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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】セッター
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20240620BHJP
   F27D 3/12 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C04B35/64
F27D3/12 S
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020203974
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091255
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】穂積 葉子
(72)【発明者】
【氏名】天野 正実
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-117472(JP,A)
【文献】特開2009-029692(JP,A)
【文献】特開2019-011238(JP,A)
【文献】特開2018-169110(JP,A)
【文献】実開平03-073900(JP,U)
【文献】特開2004-263888(JP,A)
【文献】特開2002-316874(JP,A)
【文献】特開2012-158507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の気孔率20~50%の多孔質の炭化ケイ素セラミックスからなり、主面である表面およびその裏面の外周縁部にリブを有するセッターであって、
前記表面と前記裏面の外周縁部のいずれか一辺の長さをL、前記表面と前記裏面との間隔をT、前記表面および前記裏面の前記リブの厚さをd、前記リブの幅をW、と定義したときに(単位はいずれもmm)、150<L<300、0.2≦T≦1.0および0.1≦d≦2.5であり、かつ、d/T≦2および30≦L/2W≦150、であり、
前記セッターが、矩形の平板状でかつ、その主面である表面が凸形状であり、
前記矩形の対角線に垂直な面であるセッター断面方向において、
前記表面上で引いた矩形の対角線の交点cと四隅の角との4つの断面長さのうち最大値を反り量δとしたときに、前記反り量δが20μm以上30μm以下であることを特徴とするセッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理に使用されるセッターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス等の無機材料を原料として用いて成形された被焼成物を載置して、さらにこれを焼成、熱処理するために使用されるセッターは、焼成時の昇温速度増加による生産性向上を目的として、セッターの熱容量を小さく(例:軽量化)する必要があることから、さらに肉薄化(1mm厚以下)が要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミック原料粉と有機バインダなどの成形助剤とを混合したスラリーを装置に流し込み、前記スラリーをドクターブレードとキャリアの上を移動しているシート成形用フィルムとの隙間に流出させた後、乾燥させ、シートの厚みを、スラリーの粘度やブレードとキャリアとの間隔、キャリアの送り速度を制御することによって調節し、セッターの成形を行うという記載がある。
【0004】
セッターの成形方法としては、ドクターブレード法の他に、冷間等方加圧法(CIP)、プレス法、ゲルキャスト法、押出成形法または射出成形法等が挙げられるが、特許文献1に記載のドクターブレード法は、スラリーから成形されたグリーン体を任意の形状に型抜きすることで、焼成後はほぼ加工なしで製品ができあがることから、肉薄の成形体を得るには好適であるといえる。
【0005】
セッターには、焼成時の被焼成物の温度ムラを抑制する効果も期待できる。例えば、特許文献2では、セッターにリブを設けて熱容量を調整し、さらにリブをつけることでセッター自体の剛性が高くなり、反りにくく、被焼成物の温度ムラを抑制する効果も得ることができる、という発明の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-11238号公報
【文献】特開2018-169110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えば、一辺が150mmで肉厚が0.5mmの炭化ケイ素製のセッターは、焼成中に1mm以上反ることが分かっている。1mm以上の反りが発生すると、搬送中の被焼成物がキャリアから落下する、または被焼成物が所定の位置からずれて、製品の歩留まりが下がる、という問題が生じていた。
【0008】
特許文献1に記載の技術で、肉薄のセッターを作製しようとすると、肉薄のため剛性が小さくなるので、変形が起こりやすくなる、すなわち反りが増大することが懸念されていた。そこで、特許文献2に記載の技術を参考にして、セッターにリブをつけた形態を想定した簡易試験を行い、反りが低減されるかを試みたところ、ある程度反りは抑制できることが確認できた。しかしながら、リブによる剛性係数の増加は、熱による変形を抑制するためリブに発生する応力が増大する、という問題がある。
【0009】
さらに肉薄セッターの場合、成形体を焼成した時点で、相当の反りが発生している。例えば、一辺が150mmの正方形で肉厚0.5mmの焼成体である炭化ケイ素製セッターを水平な台に静置し、非接触レーザー変位計を用いて反り量を測定すると、いわゆる「初期反り」が発生しており、その反り量δ(初期反り量δi)は50μmから80μm程度である。
【0010】
ここで、図5を用いて反り量δの定義を説明する。図5は、セッターが矩形の平板状であるときにその反り量δを説明する図である。交点cはセッターの主面である表面上で引いた対角線の交点であり、前記矩形の対角線に垂直な面であるセッター断面方向において、前記交点cと前記対角線の四隅の角との間の4つの断面長さのうち最大値を反り量δとする。この反り量δは、公知の非接触レーザー変位計で測定される。
【0011】
ところで、上記した初期反り形状を有したセッターを、ホットプレート上で加熱すると、反りが下に凸の場合は、ホットプレートに接触したセッターの中央部の温度が高くなり、中央部と周縁部との温度差が広がり、2~3mm程度の反り量δが発生する。一方、セッターの反りが上に凸の場合は、ホットプレート上で加熱しても、さらに反ることはないことが判明した。これは、セッターの中央が上に凸状になっているため、セッターの外周のみがホットプレートと接触し、接触しないセッター中央部の温度は、外周部に比べ高くならないからである。
【0012】
これらのことから、仮にセッターがある程度の初期反り形状を持っていても、焼成時の加熱中に、セッターが大きく反ることのないような、セッターの外周縁部が適切に加熱されるセッター構造の構築が求められていた。
【0013】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、特にリブ付きで肉薄のセッターにおいて、リブによって外周加熱されることで温度制御がなされ、その結果反りが抑制される効果があるセッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のセッターは、平板状の気孔率20~50%の多孔質の炭化ケイ素セラミックスからなり、主面である表面およびその裏面の外周縁部にリブを有し、前記表面と前記裏面の外周縁部のいずれか一辺の長さをL、前記表面と前記裏面との間隔をT、前記表面および前記裏面の前記リブの厚さをd、前記リブの幅をW、と定義したときに(単位はいずれもmm)、150<L<300、0.2≦T≦1.0および0.1≦d≦2.5であり、かつ、d/T≦2および30≦L/2W≦150であり、前記セッターが、矩形の平板状でかつ、その主面である表面が凸形状であり、前記矩形の対角線に垂直な面であるセッター断面方向において、前記表面上で引いた矩形の対角線の交点cと四隅の角との4つの断面長さのうち最大値を反り量δとしたときに、前記反り量δが20μm以上30μm以下であることを特徴とする。
【0015】
かかる構成を有することで、セッター全体の温度分布を制御し、かつ、剛性を小さくすることで、応力と反りを抑制し、効率よく被焼成物を焼成することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特にリブ付きの肉薄セッターにおいて、温度分布を制御し、かつ、リブの剛性を小さくして応力と反りを抑制し、被焼成物を効率よく焼成することを、従来技術との比較で、比較的簡素な形状で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一態様に係るセッターの上面図(1-1)および斜視図(1-2)
図2図1(1-2)のX’-X”におけるセッターの断面図
図3】リブが四隅にのみ設けられているセッターの上面図(3-1)および斜視図(3-2)
図4】リブが平行な二辺にのみ設けられているセッターの上面図(4-1)および斜視図(4-2)
図5】本発明における反り量δを説明する図
図6】リブ無しセッターを、凸形状が下向きになるように台に置いた時の、セッターの厚さ方向変位量(上:断面図)と温度分布(下:上面図)の解析結果
図7】リブ無しセッターを、凸形状が下向きになるように台に置いた時の、セッターの温度分布(上面図)の解析結果
図8】リブ無しセッターを、凸形状が上向きになるように台に置いた時の、セッターの厚さ方向変位量(上:断面図)と温度分布(下:上面図)の解析結果
図9】リブ無しセッターを、凸形状が上向きになるように台に置いた時の、セッターの温度分布(上面図)の解析結果
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のセッターは、平板状のセラミックスからなり、主面である表面およびその裏面の外周縁部にリブを有し、前記表面と前記裏面の外周縁部のいずれか一辺の長さをL、前記表面と前記裏面との間隔をT、前記表面および前記裏面の前記リブの厚さをd、前記リブの幅をW、と定義したときに(単位はいずれもmm)、50≦L<300、 0.2≦T≦1.0、 0.1≦dであり、かつ、d/T≦2、10≦L/2W≦150、であることを特徴とする。
【0020】
本発明のセッターに用いられる素材は、アルミナ、ジルコニア、ムライト、炭化ケイ素、等の多孔質セラミックスが挙げられ、特に素材を限定することを要しないが、軽量で強度にも優れた炭化ケイ素が好適である。
【0021】
本発明のセッターは、平板状で、互いに対向する表面および裏面を有しており、いわゆる平板、あるいは、厚さが略一定で平面の板ということもできる。ここで、被焼成物が載置される面を表面とする。
【0022】
また、本発明のセッターは、これを上面から見た形状が矩形であり、特に正方形が好ましいが、五角形、あるいは、六角形以上の多角形のものでも、外周縁部にリブが形成できれば、特に問題はない。
【0023】
図1は、本発明の一態様に係るセッターの上面図(1-1)および斜視図(1-2)である。なお、以降の図で同一の構成については、矢印と記号の表示は省略する。ここで、本発明で示す図は、全て説明のために形状を簡素化かつ強調したものであり、本発明の説明に不要なその他の構成要素は、記載を省いている。
【0024】
本発明は、セッターの表面および裏面のそれぞれの外周縁部に、リブを取り付けた構造である。このリブは、例えば、矩形のセッターであれば、図1のような表面および裏面の一周に亘り枠のようなリブを形成する形態、図3のような四隅にのみ矩形のリブを形成する形態、もしくは、図4のような対向する平行な二辺にのみリブを形成する形態が例示される。
【0025】
本発明では、表面または裏面いずれかの任意の一辺と平行で表面または裏面いずれかの面と垂直な方向から見た断面において、断面における表面または裏面いずれかの一辺の長さをL、表面と裏面の間隔をT、表面および裏面のリブの厚さをd、表面および裏面のリブの幅をW、と定義する。これは、図2に示すとおりである。
【0026】
ここで、セッターの肉厚は、表面と裏面の間隔Tに相当するといえる。また、リブを含めたセッター全体の一辺の長さをLとしているので、リブを含めたセッター全体の厚さはT+2dとなり、リブを除いた表面または裏面の一辺の長さは、L-2Wとなる。
【0027】
なお、図1図4では、板の表面上にリブを設けているので、識別しやすいようにリブと板を色分けしているが、板とリブは異なる材料で形成されていてもよいし、同じ材料で形成されていてもよい。実際は、板もリブも、同じ材料で作製されるケースが多い。ここでも、同材料であること前提として説明する。
【0028】
本発明では、表面と裏面の双方に、同一形状のリブがそれぞれ形成されている。セッターの外周縁部に、所定のサイズでリブを取り付けることによって、温度分布を制御し、反りを抑制することで、被焼成物の意図せぬ移動、落下を防ぐことをも可能とする。
【0029】
本発明では、リブが凸側(表面)に形成されていることを必須とするが、セッターの凸形状は、見た目では判別が難しく、表面裏面を識別するために、1枚ずつ計測器を用いて測定していくのも、実用上合理的でない。
【0030】
また、セッター両面にリブを取り付けたとして、それぞれの面で形状が異なる場合、リブとなるパーツを2種類作製してセッター外周縁部に圧着する、という工程が必要になり、コスト面および製造面で不利である。
【0031】
さらには、表面と裏面で有意に形状の異なるリブを形成すると、それぞれ異なる体積を持つので、表面と裏面の温度差が生じ、これにより焼成中に大きな反りが発生する懸念がある。
【0032】
従って、上記に列記した事情を鑑みて、本発明のセッターは、表面と裏面に同形状、同寸法のリブが形成されている。ただし、製造上不可避の寸法誤差は許容される。
【0033】
本発明のセッターの寸法は、50≦L<300、0.2≦T≦1.0、0.1≦dである。ここで、単位は全てmmである。これらd、T、Lについても、公知の製造方法で製造した場合に、設計精度の範囲内で生じる寸法誤差は許容される。
【0034】
まず、セッターの面方向の大きさを規定するパラメータであるLについては、50≦L<300である。本発明のリブ構造は、セッターが薄く、かつ、ある程度の大きさを有するときに、その効果を発揮する。従って、Lがあまりに小さい場合は、反り量が微小で本発明の作用効果は発現されないだけでなく、小面積により被焼成物の積載量が小さくなり過ぎて、著しく実用性に欠けるものとなる。
【0035】
一方で、Lが大きい値、特に500mmや1000mmというサイズになると、セッター自身の自重変形が大きいので、セッターの載置面とセッターが載置される台とが接触しない、というリブの効果が得られない。また、後述するセッターの厚さTとの兼ね合いもあり、本発明の作用効果が及ばないほどに剛性が不足し、ハンドリング性が低下する。
【0036】
本発明では、材料の安全率の観点から、Lは300mm未満とする。より好適には、Lは260mm以下である。
【0037】
本発明は、0.2≦T≦1.0である。Tは表面と裏面の間隔であり、セッターの載置部の肉厚に相当する。この肉厚は、低熱容量を期待でき、ドクターブレード法で製造可能な範囲、かつ使用可能な強度を保てる範囲である。
【0038】
Tが0.2mmを下回ると、前述の通り、製造が困難であるとともに、決定的に剛性が不足して変形しやすくなる。一方、Tが1.0mmを超えた場合は、剛性は十分であるが、熱応力で割れることがある。かつ、肉薄セッターの主たる特徴である熱容量の低減効果が十分に得られず、好ましいものではない。
【0039】
特に、Tが0.5mm以下の場合は、十分な軽量化とこれに相応な剛性の確保がなされているので、本発明の効果が顕著に得られ、好適である。
【0040】
本発明では、LとTの関係は、肉薄セッターに所定の形状のリブを形成したときに、上記した効果が十分に得られる範囲を規定したものといえる。
【0041】
本発明では0.1≦dである。リブの厚さdは、セッターの初期反り量δiより大きくなくてはならない。例えば、初期反り形状が下に凸であった場合、載置面の最も低い位置にある部分が、セッターを載置する板またはローラーハースキルン(RHK)のローラーと接触する接地面と当接すると、先述した反りが発生する。これにより、被焼成物が移動または落下する、温度ムラが生じて焼成が失敗するなどの問題が起きる。
【0042】
dが0.10mm未満では、dの値がセッターが持つ初期反り量δi(0.05~0.08mm程度)に近い、あるいはこれより小さいものとなり、特に凸形状が下向きの場合、セッターの中心部が載置された加熱部との接触を招くことになる。加熱部と接触すれば、セッターの中央から優先的に加熱されるので、大きな反りが発生するので、このような状況の発生する恐れのある、リブの厚さが薄すぎるという形態は避けるべきである。
【0043】
そして、T=0.5mmで焼成後のリブ無しセッター(150mm×150mm)には、初期反り量δiが50~80μm存在していたことも考慮して、これによるセッターと接地面との接触を避けるため、本発明では、dは0.1mm以上とするものである。なお、dの上限値は2.5mmとするが、より好ましくは2mm、すなわち、熱伝導に支障がない程度である。
【0044】
なお、初期反り形状が上に凸である場合は、加熱中の反りは、それほど考慮することを要しない。前記の通り、本発明のセッターは、見た目ではどちらの面が凸であるかは判別が困難なため、リスクの高いほうもカバーできるようにdを設定している。
【0045】
好ましくは、Tが0.5mm以下であれば、初期反り量δiは0.08mmより小さくなるため、dの下限値0.1mmでも十分実用に耐えうると考えられる。
【0046】
本発明は、上記の通りL、T、dが設定されたときに、さらに、d/T≦2および10≦L/2W≦150の関係を有するものである。
【0047】
dとTの関係は、d/T≦2とする。本発明では、薄い肉厚(0.2≦T≦1.0)に対してリブの厚さdが大きすぎると、焼成中に多少セッターが変形することによって、逃がされていた応力が角部などに集中するため、好ましくない。もちろん、dがあまりに小さいと、リブが有する本来の機能が得られない。
【0048】
本発明では、dとTのバランスを安全率で評価し、必要最小限の安全率が得られる範囲をd/T≦2とするものである。ここで安全率とは、材料の引張強さを全体の最大引張応力で除した値である。
【0049】
WとLの関係は、10≦L/2W≦150とする。本発明では、L/2Wを指標として、セッターの反り量と安全率の関係を精査し、必要とされる安全率と許容される反り量が得られる範囲を設定したものである。
【0050】
本発明の、より好ましい一態様では、凸形状の表面を有する矩形平板のセッターの断面方向、具体的には矩形の対角線に垂直な面において、前記セッターの主面である表面上で引いた矩形の対角線の交点cと四隅の角との4つの断面長さのうち、最大値を反り量δとしたとき、前記反り量δが20μm以上100μm以下である。δの定義は、図5に示すとおりである。なお、ここでいうδは、初期反り量δiに相当する。
【0051】
セッターは表面が凸部となる凸形状、すなわち、初期反り形状が上に凸である場合は、前述の通り、加熱中の反り挙動をそれほど考慮することを要しない。すなわち、意図しない変形や温度変動に対する、反りの許容されるマージンが大きいといえる。
【0052】
そして、δは、20μm以上100μm以下が好ましい。セッターの表面が凸形状であれば、δは小さいほうが望ましいが、セラミックス製のセッターは、必ず20μm程度の反りが発生する。本発明では、この程度の反りであれば、特に問題なく使用が可能である。
【0053】
一方、δが100μmを超えると、焼成中にローラーハースキルン(RHK)を移動する工程で発生する振動や上下動と、反りにより表面に形成されている傾斜で、表面に載置した被焼成物が位置ずれを起こすリスクが高まり、セッターとしては実用上好ましくないものとなる。
【0054】
本発明のセッターの製造方法の一例として、炭化ケイ素微粉末に焼結助剤、分散材、有機バインダ、可塑剤、有機溶剤を混合したスラリーからドクターブレード法でグリーンシートを作製し、抜型を使用して打ち抜き加工によりセッターの積載部を成形する。リブ部分も同様にグリーンシートから打ち抜き加工をし、所定の位置に設置し圧着する。その後焼成して完成する。その後、必要に応じて、遮熱コーティング材(サーマルバリアコーティング、TBC)として、イットリア、ジルコニア、アルミナ等を用いて、セッターの表面を被覆する。
【0055】
上記の通り、本発明のセッターは、セラミックス単体でも、セラミックスの母材上に上記したような膜を形成したものでもよい。本発明では、基材の材質や付帯した積層構造の影響をほとんど受けないので、自由度の高いセッターの設計が可能である。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0057】
(構造解析1)
リブをつけないセッター(比較例)と、図1の形状に倣って、リブを表面および裏面の両方に一周に亘って形成したセッター(実施例)をモデル化し、予備実験と構造解析を実施した。
【0058】
ここで、比較例、実施例ともに、セッターの形状はL=150mmの正方形、セッターの材質は気孔率20~50%の多孔質の炭化ケイ素とする。なお、今回は問題を簡素化するため、サーマルバリアコーティング(TBC)は考慮しないが、これは、予備実験により、TBCの有無により反り発生に影響がなかったためである。
【0059】
予備実験では、200~300℃に加熱したホットプレートに、リブが付いていないT=0.5mmのセッター(比較例)を置き、反りの様子を観察した。その結果、初期反り量δiが50~80μmの凸側を下にすると、2~3mm程度反り量が増加することが再現できた。これは、TBCの有無に依らず同様に発生していた。また、温度分布の経時変化を見ると、凸側が下に来る場合は中央から、上に来る場合は外周から加熱されることも判明した。
【0060】
数値解析は、非定常伝熱解析で、予備実験と同様の現象を再現した。解析モデルは3次元ソリッド要素で1/4とし、初期反り量δiが50μmの凸形状ができるように作成した。モデルを簡単にするため反り発生に影響のないTBCはモデリングしなかった。ヒーター部分は、初期温度25℃とし、10秒で300℃まで加熱、50秒間保持した。またセッター表面には、自然対流の熱伝達係数を与えた。雰囲気温度は、実験と同じ室温とした。セッターは、ヒーターとの接触による熱伝導により加熱される。その他自重を与えている。
【0061】
比較例において、凸形状が下に来る場合は、初期反り量δiが50μmに対して、1.2mmの反りが確認されたが、凸形状が上に来る場合は、反りは0.062mmとなり、ほとんど反らなかった。
【0062】
図6図9に、リブ無しセッター(比較例のセッター)を、凸形状が下向き(図6図7)および上向き(図8図9)になるように台に置いた時の、セッターの厚さ方向変位量の解析結果と温度分布の結果をそれぞれ示すが、これにより、解析条件について妥当性が確認できたものといえる。また、この時、セッターに発生する最大応力の発生個所は
凸形状の表面中心部であった。
【0063】
なお、材料強度/発生応力で求められる安全率については、凸形状が下向きで加熱された場合は5、凸形状が上向きの場合は11であった。実際のセッターにおいて目に見えるクラック等は発生せず、繰り返し同条件の実験を行えたことから、今回は、安全率5以上を指標とする。ここでいう安全率は、材料工学で一般的に用いられる指標で、詳しくは「工学基礎 材料力学(新訂版)2003年2月1日 新訂版11刷発行 著者 清家 政一郎 出版 共立出版株式会社」に記載されている。
【0064】
次に、リブ付きセッター(実施例)を同様に解析し、反り量を見る。ここで計算に用いたTの値は、0.2mm、0.5mm、1.0mmである。まずは、dの変化と焼成時の反り量δについて求めた。dは、セッターの初期反り量δiを拾わない0.1mmを最小値とし、0.1≦d/T≦2.5の範囲で変化させた。リブを取り付けることによって、いずれの条件でも焼成時の反り量δは0.1mm以下であった。ただし、使用温度は1000℃以上の高温であるため、より反り量が小さい形状を追求する必要がある。
【0065】
表1に、d/TとTの各値における、焼成時の反り量δ(単位 mm)をまとめた。ここで、当該δが最大値になるのはいずれも60秒後であったため、同時刻で比較できているといえる。表1から、d/T値が上がると当該δは低減するが、d/T値が1.5以上になると、当該δの値が安定してくることがみてとれる。
【0066】
【表1】
【0067】
ところが、材料強度由来の安全率を見てみると、d/Tの値が上がるほど安全率が低下していることがわかる。つまり、dが大きくなるほど発生応力が高くなっている。これは、リブの肉厚化によってセッター全体の剛性が高くなり、変形しない代わりに発生応力が高くなっているからと考えられる。安全率5以上を得る場合には、d/T値は2以下、より好ましくは1.5以下とするとよい。またT=1.0mmの場合は、ほぼ反り量が変化せず安全率も高いことから、このd/T値の範囲は、T≦1.0のときに当てはまると考えてよい。表2にd/T値と各セッターの安全率の結果を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
次に、リブの幅Wについて検討する。表3に、T=0.5mmのときの、L/2Wの各値に対するセッターの反り量と安全率の結果を示す。表3の結果から、L/2W値が高くなるほど反り量が大きくなった。つまり、Wが小さくなることで、セッターの剛性が低くなり変形を許していると言える。反対に安全率は増加した。表2と同様に安全率5以上としてみると、今回の条件のセッターは全てこれに該当する。より好ましくは、反りと安全率とのバランスが取れているL/2W≦75といえる。
【0070】
【表3】
【0071】
なお、T=0.5mm、d/T=1、L/2W=30として、裏面にリブを設けない場合、上記の反り量は0.025mmとなり、表面および裏面に設けた場合の0.014に比べて、反りの面では、本発明の一態様との比較で、劣るものであった。
【0072】
さらに、L、T、dの上限、下限値近辺での態様について検証する。ここで、可能な限り、d/T=1、L/2W=30になるように揃えた。
【0073】
L=50mm、T=0.5mm、d=0.5mm、d/T=1、L/2W=30(W=5/6)として解析を実行した。この時の反り量δは0.1μm、安全率は84.6であった。
【0074】
L=40mm、T=0.5mm、d=0.5mm、d/T=1、L/2W=30(W=2/3)とした。この時の反り量δは0.21μm、安全率は130.4であった。Lが50mmを下回ると、応力、反り量ともに小さくなるが、被焼成物の積載量が制限されること、RHKのローラーの間隔より小さい可能性があること、等の点で好ましくない。
【0075】
L=250mm、T=0.5mm、d=0.5mm、d/T=1、L/2W=30(W=12.5/3)とした。この時の反り量δは25.4μm、安全率は5.7であった。
【0076】
L=260mm、T=0.5mm、d=0.5mm、d/T=1、L/2W=30(W=13/3)とした。この時の反り量δは27.3μm、安全率は5.4であった。Lが250mmを上回ると、反り量がさらに増加した。また、応力は、L=250mmと比べて3%ほど増加した。安全率も、安全率5以上という指標からすると、L=250mmと比べて、ややマージンが少ないといえるものであった。
【0077】
このことから、Lが250mmを超えるあたりから、反り量の増加し、安全率の低下、が顕著になり、実用上使用に耐えるレベルはあるものの、本発明の効果が低下する傾向が見え始めたといえる。
【0078】
そして、L=300mm近傍、T=0.5mm、d=0.5mm、d/T=1、L/2W=30(W=5)とした場合は、反り量δは35.3μm、安全率は4.8であった。Lが300mmでは、反り量が30μmを超え、また、応力も、L=250mmと比べて18%ほど増加した。安全率も5を下回った。
【0079】
L=300mm近傍では、製造における寸法公差によっては安全率5未満となる可能性もあるため、好ましくないものといえる。よって、上記から、Lについては、300mmを下回る範囲、具体的には260mm以下が好ましく、250mm以下がより好ましいものといえる。
【0080】
L=150mm、T=0.2mm、d=0.2mm、d/T=1、L/2W=30(W=15/6)とした。この時の反り量δは13.9μm、安全率は7.6であった。
【0081】
L=150mm、T=0.18mm、d=0.2mm、d/T=1.1、L/2W=30(W=15/6)とした。この時の反り量δは14.0μm、安全率は7.2であった。Tが0.2mmを下回ると、約10%程度応力が増加する傾向があり、かつ、薄すぎて取り扱いの面でも好ましくないものといえる。
【0082】
L=150mm、T=1.0mm、d=1mm、d/T=1、L/2W=30(W=15/6)とした。この時の反り量δは6.1μm、安全率は16.0であった。
【0083】
L=150mm、T=1.1mm、d=1.1mm、d/T=1、L/2W=30(W=15/6)とした。この時の反り量δは5.6μm、安全率は17.0であった。Tが1mmを超えると、反り量、応力ともに減少する傾向であり、この点では好ましいが、本発明の目的の一つである、軽量化のためセッターを肉薄化する、という要求を満足できるものとは言えず、この点では適切ではない。
【0084】
L=150mm、T=1mm、d=0.08mm、d/T=0.08、L/2W=30(W=15/6)とした。この時の安全率は16.8であった。dが0.1mmを下回ると、応力に関しては特に問題ないが、セッターの載置部が持つ初期反りδiによって、セッターの外周縁部以外もセッターが載置される加熱部に接触する可能性があり、好ましくない。
【0085】
以上の通り、本発明のセッターは、セッターの外周縁部に形成するリブについて、その厚さと幅を、セッターの厚さも考慮して、独自の知見を取り入れて設計されたものである。これにより、セラミックスのような脆性材料で、肉薄のセッターを作製する場合に、反り、変形が抑えられ、かつ、割れ欠けや破損の起こりにくい、という顕著な効果を呈するものである。
【符号の説明】
【0086】
L セッターの一辺の長さ
W リブの幅
d リブの厚さ
T 表面と裏面の間隔(セッターの肉厚)
c 矩形平板状のセッターの主面である表面上で引いた対角線の交点
δi 初期反り量
δ 反り量(四隅の変位の中で最大の値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9