部16Bと、張出部16Cと、を備えている。下段持ち上げ部材108の底壁部16Aは、ケーブルラック12の下方に配置されており、ケーブルラック12に溶接又は締結具により固定されている。本実施形態では、下段の吊り部材104の上方に下段持ち上げ部材108が設けられているが、図4に示す断面視にて下段の吊り部材と重なる位置に下段持ち上げ部材が設けられていてもよい。
【0051】
上段の吊り部材106に支持されたケーブルラック12の下方には、第2持ち上げ部材の一例としての上段持ち上げ部材110が設けられている。上段持ち上げ部材110は、長尺状の板状部材で構成されており、上段の吊り部材106に沿って延びている。本実施形態では、上段持ち上げ部材110は、略平面状とされている。上段持ち上げ部材110は、ケーブルラック12の幅方向の外側に張り出した張出部110Aを備えている。
【0052】
平面視にて上段持ち上げ部材110は、下段持ち上げ部材108とずらして配置されている。これにより、上段持ち上げ部材110の張出部110Aは、設置部材18と上下方向に対向して配置されている。本実施形態では、上段の吊り部材106の上方に上段持ち上げ部材110が設けられているが、図4に示す断面視にて上段の吊り部材と重なる位置に上段持ち上げ部材が設けられていてもよい。
【0053】
次に、本実施形態のケーブルラック構造物100により、上段の吊り部材106に支持されたケーブルラック12を持ち上げる作業について説明する。
【0054】
図4(A)に示されるように、ケーブルラック12を上方向に移動させない通常の状態では、下段の吊り部材104に設けられた設置部材18の上にジャッキ50は設置されていない。例えば、下段の吊り部材104に支持されたケーブルラック12での配線作業を行う場合、上段の吊り部材104に締結固定された固定用部材42を外し、固定用部材42によるケーブルラック12の上段の吊り部材104への固定状態を解除する。
【0055】
さらに、下段の吊り部材104の長手方向の両端部の設置部材18の上にそれぞれジャッキ50を設置する。そして、図4(B)に示すように、ジャッキ50の持ち上げ部50Aを上段持ち上げ部材110の張出部110Aに接触させ、上段持ち上げ部材110を持ち上げる。これにより、上段持ち上げ部材110を介して上段のケーブルラック12を持ち上げる。
【0056】
図示を省略するが、必要に応じて上段のケーブルラック12の仮固定などの安全対策を行い、下段の吊り部材104に支持された下段のケーブルラック12での配線作業を行う。
【0057】
ここで、本実施形態の作用及び効果を説明する前に、図6を用いて、第2比較例のケーブルラック構造物220について説明する。
【0058】
図6に示すように、第2比較例のケーブルラック構造物220では、上階床スラブ102と下階側の天井222との間に上下方向に配置された下段ケーブルラック224と上段ケーブルラック226とが設けられている。図示を省略するが、下段ケーブルラック224と上段ケーブルラック226には、それぞれケーブルが敷設されている。例えば、上段ケーブルラック226は、天井222付近に設けられた設置用の補強部に設置されたジャッキ(図示省略)により、上下方向に移動させる。
【0059】
図6(A)に示すように、上段ケーブルラック226と上階床スラブ102との距離D5が大きいと、上段ケーブルラック226と上階床スラブ102との間に大きな空間が確保され、配線作業を行うことができる。しかし、上段ケーブルラック226と下段ケーブルラック224との距離D6が小さくなり、下段ケーブルラック224での配線作業を行うために十分な空間を確保することが困難である。
【0060】
図6(B)に示すように、上段ケーブルラック226を上方に移動させることで、上段ケーブルラック226と下段ケーブルラック224との間との距離D8を大きくすると、下段ケーブルラック224での配線作業を行うための空間を確保することができる。しかし、上段ケーブルラック226と上階床スラブ102との間との距離D7が小さくなり、上段ケーブルラック226での配線作業を行うために十分な空間を確保することが困難である。
【0061】
ケーブルラック構造物220では、特に建築上の制約により天井222から上階床スラブ102までの高さを確保できない場合は、上段ケーブルラック226と下段ケーブルラック224での両方の配線作業が可能な高さを両立させることが難しい。
【0062】
これに対して、本実施形態のケーブルラック構造物100では、第1実施形態と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0063】
すなわち、ケーブルラック構造物100では、下段の吊り部材104に支持されたケーブルラック12には、下段持ち上げ部材108が設けられている。下段持ち上げ部材108は、第1実施形態の持ち上げ部材16と同様の構成であり、ケーブルラック12の幅方向の両側から立ち上がった縦壁部16Bと、縦壁部16Bの上端部から外側に張り出した張出部16Cと、を備えている。これにより、下段持ち上げ部材108の縦壁部16Bの外側の下段の吊り部材104の設置部材18の上に、ジャッキ50を設置するスペースを確保することができる。また、ジャッキ50は設置部材18の上に設置されているので、天井など、地面のような強固な面がない場合でもジャッキ50を設置することができる。
【0064】
次に、第1実施形態と異なる構成による作用及び効果について説明する。ケーブルラック構造物100では、上段の吊り部材106に支持されたケーブルラック12には、平面視にて下段持ち上げ部材108とずらして上段持ち上げ部材110が設けられている。上段持ち上げ部材110は、上段の吊り部材106に沿って延びると共にケーブルラック12の外側に張り出した張出部110Aを備えている。このため、下段の吊り部材104の設置部材18に設置されたジャッキ50を張出部110Aに接触させることで、上段持ち上げ部材110を上方向に移動させ、上段のケーブルラック12を持ち上げることができる。さらに、上段持ち上げ部材110は、上段の吊り部材106に沿って延びているため、最上段のケーブルラック12の上方空間の省スペース化が可能となる。
【0065】
また、ケーブルラック構造物100では、下段のケーブルラック12の下側、下段のケーブルラック12と上段のケーブルラック12との間、上段のケーブルラック12の上側のうち、頻繁に使用する側の空間を最大限に確保するようにしてもよい。そして、他の側は、配線作業などで使用する場合のみ、下段のケーブルラック12又は上段のケーブルラック12を上方向に移動させることで、配線作業を行う空間を確保することができる。
【0066】
〔補足説明〕
第1及び第2実施形態において、持ち上げ部材16、下段持ち上げ部材108、及び上段持ち上げ部材110は、前述のように、予めケーブルラック12に固定してもよいし、使用時のみケーブルラック12に固定してもよい。使用時のみケーブルラック12に固定する場合は、例えば、ケーブルラックの下方に後付けで持ち上げ部材を挿入し、ボルトとナット等の締結具で持ち上げ部材をケーブルラックに固定してもよい。
【0067】
また、第1及び第2実施形態において、設置部材18は、前述のように、吊り部材14、及び下段持ち上げ部材108の上に予め固定してもよいし、ジャッキ50の使用時のみ吊り部材14、及び下段持ち上げ部材108の上に固定してもよい。ジャッキ50の使用時のみ固定する場合は、例えば、吊り部材の上に後付けで設置部材を設置し、ボルトとナット等の締結具で設置部材を吊り部材に固定してもよい。また、第1及び第2実施形態において、設置部材18の形状は、変更可能である。
【0068】
また、第1及び第2実施形態では、吊り部材14、下段の吊り部材104及び上段の吊り部材106は、少なくとも2以上の支持材14A、14Bを備えているが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、吊り部材は、ケーブルラック12の長手方向の幅が広い部材で構成してもよい。
【0069】
また、第1実施形態では、持ち上げ部材16は、設置部材18に設置されたジャッキ50により上方に持ち上げたが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、鉄骨架台に滑車などの昇降装置を取り付け、設置部材に設置したウィンチで滑車に巻き掛けられた紐を引っ張って持ち上げ部材を吊り上げる構成でもよい。
【0070】
また、第1及び第2実施形態では、可動部13Aと固定部13Bとの間に電線60を弛ませて配置する構成とされていたが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、電線が挿通される配管を設置する場合は、固定配管と可動配管との間に曲げ変形が可能なフレキシブル継手を配置してもよい。
【0071】
第2実施形態では、2段の吊り部材104、106が配置されていたが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、上下方向に3段以上の吊り部材を配置し、それぞれの吊り部材にケーブルラックが支持されている構成でもよい。この場合、最下段のケーブルラックの上段側のケーブルラックに、吊り部材に沿って延びた第2持ち上げ部材を設けることが好ましい。
【0072】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0073】
10 ケーブルラック構造物
12 ケーブルラック
14 吊り部材
14A 支持材
14B 支持材
16 持ち上げ部材
18 設置部材
24 鉄骨架台(基材)
50 ジャッキ(昇降装置)
60 ケーブル(配線)
100 ケーブルラック構造物
102 上階床スラブ(基材)
104 吊り部材
106 吊り部材
108 下段持ち上げ部材
110 上段持ち上げ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6