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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】吸水率試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020158266
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052087
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-215184(JP,A)
【文献】特開2002-131208(JP,A)
【文献】特開2009-113408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0030450(US,A1)
【文献】特開昭61-133860(JP,A)
【文献】特開2001-289766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 5/00-9/36
B28C 1/00-9/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水率試験装置を用いて、細骨材試料の吸水率を求める試験方法であって、
前記吸水率試験装置は、上部に開口部を有する容器本体と、該開口部を開閉可能な上蓋と、該容器本体内に注水し得る注水管と、該容器本体内の空気を排出し得る排出口と、を有し、
前記細骨材試料の質量である湿潤質量m を、計量する湿潤試料計量工程と、
前記容器本体内を満水にした前記吸水率試験装置の質量である満水装置質量M を、計量する満水装置計量工程と、
前記容器本体内に前記細骨材試料と水を入れ、該細骨材試料を攪拌することによって該細骨材試料内の空気を排出する攪拌工程と、
前記攪拌工程によって前記容器本体の底部に前記細骨材試料が沈降すると、前記上蓋で前記開口部を閉じるとともに、前記排出口から該容器本体内の空気を排出しながら、前記注水管によって該容器本体内に注水し、該容器本体内が該細骨材試料と水で充満した前記吸水率試験装置の質量である充満装置質量M を、計量する充満装置計量工程と、
前記細骨材試料と水で充満した前記容器本体内から該細骨材試料を取り出すとともに乾燥し、絶対乾燥状態とされた該細骨材試料の質量である絶乾質量m を、計量する絶乾試料計量工程と、
前記細骨材試料の表乾密度d を計測する表乾密度計測工程と、
前記湿潤試料計量工程で得られた前記湿潤質量m と、前記満水装置計量工程で得られた前記満水装置質量M と、前記充満装置計量工程で得られた前記充満装置質量M と、前記充満装置計量工程で得られた前記表乾密度d と、に基づいて該細骨材試料の表面水率Hを求める表面水率算出工程と、
前記湿潤試料計量工程で得られた前記湿潤質量m と、前記絶乾試料計量工程で得られた前記絶乾質量m と、前記表面水率算出工程で得られた前記表面水率Hと、に基づいて前記細骨材試料の吸水率Qを求める吸水率算出工程と、を備えた、
ことを特徴とする吸水率試験方法。
【請求項2】
前記吸水率試験装置は、自震することによって前記細骨材試料を攪拌し得る撹拌手段を有し、
前記攪拌工程では、前記細骨材試料内に前記撹拌手段を配置するとともに、該撹拌手段によって該細骨材試料を攪拌する、
ことを特徴とする請求項1記載の吸水率試験方法。
【請求項3】
前記細骨材試料の前記吸水率Qが、前記湿潤質量m、前記絶乾質量m、前記表面水率Hに基づく次式によって求められる、
Q={m-m×(1+H/100)}÷{m×(1+H/100)}×100
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の吸水率試験方法。
【請求項4】
前記細骨材試料の前記表面水率Hが、前記湿潤質量m 、前記満水装置質量M、前記充満装置質量M前記表乾密度d 、水の密度dに基づく次式によって求められる、
H={m×(1-d/d)-(M-M)}÷(M-M)×100
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吸水率試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリートやモルタルなどに用いられる細骨材に関するものであり、より具体的には、細骨材の吸水率を求める装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは鋼材とともに最も重要な建設材料のひとつであり、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルなどの建築構造物をはじめ、様々な構造物に用いられている。このコンクリート構造物は、あらかじめ工場等で製作されて所定の場所まで運搬されることもあるが、土木構造物や建築構造物の場合、所定の場所(現場)で直接構築されることが多い。いずれにしろ、セメントと水、骨材、混和剤等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を型枠の中に投入し、コンクリートの硬化を待って型枠を外すことでコンクリート構造物は構築される。
【0003】
コンクリートは、構築する構造物等の重要性や耐久性、あるいは施工性などに応じて配合設計が行われ、あわせて目標品質が得られるようセメントはもちろん、骨材や混和剤なども各種規定に基づいて選別される。骨材のうち細骨材は、その寸法が規定されるほか、吸水率などその物性も規定されることがある。吸水率とは、材料がどの程度の水を含むことができるかという性質を表す指標であり、吸水率が大きい細骨材ほど、内部に多くの空隙を有することからすり減りやすく、またコンクリート凍結時には破裂しやすく、さらに細骨材が多くの水分を含むことからポンプ等で圧送し難いといった問題が生じる。そこで、コンクリートの細骨材として砂を利用する場合はその吸水率が3.5%以下、砕砂を利用する場合はその吸水率が3.0%以下として規定されることがある。
【0004】
一般的に細骨材の吸水率は、「JIS A 1109 細骨材の密度及び吸水率の試験方法」に準拠して求められる。以下、その手順について説明する。まず、試料(細骨材)を24時間吸水させ、その試料を平らな面に薄く広げて均等に乾燥させる。そして、表面に水分が若干残る程度の試料を、非吸水性の材料で製作されたフローコーンに緩く詰め、自重だけを利用して突き棒で試料を25回突き、フローコーンを静かに鉛直に引き上げる。試料の乾燥の程度を変えながら、この一連の作業を繰り返し行い、はじめて試料がスランプしたとき、その試料を表面乾燥飽水状態として評価する。
【0005】
表面乾燥飽水状態の試料が得られると、その質量(以下、便宜上「表乾質量」という。)を計量する。一方、絶対乾燥状態とされた試料(細骨材)の質量(以下、便宜上「絶乾質量」という。)も把握しておく。なお絶対乾燥状態とは、試料を100~110℃の温度で定質量となるまで乾燥し、細骨材の内部に含まれている自由水が取り去られた状態のことである。そして、表乾質量と絶乾質量に基づいて試料の吸水率を求める。(式1)は吸水率Q(%)を求める数式であり、式中のmは表乾質量(g)、mは絶乾質量(g)である。
【数1】
【0006】
ところで、上記した手順(JIS A 1109)によって細骨材の吸水率を求める試験方法には、大きく3つの問題を指摘することができる。第1に、「はじめて試料がスランプしたとき」を表面乾燥飽水状態として評価するわけであるが、その評価はいわば主観的であり、したがって熟練度などに伴う評価者の個人差を排除することができない。第2に、一連の作業を繰り返し行うことから、その間湿布等によって養生は行うものの試料の完全な乾燥状態(湿潤状態)を維持することは難しい。第3に、良質な川砂や山砂が近年減少しているため砕砂を用いることも多いが、川砂等と砕砂ではフローコーンを引き上げたときの挙動が異なり、「はじめて試料がスランプしたとき」の評価をより困難にしている。
【0007】
正確に表面乾燥飽水状態の評価ができないと、当然ながら正しい表乾質量mを求めることができず、また表乾質量mに基づいて求められる吸水率Qも正確な値が得られない。
【0008】
図4は、正確な表乾質量m(表中のNo11)との較差と、その較差によって生じた吸水率Qの誤差を示す対比図である。この図では、No11に表面乾燥飽水状態のデータを示しており、すなわち正しい吸水率Qは2.35%である。また表中のNo1~No10のデータは、正確な表乾質量mよりも小さな表乾質量mを求めたデータであり、No12~No21のデータは、正確な表乾質量mよりも大きな表乾質量mを求めたデータである。表中のNo1では表乾質量mを正確値よりも1.0g小さい値として求めており、その結果、吸水率Qは正確値よりも0.2%小さい値が得られている。また表中のNo21では表乾質量mを正確値よりも1.0g大きい値として求めており、その結果、吸水率Qは正確値よりも0.21%大きい値が得られている。このように、表乾質量mの正確値との較差は吸水率Qの値に大きな影響を与え、換言すれば吸水率Qは表乾質量mの変化に対して極めて感度が高いといえる。
【0009】
「JIS A 1109」によって細骨材の吸水率を求める試験方法については、これまでにも問題視されることがあり、その問題を解決すべく種々の改良技術が提案されてきた。例えば特許文献1では、水面からの吸収板の高さを調節することで吸収板に載置した細骨材から表面水を除去し、これにより細骨材を表面乾燥状態に調製する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-291887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既述したとおり「JIS A 1109」によれば、評価者によって表面乾燥飽水状態の評価にばらつきが生じるなどいくつか問題がある。そして、正確な表乾質量mを把握しなければ、換言すると正しいタイミングで表面乾燥飽水状態を評価しなければ、求められる細骨材の吸水率には相当の誤差を含んでしまう。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来に比して小さい誤差で吸水率を求めることができる吸水率試験装置、及び吸水率試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
図4を見ると、既述したとおり吸水率Qは表乾質量mの変化に高い感度で反応するが、これに対して表乾密度は表乾質量mの変化にそれほど反応しない。例えば、表中のNo1における表乾密度は正確値と+0.01g/mの誤差しかなく、表中のNo21における表乾密度も正確値と-0.01g/mの誤差しかない。これは、表面乾燥飽水状態の評価のタイミングが多少ずれたとしても、表乾密度に関しては正しい値からそれほど誤差が生じないことを意味している。本願発明は、吸水率Qを表乾質量mに基づいて求める従来手法(式1)に代えて、表乾密度に基づいて求められる表面水率によって吸水率Qを算出する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0014】
本願発明の吸水率試験装置は、細骨材試料の吸水率を求める試験装置であって、上部に開口部を有する容器本体と上蓋、注水管、排出口、撹拌手段を備えたものである。このうち容器本体は、細骨材試料と水を収容するものであり、上蓋は、容器本体の開口部を開閉することができるものである。また注水管は、開口部を上蓋で閉じた状態で容器本体内に注水することができるのものであり、排出口は、開口部を上蓋で閉じかつ注水管から注水される状態で容器本体内の空気を排出することができるのものである。そして撹拌手段は、容器本体内に細骨材試料と水を入れた状態で、骨材試料を攪拌し得るものである。なお容器本体は、外側から内側を目視することができる材料で形成される。
【0015】
本願発明の吸水率試験方法は、吸水率試験装置を用いて細骨材試料の吸水率を求める試験方法であって、湿潤試料計量工程と満水装置計量工程、攪拌工程、充満装置計量工程、絶乾試料計量工程、表面水率算出工程、吸水率算出工程を備えた方法である。このうち湿潤試料計量工程では、「湿潤質量(細骨材試料の質量)」を計量し、満水装置計量工程では「満水装置質量(容器本体内を満水にした吸水率試験装置の質量)」を計量し、攪拌工程では、水とともに容器本体内に入れた細骨材試料を攪拌することによって細骨材試料内の空気を排出する。充満装置計量工程では、容器本体の底部に細骨材試料が沈降すると上蓋で開口部を閉じるとともに、排出口から容器本体内の空気を排出しながら、注水管によって容器本体内に注水し、さらに「充満装置質量(容器本体内が細骨材試料と水で充満した吸水率試験装置の質量)」を計量する。絶乾試料計量工程では、細骨材試料と水で充満した容器本体内から細骨材試料を取り出すとともに、絶対乾燥状態まで乾燥したうえで「絶乾質量(絶対乾燥状態とされた細骨材試料の質量)」を計量する。そして表面水率算出工程では、湿潤質量と満水装置質量、充満装置質量、細骨材試料の表乾密度に基づいて細骨材試料の表面水率を求め、吸水率算出工程では、湿潤質量と絶乾質量、表面水率に基づいて細骨材試料の吸水率を求める。
【0016】
本願発明の吸水率試験方法は、撹拌手段を有する吸水率試験装置を用いて細骨材試料の吸水率を求める方法とすることもできる。この場合、攪拌工程では、細骨材試料内に撹拌手段を配置するとともに、撹拌手段が自震することによって骨材試料を攪拌する。
【0017】
本願発明の吸水率試験方法は、表乾密度計測工程をさらに備えた方法とすることもできる。この表乾密度計測工程では、細骨材試料の表乾密度を計測する。
【0018】
本願発明の吸水率試験方法は、湿潤質量mと絶乾質量m、表面水率Hに基づく次式によって、細骨材試料の吸水率Qを求める方法とすることもできる。
Q={m-m×(1+H/100)}÷{m×(1+H/100)}×100
【0019】
本願発明の吸水率試験方法は、湿潤質量mと満水装置質量M、充満装置質量M、細骨材試料の表乾密度をd、水の密度dに基づくに基づく次式によって、細骨材試料の表面水率Hを求める方法とすることもできる。
H={m×(1-d/d)-(M-M)}÷(M-M)×100
【発明の効果】
【0020】
本願発明の吸水率試験装置、及び吸水率試験方法には、次のような効果がある。
(1)「JIS A 1109」によって表面乾燥飽水状態を評価するケースでも、評価者の能力や熟練度等に左右されることなく、従来に比して高い精度で細骨材の吸水率を求めることができる。
(2)試験中、試料の状態が完全に維持できない状況でも、その状況を許容したうえで細骨材の吸水率を求めることができる。
(3)フローコーンを引き上げたときの細骨材の種類(川砂や山砂、砕砂)に伴う挙動の相違にも、柔軟に対応して細骨材の吸水率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願発明の吸水率試験装置を模式的に示す断面図。
図2】本願発明の吸水率試験方法の主な工程を示すフロー図。
図3】本願発明の吸水率試験方法の主な工程を示すステップ図。
図4】正確な表乾質量(表中のNo11)との較差と、その較差によって生じた吸水率の誤差を示す対比図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の吸水率試験装置、及び吸水率試験方法の実施の例を図に基づいて説明する。なお、本願発明の吸水率試験装置、及び吸水率試験方法は、コンクリートやモルタルの配合材料として用いられる細骨材が対象となる場合に特に好適に実施することができ、川砂や山砂、砕砂など細骨材として用いられる種々の材料を対象として実施することができる。
【0023】
1.全体概要
本願発明は、表乾質量mに基づいて吸水率Qを求める従来手法(式1)に代えて、表乾密度dに基づく表面水率によって吸水率Qを求めることを、技術的特徴の一つとしている。(式2)は試料とされた細骨材(以下、「細骨材試料」という。)の表面水率H(%)を求める数式であり、式中のmは細骨材試料の質量(以下、「湿潤質量」という。)、mは表乾質量である。
【数2】
【0024】
湿潤質量m(g)は、細骨材試料をそのまま計量すれば得られる。一方、表面水率Hは、質量法による表面水率試験方法や、容量法による表面水率試験方法によって得ることができる。例えば「JIS A 1111 細骨材の表面水率試験方法」では、容器内が満水とされた試験器の総重量(以下、便宜上「満水装置質量M」という。)と、容器内が細骨材試料と水で充満された試験器の総重量(以下、便宜上「充満装置質量M」という。)を計量し、これら満水装置質量M(g)と充満装置質量M(g)、さらに別途得られた湿潤質量mと表乾密度d(g/m)、水の密度d(g/m)を用いた次式によって表面水率Hを求めることとしている。
【数3】
【0025】
(式3)によって表面水率Hを求めるには、細骨材試料の表乾密度dを把握する必要がある。表乾密度dは、表面乾燥飽水状態の細骨材試料の質量(表乾質量m)をその体積vで除した(式4)によって定義され、例えば「JIS A 1109」の試験方法によって求めることができる。具体的には、当該試験によって得られた表面乾燥飽水状態の細骨材試料の表乾質量mを計量するとともに、容器内が満水とされたピクノメータの全質量m(g)と、表面乾燥飽水状態の細骨材試料と水で満たしたピクノメータの全質量m(g)を計量し、水の密度dを用いた(式5)によって表乾密度dを求めるわけである。
【数4】
【数5】
【0026】
ところで、(式2)を変形すると表乾質量mを表す(式6)が得られる。そして、この表乾質量mを(式1)に代入すると(式7)が得られる。
【数6】
【数7】
【0027】
吸水率Qを表す(式7)を見ると、いわば主観的に得られる表乾質量mを用いる必要がなく、客観的に求められる要素(パラメータ)によって算出することができることが分かる。(式7)中の湿潤質量mは細骨材試料をそのまま計量すれば得られ、絶乾質量mも規定どおりに絶対乾燥状態とした細骨材試料を計量することで得ることができる。また表面水率Hも「JIS A 1111」の試験方法によれば試験者の主観を伴うことなく得ることができる。なお、表面水率Hに用いられる表乾密度dを得るにあたっては、(式5)によって求める場合を含め、例えば「JIS A 1109」の試験方法によって細骨材試料の表面乾燥飽水状態を評価する必要がある。しかしながら表乾密度dは、既述したとおり表乾質量mの変化に対して感度が低い(つまり、表面乾燥飽水状態の評価のタイミングが多少ずれたとしても正しい値からそれほど誤差が生じない)。そのため本願発明によれば、従来に比して小さい誤差で表面水率Hや吸水率Qを求めることができるわけである。
【0028】
2.吸水率試験装置
次に、本願発明の吸水率試験装置について詳しく説明する。なお、本願発明の吸水率試験方法は、本願発明の吸水率試験装置を用いて細骨材試料の吸水率Qを求める方法である。したがって、まずは本願発明の吸水率試験装置について説明し、その後に本願発明の吸水率試験方法について説明することとする。
【0029】
図1は、本願発明の吸水率試験装置100を模式的に示す断面図である。この図に示すように本願発明の吸水率試験装置100は、容器本体101と上蓋102、注水管103、排出口104を含んで構成され、さらに撹拌手段105を含んで構成することもできる。
【0030】
容器本体101は、上部が開口した中空の筒状であり、内部に細骨材試料や水を収容することができる空間を有するものである。なお容器本体101の外形は、その水平断面が四角形である四角柱とすることができ、そのほか多角柱や円柱とすることもできる。なお、容器本体101を形成する側壁面は、外側から内側を目視することができる透明あるいは半透明の材料が使用される。例えば、ガラス板のほか、アクリル板やメタクリル板といった合成樹脂による板材を使用するとよい。
【0031】
上蓋102は、容器本体101の開口部を開閉することができるものである。例えば、上蓋102を着脱可能とすることによって開口部を開閉可能にすることもできるし、上蓋102の一部をヒンジ固定(例えば、蝶番を利用した固定)とすることによって開口部を開閉可能にすることもできる。なお、上蓋102によって容器本体101の開口部を閉鎖するときは、容器本体101内の気体(空気)が外部に漏出しない、いわゆる気密状態になる構造にするとよい。
【0032】
注水管103は、容器本体101内に注水できる管体(パイプ)であり、上蓋102を貫通するように設置することができる。なお注水管103は、その注水口(図では下側の口)側の一部が略水平(水平含む)となるように折り曲げたいわゆるL字形にするとよい。これにより、注水口から排出される水によって容器本体101内の細骨材試料が乱されることを緩和できる。
【0033】
排出口104は、容器本体101内の空気を排出する機能を有するもので、図に示すように管体(パイプ)として上蓋102を貫通するように設置することもできるし、単に上蓋102に開口部(小孔)を設けることによって形成することもできる。容器本体101の開口部を上蓋102で閉じた状態で、注水管103によって容器本体101内に注水したとき、排出口104を設けた効果で容器本体101内の空気が排出されるわけである。換言すれば、容器本体101の開口部を上蓋102で閉じた状態で、容器本体101内の空気を排出口104から排出しながら、注水管103によって容器本体101内に注水することができる。なお、注水管103や排出口104は、外部との水や空気の流通を遮断することができる封鎖栓(キャップなど)を設けることもできる。
【0034】
撹拌手段105は、水とともに容器本体101内に入れた細骨材試料を攪拌することができる機能を有するものである。例えば、コンクリート締固め用のバイブレータなど棒状の振動機や、容器本体101を載せた状態で振動を与える振動台、あるいはマグネチックスターラーなど細骨材試料内で自震する装置(以下、「自震装置」という。)などを、撹拌手段105として利用することができる。
【0035】
3.吸水率試験方法
続いて本願発明の吸水率試験方法について図2図3を参照しながら説明する。なお、本願発明の吸水率試験方法は、ここまで説明した本願発明の吸水率試験装置100を用いて細骨材試料の吸水率Qを求める方法である。したがって吸水率試験装置100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の吸水率試験方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.吸水率試験装置」で説明したものと同様である。
【0036】
図2は、本願発明の吸水率試験方法の主な工程を示すフロー図であり、図3は、本願発明の吸水率試験方法の主な工程を示すステップ図である。まず、図3(a)に示すように例えばバットに載せた細骨材試料の湿潤質量mを計量する(図2のStep201)。このとき、特段の吸水や乾燥を行うことなく、その状態のままの細骨材試料の質量を計量する。また、図3(b)に示すように容器本体101内を満水とし、その状態における吸水率試験装置100の質量(満水装置質量M)を計量する(図2のStep202)。このとき、容器本体101のほか、上蓋102と注水管103、排出口104も合わせて計量し、容器本体101が撹拌手段105を含む場合(特に自震装置を利用する場合)は撹拌手段105も合わせて計量する。
【0037】
吸水率試験装置100の満水装置質量Mが得られると、図3(c)に示すように容器本体101の開口部を開放し、一旦空にした容器本体101内に細骨材試料と水を入れる。このとき、容器本体101内を満水にする必要はない。そして、水とともに容器本体101内に入れた細骨材試料を攪拌手段105によって攪拌し、細骨材試料内の空気を排出する(図2のStep203)。例えば、攪拌手段105としてマグネチックスターラーといった自震装置を利用する場合、細骨材試料内に自震装置を配置したうえでこれを自震させる。細骨材試料内の空気が十分排出されると、図3(d)に示すように細骨材試は容器本体101の底部に沈降していく。
【0038】
細骨材試が容器本体101の底部に沈降すると、図3(e)に示すように上蓋102によって容器本体101の開口部を閉鎖し、その状態のまま容器本体101内の空気を排出口104から排出しながら、容器本体101が満水になるまで注水管103によって注水していく(図2のStep204)。容器本体101が満水になると、その状態における吸水率試験装置100の質量(充満装置質量M)を計量する(図2のStep205)。このとき、容器本体101のほか、上蓋102と注水管103、排出口104も合わせて計量し、容器本体101が撹拌手段105を含む場合は撹拌手段105も合わせて計量する。
【0039】
吸水率試験装置100の充満装置質量Mが得られると、細骨材試料と水で充満した容器本体101から細骨材試料を取り出し、細骨材試料が絶対乾燥状態となるまで(100~110℃の温度で定質量となるまで)乾燥し(図2のStep206)、図3(f)に示すように例えばバットに載せた絶対乾燥状態の骨材試料の質量(絶乾質量m)を計量する(図2のStep207)。
【0040】
一方、表面乾燥飽水状態とされた細骨材試料の密度(表乾密度d)をあらかじめ把握しておく(図2のStep208)。細骨材試料の表乾密度dは、例えば「JIS A 1109」の試験方法によって求めることができる。具体的には、まず当該試験によって細骨材試料を表面乾燥飽水状態とし、その表乾質量mを計量するとともに、容器内が満水とされたピクノメータの全質量m、表面乾燥飽水状態の細骨材試料と水で満たしたピクノメータの全質量mを計量する。そして、水の密度dを用いた(式5)によって表乾密度dを求める。あるいは、表面乾燥飽水状態とされた細骨材試料の体積vとその質量(表乾質量m)が得られている場合は、(式4)によっていわば直接的に表乾密度dを求めることもできる。なお、既に細骨材試料の表乾密度dを把握してる場合は、これを求めるための試験等(図2のStep208)を省略することができる。
【0041】
表面水率Hが、細骨材試料の湿潤質量mと表乾密度d、吸水率試験装置100の満水装置質量Mと充満装置質量Mが得られると、細骨材試料の表面水率Hを求める(図2のStep209)。このとき、(式3)によって細骨材試料の表面水率Hを求めることができる。そして、細骨材試料の湿潤質量mと絶乾質量m、表面水率Hが得られると、細骨材試料の吸水率Qを求める(図2のStep210)。このとき、(式3)によって細骨材試料の吸水率Qを求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の吸水率試験装置、及び吸水率試験方法は、橋梁の上部工・下部工や、擁壁、カルバート、ダム、トンネル覆工コンクリートといった土木構造物、あるいは集合住宅やオフィスビルといった建築構造物、その他種々のコンクリート構造物に利用することができる。本願発明が、適切な品質の細骨材が配合された、いわば高品質のコンクリート構造物を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0043】
100 本願発明の吸水率試験装置
101 (吸水率試験装置の)容器本体
102 (吸水率試験装置の)上蓋
103 (吸水率試験装置の)注水管
104 (吸水率試験装置の)排出口
105 (吸水率試験装置の)撹拌手段
(試料の)表乾密度
水の密度
H (試料の)表面水率
(試料の)絶乾質量
(試料の)表乾質量
(試料の)湿潤質量
(吸水率試験装置の)満水装置質量
(吸水率試験装置の)充満装置質量
Q (試料の)吸水率
図1
図2
図3
図4