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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240620BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20240620BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C23C14/34 M
H01L21/203 S
H01L21/363
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020189473
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078648
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大澤 篤史
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-041733(JP,A)
【文献】特開平05-148634(JP,A)
【文献】国際公開第2010/116560(WO,A1)
【文献】実開昭57-162371(JP,U)
【文献】特開昭63-050467(JP,A)
【文献】特開平05-263227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
第1開口を有し、前記第1開口を通じて前記チャンバ内のスパッタ空間と基板空間とを繋げつつ、前記第1開口以外で前記スパッタ空間および前記基板空間を区画する仕切部材と、
前記基板空間内に設けられ、基板の主面が前記第1開口を向く姿勢で前記基板を保持する基板保持部と、
前記スパッタ空間内に設けられ、前記第1開口を通じて前記基板と向かい合うターゲットと、
前記スパッタ空間内に設けられた第1給気口を有し、スパッタガスを前記第1給気口から前記スパッタ空間内に供給するスパッタガス供給部と、
前記スパッタガスをプラズマ化させる第1プラズマ発生部と、
前記基板空間内において前記仕切部材と向かい合う位置に設けられた第2給気口を有し、前記第2給気口から前記基板空間内に反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、
前記反応性ガスをプラズマ化させる第2プラズマ発生部と
前記スパッタ空間内に設けられた囲み部材と
を備え
前記囲み部材は、
前記ターゲットを囲む側壁と、
前記側壁の端部に連結された庇部と
を含み、
前記庇部は、前記ターゲットと向かい合う位置に第2開口を有し、
前記第1給気口は、前記囲み部材の内部空間に設けられており、
前記第1開口の開口面積は前記第2開口の開口面積よりも小さい、スパッタリング装置。
【請求項2】
請求項に記載のスパッタリング装置であって、
前記基板空間に開口する吸引口を有し、前記吸引口からガスを吸引する吸引機構を備える、スパッタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタリング装置であって、
前記吸引口は、前記チャンバの天井部に設けられている、スパッタリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のスパッタリング装置であって、
前記吸引口は、前記基板保持部によって保持された前記基板と鉛直方向において対向する位置で、前記チャンバの前記天井部に設けられている、スパッタリング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記反応性ガス供給部の前記第2給気口の鉛直方向における位置は、前記基板よりも前記仕切部材側であり、
前記第2給気口は、水平方向よりも前記基板側に傾斜した方向に前記反応性ガスを吐出する、スパッタリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のスパッタリング装置であって、
前記反応性ガス供給部は前記第2給気口を複数含み、
当該複数の第2給気口は、平面視において前記基板のまわりを囲むように並んで設けられる、スパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタガス供給部は前記第1給気口を複数含み、
当該複数の第1給気口は、前記ターゲットの周囲から前記ターゲットの主面近傍の空間に向けて前記スパッタガスを吐出する、スパッタリング装置。
【請求項8】
請求項7に記載のスパッタリング装置であって、
当該複数の第1給気口は、平面視において前記ターゲットのまわりを囲むように並んで設けられる、スパッタリング装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタガス供給部は、前記反応性ガスの流量よりも大きい流量で前記スパッタガスを吐出する、スパッタリング装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記第1プラズマ発生部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、
前記第2プラズマ発生部は、
前記基板空間内に設けられた導電部材と、
前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源と
を含み、
前記第1電源および前記第2電源の少なくとも一方は間欠的に動作する、スパッタリング装置。
【請求項11】
チャンバと、
第1開口を有し、前記第1開口を通じて前記チャンバ内のスパッタ空間と基板空間とを繋げつつ、前記第1開口以外で前記スパッタ空間および前記基板空間を区画する仕切部材と、
前記基板空間内に設けられ、基板の主面が前記第1開口を向く姿勢で前記基板を保持する基板保持部と、
前記スパッタ空間内に設けられ、前記第1開口を通じて前記基板と向かい合うターゲットと、
前記スパッタ空間内に設けられた第1給気口を有し、スパッタガスを前記第1給気口から前記スパッタ空間内に供給するスパッタガス供給部と、
前記スパッタガスをプラズマ化させる第1プラズマ発生部と、
前記基板空間内において前記仕切部材と向かい合う位置に設けられた第2給気口を有し、前記第2給気口から前記基板空間内に反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、
前記反応性ガスをプラズマ化させる第2プラズマ発生部と
を備え、
前記第1プラズマ発生部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、
前記第2プラズマ発生部は、
前記基板空間内に設けられた導電部材と、
前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源と
を含み、
前記第1電源および前記第2電源の少なくとも一方は間欠的に動作する、スパッタリング装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のスパッタリング装置であって、
前記第1電源および前記第2電源は交互に前記第1電圧および前記第2電圧を出力し、
前記第2電源が前記第2電圧の出力を停止してから、前記第1電源および前記第2電源が前記第1電圧および前記第2電圧の出力を中断する第1中断期間の経過後に、前記第1電源が前記第1電圧を出力する、スパッタリング装置。
【請求項13】
請求項12に記載のスパッタリング装置であって、
前記第1電源が前記第1電圧の出力を停止してから、前記第1電源および前記第2電源が前記第1電圧および前記第2電圧の出力を中断する第2中断期間の経過後に、前記第2電源が前記第2電圧を出力し、
前記第2中断期間は前記第1中断期間よりも短い、スパッタリング装置。
【請求項14】
請求項10から請求項13のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタガス供給部は前記第1電源が前記第1電圧の出力を中断しているときにも前記スパッタガスを供給する、スパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板の表面に薄膜を形成するスパッタリング装置が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載のスパッタリング装置は、基板の表面にIII族窒化物半導体層を形成する。具体的には、スパッタリング装置はチャンバと基板保持部とターゲットと第1プラズマ発生手段と第2プラズマ発生手段とを含む。
【0003】
基板保持部はチャンバ内に設けられ、基板を保持する。ターゲットはチャンバ内において、基板保持部によって保持された基板と向かい合うように設けられる。
【0004】
第1プラズマ発生手段はチャンバ内にアルゴンの第1プラズマを発生させる。アルゴンイオンはターゲットに衝突し、この衝突により、ターゲットから原料粒子が飛び出す。この原料粒子はチャンバ内の基板に供給され、基板上に積層される。第2プラズマ発生手段はチャンバ内に窒素の第2プラズマを発生させる。これにより反応性の高い窒素が基板の原料粒子と反応する。特許文献1では、第1プラズマ発生手段および第2プラズマ発生手段は第1プラズマおよび第2プラズマを交互に発生させる。これにより、基板上にIII族窒化物半導体を成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-124100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のスパッタリング装置では、窒素ガスがチャンバ内の全体を流れやすい。窒素がターゲットの近傍に流れると、ターゲットが窒化する。
【0007】
このようにターゲットが反応性ガスと反応すると、ターゲットの品質が低下する。よって、当該ターゲットを用いた成膜処理では、基板に形成される薄膜の品質が劣化し、成膜レートも低下する。
【0008】
そこで、本願は、ターゲットと反応性ガスとの反応を抑制することができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
スパッタリング装置の第1の態様は、チャンバと、第1開口を有し、前記第1開口を通じて前記チャンバ内のスパッタ空間と基板空間とを繋げつつ、前記第1開口以外で前記スパッタ空間および前記基板空間を区画する仕切部材と、前記基板空間内に設けられ、基板の主面が前記第1開口を向く姿勢で前記基板を保持する基板保持部と、前記スパッタ空間内に設けられ、前記第1開口を通じて前記基板と向かい合うターゲットと、前記スパッタ空間内に設けられた第1給気口を有し、スパッタガスを前記第1給気口から前記スパッタ空間内に供給するスパッタガス供給部と、前記スパッタガスをプラズマ化させる第1プラズマ発生部と、前記基板空間内において前記仕切部材と向かい合う位置に設けられた第2給気口を有し、前記第2給気口から前記基板空間内に反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、前記反応性ガスをプラズマ化させる第2プラズマ発生部と、前記スパッタ空間内に設けられた囲み部材とを備え、前記囲み部材は、前記ターゲットを囲む側壁と、前記側壁の端部に連結された庇部とを含み、前記庇部は、前記ターゲットと向かい合う位置に第2開口を有し、前記第1給気口は、前記囲み部材の内部空間に設けられており、前記第1開口の開口面積は前記第2開口の開口面積よりも小さい
【0010】
スパッタリング装置の第2の態様は、第1の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記基板空間に開口する吸引口を有し、前記吸引口からガスを吸引する吸引機構を備える
【0011】
スパッタリング装置の第3の態様は、第2の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記吸引口は、前記チャンバの天井部に設けられている
【0012】
スパッタリング装置の第4の態様は、第3の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記吸引口は、前記基板保持部によって保持された前記基板と鉛直方向において対向する位置で、前記チャンバの前記天井部に設けられている
【0013】
スパッタリング装置の第5の態様は、第1から第4のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記反応性ガス供給部の前記第2給気口の鉛直方向における位置は、前記基板よりも前記仕切部材側であり、前記第2給気口は、水平方向よりも前記基板側に傾斜した方向に前記反応性ガスを吐出する。
【0014】
スパッタリング装置の第6の態様は、第5の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記反応性ガス供給部は前記第2給気口を複数含み、当該複数の第2給気口は、平面視において前記基板のまわりを囲むように並んで設けられる。
【0015】
スパッタリング装置の第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタガス供給部は前記第1給気口を複数含み、当該複数の第1給気口は、前記ターゲットの周囲から前記ターゲットの主面近傍の空間に向けて前記スパッタガスを吐出する。
【0016】
スパッタリング装置の第8の態様は、第7の態様にかかるスパッタリング装置であって、当該複数の第1給気口は、平面視において前記ターゲットのまわりを囲むように並んで設けられる。
【0017】
スパッタリング装置の第9の態様は、第1から第8のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタガス供給部は、前記反応性ガスの流量よりも大きい流量で前記スパッタガスを吐出する。
【0018】
スパッタリング装置の第10の態様は、第1から第9のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第1プラズマ発生部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、前記第2プラズマ発生部は、前記基板空間内に設けられた導電部材と、前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源とを含み、前記第1電源および前記第2電源の少なくとも一方は間欠的に動作する。
スパッタリング装置の第11の態様は、チャンバと、第1開口を有し、前記第1開口を通じて前記チャンバ内のスパッタ空間と基板空間とを繋げつつ、前記第1開口以外で前記スパッタ空間および前記基板空間を区画する仕切部材と、前記基板空間内に設けられ、基板の主面が前記第1開口を向く姿勢で前記基板を保持する基板保持部と、前記スパッタ空間内に設けられ、前記第1開口を通じて前記基板と向かい合うターゲットと、前記スパッタ空間内に設けられた第1給気口を有し、スパッタガスを前記第1給気口から前記スパッタ空間内に供給するスパッタガス供給部と、前記スパッタガスをプラズマ化させる第1プラズマ発生部と、前記基板空間内において前記仕切部材と向かい合う位置に設けられた第2給気口を有し、前記第2給気口から前記基板空間内に反応性ガスを供給する反応性ガス供給部と、前記反応性ガスをプラズマ化させる第2プラズマ発生部とを備え、前記第1プラズマ発生部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、前記第2プラズマ発生部は、前記基板空間内に設けられた導電部材と、前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源とを含み、前記第1電源および前記第2電源の少なくとも一方は間欠的に動作する。
【0019】
スパッタリング装置の第12の態様は、第10または第11の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第1電源および前記第2電源は交互に前記第1電圧および前記第2電圧を出力し、前記第2電源が前記第2電圧の出力を停止してから、前記第1電源および前記第2電源が前記第1電圧および前記第2電圧の出力を中断する第1中断期間の経過後に、前記第1電源が前記第1電圧を出力する。
【0020】
スパッタリング装置の第13の態様は、第12の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第1電源が前記第1電圧の出力を停止してから、前記第1電源および前記第2電源が前記第1電圧および前記第2電圧の出力を中断する第2中断期間の経過後に、前記第2電源が前記第2電圧を出力し、前記第2中断期間は前記第1中断期間よりも短い。
【0021】
スパッタリング装置の第14の態様は、第10から第13のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタガス供給部は前記第1電源が前記第1電圧の出力を中断しているときにも前記スパッタガスを供給する。
【発明の効果】
【0022】
スパッタリング装置の第1の態様によれば、第2給気口が仕切部材と向かい合う位置に設けられている。よって、第2給気口からスパッタ空間に流れる反応性ガスの少なくとも一部は仕切部材によって遮られる。したがって、スパッタ空間に流入する反応性ガスの量を低減させることができ、反応性ガスとターゲットとが反応する可能性を低減させることができる。
【0023】
しかも、囲み部材によって、囲み部材の内部空間内に流れ込む反応性ガスの量を低減させることができ、反応性ガスとターゲットとが反応する可能性をさらに低減させることができる。
【0024】
しかも、第1開口を通じて基板空間からスパッタ空間に流入する反応性ガスの量を低減させつつも、基板の主面に適切に薄膜を形成することができる。
【0025】
スパッタリング装置の第2から第4の態様によれば、基板空間に吸引口が設けられるので、基板空間からスパッタ空間に流入する反応性ガスの量をさらに低減させることができる。
【0026】
スパッタリング装置の第5の態様によれば、反応性ガスは第2給気口から基板側に向かって吐出されるので、スパッタ空間に流入する反応性ガスの量をさらに低減させることができる。
【0027】
スパッタリング装置の第6の態様によれば、基板に反応性ガスをより均一に供給することができる。
【0028】
スパッタリング装置の第7の態様によれば、ターゲットの主面近傍の空間をスパッタガスでパージすることができる。よって、反応性ガスがターゲットに到達しにくく、ターゲットが反応性ガスと反応する可能性をさらに低減させることができる。
【0029】
スパッタリング装置の第8の態様によれば、ターゲットにスパッタガスをより均一に供給することができる。
【0030】
スパッタリング装置の第9の態様によれば、スパッタ空間内の圧力を基板空間内の圧力よりも高くすることができる。よって、スパッタ空間に流入する反応性ガスの流量をさらに低減させることができる。
【0031】
スパッタリング装置の第10および第11の態様によれば、第1電源が間欠的に動作する場合、ターゲットに第1電圧が印加されない期間が存在する。当該期間では、反応性ガスのイオンのターゲットへの引力が生じない。第2電源が間欠的に動作する場合、導電部材に第2電圧が印加されない期間が存在する。当該期間では、反応性ガスをプラズマ化しないので、反応性の高い粒子(イオン等)が発生しない。よって当該期間では、反応性の高い粒子が多く存在する場合に比して、ターゲットと当該粒子との反応を抑制できる。
【0032】
スパッタリング装置の第12の態様によれば、第2電圧によって反応性ガスがプラズマ化した後の第1中断期間において、当該プラズマの少なくとも一部がガスに戻る。よって、当該プラズマが低減した状態で、第1電圧が出力される。したがって、ターゲットが当該プラズマ中の粒子(反応性ガスを基にしたプラズマ粒子)と反応する可能性を低減させることができる。
【0033】
スパッタリング装置の第13の態様によれば、第2中断期間が第1中断期間よりも短いので、ターゲットが反応性ガスの構成元素と反応する可能性を低減させつつも、成膜レートを高めることができる。
【0034】
スパッタリング装置の第14の態様によれば、スパッタガスの供給停止に伴うスパッタ空間の圧力低下を回避することができる。よって、第1電源が第1電圧の出力を中断しているときでも、基板空間からスパッタ空間への反応性ガスの流入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】エッチング装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。
図2】エッチング装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
図3】仕切部材およびチムニーの一例を概略的に示す斜視図である。
図4】ターゲット、環状管およびチムニーの構成の一例を概略的に示す平面図である。
図5】ターゲットと基板との間の距離を変更したときに基板の主面に形成される薄膜の膜厚分布の一例を模式的に示す図である。
図6】制御部の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図7】スパッタリング装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図8】第1電源および第2電源の出力電圧の一例を示すグラフである。
図9】第1電源および第2電源の出力電圧の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照しながら、実施の形態について説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法または数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0037】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「一方向に」「一方向に沿って」「平行」「直交」「中心」「同心」「同軸」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば、「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸または面取りなどを有する形状も表すものとする。一の構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「A,BおよびCの少なくともいずれか一つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A,BおよびCのうち任意の2つ、ならびに、A,BおよびCの全てを含む。
【0038】
<スパッタリング装置の概要>
図1は、スパッタリング装置100の構成の一例を概略的に示す図である。図2は、スパッタリング装置100の構成の一例を概略的に示す図であり、図1のA-A断面を下側から見た構成を示す。
【0039】
スパッタリング装置100は、反応性スパッタリングによる成膜処理を基板Wに対して行う成膜装置である。基板Wは、例えばサファイア等の基板である。基板Wは例えば円板形状を有する。なお、基板Wの材料および形状はこれらに限らず、適宜に変更し得る。
【0040】
スパッタリング装置100はチャンバ1と仕切部材2とターゲット3と基板保持部4とスパッタガス供給部5と反応性ガス供給部6と第1プラズマ発生部7と第2プラズマ発生部8と制御部9とを含んでいる。
【0041】
チャンバ1は箱形の中空形状を有している。チャンバ1の内部空間は、基板Wに対する成膜処理を行う処理空間に相当する。チャンバ1は真空チャンバとも呼ばれ得る。
【0042】
スパッタリング装置100は吸引機構10も含む。吸引機構10は吸引口10aを有し、吸引口10aはチャンバ1の内部空間において開口する。吸引機構10は吸引口10aからガスを吸引することにより、チャンバ1内の圧力を低下させ、当該圧力を所定の減圧範囲内に調整する。吸引機構10の吸引動作は制御部9によって制御される。
【0043】
仕切部材2はチャンバ1内に設けられている。仕切部材2は第1開口2aを有し、第1開口2a以外において、チャンバ1の内部空間をスパッタ空間(第1空間)1aと基板空間(第2空間)1bとに区画する。スパッタ空間1aおよび基板空間1bは第1開口2aを通じて互いに繋がっている。図1の例では、仕切部材2は板状の形状を有しており、その厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢で設けられる。第1開口2aは鉛直方向において仕切部材2を貫通する。
【0044】
仕切部材2の外周縁はチャンバ1の内側面に連結される。図2の例では、チャンバ1の内側面は平面視において円形状を有している。仕切部材2の外周縁はチャンバ1の内側面と同様に平面視において円形状を有しており(図3も参照)、チャンバ1の内側面の全周に連結される。この仕切部材2はチャンバ1の内部空間を上部空間および下部空間に区画する。図1の例では、下部空間はスパッタ空間1aに相当し、上部空間は基板空間1bに相当する。
【0045】
図2および図3の例では、仕切部材2の第1開口2aは平面視において基板Wと同種の形状(ここでは円形状)を有している。
【0046】
基板保持部4は基板空間1b内に設けられており、仕切部材2の第1開口2aと鉛直方向において向かい合う。基板保持部4は、基板Wの主面(図では下面)Waが第1開口2a側を向いた水平姿勢で基板Wを保持する。ここでいう水平姿勢とは、基板Wの厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢である。基板Wが基板保持部4によって保持された状態で、基板Wの主面Waは基板空間1bに露出する。
【0047】
図1の例では、スパッタリング装置100はヒータ11も含む。ヒータ11はチャンバ1内において基板保持部4よりも鉛直上側に設けられている。ヒータ11は制御部9によって制御され、基板保持部4によって保持された基板Wを加熱する。ヒータ11は、例えば電熱線を含む電気抵抗式のヒータであってもよく、あるいは、加熱用の光(例えば赤外線)を基板Wに照射する光源を含む光学式のヒータであってもよい。ヒータ11は基板Wの温度を、成膜処理に適した温度範囲内に調整する。
【0048】
ターゲット3はスパッタ空間1a内に設けられており、仕切部材2の第1開口2aと鉛直方向において向かい合う。よって、ターゲット3は第1開口2aを通じて、基板保持部4によって保持された基板Wと鉛直方向において向かい合う。言い換えれば、基板保持部4、基板W、第1開口2aおよびターゲット3は鉛直方向に沿って並んで配置される。
【0049】
図2および図3の例では、ターゲット3は基板Wと同種の形状(ここでは円板形状)を有している。ターゲット3はターゲット保持部30によって保持される。ターゲット保持部30はターゲット3の主面(図では上面)3aが第1開口2a側を向いた水平姿勢で、ターゲット3を保持する。ここでいう水平姿勢とは、ターゲット3の厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢である。ターゲット3がターゲット保持部30によって保持された状態で、ターゲット3の主面3aはスパッタ空間1aに露出する。
【0050】
ターゲット3の材料は、基板Wの主面Waに形成する薄膜の種類に応じて選定される。例えば、窒化ガリウム膜または酸化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合、ターゲット3はガリウムを含む。より具体的な一例として、ターゲット3はガリウム製の金属ターゲットである。ガリウムの融点は29.8度であるのに対して、スパッタリングによる加熱によってターゲット3の温度は数百度程度になり得る。よって、ターゲット3を冷却しなければ、ターゲット3は液化する。ターゲット保持部30は、液化したターゲット3を保持することが可能である。例えばターゲット保持部30は鉛直上側に開口する凹形状を有し、液化したターゲット3を貯留する。
【0051】
スパッタガス供給部5は、スパッタ空間1aにおいて開口する第1給気口5aを有する。つまり、第1給気口5aはスパッタ空間1a内に配置される。スパッタガス供給部5はスパッタガスを第1給気口5aからスパッタ空間1aに供給する。スパッタガスは不活性ガスであり、例えばアルゴンガスまたはキセノンガスなどの希ガスである。
【0052】
第1プラズマ発生部7はチャンバ1内においてスパッタガスをプラズマ化させ、そのプラズマ中のイオン(例えばアルゴンイオン)をターゲット3の主面3aに衝突させる。当該衝突によってスパッタ粒子(例えばガリウム粒子)がターゲット3の主面3aから飛び出す。当該スパッタ粒子は仕切部材2の第1開口2aを通過して基板Wの主面Waに到達し、基板Wの主面Waに積層される。
【0053】
図1の例では、スパッタリング装置100はチムニー(囲み部材に相当)20を含んでいる。チムニー20はスパッタ空間1a内に設けられる。チムニー20は箱形の中空形状を有し、ターゲット3を囲んでいる。
【0054】
図3は、仕切部材2およびチムニー20の構成の一例を概略的に示す斜視図である。チムニー20は庇部21と側壁22とを含む。側壁22はターゲット3を取り囲む筒状形状を有しており、側壁22の下端はチャンバ1の底面に連結されている。庇部21は板状形状を有しており、その外周縁が側壁22の上端に連結されている。庇部21の下面は、ターゲット3の主面3aよりも鉛直上側に位置している。庇部21には、ターゲット3と鉛直方向において向かい合う位置で第2開口20aが形成されている。第2開口20aは庇部21を鉛直方向において貫通する。図3の例では、第2開口20aはターゲット3と同種の形状(ここでは円形状)を有している。
【0055】
このようなスパッタリング装置100において、基板W、第1開口2a、第2開口20aおよびターゲット3は鉛直方向において並んで配置される。基板W、第1開口2a、第2開口20aおよびターゲット3は例えば同軸上に配置され得る。
【0056】
図1の例では、スパッタガス供給部5の第1給気口5aはチムニー20の内部空間に設けられている。これにより、スパッタガス供給部5はターゲット3に近い位置でスパッタガスを供給することができる。よって、ターゲット3に近い位置でプラズマを発生させることができ、ターゲット3にイオンを衝突させやすい。
【0057】
反応性ガス供給部6は、基板空間1bにおいて開口する第2給気口6aを有している。つまり、第2給気口6aは基板空間1b内に設けられる。より具体的には、第2給気口6aは、鉛直方向において仕切部材2と向かい合う位置に設けられている。言い換えれば、第2給気口6aは仕切部材2の第1開口2aとは鉛直方向において対向せず、平面視において第1開口2aと隣り合っている。
【0058】
反応性ガス供給部6は反応性ガスを第2給気口6aから基板空間1bに供給する。反応性ガスとしては、基板Wの主面Waに形成する薄膜の種類に応じたガスを採用することができる。例えば窒化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合、窒素を含むガスを反応性ガスとして採用する。具体的な一例として、反応性ガスは、窒素(N)ガスおよびアンモニア(NH)ガスの少なくともいずれかを含む。酸化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合には、反応性ガスとして、酸素を含むガスを採用する。酸素を含む反応性ガスとしては、例えば、酸素(O)ガスを採用し得る。
【0059】
以下では主として、ターゲット3としてガリウムを採用し、反応性ガスとして窒素ガスを採用した場合について述べる。
【0060】
第2プラズマ発生部8はチャンバ1内(主として基板空間1b)において反応性ガスをプラズマ化させる。これにより、反応性の高い窒素粒子(例えば窒素のイオンまたはラジカル)が生成され、当該窒素粒子が基板Wの主面Waと反応する。
【0061】
スパッタリング装置100の各種構成は制御部9によって制御される。具体的には、制御部9は、スパッタガス供給部5、反応性ガス供給部6、第1プラズマ発生部7、第2プラズマ発生部8、吸引機構10およびヒータ11を制御する。
【0062】
制御部9は吸引機構10を制御して、チャンバ1内の圧力を成膜処理に適した減圧範囲内に調整し、ヒータ11を制御して、基板Wの温度を成膜処理に適した温度範囲内に調整する。そして、制御部9はスパッタガス供給部5および反応性ガス供給部6を制御して、チャンバ1内にスパッタガスおよび反応性ガスを供給させ、第1プラズマ発生部7および第2プラズマ発生部8を制御して、スパッタガスおよび反応性ガスをプラズマ化させる。これにより、スパッタ粒子(具体的にはガリウム粒子)および反応性ガスのプラズマ粒子(例えば窒素粒子)が基板Wの主面Waに供給され、基板Wの主面Waに所定の薄膜(例えば窒化ガリウム膜)を形成する。
【0063】
ところで、もし窒素が基板空間1bからスパッタ空間1a内に流入し、ターゲット3と反応すると、ターゲット3が窒化する。このようにターゲット3が反応性ガスと反応すると、ターゲット3の品質が低下し、基板Wに対する成膜処理の成膜レートの低下、および、基板Wの主面Waに形成される薄膜の品質低下を招く。
【0064】
しかもターゲット3がガリウム製の金属ターゲットである場合、その融点が低いので、成膜処理中にターゲット3は液化し得る。液化したターゲット3が窒素と反応すると、対流により窒素がターゲット3の内部に取り込まれ、ターゲット3の表面のみならず、その内部でも窒素濃度が高くなる。窒素濃度が高くなったターゲット3を用いると、成膜レートは大きく低下し、薄膜の品質も大きく低下してしまう。
【0065】
これに対して本実施形態では、チャンバ1の内部空間をスパッタ空間1aおよび基板空間1bに区画する仕切部材2が設けられており、また、反応性ガス供給部6の第2給気口6aは基板空間1bにおいて仕切部材2と鉛直方向で向かい合う位置に設けられている。このようなスパッタリング装置100によれば、第2給気口6aから吐出された反応性ガスは高真空度のチャンバ1内を広がるものの、鉛直下側に向かう反応性ガスの流れの一部は仕切部材2によって遮られる。つまり、仕切部材2はスパッタ空間1aと基板空間1bとの間の通過領域(第1開口2a)の大きさを制限することで、基板空間1bからスパッタ空間1aに流入する反応性ガスの量を低減させる。なお、仕切部材2はスパッタ空間1aへの反応性ガスの流れを遮蔽することから、遮蔽部材であるともいえる。
【0066】
このスパッタリング装置100によれば、スパッタ空間1aに流入する反応性ガスの量を低減させることができるので、ターゲット3と反応性ガスとが反応する可能性を低減させることができる。よって、ターゲット3の品質の低下を抑制することができる。ひいては、成膜レートの低下および薄膜の品質の低下を抑制することができる。
【0067】
しかも上述の例では、チムニー20も設けられている。チムニー20はターゲット3を囲むので、チムニー20の内部空間への反応性ガスの流入を抑制することができる。これによって、ターゲット3が反応性ガスと反応する可能性をさらに低減することができる。なお、チムニー20はその内部空間と外部空間とを区画するので、仕切部材の一種であるともいえる。
【0068】
また上述の例では、ターゲット3の冷却機構を設けていない。よって、スパッタリング装置100の構成を簡易化でき、その製造コストも低減させることができる。
【0069】
次に各構成の具体例について詳述する。
【0070】
<吸引機構>
吸引機構10はチャンバ1内のガスを吸引する。図1の例では、吸引機構10の吸引口10aは基板空間1bにおいて開口している。具体的な一例として、吸引口10aは基板保持部4よりも鉛直上側に設けられており、例えばチャンバ1の天井部に形成される。つまり、吸引口10aは、基板保持部4に対して仕切部材2の第1開口2aとは反対側に形成される。吸引機構10としては、例えば真空ポンプ、より具体的な一例としてターボ分子ポンプを採用することができる。
【0071】
吸引機構10が作動すると、チャンバ1内のガスが吸引口10aに吸引される。具体的には、基板空間1b内のガスは吸引口10aに向かって流れて吸引され、スパッタ空間1a内のガスは仕切部材2の第1開口2aを通過して基板空間1b内に流入し、基板空間1b内を吸引口10aに向かって流れて吸引される。
【0072】
このようなガスの流れによれば、基板空間1b内のガスはスパッタ空間1aに流入しにくい。よって、反応性ガス供給部6によって基板空間1b内に供給された窒素はスパッタ空間1aに流入しにくく、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0073】
<スパッタガス供給部>
スパッタガス供給部5はスパッタ空間1aにスパッタガスを供給する。図1の例では、スパッタガス供給部5は給気管51とバルブ52と流量調整部53とを含んでいる。
【0074】
給気管51は環状管511と中継管512とを含んでいる。環状管511はスパッタ空間1a内に設けられており、チムニー20が設けられる場合には、チムニー20の内部空間に設けられる。
【0075】
図4は、ターゲット3、環状管511およびチムニー20の位置関係の一例を概略的に示す平面図である。図4の例では、環状管511は平面視においてターゲット3を囲む。図4の例では、ターゲット3は平面視において円形状を有しているので、環状管511は円環形状を有している。環状管511の内径はターゲット3の直径よりも大きい。また図4の例では、環状管511の内径はチムニー20の第2開口20aの直径よりも大きい。よって、環状管511は鉛直方向においてチムニー20の庇部21と向かい合う。
【0076】
図1の例では、環状管511の鉛直方向における位置は、ターゲット3の主面3aよりも第2開口20a側(ここでは鉛直上側)である。具体的には、環状管511はチムニー20の庇部21とターゲット3との間の高さ位置に設けられている。
【0077】
環状管511の内周部分には、第1給気口5aが形成されている。図4の例では、環状管511の内周部分には、複数の第1給気口5aが周方向において間隔を空けて並んで形成されている。言い換えれば、第1給気口5aはターゲット3のまわりを囲むように並んで設けられる。複数の第1給気口5aは周方向において等間隔で設けられてもよい。環状管511は平面視においてターゲット3の周囲に設けられているので、第1給気口5aもターゲット3の周囲に位置する。言い換えれば、第1給気口5aは平面視においてターゲット3の周縁よりも外周側に位置する。第1給気口5aの開口方向は、ターゲット3の主面3a近傍の空間に向かう方向である。図4の例では、第1給気口5aの平面視における開口方向は、ターゲット3の中心に向かう方向である。第1給気口5aの開口方向は水平方向に平行であってもよく、わずかに傾斜していてもよい。
【0078】
中継管512は環状管511とスパッタガス供給源54とを接続する。図1の例では、中継管512は複数の分岐管5121と共通管5122とを含む。複数の分岐管5121の下流端は環状管511に接続される。例えば複数の分岐管5121は周方向において等間隔となる位置で環状管511に接続される。複数の分岐管5121の上流端は共通管5122に接続される。共通管5122の上流端はスパッタガス供給源54に接続される。スパッタガス供給源54は共通管5122の上流端にスパッタガスを供給する。
【0079】
バルブ52は給気管51に介装される。図1の例では、バルブ52は共通管5122に介装される。バルブ52は制御部9によって制御され、バルブ52が開くことにより、スパッタガス供給源54から給気管51を通じてスパッタ空間1a内にスパッタガスが供給される。バルブ52が閉じることにより、スパッタガスの供給が停止する。
【0080】
流量調整部53は給気管51に介装される。図1の例では、流量調整部53は共通管5122に介装される。流量調整部53は制御部9によって制御され、給気管51を流れるスパッタガスの流量を調整する。流量調整部53は例えばマスフローコントローラである。
【0081】
このようなスパッタガス供給部5によれば、複数の第1給気口5aはターゲット3の周囲からターゲット3の主面3aの近傍空間に向けてスパッタガスを吐出する。これにより、ターゲット3の主面3a近傍の空間をスパッタガスでパージすることができる。よって、窒素が基板空間1bから第1開口2aおよび第2開口20aを通じてターゲット3の主面3aに向かって流れたとしても、スパッタガスが窒素の流れを阻害するので、窒素はターゲット3の主面3aに到達しにくい。よって、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0082】
また、上述の例では、複数の第1給気口5aが周方向において等間隔に配置されており、ターゲット3の中心に向けてスパッタガスを吐出する。これによれば、ターゲット3の主面3a近傍の空間により均一にスパッタガスを供給することができる。したがって、ターゲット3に対してより均一にスパッタリングを行うことができる。
【0083】
<第1プラズマ発生部>
第1プラズマ発生部7はスパッタガスをプラズマ化させる。図1の例では、第1プラズマ発生部7は第1電源71を含んでいる。第1電源71はターゲット3にスパッタ用の直流または交流(高周波)の電力を供給する。ここでは、ターゲット3は導電性の金属ターゲットであるので、第1電源71として直流電源を採用することができる。この場合、第1電源71はターゲット3に直流電力を供給する。第1電源71は例えばターゲット3とチャンバ1との間に直流電圧(第1電圧に相当)を出力する。より具体的には、第1電源71は、ターゲット3に負電位が印加されるように直流電圧を出力する。図1に例示するように、チャンバ1は接地されてもよい。また、基板保持部4はチャンバ1と電気的に接続されてもよい。
【0084】
第1電源71は例えばスイッチング電源回路(不図示)を含む。第1電源71の出力は制御部9によって制御される。第1電源71がターゲット3に直流電力を供給することにより、ターゲット3の周囲にはプラズマ用の電界が生じる。そして、当該電界がスパッタガスに作用することにより、スパッタガスが電離してプラズマ化する。
【0085】
図1の例では、第1プラズマ発生部7は磁石72,73をさらに含んでいる。磁石72および磁石73はターゲット3よりも鉛直下側に設けられ、ターゲット3の主面3a近傍の空間まで磁界を発生させる。図1の例では、磁石72および磁石73はチャンバ1よりも鉛直下側に設けられている。磁石72および磁石73は例えば永久磁石である。磁石73は平面視において磁石72を囲む環状形状を有する。磁石72がターゲット3に向ける磁極の極性は、磁石73がターゲット3に向ける磁極の極性と異なっている。
【0086】
磁石72および磁石73がターゲット3の主面3aの近傍に磁界を発生させることにより、当該磁界の内部に電子を囲い込むことができる。これにより、当該磁界内において濃度の高いプラズマを発生させることができ、ターゲット3に対するスパッタリング速度を向上させることができる。よって、成膜レートを向上させることができる。
【0087】
<反応性ガス供給部>
反応性ガス供給部6は基板空間1bに反応性ガスを供給する。図1の例では、反応性ガス供給部6は給気管61とバルブ62と流量調整部63とを含んでいる。
【0088】
給気管61は環状管611と中継管612とを含む。環状管611は基板空間1b内に設けられており、図2の例では、平面視において基板Wを囲む。図2の例では、基板Wは平面視において円形状を有しているので、環状管611は円環形状を有している。環状管611の内径は基板Wの直径よりも大きい。また、環状管611の内径は仕切部材2の第1開口2aの直径よりも大きく、環状管611は鉛直方向において仕切部材2と向かい合う(図1も参照)。
【0089】
環状管611の鉛直方向における位置は、例えば基板Wの主面Waよりも仕切部材2の第1開口2a側(ここでは鉛直下側)である。言い換えれば、環状管611は基板Wと仕切部材2との間の高さ位置に設けられている。
【0090】
環状管611の内周部分には、第2給気口6aが形成されている。図2の例では、環状管611の内周部分には、複数の第2給気口6aが周方向において間隔を空けて並んで形成されている。言い換えれば、複数の第2給気口6aは基板Wのまわりを囲むように並んで設けられる。複数の第2給気口6aは周方向において等間隔で設けられてもよい。環状管611は平面視において基板Wの周囲に設けられているので、第2給気口6aも基板Wの周囲に位置する。言い換えれば、第2給気口6aは基板Wの周縁よりも外周側に位置する。第2給気口6aの平面視における開口方向は、基板Wの中心に向かう方向である。また図1の例では、第2給気口6aの開口方向は、水平方向よりも基板W側(ここでは鉛直上側)に傾斜している。
【0091】
中継管612は環状管611と反応性ガス供給源64とを接続する。図1の例では、中継管612は複数の分岐管6121と共通管6122とを含む。複数の分岐管6121の下流端は環状管611に接続される。例えば複数の分岐管6121は周方向において等間隔となる位置で環状管611に接続される。複数の分岐管6121の上流端は共通管6122に接続される。共通管6122の上流端は反応性ガス供給源64に接続される。反応性ガス供給源64は共通管6122の上流端に反応性ガスを供給する。
【0092】
バルブ62は給気管61に介装される。図1の例では、バルブ62は共通管6122に介装される。バルブ62は制御部9によって制御され、バルブ62が開くことにより、反応性ガス供給源64から給気管61を通じてチャンバ1の基板空間1b内に反応性ガスが供給される。バルブ62が閉じることにより、反応性ガスの供給が停止する。
【0093】
流量調整部63は給気管61に介装される。図1の例では、流量調整部63は共通管6122に介装される。流量調整部63は制御部9によって制御され、給気管61を流れる反応性ガスの流量を調整する。流量調整部63は例えばマスフローコントローラである。
【0094】
このような反応性ガス供給部6によれば、複数の第2給気口6aは平面視において基板Wの周囲に位置し、側面視において基板Wの主面Waよりも少し鉛直下側に位置する。これによれば、基板Wの主面Wa近傍の空間に反応性ガス(ここでは窒素ガス)を供給することができる。
【0095】
また上述の例では、複数の第2給気口6aが周方向において等間隔に配置されており、基板Wの中心に向けて窒素ガスを吐出する。これによれば、基板Wの主面Wa近傍の空間により均一に窒素ガスを供給することができる。したがって、基板Wの主面Waのガリウムをより均一に窒化することができる。
【0096】
しかも上述の例では、第2給気口6aの開口方向は水平よりも基板W側に傾斜しているので、反応性ガスは第2給気口6aから基板W側に向かって吐出される。よって、窒素ガスは鉛直下側(つまりスパッタ空間1a)よりも鉛直上側に流れやすい。したがって、スパッタ空間1aに流入する窒素の量をさらに低減させることができる。ひいては、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0097】
<第2プラズマ発生部>
第2プラズマ発生部8は反応性ガスをプラズマ化させる。図1の例では、第2プラズマ発生部8は誘導結合アンテナ81と第2電源82とを含んでいる。誘導結合アンテナ81はU字状の導電部材811を含む。導電部材811はその両端部分が鉛直上側に位置する姿勢でチャンバ1の基板空間1b内に設けられ、より具体的には、チャンバ1の天井部に取り付けられる。導電部材811の両端部分は例えばチャンバ1の天井部を貫通し、当該両端が第2電源82に電気的に接続される。導電部材811はプラズマ発生用の電極(アンテナ)として機能する。
【0098】
図1に例示するように、誘導結合アンテナ81は、導電部材811を保護する誘電部材812を含んでいるとよい。誘電部材812は導電部材811を覆う中空状のU字形状を有する。誘電部材812が設けられることにより、導電部材811がプラズマに曝されることを抑制できる。したがって、プラズマに起因した導電部材811の損耗を抑制することができる。
【0099】
図1および図2の例では、複数の誘導結合アンテナ81が設けられており、平面視において、基板Wの周囲に設けられている。図1および図2の例では、2つの誘導結合アンテナ81が平面視において基板保持部4に対して互いに反対側に設けられている。また図2の例では、2つの誘導結合アンテナ81は平面視において環状管611よりも外周側に設けられている。
【0100】
第2電源82は誘導結合アンテナ81に高周波電力を供給する。第2電源82は例えばインバータ回路および整合回路を含み、制御部9によってその出力が制御される。第2電源82が誘導結合アンテナ81(導電部材811)の両端に高周波電圧(第2電圧に相当)を印加することにより、誘導結合アンテナ81の周囲にはプラズマ発生用の高周波誘導磁界が生じ、これが反応性ガスに作用することにより、反応性ガスが電離してプラズマ化する。このような誘導結合プラズマは、電子の空間密度が3×1010個/cm以上の高密度プラズマである。
【0101】
また、本実施形態のようにU字状の誘導結合アンテナ81は、巻数が一周未満の誘導結合アンテナに相当し、巻数が一周以上の誘導結合アンテナよりもインダクタンスが低い。このため、誘導結合アンテナ81の両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が特に低く抑えられる。これにより、基板Wへのダメージを低減することが可能となる。
【0102】
<仕切部材およびチムニー>
次に、仕切部材2の第1開口2aとチムニー20の第2開口20aの大小の一例について説明する。図1および図3の例では、第1開口2aの開口面積は第2開口20aの開口面積よりも小さい。以下、この点について、図5も参照して説明する。図5は、ターゲット3と基板Wとの間の距離を変更したときに基板Wの主面Waに形成される薄膜の膜厚分布の一例を模式的に示す図である。図5では、ターゲット3から第1距離だけ離れた位置に基板Wを配置したときの膜厚分布を曲線G1で示し、ターゲット3から第2距離だけ離れた位置に基板Wを配置したときの膜厚分布を曲線G2で示している。第2距離は第1距離よりも長い。
【0103】
図5に示すように、基板Wがターゲット3から離れるほど、十分な膜厚で成膜される成膜領域が狭くなる。これは、ターゲット3の主面3aから飛び出したスパッタ粒子が広がりつつ基板Wに向かって移動するためと考えられる。
【0104】
そこで、ターゲット3に近いチムニー20の第2開口20aの開口面積を、基板Wに近い仕切部材2の第1開口2aの開口面積よりも大きく設定するとよい。ここでは、第1開口2aおよび第2開口20aは円形状を有しているので、第2開口20aの直径R2を第1開口2aの直径R1よりも大きく設定している。
【0105】
これによれば、ターゲット3の主面3aから飛び出したスパッタ粒子はより広い第2開口20aを通過して基板Wに向かって移動する。したがって、より多くのスパッタ粒子を基板W側に移動させることができる。
【0106】
なお、図5に例示するように、第2開口20aの直径R2はターゲット3の直径R21よりも大きくてもよい。これにより、ターゲット3の主面3aからのスパッタ粒子の多くを基板W側に通過させることができる。
【0107】
スパッタ粒子は第2開口20aから基板Wに向かって移動する。そして、スパッタ粒子はより狭い第1開口2aを通過して基板Wに向かって移動する。第1開口2aは第2開口20aよりも狭いものの、ターゲット3から離れた位置での膜厚分布では、成膜領域は狭くなるので、第1開口2aが狭くても膜厚に問題は生じない。逆に言えば、基板Wの主面Waに適切に薄膜を形成できるように、第1開口2aの大きさを第2開口20aよりも小さい範囲内で設定しつつ、基板Wとターゲット3との間の距離を設定すればよい。なお、第1開口2aの直径R1は基板Wの直径R11以上に設定されるとよい。
【0108】
また、仕切部材2の第1開口2aの開口面積がチムニー20の第2開口20aの開口面積よりも小さければ、第1開口2aを通じて基板空間1bからスパッタ空間1aに流入する反応性ガスの量を低減させることができる。したがって、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0109】
以上のように、第1開口2aの開口面積を第2開口20aの開口面積よりも小さくすることにより、基板Wの主面Waに対する成膜処理を適切に行いつつも、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0110】
<制御部>
図6は、制御部9の構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御部9は電子回路機器であって、例えばデータ処理装置91および記憶媒体92を有していてもよい。データ処理装置91は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶媒体92は非一時的な記憶媒体921(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体922(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体921には、例えば制御部9が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。データ処理装置91がこのプログラムを実行することにより、制御部9が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部9が実行する処理の一部または全部が、論理回路などのハードウェア回路によって実行されてもよい。
【0111】
<制御方法>
次にスパッタリング装置100の動作のより具体的な一例について述べる。図7は、スパッタリング装置100の動作の一例を示すフローチャートである。まず、不図示の基板搬送部が未処理の基板Wをチャンバ1内に搬送する(ステップS1)。次に、吸引機構10がチャンバ1内のガスの吸引を開始し(ステップS2)、ヒータ11が基板Wを加熱させ始める(ステップS3)。吸引機構10はチャンバ1内の圧力を成膜処理に適した減圧範囲内に調整し、ヒータ11は基板Wの温度を成膜処理に適した温度範囲内に調整する。
【0112】
次に、スパッタガス供給部5がスパッタガスの供給を開始し、反応性ガス供給部6が反応性ガスの供給を開始する(ステップS4)。具体的には、制御部9はバルブ52およびバルブ62を開く。これにより、チャンバ1内にスパッタガスおよび反応性ガスが並行して供給される。ここでは、成膜処理(後述のステップS5)において、スパッタガス供給部5はスパッタガスを供給し続け、反応性ガス供給部6は反応性ガスを供給し続ける。
【0113】
次に、第1プラズマ発生部7および第2プラズマ発生部8は交互にガスをプラズマ化させる(ステップS5)。具体的には、制御部9は第1電源71および第2電源82に交互に電圧を出力させる。図8は、第1電源71および第2電源82の出力電圧の一例を示すグラフである。図8に例示するように、第1電源71による直流電圧と、第2電源82による高周波電圧とが交互に出力される。出力電圧の切り替え周波数は例えば数千Hz(例えば5kHz)程度である。
【0114】
第1電源71が直流電圧を出力する期間T1では、ターゲット3とチャンバ1との間に直流電圧が印加される。よって、ターゲット3の周囲にプラズマ用の電界が生じ、当該電界によりスパッタガスがプラズマ化する。これにより、ターゲット3に対するスパッタリングが行われる。ターゲット3の主面3aから飛び出したスパッタ粒子は第2開口20aおよび第1開口2aを通じて基板Wに向かって移動し、基板Wの主面Waに積層される。
【0115】
第2電源82が高周波電圧を出力する期間T2では、誘導結合アンテナ81に高周波電圧が印加される。これにより、誘導結合アンテナ81の周囲に高周波誘導磁界が生じ、窒素ガスがプラズマ化する。プラズマ化によって生成された窒素粒子(イオンまたはラジカル)は高い反応性を有するので、基板Wの主面Waと反応する。
【0116】
図8の例では、第2電源82が高周波電圧の出力を停止してから、第1電源71および第2電源82の両方が電圧の出力を中断する所定の第1中断期間T3の経過後に、第1電源71が直流電圧を出力している。つまり、高周波電圧の出力が停止に切り替わってから第1中断期間T3の経過後に第1電源71が直流電圧を出力する。この技術的意義については後に述べる。
【0117】
ここでは、第1電源71および第2電源82は交互に動作するので、基板Wの主面3aにはガリウムの成膜および当該ガリウムの窒化が交互に行われて、窒化ガリウム膜が形成され得る。
【0118】
ステップS5の成膜処理によって、基板Wに十分な膜厚で窒化ガリウム膜が形成されると、スパッタガスおよび反応性ガスの供給を停止し、第1電源71および第2電源82の電圧の出力を停止し、ヒータ11による加熱を停止し、吸引機構10による減圧を停止する(ステップS6)。次に、基板搬送部が処理済みの基板Wをチャンバ1から搬出する(ステップS7)。
【0119】
上述の動作によって、基板Wの主面Waに所定の薄膜(ここでは窒化ガリウム膜)を形成することができる。
【0120】
しかも図8の例では、第2電源82が高周波電圧の出力を停止した後に、第1中断期間T3において第1電源71および第2電源82の両方が電圧の出力を停止する。よって、第1中断期間T3において、反応性の高い窒素粒子が反応性の低いガスに戻る。つまり、第1中断期間T3では第1電源71および第2電源82の両方が電圧の出力を停止するので、チャンバ1内のプラズマの多くが時間の経過とともにガスに戻る。よって、反応性の高い窒素粒子の多くも反応性の低いガスに戻る。第1中断期間T3はプラズマがガスに戻るための期間であり、その長さは予め設定される。例えば第1中断期間T3は50μ秒以上に設定される。
【0121】
続く期間T1において、第1電源71は直流電圧を出力する。よって、第1電源71は基板空間1bにおいて反応性の高い窒素粒子(例えば窒素イオン)が低減した状態で、直流電圧を出力する。したがって、期間T1の初期から窒素粒子がターゲット3と反応する可能性を低減させることができる。つまり、基板空間1b内に窒素粒子が多く存在する状態で第1電源71がターゲット3に負電位を印加すると、窒素イオンがターゲット3に引き寄せられて、ターゲット3が窒化する可能性がある。これに対して、図8の例では、第1中断期間T3において多くの窒素粒子をガスに戻してから期間T1において第1電源71が直流電圧を出力する。よって、期間T1においてターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0122】
その一方で、図8の例では、第1電源71が直流電圧の出力を停止に切り替えた時点とほぼ同時に、第2電源82が高周波電圧を出力し始める。つまり、スパッタ空間1a内にアルゴンプラズマが存在していても、窒素粒子とガリウムとの反応に問題を生じさせないので、第1電源71の出力停止とほぼ同時に第2電源82が高周波電圧を出力し始める。これにより、第1電源71から第2電源82への電圧の切り替えの際に、一旦、第1電源71および第2電源82が電圧の出力を停止させる場合に比して、成膜レートを向上させることができる。
【0123】
もちろん、第1電源71から第2電源82への電圧の切り替えの際にも、第1電源71および第2電源82の両方が一旦電圧の出力を停止させてもよい。図9は、第1電源71および第2電源82の出力電圧の一例を示すグラフである。図9の例では、第1電源71が直流電圧の出力を停止した時点からの所定の第2中断期間T4においても、第1電源71および第2電源82の両方が電圧の出力停止を維持する。この場合、第1中断期間T3を第2中断期間T4よりも長く設定するとよい。これによれば、第1中断期間T3が長いので、より多くの反応性の高い窒素粒子が反応性の低いガスに戻った状態で第1電源71が直流電圧を出力させることができつつも、第2中断期間T4が短いので、成膜レートを向上させることができる。
【0124】
また、上述の動作例では、スパッタガスおよび反応性ガスの両方を並行して供給し続けている。ここで、チャンバ1内において反応性ガスおよびスパッタガスの入れ替えを行う場合について考察する。つまり、チャンバ1内の雰囲気をほぼスパッタガスとして第1電源71が直流電圧を出力し、その後、スパッタガスの供給を停止して反応性ガスの供給を行うことで、チャンバ1内の雰囲気を反応性ガスとしてから、第2電源82が高周波電圧を出力する場合について考察する。このような反応性ガスおよびスパッタガスの入れ替えにはある程度の入れ替え期間が必要であり、その入れ替え時間では成膜が中断する。この入れ替え期間は第1中断期間T3および第2中断期間T4に比べて非常に長いので、成膜レートが大幅に低下する。これに対して上述の動作例では、反応性ガスおよびスパッタガスの両方を並行して供給している。よって、このようなガスの入れ替えに伴う成膜レートの低下を回避することができる。
【0125】
また、スパッタガス供給部5は、第1電源71が直流電圧を出力している期間T1のみならず、第1電源71が直流電圧の出力を中断する期間T2においても、スパッタガスを供給している。つまり、スパッタガスをプラズマ化する必要がない期間T2においても、スパッタガスの供給が維持される。これによれば、期間T2においても、スパッタ空間1a内の圧力を維持することができる。したがって、期間T2においても、反応性ガスのスパッタ空間1aへの流入を抑制することができる。さらに、ターゲット3の主面3aの近傍においてスパッタガスによるパージを維持することもできる。
【0126】
また、上述の例では、スパッタガス供給部5は第1中断期間T3および第2中断期間T4においてもスパッタガスを供給し続ける。よって、第1中断期間T3および第2中断期間T4においても、スパッタ空間1a内の圧力を維持することができ、ターゲット3の主面3aの近傍においてスパッタガスによるパージを維持することもできる。したがって、成膜処理の全期間においてターゲット3の窒化を抑制することができる。
【0127】
<スパッタガスおよび反応性ガスの流量>
スパッタガス供給部5は反応性ガスの流量よりも大きな流量でスパッタガスを供給してもよい。つまり、制御部9は、スパッタガスの流量が反応性ガスの流量よりも大きくなるように、スパッタガス供給部5および反応性ガス供給部6を制御してもよい。より具体的には、制御部9はスパッタガスの流量が反応性ガスの流量よりも大きくなるように、流量調整部53および流量調整部63を制御する。各流量は例えば予め設定される。
【0128】
スパッタ空間1aに供給されるスパッタガスの流量が、基板空間1bに供給される反応性ガスの流量よりも大きければ、スパッタ空間1aの圧力を基板空間1bの圧力よりも高めることができる。よって、基板空間1bから第1開口2aを通じてスパッタ空間1aに流入する窒素の量を低減させることができる。したがって、ターゲット3の窒化をさらに抑制することができる。
【0129】
<変形例>
上述の例では、ターゲット3はいわゆる平型ターゲットであるものの、回転型ターゲットであってもよい。
【0130】
また、上述の具体例では、第2プラズマ発生部8は誘導結合プラズマを発生させているものの、必ずしもこれに限らず、他の手法により、プラズマを発生させてもよい。
【0131】
また、上述の例では、第1プラズマ発生部7および第2プラズマ発生部8が交互にガスをプラズマ化させているものの、必ずしもこれに限らない。第1プラズマ発生部7および第2プラズマ発生部8が成膜処理中にガスをプラズマ化させ続けてもよい。これによっても、仕切部材2がチャンバ1をスパッタ空間1aと基板空間1bとに区画するので、基板空間1bからスパッタ空間1aに流入する窒素の量を低減させることができる。
【0132】
また、第1プラズマ発生部7および第2プラズマ発生部8のいずれか一方のみが間欠的にガスをプラズマ化させてもよい。言い換えれば、第1電源71および第2電源82のいずれか一方のみが間欠的に動作してもよい。第1プラズマ発生部7が間欠的に動作する場合、第1プラズマ発生部7が動作を中断する期間では、反応性の高い窒素粒子がガスに戻る。よって当該期間では、反応性の高い窒素粒子が多く存在する場合に比して、ターゲット3の窒化を抑制できる。第2プラズマ発生部8が間欠的に動作する場合、第2プラズマ発生部8が動作を中断する期間では、ターゲット3に負電位が印加されない。よって、電界による窒素イオンのターゲット3への引力が生じない。よって当該期間でも、ターゲット3の窒化を抑制できる。
【0133】
以上のように、このスパッタリング装置100は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、このスパッタリング装置100がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0134】
1 チャンバ
10 吸引機構
10a 吸引口
100 スパッタリング装置
1a スパッタ空間
1b 基板空間
2 仕切部材
20 囲み部材(チムニー)
21 庇部
22 側壁
2a 第1開口
20a 第2開口
3 ターゲット
4 基板保持部
5 スパッタガス供給部
5a 第1給気口
6 反応性ガス供給部
6a 第2給気口
7 第1プラズマ発生部
71 第1電源
8 第2プラズマ発生部
82 第2電源
811 導電部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9