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特許7507082環境DNAサンプル採取装置及び環境DNAサンプル採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】環境DNAサンプル採取装置及び環境DNAサンプル採取方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
G01N1/10 A
G01N1/10 N
G01N1/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020215679
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101225
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 真依子
(72)【発明者】
【氏名】高山 百合子
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-329033(JP,A)
【文献】中国実用新案第210427114(CN,U)
【文献】米国特許第10905978(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境DNA調査水域に設置する環境DNAサンプル採取装置であって、
試料水用の貯留容器ろ過装置、排水貯留容器及びろ過用ポンプを備えており、
採取時に調査水域から必要量の試料水量を採取して前記貯留容器に貯留し、前記貯留容器に貯留した試料水を前記ろ過用ポンプにより前記ろ過装置に供給し、前記ろ過装置でろ過することによって、環境DNAサンプルを採取するものであり、
前記排水貯留容器は、前記ろ過装置でろ過された後のろ水を一旦貯留する構成であり、
前記ろ過用ポンプは、前記排水貯留容器の内空部内の気体を吸引し、前記排水貯留容器内を負圧状態にすることで、ろ水の排水を促進し、前記貯留容器に貯留された試料水が前記ろ過装置に連続して供給されることを特徴とする環境DNAサンプル採取装置。
【請求項2】
前記貯留容器と前記ろ過装置とを組み合わせて一つのろ過セットを構成し、
前記ろ過セットは、採取回数に必要な数を備えていることを特徴とする請求項1に記載の環境DNAサンプル採取装置。
【請求項3】
少なくとも前記ろ過装置は、温度管理された環境下に設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の環境DNAサンプル採取装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の環境DNAサンプル採取装置を環境DNA調査水域に設置して環境DNAをサンプリングする環境DNAサンプル採取方法であって、
前記貯留容器と前記ろ過装置とを組み合わせて構成した一つのろ過セットを、予め設定された複数のサンプリング時刻に対応する数を備えた環境DNAサンプル採取装置を、調査水域に設置する採取装置設置工程と、
前記サンプリング時刻に合わせて、該当する前記ろ過セットの前記貯留容器に試料水を採取して貯留する採水工程と、
前記貯留容器から前記ろ過装置に試料水を供給してろ過し、ろ過後のろ水を排水するろ過工程と、
ろ過残渣を環境DNA分析用のサンプルとして回収する回収工程と、
を備えたことを特徴とする環境DNAサンプル採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境DNAサンプル採取装置及び環境DNAサンプル採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事に伴う環境影響評価やミティゲーションの適地選定においては、生物種の分布やその変化が重要な情報となる。水域における生物情報を入手する方法のひとつが、土壌や水中等の環境中に存在する環境DNA(environmental DNA)分析である。環境DNA分析は、調査水域の水中(環境中)に浮遊している微細な生物破片や排泄物等からDNAを検出して生物種の情報を得るものである。環境DNAを分析することで、生息する生物種の特定や量を推定することが可能である。
一般的な環境DNAの分析は、現地で1リットル程度の水(環境水)を試料として採取し、これを例えば、孔径0.7μmのろ紙でろ過して、ろ紙上に捕捉した残渣物から抽出したDNAをリアルタイムPCR解析や次世代シーケンサーによるアンプリコン解析することにより行う。分析には大量の水のろ過が必要となる一方、ろ過には時間がかかるため、現地で採取した大量の水をクーラーボックス等に収納し、分析施設等に持ち帰ってろ過、分析することも行われている。
従来、測定対象とする液体を現地で採取する採取方法及び装置として、特許文献1に開示された技術が知られている。特許文献1の採取方法及び装置は、採取容器の内部を上下に仕切る不要物除去用のフィルタを備えており、フィルタを通じて採取容器の上側に導入された液体を採取するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-344229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の採取方法及び装置は、フィルタを通じて採取容器の上側に導入された液体を現地で単に採取するものであり、液体に含まれる試料をフィルタで捕捉するものではない。このため、この採取方法及び装置だけでは環境DNAの分析を行うことはできず、労力の軽減には至っていない。
また、環境DNAの分散濃度は希薄であり、分析用にサンプリングするには調査水域の採水箇所で大量に採水する必要がある。特に、河川や海流のある調査水域では、ろ過能力に合わせて連続採水すると、計測タイミング時刻を渡過した試料水が混入してしまい、採取されたサンプルの品質が劣化する原因となる。
本発明は、前記した課題を解決し、調査水域における生物情報の入手に優れ、しかも分析に係る労力を低減できる環境DNAサンプル採取装置及び環境DNAサンプル採取方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、環境DNA調査水域に設置する環境DNAサンプル採取装置である。この環境DNAサンプル採取装置は、試料水用の貯留容器ろ過装置、排水貯留容器及びろ過用ポンプを備えており、採取時に調査水域から必要量の試料水量を採取して前記貯留容器に貯留し、前記貯留容器に貯留した試料水を前記ろ過用ポンプにより前記ろ過装置に供給し、前記ろ過装置でろ過することによって、環境DNAサンプルを採取するものである。前記排水貯留容器は、前記ろ過装置でろ過された後のろ水を一旦貯留する構成である。前記ろ過用ポンプは、前記排水貯留容器の内空部内の気体を吸引し、前記排水貯留容器内を負圧状態にすることで、ろ水の排水を促進し、前記貯留容器に貯留された試料水が前記ろ過装置に連続して供給される。
本発明では、調査水域における所定の採水箇所においてサンプリング時刻に必要量の試料水量を一度に採取して貯留容器に貯留できる。したがって、河川や海流のある調査水域においても必要量の試料水量を速やかにサンプリングできる。そして、採取した試料水を、ろ過装置を介して水域に排水することで、調査水域の水中(環境中)に含まれる微細な生物破片や排泄物等をろ過装置に捕捉できる。つまり、長時間を要するろ過時間との調整を図りつつ、分析に必要な環境DNAサンプルを好適に採取することができる。したがって、調査水域における生物情報の入手に優れ、適切な環境DNAの評価を行うことができる。しかも、試料水の入った貯留容器に代えて、ろ過装置で捕捉された試料を分析施設等に持ち帰ればよいので、分析に係る労力を好適に低減できる。
【0006】
また、前記貯留容器と前記ろ過装置とを組み合わせて一つのろ過セットを構成し、前記ろ過セットは、採取回数に必要な数を備えていることが好ましい。
このように構成することによって、サンプリング時刻毎に各ろ過セットの貯留容器に必要量の試料水量を採取しつつ、各ろ過装置により分析に必要な環境DNAサンプルを個別に採取することができる。したがって、環境DNAの分析に係る労力をより一層低減できる。また、ろ過セットが採取回数に必要な数を備えているので、前回採取した試料水の影響を排除できる。また、大量の試料水のろ過を行うことが厳しい水質の場合には、貯留容器に残った試料水量(残存量)を確認することでろ過できた量を把握できる。さらに、ろ過セットの回収時に新しいろ過セットに交換することで分析に必要な環境DNAサンプルを連続的に採取することができる。
【0007】
また、少なくとも前記ろ過装置は、温度管理された環境下に設置されていることが好ましい。
管理された環境下(例えば、冷蔵温度や冷凍温度に管理された環境下)にろ過装置を設置すると、ろ過装置により捕捉した微細な生物破片や排泄物等の劣化を防止できるので、水域における生物情報を正確に入手できる。これにより、適切な環境DNAの評価を行うことができる。
【0008】
また、本発明の環境DNA採取方法は、環境DNAサンプル採取装置を環境DNA調査水域に設置して環境DNAをサンプリングするものである。環境DNAサンプル採取方法は、前記貯留容器と前記ろ過装置とを組み合わせて構成した一つのろ過セットを、予め設定された複数のサンプリング時刻に対応する数を備えた環境DNAサンプル採取装置を、調査水域に設置する採取装置設置工程と、前記サンプリング時刻に合わせて、該当する前記ろ過セットの前記貯留容器に試料水を採取して貯留する採水工程と、前記貯留容器から前記ろ過装置に試料水を供給してろ過し、ろ過後のろ水を排水するろ過工程と、ろ過残渣を環境DNA分析用のサンプルとして回収する回収工程と、を備えている。
本発明では、採取装置設置工程により、調査水域に環境DNAサンプル採取装置を設置し、採水工程により、サンプリング時刻毎に試料水を採水して、各ろ過セットの貯留容器に貯留できる。つまり、ある所定の採水箇所、サンプリング時刻に採水した必要量の試料水量を貯留容器に確保できる。したがって、流れのある実海域でも必要量の試料水量を速やかにサンプリングできる。そして、ろ過工程により、貯留容器内の試料水をろ過装置を介して水域に排水することで、調査水域の水中(環境中)に含まれる微細な生物破片や排泄物等をろ過装置に捕捉できる。そして、回収工程により、ろ過残渣を環境DNA分析用のサンプルとして回収できるので、調査水域における生物情報の入手に優れ、適切な環境DNAの評価を行うことができる。しかも調査水域の現地にてろ過残渣を回収できるので、分析に係る労力を好適に低減できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る環境DNAサンプル採取装置及び環境DNAサンプル採取方法によれば、調査水域における生物情報の入手に優れ、しかも分析に係る労力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の調査水域における設置態様を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の構成要素を示す構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の他の構成要素を示す構成図である。
図4】本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の調査水域における他の設置態様を示す概略図である。
図5】本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の調査水域における他の設置態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について適宜図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の調査水域における設置態様を示す概略図であり、図2は、本発明の実施形態に係る環境DNAサンプル採取装置の構成要素を示す構成図である。
本実施形態の環境DNAサンプル採取装置Mは、図1に示すような調査水域W(採水箇所)に設置される浮き構造物100の構造物本体110上に設けられるものであり、調査水域(現地)Wにて直接に環境DNA分析のためのサンプルを採取する装置である。
構造物本体110は、浮力を有する筏状の構造物であり、ワイヤー101、アンカー102を介して調査水域Wの海上に留まるように係留されている。浮き構造物100は、浮き構造物100に備わる図示しない駆動機構または船舶による牽引等によって海上を移動可能である。
【0012】
環境DNAサンプル採取装置Mは、図2に示すように、採水用ポンプ10と、貯留容器群20と、ろ過装置群30と、排水貯留容器40と、ろ過用ポンプ50と、制御部60と、バッテリ70と、ソーラーパネル(発電設備)80と、を備えている。
採水用ポンプ10は、調査水域Wの海水を採水し、後段の貯留容器群20に送出するためのポンプである。採水用ポンプ10は、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。
採水用ポンプ10の吸入側には採水管11が接続されている。採水管11は、図1に示すように、構造物本体110から海中に向けて延設された支持部材120に支持されて海中に没している。採水管11の採水口11aは、例えば、海面から所定の深さに設置されている。なお、図示しない採水口可動機構等を採水口11aに設けて、海水の流れ方向の上流側に採水口11aを向けてもよい。
採水用ポンプ10の吐出側には、図2に示すように、吐出管12が接続されている。吐出管12は、後段の分岐管13に接続されている。吐出管12の途中には、吐出管12を開閉する第1開閉弁12aが設けられている。第1開閉弁12aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。分岐管13の一端部には貯留容器群20に繋がる複数の入口管14が接続されている。各入口管14の途中には、各入口管14を開閉するための第2開閉弁14aが設けられている。第2開閉弁14aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。
分岐管13の他端部は、排水貯留容器40に延在して排水貯留容器40内に開口している。排水貯留容器40へ向かう分岐管13の途中には、分岐管13を開閉する第3開閉弁13aが設けられている。第3開閉弁13aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。
【0013】
貯留容器群20は、本実施形態では、仕切壁で仕切られた建屋20a内に設置されている。なお、貯留容器群20は、建屋20a内に設置されるものに限られることはなく、遮光性の部材で覆う構成としてもよい。また、後記する貯留容器21自体を、遮光性を有する材料で形成して貯留容器群20を構成してもよい。貯留容器群20をなす複数の貯留容器21は、それぞれ環境DNAの分析に必要な試料水量を貯留できる容積、例えば20リットル以上の容積を有している。貯留容器21としては、例えば、交換可能なウォーターバックが用いられている。貯留容器21は、予め設定されたサンプリング時刻毎に採取した試料水を個別に貯留できる数だけ設置されている。例えば、2時間毎に計12回採水するサンプリングの場合には、建屋20a内に少なくとも12個の貯留容器21が備わる。各貯留容器21の頂部には、分岐管13から分かれた入口管14が接続されている。また、各貯留容器21の底部には、出口管15が接続されている。各出口管15の下流側端部は、ろ過装置群30の冷蔵室35内に至る。各出口管15の途中には、出口管15を開閉するための第4開閉弁15aが設けられている。第4開閉弁15aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。なお、出口管15を流れる試料水の流量は、後記するろ過用ポンプ50による吸い込み量により設定される。
【0014】
ろ過装置群30は、各出口管15の下流側の途中に配置された第一フィルタ31と、第一フィルタ31の後段に配置された第二フィルタ32とを含むろ過装置を複数備えている。各第一フィルタ31は、出口管15を流れてきた試料水に含まれる大きめのゴミや不要物を除去する役割をなす。本実施形態では、第一フィルタ31として、目開きの大きさが100μmのものを採用している。
各第二フィルタ32は、ゴミや不要物が除去された後の試料水をろ過するものであり、試料水に含まれる微細な生物破片や排泄物等を捕捉する役割をなす。本実施形態では、第二フィルタ32として、目開きの大きさが7μmのものを採用している。各第二フィルタ32は、冷蔵室35内に配置されており、ろ過後に冷蔵室35から取り出し可能である。
冷蔵室35は、バッテリ70からの電力により作動する冷却装置33により冷却されている。冷蔵室35内は、遮光されており、ろ過により捕捉した生物破片や排泄物等の劣化が進行し難い環境となっている。
各第二フィルタ32でろ過された後のろ水は、後段の排水管16の個別排水管16bを介して排水される。排水管16の下流側端部は、分岐管13の他端部に接続されている。各個別排水管16bの途中には、個別排水管16bを開閉するための第5開閉弁16aが設けられている。第5開閉弁16aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。
本実施形態では、貯留容器21とろ過装置とを組み合わせて一つのろ過セットを構成している。このろ過セットは、少なくとも採取回数(サンプリング回数)に必要な数備わる。例えば、2時間毎に計12回採水するサンプリングの場合には、少なくともろ過セットが12個備わる。
【0015】
排水貯留容器40は、分岐管13を介して流入する排水を一旦貯留する容器である。排水貯留容器40の底部には、排出管17が接続されている。排出管17は、図1に示すように、構造物本体110から海中に向けて延設された支持部材130に支持されており、反対側の採水口11aから離れた位置にて海中に没している。本実施形態では、排出管17の排出口17bは、採水口11aから採水される試料水に影響を及ぼさないように、採水口11aよりも深い位置に配置されている。排出管17の途中には、排出管17を開閉する第6開閉弁17aが設けられている。第6開閉弁17aは、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。
排水貯留容器40の頂部には、ろ過用ポンプ50に接続された吸引管18が取り付けられている。吸引管18の吸引口18aは、排水貯留容器40に貯留された排水の水面H1よりも上側の内空部A内に開口している。
ろ過用ポンプ50は、吸引管18を介して排水貯留容器40の内空部A内の気体を吸引し、排水貯留容器40内を負圧状態にすることで、分岐管13の排水を促進し、ろ過作用を促すものである。ろ過用ポンプ50は、バッテリ70からの電力を用いて制御部60の制御により作動される。ろ過用ポンプ50は、貯留容器21に貯留された試料水が時間をかけて第二フィルタ32に流れるように、吸い込み量が設定されている。
【0016】
制御部60は、採水用ポンプ10の作動制御、第1開閉弁12a、第2開閉弁14a、第3開閉弁13a、第4開閉弁15a、第5開閉弁16a及び第6開閉弁17aの作動制御、さらに、ろ過用ポンプ50の作動制御を行うものである。制御部60は、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えたECU(Electronic Control Unit)である。制御部60による各種の制御は、ROMに予め記憶されたプログラムをRAMに読み出してCPUが実行することで実現される。なお、上記した作動制御は、手動により行うことも可能である。
【0017】
バッテリ70は、ソーラーパネル80から供給される電力を充電するとともに、上記した各部に電力を供給する。ソーラーパネル80は、太陽光で発電を行うためのパネルであり、環境DNAの捕捉に必要な電力がバッテリ70に充電されるように構造物本体110上に所定枚数設置されている。なお、バッテリ70は交換可能に構成することが好ましい。交換可能に構成することで、例えば、気象等によりバッテリ70の充電が不十分である場合には、試料回収時等に予め充電されたバッテリ70に交換できる。
【0018】
次に、環境DNAサンプル採取装置Mを用いた環境DNAサンプル採取方法について詳細に説明する。以下では海洋の調査水域Wに浮き構造物100を配置する環境DNAサンプル採取方法について説明するが、調査水域Wは海洋に限定されるものではなく、湖沼や河川も含まれる。
環境DNAサンプル採取方法は、採取装置設置工程と、採水工程と、ろ過工程と、回収工程と、を備えている。なお、採水前の状態では、採水用ポンプ10及びろ過用ポンプ50は作動を停止しており、また、各開閉弁は閉じられている。
採取装置設置工程は、環境DNAサンプル採取装置Mを調査水域Wに設置する工程である。採取装置設置工程では、図示しない駆動機構による自立航行や船舶による牽引等により、調査水域Wに浮き構造物100を移動する。調査水域Wに浮き構造物100を移動したら、ワイヤー101を通じて複数のアンカー102を降ろし、調査水域Wに浮き構造物100を係留する。
【0019】
採水工程は、予め設定されたサンプリング時刻に合わせて、該当するろ過セットの貯留容器21に試料水を採取して貯留する工程である。
具体的に、採水工程では、ろ過開始時刻の数分前に、採水用ポンプ10を作動させて採水管11や吐出管12等に採水を通すことによる共洗いを行う。この場合、制御部60は、採水用ポンプ10を作動させ、吐出管12の第1開閉弁12a及び分岐管13の第3開閉弁13aを開く。これにより、採水管11、吐出管12及び分岐管13が共洗いされる。共洗い後の水は、分岐管13から排水貯留容器40に排水され、制御部60により第6開閉弁17aが開かれることで排出管17から排出される。
その後、ろ過開始時刻になると、制御部60は、該当するろ過セットの貯留容器21に通じる入口管14の第2開閉弁14aを開くとともに、分岐管13の第3開閉弁13aを閉じる。これにより、該当するろ過セットの貯留容器21に採水した試料水が所定水量貯留される。その後、制御部60は採水用ポンプ10を停止する。採水用ポンプ10の停止制御は、例えば、液面センサ等を用いて貯留容器21に所定採水量溜まったことを検出することにより行うことができる。
【0020】
ろ過工程は、貯留容器21からろ過装置に試料水を供給してろ過し、ろ過後のろ水を排水する工程である。ろ過工程において、制御部60は、該当するろ過セットの貯留容器21に通じる出口管15の第4開閉弁15aを開くとともに、該当するろ過セットに通じる個別排水管16bの第5開閉弁16aを開き、さらに、ろ過用ポンプ50を作動させる。排出管17の第6開閉弁17は、閉じられた状態にしておく。いそうすると、貯留容器21から出口管15を通じてろ過装置の第一フィルタ31に試料水が流れ、第一フィルタ31で試料水に含まれる大きめのゴミや不要物が除去される。第一フィルタ31で除去されたゴミや不要物は廃棄される。
その後、第一フィルタ31でろ過された試料水は、冷蔵室35内に導入され、第二フィルタ32でろ過される。これにより、第二フィルタ32により試料水に含まれる微細な生物破片や排泄物等が捕捉される。
制御部60は、ろ過開始後、予め設定された時間、例えば、ろ過開始から1時間または30分経過した場合に、ろ過を停止するように制御する。つまり、制御部60は、所定時間経過後に出口管15の第4開閉弁15a及び個別排水管16bの第5開閉弁16aを閉じるとともに、ろ過用ポンプ50を停止する。
第二フィルタ32でろ過された後のろ水は、後段の排水管16の個別排水管16bを介して排水され、分岐管13に流入した後に排水貯留容器40に排水される。そして、制御部60は、排水貯留容器40に排水されたろ水を排出すべく排出管17の第6開閉弁17aを開く。これにより、排出管17を通じて排出口17bから海中にろ水が排出される。
なお、試料水に含まれる浮遊物が多く、貯留容器21の試料水を全量ろ過できない場合には、ろ過の途中で停止するようにしてもよい。
【0021】
回収工程は、第二フィルタ32に捕捉されたろ過残渣を環境DNA分析用のサンプルとして回収する工程である。第二フィルタ32は、ろ過セット毎に冷蔵室35から取り出してもよく、また、複数のろ過セットをまとめて冷蔵室35から取り出してもよい。なお、ろ過停止後にすぐに第二フィルタ32を取り出す場合には、少なくともろ過を停止した後に、第二フィルタ32に残った試料水がろ過されるように待機時間(例えば30秒)を設けることが好ましい。
回収した第二フィルタ32は、例えば-20℃の冷凍環境で保存することが好ましい。また、ろ過停止後の24時間以内に第二フィルタ32を回収する場合には、冷蔵室35を例えば4℃の冷暗環境にすることが好ましい。
また、第二フィルタ32を回収する場合には、貯留容器21に残った試料水量を確認し、ろ過量を把握することが好ましい。
以上のような採水方法において、制御部60は、他のろ過セットにおける採水工程の開始を、例えば、上記ろ過工程によるろ過開始時刻の2時間後に行うことが好ましい。
【0022】
以上説明した本実施形態によれば、調査水域Wにおける所定の採水箇所においてサンプリング時刻に必要量の試料水量を一度に採取して貯留容器21に貯留できる。したがって、河川や海流のある調査水域Wにおいても必要量の試料水量を速やかにサンプリングできる。そして、採取した試料水を、ろ過装置を介して水域に排水することで、調査水域Wの水中(環境中)に含まれる微細な生物破片や排泄物等をろ過装置に捕捉できる。つまり、長時間を要するろ過時間との調整を図りつつ、分析に必要な環境DNAサンプルを好適に採取することができる。したがって、調査水域Wにおける生物情報の入手に優れ、適切な環境DNAの評価を行うことができる。しかも、試料水の入った貯留容器21に代えて、ろ過装置で捕捉された試料を分析施設等に持ち帰ればよいので、分析に係る労力を好適に低減できる。
【0023】
また、貯留容器21とろ過装置とを組み合わせて一つのろ過セットを構成し、ろ過セットが、採取回数に必要な数を備えているので、サンプリング時刻毎に各ろ過セットの貯留容器21に必要量の試料水量を採取しつつ、各ろ過装置により分析に必要な環境DNAサンプルを個別に採取することができる。したがって、環境DNAの分析に係る労力をより一層低減できる。また、ろ過セットが採取回数に必要な数を備えているので、前回採取した試料水の影響を排除できる。また、大量の試料水のろ過を行うことが厳しい水質の場合には、貯留容器21に残った試料水量(残存量)を確認することでろ過できた量を把握できる。さらに、ろ過セットの回収時に新しいろ過セットに交換することで分析に必要な環境DNAサンプルを連続的に採取することができる。
【0024】
また、少なくともろ過装置の第二フィルタ32は、温度管理された冷蔵室35に設置されているので、ろ過装置により捕捉した微細な生物破片や排泄物等の劣化を防止できる。したがって、調査水域Wにおける生物情報を正確に入手できる。これにより、適切な環境DNAの評価を行うことができる。
【0025】
また、本実施形態の環境DNA採取方法では、採取装置設置工程により、調査水域Wに環境DNAサンプル採取装置Mを設置し、採水工程により、サンプリング時刻毎に試料水を採水して、各ろ過セットの貯留容器21に貯留できる。つまり、ある所定の採水箇所、サンプリング時刻に採水した必要量の試料水量を貯留容器21に確保できる。したがって、流れのある実海域でも必要量の試料水量を速やかにサンプリングできる。そして、ろ過工程により、貯留容器21内の試料水をろ過装置を介して排水することで、調査水域Wの水中(環境中)に含まれる微細な生物破片や排泄物等をろ過装置に捕捉できる。そして、回収工程により、ろ過残渣を環境DNA分析用のサンプルとして回収できるので、調査水域Wにおける生物情報の入手に優れ、適切な環境DNAの評価を行うことができる。しかも調査水域Wの現地にてろ過残渣を回収できるので、分析に係る労力を好適に低減できる。
【0026】
次に、図3を参照して環境DNAサンプル採取装置の他の構成について説明する。図3において前記実施形態と同様の部分には、同様の符号を付し重複する説明は省略する。環境DNAサンプル採取装置M1は、前記実施形態と同様に、浮き構造物100の構造物本体110上に設けられる。
図3に示すように、環境DNAサンプル採取装置M1は、採水用ポンプ10と、貯留容器としての貯留タンク21Aと、ろ過装置群30Aと、ろ過用ポンプ50と、を備えている。ろ過装置群30Aは、貯留タンク21Aを共有の貯留容器とする2組のろ過装置(2つのろ過セット)を備えている。また、ろ過用ポンプ50は、排出管17の上流側を直接吸引するように構成されている。
なお、図示はしないが、環境DNAサンプル採取装置M1も同様に、前記実施形態で説明した制御部60と、バッテリ70と、ソーラーパネル(発電設備)80(図2参照)と、を備えている。
貯留タンク21Aの頂部には、第一フィルタ31を介して吐出管12が接続されている。つまり、貯留タンク21Aには、第一フィルタ31で大きめのゴミや不要物等が除去された試料水が流入するように構成されている。貯留タンク21Aの内側下部には、第一フィルタ31を介して導出管19の上流側の吸込み口が配置されている。導出管19は、後段の分岐管13に向けて延在し分岐管13に接続されている。導出管19の途中には流量計19b及び導出管19を開閉する第7開閉弁19aが設けられている。
【0027】
分岐管13の両端部には、出口管15,15が接続されている。各出口管15の上流側及び下流側には、出口管15を開閉する第8開閉弁15A及び第9開閉弁15Bが設けられている。各出口管15において第9開閉弁15Bの下流側は、冷蔵室35内で第一フィルタ31及び第二フィルタ32を通じ、その後段の第5開閉弁16aを介して集合排水管16Aに接続されている。
また、分岐管13の途中には、第1三方向弁13Aが設けられている。第1三方向弁13Aには共洗い用管13Cが接続されている。第1三方向弁13Aは、分岐管13を連通しながら、分岐管13と共洗い用管13Cとの間を遮断する状態と、分岐管13と共洗い用管13Cとを連通する状態との2つの状態を切り替える弁である。共洗い用管13Cの途中には、共洗い用管13Cを開閉する第10開閉弁13Bが設けられている。
共洗い用管13Cの下流側端部は、第2三方向弁16Bに接続されている。第2三方向弁16Bは、集合排水管16Aの途中に設けられている。第2三方向弁16Bは、集合排水管16Aを連通しながら、集合排水管16Aと共洗い用管13Cとの間を遮断する状態と、集合排水管16Aと共洗い用管13Cとを連通する状態との2つの状態を切り替える弁である。
集合排水管16Aには、排出管17が接続されている。排出管17の途中には、第6開閉弁17a及びろ過用ポンプ50が設けられている。
【0028】
次に、環境DNAサンプル採取装置M1を用いた環境DNAサンプル採取方法について詳細に説明する。
環境DNAサンプル採取方法は、前記実施形態と同様に、採取装置設置工程と、採水工程と、ろ過工程と、回収工程と、を備えている。なお、採水前の状態では、採水用ポンプ10及びろ過用ポンプ50は作動を停止しており、また、各開閉弁は閉じられている。
【0029】
採取装置設置工程では、調査水域Wに浮き構造物100(図1参照、以下同じ)を移動して、前記実施形態と同様に調査水域Wに浮き構造物100を係留する。
採水工程では、貯留タンク21Aに試料水を採取して貯留する。この場合、ろ過開始時刻に先立って、制御部60は、採水用ポンプ10を作動させて、貯留タンク21Aに採取した海水を一旦貯留させる。その後、図示しない排水専用管の排出コックを手動で操作して貯留タンク21Aから海水を排水し、採水管11、吐出管及び貯留タンク21Aを共洗いする。貯留タンク21Aからの排水は、採水口11aから離れた位置にて行うことが好ましい。なお、この排水は、制御部60の制御で自動的に行うことも可能である。
その後、制御部60は、ろ過開始時刻になると、採水用ポンプ10を再び作動させる。これにより、貯留タンク21Aに採取した試料水が貯留される。このとき、試料水に含まれる大きめのゴミや不要物が第一フィルタ31で一次ろ過されて除去される。
【0030】
ろ過工程において、制御部60は、まず、導出管19の第7開閉弁19aを開くとともに、分岐管13の第1三方向弁13Aを作動させて、分岐管13と共洗い用管13Cとを連通させる。また、制御部60は、共洗い用管13Cの第10開閉弁13Bを開き、第2三方向弁16Bを作動させて共洗い用管13Cと集合排水管16Aとを連通させる。さらに、制御部60は、第6開閉弁17aを開くとともに、ろ過用ポンプ50を作動させる。これにより、貯留タンク21A内の試料水が、導出管19、分岐管13、共洗い用管13C、集合排水管16A及び排出管17を通じて流れ、これらが共洗いされる。
その後、制御部60は、一方のろ過装置(第一フィルタ31及び第二フィルタ32)に試料水が流れるように、分岐管13の第1三方向弁13Aを作動させて、分岐管13を連通するとともに、分岐管13と共洗い用管13Cとの間を遮断する。また、制御部60は、第2三方向弁16Bを作動させて、集合排水管16Aを連通するとともに、集合排水管16Aと共洗い用管13Cとの間を遮断する。さらに、制御部60は、一方のろ過装置に通じる出口管15の第8開閉弁15A、第9開閉弁15B及び第5開閉弁16aを開くとともに、ろ過用ポンプ50を作動させる。
そうすると、導出管19から分岐管13を通じて一方の出口管15に試料水が流れ、第一フィルタ31でろ過された試料水が第二フィルタ32でさらにろ過される。これにより、第二フィルタ32により試料水に含まれる微細な生物破片や排泄物等が捕捉される。
制御部60は、ろ過開始後、予め設定された時間、例えば、ろ過開始から1時間または30分経過した場合、あるいは、流量計19bの計測により所定量の試料水が通過したことが検出された場合に、ろ過を停止するように制御する。
そして、制御部60は、他方のろ過セットにおける採水工程の開始を、例えば、上記ろ過工程によるろ過開始時刻の2時間後に行う。
【0031】
以上説明した他の構成の環境DNAサンプル採取装置M1においても、調査水域Wにおける所定の採水箇所においてサンプリング時刻に採水した試料水を貯留タンク21Aに必要量確保できる。したがって、流れのある実海域でも所定量の試料水を速やかにサンプリングできる。そして、貯留タンク21A内の試料水を、ろ過装置を介して水域に排水することで、調査水域Wの水中(環境中)に含まれる微細な生物破片や排泄物等をろ過装置の第二フィルタ32に捕捉できる。したがって、水域における生物情報の入手に優れ、適切な環境DNAの評価を行うことができる。しかも、ろ過装置で捕捉された試料を分析施設等に持ち帰ればよいので、分析に係る労力を好適に低減できる。
なお、第一フィルタ31は、貯留タンク21A及びろ過装置群30の両方に設けたものを示したが、これに限られることはなく、いずれか一方に備わればよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、浮き構造物100上に環境DNAサンプル採取装置M,M1を設けたが、これに限られることはなく、図4に示すような支柱140で水上に構築される水上構造物150上に環境DNAサンプル採取装置M,M1を設けてもよい。
また、図5に示すように、ワイヤー101とアンカー102とブイ160により調査水域Wに係留される船舶170上に、環境DNAサンプル採取装置M,M1を設けてもよい。
【0033】
また、前記実施形態では、冷却装置33で冷却される冷蔵室35内に第二フィルタ32を配置するものを示したが、これに限られることはなく、冷凍室内に第二フィルタ32を配置してもよい。
また、前記実施形態では、第一フィルタ31と第二フィルタ32とからなるろ過装置を示したが、これに限られることはなく、目開きの異なる第三フィルタを第一フィルタ31の上流側や下流側等に配置してもよい。
また、前記実施形態では、環境DNAサンプル採取装置M,M1を海洋上に設けたが、調査水域Wに隣接する陸上に設けてもよい。
また、貯留容器21や貯留タンク21Aは、環境DNAの分析に影響を及ぼさないように、所定量の試料水量を貯留できるものであればよく、種々の材料からなるものを採用することができる。
【符号の説明】
【0034】
21 貯留容器
21A 貯留タンク(貯留容器)
31 第一フィルタ(ろ過装置)
32 第二フィルタ(ろ過装置)
33 冷却装置
35 冷蔵室
100 浮き構造物
M,M1 環境DNAサンプル採取装置
W 調査水域
図1
図2
図3
図4
図5